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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1331103
審判番号 不服2016-1830  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-05 
確定日 2017-08-09 
事件の表示 特願2011- 70733「ガスから二酸化炭素を除去するための化学的化合物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月20日出願公開、特開2011-206768〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年3月28日(優先権主張 2010年3月26日 米国(US) 2011年3月22日 米国(US))の出願であって、平成26年9月30日付けで拒絶理由が起案され(発送日 同年10月7日)、平成27年4月7日付けで意見書並びに手続補正書が提出され、同年10月21日付けで拒絶査定が起案され(発送日 同年10月27日)、これに対し、平成28年2月5日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年2月5日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成28年2月5日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の目的
本件補正は、平成27年4月7日付け手続補正書の記載により補正された特許請求の範囲の請求項9を、平成28年2月5日付け手続補正書の記載により以下のように補正することを含むものである。(下線は請求人及び当審で付与したもので、上記両手続補正書間での補正箇所を示す。)

<本件補正前>
「【請求項9】
下記ステップを含む燃焼後CO_(2)の捕獲方法であって:
(i)アミンベースの吸収化合物を含む水溶液をアブソーバへ導入するステップであって、そのアブソーバは煙道ガススクラバの下流に設置されているステップ;
(ii)CO_(2)含有ガスを煙道ガススクラバからアブソーバへ供給してCO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物を形成するステップ;並びに
(iii)CO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物を再生ステップにかけるステップであり、CO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物を再生し、CO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物からCO_(2)を除去するステップであって、エネルギーがストリッパへ供給されて再生ステップが達成されるステップ、
但し、前記アミンベースの吸収化合物は、プライマリアミンベースの吸収化合物と1以上のアミンベースのプロモータ化合物との組み合わせであり、前記プライマリアミンベースの吸収化合物は2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジンである、該方法。」

<本件補正後>
「【請求項9】
下記ステップを含む燃焼後CO_(2)の捕獲方法であって:
(i)アミンベースの吸収化合物を含む水溶液をアブソーバへ導入するステップであって、そのアブソーバは煙道ガススクラバの下流に設置されているステップ;
(ii)CO_(2)含有ガスを煙道ガススクラバからアブソーバへ供給してCO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物を形成するステップ;並びに
(iii)CO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物を再生ステップにかけるステップであり、CO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物を再生し、CO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物からCO_(2)を除去するステップであって、エネルギーがストリッパへ供給されて再生ステップが達成されるステップ、
但し、前記アミンベースの吸収化合物は、プライマリアミンベースの吸収化合物と2以上のアミンベースのプロモータ化合物との組み合わせであり、
前記プライマリアミンベースの吸収化合物は2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジンである、該方法。」

本件補正は、補正前の「1以上のアミンベースのプロモータ化合物」を、補正後の「2以上のアミンベースのプロモータ化合物」とすることを含むもので、これは、「プライマリアミンベースの吸収化合物」と「組み合わせ」る「アミンベースのプロモータ化合物」を「1以上」から「2以上」に限定するものであり、それによって発明の属する技術分野、解決すべき課題を変更するものでないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項9に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

2.独立特許要件
2-1.補正発明について
補正発明は、平成28年2月5日付け手続補正書の記載により補正された特許請求の範囲の請求項9に記載される事項によって特定されるとおりのもの(上記「<本件補正後>」を参照。)である。

2-2.引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され本願優先権主張日前に頒布された特開平6-91134号公報(以下、「引用例」という。)には次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】ヒンダードアミン水溶液をCO_(2)の吸収液として大気圧下の燃焼排ガスと接触させ燃焼排ガス中のCO_(2)を除去する工程およびCO_(2)を吸収した吸収液を再生塔でCO_(2)を遊離させて吸収液を再生する工程を用いて燃焼排ガス中のCO_(2)を除去する方法において、CO_(2)を吸収した吸収液を高温の再生吸収液と熱交換させて加熱し遊離する一部のCO_(2)と吸収液とを分離させる少なくとも一段の吸収液部分再生工程を経たのち、得られる部分再生吸収液を加熱したのち再生塔に供給し部分再生吸収液に含まれるCO_(2)をさらに遊離させて吸収液を再生することを特徴とする燃焼排ガス中のCO_(2)を除去する方法。」
(イ)「【0013】【作用】本発明で用いられる好ましいヒンダードアミンとしては、いずれも分子内にアルコール性の水酸基を有し、(A)二個の非置換アルキル基を有する第三級炭素原子に結合した第一アミノ基を有する化合物、(B)炭素数3以下の非置換アルキル基と、結合炭素原子を含めて炭素数2以上の連鎖を有する基に結合したN原子を有する第二アミノ基を有する化合物、(C)第三アミノ基を有し、該第三アミノ基に結合した少なくとも2個以上の基は各々その結合炭素原子を含めて炭素数2以上の連鎖を有し、さらに該第三アミノ基に結合した基のうち2個は非置換アルキル基である化合物、および(D)2位に水酸基置換アルキル基を有する2-置換ピペリジン類、の群から選ばれるもの(但し、二以上のアミノ基を有するものを除く)が例示される。さらに、ヒンダードアミンの分子量は150以下であるものが所定濃度の単位溶液量当たりのCO_(2)の吸収能力の点から更に好ましい。」
(ウ)「【0017】さらに前記ヒンダードアミンのうち、(D)2位に水酸基置換アルキル基を有する2-置換ピペリジン類としては、2-(ヒドロキシメチル)-ピペリジン、2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジン、2-(1-ヒドロキシエチル)-ピペリジンなどを例示でき、中でも2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジン(HEP)が好ましい。」
(エ)「【0018】これらの群から選ばれるヒンダードアミンは各単独で用いられるほか、混合して用いることも可能である。また吸収液として用いられるヒンダードアミン水溶液の濃度はヒンダードアミンの種類にもよるが、通常15-65重量%である。燃焼排ガスとの接触時のヒンダードアミン水溶液の温度は通常30-70℃の範囲である。またヒンダードアミン水溶液には、必要に応じて、吸収反応を促進するための反応促進剤、腐蝕防止剤、ヒンダードアミンの劣化防止剤などが加えられる。促進剤としてはピペラジン、ピペリジン、モルフォリン、グリシン、2-(メチルアミノ)-エタノール、2-(ヒドロキシエチル)-ピペリジン(但し、ヒンダードアミンとして使用される場合を除く)および2-(エチルアミノ)-エタノールなどが例示される。促進剤の使用量は通常ヒンダードアミン100重量部に対し、1-25重量部である。」
(オ)「【0022】図1において、適宜前処理や温度調節された燃焼排ガスは燃焼排ガス供給ライン1により脱CO_(2)塔2へ導かれる。」
(カ)「中空糸型ろ過膜モジュールの1例の全体構造の断面図」(【図面の簡単な説明】)と題された【図1】(6頁)を以下に示す。



2-3.引用例に記載された発明の認定
(1)引用例の記載事項(ア)から、引用例には、「ヒンダードアミン水溶液をCO_(2)の吸収液として大気圧下の燃焼排ガスと接触させ燃焼排ガス中のCO_(2)を除去する工程およびCO_(2)を吸収した吸収液を再生塔でCO_(2)を遊離させて吸収液を再生する工程を用いて燃焼排ガス中のCO_(2)を除去する方法において、CO_(2)を吸収した吸収液を高温の再生吸収液と熱交換させて加熱し遊離する一部のCO_(2)と吸収液とを分離させる少なくとも一段の吸収液部分再生工程を経たのち、得られる部分再生吸収液を加熱したのち再生塔に供給し部分再生吸収液に含まれるCO_(2)をさらに遊離させて吸収液を再生することを特徴とする燃焼排ガス中のCO_(2)を除去する方法。」についての発明が記載されているといえる。
(2)上記「方法」において、「ヒンダードアミン水溶液をCO_(2)の吸収液として大気圧下の燃焼排ガスと接触させ」るためには、「脱CO_(2)塔2」(同(オ)並びに同(カ)の図面を参照)に「ヒンダードアミン水溶液をCO_(2)の吸収液として」導入しておく工程が必要であり、「脱CO_(2)塔2」で「燃焼排ガス中のCO_(2)を除去する」ことは明らかである。
(3)すると、上記「方法」は、次のように書き直すことができる。
「以下の工程を含む燃焼排ガス中のCO_(2)を除去する方法であって、
(i)ヒンダードアミン水溶液をCO_(2)の吸収液として脱CO_(2)塔へ供給する工程、
(ii)脱CO_(2)塔で、ヒンダードアミン水溶液をCO_(2)の吸収液として大気圧下の燃焼排ガスと接触させ燃焼排ガス中のCO_(2)を除去する工程、
(iii)CO_(2)を吸収した吸収液を再生塔でCO_(2)を遊離させて吸収液を再生する工程であって、
a)CO_(2)を吸収した吸収液を高温の再生吸収液と熱交換させて加熱し遊離する一部のCO_(2)と吸収液とを分離させる少なくとも一段の吸収液部分再生工程を経る工程
b)得られる部分再生吸収液を加熱したのち再生塔に供給し部分再生吸収液に含まれるCO_(2)をさらに遊離させて吸収液を再生する工程 でなり、
上記各工程を含む該方法。」
(4)上記「方法」において「CO_(2)の吸収液」として使用される「ヒンダードアミン水溶液」について、同(イ)には、「ヒンダードアミン」として、(A)、(B)、(C)、(D)の化合物の群から選べることが記載されている。
(5)また、同(エ)には、「ヒンダードアミン水溶液」は「吸収反応を促進するための反応促進剤」を含み得ることが示され、同「促進剤」の具体例として、「ピペラジン、ピペリジン、モルフォリン、グリシン、2-(メチルアミノ)-エタノール、2-(ヒドロキシエチル)-ピペリジン(但し、ヒンダードアミンとして使用される場合を除く)および2-(エチルアミノ)-エタノールなどが例示」され、これらの例示された「促進剤」は、全てアミンを有するものである。
(6)さらに、同(エ)には「促進剤の使用量は通常ヒンダードアミン100重量部に対し、1-25重量部である。」と記載されるから、「使用量」に関して、「通常」は、「ヒンダードアミン」は、「促進剤」「1-25重量部」に対して「100重量部」といえる。
(7)すると、上記(4)-(6)より、上記「方法」においては、
「ヒンダードアミン」は、「(A)、(B)、(C)、(D)の化合物の群から選」ばれ、「ヒンダードアミン水溶液」はアミンを有する「促進剤」も含み、「通常」は「ヒンダードアミン」は「促進剤」「1-25重量部」に対して「100重量部」を用いられるものといえる。
(8)以上から、引用例には、
「以下の工程を含む燃焼排ガス中のCO_(2)を除去する方法であって、
(i)ヒンダードアミン水溶液をCO_(2)の吸収液として脱CO_(2)塔へ供給する工程、
(ii)脱CO_(2)塔で、ヒンダードアミン水溶液をCO_(2)の吸収液として大気圧下の燃焼排ガスと接触させ燃焼排ガス中のCO_(2)を除去する工程、
(iii)CO_(2)を吸収した吸収液を再生塔でCO_(2)を遊離させて吸収液を再生する工程であって、
a)CO_(2)を吸収した吸収液を高温の再生吸収液と熱交換させて加熱し遊離する一部のCO_(2)と吸収液とを分離させる少なくとも一段の吸収液部分再生工程を経る工程
b)得られる部分再生吸収液を加熱したのち再生塔に供給し部分再生吸収液に含まれるCO_(2)をさらに遊離させて吸収液を再生する工程 でなり、
ヒンダードアミン水溶液のヒンダードアミンは、(A)、(B)、(C)、(D)の化合物の群から選ばれ、ヒンダードアミン水溶液はアミンを有する促進剤も含み、通常はヒンダードアミンは促進剤1-25重量部に対して100重量部を用いる、上記各工程を含む該方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2-4.補正発明と引用発明との対比
(1)引用発明の「燃焼排ガス中のCO_(2)を除去する方法」は、補正発明の「燃焼後CO_(2)の捕獲方法」に相当する。
(2)引用発明の「CO_(2)の吸収液」として作用する「ヒンダードアミン水溶液」は、補正発明の「CO_(2)」を「担持」する「アミンベースの吸収化合物を含む水溶液」に相当する。
(3)引用発明では、「脱CO_(2)塔」では「ヒンダードアミン水溶液」が「燃焼排ガス中のCO_(2)を除去」し、「再生塔」では「CO_(2)を遊離させて吸収液を再生する」のに対して、補正発明では、「アブソーバ」では「アミンベースの吸収化合物」が「CO_(2)担持」すなわち「CO_(2)含有ガス」から「CO_(2)」を除去し、「ストリッパ」では「CO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物からCO_(2)を除去」して「再生」するから、引用発明の「脱CO_(2)塔」、「再生塔」は、補正発明の「アブソーバ」、「ストリッパ」にそれぞれ相当する。
(4)したがって、引用発明の「(i)ヒンダードアミン水溶液をCO_(2)の吸収液として脱CO_(2)塔へ供給する工程」は、補正発明の「(i)アミンベースの吸収化合物を含む水溶液をアブソーバへ導入するステップ」に相当し、引用発明の「(ii)脱CO_(2)塔で、ヒンダードアミン水溶液をCO_(2)の吸収液として大気圧下の燃焼排ガスと接触させ燃焼排ガス中のCO_(2)を除去する工程」は、補正発明の「(ii)CO_(2)含有ガス」を「アブソーバへ供給してCO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物を形成するステップ」に相当する。
(5)補正発明の「再生ステップ」は「ストリッパ」において「再生ステップが達成されるステップ」だから、引用発明の「(iii)CO_(2)を吸収した吸収液を再生塔でCO_(2)を遊離させて吸収液を再生する工程」は、補正発明の「(iii)CO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物を再生ステップにかけるステップ」に相当する。
(6)引用発明では、引用例の記載事項(カ)の【図1】から明らかなように、「CO_(2)を吸収した吸収液」を「熱交換器8」で加熱したのちに、「吸収液再生塔9」において「リボイラ10」でさらに加熱して「CO_(2)を遊離させ」るものであるので、引用発明の「(iii)」の「b)」の「吸収液を加熱したのち再生塔に供給し部分再生吸収液に含まれるCO_(2)をさらに遊離させて吸収液を再生する工程」は、「再生塔に供給」されて後にさらに加熱して「吸収液を再生する」ものであって、引用発明の「(iii)」の「b)得られる部分再生吸収液を加熱したのち再生塔に供給し部分再生吸収液に含まれるCO_(2)をさらに遊離させて吸収液を再生する工程」は、補正発明の「CO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物を再生し、CO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物からCO_(2)を除去するステップであって、エネルギーがストリッパへ供給されて再生ステップが達成されるステップ」に相当する。
(7)補正発明は、「下記ステップを含む燃焼後CO_(2)の捕獲方法」であるから、他のステップを含み得るので、引用発明の「(iii)」の「a)CO_(2)を吸収した吸収液を高温の再生吸収液と熱交換させて加熱し遊離する一部のCO_(2)と吸収液とを分離させる少なくとも一段の吸収液部分再生工程を経る工程」は、両者の相違点とならない。
(8)引用発明の「促進剤」は、補正発明の「プロモータ化合物」に相当し、引用発明の「ヒンダードアミン水溶液のヒンダードアミン」は、補正発明の「前記アミンベースの吸収化合物」に相当するから、補正発明と引用発明とは、「前記アミンベースの吸収化合物は、アミンベースの吸収化合物とアミンベースのプロモータ化合物との組み合わせであ」る点で一致する。
(9)以上から、補正発明と引用発明とは、
「下記ステップを含む燃焼後CO_(2)の捕獲方法であって:
(i)アミンベースの吸収化合物を含む水溶液をアブソーバへ導入するステップであって、
(ii)CO_(2)含有ガスをアブソーバへ供給してCO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物を形成するステップ;並びに
(iii)CO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物を再生ステップにかけるステップであり、CO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物を再生し、CO_(2)担持されたアミンベースの吸収化合物からCO_(2)を除去するステップであって、エネルギーがストリッパへ供給されて再生ステップが達成されるステップ、
但し、前記アミンベースの吸収化合物は、アミンベースの吸収化合物とアミンベースのプロモータ化合物との組み合わせである、該方法。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>「煙道ガス」が「アブソーバ」に導入される経路について、補正発明では、「アブソーバ」を「煙道ガススクラバの下流に設置」し、「CO_(2)含有ガスを煙道ガススクラバからアブソーバへ供給」するものであるのに対して、引用発明では、「CO_(2)」を含む「燃焼排ガス」をそのまま「脱CO_(2)塔」へ供給する点。

<相違点2>「前記アミンベースの吸収化合物は、アミンベースの吸収化合物とアミンベースのプロモータ化合物との組み合わせである」ことについて、補正発明では、
a)「アミンベースの吸収化合物」が「2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジン」であり、かつ、
b)「アミンベースの吸収化合物」が「プライマリアミンベースの吸収化合物」で、
c)「プライマリアミンベースの吸収化合物」に組み合わせる「アミンベースのプロモータ化合物」が「2以上」であるのに対して、
引用発明では、
a)「ヒンダードアミンは、(A)、(B)、(C)、(D)の化合物の群から選ばれ」、
b)通常はヒンダードアミンは促進剤1-25重量部に対して100重量部を用い、
c)「ヒンダードアミン」に「アミンを有する促進剤」を組み合わせ得るが、組み合わせの数が「2以上」との特定はなされていない点。

2-5.相違点の検討
2-5-1.相違点1について
補正発明の「アブソーバ」と、引用発明の「脱CO_(2)塔」は、共に「CO_(2)」の「アミンベースの吸収化合物」を位置させ、燃焼排ガス(煙道ガス)中の「CO_(2)」を吸収させるものであるが、補正発明の「アブソーバ」は「煙道ガススクラバの下流に設置」されるのに対して、引用発明の「脱CO_(2)塔」は「煙道ガススクラバ」を介在させない点で両者は相違する。
しかしながら、「CO_(2)」の「アミンベースの吸収化合物」を「スクラバ」の下流に設置し、「煙道ガス」を先に「スクラバ」に導入する構成は以下の周知例1-3に示されるように周知技術であるから、引用発明においても、必要に応じて当該構成を適用することに格別の困難性は見いだせない。
よって、引用発明及び下記の周知例1-3に代表される周知技術に基づいて、相違点1に係る補正発明の特定事項に想到することは当業者が容易に推考し得るものである。

○周知例1:特開昭61-64317号公報
6頁右上欄17行-同頁左下欄12行「煙道ガス」、18頁左下欄7行-19頁左下欄4行、Fig.3「取り入れスクラバ200」「接触器または吸収カラム204」を参照。

○周知例2:国際公開2008/080221号(日本語パテントファミリー 特表2010-514549号公報)
1頁8-10行「a stream of flue gas」(【0002】「煙道ガス」)、15頁22行-16頁21行(【0066】【0067】)、Fig.2「prescrubber51」「lean diamine absorbent stream76」(【図2】「プレスクラバー51」「CO_(2)の少ないジアミン吸収剤流76」)を参照。

○周知例3:国際公開2010/027929号(日本語パテントファミリー 特表2012-501831号公報)
7頁10-21行「a flue gas」(【0032】「煙道ガス」)、8頁18行「the two absorption vessels 12,14」(【0037】「各吸収容器12,14」)、9頁3行「the sorbent material 50」(【0038】「吸着剤物質50」)、9頁24-27行「the sorbent layer 60」(【0039】「吸着剤層60」)、11頁17-24行「the amine」(【0046】「アミン」)、Fig.1を参照。

2-5-2.相違点2について
a)について
引用発明の「ヒンダードアミンは、(A)、(B)、(C)、(D)の化合物の群から選ばれ」るものであるが、引用例の記載事項(イ)に示されるように、(A)、(B)、(C)、(D)の化合物のいずれかが特に好ましい旨の記載は無く、何れを選択するかは等価であるといえ、また、同(エ)には「これらの群から選ばれるヒンダードアミンは各単独で用いられるほか、混合して用いることも可能である。」と記載され、さらに同(ウ)には、(D)の化合物として最も好ましいのは「2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジン(HEP)」であると記載されている。
すると、引用発明の「ヒンダードアミン」として、(A)、(B)、(C)、(D)の化合物から(D)のみを選択し、さらに(D)として「2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジン(HEP)」を用いるようにすることに何らの困難性も見いだせない。

b)について
補正発明の「プライマリアミンベースの吸収化合物」について、本願明細書【0043】には、『ある態様では、アミンベースの吸収化合物は、プライマリ及び/又はCO_(2)を吸収する機能を示す1の(sole)化学的化合物である、ただ一種のプライマリアミンベースの吸収化合物から形成される。この態様では、アミンベースの吸収化合物は、上記で定義された量で使用できる2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジン(同様に2-PEと記載する)のみから形成される。本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、文言「プライマリアミンベースの吸収化合物」は、「プライマリアミンベースの吸収化合物」と記載されたアミンベースの化合物が、本発明の、主要な又は単独のアミンベースの吸収化合物であることを意味する。・・・上記の場合、文言「プライマリアミンベースの吸収化合物」がここで使用される理由は、いくつかの態様において、2以上のアミンベースの吸収化合物が本発明で使用される場合があるからである。この場合、過半量(即ち、使用されたアミン化合物の総量基準で少なくとも50.1重量%の量)で存在する吸収化合物が「プライマリアミンベースの吸収化合物」として表される一方、より少量(即ち、使用されたアミン化合物の総量基準で49.9重量%以下の量)で存在する1以上のアミンベースの吸収化合物は、1以上のアミンベースのプロモータ化合物として表される。』と記載されている。
すなわち、補正発明における「プライマリアミンベースの吸収化合物」の「プライマリ」とは、「前記アミンベースの吸収化合物」の「過半量」を占めるという意味であり、補正発明の「プライマリアミンベースの吸収化合物は2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジンである」から、補正発明では「2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジン」が総量の「前記アミンベースの吸収化合物」の50%以上を占めるということになる。
他方で、引用発明では、「通常はヒンダードアミンは促進剤1-25重量部に対して100重量部を用い」るものだから、「ヒンダードアミン」と「促進剤」の量比について計算すれば、上記a)から、「ヒンダードアミン」である「2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジン(HEP)」は、
総量に対して、[100/(100+1-25)]×100=80-99%
含まれることになり、これは、総量の50%以上を占めることに相当する。
よって、引用発明の「ヒンダードアミン」である「2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジン(HEP)」は補正発明の「プライマリアミンベースの吸収化合物」に相当するといえる。

c)について
c-1)発明の構成について
引用発明においては、上記a)から「2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジン(HEP)」である「ヒンダードアミン」に「アミンを有する促進剤」を組み合わせ得るとのみで、その組み合わせの数については特定されていない。
しかしながら、引用例の記載事項(エ)に記載されるように、引用発明においては、「ピペラジン」等の「アミンを有する促進剤」は「吸収反応を促進するため」に添加されるもので、「促進剤の使用量は通常ヒンダードアミン100重量部に対し、1?25重量部」という制限が加えられるのみで、その添加の組み合わせの数を「2以上」とすることに阻害要因が存するものでもない。
さらに、以下の周知例4,5に示されるように、アミン系の主剤にアミン系の促進剤を2種類以上加えてCO_(2)を吸収させ得ること自体は周知技術である。
すると、引用発明において、「2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジン(HEP)」に、吸収反応をより促進するために、「アミンを有する促進剤」を「2以上」添加することに格別の困難性は見いだせない。

c-2)発明の効果について
また、補正発明の奏する効果の点からみると、補正発明の「プライマリアミンベースの吸収化合物」に組み合わせる「アミンベースのプロモータ化合物」が「2以上」であることについては、本願明細書の【0044】に「別の態様では、本発明のアミンベースの吸収化合物は、プライマリアミンベースの吸収化合物及び1以上のアミンベースのプロモータ化合物の組み合わせである。これらの態様では、プライマリアミンベースの吸収化合物は2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジン(同様に2-PEと記載する。)であり、1以上のアミンベースのプロモータ化合物は、1以上のモノエタノールアミン(MEA)、ピペラジン(PZ)、2-(1-ピペラジニル)-エチルアミン(PZEA)、1-メチルピペラジン、2-メチルピペラジン、3-メチルアミノプロピルアミン(MAPA)、モルホリン、ピペリジン、又は2以上のそれらの適切な組み合わせから選ばれる。」(下線は当審で付与)と記載されるのみで、「プライマリアミンベースの吸収化合物」への「アミンベースのプロモータ化合物」の組み合わせの数が「1以上」と「2以上」とで何らかの差違が生ずる旨の記載は無い。
また、本願明細書中の他の箇所にも当該差違についての記載は見いだせず、実施例の記載も、【表1】(【0051】)等にあるように、「プライマリアミンベースの吸収化合物」に「アミンベースのプロモータ化合物」を組み合わせたものは「2-PE/PZ」の場合のみであり、これは「(2-(2-ヒドロキシエチル)-ピペリジン)」に「ピペラジン」のみを組み合わせたものだから、上記組み合わせの数は「1」であり、「2以上」のものは示されていない。
すると、補正発明において、「前記アミンベースの吸収化合物」として、「プライマリアミンベースの吸収化合物と2以上のアミンベースのプロモータ化合物との組み合わせ」が「プライマリアミンベースの吸収化合物と1以上のアミンベースのプロモータ化合物との組み合わせ」に対して何らかの優位な効果を奏し得ることについては、本願明細書中には、記載も示唆も見いだせず、当該効果の奏されることが技術常識であるものとも認められない。
それゆえ、補正発明において、「プライマリアミンベースの吸収化合物」へ組み合わせる「アミンベースのプロモータ化合物」の組み合わせの数が「1以上」である場合と「2以上」である場合との間に有意な差異は見いだせず、それらの間に格別の作用効果の差違があるものとは認められない。

c-3)相違点c)についての結言
以上から、相違点c)に係る補正発明の特定事項に想到することは当業者の容易に推考し得るものであり、その作用効果も当業者の想定できる範囲のことにすぎない。

○周知例4:特開平9-150029号公報
【請求項1】、【請求項2】(CO_(2)を吸収させる主剤である「アミン化合物」が「3-(ジメチルアミノ)-1,2-プロパンジオール」)、【0008】(「さらに該吸収液のCO_(2)吸収量や吸収速度などの吸収能力をさらに増すために、CO_(2)反応促進剤として他のアミン化合物の1種または2種以上を混合して用いてもよい。」)を参照。

○周知例5:特開2009-226251号公報
【0005】(「・・・第1級アミンや第2級アミン、またはそれらの混合物からなる吸収促進剤を第3級アミン水溶液へ添加することにより、吸収速度を高める検討が多くなされてきた。・・・」)を参照。

2-6.独立特許要件のまとめ
上記の検討から、補正発明は、引用発明、周知例1-3に記載の周知技術、周知例4-5に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであったとしても、上記の理由により、独立特許要件を満足しないため、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成28年2月5日付け手続補正書による補正は前記「第2.」のとおり却下されたので、本願の請求項1-26に係る発明は、平成27年4月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-26に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項9に係る発明は同項に記載された事項によって特定されるとおりのもの(上記「第2 1.<本件補正前>」を参照。以下、「本願発明」という。)である。

2.原査定の理由について
原査定には次のことが記載されている。
a)「この出願については、平成26年 9月30日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-3によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。」、
b)「●理由1(特許法第29条第1項第3号)について
・請求項 1-4,9-17
・引用文献等 2
出願人は意見書において引用文献2について「ヒンダードアミンとして、2-(ヒドロキシメチル)-ピペリジン等が開示されております(明細書0017)。しかし、引用文献2では、複数の組合せにおいて、それぞれの成分について、アミン化合物の総量基準でどのような比率で用いるかについての記載は全くありません。」と主張している。しかしながら、先の拒絶理由通知書に記載の通り、引用文献2には、ヒンダートアミン水溶液には、必要に応じて、ピペラジン、ピペリジン、モルフォリン等の反応促進剤を、ヒンダートアミン100重量部に対し、1?25重量部加えることが記載されている([0017]参照)。なお、前記ヒンダートアミン水溶液の好適例として、2-(2-ヒドロキシルエチル)-ピペリジンが記載されている。
よって、依然として、請求項1-4,9-17に係る発明は、引用文献2に記載されている。」
c)「●理由2(特許法第29条第2項)について
・請求項 1-26
・引用文献等 1,2
・・・・・
(2)
(a)請求項1-4,9-17について
上記「●理由1(特許法第29条第1項第3号)について」参照。
なお、仮に、煙道ガスガススクラバをアブソーバの上流に設置することが引用文献2に記載されているに等しい事項でなかった場合であっても、当該事項は周知技術であるから、請求項1-4,9-17に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。」と記載されている。
よって、拒絶査定の理由は、請求項9に係る発明(本願発明)について、引用文献2(引用例)に記載された発明及び周知技術(煙道ガススクラバをアブソーバの上流に設置すること)に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とするものである。
そこで、上記拒絶査定の理由についての判断の妥当性を以下で検討する。

3.引用例の記載と引用発明の認定
引用例の記載は、上記「第2 2-2.引用例の記載」に記載のとおりである。
引用発明は「第2 2-3.引用例に記載された発明の認定」に記載のとおりである。

4.本願発明と引用発明との対比
上記「第2 1.」で検討したように、本願発明は、補正発明の「前記アミンベースの吸収化合物は、プライマリアミンベースの吸収化合物と2以上のアミンベースのプロモータ化合物との組み合わせ」を「前記アミンベースの吸収化合物は、プライマリアミンベースの吸収化合物と1以上のアミンベースのプロモータ化合物との組み合わせ」とするものであり、「組み合わせ」の数を「2以上」から「1以上」にするもので、これは補正発明の「組み合わせ」の数という特定事項を増加するものであるから、本願発明は補正発明を包含する発明といえる。
すると、本願発明の特定事項を全て含み、上記の特定事項によりさらに限定的に特定された補正発明が上記「第2.」に記載したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、補正発明と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-28 
結審通知日 2017-03-07 
審決日 2017-03-24 
出願番号 特願2011-70733(P2011-70733)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
P 1 8・ 572- Z (B01D)
P 1 8・ 575- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 瞳小久保 勝伊  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 萩原 周治
中澤 登
発明の名称 ガスから二酸化炭素を除去するための化学的化合物  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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