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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1331012
審判番号 不服2016-7071  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-13 
確定日 2017-08-09 
事件の表示 特願2013- 12302「床用目地装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月 7日出願公開、特開2014-141858〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年1月25日の出願であって、平成27年7月8日付けで通知した拒絶理由に対して、平成27年8月20日付けで手続補正書及び意見書が提出されたが、平成28年3月4日付けで拒絶査定(謄本送達日:平成28年3月15日)がなされ、それに対して、平成28年5月13日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1ないし2に係る発明は、平成27年8月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

「【請求項1】
目地部を介して設けられた左右の床躯体の、一方の目地部側床躯体に反目地部側が傾斜面に形成された床用目地プレートスライド支持凹部と、この床用目地プレートスライド支持凹部に先端部が支持され、後端部が他方の目地部側床躯体に、先端部が前記傾斜面に沿って上方へ回動でき、かつ上面が前記左右の床躯体の床面と同一面となるように取付けられた床用目地プレートと、この床用目地プレートの先端部に回動可能に取付けられたカバープレートとからなる床用目地装置において、前記床用目地プレートの先端部を除く底面に、該床用目地プレートの先端部が傾斜面より一方の床躯体の床面方向へスライド移動しても、床用目地プレートの先端部のみが一方の床躯体の床面に接した状態を保つ凹部を形成したことを特徴とする床用目地装置。」


第3 引用刊行物について
1 刊行物1について
(1)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-92019号公報(平成16年3月25日出願公開。以下「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する建造物の床間の目地に差し渡されて該目地を覆うカバー体と、該カバー体の一端に配設されたスライダーと、一方の床の側縁に配設されて前記スライダーを目地に沿う方向に摺動可能に支持するレール部材とを備えた床用目地カバー装置において、
前記スライダーを支持するレール部材の受縁部を、一方の建造物側に向けて下方傾斜する傾斜受縁部としたことを特徴とする床用目地カバー装置。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、隣接する建造物の床間の目地を覆う床用目地カバー装置に関する。」

ウ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記床用目地カバー装置にあっては、レール部材bを構成する受縁部cが水平であるため、施工時にカバー体Cの一端を床f1 の側縁に密着させておいても、カバー体C上を人や自動車が通行する時に生ずる振動によって、カバー体Cが次第にずれて、図9に示すように、床f1 の側縁との間に隙間dができてしまう。このため、見た目が悪く、また、該隙間dに砂やゴミ等の異物が入り込む虞があった。
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点を解消し得る床用目地カバー装置を提供することを目的とするものである。」

エ 「【0010】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の一実施例を、図1?図8に基づいて説明する。
図面において、Aは緩衝機能を備えた免震装置(図示省略)によって下部が支持された免震構造の建造物、Bは該建造物Aの周囲に形成された人工地盤からなる建造物であって、目地sを介して隣接している。目地sは、建造物Aの周囲に沿って所定幅で形成され、地震時における建造物Aと周囲の建造物Bとの水平方向の相対的な揺れを吸収し得るようになっている。
【0011】
前記建造物Bの床f2 の側縁には、図面において左右方向(目地sの幅方向)に比較的長い水平受縁1aと、該水平受縁1aの外端から床f2 の上面に向けて上方傾斜する傾斜受縁1bとを備えた摺動受枠体1が配設されている。該摺動受枠体1は、図2に示すように、カバー体Cを配置した状態において、その目地sに沿うカバー体Cの前後幅に対応する所定の長さに形成されている。
【0012】
建造物Aの床f1 と建造物Bの床f2 の間には、カバー体Cが差し渡され、目地sを覆っている。該カバー体Cは、図2に示すように、目地sに沿う方向に複数個が連続状に配設されるものであって、各カバー体Cは、図1に示すように、その一端の下部が建造物Aの床f1 の側縁に、後述する保持手段5を介して少なくとも目地sの幅方向に移動不能に保持され、他端を自由端としており、該自由端が前記摺動受枠体1の水平受縁1a上に摺動可能に乗載されている。ここで、建造物Bの床f2 の側縁には、図2に示すように、両端に位置するカバー体C,Cの側傍に建造物Bを構成する壁等の立ち上がり部14,14が形成されており、該立ち上がり部14,14が両端のカバー体C,Cの側縁に夫々当接することによって、各カバー体Cの自由端が前後方向(目地sに沿う方向)に移動不能に位置規制されている。これにより、各カバー体Cの自由端は建造物B側において左右方向(目地sの幅方向)にのみ摺動し得るようになっている。
【0013】
カバー体Cの自由端は、その端縁3と前記摺動受枠体1の傾斜受縁1bとの間に適宜幅の空隙が生じるようにして水平受縁1a上に乗載されており、この空隙を作動空隙2としている。また、カバー体Cの自由端が乗載される摺動受枠体1の水平受縁1a上には、上面にテフロンコーティング等の滑性面を形成した薄板状のパッキン15が被着されており、該パッキン15の滑性面によって、カバー体Cの自由端の摺動が容易となるようにしている。
【0014】
カバー体Cの自由端には、図3に示すように、端縁3の上部に端部カバー板4がヒンジ6で上下方向に回動可能に枢結されており、該端部カバー板4の外端が、カバー体Cの上面8と略面一となるようにして建造物Bの床f2 の上面に摺動可能に乗載されている。そして、該端部カバー板4によって、前記作動空隙2の上方を遮蔽するようにしている。
【0015】
前記カバー体Cは、矩形状の周枠と底板とによって浅底容器状に形成されており、その内底部に複数のメインバー12aとクロスバー12bとを格子状に組み付けてなる剛性基枠部13が配設されている。該剛性基枠部13はグレーチングとして一般に用いられるものと同一構造であり、この剛性基枠部13によって、カバー体C上にかかる荷重に耐え得る所定の強度を得るようにしている。また、該剛性基枠部13の上部には、モルタルm及びタイルt等からなる床仕上材10が充填されている。」

オ 「【0019】
前記レール部材17は、図5等に示すように、断面L形のフランジ21と溶接等の固着手段を介して一体化されている。ここで、フランジ21の前端上面と、レール部材17の傾斜受縁部17aの前端縁下面との間には、所定の厚みを有するフラットバーからなるスペーサ杆22が介装されており、これによって傾斜受縁部17aの傾斜角度を保持するようにしている。そして、該フランジ21を建造物Aの側縁に植設されたアンカーボルト23にナット24で固定することにより、該フランジ21と一体化されたレール部材17を建造物Aの床f1 の側縁に取り付けるようにしている。また、該レール部材17は、スライダー16を支持した状態において、カバー体Cの上面8が建造物Aの床f1 の上面と略面一となる高さ位置に取り付けられる。」

カ 「【0021】
一方、地震時において、建造物Aと、隣接する建造物Bとが近接する方向に比較的小さく相対変位すると、カバー体Cの自由端が摺動受枠体1の水平受縁1a上を作動空隙2の範囲内で水平に摺動してその相対変位に追従し、さらに大きく相対変位すると、カバー体Cは、図7に示すように、カバー体Cの建造物A側の一端を支点として傾動して、自由端の端縁3が、摺動受枠体1の傾斜受縁1bに沿ってずれ上がることにより、その相対変位から逃げることができる。この時、自由端の端縁3に枢結されている端部カバー板4が、自重により下方傾斜する状態となって建造物Bの床f2 の上面に常時密着して摺動するため、該端部カバー板4が中空に突出することによる通行障害を防止することができる。」

キ 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる床用目地カバー装置の施工状態を示す縦断側面図である。
・・・(略)・・・
【図7】建造物Aと建造物Bとが近接する方向に相対変位した状態におけるカバー体C及び端部カバー板4の作用を示す説明図である。
・・・(略)・・・」

ク 図1は床用目地カバー装置の施工状態を示す縦断側面図であって(上記キを参照。)、図1からは、カバー体Cの上面8が建造物Bの床f2の上面と略面一であることが看取できる。

ケ 図7は建造物Aと建造物Bとが近接する方向に相対変位した状態におけるカバー体C及び端部カバー板4の作用を示す説明図であって(上記キを参照。)、図7からは、カバー体Cの底面が傾斜受縁1bの上端と接するとともに、カバー体Cの端縁3が建造物Bの床f2の上方に位置することが看取できる。

(2)刊行物1に記載された発明の認定
上記(1)ケの「カバー体Cの底面が傾斜受縁1bの上端と接しており、カバー体Cの端縁3が建造物Bの床f2の領域に位置する」状態は、上記(1)カの「カバー体Cは、カバー体Cの建造物A側の一端を支点として傾動して、自由端の端縁3が、摺動受枠体1の傾斜受縁1bに沿ってずれ上がる」動作を経た後の状態であると解される。
そうすると、上記(1)の事項からみて、刊行物1には、
「免震構造の建造物Aと目地sを介して隣接している人工地盤からなる建造物Bの、前記建造物Bの床f2の側縁に、目地sの幅方向に比較的長い水平受縁1aの外端から床f2の上面に向けて上方傾斜する傾斜受縁1bを備えた摺動受枠体1と、
その一端の下部が建造物Aの床f1の側縁に、保持手段5を介して少なくとも目地sの幅方向に移動不能に保持され、他端を自由端としており、該自由端が前記摺動受枠体1の水平受縁1a上に摺動可能に乗載されていて、カバー体Cの上面8が建造物Aの床f1の上面と略面一となり、カバー体Cの上面8が建造物Bの床f2の上面と略面一であるカバー体Cと、
このカバー体Cの自由端にヒンジ6で上下方向に回動可能に枢結されている端部カバー板4とからなる床用目地カバー装置において、
カバー体Cは、カバー体Cの建造物A側の一端を支点として傾動して、自由端の端縁3が、摺動受枠体1の傾斜受縁1bに沿ってずれ上がる動作を経た後に、カバー体Cの底面が傾斜受縁1bの上端と接するとともに、カバー体Cの端縁3が建造物Bの床f2の上方に位置する状態になる床用目地カバー装置。」の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。


2 刊行物2について
(1)刊行物2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2012-12847号公報(平成24年1月19日出願公開。以下「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
外壁面に外方へ突出させるドアが設けられた一方の建物のドアの下部位置の躯体に形成された目地プレート支持凹部と、この目地プレート支持凹部と対向する部位に目地部を介して設けられた他方の建物の外側通路に、該目地プレート支持凹部と対応する前記目地部の間隔寸法の約2倍の寸法となるように形成された目地プレートスライド支持凹部と、この目地プレートスライド支持凹部の前記目地部側のほぼ半分を覆い、後端部が前記目地プレート支持凹部に支持される先端下部が突出する傾斜面に形成された目地プレートと、この目地プレートの後端部を前記目地プレート支持凹部に固定、あるいは支持させる目地プレート取付手段と、前記目地プレートで覆われていない前記目地プレートスライド支持凹部を覆うとともに、地震で目地部が狭くなると、先端部が前記目地プレート上へ乗り上げる回動目地プレートと、この回動目地プレートの後端部を先端部が上方へ回動できるように、前記他方の建物に取付ける回動目地プレート取付手段とからなることを特徴とする床用目地装置。
【請求項2】
回動目地プレートの底面は先端部が上方へ大きく突出するのを阻止できるように円弧状の凹部となるように形成されるとともに、先端部に先端部が上下方向に回動するようにカバープレートが取付けられていることを特徴とする請求項1記載の床用目地装置。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は目地部側に外方へ突出するドアを設けた左右の建物の床部分を接続する床用目地装置に関する。」

ウ 「【背景技術】
【0002】
従来、この種の床用目地装置は左右の建物の一方の建物の目地部側の床躯体の床面に反目地部側が傾斜面に形成された目地プレートスライド支持凹部と、この目地プレートスライド支持凹部と対応する部位の他方の建物の外壁あるいは床躯体に設けられた目地プレート支持凹部と、この目地プレート支持凹部に後端部が支持され、先端部が前記目地プレートスライド支持凹部をスライド移動可能に覆うように支持された目地プレートとで構成されている。
【0003】
このため、地震で目地部が狭くなるように左右の建物が揺れ動いた場合、目地プレートの先端部は目地プレートスライド支持凹部の傾斜面に沿って、傾斜面の上端部に乗り上がった傾斜面状態となり、危険な状態になるとともに、目地プレートに沿って他方の建物の外開き用の開閉扉があると、該開閉扉の開閉が不可能になったり、損傷してしまうという欠点があった。」

エ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、目地部が狭くなるように左右の建物が地震で揺れ動いても、外方へ突出するドアが設けられた一方の建物側の目地プレートがほぼ水平状態で移動して、ドアの開閉が不能になったりするのを確実に阻止するとともに、目地プレート上を従来と比べて安全に走行することができる床用目地装置を提供することを目的としている。」

オ 「【発明の効果】
【0009】
以上の説明から明らかなように、本発明にあっては次に列挙する効果が得られる。
・・・(略)・・・
(5)請求項2も前記(1)?(4)と同様な効果が得られるとともに、地震で目地部が狭くなるように揺れ動いた場合に、回動目地プレートの先端部が大きく上方へ突出するのを円弧状の凹部で阻止することができる。
したがって、より安全に使用することができる。」

カ 「【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を実施するための第1の形態の平面図。
【図2】図1の2-2線に沿う断面図。
【図3】本発明を実施するための第1の形態の目地プレートの説明図。
【図4】本発明を実施するための第1の形態の回動目地プレートの説明図。
【図5】本発明を実施するための第1の形態の目地部が狭くなった動作説明図。
【図6】本発明を実施するための第1の形態の目地部が広くなった動作説明図。
【図7】本発明を実施するための第2の形態の平面図。
【図8】図7の8-8線に沿う断面図。
【図9】本発明を実施するための第2の形態の回動目地プレートの説明図。
【図10】本発明を実施するための第2の形態の目地部が狭くなった動作説明図。
・・・(略)・・・」

キ 「【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に示す本発明を実施するための形態により、本発明を詳細に説明する。
【0012】
図1ないし図6に示す本発明を実施するための第1の形態において、1は外壁面2に外方へ突出させるドア3が設けられた一方の建物4と、目地部5を介して設けられた他方の建物6とを接続する本発明の床用目地装置で、この床用目地装置1は前記一方の建物4のドア3の下部位置の外壁躯体に形成された目地プレート支持凹部7と、この目地プレート支持凹部7と対向する部位の前記他方の建物6の外側通路8に、該目地プレート支持凹部7と対応する前記目地部5の間隔寸法Lの約2倍の寸法となるように形成された目地プレートスライド支持凹部9と、この目地プレートスライド支持凹部9の前記目地部5側のほぼ半分を覆い、後端部が前記目地プレート支持凹部7に支持される先端下部が突出する傾斜面10に形成された目地プレート11と、この目地プレート11の後端部を前記目地プレート支持凹部7に固定状態で取付ける、ボルト12、12を用いた目地プレート取付手段13と、前記目地プレート11で覆われていない前記目地プレートスライド支持凹部9を覆うとともに、地震で前記目地部5が狭くなると先端部が前記目地プレート11へ乗り上げる回動目地プレート14と、この回動目地プレート14の後端部を先端部が上方へ回動できるように前記他方の建物6の外側通路8に取付けられた回動目地プレート取付手段15とで構成されている。
【0013】
前記目地プレート11は図3に示すように、浅皿状で先端下部が外方へ突出する傾斜面10に形成された金属材製の目地プレート本体16と、この目地プレート本体16の後方両側部に固定された取付ボックス17、17と、この取付ボックス17、17の底面に形成された透孔18、18と、前記目地プレート本体16内に充填されたモルタルあるいはコンクリート19と、このモルタルあるいはコンクリート19の上部に、必要に応じて設置されるタイルやレンガ等の床化粧体20と、前記取付ボックス17、17の上面を覆う蓋体21、21とで構成されている。
【0014】
前記回動目地プレート14は図4に示すように、浅皿状で先端上部が外方へ突出し、前記目地プレート11の傾斜面10と面接触できる傾斜面22に形成された金属材製の回動目地プレート本体23と、この回動目地プレート本体23の後部両側部に固定された取付ボックス24、24と、この取付ボックス24、24の底面に形成された係合ピン挿入孔25、25と、前記回動目地プレート本体23内に充填されたモルタルあるいはコンクリート26と、このモルタルあるいはコンクリート26の上部に、必要に応じて設置されるタイルやレンガ等の床化粧体27と、前記取付ボックス24、24の上面を覆う蓋体28、28とで構成されている。」

ク 「【0017】
地震で目地部5が狭くなるように一方の建物4と他方の建物6が揺れ動いた場合、図5に示すように一方の建物4と他方の建物6とが近接するため、目地プレート11の先端部が回動目地プレート14を押し上げるように回動目地プレート14方向へスライド移動する。
【0018】
この時、目地プレート11は先端部が他方の建物6の目地プレートスライド支持凹部9内をスライド移動するため、平行移動となり、一方の建物4のドア3の開閉のじゃまになる回動がないため、通常時と同様にドア3の開閉を行なうことができる。」

ケ 「【0022】
[発明を実施するための異なる形態]
次に、図7ないし図13に示す本発明を実施するための異なる形態につき説明する。なお、これらの本発明を実施するための異なる形態の説明に当って、前記本発明を実施するための第1の形態と同一構成部分には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0023】
図7ないし図10に示す本発明を実施するための第2の形態において、前記本発明を実施するための第1の形態と主に異なる点は、目地プレート11上へ先端部が乗り上げる時に、先端部が上方へ突出するのを小さくおさえることができるように底面に円弧状の凹部30を形成した回動目地プレート14Aを用いるとともに、該回動目地プレート14Aの先端部にヒンジ部材31を介してカバープレート32を取付けた点で、このようなカバープレート32を用いた回動目地プレート14Aを用いた床用目地装置1Aにしても、前記本発明を実施するための第1の形態と同様な作用効果が得られるとともに、地震で目地部5が狭くなっても回動目地プレート14Aの円弧状の凹部30で先端部が大きく上方へ突出するのを防止でき、より安全に使用することができる。」

コ 刊行物2の第1の形態において、
図2及び4から、回動目地プレート14の底面が平板状であることが看取できる。

サ 刊行物2の第1の形態において、
(ア)図5は、地震で目地部5が狭くなる場合を示す(上記カ及びクを参照。)。
(イ)図5から、回動目地プレート14の先端部が空中に浮いているとともに、回動目地プレート14の底面が目地プレート11の先端部(傾斜面10の上端)に接した状態が看取できる。

シ 刊行物2の第2の形態において、
(ア)図10は、地震で目地部5が狭くなる場合を示す(上記カ及びケを参照。)。
(イ)図10から、回動目地プレート14Aの先端部が目地プレート11の上面に接するとともに、回動目地プレート14Aの底面が目地プレート11の先端部(傾斜面10の上端)にほぼ接した状態が看取できる。

ス 刊行物2の第2の形態の「回動目地プレート14A」について、
上記ケの「目地プレート11上へ先端部が乗り上げる時に、」という事項は、図10から、「回動目地プレート14Aの先端部が傾斜面10を越えて目地プレート11上に乗り上げる時に、」を意味することが看取できる。


(2)刊行物2に記載された技術の認定
ア 刊行物2の第1及び第2の形態を比較すると、地震で目地部5が狭くなる場合において、
第1の形態(回動目地プレート14の底面が平板状である)に比べ、第2の形態(回動目地プレート14Aの底面に「円弧状の凹部30」が形成されている)は、その構造からみて、回動目地プレート14Aの先端部が空中に浮きにくく、回動目地プレート14Aの底面が目地プレート11の先端部(傾斜面10の上端)に接触しにくい構造であるといえる。

イ 刊行物2の第2の形態において、上記(1)ケの「目地プレート11上へ先端部が乗り上げる時に、先端部が上方へ突出するのを小さくおさえることができるように底面に円弧状の凹部30を形成した回動目地プレート14A」という事項及び図10から、回動目地プレート14Aの先端部が上方へ突出するのを最も小さくおさえるためには、その先端部が目地プレート11の上面に接した状態にすることは、当業者が容易に理解できることである。

ウ 刊行物2の第2の形態において、図10の状態に至るまでの途中経過を示す図が添付されていないが、上記(1)シ(イ)並びに(2)ア及びイの事項を踏まえると、
回動目地プレート14Aの先端部が目地プレート11の上面に接するとともに、回動目地プレート14Aの底面が目地プレート11の先端部(傾斜面10の上端)に接していない状態であることが当業者に推測される。
すなわち、図10に至るまでの途中では、「回動目地プレート14Aの先端部のみが目地プレート11の上面に接した状態」であると理解される。
ここで、上記(1)スの「回動目地プレート14Aの先端部が傾斜面10を越えて目地プレート11上に乗り上げる時に、」という事項を付け加えると、「回動目地プレート14Aの先端部が傾斜面10を越えて目地プレート11上に乗り上げる時に、回動目地プレート14Aの先端部のみが目地プレート11の上面に接した状態」となる。

エ そうすると、上記(1)の事項及び(2)ウの事項からみて、刊行物2には、
「床用目地装置において、回動目地プレート14Aの底面に円弧状の凹部30を形成することにより、回動目地プレート14Aの先端部が傾斜面10を越えて目地プレート11上に乗り上げる時に、回動目地プレート14Aの先端部のみが目地プレート11の上面に接した状態にして、回動目地プレート14Aの先端部が大きく上方へ突出するのを防止する技術」(以下「刊行物2技術」という。)が記載されていると認められる。


第4 対比
1 本願発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「目地s」は、本願発明の「目地部」に相当する。刊行物1発明の「免震構造の建造物Aと目地sを介して隣接している人工地盤からなる建造物B」は、本願発明の「目地部を介して設けられた左右の床躯体」に相当する。刊行物1発明の「人工地盤からなる建造物B」,「免震構造の建造物A」は、それぞれ本願発明の「一方の目地部側床躯体」及び「一方の床躯体」,「他方の目地部側床躯体」に相当する。

2 刊行物1発明の「摺動受枠体1」について
刊行物1発明の「前記建造物Bの床f2の側縁に、」は、本願発明の「一方の目地部側床躯体に」に相当し、同様に、「目地sの幅方向に比較的長い水平受縁1aの外端から床f2の上面に向けて」は「反目地部側が」に、「上方傾斜する傾斜受縁1b」及び「を備えた」は「傾斜面」及び「に形成された」にそれぞれ相当するから、刊行物1発明の「摺動受枠体1」は本願発明の「床用目地プレートスライド支持凹部」に相当する。

3 刊行物1発明の「カバー体C」について
(1)刊行物1発明の「他端」及び「自由端」,「その一端」は、それぞれ本願発明の「先端部」,「後端部」に相当する。
(2)刊行物1発明の「他端を自由端としており、該自由端が前記摺動受枠体1の水平受縁1a上に摺動可能に乗載されていて」は、本願発明の「この床用目地プレートスライド支持凹部に先端部が支持され」に相当し、同様に、「その一端の下部が建造物Aの床f1の側縁に、」は「後端部が他方の目地部側床躯体に」に、「カバー体Cの建造物A側の一端を支点として傾動して、自由端の端縁3が、摺動受枠体1の傾斜受縁1bに沿ってずれ上がる」は「先端部が前記傾斜面に沿って上方へ回動でき」に、「カバー体Cの上面8が建造物Aの床f1の上面と略面一となり、カバー体Cの上面8が建造物Bの床f2の上面と略面一である」は「上面が前記左右の床躯体の床面と同一面となる」にそれぞれ相当する。
(3)したがって、刊行物1発明の「カバー体C」は、本願発明の「床用目地プレート」に相当する。

4 刊行物1発明の「このカバー体Cの自由端にヒンジ6で上下方向に回動可能に枢結されている端部カバー板4」は、本願発明の「この床用目地プレートの先端部に回動可能に取付けられたカバープレート」に相当する。

5 刊行物1発明の「床用目地カバー装置」は、本願発明の「床用目地装置」に相当する。

6 刊行物1発明の「カバー体Cは、カバー体Cの建造物A側の一端を支点として傾動して、自由端の端縁3が、摺動受枠体1の傾斜受縁1bに沿ってずれ上がる動作を経た後に、カバー体Cの底面が傾斜受縁1bの上端と接するとともに、カバー体Cの端縁3が建造物Bの床f2の上方に位置する状態になる」という事項について
当該事項から、カバー体C(本願発明の「床用目地プレート」に相当)の自由端(本願発明の「先端部」に相当)が、傾斜受縁1b(本願発明の「傾斜面」に相当)に沿ってずれ上がった後に、建造物B(本願発明の「一方の床躯体」に相当)の床f2の方向に移動することが理解できるから、当該事項は本願発明の「該床用目地プレートの先端部が傾斜面より一方の床躯体の床面方向へスライド移動」することに相当する。

7 したがって、本願発明と刊行物1発明とは、
「目地部を介して設けられた左右の床躯体の、一方の目地部側床躯体に反目地部側が傾斜面に形成された床用目地プレートスライド支持凹部と、この床用目地プレートスライド支持凹部に先端部が支持され、後端部が他方の目地部側床躯体に、先端部が前記傾斜面に沿って上方へ回動でき、かつ上面が前記左右の床躯体の床面と同一面となるように取付けられた床用目地プレートと、この床用目地プレートの先端部に回動可能に取付けられたカバープレートとからなる床用目地装置において、
該床用目地プレートの先端部が傾斜面より一方の床躯体の床面方向へスライド移動する、床用目地装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
床用目地プレートの底面の構造について、
本願発明は「前記床用目地プレートの先端部を除く底面に、該床用目地プレートの先端部が傾斜面より一方の床躯体の床面方向へスライド移動しても、床用目地プレートの先端部のみが一方の床躯体の床面に接した状態を保つ凹部を形成した」のに対し、刊行物1発明はそのような凹部を形成していない点。


第5 相違点に係る判断
1 刊行物2技術について
(1)上記第3の2(2)エで述べたように、刊行物2技術は、「床用目地装置において、回動目地プレート14Aの底面に円弧状の凹部30を形成することにより、回動目地プレート14Aの先端部が傾斜面10を越えて目地プレート11上に乗り上げる時に、回動目地プレート14Aの先端部のみが目地プレート11の上面に接した状態にして、回動目地プレート14Aの先端部が大きく上方へ突出するのを防止する技術」である。
(2)刊行物2技術の目的(課題)について、刊行物2には、「地震で目地部が狭くなるように左右の建物が揺れ動いた場合、目地プレートの先端部は目地プレートスライド支持凹部の傾斜面に沿って、傾斜面の上端部に乗り上がった傾斜面状態となり、危険な状態になるとともに、目地プレートに沿って他方の建物の外開き用の開閉扉があると、該開閉扉の開閉が不可能になったり、損傷してしまうという欠点があった。」(段落【0003】)、「本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、目地部が狭くなるように左右の建物が地震で揺れ動いても、外方へ突出するドアが設けられた一方の建物側の目地プレートがほぼ水平状態で移動して、ドアの開閉が不能になったりするのを確実に阻止するとともに、目地プレート上を従来と比べて安全に走行することができる床用目地装置を提供することを目的としている。」(段落【0005】)、「回動目地プレートの先端部が大きく上方へ突出するのを円弧状の凹部で阻止することができる。したがって、より安全に使用することができる。」(段落【0009】)、「回動目地プレート14Aの円弧状の凹部30で先端部が大きく上方へ突出するのを防止でき、より安全に使用することができる。」(段落【0022】)と記載されている。
(3)刊行物2技術の「回動目地プレート14A」は、本願発明の「床用目地プレート」に相当する。
刊行物2技術の「回動目地プレート14Aの先端部が傾斜面10を越えて目地プレート11上に乗り上げる時に」について、「傾斜面10を越えて」及び「上に乗り上げる時に」は、それぞれ本願発明の「傾斜面10より」及び「上面方向にスライド移動しても」に相当する。
してみると、刊行物2技術は、次の技術に相当するといえる。
「床用目地装置において、床用目地プレートの底面に円弧状の凹部を形成することにより、床用目地プレートの先端部が傾斜面より目地プレートの上面方向にスライド移動しても、床用目地プレートの先端部のみが目地プレートの上面に接した状態にして、床用目地プレートの先端部が大きく上方へ突出するのを防止する技術」
(4)刊行物2技術について、上記の「床用目地プレートの先端部が傾斜面より目地プレートの上面方向にスライド移動しても、床用目地プレートの先端部のみが目地プレートの上面に接した状態」は、本願発明と同様のガタ付きを防止する効果を伴うと解される。


2 刊行物1発明に対する刊行物2技術の適用について
(1)刊行物1発明と刊行物2技術は、床用目地装置という点で技術分野が共通することに加えて、地震で目地部が狭くなる場合に(刊行物1の段落【0021】、刊行物2の段落【0023】を参照。)、床用目地プレートが回動する点で床用目地装置の構造も共通するから、刊行物1発明に刊行物2技術を適用することは、当業者が容易に着想し得ることであるといえる。
(2)刊行物1発明においても、刊行物2技術と同様に、「より安全に使用することができる」という目的(課題)は当然にあるといえる。
(3)以上のような事情を考慮すると、刊行物1発明の「カバー体C」(本願発明の「床用目地プレート」に相当)について、「より安全に使用することができる」ように刊行物2技術を適用して、「カバー体C」(本願発明の「床用目地プレート」に相当)の自由端(先端部)を除く底面に、「該床用目地プレートの先端部が傾斜面より一方の床躯体の床面方向へスライド移動しても、床用目地プレートの先端部のみが一方の床躯体の床面に接した状態」となるような「凹部」を形成することは、当業者が容易になし得たことである。
(4)ここで、「より安全に使用することができる」ように、上記(3)の「・・・(略)・・・床用目地プレートの先端部のみが一方の床躯体の床面に接した状態」を保つようにすることは当業者が適宜になし得る程度のことであって、ガタ付きを防止する効果は当業者の予測し得る範囲内であるから、そこに進歩性があるとはいえない。
(5)したがって、刊行物1発明及び刊行物2技術に基いて、本願発明の上記相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。


3 請求人の主張について
(1)請求人は、審判請求書において、
「 すなわち、前記引用文献2の回動目地プレートは、図10に示す瞬間に至るまでは先端部のみが一方の床躯体の床面に接した状態を保つことができるが、図10に示す瞬間又はそれよりも目地部が狭くなった場合には、目地プレートの先端部が回動目地プレートの凹部に当接し、回動目地プレートの先端部は浮いた状態となるものである。前記引用文献2の発明は、回動目地プレートが乗り上げた場合に、その先端部が大きく上方へ突出するのを防止するという課題のみに基づいて凹部を構成されているものであり、本願発明のように、目地部が狭くなった場合であっても、その先端部が大きく上方へ突出するのを防止するとともに、がたつきを防止するという課題がないためである。
付言すると、前記引用文献2の回動目地プレートにも凹部は形成されているが、本願発明とは課題が異なるため、その先端部が大きく上方へ突出するのを防止できるものであればよく、床用目地プレートの先端部のみが一方の床躯体の床面に接した状態を保つように形成された凹部である必要がない。
一方、本願発明においては、床用目地プレートの先端部のみが一方の床躯体の床面に接した状態を保つ凹部であるので、目地部が最大限狭くなった場合であっても、先端部のみが一方の床躯体の床面に接した状態を保つことができ、いかなる時であっても、床用目地プレートの先端部と後端部の2点で床用目地プレートを支持することができ、がたつきを防止することができるものである。
このように本願発明の床用目地装置は、前記引用文献1及び2とは課題が全く相違し、前記引用文献1及び2の発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものではない。」と主張している(審判請求書第3頁)。
(2)しかしながら、上記1(4)で述べたとおり、刊行物2技術においても、本願発明と同様のガタ付きを防止する効果を伴うと解される。そして、図10に示す瞬間よりも目地部5が狭くなった場合であっても、回動目地プレート14A(本願発明の「床用目地プレート」に相当)の先端部が上方へ突出するのを小さくおさえるとの課題は当然にあり、そのことは当業者であれば容易に着想することであり、そのためには底面の「円弧状の凹部30」を更に大きく形成すればよいことは当業者に明らかであって、「いかなる時であっても、床用目地プレートの先端部と後端部の2点で床用目地プレートを支持することができ、がたつきを防止することができる」という効果は当業者の予測し得る範囲内である。
(3)よって、請求人の上記主張は採用できない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明及び刊行物2技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明において検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-13 
結審通知日 2017-06-14 
審決日 2017-06-27 
出願番号 特願2013-12302(P2013-12302)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小池 俊次佐藤 美紗子土屋 真理子  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 藤田 都志行
住田 秀弘
発明の名称 床用目地装置  
代理人 三浦 光康  

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