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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04M
管理番号 1330511
審判番号 不服2016-946  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-21 
確定日 2017-07-11 
事件の表示 特願2013-101661「シャットダウン後にワイヤレス装置の位置を決定する装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月31日出願公開,特開2013-225861〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は,2013年4月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年4月23日 米国)を出願日とする外国語書面出願であって,平成27年9月15日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成28年1月21日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに,同日付けで誤訳訂正がされ,その後,当審より,同年7月21日付けで拒絶理由通知がされ,これに対し,平成29年1月25日付けで誤訳訂正がされるとともに意見書が提出されたものである。
そして,請求項1に係る発明は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,平成29年1月25日付け誤訳訂正書により訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下,「本願発明」という。)。

「 ワイヤレスデータ処理装置の位置を自動的に送信するために前記ワイヤレスデータ処理装置によって実行される方法であって,前記ワイヤレスデータ処理装置は位置サービスモジュール,送信スレッド及びタイマーモジュールを備え,前記方法は,
パワーダウンシーケンス中に,特定の回数の試みの後に正しいセキュリティコードをエンターすることに失敗したことに応答して,所定の時間に達すると前記送信スレッドをウェイクアップするように前記タイマーモジュールが構成される状態に前記ワイヤレスデータ処理装置をパワーダウンする段階と,
前記タイマーモジュールによって,前記所定の時間に達するのに応答して少なくとも前記位置サービスモジュールと前記送信スレッドを一時的にウェイクアップする段階と,
前記位置サービスモジュールによって,1つ以上の特定の位置決定技術を使用して前記ワイヤレスデータ処理装置の現在位置を決定する段階と,
前記送信スレッドによって,1つ以上の特定の通信チャンネルを経て前記ワイヤレスデータ処理装置の現在位置を送信する段階と,
前記現在位置が送信された後に前記ワイヤレスデータ処理装置を,所定の時間に達すると前記送信スレッドをウェイクアップするように前記タイマーモジュールが構成される状態にパワーダウンする段階と,
を備えた方法。」

第2 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
平成28年7月21日付けの拒絶の理由に引用された特開2006-304175号公報(以下,「引用文献1」という。)には,「携帯通信端末,携帯通信端末の制御方法及び制御プログラム,通信システム」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0007】
ところで,例えば,携帯電話端末自体が盗まれたり,カーセキュリティ部品用の携帯電話端末が自動車と共に盗難されたり,当該携帯電話端末を所持している人が誘拐,拉致等されたような場合,犯罪者は,それら携帯電話端末の電源を切る(OFFする)ことにより,上記位置情報による位置検索が出来ないようにすると考えられる。また,携帯電話端末を所持している人が例えば行方不明になってしまったような場合において,その人が故意若しくは誤って携帯電話端末の電源を切ってしまったような場合にも,位置情報が得られなくなるため,その人を捜索するのが困難になってしまう。
【0008】
上述のように,携帯電話端末の電源が切られてしまった場合には,何らかの理由で当該携帯電話端末の電源が再びONされるまで,その携帯電話端末の位置検索を行うことが出来なくなり,犯罪捜査が遅延してしまったり,行方不明者の捜索が困難になってしまうことになる。
【0009】
本発明は,このような実情に鑑みて提案されたものであり,携帯電話端末等の携帯通信端末において,例えば第三者によりその電源が切られた場合でも,その位置検索が可能な携帯通信端末と,携帯通信端末の制御方法及び制御プログラム,その携帯通信端末を含む通信システムを提供することを目的とする。」(第4ページ)

イ 「【0022】
また,本実施形態の携帯電話端末8は,電源OFFボタンが押されて電源が切れる(電源OFFとなる)際に,予め登録されている所定の認証情報の入力がなされない限り,完全に電源をOFFすることができない機能を備えている。すなわち,本実施形態の携帯電話端末8は,所定の認証情報の入力がなされない状態で電源OFFボタンが押下された場合,例えばディスプレイ表示やキー照明,着信ランプの点灯,キー操作音や着信音の出力,バイブレータの振動など,外部から見て当該端末8が動作していること(つまり電源ON状態であること)を認識可能な全ての機能についてはOFF状態にする一方で,外部から見て動作しているかどうか判らない機能,特に,位置検索に必要な各GPS測位機能と,電話や電子メールの送受信,ウェブアクセスを行うための情報通信に必要な通信機能,上記通信機能やGPS測位機能を一定時間毎にON/OFFさせるタイマー動作を必要に応じて行うための時間計測機能,管理者側からインターネット2等を介して送られてくる制御情報を上記通信機能を介して受信した時に,その制御情報に応じて当該携帯電話端末8の各機能(この場合は外部から動作状態を認識できない機能)を制御するための制御機能等は,ON状態を維持するようになされている。その他にも,例えばBrew(Binary runtime environment for wireless)機能,Java(登録商標)機能等も,外部から見て動作しているかどうか判らない状態で動作可能となされている。なお,以下の説明では,上述したように,電源OFFボタンを押して電源を切る際に所定の認証情報の入力がなされず,外部から見て当該端末8が動作していることを認識可能な全ての機能がOFF状態となされ,一方,GPS測位機能,通信機能,時間計測機能,制御機能等についてはON状態を維持している状態を,特に「見掛け上の電源OFF状態」と呼ぶことにする。
【0023】
ここで,本実施形態において,上記携帯電話端末8の電源を完全にOFFするために入力される所定の認証情報としては,例えば当該携帯電話端末8のキー操作部から入力される暗証番号の情報,当該携帯電話端末8に指紋,虹彩,静脈等の生体認証デバイス等が搭載されている場合にはその生体認証デバイス等からの入力情報,管理者側からインターネット2を介して例えば電子メール等により送られてくる認証情報(例えば暗証番号,パスワードなど)を挙げることができる。また,当該所定の認証情報が例えばキー操作部から入力される暗証番号である場合,本実施形態の携帯電話端末8は,その暗証番号の入力が電源OFFボタンが押される前若しくは後の所定時間内に行われたか否か判断し,当該所定時間内に正しい暗証番号の入力が行われなかった時には当該端末の状態を「見掛け上の電源OFF状態」とするが,その際,例えばディスプレイ上に暗証番号の入力を求める表示等は行わず,電源を完全にOFFするために上記電源OFFボタンの操作以外に別途何らかの操作(この場合は暗証番号の入力操作)が必要であることを,外部に一切知らせないようになされている。」(第6-7ページ)

ウ 「【0047】
メモリ15は,ROM(Read Only Memory)とRAM(Random Access Memory)を含む。ROMは,OS(Operating System),制御部10が各部を制御するための制御プログラムや各種の初期設定値,フォントデータ,辞書データ,着信音やキー操作音,アラーム音用の報知音データ,本実施形態にかかる前述した各機能を実現するためのプログラムコード,電子メールの作成や編集等を行うためのアプリケーション用のプログラムコード,画像や音声に対して様々な処理を行うためのアプリケーション用プログラムコード,電子ゲームのアプリケーション用のプログラムコード,その他,携帯電話端末に搭載される各種のアプリケーション用のプログラムコード,当該携帯電話端末の識別情報(ID)などを記憶している。このROMは,いわゆるNAND型フラッシュメモリ(NAND-type flash memory)のような書き換え可能なROMを含み,電子メールデータ,ユーザにより設定される電話帳や電子メールアドレス,ユーザのスケジュールデータ,画像データ,ダウンロードされた画像データや音楽データ,ダウンロードされた着信音,報知音データ,文字データや予測変換の候補単語の登録データや予測変換の学習データ,前述の認証の際に使用される暗証番号や生体認証データ,管理者を認証するための認証情報,位置情報等を送信する際の送信先を示す情報,その他,各種の設定値等を保存することも可能となされている。RAMは,制御部10が各種のデータ処理を行う際の作業領域として,随時データを格納する。
【0048】
上記制御部10は,通信回路11における通信の制御,音声処理部24や画像処理部25の制御,LED22,バイブレータ24,カメラ部26,認証部28等の各制御の他,本実施形態の携帯電話端末の各構成要素の制御や各種演算処理を行う。また,制御部10は,メモリ15に記憶されている本実施形態にかかるプログラムコードにもとづいて,前述した各機能を実行するための処理や制御を行う。」(第10ページ)

エ 「【0052】
ステップS3の処理に進むと,制御部10は,上記電源OFFボタンが押下操作される前か若しくは後の所定時間内に,前述した暗証番号の入力や生体認証デバイスを用いた認証等による所定の認証情報の入力がなされているか否かの判定を行い,認証情報の入力がなされている時にはステップS10にて完全に電源をOFFさせる。一方,認証情報の入力がなされていない場合,制御部10は,ステップS4へ処理を進める。
【0053】
ステップS4の処理に進むと,制御部10は,「見掛け上の電源OFF状態」へ当該端末の動作モード(以下,「見掛け上の電源OFFモード」と表記する)を遷移させると共に,外部から見て当該端末が動作しているかどうか判らない状態で,必要に応じて例えば現在位置の測位とその位置情報等の送信を行う動作モード(以下,「シークレット動作モード」と表記する)へ当該端末の動作モードを遷移させる。
【0054】
またこの時,制御部10は,ステップS5の処理として,タイマー動作の設定がなされているか否か判定し,タイマー動作の設定がなされている時には,ステップS6にて,当該端末の動作モードをタイマー動作モードに遷移させる。すなわちこの場合,上記「シークレット動作モード」において,上記位置検索や位置情報の送信の機能を通常はOFFさせておき,タイマー設定されている一定時間毎に,それら位置検索や位置情報の送信の機能をONさせて,位置検索の実行と位置情報の送信とを行う。一方,ステップS5にてタイマー動作の設定がなされていない場合,制御部10は,ステップS7へ処理を進める。」(第10-11ページ)

オ 「【0075】
ステップS33の処理に進むと,制御部10は,GPS部27に対して測位を行わせ,次いで,ステップS34にてその位置情報を通信回路11から送信させると共に,当該端末に宛てた電子メール等の情報が有る場合にはその情報受信を行う。」(第13ページ)

カ 「【0080】
また,本実施形態の携帯電話端末によれば,タイマー動作の設定が可能となされているため,例えば一日に一回だけ動作させるようなことが可能となり,再充電が出来ないような状況に置かれている場合であっても,バッテリーの残量の減少を少なくすることができ,情報通信が可能な期間を延ばすことができる。さらに,本実施形態の携帯電話端末によれば,例えば「見掛け上の電源OFF状態」から認証無しに電源ONされた場合に,バッテリー残量が充分に残っていても,ディスプレイ上にバッテリー残量エンプティ表示を行うことで,バッテリー切れで使えなくなるという心理的な圧力を第三者に与えることで当該第三者に対して電源OFF操作を促すことができ,それによってもバッテリー残量の減少を抑えることが可能となる。」(第13-14ページ)

以下,上記アないしカの記載及び本願の優先日における技術常識を考慮しつつ,引用文献1に記載された技術事項について検討する。

a.前記アの【0009】より,引用文献1には,「携帯通信端末の制御方法」が記載されている。

b.前記アより,前記「制御方法」の目的は,携帯通信端末が盗まれたり,あるいは,携帯通信端末の所持者が誘拐,拉致等されたような場合に,第三者又は犯罪者により電源を切る動作がなされた場合や,前記所持者により誤って電源を切る動作がなされた場合であっても,当該携帯通信端末の位置検索を可能とすることである。
そうすると,引用文献1には,「電源を切る動作がなされた場合であっても,携帯通信端末の位置検索を可能とするための,前記携帯通信端末の制御方法」が記載されているといえる。

c.前記イの【0022】より,前記「携帯通信端末」は,「GPS測位機能」,「通信機能」及び「時間計測機能」を備え,これらの機能は,前記ウ及び前記オより,「制御部」が「プログラム」を実行して,携帯通信端末の各構成要素(GPS部,通信回路,タイマー等)を制御することにより実現されるものである。
そうすると,引用文献1には,「前記携帯通信端末」が「制御部がプログラムを実行して,前記携帯通信端末の各構成要素を制御することにより実現される,GPS測位機能,通信機能及び時間計測機能を備え」ることが記載されている。

d.前記イの【0023】並びに前記エの【0052】及び【0053】より,前記「携帯通信端末」の電源を完全にオフするためには,電源OFFボタンを押下操作し,その前後の所定時間内に正しい認証情報を入力する必要があり,正しい認証情報が入力されなかった場合には,「見掛け上の電源OFF状態」に遷移するとともに,「シークレット動作モード」(外部から見て当該端末が動作しているかどうか判らない状態で,必要に応じて例えば現在位置の測位とその位置情報等の送信を行う動作モード)に遷移することがわかる。
そして,前記イの【0022】の記載「すなわち,本実施形態の携帯電話端末8は,所定の認証情報の入力がなされない状態で電源OFFボタンが押下された場合,例えばディスプレイ表示やキー照明,着信ランプの点灯,キー操作音や着信音の出力,バイブレータの振動など,外部から見て当該端末8が動作していること(つまり電源ON状態であること)を認識可能な全ての機能についてはOFF状態にする一方で,外部から見て動作しているかどうか判らない機能,特に,位置検索に必要な各GPS測位機能と,電話や電子メールの送受信,ウェブアクセスを行うための情報通信に必要な通信機能,上記通信機能やGPS測位機能を一定時間毎にON/OFFさせるタイマー動作を必要に応じて行うための時間計測機能,管理者側からインターネット2等を介して送られてくる制御情報を上記通信機能を介して受信した時に,その制御情報に応じて当該携帯電話端末8の各機能(この場合は外部から動作状態を認識できない機能)を制御するための制御機能等は,ON状態を維持するようになされている。」より,「所定の認証情報の入力がなされない状態で電源OFFボタンが押下された場合」,すなわち,「見掛け上の電源OFF状態」とは,ディスプレイ表示やキー照明,着信ランプの点灯,キー操作音や着信音の出力,バイブレータの振動などの「外部から見て当該端末8が動作していること(つまり電源ON状態であること)を認識可能な全ての機能」については「OFF状態」にする動作モードであるといえる。
さらに,前記エの【0054】より,「シークレット動作モード」とは,「上記位置検索や位置情報の送信の機能を通常はOFFさせておき,タイマー設定されている一定時間毎に,それら位置検索や位置情報の送信の機能をONさせて,位置検索の実行と位置情報の送信とを行う」「動作モード」である。
また,前記c.を参酌すれば,「位置検索」の機能とは,「GPS測位機能」であり,「位置情報の送信」の機能とは,「通信機能」であり,また,「タイマー設定されている」とは,「時間計測機能」により「設定されている」であることは自明である。
そうすると,引用文献1には,「電源OFFボタンを押下操作し,その前後の所定時間内に正しい認証情報が入力されなかった場合に,当該携帯通信端末が動作していることを認識可能な全ての機能をOFF状態にする「見掛け上の電源OFF状態」に遷移するとともに,通常は,前記GPS測位機能及び前記通信機能をOFFさせておき,前記時間計測機能によりタイマー設定されている一定時間毎に,前記GPS測位機能及び前記通信機能をONさせて,位置検索の実行と位置情報の送信とを行う「シークレット動作モード」に遷移することが記載されているといえる。

以上のa.ないしd.の検討から,引用文献1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「 電源を切る動作がなされた場合であっても,携帯通信端末の位置検索を可能とするための,前記携帯通信端末の制御方法であって,前記携帯通信端末は,制御部がプログラムを実行して,前記携帯通信端末の各構成要素を制御することにより実現される,GPS測位機能,通信機能及び時間計測機能を備え,前記制御方法は,
電源OFFボタンを押下操作し,その前後の所定時間内に正しい認証情報が入力されなかった場合に,当該携帯通信端末が動作していることを認識可能な全ての機能をOFF状態にする「見掛け上の電源OFF状態」に遷移するとともに,通常は,前記GPS測位機能及び前記通信機能をOFFさせておき,前記時間計測機能によりタイマー設定されている一定時間毎に,前記GPS測位機能及び前記通信機能をONさせて,位置検索の実行と位置情報の送信とを行う「シークレット動作モード」に遷移する,
制御方法。」

2.引用文献2について
平成28年7月21日付けの拒絶の理由に引用された特開2004-356992号公報(以下,「引用例2」という。)には,「移動通信端末」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

キ 「【0002】
【従来の技術】
従来より,子供や老人が外出するときに携帯電話機を持たせ,保護者が必要な時に連絡を取ってその居場所や状況を確認することが多くなっている。このような場合,保護者側が常に連絡を取れる状態にするためには,子供や老人が持つ携帯電話機の電源が常に入っていることが必要であり,電源が不慮及び故意の電源キー操作によりオフされることは望ましくない。
【0003】
また,従来より携帯電話機のパスワード入力により機能操作の制限を行うようにした技術がある。」(第2ページ)

ク 「【0015】
次に,上記構成による動作について説明する。
携帯電話機1において,予めパスワードをキー操作部17の特定のキー操作により設定しておく。設定されたパスワードのデータは不揮発性メモリ16に格納されて登録される。CPU11は,キー操作部17で操作者(ここでは例えば子供,老人又は第三者)による電源キー17aの電源オフ操作がなされたことを検出すると,図3にも示すように表示部18のLCD上の表示により操作者に対してパスワードの入力を要求する。CPU11は入力されたパスワードと不揮発性メモリ16に格納されているパスワードとを比較し,一致した場合は携帯電話機1の電源オフ処理を行う。」(第4ページ)

ケ 「【0018】
また,携帯電話機1が位置検出部21のGPS等による位置検出機能,及び移動通信網上のサーバ7へのアクセス機能を持つ場合には,誤ったパスワードの入力が特定の回数行われたときに,携帯電話機1はその位置情報と時刻情報を通信部12からサーバ7へアップロードする。サーバ7は受信した位置情報を地図情報や住所に変換して,時刻情報及び不正な電源オフ操作が行われたことを伝えるメッセージと共に,予め登録された保護者の携帯電話機1やパソコン等の情報端末のアドレスへ電子メールを送信する。」(第4ページ)

以上キないしケより,引用文献2には以下の事項(以下,「技術事項」という。)が記載されているものと認める。

「 GPS等による位置検出機能,及び,サーバへのアクセス機能を備える携帯電話機において,
電源オフ操作がなされたことを検出すると,パスワードの入力を要求し,誤ったパスワードの入力が特定の回数行われたときに,その位置情報と時刻情報をサーバへアップロードする携帯電話機。」

第3 対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「携帯通信端末」は,無線,すなわち,「ワイヤレス」で通信し,制御部がプログラムを実行して,前記「携帯通信端末」の各構成要素を制御することによって,各機能を実現するものであり,プログラムを実行し,各機能を実現するためには,何らかのデータを処理する必要があることは自明である。
そうすると,引用発明の「携帯通信端末」は,本願発明の「ワイヤレスデータ処理装置」に含まれるといえる。

(2)引用発明においては,「携帯通信端末の位置検索を可能とするため」に,「シークレット動作モード」において,一定時間毎に,GPS測位機能と通信機能とをONさせて,位置検索の実行と位置情報の送信とを行うものであり,かつ,「携帯通信端末の制御方法」は,制御部と,各構成要素とが協働して実行されることは明らかである。
そうすると,前記(1)を参酌すれば,引用発明の「携帯通信端末の位置検索を可能とするための,前記携帯通信端末の制御方法」は,本願発明の「ワイヤレスデータ処理装置の位置を自動的に送信するために前記ワイヤレスデータ処理装置によって実行される方法」に相当するといえる。

(3)本願発明において,「位置サービスモジュール」,「送信スレッド」及び「タイマーモジュール」は,どのようなハードウェア又はソフトウェアにより実現されるのかについて具体的に特定していないが,本願の明細書の段落【0039】には,「例えば,当業者であれば,ここに述べた機能的モジュール及び方法は,ソフトウェア,ハードウェア又はその組み合わせとして実装化できることが一見して明らかであろう。」と記載されているように,「ソフトウェア,ハードウェア又はその組み合わせ」により実現される機能的モジュールを含む。そして,引用発明において,「GPS測位機能」,「通信機能」及び「時間計測機能」は,制御部がプログラムを実行して,前記携帯通信端末の各構成要素を制御することにより実現されるものであるから,「ソフトウェア,ハードウェア又はその組み合わせ」により実現される機能的モジュールといい得るものである。
さらに,本願発明における「位置サービスモジュール」は,「前記位置サービスモジュールによって,1つ以上の特定の位置決定技術を使用して前記ワイヤレスデータ処理装置の現在位置を決定する」という機能を有するものである。一方,引用発明における「GPS測位機能」は,「GPS」すなわち「1つの特定の位置決定技術」を使用して,「携帯通信端末」の位置情報(現在位置)を測位(決定)する機能であることは自明である。そうすると,引用発明における「GPS測位機能」は,本願発明における「位置サービスモジュール」に相当するといえる。
さらに,本願発明における「送信スレッド」は,「1つ以上の特定の通信チャンネルを経て前記ワイヤレスデータ処理装置の現在位置を送信する」という機能を有するものである。一方,引用発明における「通信機能」は,位置情報すなわち「携帯通信端末」の「現在位置」の送信を行う機能である。そうすると,引用発明における「通信機能」と本願発明における「送信スレッド」とは,「前記ワイヤレスデータ処理装置の現在位置を送信する」という機能を有した「現在位置送信モジュール」である点において共通する。
また,引用発明において,「通信機能」及び「GPS測位機能」を「ON」にすることは,本願発明において,「送信スレッド」及び「位置サービスモジュール」を「ウェイクアップ」することに相当する。
さらに,本願発明における「タイマーモジュール」は,「前記所定の時間に達するのに応答して少なくとも前記位置サービスモジュールと前記送信スレッドを一時的にウェイクアップする」という機能を有するものである。一方,引用発明における「時間計測機能」は,タイマー設定される一定時間毎に,すなわち,「所定の時間に達するのに応答して」,「前記GPS測位機能及び前記通信機能をONさせ」る,すなわち「前記位置サービスモジュールと前記送信スレッド一時的にウェイクアップする」機能である。そうすると,引用発明における「時間計測機能」は,本願発明における「タイマーモジュール」に相当するといえる。

(4)本願発明における「パワーダウンシーケンス」は,本願の明細書の段落【0007】にしか記載がなく,当該段落【0007】には,
「 シャットダウン後にワイヤレス装置の位置を決定する装置及び方法
以下に述べる本発明の実施形態は,(本出願の譲受人により設計された)iPad(登録商標)又はiPhone(登録商標)のようなワイヤレス装置が,最初にシャットダウンされた後に,自動的にターンオン状態に戻り,それらの位置情報を送信し,そして再びターンオフすることができるようにする。本発明の1つの実施形態において,ワイヤレス装置のパワーダウンシーケンス中に(例えば,iPhoneの「ロック及びホーム」ボタンをホールドしてパワーダウンスクリーンに入った後に)ソフトウェア又はハードウェアがアクチベートし,シャットダウンセキュリティコードをエンターしてシャットダウンの前に位置セキュリティ機能をディスエイブルするか,又はシャットダウン中にそのコードをバイパスしてそれら機能をアクチベートするかの選択肢(option)が現れる。1つの実施形態において,特定の回数の試みの後に正しいコードがエンターされないと,ここに述べるセキュリティ機能が自動的にアクチベートして,ワイヤレス装置をシャットダウンする。」
と記載されている。この記載からすると,「パワーダウン」とは,「シャットダウン後」における処理と解される。また,「シャットダウン後」の処理に関して,本願の明細書の段落【0018】には,次の記載がある。
「シャットダウン後にユニットが追跡されることを当事者に警告するのを回避するために視覚指示は与えられない。誤ったコードがエンターされると,ワイヤレス装置は,(完全なシャットダウンではなくて)ディスプレイがターンオフされるが,依然位置情報を送信するサブ状態に留まり,正しいコードをエンターすることができる。」
上記記載からすると,本願においては,使用者に対して,「シャットダウン後」に「正しいコード」のエンター(入力)を求めているといえる。
さらに,本願の課題として,明細書の段落【0002】には次の記載がある。
「 ハンドヘルド及びポータブル装置の現在のセキュリティ機能(features)は,例えば,製品を紛失するか又は盗難にあった場合に,ユーザにより要求されたとき,製品の位置を識別することができる。しかしながら,この技術は,製品を紛失し/盗難にあいそしてその後に製品が(非通電状態に)スイッチオフされた場合には,制限がある。以下に述べる本発明の実施形態は,これらの状況においても装置を位置を特定する付加的なセキュリティレイヤを追加するものである。」
そうすると,本願発明の課題は,製品(ワイヤレスデータ処理装置)が第三者にスイッチオフされた場合であっても,製品の位置を識別できるようにすることである。そして,製品の正当な所持者であれば,「正しいコード」を「特定の回数の試み」で「エンター」(入力)できることは当然のことであるから,「シャットダウン後」に「正しいコード」のエンター(入力)を求めることは,スイッチオフをした者が製品の正当な所持者か否かを判断するためになされていることは明らかである。よって,前記「シャットダウン後」とは,「スイッチオフされた場合」と言い替えることができ,その後に,「正しいコード」のエンター(入力)を求めていることから,前記「パワーダウンシーケンス」とは,「スイッチオフされた場合」に「正しいコード」をエンター(入力)するための工程が含まれていると解することができる。
一方,引用発明においては,「電源OFFボタンを押下操作」の「前後の処理時間内」に,正しい認証情報の入力を求める処理を実行していることは自明であるから,引用発明における「電源OFFボタンを押下操作」の「前後の処理時間内」は,本願発明の「パワーダウンシーケンス中」に含まれるといえる。

(5)引用発明における「認証情報」は,本願発明における「セキュリティコード」に相当する。また,引用発明における「認証情報」の「入力」は,本願発明における「セキュリティコード」の「エンター」に相当する。さらに,引用発明における「正しい認証情報が入力されなかった」とは,「正しい認証情報」すなわち「正しいセキュリティコードをエンター」することに失敗した」ことに等しい。
よって,引用発明における「正しい認証情報が入力されなかった場合」と,本願発明における「特定の回数の試みの後に正しいセキュリティコードをエンターすることに失敗したことに応答して」とは,「正しいセキュリティコードをエンターすることに失敗したことに応答して」である点において共通する。

(6)本願発明における「所定の時間に達すると前記送信スレッドをウェイクアップするように前記タイマーモジュールが構成される状態に(前記ワイヤレス処理装置を)パワーダウンする」は,不明りょうであり,本願の明細書にも,同様の事項は明記されていないものの,本願の明細書の段落【0009】の記載「示されたように,タイマー107は,エンドユーザ112により構成された頻度で送信スレッド106をウェイクさせるようにプログラムされる。」,段落【0010】の記載「装置パワーダウン後に動作すると,タイマー107は,送信スレッド106を周期的にウェイクさせる。」,【0020】の記載「201において,タイマー,及び送信を行う通信チャンネルがユーザ入力に基づいてプログラムされる。例えば,ユーザは,パワーダウンした後に15分ごとに装置がウェイクアップしてe-メールを経てサーバーへ位置メッセージを送信することを指定する。202において,装置がパワーダウンした後に,タイマーは,送信スレッド及び無線トランシーバをウェイクアップするためのウェイクアップ信号を発生する。次いで,送信スレッド106は,位置サービスモジュール105から移動装置120の現在位置を検索し,そしてその現在位置を,ワイヤレストランシーバ150を経て,1つ以上の通信チャンネル155にわたって送信する。」,さらに,一部の機能モジュールが「ウェイクアップ」していない状態,すなわち,休止ないし停止している状態においては,装置全体の電力消費が少なくなることは本願の優先日における技術常識である。そうすると,本願発明においては,「パワーダウンする」が,「送信スレッド」を「ウェイクアップ」していない状態とすることを含んでいると理解できる。また,タイマーをリセットするなどして「所定の時間」の計測を開始して,タイマーのタイムアップにより「所定の時間」に達することを検出するようにタイマーが構成されることは,本願の優先日における技術常識である。そうすると,本願発明において「所定の時間に達すると前記送信スレッドをウェイクアップするように前記タイマーモジュールが構成される状態に(前記ワイヤレスデータ処理装置を)パワーダウンする」とは,「所定の時間に達する」と「送信スレッドをウェイクアップする」ように,そのタイマーをリセットするなどして「タイマーモジュールが構成される状態」とし,同時に「送信スレッド」を「ウェイクアップ」されていない状態として「ワイヤレスデータ処理装置」を「パワーダウンする」ものと解される。
一方,引用発明において,「シークレット動作モード」とは,「通常」は,「GPS測位機能」と「通信機能」をOFFさせておくモードであり,「GPS測位機能」と「通信機能」をOFFである状態には,「携帯通信端末」の消費電力が少なくなることから,「シークレット動作モード」は,「パワーダウン」の状態と,「一定時間毎」の「GPS測位機能」と「通信機能」とがONである状態とを繰り返すもの動作モードといえる。また,引用発明においては,当該「パワーダウン」の状態から,「タイマー設定される一定時間毎」に「GPS測位機能」と「通信機能」とをONの状態としており,「一定時間」は,「タイマー」によって計測されることは自明であるから,その計測の開始にあたっては,タイマーをリセットするなどして「時間計測機能」が,「一定時間」に達すると「通信機能」をONすなわち「ウェイクアップ」するように「構成される状態」に,「携帯通信端末」を「パワーダウン」することに等しい。同様に,引用発明においては,「一定時間」に達することに応答して,「通信機能」及び「GPS測位機能」をONにして,位置情報を計測して送信した後で,再度,「時間計測機能」を構成して「携帯通信端末」を「パワーダウン」するものと解される。
そうすると,引用発明と本願発明とは,
「 パワーダウンシーケンス中に,正しいセキュリティコードをエンターすることに失敗したことに応答して,所定の時間に達すると前記現在位置送信モジュールをウェイクアップするように前記タイマーモジュールが構成される状態に前記ワイヤレスデータ処理装置をパワーダウンする段階と,
前記タイマーモジュールによって,前記所定の時間に達するのに応答して少なくとも前記位置サービスモジュールと前記現在位置送信モジュールを一時的にウェイクアップする段階と,
前記位置サービスモジュールによって,1つの特定の位置決定技術を使用して前記ワイヤレスデータ処理装置の現在位置を決定する段階と,
前記現在位置送信モジュールによって,前記ワイヤレスデータ処理装置の現在位置を送信する段階と,
前記現在位置が送信された後に前記ワイヤレスデータ処理装置を,所定の時間に達すると前記現在位置送信モジュールをウェイクアップするように前記タイマーモジュールが構成される状態にパワーダウンする段階と,」
を備える点において共通するといえる。

2.一致点・相違点
前記の検討から,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致ないし相違する。

(1)一致点
「 ワイヤレスデータ処理装置の位置を自動的に送信するために前記ワイヤレスデータ処理装置によって実行される方法であって,前記ワイヤレスデータ処理装置は位置サービスモジュール,現在位置送信モジュール及びタイマーモジュールを備え,前記方法は,
パワーダウンシーケンス中に,正しいセキュリティコードをエンターすることに失敗したことに応答して,所定の時間に達すると前記現在位置送信モジュールをウェイクアップするように前記タイマーモジュールが構成される状態に前記ワイヤレスデータ処理装置をパワーダウンする段階と,
前記タイマーモジュールによって,前記所定の時間に達するのに応答して少なくとも前記位置サービスモジュールと前記現在位置送信モジュールを一時的にウェイクアップする段階と,
前記位置サービスモジュールによって,1つの特定の位置決定技術を使用して前記ワイヤレスデータ処理装置の現在位置を決定する段階と,
前記現在位置送信モジュールによって,前記ワイヤレスデータ処理装置の現在位置を送信する段階と,
前記現在位置が送信された後に前記ワイヤレスデータ処理装置を,所定の時間に達すると前記現在位置送信モジュールをウェイクアップするように前記タイマーモジュールが構成される状態にパワーダウンする段階と,
を備えた方法。」

(2)相違点
・[相違点1]
「現在位置送信モジュール」に関して,本願発明においては,「1つ以上の特定の通信チャンネルを経て」送信する「送信スレッド」であるのに対し,引用発明において,「通信機能」が「通信チャンネル」を経て送信することについて言及がない点。

・[相違点2]
「パワーダウンシーケンス中」の処理において,本願発明は,「特定の回数の試みの後に」との限定があり,「正しいセキュリティコードをエンターすることに失敗」することを「特定の回数」まで許容するのに対し,引用発明においては,「正しい認証情報が入力されなかった」ことを許容する回数についての言及がない点。

3.判断
前記各相違点について検討する。
(1)[相違点1]について
無線通信の技術分野において,何らかの通信チャンネル,すなわち,「特定の通信チャンネル」を介して送受信をすることは,具体的な文献を挙げるまでもなく,本願の優先日における技術常識にすぎない。よって,引用発明において,「通信機能」が「特定の通信チャンネル」を介して位置情報を送信するよう構成することは当業者が適宜になし得ることにすぎない。また,その場合に,介在する「特定の通信チャンネル」が「1つ以上」となることは自明なことである。

(2)[相違点2]について
引用文献2に記載の技術事項にあるように,電源オフ操作がなされた時に,誤ったパスワードの入力を「特定の回数」までは許容し,「特定の回数」誤ったパスワードの入力が行われたときに,携帯電話機(ワイヤレスデータ処理装置)が,その位置情報をアップロード(送信)することは公知の技術事項である。
そして,引用発明と引用文献2に記載の技術事項とは,いずれも,電源を切る動作(電源オフ操作)がなされたときに,認証情報(パスワード)の入力を要求し,正しい認証情報の入力がなされなかったときに,位置情報を送信するワイヤレスデータ処理装置である点において共通している。
さらに,入力ミス等を考慮して,パスワード等の認証情報を入力できる回数を,1回だけでなく複数回とすることも認証において一般的に行われている事項にすぎない。
したがって,引用発明に引用文献2に記載の技術事項を適用し,「正しい認証情報が入力されなかった」ことに,「特定の回数の試みの後に」との限定を付すことは当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて当業者が予測し得る範囲のものであり,格別なものではない。

4.請求人の主張について
請求人は,平成29年1月25日付けの意見書において,
(1)「引用文献1は携帯電話をパワーダウンして,携帯電話の位置の送信のためのバッテリーを節約することを開示しません。」
(2)「本願発明におけるワイヤレスデータ処理装置のパワーダウンはタイマーとウェイクアップスレッドに電力を与えるために必要なサブシステムにのみ電力を供給することによりバッテリを節約するものであることが理解されます。」
(3)「引用文献2は,タイマー及びウェイクアップスレッドに電源を与えるために必要なサブシステムへのみ電力を与えることによるバッテリを節約するためにワイヤレスデータ処理システムをパワーダウンすることを開示するものでも示唆するものでもありません。」
と主張している。

上記各主張について検討する。
まず,前記主張(2)について,本願発明においては,「パワーダウン」が,「タイマーとウェイクアップスレッドに電力を与えるために必要なサブシステムにのみ電力を供給する」ものであるとは具体的に特定していない。つまり,本願発明においては,「タイマーモジュール」により,「位置サービスモジュール」及び「送信スレッド」が,「所定の時間」に達すると,すなわち,「所定の時間」ごとに「ウェイクアップ」すること,また,そのように「タイマモジュール」が構成される状態に「パワーダウン」することが特定されているのみであり,「位置サービスモジュール」,「送信スレッド」及び「タイマーモジュール」以外の要素に対する電力供給については具体的に特定されておらず,よって,「パワーダウン」が,「タイマーとウェイクアップスレッド」のみに電力を供給するものであるとは特定することはできない。
仮にそのように特定できるとしても,引用発明は,「当該携帯通信端末が動作していることを認識可能な全ての機能をOFF状態にする「見掛け上の電源OFF状態」」に遷移し,その前提の下で,通常は,GPS測位機能及び通信機能もOFFとする「シークレット動作モード」に遷移していることから,時間計測機能によりタイマー設定されている一定時間が経過するまでの間は,携帯通信端末のほとんどの機能が停止しており,実際,技術的にみても,時間計測機能と,一定時間経過時に他の機能をウェイクアップするための機能以外の機能を停止しても構わないことは明らかである。よって,引用発明において,「シークレット動作モード」に遷移し,時間計測機能によりタイマー設定されている一定時間が経過するまでの間,時間計測機能すなわち本願発明の「タイマーモジュール」と,タイマー設定されている一定時間が経過したことにより他の機能をウェイクアップするための機能(上記主張の「ウェイクアップスレッド」に相当。)のみに電力を供給するようにすることは,当業者が適宜なし得たことである。
よって,前記主張(2)は,本願発明(請求項1)に係る構成に基づいたものではなく,仮に,本願発明に係る構成に基づいたものとしても,当業者が引用発明に基づいて容易に想到し得たことであるから,採用することができない。

また,前記主張(1)について,「電源OFFボタンを押下操作し,その前後の所定時間内に正しい認証情報が入力されなかった場合」には,「見掛け上の電源OFF状態」に遷移するとともに,「シークレット動作モード」に遷移しており,前記「見掛け上の電源OFF状態」とは,当該携帯通信端末が動作していることを認識可能な全ての機能をOFF状態にするものであるから,それ自体,「パワーダウン」の状態であり,さらに,「シークレット動作モード」も,通常は,GPS測位機能及び通信機能をOFFさせておくことから,「パワーダウン」の状態である。そして,引用文献1の【0080】(前記カ参照。)には,「また,本実施形態の携帯電話端末によれば,タイマー動作の設定が可能となされているため,例えば一日に一回だけ動作させるようなことが可能となり,再充電が出来ないような状況に置かれている場合であっても,バッテリーの残量の減少を少なくすることができ,情報通信が可能な期間を延ばすことができる。」と,省電力の効果が記載されていることから,引用文献1には,バッテリを節約するという効果が実質的に記載されている。
よって,前記主張(1)は,引用文献1に記載した事項に基づいたものではないから,採用することができない。

さらに,前記主張(3)について,確かに,引用文献2は,バッテリを節約するために「パワーダウン」することを前提とするものではない。しかしながら,引用文献2から抽出した技術事項は,
「 GPS等による位置検出機能,及び,サーバへのアクセス機能を備える携帯電話機において,
電源オフ操作がなされたことを検出すると,パスワードの入力を要求し,誤ったパスワードの入力が特定の回数行われたときに,その位置情報と時刻情報をサーバへアップロードする携帯電話機。」
であって,電源オフ操作がなされた時におけるパスワード入力を課題としている点において,引用発明とは前提が共通しているといえる。そして,引用文献2が,バッテリを節約するために「パワーダウン」することを前提とするものではないことを理由に,引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用することに技術的な阻害要因があるとはいえない。
よって,前記主張(3)は,理由がないから採用することができない。

したがって,上記各主張はいずれも採用しない。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,当業者が,引用文献1及び2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,その余の請求項に論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-07 
結審通知日 2017-02-13 
審決日 2017-02-28 
出願番号 特願2013-101661(P2013-101661)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 丸山 高政白川 瑞樹  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
林 毅
発明の名称 シャットダウン後にワイヤレス装置の位置を決定する装置及び方法  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 西島 孝喜  
代理人 那須 威夫  
代理人 大塚 文昭  

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