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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1330501
審判番号 不服2016-3704  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-09 
確定日 2017-07-12 
事件の表示 特願2013-161854「線維芽細胞成長因子(FGF)のリモデリングと糖質ペグ化」拒絶査定不服審判事件〔平成26年1月23日出願公開、特開2014-12004〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明

本願は,平成17年10月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2004年10月29日 米国)を国際出願日とする特願2007-539238号の一部を,特許法第44条第1項の規定により,平成25年8月2日に新たな特許出願として分割したものである。
以降の手続は次のとおりである。

平成26年12月18日付け 拒絶理由通知書
平成27年 6月 5日 意見書・手続補正書
平成27年10月29日付け 拒絶査定
平成28年 3月 9日 審判請求書
平成28年 5月19日 手続補正書(方式)

そして,本願の請求項1?20に係る発明は,平成27年6月5日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?20に記載されたとおりのものと認められるところ,その請求項1には次のとおり記載されている。

「【請求項1】
線維芽細胞成長因子(FGF)複合物が
変異FGF-21ペプチド及び修飾基からなり、
該修飾基は、ポリマー型修飾基であって、無傷グリコシル結合基により該ペプチドのあらかじめ洗濯されたグリコシル又はアミノ残基位で該ペプチドと共有結合し、
該変異FGF-21ペプチドは、対応する野生型FGF-21には存在しない新規導入のN連結又はO連結グリコシル化部位を含み、
該対応する野生型FGF-21は、SEQ ID NO.146と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含み、
前記変異FGF-21ペプチドはX_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列を含み、B、O、U,2は独立に任意の非荷電アミノ酸、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)から選択し、少なくともXはT又はSのいずれかを選び且つGalNAc転移酵素用基質であり、GalNAcは少なくともT又はSに付加し、記号n、r、s、a、oは独立に0-3を表す、FGF複合物。」

ただし,平成28年3月9日付け審判請求書の請求の理由を変更する平成28年5月19日付け手続補正書(方式)において審判請求人が主張しているとおり,上記の請求項1の記載において,「洗濯された」は「選択された」の誤記であることが明白であるから,請求項1に記載された発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりであると認める。

「【請求項1】
線維芽細胞成長因子(FGF)複合物が
変異FGF-21ペプチド及び修飾基からなり、
該修飾基は、ポリマー型修飾基であって、無傷グリコシル結合基により該ペプチドのあらかじめ選択されたグリコシル又はアミノ残基位で該ペプチドと共有結合し、
該変異FGF-21ペプチドは、対応する野生型FGF-21には存在しない新規導入のN連結又はO連結グリコシル化部位を含み、
該対応する野生型FGF-21は、SEQ ID NO.146と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含み、
前記変異FGF-21ペプチドはX_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列を含み、B、O、U,2は独立に任意の非荷電アミノ酸、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)から選択し、少なくともXはT又はSのいずれかを選び且つGalNAc転移酵素用基質であり、GalNAcは少なくともT又はSに付加し、記号n、r、s、a、oは独立に0-3を表す、FGF複合物。」

2 原査定の理由

平成26年12月18日付け拒絶理由通知書において,原審審査官は,一般に,アミノ酸変異によってタンパク質の機能が変化すると考えられるところ,本願発明の各FGF変異体について実際に機能を保持していることを示す実験データが開示されておらず,また,本願出願時の技術常識を参酌しても本願発明の全てのFGF複合物が機能を保持していると推認できないとの判断を示した。そして,機能が不明なFGF複合物等について技術的に意味のある特定の用途を推認できないから,本件出願が特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていないこと,及び,天然FGFに比し改良された薬動力学物性を有するFGFペプチド複合体を提供するという本願発明の課題を解決するための手段が特許請求の範囲に反映されておらず,明細書に記載された範囲を超えるものであるから,第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことについて,拒絶理由を通知した。
当該拒絶理由に対し,出願人は,平成27年6月5日付け手続補正書によって特許請求の範囲を補正し,さらに,同日付け意見書において当該拒絶理由が解消するとの主張を行った。
しかしながら,平成27年10月29日付け拒絶査定において,原審審査官は,出願人が主張の根拠とする本願明細書の実施例4には変異ペプチドやグリコシル化したFGF複合体について確認されていないこと,及び,同意見書で示された「生理学的活性を測定するための実験」についても実験データが示されていない上に明細書に記載されていたものではないため参酌できないことから,出願人の主張を採用することはできないとした。

3 本件出願日当時の技術常識

(1)本件出願時当時において公表されていた引用例1(Biophysical Journal,2001年2月,Vol.80,p.952-960)は,「タンパク質におけるO-グリコシル化部位のデータ分析」と題する学術論文であって,次の記載がある。なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。

(a)「O-グリコシル化されたセリン/スレオニンの周辺のアミノ酸配列の観点の研究のため,統計的分析が行われた。」(第952頁要約第1?2行)

(b)「現在までにO-グリコシル化のための意見が一致する主要なアミノ酸配列は特定されていない。異なる著者がO-グリコシル化のための異なる構造的モチーフを提案している。」(第952頁右欄第1?4行)

(c)「データベースは,992のグリコシル化された部位を含む180の糖タンパク質から構成される。また,これらの糖タンパク質は,8952のグリコシル化されていないセリン及びスレオニン残基を有しており,それらは材料と方法で言及された選択に基づいて比較研究のために利用される。」(第953頁右欄下から第21?17行)

(d)「グリコシル化部位周辺の特定の位置におけるアミノ酸残基の選択的発生を評価するため,偏差値(DP)と呼ばれる数量を計算した。・・・正のDP(X)_(P)は,Pの位置におけるアミノ酸Xの肯定的な選択性を示し,負のDP(X)_(P)は,Pの位置におけるアミノ酸Xの否定的な選択性を示す。得られたDP値の統計的な重要性は,実測数と予測数の違いに基づく。」(第953頁左欄下から第2行?右欄第10行)

(e)「多重グリコシル化は,近接して位置するO-グリコシル化部位の集合を含む。すなわち,隣接し連続するセリン及びスレオニン残基がグリコシル化されたものであって,我々のデータセットのうち98の糖タンパク質で発見された。表1には,DP値及びσ値が算出され,統計的に重要なDP値を有する糖タンパク質がアスタリスクによって示されている。その集合の中のグリコシル化されたセリンとスレオニンの周辺においては,プロリン,セリン,スレオニン,及び,アラニンがとても好適である。プロリンのDP値は+3の位置(262)で最大であって,次が+7の位置(165)の値であり,-8の位置(-9)で最小である。」(第954頁左欄第20?29行)

(f)「表1 データベース全体を用いた,多重グリコシル化配列の-10?+10位のアミノ酸のDP値

」(第956頁表1)


(g)「孤立した部位に対して同一の計算を繰り返した。DPとそれに対応するσ値は,この集合においてもプロリンが統計的に重要な正のDP値を有することを明らかにした(表2)。プロリンのDP値は,-16から354まで多様であり,+3の位置(354)で最大であって,次が-1の位置(280)の値であった。」(第954頁左欄第41?46行)

(h)「表2 データベース全体を用いた,単一グリコシル化配列の-10?+10位のアミノ酸のDP値

」(第956頁表2)

(i)「その他の全てのアミノ酸は,多重及び単一のグリコシル化配列のために,負のDP値もしくは重要ではない正のDP値を示す。システインは統計的に意味のあるマイナスのDP値を有している(表1及び表2)。システインが二硫酸結合を形成する能力はグリコシル化を阻害する可能性があり,それによってシステイン残基付近のグリコシル化部位の発生頻度が低いことが説明できる。芳香族アミノ酸であるフェニルアラニン,トリプトファン,及び,チロシンも統計的に意味のある負のDP値を有しており,これは,O-グリコシル化部位付近の芳香族アミノ酸がより好ましくないことを示唆する。」(第954頁右欄第4?13行)

(j)「プロリンはスレオニンのグリコシル化に有利である一方,-2及び+2の位置のプロリンの存在は,ウィンドウサイズに関わらず,スレオニンのグリコシル化よりセリンのグリコシル化に対して有利であった。また,-1及び+3の位置のプロリン残基の際立った数が存在しているが,それは,ウィンドウサイズの変化に関わらず変わりなかった。プロリン残基は,グリコシル化部位からさらに離れて位置し,±3を越えてプロリンの数が少ない場合には,より小さいDP値を示す。これは,プロリンが±3を越える範囲で際立った効果を有していない可能性を示す。」(第954頁右欄第31?40行)

(k)「プロリンはグリコシル化部位付近の多くの場所で優先的に存在するものの,特に-1及び+3の位置にある時にO-グリコシル化を大きく有利にする。これはプロリンが,N-グリコシル化において消極的な役割を果たすのに対して,O-グリコシル化を導く際の構造的な役割を果たすことを示しているかもしれない。グリコシル化部位がセリンである場合,プロリンは-2と+2の位置においてより高い頻度で存在する。」(第959頁左欄第1?8行)

(l)「前記で検討したとおり,97のタンパク質(54%)において,ヒドロキシアミノ酸に結合する炭水化物成分がGalNAcであるムチン型のグリコシル化が生じる。・・・単一グリコシル化配列については統計解析のための十分なデータが不足していたため,多重グリコシル化配列について偏差値計算を行った(表3)。」(第957頁左欄下から第2行?右欄第1行・・・第8?11行)

(m)「表3 ムチン型グリコシル化における多重グリコシル化配列の-10?+10位のアミノ酸のDP値

」(第958頁表3)

(2)引用例1の前記記載事項(a)?(m)を総合すると,本件出願日当時,「糖タンパク質においてセリンやスレオニンへのGalNAc転移などのO-連結グリコシル化が生じる頻度は,その前後のアミノ酸配列によって大きく異なる場合が存在すること」が技術常識であった。

4 当審の判断

本願発明には,「前記変異FGF-21ペプチドはX_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列を含み、B、O、U,2は独立に任意の非荷電アミノ酸、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)から選択し、少なくともXはT又はSのいずれかを選び且つGalNAc転移酵素用基質であり、GalNAcは少なくともT又はSに付加し、記号n、r、s、a、oは独立に0-3を表す」との事項が含まれている。
ここで,平成26年12月18日付け拒絶理由通知書において,原審審査官が示したように,本願発明の課題は,発明の詳細な説明の【0025】に記載されているとおり,「対応天然(非修飾)FGFに比し改良された薬動力学物性を有する新規FGFペプチド複合体を得る」ことである。
しかしながら,「X_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列」について,発明の詳細な説明の【0442】には,「SEQ ID NO:323?326」の具体的な配列が記載されているのみであって,発明の詳細な説明の他所を参照しても,本願発明のFGF複合物について,薬動力学物性等の具体的な実験データが記載されておらず,どのような化学的もしくは生物学的な性質を有するものか不明である。また,「X_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列」には,「SEQ ID NO:323?326」以外の多数の配列が包含されるものの,発明の詳細な説明において,それらの配列に共通する技術内容が説明されている訳ではなく,「SEQ ID NO:323?326」の配列から「X_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列」へ拡張することについて技術的根拠も示されていないため,本願発明のFGF複合物が本願発明の課題を解決することを確認することができない
また,上記「3 本件出願日当時の技術常識」に示されるとおり,「糖タンパク質においてO-連結グリコシル化が生じる頻度は,その前後のアミノ酸配列によって大きく異なる場合が存在すること」が技術常識であったことを参酌すると,「X_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列」に包含される多様な配列において同等の薬動力学物性が発揮されるか否かについては,特に,次の(1)?(4)の理由から合理的な疑いがある。

(1)本願発明の「X_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列」において,「記号n、r、s、a、oは独立に0-3を表す」とされているところ,「記号r,s,a,o」が全て「3」であるような大きな数である場合には,O-グリコシル化部位である第173位のセリン残基またはスレオニン残基と第178位のプロリン残基との距離が12残基以上も離れることとなる。他方,引用例1の上記記載事項(j)には,プロリン残基がO-グリコシル化部位から±3を越える位置に離れて存在している場合にはグリコシル化が起こりにくくなることが示されているところ,本願発明のように12残基以上も離れる場合においては,天然FGFを用いた場合と比較して薬動力学物性改良されているとはいえない可能性が高いと考えられる。

(2)本願発明の「X_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列」において,「記号n、r、s、a、oは独立に0-3を表す」とされているところ,「記号n」が「0」の場合においては,天然FGFに存在していた第173位セリン残基が存在しなくなる結果,この部分での「O連結グリコシル化」が生ずる可能性が消滅することになる。このような場合においては,天然FGFを用いた場合と比較して薬動力学物性改良されているとはいえない可能性が高いと考えられる。

(3)本願発明の「X_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列」において,「B、O、U、2は独立に任意の非荷電アミノ酸,グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)から選択し」とされているところ,「B、O、U、2」には,システイン,フェニルアラニン,トリプトファン,及び,チロシンを選択する場合も包含されている。他方,引用例1の上記記載事項(i)によれば,これらのアミノ酸残基の付近ではグリコシル化の発生頻度が低いことが知られているところ,本願発明において「B、O、U、2」として,システイン,フェニルアラニン,トリプトファン,及び,チロシンを選択した場合には,天然配列の「グルタミン,グリシン,アルギニン,セリン」である場合と比較して,グリコシル化が起こりづらくなり,結果として薬動力学物性改良されているとはいえないことになると考えられる。

(4)引用例1の上記記載事項(c)には,データベースに収録されている180の糖タンパク質が992のグリコシル化部位を含む一方,8952のグリコシル化されていないセリン及びスレオニン残基を含むことが記載されているように,セリン及びスレオニン残基が存在したとしても,実際にグリコシル化が起こる確率が高いとは言えない。それに加えて,引用例1の特に上記記載事項(f)及び(h)に示されているように,プロリンのみならず,その他のアミノ酸配列によってもO-グリコシル化の発生頻度が大きく異なるものであるし,上記記載事項(j)及び(k)によれば,O-グリコシル化部位がスレオニンとセリンとの場合で,プロリンの好適な位置も異なることも知られている。このような事情が存在するにも関わらず,本願発明の「X_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列」には非常に多くの配列が包含されているため,あらゆる配列を選択した場合において天然FGFを用いた場合と比較して同等以上の薬動力学物性を発揮できると考えることは適切ではない。

以上の検討結果を踏まえると,本願発明の「X_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列」に包含される多様な配列の全てについて,発明の詳細な説明には,天然FGFの配列を用いた場合と比較して優れた薬動力学物性を発揮できると確信できるだけの根拠が示されておらず,また,引用例1の記載事項に鑑みると,本願発明には,天然FGFの配列を用いた場合と比較して,むしろ薬動力学物性改良されているとはいえない場合も包含されている可能性が高いと考えられる。

したがって,発明の詳細な説明には,本願発明の「X_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列」について,天然FGF-21に比し改良された薬動力学物性を有するものとして当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されていると言うことはできないから,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
また,本願発明は,その「X_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列」の全範囲について,天然FGF-21に比し改良された薬動力学物性を有するという課題を解決できるものと,当業者が認識できるように発明の詳細な説明に記載されているとは認められないから,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

5 審判請求人の主張

平成27年10月29日付け拒絶査定で示された理由2及び理由3に対し,審判請求人は,平成28年3月9日付け審判請求書の請求の理由を変更する平成28年5月19日付け手続補正書(方式)において,特にグリコシル化部位付近のアミノ酸配列が薬動力学活性に与える影響の観点等から,次のとおり主張を行っている。

(1)「プロリンは多くの場合ターンかループのようなタンパク質表面にみられます。グリコシル構造は大きく、溶媒に晒されたタンパク質のアミノ酸側鎖にのみ付着することができるので、グリコシル化部位もタンパク質表面にある必要があります。・・・
このようなことから、新規導入グリコシル化部位の位置として、プロリン残基の隣又は近傍が選択されたものです。なぜなら、出願当時において、本願発明者らはそれがFGF-21ペプチドにおいて溶媒に晒された表面上の位置である確率が非常に高いと認識していたからであります。」

(2)「本願発明に係る変異FGF-21ペプチドの生物学的活性に関しては、当業者は標準的な方法でそれぞれの変異FGF-21ペプチドの生物学的活性を測定することができます。変異FGF-21ペプチドが溶液でなくバクテリア細胞の小胞体で発現するとしても、タンパク質のリフォールディングはタンパク質化学の分野の標準測定の一つであります。」

(3)「変異FGF-21複合物の可溶性実験の結果である、以下の参考表1を本願発明の参考資料として添付致します。・・・173、176、177残基目に変異を有しており173-177残基目の変異を有する配列が、同様に可溶性を有するとお分かりいただけると存じます。」

審判請求人の主張(1)について検討する。
引用例1の上記記載事項(c)?(f)からも明らかなように,天然配列の領域11(a)には,第172位と第177位にセリン残基,第178位にプロリン残基が存在しているから,天然配列においてグリコシル化が生じる可能性が高いと考えられる。他方,上記4において検討したとおり,本願発明の「X_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列」に包含される多様な配列において,全般的に天然FGFを用いた場合と比較して薬動力学物性が改良されることは具体的に説明されていない。
したがって,審判請求人の主張(1)を採用することができない。

審判請求人の主張(2)について検討する。
生理学的活性を測定する標準的な方法が存在するか否かは本拒絶理由を解消する上での本質的な問題ではない。標準的な方法であるか否かに関わらず,何らかの客観的な測定手段を用いて,本願発明の「X_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列」を含む多様な変異FGF-21が天然FGFと比較して薬動力学物性が改良されるかどうかについて,発明の詳細な説明において実際に確認されておらず,また,主張(2)においてもその点について十分に論じられていない。
したがって,審判請求人の主張(2)を採用することができない。

審判請求人の主張(3)について検討する。
平成28年3月9日付け審判請求書の請求の理由を変更する平成28年5月19日付け手続補正書(方式)の説明によれば,参考表1の一段目では「SEQ ID NO:324」,2段目では「SEQ ID NO:325」または「SEQ ID NO:326」の配列について可溶性が示されている。
しかしながら,仮に本願発明の特定の実施態様において可溶性が確認されたとしても,「X_(n)O_(r)U_(s)2_(a)B_(o)P^(178)のアミノ酸配列」に包含されるあらゆるアミノ酸配列において,参考表1と同等の薬動力学物性が得られることについて,発明の詳細な説明に具体的に記載されていないことは上記4で検討したとおりであるし,当該手続補正書(方式)においてもその点については具体的に反証されていない。
したがって,審判請求人の主張(3)を採用することができない。

6 むすび

以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,特許法第36条第4項第1号及び第36条第6項第1号の規定により,特許を受けることができないので,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-08 
結審通知日 2017-02-14 
審決日 2017-02-28 
出願番号 特願2013-161854(P2013-161854)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 537- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 茜  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 山崎 利直
長井 啓子
発明の名称 線維芽細胞成長因子(FGF)のリモデリングと糖質ペグ化  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 ▲吉▼川 俊雄  
代理人 本田 淳  

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