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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1330146
異議申立番号 異議2016-700958  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-05 
確定日 2017-07-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第5950005号発明「樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5950005号の請求項1ないし17に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第5950005号(設定登録時の請求項の数は17。以下、「本件特許」という。)は、平成22年12月8日(優先権主張:平成21年12月14日)に出願した特願2010-273864号の一部を平成27年7月22日に新たな特許出願としたものであって、平成28年6月17日に設定登録された。
特許異議申立人 金山 愼一(以下、単に「申立人」という。)は、平成28年10月5日、本件特許の請求項1ないし17についての特許に対して特許異議の申し立てをした。
当合議体が、平成29年3月7日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、同年4月14日に意見書を提出し、当合議体が、同年4月27日付けで取消理由(決定の予告)を通知したところ、特許権者は、同年7月6日に意見書を提出した。

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1ないし17に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明17」、まとめて、「本件特許発明」ということがある。)は、本件特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定される以下のものである。

「【請求項1】
(A)シアネートエステル樹脂、(B)ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂および(C)平均粒径5μm以下の無機充填材を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂組成物中の不揮発分を100質量%とした場合、(A)シアネートエステル樹脂の含有量が2?50質量%、(B)ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂の含有量が1?40質量%であることを特徴とする、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(D)硬化促進剤を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、(E)エポキシ樹脂(ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂を除く)を含有することを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、(F)活性エステル硬化剤を含有することを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
樹脂組成物中の不揮発分を100質量%とした場合、(F)活性エステル硬化剤を1?15質量%含有することを特徴とする、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、(G)フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、及びポリエステル樹脂から選択される1種以上の熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする、請求項1?6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
樹脂組成物中の不揮発分を100質量%とした場合、(G)フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、及びポリエステル樹脂から選択される1種以上の熱可塑性樹脂を0.1?10質量%含有することを特徴とする、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、(H)ゴム粒子を含有することを特徴とする、請求項1?8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
(H)ゴム粒子がコアがポリブタジエンでシェルがスチレンとジビニルベンゼンの共重合体であるコアシェル型ゴム粒子であることを特徴とする、請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
樹脂組成物中の不揮発分を100質量%とした場合、(H)ゴム粒子を1?10質量%含有することを特徴とする、請求項9または10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
樹脂組成物の硬化物のピール強度が0.5kgf/cm?1.0kgf/cmであり、表面粗度が50nm?290nmであり、熱膨張率が5ppm?30ppmであることを特徴とする、請求項1?11のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
多層プリント配線板の絶縁層形成用である、請求項1?12のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1?13のいずれか1項に記載の樹脂組成物が支持体上に層形成された接着フィルム。
【請求項15】
請求項1?13のいずれか1項に記載の樹脂組成物がシート状補強基材中に含浸されたプリプレグ。
【請求項16】
請求項1?13のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物により絶縁層が形成された多層プリント配線板。
【請求項17】
請求項16に記載の多層プリント配線板を用いることを特徴とする、半導体装置。」

第3 取消理由の概要

当合議体が平成29年4月27日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、本件特許発明1ないし9、11ないし17は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであるというものである。

刊行物1:特開2007-291368号公報(申立人が平成28年10月5日に提出した特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)に添付された甲第1号証)
刊行物2:国際公開第2007/099674号(申立書に添付された甲第2号証)
刊行物3:有田 和郎 他1名、“新規ナフチレンエーテルオリゴマーの合成と環境調和型エポキシ樹脂への応用”、ネットワークポリマー、平成21年8月10日、Vol.30、No.4(2009)、192-199頁(申立書に添付された甲第3号証)
刊行物4:特開2008-198774号公報(申立書に添付された甲第4号証)
刊行物5:特開平11-71499号公報(申立書に添付された甲第5号証)

第4 当合議体の判断

取消理由について、以下検討する。

1.各刊行物に記載された事項

刊行物1には、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】
(1)シアネートエステル樹脂、
(2)アントラセン型エポキシ樹脂、および
(3)熱可塑性樹脂
を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
シアネートエステル樹脂の含有量が、樹脂組成物(不揮発分100質量%)に対し5?60質量%である、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
アントラセン型エポキシ樹脂の含有量が、樹脂組成物(不揮発分100質量%)に対し1?50質量%である、請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂の含有量が、樹脂組成物(不揮発分100質量%)に対し1?60質量%である、請求項1?3のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂がフェノキシ樹脂である、請求項1?4のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項記載の樹脂組成物が支持フィルム上に層形成されてなる接着フィルム。
【請求項7】
請求項1?5のいずれか1項記載の樹脂組成物が繊維からなるシート状補強基材中に含浸されてなるプリプレグ。
【請求項8】
請求項1?5のいずれか1項記載の樹脂組成物の硬化物により絶縁層が形成されてなる多層プリント配線板。」

(2)「【0001】
本発明は、多層プリント配線板等の絶縁層形成に好適な樹脂組成物に関する。」

(3)「【0002】
近年、電子機器の小型化、高性能化が進み、多層プリント配線板は、電子部品の実装密度を向上させるため、導体配線の微細化が進んでいる。多層プリント配線板の絶縁層に使用する樹脂組成物としては、例えば、シアネートエステル樹脂を含有する樹脂組成物が誘電特性に優れた絶縁層を形成できることが知られている。例えば、特許文献1には、シアネートエステル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノキシ樹脂を含有する多層プリント配線板用の樹脂組成物が開示されている。」

(4)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等の知見によれば、上記シアネートエステル樹脂を含有する樹脂組成物は、特にビアホール底に残存するスミアが溶解除去されにくい傾向にある。一方、スミア除去性を向上させるためにデスミア条件を厳しくした場合、絶縁層表面の粗度が大きくなるため、該表面上に形成される回路間の幅の制限も大きくならざるを得ず、高密度配線には不利となる。
【0007】
従って、本発明は、絶縁層形成に適したシアネートエステル樹脂を含有する樹脂組成物であって、ビアホール底のスミアの除去性および熱膨張率が改善された樹脂組成物を提供することを目的とする。」

(5)「【0010】
本発明によれば、多層プリント配線板の絶縁層形成に好適なシアネートエステル樹脂を含有する樹脂組成物であって、熱膨張率が低く、かつスミアの除去が容易である有機絶縁層を形成可能な樹脂組成物が提供される。」

(6)「【0012】
本発明において使用されるシアネートエステル樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、ノボラック型(フェノールノボラック型、アルキルフェノールノボラック型など)シアネートエステル樹脂、ビスフェノール型(ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型など)シアネートエステル樹脂およびこれらが一部トリアジン化したプレポリマーなどが挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。より低い粗度を示す絶縁層を得るという観点から、ノボラック型シアネートエステル樹脂とビスフェノール型シアネートエステル樹脂とを混合して使用するのが好ましく、これらのプレポリマーの混合物でもよい。ノボラック型シアネートエステル樹脂とビスフェノール型シアネートエステル樹脂との混合比は適宜選択すればよいが、質量比で好ましくは1:0.5?1:10であり、より好ましくは1:1?1:5である。シアネートエステル樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、好ましくは500?4500であり、より好ましくは600?3000である。
【0013】
シアネートエステル樹脂の具体例としては、例えば、ビスフェノールAジシアネート、ポリフェノールシアネート(オリゴ(3-メチレン-1,5-フェニレンシアネート)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルフェニルシアネート)、4,4’-エチリデンジフェニルジシアネート、ヘキサフルオロビスフェノールAジシアネート、2,2-ビス(4-シアネート)フェニルプロパン、1,1-ビス(4-シアネートフェニルメタン)、ビス(4-シアネート-3,5-ジメチルフェニル)メタン、1,3-ビス(4-シアネートフェニル-1-(メチルエチリデン))ベンゼン、ビス(4-シアネートフェニル)チオエーテル、ビス(4-シアネートフェニル)エーテル等の2官能シアネート樹脂、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等から誘導される多官能シアネート樹脂、これらシアネート樹脂が一部トリアジン化したプレポリマーなどが挙げられる。
【0014】
市販されているシアネートエステル樹脂としては、下式(1)で表されるフェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン(株)製、PT30、シアネート当量124)、下式(2)で表されるビスフェノールAジシアネートがトリアジン化され三量体となったプレポリマー(ロンザジャパン(株)製、BA230、シアネート当量232)等が挙げられる。」

(7)「【0019】
本発明の樹脂組成物においては、本発明の効果が発揮される範囲で、必要に応じてアントラセン型エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂とを併用してもよい。このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、キサンテン型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート等を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は各々単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。」

(8)「【0022】
本発明において使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられるが、本発明の樹脂組成物における相溶性や樹脂組成物の保存安定性の観点から特にフェノキシ樹脂が好適である。
【0023】
フェノキシ樹脂としては、特に限定されず、例えば、ビスフェノール型フェノキシ樹脂(分子内にビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹脂)、ノボラック型フェノキシ樹脂(分子内にノボラック骨格を有するフェノキシ樹脂)、ナフタレン型フェノキシ樹脂(分子内にナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂)、ビフェニル型フェノキシ樹脂(分子内にビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂)等のフェノキシ樹脂が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。フェノキシ樹脂としては、耐熱性や耐湿性の観点から、特にビフェニル型フェノキシ樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、好ましくは5000?100000である。」

(9)「【0027】
本発明の樹脂組成物は、メッキ密着性の観点からゴム粒子をさらに含有していてもよい。本発明において使用され得るゴム粒子は、例えば、当該樹脂組成物のワニスを調製する際に使用する有機溶剤にも溶解せず、上記成分(1)シアネートエステル樹脂、(2)アントラセン型エポキシ樹脂、(3)熱可塑性樹脂などとも相溶しないものである。従って、該ゴム粒子は、本発明の樹脂組成物のワニス中では分散状態で存在する。このようなゴム粒子は、一般には、ゴム成分の分子量を有機溶剤や樹脂に溶解しないレベルまで大きくし、粒子状とすることで調製される。例えば、有機溶剤に溶解し、上記成分(1)シアネートエステル樹脂、(2)アントラセン型エポキシ樹脂、(3)熱可塑性樹脂などの他の成分と相溶するゴム成分を配合した場合、得られる樹脂組成物の硬化物の粗化処理後の粗度が顕著に増大し、また耐熱性も低下する。
【0028】
本発明で使用され得るゴム粒子の好ましい例としては、コアシェル型ゴム粒子、架橋アクリロニトリルブタジエンゴム粒子、架橋スチレンブタジエンゴム粒子、アクリルゴム粒子などが挙げられる。コアシェル型ゴム粒子は、コア層とシェル層とを有するゴム粒子であり、例えば、外層のシェル層がガラス状ポリマーで構成され、内層のコア層がゴム状ポリマーで構成される2層構造、または外層のシェル層がガラス状ポリマーで構成され、中間層がゴム状ポリマーで構成され、コア層がガラス状ポリマーで構成される3層構造のものなどが挙げられる。ガラス層は、例えば、メタクリル酸メチルの重合物などで構成され、ゴム状ポリマー層は、例えば、ブチルアクリレート重合物(ブチルゴム)などで構成される。コアシェル型ゴム粒子の具体例としては、スタフィロイドAC3832、AC3816N(商品名、ガンツ化成(株)製)、メタブレンKW-4426(商品名、三菱レイヨン(株)製)が挙げられる。架橋アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)粒子の具体例としては、XER-91(平均粒径0.5μm、JSR(株)製)などが挙げられる。架橋スチレンブタジエンゴム(SBR)粒子の具体例としては、XSK-500(平均粒径0.5μm、JSR(株)製)などが挙げられる。アクリルゴム粒子の具体例としては、メタブレンW300A(平均粒径0.1μm)、W450A(平均粒径0.2μm)(三菱レイヨン(株)製)を挙げることができる。」

(10)「【0034】
無機充填材は、シランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理してその耐湿性を向上させたものが好ましい。無機充填材の添加量は、樹脂組成物(不揮発分100質量%)に対し、通常0?50質量%、好ましくは20?40質量%の範囲である。無機充填材の含有量が多すぎると、硬化物が脆くなる傾向や、ピール強度が低下する傾向にある。
【0035】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて他の成分を配合することができる。他の成分としては、例えば、有機リン系難燃剤、有機系窒素含有リン化合物、窒素化合物、シリコーン系難燃剤、金属水酸化物等の難燃剤、シリコンパウダー、ナイロンパウダー、フッ素パウダー等の有機充填剤、オルベン、ベントン等の増粘剤、シリコーン系、フッ素系、高分子系の消泡剤又はレベリング剤、イミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系、シラン系カップリング剤等の密着性付与剤、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、カーボンブラック等の着色剤等を挙げることができる。」

(11)「【0056】
(実施例1)
ビスフェノールAジシアネートのプレポリマー(ロンザジャパン(株)製「BA230S75」、シアネート当量約232、不揮発分75質量%のメチルエチルケトン(以下MEKと略す)溶液)40重量部、アントラセン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製「YX8800」、エポキシ当量約178)の不揮発分50質量%のMEK溶液40重量部、ビフェニル骨格含有フェノキシ樹脂溶液(ジャパンエポキシレジン(株)製「YL6954BH30」、不揮発分30質量%のMEKとシクロヘキサノンとの混合溶液)20重量部、硬化触媒としてコバルト(II)アセチルアセトナート(以下Co(II)acacと略す)(東京化成(株)製)の1質量%のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液4質量部、および球形シリカ((株)アドマテックス製「SOC2」、平均粒子径0.5μm)40質量部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、熱硬化性樹脂組成物ワニス(不揮発分中のシリカ含量は40質量%)を作製した。次に、かかる樹脂組成物ワニスをポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm、以下PETフィルムと略す)上に、乾燥後の樹脂組成物層の厚みが40μmとなるようにダイコーターにて均一に塗布し、80?120℃(平均100℃)で6分間乾燥した(樹脂組成物層中の残留溶媒量:約1質量%)。次いで、樹脂組成物層の表面に厚さ15μmのポリプロピレンフィルムを貼り合わせながらロール状に巻き取った。ロール状の接着フィルムを幅507mmにスリット(slit)し、507×336mmサイズのシート状の接着フィルムを得た。
【0057】
(実施例2)
ビスフェノールAジシアネートのプレポリマーを、フェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン(株)製「PT30」、シアネート当量約124)の不揮発分85質量%の石油ナフサ(沸点が180℃?217℃の分留物)溶液40重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして接着フィルムを得た。
【0058】
(実施例3)
ビスフェノールAジシアネートのプレポリマー40重量部を30重量部に変更し、さらにフェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン(株)製「PT30」、シアネート当量約124)の不揮発分85質量%の石油ナフサ(沸点が180℃?217℃の分留物)溶液を10重量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして接着フィルムを得た。」

(12)「【0070】
【表1】



(13)「【0072】
(実施例4)
アントラセン型エポキシ樹脂40質量部を10質量部に変更し、ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂(日本化薬(株)製「NC3000」、エポキシ当量約291)の不揮発分70質量%の石油ナフサ(沸点が180℃?217℃の分留物)溶液20質量部およびコアシェルゴム粒子(三菱レイヨン(株)製「KS3406」、平均粒子径0.2μm)を4質量部加えたこと以外は、実施例3と同様にして接着フィルムを得た。
ガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板[銅箔の厚さ18μm、基板厚み0.8mm、松下電工(株)製R5715ES]の両面にマイクロエッチング剤(メック(株)製CZ8100)で粗化処理を行った。
上記で得られた接着フィルムを、バッチ式真空加圧ラミネーターMVLP-500(商品名、名機(株)製)を用いて、上記で粗化処理した積層板の両面にラミネートした。ラミネートは、30秒間減圧して気圧を13hPa以下とし、その後30秒間、圧力0.74MPaでプレスすることにより行った。
ラミネートされた接着フィルムからPETフィルムを剥離し、170℃、30分の硬化条件で樹脂組成物層を硬化して、絶縁層を形成した。
積層板を、膨潤液であるアトテックジャパン(株)のスエリングディップ・セキュリガンドPに80℃で10分間浸漬し、次に、粗化液であるアトテックジャパン(株)のコンセントレート・コンパクトP(KMnO4:60g/L、NaOH:40g/Lの水溶液)に80℃で20分間浸漬し、最後に、中和液であるアトテックジャパン(株)のリダクションソリューション・セキュリガントPに40℃で5分間浸漬し、粗化処理を行った。
非接触型表面粗さ計(ビーコインスツルメンツ社製WYKO NT3300)を用いて、絶縁層表面のRa(10点平均粗さ)を求めたところ160nmであった。
積層板を、PdCl_(2)を含む無電解メッキ用溶液に浸漬し、次に無電解銅メッキ液に浸漬した。150℃にて30分間加熱してアニール処理を行った後に、硫酸銅電解メッキを行い、25±10μmの厚さで銅層を形成した。次に、アニール処理を180℃にて30分間行った。積層板のメッキ銅層に、幅10mm、長さ100mmの矩形の切込みを入れ、この切込みの長手方向の一方の端部を剥がしてつかみ具で掴み、室温中にて、50mm/分の速度で垂直方向に35mm引き剥がした時の荷重を測定した。その結果、メッキ銅層のメッキ引き剥がし強さ(ピール強度)は0.7kgf/cmであった。」

刊行物2には、以下の事項が記載されている。

(1)「請求の範囲
[1] ナフタレン構造が酸素原子を介して他のアリーレン構造と結合した構造を有し、かつ、1分子あたりの前記ナフタレン構造及び前記アリーレン基を構成する芳香核の総数が2?8であって、更に、前記芳香核に (メタ)グリシジルオキシ基を置換基として有するエポキシ樹脂(A)及び硬化剤(B)を必須成分とすることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。」

(2)「[0001] 本発明は硬化物の難燃性、耐熱性、硬化性に優れ、半導体装置や回路基板装置等の樹脂組成物として好適に用いることが出来るエポキシ樹脂組成物、これに用いる新規エポキシ樹脂、新規フエノール樹脂及び半導体封止材料に関する。」

刊行物3には、以下の事項が記載されている。

(1)「概 要
2,7-ジヒドロキシナフタレンを特定量のアルカリ触媒下で反応させることにより、(中略)優れた難燃性と動的粘弾性試験において200℃を超えるガラス転移点(Tg)を発現する新規エポキシ樹脂を開発した。このエポキシ樹脂は、先端材料分野が要求する優れた難燃性と耐熱性および良溶剤溶解性をもつことを確認した。更に熱膨張係数も低く、吸湿率も低いことを確認した。またそれらの優れた特性原因を、ナフチレンエーテル骨格と基礎物性の関係を検討することによって考察した。」(192頁)

(2)「

」(192頁右欄)

(3)「3.3.2 ナフチレンエーテルオリゴマー型エポキシ樹脂(E-NEO)の合成
3.3.1で得られたナフチレンエーテルオリゴマー(NEO)を原料として(中略)エポキシ化した。得られたエポキシ樹脂(E-NEO)は褐色固形で、(中略)このFD-MSスペクトルおよびGPCチャートをFig.5に示す。」(195頁左欄)

(4)「

」(195頁右欄)

(5)「4.2.1 難燃性
E-BPAとE-CONがUL-94試験で燃焼し、ナフタレン骨格を有するHP-4700でもV-1級の難燃性であるのに対し、E-NEOはV-0級の高い難燃性を示した。」(196頁右欄

(6)「4.2.2 耐熱性
(中略)
難燃性とTgの関係(Fig.10)において、他のエポキシ樹脂群の相関関係^(13))に対して、E-NEOは全く異なる関係にあり、E-NEOが特異的に高難燃性と高耐熱性を両立できることを示している。」(197頁左欄?右欄)

(7)「4.2.3 熱膨張係数
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂硬化物は低熱膨張性を示すことが報告されており、配列が容易で網目構造の充填密度が増加するためと考察されてている14)。E-NEOも主鎖のナフタレン骨格の平面構造がスタッキング効果により低熱膨張係数を発現したと考えている。」(197頁右欄)

刊行物4には、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】
(A)シアネートエステル樹脂、
(B)分子内に3つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、
(C)無機充填材、
を必須成分とする多層プリント配線板用絶縁樹脂組成物であって、樹脂組成物の硬化物の線熱膨張係数が、15?21ppmの範囲であり且つ、
樹脂組成物の最低動的粘度が、4000Pa・s以下であることを特徴とする樹脂組成物。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、前記多層プリント配線板の絶縁層を形成した場合に、線熱膨張係が15?21ppm、且つ最低動的粘度が、4000Pa・s以下の樹脂組成物を提供する。また、加工性に優れるフィルム付きまたは金属箔付き絶縁樹脂シート、並びに、前記絶縁樹脂シートを用いた信頼性に優れた薄型で、微細配線回路形成が可能な多層プリント配線板およびその製造方法、更には前記多層プリント配線板を用いた信頼性に優れる半導体装置を提供することである。」

(3)「【0028】
前記(C)無機充填材の含有量は、前記樹脂組成物の硬化物の線熱膨張係数が、15ppm?21ppmになるように調整し含有する。(C)無機充填材の含有量は前記樹脂組成物全体の40?85重量%であれば、硬化物の線熱膨張係数を、15ppm?21ppmに調製することができる。さらに好ましくは(C)無機充填材の含有量が55?75重量%とすることで、低吸水性を付与する効果が発現できる。」

(4)「【0033】
前記樹脂組成物は、必要に応じて硬化促進剤を用いても良い。前記硬化促進剤は、特に限定されないが、例えばイミダゾール化合物、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)、トリスアセチルアセトナートコバルト(III)等の有機金属塩、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン等の3級アミン類、フェノール、ビスフェノールA、ノニルフェノール等のフェノール化合物、酢酸、安息香酸、サリチル酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸等、またはこの混合物が挙げられる。これらの中の誘導体も含めて1種類を単独で用いることもできるし、これらの誘導体も含めて2種類以上を併用したりすることもできる。」

刊行物5には、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】 (A)1分子中に2個以上のエポキシ基を持つエポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化促進剤からなるエポキシ樹脂組成物において、(A)1分子中に1個以上のエポキシ基を持つエポキシ樹脂が式1で表されるメチン結合型アルキル置換多官能エポキシ樹脂であり、(B)硬化剤が式2で表される1分子中に1個以上の活性エステル基を有する化合物を含むエポキシ樹脂組成物。
【化1】

【化2】



(2)「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決するため、特開平6-172988号公報等に示されているエポキシ樹脂の硬化剤として1分子中に1個以上の活性エステル基を有する化合物を用いて誘電率を低下させる方法に着目して、高い耐熱性と誘電特性の向上(低減)を目的に鋭意検討した。その結果、エポキシ樹脂の主成分に式1に示したメチン結合型アルキル置換多官能エポキシ樹脂、硬化剤の主成分に1分子中に1個以上の活性エステル基を有する化合物を用いることで耐熱性と誘電特性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】すなわち、本発明は、(A)1分子中に2個以上のエポキシ基を持つエポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化促進剤からなるエポキシ樹脂組成物において、(A)1分子中に2個以上のエポキシ基を持つエポキシ樹脂が式1で表されるメチン結合型アルキル置換多官能エポキシ樹脂であり、(B)硬化剤が式2で表される1分子中に1個以上の活性エステル基を有する化合物を含むエポキシ樹脂組成物である。」

2.刊行物1に記載された発明

刊行物1の特に摘示(11)ないし(13)、特に実施例4の記載からみて、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ビスフェノールAジシアネートのプレポリマー(ロンザジャパン(株)製『BA230S75』、不揮発分75質量%のメチルエチルケトン溶液)30重量部、
フェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン(株)製『PT30』、不揮発分85質量%の石油ナフサ溶液)10重量部、
アントラセン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製『YX8800』)の不揮発分50質量%のメチルエチルケトン溶液10質量部、
ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂(日本化薬(株)製『NC3000』)の不揮発分70質量%の石油ナフサ溶液20質量部、
コアシェルゴム粒子(三菱レイヨン(株)製『KS3406』、平均粒子径0.2μm)4質量部、
ビフェニル骨格含有フェノキシ樹脂溶液(ジャパンエポキシレジン(株)製『YL6954BH30』、不揮発分30質量%のメチルエチルケトンとシクロヘキサノンとの混合溶液)20重量部、
硬化触媒としてコバルト(II)アセチルアセトナート(東京化成(株)製)の1質量%のN,N-ジメチルホルムアミド溶液4質量部、及び、
球形シリカ((株)アドマテックス製『SOC2』、平均粒子径0.5μm)40質量部
を混合し、均一に分散して作製された、熱硬化性樹脂組成物ワニス(不揮発分中のシリカ含量は40質量%)。」

3.本件特許発明1について

本件特許発明1と引用発明とを対比する。

まず、引用発明の「ビスフェノールAジシアネートのプレポリマー(ロンザジャパン(株)製『BA230S75』、不揮発分75質量%のメチルエチルケトン溶液)」及び「フェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン(株)製『PT30』、不揮発分85質量%の石油ナフサ溶液)」は、2成分とも、本件特許発明1の「(A)シアネートエステル樹脂」に相当する。
引用発明の「球形シリカ((株)アドマテックス製『SOC2』、平均粒子径0.5μm)」、及び、「熱硬化性樹脂組成物ワニス」は、それぞれ、本件特許発明1の「(C)平均粒径5μm以下の無機充填材」、及び、「樹脂組成物」に相当する。
そして、引用発明の「アントラセン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製『YX8800』)の不揮発分50質量%のメチルエチルケトン溶液」と本件特許発明1の「(B)ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂」とは、「エポキシ樹脂」である限りにおいて一致している。

ここで、シアネートエステル樹脂成分について、本件特許発明1は「(A)シアネートエステル樹脂」であるのに対して、引用発明の「ビスフェノールAジシアネートのプレポリマー(ロンザジャパン(株)製『BA230S75』、不揮発分75質量%のメチルエチルケトン溶液)」及び「フェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン(株)製『PT30』、不揮発分85質量%の石油ナフサ溶液)」は、ともに、「溶液」の形態となっている。
この点については、本件特許明細書の実施例において、シアネートエステル樹脂成分である「ビスフェノールAジシアネートのプレポリマー」及び「フェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂」が「溶液」であることが記載されていることからすれば、本件特許発明1の樹脂組成物におけるシアネートエステル樹脂成分も、「溶液」の形態を含み得るのであるから、本件特許発明1と引用発明との対比において、当該形態は実質的な相違点とはならない。
また、樹脂組成物について、本件特許発明1は「樹脂組成物」であるのに対して、引用発明の「熱硬化性樹脂組成物ワニス」は「ワニス」の形態となっている。
この点についても、本件特許明細書の実施例において、作製された樹脂組成物である「熱硬化性樹脂組成物のワニス」が記載されていることからすれば、本件特許発明1の樹脂組成物も、「ワニス」の形態を含み得るのであるから、本件特許発明1と引用発明との対比において、当該形態は実質的な相違点とはならない。

そうすると、引用発明と本件特許発明1は以下の点で一致し、

<一致点>
「(A)シアネートエステル樹脂、(B)エポキシ樹脂及び(C)平均粒径5μm以下の無機充填材を含有する樹脂組成物。」

次の点で相違する。

<相違点>
本件特許発明1の(B)エポキシ樹脂が「ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂」を含むのに対して、引用発明は「アントラセン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製『YX8800』)の不揮発分50質量%のメチルエチルケトン溶液」を含み、当該樹脂を含まない点。

上記相違点について検討する。
引用発明の課題は、刊行物1の摘示(4)から、「絶縁層形成に適したシアネートエステル樹脂を含有する樹脂組成物であって、ビアホール底のスミアの除去性および熱膨張率が改善された樹脂組成物を提供すること」であると認められる。
刊行物3の摘示(1)ないし(7)には、ナフチレンエーテルオリゴマー型エポキシ樹脂が、高難燃性と高耐熱性を両立することができ、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂硬化物は低熱膨張係数を有することが記載されている。
引用発明と刊行物3とは、エポキシ樹脂において、熱膨張率の改善という共通の課題を有している。また、引用発明において、難燃剤を配合することができることから(刊行物1の摘示(10))、難燃性も求められるといえるし、引用発明は、多層プリント配線板の絶縁層形成に好適な樹脂組成物であり(刊行物1の摘示(5))、一般的に、回路基板装置等に好適に用いることができるエポキシ樹脂組成物には、難燃性と耐熱性が求められるといえるから(例えば、刊行物2の摘示(2))、引用発明においても、刊行物3と同様に、難燃性と耐熱性の改善という課題を有するといえる。
ここで、引用発明の「ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂(日本化薬(株)製「NC3000」)の不揮発分70質量%の石油ナフサ溶液」は、刊行物1の摘示(7)の記載からみて、アントラセン型エポキシ樹脂と併用してもよい他のエポキシ樹脂である「アラルキル型エポキシ樹脂」であるから、他のエポキシ樹脂に変更し得るものである。
そうすると、引用発明において、熱膨張率、難燃性、耐熱性の改善という課題を解決するために、引用発明の「ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂(日本化薬(株)製「NC3000」)の不揮発分70質量%の石油ナフサ溶液」の一部又は全部を、刊行物3に記載のナフチレンエーテルオリゴマー型エポキシ樹脂に置き換える動機付けはあるといえる。

次に、本件特許発明1の効果について検討する。
本件特許発明1の効果は、本件特許明細書の【0125】の記載から、「ラミネートに適した最低溶融粘度を有し、かつ形成された絶縁層は誘電正接、熱膨張率が低く、かつ表面粗度300nm未満の低粗度で0.6kgf/cm以上の高ピール強度と優れた特性」を示すことである。

特許権者は、本件特許発明1の効果に関し、平成29年7月6日に提出した意見書、及び、意見書に添付された「平成29年7月6日付け実験成績証明書」(乙第1号証、以下、「乙1」という。)において、概略以下のとおり主張している。(下線は、合議体による。以下同様。)

(追加実験1の操作)
刊行物1の実施例4において、アントラセン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製「YX8800」、エポキシ当量178)の不揮発分換算で5質量部をナフチレンエーテル型エポキシ樹脂(エポキシ当量277、DIC(株)製「EXA-7311」)5質量部に変えた。以上の事項以外は刊行物1の実施例4と同様にして接着フィルムを得た。
Ra(表面粗度)及びピール強度は、刊行物1の段落0072に記載されている方法と同一の方法により測定を行った。

(追加実験2の操作)
本件特許明細書に記載の実施例1において、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂(エポキシ当量277、DIC(株)製「EXA-7311」)20質量部を、アントラセン型エポキシ樹脂(エポキシ当量178、三菱化学(株)製^(*)「YX8800」)20質量部に変更すること以外は全く同様にして製造した樹脂組成物ワニスを使用し、本件特許明細書に記載の実施例1と全く同様にして追加比較例1の接着フィルムを得た。
本件特許明細書に記載の実施例2において、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂(エポキシ当量277、DIC(株)製「EXA-7311」)10質量部を、アントラセン型エポキシ樹脂(エポキシ当量178、三菱化学(株)製^(*)「YX8800」)10質量部に変更すること以外は全く同様にして製造した樹脂組成物ワニスを使用し、本件特許明細書に記載の実施例2と全く同様にして追加比較例1の接着フィルムを得た。
表面粗度、ピール強度、熱膨張率、ラミネート性、及び誘電正接の評価は、本件特許明細書に記載の評価と同様にして行った。
(※合議体注:アントラセン型エポキシ樹脂の製造者に関し、ジャパンエポキシレジン(株)は、2010年4月1日、三菱化学(株)に吸収合併されており(三菱ケミカル(株) エポキシ事業部 ニュース、http://www.mcc-epoxy.jp/news/20100401.html)、ここで挙げられている三菱化学(株)製「YX8800」は、刊行物1の実施例のジャパンエポキシレジン(株)製「YX8800」と同じ製品である。)

(追加実験3の操作)
刊行物1の実施例4において、ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂(日本化薬(株)製「NC3000」、エポキシ当量約291)の不揮発性分換算で14質量部を、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂(エポキシ当量277、DIC(株)製「EXA-7311」)14質量部に変えた。以上の事項以外は刊行物の実施例4と同様にして接着フィルムを得た。
Ra(表面粗度)及びピール強度は、刊行物1の段落0072に記載されている方法と同一の方法により測定を行った。

実験の結果に関し、追加実験1を表1、追加実験2を表2及び表3、追加実験3を表4に示す。


よって、追加実験1の結果から、刊行物1のようにシアネートエステル樹脂にアントラセン型エポキシ樹脂を組み合わせて用いる場合よりも、本件特許発明のようにシアネートエステル樹脂にナフチレンエーテル型エポキシ樹脂を組み合わせて用いる場合の方が、表面粗度(Ra)及びピール強度が優れていることが示される。
追加実験2において、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂の代わりに、アントラセン型エポキシ樹脂を用いた追加比較例1は、本件特許明細書に記載の実施例1と比較して表面粗度及びピール強度に係る効果が著しく低下していることがわかる。同様に、追加比較例2は、本件特許発明に記載の実施例2と比較して表面粗度及びピール強度に係る効果が著しく低下していることがわかる。
追加実験3の結果から、刊行物1の実施例4において、ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂の一部又は全部を、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂に置き換えると、表面粗度及びピール強度が優れることが示される。

上記効果に関わる、特許権者の主張について検討する。
刊行物1にはシアネートエステル樹脂を含有する樹脂組成物が誘電特性に優れた絶縁層を形成できること(刊行物1の摘示(2))、引用発明である刊行物1の実施例4の接着フィルムは、積層体の両面にラミネートできること、絶縁層表面のRaが160nm、ピール強度が0.7kgf/cmであること(刊行物1の摘示(13))、引用発明と類似組成のエポキシ樹脂組成物である、刊行物1の実施例1?3の平均熱線膨張率が30又は29ppmであること(刊行物1の摘示(12))、また、刊行物3にはナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂硬化物は低熱膨張係数であることが記載されている。
しかしながら、上記追加実験3の結果から、引用発明である刊行物1の実施例4において、ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂の全部を、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂に置き換え、シアネートエステル樹脂及びナフチレンエーテル型エポキシ樹脂を含有する、本件特許発明1の樹脂組成物を構成すると、表面粗度及びピール強度の効果がさらに優れるものとなることが理解できるし、この効果は、刊行物1ないし5の記載や、本件特許の優先日当時の技術常識から、当業者が予測し得るものであるとはいえない。
すなわち、本件特許発明1のシアネートエステル樹脂及びナフチレンエーテル型エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の表面粗度及びピール強度の効果は、刊行物1ないし5の記載や、本件特許の優先日当時の技術常識から、当業者が予測し得るものであるとはいえない。
また、上記追加実験1及び2の結果から、本件特許発明1のシアネートエステル樹脂及びナフチレンエーテル型エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物が、シアネートエステル樹脂及びアントラセン型エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物よりも、表面粗度及びピール強度の効果がさらに優れるものとなることも、刊行物1ないし5の記載や、本件特許の優先日当時の技術常識から、当業者が予測し得るものであるとはいえない。
そうすると、本件特許発明1の効果は、刊行物1?5の記載事項から予測し得るものではないとする、特許権者の主張を採用することができる。

したがって、引用発明の「ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂」を、刊行物3に記載の「ナフチレンエーテルオリゴマー型エポキシ樹脂」に置き換える動機付けはあるとしても、本件特許発明1の効果は、刊行物1ないし5の記載や、本件特許の優先日時の技術常識から、当業者が予測し得るものであるとはいえず、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであるといえるから、この点において、本件特許発明1は、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件特許発明1に係る特許を取り消すことができない。

4.本件特許発明2ないし17について

本件特許発明2ないし17は、本件特許発明1の樹脂組成物の配合成分・配合量等を特定及び/又は追加し、あるいは、その用途を特定するものであるから、上記3.と同様の理由により、取消理由によっては、本件特許発明2ないし17に係る特許を取り消すことができない。

なお、本件特許発明10において特定される「(H)ゴム粒子がコアがポリブタジエンでシェルがスチレンとジビニルベンゼンの共重合体であるコアシェル型ゴム粒子」との事項に関し、刊行物1ないし5には、「コアがポリブタジエンでシェルがスチレンとジビニルベンゼンの共重合体であるコアシェル型ゴム粒子」が記載ないし示唆もされていない。
よって、この点においても、本件特許発明10は、刊行物1ないし5に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件特許発明1ないし17に係る特許を取り消すことができない。
また、他に、本件特許発明1ないし17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-07-14 
出願番号 特願2015-144520(P2015-144520)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井津 健太郎  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 渕野 留香
原田 隆興
登録日 2016-06-17 
登録番号 特許第5950005号(P5950005)
権利者 味の素株式会社
発明の名称 樹脂組成物  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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