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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 取り消して特許、登録 A63F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A63F
管理番号 1330850
審判番号 不服2016-16751  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-08 
確定日 2017-08-22 
事件の表示 特願2012-139621「遊技板用保護フィルム、遊技板用保護フィルムが接合された保護フィルム付遊技板及び遊技板用保護フィルムの作製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月16日出願公開、特開2014- 3992、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年6月21日に特許出願されたものであって、平成28年4月20日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対して同年6月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月8日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出され、平成29年1月20日に前置報告がされたものである。

第2 平成28年11月8日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年11月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の記載を補正するものであり、平成28年6月17日付けの手続補正と本件補正後の特許請求の範囲の記載は、それぞれ、次のとおりである(下線部は、補正箇所を示す。)。

(補正前:平成28年6月17日付け手続補正)
「【請求項1】
遊技板と接着する接着剤からなる第1接着層と、
前記第1接着層の上面に積層される第1樹脂フィルムと、
前記第1樹脂フィルムの上面に設けられる印刷層及び第2接着層と、
前記印刷層及び前記第2接着層の上面に積層される第2樹脂フィルムと、
前記第2樹脂フィルムの上面に積層されるハードコート層と、
を備えていることを特徴とする遊技板用保護フィルム。
【請求項2】
前記第1樹脂フィルム及び前記第1樹脂フィルムに積層される前記第1接着層を有する第1積層樹脂フィルムと、前記第2樹脂フィルム及び前記第2樹脂フィルムに積層される前記ハードコート層を有する第2積層樹脂フィルムと、
前記第1樹脂フィルム又は前記第2樹脂フィルムのいずれかに形成された前記印刷層と、
を備え、
前記第2接着層を介して前記第1樹脂フィルム及び前記第2樹脂フィルムが対向するように、前記第1積層樹脂フィルムと前記第2積層樹脂フィルムとが配置されていることを特徴とする請求項1記載の遊技板用保護フィルム。
【請求項3】
前記第1樹脂フィルム及び前記第2樹脂フィルムは、ポリカーボネート樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂を主成分とする樹脂で作製されていることを特徴とする請求項1又は2記載の遊技板用保護フィルム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の遊技板用保護フィルムが接合されてなることを特徴とする保護フィルム付遊技板。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1項に記載の遊技板用保護フィルムを作製する方法において、以下の工程を含むことを特徴とする作製方法。
(1)第1接着層と第1樹脂フィルムを積層し、第1積層樹脂フィルムを作製する工程
(2)第2樹脂フィルムにハードコート層を塗工して第2積層樹脂フィルムを作製する工程
(3)第1積層樹脂フィルム若しくは第2積層樹脂フィルムのいずれかに印刷層を形成する工程
(4)前記第1樹脂フィルム及び前記第2樹脂フィルムが対向するように、前記第1積層樹脂フィルム及び前記第2積層樹脂フィルムを接着する工程」

(補正後:平成28年11月8日付け手続補正)
「【請求項1】
前記第1樹脂フィルム及び前記第1樹脂フィルムに積層される前記第1接着層を有し、十分な養生期間が確保された第1積層樹脂フィルムと、前記第2樹脂フィルム及び前記第2樹脂フィルムに積層される前記ハードコート層を有する第2積層樹脂フィルムと、
前記第1樹脂フィルム又は前記第2樹脂フィルムのいずれかに形成された前記印刷層と、
を備え、
前記第2接着層を介して前記第1樹脂フィルム及び前記第2樹脂フィルムが対向するように、前記第1積層樹脂フィルムと前記第2積層樹脂フィルムとが配置されていることを特徴とする遊技板用保護フィルム。
【請求項2】
前記第1樹脂フィルム及び前記第2樹脂フィルムは、ポリカーボネート樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂を主成分とする樹脂で作製されていることを特徴とする請求項1記載の遊技板用保護フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の遊技板用保護フィルムが接合されてなることを特徴とする保護フィルム付遊技板。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の遊技板用保護フィルムを作製する方法において、以下の工程を含むことを特徴とする作製方法。
(1)第1接着層と第1樹脂フィルムを積層し、十分に養生した第1積層樹脂フィルムを作製する工程
(2)第2樹脂フィルムにハードコート層を塗工して第2積層樹脂フィルムを作製する工程
(3)十分に養生期間が確保された第1積層樹脂フィルム若しくは第2積層樹脂フィルムのいずれかに印刷層を形成する工程
(4)前記第1樹脂フィルム及び前記第2樹脂フィルムが対向するように、前記第1積層樹脂フィルム及び前記第2積層樹脂フィルムを接着する工程」

2 補正事項
本件補正は、特許請求の範囲の記載について、以下の補正事項を含むものである。

a 補正事項1
本件補正前の請求項1を削除するとともに、本件補正前の請求項1を引用する本件補正前の請求項2の記載を、本件補正前の請求項1の発明特定事項を含めることなく請求項1とする補正。

b 補正事項2
本件補正前の請求項2における「前記第1樹脂フィルム及び前記第1樹脂フィルムに積層される前記第1接着層を有する第1積層樹脂フィルム」という記載を、本件補正後の請求項1において「前記第1樹脂フィルム及び前記第1樹脂フィルムに積層される前記第1接着層を有し、十分な養生期間が確保された第1積層樹脂フィルム」とする補正。

c 補正事項3
本件補正前の請求項5における「(1)第1接着層と第1樹脂フィルムを積層し、第1積層樹脂フィルムを作製する工程」という記載を、本件補正後の請求項4において「(1)第1接着層と第1樹脂フィルムを積層し、十分に養生した第1積層樹脂フィルムを作製する工程」とする補正。

d 補正事項4
本件補正前の請求項5における「(3)第1積層樹脂フィルム若しくは第2積層樹脂フィルムのいずれかに印刷層を形成する工程」という記載を、本件補正後の請求項4において「(3)十分に養生期間が確保された第1積層樹脂フィルム若しくは第2積層樹脂フィルムのいずれかに印刷層を形成する工程」とする補正。

e 補正事項5
上記補正事項1の補正にともない、本件補正前の請求項3ないし5において引用する請求項の範囲を、本件補正後の請求項2ないし4においてそれぞれ繰り上げる補正。

3 本件補正の適否の判断

上記補正事項1について検討する。
補正事項1は、本件補正前の請求項1を削除しているから、請求項の削除を目的とするものと一応考えられるが、本件補正後の請求項1は補正前の請求項1に記載された「遊技板と接着する接着剤からなる第1接着層と、前記第1接着層の上面に積層される第1樹脂フィルムと、前記第1樹脂フィルムの上面に設けられる印刷層及び第2接着層と、前記印刷層及び前記第2接着層の上面に積層される第2樹脂フィルムと、前記第2樹脂フィルムの上面に積層されるハードコート層と、を備えている」という発明特定事項を有しないから、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものということはできない。
また、補正事項1により、本件補正後の請求項1に係る発明の遊技板用保護フィルムは、補正前の請求項1における発明特定事項である、「第1接着層」が「遊技板と接着する接着剤からなる」という構成、「印刷層及び第2接着層」が「第1接着層の上面に積層される第1樹脂フィルム」の「上面に設けられる」という構成、「第2樹脂フィルム」が「前記印刷層及び前記第2接着層の上面に積層される」という構成、及び「ハードコート層」が「前記第2樹脂フィルムの上面に積層される」という構成を有しないものも含むこととなるという点で、補正前の請求項1の発明特定事項で限定された請求項2に係る発明の「遊技板用保護フィルム」より技術的範囲が拡張されたものとなるから、補正事項1は、補正後の請求項1に対応する補正前の請求項2に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではなく特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものともいえない。
そして、補正事項1は、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明らかである。
以上のことから、補正事項1は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
したがって、上記補正事項2?5について検討するまでもなく、補正事項1を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 原査定の理由の概要
原査定(平成28年8月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし5に係る発明は、以下の引用文献1、2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平4-354961号公報
2.特開2007-82745号公報

第4 本願発明
本件補正は、上記「第2」のとおり、却下されることとなったので、本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、平成28年6月17日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本願発明1ないし5は、それぞれ、上記「第2の1」に「補正前」の請求項1ないし5として示したとおりのものである。

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開平4-354961号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。

(ア)「【0008】【作用】本発明の遊技盤によれば、合成樹脂製の基盤に合成樹脂フィルムからなる化粧板を接合するので、強い接着力が得られるとともに、基盤が吸湿によって変形することがないので、化粧板が摩耗しにくくなるとともに、剥離が防止される。」

(イ)「【0018】遊技盤2は、図2に示すように、ABS樹脂製の基盤21と、基盤表面に張り合わされた化粧板22とからなる。化粧板22の表面には、遊技面を形成する枠体23及び遊技球を案内するガイドレール3が備えられており、中央に遊技面4が形成される。そして、遊技面4上には打ち出された遊技球の案内手段として多数の釘6が、化粧板22の上から打ち込まれて配置される。」

(ウ)「【0020】図3に示すように、化粧板22は、裏面に遊技面に現れる絵柄31がグラビア印刷された厚さ25μmの透明ナイロンフィルムからなる表面層32を、前記絵柄31が印刷されている面で厚さ188μmの透光性を有するポリエチレンテレフタレートフィルムからなる裏打層33に接着した構成となっている。ナイロンフィルム32とポリエチレンテレフタレートフィルム33とは、2液タイプのウレタン系接着剤を用いて接着した。ナイロンフィルム32は、耐摩耗性、柔軟性及び、自己潤滑性に優れているので、化粧板22の表面を遊技球との接触による損傷、摩耗から保護する。また、ナイロンフィルム32上から釘6を打ち込むと、柔軟性のあるナイロンフィルム32の一部が釘6とともに釘穴に引き込まれ、釘6と基盤21及び化粧板22との間隙に挟まれるので、この部分からの浸水が防止される。
【0021】化粧板22は、更に、基盤21に超音波融着により接合されている。化粧板22と基盤21とは、合成樹脂同士であるので、その接合は超音波融着により有利に行うことができる。超音波融着によれば、乾燥・冷却などの時間を必要としないので接合に要する時間が短くて済み、接着剤を使用しないので悪臭が発生せず、過剰の接着剤がはみ出して周囲の部材を汚すことがない。」

(エ)「【0025】本実施例では、基盤21と化粧板22との接合を超音波融着によって行っているが、接着剤を用いて接着することにより行ってもよい。前記接着剤は、基盤21と化粧板22との接着、例えばABS樹脂とポリエチレンテレフタレートフィルムとの接着に適した接着剤を使用することが望ましい。」

(オ)上記(ウ)の段落【0020】の記載を参酌すると、【図3】には、「化粧板22」の構成を示す断面図が記載され、「化粧板22」が「基盤21」の上方に接合されており、その「化粧板22」についてみると、「基盤21」側から順に、「裏打層33」、「絵柄31」、「表面層32」と上方に形成されていることがみてとれる。

上記(ア)?(エ)の記載事項及び上記(オ)で認定される図示内容より、以下の事項が導かれる。

(a)上記(ア)の段落【0008】には、「基盤に合成樹脂フィルムからなる化粧板を接合する」と記載され、上記(イ)の段落【0018】には「遊技盤2は、・・・基盤21と、基盤表面に張り合わされた化粧板22とからなる。」と記載されている。
したがって、引用文献1には、遊技盤2の基盤21の表面に、合成樹脂フィルムからなる化粧板22が張り合わされることが記載されているといえる。

(b)上記(ウ)の段落【0020】には、「化粧板22は、・・・絵柄31がグラビア印刷された・・・透明ナイロンフィルムからなる表面層32を、・・・ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる裏打層33に接着した構成となっている。ナイロンフィルム32とポリエチレンテレフタレートフィルム33とは、・・・ウレタン系接着剤を用いて接着した。」と記載されており、上記(ウ)の記載事項において、ウレタン系接着剤は、裏打層33と表面層32との接着後に接着層を形成することは明らかであるから、化粧板22は、ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる裏打層33に対して、透明ナイロンフィルムからなる表面層32における絵柄31の印刷された側の面が、接着層で接着された構成となっているといえる。すなわち、化粧板22は、ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる裏打層33の面に対して、表面層32の印刷された絵柄31の層及び接着層が設けられており、印刷された絵柄31の層及び接着層の面に、透明ナイロンフィルムからなる表面層32が積層された構成であることが明らかである。また、上記(オ)によれば、「裏打層33」、「絵柄31」、「表面層32」の順に上方に形成されている。
したがって、引用文献1には、化粧板22が、ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる裏打層33と、ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる裏打層33の上面に設けられる印刷された絵柄31の層及び接着層と、印刷された絵柄31の層及び接着層の上面に積層される透明ナイロンフィルムからなる表面層32とを備えることが記載されているといえる。

したがって、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる裏打層33と(b)、
ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる裏打層33の上面に設けられる印刷された絵柄31の層及び接着層と(b)、
印刷された絵柄31の層及び接着層の上面に積層される透明ナイロンフィルムからなる表面層32と(b)、を備える、
遊技盤2の基盤21の表面に張り合わされる合成樹脂フィルムからなる化粧板22(a)。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2007-82745号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「【0065】さらに、本実施の形態において、透明シート21にはポリカーボネートが用いられているが、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、アクリル系樹脂、ポリエチレンなど、透明な合成樹脂であれる限り、ポリカーボネート以外であってもよい。」

「【0097】以上説明したように、本発明によれば、遊技球よりの耐傷性を有する透明な被覆層22が形成された透明シート21を透明樹脂により形成された遊技盤2に貼着するようにしているので、遊技盤2の表面に傷が付くことを防止することが可能になる。」

また、上記段落【0097】の記載事項を参酌すると、【図7】には、「透明シート21」の層上に、「被覆層22」が形成されていることが図示されている。

上記記載事項及び認定した図示内容から、引用文献2には、以下の技術的事項(以下、「引用文献2に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

「遊技盤2に貼着するポリカーボネート、PET(ポリエチレンテレフタレート)、アクリル系樹脂、ポリエチレンなどの合成樹脂からなる透明シート21の上面に被覆層22を形成し、遊技盤2の表面に傷が付くことを防止する点」

3 その他の文献について
なお、前置報告書において、本件補正後の請求項2-4に係る発明に対して、「ハードコート層を有する第1積層体と第2積層体の一方に接着層を塗布した状態で第1積層体と第2積層体を一体化させる」という周知技術を示す文献として、引用文献3(国際公開第2011/058904号)及び引用文献4(特開2002-211179号公報)が引用されているところ、それらの記載事項は次のとおりである。

引用文献3の段落【0126】には「(製造方法)本発明の光学部材は、(I)前記第1のフィルムの接着対象の面、前記第2のフィルムの接着対象の面、又はその両方に、前記後硬化接着剤を塗布し、前記後硬化接着剤の塗膜を形成し、(II)前記塗膜を乾燥させて、前記後硬化接着剤の未硬化層を得、(III)前記第1のフィルム及び前記第2のフィルムを、前記未硬化層を介して互いの前記接着対象の面が対面するように貼付し、(IV)前記未硬化層に、活性エネルギー線を照射し、硬化接着剤層とすることを含む本発明の製造方法により、好ましく製造することができる。」と記載され、段落【0141】には「また、第1又は第2のフィルムとして、ハードコート層及び基材フィルムを有するフィルムを用いた場合、工程(IV)の完了後に必要に応じて基材フィルムを剥離し、最終的な製品とすることができる。」と記載されている。

また、引用文献4の段落【0020】には「保護層14、絵柄層16、第1及び第2の隠蔽層18,18a、第2及び第3の剥離層19,19a及び接着層20からなる転写層38を有するプラスチックフィルム10を製造することで、転写体22が得られる。」と記載され、段落【0024】には、「基紙30上の第1及び第2の情報36,36aが形成されている面とプラスチックフィルム10の接着層20が形成されている面とを対向させ、第1の隠蔽層18が第1の情報36を、第2の隠蔽層18aが第2の情報36aをそれぞれ覆うようにして配置させる。その後、プラスチチックフィルム10側から加熱加圧することにより接着層20を硬化させ、接着層20と、第1、第2の情報36,36a及び下地層34とを接着させ、基紙30とプラスチックフィルム10とを貼り合わせる。」と記載されている。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる裏打層33」、「透明ナイロンフィルムからなる表面層32」、「印刷された絵柄31の層」及び「接着層」は、それぞれ、本願発明1の「第1樹脂フィルム」、「第2樹脂フィルム」、「印刷層」及び「第2接着層」に相当する。
また、引用発明の「遊技盤2の基盤21」は、本願発明1の「遊技板」に相当し、引用発明の「遊技盤2の基盤21の表面に張り合わされる合成樹脂フィルムからなる化粧板22」は「遊技盤2の基盤21」に貼り合わされることで「遊技盤2の基盤21」を保護するといえるから、本願発明1の「遊技板用保護フィルム」に相当する。
なお、引用文献1の段落【0025】には、「基盤21」と「化粧板22」との接合を、接着剤を用いて接着することにより行ってもよいことは記載されているが、「基盤21」に張り合わされる前の「合成樹脂フィルムからなる化粧板22」において、「裏打層33」側に接着層を設けることについては記載されていないから、引用文献1には「合成樹脂フィルムからなる化粧板22」が、「裏打層33」が積層される接着層を有することについて記載されているとはいえない。
よって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

[一致点]
「第1樹脂フィルムと、
前記第1樹脂フィルムの上面に設けられる印刷層及び第2接着層と、
前記印刷層及び前記第2接着層の上面に積層される第2樹脂フィルムと、
を備えている、遊技板用保護フィルム。」

[相違点]
(相違点1)本願発明1は、その「上面」に「第1樹脂フィルム」が「積層」される「遊技板と接着する接着剤からなる第1接着層」を備えるのに対して、引用発明はそのような構成を備えていない点。

(相違点2)本願発明1は、「第2樹脂フィルムの上面に積層されるハードコート層」を備えるのに対して、引用発明はそのような構成を備えていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
引用文献1の段落【0002】?【0003】には、従来、遊技盤における木製の基盤に、絵柄を印刷した合成樹脂フィルムからなる化粧板を接着剤を用いて接着していたことが、その課題とともに記載され、段落【0008】には、「本発明の遊技盤」では「合成樹脂製の基盤に合成樹脂フィルムからなる化粧板を接合する」ようにしたことが、強い接着力が得られること、基盤の吸湿による変形がないこと等の効果とともに記載され、具体的な接合方法として、段落【0021】には、「化粧板22」と「基盤21」とが合成樹脂同士であるので、両者の接合を「超音波融着」により行うことが有利であることが記載されている。
引用文献1の段落【0025】には、「超音波融着」による接合以外に、「基盤21」に「化粧板22」を、「接着剤」を用いて接着してもよいことが記載されているが、段落【0021】に、「悪臭が発生」する点、「周囲の部材を汚す」点といった、「接着剤」の使用による不都合についても記載されている。また、同段落の「過剰の接着剤がはみ出して周囲の部材を汚すことがない」との記載からみて、引用文献1に記載されているといえるのは、「化粧板22」を「基盤21」に張り合わせる際に「基盤21」か「化粧板22」の少なくともいずれかの表面に「接着剤」を塗布することであり、「化粧板22」を構成する要素としての「接着層」なるものをあらかじめ「積層」することは、引用文献1には記載されていない。
そして、本願発明1は、相違点1に係る本願発明1の構成である、その「上面」に「第1樹脂フィルム」が「積層」される「遊技板と接着する接着剤からなる第1接着層」を有することで、第2樹脂フィルムにハードコート層を積層した第2積層樹脂フィルムの作製とは別工程で、第1接着層と第1樹脂フィルムとが積層された第1積層樹脂フィルムを予め作製しておくことができるので、遊技板用保護フィルム全体を同時に作製する工程と比較して、第1接着層の十分な養生期間を確保することができるという効果(本願明細書の段落【0041】を参照)を奏するものである。
以上を総合考慮すると、化粧板22の構成要素として接着層を設けることの十分な動機付けがあるとはいえない。

次に相違点2について検討する。
相違点2に係る本願発明1の「第2樹脂フィルムの上面に積層されるハードコート層」に対応するものとして、引用文献2には「遊技盤2に貼着するポリカーボネート、PET(ポリエチレンテレフタレート)、アクリル系樹脂、ポリエチレンなどの合成樹脂からなる透明シート21の上面に被覆層22を形成し、遊技盤2の表面に傷が付くことを防止する」という技術的事項が記載されているので、引用発明に、引用文献2に記載の上記技術的事項が適用できるか否かについて検討する。
引用文献1の段落【0020】には、「化粧板22は、裏面に遊技面に現れる絵柄31がグラビア印刷された厚さ25μmの透明ナイロンフィルムからなる表面層32を、・・・ナイロンフィルム32は、耐摩耗性、柔軟性及び、自己潤滑性に優れているので、化粧板22の表面を遊技球との接触による損傷、摩耗から保護する。」と記載され、段落【0028】には、「化粧板の表面層は耐摩耗性、柔軟性及び、自己潤滑性に優れている透明なナイロンフィルムで構成することにより、さらに、遊技球との接触による損傷や摩耗を最少にすることができる。」と記載されており、上記段落【0020】、【0028】の記載からみて、引用発明においては、表面層32(本願発明1の「第2樹脂フィルム」に相当)に用いる、遊技球との接触による損傷や摩耗を最少にすることができるような耐摩耗性及び自己潤滑性を有する材料として、特に、透明ナイロンフィルムが選択されているといえる。
加えて、引用文献1の段落【0020】には、「ナイロンフィルム32上から釘6を打ち込むと、柔軟性のあるナイロンフィルム32の一部が釘6とともに釘穴に引き込まれ、釘6と基盤21及び化粧板22との間隙に挟まれるので、この部分からの浸水が防止される」というナイロンフィルムを採用した場合の特有の効果についても記載されていることからみて、引用発明における表面層32に対して引用文献2に記載された技術的事項における「被覆層22」を適用する十分な動機付けがあるとはいえない。
また、引用文献2には、遊技盤2に貼着するポリカーボネート、PET(ポリエチレンテレフタレート)、アクリル系樹脂、ポリエチレンなどの合成樹脂からなる透明シート21の上面に被覆層22を形成することは記載されているが、ナイロンフィルム上に形成することは、記載されていない。
そして、本願発明1は、相違点2に係る本願発明1の構成である、「第2樹脂フィルムの上面に積層されるハードコート層を備える」ことで、遊技板用保護フィルム表面の硬度が向上し、遊技球の接触による劣化が低減する効果に加えて、印刷層より表層に第2樹脂フィルムとハードコート層の2層が形成されることで、視認性及び見栄えに優れた遊技板を長期間保持し得る効果(本願明細書の段落【0040】を参照)を奏するものである。
以上を総合考慮すると、引用発明に引用文献2に記載の技術的事項を適用する十分な動機付けがあるとはいえない。

したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、同様に、上記「第5の3」の引用文献3に記載された「ハードコート層」又は上記「第5の3」の引用文献4に記載された「保護層14」を、引用発明の表面層32に対して適用する動機付けはないといえる。

2 本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5も、本願発明1の構成を前提とするものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明および引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし5は、当業者が、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-07-31 
出願番号 特願2012-139621(P2012-139621)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A63F)
P 1 8・ 572- WY (A63F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 貝沼 憲司  
特許庁審判長 長井 真一
特許庁審判官 金田 理香
藤田 年彦
発明の名称 遊技板用保護フィルム、遊技板用保護フィルムが接合された保護フィルム付遊技板及び遊技板用保護フィルムの作製方法  
代理人 ▲高▼荒 新一  

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