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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1331182
異議申立番号 異議2016-701003  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-20 
確定日 2017-07-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5905097号発明「一次防錆塗料組成物およびその用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5905097号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正することを認める。 特許第5905097号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由 理由
1.手続の経緯
特許第5905097号の請求項1?14に係る特許についての出願は、平成25年7月18日(優先権主張 平成24年7月20日、日本国)を国際出願日とする日本語国際特許出願であって、平成28年3月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人アトテツク・ドイチユラント・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツングにより特許異議の申立てがされたものである。
本件特許異議の申立てに係る手続きの経緯は以下のとおりである。
平成28年10月20日 :特許異議の申立て
平成28年12月22日付け:取消理由通知
平成29年 3月 6日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
平成29年 5月10日 :意見書の提出(特許異議申立人)

2.訂正請求について
(1)訂正の内容
平成29年3月6日に提出された訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正事項は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「アルキルシリケートおよびメチルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物の縮合物であるシロキサン系結合剤」と記載されているのを、
「アルキルシリケートの縮合物であるシロキサン系結合剤」に訂正する。
請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2?14も同様に訂正する。

イ 訂正事項2
願書に添付した明細書の段落[0169]、[0163]表1A、[0164]表2A、[0165]表3A、[0181]表1Dに一次防錆塗料の上塗り性評価の付着強度の単位が「MPa・s」と記載されているものを「MPa」訂正する。

(2)訂正の適否についての判断
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた、「アルキルシリケートおよびメチルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物の縮合物であるシロキサン系結合剤」のうち、選択肢の一方を削除することにより、「アルキルシリケートの縮合物であるシロキサン系結合剤」に減縮する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項1は新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲のカテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項1に係る訂正前の請求項1?14のうち請求項2?14は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、いずれも訂正事項1による請求項1の訂正に連動して訂正され、訂正後の請求項2?14となるから、訂正事項1は、訂正事項1により訂正される一群の請求項である請求項1?14に対して請求されたものといえ、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
加えて、本件においては、訂正前のすべての請求項1?14に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項1については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

イ 訂正事項2について
訂正前の段落[0169]には、「上塗り性については、PVCが60%以下の場合、付着強度が2.4MPa・s以上となり充分な強度であったのに対して、PVCが65%以上の場合(比較例7A?12A)、付着強度が1.0MPa・s以下となり不充分な強度であった。」と記載されているが、「Pa・s」は、通常は粘度の単位として用いられる単位であるし、その100万倍を意味する「MPa・s」という単位では、塗料分野における通常の粘度値に比べても高い値になるから、訂正前の段落[0169]における「付着強度」の記載が誤記を含むことは明らかである。また、訂正前の明細書の段落[0156]?[0157]における、「(2)上塗り塗膜の付着性」の試験方法の記載を参照すると、その測定方法は、「上塗り塗膜の表面に直径16mm(面積2cm^(2))、長さが20mmの軟鋼製の円筒形治具の底面をエポキシ系の接着剤で貼り付けて24時間放置した後、プルゲージ(モトフジ製)で治具の頭部を上塗り塗膜表面の垂直方向に引っ張り、治具を上塗り塗膜表面から剥離して、付着強度(凝集破壊および/または界面剥離に要した力)を測定した。」というものであるから、その測定値は単位面積当たりの力(N/m^(2)、すなわちPa)を単位として表されるべきものと解される。そして、塗料の技術分野における塗膜の一般的な付着強度の値を勘案すると、訂正前の段落[0169]における「MPa・s」という単位は、「MPa」の明らかな誤記であるといえる。
そうすると、訂正事項2のうち、上記訂正前の[0169]における「MPa・s」という記載を「MPa」とする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とする訂正である。また、同様の理由により、訂正事項2のうち、訂正前の[0163]表1A、同[0164]表2A、同[0165]表3A及び同[0181]表1Dに記載された一次防錆塗料の上塗り性評価の付着強度の単位である「MPa・s」という記載を、「MPa」とする訂正も、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とする訂正である。
さらに、訂正事項2は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の記載に照らして新たな事項を追加するものではなく、また、訂正事項2は、請求項に記載された事項の解釈に影響を与えることによって実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ 小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正を認める。

3.本件発明について
本件訂正請求により訂正された請求項1?14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明14」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
(A)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1000?6000であり、アルキルシリケートの縮合物であるシロキサン系結合剤と、
(B)鱗片状亜鉛系粉末(b-1)を含む亜鉛末と
を含有し、
顔料体積濃度(PVC)が35?60%であり、かつ、亜鉛末(B)とSiO_(2)換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((B)/(A))が1.0?5.0であることを特徴とする一次防錆塗料組成物。
[請求項2]
亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の含有量が15質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項3]
鱗片状亜鉛系粉末(b-1)とSiO_(2)換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((b-1)/(A))が1.0?5.0であることを特徴とする請求項1または2に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項4]
亜鉛末(B)として、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)とともに球状亜鉛系粉末(b-2)をさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項5]
亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の含有量が15?90質量%であり、球状亜鉛系粉末(b-2)の含有量が10?85質量%であることを特徴とする請求項4に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項6]
さらに導電性顔料(C)を含有する
ことを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項7]
導電性顔料(C)が、酸化亜鉛であることを特徴とする請求項6に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項8]
鱗片状亜鉛系粉末(b-1)が、鱗片状亜鉛粉末および鱗片状亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項9]
鱗片状亜鉛系粉末(b-1)のメディアン径(D50)が30μm以下であり、かつ平均厚さが1μm以下であることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項10]
シロキサン系結合剤(A)の含有量が、全組成物の8?40質量%であることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物。
[請求項11]
請求項1?10のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物から形成された一次防錆塗膜であって、平均乾燥膜厚が10μm以下である一次防錆塗膜。
[請求項12]
基板と、前記基板表面に形成された、請求項1?10のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物からなる塗膜とを有することを特徴とする一次防錆塗膜付き基板。
[請求項13]
基板表面に、請求項1?10のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物を塗装する工程、および塗装された前記塗料組成物を硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程を有することを特徴とする基板の防錆方法。
[請求項14]
基板表面に、請求項1?10のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物を塗装する工程、および塗装された前記塗料組成物を硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程を有することを特徴とする一次防錆塗膜付き基板の製造方法。」

4.取消理由の概要
訂正前の請求項1?14に係る特許に対して平成28年12月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)新規性
本件特許の請求項1?3、6、8、10、12?14に係る発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
(2)進歩性
(ア)本件特許の請求項1?3に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
(イ)本件特許の請求項4、5に係る発明は、引用文献1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
(ウ)本件特許の請求項6、7に係る発明は、引用文献1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
(エ)本件特許の請求項8?14に係る発明は、引用文献1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。

5.引用文献に記載された事項
<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2005-232537号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開昭54-048831号公報(当審において新たに引用された文献)
引用文献3:特開昭60-137973号公報(当審において新たに引用された文献)
引用文献4:特開昭57-057758号公報(当審において新たに引用された文献)
引用文献5:特開昭61-123674号公報(当審において新たに引用された文献)

(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(1-1)「[請求項1]
(A)鱗箔状に形成された亜鉛粉末、
(B)鱗箔状に形成されたアルミニウム粉末、
(C)オルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物、
(D)金属アルコキシド(但し、金属がケイ素である場合を除く)
を含有してなることを特徴とする防錆剤。」

(1-2)「[請求項2]
(C)成分が、下記一般式(1)
R^(1)_(a)Si(OR^(2))_(4-a)(1)
(式中、R^(1)は同一又は異なってもよく、炭素数1?10の非置換又は置換の一価炭化水素基である。R^(2)は炭素数1?3のアルキル基、炭素数2もしくは3のアシル基、又は炭素数3?5のアルコキシアルキル基を表し、aは0、1又は2のいずれかの数である。)
で表されるシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の1種又は2種以上の混合物からなる硬化性シリコーン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の防錆剤。」

(1-3)「[0022]
(A)、(B)成分の鱗箔状に形成された亜鉛粉末・アルミニウム粉末は、大きさ(最大対角長乃至直径)が20?80μm、特に40?60μm、厚さが0.5?10μm、特に1?5μmのものが好ましい。」

(1-4)「[0025]
次に、本発明の防錆剤に使用される(C)成分は、オルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物であるが、これは下記一般式(1)で表されるシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の1種又は2種以上の混合物であることが好ましい。
R^(1)_(a)Si(OR^(2))_(4-a) (1)
・・・
[0028]
また、一般式(1)中のaは0、1又は2のいずれかの数であるが、防錆剤の硬化性、硬化塗膜の表面硬度、基材との密着性といった観点からは、(C)成分の硬化性シリコーン化合物中で、a=1のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合が30モル%以上であることが好ましく、更には40?100モル%であることがより好ましい。また、a=0のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合は、(C)成分中0?40モル%であることが好ましく、a=2のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合は、(C)成分中0?60モル%であることが好ましい。(C)成分として、a=1のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物に加えて、a=0のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物を配合すると、硬化塗膜の表面硬度をより高くすることができるが、配合量が多すぎるとクラックが発生するおそれがあり、a=2のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物を併用すると、硬化塗膜に強靱性と可撓性が与えられるが、配合量が多すぎると十分な架橋密度が得られないために、表面硬度や硬化性が低下するおそれがある。
・・・
[0030]
このようなシラン化合物及びその部分(共)加水分解縮合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、メチルトリス(メトキシプロポキシ)シラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、へキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、シアノエチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルアリルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のアルコキシシラン又はアシロキシシラン、及びこれらの部分(共)加水分解縮合物を挙げることができる。
[0031]
これらのシラン化合物及び部分(共)加水分解縮合物前駆体としてのシラン化合物の中でも、汎用性、コスト面、防錆剤として使用した際の硬化性、塗膜特性等からは、一般式(1)におけるR^(1)がメチル基及びフェニル基から選択される基、R^(2)がメチル基及びエチル基から選択される基であるシラン化合物を用いることが好ましく、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランが例示される。またこの場合、aが1であるトリオルガノキシシラン又はaが1のトリオルガノキシシランとaが2のジオルガノキシシランとの混合シランの部分(共)加水分解縮合物を含有することが好ましい。」

(1-5)「[0032]
この場合、部分(共)加水分解縮合物としては、上記したようなシラン化合物の2量体(シラン化合物2モルに水1モルを作用させてアルコール2モルを脱離させ、ジシロキサン単位としたもの)?100量体、好ましくは2?50量体、更に好ましくは2?30量体としたものが好適に使用できるし、2種以上のシラン化合物を原料とする部分共加水分解縮合物を使用することも可能である。本発明の(C)成分の硬化性シリコーン化合物としては、上記したシラン化合物又はその部分(共)加水分解縮合物を単独で使用してもよいし、構造の異なる2種類以上のシラン化合物又は部分(共)加水分解縮合物を使用することも、あるいはシラン化合物と部分(共)加水分解縮合物を併用することも可能であるが、各成分の混合時や塗装時の揮発性、作業性や、硬化性コントロールのし易さ、湿気硬化により発生するアルコール量といった観点からは、部分(共)加水分解縮合物を必須成分とすることが好ましい。」

(1-6)「[0035]
なお、粘度や硬化性の調整目的で上記したシラン化合物を使用することができるし、場合によってアルコール類等の溶剤成分を併用することも可能である。」

(1-7)「[0037]
次に、本発明の防錆剤に使用される(D)成分は、金属アルコキシド(但し、金属がケイ素(Si)の場合を除く)であり、金属アルコキシドとしては、Al,Ti,Sn,Zr,Zn,Feのアルコキシドが好ましく、特に導電性を上げる効果が高い点でアルミニウムアルコキシドが好ましく用いられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、フェノキシ基等の炭素数1?8、特に1?6のものが好ましく、特に取り扱い易さの点でイソプロポキシ基が好ましい。このためアルミニウムアルコキシドとして特に好ましくはアルミニウムトリイソプロポキシドである。(D)成分は、(C)成分がなす3次元架橋の間に入り込み、水分と反応して遊離した金属イオンによって被膜の導電性が向上し、犠牲陽極反応を強化し、防錆効果を向上させることができる。」

(1-8)「[0040]
本発明においては、必要に応じて、(C)成分のオルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物を湿気硬化させるための硬化触媒を添加してもよい。そのような硬化触媒としては、リン酸等の酸類;トリエタノールアミン等の有機アミン類;ジメチルアミンアセテート等の有機アミン塩;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の第4級アンモニウム塩;炭酸水素ナトリウム等の有機酸のアルカリ(土類)金属塩;γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノアルキルシラン化合物;オクチル酸亜鉛等のカルボン酸金属塩;ジオクチル錫ジラウレート等の有機錫化合物;テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタン酸エステル類;アセチルアセトンアルミニウム塩等の金属キレートなどが挙げられるが、防錆剤の硬化性、保存安定性、防錆塗膜の特性といった観点からは、有機錫化合物、チタン酸エステル類、有機アルミニウム化合物等の有機金属化合物を用いることが好ましい。」

(1-9)「[0044]
この際、(A)、(B)、(C)成分の混合比率は、これら3成分の合計100質量%とした場合、(A)/(B)/(C)=35?55質量%/3?15質量%/40?50質量%の範囲とすることが好ましく、更には(A)/(B)/(C)=42?48質量%/5?8質量%/47?50質量%の範囲とすることがより好ましく、(A)と(B)の容積が同容量に近くなると、標準電極電位の差による犠牲陽極効果が際立った防錆効果が発揮される。」

(1-10)「[0045]
本発明の防錆剤が適用される基材としては、鉄鋼材、鋳鉄等を挙げることができる。この場合、塗布方法としては、浸漬方法・スプレー方法・刷毛塗り方法等を挙げることができ、更に現場塗装を行うことも可能である。また、防錆剤の塗布量としては、基材の種類や塗布方法によっても異なるが、一般的には硬化後の塗膜厚さが30?120μmの範囲となるようにすればよく、好ましくは50?70μmの範囲である。」

(1-11)「[0049]
(A)?(E)成分として、以下に示したものを使用した。
(A)成分(鱗箔状に形成された亜鉛粉末)
A-1:大きさ40?60μm、厚さ1?5μm(純度98%)
(B)成分(鱗箔状に形成されたアルミニウム粉末)
B-1:大きさ40?60μm、厚さ1?5μm(純度98%)
(C)成分(オルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物)
C-1:メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(平均重合度5、粘度5mm^(2)/s)
C-2:メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(平均重合度25、粘度150mm^(2)/s)
C-3:メチルトリエトキシシラン85モル%とジフェニルジメトキシシラン15モル%との部分共加水分解縮合物(平均重合度10、粘度35mm^(2)/s)
C-4:メチルトリメトキシシラン70モル%とジメチルジメトキシシラン30モル%との部分共加水分解縮合物(平均重合度20、粘度100mm^(2)/s)
C-5:ジメチルジメトキシシラン
C-6:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
(C’)成分(オルガノキシシリル基非含有の硬化性シリコーン化合物)・・・比較例用
C’-1:シラノール基含有メチルフェニル系シリコーン樹脂の60%キシレン溶液(信越化学工業(株)製商品名:KR-311)
(D)成分(金属アルコキシド)
D-1:アルミニウムトリイソプロポキシド
(E)その他の成分(硬化触媒、溶剤)
E-1:ジ-n-ブトキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム(ホープ製薬(株)製商品名:ケロープACS)
E-2:テトライソプロポキシチタン(日本曹達(株)製商品名:TPT-100)
E-3:オルソリン酸(純度85%品)
E-4:無水エタノール」

(1-12)「[0050]
[実施例1]
(1)室温、窒素雰囲気下において、(C)成分の硬化性シリコーン化合物として、C-1:36質量部、C-2:18質量部、C-5:38質量部を撹拌混合し、更に硬化触媒としてE-1:8質量部を添加して撹拌混合した。この(C)、(E)成分の混合物:100質量部に対して、更に(D)成分の金属アルコキシドとしてD-1:13質量部を添加して、再度撹拌混合した。
(2)(A)成分の隣箔状亜鉛粉末としてA-1:88質量部、(B)成分の隣箔状アルミニウム粉末としてB-1:12質量部とからなる混合粉末を用意した。
(3)工程(1)で作製した(C)、(D)、(E)成分の混合物:45質量部と、工程(2)で作製した(A)、(B)成分の混合物:55質量部を配合し、分散撹拌機を使用して水冷により35℃以下を保ちながら、窒素雰囲気下で十分に撹拌混合した。
(4)粘度調整のため、工程(3)で作製した(A)?(E)成分の混合物:100質量部に対して、更に溶剤としてE-4:4質量部を添加して撹拌混合を行い、防錆剤-1を得た。防錆剤-1の粘度は100mPa・sであった。」

(1-13)「[0052]
[実施例3]
実施例1における各成分の使用量を、工程(1)において、C-2:18質量部、C-3:78質量部、C-5:2質量部、E-2:2質量部、D-1:13質量部とし、更に工程(4)において、E-4:5質量部とした以外は同様の操作を行い、防錆剤-3を得た。防錆剤-3の粘度は110mPa・sであった。」

(1-14)「[0058]
上記の実施例1?4及び比較例1?4で調製した防錆剤-1?8における各成分の配合組成(質量%)と、防錆剤の粘度(mPa・s)を表1に示す。」

(1-15)「[0059]
[表1]



(1-16)「[0060]
試験片の作製
鋼板(材質SS400、3mm×70mm×150mm)をサンドブラストで表面処理し、スプレー法により乾燥膜厚50μmとなるように上記の実施例1?4及び比較例1?4で調製した防錆剤-1?8を塗布した後、25℃/相対湿度65%雰囲気下で5日間放置して硬化被膜とした試験片を作製した。
次に、比較例5として、上記と同じ鋼板に50μmの溶融亜鉛鍍金の被膜を、比較例6として、上記と同じ鋼板に100μmの亜鉛金属溶射の被膜を、比較例7として、上記と同じ鋼板に100μmの亜鉛・アルミニウム複合金属溶射の被膜を作製した。
また、比較例8として、上記と同じ鋼板に100μmの亜鉛・アルミニウム複合金属溶射の被膜の上にブチラール系樹脂の封孔剤を塗布した。」

(2)引用文献2の記載事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「(1)防錆顔料成分として(a)グラファイトをりん片化助剤として製造した、りん片状亜鉛末および(b)球状亜鉛末を含有する防錆塗料組成物。」(特許請求の範囲の請求項(1))

(2-2)「(2)(a):(b)の重量比が1:9?9:1である特許請求の範囲第(1)項記載の防錆塗料組成物。」(特許請求の範囲の請求項(2))

(2-3)「しかしジンクリツチペイントは極めて優れた防錆力を有する反面、数々の欠点を持つている。例えば一般の塗料は一缶型であるが、通常のジンクリツチペイントは金属亜鉛顔料が塗料の媒体中で沈降し易いために顔料、結合剤、場合によっては硬化剤を別の缶に入れて2?3缶型とし、使用直前に混合して用いねばならない。またスプレーで塗装する際、上記した如く顔料の沈降が早いためにスプレーガンのノズルが詰まり易く、塗装の作業性は著しく悪いものとなつている。さらに防錆力を高めるために厚塗りを行なうと塗膜にヒビ割れを生じて良好な塗膜を得ることが困難であり、しかも塗装の際にタレを生じ易く作業性が悪いという欠点がある。」(引用文献2の第2頁左上欄3?16行)

(2-4)「上述した従来の金属亜鉛顔料は金属亜鉛を非酸化雰囲気中で加熱して溶融・蒸発させ、冷却凝縮したものを捕集して得られる球状粒子であるが、これに代わるものとして球状亜鉛粒子をボールミル等で加工して扁平にした、りん片状金属亜鉛顔料が提案されている。りん片状金属亜鉛顔料(以下りん片状亜鉛末と称す)は球状金属亜鉛顔料(以下球状亜鉛末と称す)に比べ、その形状と粒子径の故に塗料中での沈降速度が極めて遅いという特徴を有し、かつ厚塗り性も良好でタレも生じ難く、球状亜鉛末の前記欠点をことごとく補うものとして期待されたのであるが、塗膜の硬化に長時間を要して塗装作業性が悪く、また乾燥塗膜が柔かく、かつ通常の塗膜厚では球状亜鉛末使用のものに比較して防錆力が劣り、フクレを生じ易い等の欠点があつてまだ実用化に至っていない。」(引用文献2の第2頁左下欄17行?右上欄13行)

(2-5)「続いて球状亜鉛末とりん片状亜鉛末を混合して両者の欠点を相い補なわしめることも提案されたが、本発明者らの研究によればステアリン酸やその金属石ケン等をりん片化助剤(滑剤)として製造した通常のりん片状亜鉛末を用いた場合、幾分性能改良は認められるが、りん片状亜鉛末使用の最大の利点である厚塗り塗装において性能的に充分満足できるものではないことが判った。」(第2頁右上欄14行?左下欄2行)

(2-6)「本発明者らは上述の如き状況に鑑み、鋭意研究の結果、特定のりん片化助剤を用いて製造した、りん片状亜鉛末を球状亜鉛末と共に併用する場合に限り、両者の利点を発揮し、かつ欠点を相い補なう実用的な防錆塗料が得られることを見い出し本発明を完成するに至った。」(第2頁左下欄3?8行)

(3)引用文献3の記載事項
引用文献3には、以下の事項が記載されている。
(3-1)「本発明は塗料組成物に関し、さらに詳しくは、加工前の鋸板に塗装して溶接時、特にガスシールド溶接時に良好な溶接性を与える一次防錆塗料絹成物に関する。」(第1頁右下欄8?11行)

(3-2)「本発明に用いる亜鉛は防錆顔料として不可欠のものであり、乾量基準で15?60重量%用いるが、望ましくは20?40重量%である。ここで用いる亜鉛は、従来用いられている蒸留法によって得られた球状亜鉛末及び、亜鉛粉をボールミル等で粉砕して得た亜鉛フレークがある。後者は球状亜鉛末に較べ比表面積(粉末単位重量当りの表面積)が大きいため、粒子間の接触が密に保たれ防錆性に優れている。一方、球状亜鉛末は塗装時、その形状から良好な膜となる。防食性と塗膜形成の点から球状亜鉛末あるいはフレーク状亜鉛のいずれかを選べばよく、また両者の併用も何ら差しつかえない。」(第2頁右下欄8?20行)

(3-3)第4頁表1には、実施例5として、エチルシリケート縮合物10重量部、ポリビニルブチラール樹脂2重量部、球状亜鉛末15重量部、フレーク亜鉛20重量部、銅製錬スラグ15重量部、CaCO_(3)5重量部、リン酸亜鉛10重量部及びタルク23重量部(以上合計100重量部)を含有する防錆塗料の具体例が記載されている。

(4)引用文献4の記載事項
引用文献4には、以下の事項が記載されている。
(4-1)「(イ)亜鉛粉末20?80重量%と導電性酸化亜鉛80?20重量%とを混合してなる防錆顔料50?95重量部及び(ロ)結合剤として有機合成樹脂又は無機結合剤を5?50重量部(不揮発分として)含み、有機溶剤又は水を加えてなる、改良された溶接性、防錆性と上塗適合性を有する防食用塗料の組成物。」(特許請求の範囲)

(4-2)「上記導電性酸化亜鉛は亜鉛粉末と均一に混合するとき、亜鉛粉末相互の電気的接触及び保護金属面との電気的接触を著しく改善することを見出した。又導電性酸化亜鉛は亜鉛粉末と接触して電池が形成されるとカソード反応が容易となり、亜鉛粉末の活性化を助長する。また導電性酸化亜鉛を加えることにより、塗膜の導電性が向上する為、電気溶接の単位時間当りの溶接スピードが速くなり、従つて塗膜の熱による焼けが少なくなる。また導電性酸化亜鉛は亜鉛粉末に比して気化温度が高いため溶接時のブローホールも少なくなり溶接性が向上する。」(引用文献4の第2頁右上欄16行?左下欄7行)

(4-3)「導電性酸化亜鉛と亜鉛粉末の組成比は2:8?8:2の範囲で用いる。この量比よりも導電性酸化亜鉛が多くなると防食効果が不十分となり、又少なくなると溶接性において満足な結果が得られない。なお導電性酸化亜鉛又は亜鉛粉末の一部を溶接性、防食性を損なわない範囲でアルミニウム金属粉で置換することもできる。」(引用文献4の第2頁左下欄8?14行)

(5)引用文献5の記載事項
引用文献5には、以下の事項が記載されている。
(5-1)「(1)シリカ、アルミナ、酸化チタンから成るグループから選ばれた超微粉金属酸化物の含量が0.1?5.0重量%であり、かつ高級脂肪酸および/または高級脂肪酸の周期律表IIA、IIB及びIIIA族の金属塩の含量が0.1?0.5重量%である亜鉛又は、亜鉛基合金のフレーク状粉末からなることを特徴とするフレーク状亜鉛粉末組成物。」(引用文献5の特許請求の範囲の請求項(1))

(5-2)「本発明はフレーク状亜鉛粉末組成物に関し、更に詳しくは塗料用として好適な亜鉛又は亜鉛基合金のフレーク状粉末組成物に関する。」(引用文献5の第1頁右下欄3?5行)

(5-3)「又、上記条件は、亜鉛のフレークだけでなく、Zn-Al-Mg等の亜鉛基合金のフレークにも充分適用される。」(引用文献5の第3頁左下欄1?3行)

(5-4)「以上から明らかな如く、本発明は以下の優れた特徴を有するフレーク状亜鉛粉末組成物を提供することを可能とした。・・・
(2)防錆性に優れている。
有機系粉砕助剤の含有量が僅少なため、塗膜中において亜鉛粒子間の金属接触が充分に保たれ防清性にすぐれている。」(引用文献5の第7頁右上欄15行?左下欄6行)

6.引用文献1に記載された発明
引用文献1には、
(A)鱗箔状に形成された亜鉛粉末、
(B)鱗箔状に形成されたアルミニウム粉末、
(C)オルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物、
(D)金属アルコキシド(但し、金属がケイ素である場合を除く)
を含有してなる防錆剤が記載されており(摘記1-1)、表1には、実施例1?4及び比較例1?4で調製した防錆剤-1?8における各成分の配合組成(質量%)と、防錆剤の粘度(mPa・s)が記載され(摘記1-14、1-15)、表1に記載された各成分の具体的な名称も開示されているところ(摘記1-11)、実施例3において調製された「防錆剤-3」(摘記1-13、1-14)は、表1から、A-1(鱗箔状に形成された亜鉛粉末)を46.1質量%、B-1(鱗箔状に形成されたアルミニウム粉末)を6.3質量%、C-2(メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(平均重合度25、粘度150mm^(2)/s))を6.8質量%、C-3(メチルトリエトキシシラン85モル%とジフェニルジメトキシシラン15モル%との部分共加水分解縮合物(平均重合度10、粘度35mm^(2)/s))を29.6質量%、C-5(ジメチルジメトキシシラン)を0.8質量%、D-1(アルミニウムトリイソプロポキシド)を4.9質量%、E-2(テトライソプロポキシチタン(日本曹達(株)製商品名:TPT-100)、硬化触媒)を0.7質量%、E-4(無水エタノール、溶剤)を4.8質量%それぞれ配合して調製されたことが読みとれる(摘記1-15、1-11)。
また、防錆剤が適用される基材としては、鉄鋼材、鋳鉄等が挙げられており(摘記1-11)、実施例の試験片の作成に当たっては、鋼板をサンドブラストで表面処理し、スプレー法により乾燥膜厚50μmとなるように防錆剤を塗布した後、25℃/相対湿度65%雰囲気下で5日間放置して硬化被膜としたことが記載されているから(摘記1-16)、引用文献1に記載された防錆剤は一次防錆塗料に相当する。
そうすると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「鱗箔状に形成された亜鉛粉末を46.1質量%、鱗箔状に形成されたアルミニウム粉末を6.3質量%、メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(平均重合度25、粘度150mm^(2)/s)を6.8質量%、メチルトリエトキシシラン85モル%とジフェニルジメトキシシラン15モル%との部分共加水分解縮合物(平均重合度10、粘度35mm^(2)/s)を29.6質量%、ジメチルジメトキシシランを0.8質量%、アルミニウムトリイソプロポキシドを4.9質量%、テトライソプロポキシチタンを0.7質量%、無水エタノールを4.8質量%含有する一次防錆塗料組成物。」

7.取消理由通知に記載した取消理由についての判断
(1)(新規性)特許法第29条第1項第3号について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明との対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「鱗箔状に形成された亜鉛粉末」は、「鱗片状亜鉛系粉末」に相当し、引用発明の「メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物」及び「メチルトリエトキシシラン85モル%とジフェニルジメトキシシラン15モル%との部分共加水分解縮合物」は、いずれも本件発明1の「シロキサン系結合剤」の一種に相当する。そうすると、両者は、
「鱗片状亜鉛系粉末と、シロキサン系結合剤とを含有する一次防錆塗料組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:シロキサン系結合剤が、本件発明1においては、「アルキルシリケートの縮合物」であるのに対し、引用発明においてはそのように特定されていない点
相違点2:引用発明においては、「ジメチルジメトキシシラン」、「アルミニウムトリイソプロポキシド」、「テトライソプロポキシチタン」及び「無水エタノール」を更に含有するのに対し、本件発明1においては、これらを含有することが特定されていない点
相違点3:本件発明1においては、「アルキルシリケートの縮合物であるシロキサン系結合剤」が、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1000?6000」であることが特定されているのに対し、引用発明においては、そのようなことが明らかでない点
相違点4:本件発明1においては、顔料体積濃度(PVC)が35?60%であるのに対し、引用発明においては、そのようなことが明らかでない点
相違点5:本件発明1においては、亜鉛末(B)とSiO_(2)換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((B)/(A))が1.0?5.0であることが特定されているのに対し、引用発明においては、そのようなことが明らかでない点
そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点1について
引用発明において、「シロキサン系結合剤」に相当する成分は、「メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物」及び「メチルトリエトキシシラン85モル%とジフェニルジメトキシシラン15モル%との部分共加水分解縮合物」であるが、加水分解縮合物の原料である「メチルトリメトキシシラン」、「メチルトリエトキシシラン」及び「ジフェニルジメトキシシラン」は、いずれも「アルキルシリケート」ではない。また、引用発明に含まれる他の成分について検討しても、「ジメチルジメトキシシラン」、「アルミニウムトリイソプロポキシド」及び「テトライソプロポキシチタン」は、いずれも「アルキルシリケート」ではない。
そうすると、相違点1は実質的なものであるから、本件発明1と引用発明とは、少なくとも上記相違点1において相違することが明らかである。よって、相違点2?5については検討するまでもなく、本件発明1は引用文献1に記載された発明とはいえない。

イ 本件発明2、3、6、8、10及び12?14について
本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている請求項2、3、6、8、10及び12?14についても、本件発明1と同じ理由により、いずれも引用文献1に記載された発明とはいえない。

新規性についてのまとめ
よって、本件発明1?3、6、8、10、12?14は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではないから、当審が通知した(1)新規性の取消理由によって、本件請求項1?3、6、8、10、12?14に係る特許を取り消すことはできない。

(2)(進歩性)特許法第29条第2項について
ア 本件発明1について
(ア)相違点1について
上記7.(1)ア(ア)「本件発明1と引用発明との対比」に記載した相違点1について検討する。
(ア-1)引用文献1の記載について
引用文献1には、(C)オルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物として、一般式(1) R^(1)_(a)Si(OR^(2))_(4-a) (aは0、1又は2)で表されるシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の1種又は2種以上の混合物を用いることができることが記載されており(摘記1-2、1-4の[0025]及び[0028])、a=0のとき上記一般式(1)は本件発明1における「アルキルシリケート」を表すものである。また、引用文献1には、シラン化合物及びその部分(共)加水分解縮合物の具体例として、「テトラメトキシシラン」、「テトラエトキシシラン」及びこれらの部分(共)加水分解縮合物が例示されており(摘記1-4の[0030])、これらは本件発明1の「アルキルシリケート」及びその縮合物に相当する。しかし、引用文献1には、「防錆剤の硬化性、硬化塗膜の表面硬度、基材との密着性といった観点からは、(C)成分の硬化性シリコーン化合物中で、a=1のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合が30モル%以上であることが好ましく、更には40?100モル%であることがより好ましい」こと、及び「a=0のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物の占める割合は、(C)成分中0?40モル%であることが好ましく・・・(C)成分として、a=1のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物に加えて、a=0のシラン化合物及び/又はその部分(共)加水分解縮合物を配合すると、硬化塗膜の表面硬度をより高くすることができるが、配合量が多すぎるとクラックが発生するおそれがあ」ること(摘記1-4の[0028])が記載されており、また、「これらのシラン化合物及び部分(共)加水分解縮合物前駆体としてのシラン化合物の中でも、汎用性、コスト面、防錆剤として使用した際の硬化性、塗膜特性等からは、一般式(1)におけるR^(1)がメチル基及びフェニル基から選択される基、R^(2)がメチル基及びエチル基から選択される基であるシラン化合物を用いることが好ましく・・・またこの場合、aが1であるトリオルガノキシシラン又はaが1のトリオルガノキシシランとaが2のジオルガノキシシランとの混合シランの部分(共)加水分解縮合物を含有することが好ましい」(摘記1-4の[0031])ことが記載されている。さらに、引用文献1には、「アルキルシリケート」(a=0の化合物)及び/又はその部分(共)加水分解物を配合した実施例は一つも記載されていない。
そうすると、引用文献1には、引用発明(実施例3)で用いられた「メチルトリメトキシシラン」、「メチルトリエトキシシラン」及び「ジフェニルジメトキシシラン」と同じ一般式(1)で表現される一群の化合物として、「テトラメトキシシラン」、「テトラエトキシシラン」等の「アルキルシリケート」が記載されているといえるものの、塗膜物性等の観点からは、「アルキルシリケート」(a=0の化合物)よりも、引用発明(実施例3)で用いられた「メチルトリメトキシシラン」及び「メチルトリエトキシシラン」等のa=1の化合物を使用することが好ましいことが記載されているものと認められる。

(ア-2)本件明細書の記載について
これに対して、本件明細書の[0034]?[0037]には、「シロキサン系結合剤(A)としては、例えば、アルキルシリケートおよびメチルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物の縮合物が挙げられ・・・これらの中でも、アルキルシリケートの縮合物が好ましく、テトラエチルオルトシリケートの縮合物がより好ましく、テトラエチルオルトシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(商品名;コルコート(株)製)の部分加水分解縮合物が特に好ましい。」と記載されており、実施例においては、上記[0037]に特に好ましいものとして記載されたテトラオルトシリケートの初期縮合物(エチルシリケート40、コルコート(株)製)の加水分解縮合物が調製されて([0127]?[0129])、実施例1A?実施例4D([0163]表1A?[0181]表1D)の塗料組成物に配合され、本件発明1の他の発明特定事項との組合せにおいて、従来の塗装条件でも平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜が得られ([0167])、発錆防止性、上塗り性(付着強度)、溶接性(ブローホール発生率)の点で好ましい効果が得られたことが実験データから読み取れる。

(ア-3)乙第1号証について
また、特許権者は、平成29年3月6日に意見書及び乙第1号証(実験成績証明書、平成29年2月16日、中国塗料株式会社 技術生産本部 防食技術部作成)を提出した。
乙第1号証には、以下のような実験データが記載されている。
(乙-1)「



特許権者は、上記意見書の第4?5頁において、「訂正発明1におけるアルキルシリケートの縮合物を引用発明におけるメチルトリメトキシシランの縮合物に変更した塗料組成物を調製し、本件特許明細書記載の試験を行った追加比較例1を、添付の実験成績証明書に記載する。・・・シロキサン系結合剤の重量平均分子量が同程度である実施例8Aと追加比較例1とを対比する。追加比較例1では、付着強度が0.5MPaと低く上塗り性が悪く、またブローホール発生率が40.4%と非常に高く溶接性が悪い。一方、本件特許明細書の実施例8Aは、付着強度が5.8MPaと高く上塗り性に優れており、またブローホール発生率が4.6%と低く溶接性にも優れている。」と説明しており、実際、乙第1号証には、塗料の主剤成分としてアルキルシリケートの縮合物5(Mw=2500)の溶液を用いた実施例8Aと、主剤成分としてメチルトリメトキシシランの縮合物(Mw=2300)の溶液を用いた追加比較例1の実験データが記載されており、特許権者が記載したとおりの実験結果が読み取れる。

(ア-4)相違点1についての判断
上記本件明細書及び乙第1号証の記載についての検討を踏まえると、本件明細書には、塗料組成物の主剤としてアルキルシリケートを用いた場合に、塗膜の発錆防止性、上塗り性(付着強度)及び溶接性(ブローホール発生率)等の点で優れた効果が得られることが記載されているものといえる。そうすると、本件発明1は、上記相違点1に係る構成である、シロキサン系結合剤としてアルキルシリケートの縮合物を用いる点に基づいて、塗膜の発錆防止性、上塗り性(付着強度)及び溶接性(ブローホール発生率)等の点で有利な効果が得られることを見いだしたものであると解される。
これに対して、引用文献1には、アルキルシリケートの縮合物がそのような有利な効果をもたらすことについて記載されておらず、また、アルキルシリケートを好ましいものとして積極的に採用することを動機付ける記載もなく、そのようなことが示唆されているとも認められない。さらに、そのような有利な効果が出願時の技術常識として知られていたとも認められない。よって、相違点1に係る構成については、当業者が引用文献1に記載された事項に基づいて容易に想到し得た構成であるとすることはできない。
なお、上記相違点1に基づく有利な効果については、引用文献2?5にも記載も示唆もされていないから(摘記2-1?5-4等を参照)、仮に引用文献1と引用文献2?5とを組み合わせたとしても、相違点1に係る構成については、当業者が引用文献1?5に記載された事項に基づいて容易に想到し得た構成であるとすることはできない。

(ア-5)小括
よって、相違点2?5については検討するまでもなく、本件発明1は引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

イ 本件発明2?14について
本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている請求項2?14についても、本件発明1と同じ理由により、相違点1に係る構成について、当業者が引用文献1に記載された事項に基づいて容易に想到し得た構成であるとすることはできない。また、上記相違点1に基づく有利な効果については、引用文献2?5にも記載も示唆もされていないから、相違点1に係る構成については、当業者が引用文献1?5に記載された事項に基づいて容易に想到し得た構成であるとすることはできない。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成29年5月10に提出した意見書において、「(1-1)・・・意見書に添付された比較実験では、主剤成分の配合量がアルキルシリケート縮合物の溶液100.0部に対してメチルトリメトキシシランの縮合物の溶液70.0部となっており、塗料組成の合計量について、メチルトリメトキシシランの縮合物を用いた追加比較例1の方が少なくなっている。少ない量のメチルトリメトキシシランの縮合物の溶液の使用は、実施例8Aにおけるものよりも低い効果を導く可能性がある。・・・結合剤の量が少ない組成物では、塗膜の物性も変わり得ることが考えられるため、実施例8Aよりも追加比較例1の方が上塗り性及び溶接性が劣るという比較実験の結果が、主剤成分の種類のみによるものなのかどうか判別できない。このため、追加比較実験による証明は、実際のところ意味をなさない。」(上記意見書の第3?4頁)と主張している。
しかし、乙第1号証(実験成績証明書)に記載された実験データ(摘記乙-1)の「塗料特性」を参照すると、実施例8Aと追加比較例1とは、「不揮発分の体積(cm^(3))」が前者10.4、後者10.6、「(B)/(A)<Zn/SiO_(2)>(質量比)」が前者2.2、後者2.1等、「塗装面積当りのVOC量(g/m^(2))」の1項目を除くすべての項目で数値がほぼ揃っているから、追加比較例1の実験データが意味をなさないとまではいえない。
また、特許異議申立人は、上記意見書において、「(1-2)・・・メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物は、アルキルシリケートの縮合物と共にシロキサン系結合剤の選択肢として、本件明細書にそもそも記載されているものである。しかしながら本件明細書には、シロキサン系結合剤としてアルキルシリケートの縮合物が好ましい旨の記載はあるものの、アルキルシリケートの縮合物の方がメチルトリメトキシシランの加水分解縮合物よりも上塗り性及び溶接性について「各段に」優れていることについて、何ら記載されていない。・・・アルキルシリケートの縮合物の方がメチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物よりも上塗り性及び溶接性が「各段に」優れるという効果は、本件明細書に記載されていない効果である。上塗り性及び溶接性が「各段に」優れるというこの効果が進歩性を有するほど予想外なものであるならば、本件明細書に記載されていない効果を主張するものであり、認められるべきものではないと思料する。」(上記意見書の第4頁)と主張している。
しかし、上記7.(2)ア(ア)「(ア-2)本件明細書の記載について」において検討したとおり、本件明細書には、出願当初から、シロキサン系結合剤(A)としてはアルキルシリケートの縮合物が好ましく、テトラエチルオルトシリケートの縮合物がより好ましく、テトラエチルオルトシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(商品名;コルコート(株)製)の部分加水分解縮合物が特に好ましい旨が記載され、その効果を裏付ける実施例の実験データも記載されていたから、アルキルシリケートの縮合物が他のシロキサン系結合剤より有利な効果をもたらす旨の特許権者の主張が不当なものであるとまではいえない。また、上記7.(2)ア(ア)「(ア-1)引用文献1の記載について」及び同「(ア-4)相違点1についての判断」に記載したとおり、引用文献1には、アルキルシリケートの縮合物が上塗り性及び溶接性等の点で有利な効果をもたらすことについて記載されておらず、アルキルシリケートを積極的に採用する動機付けとなる記載もされていないから、本件明細書にメチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物を用いた場合の実験データが開示されていなかったとしても、そのことのみによって本件発明1の進歩性が認められなくなるものではない。
よって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

進歩性についてのまとめ
よって、本件発明1?14については、いずれも特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできないから、当審が通知した(2)進歩性(ア)?(エ)の取消理由によって、本件請求項1?14に係る特許を取り消すことはできない。

8.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立の要旨について
特許異議申立人が、特許異議申立書において申し立てている特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
(進歩性)本件特許の請求項1?14に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1?14に係る特許は取り消すべきものである。

(2)証拠方法
特許異議申立人は証拠方法として以下の甲第1号証?甲第6号証を提出している。
甲第1号証:特開2005-232537号公報(取消理由通知の引用文献1)
甲第2号証:特開2005-238001号公報
甲第3号証:特開2005-97584号公報
甲第4号証:国際公開第2009/081452号
甲第5号証:Resene Paints Limited, "Volume solids, PVC and hiding power", NZIA-Resene CPD (New Zealand Institute of Architects Incorporated - Resene Paints Limited Continuing Professional Development), Resisterd Architects Online activities, 2005.08, p.1-14,
URL:http://www.resene/co.nz/archspec/cpd_earn_points/pdfs/CPD_volumesolidspvchiding_oct2003.pdf
甲第6号証:特開2007-141521号公報

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、「甲第3号証では、テトラメチルオルトシリケート等のシロキサン系結合剤が開示されており、特に実施例では、テトラエチルオルトシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(日本コルコート社製)が使用されている。・・・また、甲第3号証では、得られたシロキサン系結合剤を含む一次防錆塗料組成物を常温乾燥して、良好な防錆効果が得られることを開示している(甲第3号証、段落0062参照)。また、甲第3号証では、乾燥後の一次防錆塗膜の厚みについて10?20μmとなるように塗装することも可能と記載されている
従って、甲1発明において、重量平均分子量1000?6000のメチルトリアルコキシシランの縮合物に代えて又はこれに加えて重量平均分子量1000?6000のアルキルシリケートの縮合物であるシロキサン系結合剤を用いることは、当業者であれば容易に想到し得る事項である。」(特許異議申立書の第39?40頁)と主張している。また、特許異議申立人は、平成29年5月10に提出した意見書において、「(1-3)・・・甲第3号証・・・には・・・シロキサン系結合剤(c)としてアルキルシリケートが挙げられ、テトラエチルオルトシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40が最も好ましいと明確に記載されている(甲第3号証、段落0034)。その上で、甲第3号証には・・・平均膜厚10μmとなるように塗装することができる点(段落0045)、実施例においてはエチルシリケートを用いた一次防錆塗料組成物による塗膜が優れた溶接性及び防食性(防錆性)を示す点も記載されている(段落0051、表3及び表4等)。これらの記載から甲第3号証に接した当業者は、溶接性及び防錆性に優れ、10μmの膜厚を形成可能な一次防錆塗料組成物とするために、シロキサン系結合剤としてアルキルシリケート、特にエチルシリケート40が最も好ましいと理解する。」(上記意見書の第4?5頁)と主張している。
そこで、まず、甲第3号証の記載事項について検討する。

(4)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(甲3-1)「[請求項1]
(a)亜鉛末と、
(b)組成成分としてアルカリ金属酸化物を含む非晶質ガラス粉末と、
(c)シロキサン系結合剤と、
(d)有機溶剤と
を含んでなることを特徴とする一次防錆塗料組成物。」

(甲3-2)「[0003]
無機ジンク一次防錆塗料組成物は、溶接時に一次防錆塗膜から発生するガスの量が少なく、溶接ビートにピット(貫通孔)やブローホール(内泡)などの欠陥の発生を抑制することができるので溶接性に優れているが、近年、溶接のより一層の高速化が要請されており、この要請に応えるには、溶接時のピット、ブローホールの原因となる亜鉛(融点419℃、沸点930℃)の気化ガス圧を抑える必要がある。亜鉛末は、溶接の際、鉄の融点1530℃以上の熱に曝されると急激に気化し、溶接ビード(weld bead)にピットやブローホールなどの欠陥を発生させる原因となる。このような問題点を解決するため、一次防錆塗料組成物中の亜鉛末を減少させる方法が提案されている(例えば、特許文献1?4参照)。
[0004]
しかしながら、亜鉛末の量を減らす方法では、溶接の高速化が可能になるものの、防食性が低下してしまうという問題がある。
また、近年では、溶接速度の向上に対する要請は高まっており、さらに人手不足やタンカーの2重船殻構造への移行に伴って、100cm/分を超える溶接速度が求められるようになった。従来の一次防錆塗料を用いて、1個のトーチを有する溶接機で溶接する、いわゆる1電極法(シングル法)によるアーク溶接においては、溶接速度が90cm/分を超えると、充分な脚長(溶接ビードの高さ)が得られず、また2個のトーチを有する溶接機で溶接する2電極法(タンデム法)によるアーク溶接においては、溶接速度が100cm/分を超えても充分な脚長が得られるものの、防食性が低下するという問題がある。」

(甲3-3)「[0011]
本発明は、前記のような従来技術に伴う課題を解決しようとするものであって、100cm/分以上という高速で溶接を行なっても、防食性を低下させることなく、かつピットやブローホールなどの欠陥の発生を抑制することができる塗膜を形成可能な一次防錆塗料組成物、その一次防錆塗料組成物が塗布された一次防錆塗膜付き鋼板を提供することを目的としている。」

(甲3-4)「[0019]
以下、各成分について説明する。
亜鉛末(a)
本発明で用いられる亜鉛末(a)は、塗膜中において鋼板の発錆を防止する防食顔料として用いられる。この亜鉛末(a)としては通常使用されているものが用いられ、平均粒子径が2?15μmの亜鉛末が好ましい。」

(甲3-5)「[0022]
非晶質ガラス粉末(b)は、アルカリ金属酸化物を、1?20%、好ましくは5?15%、さらに好ましくは5?8%となる量で組成成分として含むことが望ましい。このような範囲でアルカリ金属酸化物を含む非晶質ガラス粉末(b)を用いることにより、一次防錆塗料組成物は防食性に優れる一次防錆塗膜を形成することができ、さらに溶接時においては溶接ビードにピットやブローホールなどの欠陥が生じることもない。また、非晶質ガラス粉末(b)の平均粒子径は1?30μmであることが好ましく、このような粒子径とするために、通常、非晶質ガラスを粉砕して製造される。」

(甲3-6)「[0034]
シロキサン系結合剤(c)
本発明で用いられるシロキサン系結合剤(c)としては、具体的には、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、テトラ-n-プロピルオルトシリケート
、テトラ-i-プロピルオルトシリケート、テトラ-n-ブチルオルトシリケート、テトラ-sec-ブチルオルトシリケート、メチルポリシリケート、エチルポリシリケート等のアルキルシリケート、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のメチルトリアルコキシシラン、またはこれらの初期縮合物などが挙げられる。中でも、テトラエチルオルトシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(日本コルコート社製)が最も好ましく、部分加水分解して用いられる。」

(甲3-7)「[0045]
本発明の一次防錆塗料組成物から形成される乾燥後の一次防錆塗膜は、溶接時に発生する亜鉛の気化ガスや有機系添加剤の分解ガスが溶融プールにほとんど残留することがないため、平均膜厚が20?50μmとなるように厚膜に塗装することができる。また、通常のショッププライマーのように平均膜厚10?20μmとなるように塗装することも可能である。
[0046]
これに対し、従来の一次防錆塗料組成物は、乾燥後の平均膜厚が20μm以上になると、鋼材加工の溶断・溶接のいずれ場合においても溶接欠陥が顕著に表れるようになるため、平均膜厚が15μm程度となるように塗装される。さらに、従来の一次防錆塗料組成物は、このように薄膜塗装であるため、溶接時の熱により塗膜中の亜鉛の含有量が減少するため溶接後は防食性が著しく低下する。
[0047]
本発明の一次防錆塗料組成物は、乾燥後の平均膜厚が上記範囲となるように塗装することが可能であり、さらに溶接ビードにピットやブローホールなどの欠陥が生じない。そのため、一次防錆塗膜の防食性の向上と溶接性の向上とを同時に達成することができる。したがって、得られる一次防錆塗膜付き鋼板は、溶接性を損なうことなく、長期にわたり優れた防食性を発揮することができる
また、従来の一次防錆塗膜のように平均塗膜15μmに塗装しても、優れた防食性効果を得ることができる。」

(甲3-8)「[0050]
[実施例1?11、比較例1?3]
一次防錆塗料用の顔料ペーストの調製
亜鉛末を除く原材料をポリエチレン製容器に仕込み、ガラスビーズを加えてペイントシェーカーにて3時間振とうした後、亜鉛末を加えてさらに5分振とうして顔料を分散させた。80メッシュの網を用いてガラスビーズを除去してペーストを調製した。実施例、比較例で用いた顔料ペーストの組成を第2表に示す。
[0051]
一次防錆塗料用の主剤の調製
エチルシリケート40(日本コルコート社製)350g、工業用エタノール150g、脱イオン水50g、および35%塩酸0.5gを容器に仕込み、攪拌しながら3時間50℃に保った後、IPA(イソプロピルアルコール)449.5gを加えて主剤を調製した。本主剤を実施例、比較例に共通して用いた。
[0052]
[溶接性試験]
図1-1に示すような、鋼板12の片面全面に一次防錆塗膜14が形成された第一鋼板10と、鋼板22の両面全面に一次防錆塗膜24,26が形成された第二鋼板20とを準備する。具体的には、第一鋼板10は、サイズ500mm×100mm×9mmのサンドブラスト処理したSS400鋼板12の片面全面に、防食試験用試験片と同様の要領で比較例、実施例の塗料を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装して製造する。一方、第二鋼板20は、サイズ500mm×50mm×9mmのサンドブラスト処理したSS400鋼板22の両面全面に、防食試験用試験片と同様の要領で塗料を乾燥膜厚が30μmとなるようにして製造する。」

(甲3-9)「[0057]
[防食性試験]
常温乾燥後の防食性
主剤と顔料ペーストとを所定の混合比率で充分に混合し、一次防錆塗料組成物を得る。次いで、70mm×150mm×2.3mmのサンドブラスト鋼板に、所定の乾燥膜厚となるように一次防錆塗料組成物をエアースプレーにて塗装し、JISK56001-6に従い温度23℃、相対湿度50%の恒温室内で1週間乾燥させて試験板を得る。その後、試験板を屋外に置き曝露試験を行い、ASTM-D610に準拠して以下の評価において7点となるまでの期間を確認した。評価結果を第4表に示す。」

(甲3-10)「[表2]



(甲3-11)「[表3]



(甲3-12)「[表4]



(5)甲第3号証に記載された発明について
甲第3号証には、(a)亜鉛末と、(b)組成成分としてアルカリ金属酸化物を含む非晶質ガラス粉末と、(c)シロキサン系結合剤と、(d)有機溶剤とを含んでなる一次防錆塗料組成物が記載されている(摘記甲3-1)。その解決しようとする課題については、溶接のより一層の高速化が要請されており、そのために溶接ビード(weld bead)にピットやブローホールなどの欠陥を発生させる原因となる亜鉛(融点419℃、沸点930℃)の気化ガス圧を抑える必要があるところ、従来採用されていた防錆塗料組成物中の亜鉛末の量を減らす等の方法では、防食性が低下してしまう等の不十分な点があったこと(摘記甲3-2)、これに対し、甲第3号証に記載された発明は、100cm/分以上という高速で溶接を行なっても、防食性を低下させることなく、かつピットやブローホールなどの欠陥の発生を抑制することができる塗膜を形成可能な一次防錆塗料組成物を提供することを課題とするものであることが記載されており(摘記甲3-3)、上記ブローホールなどの欠陥の発生を抑制する等の効果は、甲第3号証に記載された発明に必須成分として含まれる、アルカリ金属酸化物を1?20%含む非晶質ガラス粉末(b)が、亜鉛の気化ガスや有機系添加剤の分解ガスを溶融プール外に逃す働きによるものと考えられることが記載されている(摘記甲3-5)。また、シロキサン系結合剤(c)としては、テトラエチルシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(日本コルコート社製)が最も好ましく、部分加水分解して用いられることが記載されており(摘記甲3-6)、実施例の一次防錆塗料組成物においても、当該エチルシリケート40(日本コルコート社製)の部分加水分解物が用いられている(摘記甲3-8)。さらに、塗膜の膜厚については、乾燥後の一次防錆塗膜は、溶接時に発生する亜鉛の気化ガスや有機系添加剤の分解ガスが溶融プールにほとんど残留することがないため、平均膜厚が20?50μmとなるように厚膜に塗装することができ、また、通常のショッププライマーのように平均膜厚10?20μmとなるように塗装することも可能であることが記載されているが(摘記甲3-7)、実施例の溶接性試験及び防食性試験は、乾燥膜厚が30μm又は15μmの塗膜で実施されており(摘記甲3-8?甲3-12)、実際に10μmの塗膜を形成し、その塗膜の溶接性及び防食性を確認した具体例は記載されていない。そして、請求項1に特定される必須成分をすべて含む実施例1?11の一次防錆塗料組成物と、アルカリガラス粉末を含まない比較例1?3の一次防錆塗料組成物(摘記甲3-10)を用いて、塗膜の溶接性及び防食性を試験した結果、比較例1?3の塗膜は溶接性(摘記甲3-11)及び防食性(摘記甲3-12)の点で実施例1?11の塗膜より劣るものであったことが読み取れる。

(6)当審の判断
ア 甲第3号証について
甲第1号証は、当審が平成28年12月22日付けで通知した取消理由通知において引用文献1として引用した文献であり、上記5.(1)「引用文献1の記載事項」に摘記したとおりの事項が記載され、上記6.「引用文献1に記載された発明」に記載したとおりの発明が記載されており、上記7.(1)ア(ア)「本件発明1と引用発明との対比」に記載したとおりの点で本件発明1と一致し、相違点1?5の点で相違するものと認められる。また、上記7.(2)ア(ア)「(ア-1)引用文献1の記載について」及び同「(ア-4)相違点1についての判断」に記載したとおり、甲第1号証には、本件発明1との相違点1に係る構成であるアルキルシリケートの縮合物を用いる点に基づいて、上塗り性及び溶接性等の点で有利な効果がもたらされることについて記載されておらず、アルキルシリケートを積極的に採用する動機付けとなる記載もされていない。
これに対して、甲第3号証には、特許異議申立人が指摘するとおり、テトラエチルシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(日本コルコート社製)の部分加水分解物を含有する一次防錆塗料組成物が記載されており(摘記甲3-6、甲3-8)、塗膜の溶接性及び防食性等の向上を課題としているが(摘記甲3-3)、当該効果は甲第3号証に記載された発明に必須成分として含まれる、アルカリ金属酸化物を1?20%含む非晶質ガラス粉末(b)によりもたらされるものとされており(摘記甲3-5)、実施例及び比較例の実験データからも、アルカリガラス粉末に基づく効果を読み取ることができるが(摘記甲3-11、甲3-12)、溶接性及び防食性の向上効果が、テトラエチルシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(日本コルコート社製)の部分加水分解物を採用したことに基づいてもたらされたものであることまでは、甲第3号証の記載から読み取ることはできない。そうすると、甲第3号証の記載をみても、一次防錆塗料組成物において、塗膜の溶接性及び防食性等の向上を目的として、テトラエチルシリケートの部分加水分解縮合物を用いることが動機付けられるとはいえない。また、甲第1号証には、引用発明が、「アルカリ金属酸化物を1?20%含む非晶質ガラス粉末(b)」を含むことは記載されておらず、アルキルシリケートを積極的に採用する動機付けとなる記載はなく、むしろ、「メチルトリメトキシシラン」、「メチルトリエトキシシラン」等が好ましいものとして記載されているのであるから、これらの点からみても、引用発明に甲第3号証に記載された発明を組み合わせることにより上記相違点1に係る構成を導き出すことが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。
さらに、特許異議申立人は、「甲第3号証に接した当業者は、溶接性及び防錆性に優れ、10μmの膜厚を形成可能な一次防錆塗料組成物とするために、シロキサン系結合剤としてアルキルシリケート、特にエチルシリケート40が最も好ましいと理解する。」と主張しているが、甲第3号証には、実際に10μmの膜厚で塗膜を形成した具体例は記載されておらず、10μmの膜厚の塗膜としたときの溶接性及び防錆性の実験データは開示されていないから、10μmの膜厚とした際にも優れた溶接性及び防錆性が確保されるかどうかは必ずしも明らかではない。なお、本件発明1においては、「(B)鱗片状亜鉛系粉末」が用いられることが特定されており、本件明細書の[0040]には、「鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の平板面が塗膜表面と略平行に配向する。このため、塗膜の連続性が保たれ、鋼板素地が見えることがない。したがって、鋼板の発錆を防止することができる。」と記載されており、鱗片状亜鉛粉末を用いない場合(比較例13A、14A、1B、2B)の比較実験データも記載されているが、甲第3号証には、鱗片状亜鉛系粉末を用いること及びその効果については明記されていない(摘記甲3-4、甲3-8)。そうすると、甲第3号証における膜厚に関する記載を参酌しても、引用発明に甲第3号証に記載された発明を組み合わせることにより上記相違点1に係る構成を導き出すことが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。

イ 甲第2号証及び甲第4?6号証について
加えて、甲第2号証及び甲第4?6号証にも、上記相違点1に係るアルキルシリケートの縮合物を用いることにより、上塗り性及び溶接性等の点で有利な効果がもたらされることについては、記載も示唆もされていないものと認められる。

ウ 小括
よって、本件発明1は甲第1号証に記載された発明及び甲第2?6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている請求項2?14についても同様である。

9.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?14の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?14の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
一次防錆塗料組成物およびその用途
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等における鋼板加工工程で行われる鋼板の前処理において好適に用いられる一次防錆塗料組成物(ショッププライマー)およびその用途に関する。さらに詳しくは、シロキサン系結合剤および鱗片状亜鉛系粉末を含有し、平均乾燥膜厚が10μm以下の防錆塗膜を形成することが可能な一次防錆塗料組成物およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等の大型鉄鋼構造物の建造中の発錆を防止する目的で、鋼板表面に一次防錆塗料が塗装されている。このような一次防錆塗料としては、ウォッシュプライマー、ノンジンクエポキシプライマー、エポキシジンクリッチプライマー等の有機一次防錆塗料、シロキサン系結合剤および亜鉛粉末を含有する無機ジンク一次防錆塗料が知られている。これらの一次防錆塗料のうち、溶接性に優れた無機ジンク一次防錆塗料が最も広く用いられている。
【0003】
従来の無機ジンク一次防錆塗料から形成される一次防錆塗膜の平均乾燥膜厚は、約15μmである。これよりも薄い膜厚の塗膜を形成することができれば、塗装後の溶接・切断工程で加工処理速度を速くすることができ、生産性の面で有利である。
【0004】
従来の一次防錆塗料を薄膜(例:10μm以下)に塗装する方法は3つある。
【0005】
1つ目は、塗装時の一次防錆塗料の吐出流量を下げる方法である。しかしながら、この場合、現状の塗装機では安定的に塗装できる限界以下の流量に設定する必要があり、均一に塗装できない。
【0006】
2つ目は、塗装機自体を開発することである。現時点で既存の一次防錆塗料および既存の装置を用いて薄膜に塗装することは困難である。しかしながら、これが開発されたとしても、既存の装置を新しいものに置き換える必要があり、莫大な費用が発生してしまう。
【0007】
3つ目は、一次防錆塗料を大量の有機溶剤で希釈して塗料の固形分濃度を下げる方法である。この方法が現状で薄膜に塗装することができる現実的な方法であるが、結果として塗装面積当りの揮発性有機化合物(VOC)発生量が増えてしまい、環境への影響面で問題がある。また、薄膜の塗膜が得られたとしても、塗装処理される鋼板表面の単位面積当りの結合剤量が減ることになり、被覆効果が失われ、鋼板の防錆機能が低下する。
【0008】
したがって、従来の一次防錆塗料を薄膜に塗装することは実質的にできなかった。
【0009】
一方、特許文献1には、ガスシールド溶接時に良好な溶接性を与える一次防錆塗料組成物を提供することを目的として、亜鉛粉末の使用量を低減させることが検討されている。そして、この使用量の低減には、亜鉛フレークを用いることが有効であると記載されている。しかしながら、前記組成物から形成される塗膜の薄膜化に関する記載はなく、平均乾燥膜厚は15?25μmである。したがって、塗装面積当りの塗料使用量を削減することができないため、結果としてVOC発生量も削減することはできない。また、塗膜を薄膜化した場合の長期防錆性についても、当然ながら記載されていない。
【0010】
また、特許文献2には、有機ケイ素化合物、有機チタネート化合物、鱗片状亜鉛粉末等の金属粉末および有機溶剤を含有する組成物であって、平均乾燥膜厚が10μm程度であり、かつ高い防食性を有する塗膜を形成可能な防錆塗料組成物が開示されている。しかしながら、前記塗膜を得るためには、金属表面に塗装された防錆塗料組成物を200?400℃で加熱する工程が必須となっている。したがって、前記組成物は、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等における鋼板加工工程で行われる鋼板の前処理での使用には適していない。
【0011】
また、特許文献3には、球状をなす亜鉛粉末および鱗箔状をなす亜鉛粉末と、球状または鱗箔状をなすアルミニウム粉末と、硬化性シリコーン化合物とを含有する防錆塗料が開示されている。しかしながら、前記塗料には、平均乾燥膜厚を15μm前後とし、塗装後に溶接処理等が行われる場合を想定した際に、防食性不足や、溶接欠陥の発生という問題があり、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等における鋼板加工工程で行われる鋼板の前処理での使用には適していないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭60-133072号公報
【特許文献2】国際公開第2009/093319号パンフレット
【特許文献3】特開2012-036279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、上述した従来技術に伴う課題を解決しようとするものであって;従来の塗装機を用いても、常温で乾燥・硬化することにより、平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜を形成することができ、かつ優れた防錆性、上塗り性および鋼板の溶接・切断工程における優れた溶接・切断性を有する塗膜を形成することができる一次防錆塗料組成物;ならびにその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決すべく、シロキサン系結合剤と鱗片状亜鉛系粉末等の亜鉛末とを含有する塗料組成物において、後述する顔料体積濃度(PVC)およびシロキサン系結合剤の重量平均分子量(Mw)の値、加えて亜鉛末とシロキサン系結合剤との質量比(Zn/SiO_(2))が、平均乾燥膜厚10μm以下の塗膜形成に及ぼす影響を検討した。
【0015】
その結果、特許文献1では塗料組成物のPVCが60%を超える値に設定されており、したがって平均乾燥膜厚10μm以下かつ物性良好の塗膜形成が困難であることがわかった。また、特許文献2では有機ケイ素化合物として低分子量のものを使用しており、したがって常温硬化が困難であることがわかった。
【0016】
また、特許文献3では塗料組成物のPVCが35%を下回る値に設定されているか、または亜鉛末とシロキサン系結合剤との質量比(Zn/SiO_(2))が非常に大きな値に設定されている。したがって、PVCが35%を下回る値の場合、平均乾燥膜厚を15μm前後で塗装した際に防食性不足が想定され、一方、亜鉛末とシロキサン系結合剤との質量比(Zn/SiO_(2))が非常に大きい値の場合、溶接性不良となり、一次防錆塗料としての使用が困難であることがわかった。
【0017】
本発明者らは、以上の知見をもとに、PVCおよびシロキサン系結合剤のMwの値について、加えて亜鉛末とシロキサン系結合剤との質量比についてさらに鋭意検討することにより、これらが特定範囲にある場合に上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち本発明の一態様は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1000?6000であるシロキサン系結合剤(A)と、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)を含む亜鉛末(B)とを含有し、顔料体積濃度(PVC)が35?60%であり、かつ、亜鉛末(B)とSiO_(2)換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((B)/(A))が1.0?5.0である一次防錆塗料組成物である。
【0019】
亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の含有量が15質量%以上であることが好ましい。鱗片状亜鉛系粉末(b-1)とSiO_(2)換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((b-1)/(A))は、1.0?5.0であることが好ましい。
【0020】
亜鉛末(B)として、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)とともに球状亜鉛系粉末(b-2)をさらに含有することも好ましい。亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の含有量が15?90質量%であり、球状亜鉛系粉末(b-2)の含有量が10?85質量%であることも好ましい。
【0021】
上記組成物は、さらに酸化亜鉛等の導電性顔料(C)を含有することが好ましい。
【0022】
鱗片状亜鉛系粉末(b-1)は、鱗片状亜鉛粉末および鱗片状亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。鱗片状亜鉛系粉末(b-1)は、メディアン径(D50)が30μm以下であり、かつ平均厚さが1μm以下であることが好ましい。シロキサン系結合剤(A)は、アルキルシリケートおよびメチルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物の縮合物であることが好ましい。
【0023】
本発明の一態様は、上記一次防錆塗料組成物から形成された一次防錆塗膜であって、平均乾燥膜厚が10μm以下である一次防錆塗膜である。
【0024】
本発明の一態様は、基板と、前記基板表面に形成された、上記一次防錆塗料組成物からなる塗膜とを有する一次防錆塗膜付き基板である。
【0025】
本発明の一態様は、基板表面に、上記一次防錆塗料組成物を塗装する工程、および塗装された前記塗料組成物を硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程を有する基板の防錆方法または一次防錆塗膜付き基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来の塗装機を用いても、常温で乾燥・硬化することにより、平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜を形成することができ、かつ優れた防錆性、上塗り性および鋼板の溶接・切断工程における優れた溶接・切断性を有する塗膜を形成することができる一次防錆塗料組成物;ならびにその用途を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、実施例評価で用いたサンドブラスト処理板を示す図である。
【図2】図2は、上記サンドブラスト処理板の溶接条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一次防錆塗料組成物(以下「塗料組成物」ともいう。)、一次防錆塗膜、一次防錆塗膜付き基板およびその製造方法、ならびに基板の防錆方法について、好適な態様を含めて詳細に説明する。
【0029】
〔一次防錆塗料組成物〕
本発明の一次防錆塗料組成物は、シロキサン系結合剤(A)と鱗片状亜鉛系粉末(b-1)を含む亜鉛末(B)とを含有する。また、前記組成物は、前記結合剤(A)以外の他の結合剤等の塗膜形成主要素、前記亜鉛末(B)以外の他の顔料成分、添加剤、有機溶剤等から選択される1種または2種以上をさらに含有してもよい。
【0030】
《1.塗膜形成主要素》
塗膜形成主要素とは、塗膜を形成するために必要な主要素である。例えば、重合油、天然樹脂、合成樹脂、セルロール誘導体等の高分子物質が、塗膜形成主要素に分類される。以下のシロキサン系結合剤(A)や他の結合剤は、塗膜形成主要素に分類される。
【0031】
〈シロキサン系結合剤(A)〉
本発明の塗料組成物は、シロキサン系結合剤(A)を必須成分として含有する。
【0032】
シロキサン系結合剤(A)の重量平均分子量(Mw)は、1000?6000であり、好ましくは1200?5000であり、より好ましくは1300?4000である。Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の値であり、その詳細は実施例に記載したとおりである。
【0033】
Mwが上記範囲にあると、塗料の乾燥時に短時間で常温硬化(例:5?40℃)が可能であり、また塗膜の防錆性および付着強度が向上するとともに、溶接処理時のブローホール(内泡)の発生が抑えられる。一方、Mwが上記下限値を下回ると、シロキサン系結合剤(A)の硬化反応が遅く、短時間での硬化が求められる場合、塗膜の乾燥時に高温(例:200?400℃)の加熱硬化が必要になる。Mwが上記上限値を上回ると、シロキサン系結合剤(A)が亜鉛末(B)の表面を覆ってしまい、塗膜の防錆性が劣る。
【0034】
シロキサン系結合剤(A)としては、例えば、アルキルシリケートおよびメチルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物の縮合物が挙げられ;具体的には前記化合物の部分加水分解縮合物が挙げられる。
【0035】
アルキルシリケートとしては、例えば、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、テトラ-n-プロピルオルトシリケート、テトラ-i-プロピルオルトシリケート、テトラ-n-ブチルオルトシリケート、テトラ-sec-ブチルオルトシリケート等の化合物;メチルポリシリケート、エチルポリシリケート等の化合物;が挙げられる。
【0036】
メチルトリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等の化合物が挙げられる。
【0037】
これらの中でも、アルキルシリケートの縮合物が好ましく、テトラエチルオルトシリケートの縮合物がより好ましく、テトラエチルオルトシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(商品名;コルコート(株)製)の部分加水分解縮合物が特に好ましい。
【0038】
シロキサン系結合剤(A)は従来公知の方法によって製造することができる。例えば、アルキルシリケートおよびメチルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種と有機溶剤との混合溶液に塩酸等を添加し攪拌して、部分加水分解縮合物を生成させることにより、シロキサン系結合剤(A)を調製することができる。
【0039】
シロキサン系結合剤(A)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
本発明の塗料組成物において、シロキサン系結合剤(A)の含有量は、全組成物の通常8?40質量%、好ましくは12?35質量%、より好ましくは15?25質量%である。含有量が前記範囲にあると、平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜であっても、鋼板表面の単位面積当りの結合剤量を多くすることができ、また鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の平板面が塗膜表面と略平行に配向する。このため、塗膜の連続性が保たれ、鋼板素地が見えることがない。したがって、鋼板の発錆を防止することができる。
【0041】
本発明の塗料組成物が後述する2液型組成物の場合、主剤成分と顔料ペースト成分とを混合して得られた塗料中のシロキサン系結合剤(A)の含有量を、上記範囲に調整することが好ましい。
【0042】
〈他の結合剤〉
本発明の塗料組成物は、本発明の目的・効果を損なわない範囲で、シロキサン系結合剤(A)以外の他の結合剤を含有してもよい。他の結合剤としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。ポリビニルブチラール樹脂の市販品としては、例えば、エスレックB BM-2(商品名;積水化学工業(株)製)が挙げられる。
【0043】
《2.顔料成分》
顔料成分としては、例えば、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)、球状亜鉛系粉末(b-2)等の亜鉛末(B)、前記(B)以外の導電性顔料(C)、前記(B)および(C)以外の防錆顔料、前記(B)および(C)以外の無機粉末、モリブデン、モリブデン化合物が挙げられる。本発明の塗料組成物は鱗片状亜鉛系粉末(b-1)を必須成分として含有し、前記他の顔料成分を更に含有してもよい。
【0044】
〈亜鉛末(B)〉
本発明の塗料組成物は、亜鉛末(B)を含有する。
【0045】
本発明において「亜鉛末」とは、金属亜鉛の粉末、または亜鉛を主体とする合金(例:亜鉛とアルミニウム、マグネシウムおよび錫から選択される少なくとも1種との合金)の粉末を意味する。
【0046】
本発明の塗料組成物において、亜鉛末(B)とSiO_(2)換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((B)/(A))は、1.0?5.0に調整することが好ましく、より好ましくは1.2?4.5であり、さらに好ましくは1.5?3.5である。質量比((B)/(A))が前記範囲にあると、防食性、溶接性の面で好ましい。質量比((B)/(A))が前記範囲を上回ると、溶接欠陥が多くなる傾向にあり、質量比((B)/(A))が前記範囲を下回ると、防食性が不足となる傾向にある。
【0047】
本発明の塗料組成物が後述する2液型組成物の場合、主剤成分と顔料ペースト成分とを混合して得られた塗料中の質量比((B)/(A))を、上記範囲に調整することが好ましい。
【0048】
本発明の塗料組成物は、亜鉛末(B)として、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)を含有する。亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の含有量は15質量%以上であることが好ましい。
【0049】
本発明の塗料組成物の一好適態様では、亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の含有量は85質量%を超えることが好ましく、より好ましくは90質量%を超え、さらに好ましくは95質量%を超える。前記(b-1)を前記範囲で用いると、防錆性、上塗り性および溶接・切断性が良好な塗膜を形成することができる点で好ましい。
【0050】
本発明の塗料組成物の一好適態様は、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)とともに球状亜鉛系粉末(b-2)を含有することが好ましい。例えば、亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の含有量が15?90質量%であり、球状亜鉛系粉末(b-2)の含有量が10?85質量%であることが好ましく、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の含有量が15?70質量%であり、球状亜鉛系粉末(b-2)の含有量が30?85質量%であることがより好ましい。前記(b-1)および(b-2)を前記範囲で用いると、高価な鱗片状亜鉛系粉末の使用量を低減しつつ、かつ、後述するような鱗片状亜鉛系粉末の作用を損なうことがなく、防錆性、上塗り性および溶接・切断性が良好な塗膜を形成することができる点で好ましい。
【0051】
後者の好適態様の場合、本発明の塗料組成物は、さらに導電性顔料(C)を含有することが好ましい。前記(b-1)および(b-2)とともに前記(C)を併用することで、防錆性、上塗り性および溶接・切断性が特に良好な塗膜を形成することができる。
【0052】
さらに、溶接・切断時等に塗膜が800℃以上の高温で加熱される場合、鱗片状亜鉛系粉末は比表面積が大きいため金属亜鉛が酸化され、加熱後の防食性が低下することがある。一方、鱗片状亜鉛系粉末とともに球状亜鉛系粉末を併用した場合、塗膜が前記高温で加熱された場合でも球状亜鉛系粉末の内部に金属亜鉛が残存するため、加熱後の防食性を確保することができる。
【0053】
また、鱗片状亜鉛系粉末は金属光沢色を有しており、塗膜を形成する際に、当該粉末の平板面が塗膜表面に向けて配向するため、他の着色顔料を導入した場合でも色相が金属光沢色を帯びやすい傾向がある。したがって、鱗片状亜鉛系粉末を用いる場合、色相設計に制限があることがある。一方、鱗片状亜鉛系粉末とともに球状亜鉛系粉末を併用することで相対的に鱗片状亜鉛系粉末の含有量を減量することできるため、この傾向が緩和され、自由に色相設計をすることが可能となる。
【0054】
鱗片状亜鉛系粉末(b-1)
本発明の塗料組成物は、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)を必須成分として含有する。
【0055】
鱗片状亜鉛系粉末(b-1)は、鋼板の発錆を防止する防錆顔料として作用する。鱗片状亜鉛系粉末(b-1)としては、例えば、鱗片状亜鉛粉末および鱗片状亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種が挙げられる。亜鉛合金としては、例えば、亜鉛とアルミニウム、マグネシウムおよび錫から選択される少なくとも1種との合金が挙げられ、好ましくは亜鉛-アルミニウム合金、亜鉛-錫合金が挙げられる。
【0056】
鱗片状亜鉛系粉末(b-1)は、メディアン径(D50)が30μm以下であり、かつ平均厚さが1μm以下のものが好ましく;メディアン径(D50)が5?20μmであり、かつ平均厚さが0.2?0.9μmのものがより好ましい。また、メディアン径(D50)と平均厚さとの比で示されるアスペクト比(メディアン径/平均厚さ)は、10?150であることが好ましく、より好ましくは20?100である。
【0057】
メディアン径は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置、例えば「SALD 2200」(商品名;(株)島津製作所製)を用いて測定することができる。平均厚さは、走査電子顕微鏡(SEM)、例えば「XL-30」(商品名;フィリップス社製)を用いて鱗片状亜鉛系粉末(b-1)を観察し、数10?数100個の粉末粒子の厚さを測定し、平均値を求めることで算出できる。
【0058】
このような形状の鱗片状亜鉛系粉末(b-1)は球状亜鉛系粉末(b-2)と比べて比表面積が大きいので、塗膜中の粒子間の接触が密に保たれる。したがって、塗膜中の亜鉛末(B)の含有量を少なく設定しても(例:36g/m^(2)以下)、長期暴露後の防錆性に優れた塗膜を形成することができる。また、メディアン径(D50)が前記上限値以下の場合、塗装機内部で塗料の詰りを防止することができる。比表面積は、流動式比表面積自動測定装置、例えば「フローソーブII 2300」(商品名;(株)島津製作所製)を用いて測定することができる。
【0059】
鱗片状亜鉛粉末の市販品としては、例えば、STANDART Zinc flake GTT、STANDART Zinc flake G、STANDART Zinc flake AT(商品名;ECKART GmbH製)が挙げられる。鱗片状亜鉛合金粉末の市販品としては、例えば、STAPA 4ZNAL7(亜鉛とアルミニウムとの合金;商品名;ECKART GmbH製)、STAPA 4ZNSN30(亜鉛と錫との合金;商品名;ECKART GmbH製)が挙げられる。
【0060】
鱗片状亜鉛系粉末(b-1)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
本発明の塗料組成物の一好適態様において、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)とSiO_(2)換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((b-1)/(A))は、1.0?5.0に調整することが好ましく、より好ましくは1.2?4.5であり、さらに好ましくは1.5?3.5である。質量比((b-1)/(A))が前記範囲にあると、乾燥・硬化して得られた塗膜中の粒子間の距離が密に保たれる点で好ましい。
【0062】
本発明の塗料組成物が後述する2液型組成物の場合、上記一好適態様では、主剤成分と顔料ペースト成分とを混合して得られた塗料中の質量比((b-1)/(A))を、上記範囲に調整することが好ましい。
【0063】
球状亜鉛系粉末(b-2)
本発明の塗料組成物の一好適態様は、球状亜鉛系粉末(b-2)を含有する。
【0064】
球状亜鉛系粉末(b-2)は、鋼板の発錆を防止する防錆顔料として作用する。球状亜鉛系粉末(b-2)としては、例えば、球状亜鉛粉末および球状亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種が挙げられる。亜鉛合金としては、例えば、亜鉛とアルミニウム、マグネシウムおよび錫から選択される少なくとも1種との合金が挙げられ、好ましくは亜鉛-アルミニウム合金、亜鉛-錫合金が挙げられる。
【0065】
球状亜鉛系粉末(b-2)における「球状」とは、形状が球の形を成しているものを指し、特に規定された範囲は存在しないが、通常、アスペクト比が1?3であることが好ましい。球状亜鉛系粉末(b-2)は鱗片状亜鉛系粉末(b-1)と比べて安価であり、その使用により塗料組成物のコストを低減することができる。アスペクト比は、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)と同様な方法で測定することができる。
【0066】
球状亜鉛系粉末(b-2)は、メディアン径(D50)が2?15μmであることが好ましく、より好ましくは2?7μmである。メディアン径は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置、例えば「SALD 2200」(商品名;(株)島津製作所製)を用いて測定することができる。
【0067】
球状亜鉛粉末の市販品としては、例えば、F-2000(商品名;本荘ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0068】
球状亜鉛系粉末(b-2)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
〈導電性顔料(C)〉
本発明の塗料組成物は、導電性顔料(C)を含有してもよい。前記(C)を併用することで、亜鉛の電気防食作用が効果的となり防錆性を向上させる点で好ましい。鱗片状亜鉛系粉末(b-1)とともに球状亜鉛系粉末(b-2)を用いる場合、特に亜鉛末(B)100質量%に対して鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の含有量が15?70質量%であり、球状亜鉛系粉末(b-2)の含有量が30?85質量%である場合は、特に球状亜鉛系粉末の電気防食効果を高める観点から、前記(C)を併用することが好ましい。
【0070】
上記点について詳しくは以下のとおりである。一次防錆塗料の防錆性を確保するためには、亜鉛粒子がイオン化した際に発生する電子を効率的に鋼板等の基板へ供給させることが、犠牲防食効果を得るために重要である。通常、乾燥塗膜中の亜鉛粒子同士を接触させることによってこの通電効果を得ることができるが、特に鱗片状亜鉛系粉末の形状は粒子同士が接触するのに適している。しかしながら、鱗片状亜鉛系粉末の比率を下げ、球状亜鉛系粉末の比率を高めた場合、粒子同士の接触が損なわれ、この効果が発揮しづらくなることがある。この場合、導電性顔料を塗膜にさらに含有させることによって、亜鉛粒子間を導電性顔料が接続する役割を果たし、これらの通電効果を補うことができる。その結果、効果的な犠牲防食効果を得ることができ、良好な防錆性を発揮させることができる。
【0071】
導電性顔料(C)としては、例えば、酸化亜鉛、亜鉛末以外の金属粉末、炭素粉末が挙げられる。これらの中でも、安価で導電性の高い酸化亜鉛が好ましい。
【0072】
酸化亜鉛の市販品としては、例えば、酸化亜鉛1種(堺化学工業(株)製)、酸化亜鉛3種(ハクスイテック(株)製、堺化学工業(株)製)が挙げられる。
【0073】
金属粉末としては、例えば、Fe-Si粉、Fe-Mn粉、Fe-Cr粉、磁鉄粉、リン化鉄が挙げられる。金属粉末の市販品としては、例えば、フェロシリコン(商品名;キンセイマテック(株)製)、フェロマンガン(商品名;キンセイ(株)製)、フェロクロム(商品名;キンセイマテック(株)製)、砂鉄粉(キンセイマテック(株)製)、フェロフォス2132(オキシデンタル ケミカルコーポレーション製)が挙げられる。
【0074】
炭素粉末としては、着色顔料として用いられるカーボンブラックが挙げられる。炭素粉末の市販品としては、例えば、三菱カーボンブラックMA-100(商品名;三菱化学(株)製)が挙げられる。
【0075】
導電性顔料(C)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
導電性顔料(C)を用いる場合、導電性顔料(C)の含有量は、亜鉛末(B)100質量部に対して、好ましくは5?100質量部、より好ましくは10?50質量部、更に好ましくは15?35質量部である。前記(C)の含有量が前記範囲にあると、塗膜の電気防食効果を高め、防錆性を向上させる点で好ましい。
【0077】
特に、亜鉛末(B)100質量%に対して鱗片状亜鉛系粉末(b-1)を15?70質量%で用い、かつ球状亜鉛系粉末(b-2)を30?85質量%で用いる場合、塗料組成物中の導電性顔料(C)の含有量を亜鉛末(B)100質量部に対して15?35質量部にすることが好ましい。
【0078】
また、導電性顔料(C)の含有量は、塗料組成物中の不揮発分に対して、0質量%を超えて35質量%以下が好ましく、10?20質量%がより好ましい。前記(C)の含有量が前記範囲にあると、亜鉛末(B)の含有量を少なく抑えつつ防食性を維持できる点で好ましい。
【0079】
〈他の防錆顔料〉
本発明の塗料組成物は、補助的に塗膜の防錆性を確保する目的で、亜鉛末(B)および導電性顔料(C)以外の防錆顔料を含有してもよい。防錆顔料としては、例えば、リン酸亜鉛系化合物、リン酸カルシウム系化合物、リン酸アルミニウム系化合物、リン酸マグネシウム系化合物、亜リン酸亜鉛系化合物、亜リン酸カルシウム系化合物、亜リン酸アルミニウム系化合物、亜リン酸ストロンチウム系化合物、トリポリリン酸アルミニウム系化合物、シアナミド亜鉛系化合物、ホウ酸塩化合物、ニトロ化合物、複合酸化物が挙げられる。
【0080】
防錆顔料の市販品としては、例えば、リン酸亜鉛系(アルミニウム)化合物:LFボウセイCP-Z(商品名;キクチカラー(株)製)、亜リン酸亜鉛系(カルシウム)化合物:プロテクスYM-70(商品名;太平化学産業(株)製)、亜リン酸亜鉛系(ストロンチウム)化合物:プロテクスYM-92NS(商品名;太平化学産業(株)製)、トリポリリン酸アルミニウム系化合物:Kホワイト#84(商品名;テイカ(株)製)、シアナミド亜鉛系化合物:LFボウセイZK-32(キクチカラー(株)製)が挙げられる。
【0081】
防錆顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0082】
〈他の無機粉末〉
本発明の塗料組成物は、亜鉛化合物粉末(ただし、酸化亜鉛、リン酸亜鉛系化合物、亜リン酸亜鉛系化合物、シアナミド亜鉛系化合物を除く。)、鉱物粉末、アルカリガラス粉末、および熱分解ガスを発生する無機化合物粉末から選択される少なくとも1種の無機粉末を含有していてもよい。
【0083】
亜鉛化合物粉末は、亜鉛末(B)のイオン化(Zn^(2+)の生成)の程度等の、酸化反応の活性度を調整する作用があると考えられている。本発明の塗料組成物が亜鉛化合物粉末を含有する場合、前記組成物に適切な防錆性を付与することができる。亜鉛化合物粉末としては、例えば、塩化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸亜鉛等の粉末が挙げられる。亜鉛化合物粉末の市販品としては、例えば、「Sachtolich HD(硫化亜鉛;商品名;Sachleben Chemie GmbH製)」、「塩化亜鉛((株)長井製薬所製)」が挙げられる。
【0084】
鉱物粉末としては、例えば、チタン鉱物粉、シリカ粉、ソーダ長石、カリ長石、珪酸ジルコニウム、珪灰石、珪藻土が挙げられる。鉱物粉末の市販品としては、例えば、ルチルフラワーS(キンセイマテック(株)製)、イルメナイト粉(キンセイマテック(株)製)、A-PAX(キンセイマテック(株)製)、セラミックパウダーOF-T(キンセイマテック(株)製)、アプライト(キンセイマテック(株)製)、シリカMC-O(丸尾カルシウム(株)製)、バライトBA(堺化学(株)製)、ラジオライト(昭和化学工業(株))、セライト545(ジョンマンビル社製)が挙げられる。
【0085】
アルカリガラス粉末は、当該ガラス粉末に含まれるアルカリ金属イオンが亜鉛を活性化させる、鋼板の溶接時にアークを安定化させるという作用を有する。アルカリガラス粉末としては、一般に普及している板ガラスや瓶ガラスを5μm程度まで粉砕してガラス粉末を調製し、酸洗浄で当該ガラス粉末のpHを8以下に調整したものが挙げられる。アルカリガラス粉末の市販品としては、例えば、「APS-325」((株)ピュアミック製)が挙げられる。
【0086】
熱分解ガスを発生する無機化合物粉末とは、熱分解(例:500?1500℃での熱分解)によってガス(例:CO_(2)、F_(2))を発生する無機化合物の粉末である。前記無機化合物粉末は、これを含有する塗料組成物から形成された塗膜を有する鋼板を溶接する際に、溶接時の溶融プール内において、結合剤等に含まれる有機分から発生したガスから生じた気泡を、前記無機化合物粉末由来のガスとともに、溶融プール内から除去する作用を有する。前記無機化合物粉末としては、例えば、フッ化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウムが挙げられる。前記無機化合物粉末の市販品としては、例えば、蛍石400メッシュ(キンセイマテック(株)製)、NS#400(日東粉化工業(株)製)、炭酸マグネシウム(富田製薬(株)製)、炭酸ストロンチウムA(本荘ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0087】
〈モリブデン、モリブデン化合物〉
本発明の塗料組成物は、モリブデン(金属モリブデン),モリブデン化合物の一方または双方を含有することができる。これらは、亜鉛の酸化防止剤(いわゆる白錆抑制剤)として作用する。
【0088】
本発明の塗料組成物を塗装した基板を屋外に暴露した場合に、塗膜中の亜鉛または亜鉛合金が水や酸素、炭酸ガスと反応することで、塗膜表面に粉状の白錆(酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛等の混合物)が生成することがある。白錆が生成した当該塗膜の表面に上塗り塗料からなる上塗り塗膜が形成された場合、塗膜間の付着性が低下してしまうことがある。このような問題に対しては、上塗り塗料を塗装するに先だって、防錆塗膜表面の白錆を適当な手段により除去する除去作業を必要とするが、顧客の要求や特定の用途によっては、このような除去作業は全く許されないことがある。
【0089】
白錆の発生を低減することができるという観点からは、本発明の塗料組成物は、亜鉛の酸化防止剤(いわゆる白錆抑制剤)として、モリブデン(金属モリブデン),モリブデン化合物の一方または双方を含有することが好ましい。
【0090】
モリブデン化合物としては、例えば、三酸化モリブデン等のモリブデン酸化物、硫化モリブデン、モリブデンハロゲン化物、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、珪モリブデン酸、モリブデン酸のアルカリ金属塩、リンモリブデン酸のアルカリ金属塩、珪モリブデン酸のアルカリ金属塩、モリブデン酸のアルカリ土類金属塩、リンモリブデン酸のアルカリ土類金属塩、珪モリブデン酸のアルカリ土類金属塩、モリブデン酸のマンガン塩、リンモリブデン酸のマンガン塩、珪モリブデン酸のマンガン塩、モリブデン酸の塩基性窒素含有化合物塩、リンモリブデン酸の塩基性窒素含有化合物塩、珪モリブデン酸の塩基性窒素含有化合物塩が挙げられる。
【0091】
モリブデン化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
モリブデン,モリブデン化合物の一方または双方を用いる場合、モリブデンおよびモリブデン化合物の含有量の合計は、亜鉛末(B)100質量部に対して、好ましくは0.05?5.0質量部、より好ましくは0.3?3.0質量部、さらに好ましくは0.5?2.0質量部である。含有量が前記範囲にある場合、充分な亜鉛の酸化防止作用が得られるとともに、亜鉛末(B)の防錆能力の活性の低下を防ぎ塗膜の防錆性を維持することができる。
【0093】
《3.添加剤》
本発明の塗料組成物は、添加剤を含有してもよい。添加剤とは、塗料や塗膜の性能を向上させ、または保持するために用いられる材料である。添加剤としては、例えば、沈降防止剤、乾燥剤、流動性調整剤、消泡剤、分散剤、色分れ防止剤、皮張り防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤が挙げられる。
【0094】
添加剤は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0095】
〈沈降防止剤〉
沈降防止剤としては、例えば、有機ベントナイト系、酸化ポリエチレン系、ヒュームドシリカ系、アマイド系等の沈降防止剤が挙げられる。沈降防止剤の市販品としては、例えば、TIXOGEL MPZ(商品名;Rockwood Clay Additives GmbH製)、ディスパロン4200-20(商品名;楠本化成(株)製)、ディスパロンA630-20X(商品名;楠本化成(株)製)、AEROSIL 200(商品名;日本アエロジル(株)製)が挙げられる。
【0096】
沈降防止剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0097】
沈降防止剤の含有量は、本発明の塗料組成物が後述する2液型組成物の場合、顔料ペースト成分中において、通常0.5?5.0質量%、好ましくは1.5?4.0質量%である。沈降防止剤の含有量が前記範囲にあると、顔料成分の沈殿が少なく、顔料ペースト成分と主剤成分とを混合する際の作業性の点で好ましい。
【0098】
《4.有機溶剤》
本発明の塗料組成物は、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)等の亜鉛末(B)の分散性が向上すること、また塗装工程において鋼板へのなじみ性が良く、鋼板との密着性に優れた塗膜が得られることから、有機溶剤を含有することが好ましい。
【0099】
有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族系溶剤、グリコール系溶剤等の塗料分野で通常使用されている有機溶剤を用いることができる。
【0100】
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールが挙げられる。エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。ケトン系溶剤としては、例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサンノンが挙げられる。芳香族系溶剤としては、例えば、ベンゼン、キシレン、トルエンが挙げられる。グリコール系溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0101】
有機溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0102】
本発明の塗料組成物において、有機溶剤の含有量は、通常30?90質量%、好ましくは40?85質量%、より好ましくは45?80質量%である。本発明の塗料組成物は、このような有機溶剤型組成物であることが好ましい。
【0103】
本発明の塗料組成物が後述する2液型組成物の場合、主剤成分と顔料ペースト成分とを混合して得られた塗料中の有機溶剤の含有量を、上記範囲に調整することが好ましい。
【0104】
《顔料体積濃度(PVC)》
本発明の塗料組成物は、顔料体積濃度(PVC)が35?60%であるという要件を満たす。PVCは、好ましくは37?55%、より好ましくは40?52%である。本発明において顔料体積濃度(PVC)とは、本発明の塗料組成物の不揮発分全体中の、顔料成分と添加剤中の固体粒子とが占める割合(体積基準)を、百分率で表した濃度を指す。
【0105】
【数1】

【0106】
「不揮発分」とは、本発明の塗料組成物の下記条件下における加熱残分を意味し、通常は、シロキサン系結合剤(A)等の塗膜形成主要素、顔料成分および添加剤中の固体粒子からなる。塗料組成物の加熱残分は、JIS K5601 1-2の規格(加熱温度:125℃、加熱時間:60分)に従い測定することができる。
【0107】
「顔料成分」としては、例えば、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)、球状亜鉛系粉末(b-2)等の亜鉛末(B)、前記(B)以外の導電性顔料(C)、前記(B)および(C)以外の防錆顔料、前記(B)および(C)以外の無機粉末、モリブデン、モリブデン化合物が挙げられる。「添加剤」としては、例えば、沈降防止剤、乾燥剤、流動性調整剤、消泡剤、分散剤、色分れ防止剤、皮張り防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤が挙げられる。
【0108】
PVCの算出にあたり、各成分の質量とその密度から、各成分の体積を算出する。また、シロキサン系結合剤(A)については、SiO_(2)換算のシロキサン系結合剤(A)の質量とその密度から、その体積を算出する。
【0109】
本発明の塗料組成物は、上述したように、顔料成分として、防錆顔料、無機粉末、モリブデンおよびモリブデン化合物から選択される少なくとも1種を含有してもよい。これらの含有量は、PVCが上記範囲となる限り特に限定されない。
【0110】
本発明の塗料組成物のPVCを上記範囲に設定することにより、従来の塗装機・塗装条件を用いて平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜を形成することができる。また、PVCを上記範囲に設定することにより、塗膜中の顔料成分の粒子間距離が適切に保たれるため、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の平板面が塗膜表面と略平行に配向し、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の厚さ方向が基板表面の垂直方向になる。鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の平均厚さは通常1μm以下と非常に薄いため、結果的に薄い塗膜を得ることができる。
【0111】
(1)これに伴い塗装面積当りの塗料使用量を削減できるため、塗装面積当りのVOC発生量が通常95g/m^(2)以下と環境への影響が少ない。これに伴い塗装面積当りの亜鉛末(B)の含有量も通常36g/m^(2)以下で資源保護面でも優れている。(2)また、塗膜の長期暴露後の防錆性が優秀であり、現在普及している無機ジンク一次防錆塗料と比較しても遜色ない。(3)また、塗膜の上塗り付着性も優秀であり、各種上塗り塗料を本発明の一次防錆塗膜上に塗装することができる。(4)また、塗膜が薄いため、鋼板の溶接・切断工程において、処理速度を速くすることができる。
【0112】
PVCが60%を上回る場合、塗膜中の顔料成分の粒子間距離が適切に保たれないため、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の平板面が塗膜表面と略平行に配向しなくなる。そのため顔料成分同士に重なりが生じたり、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の平板面が塗膜表面の垂直方向に配向する現象が生じる。そのため従来の塗装機・塗装条件を用いて平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜形成が困難となり、薄膜化を達成することができない。PVCが35%を下回る場合、塗膜の防錆性が不良となる。
【0113】
《一次防錆塗料組成物の調製》
本発明の一次防錆塗料組成物は、2液型組成物として通常用いられる。すなわち、前記塗料組成物は、通常、主剤成分(ビヒクル)と顔料ペースト成分とから構成される。使用前は主剤成分と顔料ペースト成分とを別容器に保存しておき、使用直前にこれらを充分に撹拌・混合して、一次防錆塗料を調製することが好ましい。
【0114】
主剤成分は、シロキサン系結合剤(A)および有機溶剤を通常含有する。主剤成分は、シロキサン系結合剤(A)と有機溶剤とを混合して調製してもよく;アルキルシリケートおよびメチルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種と有機溶剤との混合溶液に塩酸等を添加し攪拌して、部分加水分解縮合物を生成させることにより調製してもよい。また、主剤成分は、シロキサン系結合剤(A)以外の他の結合剤等の塗膜形成主要素を含有してもよい。
【0115】
顔料ペースト成分は、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)等の亜鉛末(B)および有機溶剤を通常含有する。顔料ペースト成分は、例えば、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)等の亜鉛末(B)と有機溶剤と必要に応じてその他の成分とを常法に従って混合して調製される。その他の成分は、例えば、導電性顔料(C)、防錆顔料、無機粉末、モリブデン、モリブデン化合物等の顔料成分、ならびに沈降防止剤等の添加剤から選択される少なくとも1種である。
【0116】
主剤成分と顔料ペースト成分との配合比は、混合後のシロキサン系結合剤(A)、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)等の亜鉛末(B)および有機溶剤の含有量、ならびにPVCが上述した範囲となるよう適宜設定することができる。
【0117】
〔一次防錆塗膜および一次防錆塗膜付き基板〕
本発明の一次防錆塗膜は、上述の一次防錆塗料組成物から形成され;また、本発明の防錆塗膜付き基板は、鋼板等の基板と、前記基板表面に形成された、上述の一次防錆塗料組成物からなる一次防錆塗膜とを有する。
【0118】
上記一次防錆塗膜の平均乾燥膜厚は、通常10μm以下、好ましくは5?9μmである。また前記平均乾燥膜厚は、用途によっては10μmを超えていてもよい。以下では、平均乾燥膜厚が10μm以下の一次防錆塗膜を「薄膜型一次防錆塗膜」ともいう。平均乾燥膜厚は電磁式膜厚計を用いることによって測定される。
【0119】
上記一次防錆塗膜において、塗装面積当りの亜鉛末(B)の含有量を、通常36g/m^(2)以下、好ましくは10?30g/m^(2)に設定することができる。塗装面積当りの亜鉛末(B)の含有量は、塗料に配合した亜鉛末(B)の含有量から塗膜中の単位体積当りの亜鉛末(B)の含有量を計算し、上記のようにして測定して得られた平均乾燥膜厚を用いて算出することができる。
【0120】
〔基板の防錆方法および一次防錆塗膜付き基板の製造方法〕
本発明の基板の防錆方法および一次防錆塗膜付き基板の製造方法は、鋼板等の基板表面に、上述の一次防錆塗料組成物を塗装する工程(塗装工程)、および塗装された前記塗料組成物を硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程(硬化工程)を有する。
【0121】
塗装工程では、本発明の塗料組成物(2液型組成物の場合は、主剤成分と顔料ペースト成分とを混合してなる塗料)を、エアスプレー、エアレススプレー等の従来公知の方法により鋼板等の基板表面に塗装し、未硬化の塗膜を形成する。塗装機としては、一般的に造船所、製鉄所等で塗料を塗装する場合、主にライン塗装機が用いられる。ライン塗装機は、ライン速度、塗装機内部に設置されたエアスプレー、エアレススプレー等の塗装圧力、スプレーチップのサイズ(口径)の塗装条件によって、膜厚の管理をしている。
【0122】
硬化工程における硬化温度(乾燥温度)は、通常5?40℃、好ましくは10?30℃であり;乾燥時間は、通常3?15分、好ましくは5?10分である。本発明では、Mwが上記範囲にあるシロキサン系結合剤(A)を用いていることから、このような常温程度において短時間で塗料を硬化させることができる。したがって、本発明の塗料組成物は、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等における鋼板加工工程で行われる鋼板の前処理での使用に適している。
【0123】
ところで、従来の一次防錆塗料組成物を用いて、薄膜型一次防錆塗膜を形成するには、塗装機の吐出流量を、現状の塗装機では安定的に塗装できる限界以下の流量に設定する必要があり、均一に塗装することができない。よって、塗料を大量の有機溶剤で希釈して塗料の固形分濃度を下げて塗装する必要があり、結果としてVOC発生量が増えてしまう。したがって、従来の一次防錆塗料組成物では、(i)VOC発生量を抑えることなしに薄膜型一次防錆塗膜を形成することは困難である、(ii)VOC発生量を考慮せずに前記塗膜が得られたとしても、鋼板表面の単位面積当りの結合剤量が減少することになり、塗膜の連続性が失われ、鋼板素地が見える場所が発生し、当該場所では短期間のうちに鋼板が発錆する、(iii)VOC発生量を考慮せずに前記塗膜が得られたとしても、塗膜中の亜鉛含有量が減少するため、長期暴露後の防錆性も著しく低下する。以上より、従来の一次防錆塗料組成物を用いる場合、平均乾燥膜厚が例えば15?30μmになるように上記塗装条件が設定されている。
【0124】
これに対して、本発明の一次防錆塗料組成物は、上述したようにPVCが特定範囲に設定され、塗膜中の顔料成分の粒子間距離が適切に保たれるため、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の平板面が塗膜表面と略平行に配向し、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の厚さ方向が基板表面の垂直方向になる。鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の平均厚さは通常1μm以下と非常に薄いため、結果的に薄い塗膜を得ることができる。したがって、塗装機の塗料の吐出流量を下げなくても、安定的に薄膜型一次防錆塗膜を形成することでき、したがって、上記(i)?(iii)の問題もない。
【0125】
また、本発明では、薄膜型一次防錆塗膜付き基板を溶接処理した場合でも、溶接ビードにピット(貫通孔)やブローホール(内泡)、ガス溝、ワームホール等の欠陥が発生する確率が極めて低い。すなわち、本発明の薄膜型一次防錆塗膜付き基板は、防錆性の向上と溶接性の向上とを同時に達成することができる。なお、従来の一次防錆塗膜のように平均乾燥膜厚が10μm以上であっても、本発明の一次防錆塗膜は、優れた防錆性を発揮することができる。
【実施例】
【0126】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。以下の実施例等の記載において、特に言及しない限り、「部」は「質量部」を示す。
【0127】
〔調製例1〕アルキルシリケートの縮合物の調製
エチルシリケート40(コルコート(株)製)31.5g、工業用エタノール10.4g、脱イオン水5g、および35質量%塩酸0.1gを容器に仕込み、50℃で表1記載の時間攪拌した後、イソプロピルアルコール53gを加えて、アルキルシリケートの縮合物1?6を含有する溶液を調製した。
【0128】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で縮合物1?6の重量平均分子量(Mw)を測定した。なお、GPCの測定条件は、以下のとおりである。縮合物サンプルを少量取りテトラヒドロフランを加えて希釈し、さらにその溶液をメンブレムフィルターで濾過して、GPC測定サンプルを得た。
・装置:日本ウォーターズ社製 2695セパレ-ションモジュール
(Aliance GPC マルチシステム)
・カラム:東ソー社製 TSKgel Super H4000
TSKgel Super H2000
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:0.6ml/min
・検出器:Shodex RI-104
・カラム恒温槽温度:40℃
・標準物質:ポリスチレン
【0129】
【表1】

【0130】
〔調製例2-1〕顔料ペースト成分1の調製
沈降防止剤として0.9部のTIXOGEL MPZ(商品名;Rockwood Clay Additives GmbH製)と、有機溶剤として4.6部のキシレン、2.3部の酢酸ブチルおよび2.3部のイソブチルアルコールとをポリエチレン製容器に仕込み、ガラスビーズを加えてペイントシェーカーにて3時間振とうした。次いで、鱗片状亜鉛粉末として18.2部のSTANDART Zinc flake GTT(商品名;ECKART GmbH製)を加えて、さらに5分間振とうして顔料成分を分散させた。その後、80メッシュの網を用いてガラスビーズを除去して顔料ペースト成分1を調製した。
【0131】
〔調製例2-2〕顔料ペースト成分2の調製
沈降防止剤として2.0部のTIXOGEL MPZ(商品名;Rockwood Clay Additives GmbH製)と、有機溶剤として58.0部のキシレン、10.0部の酢酸ブチルおよび10.0部のイソブチルアルコールとをポリエチレン製容器に仕込み、ガラスビーズを加えてペイントシェーカーにて3時間振とうした。次いで、球状亜鉛粉末として110.0部のF-2000(商品名;本荘ケミカル(株)製)を加えて、さらに5分間振とうして顔料成分を分散させた。その後、80メッシュの網を用いてガラスビーズを除去して顔料ペースト成分2を調製した。
【0132】
〔調製例2-3〕顔料ペースト成分3の調製
調製例2-2において、有機溶剤として170.0部のキシレン、10.0部の酢酸ブチルおよび10.0部のイソブチルアルコールを用いたこと以外は調製例2-2と同様にして、顔料ペースト成分3を調製した。
【0133】
〔調製例2-4〕顔料ペースト成分4の調製
調製例2-1において、鱗片状亜鉛粉末としてSTANDART Zinc flake G(商品名;ECKART GmbH製)を用いたこと以外は調製例2-1と同様にして、顔料ペースト成分4を調製した。
【0134】
〔調製例2-5〕顔料ペースト成分5の調製
調製例2-1において、鱗片状亜鉛粉末としてSTANDART Zinc flake AT(商品名;ECKART GmbH製)を用いたこと以外は調製例2-1と同様にして、顔料ペースト成分5を調製した。
【0135】
〔調製例2-6〕顔料ペースト成分6の調製
沈降防止剤として1.3部のTIXOGEL MPZ(商品名;Rockwood Clay Additives GmbH製)と、有機溶剤として6.3部のキシレン、3.1部の酢酸ブチルおよび4.1部のイソブチルアルコールとをポリエチレン製容器に仕込み、ガラスビーズを加えてペイントシェーカーにて3時間振とうした。次いで、鱗片状亜鉛粉末として20.0部のSTANDART Zinc flake GTT(商品名;ECKART GmbH製)を加えて、さらに5分間振とうして顔料成分を分散させた。その後、80メッシュの網を用いてガラスビーズを除去して顔料ペースト成分6を調製した。
【0136】
〔調製例2-7〕顔料ペースト成分7の調製
調製例2-6において、鱗片状亜鉛粉末であるSTANDART Zinc flake GTT(商品名;ECKART GmbH製)にかえて球状亜鉛粉末であるF-2000(商品名;本荘ケミカル(株)製)を用いたこと以外は調製例2-6と同様にして、顔料ペースト成分7を調製した。
【0137】
〔調製例2-8,2-9〕顔料ペースト成分8,9の調製
調製例2-6,2-7において、亜鉛粉末とともに4.0部の酸化亜鉛3種(酸化亜鉛;ハクスイテック(株)製)を加えたこと以外は前記調製例と同様にして、顔料ペースト成分8,9を調製した。
【0138】
〔調製例2-10〕顔料ペースト成分10の調製
沈降防止剤として1.5部のTIXOGEL MPZ(商品名;Rockwood Clay Additives GmbH製)と、有機溶剤として7.5部のキシレン、3.8部の酢酸ブチルおよび5.0部のイソブチルアルコールとをポリエチレン製容器に仕込み、ガラスビーズを加えてペイントシェーカーにて3時間振とうした。次いで、鱗片状亜鉛粉末として4.8部のSTANDART Zinc flake GTT(商品名;ECKART GmbH製)、球状亜鉛粉末として19.2部のF-2000(商品名;本荘ケミカル(株)製)、および導電性顔料として4.8部の酸化亜鉛3種(酸化亜鉛;ハクスイテック(株)製)を加えて、さらに5分間振とうして顔料成分を分散させた。その後、80メッシュの網を用いてガラスビーズを除去して顔料ペースト成分10を調製した。
【0139】
〔調製例2-11〕顔料ペースト成分11の調製
調製例2-10において、導電性顔料の配合量を8部に変更したこと以外は調製例2-10と同様にして、顔料ペースト成分11を調製した。
【0140】
[実施例1A?11A、比較例1A?16A]
主剤成分としてアルキルシリケートの縮合物1?6の溶液と、顔料ペースト成分として顔料ペースト成分1?5とを、縮合物1?6の溶液と顔料ペースト成分1?5中の含有成分との比率が表1A?表3A記載の割合(質量基準)にて混合し、一次防錆塗料を調製した。
【0141】
[実施例1B?2B、比較例1B?2B]
主剤成分としてアルキルシリケートの縮合物1の溶液と、顔料ペースト成分として顔料ペースト成分6?9とを、縮合物1の溶液と顔料ペースト成分6?9中の含有成分との比率が表1B記載の割合(質量基準)にて混合し、一次防錆塗料を調製した。
【0142】
[実施例1C?6C、比較例1C?4C]
主剤成分としてアルキルシリケートの縮合物1の溶液と、顔料ペースト成分として顔料ペースト成分10または11とを、縮合物1の溶液と顔料ペースト成分10または11中の含有成分との比率が表1C記載の割合(質量基準)にて混合し、一次防錆塗料を調製した。
【0143】
[実施例7C?14C]
主剤成分としてアルキルシリケートの縮合物1の溶液と、鱗片状亜鉛粉末、球状亜鉛粉末、導電性顔料、沈降防止剤および有機溶剤を含有する顔料ペースト成分とを、含有成分の比率が表2C記載の割合(質量基準)にて混合し、一次防錆塗料を調製した。顔料ペースト成分の調製は、調製例2-10に準じた。
【0144】
[実施例15C?19C、比較例5C?11C]
主剤成分としてアルキルシリケートの縮合物1の溶液と、鱗片状亜鉛粉末、球状亜鉛粉末、沈降防止剤および有機溶剤を含有する顔料ペースト成分とを、含有成分の比率が表3C記載の割合(質量基準)にて混合し、一次防錆塗料を調製した。顔料ペースト成分の調製は、調製例2-10に準じた。
【0145】
[実施例1D?4D、比較例1D?2D]
アルキルシリケートの縮合物1の溶液(縮合物1のMw=1500)を50g分取し、これを攪拌しながら、エスレックB BM-2(積水化学工業(株)製)3.1gを加えた溶液を調製した。同様にして、縮合物1を含有する溶液41.0gに対して前記「エスレック」3.8gを加えた溶液、縮合物1を含有する溶液38.0gに対して前記「エスレック」4.0gを加えた溶液をそれぞれ調製した。
【0146】
次いで、表1D記載の主剤成分と、表1D記載の配合割合で調製された顔料ペースト成分とを、各々の含有成分の比率が表1D記載の割合(質量基準)にて混合し、一次防錆塗料を調製した。
【0147】
上記各成分の詳細は、以下のとおりである。
・アルキルシリケートの縮合物1?6の溶液:調製例1で得られた各溶液(調製例1で得られた各溶液100gにおいて、アルキルシリケートの縮合物1?6のSiO_(2)換算の含有量=エチルシリケート40の質量(31.5g)×エチルシリケート40のSiO_(2)換算の質量濃度(約40質量%)=12.6g;SiO_(2)の比重=2.2g/cm^(3))
・ポリビニルブチラール樹脂:エスレックB BM-2(積水化学工業(株)製)
・鱗片状亜鉛粉末:
STANDART Zinc flake GTT(ECKART GmbH製;比重=7.1g/cm^(3);メディアン径(D50)=17μm、平均厚さ=0.7μm、アスペクト比(メディアン径/平均厚さ)=24;比表面積=1.67m^(2)/g)(D50は、(株)島津製作所製レーザー散乱回折式粒度分布測定装置「SALD 2200」を用いて3サンプルのメディアン径を測定した値の平均値である。なお、サンプルに対して、亜鉛粉末中に少量の中性洗剤を添加し5分間超音波分散することにより前処理を行った。さらに装置の循環水としてイオン交換水に中性洗剤を少量添加したものを用い、この循環水に前処理したサンプルを投入しメディアン径の測定を実施した。測定時の分散時間は1分とした。
【0148】
平均厚さは、セロハンテープ上にサンプルを付着させ、その表面を走査電子顕微鏡(SEM)「XL-30」(商品名;フィリップス社製)を用いて観察し、サンプルの厚み方向が観察方向に対し垂直となっているサンプルを無作為に30点抽出し、粒子の厚さを計測し、平均値を算出することにより求めた。比表面積は、「フローソーブII 2300」(商品名;(株)島津製作所製)を用いて測定した。
【0149】
STANDART Zinc flake G(ECKART GmbH製;比重=7.1g/cm^(3);メディアン径(D50)=8.5μm、平均厚さ=0.4μm、アスペクト比(メディアン径/平均厚さ)=21)
STANDART Zinc flake AT(ECKART GmbH製;比重=7.1g/cm^(3);メディアン径(D50)=20μm、平均厚さ=0.4μm、アスペクト比(メディアン径/平均厚さ)=50)
・球状亜鉛粉末:F-2000(本荘ケミカル(株)製;比重=7.1g/cm^(3);メディアン径(D50)=5μm;比表面積=0.54m^(2)/g)
・酸化亜鉛:酸化亜鉛3種(ハクスイテック(株)製)
・沈降防止剤:TIXOGEL MPZ
(Rockwood Clay Additives GmbH製;比重=1.7g/cm^(3))
〔顔料体積濃度(PVC)の算出〕
PVCの算出の一例(実施例1A)をあげると、以下のとおりである。
【0150】
【数2】

【0151】
〔評価方法・評価基準〕
従来の一次防錆塗料(比較例13Aの塗料)からなる塗膜の平均乾燥膜厚が15μmとなるようにライン塗装機(装置名:SP用コンベア塗装機、竹内工作所(株)製)のライン条件(ライン速度:10m/min、塗装圧力:0.2Mpa)を調整した。このライン条件で、実施例および比較例で得られた一次防錆塗料を用いて、以下の(1)?(3)に記載した条件に基づき試験板を作成し、以下の(1)?(3)に記載した評価を行った。
【0152】
(1)一次防錆塗膜の防錆性(発錆・白錆)
サンドブラスト処理板(JIS G3101,SS400、寸法:150mm×70mm×2.3mm)のブラスト処理面に、ライン塗装機を用いて一次防錆塗料を塗装した。次いで、JIS K5600 1-6の規格に従い、温度23℃、相対湿度50%の恒温室内で1週間乾燥させて、一次防錆塗膜と前記処理板とからなる試験板を作成した。下記表には、この一次防錆塗膜の平均乾燥膜厚を記載した。平均乾燥膜厚は、電磁式膜厚計「LE-370」(商品名;(株)ケット科学研究所製)を用いて測定した。
【0153】
また、800℃加熱後の防錆性評価用の試験板は、上記と同様にして作成した試験板を、マッフル炉「FM48」(商品名;ヤマト科学(株)製)にて800℃で3分加熱したものを用いた。
【0154】
この試験板を屋外暴露台(中国塗料(株)大竹研究所敷地内)に設置し、2ヶ月間または3ヶ月間放置した。ここで、試験板は、試験板の塗装面が南側を向き、かつ、試験板が水平に対して45度となるように傾いた状態で固定されている。
【0155】
2ヶ月間または3ヶ月間放置後の試験板全面に対する、発錆した試験板表面および白錆が形成された試験板表面の面積比率(%)を測定して、発錆の状態および白錆の発生状態を評価した。評価基準は下記のとおりである。
【0156】
[発錆の状態の評価基準(ASTM D610)]
10:発錆を認めない、または発錆の面積比率は0.01%以下
9:極僅かな発錆、または発錆の面積比率は0.01%を超え0.03%以下
8:僅かな発錆、または発錆の面積比率は0.03%を超え0.1%以下
7:発錆の面積比率は0.1%を超え0.3%以下
6:明瞭な点錆、または発錆の面積比率は0.3%を超え1%以下
5:発錆の面積比率は1%を超え3%以下
4:発錆の面積比率は3%を超え10%以下
3:発錆の面積比率は10%を超え1/6(16%)以下
2:発錆の面積比率は1/6(16%)を超え1/3(33%)以下
1:発錆の面積比率は1/3(33%)を超え1/2(50%)以下
0:発錆の面積比率はほぼ1/2(50%)を超え100%まで
[白錆の発生状態の評価基準]
10:白錆を認めない、または白錆の面積比率は0.01%以下
9:極僅かな白錆、または白錆の面積比率は0.01%を超え0.03%以下
8:僅かな白錆、または白錆の面積比率は0.03%を超え0.1%以下
7:白錆の面積比率は0.1%を超え0.3%以下
6:明瞭な白錆の点、または白錆の面積比率は0.3%を超え1%以下
5:白錆の面積比率は1%を超え3%以下
4:白錆の面積比率は3%を超え10%以下
3:白錆の面積比率は10%を超え1/6(16%)以下
2:白錆の面積比率は1/6(16%)を超え1/3(33%)以下
1:白錆の面積比率は1/3(33%)を超え1/2(50%)以下
0:白錆の面積比率はほぼ1/2(50%)を超え100%まで
(2)上塗り塗膜の付着性
サンドブラスト処理板(JIS G3101,SS400、寸法:150mm×70mm×2.3mm)のブラスト処理面に、ライン塗装機を用いて一次防錆塗料を塗装した。次いで、JIS K5600 1-6の規格に従い、温度23℃、相対湿度50%の恒温室内で1週間放置して、下記表記載の平均乾燥膜厚を有する一次防錆塗膜を形成した。この一次防錆塗膜上に、ハイソリッドのエポキシ塗料(商品名:ノバ2000、中国塗料(株)製)をエアスプレーガンで塗装した後、1週間放置して膜厚320μmの硬化塗膜(上塗り塗膜)を形成した。
【0157】
上塗り塗膜の表面に直径16mm(面積2cm^(2))、長さが20mmの軟鋼製の円筒形治具の底面をエポキシ系の接着剤で貼り付けて24時間放置した後、プルゲージ(モトフジ製)で治具の頭部を上塗り塗膜表面の垂直方向に引っ張り、治具を上塗り塗膜表面から剥離して、付着強度(凝集破壊および/または界面剥離に要した力)を測定した。
【0158】
(3)溶接性試験
2枚のサンドブラスト処理板(JIS G3101,SS400、下板寸法:600mm×100mm×12mm、上板寸法:600mm×50mm×12mm)の表面に、ライン塗装機を用いて一次防錆塗料を塗装した。次いで、JIS K5600 1-6の規格に従い、温度23℃、相対湿度50%の恒温室内で1週間乾燥させて、下記表記載の平均乾燥膜厚を有する、図1(a)に示されるような上板および下板を準備した。図1(a)?(c)において、サンドブラスト処理板のうちの密な斜線部は塗装箇所を示す。
【0159】
次いで、炭酸ガス自動アーク溶接法により、図2(a)?(c)に示されるように、所定のトーチ角度およびトーチシフトを保ちつつ、上板と下板とを両層(初層側、終層側)同時に溶接した。このときの溶接条件を表2に示す。
【0160】
【表2】

【0161】
次いで、溶接性は次のように評価した。
【0162】
まず、溶接部のうち、溶接前の仮付け部を含む溶接始端部および終端部の長さ各50mmの範囲を除く長さ500mmの範囲に発生したピット数(個)およびガス溝長さ(mm)を確認した。さらに、表2に記載の溶接条件に基づいて、初層側の溶接線にレーザーノッチ(V字型カット)を入れ、終層側の溶接部を溶接線に沿ってプレスで破断し、破断面に発生しているブローホールの合計面積(ブローホールの幅×長さ×個数)を評価面積で割り、ブローホール発生率(%)を算出した。
【0163】
【表1A】

【0164】
【表2A】

【0165】
【表3A】

【0166】
〔実施例・比較例評価〕
表1A?表3Aより、以下の点が示される。
【0167】
平均乾燥膜厚は、PVCが60%以下の場合は10μm以下であったのに対して、PVCが65%以上の場合(比較例7A?13A)は10μmを超えた。すなわちPVCを60%以下に設定することで、従来の塗装条件でも10μm以下の塗膜が得られることが判明した。
【0168】
発錆防止性は、PVCが35%以上の場合は良好であったのに対して、PVCが30%以下の場合(比較例1A?6A)は不良であった。従来の一次防錆塗料を平均乾燥膜厚が8μmとなるよう塗装して得られた試験片の場合(比較例14A)、発錆防止性が劣り、不良であった。アルキルシリケートの縮合物2、3を含有する一次防錆塗料の場合(比較例15A、16A)、発錆防止性が不良であった。
【0169】
上塗り性については、PVCが60%以下の場合、付着強度が2.4MPa以上となり充分な強度であったのに対して、PVCが65%以上の場合(比較例7A?12A)、付着強度が1.0MPa以下となり不充分な強度であった。
【0170】
溶接性については、PVCが60%以下の場合、ブローホール発生率が10%以下で良好であったのに対して、PVCが65%以上の場合(比較例7A?14A)、ブローホール発生率が10%を超え不良であった。アルキルシリケートの縮合物3を含有する一次防錆塗料の場合(比較例16A)、ブローホール発生率が10%を超え不良であった。
【0171】
【表1B】

【0172】
〔実施例・比較例評価〕
表1Bより、以下の点が示される。
【0173】
球状亜鉛粉末とともに導電性顔料を用いた場合の発錆防止性の評価は3であり、導電性顔料を用いない場合(評価3)と比べて特に向上しなかった。一方、鱗片状亜鉛粉末とともに導電性顔料を用いた場合の発錆防止性の評価は10であり、導電性顔料を用いない場合(評価9)と比べて向上した。
【0174】
【表1C】

【0175】
【表2C】

【0176】
【表3C】

【0177】
【表4C】

【0178】
〔実施例・比較例評価〕
表1Cより、鱗片状亜鉛粉末および球状亜鉛粉末の併用系において、発錆防止性については、PVCが35%以上の場合は良好であったのに対して、PVCが35%未満の場合は不良であり;溶接性については、PVCが60%以下の場合、ブローホール発生率が10%以下で良好であったのに対して、PVCが60%を超える場合、ブローホール発生率が10%を超え不良であった。
【0179】
表2Cおよび表3Cより、鱗片状亜鉛粉末および球状亜鉛粉末の使用割合を変動させた場合においても、PVCが35?60%にあれば、塗膜特性および溶接性の評価で良好な結果が得られた。
【0180】
表4Cの実施例18C,2Cの対比および実施例19C,3Cの対比より、鱗片状亜鉛粉末および球状亜鉛粉末の併用系において、さらに導電性顔料を用いると、発錆防止性および溶接性がさらに向上した。
【0181】
【表1D】

【0182】
〔実施例・比較例評価〕
表1Dより、以下の点が示される。
【0183】
亜鉛末(B)とSiO_(2)換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((B)/(A))が1.0?5.0の範囲にある場合、塗膜特性および溶接性の評価で良好な結果が得られた。一方、前記質量比が1.0未満の場合、発錆防止性が不良であり、前記質量比が5.0を超える場合、ブローホール発生率が10%を超え不良であった。
【符号の説明】
【0184】
10・・・サンドブラスト処理板(下板)
20・・・サンドブラスト処理板(上板)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1000?6000であり、アルキルシリケートの縮合物であるシロキサン系結合剤と、
(B)鱗片状亜鉛系粉末(b-1)を含む亜鉛末と
を含有し、
顔料体積濃度(PVC)が35?60%であり、かつ、亜鉛末(B)とSiO_(2)換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((B)/(A))が1.0?5.0であることを特徴とする一次防錆塗料組成物。
【請求項2】
亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の含有量が15質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の一次防錆塗料組成物。
【請求項3】
鱗片状亜鉛系粉末(b-1)とSiO_(2)換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((b-1)/(A))が1.0?5.0であることを特徴とする請求項1または2に記載の一次防錆塗料組成物。
【請求項4】
亜鉛末(B)として、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)とともに球状亜鉛系粉末(b-2)をさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載の一次防錆塗料組成物。
【請求項5】
亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b-1)の含有量が15?90質量%であり、球状亜鉛系粉末(b-2)の含有量が10?85質量%であることを特徴とする請求項4に記載の一次防錆塗料組成物。
【請求項6】
さらに導電性顔料(C)を含有する
ことを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物。
【請求項7】
導電性顔料(C)が、酸化亜鉛であることを特徴とする請求項6に記載の一次防錆塗料組成物。
【請求項8】
鱗片状亜鉛系粉末(b-1)が、鱗片状亜鉛粉末および鱗片状亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物。
【請求項9】
鱗片状亜鉛系粉末(b-1)のメディアン径(D50)が30μm以下であり、かつ平均厚さが1μm以下であることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物。
【請求項10】
シロキサン系結合剤(A)の含有量が、全組成物の8?40質量%であることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物。
【請求項11】
請求項1?10のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物から形成された一次防錆塗膜であって、平均乾燥膜厚が10μm以下である一次防錆塗膜。
【請求項12】
基板と、前記基板表面に形成された、請求項1?10のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物からなる塗膜とを有することを特徴とする一次防錆塗膜付き基板。
【請求項13】
基板表面に、請求項1?10のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物を塗装する工程、および塗装された前記塗料組成物を硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程を有することを特徴とする基板の防錆方法。
【請求項14】
基板表面に、請求項1?10のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物を塗装する工程、および塗装された前記塗料組成物を硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程を有することを特徴とする一次防錆塗膜付き基板の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-06-20 
出願番号 特願2014-525868(P2014-525868)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09D)
P 1 651・ 113- YAA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 邦久  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 原 賢一
天野 宏樹
登録日 2016-03-25 
登録番号 特許第5905097号(P5905097)
権利者 中国塗料株式会社
発明の名称 一次防錆塗料組成物およびその用途  
代理人 特許業務法人SSINPAT  
代理人 特許業務法人SSINPAT  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 醍醐 美知子  

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