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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
管理番号 1330906
審判番号 不服2014-26468  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-25 
確定日 2017-08-02 
事件の表示 特願2011-504527「アルファ2,3-およびアルファ2,6-シアリル化を含む組換えFSH」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月22日国際公開、WO2009/127826、平成23年7月7日国内公表、特表2011-519359〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明

本願は,平成21年4月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年4月16日 米国,2008年4月25日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,これまでの手続は次のとおりである。

平成25年12月 3日付け 拒絶理由通知書
平成26年 1月31日 意見書・手続補正書
平成26年 8月29日付け 拒絶査定
平成26年12月25日 審判請求書・手続補正書
平成28年 3月 9日付け 拒絶理由通知書
平成28年 6月14日 意見書・手続補正書
平成28年 7月29日付け 拒絶理由通知書
平成29年 2月 2日 意見書・手続補正書

そして,本願の請求項1?13に係る発明は,平成29年2月2日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?13に記載されたとおりのものと認められるところ,その請求項1に記載された発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりである。

「【請求項1】
α2,3-およびα2,6-シアリル化を含む組換えFSH(rFSH)であって、総シアリル化の80%以上がα2,3-シアリル化であり、かつ、総シアリル化の5?20%がα2,6-シアリル化である、組換えFSH。」

2 引用例

(1)引用例1
平成28年7月29日付けの当審の拒絶理由で「引用文献1」として引用された特表2005-515974号公報(以下,「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。

(1-ア)「本発明は、高い程度のシアル酸付加を有し、有効性の増加した、FSH調製物を提供する。」(要約)

(1-イ)「驚くべきことに、発明者らは高度にシアル酸付加されたFSHイソフォームが、よりシアル酸付加の少ないイソフォームよりもヒト患者における卵胞形成の刺激において高い有効性を有することを発見した。」(段落【0038】)

(1-ウ)「本発明のすべての実施態様において、組換えFSHが好ましい。ヒト患者の治療のためには、組換えヒトFSHが好ましい。本発明の調製物は慣用の組換えFSHから単離されることができ、又はFSHgly+調製物から単離されることができる。」(段落【0057】)

(1-エ)「発明者らが“シアリルブースティング”と呼ぶ方法を用いてシアル酸含量を濃縮する方法を提供することも、本発明の側面である。組換えFSH(好ましい)又は組換えFSHgly+調製物(これも好ましい)或いは尿中FSHが、例えばPCT国際特許出願公開第WO98/31826号(Cytel Corporation)中に記載されたCMP-シアル酸のようなシアル酸供与体の存在下で、グリコシルトランスフェラーゼ、特別にはシアリルトランスフェラーゼのような酵素で処理することによってシアリルブースティングに供されることができる。組換えシアリルトランスフェラーゼの実施例は、組換えシアリルトランスフェラーゼの製造方法と同様に、例えば米国特許第5,541,083号中(University of California; Amgen)に見出される。少なくとも15の異なる哺乳動物シアリルトランスフェラーゼが報告され,これらのうちの13のcDNAがクローン化された。これらのcDNAは、その後本発明の方法中で使用されることができる、シアリルトランスフェラーゼの組換え体の製造に使用されることができる。」(段落【0058】)

(1-オ)「使用されるシアリルトランスフェラーゼは、シアル酸付加された糖タンパク質上の末端シアル酸の下にある、最も共通する最後から2番目の部分であるGalβ1配列、4GlcNAcへシアル酸を転移させることができるだろう。使用されることのできるシアリルトランスフェラーゼの例は、ST3Gal IIIであり、これはまた、(2,3)-シアリルトランスフェラーゼ(EC2.4.99.6)と呼ばれる。この酵素は、Gal-β-1,3-グリコシルNAc又はGal-β-1,4-グリコシルNAcグリコシドのGalへのシアル酸の転移を触媒する^(23)。シアル酸はガラクトシル(Gal)残基へ、2のサッカライドの間にα-結合を形成することによって結合される。サッカライドの結合はNeuAcの2位とGalの3位の間に存在する。この特別な酵素はラットの肝臓から単離されることができ^(24);ヒトcDNA^(25)及びゲノムDNA^(26)配列が知られており、組換え体の発現によるこの酵素の製造を容易にしている。好ましい実施態様において、シアル酸付加法はST3Gal III(好ましくはラット由来)、ST3Gal IV、ST3Gal I、ST6Gal I、ST3Gal V、ST6Gal II、ST6GalNAc I,又はST6GalNAc II、より好ましくはST3Gal III、ST6Gal I、ST3Gal IV、ST6Gal II又はST3Gal V、より特別に好ましくはラット由来のST3Gal IIIを使用する。」(段落【0059】)

(1-カ)「シアリルトランスフェラーゼをコードしている、細胞中で発現可能な遺伝子で、FSHを発現している、組換えの又はそうでない細胞をトランスフェクトすることによって、酸性イソフォームが濃縮されたFSHを製造することも可能である。上記遺伝子はゲノムのコード配列(すなわち、イントロンとともに)を含むことができ、又はcDNAコード配列を含むことができる。代わりに、上記細胞のゲノムがシアリルトランスフェラーゼをコードしている内因性の配列を含む場合、FSHの発現を引き起こす構築物が細胞のゲノム中に挿入されることができる。」(段落【0061】)

(1-キ)「FSH調製物のシアル酸付加の程度もまた、シアル酸付加に好都合であることが知られている組換えFSHの発現のための細胞を選択することによって増加されることができる。そのような細胞は、高レベルのシアリルトランスフェラーゼを発現する、選択された下垂体細胞及びチャイニーズハムスター卵巣の細胞を含む。」(段落【0062】)

(1-ク)「実施例6
シアリルトランスフェラーゼによる“シアリルブースティング”
組換えヒトFSH(“出発物質”;10mg)を4.3mg/mlの濃度で緩衝液(0.1M HEPES,pH7.5)に溶解した。この溶液へ、100mU/mlの濃度となるまで組換えラットシアリルトランスフェラーゼ(ST3Gal III)を添加し、そしてシアル酸供与体としてシチジン-5’-モノホスフェート-N-アセチルノイラミン酸(CMP-NeuAc)を20mMの濃度で添加する。代わりに、シアル酸供与体はCMP-シアリックアシッドシンテターゼの存在下で20mM NeuAc及び2mM CMPを用いてin situで産生することができる。反応を37℃で24時間インキュベートする。実施例3に記載の技術を用いてシアル酸が濃縮された分画を単離する。」(段落【0119】)

(1-ケ)「実施例7
FSH突然変異体の産生
ヒトFSHのα-及びβ-サブユニットのcDNAをpDONRベクター(Invitrogen)中へサブクローニングした。N結合型グリコシル化部位をFSHのα-およびβ-サブユニットへ導入するために、QuikChange (登録商標) Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)を使用した。QuikChange (登録商標)システムは、所望の突然変異を含む2の合成オリゴヌクレオチドプライマーを利用する。(中略)
GATEWAY Vector Conversion System (Invitrogen)を使用して、pCI哺乳動物発現ベクター(Promega)をGATEWAYデスティネーションベクターに変換した。Gateway(商標)Cloning Technology (Invitrogen)を用いて、野生型サブユニットとともにα-及びβ-突然変異体をpCI発現ベクター中へサブクローニングした。pCI発現ベクターは、挿入された遺伝子、発現を促進するための該遺伝子の上流のイントロン及び転写を終了させるための挿入された遺伝子よりも下流のシミアン・ウイルス40後期ポリアデニル化シグナルの発現を制御するためのヒトサイトメガロウイルスの最初期エンハンサー/プロモーターを含む。pCI中のA70N、G100N、V78N及びD41N/A43Tβ-突然変異体がpCI中の野生型α-サブユニットとコトランスフェクトされた一方、pCI中のE56N及びF17Tアルファ突然変異体はpCI中の野生型FSHβとコトランスフェクトされた。対照として、pCI中のFSHの野生型β-サブユニット及びpCI中のα-サブユニットをコトランスフェクトした。リン酸カルシウム法(例えば、PCT国際特許出願公開第96/07750号に記載のとおり)を使用して、プラスミドをHEK293細胞(ATTC、CRL-10852)中へ一過性にトランスフェクトした。又は、野生型β-サブユニット又はV78Nβ-突然変異体のいずれかを含むpCIプラスミドを、pCI中の野生型α-サブユニットとコトランスフェクトした。プラスミドをまた、一過性に又は安定にCHO細胞中へトランスフェクトすることもできる。トランスフェクションの1日後、培地を1μg/mlのインシュリン(Invitrogen 18140-020)、6.8ng/mlの亜セレン酸ナトリウム(Sigma, S5261)及び12.2ng/mlのクエン酸第二鉄(Sigma、F3388)を含むDMEM/F12(Invitrogen, 11320-033)に変えた。培地の変更の1日後、培養上清を集め、細胞細片を除去するために4℃で約800×gで5分遠心分離した。上清を除去し、Biofuge fresco(Heraeus Instruments)中で16,000×gで5分遠心分離し、そしてさらに培地を0.45μmAcrodiscフィルター(Gelman Sciences, 4184)を通して濾過して清澄化した。清澄化された細胞抽出物に、1Mトリス、pH7.4を最終濃度50mMトリスとなるように添加し、最終濃度が0.1%Tween20となるようにTween20を添加した。」(段落【0122】,【0123】)

(1-コ)「CHO又はHEK293細胞中で発現されたFSH突然変異体調製物を実施例6に記載のとおりに、シアリルブースティングに供した。シアリルブースティングの後、180、190、200、210、220、230、240、250及びそれを超える値よりも大きいZ+-数を有する分画を単離するために、実施例3に従ってFSH突然変異体をイオン交換クロマトグラフィーに供した。」 (段落【0131】)

引用例1の上記記載事項(1-ア)?(1-ウ)から,引用例1には,以下の発明が記載されていると認める。

「シアル酸を付加した,組換えFSH。」(以下,「引用発明」という。)

(2)引用例2
平成28年7月29日付けの当審の拒絶理由で「引用文献2」として引用されたJ Clin Endocrinol Metab.、1994年発行、Vol.79、NO.3、p.756-760(以下,「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。 なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。

(2-ア)「組換えhFSHはこれまでCHO細胞で生産されており,下垂体FSH基準及び精製した尿FSHの両方と類似のアイソフォームの特徴を有している。しかしながら,これらのFSH調製物は,循環において観察されるFSHアイソフォームの完全な範囲を含んでいない。細胞株における組換えhFSHの異なるグリコシル化パターンの製造は,アイソフォームの特徴の幅を広げ,潜在的にはその生物学的活性を変化させることができるだろう。したがって,我々はHEK293細胞をヒトα及びFSHβ遺伝子で形質転換して組換えhFSH(hFSH-293)を製造し,ラット顆粒膜細胞分析によりその生物学的活性を決定した。hFSH-293は,下垂体FSH基準と免疫学的に区別できなかったものの,その生物学的能力は2つの異なる下垂体FSH基準より3?6倍高かった。」(第756頁要約左欄第6行?右欄第4行)

(3)引用例3
平成28年7月29日付けの当審の拒絶理由で「引用文献3」として引用されたCatherine K Chin, et al.、Cytotechnology、1996年発行、Vol.21、No.2、p.171-182(以下,「引用例3」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。 なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。

(3-ア)「ヒト卵胞刺激ホルモンは卵胞の発達と精巣の精子形成の維持のために必要不可欠な下垂体の糖タンパク質である。糖タンパク質のホルモンファミリーの他の物質と同様,ヒト卵胞刺激ホルモンは共通のαサブユニットとホルモン特有のβサブユニットを含む。各サブユニットは2つのグリコシル化部位を含む。ヒト卵胞刺激ホルモンのオリゴ糖の特有の構造は,体内及び体外の両方での生物活性に影響を与えることが示された。タンパク質の炭水化物構造はそのタンパク質が発現する宿主細胞のグリコシル化組織に反映されるため,安定な形質転換したSp2/0骨髄腫細胞株由来の精製した組換えヒト卵胞刺激ホルモン及び下垂体ヒト卵胞刺激ホルモンの調製物について,アイソフォームの特徴,体外での生物活性,及び,代謝クリアランスを調査した。(中略)予備的な炭水化物の分析から,組換えヒト卵胞刺激ホルモンが,複雑な型のα2,3及びα2,6結合シアル酸末端の糖質鎖に加えて,マンノース及び/または複合型を多く含むことが明らかにされた。これらの結果は,Sp2/0骨髄腫細胞で産生された組換えヒト卵胞刺激ホルモンは,シアリル化されていること,より基本的なアイソフォームの特徴を有していること,及び,下垂体ヒト卵胞刺激ホルモンと比較して高い体外での生物活性能力を有することを示している。」(第171頁要約)

(3-イ)「α2,6及びα2,3シアル酸結合の発現は,Sp2/0細胞が,CMP NeuAc:Galβ1-4GlcNAc α2,6及びCMP NeuAc:Galβ1-4GlcNAc α2,3シアリルランスフェラーゼを含むことを示している。シアル酸残基は,肝臓のクリアランスからの保護だけではなく,分子の立体配置の安定性にも寄与している可能性がある。たとえば,アシアロエリスロポエチンは,熱変性及びトリプシン消化に敏感であることが分かっている(Briggs等,1974年)。α2,6結合シアル酸と比較したα2,3結合の機能的な重要性は現時点で判明していないものの,シアル酸結合の差異が生物活性を決定する上で重要な役割を果たす可能性がある。」(第179頁右欄下から第2行?第180頁左欄第12行)

(4)引用例4
平成28年7月29日付けの当審の拒絶理由で「引用文献4」として引用された再公表特許第99/11665号(以下,「引用例4」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。

(4-ア)「本発明はさらに、少なくともα2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつヒトTPOを提供する。ここで、ヒトTPOは外来性のヒトTPO遺伝子の株化細胞における発現産物であって単離・精製されたものであってよく、また、株化細胞はCHO細胞や、卵巣細胞同様にα2,6-シアリルトランスフェラーゼ活性が低いとされる腎臓由来のHEK293やBHKなどの細胞に、α2,6-シアリルトランスフェラーゼ遺伝子を導入したものであることができる。
本発明者らは、CHO細胞にラットα2,6-シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入することによって、α2,3結合型及びα2,6結合型の両シアル酸が付加された形のTPOを発現させることを試みた。この場合、ヒトTPO遺伝子を導入したCHO細胞に後からα2,6-シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入することによって形質転換を行ってもよいし、その順序は逆であっても、また同時であってもよい。また、後述の実施例において、CHO細胞に遺伝子導入したのはラット肝臓β-ガラクトシドα2,6-シアリルトランスフェラーゼ(Entrez accession No.M18769)であるが、たとえば成熟ラット脳由来のもの(Entrez accession No.L29554)やマウスβ-ガラクトシドα2,6-シアリルトランスフェラーゼ(Entrez accession No.D16106)を用いることも可能である。
本来CHO細胞はα2,6-シアリルトランスフェラーゼ活性を有していないが(Paulson,J.C.ら,J.Biol.Chem.264巻,10931?10934頁、(1989))、これにLee,E.J.ら(J.Biol.Chem.264巻,13848?13855頁、(1989))の方法にあるように強力なプロモーター下に配したα2,6-シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入することによって、本来細胞の有するα2,3-シアリルトランスフェラーゼ活性と競合することによってその量的優位性によってα2,6結合型シアル酸がα2,3結合型シアル酸と同一分子上に、あるいは優位に付加されたTPOが産生されることになる。ここで言う「α2,6結合型のシアル酸が優位に付加された」とは、実施例3で述べられているLectin-ELISAで測定したときにSSA-Lectin ELISAに反応し、MAM-Lectin ELISAに対する反応が測定限界以下であることを指す。CHO D-株で産生されたTPOはα2,3型の結合様式で付加されたシアル酸をもち、α2,6型の結合様式で付加されたシアル酸をもたないことが確認されているが、事実、NAM-Lectin ELISAに十分な反応性をもっていて、かつSSA-Lectin ELISAに全く反応しない。2,6-シアリルトランスフェラーゼの遺伝子導入によりこの反応性が逆転し、本来有しない2,6-型の結合様式で付加されたシアル酸に特異的に結合するSSA-Lectinが反応するようになったということは、2,6-シアリルトランスフェラーゼが遺伝子導入によって高発現するようになった結果、その活性が2,3-シアリルトランスフェラーゼのシアル酸付加活性を圧倒的に上回り、本来α2,3型の結合様式でシアル酸が付加される位置をα2,6型の結合様式のシアル酸が占めたことを意味する。
ヒトTPO遺伝子を導入したCHO細胞としては、例えば、ヒトTPOをコードするDNAを担持する適切な発現ベクターによって形質転換されたCHO細胞を用いることができる。例えば、1995年1月31日付で日本国通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号 FERM BP-4988として寄託されている、ヒト全長TPOをコードするcDNAを担持するプラスミド pDEF202-hTPO-P1によって形質転換されたCHO細胞株(CHO-DUKXB11)が挙げられる。
このように、本発明はまた、CHO細胞にα2,6-シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入し、該CHO細胞においてヒトTPO遺伝子を発現させることを含む、少なくともα2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつヒトTPOの製造方法を提供する。さらに本発明は、CHO細胞においてヒトTPO遺伝子を発現させ、該CHO細胞に、α2,6-シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入することを含む、少なくともα2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつヒトTPOの製造方法を提供する。」(第14頁第17行?第16頁第14行)

(5)引用例5
平成28年7月29日付けの当審の拒絶理由で「引用文献5」として引用されたKazuhiro Fukuta, et al.、Glycoconjugate Journal、2000年発行、17、p.895-904(以下,「引用例5」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。 なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。

(5-ア)「本研究において,我々は,シアリル化の度合いを増加し,シアル酸の結合に関するシアリルトランスフェラーゼの種類による影響を調査するため,ネズミGalβ1-3/4GlcNAc-R α2,3-sialyltransferase(ST3Gal IV)及びラットGalβ1-4GlcNAc-R α2,6-sialyltransferase(ST6Gal I)のcDNAをIM4/Vh細胞に導入した。さらに,我々は,シアリル化の度合いがポリ-N-アセチルラクトースアミンの程度に影響を与える可能性があると予測した。我々は,異なるレベルのα2,3-ST及び/またはα2,6-STを発現する4つのクローンを単離した。IM4/Vhクローン由来のhIFN-γのシアリル化の度合いは61.2%であり,これは全てのST形質転換体において約80%の増加であった。過剰発現されたSTの種類と無関係に増加が生じ,また,α2,3-とα2,6-シアル酸の比率は,α2,3-STのα2.6-STに対する割合に対応していた。」(第895頁要約第6?13行)

(5-イ)「表2 各CHOクローンによって生産されたhIFN-γにおける糖鎖の構造的分析。シアリル化の度合いは,ガラクトースに対するシアル酸のモル比を測定して決定した。ポリ-N-アセチルラクトースアミンを含む糖鎖の合計量は,図3の矢印で示される測定ピーク領域によって決定した。糖鎖の分枝構造は,材料と方法に記載されているように,側鎖の除去によって得られる骨格構造を分析することによって決定した。ND,未検出。

」(第899頁表2)

(5-ウ)「シアル酸結合
結合敏感性のシアリダーゼを用いてシアル酸結合を決定した(表2)。予想どおり,IM4/Vh/3Sクローン由来のhIFN-γにおけるシアル酸はα2,3-結合のみを示した。反対に,α2,6-ST形質転換体はα2,3-結合とα2,6-結合の両方においてシアル酸の存在を示す。α2,3-結合とα2,6-結合のシアル酸の比率は,IM4/Vh/6Sにおいて17.4%:82.6%,IM4/Vh/3S/6S-1において79.3%:20.7%,そして,IM4/Vh/3S/6S-2において26.4%:73.6%であった。α2,3-及びα2.6-シアル酸の比率は,α2,3-STのα2,6-STに対する活性の割合に対応した(図2)。」(第900頁右欄第20?30行)

(5-エ)「図2 STの活性割合とシアル酸結合との関連性。α2,6-結合のシアル酸の割合(=α2,6-結合のシアル酸/[α2,6-結合のシアル酸+α2,3-結合のシアル酸]×100)を,α2,6-STの活性割合(=α2,6-ST活性/[α2,6-ST活性+α2,3-ST活性]×100)。

」(第900頁図2)

(5-オ)「結論として,我々は,2種類のSTを過剰発現することによって,CHO細胞におけるシアリル化が増加することを示した。α2,3-STのα2,6-STに対する活性の割合がα2,3-及びα2,6-シアル酸の比率に直接的に影響を与えることが明らかとなった。α2,3-及びα2,6-シアル酸の所望の比率を生産するCHOクローンは,グリコシル化タンパク質をより自然に生産するものであるが,論理的にはα2,3-STのα2,6-STに対する活性の割合を変更することによって得ることができる。」(第903頁左欄第9?16行)

(6)引用例6
平成28年7月29日付けの当審の拒絶理由で「引用文献6」として引用されたA. Bragonzi et al.、Biochimica et Biophysica Acta、2000年発行、1474、p.273-282(以下,「引用例6」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。 なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。

(6-ア)「CHO細胞はグリコシル化された組換えタンパク質の生産のために広く用いられている。我々のグループは,他のグループと同様,α2,6-シアリルトランスフェラーゼ(α2,6-ST)のcDNAを形質転換することによって,CHO細胞のシアリル化の欠点を修正可能なことを示した。そのようなCHO細胞によって生産された糖タンパク質は,ヒトの等タンパク質と同様,α2,6-及びα2,3-の両方の結合末端のシアル酸残基を示す。」(第274頁要約第1?3行)

(6-イ)「3.7 組換えIFN-γのシアリル化パターン,生物学的活性,及び,体内でのクリアランス
クローン54(α2,6-ST^(+))から精製されたIFN-γのシアル酸配置は,α2,6結合のシアル酸が40.4%,α2,3結合のシアル酸が59.6%であった。反対にクローン43(α2,6-ST^(-))由来のIFN-γのは予想どおりα2,3結合のみを示した。」(第278頁右欄第1行?第279頁左欄第4行)

(7)引用例7
平成28年7月29日付けの当審の拒絶理由で「引用文献9」として引用された特表2007-522179号公報(以下,「引用例7」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。

(7-ア)「表1:種々のヒト細胞系におけるグリコシルトランスフェラーゼの発現プロフィール。示されている値はZR75-1に対するパーセントとして表されている。それぞれの場合に、ハウスキーピングβアクチン対照に対するグリコシルトランスフェラーゼmRNA発現の測定のために二重RT-PCRを用いた。」(段落【0129】)

(7-イ)「

」(【表1】)

3 対比

本願発明と引用発明とを対比すると,まず,本願明細書の段落【0025】,【0026】,【0029】には,「α2,6結合シアル酸(α2,6シアリル化)」と記載されていることから,本願発明において「シアリル化」との用語が「シアル酸の結合」を意味するものとして用いられていることは明らかである。故に,引用発明の「シアル酸を付加した」は,本願発明の「シアリル化を含む」に相当する。

したがって,本願発明と引用発明とは,

「シアリル化を含む組換えFSH(rFSH)。」

である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)本願発明においては,組換えFSHがα2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化を含み,その上で「総シアリル化の80%以上がα2,3-シアリル化であり、かつ、総シアリル化の5?20%がα2,6-シアリル化である」ことが特定されているのに対し,引用発明においては,これらのことが特定されていない点。

4 当審の判断

(1)相違点について
引用例4の上記記載事項(4-ア),引用例5の上記記載事項(5-ア)?(5-オ),引用例6の上記記載事項(6-ア)及び(6-イ)にも示されているように,糖タンパク質に対するシアリル化において,α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の両方を含むと共に,両者の比率を確認しようとすることは本願優先日前において周知技術である。
また,引用例3には,上記記載事項(3-イ)に示されるように,ヒト組換えFSHにおいて,α2,6結合シアル酸と比較したα2,3結合シアル酸の機能的な重要性は現時点で知られていないものの,シアル酸結合における差異は,生物活性を決定する上で重要な役割を果たす可能性があることが記載されている。
ここで,引用例1の上記記載事項(1-ア)及び(1-イ)にも記載されているように,引用発明においても,組換えFSHにおいて有効性を高めることが目的とされていることから,さらに高い生物活性を得る目的で,α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の比率を調整した様々な組換えFSHを製造することは,当業者にとって格別の創意を要することではない。
そして,得られた様々な組換えFSHの中から,α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の比率が任意の数値範囲,例えば,総シアリル化の80%以上がα2,3-シアリル化であり、かつ、総シアリル化の5?20%がα2,6-シアリル化である組換えFSHを特定することも,当業者が適宜なし得たことである。
また,実際に,α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の両方を同時に含む組換えFSHを得ること,及び,α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の比率を実際に調整することについては,次の(a)?(d)のいずれかの手段を採用することによって,当業者が容易に達成し得ることである。

(a)引用例1には,上記記載事項(1-エ),(1-ク)及び(1-コ)に示されるように,CHO細胞によって発現された組換えFSHをシアリルトランスフェラーゼによって処理することで,シアリルブースティングを行うことが記載されている。
引用発明において用いられるCHO細胞によって発現された組換えFSHは,本願明細書の【0011】にも記載されているように,α2,3-シアリル化のみを有することが知られている。他方,引用例1には,上記記載事項(1-オ)に示されるように,好ましい実施態様として,シアリルブースティングを行う際にα2,6-シアリルトランスフェラーゼである「ST6Gal I」や「ST6Gal II」を用いることが記載されている。
したがって,CHO細胞によって発現される組換えFSHを「ST6Gal I」や「ST6Gal II」等のα2,6-シアリルトランスフェラーゼで処理することによって,α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の両方を同時に含む組換えFSHを得ると共に,両者の比率を調整することは当業者が容易に想到し得たことである。

(b)引用例1には,上記記載事項(1-カ)に示されるように,シアリルトランスフェラーゼをコードしている細胞中で発現可能な遺伝子で細胞を形質転換(トランスフェクト)することが記載されている。
引用発明において用いられるCHO細胞によって発現された組換えFSHは,α2,3-シアリル化のみを有することが認められるが,引用例3の上記記載事項(3-ア)及び(3-イ),引用例4の上記記載事項(4-ア)には,α2,6-シアリルトランスフェラーゼをコードする遺伝子によって細胞を形質転換し,α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の両方を含む糖タンパク質を生産させることが記載されている。
したがって,引用発明において,CHO細胞に対して,「ST6Gal I」や「ST6Gal II」等のα2,6-シアリルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を組み込むように形質転換を施すことによって,α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の両方を同時に含む組換えFSHを生産させ,さらに,両者の比率を調整することは当業者が容易に想到し得たことである。

(c)引用例1には,上記記載事項(1-ケ)に示されるように,HEK293細胞中で発現されたFSH突然変異体を得た後,上記記載事項(1-コ)に示されるように,FSH突然変異体に対して、シアリルブースティングを行う実施例が記載されている。
ここで,引用例7の上記記載事項(7-ア)及び(7-イ)にも記載されているように,ヒト由来であるHEK293細胞からはα2,3-シアリルトランスフェラーゼとα2,6-シアリルトランスフェラーゼの両方が発現されることが知られているから,HEK293細胞から得られる組換えFSHはα2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の両方を有していることが明らかである。
また,引用例1には,上記記載事項(1-オ)に示されるように,シアリルブースティングの際に,好ましい実施態様として,「ST3Gal III」,「ST3Gal IV」,「ST3Gal V」等のα2,3-シアリルトランスフェラーゼや,「ST6Gal I」,「ST6Gal II」等のα2,6-シアリルトランスフェラーゼを用いることが記載されている。
したがって,引用発明において,HEK293細胞から発現される組換えFSHを得た上で,α2,3-シアリルトランスフェラーゼまたはα2,6-シアリルトランスフェラーゼを用いてシアリルブースティングを行い,さらにα2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の比率を調整することは当業者が適宜なし得たことである。

(d)引用発明においては,CHO細胞またはHEK293細胞を用いているが,引用例2の上記記載事項(2-ア)に示される「HEK293細胞をヒトα及びFSHβ遺伝子で形質転換」した細胞や,引用例3の上記記載事項(3-ア)に示される「安定な形質転換したSp2/0骨髄腫細胞」を用いた上で,引用例1の上記記載事項(1-オ)に好ましい実施態様として示される「ST3Gal III」,「ST3Gal IV」,「ST3Gal V」等のα2,3-シアリルトランスフェラーゼや,「ST6Gal I」,「ST6Gal II」等のα2,6-シアリルトランスフェラーゼによるシアリルブースティングを行うこと,もしくは,これらのα2,3-シアリルトランスフェラーゼ及びα2,6-シアリルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を組み込むように形質転換を行うこと,のいずれかの手段によって,α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化を有する組換えFSHを得ると共に,両者の比率を調整することも当業者が容易になし得たことである。

(2)効果について
本願の発明の詳細な説明においては,「総シアリル化の80%以上がα2,3-シアリル化であり、かつ、総シアリル化の5?20%がα2,6-シアリル化である」ことによる効果が客観的に示されていない。
特に,本願の発明の詳細な説明の段落【0017】には,「驚くべきことに、本出願者らは、本発明のrFSHが、他の組換え産物より、天然ヒト尿産物の生理化学的および薬物動態学的特性をより厳密に再現または模倣することができることを見出した。」との記載があり,段落【0018】には,「本発明は、α2,3シアル酸およびα2,6シアル酸の混在する、したがってより厳密に天然FSHに類似している組換え型FSHである。」(下線は当審で付した。)との記載がなされていたにも関わらず,審判請求人は平成29年2月2日付けの意見書において,「HEK293細胞により提供されるα2,6-シアリル化レベルは、非常に低いものです。天然のα2,6-シアリル転移酵素は、引用文献に記載の条件下では糖タンパク質をシアリル化する効率がとても低いことに起因します。従って、引用文献2に記載の製品においては、α2,6-シアリル科レベルが5%を遙かに下回ると考えられ、依然として本願発明の技術的範囲外です。(中略)本願発明は、高い活性を有する組成物を提供するものとして、特定の、狭く、低い範囲のα2,6-シアリル化を発見したものであり、この比率は天然由来の製品とは全く異なるものであり、単に天然FSHの組換えバージョンを作製しようとする発明ではないと思料いたします。」及び「いずれの引用文献にも、シアリル化の種類とその割合を特定数値(天然のFSHの数値とは異なる)に設定することも、それにより天然のFSHよりも『顕著に高い生理活性』を発揮することも何ら示唆も開示もなされておらず、本願発明のFSHは、これらの引用文献から当業者をして容易に想到し得たとは到底言えないと思料いたします。」(下線は当審で付した。)と説明されており,結局,天然FSHと同等の数値範囲を選択したものではないのであれば,そもそも本願発明の数値範囲がどのような技術思想に基づいて選択されたものかも把握することができない。
さらに,本願の発明の詳細な説明の段落【0022】や段落【0029】等には,α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の比率が記載されているものの,どの数値範囲において好適な効果が発揮されるのかという点に言及されていない。そして,実施例においても,実施例8aの結果として段落【0080】に記載されている数値範囲及び例示された数値「α2,3シアリル化は65%?85%の範囲(例えば、77.75%)であり、α2,6シアリル化は15%?35%(例えば、21.46%)」も本願発明の数値範囲と整合していないことに加えて,この数値範囲においてどのような効果が存在するのかが明らかにされていない。他の実施例について検討しても,α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の比率が明らかにされていない等の理由から,効果を参酌することができず,特に,次の「5 審判請求人の主張」でも検討するように,審判請求人が平成27年7月13日付けの意見書で指摘する本願の図8?10についても効果を参酌する根拠とはなり得ない。

次に,平成26年12月25日付けの審判請求書において新たに提示された実験結果,及び,平成29年2月2日付けの意見書において新たに提示された実験結果について検討する。
まず,本願発明で規定されるα2,3-シアリル化とα2,6-のシアリル化の数値範囲は,発明の詳細な説明の段落【0022】に記載の数値範囲の上限値や下限値を組み合わせたものであって,その数値範囲において何らかの技術的意義が存在するものとして記載されていた訳ではないから,その数値範囲について後に実験結果を提示して効果を主張したとしても,発明の詳細な説明に記載されていた効果であると認めることはできない。しかしながら,念のためにそれらの実験結果についても検討する。
当該審判請求書の実験結果については,平成28年7月29日付け拒絶理由において,「『本願発明のFSH』をどのような方法で得たのか等,実験手段等が具体的に開示されておらず,その結果,α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の比率以外の実験条件がどの程度まで一致または相違するのかを把握することができないため,本願発明を従来技術と比較する上での判断材料として適切ではない。特に,引用文献1からも明らかなように,シアリル化の程度(量)によってもFSH活性が変化する可能性が高いと考えられるところ,提示された実験結果においては,シアリル化の比率を比較可能とするためにトータルでのシアリル化の程度を同じ条件に揃える等の根拠が何ら示されていないため,効果の比較を行うことが不可能であると言わざるを得ない。」との見解を示したものの,審判請求人はこれに対して何ら具体的な説明や反論を行っていないことから,当該見解は維持されるべきである。
同様に,当該意見書の実験結果についても,「以下表のように、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化との比率を請求項1の特定の範囲にした場合に予想外の格別顕著な効果を奏するものです。」との主張を行っているものの,平成28年7月29日付け拒絶理由で指摘した点が依然として明確になっていないため,本願発明の効果を参酌するための根拠とすることはできない。
また,仮に,当該審判請求書及び当該意見書に記載されている,α2,6-シアリル化の割合が12.7%,α2,3-シアリル化の割合が87.3%の「本願発明のFSH」が高い特異的活性を示すものであったとしても,本願発明で規定される数値範囲の全体に渡って同等の活性を有することは具体的に示されていない。
故に,当該審判請求書及び当該意見書において示された実験結果に基づいて本願発明の顕著な効果を推認することはできない。

したがって,本願発明は,当業者の予想を上回るような顕著な効果を奏するとは認められない。

(3)まとめ
以上検討したところによれば,本願の請求項1に係る発明は,引用例1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 審判請求人の主張
(1)審判請求人は,平成28年6月14日付け意見書において,以下の主張をしている。

(ア)「本願発明者らは、FSHのクリアランスがASGP-Rにより媒介されていることを示すためにASGP-Rをアシアロフェツイン(ASF)で中和してその働きを阻害したところ、α2,6-シアリルトランスフェラーゼで操作したクローンは、ASFによる中和により安定性を増すことを見出しました(図9参照)。すなわち、発明者らは、ASGP-Rがα2,6-シアリル化含量の高い生成物をクリアランスしてしまうということを新たに見出しました。出願当時には、ASGP-Rは、シアル酸を有しないか、シアル酸を少ししか有しない生成物を除去するとしか知られていませんでしたので、この発見は驚くべき発見でした。」

(イ)「本願発明者らは、さらに、α2,3-シアリル化およびα2,6-シアリル化の割合が変わった場合に、クリアランスが変わることを見出しました。すなわち、α2,3-シアリルトランスフェラーゼで操作して得たクローンにおいて、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の両方を含むFSHを産生するクローンを調べたところ、Gonal-fと同等以上のMCRを有する組換えFSHを作製することに成功したのです。具体的には、図10に示されるように、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化を有するFSHは、Gonal-fと比較して117%のAUC(曲線下面積)を示すに至りました。
Gonal-fは、CHO細胞で発現されたFSHですので、α2,3-シアリル化しか有しないことは明白です。従いまして、本願発明は、α2,6が一定の低レベルで存在することがFSHを安定化させるとの新たな知見に基づく新しい発明であるということができます。しかしながら、このような知見については、引用文献のいずれにも示唆も開示もなされていないものです。」

(ウ)「拒絶理由通知によれば、引用文献1にα2,6-シアリルトランスフェラーゼが記載されているとのことですが、これは、シアリル化の量を増大させればよいという意味で、シアリルトランスフェラーゼを、その種類を問わずに列挙しただけであって、何らα2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の両方を有することの重要性や、その比率の重要性を示唆するものではありません。また、仮に引用文献1に接した当業者が、α2,6-シアリル化を試したところで、シアリル化をできるだけ強い強度で増大させることを追い求めたはずであり、そうすると図8に示されるように極めて迅速にクリアランスされてしまい、本願発明に想到することができません。」

(2)審判請求人は,平成29年2月2日付け意見書において,以下の主張をしている。

(エ)「拒絶理由通知では、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の比率を変更することは適宜なし得ることであるとのご認定がなされています。しかしながら、上記表からも分かるように、本願発明のFSHは、ヒト尿由来製品(天然の製品)であるBravelleをも遙かにしのぐ高い活性を奏するものです。このように本願発明では、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の比率を特定の数値範囲にすることにより、高い効果を得ることを明らかにしたものです。そして、本願発明のFSHの構成により、このようなBravelleをも遙かにしのぐ高い活性を奏することも何ら引用文献には示唆も開示もなされていません。」

(オ)「引用文献1には、本願発明のFSHについては何らの動機付けもありません。
(i)引用文献1は、α2,6-シアリル化を有意なレベルで有するFSHが一切開示されていません。
(ii)引用文献1は、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の両方を付与する重要性についても何ら示唆も開示もなされていません。引用文献1には、これらのシアリル化を特定の比率にすると優れた特異的活性が奏されることも何ら示唆も開示もなされていません。(中略)
いずれの引用文献にも、シアリル化の種類とその割合を特定数値(天然のFSHの数値とは異なる)に設定することも、それにより天然のFSHよりも「顕著に高い生理活性」を発揮することも何ら示唆も開示もなされておらず、本願発明のFSHは、これらの引用文献から当業者をして容易に想到し得たとは到底言えないと思料いたします。」

(3)上記(1)及び(2)で示された審判請求人の主張(ア)?(オ)について検討する。

(ア)本願の図9において示される実験結果は,そもそも2,6-シアリル化をどの程度含むサンプルで行ったものか明確に示されておらず,総シアル酸の量においても,本願発明のサンプルと対照サンプルの「Gonal-F」とが同一の条件であるのかも不明であるから,十分に客観的に効果が示されているとは言えない。
また,仮に審判請求人が主張するとおり,ASGP-Rがα2,6-シアリル化含量の高い生成物をクリアランスしてしまうことが発見されたのだとすると,それは,アシアロフェツインによって中和されていないASGP-Rが存在する生体内環境においては,α2,6-シアリル化含量が多いことによってクリアランスが生じるということであって,むしろ,α2,3-シアリル化のみを含有する「Gonal-F」の方が優れているということを意味しているとも理解されるものである。
したがって,本願発明が従来技術と比較して優れているとする根拠として,審判請求人の主張を採用することができない。
なお,この点については,平成28年7月29日付けの拒絶理由において見解を示したものの,審判請求人はこの点について何ら具体的な反証を行っていない。

(イ)本願の図10において示される実験結果は,上記(ア)について検討したのと同様,総シアル酸の量において,本願発明のサンプルと対照サンプルの「Gonal-F」とがどのような条件で揃えられているのか等,実験条件が不明である。特に,α2,3-シアリル化のみを含有する場合であっても,総シアル酸の量を変動させることによってクリアランス率が影響を受ける可能性が高いことから,本願の図10において示される実験結果のみをもって,「α2,6が一定の低レベルで存在することがFSHを安定化させる」と結論付けることは妥当ではなく,本願発明が従来技術と比較して優れているとする根拠が客観的かつ論理的に説明されているとは言えない。
さらに,本願の図10の説明として「α2,3-シアリルトランスフェラーゼ操作Per.C6 FSH試料の代謝のクリアランス率。」と記載されていることからも,本実験においてはα2,3-シアリルトランスフェラーゼのみが用いられていて,α2,6-シアリルトランスフェラーゼが用いられている訳ではない。これを踏まえれば,図10から理解できることは,α2,3-シアリル化が増加することによって「Gonal-F」と比較して117%のAUC(曲線下面積)に達することができるということに過ぎず,審判請求人が主張しているような,α2,3-シアリル化のみの場合と比較した,α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化との組み合わせによる効果を客観的に把握することはできない。
したがって,この点における審判請求人の主張を採用することができない。
なお,この点については,平成28年7月29日付けの拒絶理由において見解を示したものの,審判請求人はこの点について何ら具体的な反証を行っていない。

(ウ)上記「4(1)相違点について」で検討したとおり,引用例3には,α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の比率によって生物活性が影響を受ける可能性が示唆されているところ,当該記載に接した当業者であれば,さらに高い生物活性を得るためにα2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の比率を調整しようとすることは自ずと想到できることである。
また,審判請求人は,シアリルトランスフェラーゼを列挙しただけである旨の主張も行っているが,引用例1の上記記載事項(1-オ)に好ましい実施態様として記載されているシアリルトランスフェラーゼは,実質的にはα2,3-シアリルトランスフェラーゼとα2,6-トランスフェラーゼの2つの選択肢のみであって,いずれか一方を選択することについて当業者が格別の困難性を要するという事情も認められない。
さらに,審判請求人は,「仮に引用文献1に接した当業者が、α2,6-シアリル化を試したところで、シアリル化をできるだけ強い強度で増大させることを追い求めたはずであり、そうすると図8に示されるように極めて迅速にクリアランスされてしまい、本願発明に想到することができません。」との主張も行っている。しかしながら,図8は本願優先日前において公知であった訳ではないから,当業者にとっての阻害要因となり得なかったことは明らかである。また,具体的な実験条件が示されていないために正確な比較は困難であるものの,図8に示されることは,α2,3-シアリル化のみを含むGonal-Fと比較してα2,6-シアリル化を一定割合で含む本願発明の組換えFSHがクリアランスされやすいということであって,本願発明の効果に関する審判請求人の主張とも矛盾を生じる。
したがって,この点における審判請求人の主張を採用することができない。
なお,この点については,平成28年7月29日付けの拒絶理由において見解を示したものの,審判請求人はこの点について何ら具体的な反証を行っていない。

(エ)上記「4(2)効果について」で検討したとおり,平成29年2月2日付け意見書において示された実験結果は,本願発明の効果を評価するための十分な条件が明記されていない。
したがって,この点における審判請求人の主張を採用することができない。

(オ)上記「4(1)相違点について」で検討したとおり,引用例3には,α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の比率によって生物活性が影響を受ける可能性が示唆されているところ,当該記載に接した当業者であれば,さらに高い生物活性を得るためにα2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の比率を調整しようとすることは自ずと想到できることである。なお,平成28年7月29日付け拒絶理由においても,引用例3(引用文献3)を提示して,上記の動機付けが存在するとの見解を示したものの,審判請求人は引用例3について具体的な反論を行っていない。
また,α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の両方を有するFSHを得る手段については,平成28年7月29日付け拒絶理由Aの4.(1)において,(a)?(d)の手段が採用可能であるとの見解を示したものの,この点について審判請求人は具体的な反論を行っていない。
さらに,本願発明で規定されるα2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の比率の数値範囲に優れた効果が見いだせないことは上記「4(2)効果について」で検討したとおりである。
したがって,この点における審判請求人の主張を採用することができない。

したがって,審判請求人の主張(ア)?(オ)のいずれも採用することはできない。

6 むすび

以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないので,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-22 
結審通知日 2017-02-28 
審決日 2017-03-23 
出願番号 特願2011-504527(P2011-504527)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 佑一北田 祐介  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 高堀 栄二
山崎 利直
発明の名称 アルファ2,3-およびアルファ2,6-シアリル化を含む組換えFSH  
代理人 北野 健  
代理人 田中 玲子  
代理人 松任谷 優子  
代理人 大野 聖二  
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