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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1330469
審判番号 不服2016-11790  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-05 
確定日 2017-08-07 
事件の表示 特願2015-531949「ソフトウェア定義ネットワークアタッチ可能記憶システムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月20日国際公開、WO2014/042889、平成27年11月26日国内公表、特表2015-534175、請求項の数(21)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2013年8月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年9月14日(以下,「優先日」という。),米国,2013年2月5日,米国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 2月25日 :国内書面の提出
平成27年 4月 1日 :翻訳文,出願審査請求書,手続補正書
の提出
平成27年10月 8日付け :拒絶理由の通知
平成28年 1月12日 :意見書,手続補正書の提出
平成28年 4月 4日付け :拒絶査定
平成28年 8月 5日 :審判請求書の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成28年4月4日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-21に係る発明は,以下の引用文献1-4に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2005-92862号公報
2.特開平6-266600号公報
3.特開2004-240803号公報
4.国際公開第2010/144374号

第3 本願発明
本願請求項1-21に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明21」という。)は,平成28年1月12日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-21に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
複数の論理コンピュータシステム内でソフトウェア定義ネットワークアタッチ可能記憶システムを確立する方法であって,各コンピュータシステムは,メモリと,プロセッサと,記憶システムとを有し,
前記方法は,前記論理コンピュータシステム内でプログラムのセットを実行することを含み,
前記プログラムのセットは,(i)複数の名前空間サーバであって,各名前空間サーバは,名前空間の異なるパーティション内で自律的に動作する,複数の名前空間サーバと,(ii)複数のデータ空間サーバであって,各データ空間サーバは,前記記憶システムに関連付けられているデータ空間の割り当てられたパーティション内で動作する,複数のデータ空間サーバとを確立し,
(i)少なくとも1つの要求クライアントコンピュータからの所与のパス名要求を処理するために,前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータは,前記所与のパス名に基づいてハッシュ値を計算し,ハッシュテーブルとともに前記ハッシュ値を使用することにより前記名前空間サーバのうちの特定の1つの識別を取得し,
(ii)前記名前空間サーバのうちの前記特定の1つは,
(a)前記名前空間サーバのうちの前記特定の1つに対応する前記名前空間の前記異なるパーティションに関連付けられているファイルシステムメタデータをそのメモリに持続的に記憶することと,
(b)そのメモリに持続的に記憶されている前記メタデータを前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータからの前記所与の記憶システムパス名要求を処理することにおいて使用し,前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータにハンドルを返送することであって,前記ハンドルは,(i)前記データ空間サーバのうちの特定の1つ,および(ii)前記データ空間における特定の論理ブロックインデックスを識別する,ことと
を行うように構成され,
(iii)前記ハンドルは,前記データ空間サーバのうちの前記特定の1つを選択するために前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータによって使用され,
(iv)前記データ空間サーバのうちの前記特定の1つは,前記ハンドルにより識別される前記データ空間における前記特定の論理ブロックインデックスにアクセスすることによって前記所与のパス名要求を満たす,
方法。」

なお,本願発明2-21の概要は以下のとおりである。

本願発明2-21は,本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には,図面とともに次のA-Eの事項が記載されている。

A 「【0085】
第2の実施の形態は,本発明をストレージ・システム(ストレージ装置)に適用した場合の実施形態であり,クライアント,ディレクトリサーバ・クラスタシステム及びストレージによって,サーバ・クライアントシステムが構成されている。
【0086】
図11は,本発明の第2の実施の形態のストレージ・システムの構成を示したブロック図である。
【0087】
本実施の形態のストレージ・システムは,ディレクトリサーバ・クラスタ2600が,クライアント2000にファイルサービスを提供する。
【0088】
クライアント2000は,ディレクトリサーバ・クラスタ2600に対してファイルサービスを要求する。ディレクトリサーバ・クラスタ2600は,複数のディレクトリサーバ(既存ディレクトリサーバ2100及び追加ディレクトリサーバ2200)がネットワークによって疎結合されており,クライアント2000からは単一のディレクトリサーバとして見えるクラスタシステムである。
【0089】
ファイルの実体(データ)はストレージ2300に格納されている。ディレクトリサーバ・クラスタ2600とストレージ2300とは,SAN(Storage Area Network)2500によって接続されている。ディレクトリサーバ・クラスタ2600とSAN2500とはネットワーク2501を介して接続され,ストレージ2300とSAN2500とはネットワーク2502を介して接続されている。また,クライアント2000とディレクトリサーバ・クラスタ2600とは,サーバ間ネットワーク2400によって接続されている。」

B 「【0090】
一般的なファイルシステムは,ファイルの格納場所を指示する「ディレクトリ情報」と,ディレクトリ情報によって指示される「ファイルの実体」とからなり,ディレクトリ情報とファイルの実体(データ)は同一の記憶装置に格納される。
【0091】
本実施の形態のストレージ・システムでは,ディレクトリ情報はディレクトリサーバ・クラスタ2600に格納され,ファイルの実体はストレージ2300に格納される。そのため,ディレクトリ情報には,ファイルが格納されているストレージを示す情報と,該ストレージ内での格納位置を示す情報が記録される。
【0092】
これら複数のディレクトリサーバ(既存ディレクトリサーバ2100及び追加ディレクトリサーバ2200)はクラスタ構成をとっており,ディレクトリ情報は複数のディレクトリサーバ2200に分散して格納される。なお,あるファイルのディレクトリ情報を格納しているディレクトリサーバ2100を,そのファイルの「担当ディレクトリサーバ」と呼ぶ。あるファイルとそのファイルの担当ディレクトリサーバとの対応は,クライアント2000が保持するファイル割当て管理表2001に記録されている。なお,全てのクライアント2000は,同一内容のファイル管理表2001を持っている。
【0093】
このように,クライアント2000が,あるファイルとそのファイルの担当ディレクトリサーバとの対応を割当管理表2001が保持することによって,割当保持部が構成される。」

C 「【0094】
次に,クライアント2000が出すファイル取得要求を,このストレージ・システムが処理する手順について説明する。
【0095】
クライアント2000は,ストレージ・システムのディレクトリサーバ・クラスタ2600にファイル取得要求(メッセージ2401)を送信する。クライアント2000がファイルを取得するためには,まず,取得を要求するファイルの担当ディレクトリサーバを特定する必要がある。クライアント2000は,ファイルとそのファイルの担当ディレクトリサーバとの対応が記録されているファイル割当て管理表2001を参照し,取得を要求するファイルの担当ディレクトリサーバを特定する。次に,特定した担当ディレクトリサーバにファイル取得要求を送信する。
【0096】
ディレクトリサーバ2100は,クライアント2000からのファイル取得要求を受け取ると,ディレクトリ情報を参照して,該ファイルが格納されているストレージ2300を特定する。次に,特定したストレージ2300にファイルを要求する。ファイルの要求を受け取ったストレージ2300はファイルを送信し,ディレクトリサーバ2100はファイルを取得する。取得したファイルは,要求を送信したクライアント2000に対して送信される。」

D 「【0097】
ここで,ディレクトリサーバ2100のキャッシュについて説明する。
【0098】
一般に,ディレクトリサーバはキャッシュメモリ等のキャッシュを持っている。ディレクトリサーバ2100は,一度ストレージ2300から取得したファイルをメモリ上のキャッシュ領域に格納する。以降,ディレクトリサーバ2100は,同一のファイルの取得要求に対しては,キャッシングしたファイルを送信し,ストレージ2300からファイルを取得する処理を省略する。このようにすることで,ディレクトリサーバ2100からファイルを取得する処理の効率が向上する。」

E 「【0104】
既存ディレクトリサーバ2100から追加ディレクトリサーバ2200に,ファイルの担当を徐々に移管する方法について説明する。この移管は,クライアント2000が持つファイル割当て管理表2001の変更に,非特許文献1のようにハッシュ関数を用いることで実現できる。
【0105】
図12はファイル割当て管理表2001を変更する方法を模式的に示した説明図であり,ファイルの担当を徐々に移管する方法の一例を示す。このファイル割当て管理表2001は,ハッシュ関数2002と,サーバ名変換表2003から構成される。
【0106】
クライアント2000は,ファイル取得要求を送信する際に,まず,ファイル名をハッシュ関数2002に入力し,ファイル名をハッシュ値に変換する。なお,ここで変換されたハッシュ値の最大値は,ディレクトリサーバの総数よりも充分大きな値になるようにハッシュ関数を設定する。次に,変換したハッシュ値からサーバ名変換表2003を引くことで参照し,ハッシュ値とディレクトリサーバ名との対応を取得し,そのファイルの担当ディレクトリサーバ名を特定する。」

したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ストレージ・システムにおいてクライアントにファイルサービスを提供する方法であって(段落【0085】-【0087】),
クライアントと,ディレクトリ情報を格納する複数のディレクトリサーバが疎結合されたディレクトリサーバ・クラスタと,ファイルの実体を格納する複数のストレージとがネットワークを介して接続されてシステムを構成し(段落【0088】-【0089】,【0091】),
前記クライアントは,ハッシュ関数を用いてファイル名をハッシュ値に変換し,前記ハッシュ値とディレクトリサーバとの対応を取得し,担当のディレクトリサーバを特定し,特定したディレクトリサーバにファイル取得要求を送信し(段落【0092】-【0093】,【0095】,【0104】-【0106】),
前記ディレクトリサーバは,一度ストレージから取得したファイルを格納するキャッシュメモリを有するとともに,ファイルが格納されているストレージを示す情報と,ストレージ内での格納位置を示すディレクトリ情報が格納されており,クライアントからの前記ファイル取得要求を受け取ると,ファイルが格納されているストレージを特定し,特定したストレージからファイルを取得し,要求を送信したクライアントに前記ファイルを送信する(段落【0091】,【0096】,【0098】),方法。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には,図面とともに次のF-Gの事項が記載されている。

F 「【0018】
【実施例】
(実施例1)図1は,本発明を適用するのに好適なシステム構成を示している。共通の通信ネットワーク400に,L台のファイルサーバ計算機100と,M台のクライアント計算機300と,1台の位置サーバ計算機200が接続している。ファイルサーバ100,位置サーバ200には,データを永続的に保存できるディスク装置1000,2000が接続している。クライアント300には,コンソール3000が接続している。」

G 「【0040】(b)ファイル作成要求以外の処理
遠隔ファイル操作手段310は,ユーザのファイル作成以外の要求を受け取り,図6に示す処理750を行う。
【0041】ファイル作成以外の処理750は,まず,ステップ752で,位置サーバ200に,操作対象ファイルを保管するファイルサーバ100のネットワークアドレスを問い合わせる。具体的には,位置サーバ200の広域位置データベース検索手段220に,操作対象ファイルの名前(6a)とクライアント300のネットワークアドレス(6b)からなるメッセージM6を送信する。広域位置データベース検索手段220は,広域位置データベース210を検索して,ファイル6aを保管するファイルサーバ100のネットワークアドレス(7a)からなるメッセージM7を返信する(処理760)。
【0042】次に,ステップ754で,ファイルサーバ7aに,ファイル操作を要求する。具体的には,ファイルサーバ7aのファイル操作処理手段110に,操作コード(8a),操作対象のファイル名(8b),引数リスト(8c),クライアント300のネットワークアドレス(8d)からなるファイル操作要求M8を送信する。ファイル操作処理手段110は,後述する処理770を行い,処理結果(9a)からなるメッセージM9を返信する。
【0043】最後にステップ756で,処理結果9aをユーザに返答する。」

したがって,上記引用文献2には,
「位置サーバがファイルの位置情報をクライアントに返信し,返信された位置情報を利用してクライアントがファイルサーバにファイル操作を要求する」
旨の発明(以下,「引用文献2発明」という。)が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明の「ストレージ・システム」は,ネットワークに接続し,「ファイル」を格納して,「クライアント」にファイルサービスを提供することから,“ネットワークアタッチ可能記憶システム”であるといえるから,本願発明1の「ソフトウェア定義ネットワークアタッチ可能記憶システム」と,“ネットワークアタッチ可能記憶システム”である点で共通するといえる。
また,引用発明の「ストレージ・システム」は,「メモリ」と「プロセッサ」と「記憶システム」を有する複数の「コンピュータシステム」により実現されることは明らかであり,引用発明の「ファイルサービスを提供する方法」は,「コンピュータシステム」内でプログラムのセットを実行することを含むことも明らかである。
そうすると,引用発明の「ストレージ・システムにおいてクライアントにファイルサービスを提供する方法」と,
本願発明1の「複数の論理コンピュータシステム内でソフトウェア定義ネットワークアタッチ可能記憶システムを確立する方法であって,各コンピュータシステムは,メモリと,プロセッサと,記憶システムとを有し,前記方法は,前記論理コンピュータシステム内でプログラムのセットを実行することを含み,」とは,後記する点で相違するものの,
“複数のコンピュータシステム内でネットワークアタッチ可能記憶システムを確立する方法であって,各コンピュータシステムは,メモリと,プロセッサと,記憶システムとを有し,前記方法は,前記コンピュータシステム内でプログラムのセットを実行することを含み,前記プログラムのセット”が“ネットワークアタッチ可能記憶システムを確立する”ための処理を実行する点で共通しているといえる。

イ 引用発明の「ディレクトリサーバ」は,ファイルの「ディレクトリ情報」を格納し,複数が疎結合されて,「ディレクトリサーバ・クラスタ」を構成していることから,本願発明1の「名前空間サーバ」に相当するといえる。
また,引用発明では,「ファイル名」の「ハッシュ値」と特定の「ディレクトリサーバ」とが対応していることから,「ディレクトリ」空間の異なるパーティション内で自律的に動作することは明らかである。
そうすると,引用発明の「ディレクトリ情報を格納する複数のディレクトリサーバが疎結合されたディレクトリサーバ・クラスタ」と,
本願発明1の「(i)複数の名前空間サーバであって,各名前空間サーバは,名前空間の異なるパーティション内で自律的に動作する,複数の名前空間サーバ」とに実質的な違いはない。

ウ 引用発明の「ストレージ」は複数存在し,ファイルの実体を格納し,ファイルの取得要求に応じて,複数の中から「ディレクトリサーバ」により特定されることから,本願発明1の「データ空間サーバ」に相当するといえる。
また,引用発明では,「ストレージ」は,「ストレージ・システム」に関連付けられているストレージ空間の割り当てられたパーティション内で動作することは明らかである。
そうすると,引用発明の「ファイルの実体を格納する複数のストレージ」と,
本願発明1の「(ii)複数のデータ空間サーバであって,各データ空間サーバは,前記記憶システムに関連付けられているデータ空間の割り当てられたパーティション内で動作する,複数のデータ空間サーバ」とに実質的な違いはない。

エ 引用発明では,「前記クライアントは,ハッシュ関数を用いてファイル名をハッシュ値に変換し,前記ハッシュ値とディレクトリサーバとの対応を取得し,担当のディレクトリサーバを特定し,特定したディレクトリサーバにファイル取得要求を送信」するところ,「ハッシュ値」と「ディレクトリサーバ」との対応を取得するための「ハッシュテーブル」を備えていることは明らかであるから,「クライアント」からの「ファイル名」を処理するために,前記「クライアント」は,前記「ファイル名」に基づいて「ハッシュ値」を計算し,「ハッシュテーブル」とともに前記「ハッシュ値」を使用することにより「ディレクトリサーバ」のうちの特定の1つの識別を取得するといえる。
また,引用発明の「ファイル名」と本願発明1の「パス名」とは,上位概念において,ファイルを指定するための“ファイル指定情報”という点で一致するといえる。
そうすると,引用発明の「前記クライアントは,ハッシュ関数を用いてファイル名をハッシュ値に変換し,前記ハッシュ値とディレクトリサーバとの対応を取得し,担当のディレクトリサーバを特定し,特定したディレクトリサーバにファイル取得要求を送信」することと,
本願発明1の「(i)少なくとも1つの要求クライアントコンピュータからの所与のパス名要求を処理するために,前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータは,前記所与のパス名に基づいてハッシュ値を計算し,ハッシュテーブルとともに前記ハッシュ値を使用することにより前記名前空間サーバのうちの特定の1つの識別を取得」することとは,後記する点で相違するものの,
“(i)少なくとも1つの要求クライアントコンピュータからの所与のファイル指定情報を処理するために,前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータは,前記所与のファイル指定情報に基づいてハッシュ値を計算し,ハッシュテーブルとともに前記ハッシュ値を使用することにより前記名前空間サーバのうちの特定の1つの識別を取得し,”である点で共通しているといえる。

オ 引用発明では,「前記ディレクトリサーバは,一度ストレージから取得したファイルを格納するキャッシュメモリを有するとともに,ファイルが格納されているストレージを示す情報と,ストレージ内での格納位置を示すディレクトリ情報が格納されており,クライアントからの前記ファイル取得要求を受け取ると,ファイルが格納されているストレージを特定」するところ,「キャッシュメモリ」に格納する「一度ストレージから取得したファイル」は,「ディレクトリサーバ」のうちの特定の1つに対応するパーティションに関連付けられていることは明らかであり,「キャッシュメモリ」に「ディレクトリ情報」を格納することは言及されていないことから,「ディレクトリサーバ」のうちの特定の1つは,対応する“名前空間”の異なるパーティションに関連付けられている「一度ストレージから取得したファイル」を「キャッシュメモリ」に格納し,前記「キャッシュメモリ」に格納されている前記「一度ストレージから取得したファイル」を「クライアント」からの“ファイル指定情報”を処理することにおいて使用するとみることができる。
また,上記イでの検討から,引用発明の「ディレクトリサーバ」は本願発明1の「名前空間サーバ」に相当することのほか,引用発明の「キャッシュメモリ」は本願発明1の「メモリ」に相当し,引用発明の「一度ストレージから取得したファイル」と本願発明1の「ファイルシステムメタデータ」とは,上位概念において,“ファイル関連データ”である点で一致するといえる。
そうすると,引用発明の「前記ディレクトリサーバは,一度ストレージから取得したファイルを格納するキャッシュメモリを有するとともに,ファイルが格納されているストレージを示す情報と,ストレージ内での格納位置を示すディレクトリ情報が格納されており,クライアントからの前記ファイル取得要求を受け取ると,ファイルが格納されているストレージを特定」することと,
本願発明1の「(ii)前記名前空間サーバのうちの前記特定の1つは,
(a)前記名前空間サーバのうちの前記特定の1つに対応する前記名前空間の前記異なるパーティションに関連付けられているファイルシステムメタデータをそのメモリに持続的に記憶することと,
(b)そのメモリに持続的に記憶されている前記メタデータを前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータからの前記所与の記憶システムパス名要求を処理することにおいて使用し,前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータにハンドルを返送することであって,前記ハンドルは,(i)前記データ空間サーバのうちの特定の1つ,および(ii)前記データ空間における特定の論理ブロックインデックスを識別する,ことと
を行うように構成され」ることとは,後記する点で相違するものの,
“(ii)前記名前空間サーバのうちの前記特定の1つは,
(a)前記名前空間サーバのうちの前記特定の1つに対応する前記名前空間の前記異なるパーティションに関連付けられているファイル関連データをキャッシュメモリに格納することと,
(b)前記キャッシュメモリに格納されている前記ファイル関連データを前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータからの前記所与のファイル指定情報を処理することにおいて使用する”点で共通しているといえる。

カ 引用発明では,「ディレクトリサーバ」が,「特定したストレージからファイルを取得し,要求を送信したクライアントに前記ファイルを送信する」ところ,「ディレクトリサーバ」により特定された「ストレージ」は,「ファイル名」に対応する「ファイル」を取得し,「ディレクトリサーバ」に送信することは自明であるから,「ストレージ」のうちの特定の1つは,所与の“ファイル指定情報”に対応する“データ空間”にアクセスすることによって,前記所与の“ファイル指定情報”に対応する「ファイル」を送信するといえる。
また,上記ウでの検討から,引用発明の「ストレージ」は本願発明1の「データ空間サーバ」に相当する。
そうすると,引用発明の「ディレクトリサーバ」が,「特定したストレージからファイルを取得し,要求を送信したクライアントに前記ファイルを送信する」ことと,
本願発明1の「(iii)前記ハンドルは,前記データ空間サーバのうちの前記特定の1つを選択するために前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータによって使用され,
(iv)前記データ空間サーバのうちの前記特定の1つは,前記ハンドルにより識別される前記データ空間における前記特定の論理ブロックインデックスにアクセスすることによって前記所与のパス名要求を満たす,」こととは,後記する点で相違するものの,
“(iii)前記データ空間サーバのうちの特定の1つは,前記所与のファイル指定情報に対応する前記データ空間にアクセスすることによって,前記所与のファイル指定情報に対応するファイルを送信する”点で共通しているといえる。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)

「複数のコンピュータシステム内でネットワークアタッチ可能記憶システムを確立する方法であって,各コンピュータシステムは,メモリと,プロセッサと,記憶システムとを有し,
前記方法は,前記コンピュータシステム内でプログラムのセットを実行することを含み,
前記プログラムのセットは,(i)複数の名前空間サーバであって,各名前空間サーバは,名前空間の異なるパーティション内で自律的に動作する,複数の名前空間サーバと,
(ii)複数のデータ空間サーバであって,各データ空間サーバは,前記記憶システムに関連付けられているデータ空間の割り当てられたパーティション内で動作する,複数のデータ空間サーバとを確立し,
(i)少なくとも1つの要求クライアントコンピュータからの所与のファイル指定情報を処理するために,前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータは,前記所与のファイル指定情報に基づいてハッシュ値を計算し,ハッシュテーブルとともに前記ハッシュ値を使用することにより前記名前空間サーバのうちの特定の1つの識別を取得し,
(ii)前記名前空間サーバのうちの前記特定の1つは,
(a)前記名前空間サーバのうちの前記特定の1つに対応する前記名前空間の前記異なるパーティションに関連付けられているファイル関連データをキャッシュメモリに格納することと,
(b)前記キャッシュメモリに格納されている前記ファイル関連データを前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータからの前記所与のファイル指定情報を処理することにおいて使用する,ことと
を行うように構成され,
(iii)前記データ空間サーバのうちの特定の1つは,前記所与のファイル指定情報に対応する前記データ空間にアクセスすることによって,前記所与のファイル指定情報に対応するファイルを送信する,
方法。」

(相違点)

(相違点1)
本願発明1は,「複数の論理コンピュータシステム内でソフトウェア定義ネットワークアタッチ可能記憶システムを確立する方法」であるのに対して,
引用発明は,「ストレージ・システムにおいてクライアントにファイルサービスを提供する方法」であり,複数の「論理コンピュータシステム」で実現することについて言及されていない点。

(相違点2)
ファイル指定情報に基づく名前空間サーバの識別の取得に関し,本願発明1では,「要求クライアントコンピュータからの所与のパス名要求」に基づく「ハッシュ値」を使用することにより,「名前空間サーバ」の識別を取得するのに対して,
引用発明では,「クライアント」が指定した「ファイル名」を「ハッシュ値」に変換し,「ハッシュ値」に基づき担当の「ディレクトリサーバ」を特定する点。

(相違点3)
名前空間サーバにおけるファイル関連データの使用に関し,本願発明1では,「名前空間サーバ」が「名前空間の前記異なるパーティションに関連付けられているファイルシステムメタデータをそのメモリに持続的に記憶」し,「そのメモリに持続的に記憶されている前記メタデータを前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータからの前記所与の記憶システムパス名要求を処理することにおいて使用し,前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータにハンドルを返送する」ものであって,「前記ハンドルは,(i)前記データ空間サーバのうちの特定の1つ,および(ii)前記データ空間における特定の論理ブロックインデックスを識別する」のに対して,
引用発明では,「前記ディレクトリサーバは,一度ストレージから取得したファイルを格納するキャッシュメモリを有」し,「ディレクトリ情報」を用いて,「クライアントからの前記ファイル取得要求を受け取ると,ファイルが格納されているストレージを特定」するものの,「キャッシュメモリ」に「ファイルシステムメタデータ」を記憶して,ファイル取得要求の処理に用いること,ファイル取得要求を行う「クライアント」に「ハンドル」を返送することについて言及されていない点。

(相違点4)
データ空間サーバのファイルの送信に関し,本願発明1では,「データ空間サーバ」は,「データ空間サーバのうちの前記特定の1つを選択するために前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータによって使用され」た「ハンドルにより識別される前記データ空間における前記特定の論理ブロックインデックスにアクセスすることによって」,「所与のパス名要求を満たす」「ファイル」を「要求クライアントコンピュータ」に送信するのに対して,
引用発明では,「ストレージ」は「ファイル名」に対応する「ファイル」を取得し,「ディレクトリサーバ」に送信するものの,「ファイル」を「クライアント」から送信された「ハンドル」を使用して取得すること,「ストレージ」が取得した「ファイル」を「クライアント」に送信することについて言及されていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点2と相違点3とは関連しているので,併せて検討すると,
引用発明では,「前記ディレクトリサーバは,一度ストレージから取得したファイルを格納するキャッシュメモリを有」し,「ディレクトリ情報」を用いて,「クライアントからの前記ファイル取得要求を受け取ると,ファイルが格納されているストレージを特定」するところ,「キャッシュメモリ」は一度ストレージから取得したファイルを格納するものであって,「ストレージを示す情報と,ストレージ内での格納位置を示すディレクトリ情報」を当該「キャッシュメモリ」に格納することについては記載されておらず,「クライアントからの前記ファイル取得要求を受け取ると,」「キャッシュメモリ」に記憶される「特定の1つに対応する前記名前空間の前記異なるパーティションに関連付けられているファイルシステムメタデータ」を用いて「ファイルが格納されているストレージを特定」することの動機付けを直ちに見い出すことはできない。
また,引用発明の「ディレクトリサーバ」において,特定した「ストレージ」に関連する情報を「クライアント」に返送することについては,確かに,引用文献2発明のような,「位置サーバがファイルの位置情報をクライアントに返信し,返信された位置情報を利用してクライアントがファイルサーバにファイル操作を要求する」旨の発明は,本願の優先日前には当該技術分野の公知技術であった。そして,この公知技術を引用発明に適用することにより,引用発明の「ディレクトリサーバ」において,「クライアント」からの「ファイル取得要求」に応じて特定した「ストレージ」に関連する情報を「クライアント」に返送することは格別の困難性は認められないものの,引用発明の「ディレクトリサーバ」が,「パス名要求」に応じて特定した「ストレージ」に関連する「ハンドル」を「クライアント」に返送すること,前記「ハンドル」は,「ストレージ」の特定の1つ,およびデータ空間における特定の論理ブロックインデックスを識別することが設計的事項であったとまではいえない。
そうすると,引用発明において引用文献2発明を適用したとしても,要求クライアントがファイルのパス名を指定し,ディレクトリサーバが名前空間の異なるパーティションに関連付けられているファイルシステムメタデータをキャッシュメモリに記憶し,前記メタデータをクライアントからの所与の記憶システムパス名要求を処理することにおいて使用し,前記クライアントにハンドルを返送すること,前記ハンドルは,ストレージの特定の1つ,およびデータ空間における特定の論理ブロックインデックスを識別すること,すなわち,上記相違点2,3に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たものであるとすることはできない。

したがって,上記相違点1,4について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用文献2発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2-21について
本願発明2-21は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明1の「名前空間サーバ」が「名前空間の前記異なるパーティションに関連付けられているファイルシステムメタデータをそのメモリに持続的に記憶」し,「そのメモリに持続的に記憶されている前記メタデータを前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータからの前記所与の記憶システムパス名要求を処理することにおいて使用し,前記少なくとも1つの要求クライアントコンピュータにハンドルを返送する」ものであって,「前記ハンドルは,(i)前記データ空間サーバのうちの特定の1つ,および(ii)前記データ空間における特定の論理ブロックインデックスを識別する」こと,と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明1-21は,当業者が引用発明及び引用文献2発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-07-26 
出願番号 特願2015-531949(P2015-531949)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 漆原 孝治  
特許庁審判長 高木 進
特許庁審判官 山崎 慎一
辻本 泰隆
発明の名称 ソフトウェア定義ネットワークアタッチ可能記憶システムおよび方法  
代理人 山本 健策  
代理人 石川 大輔  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  
代理人 飯田 貴敏  

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