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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1330697 |
審判番号 | 不服2016-12127 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-08-10 |
確定日 | 2017-08-08 |
事件の表示 | 特願2014-152937「リトグラフ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月25日出願公開、特開2014-241425、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成16年(2004年)7月15日(パリ条約による優先権主張 2003年7月16日、欧州特許庁)に出願された特願2004-207959号(以下「原出願」という。)の一部を平成21年7月6日に新たな特許出願とした特願2009-159623号の一部を平成22年3月25日に新たな特許出願とした特願2010-70092号の一部を平成24年3月19日に新たな特許出願とした特願2012-61788号の一部を平成26年5月28日に新たな特許出願とした特願2014-110008号の一部を、平成26年7月28日に新たな特許出願とした特願2014-152937号であって、平成27年4月28日付け(発送同年5月12日)で拒絶理由が通知され、同年7月17日に手続補正がされるとともに意見書が提出され、同年9月30日付け(発送同年10月6日)で拒絶理由が通知され、平成28年2月5日に手続補正がされるとともに意見書が提出されたが、同年4月21日付けで拒絶査定(謄本送達日 同年同月26日、以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年8月10日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、これと同時に手続補正がされた後、当審において、平成29年5月30日付け(発送同年6月6日)で拒絶理由が通知され、同年7月3日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。 第2 本願発明 本願請求項1ないし10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明10」という。)は、平成29年7月3日にされた手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし10は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 可動テーブルと、 放射線ビームを基板の放射線感受目標部分に投影する投影装置であって、最終部材を備える投影装置と、 前記投影装置と前記基板及び/または前記可動テーブルとの間のスペースを温度制御された液体で少なくとも部分的に満たすよう構成されている液体供給装置であって、前記温度制御された液体の流れを前記スペース及び/または対象物の局所的な領域へと誘導するためのアウトレットを備える液体供給装置と、 前記投影装置の光学特性を複数のロケーションでの温度情報に基づいて調整するよう構成されている投影装置補償器と、 前記スペースが前記液体で少なくとも部分的に満たされているときに前記基板及び/または前記テーブルの前記複数のロケーションでの前記投影装置補償器で使用される温度情報を測定する温度センサと、を備え、 前記投影装置補償器は、測定された温度情報と目標温度との差を用いて前記投影装置に配設された一つ以上の調整可能素子により前記投影装置の結像特性を調整するよう構成され、 前記最終部材は、前記基板及び/または前記可動テーブルに直接面する前記投影装置の最終レンズであり、 前記液体供給装置は、前記最終部材の下で該最終部材を囲んで配置されたシール部材を備え、該シール部材は、前記基板及び/または前記可動テーブルの局所的な領域に前記液体を閉じ込めるよう構成され、 前記シール部材は、液面が前記最終部材の底端部より高くなるよう前記最終部材より上方に伸長しているリトグラフ装置。 【請求項2】 前記投影装置は、放射線ビームの経路における前記最終レンズの上流に配設された複数の調整可能素子をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の装置。 【請求項3】 前記シール部材は、前記投影装置の光軸の方向に移動可能である、請求項1または2に記載の装置。 【請求項4】 前記シール部材の底面の少なくとも一部は、前記基板及び/または前記可動テーブルに面する平面を備える、請求項1から3のいずれかに記載の装置。 【請求項5】 前記基板及び/または前記可動テーブルの温度を調整する温度制御器をさらに備える、請求項1から4のいずれかに記載の装置。 【請求項6】 前記投影装置補償器は、前記測定された温度情報と前記目標温度との前記差によって生じる、前記基板上に生成されるパターンにおけるゆがみに応じて、前記投影装置の光学特性を調整するよう構成されている、請求項1から5のいずれかに記載の装置。 【請求項7】 前記温度情報に基づいて前記温度制御された液体の温度を調整する温度制御器をさらに備える、請求項1から6のいずれかに記載の装置。 【請求項8】 前記投影装置補償器は、較正データを処理するよう構成されており、前記較正データは、前記温度情報に応じて前記投影装置の光学特性に適用する調整を表す、請求項1から7のいずれかに記載の装置。 【請求項9】 前記液体及び/または前記最終部材の前記複数のロケーションでの前記投影装置補償器で使用される温度情報を測定する温度センサをさらに備える、請求項1から8のいずれかに記載の装置。 【請求項10】 前記液体供給装置は、前記最終部材、前記基板、及び前記液体の温度を共通の目標温度に調整する温度制御器を備える、請求項1から9のいずれかに記載の装置。」 なお、本願発明2ないし10は、本願発明1を減縮した発明である。 第3 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について (1)原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1(特開平10-303115号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。 ア 「【請求項1】 露光位置において基板を保持するステージおよびこのステージ上に前記基板を搬送するためのアームを有し、露光される基板の温度を測定するためのセンサが前記ステージ上あるいはアーム上に設けられていることを特徴とする請求項1記載の露光装置。 【請求項2】 前記センサは複数個設けられていることを特徴とする請求項1記載の露光装置。 【請求項3】 露光パターンを前記基板上に投影するための投影光学系を備え、その倍率を前記基板の測定温度に応じて補正する倍率補正手段を有することを特徴とする請求項1または2記載の露光装置。 【請求項4】 前記倍率補正手段は、前記基板上の寸法が、前記基板の温度が所定の基準温度から前記測定温度へ変化した場合に変化する量に対応するように前記投影光学形の倍率を変化させるものであることを特徴とする請求項3記載の露光装置。」 イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は露光装置およびこれを用いることができるデバイス製造方法に関し、特に、被露光基板の温度を測定し、さらにはその測定温度に応じて被露光基板への投影倍率を補正するようにしたものに関する。」 ウ 「【0009】 【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため本発明の露光装置では、露光位置において基板を保持するステージおよびこのステージ上に前記基板を搬送するためのアームを有し、露光される基板の温度を測定するためのセンサが前記ステージ上あるいはアーム上に設けられていることを特徴とする。また、本発明のデバイス製造方法では、基板の温度を測定してからその基板の露光を行うことを特徴とする。基板の測定温度は、露光に際しての倍率補正等のために用いられる。 【0010】 【発明の実施の形態】本発明の好ましい実施形態においては、前記センサは前記ステージ上あるいはアーム上に複数設けられ、それらの上に保持される基板の温度を測定する。 【0011】また、基板の測定温度に応じて、露光パターンの基板上への投影倍率を補正し、そして前記基板の露光を行う。この倍率補正は、基板上の寸法が、基板の温度が所定の基準温度から測定温度へ変化した場合に変化する量に対応する量だけ投影倍率を変化させることにより行うことができる。基準温度として、露光すべき基板のロット中の最初に露光すべき基板の前記測定温度、あるいは基板に関する処理の工程における基準温度を採用することができる。このようにして倍率補正を行うことにより、クーリングプレートで基板を所定の温度に制御したり、基板への投影倍率の補正値を基板毎に光学的に計測したりする必要性を排除することができる。」 エ 「【0013】 【実施例】 [第1の実施例]図1は、本発明の第1の実施例に係る露光機を示す斜視図である。同図に示すように、ワーク(被露光基板)は、複数枚を1ロットとして、各カセット4a?4c内に、ロット単位で収納されている。各カセット4a?4cに収納されているワークは、毎葉で取り出され、インターフェース・アーム5によって露光機内の露光ステージ2へ送り込まれる。 【0014】図2は、この露光機における温度センサの配置を示す斜視図である。同図に示すように、ワーク裏面を直接支持するインターフェース・アーム5あるいは露光ステージ2に温度センサ6bあるいは6aを配置する。 【0015】図3はこの露光機における倍率補正手段を示す斜視図である。同図において、7はワーク3上に露光すべきパターンを有するマスク、8はこのパターンの像をワーク3上に投影する投影光学系、9はマスク7と投影光学系8との間に配置したX方向の倍率補正機構、10は投影光学系8とワーク3との間に位置するY方向の倍率補正機構である。倍率補正機構9、10は例えば、透明な板状部材と、これを彎曲させる手段とを有し、その曲率を変化させることにより投影倍率を補正するものであり、これらにより倍率補正手段を構成している。 【0016】この構成において、図4に示すように、露光機は、セカンド・レーヤ以降についての露光を行うために、カセット4a?4cのいずれかのロットの最初のワークをインターフェース・アーム5により投入すると(ステップS1)、そのワークの温度をセンサ6aまたは6bで測定し(ステップS2)、その測定温度を、基準温度として露光機に登録しておく(ステップS3)。次に、測定温度が所定の許容範囲内の値か否かを判定し(ステップS4)、許容範囲内でなければ警告を発生する(ステップS5)。次に、露光シーケンスに従い、ワークとマスク・パターンとの合せを行った後、ワークの倍率計測を行い(ステップS6)、その結果に基づいて倍率補正を行いながら、露光を行う(ステップS8)。計測したワークの倍率は、基準倍率として露光機に登録しておく(ステップS7)。 【0017】次に、次のワークをインターフェース・アーム5により露光ステージ2上に搬送すると共に(スップS9)、ワークの温度をセンサ6aまたは6bで測定し(ステップS10)、その温度を記憶する(ステップS11)。また、測定温度が所定の許容範囲内であるか否かを判定し(ステップS12)、許容範囲外であればその旨の警告を発生する(ステップS13)。 【0018】次に、ワークとマスクとのパターン合せを行った後、倍率計測を行うことなく、ステップS8で記憶した基準倍率と、ステップS10における測定温度のステップS3で登録した基準温度からの温度差とに基づいて倍率補正を行い、露光を行う。つまり、基準温度からの温度差に応じて変化する分の倍率を計算し(ステップS14)、この倍率を基準倍率に対して増減した倍率となるような補正データにより倍率補正手段を駆動し、露光を行う(ステップS15)。この後、ステップS9に戻り、ステップS9?S15の処理を繰り返すことにより、順次、ロット中の残りの各ワークについての露光を行う。なお、ステップS11において、毎葉で記憶したワークの温度は、後の工程で発見された合せ不良等の問題に対して、各ワークがどのような倍率補正によって露光されたかの履歴を検証するのに用いられる。」 オ 図1ないし3は次のものである。 図1 図2 (2)引用発明 上記(1)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「露光位置において基板を保持するステージおよびこのステージ上に前記基板を搬送するためのアームを有し、露光される基板の温度を測定するためのセンサが前記ステージ上あるいはアーム上に設けられ、 前記センサは複数個設けられ、 露光パターンを前記基板上に投影するための投影光学系を備え、その倍率を前記基板の測定温度に応じて補正する倍率補正手段を有し、 前記倍率補正手段は、前記基板上の寸法が、前記基板の温度が所定の基準温度から前記測定温度へ変化した場合に変化する量に対応するように前記投影光学形の倍率を変化させる露光装置。」 2 引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた引用文献2(国際公開第99/49504号)には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「技術分野 本発明は、例えば、半導体素子、撮像素子(CCD等)、液晶表示素子、又は薄膜磁気へッド等のデバイスを製造するためのリソグラフフィ工程でマスクパターンを感光性の基板上に転写するために用いられる投影露光方法、及び装置に関し、更に詳しくは液浸法を用いた投影露光方法及び装置に関する。」(1頁5?10行) イ 「そこで液体7と接触する光学素子を、例えばレンズ4よりも安価な平行平面板とするようにしてもよい。この場合、投影露光装置の運搬、組立、調整時等において投影光学系PLの透過率、ウエハW上での露光光の照度、及び照度分布の均一性等を低下させる物質(例えばシリコン系有機物等)がその平行平面板に付着しても、液体7を供給する直前にその平行平面板を交換するだけでよく、液体7と接触する光学素子をレンズとする場合に比べてその交換コストが低くくなるという利点もある。」(11頁19?26行) ウ 「その液体7は、その液体のタンク、加圧ポンプ、温度制御装置等からなる液体供給装置5によって、所定の排出ノズル等を介してウエハW上に温度制御された状態で供給され、その液体のタンク及び吸引ポンプ等からなる液体回収装置6によって、所定の流入ノズル等を介してウエハW上から回収される。液体7の温度は、例えば本例の投影露光装置が収納されているチャンバ内の温度と同程度に設定されている。そして、投影光学系PLのレンズ4の先端部をX方向に挟むように先端部が細くなった排出ノズル21a、及び先端部が広くなった2つの流入ノズル23a,23b(図2参照)が配置されており、排出ノズル2laは供給管21を介して液体供給装置5に接続され、流入ノズル23a,23bは回収管23を介して液体回収装置6に接続されている。更に、その1対の排出ノズル21a、及び流入ノズル23a,23bをほぼ180°回転した配置の1対のノズル、及びそのレンズ4の先端部をY方向に挟むように配置された2対の排出ノズル、及び流入ノズルも配置されている。 図2は、図1の投影光学系PLのレンズ4の先端部4A及びウエハWと、その先端部4AをX方向に挟む2対の排出ノズル及び流入ノズルとの位置関係を示し、この図2において、先端部4Aの+X方向側に排出ノズル21aが、-X方向側に流入ノズル23a,23bがそれぞれ配置されている。また、流入ノズル23a,23bは先端部4Aの中心を通りX軸に平行な軸に対して扇状に開いた形で配置されている。そして、1対の排出ノズル21a、及び流入ノズル23a,23bをほぼ180°回転した配置で別の1対の排出ノズル22a、及び流入ノズル24a,24bが配置され、排出ノズル22aは供給管22を介して液体供給装置5に接続され、流入ノズル24a,24bは回収管24を介して液体回収装置6に接続されている。 また、図3は、図1の投影光学系PLのレンズ4の先端部4Aと、その先端部4AをY方向に挟む2対の排出ノズル及び流入ノズルとの位置関係を示し、この図3において、先端部4Aの+Y方向側に排出ノズル27a、-Y方向側に流入ノズル29a,29bがそれぞれ配置され、排出ノズル27aは供給管27を介して液体供給装置5に接続され、流入ノズル29a,29bは回収管29を介して液体回収装置6に接続されている。」(12頁13行?13頁18行) エ 図1?4は次のものである。 3 引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献3(旧東ドイツ国経済特許第221563号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている(なお、Umlautはそれぞれ、「ae」、「oe」、「ue」、Eszettは「ss」とそれぞれ表記した。訳は当審が付した。)。 ア 「Die OEffnungen 10;11 sind in Abhaengigkeit von der Bewegungsrichtung des Halbleitersubstrates 25 wahlweise als Zufuehrungen fuer die Immersionsfluessigkeit 4.1 jeweils vor der Vorsatzeinrichtung 7, bzw. als Absaugung jeweils nach der Vorsatzeinrichtung 7 waehrend der Bewegung des Halbleitersubstrates 25 einsetzbar. Die gemaess der Fig.1 verwendete Immersionsflussigkeit 4.1 ist sowohl innerhalb der Vorsatzeinrichtung 7 als auch zwischen der Vorsatzeinrichtung 7 und der Oberfiaeche des beschichteten Fotoresists 26; 27 thermostatiert, wobei vorzugsweise eine Temperatur von 22±1℃ konstant gehalten ist. 」(12頁9?21行) (開口部10;11は、任意のアタッチメント7の正面にそれぞれの場合の液侵液4.1の供給線として、半導体基板25の移動方向に応じて使用することができ、また、アタッチメント7は、半導体基板25の移動中に、それぞれの場合の吸引に用いる。 図1によれば、使用される液侵液4.1を、アタッチメント7内及びアタッチメント7を22±1℃の一定の温度に保つことで、コーティングされたフォトレジスト26;27の表面と間の両方の温度を調節する。) イ 図1及び3は次のものである。 図1(Fig.1) 図3(Fig.3) 4 引用文献4について 原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献4(特開平10-303114号公報)には、次の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、レチクル上に描画されたパターンを投影光学系によってウエハに焼付ける露光装置に関し、特に液浸型の露光装置に関する。」 イ 「【0037】 【第2の実施例の説明】次に、本発明の第2の実施例について図4を参照して説明する。本実施例は、先の第1の実施例にも同様に適用可能な液体LQの温度制御法とウエハWの交換時の液体LQの取り扱い方法とを示す。従って、図4において先の図1,3中の部材と同じものには同一の符号をつけてある。さて、図4においてホルダテーブルWHの内底部に円形の凹部として形成されたウエハ載置部には複数の吸着面113が形成されている。そして円形のウエハ載置部の周辺には、液体LQの供給と排出に用いる溝51が環状に形成され、その溝51の一部は、テーブルWH内に形成された通路52を介して、外部のパイプ53につながれている。またホルダテーブルWH内のウエハ載置部の直下と補助プレート部HRSの直下には、ペルチェ素子等の温度調整器50A,50Bが埋め込まれ、ホルダテーブルWH上の適当な位置(望ましくは複数ケ所)には温度センサー55が取り付けられて、液体LQの温度が精密に検出される。そして温度調整器50A,50Bは、温度センサー55によって検出される液体LQの温度が一定値になるように、制御器60によって制御される。」 第4 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 引用発明における「基板」、「基板を保持するステージ」、「露光される基板の温度を測定するための」「複数個設けられる」「センサ」、「露光パターンを前記基板上に投影するための投影光学系」、「投影光学系を備え、その倍率を前記基板の測定温度に応じて補正する倍率補正手段」、「基板上の寸法が、前記基板の温度が所定の基準温度から前記測定温度へ変化した場合に変化する量に対応するように前記投影光学形の倍率を変化させる倍率補正手段」及び「露光装置」は、本願発明1における「基板」、「テーブル」、「複数のロケーションでの投影装置補償器で使用される温度情報を測定する温度センサ」、「目標部分に投影する」「投影装置」、「前記投影装置の光学特性を複数のロケーションでの温度情報に基づいて調整するよう構成されている投影装置補償器」、「測定された温度情報と目標温度との差を用いて前記投影装置に配設された一つ以上の調整可能素子により前記投影装置の結像特性を調整するよう構成される」「投影装置補償器」及び「リトグラフ装置」に相当する。 また、「目標部分に投影する投影装置」が、本願発明1では「放射線ビームを基板の放射線感受目標部分に投影する投影装置であって、最終部材を備える」ものであって、「前記最終部材は、前記基板及び/または前記可動テーブルに直接面する前記投影装置の最終レンズであ」ると特定されるのに対して、引用発明では「投影光学系」がこのように特定されないが、引用発明の投影光学系もこのようなレンズは当然に備える構成にすぎないから、実質的な相違点ではない。 したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「テーブルと、 目標部分に投影する投影装置であって、最終部材を備える投影装置と、 前記投影装置の光学特性を複数のロケーションでの温度情報に基づいて調整するよう構成されている投影装置補償器と、 前記基板の前記複数のロケーションでの前記投影装置補償器で使用される温度情報を測定する温度センサと、を備え、 前記投影装置補償器は、測定された温度情報と目標温度との差を用いて前記投影装置に配設された一つ以上の調整可能素子により前記投影装置の結像特性を調整するよう構成され、 前記最終部材は、前記基板及び/または前記可動テーブルに直接面する前記投影装置の最終レンズである、リトグラフ装置。」 (相違点) (相違点1)「テーブル」が、本願発明1では「可動テーブル」と特定されるのに対して、引用発明では「ステージ」が可動であると特定されない点。 (相違点2)本願発明1は、「前記投影装置と前記基板及び/または前記可動テーブルとの間のスペースを温度制御された液体で少なくとも部分的に満たすよう構成されている液体供給装置であって、前記温度制御された液体の流れを前記スペース及び/または対象物の局所的な領域へと誘導するためのアウトレットを備える液体供給装置」を備え、「前記液体供給装置は、前記最終部材の下で該最終部材を囲んで配置されたシール部材を備え、該シール部材は、前記基板及び/または前記可動テーブルの局所的な領域に前記液体を閉じ込めるよう構成され、前記シール部材は、液面が前記最終部材の底端部より高くなるよう前記最終部材より上方に伸長している」のに対して、引用発明は露光装置が液侵式とは特定されないため、液体供給装置及びシール部材を備えない点。 (相違点3)「温度センサ」が、本願発明1では「前記スペースが前記液体で少なくとも部分的に満たされているときに」温度情報を測定するものであると特定されるのに対して、引用発明は露光装置が液侵式とは特定されないため、液体で少なくとも部分的に満たされているときに温度情報を測定するとは特定されない点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑みて上記相違点2について検討すると、引用発明に関して、引用文献1には、露光装置を液侵式として用いることの記載や示唆はない。 また、引用文献2?4には、液侵式の露光装置において、「基板及び/または前記可動テーブルの局所的な領域に前記液体を閉じ込めるよう構成され」、「液面が前記最終部材の底端部より高くなるよう前記最終部材より上方に伸長している」「シール部材」は記載されていない。 したがって、引用発明に、引用文献2?4に記載された「液体供給装置」を適用して液侵式となしても、上記相違点2に係る「基板及び/または前記可動テーブルの局所的な領域に前記液体を閉じ込めるよう構成され」、「液面が前記最終部材の底端部より高くなるよう前記最終部材より上方に伸長している」「シール部材」を備える構成を、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 したがって、上記相違点1及び3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2ないし4に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2ないし10について 本願発明2ないし10も、本願発明1の「基板及び/または前記可動テーブルの局所的な領域に前記液体を閉じ込めるよう構成され」、「液面が前記最終部材の底端部より高くなるよう前記最終部材より上方に伸長している」「シール部材」を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2ないし4に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定は、平成28年2月5日にされた手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12について上記引用文献1ないし4に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 しかしながら、平成29年7月3日にされた手続補正により補正された請求項1ないし10は、それぞれ、「基板及び/または前記可動テーブルの局所的な領域に前記液体を閉じ込めるよう構成され」、「液面が前記最終部材の底端部より高くなるよう前記最終部材より上方に伸長している」「シール部材」を備えるものとなっており、上記のとおり、本願発明1ないし10は、上記引用発明及び上記引用文献2ないし4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について ・特許法第36条第6項第2号について 当審では、本件の特許請求の範囲の請求項1の記載では、「液体」と温度センサの関係が特定されないため発明の構成が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年7月3日付けの補正において、「前記スペースが前記液体で少なくとも部分的に満たされているときに前記基板及び/または前記テーブルの前記複数のロケーションでの前記投影装置補償器で使用される温度情報を測定する温度センサ」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明1ないし10は、当業者が引用発明及び引用文献2ないし4に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-07-26 |
出願番号 | 特願2014-152937(P2014-152937) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 赤尾 隼人 |
特許庁審判長 |
伊藤 昌哉 |
特許庁審判官 |
松川 直樹 森林 克郎 |
発明の名称 | リトグラフ装置 |
代理人 | 森下 賢樹 |