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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1330389
審判番号 不服2016-8581  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-09 
確定日 2017-07-13 
事件の表示 特願2014-246164「試料観察方法及び試料検査方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月 2日出願公開、特開2015- 62200〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年3月11日(優先権主張平成21年3月12日)に特許出願された特願2010-54436号(以下「原出願」という。)の一部を分割して、平成26年12月4日に新たな特許出願として出願したものであって、その後の経緯は以下のとおりである。

平成27年 1月 9日 上申書
平成27年 9月14日 拒絶理由通知(同年9月29日発送)
平成27年11月30日 意見書・手続補正書
平成28年 3月22日 拒絶査定(同年3月29日送達)
平成28年 6月 9日 本件審判請求・手続補正書
平成28年 9月13日 上申書

第2 平成28年6月9日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成28年6月9日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の概略
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に、

「写像投影型観察装置と該写像投影型観察装置とは別のSEM型観察装置と光学顕微鏡により同一のステージ上に載置された試料を観察するための複合型の試料観察方法であって、
前記写像投影型観察装置は、両側にエッジを有する凹パターンに電子ビームが照射されたときに照射電子が前記凹パターンにてUターンしてミラー電子になるようにランディングエネルギーが調整された電子ビームを前記試料に照射し、該電子ビームの照射により生じるミラー電子を検出し、
前記写像投影型観察装置、前記SEM型観察装置、及び前記光学顕微鏡の3つの観察装置それぞれの光学中心の位置関係を座標データとして記憶し、該座標データに基づいて前記ステージを前記3つの光学中心間で移動させて前記試料上の特定の箇所を前記3つの観察装置で個別に観察を行うことを特徴とする複合型の試料観察方法。」

とあったものを、

「写像投影型観察装置と該写像投影型観察装置とは別のSEM型観察装置と光学顕微鏡により同一のステージ上に載置された試料を観察するための複合型の試料観察方法であって、
前記写像投影型観察装置は、電子ビームを生成する1次光学系と、試料からの2次放出電子及びミラー電子の像を生成する2次光学系を備え、前記1次光学系により、両側にエッジを有する凹パターンに電子ビームが照射されたときに照射電子が前記凹パターンにてUターンしてミラー電子になるようにランディングエネルギーが調整された電子ビームを前記試料に照射し、該電子ビームの照射により生じるミラー電子を、前記2次光学系に設けられたアパーチャの中心位置を調整して最大強度で検出し、
前記写像投影型観察装置、前記SEM型観察装置、及び前記光学顕微鏡の3つの観察装置それぞれの光学中心の位置関係を座標データとして記憶し、該座標データに基づいて前記ステージを前記3つの光学中心間で移動させて前記試料上の特定の箇所を前記3つの観察装置で個別に観察を行うことを特徴とする複合型の試料観察方法。」(当審注:下線は、請求人が補正箇所に付した下線である。)

と補正するものである。
上記補正は、
(1)写像投影型観察装置が、「電子ビームを生成する1次光学系と、試料からの2次放出電子及びミラー電子の像を生成する2次光学系を備え」、電子ビームの試料への照射が「前記1次光学系によ」るものであることを限定する補正事項、
(2)ミラー電子の検出が、「前記2次光学系に設けられたアパーチャの中心位置を調整して最大強度で」検出するものであることを限定する補正事項、
からなる。そして、上記補正事項は、何れも、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定する要件を満たすか)否かについて検討する。

2 引用する刊行物と引用発明
(1)刊行物1
ア 刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、原出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された特開2006-294481号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

(ア)特許請求の範囲の記載
「【請求項15】
ミラー電子を検出する第1の電子光学系カラムと、二次電子ないし反射電子を検出する第2の電子光学系カラムと、被検査試料を載置する試料ステージと、当該試料ステージを内部に格納し、前記第1の電子光学系カラム及び第2の電子光学系カラムが固定された真空試料室と、前記第1の電子光学系カラムないし第2の電子光学系カラムで取得された検出信号を処理する信号処理手段とを備え、
前記第1の電子光学系カラムでの取得画像と前記第2の電子光学系カラムでの取得画像とを対比することが可能であることを特徴とするミラー電子式試料検査装置。」(当審注:下線は当審が付加した。以下、同様である。)

(イ)実施例6の記載
「【実施例6】
【0063】
本実施例においては,ミラー電子顕微鏡(ミラープロジェクション方式)の試料検査装置に適用した例について説明する。観察試料としては、半導体ウェハ、回路パターンが形成されたチップないし試料基板、或いは試料基板を割断して一部を取りだした試料片などが挙げられる。ミラープロジェクションとは,電子線を試料表面上の電位分布により試料面に到達する前に反射する電子(ミラー電子)を結像させて画像を検出する方式のことであり,細く絞った電子ビームが照射された試料から発生する二次電子検出や,反射電子の強度を検出する通常のSEM方式とは異なるものである。
ミラープロジェクション方式の特長は,電子ビームの一筆書きではなく,100?400μm角程度の領域を電子により一括照明することにより,光学式顕微鏡のような画像が得られるため,画像取得時間が飛躍的に短時間化できるという点にある。
【0064】
しかし,このミラープロジェクション方式は,従来のSEMとは異なり,試料表面の電位分布に依存した画像が得られるため,試料表面の形状をそのまま画像化するものではない。そこで,ミラープロジェクションにて検出された領域の表面形状を、画像として検出できると、ミラープロジェクションの検出画像に対する参照画像として利用できるので、欠陥検出上便利である。そのためには、異状と思われる部位の拡大SEM画像を、別の電子光学系により観察可能とするようなアプリケーションが有効である。
【0065】
本実施例においては,図12に示すように小型のSEMカラム114をミラープロジェクションカラム120の横に設けてある。この両カラム間の距離は予め正確に測定されており,試料(ウェハ)105を載せた試料ステージ106は,破線で示した様に両カラム間を必要に応じて移動できるように構成されている。
【0066】
次に,本装置の構成と,ウェハ105表面を検査する際の手順について説明する。
電子線照明光学系カラム101において,電子源100より放出された電子線は,磁界重畳コイル121により絞られ,大電流化されたビームを放出する。この大電流化は,検査のスループット向上に重要な影響を与える。なぜなら,一度の大面積照射から得られるミラー電子の信号のシグナルノイズ比(S/N比)は,照明する電子線の電流に比例して増減するためである。
【0067】
この磁界重畳型電子銃は,実施例2で述べたものと同等のものでよい。すなわち,開口を隔てた差動排気構造をしており,最上位流の真空室に電子源100があり,非蒸発ゲッターポンプ123により排気されている。下流側の真空室にはコンデンサレンズ102があり,イオンポンプ122により排気されている。この構造により,電子源100のある真空室は,10^(-8)Pa台の極高真空に維持される。また,大気側には,磁界重畳用コイル121が電子線照明光学系カラム101から着脱可能な構造で取り付けられている。このような構造をとることにより,電子線照明光学系カラム101に設置するイオンポンプが1台まで削減できるため,軽量化を図ることもでき,装置全体の振動特性が向上する効果が生じる。さらにイオンポンプをスパッタイオンポンプとすれば,非蒸発ゲッターポンプが排気しにくい希ガスの排気効率が上がるため,さらに小型化できて望ましい。
【0068】
磁界重畳型電子銃から放出された電子ビームは,コンデンサレンズ102により集束され試料上をほぼ平行に照射される。電子源100には,Zr/O/W型のショットキー電子源を用いた。大電流ビーム(例えば,1.5μA)で,かつエネルギー幅が1.5eVの均一な面状電子線を安定に形成できる。
セパレータとしてE×B偏向器103を結像電子線302の結像面304近傍に配置させる。
この配置では,照射電子線301に対してE×B偏向器で収差が発生する。この収差を補正するために照射系コンデンサレンズ102とE×B偏向器103の間にもうひとつ収差補正用のE×B偏向器104を配置させる構成とする。
【0069】
電子線は,E×B偏向器103によりウェハ105に垂直な光軸に偏向される。E×B偏向器103は上方からの電子線に対してのみ偏向作用を持つ。E×B偏向器103より偏向された電子線は,対物レンズ107により試料(ウェハ)表面に垂直な方向に面状の電子線が形成される。E×B偏向器104よりセパレータE×B偏向器103の偏向収差が補正されるので,対物レンズ107の焦点面上には微細なクロスオーバが形成されるので,平行性の良い照射電子線301を試料に照射できる。
【0070】
真空試料室108内の試料ステージ106に搭載された試料(ウェハ)105には,電子線の加速電圧とほぼ等しいか,わずかに高い負の電位が図示していない試料印加電源によって印加されており,ウェハ105の表面には形成された半導体パターン形状や帯電の状態を反映した電界が形成されている。この電界によって面状電子線の大部分がウェハ105に衝突する直前で引き戻され,ウェハ105のパターン情報を反映した方向や強度を持って上がってくる。
【0071】
引き戻された電子線は,対物レンズ107により集束作用を受け,ビームセパレータとしての偏向器103は下方から進行した電子線に対しては偏向作用を持たないので,そのまま垂直に上昇し,対物レンズ107,中間レンズ109,投影レンズ110により投影拡大されて,シンチレータ111,光学レンズ112,CCD113よりなる画像検出部上にウェハ105表面の画像を結像させる。
【0072】
一方,上記ミラープロジェクションカラム120の横には,小型SEMカラム114があり,ウェハ105上のパターン形状を観察できる。電子源115には,ショットキー型電子源を用いている。放出された電子ビーム121は,静電光学系117によりウェハ面上をスキャンし,二次電子あるいは,反射電子を検出してSEM画像を得ることができる。
【0073】
SEMカラム114の真空は,静電光学系117部を排気速度10リットル/秒程度の小型イオンポンプ118で排気すると共に,上流側は非蒸発ゲッターポンプ116により差動排気している。この構成により,最上流の電子源115近傍の真空度は,10^(-8)Pa台が得られた。なお,試料室108は,ターボ分子ポンプ119により排気され,10^(-3)Paの真空度が得られている。
【0074】
図13に小型SEMカラム114の詳細構成を示した。試料室108と小型SEMカラム114は,ベローズ201を介して接続されており,SEMの光軸方向に沿って駆動手段202を用いることにより,位置決めができるようになっている。こうすることにより,SEM光学系117のフォーカス調整が可能となる他,SEM観察視野の拡大縮小,あるいは,分解能の選択が可能となる。すなわち,試料105表面の観察面からの距離(作動距離)を広く取れば,視野は広がるが分解能は低下し,作動距離を狭めれば視野は縮小するが,分解能は向上する。観察する対象により,自由に調整ができるので,非常に有効な機能となる。作動距離の測定は図示していない位置検出器を用いて行う。小型SEMの光学性能と作動距離の関係は,予めデータベース化されており,自動的に調整は行われる。また,SEM像を見ながら微調整も可能である。
【0075】
上述の各要素は,信号線を介して制御手段508と接続される。制御手段508は、装置全体の動作を管理する制御ユニットであり、制御信号や画像データを送受信する信号インターフェイス、検出された画像信号を解析して欠陥を検出する画像処理部、ミラープロジェクションカラム120と小型SEMカラム114との距離の情報や前述のデータベース等を格納するデータ記憶部、データ記憶部に格納された情報を処理するデータ処理プロセッサ、装置全体の動作を制御する制御用コンピュータなどを備える。本実施例では、制御手段508内に、全ての制御手段を配置した構成を示したが、各々の構成要素を別々の制御ユニットとして配置しても良い。ディスプレイ509には検出画像が表示されるが、GUI(Graphical User Interface)を用いる場合のユーザインターフェイスとしても用いられる。
【0076】
以上述べた装置構成を用いることにより,ウェハ105表面の局部的な帯電電位の変化や凹凸等の構造の違いが画像として形成される。収差を補正することにより,平行性の良い照射電子線301を照射でき,高分解能なミラー像を形成することができるので,100nm以下の帯電電位の変化や凹凸等の構造の違いを検出することが可能となる。
【0077】
検出された画像データは,画像処理部により処理され,欠陥として判定された場合には,その座標データ記憶部に格納される。欠陥画像位置の表面形状を観察したい場合、装置オペレータは、ディスプレイ509に表示されるGUIを介して対応SEM画像を表示させる旨の指令を、制御手段508に伝達する。制御手段508中のデータ処理プロセッサは、GUIを介して入力された信号を基にデータ記憶部を参照し、SEM観察可能な位置の座標を取得する。その後、取得座標へ移動するための制御信号を位置を試料ステージ106へ送信する。所望の位置へ移動した後は、ミラー像から得られた欠陥位置のSEM画像を取得して,欠陥の有無,形状,寸法等の必要なデータをデータ記憶部に格納する。
【0078】
その後,試料ステージを駆動して,元のミラープロジェクション観察可能な座標位置に戻り,検査を継続し,ウェハ全面を検査するまで繰り返すことにより,検査が終了する。ここまでの手順は,ミラープロジェクションによる検査が先で,見つけた欠陥を後からSEM画像で確認する方法をとったが,逆にSEM観察から得られた欠陥座標を蓄え,後からミラー像を観察してもよい。或いは、ミラープロジェクションによる試料全面の検査が済んだ後に、SEM画像を取得しても良い。
【0079】
以上説明したように、本実施例のミラープロジェクション電子顕微鏡装置は、ミラー電子カラムと通常のSEMないし反射電子カラムの2種を備えており、ミラー電子画像とSEM画像または反射画像の2種を検出可能である。従って、SEM画像または反射電子画像を、ミラー電子画像に対する参照画像として利用でき、装置ユーザの利便性が顕著に向上する。この効果は、各電子光学系カラムに差動排気構造を適用せずとも実現可能である。
更に、ミラー電子カラムと通常のSEMないし反射電子カラムのいずれかに対して差動排気構造を適用すると、装置サイズを小型化できる。従って,装置全体を大型化せずに、欠陥部位のSEM画像を容易に観察可能なミラープロジェクション方式の試料検査装置を実現できる。」

(ウ)図12は以下のとおりである。



イ 引用発明
(ア)上記ア(イ)【0066】の記載によれば、「本装置の構成と,ウェハ105表面を検査する際の手順」が説明されているところ、「本装置」は「ミラープロジェクション電子顕微鏡装置」のことである。してみると、刊行物1には、ミラープロジェクション電子顕微鏡装置を用いたウェハ表面を検査する際の手順、すなわち、ミラープロジェクション電子顕微鏡装置を用いたウェハ表面を検査する方法が開示されている。

(イ)上記ア(ア)の特許請求の範囲の記載と、上記ア(イ)の実施例6の記載によれば、上記ア(ア)の「第1の電子光学系カラム」は上記ア(イ)の「ミラープロジェクションカラム」であり、以下同様に、「第2の電子光学系カラム」は「小型SEMカラム」、「被検査試料」は「ウェハ」、「信号処理手段」は「制御手段」、「ミラー電子式試料検査装置」は「ミラープロジェクション電子顕微鏡装置」である。

(ウ)上記(イ)を踏まえると、上記ア(ア)の特許請求の範囲の請求項15には、
「ミラー電子を検出するミラープロジェクションカラムと、二次電子ないし反射電子を検出する小型SEMカラムと、ウェハを載置する試料ステージと、当該試料ステージを内部に格納し、前記ミラープロジェクションカラム及び小型SEMカラムが固定された真空試料室と、前記ミラープロジェクションカラムないし小型SEMカラムで取得された検出信号を処理する制御手段とを備え、
前記ミラープロジェクションカラムでの取得画像と前記小型SEMカラムでの取得画像とを対比することが可能であるミラープロジェクション電子顕微鏡装置。」
が開示されている。

(エ)上記ア(イ)【0070】の記載によれば、ウェハの表面には形成された半導体パターン形状や帯電の状態を反映した電界が形成されることが開示されている。

(オ)上記ア(イ)【0066】、【0068】?【0071】を踏まえて図12を見ると、
ミラープロジェクションカラムは、電子源、磁界重畳コイル、コンデンサレンズ、収差補正用のE×B偏向器、E×B偏向器、対物レンズ、中間レンズ、投影レンズ、シンチレータ、光学レンズ、CCDを備え、
前記電子源は、電子線を放出し、
前記磁界重畳コイルは、前記電子線を絞り、
前記コンデンサレンズは、前記電子線を集束し、ウェハ上にほぼ平行に照射し、
収差補正用のE×B偏向器は、後段のE×B偏向器が発生する収差を補正し、
E×B偏向器は、前記電子線をウェハに垂直な光軸に偏向し、
対物レンズは、ウェハ表面に垂直な方向に面状の電子線を形成し、
前記面上の電子線の大部分はウェハに衝突する直前で引き戻され,ウェハのパターン情報を反映した方向や強度を持って上がり、
対物レンズは、引き戻された電子線を集束し、
E×B偏向器は、前記電子線をそのまま垂直に上昇させ、
対物レンズ,中間レンズ,投影レンズは、投影拡大し、シンチレータ,光学レンズ,CCDよりなる画像検出部上にウェハ表面の画像を結像させることが理解できる。

(カ)上記ア(イ)【0076】の記載によれば、
高分解能なミラー像を形成することができるので,100nm以下の帯電電位の変化や凹凸等の構造の違いを検出することが可能であることが理解できる。

(キ)上記ア(イ)【0065】の記載によれば、小型SEMカラムとミラープロジェクションカラムの間の距離は予め正確に測定されており、ウェハを載せた試料ステージは両カラム間を必要に応じて移動できることが開示されている。

(ク)上記ア(イ)【0076】、【0077】の記載によれば、
ミラー像の画像データは,画像処理部により処理され,欠陥として判定さ
れた場合には,その座標データ記憶部に格納し、
欠陥画像位置の表面形状を観察したい場合、データ記憶部を参照し、SEM観察可能な位置の座標を取得し、その後、取得座標へ移動するための制御信号を位置を試料ステージへ送信し、所望の位置へ移動した後、ミラー像から得られた欠陥位置のSEM画像を取得し、
また、逆に、SEM観察から得られた欠陥座標を蓄え,後からミラー像を観察することもできることが開示されている。

(ケ)上記ア(イ)【0077】、【0078】の記載によれば、ミラー像を観察してからSEM画像を観察する方法、あるいはSEM画像を観察してからミラー像を観察する方法による、ウェハ表面の検査方法が開示されている。

(コ)以上によれば、刊行物1には以下の発明が記載されている。
「ミラープロジェクション電子顕微鏡装置を用いたウェハ表面を検査する方法であって、
前記ミラープロジェクション電子顕微鏡装置は、ミラー電子を検出するミラープロジェクションカラムと、二次電子ないし反射電子を検出する小型SEMカラムと、ウェハを載置する試料ステージと、当該試料ステージを内部に格納し、前記ミラープロジェクションカラム及び小型SEMカラムが固定された真空試料室と、前記ミラープロジェクションカラムないし小型SEMカラムで取得された検出信号を処理する制御手段とを備え、
前記ミラープロジェクションカラムでの取得画像と前記小型SEMカラムでの取得画像とを対比することが可能であるミラープロジェクション電子顕微鏡装置であり、
前記ウェハの表面には形成された半導体パターン形状や帯電の状態を反映した電界が形成されており、
前記ミラープロジェクションカラムは、電子源、磁界重畳コイル、コンデンサレンズ、収差補正用のE×B偏向器、E×B偏向器、対物レンズ、中間レンズ、投影レンズ、シンチレータ、光学レンズ、CCDを備え、
前記電子源は、電子線を放出し、
前記磁界重畳コイルは、前記電子線を絞り、
前記コンデンサレンズは、前記電子線を集束し、ウェハ上にほぼ平行に照射し、
収差補正用のE×B偏向器は、後段のE×B偏向器が発生する収差を補正し、
E×B偏向器は、前記電子線をウェハに垂直な光軸に偏向し、
対物レンズは、ウェハ表面に垂直な方向に面状の電子線を形成し、
前記面上の電子線の大部分はウェハに衝突する直前で引き戻され,ウェハのパターン情報を反映した方向や強度を持って上がり、
対物レンズは、引き戻された電子線を集束し、
E×B偏向器は、前記電子線をそのまま垂直に上昇させ、
対物レンズ,中間レンズ,投影レンズは、投影拡大し、シンチレータ,光学レンズ,CCDよりなる画像検出部上にウェハ表面の画像を結像させ、
高分解能なミラー像を形成することができるので,100nm以下の帯電電位の変化や凹凸等の構造の違いを検出することが可能であり、
小型SEMカラムとミラープロジェクションカラムの間の距離は予め正確に測定されており、ウェハを載せた試料ステージは両カラム間を必要に応じて移動でき、
ミラー像の画像データは,画像処理部により処理され,欠陥として判定さ
れた場合には,その座標データ記憶部に格納し、
欠陥画像位置の表面形状を観察したい場合、データ記憶部を参照し、SEM観察可能な位置の座標を取得し、その後、取得座標へ移動するための制御信号を位置を試料ステージへ送信し、所望の位置へ移動した後、ミラー像から得られた欠陥位置のSEM画像を取得し、
また、逆に、SEM観察から得られた欠陥座標を蓄え,後からミラー像を観察することもでき、
ミラー像を観察してからSEM画像を観察する方法、あるいはSEM画像を観察してからミラー像を観察する方法により、ウェハ表面を検査する方法。」(以下「引用発明」という。)

(2)刊行物2
ア 刊行物2の記載事項
原査定の拒絶理由に引用され、原出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-173756号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。
「【0127】アライメント制御装置87は、ステージ装置50を用いてウェーハWを電子光学装置70に対して位置決めさせる装置であって、ウェーハを光学顕微鏡871を用いた広視野観察による概略合わせ(電子光学系によるよりも倍率が低い測定)、電子光学装置70の電子光学系を用いた高倍率合わせ、焦点調整、検査領域設定、パターンアライメント等の制御を行うようになっている。このように光学系を用いて低倍率でウェーハを検査するのは、ウェーハのパターンの検査を自動的に行うためであり、電子線を用いた狭視野でウェーハのパターンを観察してウェーハライメントを行う時には電子線でアライメントマークを容易に検出することが必要であるからである。
【0128】…ウェーハ上の被観察点を低倍率で観察するには、ステージ装置50のXステージ53をX方向に動かすことによってウェーハの被観察点を光学顕微鏡の視野内に移動させる。光学顕微鏡871で広視野でウェーハを視認してそのウェーハ上の観察すべき位置をCCD872を介してモニタ873に表示させ、観察位置をおおよそ決定する。この場合光学顕微鏡の倍率を低倍率から高倍率に変化させていってもよい。
【0129】次に、ステージ装置50を電子光学装置70の光軸と光学顕微鏡871の光軸との間隔δxに相当する距離だけ移動させて光学顕微鏡で予め決めたウェーハ上の被観察点を電子光学装置の視野位置に移動させる。この場合、電子光学装置の軸線O_(3)-O_(3)と光学顕微鏡871の光軸O_(4)-O_(4)との間の距離δx(この実施形態ではX軸線に沿った方向にのみ両者は位置ずれしているものとするが、Y軸方向に位置ずれしていてもよい)は予めわかっているのでその値δxだけ移動させれば被観察点を視認位置に移動させることができる。電子光学装置の視認位置への被観察点の移動が完了した後、電子光学系により高倍率で被観察点をSEM撮像して画像を記憶したり、モニタ765に表示させる。
【0130】このようにして電子光学系により高倍率でウェーハの観察点をモニタに表示させた後、公知の方法によりステージ装置50の回転テーブル54の回転中心に関するウェーハの回転方向の位置ずれ、即ち電子光学系の光軸O_(3)-O_(3)に対するウェーハの回転方向のずれδθを検出し、また電子光学装置に関する所定のパターのX軸及びY軸方向の位置ずれを検出する。そしてその検出値並びに別途得られたウェーハに設けられた検査マークのデータ或いはウェーハのパターンの形状等に関するデータに基づいてステージ装置50の動作を制御してウェーハのアライメントを行う。」

イ 刊行物2に記載された技術事項
上記アの記載によれば、刊行物2には、
「(ア)ウェーハの被観察点を光学顕微鏡の視野内に移動させ、ウェーハの被観察点を低倍率で観察(広視野観察)し、
(イ)光学顕微鏡で広視野でウェーハを視認して観察すべき位置をおおよそ決定し、
(ウ)ステージ装置を電子光学装置の光軸と光学顕微鏡の光軸との間隔に相当する距離だけ移動させて、電子光学装置の視認位置へ被観察点を移動させ、
(エ)電子光学系により高倍率で被観察点をSEM撮像する
ことにより、光学系を用いた低倍率でのウェーハ観察(広視野観察)とともに、電子光学系により高倍率でSEM画像を撮像する技術事項」(以下「刊行物2に記載された技術事項」という。)、
が開示されている。

3 対比
本願補正発明と、引用発明の「ウェハ表面を検査する方法」のうち「ミラー像を観察してからSEM画像を観察する方法、あるいはSEM画像を観察してからミラー像を観察する方法」を対比する。

(1)本願補正発明の
「写像投影型観察装置と該写像投影型観察装置とは別のSEM型観察装置と光学顕微鏡により同一のステージ上に載置された試料を観察するための複合型の試料観察方法」
と、引用発明の
「前記ミラープロジェクション電子顕微鏡装置は、…ミラープロジェクションカラムと、…小型SEMカラムと、ウェハを載置する試料ステージと、…を備え」、「小型SEMカラムとミラープロジェクションカラムの間の距離は予め正確に測定されており、ウェハを載せた試料ステージは両カラム間を必要に応じて移動でき」、「ミラー像を観察してからSEM画像を観察する方法、あるいはSEM画像を観察してからミラー像を観察する方法」
を対比する。
ア 引用発明の「ミラープロジェクションカラム」は本願補正発明の「写像投影型観察装置」に相当し、以下同様に、「小型SEMカラム」は「SEM型観察装置」に、「試料ステージ」は「ステージ」に、「ウェハ」は「試料」に、それぞれ相当する。
イ 引用発明の「小型SEMカラムとミラープロジェクションカラムの間の距離は予め正確に測定されており、ウェハを載せた試料ステージは両カラム間を必要に応じて移動でき」、「ミラー像を観察してからSEM画像を観察する」「、あるいはSEM画像を観察してからミラー像を観察する」ことは、本願補正発明の「写像投影型観察装置と該写像投影型観察装置とは別のSEM型観察装置」「により同一のステージ上に載置された試料を観察する」ことに相当する。
ウ 引用発明の「ミラー像を観察してからSEM画像を観察する方法、あるいはSEM画像を観察してからミラー像を観察する方法」は、本願補正発明の「複合型の試料観察方法」に相当する。
エ してみると、両者は、
「写像投影型観察装置と該写像投影型観察装置とは別のSEM型観察装置により同一のステージ上に載置された試料を観察するための複合型の試料観察方法」
の点で一致する。

(2)本願補正発明の
「前記写像投影型観察装置は、電子ビームを生成する1次光学系と、試料からの2次放出電子及びミラー電子の像を生成する2次光学系を備え、前記1次光学系により、両側にエッジを有する凹パターンに電子ビームが照射されたときに照射電子が前記凹パターンにてUターンしてミラー電子になるようにランディングエネルギーが調整された電子ビームを前記試料に照射し、該電子ビームの照射により生じるミラー電子を、前記2次光学系に設けられたアパーチャの中心位置を調整して最大強度で検出」すること
と、引用発明の
「前記ミラープロジェクションカラムは、電子源、磁界重畳コイル、コンデンサレンズ、収差補正用のE×B偏向器、E×B偏向器、対物レンズ、中間レンズ、投影レンズ、シンチレータ、光学レンズ、CCDを備え、
前記電子源は、電子線を放出し、
前記磁界重畳コイルは、前記電子線を絞り、
前記コンデンサレンズは、前記電子線を集束し、ウェハ上にほぼ平行に照射し、
収差補正用のE×B偏向器は、後段のE×B偏向器が発生する収差を補正し、
E×B偏向器は、前記電子線をウェハに垂直な光軸に偏向し、
対物レンズは、ウェハ表面に垂直な方向に面状の電子線を形成し、
前記面上の電子線の大部分はウェハに衝突する直前で引き戻され,ウェハのパターン情報を反映した方向や強度を持って上がり、
対物レンズは、引き戻された電子線を集束し、
E×B偏向器は、前記電子線をそのまま垂直に上昇させ、
対物レンズ,中間レンズ,投影レンズは、投影拡大し、シンチレータ,光学レンズ,CCDよりなる画像検出部上にウェハ表面の画像を結像させ、
高分解能なミラー像を形成することができるので,100nm以下の帯電電位の変化や凹凸等の構造の違いを検出することが可能であ」ること
を対比する。

ア 引用発明の「電子源」、「磁界重畳コイル」、「コンデンサレンズ」、「収差補正用のE×B偏向器」、「E×B偏向器」、「対物レンズ」は、電子線を放出してウェハに垂直な光軸に偏向するものである。してみると、引用発明の「電子源」、「磁界重畳コイル」、「コンデンサレンズ」、「収差補正用のE×B偏向器」、「E×B偏向器」、「対物レンズ」は、一体として、本願補正発明の「電子ビームを生成する1次光学系」に相当する。

イ 引用発明の「対物レンズ」、「中間レンズ」、「投影レンズ」は、ウェハに衝突する直前で引き戻された電子線を画像として結像させている。してみると、本願補正発明の「試料からの2次放出電子及びミラー電子の像を生成する2次光学系」と引用発明の「引用発明の対物レンズ,中間レンズ,投影レンズ」は、「試料からの」「ミラー電子の像を生成する2次光学系」の点で一致する。

ウ 刊行物1の【0063】に記載されるように、ミラープロジェクションとは,電子線を試料表面上の電位分布により試料面に到達する前に反射する電子(ミラー電子)を結像させて画像を検出する方式のことである。引用発明は、「前記面上の電子線の大部分はウェハに衝突する直前で引き戻され,ウェハのパターン情報を反映した方向や強度を持って上が」るものであり、「高分解能なミラー像を形成することができるので,100nm以下の帯電電位の変化や凹凸等の構造の違いを検出することが可能であ」ることを踏まえると、引用発明の対物レンズが形成する「ウェハ表面に垂直な方向に面状の電子線」の電子線のランディングエネルギーは、凹凸構造を有するウェハ表面に衝突する直前で引き戻される程度のエネルギー、すなわち、本願補正発明の「電子ビームが照射されたときに照射電子が前記凹パターンにてUターンしてミラー電子になる」「ランディングエネルギー」に相当する構成を有すると言える。そして、凹部がその両側にエッジを有することは、ウェハの表面構造として一般的な構造である。

エ 引用発明は、ウェハ表面のミラー像を画像検出部上に結像させているから、「ウェハのパターン情報を反映した方向や強度を持って上が」る電子線を検出するものであり、本願補正発明の「電子ビームの照射により生じるミラー電子を」「検出」することに相当する構成を有する。

オ してみると、両者は、
「前記写像投影型観察装置は、電子ビームを生成する1次光学系と、試料からのミラー電子の像を生成する2次光学系を備え、前記1次光学系により、両側にエッジを有する凹パターンに電子ビームが照射されたときに照射電子が前記凹パターンにてUターンしてミラー電子になるようにランディングエネルギーが調整された電子ビームを前記試料に照射し、該電子ビームの照射により生じるミラー電子を」「検出」する点
で一致する。

(3)本願補正発明の
「前記写像投影型観察装置、前記SEM型観察装置、及び前記光学顕微鏡の3つの観察装置それぞれの光学中心の位置関係を座標データとして記憶し、該座標データに基づいて前記ステージを前記3つの光学中心間で移動させて前記試料上の特定の箇所を前記3つの観察装置で個別に観察を行うこと」
と、引用発明の
「小型SEMカラムとミラープロジェクションカラムの間の距離は予め正確に測定されており、ウェハを載せた試料ステージは両カラム間を必要に応じて移動でき、
ミラー像の画像データは,画像処理部により処理され,欠陥として判定さ
れた場合には,その座標データ記憶部に格納し、
欠陥画像位置の表面形状を観察したい場合、データ記憶部を参照し、SEM観察可能な位置の座標を取得し、その後、取得座標へ移動するための制御信号を位置を試料ステージへ送信し、所望の位置へ移動した後、ミラー像から得られた欠陥位置のSEM画像を取得し、
また、逆に、SEM観察から得られた欠陥座標を蓄え,後からミラー像を観察することもでき、
ミラー像を観察してからSEM画像を観察する」、「あるいはSEM画像を観察してからミラー像を観察する」こと
を対比する。

ア 引用発明の「ミラープロジェクションカラム」は本願補正発明の「写像投影型観察装置」に相当し、以下同様に、「小型SEMカラム」は、「SEM型観察装置」に、「試料ステージ」は「ステージ」に、それぞれ相当する。

イ 引用発明において、「小型SEMカラムとミラープロジェクションカラムの間の距離は予め正確に測定されており、ウェハを載せた試料ステージは両カラム間を必要に応じて移動でき」るところ、引用発明は、予め正確に測定された両カラム間の距離を、データとして記憶しているものと認められるから、引用発明の上記構成は、本願補正発明の「観察装置それぞれの光学中心の位置関係を」「データとして記憶」することに相当する。

ウ 本願補正発明の「該座標データに基づいて前記ステージを前記3つの光学中心間で移動させて前記試料上の特定の箇所を前記3つの観察装置で個別に観察を行う」ことと、引用発明の「ウェハを載せた試料ステージは両カラム間を必要に応じて移動でき」、「ミラー像の画像データ」に基づき「欠陥として判定された」「欠陥画像位置の表面形状を観察したい場合、データ記憶部を参照し、SEM観察可能な位置の座標を取得し、その後、取得座標へ移動するための制御信号を位置を試料ステージへ送信し、所望の位置へ移動した後、ミラー像から得られた欠陥位置のSEM画像を取得」していることは、「該座標データに基づいて前記ステージを光学中心間で移動させて前記試料上の特定の箇所を」「観察装置で個別に観察を行う」点で一致する。

エ してみると、両者は、
「前記写像投影型観察装置、前記SEM型観察装置の観察装置それぞれの光学中心の位置関係をデータとして記憶し、該データに基づいて前記ステージを前記光学中心間で移動させて前記試料上の特定の箇所を」「観察装置で個別に観察を行う」
点で一致する。

(4)以上によれば、両者は、
「写像投影型観察装置と該写像投影型観察装置とは別のSEM型観察装置により同一のステージ上に載置された試料を観察するための複合型の試料観察方法であって、
前記写像投影型観察装置は、電子ビームを生成する1次光学系と、試料からのミラー電子の像を生成する2次光学系を備え、前記1次光学系により、両側にエッジを有する凹パターンに電子ビームが照射されたときに照射電子が前記凹パターンにてUターンしてミラー電子になるようにランディングエネルギーが調整された電子ビームを前記試料に照射し、該電子ビームの照射により生じるミラー電子を、検出し、
前記写像投影型観察装置、前記SEM型観察装置の観察装置それぞれの光学中心の位置関係をデータとして記憶し、該データに基づいて前記ステージを前記2つの光学中心間で移動させて前記試料上の特定の箇所を前記2つの観察装置で個別に観察を行う複合型の試料観察方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:同一のステージ上に載置された試料を観察する観察装置であって、それぞれの光学中心の位置関係をデータとして記憶し、該データに基づいて前記ステージを前記光学中心間で移動させて前記試料上の特定の箇所を個別に観察を行う観察装置が、本願補正発明では、写像投影型観察装置、SEM型観察装置、光学顕微鏡の3つの観察装置であり、それぞれの光学中心の位置関係を記憶するデータが「座標データ」であるのに対し、引用発明では、ミラープロジェクションカラムと小型SEMカラムの2つの観察装置であり、位置関係を記憶するデータが「座標データ」であるのか否か明らかでない点。

相違点2:写像投影型観察装置の2次光学系が生成する像が、本願補正発明では、「試料からの2次放出電子及びミラー電子の像」であるのに対し、引用発明では、「ウェハ表面に垂直な方向に」形成された「面状の電子線」の大部分であって、「ウェハに衝突する直前で引き戻され」た電子線が結像した像である点。

相違点3:ミラー電子を検出することに関し、本願補正発明では、2次光学系に設けられたアパーチャの中心位置を調整して最大強度で検出するのに対し、引用発明は、そのようなものなのか否か明らかでない点。

4 判断
(1)相違点1について
引用発明は、ミラープロジェクションカラムと小型SEMカラムを備えるミラープロジェクション電子顕微鏡装置を用いたウェハ表面の検査方法であるところ、引用発明と刊行物2に記載された技術事項は、何れも、SEM画像を取得(撮像)して観察する点で共通する。そして、ウェハ表面を検査する際に、種々の画像を取得することや、被観察位置の決定を容易にすることは、一般的な課題であるから、引用発明と刊行物2に記載された技術事項を組み合わせ、高倍率のSEM画像が撮像できる小型SEMカラムとともに、低倍率・広視野の観察ができる光学顕微鏡を組み合わせることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、引用発明は、ミラー画像から欠陥と判定した位置を座標データ記憶部に格納していること、試料ステージの移動先を「座標」で指示していることに照らせば、各観察装置の光学中心の位置関係を記憶するデータとして「座標データ」を用いることに困難性は無い。
してみると、引用発明において、観察装置として光学顕微鏡をさらに設け、観察装置それぞれの光学中心の位置関係を記憶するデータを「座標データ」とし、該データに基づいて前記ステージを前記光学中心間で移動させて前記試料上の特定の箇所を、ミラープロジェクションカラム、小型SEMカラム、光学顕微鏡の3つの観察装置で個別に観察を行い、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項となすことは、当業者が容易に想到し得たこととである。

(2)相違点2について
ア はじめに、本願補正発明の発明特定事項である「2次光学系に設けられたアパーチャの中心位置を調整して最大強度で検出する」ことの技術的な意味について検討する。
本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0144】
「アパーチャ調整」
次に、本実施の形態のもう一つの特徴であるアパーチャ調整について説明する。
【0145】
まず、アパーチャ調整の概要を説明する。アパーチャ調整では、2次光学系60のアパーチャ62のサイズ、位置及び形状が、アパーチャ62を通過するミラー電子に合うように調整される。この意味で、本実施の形態のアパーチャ62は、可変アパーチャ(又は調整用アパーチャ等)と呼ぶことができる。調整目標は、アパーチャ62の高さでのミラー電子のスポット(プロファイル)と、アパーチャ62の孔とを極力一致させることである。ただし、実際にはミラー電子スポットとアパーチャ62を完全に一致させることは困難である。したがって、実際には、ミラー電子スポットよりもある程度広く、アパーチャ62が調整されてよい。

【0152】
(アパーチャ位置の調整)
パターン観察では、パターンからのミラー信号を効率よく取得することが重要である。アパーチャ62の位置は、信号の透過率と収差を規定するので、大変に重要である。2次電子は、試料表面から広い角度範囲で、コサイン則に従い放出され、アパーチャでは均一に広い領域に到達する。したがって、2次電子は、アパーチャ62の位置に鈍感である。これに対し、ミラー電子の場合、試料表面での反射角度が、1次電子ビームの入射角度と同程度となる。そのため、ミラー電子は、小さな広がりを示し、小さなビーム径でアパーチャ62に到達する。例えば、ミラー電子の広がり領域は、二次電子の広がり領域の1/20以下となる。したがって、ミラー電子は、アパーチャ62の位置に大変敏感である。アパーチャにおけるミラー電子の広がり領域は、通常、φ10?100〔μm〕の領域となる。よって、ミラー電子強度の最も高い位置を求めて、その求められた位置にアパーチャ62の中心位置を配置することが、大変有利であり、重要である。
【0153】
このような適切な位置へのアパーチャ62の設置を実現するために、アパーチャ調整機構200が、アパーチャ62を、電子コラム24の真空中で、1〔μm〕程度の精度で、x、y方向に移動させる。アパーチャ62を移動させながら、信号強度が計測される。画像の輝度が、信号強度として求めれてよい。評価値は例えば輝度の合計である。そして、信号強度が最も高い位置が求められ、その求められた座標位置に、アパーチャ62の中心が設置される。」
上記記載によれば、最大強度で検出するよう調整した「2次光学系に設けられたアパーチャの中心位置」は、ミラー電子のスポット(プロファイル)と、アパーチャの孔とが一致する位置意味するものと解される。ここで、ミラー電子のスポット(プロファイル)の中心は、2次光学系の光軸上にあるから、アパーチャの中心位置は、2次光学系の光軸上に位置するものと解される。なお、このような解釈は、合議体からの問い合わせに対して請求人が作成した、平成29年3月30日付けファクシミリの上申書の記載(「(C)アパーチャの調整について 『ミラー電子を…最大強度で検出』するに際し、アパーチャの『中心位置』を調整します。具体的には、アパーチャの『中心位置』を、ミラー電子のビーム中心に合わせます。…特許請求の範囲に記載の『調整』は上記の意味であります。(D)『調整』の意義について 例えば、アパーチャが真円形であり、ミラー電子の光軸が鏡筒中心に一致しているような理想的な場合には上記『調整』は必ずしも必要ではありませんが、現実の観察時においては、組立誤差等の機械的な誤差があること、及び、ミラー電子は必ず鏡筒中心を通るわけではないことから、上記『調整』が必要となります。…」)とも合致する。

イ 以下、上記解釈を踏まえて、検討する。
一般に、ミラー像を形成する反射像結像型電子顕微鏡(写像投影型観察装置)は、例えば、特開2007-280614号公報(以下「刊行物3」という。)に記載されるように、「【0027】…面状の照射電子線301の大部分が試料7に衝突する直前で引き戻されてミラー電子となり、試料7の形状や電位、磁界などを反映した方向や強度を持って再び対物レンズ5に入射」し、ミラー像を結ぶところ、「【0029】照射条件などにより、反射電子線302にはミラー電子のほかに試料に衝突した電子が後方に散乱された後方散乱電子、試料から二次的に発生した二次電子なども含まれる場合があるが、後方散乱電子や二次電子の出射方向のばらつきにより、シンチレータに入射する電子はほぼ垂直に出射した電子に制限されてしまうので、ミラー電子に対する後方散乱電子や二次電子の割合は少なく、…」とあるように、反射電子線には、少ないながらも後方散乱電子や、二次電子が含まれる場合があることは周知の技術事項である。引用発明は、「前記面上の電子線の大部分はウェハに衝突する直前で引き戻され,ウェハのパターン情報を反映した方向や強度を持って上がり」、ミラー像を形成しているところ、上記周知の技術事項に照らせば、ミラー像を形成する電子線には、少ないながらも後方散乱電子や二次電子が含まれているものと解される。よって、相違点2は実質的なものではない。

(3)相違点3について
上記刊行物3には、「【0029】…もし、画像に後方散乱電子や二次電子の割合が多く含まれる場合には、対物レンズ5の焦点面に形成される電子線回折像面、あるいは中間レンズ13によりこの電子線回折像が投影される面上に反射電子線の角度を制限する制限絞り挿入することで、後方散乱電子や二次電子の割合を調整することができる。」との記載があり、対物レンズの焦点面に形成される電子線回折像面、あるいは、中間レンズにより電子線回折像が投影される面上に反射電子線の角度を制限する制限絞りを挿入し、後方散乱電子や二次電子の割合を調整すること、言い換えると、電子線回折像面上に制限絞りを挿入し、後方散乱電子や二次電子を制限する技術事項が記載されている。
引用発明は、上記(2)イで検討したとおり、ミラー像を形成する電子線には、少ないながらも後方散乱電子や二次電子が含まれているものと解される。ここで、ミラー像のコントラストやS/Nを改善することは、一般的な技術課題であるところ、該一般的な技術課題を解決する目的で、上記刊行物3に記載された技術事項を採用し、制限絞り(アパーチャ)を挿入してミラー像を形成する電子線に含まれる後方散乱電子や二次電子を制限することは、当業者が容易に想到し得ることである。そして、その際、制限絞り(アパーチャ)を通過するミラー電子が最大となるように、例えば制限絞り(アパーチャ)の中心を光軸上に位置させ、最大強度で検出するようになすことは、当業者が当然に考慮する事項である。してみると、引用発明において、刊行物3に記載された技術事項を採用し、制限絞り、すなわちアパーチャを挿入して、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項となすことに困難性は無い。

(4)本願補正発明の効果について
そして、本願補正発明が奏する作用効果は、引用発明、刊行物2、3に記載された技術事項及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に予測しうる程度のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2、3に記載された技術事項及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成27年11月30日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「写像投影型観察装置と該写像投影型観察装置とは別のSEM型観察装置と光学顕微鏡により同一のステージ上に載置された試料を観察するための複合型の試料観察方法であって、
前記写像投影型観察装置は、両側にエッジを有する凹パターンに電子ビームが照射されたときに照射電子が前記凹パターンにてUターンしてミラー電子になるようにランディングエネルギーが調整された電子ビームを前記試料に照射し、該電子ビームの照射により生じるミラー電子を検出し、
前記写像投影型観察装置、前記SEM型観察装置、及び前記光学顕微鏡の3つの観察装置それぞれの光学中心の位置関係を座標データとして記憶し、該座標データに基づいて前記ステージを前記3つの光学中心間で移動させて前記試料上の特定の箇所を前記3つの観察装置で個別に観察を行うことを特徴とする複合型の試料観察方法。」(以下「本願発明」という。)

2 引用する刊行物と引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、その記載事項、及び引用発明は、前記「第2 2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から、上記「第2 1」の(1)と(2)の限定を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明を対比すると、上記相違点1、2の点で相違する。そして、該相違点1及び2は、上記「第2 4(1)」及び「第2 4(2)」で検討したとおりであるから、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された技術事項及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-28 
結審通知日 2017-05-09 
審決日 2017-05-26 
出願番号 特願2014-246164(P2014-246164)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
P 1 8・ 575- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 祐樹桐畑 幸▲廣▼  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 小松 徹三
伊藤 昌哉
発明の名称 試料観察方法及び試料検査方法  
代理人 小林 英了  
代理人 津田 理  
代理人 森田 耕司  
代理人 松野 知紘  
代理人 佃 誠玄  
代理人 大野 聖二  
代理人 大野 浩之  
代理人 酒谷 誠一  
代理人 野本 裕史  
代理人 片山 健一  

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