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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05D
管理番号 1330874
審判番号 不服2016-5722  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-18 
確定日 2017-08-03 
事件の表示 特願2011-257734「無人走行体の遠隔操縦システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年6月10日出願公開、特開2013-114325〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成23年11月25日の出願であって、
平成26年11月6日付けで審査請求がなされ、
平成27年8月12日付けで拒絶理由通知(同年同月18日発送)がなされ、
これに対して同年10月20日付けで意見書が提出されると共に同日付けで手続補正がなされ、
平成28年3月7日付けで拒絶査定がなされた(謄本送達同年同月15日)。

これに対して、「原査定を取り消す、本願は特許をすべきものであるとの審決を求める」ことを請求の趣旨として平成28年4月18日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。


2.平成28年4月18日付け手続補正の適否
(1)本件補正
平成28年4月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容は、平成27年10月20日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3の記載

「 【請求項1】
オペレータが操作する遠隔操縦装置と、該遠隔操縦装置の操作内容に応じた制御信号を出力する制御装置と、該制御装置から出力される制御信号により遠隔操縦される無人走行体と、該無人走行体に搭載された往路前方撮影カメラ及び復路前方撮影カメラと、これら往路前方撮影カメラ及び復路前方撮影カメラの撮影映像を表示する表示装置とを備えた無人走行体の遠隔操縦システムにおいて、
前記遠隔操縦装置には、前記無人走行体の走行方向を指示する走行操作部が装備されており、前記表示装置には、前記往路前方撮影カメラの撮影映像及び復路前方撮影カメラの撮影映像を表示する第1及び第2の表示部と、前記無人走行体を往路走行モードから復路走行モードに又は復路走行モードから往路走行モードに切り換える前後進切換スイッチの表示部が設けられていて、
前記前後進切換スイッチを往路走行モード側に切り換えたときには、前記往路前方撮影カメラの撮影映像が前記第1の表示部に表示されると共に、前記復路前方撮影カメラの撮影映像が前記第2の表示部に表示され、前記前後進切換スイッチを復路走行モード側に切り換えたときには、前記復路前方撮影カメラの撮影映像が前記第1の表示部に表示されると共に、前記往路前方撮影カメラの撮影映像が前記第2の表示部に表示され、
前記走行操作部は、前記前後進切換スイッチが往路走行モード側に切り換えられたときの前記無人走行体の前進、後退、左旋回及び右旋回の各操作と、前記前後進切換スイッチが復路走行モード側に切り換えられたときの前記無人走行体の前進、後退、左旋回及び右旋回の各操作とが同一に保たれることを特徴とする遠隔操縦システム。
【請求項2】
前記走行操作部はジョイスティックをもって構成されており、該ジョイスティックの前方への傾転操作、手前側への傾転操作、左方向への傾転操作及び右方向への傾転操作により、それぞれ往路走行時及び復路走行時における前記無人走行体の前進指示、後退指示、左旋回指示及び右旋回指示が行われることを特徴とする請求項1に記載の無人走行体の遠隔操縦システム。
【請求項3】
前記遠隔操縦装置として、前記表示装置の前面に備えられたタッチパネル及びオペレータが手で持って操作する手持ちコントローラを用い、前記タッチパネルに前記前後進切換スイッチを備えると共に、前記手持ちコントローラに前記前後進切換スイッチ及び前記走行操作部を備えることを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれか1項に記載の無人走行体の遠隔操縦システム。」(以下、この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。)

を、

「 【請求項1】
オペレータが操作する遠隔操縦装置と、該遠隔操縦装置の操作内容に応じた制御信号を出力する制御装置と、該制御装置から出力される制御信号により遠隔操縦される無人走行体と、該無人走行体に搭載された往路前方撮影カメラ及び復路前方撮影カメラと、これら往路前方撮影カメラ及び復路前方撮影カメラの撮影映像を表示する表示装置とを備えた無人走行体の遠隔操縦システムにおいて、
前記遠隔操縦装置として、前記表示装置の前面に備えられたタッチパネル及びオペレータが手で持って操作する手持ちコントローラを備え、前記タッチパネルに前記無人走行体を往路走行モードから復路走行モードに又は復路走行モードから往路走行モードに切り換える走行モード切換ボタンを表示すると共に、前記手持ちコントローラに備えられた複数の押釦スイッチのいずれかを、前記無人走行体の前後進を切り換える前後進切換スイッチとして割り当て、
前記表示装置には、前記往路前方撮影カメラの撮影映像及び復路前方撮影カメラの撮影映像を表示する第1及び第2の表示部を設け、
前記タッチパネルに表示された前記走行モード切換ボタン又は前記手持ちコントローラに備えられた前記前後進切換スイッチを往路走行モード側に切り換えたときには、前記往路前方撮影カメラの撮影映像が前記第1の表示部に表示されると共に、前記復路前方撮影カメラの撮影映像が前記第2の表示部に表示され、前記タッチパネルに表示された前記走行モード切換ボタン又は前記手持ちコントローラに備えられた前記前後進切換スイッチを復路走行モード側に切り換えたときには、前記復路前方撮影カメラの撮影映像が前記第1の表示部に表示されると共に、前記往路前方撮影カメラの撮影映像が前記第2の表示部に表示され、
前記手持ちコントローラは、前記タッチパネルに表示された前記走行モード切換ボタン又は前記手持ちコントローラに備えられた前記前後進切換スイッチが往路走行モード側に切り換えられたときの前記無人走行体の前進、後退、左旋回及び右旋回の各操作と、前記タッチパネルに表示された前記走行モード切換ボタン又は前記手持ちコントローラに備えられた前記前後進切換スイッチが復路走行モード側に切り換えられたときの前記無人走行体の前進、後退、左旋回及び右旋回の各操作とが同一に保たれることを特徴とする無人走行体の遠隔操縦システム。」(以下、この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。)

に補正することを含むものである。(下線は、請求人が付加したもの。)

(2)補正の適否

ア 特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第5項(目的要件)に関する検討
本件補正に際して、請求人は審判請求書の「(2)補正の適法性」の欄にて、実質的に補正前の請求項3に係る発明に相当する旨述べているため、請求項の削除を目的とした補正に該当するかについて検討する。

補正前の請求項3に係る発明は、先行する請求項1と請求項2とのいずれか1項を引用するものとされており、補正後の請求項1には補正前の請求項2で特定されている「走行操作部」が「ジョイスティックをもって構成されて」いるとの事項が存在しないことから、請求項1を引用する発明を念頭においたものと推察される。
そうすると、今次補正前後の発明特定事項同士の関係は以下のとおりである。
[1]「前記遠隔操縦装置として、前記表示装置の前面に備えられたタッチパネル及びオペレータが手で持って操作する手持ちコントローラを用い、」(補正前の請求項3)は、「前記遠隔操縦装置として、前記表示装置の前面に備えられたタッチパネル及びオペレータが手で持って操作する手持ちコントローラを備え、」に、
[2]「前記表示装置には、・・・前記無人走行体を往路走行モードから復路走行モードに又は復路走行モードから往路走行モードに切り換える前後進切換スイッチの表示部が設けられていて、」(補正前の請求項1)及び「前記タッチパネルに前記前後進切換スイッチを備える」(補正前の請求項3)は、「前記タッチパネルに前記無人走行体を往路走行モードから復路走行モードに又は復路走行モードから往路走行モードに切り換える走行モード切換ボタンを表示する」に、
[3]「前記手持ちコントローラに前記前後進切換スイッチ及び前記走行操作部を備えること」(補正前の請求項3)は、「前記手持ちコントローラに備えられた複数の押釦スイッチのいずれかを、前記無人走行体の前後進を切り換える前後進切換スイッチとして割り当て、」に、
[4]「前記前後進切換スイッチ」(補正前の請求項1)は、「前記タッチパネルに表示された前記走行モード切換ボタン又は前記手持ちコントローラに備えられた前記前後進切換スイッチ」に、
各々対応する。
その他、今次補正により
[5]補正前の末尾は、「遠隔操縦システム」とされていたものを、補正により「無人走行体の遠隔操縦システム」とされた。

前記[1]-[4]の対応関係のうち、[2]及び[3]は字句上必ずしも一致しないが、[2]については、タッチパネル上に表示された形態であるスイッチを、ボタンと表現することで実質的な拡張ないし変更を伴うものではなく、[3]もコントローラ上に複数スイッチとして操作できる押釦の内のいずれかを前後進切換スイッチにすることを内容とするものであって、補正前に手持ちコントローラが前後進切換スイッチを備えるとした内容と違いはない。[4]は[1]に伴って平仄を合わせるためになされたものである。
そうすると、[1]-[4]に係る変更は、補正前の特許請求の範囲に実質的に記載された事項であって、補正後の発明が実質拡張ないし変更されるものではない。
更に、前記[5]の変更は、補正前の請求項1の冒頭にも「無人走行体の遠隔操縦システムにおいて、」との記載があったものを確認的に追加する補正であり、当該補正により補正後の発明が実質拡張ないし変更されるものではない。
そうすると、これら[1]-[5]に係る補正により、補正前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題に変更がないのは明らかである。

よって、本件補正は、全体として見ると補正前の請求項1及び2の削除を目的とする補正であり、特許法第17条の2第3項及び第5項の規定に適合する。
なお、本件補正の目的は、請求項の削除を目的とするものであるため、同法同条第6項で定める、いわゆる独立特許要件を課されない。

イ 小結
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第5項の規定に適合する適法な補正である。

3.本願発明について

本願の請求項1に係る発明は、平成28年4月18日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおり特定されるものである。(以下、「本願発明」という。)


4.引用文献及び引用発明

本願の出願日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり、平成27年8月12日付け拒絶理由において引用された、特開2000-79587号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面と共に以下の技術的事項が記載されている。

A「【請求項4】ロボット及び前記ロボットの走行方向を遠隔制御する遠隔制御装置を有する遠隔制御システムであって、
前記ロボットには、該ロボットの周囲を撮影し且つ撮影方向を変更することが可能であるカメラ、及び該ロボットを走行させる駆動装置を備え、
前記遠隔制御装置には、前記ロボットの走行方向を遠隔制御する走行操作装置、前記カメラの撮影方向を遠隔制御するカメラ制御装置、及び前記カメラにより撮影された画像を画面に表示するモニタが設けられ、
前記ロボットの前進方向が前記カメラの撮影方向と一致するように演算を行って前記駆動装置を制御するように構成されてなる、
ことを特徴とするロボットの遠隔制御システム。」

B「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、カメラを搭載して走行するロボットの走行方向を、遠隔制御装置で遠隔制御する方法及びシステムに関する。
【0002】近年において、深海や宇宙空間などのように人間が直接作業することが困難な環境や、原子力発電所の炉心部のように人間にとって危険な環境の中では、人間に代わって作業を行うロボットが用いられている。人間は、離れた安全な場所から、ロボットに搭載されたカメラで撮影された画像を見ながら、危険な環境の中に置かれたロボットの移動及び動作を遠隔制御で制御する。
・・・(中略)・・・
【0005】しかし、上述したロボットの遠隔制御システムにおいて、ロボットに設置されたカメラの撮影方向を遠隔制御で左右に変えた場合、また、複数のカメラを設置し、それらを遠隔制御で切り換えた場合に、遠隔制御部のモニタに表示される画像の方向と、遠隔制御部の走行操作装置によってロボットが走行する方向とは、必ずしも一致しない。
【0006】そのため、画像に基づく操作者の操作と、実際のロボットの走行方向とが異なり、操作者の操作感覚とロボットの動きとが一致せず、操作ミスが発生したり、操作者の意図しない方向にロボットが進んでいく恐れがある。
・・・(中略)・・・
【0009】また、複数のカメラ28を設置し、それらを切り換えて画像を遠隔制御部のモニタ33の画面に表示するロボット2jAにおいても同様である。例えば、選択されたカメラ29の撮影方向が、図8(c)に示すように180度の方向(背面方向)を向いている場合に、遠隔制御部のモニタ33の画面には180度方向の画像が表示される。そのため、操作者はあたかもロボット2jAが180度の方向を向いているものと錯覚し、ロボット2jAを前進させた場合には180度の方向に進むものと思い込んで操作を行う。しかし、ロボット2jAの本体は図8(d)に示すように、0度の方向(正面方向)を向いているため、0度の方向に向かって前進し、操作者の意図しない方向にロボット2jAが進んで行き、操作者の操作感覚とロボット2jAの動きとが一致しない。」

C「【0022】遠隔制御装置3は、操作制御装置31、通信装置32、モニタ33、走行操作子34、及びカメラ操作子35などから構成されている。主制御装置21には、演算処理装置26が内蔵されている。演算処理装置26は、演算を行い、その演算結果を走行制御信号S5として駆動制御装置24に出力する。」

D「【0041】走行操作子34には、複数の押しボタン34a?fが設けられている。これらの押しボタン34a?fを押すことにより、前進、後退、左進、右進、左旋回、又は右旋回の各動作をロボット2に指示するための走行操作信号S3が生成される。なお、押しボタン34a?fは、機械的又は電子的な接点を有したスイッチであってもよく、表示装置と組み合わせたタッチパネル、その他のポインティングデバイスであってもよい。また、操作者が指で直接に操作可能なものであってもよく、マウスなどの操作によりカーソルを介して入力を行うものであってもよい。」

E「【0046】次に、他の実施形態として、ロボット2Aに複数のカメラ28及び29を設置し、それらを遠隔制御で切り換えるためのカメラ選択パネル47を設けたロボット遠隔制御システム1Aについて説明する。なお、このロボット遠隔制御システム1Aは、その要部が上述したロボット遠隔制御システム1と同一であるため、全体の構成を示す図を省略し、また各部を示す図に表れた共通の部分については同一の符号を付して説明を省略し又は簡略化する。
【0047】図5は他の実施形態のロボット遠隔制御システム1Aに用いられるカメラ選択パネル47を示す図、図6はロボット遠隔制御システム1Aにおけるロボット2Aの走行方向を説明するための図、図7はロボット遠隔制御システム1Aにおける遠隔制御装置3Aのモニタ43に表示される画面の例を示す図である。
【0048】ロボット2Aには、ロボット2Aの前方の広い範囲を撮影するための、上述の実施形態で用いたのと同じカメラ28の他に、ロボット2Aの後方(背面方向)を撮影するためのカメラ29が設置されている。
【0049】遠隔制御装置3Aには、図5に示すように、これらのカメラ28又は29のいずれかを選択するためのカメラ選択パネル47が設けられている。カメラ選択パネル47には、カメラを選択する選択ボタン48、及び選択されているカメラを示す表示灯49が設けられている。
【0050】カメラ28が選択されている場合には、上述の実施形態と同じような動作及び操作が行われる。カメラ28に代えてカメラ29が選択された場合には、カメラ29の撮影方向をカメラ座標系XY1のY1軸として、演算処理装置26における演算処理が行われる。
【0051】例えば、図6(a)に示すように、ロボット2Aの正面方向に対し180度(α=180度)の方向を向いているカメラ29が選択されていると、操作者が走行操作子34を前進方向つまりロボット2Aの正面方向に対し0度(β=0度)の方向に操作した場合には、演算処理装置26はカメラ29の撮影方向と走行操作子34の操作方向との和(180度+0度=180度)を演算する。そして演算結果(γ=180度)を、ロボット2Aの正面方向に対するロボット2Aの走行方向を示す走行制御信号S5として駆動制御装置24に出力する。これによって、ロボット2Aは、図6(b)に示すように、正面方向に対し180度(γ=180度)の方向に走行する。
【0052】また、図7に示すように、遠隔制御装置3Aのモニタ43にはアイコン46が表示される。アイコン46には、カメラ29を模した小さな長方形の図形46aとカメラ29の撮影方向を示す線分46bが配置される。そして、カメラ29の撮影方向に対するロボット2Aの姿勢つまりロボット座標系XY2のY2軸の方向が分かるように、ロボット2Aを模した長方形の図形46cが、カメラ28を模した小さな長方形の図形46dとともに配置される。
【0053】そこで、ロボット2Aが自動走行を行っている際に、壁などに正面から衝突して停止したときには、後方への離脱操作を手動で行うこととなる。この場合には、操作者は、カメラ選択パネル47でロボット2Aの後方を撮影するカメラ29を選択し、後方の状況をモニタ43の画面HG1で確認する。障害物がなければ、走行操作子34によって前進操作を行う。そうすると、ロボット2Aは、カメラ29の撮影方向(ロボット2Aから見れば後方)に向かって前進する。
【0054】このロボットの遠隔制御システム1Aによると、カメラ選択パネル47によってカメラ29に切り換え、ロボット2Aの後方の状況を画面HG1に表示させ、走行操作子34で前進させることにより、容易に障害物から離脱することができる。
【0055】ロボットの遠隔制御システム1Aにおいても、上述のロボットの遠隔制御システム1と同様に、ロボット2Aの前進方向がカメラ28,29の撮影方向と一致するため、操作者の操作感覚とロボット2Aの動きとが一致し、操作者の方向感覚でロボット2Aの操作を行うことができ、操作者が遠隔制御装置3Aのモニタ43の画面を見ながらロボット2Aを意図するとおりに走行させることができる。そのため、操作ミスなく安全にロボットの遠隔制御を行うことができる。
【0056】上述の実施形態においては、車輪を使用して移動するロボットについて説明したが、ベルトやキャタピラにより走行するもの、又は2本又は3本以上の脚部の動作により走行するものであってもよい。
【0057】上述の実施形態において、カメラを3台以上設置してもよい。また、カメラを左右に2つ併置し、それらにより撮影された画像情報から対象物又は障害物までの距離情報を求めるようにしてもよい。モニタ33,43の画面HG,HG1に1つのカメラで撮影された画像FGを表示したが、複数のカメラからの画像FGを、同時に並列に配置して表示し、又は各画像FGのウインドウを重ねて表示するようにしてもよい。その他、ロボット2,2A、遠隔制御装置3,3A、ロボット遠隔制御システム1,1Aの全体又は各部の構成、処理内容、処理順序、処理タイミング、又は画面HGの表示内容などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【0058】
【発明の効果】本発明によると、遠隔制御装置のモニタの画面にロボットに搭載されたカメラで撮影された画像を表示し、遠隔制御装置による前進操作の方向をカメラの撮影方向と一致させているので、操作者の操作感覚とロボットの動きとが一致し、ロボットの走行を操作ミス無く、安全に遠隔制御することが可能である。」

以上のことから、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「遠隔制御装置3Aによって遠隔制御される走行ロボット2Aの遠隔制御システムであって、
前記遠隔制御装置3Aは、操作制御装置31、通信装置32、モニタ33、操作者が操作する走行操作子34、カメラ選択パネル47、及びカメラ操作子35などから構成され、
前記走行ロボット側には、前記通信装置32からの走行操作信号S3及びカメラ選択パネル47の選択結果を受けて走行制御信号S5を演算する演算処理装置26と、該走行制御信号S5を受けて走行駆動を行う駆動制御装置24及び駆動装置25とを備えるものであり、
前記走行ロボット2Aは、前方の広い範囲を撮影するカメラ28と、後方を撮影するカメラ29が設置され、
前記モニタ33は、前記カメラ28及び29の撮影画像を画面HG1を含め同時に並列に配置して表示し、
前記カメラ選択パネル47の選択ボタン48で前方カメラ28または後方カメラ29のいずれかを選択すると、選択されたカメラの画像が画面HG1に表示され、
カメラの選択に伴い、演算処理装置26は、後方カメラ29が選択された場合であれば走行操作子34からの走行操作信号S3に対して180度を加算して走行ロボットの駆動制御装置への走行制御信号S5とする
操作の方向をカメラの撮影方向と一致させ、操作者の操作感覚とロボットの動きとが一致する走行ロボット2Aの遠隔制御システム。」


5.対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「操作者が操作する走行操作子34」を含む「遠隔制御装置3A」、「前記通信装置32からの走行操作信号S3及びカメラ選択パネル47の選択結果を受けて走行制御信号S5を演算する演算処理装置26」、「走行ロボット2A」、「前方の広い範囲を撮影するカメラ28」及び「後方を撮影するカメラ29」、「前記カメラ28及び29の撮影画像を画面HG1を含め同時に並列に配置して表示」する「モニタ33」は、本願発明の「オペレータが操作する遠隔操縦装置」、「該遠隔操縦装置の操作内容に応じた制御信号を出力する制御装置」、「該制御装置から出力される制御信号により遠隔操縦される無人走行体」、「該無人走行体に搭載された往路前方撮影カメラ及び復路前方撮影カメラ」、「これら往路前方撮影カメラ及び復路前方撮影カメラの撮影映像を表示する表示装置」に各々相当することが明らかであるから、引用発明でいう「遠隔制御装置3Aによって遠隔制御される走行ロボット2Aの遠隔制御システム」は、本願発明で前提とする「無人走行体の遠隔操縦システム」に相当する。

その上で、上述の個々の事項を、引用発明及び本願発明ごとに更に特定した事項について対比すると、両者の相当関係は下記のとおりである。

引用発明の「操作者が操作する走行操作子34」は、本願発明の「オペレータが手で持って操作する手持ちコントローラ」に、
引用発明の「前記モニタ33は、前記カメラ28及び29の撮影画像を画面HG1を含め同時に並列に配置して表示し」は、本願発明の「前記表示装置には、前記往路前方撮影カメラの撮影映像及び復路前方撮影カメラの撮影映像を表示する第1及び第2の表示部を設け、」に、
引用発明の「前記カメラ選択パネル47の選択ボタン48で前方カメラ28または後方カメラ29のいずれかを選択すると、選択されたカメラの画像が画面HG1に表示され」は、本願発明の「前記手持ちコントローラに備えられた」「スイッチを」「切り換えたときには、前記往路前方撮影カメラの撮影映像が前記第1の表示部に表示される」及び「スイッチを」「切り換えたときには、前記復路前方撮影カメラの撮影映像が前記第1の表示部に表示される」に、
引用発明の「操作の方向をカメラの撮影方向と一致させ、操作者の操作感覚とロボットの動きとが一致する」は、本願発明の「切換ボタン又は」「切換スイッチが」「切り換えられたとき」であっても「前記無人走行体の前進、後退、左旋回及び右旋回の各操作とが同一に保たれる」に、各々相当する。

以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

(一致点)
「オペレータが操作する遠隔操縦装置と、該遠隔操縦装置の操作内容に応じた制御信号を出力する制御装置と、該制御装置から出力される制御信号により遠隔操縦される無人走行体と、該無人走行体に搭載された往路前方撮影カメラ及び復路前方撮影カメラと、これら往路前方撮影カメラ及び復路前方撮影カメラの撮影映像を表示する表示装置とを備えた無人走行体の遠隔操縦システムにおいて、
前記遠隔操縦装置として、前記表示装置及びオペレータが手で持って操作する手持ちコントローラを備え、
前記表示装置には、前記往路前方撮影カメラの撮影映像及び復路前方撮影カメラの撮影映像を表示する第1及び第2の表示部を設け、
スイッチを切り換えたときには、前記往路前方撮影カメラの撮影映像が前記第1の表示部に表示され、スイッチを別に切り換えたときには、前記復路前方撮影カメラの撮影映像が前記第1の表示部に表示され、
前記手持ちコントローラは、前記スイッチが切り換えられたときであっても前記無人走行体の前進、後退、左旋回及び右旋回の各操作が同一に保たれることを特徴とする無人走行体の遠隔操縦システム」

(相違点1)
本願発明では、「タッチパネル」に「表示」された「走行モード切換ボタン」又は「手持ちコントローラ」に割り当てにより備えられた「前後進切換スイッチ」の操作により「無人走行体を往路走行モードから復路走行モードに又は復路走行モードから往路走行モードに切り換え」かつ「前記無人走行体の前進、後退、左旋回及び右旋回の各操作とが同一に保たれる」機能が生じているのに対して、引用発明では「選択ボタン48」により「カメラの選択に伴い、演算処理装置26は、後方カメラ29が選択された場合であれば走行操作子34からの走行操作信号S3に対して180度を加算して走行ロボットの駆動制御装置への走行制御信号S5とする」ことで「操作の方向をカメラの撮影方向と一致させ、操作者の操作感覚とロボットの動きとが一致する」機能が生じている点。

(相違点2)
本願発明では、表示部へのカメラ撮影映像切り換えの手段が、「タッチパネル」の「表示ボタン」と、「手持ちコントローラ」に割り当てられた「押釦スイッチ」とされる「前後進切換スイッチ」の2箇所に設けられるとしているのに対して、引用発明の表示装置内の画面HG1に表示されるカメラ撮影映像切り換え手段は、「カメラ選択パネル47の選択ボタン48」であって、「モニタ33」や「操作者が操作する走行操作子34」へ設けられるとした事項を特に含まない点。

(相違点3)
「表示装置」の表示部のうちの「第2の表示部」が、「切り換え」により何を表示するかに関して、本願発明は、「往路走行モード」では「復路前方撮影カメラの撮影映像」を表示し、「復路走行モード」では「往路前方撮影カメラの撮影映像」を表示しているのに対して、引用発明の「モニタ33」の同時に並列に配置されたカメラ撮影画像表示画面のうちの「画面HG1」以外の画面表示がどうなるのか不明である点。


5.当審の判断

上記相違点1ないし3について検討する。

(相違点1について)
引用発明と本願発明の双方において、引用発明の「選択ボタン48」により生じる機能と、本願発明の「走行モード切換ボタン」あるいは「前後進切換スイッチ」により生じる機能とを比較検討する。
本願発明の「走行モード切換ボタン」あるいは「前後進切換スイッチ」は、その操作により「無人走行体を往路走行モードから復路走行モードに又は復路走行モードから往路走行モードに切り換える」としている。
ここで、遠隔操縦システムにおける「復路走行モード」及び「往路走行モード」がいかなる位置づけとされているかは、カメラの撮影映像が第1、第2の表示部間で切り替わること、及び、モードの選択に拘わらず手持ちコントローラでの操作が同一に保たれることが示されている。
してみると、オペレータが無人走行体の前進方向の向きをどちらに指向するかをシステムに指示する役割を「走行モード切換ボタン」ないし「前後進切換スイッチ」に持たせ、オペレータが選択した向きに沿うカメラ画像を第1の表示部に表示させ、手持ちコントローラの操作は、第1の表示部に表示された映像の前後左右方向どおりにコントローラを操作しても差し支えないように組まれたシステムであることを要件としたものと理解できる。
一方、引用発明の選択ボタン48は、形式上180度配向が異なる2台のカメラのいずれかを選択するものとされ、カメラの選択が操作者のロボットを走行させたい向きを前方とした前提で操作される点で、本願発明となんら変わりは無く、また、カメラの選択に併せて、ロボットの走行系に含まれる「演算処理装置26」が、「後方カメラ29が選択された場合であれば走行操作子34からの走行操作信号S3に対して180度を加算して走行ロボットの駆動制御装置への走行制御信号S5とする」ことで、「操作の方向をカメラの撮影方向と一致させ、操作者の操作感覚とロボットの動きとが一致する」ことを達成している点でも、本願発明のモードの選択に拘わらず手持ちコントローラでの操作が同一に保たれることと違いは無いと認められる。
そうすると、相違点1に係る構成上の相違は、スイッチないしボタンとされるものに意図した機能が実質的に同じであり、格別の相違は無い。

(相違点2について)
上述の「(相違点1について)」で判断したとおり、引用発明の「選択ボタン48」は、走行体(ロボット)の前後進切換スイッチと呼んでも支障ないものである。そうすると、当該相違点2は「選択ボタン48」を「走行操作子34」に併設すること、及び、「選択ボタン48」をも「モニタ33」へタッチパネル押釦態様にて併設させること、の2点に関する容易想到性の有無に関する検討に帰結する。
本願発明ではこの前後進切換ないしカメラ切換を行う手段を、表示機能を有するタッチパネル側にも、走行体の走行操作を行う手持ちコントローラ側にも、都合2箇所に配置したこととしているが、同一の切り換え手段をタッチパネル側にも、手動操作側にも両方に配置することは、例えばATMの操作入力をタッチパネルとテンキーの双方に配置するとした態様や、コンピューティング機器(ノートPC等)のタッチパネル/キーボード双方へのキースイッチの同時配置などで日常目にするように、慣用的に行われる冗長配置であって、特段想到困難とすべきものではない。
そして、引用発明は、必要な手段を単純に列挙し、選択ボタン48,走行操作子34,モニタ33の3つの要素をどのように組み合わせるかについては特段制限を設けず任意とし、モニタ33をタッチパネルの仕様にすることについても、上記摘記事項Dに示すとおり、示唆がなされていることから総合的に考えると、モニタ33をタッチパネル仕様とし、走行操作子34を手持ちコントローラ仕様と定めつつ、双方に冗長的に選択ボタン48相当の切り換え手段を並設させるとすることは、通常慣用的な装置の仕様の範疇であって、殊更想到困難とはいえない。

(相違点3について)
引用発明の、「画面HG1」以外のもう1つの表示画面がどうなるのかについて検討する。
引用発明の、「画面HG1」に表示される画像が、ボタンの選択に従ったカメラの撮像画像となる事項を備えていることは、引用発明から認識される課題(上記4.摘記事項B。特に【0009】)や、求められる効果(上記4.摘記事項A及びE。)に照らすと、ロボットの走行操作時に操作者が主に観察、注意を払う画面を「画面HG1」としていることが窺える。
そうすると、当該相違点3にて不明とされる、引用発明の並列に配置されるもう一つの表示画面は、少なくともロボットの走行に係る操作と直接関係ない画像が表示されると見るのが相当であって、しかも引用発明の場合、ボタンでカメラの切換が果たされた場合、選択されなかったもう一つのカメラの画像が、走行に直接関係ない画像に必然的になると考えられ、引用発明においても本願発明と同様の表示画面の切換が果たされているものと認められ、当該相違点3は実質的に相違するものではない。

上記で検討したとおり、いずれの相違点も格別のものではなく、そして、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び当該技術分野の常識から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。


6.むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-30 
結審通知日 2017-06-06 
審決日 2017-06-19 
出願番号 特願2011-257734(P2011-257734)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青山 純  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 西村 泰英
平岩 正一
発明の名称 無人走行体の遠隔操縦システム  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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