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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16C |
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管理番号 | 1330686 |
審判番号 | 不服2016-17344 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-11-21 |
確定日 | 2017-08-08 |
事件の表示 | 特願2014-162719「樹脂製スラストワッシャー」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月22日出願公開、特開2015- 14368、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成24年3月29日に出願した特願2012-76486号の一部を平成26年8月8日に新たな特許出願としたものであって、平成27年6月19日付けで拒絶理由が通知され、同年8月13日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年1月13日付けで再度拒絶理由が通知され、同年3月17日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月22日付け(発送日:同年8月30日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対し、同年11月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に、明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものである。 第2.原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 (進歩性)本願の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2003-343549号公報 2.特開2004-18700号公報 3.特開平5-179277号公報 4.特開平1-168758号公報(周知技術を示す文献) ・請求項1について 引用文献1には、ドーナツ状環状体を成している樹脂製スラストワッシャーにおいて、ドーナツ状環状体の内部に、内周側から半径方向外側へ延びる潤滑油の環状導入空間が形成され、かつ、ドーナツ状環状体が内部に接合部分を有さない一体形状の射出成形品である樹脂製スラストワッシャーが記載されている(引用文献1の段落【0003】,【0004】,【図6】を参照のこと。)。 請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、請求項1に係る発明は、ドーナツ状環状体を成している環状体の内径をR(mm)、環状導入空間の幅をU(mm)としたとき、4(mm)<U(mm)+1(mm)<R(mm)の関係を満たす点(相違点1)、樹脂が、平均繊維長0.1mm?5mmのガラス繊維、炭素繊維またはフッ素繊維を、ガラス繊維の場合は、その混合率(重量%)(対製品全体の重量)が5%?60%、炭素繊維の場合は、その混合率(重量%)(対製品全体の重量)が5%?40%、フッ素繊維の場合は、その混合率(重量%)(対製品全体の重量)が10%?50%の混合率の条件を満足して補強繊維に使用した繊維強化熱可塑性ポリアミド樹脂である点(相違点2)で、引用文献1に記載された発明と相違する。 上記相違点1について検討する。 ドーナツ状環状体を成している環状体の内径と環状導入空間の幅とをどのような関係にするかは、当該樹脂製スラストワッシャーの用途等に応じて当業者が適宜決定することにすぎない。 上記相違点2について検討する。 引用文献2には、摺動材として用いられる樹脂が、ガラス繊維、炭素繊維又はその他の合成繊維を補強繊維として含有した繊維強化熱可塑性ポリアミド樹脂であり、特に、ガラス繊維の場合は、その混合率(重量%)(対製品全体の重量)が約9%(100/(300+700+100))であることが記載されている(引用文献2の段落【0007】,【0009】,【0011】,【0017】を参照のこと。)。 また、引用文献3には、摺動材として用いられる樹脂が、ガラス繊維又は炭素繊維を補強繊維として含有した繊維強化熱可塑性ポリアミド樹脂であり、特に、炭素繊維の場合は、その混合率(重量%)(対製品全体の重量)が30%であることが記載されている(引用文献3の段落【0005】,【0006】,【0012】を参照のこと。)。 摺動材として用いられるポリアミド樹脂に含有される補強繊維の平均繊維長が0.1mm?5mm程度であることは、従来周知の技術である(例えば、周知技術を示す文献4の第1ページ右下欄第16-18行,第2ページ右上欄第12行-左下欄第1行,第5ページ右上欄第7行-右下欄第15行を参照のこと。)。 引用文献1に記載された樹脂製スラストワッシャーにおいて、樹脂として何を用いるかは、公知の材料から適宜選択し得るものであると認められるから、引用文献2又は3に記載された摺動材として用いられる樹脂を採用し、その際、従来周知の補強繊維の平均繊維長を勘案して、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。 そして、その際、その他の合成繊維としてフッ素繊維を用いることは、当業者が適宜なし得たことに過ぎない。 また、環状導入空間の幅をどの程度とするかは、当該樹脂製スラストワッシャーの用途等に応じて当業者が適宜決定することに過ぎない。 したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1ないし3に記載された発明並びに従来周知の技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。 ・請求項2について 引用文献2又は3には、熱可塑性ポリアミド樹脂が、ナイロン6樹脂又はナイロン66樹脂であることが記載されている(引用文献2の段落【0011】、引用文献3の段落【0006】を、それぞれ参照のこと。)。 ・請求項3及び4について 引用文献1には、環状導入空間の外周縁形状が、ドーナツ状環状体の中心軸方向からみて半径方向外側に膨らむ複数の円弧状を組合せてなる形状であり、環状導入空間の、複数の円弧状を組合せてなる形状である外周縁の近傍の内側に、環状導入空間からワッシャーの背面外側へ向けて潤滑油を流動させる流路を内部に有する管状突起を、環状の周方向に間欠的に設けたことが記載されている(引用文献1の段落【0003】,【0004】,【図6】を参照のこと。)。 第3.審判請求時の補正について 審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第5項までの要件に違反しているものとはいえない。 すなわち、審判請求時の補正によって、特許請求の範囲の請求項1に記載された「該樹脂が、平均繊維長0.1mm?5mmのガラス繊維、炭素繊維またはフッ素繊維を、下記(a)?(c)に記載した混合率の条件を満足して補強繊維に使用した繊維強化熱可塑性ポリアミド樹脂であり、・・・(中略)・・・ (a)ガラス繊維の場合は、その混合率(重量%)(対製品全体の重量)が5%?60%、(b)炭素繊維の場合は、その混合率(重量%)(対製品全体の重量)が5%?40%、(c)フッ素繊維の場合は、その混合率(重量%)(対製品全体の重量)が10%?50%」とあるのを、「該樹脂が、平均繊維長0.1mm?5mmのガラス繊維または炭素繊維を、下記(a),(b)に記載した混合率の条件を満足して補強繊維に使用した繊維強化熱可塑性ポリアミド樹脂であり、・・・(中略)・・・(a)ガラス繊維の場合は、その混合率(重量%)(対製品全体の重量)が5%?60%、(b)炭素繊維の場合は、その混合率(重量%)(対製品全体の重量)が5%?40%」とすることにより、補強繊維に関して選択的に記載された「ガラス繊維、炭素繊維またはフッ素繊維」から「フッ素繊維」が削除された。この補正は、補強繊維の種類に関して限定を付すことに相当し、かつ、補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、この補正は、補強繊維に関して、選択的事項を削除するものであるから、当初明細書に記載された事項の範囲内においてされたことは明らかであるから、新規事項を追加するものではない。 そして、「第4.本願発明」から「第6.対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1ないし4に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。 第4.本願発明 本願の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、平成28年11月21日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 ドーナツ状環状体を成している樹脂製スラストワッシャーにおいて、該樹脂が、平均繊維長0.1mm?5mmのガラス繊維または炭素繊維を、下記(a),(b)に記載した混合率の条件を満足して補強繊維に使用した繊維強化熱可塑性ポリアミド樹脂であり、かつ、前記ドーナツ状環状体の内部に、内周側から半径方向外側へ延びる潤滑油の環状導入空間が形成され、かつ、該ドーナツ状環状体が内部に接合部分を有さない一体形状からなると共に、 前記ドーナツ状環状体を成している環状体の内径をR(mm)、前記環状導入空間の幅をU(mm)としたとき、4(mm)<U(mm)+1(mm)<R(mm)の関係を満たし、前記環状導入空間の幅Uが16mm以上であることを特徴とする樹脂製スラストワッシャー。 (a)ガラス繊維の場合は、その混合率(重量%)(対製品全体の重量)が5%?60%、 (b)炭素繊維の場合は、その混合率(重量%)(対製品全体の重量)が5%?40%。 【請求項2】 前記熱可塑性ポリアミド樹脂が、ナイロン6樹脂またはナイロン66樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製スラストワッシャー。 【請求項3】 前記環状導入空間の外周縁形状が、前記ドーナツ状環状体の中心軸方向からみて半径方向外側に膨らむ複数の円弧状を組合せてなる形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂製スラストワッシャー。 【請求項4】 前記環状導入空間の、前記複数の円弧状を組合せてなる形状である外周縁の近傍の内側に、前記環状導入空間からワッシャーの背面外側へ向けて前記潤滑油を流動させる流路を内部に有する管状突起を、前記環状の周方向に間欠的に設けたことを特徴とする請求項3に記載の樹脂製スラストワッシャー。」 第5.引用文献、引用発明等 1.引用文献1 原査定の拒絶の理由で引用された刊行物である引用文献1(特開2003-343549号公報)には、「樹脂製スラストワッシャー及びその製造方法」に関して、図面(特に【図6】を参照。)とともに次の事項が記載されている。 下線は当審で付した。以下、同じ。 ア.「【0002】 【従来の技術】スラストワッシャーは機械装置における回転体の軸部の周りに、その保護部品として設けられるものである。 【0003】図6は、このようなスラストワッシャーとして、二つの相対回転する回転体61,62間における一方の回転体62に装着される場合を示す。スラストワッシャー63は、樹脂によりドーナツ状の環状体64として一体に射出成形され、内部に内周側から半径方向外側へ延びる潤滑油の導入空間65を有し、さらに導入空間65から背面の外側に抜ける管状突起66を有している。そして、その管状突起66を、回転体62の軸部(図示せず)の周りに設けられた嵌合孔70に挿入することにより、その回転体62に対して同心状に支持されている。 【0004】回転体62が回転すると遠心力により潤滑油が矢印のように半径方向に流動してスラストワッシャー63の導入空間65に流入し、その導入空間65から管状突起66を経て流出し回転体62の表面を潤滑する。また、潤滑油は環状体64と他方の回転体61との隙間にも流入し、両回転体61,62間を潤滑する。 【0005】しかし、従来のスラストワッシャー63は、一体の構造体として射出成形されているため、上記のように潤滑油の導入空間65が半径方向外側へ凹んだ状態に形成されていることで、この導入空間65を抜き型などのスライド機構を備えた金型で成形しなければならない。そのため金型構造が複雑になり、かつ抜き型で成形された成形品はバリが出やすいため、そのバリを修正するための後加工の作業が多くなるという問題があった。したがって、上記構造からなるスラストワッシャーの製造には、一般的にコストアップになることは避けられず、かつ成形品の寸法精度も出し憎いという問題があった。」 イ.上記ア.の「スラストワッシャー63は、樹脂によりドーナツ状の環状体64として一体に射出成形され、」(段落【0003】)との記載によれば、スラストワッシャー63は樹脂製でであることが分かり、また、スラストワッシャー63は、一体に射出成形されるものであるから、内部に接合部を有さないことは明らかである。 上記記載事項及び認定事項並びに図面の図示事項を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「ドーナツ状環状体64を成している樹脂製のスラストワッシャー63において、前記ドーナツ状環状体64の内部に、内周側から半径方向外側へ延びる潤滑油の環状導入空間65が形成され、かつ、該ドーナツ状環状体64が内部に接合部分を有さない一体形状からなる樹脂製のスラストワッシャー63。」 2.引用文献2 原査定の拒絶の理由で引用された刊行物である引用文献2(特開2004-18700号公報)には、「低騒音用合成樹脂組成物及びその用途」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。 ア.「【0001】 【発明が属する技術分野】 本発明は、スティック-スリップ(stick-slip)現象が起きにくい低騒音用合成樹脂組成物に関する。」 イ.「【0007】 本発明において用いることが出来る合成樹脂としては、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。具体的には、POM、ナイロン66(ポリヘキサメチレンアジポアミド)、ナイロン6(ポリカプラミド)、ナイロン11(ポリウンデカンアミド)、ナイロン12、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。とくに、POM、ナイロン66、ナイロン11、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン等が好ましく用いられる。これら熱可塑性樹脂は、1種でも2種以上を混合して用いても良い。」 ウ.「【0009】 成型は、通常、押出成型または射出成型で行われる。 また、金型の温度をやや低めに設定すると良いことが解っている。基本的には合成樹脂のガラス転移点ないし融点の範囲の温度が良い。さらに、金型は、急冷するよりも徐冷する方が、良い表面状態の成型物が得られることがわかっている。 合成樹脂組成物中に、グラスファイバー、ロックウール、カーボン繊維等の無機質繊維、ポリエステル、レーヨン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリオレフイン、アクリル等の合成繊維又は木材パルプ、マニラ麻等の天然パルプ繊維を添加して、成型物の強度を高めることが出来る。」 【0010】 本発明の低騒音用合成樹脂組成物は、任意の形状に成型することができ、機械要素のあらゆるところに適用することができる。例えば、ネジ、軸受(滑り軸受、転がり軸受)、軸継手、カム機構、シリンダとピストン、歯車、摩擦車、ベルトとプーリ、チエーンとスプロケット、弁、管などが挙げられる。 【0011】 本発明の実施の形態をまとめると、以下のとおりである。 (1)RBC又はCRBCの微粉末を均一に分散した低騒音用合成樹脂組成物。 (2) RBC又はCRBCの微粉末:合成樹脂の質量比が、30?90:70?10である上記1に記載した低騒音用合成樹脂組成物。 (3) 合成樹脂が、ポリアセタール、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン11、ナイ ロン12、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレンから選ばれる樹脂の1種又は2種以上である上記1又は上記2に記載した低騒音用合成樹脂組成物。 (4) RBC又はCRBCの微粉末の平均径が、300μm以下である上記1ないし上記3のいずれかひとつに記載した低騒音用合成樹脂組成物。 (5) RBC又はCRBCの微粉末の平均径が、20?150μmである上記4に記載した低騒音用合成樹脂組成物。 (6) 無機質繊維、合成繊維、天然パルプ繊維から選ばれる1種又は2種以上の繊維を含む上記1ないし上記5のいずれかひとつに記載した低騒音用合成樹脂組成物。 (7) 上記(1)?(6)の低騒音用合成樹脂組成物を用いて成型した機械要素成型物。 (8) 機械要素が、ネジ、軸受(滑り軸受、転がり軸受)、軸継手、カム機構、シリンダとピストン、歯車、摩擦車、ベルトとプーリ、チエーンとスプロケット、弁、管のいずれかひとつである上記7に記載した機械要素成型物。」 エ.「【0017】 実施例6 (RBC微粉末と合成樹脂混合物の作成) 実施例2で得られたRBC微粉末(平均粒子径150μm)300g、ポリアミド(ナイロン66)ペレット700gを260℃?280℃に加熱しながら、混合して混錬した。可塑性を有する均質な混合物が得られた。次いで、グラスファイバー繊維100g混入し、均一になるまで混合した。 (試験片の成型) RBC微粉末とグラスファイバー繊維とポリアミド(ナイロン66)を溶融混合して得られた樹脂組成物を原料樹脂とした。270℃の温度で金型(130℃?140℃)に圧入し、厚さ3mmφ50mmの試験片を作成した。 (摩擦特性の測定) 荷重0.49N、ストローク5mm(0.001-0.01m/sについて)、エステル系潤滑油下、ボールSUJ2φ2mmを用いて、摩擦特性(摩擦係数、すべり速度)を計測した。 その結果を図5に示す。」 オ.上記イ.の「本発明において用いることが出来る合成樹脂としては、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。具体的には、POM、ナイロン66(ポリヘキサメチレンアジポアミド)、ナイロン6(ポリカプラミド)」(段落【0007】)との記載、上記ウ.の「合成樹脂組成物中に、グラスファイバー、ロックウール、カーボン繊維等の無機質繊維、ポリエステル、レーヨン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリオレフイン、アクリル等の合成繊維又は木材パルプ、マニラ麻等の天然パルプ繊維を添加して、成型物の強度を高めることが出来る。」(段落【0008】)との記載、及び上記ウ.の「低騒音用合成樹脂組成物は、任意の形状に成型することができ、機械要素のあらゆるところに適用することができる。例えば、ネジ、軸受(滑り軸受、転がり軸受)」(段落【0009】)との記載によれば、滑り軸受の摺動材として用いられる樹脂が、ガラス繊維を、補強繊維に使用した繊維強化熱可塑性ポリアミド樹脂であることが分かる。 カ.上記エ.の「実施例2で得られたRBC微粉末(平均粒子径150μm)300g、ポリアミド(ナイロン66)ペレット700gを260℃?280℃に加熱しながら、混合して混錬した。可塑性を有する均質な混合物が得られた。次いで、グラスファイバー繊維100g混入し、均一になるまで混合した。」(段落【0017】)との記載によれば、ポリアミド700gに、RBC微粉末300gとグラスファイバー繊維100gを使用するものであるから、ガラス繊維であるグラスファイバー繊維100gが、全体の重量(700g+300g+100g=1100g)に対して混合されていることが分かり、ガラス繊維であるグラスファイバー繊維の全体の重量に対する混合率は、「(100/1100)*100」=9%であるといえる。 上記記載事項及び認定事項を総合すると、引用文献2には、次の技術事項(以下、「引用文献2に記載された技術事項」という。)が記載されている。 「摺動材として用いられる樹脂が、ガラス繊維を補強繊維に使用した繊維強化熱可塑性ポリアミドであり、ガラス繊維の混合率(重量%)(対製品全体の重量)が9%である樹脂。」 3.引用文献3 原査定の拒絶の理由で引用された刊行物である引用文献3(特開平5-179277号公報)には、「摺動体及び摺動ブッシュ」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。 ア.「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、主として自動車等輸送用機器の摺動部材を構成する摺動体及び摺動ブッシュに関するものである。」 イ.「【0005】 【課題を解決するための手段】上記課題を検討した結果、下記構造の摺動体及び摺動ブッシュとした。すなわち、互いに摺動する二つの部材で、一方の部材の少なくとも摺動面が補強短繊維を10?50重量%含むポリアミド樹脂であり、他方の部材の摺動面が金属部材の電着塗装面である部材の組合せからなる摺動体とした。 【0006】ここで、ポリアミド樹脂としては、ナイロン(6、11、12、6,6)等が使用できる。補強短繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などが使用できる。更に、これらの繊維強化物には潤滑性向上のため、フッソ樹脂パウダーや二硫化モリブデンを配合したものが好適に使用できる。また、電着塗装前の金属の表面は素地のままでもよいが、塗装前の防錆及び塗膜の耐久性のために、リン酸鉄、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛カルシウムなどの皮膜を形成するとよい。電着塗装としてはカチオン型エポキシ樹脂系塗料の他にも、アニオン型のポリブタジエン樹脂やポリエステル樹脂等の塗料が使用できる。」 ウ.「【0012】 【実施例】 実施例1,2(金属部材電着塗装) 図1は一方の部材Aが合成樹脂で、他方の部材Bが金属であり、これら部材A,B間は互いに摺動する構造の摺動体の例である。一方の部材Aは摺動面2aを含む全体が炭素繊維の短繊維を30重量%含む6,6ナイロン樹脂製である。6,6ナイロン樹脂には市販品の2銘柄(東レ(株)製トレカ,実施例1、東レ(株)製アミラン,実施例2)を使用した。また、他方の部材Bは鋼製であって、その表面の摺動面2bはエポキシ系カチオン電着塗装を施している。」 エ.上記イ.の「互いに摺動する二つの部材で、一方の部材の少なくとも摺動面が補強短繊維を10?50重量%含むポリアミド樹脂であり」(段落【0005】)との記載、上記ウ.の「、ポリアミド樹脂としては、ナイロン(6、11、12、6,6)等が使用できる。」(段落【0006】)との記載、及び上記ウ.の「一方の部材Aは摺動面2aを含む全体が炭素繊維の短繊維を30重量%含む6,6ナイロン樹脂製である。」(段落【0012】)との記載によれば、摺動材として用いられる樹脂が、炭素繊維を、補強繊維に使用した繊維強化熱可塑性ポリアミド樹脂であることが分かり、また、炭素繊維の全体の重量に対する混合率が30%であることが分かる。 上記記載事項及び認定事項を総合すると、引用文献3には、次の技術事項(以下、「引用文献3に記載された技術事項」という。)が記載されている。 「摺動材として用いられる樹脂が、炭素繊維を補強繊維に使用した繊維強化熱可塑性ポリアミドであり、ガラス繊維の混合率(重量%)(対製品全体の重量)が30%である樹脂。」 4.引用文献4 原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として引用された刊行物である引用文献4(特開平1-168758号公報)には、「ポリアミド樹脂組成物」に関して、次の事項が記載されている。 ア.「従って本発明の目的は、摺動材としての用途に関しても満足し得る様な特性を有するポリアミド樹脂組成物を提供するにある。」(第1ページ右下欄第16ないし18行) イ.「本発明のポリアミド樹脂組成物中のポリアミドは、 (a)テレフタル酸成分及び/又はテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分から成るジカルボン酸成分、 及び、 (b)脂肪族ジアミン及び/又は脂環族ジアミンから成るジアミン成分単位、 とから成る。」(第2ページ右上欄第13行ないし左下欄第1行) ウ.「本発明においては更にガラス繊維及び/又は炭素繊維を配合することによって樹脂組成物の引張強度等の機械的特性、耐熱性並びに耐荷重性を向上せしめる。これらガラス繊維乃至炭素繊維は、少なくともその合計量がポリアミド樹脂100重量部当たり20乃至100重量部、特に30乃至80重量部の割合で、単独又は組み合わせで使用される。 この配合量が上記範囲よりも少ない場合には、所望の特性の向上効果が得られず、また上記範囲よりも多量に使用した場合には、表面平滑性等の摺動特性が不満足となり、また樹脂組成物の成形性も低下する。 また本発明においては、ガラス繊維と炭素繊維とを組み合わせで使用することが好適であり、特にガラス繊維と炭素繊維とを重量基準で9:1乃至1:9の割合で併用することが特に望ましい。この様にガラス繊維と炭素繊維とを組み合わせで使用することによって、耐荷重性が飛躍的に向上するという顕著な作用効果が達成される。 例えば後述する実施例から明らかな通り、成分(A)のポリアミドにチタン酸カリウム繊維のみを配合した試料(比較例4)では、松原式リング摩耗試験機で測定した限界PV値が400kg/cm^(2)、及びチタン酸カリウム繊維とガラス繊維とを配合した試料(実施例1)では500kg/cm^(2)であるのに対し、チタン酸カリウム繊維に加えてガラス繊維及び炭素繊維(重量比2:1)を配合した試料(実施例3)では、700kg/cm^(2)と限界PV値が飛躍的に向上していることが理解されよう。 本発明において使用するこのガラス繊維は、熱可塑性樹脂の補強剤として一般に使用されているものであり、繊維径が1乃至20μm、特に6乃至13μmの範囲にあり、且つ繊維長が1乃至10mm、特に3乃至6mmの範囲にあるものが好適に使用される。 またこのガラス繊維表面を、ビニルトリエトキシシラン、2-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のシラン系化合物で処理したものも好適に使用される。 本発明に用いる炭素繊維としては、セルロース繊維、ポリアクリロニトリル繊維、リグニン繊維、石油系特殊ピッチなどを原料として焼成して得られた耐炎質、炭素質、黒鉛質、カーボン繊維等の種々の炭素繊維を使用することができ、一般に繊維径が5乃至20μm、及び繊維長0.2乃至20mmの範囲にあるものが好適に使用される。」(第5ページ右上欄第8行ないし右下欄第15行) エ.「ガラス繊維 ・・・(中略)・・・(径13μm、長さ3mm)」(第6ページ左下欄第4及び5行) オ.「ガラス繊維の代わりに炭素繊維(径7μm、長さ3mm)を用いた」(第6ページ左下欄第21行ないし右上欄第1行) 上記記載事項によれば、「摺動材として用いられるポリアミド樹脂において、補強繊維として使用されるガラス繊維や炭層繊維平均繊維長を1mm?10mmとすること。」という技術事項は、本願出願日前において周知の技術(以下、「周知技術」という。)であると認められる。 第6.対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、その技術的意義、機能又は構造からみて、引用発明における「「ドーナツ状環状体64」は、本願発明1における「「ドーナツ状環状体」に相当し、以下同様に、「樹脂製のスラストワッシャー63」は「樹脂製スラストワッシャー」に、「環状導入空間65」は「環状導入空間」に、それぞれ相当する。 よって、本願発明1と引用発明とは、 「ドーナツ状環状体を成している樹脂製スラストワッシャーにおいて、前記ドーナツ状環状体の内部に、内周側から半径方向外側へ延びる潤滑油の環状導入空間が形成され、かつ、該ドーナツ状環状体が内部に接合部分を有さない一体形状からなる樹脂製スラストワッシャー。」 である点で一致し、次の各点で相違する。 [相違点1] 本願発明1においては「前記ドーナツ状環状体を成している環状体の内径をR(mm)、前記環状導入空間の幅をU(mm)としたとき、4(mm)<U(mm)+1(mm)<R(mm)の関係を満たし、前記環状導入空間の幅Uが16mm以上である」のに対し、引用発明においては係る構成を有するかどうか明らかでない点。(以下、「相違点1」という。)。 [相違点2] 本願発明1においては「樹脂が、平均繊維長0.1mm?5mmのガラス繊維または炭素繊維」を「補強繊維に使用した繊維強化熱可塑性ポリアミド樹脂であり」、繊維が「ガラス繊維の場合は、その混合率(重量%)(対製品全体の重量)が5%?60%」であるという条件を満足し、繊維が「炭素繊維の場合は、その混合率(重量%)(対製品全体の重量)が5%?40%」であるという条件を満足しているのに対し、引用発明においては樹脂がどのようなものであるか明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。 (2)相違点についての判断 上記相違点1について検討する。 相違点1に係る本願発明1の「前記ドーナツ状環状体を成している環状体の内径をR(mm)、前記環状導入空間の幅をU(mm)としたとき、4(mm)<U(mm)+1(mm)<R(mm)の関係を満たし、前記環状導入空間の幅Uが16mm以上である」という構成は、上記引用文献1ないし4には記載も示唆もされておらず、本願優先日前において周知の技術であるともいえない。 そして、本願発明1は、かかる構成を備えることにより、明細書の段落【0016】の「なお、以上のような点により、一体成形品として製造するという考えもあるが(特許文献1、段落0005)、従来の一体成形では、金型の入れ子抜き構造では、環状体の中心軸方向からみて、外周縁形状が半径方向外側に膨らむ複数の円弧状を組合せてなる形状を呈した潤滑油の環状導入空間を形成したスラストワッシャーでは、その構造の複雑さゆえに該環状導入空間が小さいものにせざるを得なかった。製品によっては該環状導入空間が4mm以下となり、十分な潤滑油の循環ができないばかりが、長年の使用により潤滑油内部に発生したカスなどの異物により詰まるなどの原因となり、実用面での問題があった。」との課題を解決し、明細書の段落【0022】の「本発明によれば、大きな環状導入空間を有し、高度な寸法精度を有し、射出成形による一体形状として成形されて、内部に接合部分を有さず強度が大きい樹脂製スラストワッシャーが提供される。」との効果を奏するものである。 これらの効果は引用発明、引用文献2、3に記載された技術事項及び上記周知技術から、当業者が予測できるものではない。 したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明、引用文献2、3に記載された技術事項及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 2.本願発明2ないし4について 本願発明2ないし4は、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同じ理由により、引用発明、引用文献2、3に記載された技術事項及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第7.原査定について 上記「第6.1.」及び「第6.2.」のとおり、本願発明1ないし4は、原査定において引用された引用文献1ないし4に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第8.むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-07-25 |
出願番号 | 特願2014-162719(P2014-162719) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(F16C)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 中村 大輔 |
特許庁審判長 |
中村 達之 |
特許庁審判官 |
中川 隆司 滝谷 亮一 |
発明の名称 | 樹脂製スラストワッシャー |
代理人 | 清流国際特許業務法人 |
代理人 | 境澤 正夫 |
代理人 | 昼間 孝良 |