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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05K
管理番号 1330142
異議申立番号 異議2017-700410  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-25 
確定日 2017-07-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6016459号発明「ノイズ吸収装置の支持構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6016459号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6016459号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成24年6月5日の出願であって、平成28年10月7日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年4月25日に特許異議申立人徳田あけみにより特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6016459号の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであるところ、本件発明1及び2はそれぞれ次のとおりのものである。

「【請求項1】
内部にコアを内装する筒状のケースを備えるノイズ吸収装置と、このノイズ吸収装置を基板に支持させるための支持具とで構成され、前記ケースは外周面の筒軸方向の一部に係止溝が設けられており、この係止溝は筒径方向に対向する両側面が周方向に対して平坦な溝底面を有する断面形状の溝として形成され、前記支持具は、開操作可能な上辺部と、上向きコ字状をした左辺部、右辺部及び下辺部とで矩形枠状に形成されて前記ケースを保持する保持部と、前記下辺部の下側位置に設けられて前記基板に設けた穴に着脱可能に嵌合される嵌合部を備え、前記保持部に前記ケースを内挿したときに、前記左辺部及び右辺部が前記係止溝の溝底面に密接した状態で係合し、前記ケースを筒軸方向及び回転方向に係止した状態で保持することを特徴とするノイズ吸収装置の支持構造。
【請求項2】
前記支持具の嵌合部は前記基板に設けた孔に挿入されたときに当該孔に嵌合する嵌合片と、両側から挟むように操作されたときに前記嵌合片の前記孔との嵌合状態を解除する解除片とを備えることを特徴とする請求項1に記載のノイズ吸収装置の支持構造。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、下記の甲第1ないし6号証を提出し、本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、したがって、請求項1及び2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、請求項1及び2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

記(証拠一覧)
甲第1号証:特開平10-79589号公報
甲第2号証:登録実用新案第3154135号
甲第3号証:特開2012-99707号公報
甲第4号証:実願昭63-126850号(実開平2-47099号)のマイクロフィルム
甲第5号証:特開2004-274073号公報
甲第6号証:特開2004-278703号公報

第4 甲第1ないし6号証の記載事項
1.甲第1号証(特開平10-79589号公報)
甲第1号証には、「ノイズ吸収装置」に関して以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電気信号を伝送する信号ケーブルに及ぼされる周囲からの電磁誘導ノイズを吸収する装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】この種のノイズ吸収装置としては、従来は図11に示すようなフェライトを材料とする一対の半筒体(41,41) を使用し、該一対の半筒体(41,41) を組合せ、その内側にケーブル(42)を挿通し、図12に示すようにその外側に二つ割りケース(43)を被着し、該ケース(43)の両端の孔部(44,44) で該ケーブル(42)を挟持する構成が提供されている(例えば実公平7-51772号)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記従来構造ではケース(43)が必要であるからコスト高になること、ケーブル(42)がケース(43)両端の孔部(44,44) によって支持されているから、フェライトの半筒体内面に接触しにくゝ、ノイズ吸収効率が悪いこと等の問題点もある。」
(2)「【0005】
【発明の実施の形態】本発明の一具体例を図1?図4に示す。図において、(1A)はフェライト材料とする半筒体であり、該半筒体(1A)の内側(2A)は多角形(本具体例の場合には半五角形)にされており、両縁(3A,3A) は凹凸形状にされており、中央部にはベルト溝(4A)が形成されている。
【0006】更に(1B)はもう一つの半筒体であり、フェライト材料とし、該半筒体(1B)の内側(2B)は多角形(本具体例の場合には半五角形)にされており、両縁(3B,3B) は上記半筒体(1A)の両縁(3A,3A) と相互噛み合い可能な凹凸形状(3C,3D) とされている。該凹凸形状(3C,3D) は波形あるいはパルス状等とされる。
【0007】上記半筒体(1A,1B) は図2に示すように内側に例えば二本のケーブル(5,5) を挟持して組合せられ、バックル(6A)付きのベルト(6) あるいは紐等をベルト溝(4A,4B) に掛けて結束することによって固定してノイズ吸収装置(1) を構成する。この場合該二本のケーブル(5,5) は図3に示すように半筒体(1A,1B) の内側(2A,2B) によって形成される六角形のケーブル挿通孔(2) 内で該半筒体(1A,1B) によって挾圧されて該半筒体(1A,1B) の内側に密に接触し、更に該半筒体(1A,1B) は組み合わされて筒体(1) を構成するが、該半筒体(1A,1B) の両縁(3A,3A,3B,3B) は相互噛合い可能な凹凸形状(3C,3D) とされているので、該半筒体(1A,1B) の相互接触面積も拡大され、ノイズ吸収特性はこれらによって大巾に向上する。」
(3)「【0011】図8?図10には更に他の具体例が示される。図において、(31A,31B) は図1?図4に示す具体例と同様な半筒体の一対であり、該半筒体(31A,31B) の内側(32A,32B) は多角形(半五角形)にされており、両縁(33A,33A,33B,33B) は凹凸形状にされており、中央部にはベルト溝(34A,34B) が形成されており、更に本具体例では半筒体(31A,31B) の内側(32A,32B) にはケーブル抜け防止用の突起(35A,35B) が夫々形成されており、更に両端にはケーブル(25)の遊び用の凹部(36A,36B) が形成されている。該半筒体(31A,31B) の一対は図10に示すように組合せられてノイズ吸収装置(31)を形成するが、ケーブル挿通孔(32)にケーブル(25)を挿通した状態で、該半筒体(31A,31B) の突起(35A,35B) が該ケーブル(25)外周に食い込んでケーブル(25)の抜け止めを行なう。」
(4)「【0013】
【発明の効果】本発明ではケースが不要でかつノイズ吸収特性に優れたノイズ吸収装置が提供される。」

上記(1)によれば、従来のノイズ吸収装置は、フェライトを材料とする一対の半筒体の外側に二つ割りケースを被着する構造であり、ケースが必要であるからコスト高になるという問題点がある。
上記(2)及び(3)によれば、一対の半筒体の中央部にはベルト溝が形成されており、前記一対の半筒体を組合わせ、バックル付きのベルトを前記ベルト溝に掛けて結束することによってノイズ吸収装置を形成する。そして、上記(4)によれば、そのように形成されたノイズ吸収装置は、ケースが不要であるという効果を奏する。

したがって、上記(1)ないし(4)の記載事項と図面の記載とを総合勘案すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「フェライトを材料とする一対の半筒体とバックル付きのベルトとからなり、前記一対の半筒体の中央部にはベルト溝が形成されており、前記一対の半筒体を組合せ、前記バックル付きのベルトを前記ベルト溝にかけて結束したノイズ吸収装置。」

2.甲第2号証(登録実用新案第3154135号)
甲第2号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)
(5)「【請求項1】
複写機などの機器内の基板あるいはフレームに設置して配線の位置決めをする一体型ホルダであって、
該ホルダは前記基板あるいはフレームに固定する固定部と前記配線を貫通状態にする保持部とからなり、
しかも前記固定部は前記基板あるいはフレームに取り付ける手段を設け、前記保持部の上部一端部にくびれ部を有する溝部を形成すると共に、上部他端部には前記溝部を外開きに押し開いてから嵌合し、かつ前記溝部の軸方向にスライドして取り外す根元にくびれ部を有する突出部を形成することにより、前記保持部から配線を出し入れ可能にした配線位置決め用ホルダ。」
(6)「【実施例1】
(中略)
【0013】
図において、配線位置決め用ホルダAは、内部に配線1を貫通させた上半分の保持部2と、基板3に固定する下半分の固定部4からなる。
保持部2は、略全体が四角形の断面をした可撓性のナイロン製の枠13で一体成形されたものであり、図上右上隅は薄肉部5で、折り曲げ可能にしており、常態では二点鎖線のように左上隅端が持ち上げられ、その上部一端部が、配線1を枠内に入れた使用状態で、枠厚と同厚の矢印形の突出部6が枠の上部他端にある前記枠厚と同厚の溝部7に嵌合している。
(中略)
【0015】
本考案の使用状態図を説明すると、まず基板3に予め設けられた丸孔に、一体成形されたホルダAの固定部4を強く押し込むと、材質の弾性と隙間10,10' により砲弾性8の箇所が細く内側に変形して孔12内に進入して羽根状9との間のくびれ部11に嵌着する。この場合、前記羽根状9の両端は元来下がっていたが、前記くびれ部11と基板3の肉厚の厚さが略同じであるために前記羽根部9は基板3を常時押し下げる力となり、前記くびれ部11の下段への押し付け力によって、ホルダAは基板3に安定に固定される。」
(7)「【実施例2】
【0017】
図4は、上記図1乃至図3のホルダAとは別の実施態様Bであり、構造上異なるところは、固定部4(104)の形状にある。大きな違いは前者の羽根部9の形状より後者のそれ109は枠の横幅よりも両側に突き出ており、その両端を内側へ押すことで、104固定部が変形し、基板へ着脱することができる。また、基板103に両側下端が突出して羽根部109の上に枠113の両側が線状に当接することにより、保持部の安定性が確保される。なによりも、前記図1,2のタイプは、原則的には着脱できないようにしているが、この図4は両側にある羽根部109を共に両方に押し込むと、基板103の孔から簡単に引き抜き、別の箇所へ再利用することができる。図上において、101は配線、102は保持部、103は基板、104は固定部、105は薄肉部、106は矢印状の突出部、107は溝部、108は固定部、109は羽根部、110,110' は隙間、111はくさび部、112は基板の孔、113は保持部の枠といったように基本的な違いはない。」

したがって、上記(5)ないし(7)の記載事項と図面の記載とを総合勘案すると、甲第2号証には次の技術事項が記載されている。

「基板に設置して配線の位置決めをする一体型ホルダであって、該ホルダは前記基板に固定する固定部と前記配線を貫通状態にする保持部とからなり、前記固定部は前記基板の孔に着脱することができ、前記保持部は、略全体が四角形の断面をした枠であって、常態ではその左上隅端が持ち上げられ、前記配線を前記枠内に入れた使用状態では前記左上隅端が前記枠の上部他端に嵌合している一体型ホルダ。」

3.甲第3号証(特開2012-99707号公報)
甲第3号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(8)「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子機器等の電線に外嵌され、電線がアンテナとなって拾う雑音電流、あるいは外部で発生し電線を介して電子機器に流れ込む雑音電流等を吸収するフェライトクランプに関する。」
(9)「【0019】
フェライトクランプ1は、それぞれが開環状に形成された一対の分割コア3a、3bと、分割コア3a、3bをそれぞれ包持する一対のケース部5a、5bとを備える。
ケース部5a、5bは、薄肉の円筒が中心軸を含む平面に沿って切断された形状(略舟形)の箱体であり、これらのケース部5a、5b内に、それぞれ、分割コア3a、3bが嵌め込まれる。ケース部5a、5bは、弾性を有する樹脂から成る。ケース部5a、5bの内周面には、それぞれ、突起6a、6bが形成されており、分割コア3a、3bの外周面には、対応する溝部8a、8bが形成されている。ケース部5aに分割コア3aを嵌め込むときは、突起6aと溝部8aが係合することで、分割コア3aの位置が安定する。また、ケース部5bに分割コア3bを嵌め込むときは、突起6bと溝部8bが係合することで、分割コア3bの位置が安定する。」
(10)「【0024】
分割コア3a、3bの材質は、公知のフェライトである。分割コア3a、3bは、公知の成形方法により、上述した形状に成形できる。」

したがって、上記(8)ないし(10)の記載事項と図面の記載とを総合勘案すると、甲第3号証には次の技術事項が記載されている。

「フェライトからなる一対の分割コアと、前記分割コアをそれぞれ包持する一対の略舟形のケース部とを備えるフェライトクランプ。」

4.甲第4号証(実願昭63-126850号(実開平2-47099号)のマイクロフィルム)
甲第4号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(11)「[産業上の利用分野]
本考案は、電子機器内部で発生した雑音電流、又は外部で発生した雑音電流が電線を経由して伝搬することを防止する雑音電流吸収具に関する。」(第1頁第18行?第2頁第1行)
(12)「次に第4実施例を説明する。第6図の斜視図と第7図の正面図に示す雑音電流吸収具80は、磁性体の分割面82,83の位置を一方の磁性体に片寄らせるとともに、拘持部材84の両端を鉤に替えて、固定具86,87とした場合の例を示すものである。すなわち、第1磁性体89、第2磁性体90からなり、両磁性体89,90には、外周面91,92に嵌合部94,95が形成されている。この嵌合部94,95に嵌合して、両磁性体89,90を拘持する拘持部材84は、電子機器の構成部材100の穴101に係止するよう構成されている。これにより、電線15を外嵌した雑音電流吸収具80を、分割面82,83相互が離れないように拘持するとともに、構成部材100に固定することができる。」(第11頁第8行?第12頁第2行)
(13)「第11図の斜視図、および第11図のB-B断面を示す第12図に基づいて、第7実施例を説明する。本第7実施例の雑音電流吸収具140は、第8図、および第9図の雑音電流吸収具120の拘持部材130を拘持部材141に変更して、電子機器の構成部材143に、雑音電流吸収具140を固定できるよう構成したものである。すなわち、第1,第2磁性体153,155の嵌合部157,159に嵌合する拘持部材141を、両端に固定具160,162を有するものにして、構成部材143の穴166に、拘持部材141を係合できるよう構成したものである。」(第12頁第19行?第13頁第10行)

したがって、上記(11)ないし(13)の記載事項と図面の記載とを総合勘案すると、甲第4号証には次の技術事項が記載されている。

「第1磁性体及び第2磁性体の外周面に嵌合部が形成され、この嵌合部に嵌合して両磁性体を拘持する拘持部材が、電子機器の構成部材の穴に係止するよう構成されている雑音電流吸収具。」

5.甲第5号証(特開2004-274073号公報)
甲第5号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(14)「【技術分野】
【0001】
本発明は電子機器等の基板に電子部品やケーブル等を実装するために用いるケーブルクランプ等の実装用部品に関し、特に実装用部品を基板に取着するためのスナップ構造に関するものである。」
(15)「【0002】
電子機器を組み立てる場合には、パネル、シャーシ、基板等の組立基板(以下、これらを基板と称する)に電子部品を取り付けたり、ケーブル等の配線部品を延設配置する必要があり、そのために実装用部品が用いられる。例えば、基板の表面に沿ってケーブルを延設配置する場合には、ケーブルを保持した状態でシャーシへの取着を行うケーブルクランプが用いられる。一般に、ケーブルクランプをシャーシに取着する構造として、スナップ構造が採用されている。図17はその一例を示す図であり、ケーブルクランプ1Dは複数のケーブルCを束状に保持するクランプ部60と、当該クランプ部60と一体に設けられて基板2に開口された透孔3内に嵌合するスナップ部30Aとで構成され、樹脂成形等によって一体に形成される。クランプ部60は、上向きコ字状のベース61に対してカバー片62が一端部においてヒンジ結合され、その他端でロック部63によってロックされるようになっている。そして、カバー片62を開閉してケーブルCの挿脱が可能になる。また、前記スナップ部30Aは、下方に突出したポスト31の両側に矢尻型に張り出した一対のスナップ片52を有しており、基板2の表面側からスナップ部30Aを透孔内に挿入すると、一対のスナップ片52は弾性により縮径されて透孔3を通され、通過後は弾性復帰して拡径することでスナップ片52の末端部に設けた段部521が透孔3の内縁部に係合する。また、スナップ片52に対向して設けられているハ字状をした一対の脚片34が基板2の表面側に当接することで、前記段部521と透孔3との係合状態が保持される。これにより、基板2に取り付けられたケーブルクランプ1Dが透孔3から離脱することが防止される。」

したがって、上記(14)及び(15)の記載事項と図面の記載とを総合勘案すると、甲第5号証には次の技術事項が記載されている。

「複数のケーブルを束状に保持するクランプ部と、当該クランプ部と一体に設けられて基板に開口された透孔内に嵌合するスナップ部とで構成されたケーブルクランプであって、前記クランプ部は、上向きコ字状のベースに対してカバー片が一端部においてヒンジ結合されることによって開閉するケーブルクランプ。」

6.甲第6号証(特開2004-278703号公報)
甲第6号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(16)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電子機器等のシャーシに電子部品やケーブル等を実装するために用いる固定具に関し、特にシャーシの表面側からの取り外しを容易に行うことが可能な固定具に関するものである。」
(17)「【0012】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の固定具をケーブルタイに適用した第1の実施形態の斜視図である。また、図2(a),(b)は側面図と背面図、図3(a)?(c)は要部の正面図、底面図、及びAA線断面図である。これらの図において、本実施形態のケーブルタイ1は、図外のケーブルを巻き締め状態にクランプするための保持部10と、この保持部10をシャーシ2に取着するために、当該シャーシ2に設けられた透孔3に嵌合される嵌合部20とで構成されており、両部は樹脂成形により一体に形成されている。前記保持部10はベルト部11と、このベルト部11をケーブルを巻き締めた状態にロックするロック部12とで構成されている。
(中略)
【0016】
以上の構成のケーブルタイ1によれば、ケーブルタイ1をシャーシ2の透孔3に取着する際には、ケーブルタイ1の嵌合部20をシャーシ2の上面側から透孔3に挿入する。このようにして挿入することにより、図4(a)のように、嵌合部20の一対の嵌合片22,22は内径方向に弾性変形されて縮径され、透孔3内への挿入を可能にする。そして、図4(b)に示すように、嵌合片22,22が透孔3を貫通すると、嵌合片22,22は弾性力によって復元して外径方向に拡径し、段部22a,22aがシャーシ2の下面において透孔3の内縁部に係合する。また、これと同時に一対の脚片25,25の先端部25a,25aがシャーシ2の表面に弾性的に当接され、嵌合部20を上方に付勢するため、前記段部22a,22aを透孔3の内縁部に対して押圧することになり、係合状態を保持することになる。これにより、ケーブルタイ1を上方に引っ張った場合でも、段部22a,22aと透孔3との係合によって嵌合部20が透孔3から挿脱されることがなく、ケーブルタイ1をシャーシ2に固定することができる。
(中略)
【0020】
一方、シャーシ2の透孔3に取着されたケーブルタイ1をシャーシから離脱する際には、図4(a)に鎖線で示したように、2本の指Fで解除片24,24を両外側から摘み、かつ両側から力を加えて解除片24,24を内側に変形させる。この変形により、同図のように解除片24,24と一体の連結片23,23も内側に向けて変形され、さらに連結片23,23と一体の嵌合片22,22も内側に変形されて縮径され、段部22a,22aが透孔3の内縁部から外れることになる。したがって、そのままケーブルタイ1をシャーシ2の上方に引き上げることで嵌合部20を透孔3から引き抜くことができ、ケーブルタイ1の取り外しが実現できる。」
(18)「【0026】
ここで、前記実施形態では本発明をケーブルタイに適用した実施形態を示してたが、保持部の構成が異なる他の固定具についても同様に適用することが可能である。例えば、本発明の第1の実施形態の嵌合部を適用する場合には、図10に示すように上向きコ字状をしたサドル本体41の開口を開閉可能な係止片42の先端部にロック片43を有し、このロック片43をサドル本体41に設けたロック部44に対してロック可能なサドル部40を有して、ケーブルがより離脱され難くしたロッキングワイヤサドル1Aについても本発明を適用することが可能である。この場合には、嵌合部20の一対の解除片24,24の各延設端部24a,24aはサドル本体41の両側面に沿って所要の間隔で対峙するように配設すればよい。」

したがって、上記(16)ないし(18)の記載事項と図面の記載とを総合勘案すると、甲第6号証には次の技術事項が記載されている。

「ケーブルを保持するためのサドル部と、このサドル部をシャーシに取着するために、当該シャーシに設けられた透孔に嵌合される嵌合部とで構成されたロッキングワイヤサドルであって、前記サドル部は上向きコ字状をしたサドル本体と開閉可能な係止片とからなり、前記嵌合部はシャーシの透孔に取着及び離脱が可能であるロッキングワイヤサドル。」

第5 判断
1.本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲第1号証の上記「第4 1.(1)」の記載を参酌すると、甲1発明の「ノイズ吸収装置」は、本件発明1の「ノイズ吸収装置」と同様に、ケーブルに流れるノイズを吸収するための装置であり、甲1発明における「フェライトを材料とする一対の半筒体」は、本件発明1における「コア」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「コアを備えるノイズ吸収装置」を発明特定事項に含む点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
ノイズ吸収装置が、本件発明1においては「内部にコアを内装する筒状のケースを備える」のに対して、甲1発明においては、そのようなケースを備えていない点。

<相違点2>
本件発明1は「内部にコアを内装する筒状のケースを備えるノイズ吸収装置と、このノイズ吸収装置を基板に支持させるための支持具とで構成されるノイズ吸収装置の支持構造」の発明であるのに対して、甲1発明においては、「ノイズ吸収装置を基板に支持させるための支持具」や当該支持具を用いた「支持構造」については何ら特定されていない点。

<相違点3>
本件発明1の支持構造は、「前記ケースは外周面の筒軸方向の一部に係止溝が設けられており、この係止溝は筒径方向に対向する両側面が周方向に対して平坦な溝底面を有する断面形状の溝として形成され、前記支持具は、開操作可能な上辺部と、上向きコ字状をした左辺部、右辺部及び下辺部とで矩形枠状に形成されて前記ケースを保持する保持部と、前記下辺部の下側位置に設けられて前記基板に設けた穴に着脱可能に嵌合される嵌合部を備え、前記保持部に前記ケースを内挿したときに、前記左辺部及び右辺部が前記係止溝の溝底面に密接した状態で係合し、前記ケースを筒軸方向及び回転方向に係止した状態で保持する」というものであるのに対して、甲1発明においては、上記<相違点2>でも示したように、支持構造については何ら特定されていない点。

そこで、上記相違点1ないし3について検討する。
(1)相違点1について
ノイズ吸収装置において、フェライトを材料とする一対の半筒体(コア)をケーブルに取り付けるために、上記一対の半筒体(コア)を内装する筒状のケースを用いることは、例えば、甲第1号証(上記「第4 1.(1)」参照)や甲第3号証(上記「第4 3.」参照)に記載されているように周知技術である。
しかしながら、上記「第4 1.」で説示したように、甲1発明は、ケースを必要とする従来のノイズ吸収装置はコスト高になるという問題点を解決するための発明であって、ケースが不要であることがその効果として明示されているから、甲1発明において上記周知技術を適用すること、すなわち、甲1発明においてケースを用いるようにすることの動機付けはないといわざるを得ない。
したがって、上記周知技術を参酌しても、甲1発明において、一対の半筒体を内装する筒状のケースを用いることは、当業者が容易になし得ることであるということはできない。
なお、上記相違点1に関連して、特許異議申立人は、一対の半筒体(コア)を内装する筒状のケースを用いることは周知技術であるから、甲1発明における一対の半筒体(コア)を筒状のケースにより内装することは当業者にとって容易であるとした上で、「『半筒体(31A,31B)』を筒状のケースにより内装した場合、『半筒体(31A,31B)』の外周面に設けられた『係止溝』は、筒状のケースにより覆われてしまい、技術的意義を失ってしまうことは自明であるから、『半筒体(31A,31B)』を筒状のケースにより内装する際に、『係止溝』を、筒状のケースに設けることは当業者にとって容易である。」と主張している。
しかしながら、特許異議申立人の上記主張における「係止溝」は甲1発明における一対の半筒体の中央部に形成された「ベルト溝」のことであると解されるが、当該ベルト溝はバックル付きのベルトによって一対の半筒体を結束するために必要となるものであって、一対の半筒体をケースにより内装した場合には、バックル付きのベルトで一対の半筒体を結束する必要はなくなるから、前記一対の半筒体にも前記ケースにも、前記バックル付きのベルトで結束するための「ベルト溝」を形成する必要は生じない。したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

(2)相違点2及び3について
甲第4号証には、外周面に嵌合部が形成された第1磁性体及び第2磁性体からなる雑音電流吸収具を、前記嵌合部に嵌合する拘持部材によって電子機器の構成部材に固定することが記載されている(上記「第4 4.」参照)。
しかしながら、甲第4号証に記載の雑音電流吸収具は、甲1発明のノイズ吸収装置と同様に、前記第1磁性体及び第2磁性体を内装するためのケースを用いておらず、第1磁性体及び第2磁性体を電子機器の構成部材に直接固定しているから、甲第4号証には、「内部にコアを内装する筒状のケース」を電子機器の構成部材に固定するための支持具や支持構造については記載されていない。さらに、甲第4号証の[考案が解決しようとする課題]の欄に、ケースを用いる場合についての小型化の観点での課題が記載されているとともに、[考案の効果]の欄には、磁性体以外は必要最小限の構成で成り立っているため、最大限の小型化を達成できるという効果が記載されていることを勘案すると、甲第4号証に記載の前記雑音電流吸収具においても、ケースを用いる動機付けはないといわざるを得ない。
そうすると、甲1発明及び甲第4号証に記載の技術事項を参酌しても、「内部にコアを内装する筒状のケースを備えるノイズ吸収装置を基板に支持させるための支持具とで構成される支持構造」を導き出すことはできない。
さらに、甲第2号証には「基板に設置して配線の位置決めをする一体型ホルダ」について、甲第3号証には「フェライトクランプ」について、甲第5号証には「ケーブルクランプ」について、甲第6号証には「ロッキングワイヤサドル」についてそれぞれ記載されているが、それらのいずれにも「内部にコアを内装する筒状のケースを備えるノイズ吸収装置」を支持具によって基板に支持することや、相違点3に係る具体的支持構造については記載も示唆もされていない。
そして、本件発明1においては、「内部にコアを内装する筒状のケースを備えるノイズ吸収装置」と「このノイズ吸収装置を基板に支持させるための支持具」のそれぞれが、相違点3に係る具体的な支持構造を有することによって「ノイズ吸収装置を取着したケーブルの長さ方向の移動を防止するとともに当該ケーブルの捩じれを防止することができる。」(【0008】)という効果を奏するものである。
したがって、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載の技術事項を参酌しても、相違点2及び3について当業者が容易になし得るものであるということはできない。

以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1における「支持具の嵌合部」についてさらに減縮したものであるから、本件発明1と同様の理由によって、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

3.まとめ
以上のとおりであるから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-07-04 
出願番号 特願2012-127656(P2012-127656)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H05K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 遠藤 邦喜  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 井上 信一
國分 直樹
登録日 2016-10-07 
登録番号 特許第6016459号(P6016459)
権利者 竹内工業株式会社
発明の名称 ノイズ吸収装置の支持構造  
代理人 鈴木 章夫  

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