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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1330846
審判番号 不服2016-9305  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-22 
確定日 2017-08-22 
事件の表示 特願2014-209876「光学フィルム、光学フィルムの製造方法、偏光板、ディスプレイパネル及びディスプレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月19日出願公開、特開2015- 52790、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年12月17日(優先権主張平成21年12月28日)に出願した特願2010-281788号の一部を平成26年10月14日に新たな特許出願としたものであって、平成27年9月1日付けで拒絶理由が通知され、同年11月6日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、平成28年3月15日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年6月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年3月15日付け拒絶査定)の概要は次の通りである。

1 理由1(特許法第36条第6項1号)
本願請求項1-12に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえないから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない。

2 理由2(特許法第29条第1項第3号)
本願請求項1-12に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

3 理由3(特許法第29条第2項)
本願請求項1-12に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2008-274266号公報(引用文献1)

第3 本願発明
本願請求項1-12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明12」という。)は、平成27年11月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-12に記載された事項により特定される以下のとおりの発明と認められる。
「 【請求項1】
光透過性基材の一面側に、メタクリロイル基及び/又はアクリロイル基を有するモノマー、オリゴマー及びプレポリマーよりなる群から選ばれる硬化性樹脂を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなる膜厚1?40μmのハードコート層が設けられた光学フィルムであって、
前記ハードコート層にはカチオンとアニオンからなるイオン液体が含まれ、
前記ハードコート層の膜厚方向において、当該ハードコート層の前記光透過性基材とは反対側の界面から50?700nmの領域に、当該界面から700nmまでの領域に存在する前記イオン液体の存在量のピークが存在することを特徴とする、光学フィルム。
【請求項2】
前記ピークの半値幅が25?500nmであることを特徴とする、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記界面から700nmまでの領域に存在する前記イオン液体の存在量に対する当該界面から50nmまでの領域に存在する前記イオン液体の存在量の割合が、50%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記カチオンが、第4級アンモニウム系カチオン、第4級ホスホニウム系カチオン、イミダゾリウム系カチオン、ピリジニウム系カチオン及びピロリジニウム系カチオンからなる群より選ばれる1種以上のカチオンであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記ハードコート層の表面抵抗値が、1.0×10^(13)Ω/□以下であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記ハードコート層の前記光透過性基材とは反対側の面に低屈折率層が設けられていることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光学フィルムの前記光透過性基材側の面に、偏光素子が設けられていることを特徴とする、偏光板。
【請求項8】
前記請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光学フィルムを備えることを特徴とする、ディスプレイパネル。
【請求項9】
前記請求項7に記載の偏光板を備えることを特徴とする、ディスプレイパネル。
【請求項10】
前記請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光学フィルムを備えることを特徴とする、ディスプレイ。
【請求項11】
前記請求項8に記載のディスプレイパネルを備えることを特徴とする、ディスプレイ。
【請求項12】
前記請求項9に記載のディスプレイパネルを備えることを特徴とする、ディスプレイ。」

第4 当合議体の判断
1 理由2(特許法第29条第1項第3号)および理由3(特許法第29条第2項)について
(1)引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。(なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定に活用した箇所を示す。)
ア 「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項6】
帯電防止性及びハードコート性を同時に実現できる部材であって、
帯電防止性を有する電解質と、ハードコート性を有するモノマー、オリゴマー又はプレポリマーとを含んでなる、部材。
【請求項7】
請求項1?4の何れか一項に記載の組成物を、熱及び/又は電離放射線により硬化して得られる、請求項6に記載の部材。
【請求項8】
前記電解質が前記モノマー、オリゴマー又はプレポリマー内に分散されてなり、
前記モノマー、オリゴマー又はプレポリマーが熱及び/又は電離放射線により硬化して得られた三次元立体網目構造内に、前記分散された電解質が緊縛した状態で存在する、請求項7に記載の部材。
【請求項9】
基材と、該基材の上に、光学機能層を備えてなる積層体であって、
前記光学機能層が、請求項6又は8に記載の部材である、積層体。
【請求項10】
前記光学機能層の表面又は前記基材と前記光学機能層の間、及び/又は前記光学機能層の上に、防眩層、屈折率調製層、および防汚染層からなる群から選択される一種または二種以上の層をさらに備えてなる、請求項9に記載の積層体。
【請求項11】
帯電防止性を有する電解質と、樹脂とを含んでなる、帯電防止性組成物。
【請求項12】
前記電解質が常温下で液体のイオン性液体である、請求項11に記載の帯電防止性組成物。
・・・
【請求項20】
偏光素子を備えてなる偏光板であって、
前記偏光素子の表面に、請求項6?8、16又は17に記載の部材、或いは請求項9,10,18又は19に記載の積層体を備えてなる、偏光板。
【請求項21】
透過性表示体と、前記透過性表示体を背面から照射する光源装置とを備えてなる画像表示装置であって、
前記透過性表示体の表面に、請求項9,10,18又は19に記載の積層体、或いは請求項20に記載の偏光板を備えてなる、画像表示装置。」

イ 「【0034】
本発明による第1の態様
I.組成物
電解質
本発明で使用される「電解質」とは、伝導性を有する物質を意味し、本発明にあっては、電解質は常温下において、液体であるものが好ましい。本発明の好ましい態様によれば、電解質中、いわゆる「イオン性液体」が好ましくは挙げられる。「イオン性液体」とは、常温下、比較的低温領域下において液体状態を示しものである。また、「イオン性液体」は、高いイオン伝導性、高い熱安定性、比較的低粘性等を示し、蒸気圧が殆どなく、引火性及び可燃性を示さず、並びに液体温度範囲が広範囲であるという特徴を有するものである。電解質の添加量は、組成物全量に対して、1重量%以上50重量%以下で有り、好ましくは下限値が5重量%以上であり上限値が30重量%以下である。
【0035】
イオン性液体は、カチオン性の物質が好ましくは利用される。カチオン性の物質は、通常、カウンターイオンであるアニオンとの塩で存在する。イオン性液体の具体例としては、イミダゾリウム(系)、ピリジウム(系)、ピロリジニウム(系)、第4級アンモニウム(系)、第4級ホスホニウム(系)等のカチオン性物質が挙げられ、通常はこれらのカチオン物質に対しては、カウンターイオンである、ハロゲン、トリフラート、テトラフルオロボラート、ヘキサフルオロホスファート等のアニオンと結合した塩(液体)で存在するものが挙げられる。本発明にあっては、イオン液体中でも、イミダゾリウム(系)、ピリジウム(系)の物質及びその塩が好ましくは使用することができる。」

ウ 「【0039】
モノマー、オリゴマー又はプレポリマー
本発明においてはハードコート性を有するモノマー、オリゴマー又はプレポリマーを利用する。これらは、熱及び/又は電離放射線により硬化可能な複数の官能基を有するものが好ましくは利用される。複数の官能基の数は、2以上のものであり、好ましくは6以上である。官能基としては、ヒドロキシル基、酸無水物基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、エポキシ基、グリシジル基、又はイソシアネート基等で例示される縮合性基及び反応性基;ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、アリル等のC2-6アルケニル基、エチニル基、プロピニル基、ブチニル等のC2-6アルキニル基、ビニリデン等のC2-62-6アルケニリデン基、又はこれらの重合性基を有する基(例えば、(メタ)アクリロイル基)等で例示される重合性基;等が例示され、この中でも、重合性基が好ましい。モノマー、オリゴマー又はプレポリマーの添加量は、組成物全量に対して、50重量%以上99重量%以下で有り、好ましくは下限値が70重量%以上であり上限値が95重量%以下である。
【0040】
上記重合性基を有するモノマー、オリゴマー又はプレポリマーの具体例としては、(メタ)アクリレート基等のラジカル重合性官能基を有する化合物、例えば(メタ)アクリレート系のモノマーが挙げられる。具体的には、比較的低分子量のポリエステルモノマー、ポリエーテルモノマー、アクリルモノマー、エポキシモノマー、ウレタンモノマー、アルキッドモノマー、スピロアセタールモノマー、ポリブタジェンモノマー、ポリチオールポリエンモノマー、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクリル酸エステルから成るものが挙げられる。より具体的には、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート、又はメタアクリレートを意味する。
(メタ)アクリレート系化合物以外の例としては、スチレン、メチルスチレン、N-ビニルピロリドン等の単官能または多官能モノマー、あるいはビスフェノール型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、芳香族ビニルエーテル、脂肪族ビニルエーテル等のモノマー等のカチオン重合性官能基を有する化合物が挙げられる。」

エ 「【0079】
2.用途
本発明による組成物は、帯電防止性(導電性)及びハードコート性が要求される製品にそのまま使用することができる。本発明の好ましい態様によれば、帯電防止性及びハードコート性を同時に実現できる部材を提供することができる。より好ましくは、本発明による組成物を硬化させた部材を提供することができる。従って、本発明による組成物をそのまま塗布して、硬化させることでその目的を達成することができる。例えば、埃付着防止性建材(化粧シート等)、光学ディスク表面のオーバーコート等に利用される。帯電防止性及びハードコート性組成物は、インキ、乾燥塗布膜、熱/光硬化物、膜、成形体等の形態として利用することができる。
・・・
【0081】
2)(光学)積層体
本発明によれば、本発明による組成物及び部材を(光透過性)基材に付与した(光学)積層体とすることができる。従って、本発明の別の態様にあっては、光学積層体(反射防止性部材)及びこれらを用いた偏光板並びに画像表示装置を提案することができる。
・・・
【0086】
3)偏光板
本発明の別の態様によれば、偏光素子と、本発明による組成物で形成された部材とを備えてなる偏光板を提供することができる。具体的には、偏光素子の表面に、本発明による
組成物で形成された光学積層体を該光学積層体における防眩層が存在する面と反対の面に備えてなる、偏光板を提供することができる。偏光素子は、例えば、よう素又は染料により染色し、延伸してなるポリビニルアルコールフィルム、ポリビニルホルマールフィルム、ポリビニルアセタールフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体系ケン化フィルム等を用いることができる。ラミネート処理にあたって、接着性の増加のため、または電防止のために、光透過性基材(好ましくは、トリアセチルセルロースフィルム)にケン化処理を行うことが好ましい。
【0087】
4)画像表示装置
本発明のさらに別の態様によれば、画像表示装置を提供することができ、その表示装置表面に、本発明による光学積層体または本発明による偏光板が形成されてなるものである。本発明による画像表示装置は、LCD等の非自発発光型画像表示装置(表示素子自身が発光しない)であっても、PDP、FED、ELD(有機EL、無機EL)、CRT等の自発発光型画像表示装置(表示素子自身が発光する)であってもよい。非自発発光型の代表的な例であるLCDは、透過性表示体と、上記透過性表示体を背面から照射する光源装置により構成されてよい。本発明の画像表示装置がLCDである場合、この透過性表示体の表面に、本発明の光学積層体又は本発明の偏光板が用いられる。」

オ 「【0136】
実施例
本発明の内容を下記の実施態様により説明するが、本発明の内容はこれらの実施態様に限定して解釈されるものではない。特別に断りの無い限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0137】
本発明による第1乃至4の態様
実施例A中の略語の意味は以下の通りである
「TAC」:トリアセチルセルロース
「PET」:ポリエチレンテレフタレート
「HC」:ハードコート性又はハードコート層
「AS」:帯電防止性又は帯電防止層
「AG」:防眩性又は防眩層
「AR」:低屈折率性又は低屈折率層
「+」:複数の光学性質又は光学機能層を備える意である。
【0138】
組成物調製
AS+HC単層用組成物
下記成分を均一に混合させて得た組成物を孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過してAS+HC単層用組成物を調製した。
イオン性添加剤(イオン性液体) 78質量部
1-エチル,3-メチルイミダゾリウム「トリフルオロメタンスル
フォネート」(ステラケミファ社製)
ペンタエリスリトールトリアクリレート 100質量部
(日本化薬社製、商品名「PET30」)
メチルエチルケトン 43質量部
レベリング剤 2質量部
(大日本インキ化学工業社製、商品名「MCF-350-5」)
重合開始剤 4質量部
(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「イルガキュア
184」)
・・・
【0144】
AS+HC+AR単層用組成物
下記成分を均一に混合させて得た組成物を孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して帯電防止性付与低屈折率層用組成物1を調製した。
処理シリカゾル含有溶液 15.2質量部
(シリカゾル固形分20質量%を有する空隙微粒子の表面を、分散安
定性を保持するためにシランカップリング剤で処理したものであ
る。)
イオン性添加剤(イオン性液体) 1.23質量部
1-エチル,3-メチルイミダゾリウム「トリフルオロメタンスルフォ
ネート」(ステラケミファ社製)
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA) 1.58質量部
重合開始剤(イルガキュア127) 0.10質量部
(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
変性シリコーンオイル(X22164E;信越化学工業社製)
0.15質量部
メチルイソブチルケトン 80.0質量部
【0145】
AR単層用組成物
イオン性添加剤を添加しなかった以外は、AS+HC+AR単層用組成物と同様にして、AR単層用組成物を調製した。」

カ 「【0147】
実施例A2(PET/AS+HC/AR)
PET透明基材(厚み80μm:東洋紡績社製、製品名「A-4100」)を準備し、該基材の易接着面に、AS+HC単層用組成物をバーコーティングにより塗布し、温度70℃の熱オーブン中で30秒間保持し、塗膜中の溶剤を蒸発させ、その後、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン(株))を用いて、積算光量が50mJ/cm^(2)になるように紫外線照射して塗膜を硬化させ、厚み7μm(乾燥時)のAS+HC単層を成膜させた。さらに、この単層の表面に、AR単層用組成物をバーコーティングにより塗布し(厚み約100nm(乾燥後))、次いで、50℃にて乾燥することにより溶剤を除去した。その後、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン(株))を用いて、積算光量が200mJ/cm^(2)になるように紫外線照射し塗膜を硬化させてAS+HC/AR層が厚み約7μm(乾燥時)の部材を得た。」

キ 「【0160】
評価1:初期表面抵抗測定試験
耐熱試験、耐光試験、耐湿熱試験、を行う前に、上記測定機により、表面抵抗値を測定した。 表面抵抗値が、10^(10)Ω/cm^(2)オーダー未満である場合が良品であり、それに満たない場合は、不良である。比較例は、従来用いられている帯電防止材料を用いた部材で、いずれも本願発明のように、良品はみられなかった。
・・・


したがって、上記ア?キの記載事項によれば、上記引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「PET透明基材の易接着面に、イオン性液体1-エチル,3-メチルイミダゾリウム「トリフルオロメタンスルフォネート」、ペンタエリスリトールトリアクリレート、メチルエチルケトンを含むAS(帯電防止性)+HC(ハードコート性)単層用組成物を硬化させ厚み7μmのAS+HC単層を成膜させ、この単層の表面に、ペンタエリスリトールトリアクリレート、メチルイソブチルケトンを含むAR単層用組成物を硬化させてAR(低屈折率性)層を設けた、表面抵抗値が10^(8)Ω/cm^(2)である光学積層体、偏光板並びに画像表示装置とすることができる部材。」(以下「引用発明1」という。)

(2)請求項1について
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

(ア)引用発明1の「PET透明基材」は、本願発明1の「光透過性基材」に相当する。

(イ)引用発明1の「ペンタエリスリトールトリアクリレート」は、本願発明1の「メタクリロイル基及び/又はアクリロイル基を有するモノマー、オリゴマー及びプレポリマーよりなる群から選ばれる硬化性樹脂」に包含されるものである。また、引用発明1の「AS(帯電防止性)+HC(ハードコート性)単層用組成物」は、本願発明1の「硬化性樹脂組成物」に相当する。さらに、引用発明1の「厚み7μmのAS+HC単層」は、AS(帯電防止性)+HC(ハードコート性)単層用組成物を硬化させて成膜されるものである。したがって、引用発明1の「厚み7μmのAS+HC単層」は、本願発明1の「硬化物からなる膜厚1?40μmのハードコート層」に相当する。
以上より、引用発明1の「イオン性液体1-エチル,3-メチルイミダゾリウム「トリフルオロメタンスルフォネート」、ペンタエリスリトールトリアクリレート、メチルエチルケトン等を含むAS(帯電防止性)+HC(ハードコート性)単層用組成物を硬化させ厚み7μmのAS+HC単層を成膜させ」て得られる層は、本願発明1の「メタクリロイル基及び/又はアクリロイル基を有するモノマー、オリゴマー及びプレポリマーよりなる群から選ばれる硬化性樹脂を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなる膜厚1?40μmのハードコート層」に相当する。

(ウ)引用発明1の「光学積層体、偏光板並びに画像表示装置とすることができる部材」は、PET透明基材の一面側にハードコート層が設けられたものであって、光学積層体として用いられるものである。したがって、引用発明1の「光学積層体、偏光板並びに画像表示装置とすることができる部材」は、本願発明1の「光学フィルム」に相当する。

(エ)引用発明1の「1-エチル,3-メチルイミダゾリウム」および「トリフルオロメタンスルフォネート」は、それぞれ、本願発明の「カチオン」および「アニオン」に相当し、引用発明1の「イオン性液体」は本願発明1の「イオン液体」に相当する。そして、引用発明1の「イオン性液体1-エチル,3-メチルイミダゾリウム「トリフルオロメタンスルフォネート」」は、「AS+HC単層」に含まれる。したがって、引用発明1のAS+HC単層に含まれる「イオン性液体1-エチル,3-メチルイミダゾリウム「トリフルオロメタンスルフォネート」」は、本願発明1のハードコート層に含まれる「カチオンとアニオンからなるイオン液体」に相当する。

以上より、両者は、
「光透過性基材の一面側に、メタクリロイル基及び/又はアクリロイル基を有するモノマー、オリゴマー及びプレポリマーよりなる群から選ばれる硬化性樹脂を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなる膜厚1?40μmのハードコート層が設けられた光学フィルムであって、
前記ハードコート層にはカチオンとアニオンからなるイオン液体が含まれる、
光学フィルム。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
本願発明1では、ハードコート層の膜厚方向において、当該ハードコート層の前記光透過性基材とは反対側の界面から50?700nmの領域に、当該界面から700nmまでの領域に存在する前記イオン液体の存在量のピークが存在するのに対し、引用発明1では、AS+HC単層またはAR(低屈折率性)層におけるイオン性液体の存在量のピークの領域が明らかではない点。

イ 判断
(ア)上記相違点について検討すると、引用文献1には、記載事項イにイオン性液体を用いることや、組成物全量に対する好ましい含量について記載されているものの、形成された層における膜厚方向における存在量のピークについて何ら記載がなく、膜厚方向におけるイオン性液体の存在領域が偏在する可能性や偏在によって生じる課題および効果についても何ら記載されていない。そして、他に、ハードコート層に含まれるイオン液体の膜厚方向における存在量を制御することを示唆する文献や技術常識を見いだすことはできない。したがって、引用発明1のハードコート層における、イオン性液体の膜厚方向における存在量のピークの領域は、引用発明の製造方法によって製造されたままのものと解するのが相当であり、イオン性液体の膜厚方向における存在量のピークの領域を上記相違点に係る領域に変更することが当業者において容易に想到し得たとする理由はない。

(イ)そして、引用文献1に開示された製造方法によって作成された場合に、引用発明1のイオン性液体が、ハードコート層として機能する層の膜厚方向において、当該層のPET透明基材とは反対側の界面から50?700nmの領域に、当該界面から700nmまでの領域に存在する前記イオン液体の存在量のピークが存在すると言えるものであるかについて検討すると、引用発明1の「AR(低屈折率性)層」は、生成に用いられる組成物が、「イオン性添加剤を添加しなかった以外は、AS+HC+AR単層用組成物と同様に」(記載事項オ)調整されるものであるから、HC(ハードコート性)を有するものといえる。しかし、本願明細書において開示されている比較例1,2は、引用発明1と同様に、第一のHC層用組成物と第二のHC層用組成物が硬化性樹脂を含み同じ溶剤を用いており、イオン液体の有無のみ異なる条件で実施されており、深さ方向のイオン液体の分布が、上記相違点の条件を満たさないことが示されている。また、本願明細書の段落【0005】?【0006】には、当該引用文献1を挙げ、「ハードコート層170内のイオン液体180は、ハードコート層170の表層に集まるように存在する」と記載している。上記記載を鑑みれば、引用発明1のAR層がハードコート層の一部を構成するとしても、本願発明1の上記相違点にあたる構成を有するとする理由を見いだせない。
したがって、引用発明1と本願発明1は同一であるということができない。
また、上記(ア)のとおりであるから、たとえ当業者といえども、引用発明1に基づいて本願発明1を容易に発明することができたとはいえない。

(3)請求項2?12について
本願請求項2?12に係る発明は、何れも本願発明1の構成を具備し、さらに限定を付したものである。
そうすると、何れも、引用発明1と対比した場合に、上記[相違点]を有するものであり、既に検討したとおり、上記[相違点]は当業者が容易になし得たとする理由がなく、また、実質的な相違点ではないとする理由も見いだせないものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本願発明1?12は、何れも、特許法第29条第1項第3号に該当するものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。

2 理由1(特許法第36条第6項第1号)について
特許請求の範囲の請求項1の記載からみて、本願発明1の光学フィルムは、ハードコート層が、硬度(ハードコート性)に加えて、イオン液体がハードコート層から除去されにくい性質(体溶剤拭き取り性)を有し、良好な帯電防止性能を長時間持続することができるといえる。
そうしてみると、本願発明1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えないものである。
本願発明2-12についても、同様である。

第4 むすび
以上のとおり、本願については、原査定の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-08-07 
出願番号 特願2014-209876(P2014-209876)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G02B)
P 1 8・ 113- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 佐藤 秀樹
宮澤 浩
発明の名称 光学フィルム、光学フィルムの製造方法、偏光板、ディスプレイパネル及びディスプレイ  
代理人 岸本 達人  

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