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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12P
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12P
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12P
管理番号 1331164
異議申立番号 異議2016-700037  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-20 
確定日 2017-06-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5753963号発明「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法および低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5753963号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし23〕、24について訂正することを認める。 特許第5753963号の請求項1ないし3、5、7ないし20、22ないし24に係る特許を維持する。 特許第5753963号の請求項4、6、21に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯等

1 本件特許異議の申立てに係る特許

本件特許異議の申立てに係る特許第5753963号は、特許権者であるキユーピー株式会社より、2014年9月26日(優先権主張 平成25年9月26日 日本国)、PCT/JP2014/075652(特願2015-504661号)として国際出願されたものであって、平成27年5月29日、発明の名称を「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法および低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」、請求項の数を「24」として特許権の設定登録を受けたものである。

2 手続の経緯

これに対して、平成28年1月20日、特許異議申立人である日本水産株式会社(以下、「異議申立人」という)より特許異議の申立てがなされ、同年6月30日付けで取消理由が通知され、同年9月5日付けで特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され、これに対し、同年10月20日付けで異議申立人より意見書が提出され、同年12月22日付けで再度、取消理由が通知され、平成29年3月13日付けで特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され、これに対し、同年5月8日付けで異議申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否

1 訂正事項

上記平成29年3月13日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲及び明細書を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び明細書のとおり、一群の請求項を構成する〔請求項1ないし23〕、及び一群の請求項となる関係を有する請求項のない請求項24ごとに、それぞれについて訂正することを求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。
なお、平成28年9月5日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

(1)請求項1ないし23からなる一群の請求項についての訂正

ア 訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に「リパーゼ」とあるのを、「1,3位特異リパーゼ」と訂正し、さらに、特許請求の範囲の請求項1に「前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、」との構成要件を付加する。

イ 訂正事項2

特許請求の範囲の請求項1に「前記原料油脂が魚油であり、」との構成要件を付加する。

ウ 訂正事項3

特許請求の範囲の請求項1に「水分含量が0.4質量%以上であり」とあるのを、「添加された水分含量が0.5質量%以上であり」と訂正する。

エ 訂正事項4

特許請求の範囲の請求項1に「前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を・・・質量%以下含み」とあるのを、「前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して・・・質量%以下含み」と訂正する。

オ 訂正事項5

特許請求の範囲の請求項1に「低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下含み」とあるのを、「低級アルコール脂肪酸エステル化物を・・・50質量%以上90質量%以下含み」と訂正する。

カ 訂正事項6

特許請求の範囲の請求項4を削除する。

キ 訂正事項7

特許請求の範囲の請求項5に「請求項1ないし4のいずれか1項において」とあるのを、「請求項1ないし3のいずれか1項において」と訂正する。

ク 訂正事項8

特許請求の範囲の請求項6を削除する。

ケ 訂正事項9

特許請求の範囲の請求項7に「請求項1ないし6のいずれか1項において」とあるのを、「請求項1ないし3および5のいずれか1項において」と訂正する。

コ 訂正事項10

特許請求の範囲の請求項9に「前記混合物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を90質量%以上含み」とあるのを、「前記混合物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して90質量%以上含み」と訂正する。

サ 訂正事項11

特許請求の範囲の請求項12に「請求項7ないし11のいずれか1項において」とあるのを、「請求項7ないし9のいずれか1項において」と訂正する。

シ 訂正事項12

特許請求の範囲の請求項21を削除する。

ス 訂正事項13

特許請求の範囲の請求項22に「請求項7ないし12および18ないし20のいずれか1項に記載の製造方法」とあるのを、「請求項7ないし12、18、および19のいずれか1項に記載の製造方法」と訂正し、「請求項13ないし17および21に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」とあるのを、「請求項13ないし17に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」と訂正する。

セ 訂正事項14

特許請求の範囲の請求項23に「請求項7ないし12および18ないし20のいずれか1項に記載の製造方法」とあるのを、「請求項7ないし12、18、および19のいずれか1項に記載の製造方法」と訂正し、「請求項13ないし17および21に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」とあるのを、「請求項13ないし17に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」と訂正する。

ソ 訂正事項15

特許請求の範囲の請求項13に「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であり、前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、」との構成要件を付加する。

タ 訂正事項16

特許請求の範囲の請求項13に「低級アルコール脂肪酸エステル化物を・・・質量%以下含み」とあるのを、「低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して・・・質量%以下含み」と訂正する。

チ 訂正事項17

特許請求の範囲の請求項13に「低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下含み」とあるのを、「低級アルコール脂肪酸エステル化物を・・・50質量%以上90質量%以下含み」と訂正する。

ツ 訂正事項18

特許請求の範囲の請求項13に「酸価」とあるのを、「前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価」と訂正する。

テ 訂正事項19

特許請求の範囲の請求項15に「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理し、さらに蒸留して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であり、前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、」との構成要件を付加する。

ト 訂正事項20

特許請求の範囲の請求項15に「低級アルコール脂肪酸エステル化物を90質量%以上含み」とあるのを、「低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して90質量%以下含み」と訂正する。

ナ 訂正事項21

特許請求の範囲の請求項15に「酸価」とあるのを、「前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価」と訂正する。

(2)請求項24についての訂正

ア 訂正事項22

特許請求の範囲の請求項24に「リパーゼ」とあるのを、「1,3位特異リパーゼ」と訂正する。

イ 訂正事項23

特許請求の範囲の請求項24に「前記原料油脂が魚油であり、」との構成要件を付加する。

ウ 訂正事項24

特許請求の範囲の請求項24に「水分含量が0.4質量%以上であり」とあるのを、「添加された水分含量が0.5質量%以上であり」と訂正する。

エ 訂正事項25

特許請求の範囲の請求項24に「前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を・・・質量%以下含み」とあるのを、「前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して・・・質量%以下含み」と訂正する。

オ 訂正事項26

特許請求の範囲の請求項24に「低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下含み」とあるのを、「低級アルコール脂肪酸エステル化物を・・・50質量%以上90質量%以下含み」と訂正する。

(3)明細書についての訂正

ア 訂正事項27

明細書の段落【0072】に「公益社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法(日本油化学会規格試験法委員会編、基準油脂分析試験法・・・:日本油化学会制定、2013年版、1.5 抽出油の酸価)」とあるのを、「公益社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法(日本油化学会規格試験法委員会編、基準油脂分析試験法・・・:日本油化学会制定、2013年版、1.6 抽出油の酸価)」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)請求項1ないし23からなる一群の請求項についての訂正

ア 訂正事項1について

(ア)上記訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「リパーゼ」に関し、何らの特定がなされていなかったものを、「1,3位特異リパーゼ」でありかつ「固定化された固定化酵素」であるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)上記(ア)で述べたように、上記訂正事項1は、訂正前の請求項1の「リパーゼ」を下位概念に限定するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには、該当しない。

(ウ)上記訂正事項1に係る「リパーゼ」が、「1,3位特異リパーゼ」でありかつ「固定化された固定化酵素」であることは、願書に添付した特許請求の範囲の請求項4及び6の記載に基づくものであるから、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

イ 訂正事項2について

(ア)上記訂正事項2は、訂正前の請求項1において、「原料油脂」に関し、その種類が特定されていなかったものを、「魚油」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)上記(ア)で述べたように、上記訂正事項2は、訂正前の請求項1の「原料油脂」を下位概念に限定するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには、該当しない。

(ウ)上記訂正事項2に係る「原料油脂」が、「魚油」であることは、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」ということがある。)の段落【0049】の「原料油脂としては、例えば、魚油・・・が挙げられる」等の記載に基づくものであるから、上記訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 訂正事項3について

(ア)上記訂正事項3は、訂正前の請求項1において、「反応液中における水分」に関し、その水分の由来を「添加された水分」に限定すると共に、その水分量の数値範囲を、水分量の下限である「0.4質量%」を「0.5質量%」としてより狭い範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)上記(ア)で述べたように、上記訂正事項3は、訂正前の請求項1の反応液中における「水分」を「添加された水分」に限定するものであると共に、その水分量の範囲をより狭い範囲に限定するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには、該当しない。

(ウ)上記訂正事項3に係る「反応液中における水分」の「水分」が、「添加された水分」であることは、特許明細書の段落【0062】の「なお、水は、反応液中に逐次的に添加してもよいし、連続して添加してもよいし、または一括して添加してもよい。」等の記載に基づくものであり、水分量の数値範囲の下限が「0.5質量%」であることは、同段落【0061】の「前記酵素処理の反応液中における水分含量は、0.5質量%以上であることが好ましく・・・であることができる。」等の記載に基づくものであるから、上記訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

エ 訂正事項4について

(ア)上記訂正事項4は、訂正前の請求項1での「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量(40質量%以上90質量%以下)が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることを明確するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)上記(ア)で述べたように、上記訂正事項4は、訂正前の請求項1で特定されていた「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量の基準を明確にするものであって、次の(ウ)で述べるように、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることは、特許明細書の記載及び技術的な常識を考慮すれば、特許明細書に記載されているに等しい事項であるといえるから、この訂正は、発明の内容を実質的に変更するものには該当しない。

(ウ)上記訂正事項4が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かにつて、検討するに、特許明細書の段落【0084】及び【0085】には、酵素処理(リパーゼを用いた処理)で得られた「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に関して、以下の記載がある。
「【0084】
<分子蒸留>
次に、本実施形態に係る製造方法では、酵素処理(リパーゼを用いた処理)(図1のステップS1)で得られた、低級アルコールEPAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を蒸留する工程(いわゆる、分子蒸留(一次蒸留)、図1のステップS2)をさらに含むことができる。
【0085】
分子蒸留(molecular distillation)は、高真空度下で行われる蒸留である。分子蒸留工程により、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物の混合物と、該混合物以外の成分(低級アルコール脂肪酸エステル化物以外の脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリドおよび脂肪酸トリグリセリド)とを分離することができる。なお、前記混合物以外の脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリドおよび脂肪酸トリグリセリドを利用して、低級アルコールの存在下で再度エステル化することにより、低級アルコールDHAエステル化物を得ることもできる。」
これらの記載によれば、訂正前の請求項1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」についての記載である同段落【0084】の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」は、蒸留して分離されるべき成分を含み、同段落【0085】の記載によれば、その成分は、「低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物の混合物」以外の成分であって、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリドおよび脂肪酸トリグリセリド(グリセリド)を主に含むものであることが理解できるから、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」は、エステル化物としては、「低級アルコール脂肪酸エステル化物」と「グリセリド」とからなるものであり、これらを主成分とするものであることが理解できる。
ここで、この「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」は、原料油脂である魚油に水や低級アルコールを添加し酵素処理したものであるから、上記の主要な成分以外に、組成物中には、反応により生じた遊離脂肪酸、グリセリン、添加した水や低級アルコール、及び不純物等が含まれ得ることになる。
そして、訂正前の請求項1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる低級アルコール脂肪酸エステル化物の「40質量%以上90質量%以下」という含有量に関し、この含有量が、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれるどの成分を基準としているかであるが、上述のとおり、該組成物中に含まれるエステル化物は、「低級アルコール脂肪酸エステル化物」と「グリセリド」とであることは明らかである。
一方、上記のその他の成分であるが、任意に添加量を変えることができる「水」や「低級アルコール」、及び不純物等までを「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量の基準に加えるとすれば、その含有量の範囲は一義的なものではなくなり、技術的な合理性を欠くものとなる。
さらに、特許異議申立書で提出された甲第2号証(特許第4236128号公報)の第10頁左欄第13行?第36行に記載されるように、「魚油」を特定のリパーゼにより処理したものは、HPLC装置で、第10頁の表Iに示されるようにEE((脂肪酸の)エチルエステル)、TG(トリグリセリド)/MG(モノグリセリド)/DG(ジグリセリド)の画分として、それぞれ分離、量の同定が可能であることは技術的な常識であるといえる。
そして、上記の第10頁の表Iの記載によれば、各リパーゼによる反応において、訂正前の請求項1の低級アルコール脂肪酸エステル化物に対応する「EE」の含有量を、それぞれ量が同定された「EE」と「MG/DG/TG」の合計を100重量%として表すことも、技術的な常識であるといえる。
これらの事項を踏まえると、訂正前の請求項1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量(40質量%以上90質量%以下)が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることは、特許明細書に記載されていたに等しい事項であるといえる。

そうすると、上記訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

オ 訂正事項5について

(ア)上記訂正事項5は、訂正前の請求項1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量の範囲を、下限である「40質量%」を「50質量%」としてより狭い範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)上記(ア)で述べたように、上記訂正事項5は、訂正前の請求項1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量の範囲をより狭い範囲に限定するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには、該当しない。

(ウ)上記訂正事項5に係る「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量の範囲の下限が「50質量%」であることは、特許明細書の段落【0083】の「より具体的には、酵素処理で得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下(より具体的には、50質量%以上80質量%以下)含み・・・のモル比率で含むことができる。」等の記載に基づくものであるから、上記訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

カ 訂正事項6について

上記訂正事項6は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。

キ 訂正事項7について

上記訂正事項7は、請求項4の削除に伴い、請求項5が引用する請求項を、「請求項1ないし4」から「請求項1ないし3」とするものであり、請求項4が引用する請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。

ク 訂正事項8について

上記訂正事項8は、請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。

ケ 訂正事項9について

上記訂正事項9は、請求項4及び6の削除に伴い、請求項7が引用する請求項を、「請求項1ないし6」から「請求項1ないし3および5」とするものであり、請求項7が引用する請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。

コ 訂正事項10について

(ア)上記訂正事項10は、訂正前の請求項9での「混合物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量(90質量%以上)が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることを明確するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)上記(ア)で述べたように、上記訂正事項10は、訂正前の請求項9で特定されていた「混合物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量の基準を明確にするものであって、次の(ウ)で述べるように、「混合物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることは、特許明細書の記載及び技術的な常識を考慮すれば、特許明細書に記載されているに等しい事項であるといえるから、これを明らかにする訂正は、発明の内容を実質的に変更するものには該当しない。

(ウ)訂正前の請求項9は、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の製造方法であるところ、この請求項9で製造されているものは「混合物」であるから、請求項9の「混合物」とは、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に相当するものである。
そうすると、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」における「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることは、上記「エ 訂正事項4について」で述べたように、特許明細書に記載されているに等しい事項であるといえるから、上記訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

サ 訂正事項11について

上記訂正事項11は、請求項12が引用する請求項を、「請求項7ないし11」から「請求項7ないし9」とするものであり、請求項12が引用する請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。

シ 訂正事項12について

上記訂正事項12は、請求項21を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。

ス 訂正事項13について

上記訂正事項13は、請求項22が引用する請求項を、「請求項7ないし12および18ないし20」及び「請求項13ないし17および21」から、それぞれ、「請求項7ないし12、18、および19」及び「請求項13ないし17」とするものであり、請求項22が引用する請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。

セ 訂正事項14について

上記訂正事項14は、請求項23が引用する請求項を、「請求項7ないし12および18ないし20」及び「請求項13ないし17および21」から、それぞれ、「請求項7ないし12、18、および19」及び「請求項13ないし17」とするものであり、請求項23が引用する請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。

ソ 訂正事項15について

(ア)上記訂正事項15は、訂正前の請求項13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に対して、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であり、前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、前記リパーゼが固定化された固定化酵素であ」るものとの特定を付すものである。
上記の製造方法により製造された「物」に特定されることにより、訂正前の請求項13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」は、主要な成分であり訂正前の請求項13にて特定されていた「低級アルコール脂肪酸エステル化物」、「低級アルコールEPAエステル化物」及び「低級アルコールDHAエステル化物」に加え、多様な成分及び不純物を含む天然由来原料である魚油を酵素分解処理することにより生じる他の生成物、未反応物及び不純物等多様な成分が含まれるものに限定されることになるから、上記訂正事項15は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)上記(ア)で述べたように、上記訂正事項15は、訂正前の請求項13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」をさらに限定するものであるあるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには、該当しない。

(ウ)訂正前の請求項13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」が、訂正事項15に係る製造方法により製造されたものであることは、訂正前の特許請求の範囲の請求項1、4及び6の記載から導き出せる事項であるから、上記訂正事項15は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

タ 訂正事項16について

上記訂正事項16は、訂正前の請求項13での「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることを明確するものであるから、上記「エ 訂正事項4について」で述べたのと同様に、上記訂正事項16は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

チ 訂正事項17について

上記訂正事項17は、訂正前の請求項13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量の範囲を、下限の「40質量%」を「50質量%」とするものであるから、上記「オ 訂正事項5について」で述べたのと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

ツ 訂正事項18について

上記訂正事項18は、訂正前の請求項13の2以上12以下という「酸価」が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の「酸価」であることを明らかにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正前の請求項13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下含み、
酸価が2以上12以下であり、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。」との記載によれば、この2以上12以下という「酸価」が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の酸価を意味していることは明らかであるから、上記訂正事項18は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

テ 訂正事項19について

(ア)上記訂正事項19は、訂正前の請求項15の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に対して、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理し、さらに蒸留して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であり、前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、前記リパーゼが固定化された固定化酵素であ」るものとの特定を付すものである。
この訂正は、上記「ソ 訂正事項15」で付された特定に、さらに「蒸留して得られた」との特定を加えたものであるが、「蒸留して得られた」ものであっても、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」は、主要な成分であり訂正前の請求項15にて特定されていた「低級アルコール脂肪酸エステル化物」、「低級アルコールEPAエステル化物」及び「低級アルコールDHAエステル化物」に加え、酵素分解処理することにより生じる他の生成物、未反応物及び不純物等多様な成分が含まれるものに限定されることになるから、上記訂正事項19は、上記「ソ 訂正事項15」で述べたのと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

ト 訂正事項20について

上記訂正事項20は、訂正前の請求項15での「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることを明確するものであるから、上記「エ 訂正事項4について」で述べたのと同様に、上記訂正事項20は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

ナ 訂正事項21について

上記訂正事項21は、訂正前の請求項15の「酸価」が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の「酸価」であることを明らかにするものであるから、上記「ツ 訂正事項18について」で述べたのと同様に、上記訂正事項21は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(2)請求項24についての訂正

ア 訂正事項22について

上記訂正事項22は、訂正前の請求項24の「リパーゼ」を、「1,3位特異リパーゼ」に限定するものであるから、上記「ア 訂正事項1について」で述べたのと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

イ 訂正事項23、24、26について

上記訂正事項23、24、26は、それぞれ上記訂正事項2、3及び5と同じであるから、上記「イ 訂正事項2について」、上記「ウ 訂正事項3について」及び上記「オ 訂正事項5について」で述べたのと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

ウ 訂正事項25について

上記訂正事項25は、上記訂正事項4と同じであるから、上記「エ 訂正事項4について」で述べたのと同様に、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(3)請求項〔1ないし23〕、24についての訂正のまとめ

よって、上記訂正事項1ないし3、5ないし9、11ないし15、17、19、22ないし24、26は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項において準用する同法第126条5項及び第6項の規定に適合するものといえる。
また、上記訂正事項4、10、16、18、20、21、25は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

(4)明細書についての訂正

ア 訂正事項27について

訂正前の明細書の段落【0072】の「公益社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法(日本油化学会規格試験法委員会編、基準油脂分析試験法・・・:日本油化学会
制定、2013年版、1.5 抽出油の酸価)」の「1.5」との記載は、異議申立人より甲第5号証として提出された「公益社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法(日本油化学会規格試験法委員会編、基準油脂分析試験法)」の第1頁の表題に「1.6_(-2013) 抽出油の酸価」と記載されているように、「1.6」の誤記であることは明らかであるから、上記訂正事項27は、誤記の訂正を目的とするものである。
そうすると、上記訂正事項27は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであるといえるとともに、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

3 小括

上記「2」のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1ないし23〕、及び一群の請求項となる関係を有する請求項のない請求項24ごとに、それぞれについて訂正することを求めるものであり、それらの訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし23〕、24について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし24に係る発明(以下、請求項1に係る発明を項番に対応して「本件発明1」、「本件発明1」に係る特許を「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を、1,3位特異リパーゼを用いて処理して、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る工程を含み、
前記原料油脂が魚油であり、
前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、
前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、
前記処理の反応液中における添加された水分含量が0.5質量%以上であり、
前記反応液の酸価が2以上12以下であり、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して50質量%以上90質量%以下含み、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物における、前記低級アルコールDHAエステル化物に対する前記低級アルコールEPAエステル化物のモル比率(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)が3.0以上30以下である、
低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。

【請求項2】
請求項1において、
前記処理の反応液は、前記原料油脂9.5質量部に対して0.1質量部以上2.5質量部以下の低級アルコールをさらに含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。

【請求項3】
請求項2において、
前記処理において、前記処理の反応液に前記低級アルコールを連続的にまたは段階的に添加する、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。

【請求項4】(削除)

【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記処理において、前記固定化酵素は粒子状である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。

【請求項6】(削除)

【請求項7】
請求項1ないし3および5のいずれか1項において、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物および前記低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物の混合物と、該混合物以外の成分とを分離する工程をさらに含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。

【請求項8】
請求項7において、
前記混合物のFT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比が0.075以下である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。

【請求項9】
請求項7または8において、
前記混合物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して90質量%以上含み
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30

【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項において、
前記混合物を銀塩の水溶液と接触させる工程を含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。

【請求項11】
請求項10において、
前記銀塩の水溶液と接触させた後の前記混合物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物以外の低級アルコール脂肪酸エステル化物を分離することにより、前記低級アルコールEPAエステル化物を得る工程をさらに含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。

【請求項12】
請求項7ないし9のいずれか1項において、
前記混合物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物以外の低級アルコール脂肪酸エステル化物を分離することにより、前記低級アルコールEPAエステル化物を得る工程をさらに含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。

【請求項13】
EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、
前記原料油脂が魚油であり、
前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、
前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、
低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して50質量%以上90質量%以下含み、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価が2以上12以下であり、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30

【請求項14】
請求項13において、
FT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比が0.15以下である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。

【請求項15】
EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理し、さらに蒸留して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、
前記原料油脂が魚油であり、
前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、
前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、
低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して90質量%以上含み、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価が2以上12以下であり、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30

【請求項16】
請求項15において、
FT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比が0.075以下である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。

【請求項17】
請求項13ないし16のいずれか1項において、
酸価が2以上5未満である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。

【請求項18】
請求項13または14に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を蒸留して、請求項15または16に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物と、前記組成物以外の成分とを分離する工程を含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。

【請求項19】
請求項15又は16に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有物を銀塩の水溶液で接触させる工程を含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。

【請求項20】
請求項15ないし17のいずれか1項に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物以外の低級アルコール脂肪酸エステル化物を分離することにより、前記低級アルコールEPAエステル化物を得る工程を含む、
低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。

【請求項21】(削除)

【請求項22】
請求項7ないし12、18、および19のいずれか1項に記載の製造方法により得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物、及び請求項13ないし17に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物から選ばれる少なくとも1種を使用して食品組成物を得る工程を含む、食品組成物の製造方法。

【請求項23】
請求項7ないし12、18、および19のいずれか1項に記載の製造方法により得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物、及び請求項13ないし17に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物から選ばれる少なくとも1種を使用してカプセル剤を得る工程を含む、カプセル剤の製造方法。

【請求項24】
EPA含有グリセリドを含有する原料油脂を、1,3位特異リパーゼを用いて処理して、低級アルコールEPAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る処理において、
前記原料油脂が魚油であり、
前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、
前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、
前記処理の反応液中における添加された水分含量が0.5質量%以上であり、
前記反応液の酸価が2以上12以下であり、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して50質量%以上90質量%以下含み、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物における、前記低級アルコールDHAエステル化物に対する前記低級アルコールEPAエステル化物のモル比率(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)が3.0以上30以下であり、
前記処理後の固定化酵素を繰り返し使用する方法。」

第4 平成28年12月22日付けで通知した取消理由、及びこの取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立理由(以下、「申立理由」という。)の概要

1 取消理由の概要

請求項1ないし3、5、7ないし20、22ないし24(請求項1ないし3、5、7ないし20、22ないし24に係る特許)(当審注:取り下げられたものと見なされた平成28年9月5日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲に記載された請求項。以下、「第2」と区別して「先の請求項」という。)に対して平成28年12月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)特許法第36条第6項第1号

先の請求項1ないし3、5、7ないし20、22ないし24に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものでなく、先の請求項1ないし3、5、7ないし20、22ないし24に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由1」という。)。

(2)特許法第36条第6項第2号

先の請求項1ないし3、5、7ないし20、22ないし24に係る発明が、明確でなく、先の請求項1ないし3、5、7ないし20、22ないし24に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由2」という。)。

(3)特許法第29条第2項

先の請求項13ないし20、22、23に係る発明は、下記刊行物1(甲第2号証)に記載された発明及び刊行物2ないし4に記載される周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、先の請求項13ないし20、22、23に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由3」という。)。



刊行物1:特許第4236128号公報(特許異議申立で提出された甲第2号証)
刊行物2:特開平4-159398号公報
刊行物3:特開平4-243849号公報
刊行物4:特開2010-64974号公報

2 平成28年12月22日付けで通知した取消理由に採用しなかった申立理由の概要

(1)特許法第36条第6項第2号(特許異議申立書第7頁第26行?第9頁第6行参照。)

特許された請求項1ないし24に係る発明が、明確でなく、請求項1ないし24に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「申立理由1」という。)。

(2)特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号(特許異議申立書第9頁第7行?第21頁第19行参照。)

本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、請求項1ないし12、18ないし20、22ないし24(方法の発明)に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであると共に、特許された請求項1ないし12、18ないし20、22ないし24に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものでなく、請求項1ないし12、18ないし20、22ないし24に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「申立理由2」という。)。

(3)特許異議申立てで提出された証拠

甲第1号証:Enzyme Microb.Technol.,1993,vol.15,July p601-606(部分訳文が添付されている。)
甲第2号証:特許第4236128号公報
甲第3号証:特許第5204776号公報
甲第4号証:水産ハンドブック、2012年6月10日発行、第450、451頁
甲第5号証:基準油脂分析試験法、2013年版、1.6
甲第6号証:第16改正日本薬局方、平成23年4月1日、第394、395頁
甲第7号証:Enzyme and Microbial Technology 26(2000)p516?p529
甲第8号証:Ecology of Food and Nutrition,44(2005)p23?p35

第5 当審の判断

1 取消理由1(特許法第36条第6項第1号)について

(1)先の請求項1ないし3、5、7ないし12、22ないし24に係る発明に対して通知した取消理由1について

先の請求項1ないし3、5、7ないし12、22ないし24に係る発明に対して、通知した取消理由1は、要するに以下のものである。

『本件発明は、本件明細書の段落【0006】の記載によれば、「簡便な方法にて、純度が高い低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を効率良く得ることができる低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法および低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を提供する」ことを発明の課題とするものである。
ここで、本件発明1は、「製造方法」の発明であるところ、本件発明1での製造方法としての具体的手段は、「固定化された固定化酵素である1,3位特異リパーゼを用いる」ということだけであるが、リパーゼを用いた処理で、本件発明1で特定されている処理後の反応液や低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に関する条件を満たすことが、実際、確認されているのは「サーモマイセス・ラヌギノーゼ(Thermomyces lanuginose)」(段落【0153】)及び「リパーゼFAP-15」(Rhizopus sp.)(段落【0179】)のみである。
そして、単に1,3位特異リパーゼといっても、反応性や、反応特異性が異なることは、技術的な常識であり、単に1,3位特異リパーゼであるだけで、本件発明1で特定されている処理後の反応液や低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に関する規定を満たすことができるとはいえないし、リパーゼによる反応の条件によっても、処理後の反応液や低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の組成は変化するといえるから、本件発明は、1,3位特異リパーゼ及び本件発明1に特定される反応条件「以外」の反応条件に関し、上記の発明の課題を解決するための特定がなされていないと言わざるを得ない。
そうすると、「1,3位特異リパーゼ」及び「リパーゼによる反応の条件」に関し、本件発明1等は、本件の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。』

まず、1,3位特異リパーゼに関し検討するに、この理由に対し、本件訂正で、本件発明1等で、原料油脂が「魚油」であることが特定された。ここで、「1,3位特異リパーゼ」とは、本件明細書の段落【0058】の記載によれば、グリセリドの1,3位に特異的に作用するリパーゼであるといえるところ、「魚油」は、同段落【0047】の記載によれば、EPA及びDHA等の脂肪酸を構成脂肪酸とするグリセリン脂肪酸エステルを含むものであって、特許権者が、提出した乙第1号証の段落【0003】の「EPAやDHAを含有する油としては海産動物油、特にマグロ、カツオ、イワシ、サバ、サンマ、アジ、イカ、タラ、アザラシ等に含まれる油が挙げられる。マグロ油を例にとってトリアシルグリセロール(トリグリセリドと言う場合もある)の分子種分布を調べると、EPAはトリアシルグリセロールの1,2,3位にほぼ均等に存在しているのに対し、DHAは2位に多く存在する。」の記載によれば、海産動物油(魚油)では、EPAがトリアシルグリセロールの1,2,3位にほぼ均等に存在しているのに対し、DHAは2位に多く存在するものである。これにより、この魚油を、その種類に限定されることなく1,3位特異リパーゼを用いて低級アルコールでのエステル化を行えば、低級アルコールDHAエステル化物に対し低級アルコールEPAエステル化物を相対的に多く得ることができることが理解できる。
また、本件発明は、本件発明1に「反応液中における添加された水分含量が0.5質量%以上」と特定されるように酵素処理の反応液に積極的に「水」を添加することにより、同段落【0036】の記載によれば、酵素の安定性が高められる結果、酵素の繰り返し使用が可能になり、かつ、酵素反応により生じるグリセリンを水中に誘導させることで、グリセリンが油中で固まるのを防止し、酵素反応を円滑に進行させることができること、また、同段落【0076】の記載によれば、原料油脂が加水分解されて遊離脂肪酸が生成する結果、該反応液中の遊離脂肪酸の濃度が高くなる(該反応液の酸価が高くなる)ため、酵素安定性が高められるが、この作用機序は、特に、1,3位特異リパーゼの種類に限定されるものではないことが理解できる。
そして、同段落【0153】?【0170】【表1】に記載される水分含量を0.5質量%?50質量%まで変化させた条件で1,3位特異リパーゼである「サーモマイセス・ラヌギノーゼ(Thermomyces lanuginose)」(段落【0153】)を用いて酵素反応を行った実施例1?8で、本件発明1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量、「低級アルコールDHAエステル化物に対する低級アルコールEPAエステル化物のモル比率」が本件発明1の範囲を満足すること、実施例1では、酸価が本件発明1の範囲を満足することが示されているところ、特許権者が、提出した乙第3号証には、本件発明の実施例で用いられている1,3位特異リパーゼ以外の1,3位特異リパーゼである「Rhizomucor Miehei」等を用いても、本件発明1で特定されている処理後の反応液や低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に関する条件を満たす低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物が得られることが示されている。
そうすると、本件発明1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量、「低級アルコールDHAエステル化物に対する低級アルコールEPAエステル化物のモル比率」及び「反応液の酸価」の範囲を満たす低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る上で、「1,3位特異リパーゼ」が、本件明細書の実施例に記載される特定の1,3位特異リパーゼである必要があるとまではいえない。

次に、リパーゼによる反応の条件について検討するに、本件明細書の実施例を見ても、反応は、「30℃にて24時間」反応させる(段落【0154】)というもので特別な反応条件を採用しているものではないから、本件発明1に「リパーゼによる反応の条件」の詳細が特定されていないからといって、本件発明1の上記の各範囲を満たす低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得ることができない(本件発明の発明の課題を解決することができない)とまではいえない。

よって、本件発明1、本件発明を引用する2、3、5、7ないし12、22、23、及び本件発明1と同様の特定がなされている本件発明24が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。

(2)先の請求項13?20、22、23に係る発明に対して通知した取消理由1について

先の請求項13?20、22、23に係る発明に対して、通知した取消理由1は、要するに以下のアないしウの3点である。

ア 『本件発明13は、「低級アルコール脂肪酸エステル化物を50質量%以上90質量%以下含み、
酸価が2以上12以下であり、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30」との特定がなされているところ、この特定では、この低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物が、原料油脂をリパーゼを用いて処理することで得られたものであるのか明らかでなく、また低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物中の低級アルコール脂肪酸エステル化物「以外」の物質や、低級アルコール脂肪酸エステル化物中の低級アルコールEPAエステル化物、低級アルコールDHAエステル化物「以外」の物質が任意のものを含むことになるが、本件の発明の詳細な説明に記載されるのは、あくまで、原料油脂をリパーゼを用いて処理することで得られたものであるから、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物中の低級アルコール脂肪酸エステル化物「以外」の物質や、低級アルコール脂肪酸エステル化物中の低級アルコールEPAエステル化物、低級アルコールDHAエステル化物「以外」の物質は、原料油脂をリパーゼを用いて処理する際の「特定」の物質であるはずである。
そうすると、本件発明13は、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」、「低級アルコールEPAエステル化物」及び「低級アルコールDHAエステル化物」以外の物質に関し、本件の発明の詳細な説明の記載に対応しないものである。
また、本件発明15についても、発明の詳細な説明の記載には、原料油脂をリパーゼを用いて処理することで得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を、さらに、蒸留して得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であることしか記載されていないから、本件発明15も、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」、「低級アルコールEPAエステル化物」及び「低級アルコールDHAエステル化物」以外の物質に関し、本件の発明の詳細な説明の記載に対応しないものである。』

イ 『本件発明13及び15では、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれる酸に関し、「酸価が2以上12以下であり」と特定されるのみであり、この酸価が、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂」から生成した「遊離脂肪酸」であることが明らかでない。そして、「遊離脂肪酸」に限定されない単なる「酸」を意味するだけでは、本件の発明の詳細な説明に記載されるようにこの酸によりリパーゼが安定化することができるとはいえない。
そうすると、本件発明13及び15は、「酸価」で表される酸に関し、本件の発明の詳細な説明の記載に対応しないものである。』

ウ 『「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に係る本件発明13は、酸価が2?12であることが特定されている。
一方、本件明細書には、原料油脂をリパーゼを用いて処理することで得られた「反応液」に関しては、酸価が2?12であることは記載されている(段落【0070】、【0071】)。ここで、上記「反応液」が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」と異なるものである場合には、本件明細書には、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の酸価は、「5.95」、「6.17」(段落【0155】)の記載しかないこととなり、酸価が「2?12」であることは記載されていないこととなる。
また、酸価に関し同じ特定のある本件発明15についても、明細書には、酸価が「10.1」(段落【0172】)の記載しかなく、酸価が「2?12」であることは記載されていない。
そうすると、本件発明13及び15の「酸価2?12である」ことは、本件の発明の詳細な説明に記載された事項ではない。』

エ 上記「ア」、「イ」について

上記「ア」、「イ」の取消理由に対し、本件訂正により、本件発明13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」は、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であり、前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、前記リパーゼが固定化された固定化酵素であ」るものに特定され、
本件発明15の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」は、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理し、さらに蒸留して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であり、前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、前記リパーゼが固定化された固定化酵素であ」るものに特定された。
そして、この訂正により、本件発明13及び15の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物が、魚油を、固定化された1,3位特異リパーゼを用いて処理したものであることが明らかになり、本件発明13、15及び本件発明13又は15を引用する本件発明14、16ないし20、22、23は、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」、「低級アルコールEPAエステル化物」及び「低級アルコールDHAエステル化物」以外の物質に関し、本件の発明の詳細な説明の記載に対応しないものであるということはいえない。
また、本件発明13及び15で、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の「酸価」を発生する酸に関しても、魚油を固定化された1,3位特異リパーゼを用いて処理した際に生成する「遊離脂肪酸」であることが明らかとなったから、本件発明13、15及び本件発明13又は15を引用する本件発明14、16ないし20、22、23は、「酸価」に関し、本件の発明の詳細な説明の記載に対応しないものであるということはいえない。

本件発明13及び15の上記の訂正に係る事項は、製造に関して技術的な特徴や条件が付されたものであるから、本件発明13及び15には、その物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)とされている。
そこで、本件発明13及び15が明確であるか否かについて検討するに、本件発明13及び15は、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物が、魚油を固定化された1,3位特異リパーゼを用いて処理したものであることを特定するものである。
ここで、魚油である原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、グリセリドの他に多様な成分さらには不純物を含む魚油を、酵素処理して得られるものであるから、主要な成分である「低級アルコール脂肪酸エステル化物」、「低級アルコールEPAエステル化物」及び「低級アルコールDHAエステル化物」の他に、酵素処理で生じる他の生成物や未反応物、さらには不純物等多種多様な成分が含まれるものである。
そして、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の多種多様な成分を解析して特定することは、本件優先日当時における成分分析の技術をしても可能であったとはいうことができないし、仮にそれが可能であったとしても、多くの試行錯誤を重ねて多種多様な成分を分析してそれを請求項に特定することは、およそ実際的ではないといえる。
そうすると、本件発明13及び15には、不可能・非実際的事情が存在するといえるから、本件発明13及び15に、その物の製造方法が記載されているとしても、発明が明確でないということにはならない。

オ 上記「ウ」について

本件明細書の段落【0135】の「<第1組成物>
本発明の一実施形態に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物(以下、「第1組成物」ともいう。)は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下(より具体的には、50質量%以上80質量%以下)含み、前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む。第1組成物は、例えば、上述の酵素処理又は上述の酵素処理とそれに続く銀処理により得ることができる。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30」との記載によれば、第1組成物とされる低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物が、酵素処理(又は上述の酵素処理とそれに続く銀処理)により得るものであることが理解でき、この酵素処理により得られるものは、「反応液」であるといえる。
そうすると、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価は、反応液の酸価と同じになるから、本件発明13、15及び本件発明13又は15を引用する本件発明14、16?20、22、23の「酸価2?12である」ことは、本件の発明の詳細な説明に記載された事項ではないとはいえない。

(3)取消理由1のまとめ

上記(1)、(2)で述べたように、本件発明1ないし3、5、7ないし20、22ないし24は、発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえないから、本件特許1ないし3、5、7ないし20、22ないし24は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであるとすることはできない。

2 取消理由2(特許法第36条第6項第2号)について

(1)先の請求項1ないし3、5、7ないし12、22ないし24に係る発明に対して通知した取消理由2について

先の請求項1ないし3、5、7ないし12、22ないし24に係る発明に対して、通知した取消理由2は、要するに以下のものである。

『本件発明で「本件発明1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の意味が明らかでない。また、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」とリパーゼ反応後の「反応液」との関係が明かでない。』

上記「1(2)オ」で述べたように、本件明細書の段落【0135】の記載によれば、本件発明では、酵素処理により得られた「反応液」が、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物とされているし、また、酵素処理とそれに続く銀処理がなされたものも、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物とされている。さらには、同段落【0141】及び【0142】の記載によれば、同段落【135】に記載される第1組成物とされる低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を分子蒸留処理又は分子蒸留処理とこれに続く銀処理により得られた第2組成物も、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物とされている。
これを踏まえると、本件において、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物とは、低級アルコールEPAエステル化物、低級アルコールDHAエステル化物等を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物、原料及び原料からの反応物であるグリセリドを主として含み、他に水や低級アルコール、遊離脂肪酸なども含み得るものを統括的に低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物としていることが理解できる。
そうすると、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の意味が明らかでないとはいえないし、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」とリパーゼ反応後の「反応液」との関係が明かでないともいえない。

(2)先の請求項13ないし20、22、23に係る発明に対して通知した取消理由2について

先の請求項13ないし20、22、23に係る発明に対して、通知した取消理由2は、要するに以下のものである。

『本件発明13の特定では、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量が100質量%に達していないが、残部が何からなるものであるのか明らかでないから、本件発明13の記載は、明確でない。 本件発明15についても、「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量が100質量%に達しない場合、残部が何からなるものであるのか明らかでないから、本件発明15の記載は、明確でない。』

本件訂正により、本件発明13及び15において、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」が、EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られたものであるか、又はそれを蒸留して得られたものであると特定されることにより、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の残部が、グリセリドや酵素分解処理で生じる生成物、未反応物及び不純物等多種多様な成分であることが明らかになったから、本件発明13、15及び本件発明13又は15を引用する本件発明14、16?20、22、23は、明確でないとはいえない。

(3)先の請求項22、23に係る発明に対して通知した取消理由2について

先の請求項22、23に係る発明に対して、通知した取消理由2は、要するに以下のものである。

『本件発明22及び23は、「・・・及び請求項13ないし17および21に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」と特定されているが、「請求項21」は、存在しないから、「請求項21」を引用する本件発明22及び23は、明確でない。』

本件訂正により、本件発明22及び23は、「・・・及び請求項13ないし17に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」と訂正されることにより、本件発明22及び23は、「請求項21」を引用しないものとなったから、本件発明22及び23は、明確でないとはいえない。

(4)取消理由2のまとめ

上記(1)ないし(3)で述べたように、本件発明1ないし3、5、7ないし20、22ないし24は、明確でないとはいえないから、本件特許1ないし3、5、7ないし20、22ないし24は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであるとすることはできない。

3 取消理由3(特許法第29条第2項)について

(1)刊行物に記載の事項

ア 刊行物1(特許第4236128号公報)の記載事項

(ア-1)第2頁左欄第35行?右欄第6行
「【請求項12】
実質的に純粋なEPAならびに実質的に純粋なDHAを得るための、請求項7?9のいずれか1つに記載の方法であって、さらに次の工程:
(i)1%未満の水含量の条件下、かつEPAのエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に、C_(1)?C_(6)アルコールにより前記グリセリド画分をエステル交換する工程;
(ii)得られたEPAに富むC_(1)?C_(6)アルコールエステル画分と残余のDHAに富むグリセリド混合物とを分離する工程;
(iii)上記EPA-C_(1)?C_(6)アルコールエステル画分を処理し、そして該EPA画分を実質的に100%の純度にまで濃縮する工程;
(iv)DHAのエステル交換を触媒するに活性なリパーゼの存在下に、C_(1)?C_(6)アルコールにより上記DHAに富むグリセリド混合物をエステル交換する工程;および
(v)得られたDHA-C_(1)?C_(6)アルコールエステル画分を処理し、そして該DHA画分を実質的に100%純正なDHAにまで濃縮する工程;
を含む、方法。」

(ア-2)第3頁左欄第29行?右欄第9行
「本発明は、より高い濃度の多不飽和脂肪酸を有する精製された生成物を得るために、グリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する油組成物を処理する新規な方法に関する。本発明は、特に好ましい態様において、魚油組成物中のEPAおよびDHAの濃度を上昇させる方法を提供する。
・・・(略)・・・
広く知られているように、EPAおよびDHAは特に医薬産業および食品添加物産業においてその価値が上昇している。」

(ア-3)第6頁右欄第3?28行
「本発明の方法の重要な特徴は、リパーゼで触媒されるエステル交換が実質的に無水の反応条件下に実施されなければならないことである。好ましくは、反応系内の総水量は、海産油とリパーゼを含む全ての供給源からのものを合わせて1%(w/w)未満でなければならず、好ましくは0.5(w/w)未満であり、そして最も望ましくは0.01?0.25%(w/w)の間である。(典型的な場合において、海産油出発材料は0.1?0.2%(w/w)の水を含有し、アルコール試薬として使用される無水エタノールは0.2?0.5%(w/w)の水を含有し、そしてリパーゼ調製物は2?2.5%(w/w)の水を含有している。)
しかし、少量の水、一般的にはリパーゼの重量に基づいて約1?2重量%が、活性を成立させるためには酵素系内に常に必要とされるので、完全な無水反応条件を採用することは不可能である。必要とする水の量は使用する酵素に非常に大きく依存する(例えばカンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)のリパーゼは本発明の方法において最大の活性を発揮するために約10重量%の水の添加を必要とする)。後記実施例に示すとおり、これらの極少量の水は有意な加水分解を全く引き起こさず、そしてエステル交換された生成物中の遊離脂肪酸の濃度を3重量%未満に維持すること、即ち既述のズイとワードの報告の約10%だけの加水分解率を維持することが可能である。」

(ア-4)第8頁左欄第6?49行
「例えば、高度に濃縮されたEPAおよびDHAを含有するエチルエステル組成物を得ることが所望であれば、分子蒸留後に得られるグリセリド画分は、例えば、触媒量のナトリウムエトキシドまたはカリウムエトキシド等の存在下に無水エタノールを用いた化学的エステル交換によりエステル化されることができる。この方法は、次の反応式により模式的に説明される。

(単純化のために、1,2-および2,3-ジグリセリドおよび2-モノグリセリドだけが上記式中に示されている。)
次いで、製造されたグリセロールが公知の技法を用いて除去され得る。典型的には、これは、従来法に比べて非常に良好な多不飽和脂肪酸の回収による、約45?50重量%のEPA+DHA含量をもたらす。
より具体的には、本発明による高濃度EPA+DHA組成物を得るための統合方法は、さらに次の工程:
(c)ナトリウムエトキシドまたはカリウムエトキシド等の塩基をエステル交換を触媒するに充分な量だけ含有するアルカリ性環境のような化学的触媒作用か、または実質的に無水である条件下でカンジダ・アンタラクチカ(Candida antarctica)のリパーゼを用いるような酵素的触媒作用を用いて、グリセリド画分を低級アルコールによりエステル交換する工程;
(d)得られたアルキルエステル生成物をアルカノール中で過剰の尿素と共に55?99℃の温度に加熱する工程;
(e)工程(d)の生成物を、例えば0?25℃に冷却して尿素脂肪酸アルキルエステル付加物を沈殿し、その後、該付加物を分離除去してn-3脂肪酸エステルを主に含有する溶液を残す工程;
(f)工程(e)で残した溶液からn-3脂肪酸アルキルエステルを分離する工程;および
(g)工程(f)で得られた混合物から全ての溶媒を除去する工程;
を含む。
本発明の統合方法の特に好ましい態様において、工程(g)で得られた濃縮物が、例えば9工程の分子蒸留のような1種類またはそれ以上の手段によりさらに濃縮されて、その中に含まれるEPA+DHA濃度が85重量%またはそれ以上に上昇させられる。」

(ア-5)第9頁左欄第45行?右欄第28行
「実施例 1
本研究の目的は、多不飽和脂肪酸、特にEPAおよびDHAを、魚油組成物中の飽和および単不飽和脂肪酸から分離するための方法における種々のリパーゼの使用を試験することであった。
下記のリパーゼを試験した:

1つの試験において、上記リパーゼのそれぞれを37℃で試験し、その結果を表Iに示した。別の試験においては、2種類のシュードモナス属(Pseudomonas)のリパーゼであるPFLとPSLを20℃で試験し、その結果を表IIおよびIIIに示した。
試験に使用した手順は次の通りである:
魚油のトリグリセリドをプロノバ・バイオケア社(Pronova Biocare a.s., Norway)から調達したが、それは14.9%のEPAと9.8%のDHAを含有していた。これらは、さらなる処理をすることなく調達したままで直接使用した。全ての溶媒は分析品質のものをメルク社(Merck AG in Germany)から購入した。特に断らない限り、化学量論量、即ちトリグリセリドに基づいて3モル当量の(無水)エタノールを使用した。カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)のリパーゼを用いた場合以外は、反応系に水は全く添加しなかった。魚油出発材料およびリパーゼから生じる水の含量を約0.3?0.4重量%と計算した。カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)のリパーゼを用いた場合には、リパーゼの重量に基づき10重量%の量で水を添加し、結果として総量で約0.8重量%の水を含有する反応系とし、この場合でさえも実質的に無水である条件を維持した。」

(ア-6)第10頁左欄第13行?第36行
「典型的な手順において、リパーゼ(0.5g)を、魚油[5.0g、約5.67ミリモル(分子量約882g/モル)]と無水エタノール(0.80g、17.4ミリモル)の混合物に添加した。得られた酵素懸濁液を窒素雰囲気下に室温(表Iの研究においては37℃)で穏やかに攪拌した。適当な時間をおいた後、クロロホルムの添加および濾過による酵素の分離により反応を止めた。有機溶媒を真空下(回転蒸留器および高真空ポンプ処理)に除去して定量的収量で粗生成物混合物を得た。生成物を等量のクロロホルムに溶解し、上記の通りHPLC装置に注入した。それぞれの画分を収集して溶媒を真空下に蒸留し、計量し、そして最後にガスクロマトグラフィーにて分析した。
分取HPLCの代わりに分取TLCを用いた場合には、適当なときにパスツールピペットを用いて少量(100?200mg)の試料を反応系から取り出した。試料を第2のパスツールピペット内に設置した綿羊毛栓に通すことにより、酵素粒子を分離した。次いで、TLCプレートに導入する前に、それぞれの試料をクロロホルムに希釈した(250mg/mL)。
結果を、下記表I?IIIに示す:
最初の表である表Iは、試験したリパーゼ全てを用いて37℃で(3モル当量のエタノールを用いて)実施された研究の結果を要約している。」

(ア-7)第10頁左欄「表1」「CAL」




(ア-8)第11頁右欄第35行?第40行
「上記表I?IIIにおいて、下記略号を使用している:
MG モノグリセリド
DG ジグリセリド
TG トリグリセリド
FFA 遊離脂肪酸
EE エチルエステル」

(ア-9)第16頁【図1】




(ア-10)第16頁【図2】




イ 刊行物2(特開平4-159398号公報)の記載事項

(イ-1)第1頁左下欄第4行?15行
「2.特許請求の範囲
1.高度不飽和脂肪酸又はその誘導体を、銀塩を含有する水性媒体に接触せしめて吸収溶解し、不溶物を除去した後、水性媒体と分離可能な有機溶媒を用いて抽出する事を特徴とする高度不飽和脂肪酸又はその誘導体の取得方法。
3.発明の詳細な説明
〔産業上の利用分野〕
本発明は、サバ、イワシ等の魚油に含まれているエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の高度不飽和脂肪酸又はその誘導体の抽出分離、精製する方法に関する。」

ウ 刊行物3(特開平4-243849号公報)の記載事項

(ウ-1)【特許請求の範囲】
「【請求項1】 高度不飽和脂肪酸類の含有物に銀塩を含む水性媒体溶液を混合し、次いで混合物から水性媒体相を分離し、この水性媒体相を混合していた場合の温度より高い温度にまで加温して油脂相と水性媒体相とを形成し、この水性媒体相部分を除去することを特徴とする高度不飽和脂肪酸類の精製方法。
【請求項2】 請求項1の方法において加熱の際に脂溶性疎水溶媒を系に共存させることを特徴とする方法。」

(ウ-2)【0001】
「【産業上の利用分野】本発明は、純度の高い高度不飽和脂肪酸又はそのエステル、酸アミド更には高度不飽和アルコール等の高度不飽和脂肪族化合物(本明細書に於いて単に高度不飽和脂肪酸類と呼ぶ)を得る方法であり、サバ、イワシ等の魚油に含まれているエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の高度不飽和脂肪酸またはその誘導体、ブタ等の動物油に含まれているアラキドン酸等の高度不飽和脂肪酸またはその誘導体、植物油に含まれているα-リノレン酸、γ-リノレン酸等の高度不飽和脂肪酸またはその誘導体、更に藻類や微生物由来の高度不飽和脂肪酸またはその誘導体等の抽出分離、精製する方法に利用することができる。」

エ 刊行物4(特開2010-64974号公報)の記載事項

(エ-1)【特許請求の範囲】
「【請求項1】
高度不飽和脂肪酸誘導体を含有する脂肪酸の誘導体の混合物を銀塩の水溶液と接触せしめ、高度不飽和脂肪酸の誘導体を取得する方法において、上記銀塩水溶液を繰り返し使用するにあたり、上記銀塩水溶液中の遊離脂肪酸含量を、銀1g当り0.2meq以下とすることを特徴とする、高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法。
【請求項2】
銀塩水溶液を、吸着剤に接触せしめることにより遊離脂肪酸含量を銀1g当り0.2meq以下とする、請求項1に記載の高度不飽和脂肪酸の取得方法。
【請求項3】
上記銀塩水溶液に接触せしめる前の上記脂肪酸の誘導体の混合物の酸価が5以下である、請求項1又は2記載の高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法。
【請求項4】
銀塩水溶液に接触せしめる前の上記脂肪酸の誘導体の混合物を、吸着剤に接触せしめることにより酸価を5以下とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法。」

(2)刊行物1に記載の発明

上記(ア-5)の記載によれば、刊行物1の「実施例1」には、EPAとDHAを含有する魚油のトリグリセリドを、種々のリパーゼによりエタノール存在下、反応系での水の含量が約0.3?0.4重量%のもとで反応させた試験例が記載されているところ、リパーゼの「CAL」(上記(ア-5)の記載によれば、カンジダ・アンタラクチカ)について、上記(ア-6)の実験条件のもとで反応を行い、上記(ア-7)に示される結果によれば、「EE」(上記(ア-8)の記載によれば、エチルエステルである)が47.3重量%、このエチルエステル中、「EPA」が18.51重量%、「DHC」が4.33重量%含む、「エチルエステル含有組成物」が得られることが記載されている。
そうすると、刊行物1には、
「EPAとDHAを含有する魚油のトリグリセリドを、CAL(カンジダ・アンタラクチカ)によりエタノール存在下、反応液での水の含量が約0.3?0.4重量%のもとで反応させて得られた、エチルエステル(EE)が47.3重量%、エチルエステル中、EPAのエチルエステルが18.51重量%、DHAのエチルエステルが4.33重量%含む、エチルエステル含有組成物。」(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断

ア 本件発明13について

本件発明13と刊行物1発明を対比すると、エチルエステルを形成するエチルアルコールが、「低級アルコール」であることは、技術的な常識であるから、刊行物1発明の「エチルエステル(EE)」、「EPAのエチルエステル」、「DHAのエチルエステル」、及び「エチルエステル含有組成物」は、それぞれ、本件発明13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物」、「低級アルコールEPAエステル化物」、「低級アルコールDHAエステル化物」、及び「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に相当する。
そして、刊行物1発明の「魚油」は、本件発明13の「魚油」である「原料油脂」に相当し、刊行物1発明の「EPAとDHAを含有する魚油のトリグリセリド」は、本件発明13の「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂」に相当し、刊行物1発明の「CAL(カンジダ・アンタラクチカ)」は、本件発明13の「1,3位特異リパーゼ」と、「リパーゼ」である点で共通するから、刊行物1発明で、「EPAとDHAを含有する魚油のトリグリセリドを、CAL(カンジダ・アンタラクチカ)によりエタノール存在下、反応液での水の含量が約0.3?0.4重量%のもとで反応させて得られた・・・エチルエステル含有組成物」は、本件発明13と、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂をリパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であ」る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であるという点で共通する。
また、刊行物1発明の「エチルエステル(EE)」の含有量に関し、上記(ア-7)の記載によれば、エチルエステル(EE)の重量%と、モノグリセリド/ジグリセリド/トリグリセリド(MG/DG/TG)の重量%の合計が100重量%となることから、刊行物1発明の「エチルエステル(EE)」の47.3重量%は、「エチルエステル(EE)」と、本件発明13の「グリセリド」に相当する「モノグリセリド/ジグリセリド/トリグリセリド(MG/DG/TG)」の総量に対するものであると共に、「エチルエステル(EE)」を、「エチルエステル(EE)」と「モノグリセリド/ジグリセリド/トリグリセリド(MG/DG/TG)」の総量に対して、「所定量」含むという点で、本件発明13に共通するといえる。
さらに、刊行物1発明の「エチルエステル中、EPAのエチルエステルが18.51重量%、DHAのエチルエステルが4.33重量%含む」点に関し、
EPAのエチルエステルの分子量が約318、DHAのエチルエステルの分子量が約344であるから、低級アルコール脂肪酸エステル化物における、低級アルコールDHAエステル化物に対する低級アルコールEPAエステル化物のモル比率(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)は、換算すると、約「4.62」(換算式:(18.51/318)/(4.33/344))となり、本件発明13の「3.0以上30以下」の範囲に含まれるものである。

そうすると、本件発明13と刊行物1発明は、
「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂をリパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、
前記原料油脂が魚油であり、
低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して所定量含み、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

(相違点1)
低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に関し、本件発明13では、酸価が2以上12以下であるのに対し、刊行物1発明では、酸価が明らかでない点。

(相違点2)
低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物が、本件発明13では、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であり、前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、前記リパーゼが固定化された固定化酵素である低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」であるのに対し、刊行物1発明では、「EPAとDHAを含有する魚油のトリグリセリドを、CAL(カンジダ・アンタラクチカ)によりエタノール存在下、反応液での水の含量が約0.3?0.4重量%のもとで反応させて得られたエチルエステル含有組成物」である点。

(相違点3)
低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれる低級アルコール脂肪酸エステル化物の低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対する含有量に関し、本件発明13では、50質量%以上90質量%以下であるのに対し、刊行物1発明では、47.3質量%である点。

上記(相違点1)について以下検討する。

刊行物1発明は、EPAとDHAを含有する魚油のトリグリセリドを、CAL(カンジダ・アンタラクチカ)によりエタノール存在下で、反応液での水の含量が約0.3?0.4重量%のもとで反応させて得られたエチルエステル含有組成物である。そして、この水分量は、上記(ア-3)の「本発明の方法の重要な特徴は、リパーゼで触媒されるエステル交換が実質的に無水の反応条件下に実施されなければならないことである。・・・しかし、少量の水、一般的にはリパーゼの重量に基づいて約1?2重量%が、活性を成立させるためには酵素系内に常に必要とされるので、完全な無水反応条件を採用することは不可能である。・・・後記実施例に示すとおり、これらの極少量の水は有意な加水分解を全く引き起こさず、そしてエステル交換された生成物中の遊離脂肪酸の濃度を3重量%未満に維持すること、即ち既述のズイとワードの報告の約10%だけの加水分解率を維持することが可能である。」との記載によれば、刊行物1発明の反応液での水の含量が約0.3?0.4重量%とは、本来無水の反応条件下に実施されなければならないが、酵素の活性を成立させるため必要な最低限度の水分量であるといえる。
そして、上記(ア-3)には、さらに、この極少量の水(約0.3?0.4重量%)は有意な加水分解を全く引き起こさないとされているから、同記載に「エステル交換された生成物中の遊離脂肪酸の濃度を3重量%未満に維持する」と記載されているとしても、加水分解により生じる実際の「遊離脂肪酸」の濃度は、3重量%近くまで上昇することはないといえるし、異議申立人の主張(異議申立書第16頁第1、2行)によれば、酸価が2となる1重量%(概算では、酸価の数値は、%で表した遊離脂肪酸の含有量の約2倍になる)にも、「遊離脂肪酸」の濃度が上昇するとはいえない。
さらに、刊行物1発明は、有意な加水分解を全く引き起こさない、すなわち、「遊離脂肪酸」を発生させないことを志向するものであるから、「遊離脂肪酸」の濃度を上昇させて、刊行物1発明の「酸価」を、本件発明13の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価である2以上12以下の範囲に重複するものとすることは、たとえ当業者であったとしても、容易に想到し得るとはいえない。
また、刊行物2ないし4にも、刊行物1発明の「酸価」を、本件発明13の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価である2以上12以下の範囲に重複するものとすることを示唆する記載は見当たらない。

一方、本件発明13は、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価が2以上12以下」との特定に対応して、本件明細書の段落【0076】及び【0077】の記載によれば、本件発明13は、反応液中の水分量をむしろ高めるものであり、これにより、反応液中の遊離脂肪酸の濃度を高くし、この遊離脂肪酸とリパーゼとの相互作用により、反応液中の反応基質以外の物質がリパーゼに直接接触することにより引き起こされるリパーゼの失活を防ぐことができ、リパーゼの安定性を高めることができるという格別の効果を奏するものであるといえる。
そうすると、上記(相違点1)により、本件発明13は、同段落【0076】及び【0077】に記載される「リパーゼの安定性が高められる」という格別の効果を奏するものである。

よって、上記(相違点2)及び(相違点3)を検討するまでもなく、上記(相違点1)が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明13は、刊行物1発明及び刊行物2ないし4に記載される周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件特許13は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

イ 本件発明15について

本件発明15は、本件発明13が、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」であるのに対し、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理し、さらに蒸留して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」である点、及び、本件発明13が「低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して50質量%以上90質量%以下含」むのに対し、「低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して90質量%以上含」む点のみで本件発明13と相違している。

そして、本件発明15と刊行物1発明との間には、上記「ア 本件発明13について」で述べた(相違点1)と同じ相違点があるから、その相違点についての判断も、本件発明13と同じとなり、本件発明15は、刊行物1発明及び刊行物2ないし4に記載される周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件特許15は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

ウ 本件発明14、16ないし20、22、23について

本件発明14、16、17は、本件発明13又は15の発明特定事項をさらに限定したものであるし、本件発明18ないし20、22、23は、その発明の中に本件発明13又は15の内容を含むものであるから、本件発明13又は15と同様に、本件発明14、16ないし20、22、23は、いずれも刊行物1発明及び刊行物2ないし4に記載される周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件特許14、16ないし20、22、23は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

(4)取消理由3に関するまとめ

上記(3)で述べたように、本件発明13ないし20、22、23は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2ないし4に記載される周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許13ないし20、22、23は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

4 申立理由1(特許法第36条第6項第2号)について

(1)特許された請求項1ないし24に係る発明に対して申し立てられた申立理由1について

特許された請求項1ないし24に係る発明に対して申し立てられた申立理由1は、要するに以下のものである。

『明細書の段落【0072】には、酸価を「公益社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法(日本油化学会規格試験法委員会編、基準油脂分析試験法(Standard methods for the analysis of fats,oils and related materials):日本油化学会制定、2013年版、1.6 抽出油の酸価)(甲第5号証)により測定することが記載されているが、この基準油脂分析試験法では、酸価とは試料から抽出した油分に含まれる遊離脂肪酸の量を酸価として測定するものと定義されている。
ところが、同段落【0073】の記載によれば、酸価を測定する試料は「反応終了後の反応液」であるところ、「反応終了後の反応液」とは、「グリセリド、低級アルコールエステル、遊離脂肪酸、グリセリン、未反応の水、低級アルコール、リパーゼ」等を含む組成物であるから、本件発明1の酸価は、上記「油分に含まれる遊離脂肪酸の量を酸価として測定するもの」との定義と異なるものである。
そうすると、請求項1、24の「酸価」とは、油分に含まれる遊離脂肪酸の酸価であるのか、本件明細書に記載される意味での酸価であるのか明らかでない。
請求項13及び15の「酸価」も、水等を含む組成物全体を試料として測定した酸価であるのか、油分に含まれる遊離脂肪酸の酸価であるのか明らかでない。』

本件発明1、24では、「反応液の酸価」と特定されると共に、本件発明13及び15では、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価」と特定されているように、本件発明1、24の酸価とは、「反応液」の酸価、本件発明13及び15の酸価とは、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の酸価を意味していることは明らかである。
そして、本件明細書段落【0072】及び【0073】の記載は、本件発明1の「反応液」、本件発明13及び15の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の「酸価」の測定を、上記の「基準油脂分析試験法」に基づいて行うことを意味していると理解すべきであるといえる。
そうすると、上記の点で、本件発明1、24、13、15及びそれらの発明を引用する本件発明2、3、5、7ないし12、14、16ないし20、22、23は、明確でないとはいえない。

(2)特許された請求項21に対して申し立てられた申立理由1について

特許された請求項21に対して申し立てられた申立理由1は、要するに以下のものである。

『請求項21は、物の発明にその物の製造方法が記載されており、物の発明として不明確である。』

本件訂正により、請求項21は、削除されたから、上記の理由はないものとなった。

(3)申立理由1に関するまとめ

上記(1)及び(2)で述べたように、本件発明1ないし3、5、7ないし20、22ないし24は、明確でないとはいえないから、本件特許1ないし3、5、7ないし20、22ないし24は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであるとすることはできない。

5 申立理由2(特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号)について

(1)特許された請求項1ないし24に係る発明に対して申し立てられた申立理由2について

特許された請求項1ないし24に係る発明に対して申し立てられた申立理由2は、要するに以下のものである。

『訂正前の請求項1の特定を、「(A)EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を、リパーゼを用いて処理して、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る工程を含み、
(B)前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、
(C)前記処理の反応液中における水分含量が0.4質量%以上であり、
(D)前記反応液の酸価が2以上12以下であり、
(E)前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下含み、
(F)前記低級アルコール脂肪酸エステル化物における、前記低級アルコールDHAエステル化物に対する前記低級アルコールEPAエステル化物のモル比率
(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)が3.0以上30以下である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。」のように(A)?(F)に分節した場合、(A)?(C)は方法の構成要件であるが、(D)?(F)は目的物を限定する要件であるから、上記の(A)、(B)及び(C)の特定を満たせば、(D)、(E)及び(F)を備えた目的物が得られることになる。
ここで、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証には、いずれも、上記の(A)、(B)及び(C)の各特定に合致する事項が記載されていながら、(D)、(E)及び(F)を備えた目的物が得られていない。
リパーゼ反応では、水とアルコールいずれもがリパーゼ反応の基質となるために、水が存在すれば遊離脂肪酸が生成してしまうところ、前記(D)は、目的物中の遊離脂肪酸量を規定することに対応し、前記(E)は、目的物中の低級アルコール脂肪酸エステル量を規定する。そして、これらは、油脂がリパーゼ反応により、加水分解された生成物とアルコール分解された生成物であるから、前記(D)及び前記(E)を同時に満たす目的物を、どのようにすれば得られるのか、請求項1には、何の開示もない。
実施例のみが、その根拠であるが、前記(D)及び前記(E)を同時に満たす組成物が得られるのが、用いたリパーゼ特有の効果によるものであるのか、他の反応条件などによるものであるのか明らかでない。
請求項1は、方法の発明でありながら、目的物が記載されているだけで、それを得る方法が開示されていないため、その権利範囲について、当業者が実施することができない。あるいは、請求項1は明細書記載がない範囲を含んでおり、サポート要件を欠く発明である。』

まず、本件訂正により、請求項1は訂正されたところ、上記の申し立てを踏まえ本件発明1を分節すると、「(A)EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を、1,3位特異リパーゼを用いて処理して、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る工程を含み、
(B)前記原料油脂が魚油であり、
(C)前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、
(D)前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、
(E)前記処理の反応液中における添加された水分含量が0.5質量%以上であり、
(F)前記反応液の酸価が2以上12以下であり、
(G)前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して50質量%以上90質量%以下含み、
(H)前記低級アルコール脂肪酸エステル化物における、前記低級アルコールDHAエステル化物に対する前記低級アルコールEPAエステル化物のモル比率(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)が3.0以上30以下である、
低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。」となるが、
まず、発明が方法の発明だからといって、方法の特定である(A)ないし(E)の特定あれば、必ず(F)ないし(H)を満足する目的物が得られなければならないということはないし、(F)ないし(H)を満足する目的物の「具体的な」製造方法が(A)ないし(E)で開示されなければならないということもなく、(A)ないし(H)の特定全てがそれぞれ、本件発明1を特定し、全体として本件発明1の技術的範囲を特定していると見るべきである。
一方、実施可能要件としての発明の開示は、発明の詳細な説明の記載でなされれば良いところ、本件明細書の段落【0152】?【0198】に記載される「実施例」で、実際、(F)ないし(H)を満足する目的物(「酸価」及び「低級アルコール脂肪酸エステル化物の含有量」が本件発明1の範囲を共に満足している)が、得られることが客観的な根拠をもって開示され、また、その目的物を製造する具体的な製造例が開示されているのであるから、(F)ないし(H)を満足する目的物どのように製造するのかにつき、本件特許明細書における発明の詳細な説明は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないということはできない。
さらに、本件発明1が、本件明細書に記載される範囲を超えるものではないことは、上記「1 取消理由1について」「(1)」で述べたとおりである。

よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に不備があるとはいえないから、本件特許1ないし3、5、7ないし12、18ないし20、22ないし24は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
また、本件発明1ないし3、5、7ないし12、18ないし20、22ないし24は、は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえないから、本件特許1ないし3、5、7ないし12、18ないし20、22ないし24は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

第6 むすび

上記「第5」で検討したとおり、本件特許1ないし3、5、7ないし20、22ないし24は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1ないし3、並びに、上記申立理由1及び2によっては、本件特許1ないし3、5、7ないし20、22ないし24を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1ないし3、5、7ないし20、22ないし24を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許4、6、21は、本件訂正請求により削除されたので、本件特許4、6、21に対する特許異議の申立てを却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法および低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法および低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多価不飽和脂肪酸およびその誘導体は、血中脂肪の低減等の多くの生理活性を有し、古くから医薬品、化粧品、食品等の原料として使用されてきた。そこで、高純度かつ良好な品位の多価不飽和脂肪酸およびその誘導体の精製方法が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開昭59-113099号公報)には、脂肪酸グリセリドを含む油脂を、アルカリ性条件下で処理して、低級アルコール脂肪酸エステル化物を得る方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、油脂をアルカリ性条件下で処理した場合、低級アルコール脂肪酸エステル化物の不飽和結合が異性化された異性化物が生じることがある。この異性化物は、異性化していない低級アルコール脂肪酸エステル化物との分離が困難である場合が多い。このため、異性化物の含有量が少ない低級アルコール脂肪酸エステル化物を効率良く得る方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59-113099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便な方法にて、純度が高い低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を効率良く得ることができる低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法および低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、EPA含有グリセリドを含有する原料油脂を、リパーゼを用いて処理することで、低級アルコールEPAエステル化物を選択的に得る方法により、アルカリ性条件下での処理を経ずに、純度の高い低級アルコールEPAエステル化物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法によれば、アルカリ性条件下での処理を経ずに、異性化物が少ない、純度の高い低級アルコールEPAエステル化物を得ることができる。
【0008】
1.本発明の一態様に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法は、EPA含有グリセリドを含有する原料油脂を、リパーゼを用いて処理して、低級アルコールEPAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る工程を含み、前記処理の反応液中における水分含量が0.4質量%以上である。
【0009】
2.上記1に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法において、前記処理の反応液は、前記原料油脂9.5質量部に対して0.1質量部以上2.5質量部以下の低級アルコールをさらに含むことができる。
【0010】
3.上記2に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法において、前記処理において、前記処理の反応液に前記低級アルコールを連続的にまたは段階的に添加することができる。
【0011】
4.上記1ないし3のいずれかに記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法では、前記処理において、前記リパーゼが固定化された固定化酵素を用いることができる。
【0012】
5.上記1ないし4のいずれかに記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法では、前記処理において、前記固定化酵素は粒子状であることができる。
【0013】
6.上記1ないし5のいずれかに記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法において、前記リパーゼが1,3位特異リパーゼであることができる。
【0014】
7.上記1ないし6のいずれかに記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法において、前記反応液の酸価が2以上であることができる。
【0015】
8.上記1ないし7のいずれかに記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法において、前記原料油脂は、DHA含有グリセリドをさらに含み、前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコールDHAエステル化物をさらに含み、前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれる低級アルコール脂肪酸エステル化物における、前記低級アルコールDHAエステル化物に対する前記低級アルコールEPAエステル化物のモル比率A(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)は、前記原料油脂に含まれる脂肪酸グリセリドを構成する脂肪酸における、DHAに対するEPAのモル比率B(EPA/DHA)より多いことができる。
【0016】
9.上記8に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法において、前記モル比率Aおよび前記モル比率Bが以下の式(1)で示される関係を有することができる。
1.5≦A/B ・・・・・(1)
【0017】
10.上記8または9に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法において、前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下含み、前記低級アルコール脂肪酸エステル化物における、前記低級アルコールDHAエステル化物に対する前記低級アルコールEPAエステル化物のモル比率(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)が3.0以上30以下であることができる。
【0018】
11.上記7ないし10のいずれかに記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法において、前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコールDHAエステル化物をさらに含み、前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物および前記低級アルコールDHAエステル化物の混合物と、該混合物以外の成分とを分離する工程をさらに含むことができる。
【0019】
12.上記11に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法において、前記混合物のFT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比が0.075以下であることができる。
【0020】
13.上記11または12に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法において、前記混合物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を90質量%以上含み、前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含むことができる。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30
【0021】
14.上記11ないし13のいずれかの低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法において、前記混合物を銀塩の水溶液と接触させる工程をさらに含むことができる。
【0022】
15.上記14に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法において、前記銀塩の水溶液と接触させた後の前記混合物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物以外の低級アルコール脂肪酸エステル化物を分離することにより、前記低級アルコールEPAエステル化物を得る工程をさらに含むことができる。
【0023】
16.上記11ないし13のいずれかに記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法において、前記混合物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物以外の低級アルコール脂肪酸エステル化物を分離することにより、前記低級アルコールEPAエステル化物を得る工程をさらに含むことができる。
【0024】
17.本発明の一態様に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下含み、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30
【0025】
18.上記17に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物において、FT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比が0.15以下であることができる。
【0026】
19.本発明の一態様に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を90質量%以上含み、前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30
【0027】
20.上記19に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物において、FT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比が0.075以下であることができる。
【0028】
21.上記17ないし20のいずれかに記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物において、酸価が5未満であることができる。
【0029】
22.本発明の一態様に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法は、上記17に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を蒸留して、上記20に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物と、前記組成物以外の成分とを分離する工程を含む。
【0030】
23.本発明の一態様に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法は、上記19又は20に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有物を銀塩の水溶液で接触させる工程を含む。
【0031】
24.本発明の一態様に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法は、上記19ないし21のいずれかに記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物以外の低級アルコール脂肪酸エステル化物を分離することにより、低級アルコールEPAエステル化物を得る工程を含む。
【0032】
25.本発明の一態様に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコールEPAエステル化物を96.5質量%以上含み、かつ、FT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比が0.085以下である。
【0033】
26.本発明の一態様に係る食品組成物の製造方法は、上記11ないし16および22ないし24のいずれかに記載の製造方法により得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物及び上記25に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物から選ばれる少なくとも1種を使用して食品組成物を得る工程を含む。
【0034】
27.本発明の一態様に係るカプセル剤の製造方法は、上記11ないし16および22ないし24のいずれか1項に記載の製造方法により得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物及び上記25に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物から選ばれる少なくとも1種を使用してカプセル剤を得る工程を含む。
【発明の効果】
【0035】
上記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法によれば、EPA含有グリセリドを含有する原料油脂を、リパーゼを用いて処理して、低級アルコールEPAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る工程を含み、前記処理の反応液中における水分含量が0.4質量%以上であることにより、純度が高い低級アルコールEPAエステル化物を効率良く得ることができ、かつ、酵素(リパーゼ)の安定性を高めることができる。
【0036】
より具体的には、酵素の安定性が高められる結果、酵素の繰り返し使用が可能になるため、製造コストの低減および省資源化を図ることができる。また、アルカリ性条件下での処理を経ずに低級アルコールEPAエステル化物が得られるため、異性化物の発生を低減することができる。さらに、前記リパーゼを用いた処理により、複数の脂肪酸グリセリドの中から、EPA含有グリセリドを低級アルコールEPAエステル化物へと選択的に変換させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、格別に断らない限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。ただし、グリセリドにおける各種構成脂肪酸の「比率」および「%」、ならびに低級アルコール脂肪酸エステル化物における各種脂肪酸エステル化物の「比率」および「%」は、それぞれ構成する脂肪酸の「モル比率」および「モル%」を意味する。
【0039】
<低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法>
本発明の一実施形態に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう。)は、EPA(エイコサペンタエン酸、C20:5)グリセリドを含有する原料油脂を、リパーゼを用いて処理して、低級アルコールEPAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物(以下、「本実施形態に係る組成物」ともいう。)を得る工程を含み、前記処理の反応液中における水分含量が0.4質量%以上である。
【0040】
<低級アルコール:定義>
本発明において、「低級アルコール」とは、炭素原子数が1、2または3のアルコール(メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール)をいう。
【0041】
<低級アルコール脂肪酸エステル化物:定義>
また、本発明において、「低級アルコール脂肪酸エステル化物」とは、脂肪酸を構成するカルボキシル基(-CO_(2)H)が低級アルコールにてエステル化された化合物をいう。
【0042】
<低級アルコールEPAエステル化物>
また、本発明において、「低級アルコールEPAエステル化物」とは、EPA(エイコサペンタエン酸)を構成するカルボキシル基(-CO_(2)H)が低級アルコールにてエステル化された化合物をいう。加えて、本発明において、「低級アルコールDHAエステル化物」とは、DHA(ドコサヘキサエン酸)を構成するカルボキシル基が低級アルコールにてエステル化された化合物をいう。
【0043】
<グリセリドの定義>
また、本発明において、「グリセリド」とは、モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドを含むグリセリン脂肪酸エステルの概念である。
【0044】
<EPA含有グリセリドの定義>
さらに、本発明において「EPA含有グリセリド」とは、モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドを含むグリセリン脂肪酸エステル化物を構成する脂肪酸残基の一部または全部がEPAである化合物をいい、EPAモノグリセリド、EPAジグリセリドおよびEPAトリグリセリドを含む概念である。本発明において「DHA含有グリセリド」とは、モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドを含むグリセリン脂肪酸エステル化物を構成する脂肪酸残基の一部または全部がDHAである化合物をいい、DHAモノグリセリド、DHAジグリセリドおよびDHAトリグリセリドを含む概念である。
【0045】
<図1の説明>
図1は、本実施形態に係る製造方法のフローチャートを示す。本実施形態に係る製造方法では、まず、EPA含有グリセリドを含有する原料油脂を、リパーゼを用いて処理して(図1のステップS1)、低級アルコールEPAエステル化物を含む本実施形態に係る組成物を得る。
【0046】
<酵素処理(リパーゼを用いた処理)>
本実施形態に係る製造方法では、EPA含有グリセリドを含む原料油脂を酵素(リパーゼ)で処理する。より具体的には、EPA含有グリセリドを含む原料油脂をリパーゼ及び低級アルコールと接触させて、該EPA含有グリセリドにリパーゼを作用させることにより、該EPA含有グリセリドを選択的に低級アルコールEPAエステル化物へと変換させる。
【0047】
<原料油脂>
本実施形態に係る製造方法で使用する原料油脂は、EPAを構成脂肪酸として含むグリセリン脂肪酸エステル(EPA含有グリセリド)を含む油脂であればよく、脂肪酸組成中のEPAの含有量が12質量%以上(通常、20質量%以下)である油脂が好ましい。なお、原料油脂には、DHA(C22:6)等、EPA以外の脂肪酸を構成脂肪酸として含有するグリセリドを含んでいてもよい。原料油脂が、DHAを構成脂肪酸として含有するグリセリドを含む場合、脂肪酸組成中のDHAの含有量が15質量%以下である油脂が好ましい。また、原料油脂に含まれる、EPA以外の脂肪酸トリグリセリドは、多価不飽和脂肪酸のトリグリセリドであってもよい。多価不飽和脂肪酸とは、炭素数16以上でかつ分子内に二重結合を2個以上有する不飽和脂肪酸をいい、上述のEPAやDHAのほか、アラキドン酸(C20:4)、ドコサペンタエン酸(C22:5)、ステアリドン酸(C18:4)、リノレン酸(C18:3)、リノール酸(C18:2)が挙げられる。
【0048】
<油脂>
「油脂」とは、通常、トリグリセリドを意味するが、本発明では、油脂は、ジグリセリド、モノグリセリド等、酵素(リパーゼ)が作用するその他のグリセリドも含んでいてもよい。
【0049】
<原料油脂>
原料油脂としては、例えば、魚油、魚油以外の動物油、植物油、藻類、微生物が生産する油、これらの混合油脂、またはこれらの廃油が挙げられる。
【0050】
魚油としては、イワシ油(EPA8モル%以上20モル%以下)、マグロ油(EPA3モル%以上10モル%以下)、カツオ油(EPA5モル%以上10モル%以下)、タラ肝油(EPA5モル%以上15モル%以下)、サケ油(EPA5モル%以上15モル%以下)、イカ油(EPA10モル%以上18モル%以下)、メンヘーデン油(EPA5モル%以上モル15%以下)が挙げられる。
【0051】
ここで、各魚油におけるEPAの含有量は、該魚油においてグリセリドを構成する脂肪酸としてEPAを含む割合をいう。植物油は通常EPAやDHAを含有しないが、例えば、遺伝子組み換え技術によりEPAやDHAを含有する、大豆油、菜種油、パーム油、オリーブ油等を原料油脂として用いることができる。藻類、微生物由来油としては、Mortierella alpine、Euglena gracilis等によるアラキドン酸含有油、クロメ、アラメ、ワカメ、ヒジキ、ハバノリ、ヒバマタの一種によるEPA含有油、Crypthecodinium cohnii、Vibrio marinus、Thraustochytrium aureum、Shewanella属細菌等によるDHA含有油等、魚油以外の動物油としては、例えば、鯨油、羊脂、牛脂、豚脂、乳脂肪、卵黄油等が挙げられる。また、原料油脂の酸価は通常、0以上2.5以下であり、0以上2以下であることができる。
【0052】
なお、原料油脂は水分を含むものであってもよい。また、本発明において、「廃油」とは、使用済みの魚油、植物性油脂、または動物性油脂であり、水分が含まれていてもよい。原料油脂がEPAおよびDHAの両方を含む場合、得られる低級アルコールEPAエステル化物の割合をより高めることができる点で、原料油脂に含まれる脂肪酸グリセリドを構成する脂肪酸におけるEPAとDHAのモル比率は、EPA/DHA=0.5以上6以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。
【0053】
<酵素>
本実施形態に係る製造方法で使用する酵素の性状は、粗精製、部分精製、精製のいずれでもよい。また遊離型でもよいし、固定化されていてもよいが、再利用可能である点、酵素処理後の後処理が簡便である点で、前記リパーゼが固定化された固定化酵素であることが好ましい。
【0054】
固定化酵素は、酵素を担体に固定化されたものであってもよい。前記酵素処理の反応液の水分含量が0.4質量%以上であることにより、酵素の安定性が高められる結果、酵素の繰り返し使用が可能になるため、リパーゼが固定化された固定化酵素を使用する場合、固定化酵素を反応液中から取り出して、必要に応じて水等で洗浄後、再度使用することができる。このため、再利用性、取扱性、および経済性に優れている。
【0055】
<担体>
担体としては、イオン交換樹脂、多孔性樹脂、セラミックス、炭酸カルシウム、セライト、ガラスビーズ、活性炭等の有機担体、無機担体、有機無機複合担体が挙げられる。耐久性、リパーゼとの親和性などを考慮すると、担体は、イオン交換樹脂、多孔性樹脂、セラミックスからなることが好ましい。固定化の方法としては、包括法、架橋法、物理的吸着法、イオン吸着法、共有結合法、疎水結合法等が挙げられるが、結合強度が高い点で、包括法、架橋法、または共有結合法が好ましい。原料油脂との接触面積が大きく、かつ、原料油脂中で均一に分散できる点で、固定化酵素は粒子状であることが好ましい。あるいは、固定化酵素は、フィルムや膜に固定化したものであってもよい。
【0056】
固定化酵素が粒子状である場合、粒子状の担体に酵素が固定化されているものであることができる。この場合、担体の粒子径が0.01mm以上3mm以下であることが好ましく、0.05mm以上1.5mm以下であることがより好ましい。また、原料油脂、低級アルコールおよび水との分散性に優れている点で比重は0.2以上2.5以下であることが好ましい。
【0057】
<リパーゼ>
エステル交換を触媒する作用を有する点で、酵素は、例えば、リパーゼであることが好ましい。リパーゼは「リパーゼ(E.C.3.1.1.3)」と国際酵素分類を示すことで、科学的に特定される。
【0058】
<リパーゼの種類>
本実施形態に製造方法で使用するリパーゼは、1,3位-特異的であっても、非特異的であってもよい。本実施形態に係る組成物において低級アルコールEPAエステルのモル比率を高くすることができる点で、リパーゼは、1,3位特異リパーゼ、すなわち、トリアシルグリセロールの1,3位にのみ特異的作用する酵素または2位よりも1,3位に優先的に作用する酵素であることが好ましい。
【0059】
<リパーゼの具体例>
リパーゼとしては、例えば、リゾムコール属(Rhizomucor Miehei)、ムコール属(Mucor miehei,Mucor java nicus)、アスペルギルス属(Aspergillus oryzae,Aspergillus niger)、リゾプス属(Rhizopus sp.)、ペニシリウム属(Penicillium roqueforti,Penicillium camembertii)、サーモマイセス属(Thermomyces lanuginose)等に属する糸状菌、キャンディダ属(Candida Antarctica,Candida Rugosa,Candida Cylindracea)、ピヒア(Pichia)等に属する酵母、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、アクロモバクター属(Acromobacter sp.)、ブルクホルデリア属(Burkholderia sp.)、アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)、シュードザイマ属(Pseudozyma sp.)等に属する細菌、豚膵臓等の動物に由来するリパーゼが挙げられる。市販のリパーゼも用いられる。例えば、Rhizopus Delemarのリパーゼ(タリパーゼ:田辺製薬社製)、Candida Cylindacea(リパーゼOF:名糖産業社製)およびPsendomans属のリパーゼ(リパーゼPS、リパーゼAK:天野製薬社製)が挙げられ、固定化酵素としては、Rhizomucor Mieheiのリパーゼ(リポザイムIM60:ノボノルディスク社製、リポザイムRMIM:ノボノルディスク社製)、Candida Antarcticaのリパーゼ(ノボザイム435:ノボノルディスク社製)が挙げられる。
【0060】
<酵素の使用量>
反応に使用する酵素の量は、反応温度や時間等により決定されるため特に規定されないが、遊離型の酵素の場合、一般的には反応液1g当たり1単位(U)以上10,000U、好ましくは5U以上1,000U添加すればよく、適宜設定することができる。ここでの酵素活性の1Uとは、リパーゼの場合はオリーブ油の加水分解において1分間に1μmolの脂肪酸を遊離する酵素量である。固定化酵素を用いる場合は、反応液の質量に対して固定化した酵素が0.1質量%以上200質量%以下、好ましくは1質量%以上20質量%以下(担体の質量を含む質量)になるように添加すればよい。
【0061】
<反応条件>
本実施形態に係る製造方法において、前記酵素処理の反応液は、原料油脂および酵素(固定化酵素を使用する場合は固定化酵素)を含む。前記酵素処理の反応液中における水分含量が0.4質量%以上であることにより、酵素の安定性が高められる結果、酵素の繰り返し使用が可能になり、かつ、酵素反応により生じるグリセリンを水中に誘導させることで、グリセリンが油中で固まるのを防止し、酵素反応を円滑に進行させることができる。前記酵素処理の反応液中における水分含量は、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であるのがさらに好ましく、また、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、例えば0.4質量%以上10質量%以下であることができる。
【0062】
<水分含量>
前記酵素処理の反応液中における水分含量が0.4質量%未満であると、反応により生じるグリセリン等によって、酵素の触媒作用が阻害されることがあり、また、酵素の安定性が低下することがあり、一方、80質量%を超えると、EPA含有トリグリセリドと酵素との接触が少なくなり、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物中の、得られる低級アルコール脂肪酸エステル化物の含有量が少なくなることがある。なお、水は、反応液中に逐次的に添加してもよいし、連続して添加してもよいし、または一括して添加してもよい。
【0063】
<低級アルコール>
脂肪酸をエステル化してエステル化物を得、かつ、水および油脂の双方と混和することにより酵素反応を円滑に進行させることができる観点から、前記酵素処理の反応液は、前記原料油脂9.5質量部に対して0.1質量部以上2.5質量部以下の低級アルコールをさらに含むことができる。
【0064】
本実施形態に係る製造方法における原料油脂の酵素処理において、低級アルコール(炭素原子数1、2または3のアルコール)は、低級アルコールEPAエステル化物のエステル部位として利用されることができる。
【0065】
低級アルコールEPAエステル化物の収率を高めることができる点で、前記酵素処理の反応液における前記低級アルコールの含有量は、前記原料油脂9.5質量部に対して0.1質量部以上(好ましくは、0.3質量部以上)であることが好ましい。一方、前記酵素処理の反応液における前記低級アルコールの含有量が増えると酵素が失活しやすくなることから、酵素活性を維持できる点で、前記酵素処理の反応液における前記低級アルコールの含有量は、前記原料油脂9.5質量部に対して2.5質量部以下(好ましくは、2質量部以下)であることが好ましい。
【0066】
なお、前記低級アルコールは、前記酵素処理において、前記酵素処理の反応液に前記低級アルコールを連続的に添加してもよいし、段階的に添加してもよいし、または一括して添加してもよい。本発明において、「低級アルコールを連続的に添加する」とは、低級アルコールを継続して添加することをいい、「低級アルコールを段階的に添加する」とは、継続的ではないが、低級アルコールを複数回添加することをいう。
【0067】
また、前記低級アルコールを反応液に段階的に添加する場合、1回に添加する前記低級アルコールの量は、前記原料油脂9.5質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく(0.3質量部以上であることがより好ましい)、一方、2.5質量部以下であることが好ましい(1質量部以下であることがより好ましい)。前記低級アルコールを反応液に段階的にまたは連続的に添加する場合、添加する前記低級アルコールの総量は、前記原料油脂9.5質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく(0.3質量部以上であることがより好ましい)、一方、2.5質量部以下であることが好ましい(2質量部以下であることがより好ましい)。
【0068】
<低級アルコールの具体例>
低級アルコールとしては、水との混和性に優れている点で、メタノールおよび/またはエタノールであることが好ましく、エタノールであることがより好ましい。
【0069】
<反応温度および反応時間>
酵素処理は、反応液の温度を、通常25℃超80℃以下(好ましくは28℃以上、より好ましくは30℃以上、一方、好ましくは50℃以下、より好ましくは45℃以下)にて行うことができる。酵素処理における反応液の温度は、用いる酵素の種類により決定すればよい。また、反応時間は、通常2時間以上48時間以下、好ましくは4時間以上36時間以下である。
【0070】
<酸価>
前記酵素処理では、酵素の安定性をより高めることができる観点で、該酵素処理の反応液の酸価が2以上であることが好ましく、2.2以上12以下であることがより好ましい。
【0071】
本発明において、反応液の酸価は、以下の方法により測定及び算出された値である。前記酵素処理の反応液の酸価が2以上(好ましくは2.2以上12以下)であることは、該反応液中の遊離脂肪酸の濃度が高いことを意味する。すなわち、該反応液中の遊離脂肪酸の濃度を高くすることにより、後述する<反応経路>の欄で説明するように、該反応液中で遊離脂肪酸とリパーゼとが結合する割合が高くなるため、リパーゼ(酵素)の安定性を高めることができる。なお、本発明において、「遊離脂肪酸」とは、脂肪酸エステル化物として存在していない脂肪酸(非エステル結合型脂肪酸)をいう。
【0072】
<酸価の測定方法>
酸価の値は、公益社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法(日本油化学会規格試験法委員会編、基準油脂分析試験法(Standard methods for the analysis of fats,oils and related materials):日本油化学会制定、2013年版、1.6 抽出油の酸価)により測定することができる。
【0073】
具体的には、まず、試料(反応終了後の反応液)をその推定酸価に対応する採取量に準じて三角フラスコに正しく測り取り、エタノール/ジエチルエーテル=1/1(w/w)の混合溶媒100mLを加え、試料を完全に溶解させた。次いで、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウムで滴定し、指示薬として加えたフェノールフタレイン溶液の変色が30秒間以上続いた点を終点とする。酸価は以下の式(3)により算出された。
酸価=5.611×A×F/B ・・・・(3)
(式中、Aは、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウムの使用量(mL)であり、Bは、試料採取量(g)であり、Fは、エタノール性水酸化カリウムのファクターである。)
【0074】
<反応経路>
アルコールと脂肪酸エステル化物とのエステル交換反応は通常、水の含有量が少ない条件下(例えば、特許文献1の実施例に記載される、水分含量0.1%)でアルコールと脂肪酸エステル化物とを反応させる。その理由として、脂肪酸エステル化物のエステル結合が水によって加水分解されるのを防ぐためであることが挙げられる。
【0075】
これに対して、本実施形態に係る製造方法では、EPA含有グリセリドを含有する原料油脂を酵素処理(リパーゼを用いた処理)して、低級アルコールEPAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る工程において、前記酵素処理の反応液中における水分含量が0.4質量%以上であることにより、酵素安定性を高めることができる。
【0076】
より具体的には、前記酵素処理の反応液中における水分含量が0.4質量%以上であることにより、反応液中に含まれる水分により、原料油脂が加水分解されて遊離脂肪酸が生成する結果、該反応液中の遊離脂肪酸の濃度が高くなる(該反応液の酸価が高くなる)ため、酵素安定性が高められる。
【0077】
反応液中の遊離脂肪酸の濃度が高くなると(すなわち、該反応液の酸価が高くなると)、酵素安定性が高まるのは、以下の機構によるものと推察される。遊離脂肪酸は一般に、タンパク質と結合しやすい。なぜなら、遊離脂肪酸のアルキル鎖部分の疎水性とカルボキシル基部分の親水性部位が、タンパク質分子内の疎水性部位、親水性部位と相互作用しやすいからである。このため、反応液中に遊離脂肪酸が存在することで、タンパク質であるリパーゼに遊離脂肪酸が結合することにより、反応液中の反応基質以外の物質(例えば、反応液中の低級アルコール)がリパーゼに直接接触することにより引き起こされるリパーゼの失活を防ぐことができ、これにより、リパーゼ(酵素)の安定性を高めることができると推察される。
【0078】
一方、前記酵素処理の反応液中における水分含量が0.4質量%未満である場合、リパーゼ(酵素)の安定性を維持することが困難である。その理由としては、反応液中における水分含量が0.4質量%未満と少ないため、原料油脂の加水分解が進行しにくく、その結果、遊離脂肪酸が生じにくいことが挙げられる。よって、遊離脂肪酸とタンパク質との結合が生じ難いため、上述した遊離脂肪酸によるタンパク質(リパーゼ)の失活を防止されず、リパーゼの安定性を高めることが困難であると推察される。
【0079】
<反応生成物>
本実施形態に係る製造方法では、EPA含有グリセリドを含有する原料油脂を、リパーゼを用いて処理することにより、低級アルコール脂肪酸エステル化物を含有する組成物を得ることができ、なかでも、低級アルコールEPAエステル化物を効率的に得ることができる。すなわち、EPA含有グリセリドを含有する原料油脂を、リパーゼを用いて処理することにより、EPA含有グリセリドを低級アルコールEPAエステル化物へと効率的に変換することができる。なお、得られる低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物を含む多価不飽和脂肪酸のエステル化物であることができる。
【0080】
例えば、原料油脂がEPA含有グリセリドおよびDHA含有グリセリドの両方を含むものである場合、上述のリパーゼを用いた処理によって、最終的に得られる本実施形態に係る組成物に含まれる低級アルコール脂肪酸エステル化物において、低級アルコールDHAエステル化物に対する低級アルコールEPAエステル化物のモル比率A(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)を、原料油脂に含まれる脂肪酸グリセリドを構成する脂肪酸における、DHAに対するEPAのモル比率B(EPA/DHA)より多くさせることができる。
【0081】
この場合、前記モル比率Aおよび前記モル比率Bが以下の式(1)で示される関係を有することが好ましく、式(2)で示される関係を有することがより好ましい。
1.5≦A/B ・・・・・(1)
2.0≦A/B≦25 ・・・・・(2)
【0082】
<低級アルコール脂肪酸エステル化物の含有量、および、低級アルコールEPAエステル化物:低級アルコールDHAエステル化物>
また、最終的に得られる低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下含み、該低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれる低級アルコール脂肪酸エステル化物において、前記低級アルコールDHAエステル化物に対する前記低級アルコールEPAエステル化物のモル比率(低級アルコールEPAエステル化物:低級アルコールDHAエステル化物)は3.0以上30以下であることができ、より具体的には、3.0以上20以下であることが好ましく、3.0以上15以下であることがより好ましい。
【0083】
より具体的には、酵素処理で得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下(より具体的には、50質量%以上80質量%以下)含み、前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を、3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30のモル比率で含む(好ましくは、3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦20、より好ましくは、3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦15)のモル比率で含むことができる。
【0084】
<分子蒸留>
次に、本実施形態に係る製造方法では、酵素処理(リパーゼを用いた処理)(図1のステップS1)で得られた、低級アルコールEPAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を蒸留する工程(いわゆる、分子蒸留(一次蒸留)、図1のステップS2)をさらに含むことができる。
【0085】
分子蒸留(molecular distillation)は、高真空度下で行われる蒸留である。分子蒸留工程により、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物の混合物と、該混合物以外の成分(低級アルコール脂肪酸エステル化物以外の脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリドおよび脂肪酸トリグリセリド)とを分離することができる。なお、前記混合物以外の脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリドおよび脂肪酸トリグリセリドを利用して、低級アルコールの存在下で再度エステル化することにより、低級アルコールDHAエステル化物を得ることもできる。
【0086】
分子蒸留は通常、後述する精密蒸留における真空度よりも高い真空度で行なうことができる。
【0087】
例えば、分子蒸留における温度は、80℃以上200℃以下(好ましくは150℃以上200℃以下)であり、真空度は0.001Torr以上5Torr以下(好ましくは0.01Torr以上1Torr以下)であり、より具体的には、温度140℃以上160℃以下でかつ真空度0.01Torr以上0.1Torr以下である。
【0088】
分子蒸留は、通常、前記低級アルコールEPAエステル化物および前記低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物の混合物と、該混合物以外の成分とを分離することができる装置を用いて行われ、より具体的には、一般的に市販の分子蒸留装置を使用して行うことができ、例えば、遠心式分子蒸留機、ショートパス蒸留機、流下膜式蒸留機等を用いることができる。特に、ショートパス蒸留機が好ましい。分子蒸留装置では、蒸発管を通して被処理物を揮発させた後、冷却器内に通すことで、液化する低分子成分と、液化しない高分子成分とに分けることができる。
【0089】
また、分子蒸留は、後述する精密蒸留の前に行うことが好ましく、さらには、分子蒸留を行った後で、後述する銀処理を行うことが好ましい。
【0090】
<ピーク強度比>
この混合物のFT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比が0.075以下であることが好ましく、0.07以下であることがより好ましい。
【0091】
<ピーク強度比の意義> 前記混合物のFT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークは、低級アルコール脂肪酸エステル化物に含まれるエステル結合を示す。また、966cm^(-1)付近に現れるピークは、低級アルコール脂肪酸エステル化物に含まれる低級アルコール脂肪酸エステル化物の異性化物(トランス二重結合を含む異性化物)を示す(FTIRによるトランス脂肪酸の定量、SHIMAZU APPLICATION NEWS No.430A,株式会社島津製作所)。
【0092】
よって、この混合物のFT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度が大きいほど、異性化物(脂肪酸に含まれるシス二重結合が異性化して生じたトランス二重結合を含む)が低級アルコール脂肪酸エステル化物に多く含まれていることを示している。したがって、該混合物のFT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比が0.075以下であることは、該混合物に含まれる異性化物が少ないことを示している。
【0093】
<異性化物の定義>
なお、本発明において、ある化合物の「異性化物」とは、ある化合物と分子式は等しいが、該化合物と分子構造の異なる化合物のこと(異性体)をいい、ある化合物をその異性体に変えることを異性化という。
【0094】
例えば、天然油脂を構成するEPA、DHAなどの脂肪酸は、その二重結合が全てシス配位であり、かつ、該二重結合が非共役の構造を有する。脂肪酸の異性化としては、例えば、脂肪酸の二重結合の少なくとも一部がトランス配位に変化することや、該二重結合が共役となる位置に移動すること等が挙げられる。
【0095】
<混合物の組成>
また、後述する精密蒸留で得られる低級アルコールEPAエステル化物の純度をより高めることができる観点で、前記混合物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を90質量%以上含み、前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含むことがより好ましい。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30。
【0096】
より好ましくは、3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦20である。
【0097】
本実施形態に係る製造方法によれば、上記酵素処理によって、EPA含有グリセリドを低級アルコール脂肪酸エステル化物へと選択的に変換させることができるため、上記分子蒸留工程によって、前記低級アルコールEPAエステル化物および前記低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物と、他の成分(低級アルコール脂肪酸エステル化物以外の脂肪酸グリセリド、グリセリン)とを、一般的な分離処理にて比較的容易に分離することができる。これにより、後述する精密蒸留工程によって、純度の高い低級アルコールEPAエステル化物を簡便な方法にて効率良く得ることができる。
【0098】
<精密蒸留>
次に、本実施形態に係る製造方法では、分子蒸留(図1のステップS2)で得られた、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を含む混合物を蒸留して(精密蒸留、図1のステップS3)、前記低級アルコールEPAエステル化物以外の低級アルコール脂肪酸エステル化物を分離することにより、低級アルコールEPAエステル化物(好ましくは純度96.5質量%以上、より好ましくは98質量%以上約100質量%以下)を得る工程をさらに含むことができる。
【0099】
精密蒸留(rectification)は上記の分子蒸留と比べて低真空度下で行われる蒸留であって、具体的には、塔内で液と蒸気を向流接触させると共に、適当な還流を行い、液の蒸発と蒸気の凝縮を繰り返すことによって分離の度合いを高める連続蒸留操作であり、液体混合物の分離精製に最も多く用いられる蒸留である。精密蒸留工程により、複数種類の脂肪酸のエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物から、任意の低級アルコール脂肪酸エステル化物を分離することができる。したがって、本実施形態に係る精密蒸留工程では、前記分子蒸留工程により得られた、複数種類の低級アルコール脂肪酸エステル化物の中から、低級アルコールEPAエステル化物を選択的に得ることができる。
【0100】
精密蒸留は通常、上記の分子蒸留における真空度よりも低い真空度で行うことができる。
【0101】
例えば、精密蒸留における温度は、150℃以上250℃以下(好ましくは160℃以上230℃以下)であり、真空度は0.01Torr以上10Torr以下(好ましくは0.1Torr以上5Torr以下)であり、より具体的には、温度170℃以上220℃以下でかつ真空度0.5Torr以上3Torr以下である。
【0102】
精密蒸留は、通常、前記低級アルコールEPAエステル化物以外の低級アルコール脂肪酸エステル化物を前記低級アルコールEPAエステル化物と分離することができる装置を用いて行われ、より具体的には、精留塔を有する蒸留装置又は流下膜式の蒸留装置を使用して行うことができ、精留塔としては、例えば、棚段式、充填式、又はスプリング式等を用いることができ、特に、棚段構造を有する棚段式又は充填式の蒸留装置を使用することが好ましい。棚段構造を有する蒸留装置では、揮発した物質が上昇するが、物質の種類によって滞留する棚段が異なるため、排出口が付いている棚段まで目的物質が上昇するように棚段が設定されている。また、加熱方式としては、比較的加熱履歴の少ない流下型薄膜式が好ましい。また、精密蒸留の蒸留法としては、バッチ式または連続式のいずれでもよいが、連続式が好ましい。なお、精留塔の理論段数は適宜設定できるが、2段以上、好ましくは5段以上(通常2段以上10以下)が好ましい。
【0103】
また、精密蒸留の回数および順序は限定されない。すなわち、精密蒸留を2回以上(通常2回以上4回以下)行ってもよいし、また、精密蒸留の後に銀処理を行ってもよいし、あるいは、銀処理を行った後に精密蒸留を行ってもよい。さらには、精密蒸留および銀処理を行った後に、精密蒸留を再度行ってもよい。
【0104】
<銀処理>
本実施形態に係る製造方法は、銀処理(本実施形態に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を銀塩水溶液と接触させる処理)をさらに含むことができる。
【0105】
本実施形態に係る製造方法において、本願発明者らは、前記酵素処理の反応液が水分を含む場合(例えば、前記酵素処理の前記反応液中の水分含量が0.4質量%以上である場合)、該酵素処理において遊離脂肪酸が生じる傾向があることを見出した。
【0106】
本実施形態に係る製造方法によれば、前記酵素処理を行った後に銀処理工程を行うことにより、本実施形態に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物中の遊離脂肪酸の含有量を低減することができる。
【0107】
すなわち、該銀処理によって遊離脂肪酸の含有量を低減することができるため、例えば、本実施形態に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価を5未満(好ましくは4未満)にすることができる。
【0108】
本実施形態に係る製造方法において、酵素処理で生じた遊離脂肪酸を低減することができる点で、銀処理は、酵素処理後に行うことが好ましく、例えば、酵素処理で得られた前記混合物(例えば第1組成物)について銀処理を行ってもよいし、あるいは、分子蒸留の後に得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物(例えば第2組成物)について銀処理を行ってもよいし、あるいは、精密蒸留の後に得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物(例えば第2組成物)について銀処理を行ってもよい。
【0109】
(銀の濃度)
銀処理で使用する銀塩は、不飽和脂肪酸中の不飽和結合と錯体を形成しうる銀塩であればいずれも使用することができ、例えば、硝酸銀、過塩素酸銀、酢酸銀、トリクロロ酢酸銀、トリフルオロ酢酸銀等が挙げられる。これらの銀塩を、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上の濃度となるように水に溶解して銀塩水溶液とする。また、銀塩水溶液中の銀塩濃度は、飽和濃度を上限とすればよい。
【0110】
また、銀処理において、銀塩水溶液を回収し、再利用する前に、吸着剤と接触してもよい。上記吸着剤としては、例えば、活性炭、活性アルミナ、活性白土、酸性白土、シリカゲル、ケイソウ土、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。
【0111】
上記銀塩水溶液と上記吸着剤との接触方法は、特に限定されるものではないが、例えば、上記銀塩水溶液中に上記吸着剤を投入し、撹拌する方法や、上記吸着剤を充填したカラムに上記銀塩水溶液を通液する方法等が挙げられる。また、銀塩水溶液を回収し、再利用する前に、希釈・濃度調整することによって、あるいは、有機溶媒で抽出してもよい。回収した銀塩水溶液の濃度調整は、減圧・加熱による水の蒸発により、あるいは比重を測定しながら適宜銀塩や水を加えることにより行なうことができる。
【0112】
また、銀処理において、銀処理対象物(例えば、上記酵素処理で得られた混合物(例えば第1組成物)、または、上記分子蒸留で得られた組成物(例えば第2組成物))に銀塩の水溶液を加え、好ましくは5分以上4時間以下の時間、より好ましくは10分以上2時間以下の時間撹拌することにより、水溶性の銀塩-遊離脂肪酸の錯体を形成させ、該錯体を選択的に銀塩水溶液に溶かすことができる。該銀塩水溶液を除去することにより、遊離脂肪酸を除去することができる。これにより、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価を5未満(好ましくは4未満)にすることができる。
【0113】
また、銀処理対象物と銀塩水溶液との反応温度は、下限は銀塩水溶液が液体でありさえすればよく、上限は100℃までで行われるが、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸化安定性、銀塩の水への溶解性、錯体の生成速度などへの配慮から、10℃以上30℃以下の反応温度が好ましい。
【0114】
銀処理対象物と銀塩水溶液との接触時には、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸化安定性、銀塩の安定性を考慮し、不活性ガス、例えば窒素雰囲気下で、遮光して行うのが好ましい。
【0115】
また、銀処理対象物と接触後の銀塩水溶液には、水に難混和性の有機溶媒を添加することができる。有機溶媒添加後、有機相を回収することにより、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を回収することができる。この場合、水に難混和性の有機溶媒は、銀塩の水溶液100質量%に対して10質量%以上200質量%以下であるのが好ましく、30質量%以上であり、また150質量%以下であることがより好ましい。
【0116】
水に難混和性の有機溶媒としては、例えば、直鎖状脂肪族炭化水素(例えば、n-ペンタン,n-ヘキサン,n-ヘプタン,n-ヘキセン,n-オクタン,イソオクタン等の炭素数5以上10以下の直鎖状脂肪族炭化水素)、環状脂肪族炭化水素(シクロヘキサン,シクロヘキセン,メチルシクロヘキセン等の炭素数5以上10以下の環状脂肪族炭化水素)、芳香族炭化水素(例えば、トルエン,ベンゼン,エチルベンゼン,キシレン,スチレン等の炭素数5以上10以下の芳香族炭化水素)等の炭化水素類、または石油エーテルが挙げられる。なお、前記回収工程は、複数回繰り返し実施することができる。
【0117】
<低級アルコールEPAエステル化物の具体例>
低級アルコールEPAエステル化物は、医薬品、化粧品、食品等の原料として使用することができる。低級アルコールEPAエステル化物としては、例えば、EPAメチルエステル、EPAエチルエステル、EPAn-プロピルエステル、EPAイソプロピルエステルが挙げられ、このうち、EPAエチルエステル(本明細書において、「EPAEE」ともいう。)は、例えば高脂血症、閉塞性動脈硬化等の循環器系疾患治療薬として用いられている。したがって、低級アルコールEPAエステル化物はEPAEEであってもよく、低級アルコールDHAエステル化物はDHAエチルエステル(本明細書において、「DHAEE」ともいう。)であってもよい。
【0118】
<低級アルコールEPAエステル化物の用途>
また、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物は、サプリメント等の食品組成物およびカプセル剤の原料として使用することができる。
【0119】
<作用効果-公知の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法>
本実施形態に係る製造方法の作用効果を説明するにあたり、まず、公知の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法について説明する。
【0120】
<公知の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法>
公知の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法(特許文献1に記載)では、まず、複数の脂肪酸を低級アルコール脂肪酸エステル部位に有する脂肪酸グリセリドを含む原料油脂を、アルカリ性条件下でアルコールと処理することで、脂肪酸グリセリドとアルコールとのエステル交換反応によって、低級アルコール脂肪酸エステル化物を得る。この方法では、複数種類の低級アルコール脂肪酸エステル化物の混合物が得られる。
【0121】
<公知の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法-課題>
複数種類の低級アルコール脂肪酸エステルの混合物から所望の低級アルコール脂肪酸エステルを分離するためには、例えば、条件(例えば、真空度、加熱温度、加熱方法、加熱時間)を非常に厳密に制御した蒸留を行う必要がある。このように、条件の厳しい蒸留を行うことは、製造プロセス上、負担が大きい。
【0122】
例えば、EPA含有グリセリドおよびDHA含有グリセリドを含む油脂をアルカリ性条件下でエステル交換反応を行う場合、EPAとDHAとは炭素数や二重結合数が近似するため、得られる低級アルコールEPAエステル化物と低級アルコールDHAエステル化物と(例えば、EPAEEとDHAEE)を分離するためには、非常に精密に制御された条件下で蒸留することが必要とされ、製造プロセス上、非常に負担が大きい。また、通常、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物の一方のみを単離することが困難であるため、蒸留時にロスが生じる傾向がある。
【0123】
また、蒸留は一般に、大規模な装置を必要とすることが多く、製造コストが増大する傾向がある。さらに、アルカリ性条件下で処理を行う場合、使用するアルカリ性液が廃液として生じるため、該廃液を処理する必要が生じるという問題がある。
【0124】
さらに、上記エステル交換反応では、アルカリ性条件下において、低級アルコール脂肪酸エステル化物に含まれる二重結合に異性化(トランス二重結合の生成など)が生じることがある。異性化は、通常、アルカリ処理や加熱によって生じやすい。
【0125】
低級アルコール脂肪酸エステル化物の異性化物は一般に、通常の不純物除去処理(例えば、蒸留、クロマトグラフィー)では、低級アルコール脂肪酸エステル化物との分離が困難である。したがって、上述したようなアルカリ条件下での処理(以下、単に「アルカリ処理」ともいう。)や加熱処理によって、低級アルコール脂肪酸エステル化物の異性化物(トランス二重結合を有する)が一旦生成すると、低級アルコール脂肪酸エステル化物中からの該異性化物の除去は一般に困難である。すなわち、この異性化物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物の純度を低下させる一原因物質である。
【0126】
<本実施形態に係る製造方法の作用効果>
(i)これに対して、本実施形態に係る製造方法によれば、第1に、EPA含有グリセリドを含有する原料油脂を酵素処理(リパーゼを用いた処理)して、低級アルコールEPAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る工程を含むことにより、純度が高い低級アルコールEPAエステル化物を効率良く得ることができる。
【0127】
より具体的には、本実施形態に係る製造方法によれば、アルカリ処理を経なくても低級アルコールEPAエステル化物が得られるため、異性化物の発生を抑えることができる。よって、純度が高い低級アルコールEPAエステル化物を効率良く得ることができる。また、上記本実施形態に係る製造方法では、アルカリを用いる場合のような廃液処理の問題が生じないため、環境に与える影響が少ない。
【0128】
(ii)第2に、前記酵素処理を行うことにより、低級アルコールDHAエステル化物に対する低級アルコールEPAエステル化物のモル比率を高めることができる(具体的には、3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30、好ましくは、3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦20)。
【0129】
より具体的には、前記酵素処理を行うことにより、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を、3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30(より好ましくは3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦20)のモル比率で含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得ることができ、低級アルコールDHAエステル化物に変換されなかったDHAは、DHA含有グリセリドとして残存することになる。
【0130】
低級アルコールEPAエステル化物と、他の成分(主に、DHA含有グリセリド、グリセリン、遊離脂肪酸)およびEPAよりも炭素数が小さい低級アルコール脂肪酸エステルとは、蒸留やクロマトグラフィー等の一般的な不純物除去処理によって比較的容易に分離できる傾向がある。
【0131】
したがって、低級アルコールEPAエステル化物と、低級アルコール脂肪酸エステル化物ではない他の成分およびEPAよりも炭素数が小さい低級アルコール脂肪酸エステルとを分離する際には、上述のアルカリ処理の後に通常行われる、低級アルコールEPAエステル化物と他の低級アルコール脂肪酸エステル化物とを分離するための精密に制御された蒸留を行う必要がないうえに、蒸留時のロスを少なくすることができる。このことから、本実施形態に係る製造方法によれば、低級アルコールDHAエステル化物に対する低級アルコールEPAエステル化物のモル比率を高めることにより、純度が高い低級アルコールEPAエステル化物を簡便な方法にて効率良く得ることができる。
【0132】
原料油脂をリパーゼによって処理する工程においては、EPAを脂肪酸エステル部位として有する脂肪酸グリセリドが、DHAを脂肪酸エステル部位として含有する脂肪酸グリセリドよりも優先的にエチルエステル化されると推測される。このため、後の工程において、低級アルコールEPAエステル化物と低級アルコールDHAエステル化物とのモル比率(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)を高めることができる。
【0133】
したがって、本実施形態に係る製造方法は、EPA含有グリセリドを含有する原料油脂をまず酵素処理して、低級アルコールEPAエステル化物の含有割合が高められた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得てから、蒸留処理を行なうことにより、異性化物が低減された低級アルコールEPAエステル化物を容易に、かつ、より多く単離することができる点で有用である。
【0134】
(iii)第3に、前記酵素処理における水分含量が0.4質量%以上であることにより、反応液中に含まれる該水分により、酵素反応により生じるグリセリンを水中に誘導させることで、グリセリンが油中で固まるのを防止し、酵素反応を円滑に進行させることができる。また、原料油脂が加水分解されて遊離脂肪酸が生成する結果、該反応液中の遊離脂肪酸の濃度が高くなる(該反応液の酸価が高くなる)ため、酵素安定性が高められる。その結果、酵素の繰り返し使用が可能になるため、製造コストの低減および省資源化を図ることができる。したがって、前記酵素処理は、再利用性、取扱性および経済性に優れていることから、小規模スケールでの処理のみならず、大規模スケールでの処理に好適である。
【0135】
<第1組成物>
本発明の一実施形態に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物(以下、「第1組成物」ともいう。)は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下(より具体的には、50質量%以上80質量%以下)含み、前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む。第1組成物は、例えば、上述の酵素処理又は上述の酵素処理とそれに続く銀処理により得ることができる。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30
【0136】
上記モル比率は、以下のモル比率であることが好ましい。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦20
【0137】
上記モル比率は、以下のモル比率であることがより好ましい。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦15
【0138】
第1組成物は、FT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比が0.15以下(好ましくは0.13以下)であることができる。したがって、第1組成物では、異性化物が低減されている。この第1組成物を上述の分子蒸留に供することにより、異性化物が少ない、第2組成物(低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物の混合物)を得ることができる。また、第1組成物は、上述の銀処理によって、遊離脂肪酸の含有量が低減されており、酸価が5未満(好ましくは4未満)であることができる。
【0139】
<第1組成物を用いた分子蒸留>
本発明の一実施形態に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法は、上記第1組成物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物および前記低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物の混合物と、該混合物以外の成分とを分離することにより、後述する第2組成物を得る工程を含む。
【0140】
本実施形態に係る製造方法において、第1組成物を蒸留して、後述する第2組成物を得る工程は、上述の分子蒸留工程に相当する。
【0141】
本実施形態に係る製造方法によれば、第1組成物を蒸留して、後述する第2組成物を得る工程を含むことにより、上述の精密蒸留において低級アルコールEPAエステル化物を選択的に得ることができる。
【0142】
<第2組成物>
本発明の一実施形態に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物(以下、「第2組成物」ともいう。)は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を90質量%以上(より具体的には、95質量%以上100質量%以下)含み、前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む。第2組成物は、上述の分子蒸留処理又は上述の分子蒸留処理とこれに続く銀処理にて得ることができる。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30
【0143】
上記モル比率は、以下のモル比率であることがより好ましい。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦20
【0144】
上記モル比率は、以下のモル比率であることがさらに好ましい。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦15
【0145】
第2組成物は、FT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比が0.075以下(好ましくは0.070以下)であることができる。したがって、第2組成物では、異性化物が低減されている。この第2組成物を上述の精密(2次)蒸留に供することにより、異性化物が少ない、低級アルコールEPAエステル化物を得ることができる。
【0146】
また、第2組成物は、遊離脂肪酸の含有量が低減されており、酸価が5未満(好ましくは4未満)であることができる。遊離脂肪酸の含量量の低減は例えば、上述の銀処理によって行うことができる。第2組成物は例えば、サプリメント等の食品組成物およびカプセル剤の原料として使用することができる。
【0147】
<第2組成物を用いた精密蒸留>
本発明の一実施形態に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法は、上記第2組成物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物以外の低級アルコール脂肪酸エステル化物を分離することにより、低級アルコールEPAエステル化物(後述する第3組成物)を得る工程を含む。
【0148】
本実施形態に係る製造方法において、第2組成物を蒸留して、低級アルコールEPAエステル化物を得る工程は、上述の精密蒸留工程に相当する。
【0149】
本実施形態に係る製造方法によれば、第2組成物を蒸留して、低級アルコールEPAエステル化物を得る工程を含むことにより、低級アルコールEPAエステル化物を選択的に得ることができる。純度の高い低級アルコールEPAエステル化物は例えば、サプリメント等の食品組成物およびカプセル剤の原料として使用することができる。
【0150】
<第3組成物>
本発明の一実施形態に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物 (以下、「第3組成物」ともいう。)は、低級アルコールEPAエステル化物を96.5質量%以上(より好ましくは98質量%以上約100質量%以下)含み、かつ、FT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比が0.085以下である。
【0151】
第3組成物は、上述の精密蒸留工程を経て得ることができる。第3組成物は、異性化物の含量がきわめて少ないため、例えば、サプリメント等の食品組成物およびカプセル剤の原料として好適に使用することができる。
【実施例】
【0152】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0153】
[調製例1(固定化酵素の調製)]
サーモマイセス・ラヌギノーゼ(Thermomyces lanuginose)の400gの溶液(940KLU/mL)を、大川原製作所製流動層造粒装置を用いて1kgのセライト545(ジョンマンビル社、粒径0.02-0.1mm)上に噴霧した。前記リパーゼ溶液はペリスタポンプ(東京理化器械株式会社製)を経由して供給した。100m^(3)/時の空気流により吸い込み口の空気の温度は57℃であり、そして固定化産物の温度は約40℃であった。固定化終了後、流動層中で更に5分間乾燥して、粒子状の固定化酵素(平均粒子径600μm、比重2)を得た。
【0154】
[実施例1(酵素処理)]
精製魚油(イワシ油、酸価0)1kgをセパラブルフラスコ(容量3L)に入れ、エタノール52.5gを添加した。フラスコを混ぜ、エタノールを魚油中に均一に分散させた。次に、水21g(反応液中の水分含量:2質量%)を入れ、撹拌し、水を魚油-エタノール混合物中に分散させて、反応液を調製した。次いで、実施例1で調製した固定化酵素105gを添加し、サンプル瓶中の大気を窒素で置換してから、撹拌機を使用し、サンプルを150rpm、30℃にて24時間反応させて、EPAEEおよびDHAEEを含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物(第1組成物)を得た。反応開始から0時間、2時間、4時間、6時間、および24時間の時点でそれぞれ、反応液200μl採取し、成分分析(低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物中の低級アルコール脂肪酸エステル化物の含有量(質量%)、低級アルコール脂肪酸エステル化物中のEPAEEの含有量(モル%)、低級アルコール脂肪酸エステル化物中のDHAEEの含有量(モル%)、EPAEE/DHAEE(モル比率))を行った。また、反応開始から2時間、4時間、6時間の時点でエタノール52.5gを反応液に追加し、かつ、サンプル瓶中で窒素置換を行った。また、24時間の反応を1サイクルとし、該反応を3サイクル繰り返して行った。各サイクルの終了後に、反応液から吸引ろ過にて油と固定化酵素とを分別し、分別した固定化酵素を反応容器に移し、その後、必要量の油を加えて、次サイクルの反応に繰り返し使用した。さらに、反応開始から0時間、2時間、4時間、6時間、8時間、24時間(反応終了時)の時点で反応液を微量採取して、成分分析を行った。
【0155】
上述した実施形態に記載された方法により測定および算出された、実施例1(1サイクル目の24時間反応)の反応液の酸価は5.95であり、実施例1(3サイクル目の8時間反応)の反応液の酸価は6.17あった。
【0156】
また、実施例1(1サイクル目の24時間反応)の反応液のFT-IRスペクトル解析(測定装置:1回反射型全反射測定装置MIRacleA(ZnSeプリズム))において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比は0.12であった。
【0157】
(実施例2?8(酵素処理))
使用する水の量を5.25g(反応液中の水分含量:0.5質量%)、10.5g(反応液中の水分含量:1質量%)、52.5g(反応液中の水分含量:5質量%)、105g(反応液中の水分含量:9質量%)、210g(反応液中の水分含量:17質量%)、525g(反応液中の水分含量:33質量%)、1050g(反応液中の水分含量:50質量%)とした以外は、実施例1と同様の処理を行ない、EPAEE及びDHAEEを含む、実施例2ないし8の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物(第1組成物)を得た。
【0158】
なお、実施例3ないし5においては、実施例1と同様に、24時間の反応を1サイクルとし、該反応を3サイクル繰り返して行い、各サイクルの終了後に、反応液から吸引ろ過にて油と固定化酵素とを分別し、分別した固定化酵素を反応容器に移し、その後、必要量の油を加えて、次サイクルの反応に繰り返し使用した。
【0159】
上述した実施形態に記載された方法により測定および算出された、実施例2ないし8の反応液の酸価はそれぞれ2.2以上12以下の範囲内であった。
【0160】
また、実施例2ないし8の反応液のFT-IRスペクトル解析(測定装置:1回反射型全反射測定装置MIRacleA(ZnSeプリズム))において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比はいずれも0.15以下であった。
【0161】
(比較例1(酵素処理))
使用する水の量を0g(反応液中の水分含量:0%)とした以外は、実施例1と同様の処理を行ない、EPAEE及びDHAEEを含む、比較例1の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得た。
【0162】
(比較例2(酵素処理))
使用する水の量を3.15g(反応液中の水分含量:0.3質量%)とした以外は、実施例1と同様の処理を行ない、EPAEE及びDHAEEを含む、比較例2の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得た。
【0163】
上述した実施形態に記載された方法により測定および算出された、比較例1の反応液の酸価は1.0であり、比較例2の反応液の酸価は1.5であった。
【0164】
実施例1ないし8および比較例1および2の各低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれる、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物中の低級アルコール脂肪酸エステル化物の含有量(質量%)、低級アルコール脂肪酸エステル化物中のEPAEEの含有量(モル%)、低級アルコール脂肪酸エステル化物中のDHAEEの含有量(モル%)、およびEPAEE/DHAEE(モル比率)を表1に示す。
【0165】
【表1】

【0166】
表1によれば、実施例1ないし8において、反応開始から2時間で、低級アルコール脂肪酸エステル化物中におけるEPAEEの含有量は急激に増加し、反応時間の増加に伴い、反応液中の低級アルコール脂肪酸エステル化物の含有量が増加するともに、低級アルコール脂肪酸エステル化物中のEPAEEの含有量およびDHAEEの含有量が増加する傾向があり、結果として、反応前の原料油脂に含まれる脂肪酸グリセリドを構成するEPA/DHAの値と比較して、反応液におけるEPAEEの含有量/DHAEE含有量の値を高めることができたことが理解できる。
【0167】
また、実施例1ないし8によれば、前記酵素処理の反応液の水分含量が0.4質量%以上であることにより、酵素の安定性が高められる結果、酵素の繰り返し使用が可能になるため、固定化酵素を反応液中から取り出して再度使用できることが理解できる。
【0168】
さらに、実施例1ないし8によれば、リパーゼを用いた処理において、反応液の水分含量を0.4質量%以上としたことにより、低級アルコール脂肪酸エステル化物の含有量が40質量%以上90質量%以下であり、かつ、DHAEEに対する前記EPAEEのモル比率(EPAEE/DHAEE)が3.0以上30以下である低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得ることができた。
【0169】
なお、反応前の原料油脂に含まれる脂肪酸グリセリドを構成する脂肪酸における、EPAの含有量およびDHAの含有量はそれぞれ、18モル%、12モル%(EPA/DHA=3/2)である。このことから、上記処理により、EPA含有グリセリドを含む原料油脂からEPAEEを選択的に得ることができることが理解できる。
【0170】
これに対して、比較例1および2によれば、リパーゼを用いた処理において、反応液の水分含量が0.4質量%未満である場合、酵素の安定性が低く、反応液における低級アルコール脂肪酸エステル化物の含有量が実施例1ないし8で得られた反応液よりも少なかった。
【0171】
[実施例9(分子蒸留処理)]
実施例1で得られた第1組成物を、ショートパス蒸留機(株式会社神鋼環境ソリューション製)を使用して、真空度0.1Torr以下で80℃以上200℃以下の温度にて蒸留し(分子蒸留(一次蒸留))、低級アルコールEPAエステル化物(EPAEE)および低級アルコールDHAエステル化物(DHAEE)を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物(第2組成物)を得た。
【0172】
実施例9で得られた第2組成物のFT-IRスペクトル解析(測定装置:1回反射型全反射測定装置MIRacleA(ZnSeプリズム))において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比は0.069であり、該該第2組成物に含まれる低級アルコール脂肪酸エチルエステルの含有量はほぼ100質量%であり、第2組成物の酸価は10.1であり、ならびに、第2組成物におけるEPAEE/DHAEE(モル比率)は6.0であった。
【0173】
[実施例10(精密蒸留処理)]
実施例9で得られた第2組成物を、流下型薄膜式の精密蒸留機(株式会社旭製作所製)を使用して、真空度3Torr以下、150℃以上250℃以下の温度、理論段数5段にて蒸留(精密蒸留(二次蒸留))して、EPAEE(第3組成物、純度:ほぼ100質量%)を得た。
【0174】
実施例10のEPAEEのFT-IRスペクトル解析(測定装置:1回反射型全反射測定装置MIRacleA(ZnSeプリズム))において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比は0.081であり、該第3組成物に含まれる脂肪酸エチルエステル(EPAEE)の含有量はほぼ100質量%であり、該第3組成物の酸価はほぼ0であった。
【0175】
[比較例3(アルカリ処理による低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の調製およびEPAEEおよびDHAEEの混合物の調製)]
2Lの共栓付き三角フラスコ(アルミホイルにて遮光)に、実施例1で使用したものと同じ精製魚油800g(カールフィッシャー法で測定された水分測定値0.04質量%)を添加した。別のビーカーにエタノール240mLを入れ、水酸化ナトリウム4.8gを添加して、2%(w/w)水酸化ナトリウムエタノール溶液を調製した。この2%(w/w)水酸化ナトリウムエタノール溶液を前記三角フラスコに添加した後、該三角フラスコ内を窒素置換した。次いで、該三角フラスコを30℃恒温水槽に浸して、スターラー目盛り8にて室温(25℃)にて18時間撹拌を行った。その後、反応液を分液漏斗に移し、純水50gを添加して水洗し、約20分間静置した後、下相(水相)を廃棄する洗浄操作を行った。次いで、純水50gを添加して同様の洗浄操作を行った後、同様の洗浄操作をさらに4回(添加する純水の量、1回目:50g、2回目:240g、3回目:240g、4回目:240g)を行った。続いて、油相が中性であることを確認した後、無水硫酸ナトリウムを添加して一晩静置し、4℃で保管することにより、比較例3の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得た。
【0176】
この比較例3の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物について、実施例9と同様の蒸留処理を行うことにより、EPAEEおよびDHAEEの混合物を得た。
【0177】
比較例3の反応液のFT-IRスペクトル解析(測定装置:1回反射型全反射測定装置MIRacleA(ZnSeプリズム))において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比は0.095であり、該反応液に含まれる脂肪酸エチルエステルの含有量はほぼ100質量%であった。
【0178】
このことから、本発明に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法(実施例9)によれば、アルカリ処理を行う方法(比較例3)と比較して、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれる異性化物の量を低減できた。
【0179】
[調製例2(固定化酵素の調製)]
ジビニルベンゼン(DVB)70質量%とメタクリル酸グリシジル15質量%とDEAEメタクレート15質量%を通常の方法で共重合し、粒子状の樹脂担体を得た。この樹脂担体の平均細孔径は11.5nmで細孔容積は0.5cm^(3)/g、平均粒子径は0.5mm、比重0.2であった。得られた樹脂担体1kgにRhizopus sp.由来のリパーゼFAP-15(天野エンザイム(株)製155,000u/g)の2質量%水溶液10Lを加え、3時間25℃で攪拌しながら固定化を行った。濾過、洗浄後、真空乾燥器で2時間乾燥し、固定化酵素を得た。
【0180】
[実施例11、12、13、14(酵素処理)]
実施例1の酵素処理において、使用する固定化酵素を、調製例2で得られた固定化酵素に置き換え、表2に記載の酵素量、エタノール量、水分含量に置き換えた以外は、実施例1と同様の方法で1サイクル反応させ、成分分析を行った。なお、実施例13では、反応開始時および反応開始から4時間の時点でそれぞれ、エタノールを105g添加した。実施例14では、反応開始時にエタノールを210g添加した。
【0181】
上述した実施形態に記載された方法により測定および算出された、実施例11の反応液(反応開始から24時間の時点)の酸価は4.6であった。
【0182】
【表2】

【0183】
表2によれば、実施例11ないし14において、反応開始から2時間で、低級アルコール脂肪酸エステル化物中におけるEPAEEの含有量は急激に増加し、反応時間の増加に伴い、反応液中の低級アルコール脂肪酸エステル化物の含有量が増加するともに、低級アルコール脂肪酸エステル化物中のEPAEEの含有量およびDHAEEの含有量が増加する傾向があり、結果として、反応前の原料油脂に含まれる脂肪酸グリセリドを構成するEPA/DHAの値と比較して、反応液におけるEPAEEの含有量/DHAEE含有量の値を高めることができたことが理解できる。
【0184】
また、実施例11ないし14によれば、リパーゼを用いた処理において、反応液の水分含量を0.4質量%以上としたことにより、低級アルコール脂肪酸エステル化物の含有量が40質量%以上90質量%以下であり、かつ、DHAEEに対する前記EPAEEのモル比率(EPAEE/DHAEE)が3.0以上15.0以下である低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得ることができた。
【0185】
また、実施例11ないし14の反応液のFT-IRスペクトル解析(測定装置:1回反射型全反射測定装置MIRacleA(ZnSeプリズム))において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比はいずれも0.15以下であった。
【0186】
[実施例15(銀処理)]
実施例9で得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物(第2組成物)10gを銀塩水溶液(硝酸銀の濃度:50質量%)40gと窒素雰囲気下遮光下で、20℃、20分間混合することにより、該組成物と該銀塩水溶液とを接触させた(表3の試験番号1)。また、上記銀塩水溶液の使用量を変えて同様の処理を行った(表3の試験番号2、3)。
接触後に分離した有機相を廃棄し、残りの当該銀塩水溶液にトルエン40gを添加した後、60℃で1時間撹拌し、EPAEEおよびDHAEEを含むトルエン層を回収した後トルエンを除去して、EPAEEおよびDHAEEの混合物を得た。
【0187】
銀処理前後における酸価およびEPAEEの含有量/DHAEE含有量の値(モル比率)を表3に示す。
【0188】
【表3】

【0189】
表3によれば、本実施例の銀処理によって、EPAエチルエステル/DHAエチルエステルの比率を保持したまま、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物(第2組成物)の酸価を5未満に低減できたことが理解できる。なお、実施例10で得られたEPAEEについても、本実施例と同様の銀処理を行うことにより、微量含まれる遊離脂肪酸を除去することができた。
【0190】
[実施例16(精密蒸留処理)]
実施例15で得られた、銀処理後の第2組成物を、精密蒸留機(株式会社旭製作所製)を使用して、真空度3Torr以下、150℃以上200℃以下の温度、理論段数5段にて蒸留(精密蒸留)して、EPAEE(第3組成物、純度:ほぼ100質量モル%、酸価:ほぼ0)を得た。
【0191】
実施例16のEPAEEのFT-IRスペクトル解析(測定装置:1回反射型全反射測定装置MIRacleA(ZnSeプリズム))において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比は0.078であり、該該第3組成物に含まれる脂肪酸エチルエステルの含有量はほぼ100質量%であった。
【0192】
[実施例17(酵素処理、分子蒸留処理及び精密蒸留処理)]
実施例1の酵素処理、実施例9の分子蒸留処理及び実施例10の精密蒸留処理をそれぞれ、1,000倍、2,000倍及び2,000倍のスケールで行った。その結果、本実施例の酵素処理で得られた第1組成物の成分(低級アルコール脂肪酸エステル化物中の低級アルコール脂肪酸エステルの含有量(質量%)、低級アルコール脂肪酸エステル化物中のEPAEEの含有量(モル%)、低級アルコール脂肪酸エステル化物中のDHAEEの含有量(モル%)、EPAEE/DHAEE(モル比率))、前記反応液(混合物)のFT-IRスペクトル解析における、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比、ならびに酸価は、実施例1で得られた第1組成物と同様であった。
【0193】
また、本実施例の分子蒸留処理で得られた第2組成物に含まれる低級アルコール脂肪酸エチルエステルの含有量ならびにEPAEE/DHAEE(モル比率)は、実施例9で得られた第2組成物と同様であった。さらに、本実施例の分子蒸留処理で得られた第2組成物のFT-IRスペクトル解析における、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比、ならびに酸価は、実施例9で得られた第2組成物と同様であった。
【0194】
さらに、本実施例の精密蒸留処理で得られた第3組成物に含まれるEPAEEの割合は、実施例10で得られた第3組成物と同様であった。さらに、本実施例で得られた精密蒸留処理で得られた第3組成物のFT-IRスペクトル解析における、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比、ならびに酸価は、実施例10で得られた第3組成物と同様であった。
【0195】
[実施例18(食品組成物:クッキー)]
下記配合にてクッキーを調製した。ショートニングおよび実施例9で得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を攪拌機(Kitchen Aid社製Kitchen Aid K5SS)に投入し速度調節レバー6で1分間混ぜ合わせてクリーム状にし、粉末全卵、砂糖を加えミキシングを行った。次に、除々に清水を加え比重を0.8g/mlに調整し、予め混合してから篩った小麦粉とベーキングパウダーを加えてから30秒間攪拌を続けて生地を調製した。得られた生地を冷蔵庫で2時間ねかせた後、厚さ3?5mm程度に延ばし、型を抜き、180℃のオーブンで13?15分間焼成し、クッキーを得た。
【0196】


【0197】
[実施例19(ソフトカプセル)]
実施例10で得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を使用して、内容物が下記の配合であるソフトカプセルを製した。
【0198】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を、1,3位特異リパーゼを用いて処理して、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る工程を含み、
前記原料油脂が魚油であり、
前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、
前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、
前記処理の反応液中における添加された水分含量が0.5質量%以上であり、
前記反応液の酸価が2以上12以下であり、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して50質量%以上90質量%以下含み、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物における、前記低級アルコールDHAエステル化物に対する前記低級アルコールEPAエステル化物のモル比率(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)が3.0以上30以下である、
低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記処理の反応液は、前記原料油脂9.5質量部に対して0.1質量部以上2.5質量部以下の低級アルコールをさらに含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記処理において、前記処理の反応液に前記低級アルコールを連続的にまたは段階的に添加する、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記処理において、前記固定化酵素は粒子状である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
請求項1ないし3および5のいずれか1項において、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物および前記低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物の混合物と、該混合物以外の成分とを分離する工程をさらに含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記混合物のFT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比が0.075以下である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8において、
前記混合物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して90質量%以上含み、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項において、
前記混合物を銀塩の水溶液と接触させる工程を含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記銀塩の水溶液と接触させた後の前記混合物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物以外の低級アルコール脂肪酸エステル化物を分離することにより、前記低級アルコールEPAエステル化物を得る工程をさらに含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項7ないし9のいずれか1項において、
前記混合物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物以外の低級アルコール脂肪酸エステル化物を分離することにより、前記低級アルコールEPAエステル化物を得る工程をさらに含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。
【請求項13】
EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、
前記原料油脂が魚油であり、
前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、
前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、
低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して50質量%以上90質量%以下含み、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価が2以上12以下であり、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30
【請求項14】
請求項13において、
FT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比が0.15以下である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。
【請求項15】
EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理し、さらに蒸留して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、
前記原料油脂が魚油であり、
前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、
前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、
低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して90質量%以上含み、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価が2以上12以下であり、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。
3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30
【請求項16】
請求項15において、
FT-IRスペクトル解析において、1736cm^(-1)付近に現れるピークの強度に対する、966cm^(-1)付近に現れるピークの強度の比が0.075以下である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。
【請求項17】
請求項13ないし16のいずれか1項において、
酸価が2以上5未満である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。
【請求項18】
請求項13または14に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を蒸留して、請求項15または16に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物と、前記組成物以外の成分とを分離する工程を含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。
【請求項19】
請求項15又は16に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有物を銀塩の水溶液で接触させる工程を含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。
【請求項20】
請求項15ないし17のいずれか1項に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物以外の低級アルコール脂肪酸エステル化物を分離することにより、前記低級アルコールEPAエステル化物を得る工程を含む、
低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。
【請求項21】(削除)
【請求項22】
請求項7ないし12、18、および19のいずれか1項に記載の製造方法により得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物、及び請求項13ないし17に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物から選ばれる少なくとも1種を使用して食品組成物を得る工程を含む、食品組成物の製造方法。
【請求項23】
請求項7ないし12、18、および19のいずれか1項に記載の製造方法により得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物、及び請求項13ないし17に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物から選ばれる少なくとも1種を使用してカプセル剤を得る工程を含む、カプセル剤の製造方法。
【請求項24】
EPA含有グリセリドを含有する原料油脂を、1,3位特異リパーゼを用いて処理して、低級アルコールEPAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る処理において、
前記原料油脂が魚油であり、
前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、
前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、
前記処理の反応液中における添加された水分含量が0.5質量%以上であり、
前記反応液の酸価が2以上12以下であり、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して50質量%以上90質量%以下含み、
前記低級アルコール脂肪酸エステル化物における、前記低級アルコールDHAエステル化物に対する前記低級アルコールEPAエステル化物のモル比率(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)が3.0以上30以下であり、
前記処理後の固定化酵素を繰り返し使用する方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-06-05 
出願番号 特願2015-504661(P2015-504661)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C12P)
P 1 651・ 536- YAA (C12P)
P 1 651・ 121- YAA (C12P)
最終処分 維持  
前審関与審査官 桜田 政美平塚 政宏  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 原 賢一
日比野 隆治
登録日 2015-05-29 
登録番号 特許第5753963号(P5753963)
権利者 キユーピー株式会社
発明の名称 低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法および低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物  
代理人 小島 一真  
代理人 永井 浩之  
代理人 中村 行孝  
代理人 中村 行孝  
代理人 砂山 麗  
代理人 小島 一真  
代理人 反町 洋  
代理人 柏 延之  
代理人 砂山 麗  
代理人 反町 洋  
代理人 柏 延之  
代理人 永井 浩之  

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