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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1331054 |
審判番号 | 不服2016-9825 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-06-30 |
確定日 | 2017-08-08 |
事件の表示 | 特願2014-543822「高電圧トレンチ接合ショットキーバリアダイオード」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月 6日国際公開、WO2013/079304、平成27年 2月12日国内公表、特表2015-504610〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,平成24年(2012年)11月12日を国際出願日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2011年12月1日,独国)とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成26年 6月 2日 審査請求・手続補正 平成27年 4月28日 拒絶理由通知 平成27年 7月23日 意見書・手続補正 平成28年 3月16日 拒絶査定 平成28年 6月30日 審判請求 2 本願発明について (1)本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「・n^(+)型基板(10)と, ・前記n^(+)型基板(10)上の,厚さ(D_epi)を有するn型エピタキシャル層(20)と, ・前記n型エピタキシャル層(20)に形成された,それぞれ幅(Wt)および深さ(Dt)を有する少なくとも2つのトレンチ(70)と, ・隣接する前記トレンチ(70)間にある,それぞれ幅(Wm)を有するメサ領域(80)と, を有するショットキーバリアダイオードであって, ・前記ショットキーバリアダイオードのn^(+)型基板(10)の裏側面(R)にカソード電極として設置された金属層(60)と, ・前記ショットキーバリアダイオードの表側面(V)にアノード電極として設置された金属層(50)と, を有し, 前記表側面(V)に設けられた前記金属層(50)と前記トレンチ(70)内のp型領域(40a)とがオーミックコンタクトを形成し, 前記表側面(V)に設けられた前記金属層(50)と前記n型エピタキシャル層(20)とがショットキー接合を形成するショットキーバリアダイオードにおいて, 前記トレンチ(70)の深さ(Dt)と前記n型エピタキシャル層(20)の厚さ(D_epi)とに対し,以下の関係式 K・Dt<D_epi,ただしK>4 が適用され, さらに, NA・Wt≫ND・Wm が適用され,ここで,NAは前記トレンチ(70)内におけるドープ濃度であり,Wtは前記トレンチ(70)の幅であり,NDは前記n型エピタキシャル層(20)のドープ濃度であり,Wmは2つの前記トレンチ(70)間の前記メサ領域(80)の幅である, ことを特徴とするショットキーバリアダイオード。」 (2)引用文献1の記載 ア 引用文献1 原査定の拒絶の理由に引用された,特表2008-519448号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。) (ア)「【技術分野】 【0001】 従来技術 本発明は請求項1の上位概念記載の半導体デバイスおよびその製造方法に関する。本発明の半導体デバイスはトレンチ構造を備えたジャンクションバリア型ショットキーダイオードである。当該の半導体デバイスは車両の搭載電源においてツェナーダイオードとして使用されるのに特に良好に適している。」 (イ)「【0010】 実施例の説明 本発明によって得られる利点をより良く理解してもらうために,まず公知の半導体デバイスを簡単に説明する。図1には,従来のジャンクションバリア型ショットキーダイオードJBSの形態の半導体デバイス10が示されている。この半導体デバイス10は,n^(+)型基板1,n型層2,このn型層内へ拡散された少なくとも2つのp型ウェル3,および,チップの前面および後面のコンタクト層4,5から成る。電気的に見ると,JBSはPNダイオードすなわちアノードとしてのp型ウェル3とカソードとしてのn型層2とのあいだのPN接合領域と,ショットキーダイオードすなわちアノードとしてのコンタクト層4とカソードとしてのn型層2とのあいだのショットキーバリアとのコンビネーションである。チップの後面のコンタクト層5はカソード電極として用いられ,チップの前面のコンタクト層4はp型ウェル3に対するオーミックコンタクトでありかつn型層2に対するショットキーコンタクトであるアノード電極として用いられる。」 (ウ)「【0015】 本発明の充填されたトレンチを有するTJBSの第1の実施例は半導体デバイス30であり,これを以下に図3に則して詳細に説明する。図3に示されているように,半導体デバイス30は,n^(+)型基板1,このn^(+)型基板上に配置されたn型層2,および,このn型層内に形成された少なくとも2つのトレンチ7を有する。また半導体デバイス30の前面および後面にはコンタクト層4,5が配置され,アノード電極およびカソード電極として用いられる。トレンチ7は有利にはエッチングプロセスにより形成される。コンタクト層4,5は有利には金属から成る。特に金属層4は上下に積層された2つの異なる金属層から成っていてもよい。トレンチ7はp型ドープされたSiまたはPoly‐Siによって充填され,p型ドープ領域8が形成される。電気的に見ると,TJBSすなわち半導体デバイス30は,PNダイオードすなわちアノードとしてのp型ドープ領域8とカソードとしてのn型層2とのあいだのPN接合領域と,ショットキーダイオードすなわちアノードとしてのコンタクト層4とカソードとしてのn型層2とのあいだのショットキーバリアとのコンビネーションである。従来のジャンクションバリア型ショットキーダイオードと同様に,ダイオードの順方向電流はショットキーダイオードのみを通って流れる。しかし,p型ドーパントの水平拡散が生じないので,TJBSにおける順方向での電流に対する有効面積は,トレンチMOSバリア型ショットキーダイオードTMBSと同様に,従来のジャンクションバリア型ショットキーダイオードJBSよりも格段に大きくなる。阻止方向では電圧が上昇するにつれて空間電荷領域が拡大し,TJBSのブレークダウン電圧よりも小さい電圧では隣接する2つのp型ドープ領域間の領域の中央付近で衝突する。これにより,JBSと同様に,高い阻止電流の原因となるショットキー効果が部分的に遮蔽され,阻止電流が低減される。こうした遮蔽作用は構造パラメータ,例えばトレンチの深さDt,トレンチ間の距離Wnおよびトレンチの幅Wpなどに強く依存する。TJBSにトレンチ7を実現するに際してp型ドーパントの拡散は行われない。したがって従来のJBSで生じていたようなp型ドーパントの水平拡散の悪影響は存在しない。トレンチ7間のメサ領域2.1における空間電荷領域をいわば1次元のみで拡大することは,ショットキー効果の遮蔽作用にとって重要な構造パラメータであるトレンチの深さDtが順方向電流の有効面積に相関しないので,容易に実現可能である。本発明のTJBSでのショットキー効果に対する遮蔽作用は,TMBSと同様に,拡散されたp型ウェルを有する従来のJBSでの遮蔽作用に比べて格段に効果的である。さらにTJBSではPNダイオードによって与えられるクランプ機能から高いローバスト性が得られる。PNダイオードのブレークダウン電圧BV_pnは有利にはショットキーダイオードのブレークダウン電圧BV_schottkyよりも低い。またここでのブレークダウンはトレンチ7の底部で発生する。ブレークダウン動作では阻止電流はPNダイオードのPN接合領域のみを通って流れる。こうして順方向と阻止方向とがジオメトリ的に分離される。つまりTJBSはPNダイオード同様のローバスト性を呈するのである。TJBSの形態の半導体デバイス30を実現するにはPN階段接合領域を形成するのが有利である。さらに"クールショットキーダイオード"におけるような電荷補償が回避される。なぜならここでは高い阻止作用を有すべきダイオードではなく,数10Vのオーダー,特に約20V?40Vのブレークダウン電圧を有するツェナーダイオードが考察されているからである。なお,TJBSではMOS構造体が存在しないので"ホットキャリア"の注入も起こらない。したがってTJBSは車両の搭載電源,特にジェネレータシステムにおいてツェナーダイオードとして使用するのに特に良好に適する。 【0016】 次に半導体デバイス30の有利な製造方法を説明する。これについては図8に示されたフローチャートを参照されたい。まずn^(+)型基板1がステップ80で用意される。このn^(+)型基板1の上にステップ81でn型層2が被着される。これは有利にはエピタキシプロセスにより行われる。次のステップ82でn型層2にトレンチ7がエッチングされる。続いてトレンチ7はステップ83でp型ドープされたSiまたはPoly‐Siによって充填される。さらにステップ84で,有利には金属から成るコンタクト層4,5が半導体デバイス30の前面および後面に被着される。」 イ 引用発明 前記アより,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「n^(+)型基板,このn^(+)型基板上にエピタキシプロセスで被着されたn型層,および,このn型層内に形成された少なくとも2つのトレンチ,トレンチ間のメサ領域を有し,また前面および後面には金属からなるコンタクト層4,5が配置され,アノード電極およびカソード電極として用いられ,トレンチにはp型ドープ領域が形成され,p型ドープ領域とn型層とのあいだのPN接合領域と,コンタクト層4とn型層とのあいだのショットキーバリアとのコンビネーションであるショットキーダイオードにおいて,"クールショットキーダイオード"におけるような電荷補償が回避されていること。」 (3)引用文献2の記載 ア 引用文献2 原査定の拒絶の理由に引用された,特開昭61-147570号公報(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 (ア)「即ち従来のショットキバリア半導体装置ではN型シリコン領域(12)を約11μm厚とするとP^(+)型シリコン領域(14)は高々約3μmの深さに形成していたので,第2図に示す如く逆方向降伏電圧の最も高い範囲で作動させていた。しかしこの範囲ではサージ耐量は第2図から明らかな様に最も低い範囲で使用することになり,従来のショットキバリア半導体装置はサージ耐量が極めて弱い欠点を有していた。」(第2頁右上欄17行?同頁左下欄5行) (イ)第2図には,「従来例」として拡散深さが1?3μmで,逆方向降伏電圧が100?140Vであり,N型シリコン領域の厚さの1/4以下の拡散深さでは,拡散深さが浅くなるほど逆方向降伏電圧が下がること,が記載されている。 イ 技術的事項 前記アより,引用文献2には次の技術的事項が記載されていると認められる。 「従来のショットキバリア半導体装置ではN型シリコン領域を約11μm厚としP^(+)型シリコン領域の拡散深さを1?3μmとすると,逆方向降伏電圧が100?140Vとなり,N型シリコン領域の厚さの1/4以下の拡散深さでは,拡散深さが浅くなるほど逆方向降伏電圧が下がること。」 (4)本願発明と引用発明との対比 ア 引用発明の「n^(+)型基板」,「このn^(+)型基板上にエピタキシプロセスで被着されたn型層」,「このn型層内に形成された少なくとも2つのトレンチ」及び「トレンチ間のメサ領域」は,それぞれ本願発明の「n^(+)型基板(10)」,「前記n^(+)型基板(10)上の,厚さ(D_epi)を有するn型エピタキシャル層(20)」,「前記n型エピタキシャル層(20)に形成された,それぞれ幅(Wt)および深さ(Dt)を有する少なくとも2つのトレンチ(70)」及び「隣接する前記トレンチ(70)間にある,それぞれ幅(Wm)を有するメサ領域(80)」に相当すると認められる。 イ 引用発明の「ショットキーダイオード」は,下記相違点を除いて,本願発明の「ショットキーバリアダイオード」に相当すると認められる。 ウ 引用発明の「後面には金属からなるコンタクト層5」は「カソード電極として用いられる」から,本願発明の「前記ショットキーバリアダイオードのn^(+)型基板(10)の裏側面(R)にカソード電極として設置された金属層(60)」に相当すると認められる。 エ 引用発明の「前面には金属からなるコンタクト層4」は「アノード電極として用いられる」から,本願発明の「前記ショットキーバリアダイオードの表側面(V)にアノード電極として設置された金属層(50)」に相当すると認められる。 オ 引用発明の「前面には金属からなるコンタクト層4」は「PN接合領域」について「アノード電極として用いられる」から,「トレンチ」に形成された「p型ドープ領域」に対するオーミックコンタクトであり(前記(2)ア(イ)),このことは,本願発明の「前記表側面(V)に設けられた前記金属層(50)と前記トレンチ(70)内のp型領域(40a)とがオーミックコンタクトを形成し」に相当すると認められる。 カ 引用発明において「前面には金属からなる」「コンタクト層4とn型層とのあいだのショットキーバリア」となるから,このことは本願発明における「前記表側面(V)に設けられた前記金属層(50)と前記n型エピタキシャル層(20)とがショットキー接合を形成する」に相当すると認められる。 キ すると,本願発明と引用発明とは,下記クの点で一致し,下記ケの点で相違する。 ク 一致点 「・n^(+)型基板(10)と, ・前記n^(+)型基板(10)上の,厚さ(D_epi)を有するn型エピタキシャル層(20)と, ・前記n型エピタキシャル層(20)に形成された,それぞれ幅(Wt)および深さ(Dt)を有する少なくとも2つのトレンチ(70)と, ・隣接する前記トレンチ(70)間にある,それぞれ幅(Wm)を有するメサ領域(80)と, を有するショットキーバリアダイオードであって, ・前記ショットキーバリアダイオードのn^(+)型基板(10)の裏側面(R)にカソード電極として設置された金属層(60)と, ・前記ショットキーバリアダイオードの表側面(V)にアノード電極として設置された金属層(50)と, を有し, 前記表側面(V)に設けられた前記金属層(50)と前記トレンチ(70)内のp型領域(40a)とがオーミックコンタクトを形成し, 前記表側面(V)に設けられた前記金属層(50)と前記n型エピタキシャル層(20)とがショットキー接合を形成するショットキーバリアダイオード。」 ケ 相違点 (ア)相違点1 本願発明においては「前記トレンチ(70)の深さ(Dt)と前記n型エピタキシャル層(20)の厚さ(D_epi)とに対し,以下の関係式 K・Dt<D_epi,ただしK>4 が適用される」のに対し,引用発明においてはトレンチの深さとn型層の厚さとの関係が明示されていない点。 (イ)相違点2 本願発明においては「NA・Wt≫ND・Wm が適用され,ここで,NAは前記トレンチ(70)内におけるドープ濃度であり,Wtは前記トレンチ(70)の幅であり,NDは前記n型エピタキシャル層(20)のドープ濃度であり,Wmは2つの前記トレンチ(70)間の前記メサ領域(80)の幅である」のに対し,引用発明においては「"クールショットキーダイオード"におけるような電荷補償が回避されている」点。 (5)相違点についての検討 ア 相違点1について 引用発明においては「数10Vのオーダー,特に約20V?40Vのブレークダウン電圧を有するツェナーダイオード」として設計すべきことが示唆されている(前記(2)ア(イ))。そして,引用文献2に記載された技術的事項に示されるとおり,ブレークダウン電圧すなわち逆方向降伏電圧がN型領域の厚さに比したP^(+)型領域の深さで変化することは公知であるから,両者の関係を調整してツェナーダイオードとして所望のブレークダウン電圧を実現することは,当業者が適宜設計できることである。 イ 相違点2について 引用発明においては「"クールショットキーダイオード"におけるような電荷補償が回避されている」ことから,低温SBDの電荷補償状態であるNA・Wt=ND・Wm(本願明細書段落【0006】,【0007】参照)を避けて,NA・WtがND・Wmより大きいか小さいかどちらかであり,そして,ブレークダウンはトレンチの底部で発生する(前記(2)ア(ウ))から,ブレークダウンが発生するようにトレンチのドープ濃度の方を高め,NA・WtをND・Wmより大きくすることは,当業者が容易に導出できることである。 (6)本願発明の効果について 本願発明の効果は,引用発明の構成から当業者が予測できるものであり,格別のものではない。 (7)まとめ したがって,本願発明は,引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 3 結言 以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-03-07 |
結審通知日 | 2017-03-13 |
審決日 | 2017-03-24 |
出願番号 | 特願2014-543822(P2014-543822) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 早川 朋一 |
特許庁審判長 |
飯田 清司 |
特許庁審判官 |
小田 浩 深沢 正志 |
発明の名称 | 高電圧トレンチ接合ショットキーバリアダイオード |
代理人 | 上島 類 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 前川 純一 |
代理人 | 二宮 浩康 |