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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C08L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 C08L
管理番号 1330519
審判番号 不服2016-12182  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-10 
確定日 2017-08-01 
事件の表示 特願2011-199458「ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月26日出願公開、特開2012- 82403、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は、平成23年9月13日(優先権主張 平成22年9月15日)に出願された特許出願であって、平成27年5月28日付けで拒絶理由が通知され、同年7月30日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月21日付けで再度、拒絶理由が通知され、平成28年3月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月12日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年8月10日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年9月23日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたので、特許法162条所定の審査がされた結果、同年10月17日付けで同法164条3項所定の報告(前置報告)がされたものである。

第2 本願発明の認定
本願の請求項1ないし11に係る発明は、平成28年8月10日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。以下、その請求項1に係る発明を「本願発明」という。

「【請求項1】
下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、難燃剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
ポリカーボネート樹脂中に、フェノールを1重量ppm以上700重量ppm以下含有し、
ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mmの平板)の、波長350nmにおける光線透過率が70%以上であり、
ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、難燃剤を0.01重量部以上30重量部以下含有し、
かつ、長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を前記ポリカーボネート樹脂の触媒として含有するものであり、
しかもその触媒として含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下であり、
前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム及びセシウムの合計の含有量が、金属量として1重量ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】

【請求項2】
ポリカーボネート樹脂の芳香環に結合した水素原子のモル数をX、芳香環以外に結合した水素原子のモル数をYとした場合、芳香環に結合した水素原子のモル数の全水素原子のモル数に対する比率(X/(X+Y))が0.1以下である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記難燃剤が、燐含有化合物系難燃剤、ハロゲン含有化合物系難燃剤、スルホン酸金属塩系難燃剤、及び珪素含有化合物系難燃剤から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、酸化防止剤をポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.0001重量部以上1重量部以下含有する請求項1から3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリカーボネート樹脂が、式(2)で表されるジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む請求項1から4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂が、鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する構成単位を含む請求項1から5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリカーボネート樹脂が、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、下記式(3)で表される炭酸ジエステルとの重縮合により得られる、請求項1から6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】

(上記式(3)において、A^(1)及びA^(2)は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1?炭素数18の脂肪族炭化水素基、または、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基であり、A^(1)とA^(2)とは同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項8】
前記重縮合が触媒の存在下で行われるものであって、該触媒が長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であり、かつこれらの金属化合物の合計量が、用いたジヒドロキシ化合物1molあたり、金属量として20.0μmol以下である、請求項7に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
前記触媒が、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物である、請求項8に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項11】
射出成形法により成形されたものである請求項10に記載のポリカーボネート樹脂成形品。」

第3 原査定の概要
原査定(平成28年5月12日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

「1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(特許法第29条第1項第3号)及び理由2(特許法第29条第2項)について
・請求項 1-5,7-12
・引用文献等 1-3
・・・
●理由3(特許法第36条第4項第1号)について
・請求項2-5、7-12
<引用文献等一覧>
1.特開2009-91404号公報
2.特開2009-74030号公報(周知例)
3.特開2010-1362号公報(周知例)」

第4 当審の判断
第4?1 原査定の理由1(特許法第29条第1項第3号)及び理由2(特許法第29条第2項)について
1 刊行物
刊行物1:特開2009-91404号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1)
刊行物2:特開2009-74030号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2)
刊行物3:特開2010-1362号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3)

2 刊行物1の記載事項
本願の優先日前に日本国内において頒布されたことが明らかな刊行物である刊行物1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。

ア 「【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(R_(1)?R_(4)はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選ばれる基であり、R_(5)は炭素数が2から12である脂肪族炭化水素基であり、またnは0.4≦n≦1.0である)
で表されるポリカーボネートを製造するにおいて、
Na、Ca、Fe含有量合計が2質量ppm以下である、下記式(2)で表されるジオールと、
【化2】

(R_(1)?R_(4)はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選ばれる基である)、
Na、Ca、Fe含有量合計が2質量ppm以下である、下記式(3)で表されるジオールとをジオール成分として用い、
【化3】

(R_(5)は炭素数が2から12である脂肪族炭化水素基)
Na、Ca、Fe含有量合計が2質量ppm以下である、下記式(4)
【化4】

(R_(6)およびR_(7)は、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選ばれる基であり、R_(6)とR_(7)は同じ基であっても異なる基であってもよい)
で表される炭酸ジエステルを炭酸成分として用い、重縮合触媒としてバリウム化合物の存在下に溶融重縮合させることを特徴とするポリカーボネートの製造法。
【請求項2】
請求項1記載の製造法によって得られる、ポリマー中のNa、Ca、Fe含量が10質量ppm以下であり、かつCol-b値が5以下であるポリカーボネート。」(特許請求の範囲)

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は重合度が高く色相が良好な植物由来成分を有するポリカーボネート、およびその製造法に関するものである。」

ウ 「【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は透明性、耐熱性、耐衝撃性に優れており、現在、光メディア分野、電気・電子・OA分野、自動車・産業機器分野、医療分野、その他の工業分野で広く使用されている。しかしながら、現在一般に用いられている芳香族ポリカーボネートは石油資源から得られる原料より製造されている。そのため、石油資源の枯渇や、廃棄物の焼却処理に伴い発生する二酸化炭素による地球温暖化が懸念されている昨今において、芳香族ポリカーボネートと同様の物性を有しながら、より環境負荷が小さい材料の登場が待たれている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術のこれらの問題点を解決し、高重合度で色相が良好な植物由来成分を有するポリカーボネートの製造法を提供することにある。」

エ 「【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、重合度が高く色相が良好な植物由来成分を有するポリカーボネート、当該ポリカーボネートの製造法を提供することができる。」

オ 「【0029】
本発明によって製造されるポリカーボネートは、Na、Ca,Feの含有量合計が10質量ppm以下、より好ましくは7質量ppm以下、特に好ましくは3質量ppm以下である。Na、Ca,Feの含有量合計がこの範囲を超えると着色が顕著になり、溶融安定性や耐加水分解性が悪化するなどの問題があり好ましくない。なお、Na、Ca,Feは、生産設備等の材質や外気などからコンタミしやすい、前記式(2)のジオールの市販品に含有される量が多めであるなどの理由から、ポリマー中の無機不純物の大部分を占める。Na、Ca,Feの含有量合計を上記の範囲とするためには、含有量が少ない原料を使用する、成分が溶出しにくい材質からなる装置で製造を行うなど方法がある。ポリマー中のNa、Ca,Feの含有量合計は少なければ少ないほど好ましいが、0質量ppmにしようとすると、コンタミの防止等のために著しいコストアップや生産効率の低下を伴う恐れがある。生産性を維持して到達できるポリマー中のNa、Ca,Feの含有量合計の下限は3質量ppm程度である。なお、ポリマー中のNa、Ca,Feの含有量合計は、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析装置やICP質量分析装置により定量するのが精度や簡便さから好ましい。」

カ 「【0031】
本発明によって製造されたポリカーボネートは単独で成形加工等に用いてもよく、また本発明の目的を損なわない範囲で他の熱可塑性樹脂(例えば、ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂など)、充填剤(ガラス繊維、炭素繊維、天然繊維、有機繊維、セラミックスファイバー、セラミックビーズ、タルク、クレーおよびマイカなど)、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系化合物、イオウ系酸化防止剤など)、難燃添加剤(リン系、ブロモ系など)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系など)、流動改質剤、着色剤、光拡散剤、赤外線吸収剤、有機顔料、無機顔料、離形剤、可塑剤などを添加することができる。」

キ 「【0032】
また、本発明によって製造されたポリカーボネートは、射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、押し出し成形、ブロー成形、溶剤キャスト法、溶融押し出し法、カレンダー法などの種々の成形、製膜法によって加工された後、光メディア用途、電気・電子・OA用途、自動車・産業機器用途、医療・保安用途、シート・フィルム・包装用途、雑貨用途をはじめとする様々な用途に幅広く用いることができる。具体的には、光メディア用途としてDVD、CD-ROM、CD-R、ミニディスク、電気・電子・OA用途として携帯電話、パソコンハウジング、電池のパックケース、液晶用部品、コネクタ、自動車・産業機器用途としてヘッドランプ、インナーレンズ、ドアハンドル、バンパ、フェンダ、ルーフレール、インバネ、クラスタ、コンソールボックス、カメラ、電動工具、医療・保安用途として銘板、カーポート、液晶用拡散・反射フィルム、飲料水タンク、雑貨としてパチンコ部品、消火器ケースなどが挙げられる。」

ク 「【0036】
[実施例1]
単蒸留を1回施したイソソルビド(ロケット社製)(61.38g、0.42mol)、1,3-プロパンジオール(14.38g、0.19mol)およびジフェニルカーボネート(128.53g、0.6mol)を三ツ口フラスコに入れ、重縮合触媒として炭酸バリウム(0.0592mg、3×10^(-7)mol)およびテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(5.47mg、6.0×10^(-5) mol)を加え窒素雰囲気下180℃で溶融した。攪拌下、反応槽内を100mmHg(13.33kPa)に減圧し、生成するフェノールを溜去しながら約20分間反応させた。次に200℃に昇温した後、フェノールを留去しながら30mmHg(4.00kPa)まで減圧した。さらに減圧・昇温して、最終的に250℃、0.8mmHg(0.11kPa)の条件下で反応させた。250℃、0.8mmHg(0.11kPa)に到達した時点を時間0分とし10分後にサンプリングして、還元粘度、無機不純物含有量、Col-b値を測定した。
【0037】
[実施例2]
重縮合触媒の炭酸バリウムの代わりに、水酸化バリウム八水和物(0.0946mg、3×10^(-7)mol)を用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。結果を表1に示す。
【0038】
[比較例1]
重縮合触媒の炭酸バリウムの代わりに、水酸化ナトリウム(0.012mg、3×10^(-7)mol)を用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。結果を表1に示す。
【0039】
[比較例2]
ロケット社製イソソルビドの蒸留精製を行わなかったことと、重縮合触媒の炭酸バリウムの代わりに、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン二ナトリウム塩(0.04mg、1.5×10^(-7)mol、表1においてBPA・2Naと略記する)を用いたこと以外は実施例1と同様に操作を行った。結果を表1に示す。
【0040】
[比較例3]
単蒸留を1回施したイソソルビド(ロケット社製)の代わりに、三光化学社製イソソルビドを蒸留精製等の前処理無しで使用したことと、重縮合触媒の炭酸バリウムの代わりに、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン二ナトリウム塩(0.04mg、1.5×10^(-7)mol、表1においてBPA・2Naと略記する)を用いたこと以外は実施例1と同様に操作を行った。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例4]
単蒸留を1回施したイソソルビド(ロケット社製)の代わりに、三光化学社製イソソルビドを蒸留精製等の前処理無しで使用したことと、重縮合触媒の炭酸バリウムの代わりに、水酸化バリウム八水和物(0.0946mg、3×10^(-7)mol)を用いたこと以外は、実施例1と同様に操作を行った。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】



3 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、上記2アから、以下の発明が記載されていると認める。

「下記式(1)
【化1】

(R_(1)?R_(4)はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選ばれる基であり、R_(5)は炭素数が2から12である脂肪族炭化水素基であり、またnは0.4≦n≦1.0である)
で表されるポリカーボネートを製造するにおいて、
Na、Ca、Fe含有量合計が2質量ppm以下である、下記式(2)で表されるジオールと、
【化2】

(R_(1)?R_(4)はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選ばれる基である)、
Na、Ca、Fe含有量合計が2質量ppm以下である、下記式(3)で表されるジオールとをジオール成分として用い、
【化3】

(R_(5)は炭素数が2から12である脂肪族炭化水素基)
Na、Ca、Fe含有量合計が2質量ppm以下である、下記式(4)
【化4】

(R_(6)およびR_(7)は、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選ばれる基であり、R_(6)とR_(7)は同じ基であっても異なる基であってもよい)
で表される炭酸ジエステルを炭酸成分として用い、重縮合触媒としてバリウム化合物の存在下に溶融重縮合させることを特徴とするポリカーボネートの製造法によって得られる、ポリマー中のNa、Ca、Fe含量が10質量ppm以下であり、かつCol-b値が5以下であるポリカーボネート。」(以下、「引用発明」という。)

4 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「Na、Ca、Fe含有量合計が2質量ppm以下である、下記式(2)で表されるジオールと、
【化2】

(R_(1)?R_(4)はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選ばれる基である)」は、R_(1)?R_(4)が水素原子の場合は、本願発明における「下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物」に相当する。
引用発明の「重縮合触媒としてバリウム化合物」は、本願発明の「ポリカーボネート樹脂の触媒」であって、「長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属」を触媒として含有するものに相当する。
引用発明の「ポリカーボネート」は、本願発明の「ポリカーボネート樹脂」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂であって、

かつ、長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を前記ポリカーボネート樹脂の触媒として含有するものである、
ポリカーボネート樹脂。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
本願発明は、「ポリカーボネート樹脂と、難燃剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物」であって、「ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、難燃剤を0.01重量部以上30重量部以下含有し」と特定するのに対して、引用発明は、ポリカーボネート樹脂である点。
<相違点2>
ポリカーボネート樹脂に関し、本願発明は「ポリカーボネート樹脂中に、フェノールを1重量ppm以上700重量ppm以下含有し」と特定するのに対して、引用発明は、この点を特定しない点。
<相違点3>
ポリカーボネート樹脂に関し、本願発明は「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム及びセシウムの合計の含有量が、金属量として1重量ppm以下である」と特定するのに対して、引用発明は、この点を特定しない点。
<相違点4>
ポリカーボネート樹脂組成物に関し、本願発明は「触媒として含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下であり」と特定するのに対し、引用発明は、この点を特定しない点。
<相違点5>
ポリカーボネート樹脂に関し、本願発明は「ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mmの平板)の、波長350nmにおける光線透過率が70%以上であり」と特定するのに対して、引用発明は、この点を特定しない点。

事案に鑑み、相違点2及び3について、まず、検討する。
相違点2について
引用発明におけるポリカーボネート樹脂について、どのように製造されているかを確認すると、刊行物1には、以下の記載がある。

「【0026】
本発明の製造法では、好ましくは重縮合触媒の存在下、原料であるジオールと炭酸ジエステルとを常圧で加熱し、予備反応させた後、減圧下で280℃以下の温度で加熱しながら撹拌して、生成するフェノール類またはアルコール類を留出させる。反応系は窒素などの原料、反応混合物に対し不活性なガスの雰囲気に保つことが好ましい。窒素以外の不活性ガスとしては、アルゴンなどを挙げることができる。
【0027】
反応初期に常圧で加熱反応させることが好ましい。これはオリゴマー化反応を進行させ、反応後期に減圧してフェノール類またはアルコール類を留去する際、未反応のモノマーが留出してモルバランスが崩れ、重合度が低下することを防ぐためである。本発明にかかる製造法においてはフェノール類またはアルコール類を適宜系(反応器)から除去することにより反応を進めることができる。そのためには、減圧することが効果的であり、好ましい。
【0028】
本発明の製造法において、ジオールの分解を抑え、着色が少なく高粘度の樹脂を得るためにはできるだけ低温の条件が好ましいが、重合反応を適切に進めるためには重合温度は180℃以上280℃以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは230?260℃の範囲に最高の重合温度がある条件である。」
「【0036】
[実施例1]
単蒸留を1回施したイソソルビド(ロケット社製)(61.38g、0.42mol)、1,3-プロパンジオール(14.38g、0.19mol)およびジフェニルカーボネート(128.53g、0.6mol)を三ツ口フラスコに入れ、重縮合触媒として炭酸バリウム(0.0592mg、3×10^(-7)mol)およびテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(5.47mg、6.0×10^(-5) mol)を加え窒素雰囲気下180℃で溶融した。攪拌下、反応槽内を100mmHg(13.33kPa)に減圧し、生成するフェノールを溜去しながら約20分間反応させた。次に200℃に昇温した後、フェノールを留去しながら30mmHg(4.00kPa)まで減圧した。さらに減圧・昇温して、最終的に250℃、0.8mmHg(0.11kPa)の条件下で反応させた。250℃、0.8mmHg(0.11kPa)に到達した時点を時間0分とし10分後にサンプリングして、還元粘度、無機不純物含有量、Col-b値を測定した。」

上記記載から、引用発明のポリカーボネート樹脂も、重合時において生成するフェノール類又はアルコール類は加熱減圧下で留出、留去させているといえるが、重合温度は180℃?280℃、より好ましくは、230℃?260℃(実施例においては、180℃?250℃)であって、ポリカーボネート樹脂の重合後にベント付きの押出機でペレット化することについては記載も示唆もない。
一方で、本願明細書において、望ましい重合温度条件として「225℃?245℃」(段落【0098】)であること、残存フェノールを700重量ppm以下とすることに関して「脱気性能に優れた横型反応器や真空ベント付の押出機を用いて」(段落【0111】)行うことが記載され、具体的な実施例においても、210℃?228℃で減圧しつつ重合を行い、3ベントの二軸押出機でベント部において減圧脱気してペレット化して残存フェノールが205重量ppmのポリカーボネート樹脂を得ている。
ここで、本願と同一出願人の先願である国際公開第2011/065505号の実施例3-3と比較例3-4、比較例3-1と比較例3-2を対比してみると、本願と同様な「下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂

」の製造時に、ポリカーボネート樹脂の重合後の押出機において、ベントを行うか、行わないかによって、ポリカーボネート樹脂の残存フェノールの含有量に209?220重量ppmと2220?2550重量ppmとの差が生じることが理解できる。
そうすると、引用発明のポリカーボネート樹脂が、本願明細書において望ましいとされる重合温度で重合されているとは必ずしもいえないし、重合時に生成するフェノール類は加熱減圧下で留出、留去されてはいても、ベント付きの押出機でペレット化されているとはいえないから、引用発明の残存フェノールは700重量ppmを超えた数値である蓋然性が高いといえる。
相違点3について
ナトリウム、カリウム及びセシウムは、原料の他に製造装置等からも組成物中に取り込まれるもの(刊行物1の段落【0029】、本願明細書の段落【0032】)であって、刊行物1の具体的な実施例における「Na、Ca、Feの含有量」は、実施例で4.6質量ppmであること、本願発明における実施例でのナトリウム、カリウム及びセシウムの含有量が0.6重量ppmであることから、引用発明の原材料の化合物中にナトリウム、カリウム及びセシウムが含まれていないことをもって、直ちに、その含有量が1重量ppm以下であるということはできない。

以上の検討から、相違点2及び3は実質上の相違点である。
そうすると、本願発明は、刊行物1に記載された発明ではない。

そして、相違点2及び3に係る効果として、メタルハライドランプ照射処理前後のYI値の差が小さく耐光性に優れるとの有利な効果が具体的な実施例、比較例で確認されている。
さらに、相違点1に関わる周知技術として提示されていた刊行物2及び3においても、ポリカーボネートに含まれる残存フェノールを1?700重量ppmとし、ナトリウム、カリウム及びセシウムの合計の含有量が、金属量として1重量ppm以下とすることによって、メタルハライドランプ照射処理前後のYI値の差が小さく耐光性に優れるとの効果を奏することは記載も示唆もされていない。
そうすると、引用発明において、ポリカーボネートに含まれる残存フェノールを1?700重量ppmとし、ナトリウム、カリウム及びセシウムの合計の含有量を、金属量として1重量ppm以下とする動機もなく、そのことによる効果も予測できない。
したがって、少なくとも相違点2、3において、当業者においても想到容易とはいえない。
よって、上記相違点1、4ないし5について判断するまでもなく、本願発明は、刊行物1に記載された発明ではなく、また、当業者が、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

5 請求項2ないし4、6ないし11に係る発明と引用発明との対比・判断
請求項2ないし4、6ないし11に係る発明は、請求項1に係る発明である本願発明を直接又は間接的に引用する発明であるから、本願発明と同じ理由により、刊行物1に記載された発明ではなく、当業者が、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第4-2 原査定の理由3(特許法第36条第4項第1号)について
原査定の理由3において指摘した記載不備の原因である請求項2は、審判請求時の補正により削除されたので、当該拒絶理由を維持することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-07-18 
出願番号 特願2011-199458(P2011-199458)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (C08L)
P 1 8・ 121- WY (C08L)
P 1 8・ 536- WY (C08L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
藤原 浩子
発明の名称 ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品  

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