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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  F23G
管理番号 1330139
異議申立番号 異議2017-700061  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-25 
確定日 2017-07-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第5974126号発明「エネルギー回収装置および廃棄物焼却設備」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5974126号の請求項1、2、5及び6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5974126号の請求項1、2、5及び6に係る特許(以下、「請求項1、2、5及び6に係る特許」という。また、請求項毎に「請求項1に係る特許」などという。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成27年2月24日に特許出願され、平成28年7月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年1月25日に特許異議申立人伊藤洋治(以下、単に「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
請求項1、2、5及び6の特許に係る発明(以下、発明毎に「本件発明1」などという。)は、本件出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2、5及び6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
流動床式燃焼炉又は流動床式ガス化溶融炉によって廃棄物を燃焼させて得られた排ガスが流通する排ガス流路と、
該排ガス流路に設けられ、前記排ガスの流通方向と交差する方向に延在する1又は2以上の伝熱管を有するスーパーヒーターとを備え、
前記伝熱管内を流通させる水蒸気によって前記排ガスから熱回収が行われるエネルギー回収装置であって、
前記スーパーヒーターが、450℃以上の水蒸気が流通する前記伝熱管を有し、該伝熱管が汎用鋼製であり、
前記排ガス流路に流れる前記排ガスは、450℃以上の水蒸気が流通する前記伝熱管が配された位置での平均温度が550℃以下で平均流速が3.0m/s以下であるエネルギー回収装置。

【請求項2】
450℃以上の水蒸気が流通する前記伝熱管を備えた前記スーパーヒーターである第1スーパーヒーターと、
該第1スーパーヒーターよりも排ガスの流通方向上流側に備えられた第2スーパーヒーターと、
前記1スーパーヒーターよりも排ガスの流通方向下流側に備えられた第3スーパーヒーターと、を含む少なくとも3台のスーパーヒーターが備えられ、且つ、
3台の該スーパーヒーターが互いに連結されており、
450℃以上の前記水蒸気は、前記第3スーパーヒーターで排ガスと熱交換して加熱された水蒸気が前記第2スーパーヒーターでさらに加熱され、且つ、該第2スーパーヒーターで加熱された前記水蒸気が前記第1スーパーヒーターでさらに加熱されることよって作製される請求項1記載のエネルギー回収装置。」

「【請求項5】
廃棄物を燃焼させる流動床式燃焼炉又は流動床式ガス化溶融炉と、前記流動床式燃焼炉又は前記流動床式ガス化溶融炉から排出される排ガスから熱回収するエネルギー回収装置とを備えた廃棄物焼却設備であって、
前記エネルギー回収装置は、
前記排ガスが流通する排ガス流路と、
該排ガス流路に設けられ、前記排ガスの流通方向と交差する方向に延在する1又は2以上の伝熱管を有するスーパーヒーターとを備え、
前記伝熱管内を流通させた水蒸気によって前記排ガスから熱回収を行うもので、且つ、
前記スーパーヒーターが、450℃以上の水蒸気が流通する前記伝熱管を有し、該伝熱管が汎用鋼製であり、
前記排ガス流路に流れる前記排ガスは、450℃以上の水蒸気が流通する前記伝熱管が配された位置での平均温度が550℃以下で平均流速が3.0m/s以下である廃棄物焼却設備。

【請求項6】
450℃以上の水蒸気が流通する伝熱管を有する前記スーパーヒーターである第1スーパーヒーターと、
該第1スーパーヒーターよりも排ガスの流通方向上流側に備えられた第2スーパーヒーターと、
前記1スーパーヒーターよりも排ガスの流通方向下流側に備えられた第3スーパーヒーターと、を含む少なくとも3台のスーパーヒーターが前記エネルギー回収装置に備えられ、
該エネルギー回収装置では3台の前記スーパーヒーターが互いに連結されており、
450℃以上の前記水蒸気は、前記第3スーパーヒーターで排ガスと熱交換して加熱された水蒸気が前記第2スーパーヒーターでさらに加熱され、且つ、該第2スーパーヒーターで加熱された前記水蒸気が前記第1スーパーヒーターでさらに加熱されることよって作製される請求項5記載の廃棄物焼却設備。」

第3 特許異議申立の理由の概要
1 証拠方法
(1)甲第1号証:「廃棄物発電ボイラへの重金属付着挙動」、第24回廃棄物資源循環学会研究発表会講演論文集、2013年11月発表

(2)甲第2号証:「廃棄物発電向け過熱器材料の減肉予測」、第61回材料と環境討論会講演集、公益社団法人 腐食防食学会、2014年11月12日発行

(3)甲第3号証:「廃棄物発電ボイラの減肉特性」、第23回廃棄物資源循環学会研究発表会講演論文集、2012年10月発表

(4)甲第4号証「ごみ焼却技術 絵とき基本用語」、172頁、タクマ環境技術研究会編、株式会社オーム社発行、平成18年9月10日改訂増補版第4刷発行

(5)甲第5号証「高効率廃棄物発電技術開発」(従来型ストーカ炉発電等高効率化技術開発)事後評価報告書、平成14年7月発行

2 理由の概要
申立人は、証拠として、甲第1号証ないし甲第5号証を提出し、本件発明1、2、5及び6は、甲第1号証記載の発明、甲第2号証記載の技術、甲第3号証記載の技術、甲第4号証記載の技術及び甲第5号証記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1、2、5及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1、2、5及び6に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。

第4 当審の判断
1 甲第1号証ないし甲第5号証について
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には、図面とともに次の記載がある(なお、参考文献を示す括弧付の数字は省略する。)。

(ア)「廃棄物発電の大きな課題が、過熱器管の腐食であることは周知の通りである。腐食速度は、灰の融点を超えると飛躍的に上昇するため、伝熱管に付着する灰の性状が伝熱管の寿命を大きく左右する。そのため実機での腐食挙動を予測可能にするためには、付着挙動を明らかにする必要がある。」(「1.はじめに」中、第1ないし3行)

(イ)「調査を行ったボイラの模式図を図1に示した。廃棄物由来燃料(RDF)を燃料とする流動床炉で、460℃×6.8MPaの蒸気を造っている。」(「2.調査方法」中、第1ないし3行。なお、原文中、「廃棄物由来燃料(RDF)を原料とする流動床炉」と記載されているが、燃料の1種である「廃棄物由来燃料(RDF))」が、炉の「原料」となることは通常あり得ないため、原文中の「原料」との記載は、「燃料」の誤記であると認め、上記のように記載されているとした。)

イ 甲第1号証記載の事項
上記ア(ア)及び(イ)並びに図1の記載から、次のことが分かる。
(カ)上記(ア)から、甲第1号証において、廃棄物発電における過熱器管の腐食を課題としていることが分かる。

(キ)上記(ア)及び(イ)から、甲第1号証において、廃棄物由来燃料を燃料とする流動床炉であって、460℃×6.8MPaの蒸気を作る流動床炉が記載されていることが分かる。

(ク)「図1ボイラ模式図」において、流動床炉で発生した排ガスが流通する流路に、排ガスの流通方向と交差する方向に延在する複数の過熱器管が配置されていることが看取できる。

(ケ)上記(イ)から、過熱器管に460℃の蒸気が流通することが分かる。

ウ 甲第1号証発明
上記ア及びイから、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証発明1」という。)が記載されていると認める。

<甲第1号証発明>
「廃棄物由来燃料を燃料とする流動床炉で発生した排ガスが流通する排ガス流路と、
該排ガス流路に設けられ、前記排ガスの流通方向と交差する方向に延在する1又は2以上の過熱器管を有する過熱器とを備え、
記過熱器管内を流通させる蒸気によって前記排ガスから熱回収が行われるボイラであって、
前記過熱器が、460℃の蒸気が流通する前記過熱器管を有する、
ボイラ。」

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載
甲第2号証には、次の記載がある。

(ア)「廃棄物発電プラントにおいて,塩化物などを含む付着灰の影響により激しい腐食環境が形成され,ボイラ過熱器の減肉が問題となることが知られている.」(「1.背景」中、第1及び2行)

(イ)「本式の特徴として,蒸気温度 500℃の過熱器をターゲットとして作られているため,排ガス温度やメタル温度などが現状の過熱器よりも高い温度範囲に設定されている.」(「2.従来式の評価」中、下5及び下4行)

(ウ)「広く知られている過熱器減肉速度予測式を,蒸気温度 400℃クラスの過熱器に適用すると,予測値が実測値に比べ小さくなる傾向が見られた.そこで既設プラントの実測データを用いて式の修正を行い,概ね良好な結果が得られた.」(「4. 結論」中、第1ないし3行)

(エ)「炭素鋼」(「3.1 修正方法」中、第13行)

(オ)「排ガス温度 583?675℃(従来式) 303?580℃(修正式)」(「表1 予測因子とそのデータ適用範囲」)

イ 甲第2号証技術
上記アから、甲第2号証には、次の技術(以下、「甲第2号証技術」という。)が記載されていると認める。

<甲第2号証技術>
「蒸気温度500℃の過熱器において、排ガス温度を583?675℃とし、蒸気温度400℃クラスの過熱器において、排ガス温度を303?580℃として炭素鋼の減肉速度を過熱器減肉速度予測式により予測する技術。」

(3)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載
甲第3号証には、次の記載がある。

(ア)「しかし、蒸気の高温・高圧化はボイラ伝熱管の腐食減肉促進によるボイラのライフサイクルコスト(LCC)の増大のため、採用に際してはこの対策が重要である。
著者らは短期間で実炉における材料の腐食減肉特性を把握できるプローブ試験手法を開発し、材料の様々な曝露環境(ガス温度、メタル温度)下での減肉特性を定量的に評価する手法を確立した。本評価に基づき経済性に優れた高効率な廃棄物発電ボイラの最適設計に取り組んでいる。」(「1.はじめに」中、第3ないし7行)

(イ)「プローブ試験はストーカ式ごみ焼却炉(A市クリーンセンター 処理能力:350t/d×2炉、蒸気条件:4MPa×400℃)にて実施した」(「3.試験内容」中、第1及び2行)

(ウ)「プローブ本体に着脱可能な試験片を複数設置し、・・・(中略)・・・メタル温度の制御は空冷により行う。」(「2.プローブ試験手法」中、第6ないし8行)

(エ)「試験片材質 SUS310J1」、「ガス温度 450℃?550℃」及び「金属(試験片)温度 340℃?450℃」(「表3-1 プローブ試験条件」)
また、「図2-1 プローブ模式図」において、プローブには冷却空気を導入することが看取できる。

イ 甲第3号証技術
上記ア及び図2-1から、甲第3号証には、次の技術(以下、「甲第3号証技術」という。)が記載されていると認める。

<甲第3号証技術>
「蒸気条件が4MPa×400℃であるストーカ式ごみ焼却炉において、冷却空気が導入されるプローブにSUS310J1からなる試験片を複数設置し、ガス温度450℃?550℃、試験片温度340℃?450℃として減肉特性を定量的に評価する技術。」

(4)甲第4号証
ア 甲第4号証の記載
甲第4号証には、次の記載がある。なお、甲第4号証において用いられている丸囲みの数字は、○1のように記載する。

(ア)「[ボイラー計画上の留意点] 油やガスを燃料とするボイラーとは異なり,ごみ燃料の性質上,燃焼ガス中にダストが多く,また金属を腐食させる原因となる塩素(Cl)や灰の融点を下げる亜鉛(Zn)や鉛(Pb)が多く含まれているため,水冷壁や過熱管の腐食・摩耗から缶体を保護する必要があり,次のような点が重要である。
○1 炉内を高温に保ち,遅いガス速度(5m/s以下)と十分な滞留時間,適正な2次空気の供給などにより,燃焼ガスの混合・撹拌を促進させ完全燃焼させる。」(第172ページ第2ないし8行)

イ 甲第4号証技術
上記アから、甲第4号証には、次の技術(以下、「甲第4号証技術」という。)が記載されていると認める。

<甲第4号証技術>
「炉内を高温に保ち、5m/s以下のガス速度と十分な滞留時間、適正な2次空気の供給などにより、燃焼ガスの混合・撹拌を促進させ完全燃焼させることで、過熱管の腐食・摩耗から缶体を保護する技術。」

(5) 甲第5号証
ア 甲第5号証の記載
甲第5号証には、次の記載がある。

(ア)「効率を向上させるためには、蒸気条件(温度、圧力)を向上させる必要があるが、本技術開発では、耐腐食性スーパーヒーター材料を開発することにより、その課題を克服した。実証プラントでは、燃焼炉としてストーカー炉を採用し、検証を行ったが、この技術は流動床炉、ガス化溶融炉などの他の燃焼炉においても適用可能なものであり、今後の廃棄物発電の高効率化に大いに寄与することが期待される。」(第2章第2-14ページ「6.今後の展開」中、第1ないし5行)

(イ)「表8.2-2 パイロットプラント・スーパーヒーター各試験材の最大減肉量」中、「抜管位置 3次スーパーヒーター」において、下部パネル1本目では、ガス温度が「621℃」で蒸気温度が「445℃」であり、下部パネル16本目では、ガス温度が「554℃」で蒸気温度が「483℃」であり、上部パネル1本目では、ガス温度が「540℃」で蒸気温度が「488℃」であり、上部パネル16本目では、ガス温度が「554℃」で蒸気温度が「483℃」であり、ターミナル管1本目では、ガス温度「510℃」で蒸気温度「500℃」であり、「抜管位置 2次スーパーヒーター」において、高温側1本目では、ガス温度が「488℃」で蒸気温度「450℃」であり、高温側16本目では、ガス温度が「461℃」で蒸気温度「429℃」である表が記載されている(第2章第2-21ページ)。

(ウ)「表8.2-2 パイロットプラント・スーパーヒーター各試験材の最大減肉量」(第2-21ページ)中、2次スーパーヒーター高温側1本目及び16本目において、SUS310J1を用いることが記載されている。(第2章第2-21ページ)

(エ)「中温用スーパーヒーター(2次スーパーヒーター)材としては、従来材(Alloy825、310J1)に比較して耐久寿命、コスト面で優れた材料(HR30M)を開発する事ができた。」(第2章第2-20ページ下3行ないし最終行)

(オ)また、「図7.1 パイロットプラント炉型選定のための検討結果」(第2-16ページ)において、「炉型 ストーカー 1回流型」の「結果 1.SHの腐食対策」に「(2)SHの設置位置の工夫 ・ガス温度650℃以下に設置 ・ガス流速10m/s以下」と記載されている。

イ 上記アから、甲第5号証には、次の技術(以下、「甲第5号証技術」という。)が記載されていると認める。

<甲第5号証技術>
「ガス流速を10m/s以下とし、2次スーパーヒーターの高温側1本目をSUS310J1で形成し、ガス温度を488℃とし、かつ、蒸気温度を450℃とした1回流型ストーカー炉。」

2 対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲第1号証発明とを対比すると、甲第1号証発明における「ボイラ」は、その構造、機能又は技術的意義からみて、本件発明1における「エネルギー回収装置」に相当し、以下同様に、「流動床炉」は「流動床式燃焼炉又は流動床式ガス化溶融炉」に、「廃棄物由来燃料」は「廃棄物」に、「排ガス」は「排ガス」に、「排ガス流路」は「排ガス流路」に、「過熱器管」は「伝熱管」に、「過熱器」は「スーパーヒーター」に、「蒸気」は「水蒸気」に、相当する。
また、甲第1号証発明において、流動床炉が「廃棄物由来燃料を燃料とする」ことは、本件発明1において、流動式燃焼炉又は流動床式ガス化溶融炉において、「廃棄物を燃焼させ」ることに相当し、甲第1号証発明における「廃棄物由来燃料を燃料とする流動床炉で発生した排ガス」は、本件発明1における「流動床式燃焼炉又は流動床式ガス化溶融炉によって廃棄物を燃焼させて得られた排ガス」に、相当する。
そうすると、本件発明1と甲第1号証発明は、「流動床式燃焼炉又は流動床式ガス化溶融炉によって廃棄物を燃焼させて得られた排ガスが流通する排ガス流路と、
該排ガス流路に設けられ、前記排ガスの流通方向と交差する方向に延在する1又は2以上の伝熱管を有するスーパーヒーターとを備え、
前記伝熱管内を流通させる水蒸気によって前記排ガスから熱回収が行われるエネルギー回収装置であって、
前記スーパーヒーターが、450℃以上の水蒸気が流通する前記伝熱管を有する、
エネルギー回収装置。」という点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
本件発明1においては、「該伝熱管が汎用鋼製であり、
前記排ガス流路に流れる前記排ガスは、450℃以上の水蒸気が流通する前記伝熱管が配された位置での平均温度が550℃以下で平均流速が3.0m/s以下である」のに対し、甲第1号証発明においては、460℃の水蒸気が流通する伝熱管の素材及び前記伝熱管が配された位置における排ガスの平均温度及び平均流速が不明である点(以下、「相違点」という。)。

イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)甲第1号証発明と甲第5号証技術
甲第1号証発明と、廃棄物を燃焼させるボイラという共通の技術分野に属する甲第5号証技術と、相違点に係る本件発明1の発明特定事項とを対比すると、甲第5号証技術における「SUS310J1」は、その構造、機能又は技術的意義からみて、本件発明1における「汎用鋼」に対応し、以下同様に、「488℃」は「550℃以下」に対応する。
しかし、甲第5号証技術はストーカ炉を前提としており、流動床式燃焼炉とは異なるものであり、さらに甲第5号証技術における排ガスの流速は「10m/s以下」であるのに対し、本件発明1においては、前記排ガス流路に流れる前記排ガスは、450℃以上の水蒸気が流通する前記伝熱管が配された位置での「平均流速が3.0m/s以下」である。そうすると、甲第1号証発明に甲第5号証技術を適用しても、前記相違点に係る本件発明の発明特定事項とはならない。

(イ)甲第1号証発明と甲第2号証技術
甲第2号証技術は、蒸気温度400℃クラスの過熱器において、排ガス温度を303℃?580℃とするものであり、蒸気温度を450℃以上とすることを前提とした過熱器ではなく、排ガスの平均流速についても不明である。さらに、甲第2号証技術は、各条件における減肉速度を過熱器減肉速度予測式により予測する技術であり、実際の流動床式燃焼炉における技術ではない。したがって、甲第1号証発明に甲第2号証技術を適用しても、前記相違点に係る本件発明の発明特定事項とはならない。

(ウ)甲第1号証発明と甲第3号証技術
甲第3号証技術は、ストーカ炉を前提として、SUS310J1の減肉特性を評価する技術であり、プローブには冷却空気が導入されるものであるから、450℃以上の水蒸気が流通する伝熱管の位置の排ガス温度を550℃以下とするものではなく、さらに排ガスの平均流速についても不明である。したがって、甲第1号証発明に甲第3号証技術を適用しても、前記相違点に係る本件発明の発明特定事項とはならない。

(エ)甲第1号証発明と甲第4号証技術
甲第4号証技術における「ガス速度」は、「排ガス」の速度であるか不明であるうえ、流速自体も、相違点に係る本件発明1の発明特定事項である「平均流速が3.0m/s以下である」ものとは異なるものであり、さらに甲第4号証技術における炉の形式も不明である。したがって、甲第1号証発明に甲第4号証技術を適用しても、前記相違点に係る本件発明の発明特定事項とはならない。

さらに、本件発明1は、本願明細書の段落【0008】に記載されるように、「流動床式燃焼炉や流動床式ガス化溶融炉から発生する排ガスは、通常、ストーカー炉などから排出される排ガスに比べて腐食性が低く、高温水蒸気を流通させる伝熱管にこのような腐食性が低い排ガスを特定の条件で接触させることで当該伝熱管の腐食が抑制される」ものであるから、各甲号証技術から、伝熱管の材質、蒸気温度、排ガスの平均流速又は平均温度を個別に寄せ集め得るものでもなく、また、伝熱管の材質、蒸気温度、排ガスの平均流速又は平均温度は適宜に設計し得る事項でもない。

そして、本件発明は、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を備えることにより、伝熱管の腐食を抑制するという効果を奏するものである。

したがって、本件発明1は、甲第1号証発明及び甲第2号証技術ないし甲第5号証技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2、本件発明5及び本件発明6
請求項2は、請求項1を直接引用するものであって、本件発明2は、本件発明1をさらに減縮したものであるから、上記(1)ア及びイを踏まえると、本件発明2は、甲第1号証発明及び甲第2号証技術ないし甲第5号証技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明5は、実質的に本件発明1のエネルギー回収装置を備える廃棄物焼却設備であり、本件発明6は本件発明5をさらに減縮したものであるから、上記(1)アおよびイを踏まえると、本件発明5及び本件発明6は、甲第1号証発明及び甲第2号証技術ないし甲第5号証技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

以上のとおり、本件発明1、2、5及び6は、甲第1号証発明及び甲第2号証技術ないし甲第5号証技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

したがって、請求項1、2、5及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号に該当するものではなく、申立てがされた理由によって取り消すことができない。

第5 むすび
上記第4のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2、5及び6に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1、2、5及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-07-11 
出願番号 特願2015-33815(P2015-33815)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (F23G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤原 弘  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 三島木 英宏
金澤 俊郎
登録日 2016-07-22 
登録番号 特許第5974126号(P5974126)
権利者 株式会社神鋼環境ソリューション
発明の名称 エネルギー回収装置および廃棄物焼却設備  
代理人 日東 伸二  
代理人 藤本 昇  
代理人 中谷 寛昭  

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