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審決分類 |
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B |
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管理番号 | 1331121 |
審判番号 | 不服2016-8563 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-06-08 |
確定日 | 2017-08-10 |
事件の表示 | 特願2012- 45686「サスペンション用基板」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月12日出願公開、特開2013-182641〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年3月1日の出願であって、平成27年8月3日付けで拒絶理由が通知され、同年10月5日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年3月1日付けで拒絶査定されたところ、同年6月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、その後、当審において平成29年3月27日付けで拒絶理由が通知され、同年5月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願の特許請求の範囲の記載 平成29年5月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の記載は以下のとおりである。 「 【請求項1】 金属支持基板と、前記金属支持基板上に形成されたベース絶縁層と、前記ベース絶縁層上に形成された複数の配線と、前記ベース絶縁層および前記複数の配線上に形成されたカバー層を備えたサスペンション用基板であって、 前記複数の配線は、一対の差動配線をそれぞれ分岐して交互に並列配設したn本の配線からなるインターリーブ配線構造を構成しており、 前記金属支持基板には、前記インターリーブ配線構造を構成する前記n本の配線を線幅方向に跨ぐように開口部が形成されており、 前記開口部の上に配設される各前記n本の配線においては、前記開口部の前記線幅方向の端部側に最も近く配設された配線の幅より、前記開口部の前記線幅方向の中央部側に配設された配線の幅の方が大きくなっており、 前記n本の配線は、厚さが4μm?18μmの範囲内であり、幅が10μm?100μmの範囲内であり、各配線間の幅が8μm?30μmの範囲内においてすべて同じ幅であり、 前記ベース絶縁層の厚さは、5μm?30μmの範囲内であり、 前記インターリーブ配線構造の差動インピーダンスが、 前記開口部の上に配設される各前記n本の配線の幅を合計した大きさをWaとしたとき、幅(Wa/n)を有するn本の配線で構成され、各配線間の幅がすべて前記同じ幅であり、前記金属支持基板と同じ厚さの金属支持基板を有し、前記ベース絶縁層と同じ厚さおよび比誘電率のベース絶縁層を有し、前記カバー層と同じ厚さおよび比誘電率のカバー層を有するサスペンション用基板のインターリーブ配線構造の差動インピーダンスと同じ値に設計されていることを特徴とするサスペンション用基板。 【請求項2】 前記インターリーブ配線構造は、一対の差動配線をそれぞれ分岐して形成した4本以上の配線により構成されていることを特徴とする請求項1に記載のサスペンション用基板。」 第3 当審の平成29年3月27日付け拒絶理由の概要 当審が平成29年3月27日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。 1.本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。 2.本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 3.本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 4.本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 記(引用文献等については引用文献等一覧参照) 理由1及び理由2について (1)請求項1には、「前記開口部の上に配設される各配線間の幅と、前記開口部の上に配設される各配線の幅を合計した大きさ(Wa)を該配線の数(n)で割った大きさの幅(Wa/n)を有するn本の配線で構成されるインターリーブ配線構造の各配線間の幅を同じ幅にして」とあるが、そもそも「前記開口部の上に配設される各配線の幅を合計した大きさ(Wa)を該配線の数(n)で割った大きさの幅(Wa/n)を有するn本の配線で構成されるインターリーブ配線構造」(以下、「インターリーブ配線構造A」という。)の「各配線間の幅」がどのような値なのかについて特定がないため、上記請求項1の特定事項が、「サスペンション用基板」(物の発明)の何を特定しようとするものかが不明確である。 なお、上記特定事項が、仮に、段落65及び段落68にあるように、「前記開口部の上に配設される各配線間の幅」が全て同じ幅であることを特定しようとするのであれば、そのように記載されたい。 一方、上記特定事項が、仮に、「前記開口部の上に配設される各配線間の幅」と上記「インターリーブ配線構造A」の各配線間の幅とを同じ値に設計しておくことを意図したものとすると、該特定事項は、請求項1に係る発明の「物の発明」としての構成を何ら具体的に特定するものとはいえない。 (中略) (2)請求項1には、「前記複数の配線が構成するインターリーブ配線構造の差動インピーダンスが、 前記開口部の上に配設される各配線の幅を合計した大きさ(Wa)を該配線の数(n)で割った大きさの幅(Wa/n)を有するn本の配線で構成されるインターリーブ配線構造の差動インピーダンスと同じ値に設計されていることを特徴とする」との記載があるが、そもそも上記「インターリーブ配線構造A」がどのような設計値のものであり、かつその「差動インピーダンス」がどのような値であるのかについては何ら特定がないから、上記請求項1の特定事項が、「サスペンション用基板」(物の発明)の何を特定しようとするものかが不明確である。 なお、上記特定事項が、仮に、段落26にあるように、各配線の幅と、互いに隣接する各配線間の幅とを合計した大きさが、上記「インターリーブ配線構造A」の各配線の幅と、互いに隣接する各配線間の幅とを合計した大きさと同じ値に設計しておくことを意図したものとすると、該特定事項は、請求項1に係る発明の「物の発明」としての構成を何ら具体的に特定するものとはいえない。 (中略) 理由3について 請求項:請求項1及び2 引用文献:引用文献1及び2 (中略) 理由4について 請求項:請求項1及び2 先願:引用文献3 (中略) <引用文献等一覧> 1.特開2011-76645号公報 2.特開平11-53726号公報 3.特願2010-223834号(特開2012-79382号) 第4 当審の判断 1.本願発明 平成29年5月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1には、次の特定事項(以下、「特定事項A」という。)が記載されている。 「前記インターリーブ配線構造の差動インピーダンスが、 前記開口部の上に配設される各前記n本の配線の幅を合計した大きさをWaとしたとき、幅(Wa/n)を有するn本の配線で構成され、各配線間の幅がすべて前記同じ幅であり、前記金属支持基板と同じ厚さの金属支持基板を有し、前記ベース絶縁層と同じ厚さおよび比誘電率のベース絶縁層を有し、前記カバー層と同じ厚さおよび比誘電率のカバー層を有するサスペンション用基板のインターリーブ配線構造の差動インピーダンスと同じ値に設計されている」 上記特定事項Aの記載に基づけば、「前記インターリーブ配線構造」(以下、「インターリーブ配線構造X」という。)と、「前記開口部の上に配設される各前記n本の配線の幅を合計した大きさをWaとしたとき、幅(Wa/n)を有するn本の配線で構成され、各配線間の幅がすべて前記同じ幅であり、前記金属支持基板と同じ厚さの金属支持基板を有し、前記ベース絶縁層と同じ厚さおよび比誘電率のベース絶縁層を有し、前記カバー層と同じ厚さおよび比誘電率のカバー層を有するサスペンション用基板のインターリーブ配線構造」(以下、「インターリーブ配線構造Y」という。)とは、n本の配線の個々の幅が異なるものの、各n本の配線の幅を合計した大きさWa及び各配線間の幅はいずれも同じであり、かつ、金属支持基板の厚さ、ベース絶縁層の厚さおよび比誘電率、並びに、カバー層の厚さおよび比誘電率も、すべて同じである。 また、請求項1には、「インターリーブ配線構造Y」の差動インピーダンスについて、具体的な特定(値や数値範囲等)はなされていない。 そうすると、上記特定事項Aは、単に、「インターリーブ配線構造X」の差動インピーダンスが、差動インピーダンスが未知の「インターリーブ配線構造Y」と同じ差動インピーダンスになっていることを特定しているだけであって、請求項1に係る「サスペンション用基板」を「物の発明」としてみたときには、「インターリーブ配線構造X」の差動インピーダンスについて、何ら実質的な特定を加えるものではない。 よって、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりの発明と解釈して、以下、検討する。 「金属支持基板と、前記金属支持基板上に形成されたベース絶縁層と、前記ベース絶縁層上に形成された複数の配線と、前記ベース絶縁層および前記複数の配線上に形成されたカバー層を備えたサスペンション用基板であって、 前記複数の配線は、一対の差動配線をそれぞれ分岐して交互に並列配設したn本の配線からなるインターリーブ配線構造を構成しており、 前記金属支持基板には、前記インターリーブ配線構造を構成する前記n本の配線を線幅方向に跨ぐように開口部が形成されており、 前記開口部の上に配設される各前記n本の配線においては、前記開口部の前記線幅方向の端部側に最も近く配設された配線の幅より、前記開口部の前記線幅方向の中央部側に配設された配線の幅の方が大きくなっており、 前記n本の配線は、厚さが4μm?18μmの範囲内であり、幅が10μm?100μmの範囲内であり、各配線間の幅が8μm?30μmの範囲内においてすべて同じ幅であり、 前記ベース絶縁層の厚さは、5μm?30μmの範囲内であることを特徴とするサスペンション用基板。」 2.当審が通知した拒絶の理由4について (1)先願発明 特願2010-223834号(特開2012-79382号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には、以下の記載がある(なお、下線は、当審において付したものである。)。 ア 「【0001】 本発明は、ハード・ディスク・ドライブ等のヘッド・サスペンションに取り付けられるフレキシャの配線構造に関する。」 イ 「【0023】 図2?図4のように、フレキシャ7は、金属基板17上に電気絶縁層であるベース絶縁層25を介して配線27が形成されている。 【0024】 金属基板17は、ばね性を有する薄いステンレス鋼圧延板(SST)等の導電性薄板で形成されている。金属基板17の積層方向での厚みは、例えば12?20μm程度、本実施例では20μm程度に設定されている。金属基板17には、窓部29が貫通形成されている。 【0025】 窓部29は、配線27のインピーダンスを高め、広帯域とするためのものである。この窓部29は、配線27に対応して設けられ、フレキシャ7の延設方向において配線27に沿って適所に形成されている。この窓部29の配線にタイル比率の調整によりインピーダンスと帯域幅との調整を行うことができる。 【0026】 ベース絶縁層25は、可撓性絶縁樹脂であるポリイミドで形成されている。ベース絶縁層25の積層方向での厚みは、例えば5?15μm程度、本実施例では10μm程度に設定されているに形成されている。 【0027】 配線27は、例えば銅等の導電性金属からなり、両極の第1配線部31と第2配線部33が幅方向に並設されている。配線27の積層方向での厚みは、例えば8?15μm程度、本実施例では15μm程度に設定されている。 【0028】 第1及び第2配線部31,33は、それぞれ両側の単線部35,37に対して分岐形成された幅方向一対の第1分岐部39,41及び第2分岐部43,45を備えている。これらの第1及び第2分岐部39,41,43,45により、配線27の少なくとも一部にインターリーブ配線化としての交互配線部47が形成されている。 【0029】 交互配線部47では、ベース絶縁層25に対して両極の第1及び第2分岐部39,41,43,45が幅方向で交互に配置されている。従って、交互配線部47は、両極の配線部を幅方向で複数交互に配置した構成となっている。 【0030】 これにより、交互配線部47では、第1分岐部41及び第2分岐部43が交互配線部47の幅方向外側に配置され、第1分岐部39及び第2分岐部45が幅方向内側に配置されている。幅方向外側の第1及び第2分岐部41,43の幅(外側配線幅)は、同内側の第1及び第2分岐部39,45の幅(内側配線幅)よりも幅狭に形成されている。 【0031】 この幅設定は、後述するように、外側の第1及び第2分岐部41,43が内側の第1及び第2分岐部39,45に対して同一幅の場合よりも信号伝搬損失の周波数特性において部分的な落ち込み量を小さくする範囲内で行われている。 【0032】 本実施例では、内側の第1及び第2分岐部39,45の幅を120μm又は150μm程度に設定すると共に、外側の第1及び第2分岐部41,43の幅を内側の第1及び第2分岐部39,43の幅に対して50%?85%程度、特に60%程度に設定される。 【0033】 第1、第2分岐部39,41,43,45の幅方向での各間は、例えば20μm程度に設定されている。 【0034】 第1分岐部39,41及び第2分岐部43,45は、延設方向の各一方の端部が迂回部49,51により相互に接続され、同各他方の端部は、ブリッジ53,55により内側の第1、第2分岐部39,45を跨いで相互に接続されている。従って、交互配線部47は、各極の複数の配線部相互間を延設方向の両側で接続した構成となっている。 【0035】 かかる配線27は、カバー絶縁層57で覆われている。カバー絶縁層57は、可撓性絶縁樹脂であるポリイミドで形成されている。カバー絶縁層57の積層方向での厚みは、例えば4?5μm程度、本実施例では5μm程度に設定されている。このカバー絶縁層57は、配線27の表面をカバーし、外力などから保護している。 [信号伝送損失の周波数特性] 図5は、信号伝送損失の周波数特性の解析モデルの各部寸法を示す図表であり、(a)は積層方向寸法を示し、(b)は幅方向寸法を示している。図6は、周波数特性の解析に用いられる回路図である。」 ウ 図3は以下のとおりである。 そうすると、先願明細書等に記載された発明(以下、「先願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「ハード・ディスク・ドライブ等のヘッド・サスペンションに取り付けられるフレキシャであって、 金属基板17上に電気絶縁層であるベース絶縁層25を介して配線27が形成され、 金属基板17には、窓部29が貫通形成され、 窓部29は、配線27のインピーダンスを高め、広帯域とするためのものであり、この窓部29は、配線27に対応して設けられ、フレキシャ7の延設方向において配線27に沿って適所に形成され、この窓部29の配線にタイル比率の調整によりインピーダンスと帯域幅との調整を行うことができ、 ベース絶縁層25の積層方向での厚みは、例えば5?15μm程度、本実施例では10μm程度に設定され、 配線27は、例えば銅等の導電性金属からなり、両極の第1配線部31と第2配線部33が幅方向に並設され、配線27の積層方向での厚みは、例えば8?15μm程度、本実施例では15μm程度に設定され、 第1及び第2配線部31,33は、それぞれ両側の単線部35,37に対して分岐形成された幅方向一対の第1分岐部39,41及び第2分岐部43,45を備え、これらの第1及び第2分岐部39,41,43,45により、配線27の少なくとも一部にインターリーブ配線化としての交互配線部47が形成され、 交互配線部47では、ベース絶縁層25に対して両極の第1及び第2分岐部39,41,43,45が幅方向で交互に配置され、交互配線部47は、両極の配線部を幅方向で複数交互に配置した構成となっており、 これにより、交互配線部47では、第1分岐部41及び第2分岐部43が交互配線部47の幅方向外側に配置され、第1分岐部39及び第2分岐部45が幅方向内側に配置され、 幅方向外側の第1及び第2分岐部41,43の幅(外側配線幅)は、同内側の第1及び第2分岐部39,45の幅(内側配線幅)よりも幅狭に形成されており、 内側の第1及び第2分岐部39,45の幅を120μm又は150μm程度に設定すると共に、外側の第1及び第2分岐部41,43の幅を内側の第1及び第2分岐部39,43の幅に対して50%?85%程度、特に60%程度に設定され、 第1、第2分岐部39,41,43,45の幅方向での各間は、例えば20μm程度に設定され、 かかる配線27は、カバー絶縁層57で覆われており、カバー絶縁層57は、可撓性絶縁樹脂であるポリイミドで形成されているている、フレキシャ」 (2)対比 ア 先願発明の「ハード・ディスク・ドライブ等のヘッド・サスペンションに取り付けられるフレキシャ」は、本願発明にいう「サスペンション用基板」に対応するものであって、「配線27」は、両極の第1配線部31と第2配線部33が幅方向に並設されるから、先願発明の「金属基板17」、「金属基板17上に電気絶縁層であるベース絶縁層25」及び「第1配線部31と第2配線部33」を含む「配線27」は、それぞれ本願発明の「金属支持基板」、「前記金属支持基板上に形成されたベース絶縁層」及び「前記ベース絶縁層上に形成された複数の配線」に相当し、先願発明の「カバー絶縁層57」は、本願発明の「前記ベース絶縁層および前記複数の配線上に形成されたカバー層」に相当する。 イ 先願発明の「第1及び第2配線部31,33」は、「それぞれ両側の単線部35,37に対して分岐形成された幅方向一対の第1分岐部39,41及び第2分岐部43,45を備え、これらの第1及び第2分岐部39,41,43,45により、配線27の少なくとも一部にインターリーブ配線化としての交互配線部47が形成され」るとしているから、本願発明と同様、「前記複数の配線は、一対の差動配線をそれぞれ分岐して交互に並列配設したn本の配線からなるインターリーブ配線構造を構成して」いるといえる。 ウ 先願発明の「窓部29」は、金属基板17に貫通形成されたものであって、配線27に対応して設けられ、フレキシャ7の延設方向において配線27に沿って適所に形成されるから、本願発明と同様、「前記金属支持基板には、前記インターリーブ配線構造を構成する前記n本の配線を線幅方向に跨ぐように開口部が形成され」ているといえる。 エ 先願発明において、「窓部29」の上に配設された「第1分岐部41及び第2分岐部43」は、交互配線部47の幅方向外側に配置され、同じく「窓部29」の上に配設された「第1分岐部39及び第2分岐部45」は、幅方向内側に配置され、幅方向外側の「第1及び第2分岐部41,43」の幅(外側配線幅)は、同内側の「第1及び第2分岐部39,45」の幅(内側配線幅)よりも幅狭に形成されているから、本願発明と先願発明とは、「前記開口部の上に配設される各前記n本の配線においては、前記開口部の前記線幅方向の端部側に最も近く配設された配線の幅より、前記開口部の前記線幅方向の中央部側に配設された配線の幅の方が大きくなって」いる点で一致するといえる。 オ 先願発明では、配線27の積層方向での厚みは、例えば8?15μm程度、本実施例では15μm程度に設定されるとしており、また、「第1、第2分岐部39,41,43,45」の幅方向での各間は、例えば20μm程度に設定されるとしているから、先願発明においても、本願発明と同様、「前記n本の配線は、厚さが4μm?18μmの範囲内であり、各配線間の幅が8μm?30μmの範囲内においてすべて同じ幅」であるといえる。 カ 先願発明では、ベース絶縁層25の積層方向での厚みは、例えば5?15μm程度、本実施例では10μm程度に設定されるとしているから、先願発明においても、本願発明と同様、「前記ベース絶縁層の厚さは、5μm?30μmの範囲内である」といえる。 よって、本願発明と先願発明とは、以下の点で一致し、相違する。 (一致点) 「金属支持基板と、前記金属支持基板上に形成されたベース絶縁層と、前記ベース絶縁層上に形成された複数の配線と、前記ベース絶縁層および前記複数の配線上に形成されたカバー層を備えたサスペンション用基板であって、 前記複数の配線は、一対の差動配線をそれぞれ分岐して交互に並列配設したn本の配線からなるインターリーブ配線構造を構成しており、 前記金属支持基板には、前記インターリーブ配線構造を構成する前記n本の配線を線幅方向に跨ぐように開口部が形成されており、 前記開口部の上に配設される各前記n本の配線においては、前記開口部の前記線幅方向の端部側に最も近く配設された配線の幅より、前記開口部の前記線幅方向の中央部側に配設された配線の幅の方が大きくなっており、 前記n本の配線は、厚さが4μm?18μmの範囲内であり、各配線間の幅が8μm?30μmの範囲内においてすべて同じ幅であり、 前記ベース絶縁層の厚さは、5μm?30μmの範囲内であることを特徴とするサスペンション用基板。」 (相違点) 複数の配線の幅が、本願発明では、「10μm?100μmの範囲内」であるのに対し、先願発明では、「内側の第1及び第2分岐部39,45」の幅は、120μm又は150μm程度に設定され、「外側の第1及び第2分岐部41,43」の幅は、「内側の第1及び第2分岐部39,43」の幅に対して50%?85%程度、特に60%程度に設定されるとする点。 (3)判断 配線の幅をどの程度にするかは、伝送線路のインピーダンス等の諸特性を考慮して適宜設定し得る設計的事項といえるところ、特に、配線の幅を「10μm?100μmの範囲内」に設定することも、例えば、特開2011-76645号公報(段落37参照)にも記載されているように、周知であって、新たな効果を奏するともいえないから、上記相違点は、実質的な相違点とはいえない。 よって、本願発明と先願発明との間の上記相違点は、実質的な相違点ではないから、本願発明は先願発明と同一の発明である。 また、本願発明に係る発明者と先願発明に係る発明者が同一の者であるとも、あるいは、本願の出願の時にその出願人と先願の出願人とが同一の者であるともいえない。 したがって,本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 3.当審が通知した拒絶の理由3について (1)特開2011-76645号公報の記載事項及び引用発明1 特開2011-76645号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の記載がある(なお、下線は、当審において付したものである。)。 ア 「【0028】 図2に示されるように、サスペンション用基板10は、絶縁層2と、絶縁層2の一方の面上に形成された第1の電気信号を伝送する2本の配線3aおよび第2の電気信号を伝送する2本の配線3bからなる一対4本の差動配線と、配線3aと配線3bの間を埋めるように形成された誘電体4と、絶縁層2の他の面上に形成された金属基板1と、を有するものである。 【0029】 配線3a、3bは、各々、サスペンション用基板両端部近傍で電気的に接続されて環状線路になっており、サスペンション用基板両端部近傍以外の配線3a、3bが並走する部分においては、配線3a、3b、3a、3bの順に交互に配設されている。 【0030】 さらに、電気信号の減衰や配線の劣化を抑制するため、本発明のサスペンション用基板は配線3a、3b、および誘電体4を覆うように形成されたカバー層5を有する構成であっても良い。 【0031】 また、本発明のサスペンション用基板は、図3に示すように、配線3a、3bを覆うように形成されたカバー層5の上に、誘電体4が形成されている構成としても良い。 【0032】 また、本発明のサスペンション用基板は、図4に示すように、誘電体4が配線3aと配線3bの間を埋めつつ、さらに配線3a、3bを覆うように形成された構成、すなわち、カバー層5が、誘電体4と同じ材料からなる構成としても良い。 【0033】 このように、本発明によれば、複数の配線が交互に配置されたインターリーブ配線構造による差動インピーダンス低減効果に加えて、各配線間に形成された誘電体の存在によって差動配線間の電気容量的な結合性がより高まることから、差動インピーダンスをさらに低減することができる。」 イ 「【0036】 配線3a、3bの厚さとしては、例えば4μm?18μmの範囲内、中でも5μm?15μmの範囲内であることが好ましい。配線の厚さが小さすぎると、充分な低インピーダンス化を図ることができない可能性があり、配線の厚さが大きすぎると、サスペンション用基板の剛性が高くなり過ぎる可能性があるからである。 【0037】 配線の線幅としては、例えば10μm?100μmの範囲内であることが好ましい。配線の線幅が小さすぎると、所望の導電性を得ることができない可能性があり、配線の線幅が大きすぎると、サスペンション用基板の充分な高密度化を図ることができない可能性があるからである。 【0038】 また配線間の距離は、例えば10μm?100μmの範囲内であることが好ましい。この距離が小さすぎると、高い加工精度を要求し、コストアップ等を招くことになるため好ましくなく、一方、この距離が大きすぎると、サスペンション用基板の充分な高密度化を図ることができない可能性があるからである。」 ウ 「【0050】 [絶縁層] 次に、本発明における絶縁層について説明する。例えば図2に示すように、本発明における絶縁層2は、一方の面上に配線3a、3bを有し、他方の面上に金属基板1を有するものである。絶縁層2の材料としては、所望の絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリイミド等を挙げることができる。また、絶縁層2の材料は、感光性材料であっても良く、非感光性材料であっても良い。また、絶縁層2の厚さは、例えば5μm?30μmの範囲内、中でも10μm?20μmの範囲内であることが好ましい。 【0051】 [金属基板] 次に、本発明における金属基板について説明する。図2に示すように、本発明における金属基板1は、配線3a、3b側とは反対側の絶縁層2の面上に形成されるものである。高周波信号を伝送する際の伝送損失を防止するため、配線3a、3bが形成される箇所の絶縁層2の反対側の面の金属基板1は除去されていることが好ましい。」 エ 「【0073】 以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。 (実施例1) 上述で説明した製造方法に従って、図2に示すような構成の本発明に係るサスペンション用基板を得た。ここで、金属基板1Aには厚さ20μmのステンレススティールを用い、絶縁層2には厚さ10μm、比誘電率3.0のポリイミドを用い、導電層3には厚さ12μmの銅を用いた。 配線3a、3bの線幅は共に45μmとし、配線3a、3b間の距離は15μmとした。また、金属基板1の端部と配線3a、3bの端部との水平方向の距離は、共に40μmとした。 誘電体4には、チタン酸バリウムの含有により比誘電率を5.0に制御したポリイミドを用い、厚さを配線3a、3bと同じ12μmとなるように形成した。カバー層5には比誘電率3.0のポリイミドを用い、絶縁層2からの厚さが17μmになるように形成した。 得られたサスペンション用基板における差動インピーダンスを計算した結果、差動インピーダンスは28Ωであった。」 オ 図4は、以下のとおりである。 そうすると、引用文献1に記載された発明(以下、「引用発明1」という。)は、次のとおりのものである。 「絶縁層2と、絶縁層2の一方の面上に形成された第1の電気信号を伝送する2本の配線3aおよび第2の電気信号を伝送する2本の配線3bからなる一対4本の差動配線と、配線3aと配線3bの間を埋めるように形成された誘電体4と、絶縁層2の他の面上に形成された金属基板1と、を有するサスペンション用基板10であって、 配線3a、3bは、各々、サスペンション用基板両端部近傍で電気的に接続されて環状線路になっており、サスペンション用基板両端部近傍以外の配線3a、3bが並走する部分においては、配線3a、3b、3a、3bの順に交互に配設され、 誘電体4が配線3aと配線3bの間を埋めつつ、さらに配線3a、3bを覆うように形成された構成、すなわち、カバー層5が、誘電体4と同じ材料からなる構成としても良く、 配線3a、3bが形成される箇所の絶縁層2の反対側の面の金属基板1は除去されていることが好ましく、 配線3a、3bの厚さとしては、例えば4μm?18μmの範囲内、中でも5μm?15μmの範囲内であることが好ましく、 配線の線幅としては、例えば10μm?100μmの範囲内であることが好ましく、 配線間の距離は、例えば10μm?100μmの範囲内であることが好ましく、 絶縁層2の厚さは、例えば5μm?30μmの範囲内、中でも10μm?20μmの範囲内であることが好ましく、 絶縁層2には厚さ10μm、比誘電率3.0のポリイミドを用い、導電層3には厚さ12μmの銅を用い、配線3a、3bの線幅は共に45μmとし、配線3a、3b間の距離は15μmとした、サスペンション用基板10」 (2)特開平11-53726号公報の記載事項及び引用発明2 特開平11-53726号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の記載がある(なお、下線は、当審において付したものである。)。 ア 「【0026】 図2、図3、図4(A)、図4(B)および図5に示すように、ロードビームアセンブリ10は、概ね平らに形成されたステンレス鋼ロードビーム12とフレクシャ14とを含む。この例においては、フレクシャ14は、たとえば約20ミクロン厚さの、薄いステンレス鋼シート材料から形成される。およそ10ミクロン厚さの銅導体の、導電性トレース60および62の2対の配列は、フレクシャ14の基端17から、ロードビームアセンブリ10のスライダを支持する遠端18に位置づけられた別の接続パッド配列22へと延びる、相互接続構造16の一部を形成する。トランスデューサヘッドスライダ20は、ロードビーム構造10の遠端18において、好適な接着剤によって、ジンバル14に固着される。スライダ本体20は、スライダ20を基準としてディスク36が回転する間に形成される空気軸受によって、ディスク36のデータ記憶表面と非常に近接して浮上する、空気軸受表面を規定する。図5に示すように、遠端18における接続パッド22は、スライダ本体20の後縁上に形成されたたとえば二要素(4導体)の薄膜磁気抵抗読出/書込構造26の、位置合わせされた接続パッド24に、たとえば超音波で溶接された金のボールボンディング部56によって接続するために、設けられる。好ましくは、スライダ本体20は30%スライダまたはそれより小さいものであるが、必ずしもそうでなくてもよい。 【0027】 相互接続構造16は、ステンレス鋼フレクシャ14に装着された導体配列16の、導電性トレース60と62との間に介在する、高誘電ポリイミドフィルムベース25を含む。この誘電ポリイミドフィルム層は、好ましくは、およそ10ミクロン厚さである。」 イ 「【0030】 しかし一方で、図4(B)の構成は、隣接するトレースの縁部に沿って、たとえばおよそ10ミクロンの最小距離を隔てて、トレース同士が横に並べて配される場合、現状よりもはるかに大きいトレース間の導体キャパシタンスレベルを生みだす。さらに、図4(B)のトレース60および62は、高い信号周波数では、接地平面に対する極めて大きいキャパシタンスによって、不利になるおそれがある。電気的接地平面は、ステンレス鋼フレクシャ14の対面する表面によって表わされる。結果として生じるフレクシャへの望ましくない容量性結合は、トレース60および62の直下のフレクシャ14内に長手方向の窓または窪みを提供することによって、かなりの程度、克服することができる。これは、「インピーダンスが調整された、統合された導体を有するサスペンション(“Suspension with Integrated Conductors Having Trimmed Impedance”)」として1977年10月3日に出願された、共通に譲渡された米国特許出願連続番号第08/720,836号の教示に従って行なうことができ、この開示が、ここに引用により援用される。たとえばエッチングまたは放電加工によって形成される長手方向の溝28を、図4(B)内に、破線で示す。」 ウ 「【0043】 図10は、導体60を、終端部において並列に接続される並列のより小さめの導電性セグメントの配列へと分割することを提案している。セグメント60A、60B、60C、60D、60E、60F、60G、および60Hは、合計で、トレース60と同じ断面積を規定する。図10の配列は、高周波数における抵抗を減じるが、残念ながら(フレクシャ14またはアセンブリ16上では利用できないおそれのある)かなりのスペースを占有し、複雑性も相当増すことによって、製造プロセスの公差に重い負担をかける。 【0044】 図11は、セグメント60J、60Kおよび60Lのように、より少ない数のセグメントを設けることを提案する。これら3つのセグメントもまた、合計で、トレース60と同じ断面積を規定し、より優れた抵抗およびインダクタンス値を提供する。図10および図11の例におけるセグメントを含むサービスループの経路は、全体の配列のインダクタンスをさらに減じるためにインタリーブされてもよい。これは、「ハードディスクドライブ内のR/Wヘッド相互接続のための、多重トレース伝送線(“Multi-Trace Transmission Lines for R/W Head Interconnect in Hard Disk Drive ”)」として、ヤング(Young )によって1996年10月3日に出願された、共通に譲渡された同時係属中の米国特許出願連続番号第08/726,450号の教示に従って行なうことができる。この開示をここに、引用により援用する。 【0045】 この発明の原理に従って、導体トレースセグメントの断面を動作周波数における電流密度と比較することによって、最適化された導体断面構成を得ることができる。図12は、セグメント60M、60N、60Pおよび60Qが設けられる、一例を示す。外側のセグメント60Mおよび60Qは、比較的小さい断面を有し、一方、内側のセグメント60Nおよび60Pは、大きめの断面を有する。幅がより広い内側のセグメント60Nおよび60Pは、さもなければ高周波数電流密度が低かったであろう、導体アレイの中央部分を通じて、より多くの電流が流れるようにする。」 エ 「【0047】 導体セグメントのために最適の寸法および間隔を得るために、コンピュータベースの最適化ルーチンが用いられてもよく、これは、周波数と、ロードビームまたはフレクシャ上で利用可能なスペースと、製造工程において可能な複雑性および間隔の公差に依存する。したがって、最適な寸法を得るプロセスは反復的なプロセスである。導体セグメントの幅または面積を変えることで電界が変わり、したがって電流分布も変わるためである。到達目標は、導体を断面積の違うセグメントへと分割した際に、導体の断面にわたる電流分布を均等化することである。導電性トレースセグメント間の間隔を制御することは、導体トレースセグメントの面積または幅を制御することと同様に重要である。さらに注目すべき点は、最適化された導体のレイアウトが高い動作周波数の所望の範囲にわたって均一な電流分布を保てば、そのレイアウトがまた、抵抗およびインダクタンスパラメータもまたその同じ周波数範囲にわたって合理的に一定を保つようにできることである。この結果はさらに、インピーダンスパラメータがその設計範囲にわたる周波数で大きく変わることはなく、したがって、その回路のサービスループ内の予測できないかまたは望ましくない位相の遅延を減じることができることを意味する。単一のサービスループとしてのトレース導体セグメントにわたって最適化された一定の電流密度を提供することにより、トレース導体材料を最適に使用することができる。このことは、導体を従来よりも狭くすることができ、また、非常に高い動作周波数における信号伝送性能が改善されることを意味する。」 オ 「【0048】 この発明の原理は、単一の層として、または、図14および図15に示すような多重層として形成された、トレース相互接続配列内で用いることが可能である。図14の例においては、(図11に示される)導体60のトレースセグメント60M、60N、60Pおよび60Qは、誘電層29上に、導体62のセグメント62M、62N、62Pおよび62Qの真上にかつそれらと横方向に位置合わせされて、配される。同様に、導体60のトレースセグメント60R、60Sおよび60Tは、誘電層29の上に、導体62のトレースセグメント62R、62Sおよび62Tの上方にかつそれらと横方向に位置合わせされて、配される。 【0049】 図14および図15には、それぞれのトレース導体セグメントの横方向の整合が示されるが、導体間のキャパシタンスを制御するために、導体62のセグメントを基準として導体60のセグメントの間で、制御された横方向のオフセットを用いることもできる。これは、「最適化された電気的パラメータのための、多重積層の統合された導体トレース配列を有するサスペンション(“Suspension with Multi-Layered-Integrated Conductor Trace Array for Optimized Electrical Parameters”)」として1996年10月3日に出願された、本発明者の共通に譲渡された同時係属中の米国特許出願連続番号第08/720,833号、現在では米国特許番号第 号に従って、行なうことができる。この開示は、本文中においてこの位置で、引用により援用される。さらに、フレクシャ14内の、下方導体セグメント62の真下に、図14に破線で示すような、エッチングで除去される長手方向の溝28を形成することも可能である。これは、先に既に参照されかつ援用された、共通に譲渡された同時係属中の米国特許出願連続番号第08/720,836号の教示に従って行なうことができる。 図16は、誘電層29の一方側上に形成された導電性経路60の非対称のセグメント60U、60Vおよび60W、ならびに、誘電層29の他方側上に形成された非対称のセグメント62U、62Vおよび62Wを含む、さらに別の多重層トレース配列を示す。この例において、外側のセグメント60U、60Wおよび62U、62Wの断面積は、中間セグメント60V、62Vと比較して幅寸法ではなく高さ寸法を減じることによって、小さくされている。」 カ 図4B、図10、図11,図12及び図16は、以下のとおりである。 図4B 図10 図11 図12 図16 上記ウの記載及び図10及び図11からみて、導体60を、終端部において並列に接続される並列のより小さめの導電性セグメントの配列へと分割した図10の例、及びより少ない数のセグメントへと分割した図11の例は、いずれも、導電性セグメントの幅、すなわち、配線の幅がそれぞれ同じであると解することができる。 そして、上記オの記載、図12及び図16を併せて参照すると、図11の例と同じ原理に従う一例として示された図12の例には、「セグメント60M、60N、60Pおよび60Qが設けられ・・・外側のセグメント60Mおよび60Qは、比較的小さい断面を有し、一方、内側のセグメント60Nおよび60Pは、大きめの断面を有」(段落45)し、前記「内側のセグメント60Nおよび60P」は、「幅がより広い内側のセグメント60Nおよび60P」(段落45)であり、前記「外側のセグメント60Mおよび60Q」は、前記「内側のセグメント60Nおよび60P」と比較して「幅寸法」を「減じることによって、小さくされ」(段落48)たものが記載されているといえる。 そうすると、図12の例として示される引用文献2に記載された発明(以下、「引用発明2」という。)は、次のとおりのものである。 「薄いステンレス鋼シート材料から形成され、およそ10ミクロン厚さの銅導体の、導電性トレース60および62の2対の配列は、フレクシャ14の基端17から、ロードビームアセンブリ10のスライダを支持する遠端18に位置づけられた別の接続パッド配列22へと延びる、相互接続構造16の一部を形成し、 相互接続構造16は、ステンレス鋼フレクシャ14に装着された導体配列16の、導電性トレース60と62との間に介在する、高誘電ポリイミドフィルムベース25を含み、 トレース60および62の直下のフレクシャ14内に長手方向の窓または窪みを提供し、 セグメントを含むサービスループの経路は、全体の配列のインダクタンスをさらに減じるためにインタリーブされてもよく、 導体60を、終端部において並列に接続される並列のより小さめの導電性セグメントの配列へと分割した、フレクシャ14であって、 セグメント60M、60N、60Pおよび60Qが設けられ、外側のセグメント60Mおよび60Qは、比較的小さい断面を有し、一方、内側のセグメント60Nおよび60Pは、大きめの断面を有し、前記外側のセグメント60Mおよび60Qは、前記内側のセグメント60Nおよび60Pと比較して幅寸法を減じることによって、小さくされたものであり、 単一の層として、トレース相互接続配列内で用いることが可能である、フレクシャ14」 (3)対比 ア 引用発明1の「サスペンション用基板10」は、本願発明の「サスペンション用基板」に対応するものであって、引用発明1の「金属基板1」、「絶縁層2」及び「第1の電気信号を伝送する2本の配線3aおよび第2の電気信号を伝送する2本の配線3bからなる一対4本の差動配線」は、それぞれ本願発明の「金属支持基板」、「前記金属支持基板上に形成されたベース絶縁層」及び「前記ベース絶縁層上に形成された複数の配線」に相当し、引用発明1の「配線3aと配線3bの間を埋めつつ、さらに配線3a、3bを覆うように形成され」、「誘電体4と同じ材料からなる」「カバー層5」は、本願発明の「前記ベース絶縁層および前記複数の配線上に形成されたカバー層」に相当する。 イ 引用発明1の「差動配線」を構成する「配線3a、3b」は、各々、サスペンション用基板両端部近傍で電気的に接続されて環状線路になっており、サスペンション用基板両端部近傍以外の配線3a、3bが並走する部分においては、配線3a、3b、3a、3bの順に交互に配設されているから、本願発明と同様に「前記複数の配線は、一対の差動配線をそれぞれ分岐して交互に並列配設したn本の配線からなるインターリーブ配線構造を構成」しているといえる。 ウ 引用発明1の「金属基板1」は、図4も参照すれば、「配線3a、3b」が形成される箇所の絶縁層2の反対側の面が除去されているから、本願発明と同様に「前記金属支持基板には、前記インターリーブ配線構造を構成する前記n本の配線を線幅方向に跨ぐように開口部が形成されて」いるといえる。 エ 引用発明1において、導電層3には厚さ12μmの銅を用い、「金属基板1」が除去された部分の上に配設される「配線3a、3b」の厚さとしては、例えば4μm?18μmの範囲内であることが好ましいとされ、また、配線の線幅としては、例えば10μm?100μmの範囲内であることが好ましいとして、上記 「配線3a、3b」の線幅を共に45μmとしているから、本願発明と同様、「前記n本の配線は、厚さが4μm?18μmの範囲内であり、幅が10μm?100μmの範囲内」であるといえる。 オ 引用発明1では、上記「配線3a、3b」間の距離を15μmとしているから、本願発明と引用発明1とは、「各配線間の幅がすべて同じ幅」である点で共通する。 カ 引用発明1の絶縁層2の厚さは、例えば5μm?30μmの範囲内であることが好ましいとされ、絶縁層2には厚さ10μm、比誘電率3.0のポリイミドを用いているから、本願発明と同様、「前記ベース絶縁層の厚さは、5μm?30μmの範囲内である」であるといえる。 よって、本願発明と引用発明1とは、以下の点で一致し、相違する。 (一致点) 「金属支持基板と、前記金属支持基板上に形成されたベース絶縁層と、前記ベース絶縁層上に形成された複数の配線と、前記ベース絶縁層および前記複数の配線上に形成されたカバー層を備えたサスペンション用基板であって、 前記複数の配線は、一対の差動配線をそれぞれ分岐して交互に並列配設したn本の配線からなるインターリーブ配線構造を構成しており、 前記金属支持基板には、前記インターリーブ配線構造を構成する前記n本の配線を線幅方向に跨ぐように開口部が形成されており、 前記n本の配線は、厚さが4μm?18μmの範囲内であり、幅が10μm?100μmの範囲内であり、各配線間の幅が8μm?30μmの範囲内においてすべて同じ幅であり、 前記ベース絶縁層の厚さは、5μm?30μmの範囲内であることを特徴とするサスペンション用基板。」 (相違点1) 本願発明では、「前記開口部の上に配設される各前記n本の配線においては、前記開口部の前記線幅方向の端部側に最も近く配設された配線の幅より、前記開口部の前記線幅方向の中央部側に配設された配線の幅の方が大きくなって」いるのに対し、引用発明1では、各配線の幅が同じである点。 (相違点2) 本願発明では、各配線間の幅が「8μm?30μmの範囲内」であるのに対し、引用発明1では、10μm?100μmの範囲内であることが好ましいとしている点。 (4)判断 ア 相違点1について 引用文献2の上記3(2)ア及びイの記載、図4(B)並びに図12によれば、引用発明2において「ステンレス鋼フレクシャ14」、「高誘電ポリイミドフィルムベース25」及び「導電性トレース60および62の2対の配列」で構成される基板は、本願発明及び引用発明1にいう「サスペンション用基板」と同様のものであり、引用発明2の「導電性トレース」は、本願発明及び引用発明1にいう「配線」に相当し、引用発明2の「トレース60および62の直下のフレクシャ14内に長手方向の窓または窪み」は、本願発明の「開口部」及び引用発明1において「金属基板1」が除去された部分に対応する部分であるといえる。 また、引用発明2は、セグメント60M、60N、60Pおよび60Qが設けられ、外側のセグメント60Mおよび60Qは、比較的小さい断面を有し、一方、内側のセグメント60Nおよび60Pは、大きめの断面を有し、外側のセグメント60Mおよび60Qは、内側のセグメント60Nおよび60Pと比較して幅寸法を減じることによって、小さくされたものであるから、本願発明と同様、「開口部の上に配設される各配線においては、前記開口部の線幅方向の端部側に最も近く配設された配線の幅より、前記開口部の前記線幅方向の中央部側に配設された配線の幅の方が大きくなって」いるといえる。 そして、引用発明1と引用発明2とは、同じ「サスペンション用基板」に関するものであって、引用文献2には、配線の幅が同じである図10や図11の例を、同じ原理に従う引用発明2に変更することの示唆があるといえるから、引用発明2に触れた当業者が、同様に、配線の幅が同じである引用発明1の「サスペンション用基板」に上記相違点1に係る構成を採用して本願発明とすることに格別の困難はないといえる。 また、その効果も当業者が予測し得る範囲のものである。 イ 相違点2について 引用発明1においても、10μm?100μmの範囲内であることが好ましいとしつつ、上記「配線3a、3b」間の距離を15μmとしているように、各配線間の幅として「8μm?30μm」程度の値は、当該技術分野において通常選択しうる範囲のものであるし、「8μm?30μmの範囲」の上限及び下限に臨界的意義があるともいえないから、相違点2に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。 また、その効果も当業者が予測し得る範囲のものである。 (5)小括 したがって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、先願発明と同一の発明であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 また、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-06-06 |
結審通知日 | 2017-06-13 |
審決日 | 2017-06-26 |
出願番号 | 特願2012-45686(P2012-45686) |
審決分類 |
P
1
8・
161-
WZ
(G11B)
P 1 8・ 121- WZ (G11B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 齊藤 健一 |
特許庁審判長 |
近藤 聡 |
特許庁審判官 |
吉田 隆之 北岡 浩 |
発明の名称 | サスペンション用基板 |
代理人 | 藤枡 裕実 |