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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1331151
審判番号 不服2016-3630  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-09 
確定日 2017-08-29 
事件の表示 特願2012-516140「極紫外線マスクブランクの欠陥検出のための検査システム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月23日国際公開、WO2010/147846、平成24年12月 6日国内公表、特表2012-531042、請求項の数(36)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)6月10日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2009年6月19日、2009年10月8日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年1月28日付けで拒絶理由が通知され(発送日同年2月4日)、同年5月2日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年11月4日付けで最後の拒絶理由が通知され(発送日同年同月11日)、平成27年5月8日に意見書が提出されたが、同年10月30日付けで拒絶査定がされ(謄本送達日 同年11月10日、以下「原査定」という。)、これに対し、平成28年3月9日に拒絶査定不服審判請求がされ、当審より同年12月27日付けで拒絶理由通知がされ(発送日平成29年1月10日。以下「当審拒絶理由」という。)、平成29年7月10日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定は、
「平成26年5月2日付けでした手続補正の請求項22ないし33、36は、『隆起欠陥と窪み欠陥とを区別するための少なくとも1つのプロセッサ』を備えるコンピュータシステムを備えたシステムに関するものとする補正を含む。
これに対して、本願の発明の詳細な説明の段落【0013】には、『システムは物体の表面を検査するための照明光線に対する無地の物体を動かすためのステージ、照明光線に応答して表面から反射された光線を捕捉するための時間遅延積分(TDI)検出器及び少なくとも1つのメモリー及び、反射された光線に基づき、結果画像を生成し表面凸凹欠陥を特定するために結果画像を分析するための少なくとも1つのプロセッサとを備えるコンピューターシステムもまた含んで良い。』と記載される。
そうすると、『表面凸凹欠陥を特定するために結果画像を分析する』との記載では、隆起か窪みかは区別せずに一括して『表面凸凹欠陥』として認識して欠陥か否かを特定するものも想定でき、当該記載が、『隆起欠陥と窪み欠陥とを区別する』ことを指していることは、発明の詳細な説明の他の記載を参酌しても、当業者に自明とはいえない。
したがって、『隆起欠陥と窪み欠陥とを区別する』プロセッサを搭載することは、当初明細書等の記載から自明な事項ではないから、当該補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項)から、特許を受けることができない。」
というものである。

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
1 特許法第36条第6項第2号について
(1)本願請求項1及び22における、「部分干渉シグマ」及び「結果画像」との発明特定事項について、「所定の脱焦点範囲で・・・照明光線を合焦させ」るだけで、「物体の表面を検査し、・・・前記所定の脱焦点範囲で前記反射光線に基づき、隆起欠陥と窪み欠陥とを区別するために前記位相欠陥を特定するための結果画像を生成」することができ、かつ、「結果画像」の何をどのように「分析すること」で、「隆起欠陥と窪み欠陥とを区別するために前記位相欠陥を特定する」ことができるのか不明である。

(2)また、「干渉」を利用することなく、「所定の脱焦点範囲で・・・照明光線を合焦させ」るだけで、どのようにして「物体の表面を検査し、・・・前記所定の脱焦点範囲で前記反射光線に基づき、隆起欠陥と窪み欠陥とを区別するために前記位相欠陥を特定するための結果画像を生成し、分析する」ことができるのか不明である。

(3)そして、得られた「結果画像」は、「隆起欠陥と窪み欠陥とを区別するために前記位相欠陥を特定するための」のであると特定されるにとどまり、どのような画像で、画像の何に関してどのような「分析」をすることで、「隆起欠陥と窪み欠陥とを区別」できるのか不明である。

(4)請求項22も同様である。また、請求項1及び22を引用する各項も同様である。

2 特許法第29条第2項について
本願発明1ないし36は、その最先の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記引用文献1、2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基づいて、その最先の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・引用文献1 特開2009-92407号公報
・引用文献2 特表2005-514670号公報

第4 本願発明
本願請求項1ないし36に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明36」という。)は、平成29年7月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし36に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりである。
「【請求項1】無地の物体の表面上における位相欠陥及び/又は粒子を検査するための方法であって、
約250ナノメートル未満の波長を有する深紫外の照明光線を生成し、
約0.15から0.5の間の部分干渉シグマを有する光学素子の一群を経由する照明光線を通過させ、
所定の脱焦点範囲で、前記無地の物体の前記表面上に照明光線を合焦させ、
反射光線が前記表面から反射するように前記所定の脱焦点範囲で照明光線を用いて前記無地の物体の表面を検査し、
前記所定の脱焦点範囲で前記反射光線に基づき、隆起欠陥と窪み欠陥とを区別するために前記位相欠陥を特定するための結果画像を生成し、分析すること、を備え、
前記位相欠陥は、高さ約10ナノメートル未満で半値全幅(FWHM)約200ナノメートル未満である、方法。
【請求項2】
前記位相欠陥は、高さ約2ナノメートル未満及びFWHM約100ナノメートル未満である請求項1の方法。
【請求項3】
前記所定の脱焦点範囲は約+1から+3の間の被写界深度(DOF)の第1の副範囲と、約-1から-3DOFの間の第2の副範囲とを含む、請求項1の方法。
【請求項4】
前記結果画像の生成は、前記結果画像又は前記反射光線から生成される検出信号内の信号対雑音(SNR)比を最大化するために前記結果画像又は前記検出信号に対するフィルターを適用することを備える請求項1の方法。
【請求項5】
TDI較正効果を備える系統的雑音を前記結果画像から除去するために補正係数を適用することを更に備える請求項1の方法。
【請求項6】
前記補正係数は検査中に前記反射光線の初期捕捉から特定され、適用される請求項5の方法。
【請求項7】
前記補正係数は前記反射光の強度変化から特定される請求項5の方法。
【請求項8】
前記結果画像の分析は前記位相欠陥を検出するための少なくとも約7の限界信号閾値を適用することを備える請求項1の方法。
【請求項9】
前記無地の物体は極紫外線マスク(EUV)ブランクを備える請求項1の方法。
【請求項10】
前記無地の物体は透過性の物体である請求項1の方法。
【請求項11】
前記無地の物体の表面は、石英又は反射防止膜(ARC)を備える請求項1の方法。
【請求項12】
前記結果画像の作成および分析は、前記無地の物体の表面の2つの初期画像を作成するように構成されている二次視野(TDI)検出器を用いて反射光線を捕捉することを備える請求項1の方法。
【請求項13】
前記2つの初期画像は2つの異なる脱焦点値について構成される請求項12の方法。
【請求項14】
前記2つの異なる脱焦点値は、符号が逆である請求項13の方法。
【請求項15】
前記2つの初期画像は、約0のDOFのために構成されている焦点画像を備える請求項13の方法。
【請求項16】
前記焦点画像は、前記無地の物体の表面上の汚染を検出するために用いられる請求項15の方法。
【請求項17】
前記2つの初期画像の比較に基づいて欠陥を位相欠陥及び表面汚染欠陥に分類することを更に備える請求項15の方法。
【請求項18】
前記結果画像の生成は、2つの初期画像を合わせることを備える請求項12の方法。
【請求項19】
前記無地の物体の表面に対する追加の検査パスを実行すること、および信号対雑音比を増大させるために前記結果画像に結合された追加の結果画像を作成することを更に備える請求項1の方法。
【請求項20】
前記照明光線は実質的に法線角度で前記無地の物体の表面上に合焦され、前記照明光線及び反射光線は経路を共有する請求項1の方法。
【請求項21】
前記照明光線は斜角で前記無地の物体の表面上に合焦され、前記照明光線及び反射光線は経路を共有せず、前記方法はさらに、前記反射光線の0次成分を減衰させること、前記コントラスト及び信号対雑音比を向上させるために、結像開口を用いて前記反射光線の0次成分の位相をシフトさせること、を備える請求項1の方法。
【請求項22】
無地の物体の表面上における深さ約10ナノメートル未満の表面凸凹欠陥を検出するためのシステムであって、
約250ナノメートル未満の波長を有する深紫外の照明光線を生成するためのレーザーと、
脱焦点値を含む約-3から+3の間の被写界深度(DOF)のフォーカス範囲内で前記無地の物体の表面上に照明光線を合焦するための部分干渉シグマが約0.15から0.5の間の光学素子のセットと、
前記無地の物体の表面を検査するために前記無地の物体を前記照明光線に対して移動させるためのステージと、
照明ビームに応答して表面から反射された反射光線を捕捉するための時間遅延積分(TDI)検出器と、
少なくとも1つのメモリー及び、前記光学素子に所定の脱焦点範囲で前記照明光線を前記無地の物体の前記表面上に合焦させ、前記所定の脱焦点範囲で反射された光線に基づき、結果画像を生成し表面凸凹欠陥を特定するために結果画像を分析して、隆起欠陥と窪み欠陥とを区別するための少なくとも1つのプロセッサと、を備えるコンピューターシステムとを備え、
前記隆起欠陥および窪み欠陥は、高さ約10ナノメートル未満で半値全幅(FWHM)約200ナノメートル未満の位相欠陥を含む、システム。
【請求項23】
前記所定の脱焦点範囲は、約+1から+3の間の被写界深度(DOF)の第1の副範囲と、約-1から-3DOFの間の第2の副範囲とを含む、請求項22のシステム。
【請求項24】
前記所定の脱焦点範囲は、2つの符号が異なる脱焦点値を含む、請求項22のシステム。
【請求項25】
前記所定の脱焦点範囲は、脱焦点値および約0の合焦点値を含む、請求項22のシステム。
【請求項26】
前記コンピューターシステムは、更に、2つの初期画像を生成し、分析するために構成されている、請求項22のシステム。
【請求項27】
前記2つの初期画像は、2つの異なる脱焦点値で合焦された照明光線から生成される、請求項26のシステム。
【請求項28】
前記2つの異なる脱焦点値は、符号が逆である、請求項27のシステム。
【請求項29】
前記2つの初期画像は、脱焦点値および約0の被写界深度を有する合焦値で合焦された照明光線から生成される、請求項26のシステム。
【請求項30】
前記2つの初期画像の比較に基づいて、欠陥を位相欠陥または表面異物欠陥に分類することを更に備える、請求項29のシステム。
【請求項31】
前記照明光線は、深紫外線領域または極紫外線領域の波長を有する、請求項22のシステム。
【請求項32】
前記結果画像の生成は、前記結果画像又は前記反射光線から生成される検出信号内の信号対雑音(SNR)比を最大化するために前記結果画像又は前記検出信号に対するフィルターを適用することを備える請求項22のシステム。
【請求項33】
前記フィルターを適用することは、整合フィルターを適用することを含む、請求項32のシステム。
【請求項34】
前記照明光線は、深紫外線領域または極紫外線領域の波長を有する、請求項1の方法。
【請求項35】
前記フィルターを適用することは、整合フィルターを適用することを含む、請求項4の方法。
【請求項36】
前記位相欠陥は、高さ約2ナノメートル未満及びFWHM約100ナノメートル未満である請求項22のシステム。」

なお、本願発明22は、本願発明1に対応する物(システム)の発明であり、本願発明1とカテゴリ表現が異なる発明である。
また、本願発明2ないし21及び本願発明34、35は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明23ないし33及び本願発明36は、本願発明22を減縮した発明である。

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)当審拒絶理由に引用された、本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開2009-92407号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、波長が13.5nm付近の極端紫外線を用いたEUVL(Extreme Ultra Violet Lithography:極端紫外線リソグラフィ)などに好適であるマスクブランク検査装置および方法に関する。また本発明は、反射型露光マスクの製造方法、反射型露光方法、および半導体集積回路の製造方法に関する。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1のように、EUV光を用いた暗視野検出法では、検出感度が高く、多層膜の異常による位相欠陥の検出性能に優れるものの、欠陥の凹凸の区別を同時に行なうことはできない。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一実施例によれば、検査対象となる反射型マスクブランクに向けて検査光を照射し、被検査領域を照明する。そして、暗視野結像光学系を用いて、被検査領域から反射した光のうち鏡面反射光を除く散乱光を捕集する。捕集した光は、光分岐素子によって第1光束および第2光束に分岐される。
【0021】
第1画像センサは、第1光束の結像面から光進行方向に沿って所定距離だけ変位した位置に配置される。第2画像センサは、第2光束の結像面から光進行方向とは反対方向に所定距離だけ変位した位置に配置される。これらの第1画像センサおよび第2画像センサは、第1光束および第2光束が形成する各検査画像の強度分布を計測する。第1画像センサおよび第2画像センサからの各信号は、画像処理部に供給され、マスクブランクの欠陥の有無を判定する。
【0022】
光分岐素子は、多層膜、透過型回折格子、または反射型回折格子で構成することが好ましい。
【0023】
また、第1画像センサおよび第2画像センサは、ステージの連続移動と同期して時間遅延積分(TDI:Time Delayed Integration)動作が可能なイメージセンサであることが好ましい。
【0024】
また、検査光は、マスクパターン露光に用いる波長と同じ波長であることが好ましく、例えば、波長10nm?15nmの極端紫外線であることが好ましい。
【0025】
また、欠陥の有無を判定する際、第1画像センサおよび第2画像センサの各信号および予め設定した第1閾値および第2閾値を相互に比較することによって、表面形状の凸型欠陥と凹型欠陥を識別することが好ましい。・・・
【0035】
2次元アレイセンサSaは、正のデフォーカス像を検知するように、光束14aの結像面IPaから光進行方向に沿って所定距離d1だけ変位した位置に配置される。一方、2次元アレイセンサSbは、負のデフォーカス像を検知するように、光束14bの結像面IPbから光進行方向とは反対方向に所定距離d2だけ変位した位置に配置される。
【0036】
2次元アレイセンサSa,Sbは、複数の検出画素を有する、例えば、CCD(電荷結合素子)として構成され、各受光面における光強度分布を電気信号Va,Vbにそれぞれ変換する。代替として、2次元アレイセンサSa,Sbは、主制御部9からの同期信号SYに従って、ステージ2の連続移動と同期して時間遅延積分(TDI:Time Delayed Integration)動作が可能なイメージセンサで構成してもよく、信号積分によりノイズの低減および感度の向上を図ることができる。
【0037】
信号蓄積部6,7は、2次元アレイセンサSa,Sbからの電気信号Va,Vbを一時的に保存して、ノイズ除去処理を施したり、検出信号の位置を定義する画素番号の初期化処理を行う。画像処理部8は、信号蓄積部6,7で処理された信号を診断して、マスクブランクMでの欠陥の存在およびその種類を判定する。画像処理部8の判定結果は、主制御部9を経由してディスプレイ等の表示部DSに送られて、欠陥の有無、個数、サイズ、位置などの欠陥情報を表示する。・・・
【0043】
図2(a)は、反射型マスクブランクMの全体を示す平面図であり、図2(b)は、欠陥15を含む拡大図である。図2(c)と図2(d)は、A-A’線に沿った断面図であり、図2(c)は凸状欠陥の様子を示し、図2(d)は凹状欠陥の様子を示す。
【0044】
マスクブランクMは、マスク基板MS上に、波長(例えば、13.5nm)の露光光に対して反射率が十分に得られるように、Si(シリコン)とMo(モリブデン)を交互に積層した多層膜MLを形成したものである。
【0045】
多層膜MLを成膜する際、マスク基板MS上に、異物などの微細粒子が存在すると、多層膜MLはその影響を受けて、図2(c)に示すように、多層膜MLの表面が凸形状になって、凸状の位相欠陥16が発生する。逆に、マスク基板MSの表面に、微小な窪み、ピットが存在すると、図2(d)に示すように、多層膜MLの表面が凹形状になって、凹状の位相欠陥17が発生する。
【0046】
図3(a)は、凸状欠陥16を含むマスクブランクMの欠陥検出信号強度が最大となる検出状態を示す説明図である。図3(b)は、無欠陥のマスクブランクMを検出光学系の合焦位置に配置した状態を示す説明図である。図3(c)は、凹状欠陥17を含むマスクブランクMの欠陥検出信号強度が最大となる検出状態を示す説明図である。ここでは、理解容易のため、ビームスプリッタBSを省いて、結像光学系Lの結像面IPにアレイセンサを配置して光強度を検出する例について説明する。
【0047】
凸状欠陥16は、僅か6nm程度の小さな高さを有する。凹状欠陥17は、僅か6nm程度の小さな深さを有する。いずれの場合も、検査光BMをマスクブランクMに対して垂直に照射した状態で、結像面IPでの光強度が最大となるようにマスクブランクMの高さを調整する合焦制御を行い、その高さを最適フォーカス位置とみなす。
【0048】
図3(b)に示す無欠陥のマスクブランクMについて合焦制御を行ったフォーカス位置を基準として、図3(a)に示すような凸状欠陥16が存在する場合、凸状欠陥16は凸面ミラーのように作用して、フォーカス位置は距離df1だけ光路長が短くなる向きにシフトする。一方、図3(c)に示すような凹状欠陥17が存在する場合、凹状欠陥17は凹面ミラーのように作用して、フォーカス位置は距離df2だけ光路長が長くなる向きにシフトする。
【0049】
図4は、結像面IPでの信号強度とフォーカス位置の関係を示すグラフである。縦軸は暗視野検出像の信号強度を示し、横軸はフォーカス位置(フォーカスレベル)を示す。フォーカス位置の値が大きいほど、マスクブランクMの位置は結像光学系Lから離れることを意味する。なお、無欠陥のマスクブランクMのフォーカス位置は0である。ここで、直径W=140nm、高さH=6nmの凸状欠陥と、直径W=140nm、深さH=6nmの凹状欠陥が存在する場合を例示している。
【0050】
図4を参照すると、凸状欠陥が存在する場合、合焦制御によるフォーカス位置は結像光学系Lに近づく方向にシフトし、一方、凹状欠陥が存在する場合、合焦制御によるフォーカス位置は結像光学系Lから離れる方向にシフトすることが判る。」

(2)引用発明1
上記(1)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「検査対象となる反射型マスクブランクに向けて検査光を照射し、被検査領域を照明し、暗視野結像光学系を用いて、被検査領域から反射した光のうち鏡面反射光を除く散乱光を捕集し、捕集した光は、光分岐素子によって第1光束および第2光束に分岐され、第1画像センサは、正のデフォーカス像を検知するように第1光束の結像面から光進行方向に沿って所定距離だけ変位した位置に配置され、第2画像センサは、負のデフォーカス像を検知するように第2光束の結像面から光進行方向とは反対方向に所定距離だけ変位した位置に配置され、前記第1画像センサおよび第2画像センサは、第1光束および第2光束が形成する各検査画像の強度分布を計測し、前記第1画像センサおよび第2画像センサからの各信号は、画像処理部に供給され、マスクブランクの欠陥の有無を判定するマスクブランク検査方法であって、
前記検査光は、波長10nm?15nmの極端紫外線であり、
前記欠陥の有無を判定する際、第1画像センサおよび第2画像センサの各信号および予め設定した第1閾値および第2閾値を相互に比較することによって、表面形状の凸型欠陥と凹型欠陥を識別し、
信号蓄積部は、第1画像センサおよび第2画像センサからの電気信号を一時的に保存して、ノイズ除去処理を施したり、検出信号の位置を定義する画素番号の初期化処理を行い、
画像処理部は、信号蓄積部で処理された信号を診断して、マスクブランクでの欠陥の存在およびその種類を判定し
マスク基板上に、異物などの微細粒子が存在すると、多層膜はその影響を受けて、多層膜の表面が凸形状になって、凸状の位相欠陥が発生し、逆に、マスク基板の表面に、微小な窪み、ピットが存在すると、多層膜の表面が凹形状になって、凹状の位相欠陥が発生し、
前記凸状欠陥は、僅か6nm程度の小さな高さを有する直径W=140nm、高さH=6nmの凸状欠陥であり、また、凹状欠陥は、僅か6nm程度の小さな深さを有する直径W=140nm、深さH=6nmの凹状欠陥である、
マスクブランクの欠陥の有無を判定するマスクブランク検査方法。」

2 引用文献2について
(1)当審拒絶理由に引用された、本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特表2005-514670号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【技術分野】・・・
【0002】
本発明は、半導体プロセスにおいて用いられるマスク中の欠陥を検出する方法および装置に関する。より具体的には本発明は、位相シフトマスク中の欠陥を検出する装置および方法に関する。・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の理由で、弱い位相シフトおよび強い位相シフトの両方が存在する中で位相シフトマスク欠陥を検出できる改良された方法および装置の要求が存在する。」

イ 「【0021】
本発明の検出方法を採用する光学スキャニング顕微鏡システムの図が図3に示される。しかし本発明の手法は、任意の適切に構成された検出システムで実現されえ、図3のシステムは本発明の範囲を狭くするよう意図はされていない。これら手法は、全てのタイプの位相シフトマスクに応用されえる。例えば説明されるこの手法は、交互の位相シフトマスク、減衰(トライトーン)マスク、およびバイナリマスクに応用されえる。入射光検査ビーム302は、対物レンズ304を透過した後に焦点306へ収束する。焦点の位置は、コントローラ308の利用によって選択されえる。当業者なら、ここで開示された本発明の概念から逸脱することなく焦点の位置を制御するようにさまざまな手段が用いられえることが認識されよう。例えば、焦点306をマスク310に対して所望の位置に位置付けるために対物レンズ304を移動させるのにステッパモータが利用されえる。さらに本発明の原理は、焦点306を選択する手動のメカニズム(自動メカニズムとともに)を含むように拡張されえることが理解されよう。例えば焦点306の位置を制御するそのような手動メカニズムは、検査の前に、対物レンズをマスク310から所望の距離において強固に固定することを含む。
【0022】
検査光ビーム302は、マスク310を透過してコレクタ312に達するように示されている。コレクタ312は、ある角度の範囲にわたって光を検出器314上に集める。従来のシステムにおいて、光検出器314は、検出器の全ての領域にわたって受け取られた光波の全ての強度の和をとる。対物レンズ角θおよび集光角φは、検出器において発生する信号を部分的に決定する。一般に集光角φおよび対物レンズ角θの関係は、σ(シグマ)によって表され、媒体が空気の場合は以下のように定義される。
【0023】
σ=sinφ/sinθ
【0024】
従来の光学検査システムは、比較的広い対物レンズ角および集光角を採用し、共に典型的にはほぼ45°であり、シグマ値はほぼ1になる。しかし大きなシグマ値は、位相欠陥に関する信号をなくしてしまうことが示されてきた。本発明はいくつかの実施形態において、領域群またはゾーン群(例えば半径方向に対称な、つまり同心円状の領域群)に分けられた検出器314上に光波を集めることによって位相欠陥に関する信号への感度を高くする。実際に、シグマが低いときは、位相欠陥に関するより高い強度の信号が作られる。0.2から0.7の範囲のシグマ値が適切な結果を生む。・・・
【0029】
フォーカスされたイメージにおいては、検出器が光電界の複素振幅Aを電気強度AAに変換するとき、直接位相情報は失われる。フォーカスにおける光学的伝達関数は実数であり、全ての位相シフト物体について位相欠陥の部位におけるイメージ強度は、位相欠陥が存在しない場合とほぼ同じである。デフォーカスされたイメージにおいては伝達関数は虚数部を有する。この位相がずれているフォーカスされたビームの虚数部のために、位相欠陥のコントラストは、デフォーカスが低いシグマと結合されるときに大きく高くなる。・・・
【0035】
図5の左には、低コントラスト位相欠陥503を有する物体502が照射され、右にはこの物体の位相コントラストイメージ504が作られる。・・・
【0037】
典型的には分析器から生成された信号は、検査されたマスクの表示を作るためにディスプレイ発生器318(図3を参照)に接続される。ディスプレイ発生器は、光ビームがマスクをスキャンするときに受け取られた、結果として生じた電圧信号を、ディスプレイ発生器318の表示スクリーン上のイメージに変換するための適切な処理回路と結合されたCRT、LCDスクリーン、または他の適切な表示デバイスを備えうる。一般に、検査されたマスクから導かれた位相欠陥イメージは、位相欠陥に加えてレイヤのエッジを示す。例えば、差分画像は、位相欠陥によって生成された画像群を分離するために、マスクの2つの同一のエリア群から得られる。もし差分イメージがあるスレッショルドより上のピクセル値を含むなら、欠陥だと認識される。このスレッショルドは、ある特定のサイズより大きい欠陥が信頼性高く見つけられ、一方で、疑似および/またはニュイサンス欠陥の個数が許容されえるくらい低く抑えられるように設定される。」

(2)引用発明2
上記(1)によれば、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「入射光検査ビームは、対物レンズを透過した後に焦点へ収束し、
前記検査光ビームは、位相シフトマスクを透過してコレクタに達し、
前記コレクタは、ある角度の範囲にわたって光を検出器上に集め、
前記光検出器は、検出器の全ての領域にわたって受け取られた光波の全ての強度の和をとり、
集光角φおよび対物レンズ角θの関係は、σ(シグマ)によって表され、
シグマが低いときは、位相欠陥に関するより高い強度の信号が作られ、0.2から0.7の範囲のシグマ値が適切な結果を生み、
デフォーカスされたイメージにおいては伝達関数は虚数部を有し、この位相がずれているフォーカスされたビームの虚数部のために、位相欠陥のコントラストは、デフォーカスが低いシグマと結合されるときに大きく高くなり、
低コントラスト位相欠陥を有する物体が照射され、この物体の位相コントラストイメージが作られ、
検査されたマスクから導かれた位相欠陥イメージは、位相欠陥に加えてレイヤのエッジを示し、差分画像は、位相欠陥によって生成された画像群を分離するために、マスクの2つの同一のエリア群から得られ、差分イメージがあるスレッショルドより上のピクセル値を含むなら、欠陥だと認識される、
位相シフトマスク中の欠陥を検出する方法。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 引用発明1の「反射型マスクブランク」、「検査光」、「結像」、「結像光学系」、「デフォーカス」、「異物などの微細粒子」、「凸状の位相欠陥」、「凹状の位相欠陥」及び「マスクブランク検査方法」は、本願発明1の「無地の物体」、「照明光線」、「合焦」、「光学素子の一群」、「脱焦点」、「粒子」、「隆起欠陥」、「窪み欠陥」及び「無地の物体の表面上における(位相欠陥及び/又は粒子を)検査するための方法」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明1は、「検査対象となる反射型マスクブランクに向けて検査光を照射し、・・・被検査領域から反射した光・・・を捕集し、・・・第1画像センサは、正のデフォーカス像を検知するように第1光束の結像面から光進行方向に沿って所定距離だけ変位した位置に配置され、第2画像センサは、負のデフォーカス像を検知するように第2光束の結像面から光進行方向とは反対方向に所定距離だけ変位した位置に配置され、前記第1画像センサおよび第2画像センサは、第1光束および第2光束が形成する各検査画像の強度分布を計測し、前記第1画像センサおよび第2画像センサからの各信号は、画像処理部に供給され、マスクブランクの欠陥の有無を判定する」ものであるから、正または負のデフォーカス像を検知するするように反射型マスクブランクに向けて検査光を照射し、光束を結像させ、被検査領域から反射した光の正または負のデフォーカス像を検知してマスクブランクの欠陥の有無を判定するものであるといえる。
そうすると、「検査対象となる反射型マスクブランクに向けて検査光を照射し、・・・被検査領域から反射した光・・・を捕集し、・・・第1画像センサは、正のデフォーカス像を検知するように第1光束の結像面から光進行方向に沿って所定距離だけ変位した位置に配置され、第2画像センサは、負のデフォーカス像を検知するように第2光束の結像面から光進行方向とは反対方向に所定距離だけ変位した位置に配置され、前記第1画像センサおよび第2画像センサは、第1光束および第2光束が形成する各検査画像の強度分布を計測し、前記第1画像センサおよび第2画像センサからの各信号は、画像処理部に供給され、マスクブランクの欠陥の有無を判定する」ものである引用発明1は、「所定の脱焦点範囲で、前記無地の物体の前記表面上に照明光線を合焦させ、反射光線が前記表面から反射するように前記所定の脱焦点範囲で照明光線を用いて前記無地の物体の表面を検査し、前記所定の脱焦点範囲で前記反射光線に基づき、隆起欠陥と窪み欠陥とを区別するために前記位相欠陥を特定するための結果画像を生成し、分析する」本願発明1と、「所定の脱焦点範囲で、前記無地の物体の前記表面上に照明光線を合焦させ、反射光線が前記表面から反射するように前記所定の脱焦点範囲で照明光線を用いて前記無地の物体の表面を検査し、前記所定の脱焦点範囲で前記反射光線に基づき、・・・前記位相欠陥を特定する」点で一致する。

ウ 引用発明1は、「マスク基板上に、異物などの微細粒子が存在すると、多層膜はその影響を受けて、多層膜の表面が凸形状になって、凸状の位相欠陥が発生し、逆に、マスク基板の表面に、微小な窪み、ピットが存在すると、多層膜の表面が凹形状になって、凹状の位相欠陥が発生」し、「信号蓄積部は、第1画像センサおよび第2画像センサからの電気信号を一時的に保存して、ノイズ除去処理を施したり、検出信号の位置を定義する画素番号の初期化処理を行い、画像処理部は、信号蓄積部で処理された信号を診断して、マスクブランクでの欠陥の存在およびその種類を判定」し「表面形状の凸型欠陥と凹型欠陥を識別する」方法であるから、表面形状の凸型欠陥と凹型欠陥を識別するために、凸状の位相欠陥と凹状の位相欠陥を判定する第1画像センサおよび第2画像センサからの電気信号を生成して診断して判定する方法であるといえる。
そうすると、引用発明1の、「マスク基板上に、異物などの微細粒子が存在すると、多層膜はその影響を受けて、多層膜の表面が凸形状になって、凸状の位相欠陥が発生し、逆に、マスク基板の表面に、微小な窪み、ピットが存在すると、多層膜の表面が凹形状になって、凹状の位相欠陥が発生」し、「信号蓄積部は、第1画像センサおよび第2画像センサからの電気信号を一時的に保存して、ノイズ除去処理を施したり、検出信号の位置を定義する画素番号の初期化処理を行い、画像処理部は、信号蓄積部で処理された信号を診断して、マスクブランクでの欠陥の存在およびその種類を判定」し「表面形状の凸型欠陥と凹型欠陥を識別する」方法は、本願発明1の「前記所定の脱焦点範囲で前記反射光線に基づき、隆起欠陥と窪み欠陥とを区別するために前記位相欠陥を特定するための結果画像を生成し、分析する」ことは、「反射光線に基づき、隆起欠陥と窪み欠陥とを区別するために前記位相欠陥を特定するための結果画像を生成し、分析する」点で一致する

エ 引用発明1が判定する「凸状欠陥」及び「凹状欠陥」は、「直径W=140nm、深さH=6nmの凹状欠陥である」から、本願発明1の「高さ約10ナノメートル未満で半値全幅(FWHM)約200ナノメートル未満である」「位相欠陥(隆起欠陥と窪み欠陥)を、高さと幅ともに満たす。
したがって、引用発明1が判定する「直径W=140nm、深さH=6nmの凹状欠陥である」「凸状欠陥」及び「凹状欠陥」は、本願発明1が判定する「高さ約10ナノメートル未満で半値全幅(FWHM)約200ナノメートル未満である」「位相欠陥(隆起欠陥と窪み欠陥)」と相当関係にある。

オ 上記アないしエによれば、両者は、
「無地の物体の表面上における位相欠陥及び/又は粒子を検査するための方法であって、
照明光線を生成し、
光学素子の一群を経由する照明光線を通過させ、
所定の脱焦点範囲で、前記無地の物体の前記表面上に照明光線を合焦させ、
反射光線が前記表面から反射するように前記所定の脱焦点範囲で照明光線を用いて前記無地の物体の表面を検査し、
前記所定の脱焦点範囲で前記反射光線に基づき、隆起欠陥と窪み欠陥とを区別するために前記位相欠陥を特定するための結果画像を生成し、分析すること、を備え、
前記位相欠陥は、高さ約10ナノメートルで半値全幅(FWHM)140ナノメートルである、方法。」
である点で一致し、以下各点で相違する。

(相違点1)「照明光線」が本願発明1では、「約250ナノメートル未満の波長を有する深紫外の」照明光線であるのに対して、引用発明1の「検査光」は、「波長10nm?15nmの極端紫外線であ」る点(以下「相違点1」という。)。

(相違点2)本願発明1の「光学素子」は、「約0.15から0.5の間の部分干渉シグマを有する」のに対して、引用発明1の「結像光学系」は部分干渉シグマが特定されない点(以下「相違点2」という。)。

(2)判断
上記相違点1について検討する。
引用発明1の「検査光」に関して、引用文献1には、「【0024】また、検査光は、マスクパターン露光に用いる波長と同じ波長であることが好ましく、例えば、波長10nm?15nmの極端紫外線であることが好ましい。」(上記「第3」「1」「(1)」「ウ」)と記載され、これをマスクパターン露光に用いる波長と異なる波長である「約250ナノメートル未満の波長を有する深紫外」(審決注:「深紫外」(の光線)は200?300ナノメートルの波長の紫外線を意味する。)とすることは想起し得ない。
また、このようなマスクパターン露光に用いる波長と異なる波長を用いることは引用文献1及び2に記載されておらず、示唆もされていない。
したがって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明22について
本願発明22は、本願発明1に対応する物の発明であり、本願発明1の「約250ナノメートル未満の波長を有する深紫外の」照明光線である構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明2ないし21及び本願発明23ないし36について
本願発明2ないし21及び本願発明23ないし36も、本願発明1の「約250ナノメートル未満の波長を有する深紫外の」照明光線である構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定についての判断
本願の発明の詳細な説明の段落【0013】には、「システムは物体の表面を検査するための照明光線に対する無地の物体を動かすためのステージ、照明光線に応答して表面から反射された光線を捕捉するための時間遅延積分(TDI)検出器及び少なくとも1つのメモリー及び、反射された光線に基づき、結果画像を生成し表面凸凹欠陥を特定するために結果画像を分析するための少なくとも1つのプロセッサとを備えるコンピューターシステムもまた含んで良い。」と記載され、同段落【0024】には、「窪み204が検査中のとき、反射光線は平坦部202からの反射光線と同じ振幅を有する。しかしながら、窪み204からの反射光線は平らな面(X)のものと比べると負の位相差(Y)を有する。同様に、隆起206が検査されるとき、反射光線は同じ振幅を有するが、参照(X)に比べると、ここで正の位相差(Z)を有する。特定の実施形態において、検査面の一部又は全面は位相シフトを特定するために位相値参照として使用可能である。」と記載されているから、段落【0013】の「表面凸凹欠陥を特定する」は、隆起欠陥と窪み欠陥とを位相シフトを特定することで特定するものと理解でき、「隆起欠陥と窪み欠陥とを区別する」プロセッサを搭載することは、当初明細書等の記載から自明な事項であるから、当該補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていると認められる。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由についての判断
1 特許法第36条第6項第2号について
平成29年7月10日付けの意見書において、
「C.特許法第36条第6項第2号を理由とする拒絶理由(理由1)について:
拒絶理由通知書によれば、本願請求項1および22における『部分干渉シグマ』および『結果画像』との発明特定事項について種々指摘がなされている。
しかしながら、平面度を測定する際に、干渉縞のコントラストを調整するために、空間コヒーレンスを調整することが行われている。すなわち、コントラストを変化させることは、光源の大きさを変化させること=空間コヒーレンスを変化させることであることは当業者にとって良く知られた事項である。また、コヒーレンスσは、照明系のNA/対物レンズのNAで表されることは当業者にとって周知であり、本願明細書の段落0036にも明示されている。
さらに、『部分干渉シグマ』の用語は、部分干渉をもたらすシグマを意味している。ここで、干渉縞のコントラストが最高になる場合には、合成波はコヒーレントであり、可視度は1.0となり、干渉縞のコントラストが最小になる場合には、合成波は非コヒーレントであり、干渉度は0となる。可視度が0より大きく1未満の場合に、合成波は部分的にコヒーレント、すなわち、部分干渉であると呼ばれる。本願請求項1および22、並びに本願明細書においては、この部分干渉をもたらすシグマを、部分干渉シグマとして記載している。
したがって、請求項1および22の記載から、約0.15から0.5の間の部分干渉シグマを有する光学素子の一群を経由する照明光線を通過させることによって、無地の物体の表面に部分的なコヒーレンスをもたらし、当該部分的なコヒーレンスに基づく結果画像を生成すること、は当業者にとって極めて明確である。
また、結果画像は、反射光線が表面から反射するように所定の脱焦点範囲で照明光線を用いて無地の物体の表面を検査した結果得られており(本願明細書の段落0031)、結果画像に現れるコントラストと脱焦点範囲とから隆起欠陥と窪み欠陥とを区別し得ることは、当業者にとって容易に理解され得る。」
との説明がなされた結果、この拒絶の理由は解消した。

2 特許法第29条第2項について
上記第6で検討したとおりであって、平成29年7月10日にされた手続補正により、この拒絶の理由は解消した。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-08-16 
出願番号 特願2012-516140(P2012-516140)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 561- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松岡 智也  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 森 竜介
松川 直樹
発明の名称 極紫外線マスクブランクの欠陥検出のための検査システム及び方法  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

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