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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60R
管理番号 1330442
審判番号 不服2016-10041  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-04 
確定日 2017-08-01 
事件の表示 特願2012-82808号「ウェビング巻取装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月17日出願公開、特開2013-212717号、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月30日の出願であって、平成27年7月6日付けで拒絶理由が通知され、同年9月3日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年3月28日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、同年7月4日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1、3及び4に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[刊行物]
1.特開2009-227062号公報(以下、「引用文献1」という。)
2.特開2012-1016号公報(以下、「引用文献2」という。)
3.特開2012-11914号公報(以下、「引用文献3」という。)
4.特開2010-208403号公報(以下、「引用文献4」という。)

第3 審判請求時の手続補正の適否
1 補正の内容
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって、請求項1の「プリテンショナ機構に連動せずに作動され」るという事項を、「プリテンショナ機構の動作と独立して作動され」るという事項とした補正は、「作動」に係る構成を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に最初に添付した明細書(段落【0082】、【0087】?【0093】)又は図面(図1、2及び4)に記載された事項であり、新規事項を追加するものではない。
そして、以下の「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1及び2に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1及び2」という。)は、平成28年7月4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりものである。
「 【請求項1】
巻取方向へ回転されることでウェビングが巻取られ、前記ウェビングが引出されることで引出方向へ回転されるスプールと、
前記スプールの軸心部に設けられ、前記スプールと一体回転可能に係合された係合部を有すると共に、前記係合部から軸方向一側に延設されて捩れ変形可能にされた第1捩れ変形部と前記係合部から軸方向他側に延設されて捩れ変形可能にされた第2捩れ変形部とを有するエネルギ吸収部材と、
前記スプールの軸方向一側に設けられ、車両の緊急時に作動されることで前記スプールと連結されて前記スプールを巻取方向へ回転させるプリテンショナ機構と、
前記スプールの軸方向一側に設けられると共に、前記プリテンショナ機構に連動して前記エネルギ吸収部材に係合され、前記第1捩れ変形部の引出方向への回転を阻止すると共に前記第1捩れ変形部の巻取方向への回転を許容するクラッチ機構と、
前記スプールの軸方向他側において前記エネルギ吸収部材に一体回転可能に設けられ、車両急減速時及び前記スプールが急激に引出方向へ回転した時の少なくも一方の時に前記プリテンショナ機構の作動と独立して作動されて前記第2捩れ変形部の引出方向への回転を阻止可能な状態にするロック機構と、
前記ロック機構の作動時に前記ロック機構が係合されて前記ロック機構の引出方向への回転を阻止すると共に、作動されることで前記ロック機構の引出方向への回転を許可する切替機構と、
を備えたウェビング巻取装置。
【請求項2】
前記第1捩れ変形部における軸方向の長さが前記第2捩れ変形部における軸方向の長さに比して長く設定された請求項1に記載のウェビング巻取装置。」

第5 引用文献に記載された事項及び発明
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用された、引用文献1には、図1?8とともに、以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付加した。以下同様である。
(1a)
「【0001】
本発明は、車両の座席に着座した乗員の身体を拘束するためのウエビングを巻き取って収納するシートベルトリトラクタに関する。」
(1b)
「【0017】
<第1の実施の形態の構成>
図1には本発明の第1の実施の形態に係るシートベルトリトラクタ10の全体構成の概略が正面断面図によって示されている。
【0018】
図1に示されるように、シートベルトリトラクタ10は本体12を備えている。本体12は平板状の本体基部14を備えており、本体基部14がボルト等の図示しない締結手段によって、例えば、車両のセンターピラーの下端部近傍にて車体に固定され、これにより、本シートベルトリトラクタ10が車体に取り付けられる。
【0019】
本体基部14からは、略車両前後方向に互いに対向した一対の側壁16、18が互いに平行に延出されている。これらの側壁16、18間には巻取軸20が配置されている。巻取軸20は軸方向が側壁16、18の対向方向とされた円筒状の巻取軸本体部22を備えている。」
(1c)
「【0020】
巻取軸本体部22には長尺帯状のウエビング24の長手方向基端部が係止されている。巻取軸20は巻取軸本体部22の中心軸線周りに回転自在とされており、巻取軸20がその軸周り一方である巻取方向に回転することでウエビング24は長手方向基端側から巻取軸本体部22の外周部に層状に巻き取られて収納される。また、ウエビング24を先端側から引っ張れば、巻取軸本体部22に巻き取られたウエビング24が引き出され、これに伴い、巻取方向とは反対の引出方向に巻取軸20が回転する。」
(1d)
「【0021】
一方、本シートベルトリトラクタ10はエネルギー吸収部材としてのトーションバー26を備えている。トーションバー26は巻取軸20の軸方向中間部にて巻取軸20の内側に設けられた結合部28を備えている。結合部28は外周形状が非円形とされており、巻取軸20の中心軸線周りの巻取軸20に対する相対回転が不能な状態で巻取軸20の内周壁に係合している。結合部28の側壁16の側には第1可変部30が形成されている。第1可変部30は軸方向が巻取軸20の軸方向と略同じ向きの棒状とされ、その一端が結合部28に一体的に繋がっている。第1可変部30の他端には外周形状が非円形の結合部32が形成されている。」
(1e)
「【0022】
この結合部32に対応して巻取軸20の側壁16の側にはロックベース34が設けられている。ロックベース34は巻取軸20の側壁16の側の端面にて開口した嵌挿孔36に嵌め込まれている。嵌挿孔36は内周形状が巻取軸20の中心軸線に対して同軸の円形とされており、この嵌挿孔36に嵌め込まれたロックベース34は巻取軸20に対して同軸的に相対回転可能とされている。
【0023】
また、ロックベース34には内周形状が結合部32の外周形状に対応した嵌挿孔38が形成されている。結合部32は嵌挿孔38に嵌め込まれている。上記のように、ロックベース34は巻取軸20に対して同軸的に相対回転可能に嵌挿孔36に嵌め込まれているが、結合部32に対してロックベース34は相対回転不能であり、結合部28に対して巻取軸20は相対回転不能である。このため、ロックベース34はトーションバー26を介して巻取軸20に対して相対回転不能に連結されていることになる。」
(1f)
「【0024】
この嵌挿孔36が形成される巻取軸20の側壁16の側、すなわち、巻取軸本体部22の側壁16の側の端部には巻取軸側ギヤ40が形成されている。図3に示されるように、巻取軸側ギヤ40は巻取軸20の中心軸線に対して同軸の外歯のピニオンギヤとされており、側壁16に形成された孔を貫通して側壁16の外側に突出している。この巻取軸側ギヤ40に対応して、側壁16の外側には回転強制手段を構成するプリテンショナ42が設けられている。
【0025】
プリテンショナ42は軸方向が巻取軸20の軸方向に対して直交したシリンダ44を備えている。シリンダ44の内側には図示しないピストンが摺動可能に収容されている。ピストンにはバー46の基端部が連結されている。バー46の先端側はシリンダ44から抜け出ており、巻取軸側ギヤ40の外周部の側方を通過している。さらに、バー46の先端には第1回転強制部材としてのラック48が形成されている。ラック48には巻取軸側ギヤ40の外歯に噛合可能な歯が形成されている。初期状態でラック48は巻取軸側ギヤ40に噛み合っておらず、バー46がシリンダ44の内側へ引き込まれると、ラック48が巻取軸側ギヤ40に噛み合って巻取軸側ギヤ40を巻取方向に回転させるようになっている。
【0026】
また、シリンダ44には図示しないマイクロジェネレータ等のガス発生手段が取り付けられている。ガス発生手段は作動することでシリンダ44の先端側にガスを供給し、そのガス圧でシリンダ44内のピストンをシリンダ44の基端側へ摺動させる。これにより、バー46が基端側からシリンダ44に引き込まれる。」
(1g)
「【0027】
一方、図1に示されるように、巻取軸20の回転半径方向外方の巻取軸20の側方にはシャフト50が設けられている。シャフト50は軸方向が巻取軸20の軸方向と同じ向きとされ、その一端が側壁16に回転自在に支持され他端が側壁18に回転自在に支持されている。シャフト50の一端側にはプリテンショナ42と共に回転強制手段を構成する第1ロックパウル52が設けられている。
【0028】
第1ロックパウル52は側壁16の外側に配置されてシャフト50の一端に一体的に連結されている。図3に示されるように、第1ロックパウル52はラチェット部54を備えている。ラチェット部54には外歯のラチェット歯が形成されており、シャフト50周りの一方へ第1ロックパウル52が回動すると、ラチェット部54のラチェット歯が巻取軸側ギヤ40の外部に出たロックベース34の外周部に接近する。巻取軸側ギヤ40の外部に出たロックベース34の外周部にはラチェット部56が形成されている。
【0029】
ラチェット部56はラチェット部54の噛合が可能な外歯のラチェット歯とされている。上記のように、第1ロックパウル52が回動してラチェット部54がロックベース34の外周部に接近するとラチェット部54がラチェット部56に噛み合う。ラチェット部54がラチェット部56に噛み合った状態では、ロックベース34の引出方向への回転が規制されるようになっている。
【0030】
また、第1ロックパウル52には係合部58が形成されている。係合部58はバー46のスライド方向に沿ったラック48の歯の延長上に形成されている。このため、バー46がシリンダ44に引き込まれてラック48が巻取軸側ギヤ40に噛み合うようにスライドし、更に、巻取軸側ギヤ40との噛み合いが終了したラック48の歯が係合部58に当接する。係合部58に当接したラック48が更に係合部58を押圧すると、ラチェット部56にラチェット部54を接近させる方向へ第1ロックパウル52を回動させる。」
(1h)
「【0031】
一方、図1に示されるように、シャフト50の側壁18の側には外周形状が非円形の支持部66が設けられている。支持部66は側壁18の外側でシャフト50に一体的に設けられている。また、側壁18の外側には第2ロックパウル72が設けられている。図7に示されるように、第2ロックパウル72には支持部66の外周形状と略同形状の貫通孔が形成されており、支持部66がこの貫通孔を通過し、これにより、第2ロックパウル72が支持部66に支持されている。上記のように、支持部66の外周形状及び第2ロックパウル72の貫通孔の内周形状は非円形であるため、支持部66に対する第2ロックパウル72の相対回転は不能であるが、シャフト50の軸方向に沿った支持部66に対する第2ロックパウル72のスライドは可能とされている。
【0032】
この第2ロックパウル72の側方にはロックベース74が設けられている。ロックベース74に対応して巻取軸本体部22には嵌挿孔76が形成されている。ロックベース74は巻取軸本体部22の側壁18の側の端面で開口しており、嵌挿孔76が嵌挿されている。嵌挿孔76は内周形状が巻取軸20の中心軸線に対して同軸の円形とされ、巻取軸本体部22の側壁18の側の端面で開口している。このため、ロックベース74に嵌挿された嵌挿孔76は巻取軸本体部22に対して相対回転可能とされている。嵌挿孔76の外側に出たロックベース74の外周部にはラチェット部78が形成されている。
【0033】
ラチェット部78は巻取軸20に対して同軸の外歯のラチェット歯とされている。このラチェット部78に対応して第2ロックパウル72にはラチェット部80が形成されている。ラチェット部80はラチェット部78に噛合可能な外歯のラチェット歯とされ、ロックベース34のラチェット部56に第1ロックパウル52のラチェット部54が噛み合うまでシャフト50が回動すると、ラチェット部80がラチェット部78に噛み合うように設定されている。このようにラチェット部80がラチェット部78に噛み合った状態では、ロックベース74の引出方向の回転が規制される。」
(1i)
「【0034】
また、図1に示されるように、ラチェット部80(第2ロックパウル72)の側方にはスクイブ82が設けられている。スクイブ82は作動することでガスが発生するガス発生手段の一態様とされ、作動することで発生したガスの圧力でプランジャ84を突出させる。このスクイブ82は、プリテンショナ42のガス発生手段を制御するECU等の制御手段に制御されており、プリテンショナ42が作動し、更に、本シートベルトリトラクタ10に対応したシートに着座した乗員の体格を検出する体格検出センサ(図示省略)からの信号に基づき、乗員の体格が小柄であると制御手段が判定した際にスクイブ82が作動する。
【0035】
スクイブ82が作動することで突出したプランジャ84はシャフト50の軸方向に第2ロックパウル72を押圧する。このようにプランジャ84に押圧された第2ロックパウル72は支持部66にガイドされながらスライドする。この状態では、シャフト50が回動してもラチェット部80がシャフト50の軸方向に沿ってラチェット部78からずれるので、ラチェット部80はラチェット部78に噛み合うことができない。」
(1j)
「【0036】
一方、結合部28の側壁18の側には第2可変部86が形成されている。第2可変部86は軸方向が巻取軸20の軸方向と略同じ向きの棒状とされ、その一端が結合部28に一体的に繋がっている。第2可変部86の他端には外周形状が非円形の結合部88が形成されている。」
(1k)
「【0037】
この結合部88に対応してロックベース74には内周形状が結合部88の外周形状に対応した嵌挿孔90が形成されている。結合部88は嵌挿孔90に嵌め込まれている。上記のように、ロックベース74は巻取軸20に対して同軸的に相対回転可能に嵌挿孔36に嵌め込まれているが、結合部88に対してロックベース74は相対回転不能であり、結合部28に対して巻取軸20は相対回転不能である。このため、ロックベース74はトーションバー26を介して巻取軸20に対して相対回転不能に連結されていることになる。」
(1l)
「【0038】
<第1の実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0039】
本シートベルトリトラクタ10では、図示しない加速度センサが車両の急減速状態を検出すると、ECU等の制御手段がプリテンショナ42のガス発生手段を作動させる。プリテンショナ42のガス発生手段からガスが発生すると、このガス圧によりシリンダ44内のピストンが摺動し、バー46がシリンダ44に引き込まれる。このようにバー46がスライドすると、図4に示されるように、ラック48が巻取軸側ギヤ40に噛み合い、巻取軸側ギヤ40を巻取方向に回転させる。これにより、巻取軸本体部22が巻取方向に回転すると、ウエビング24が長手方向基端側から巻取軸本体部22に巻き取られる。このように、ウエビング24が巻き取られることで、ウエビング24を装着している乗員の身体はウエビング24に強固に拘束される。」
(1m)
「【0040】
次いで、この状態で更にバー46がシリンダ44に引き込まれると、図5に示されるように、ラック48における最もシリンダ44の側に位置する歯が係合部58に当接する。この状態で更にバー46がシリンダ44に引き込まれるとラック48が係合部58を押圧してシャフト50周りに第1ロックパウル52を回動させる。これにより、図6に示されるように、第1ロックパウル52のラチェット部54がラチェット部56に噛み合い、ロックベース34の引出方向への回転が規制される。
【0041】
一方、上記のように、ラチェット部54がラチェット部56に噛み合うまでシャフト50が回動すると、図7の仮想線(二点鎖線)で示されるように、第2ロックパウル72のラチェット部78がロックベース74のラチェット部80に噛み合える位置まで回動する。ここで、上記の体格検出センサでの検出結果に基づき、シートに着座している乗員が小柄でないとECU等の制御手段で判定されていれば、第2ロックパウル72のラチェット部78はロックベース74のラチェット部80に噛み合う。
【0042】
これに対して、シートに着座している乗員が小柄であるとECU等の制御手段で判定されていれば、プリテンショナ42のガス発生手段が作動するに際して、スクイブ82が作動し、プランジャ84に第2ロックパウル72を押圧させ、図2に示されるように、支持部66に沿って第2ロックパウル72をスライドさせる。このため、この状態では、第2ロックパウル72は回動するものの、ラチェット部80に対してシャフト50の軸方向にラチェット部78がずれるので、第2ロックパウル72のラチェット部78はロックベース74のラチェット部80に噛み合うことができない。」
(1n)
「【0043】
上記のように、第1ロックパウル52のラチェット部54がロックベース34のラチェット部56に噛み合った状態では、巻取軸20は引出方向へ回転することはできない。したがって、例えば、乗員の身体が車両の急減速により車両前方側へ慣性移動しようとして、乗員の身体がウエビング24を引っ張っても、巻取軸本体部22からウエビング24を引き出すことはできない。このため、乗員の身体はウエビング24により強固に保持され、車両前方側への乗員の身体の慣性移動が効果的に規制される。
【0044】
さらに、この状態では乗員の身体がウエビング24を引っ張ることで巻取軸本体部22に付与された引出方向への回転力が巻取軸20から結合部28に伝えられる。乗員の身体が小柄で、プランジャ84に押圧された第2ロックパウル72がスライドした状態では、結合部28に伝わった引出方向への回転力が第1可変部30の機械的強度を上回ると、結合部32に対して結合部28が引出方向へ回転するように、第1可変部30にて捩じり変形が生じる。
【0045】
この第1可変部30の捩じり変形分だけ巻取軸20は引出方向へ回転でき、巻取軸20の引出方向への回転許容分だけ巻取軸本体部22からウエビング24が引き出される。このため、この巻取軸本体部22からのウエビング24の引き出し分だけ乗員は車両前方側へ慣性移動できると共に、乗員の身体がウエビング24を引っ張る力のエネルギーの一部が第1可変部30の捩じり変形で吸収される。」
(1o)
「【0046】
一方、乗員の身体が小柄でない場合には、ロックベース74の引出方向への回転も規制される。このため、この場合には、第1可変部30の機械的強度と第2可変部86の機械的強度の和を上回る引出方向への回転力が結合部28に伝わると、上記のように結合部32に対して結合部28が引出方向へ回転するように第1可変部30にて捩じり変形が生じると共に、結合部88に対して結合部28が引出方向へ回転するように第2可変部86にて捩じり変形が生じる。
【0047】
第1可変部30及び第2可変部86の捩じり変形分だけ巻取軸20は引出方向へ回転でき、巻取軸20の引出方向への回転許容分だけ巻取軸本体部22からウエビング24が引き出される。このため、この巻取軸本体部22からのウエビング24の引き出し分だけ乗員は車両前方側へ慣性移動できると共に、乗員の身体がウエビング24を引っ張る力のエネルギーの一部が第1可変部30及び第2可変部86の捩じり変形で吸収される。」
(1p)
「【0048】
このように、本シートベルトリトラクタ10では、ラック48が巻取軸20の巻取軸側ギヤ40に噛み合って巻取軸20を巻取方向に回転させるので、ラック48が巻取軸20を巻取方向に回転させるに際して結合部28に回転トルクが作用しない。このため、ラック48が巻取軸20を巻取方向に回転させている際にトーションバー26に捩じり変形が生じることがない。
【0049】
さらに、上記のように、ラック48と巻取軸側ギヤ40との噛み合いが終了すると、ラック48が第1ロックパウル52を押圧して第1ロックパウル52を回動させ、ラチェット部54をラチェット部56に噛み合わせるので、第1ロックパウル52を回動させるための特別な構成が基本的に不要であるので、シートベルトリトラクタ10の装置全体を簡素化できる。しかも、シャフト50で第1ロックパウル52と第2ロックパウル72とを連結するたけで、第2ロックパウル72を回動させることができるので、第2ロックパウル72を回動させるための構成も簡単で、しかも、第1可変部30の捩じり変形の開始タイミングに対して第2可変部86の捩じり変形の開始タイミングに遅れを生じさせることもない。」

(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)(1k)の段落【0037】に記載の「嵌挿孔36」は、「嵌挿孔76」の誤記と認められること、上記(1)(1a)?(1p)及び図1?7から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、便宜上、本願発明1との対比・判断を行うために、引用発明を(A)?(H)に分説して示す。

[引用発明]
「(A)
シートベルトリトラクタ10は、本体12を備え、本体12は平板状の本体基部14を備え、本体基部14からは、互いに対向した一対の側壁16、18が互いに平行に延出され、これらの側壁16、18間には巻取軸20が配置され、巻取軸20は軸方向が側壁16、18の対向方向とされた円筒状の巻取軸本体部22を備え、
(B)
巻取軸20は巻取軸本体部22の中心軸線周りに回転自在とされており、巻取軸20がその軸周り一方である巻取方向に回転することでウエビング24は長手方向基端側から巻取軸本体部22の外周部に層状に巻き取られて収納され、ウエビング24を先端側から引っ張れば、巻取軸本体部22に巻き取られたウエビング24が引き出され、巻取方向とは反対の引出方向に巻取軸20が回転し、
(C)
エネルギー吸収部材としてのトーションバー26は、巻取軸20の軸方向中間部にて巻取軸20の内側に設けられた結合部28を備え、相対回転が不能な状態で巻取軸20の内周壁に係合し、
結合部28の側壁16の側には第1可変部30が形成され、第1可変部30は軸方向が巻取軸20の軸方向と略同じ向きの棒状とされ、その一端が結合部28に一体的に繋がって、他端には結合部32が形成され、
結合部28の側壁18の側には第2可変部86が形成され、第2可変部86は軸方向が巻取軸20の軸方向と略同じ向きの棒状とされ、その一端が結合部28に一体的に繋がって、他端には結合部88が形成され、
(D)
プリテンショナ42は、軸方向が巻取軸20の軸方向に対して直交したシリンダ44を備え、シリンダ44の内側にはピストンが摺動可能に収容され、ピストンにはバー46の基端部が連結され、バー46の先端にはラック48が形成され、
加速度センサが車両の急減速状態を検出すると、ECU等の制御手段がプリテンショナ42のガス発生手段を作動させ、このガス圧によりシリンダ44内のピストンが摺動し、ラック48が巻取軸本体部22の側壁16の側の端部に形成されている巻取軸側ギヤ40に噛み合い、巻取軸側ギヤ40を巻取方向に回転させ、巻取軸20の巻取軸本体部22が巻取方向に回転すると、ウエビング24が巻き取られることで、ウエビング24を装着している乗員の身体はウエビング24に強固に拘束され、
(E)
巻取軸20の側壁16の側にはロックベース34が設けられ、
ロックベース34には内周形状がトーションバー26の結合部32の外周形状に対応した嵌挿孔38が形成され、結合部32は嵌挿孔38に嵌め込まれ、トーションバー26の結合部32に対してロックベース34は相対回転不能であり、トーションバー26の結合部28に対して巻取軸20は相対回転不能であり、
ロックベース34は、巻取軸20に対して同軸的に相対回転可能に、巻取軸20の側壁16の側の端面にて開口した嵌挿孔36に嵌め込まれているが、トーションバー26を介して巻取軸20に対して相対回転不能に連結され、ロックベース34の外周部にはラチェット部56が形成され、
第1ロックパウル52は、側壁16の外側に配置されてシャフト50の一端に一体的に連結され、ラチェット部54を備え、係合部58が形成され、巻取軸側ギヤ40との噛み合いが終了したプリテンショナ42のラック48の歯が係合部58に当接し、係合部58を押圧すると、第1ロックパウル52が回動してラチェット部54がロックベース34のラチェット部56に噛み合い、ロックベース34の引出方向への回転が規制され、巻取軸20は引出方向へ回転することはできず、
乗員の身体がウエビング24を引っ張ることで巻取軸本体部22に付与された引出方向への回転力が巻取軸20からトーションバー26の結合部28に伝えられ、結合部28に伝わった引出方向への回転力が第1可変部30の機械的強度を上回ると、結合部32に対して結合部28が引出方向へ回転するように、第1可変部30にて捩じり変形が生じ、
(F)
側壁18の外側には第2ロックパウル72が設けられ、この第2ロックパウル72の側方にはロックベース74が設けられ、
ロックベース74には内周形状がトーションバー26の結合部88の外周形状に対応した嵌挿孔90が形成され、結合部88は嵌挿孔90に嵌め込まれ、トーションバー26の結合部88に対してロックベース74は相対回転不能であり、トーションバー26の結合部28に対して巻取軸20は相対回転不能であり、
ロックベース74は、巻取軸20に対して同軸的に相対回転可能に、巻取軸20の側壁18の側の端面で開口している嵌挿孔76に嵌め込まれているが、トーションバー26を介して巻取軸20に対して相対回転不能に連結され、ロックベース74の外周部にはラチェット部78が形成され、
第2ロックパウル72にはラチェット部80が形成され、第2ロックパウル72が、シャフト50の側壁18の側に設けられている支持部66に支持され、支持部66に対する第2ロックパウル72の相対回転は不能であるが、シャフト50の軸方向に沿った支持部66に対する第2ロックパウル72のスライドは可能とされ、ロックベース34のラチェット部56に第1ロックパウル52のラチェット部54が噛み合うまでシャフト50が回動すると、ラチェット部80がラチェット部78に噛み合うように設定され、ラチェット部80がラチェット部78に噛み合った状態では、ロックベース74の引出方向の回転が規制され、
乗員の身体が小柄でない場合には、乗員の身体がウエビング24を引っ張ることで巻取軸本体部22に付与された引出方向への回転力が巻取軸20からトーションバー26の結合部28に伝えられ、第1可変部30の機械的強度と第2可変部86の機械的強度の和を上回る引出方向への回転力が結合部28に伝わると、結合部32に対して結合部28が引出方向へ回転するように第1可変部30にて捩じり変形が生じると共に、結合部88に対して結合部28が引出方向へ回転するように第2可変部86にて捩じり変形が生じ、
(G)
乗員が小柄であるとECU等の制御手段で判定されていれば、スクイブ82が作動することでプランジャ84はシャフト50の軸方向に第2ロックパウル72を押圧し、第2ロックパウル72はスライドし、ラチェット部80がシャフト50の軸方向に沿ってロックベース74のラチェット部78からずれるので、シャフト50が回転してもラチェット部80はラチェット部78に噛み合うことができない、
(H)
シートベルトリトラクタ10。」

2 引用文献2について
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、図とともに、以下の事項が記載されている。
(2a)
「【0021】
スプール12の軸心部には、フォースリミッタ機構を構成するメイントーションシャフト24及びサブトーションシャフト30(これらは広義には「エネルギー吸収部材」として把握される要素である。)が収容されてスプール12の軸方向に沿って直列に並んで配置されている。また、サブトーションシャフト30は、メイントーションシャフト24に比べて軸方向の長さが短く設定され、軸方向一端側の径方向へのずれがメイントーションシャフト24に比べて軸方向の傾きに大きく影響する部材である。本実施形態では、サブトーションシャフト30が請求項1記載の「トーションシャフト」の構成を備えた部材となっている。」

3 引用文献3について
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3には、図とともに、以下の事項が記載されている。
(3a)
「【0023】
図2中、8は左右側壁8a,8bを有するコ字状のフレーム、9は左右側壁8a,8bに間接的に回転可能に支持されるとともにシートベルト4を巻き取るスプール、10はスプール9に同軸にかつ相対回転可能に支持されるとともに、リング状の複数の外歯10aおよびカム孔10bを有するロックギア、11はフレーム8の右側壁8b(第1の側壁)に設けられるとともに慣性ボール11aおよびロックギア10の外歯10aに係合可能な係止爪11bを有する減速度感知機構(ヴィークルセンサ)、12はスプール9の右側端9a(一側端)に回動軸12aを中心に回動可能に取り付けられるとともに、フレーム8の右側壁8bにリング状に設けられた複数の内歯8c(第1の内歯)の所定数に係合可能な2以上の所定数の外歯12b(第1の外歯)およびピン状のカムフォロワ12cを有するパウル(第1の係合部)、13はロックギア10に揺動可能に支持されるとともに係止爪13aを有するシートベルト急激引出し感知慣性体(ウェビングセンサ)、14はスプール9を常時シートベルト巻取り方向に付勢するスプリング機構、15はフレーム8の左側壁8a(第2の側壁)に取り付けられるとともにスプリング機構14を覆うスプリングケース、16はフレーム8の右側壁8bに取り付けられるとともに、ロックギア10,減速度感知機構12、およびパウル12を覆うカバーである。なお、特開平5ー193441号公報に記載のシートベルトリトラクタでは、パウル12と同様のパウルがスプール9の左側端9b(他側端)にもパウル12の回動と一体に回動可能に取り付けられているが、この例のシートベルトリトラクタ3では、パウルはスプール9の左側端9bには設けられない。その場合、フレーム8の内歯8cとパウル12とにより、緊急時にスプール9のシートベルト引出し方向αの回転をロックする第1のロック機構が構成される。シートベルト急激引出し感知慣性体13の係止爪13aとカバー16に設けられたリング状の内歯(不図示)とにより、シートベルト4bの通常より急激な引出し時に、スプール9のシートベルト引出し方向αの回転をロックする第2のロック機構が構成される。
【0024】
そして、通常時ロックギア10はシートベルト巻取りおよび引出し時にスプール9と一体に回転する。このとき、スプール9のパウル12がフレーム8の内歯8cに係合しないとともに、シートベルト急激引出し感知慣性体13の係止爪13aがカバーのリング状の内歯に係合しないので、第1および第2のロック機構は作動しなく、スプール9はシートベルト巻取り方向およびシートベルト引出し方向のいずれにも回転可能である。
【0025】
前述の緊急時に車両に大きな減速度が加えられた時、減速度感知機構11の慣性ボール11aがこの減速度により作動して減速度感知機構11の係止爪11bをロックギア10の外歯10aに係合する。すると、ロックギア10のシートベルト引出し方向の回転がロックされる。一方、スプール9のシートベルト引出し方向の回転はロックされないので、乗員の慣性でシートベルト4を介してスプール9がシートベルト引出し方向に回転する。すなわち、スプール9とロックギア10との間に相対回転が生じる。この相対回転により、ロックギア10のカム孔10bがカムフォロワ12cを作動制御するので、スプール9のパウル12が回動してフレーム8の内歯8cに係合する。これにより、スプール9のシートベルト引出し方向の回転がロックされ、シートベルト4の引出しが阻止される。その結果、乗員がシートベルト4により拘束される。
【0026】
また、シートベルト4が、装着の際のシートベルト引出し等の通常の速度よりはるかに大きな速度で引き出された時、シートベルト急激引出し感知慣性体13が慣性遅れによりスプール9に対して大きく揺動して係止爪13aがカバー16に設けられたリング状の内歯(不図示)に係合する。すると、ロックギア10のシートベルト引出し方向の回転がロックされる。これにより、スプール9とロックギア10との間に相対回転が生じ、この相対回転により、前述の緊急時の場合と同様にスプール9のパウル12がフレーム8の内歯8cに係合する。これにより、スプール9のシートベルト引出し方向の回転がロックされ、シートベルト4の引出しが阻止される。」

4 引用文献4について
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献4には、図とともに、以下の事項が記載されている。
(4a)
「【0039】
ハウジング36の内側には、スプール付勢手段としての図示しない渦巻きばねが収容されている。渦巻きばねは、その渦巻き方向外側の端部がハウジング36に直接又は間接的に係止されており、渦巻き方向内側の端部がアダプタ30の軸部に直接又は間接的に係止されている。この渦巻きばねは、スプール18と共にアダプタ30の軸部が引出方向に回転することで巻き締められて、アダプタ30の軸部を介してスプール18を巻取方向に付勢する。」
(4b)
「【0043】
一方、図1及び図3に示されるように、ロックベース54を構成するラチェット部64の回転半径方向外側には、ロックパウル70が配置されている。ロックパウル70はスプール18の軸方向と同じ向きを軸方向とする軸周りに回動自在にフレーム12やハウジング68等に支持されており、その回動方向一方にロックパウル70が回動すると、その先端に形成されたラチェット歯がラチェット部64(ロックベース54)の外周部に形成されたラチェット歯に接近して噛み合う(図2の二点鎖線状態)。このように、ロックパウル70のラチェット歯がラチェット部64(ロックベース54)のラチェット歯に噛み合うことでロックベース54の引出方向への回転が規制される。
【0044】
さらに、上記のハウジング68の内側には、車両が急減速状態になった場合の加速度(減速度)を検知して作動する所謂「VSIR機構」を構成する各種部品や、軸部66の引出方向への加速度が所定の大きさを越えて急激に引出方向に回転した際に作動する所謂「WSIR機構」を構成する各種部品が収容されており、これらの「VSIR機構」や「WSIR機構」が作動すると、ロックパウル70の先端側をラチェット部64(ロックベース54)の外周部へ接近させる向きにロックパウル70を回動させる。」
(4c)
「【0063】
本ウエビング巻取装置10では、車両のシートに着座した乗員の身体にウエビングベルト20が装着された状態で、車両が急減速状態になると、ロック機構50を構成する「VSIR機構」が作動する。また、車両が急減速することで、車両前方側へ慣性移動しようとする乗員の身体が急激にウエビングベルト20を引っ張ると、スプール18が急激に引出方向へ回転する。このようにしてスプール18に急激な引出方向への回転が生じるとロック機構50を構成する「WSIR機構」が作動する。
【0064】
ロック機構50を構成する「VSIR機構」及び「WSIR機構」の少なくとも何れか一方が作動すると、図3にて二点鎖線で示されるように、ロックパウル70が回動してロックパウル70の先端部に形成されたラチェット歯がラチェット部64の外周部に形成されたラチェット歯に噛み合う。これにより、ロックベース54の引出方向への回転が規制される。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

引用発明の「巻取軸20」及び「ウエビング24」は、それぞれ、本願発明1の「スプール」及び「ウェビング」に相当する。

上記アを踏まえると、引用発明の(B)「巻取軸20は巻取軸本体部22の中心軸線周りに回転自在とされており、巻取軸20がその軸周り一方である巻取方向に回転することでウエビング24は長手方向基端側から巻取軸本体部22の外周部に層状に巻き取られて収納され、ウエビング24を先端側から引っ張れば、巻取軸本体部22に巻き取られたウエビング24が引き出され、巻取方向とは反対の引出方向に巻取軸20が回転」する構成は、本願発明1の「巻取方向へ回転されることでウェビングが巻取られ、前記ウェビングが引出されることで引出方向へ回転されるスプール」に相当する。

引用発明の「エネルギー吸収部材としてのトーションバー26」、「結合部28」、「結合部28の側壁16の側」、「第1可変部30」、「結合部28の側壁18の側」及び「第2可変部86」は、それぞれ、本願発明1の「エネルギ吸収部材」、「係合部」、「軸方向一側」、「第1捩れ変形部」、「軸方向他側」及び「第2捩れ変形部」に相当する。
引用発明において、「巻取軸20」の軸心と「トーションバー26」の軸心とが一致していることは、技術常識といえる。

上記ア及びウを踏まえると、引用発明の(C)「エネルギー吸収部材としてのトーションバー26は、巻取軸20の軸方向中間部にて巻取軸20の内側に設けられた結合部28を備え、相対回転が不能な状態で巻取軸20の内周壁に係合し、結合部28の側壁16の側には第1可変部30が形成され、第1可変部30は軸方向が巻取軸20の軸方向と略同じ向きの棒状とされ、その一端が結合部28に一体的に繋がって、他端には結合部32が形成され、結合部28の側壁18の側には第2可変部86が形成され、第2可変部86は軸方向が巻取軸20の軸方向と略同じ向きの棒状とされ、その一端が結合部28に一体的に繋がって、他端には結合部88が形成され」る構成は、本願発明1の「前記スプールの軸心部に設けられ、前記スプールと一体回転可能に係合された係合部を有すると共に、前記係合部から軸方向一側に延設されて捩れ変形可能にされた第1捩れ変形部と前記係合部から軸方向他側に延設されて捩れ変形可能にされた第2捩れ変形部とを有するエネルギ吸収部材」に相当する。

引用発明の「加速度センサが車両の急減速状態を検出する」状態は、本願発明1の「車両の緊急時」に相当する。
引用発明の「巻取軸本体部22」は、「巻取軸20」(スプール)に備えられたものであるから(引用発明の(A)参照)、「巻取軸本体部22」が回転すると、「巻取軸20」(スプール)が回転するといえる。
引用発明の「プリテンショナ42」は、本願発明1の「プリテンショナ機構」に相当する。
引用発明の「プリテンショナ42」の「ラック48」は、「巻取軸本体部22の側壁16の側(軸方向一側、上記ウ参照)の端部に形成されている巻取軸側ギヤ40に噛み合」うこと(引用発明の(D)参照)から、引用発明の「プリテンショナ42」は、軸方向一側に設けられているといえる。

上記オを踏まえると、引用発明の(D)「プリテンショナ42は、軸方向が巻取軸20の軸方向に対して直交したシリンダ44を備え、シリンダ44の内側にはピストンが摺動可能に収容され、ピストンにはバー46の基端部が連結され、バー46の先端にはラック48が形成され、加速度センサが車両の急減速状態を検出すると、ECU等の制御手段がプリテンショナ42のガス発生手段を作動させ、このガス圧によりシリンダ44内のピストンが摺動し、ラック48が巻取軸本体部22の側壁16の側の端部に形成されている巻取軸側ギヤ40に噛み合い、巻取軸側ギヤ40を巻取方向に回転させ、巻取軸20の巻取軸本体部22が巻取方向に回転すると、ウエビング24が巻き取られることで、ウエビング24を装着している乗員の身体はウエビング24に強固に拘束され」る構成は、本願発明1の「前記スプールの軸方向一側に設けられ、車両の緊急時に作動されることで前記スプールと連結されて前記スプールを巻取方向へ回転させるプリテンショナ機構」に相当する。

引用発明では、「巻取軸20の側壁16の側にはロックベース34が設けられ」(引用発明の(E)の1節目参照)、「ロックベース34は、巻取軸20に対して同軸的に相対回転可能に、巻取軸20の側壁16の側の端面にて開口した嵌挿孔36に嵌め込まれ」(引用発明の(E)の3節目参照)、「第1ロックパウル52は、側壁16の外側に配置され」ていること(引用発明の(E)の4節目参照)、及び、上記ウを踏まえると、引用発明の「ロックベース34」及び「第1ロックパウル52」は、いずれも、「巻取軸20」(スプール)の軸方向一側に設けられているといえる。

引用発明では、「ロックベース34には内周形状がトーションバー26の結合部32の外周形状に対応した嵌挿孔38が形成され、結合部32は嵌挿孔38に嵌め込まれ、トーションバー26の結合部32に対してロックベース34は相対回転不能であ」る(引用発明の(E)の2節目参照)から、引用発明の「ロックベース34」は、「トーションバー26」(エネルギ吸収部材)に係合しているといえる。

引用発明において、「第1ロックパウル52は」、「ラチェット部54を備え、係合部58が形成され、巻取軸側ギヤ40との噛み合いが終了したプリテンショナ42のラック48の歯が係合部58に当接し、係合部58を押圧すると、第1ロックパウル52が回動してラチェット部54がロックベース34のラチェット部56に噛み合い、ロックベース34の引出方向への回転が規制され、巻取軸20は引出方向へ回転することはでき」ない(引用発明の(E)の4節目参照)から、引用発明の「第1ロックパウル52が回動してラチェット部54がロックベース34のラチェット部56に噛み合い、ロックベース34の引出方向への回転が規制され、巻取軸20は引出方向へ回転することはでき」ない係合に係る動作は、「巻取軸側ギヤ40との噛み合いが終了したプリテンショナ42のラック48の歯が係合部58に当接」すること、すなわち、プリテンショナ機構の作動に連動しているといえる。

引用発明では、「第1ロックパウル52」の「ラチェット部54がロックベース34のラチェット部56に噛み合い、ロックベース34の引出方向への回転が規制され、巻取軸20は引出方向へ回転することはできず」(引用発明の(E)の4節目参照)、「乗員の身体がウエビング24を引っ張ることで巻取軸本体部22に付与された引出方向への回転力が巻取軸20からトーションバー26の結合部28に伝えられ、結合部28に伝わった引出方向への回転力が第1可変部30の機械的強度を上回ると、結合部32に対して結合部28が引出方向へ回転するように、第1可変部30にて捩じり変形が生じ」る(引用発明の(E)の5節目参照)から、機械的強度を上回るまでは、「第1可変部30」(第1捩れ変形部)の引出方向への回転を阻止するものであり、「第1ロックパウル52」と「ロックベース34」との咬み合いは、ラチェットによる咬み合い、すなわち、一方向クラッチ機構を構成しているといえることから、上記クを踏まえると、「ロックベース34」と係合する「トーションバー26」(エネルギ吸収部材)の「第1可変部30」(第1捩れ変形部)の巻取方向への回転は許容するものといえる。

上記キ?コを踏まえると、引用発明の(E)「巻取軸20の側壁16の側にはロックベース34が設けられ、ロックベース34には内周形状がトーションバー26の結合部32の外周形状に対応した嵌挿孔38が形成され、結合部32は嵌挿孔38に嵌め込まれ、トーションバー26の結合部32に対してロックベース34は相対回転不能であり、トーションバー26の結合部28に対して巻取軸20は相対回転不能であり、ロックベース34は、巻取軸20に対して同軸的に相対回転可能に、巻取軸20の側壁16の側の端面にて開口した嵌挿孔36に嵌め込まれているが、トーションバー26を介して巻取軸20に対して相対回転不能に連結され、ロックベース34の外周部にはラチェット部56が形成され、第1ロックパウル52は、側壁16の外側に配置されてシャフト50の一端に一体的に連結され、ラチェット部54を備え、係合部58が形成され、巻取軸側ギヤ40との噛み合いが終了したプリテンショナ42のラック48の歯が係合部58に当接し、係合部58を押圧すると、第1ロックパウル52が回動してラチェット部54がロックベース34のラチェット部56に噛み合い、ロックベース34の引出方向への回転が規制され、乗員が小柄であるとECU等の制御手段で判定されていれば、第2ロックパウル72のラチェット部78はロックベース74のラチェット部80に噛み合うことができず、乗員の身体がウエビング24を引っ張ることで巻取軸本体部22に付与された引出方向への回転力が巻取軸20からトーションバー26の結合部28に伝えられ、結合部28に伝わった引出方向への回転力が第1可変部30の機械的強度を上回ると、結合部32に対して結合部28が引出方向へ回転するように、第1可変部30にて捩じり変形が生じ」る構成は、本願発明1の「前記スプールの軸方向一側に設けられると共に、前記プリテンショナ機構に連動して前記エネルギ吸収部材に係合され、前記第1捩れ変形部の引出方向への回転を阻止すると共に前記第1捩れ変形部の巻取方向への回転を許容するクラッチ機構」に相当する。

引用発明では、「側壁18の外側には第2ロックパウル72が設けられ、この第2ロックパウル72の側方にはロックベース74が設けられ、ロックベース74には内周形状がトーションバー26の結合部88の外周形状に対応した嵌挿孔90が形成され、結合部88は嵌挿孔90に嵌め込まれ、トーションバー26の結合部88に対してロックベース74は相対回転不能であり、トーションバー26の結合部28に対して巻取軸20は相対回転不能であり、ロックベース74は、巻取軸20に対して同軸的に相対回転可能に、巻取軸20の側壁18の側の端面で開口している嵌挿孔76に嵌め込まれている」こと(引用発明の(F)の1、2及び3節目参照)、及び、上記ウを踏まえると、上記引用発明の「ロックベース74」は、「巻取軸20」(スプール)の軸方向他側において「トーションバー26」(エネルギ吸収部材)に「相対回転不能」、すなわち、一体回転可能に設けられているといえる。

引用発明の「ロックベース74の外周部にはラチェット部78が形成され、第2ロックパウル72にはラチェット部80が形成され」、「ロックベース34のラチェット部56に第1ロックパウル52のラチェット部54が噛み合うまでシャフト50が回動すると、ラチェット部80がラチェット部78に噛み合うように設定され、ラチェット部80がラチェット部78に噛み合った状態では、ロックベース74の引出方向の回転が規制され」ていること(引用発明の(F)の3及び4節目参照)は、上記ウ及びシを踏まえると、「第2ロックパウル72」の「ラチェット部80」が、「ロックベース74」の「ラチェット部78」に噛み合った状態であり、トーションバー26(エネルギ吸収部材)の結合部28の側壁18の側(軸方向他側)の第2可変部86(第2捩れ変形部)がロックされることで、巻取軸20が回転することはできない状態とされているといえるから、「ロックベース74」は、「第2ロックパウル72」と協働して作動する「ロック機構」であるといえる。

引用発明では、「ロックベース74は、巻取軸20に対して同軸的に相対回転可能に、巻取軸20の側壁18の側の端面で開口している嵌挿孔76に嵌め込まれているが、トーションバー26を介して巻取軸20に対して相対回転不能に連結され」(引用発明の(F)の3節目参照)、「ラチェット部80がラチェット部78に噛み合った状態では、ロックベース74の引出方向の回転が規制され」(引用発明の(F)の4節目参照)、「乗員の身体が小柄でない場合には、乗員の身体がウエビング24を引っ張ることで巻取軸本体部22に付与された引出方向への回転力が巻取軸20からトーションバー26の結合部28に伝えられ、第1可変部30の機械的強度と第2可変部86の機械的強度の和を上回る引出方向への回転力が結合部28に伝わると、結合部32に対して結合部28が引出方向へ回転するように第1可変部30にて捩じり変形が生じると共に、結合部88に対して結合部28が引出方向へ回転するように第2可変部86にて捩じり変形が生じ」る(引用発明の(F)の5節目参照)から、「ロックベース74」(ロック機構)は、その回転が規制されることで、機械的強度を上回るまでは、「第2可変部86」(第2捩れ変形部)の引出方向への回転を阻止しているといえる。

上記シ?セを踏まえると、引用発明の(F)「側壁18の外側には第2ロックパウル72が設けられ、この第2ロックパウル72の側方にはロックベース74が設けられ、ロックベース74には内周形状がトーションバー26の結合部88の外周形状に対応した嵌挿孔90が形成され、結合部88は嵌挿孔90に嵌め込まれ、トーションバー26の結合部88に対してロックベース74は相対回転不能であり、トーションバー26の結合部28に対して巻取軸20は相対回転不能であり、ロックベース74は、巻取軸20に対して同軸的に相対回転可能に、巻取軸20の側壁18の側の端面で開口している嵌挿孔76に嵌め込まれているが、トーションバー26を介して巻取軸20に対して相対回転不能に連結され、ロックベース74の外周部にはラチェット部78が形成され、第2ロックパウル72にはラチェット部80が形成され、第2ロックパウル72が、シャフト50の側壁18の側に設けられている支持部66に支持され、支持部66に対する第2ロックパウル72の相対回転は不能であるが、シャフト50の軸方向に沿った支持部66に対する第2ロックパウル72のスライドは可能とされ、ロックベース34のラチェット部56に第1ロックパウル52のラチェット部54が噛み合うまでシャフト50が回動すると、ラチェット部80がラチェット部78に噛み合うように設定され、ラチェット部80がラチェット部78に噛み合った状態では、ロックベース74の引出方向の回転が規制され、乗員の身体が小柄でない場合には、乗員の身体がウエビング24を引っ張ることで巻取軸本体部22に付与された引出方向への回転力が巻取軸20からトーションバー26の結合部28に伝えられ、第1可変部30の機械的強度と第2可変部86の機械的強度の和を上回る引出方向への回転力が結合部28に伝わると、結合部32に対して結合部28が引出方向へ回転するように第1可変部30にて捩じり変形が生じると共に、結合部88に対して結合部28が引出方向へ回転するように第2可変部86にて捩じり変形が生じ」る構成と、本願発明1の「前記スプールの軸方向他側において前記エネルギ吸収部材に一体回転可能に設けられ、車両急減速時及び前記スプールが急激に引出方向へ回転した時の少なくも一方の時に前記プリテンショナ機構の作動と独立して作動され前記第2捩れ変形部の引出方向への回転を阻止可能な状態にするロック機構」とは、「前記スプールの軸方向他側において前記エネルギ吸収部材に一体回転可能に設けられ、前記第2捩れ変形部の引出方向への回転を阻止可能な状態にするロック機構」の限りで共通する。

引用発明の「ECU等の制御手段」「スクイブ82」「プランジャ84」及び「第2ロックパウル72」は、本願発明1の「切替機構」に相当する。
引用発明において、「第2ロックパウル72はスライドし、ラチェット部80がシャフト50の軸方向に沿ってロックベース74のラチェット部78からずれるので、シャフト50が回転してもラチェット部80はラチェット部78に噛み合うことができない」が(引用発明の(G)参照)、「スライド」しなければ、「第2ロックパウル72」の「ラチェット部80」が「ロックベース74」の「ラチェット部78に噛み合った状態で」、「ロックベース74の引出方向の回転が規制され」る(上記ス及びセ)といえる。
引用発明において、「シャフト50が回転してもラチェット部80はラチェット部78に噛み合うことができない」と、「ロックベース74の引出方向の回転が規制され」ず、「ロックベース74」の回転は許可されるといえる。

上記タを踏まえると、引用発明の(G)「乗員が小柄であるとECU等の制御手段で判定されていれば、スクイブ82が作動することでプランジャ84はシャフト50の軸方向に第2ロックパウル72を押圧し、第2ロックパウル72はスライドし、ラチェット部80がシャフト50の軸方向に沿ってロックベース74のラチェット部78からずれるので、シャフト50が回転してもラチェット部80はラチェット部78に噛み合うことができない」構成は、「第2ロックパウル72」(切替機構)が、「第2ロックパウル72」の「ラチェット部80」が、「ロックベース74」の「ラチェット部78」に噛み合うことができる状態から、噛み合うことができない状態に切替ることを意味しているといえるから、本願発明1の「前記ロック機構の作動時に前記ロック機構が係合されて前記ロック機構の引出方向への回転を阻止すると共に、作動されることで前記ロック機構の引出方向への回転を許可する切替機構」に相当する。

引用発明において、(A)「シートベルトリトラクタ10は、本体12を備え、本体12は平板状の本体基部14を備え、本体基部14からは、互いに対向した一対の側壁16、18が互いに平行に延出され、これらの側壁16、18間には巻取軸20が配置され、巻取軸20は軸方向が側壁16、18の対向方向とされた円筒状の巻取軸本体部22を備え」る、ものであること、及び、上記イを踏まえると、引用発明の(H)「シートベルトリトラクタ10」は、本願発明1の「ウェビング巻取装置」に相当する。

以上より、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「巻取方向へ回転されることでウェビングが巻取られ、前記ウェビングが引出されることで引出方向へ回転されるスプールと、
前記スプールの軸心部に設けられ、前記スプールと一体回転可能に係合された係合部を有すると共に、前記係合部から軸方向一側に延設されて捩れ変形可能にされた第1捩れ変形部と前記係合部から軸方向他側に延設されて捩れ変形可能にされた第2捩れ変形部とを有するエネルギ吸収部材と、
前記スプールの軸方向一側に設けられ、車両の緊急時に作動されることで前記スプールと連結されて前記スプールを巻取方向へ回転させるプリテンショナ機構と、
前記スプールの軸方向一側に設けられると共に、前記プリテンショナ機構に連動して前記エネルギ吸収部材に係合され、前記第1捩れ変形部の引出方向への回転を阻止すると共に前記第1捩れ変形部の巻取方向への回転を許容するクラッチ機構と、
前記スプールの軸方向他側において前記エネルギ吸収部材に一体回転可能に設けられ、前記第2捩れ変形部の引出方向への回転を阻止可能な状態にするロック機構と、
前記ロック機構の作動時に前記ロック機構が係合されて前記ロック機構の引出方向への回転を阻止すると共に、作動されることで前記ロック機構の引出方向への回転を許可する切替機構と、
を備えたウェビング巻取装置。
<相違点>
「ロック機構」に関して、本願発明は、「車両急減速時及び前記スプールが急激に引出方向へ回転した時の少なくも一方の時に前記プリテンショナ機構の作動と独立して作動され」るのに対して、引用発明は、「加速度センサが車両の急減速状態を検出すると、ECU等の制御手段がプリテンショナ42のガス発生手段を作動させ、このガス圧によりシリンダ44内のピストンが摺動し、ラック48が巻取軸本体部22の側壁16の側の端部に形成されている巻取軸側ギヤ40に噛み合い、巻取軸側ギヤ40を巻取方向に回転させ」、「巻取軸側ギヤ40との噛み合いが終了したプリテンショナ42のラック48の歯が係合部58に当接し、係合部58を押圧すると、第1ロックパウル52が回動してラチェット部54がロックベース34のラチェット部56に噛み合い」、「ロックベース34のラチェット部56に第1ロックパウル52のラチェット部54が噛み合うまでシャフト50が回動すると、ラチェット部80がラチェット部78に噛み合うように設定され、ラチェット部80がラチェット部78に噛み合った状態では、ロックベース74の引出方向の回転が規制され」る点。

(2)判断
以下、相違点について検討する。

引用発明では、「トーションバー26」は、「結合部28の側壁18の側には第2可変部86が形成され、第2可変部86は軸方向が巻取軸20の軸方向と略同じ向きの棒状とされ、その一端が結合部28に一体的に繋がって、他端には結合部88が形成され」ていること、「トーションバー26は、巻取軸20の軸方向中間部にて巻取軸20の内側に設けられた結合部28を備え、相対回転が不能な状態で巻取軸20の内周壁に係合し」ていること、「ロックベース74には内周形状がトーションバー26の結合部88の外周形状に対応した嵌挿孔90が形成され、結合部88は嵌挿孔90に嵌め込まれ」ていること、及び、「ロックベース74は、巻取軸20に対して同軸的に相対回転可能に、巻取軸20の側壁18の側の端面で開口している嵌挿孔76に嵌め込まれている」ことから、軸方向他側では、トーションバー26の第2可変部86の端部に位置する結合部88がロックベース74に埋設された状態で(図1及び2も参照)、トーションバー26にロックベース74が設けられ、そのロックベース74は、巻取軸20の端面で開口している嵌挿孔76に嵌め込まれているから、巻取軸20の軸方向他側、すなわち、ロックベース74が設けられている側で、トーションバー26に対して、さらに何らかの機構ないし構成を付加しえる構造とはなっていない。
したがって、上記相違点に係る本願発明1のロック機構、すなわち、車両急減速時及び前記スプールが急激に引出方向へ回転した時の少なくも一方の時に前記プリテンショナ機構の作動と独立して作動されるロック機構が、周知のロック機構(周知技術)といえる(例えば、上記第5 3及び4を参照)としても、引用発明の巻取軸20の軸方向他側であるロックベース74が設けられている側において、トーションバー26(エネルギ吸収部材)に対して、さらにその周知のロック機構を設けられるものではない。

上記アのとおり、引用発明は、トーションバー26に対して、さらに何らかの機構ないし構成を付加しえる構造とはなっていないから、引用発明に、上記の周知のロック機構の適用は困難であるが、仮に、引用発明に、上記の周知のロック機構を適用して、トーションバー26の第2変形部86の軸方向他側に、車両急減速時及び前記スプールが急激に引出方向へ回転した時の少なくも一方の時に前記プリテンショナ機構の作動と独立して作動されるロック機構を採用し得たとしても、車両急減速時に、その独立して作動するロック機構を解除する手段は備えられていないから、引用発明の「ロックベース74」(ロック機構)の回転の規制を、「プランジャ84」等(切替機構)によって解除しても、プリテンショナ機構の作動と独立して作動されるロック機構は解除されず、すなわち、トーションバー26の第2変形部86の回転のロックは解除されず、小柄な乗員に対応できなくなるから、引用発明は、その作用効果を奏することができなくなってしまい、本願発明1の作用効果を奏することはできない。

上記相違点に係る引用発明の構成の、「ロックベース74」(ロック機構)の引出方向の回転の規制は、「加速度センサが車両の急減速状態を検出」し、「プリテンショナ42」が「動作」し、「シャフト50が回動する」ことによって行われ、プリテンショナ42の動作に連動するものであるといえるから、その連動の機能に係る「シャフト50」だけを除くようなことは想定し得ない。
また、引用発明において、分説(F)の構成は分説(E)の構成を前提としているといえる。
そこで、念のため、引用発明において、シャフト50及び第2ロックパウル72等の協働する部品を含めたロック機構及び切替機構の全体(分説(E)の構成及び分説(F)の構成)に替えて、上記の周知のロック機構の構成を採用した場合についても検討すると、この場合は、切替機構自体が存在しないものとなってしまうから、本願発明1に至ることはない。
なお、引用文献2は、上記の周知のロック機構(周知技術)の例示として示されたものではない(上記第5 2参照。)。

以上から、構造上、引用発明に上記周知技術を適用することはできず(上記ア)、引用発明に上記周知技術を適用しようとしても阻害要因があり(上記イ)、また、引用発明のロック機構及び切替機構に代えて上記周知技術を採用しても、本願発明1に至ることはないから(上記ウ)、本願発明1は、引用発明及び周知技術(引用文献3又は引用文献4等)に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2も、上記相違点に係る本願発明1の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び周知技術(引用文献3又は引用文献4等)に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1及び2は、上記相違点に係る本願発明1の構成を有するものとなっており、引用発明及び上記周知技術(引用文献3又は引用文献4等)に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-07-18 
出願番号 特願2012-82808(P2012-82808)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森本 康正三宅 龍平野口 絢子  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 出口 昌哉
氏原 康宏
発明の名称 ウェビング巻取装置  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  

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