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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  F16B
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  F16B
審判 全部申し立て 2項進歩性  F16B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F16B
管理番号 1331213
異議申立番号 異議2016-701020  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-27 
確定日 2017-07-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5909747号発明「軟質金属用セルフタップねじ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5909747号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第5909747号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。 特許第5909747号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5909747号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成26年7月28日に特許出願され、平成28年4月8日にその特許権の設定登録がされ、その後、同年10月27日に、本件特許について、特許異議申立人山崎浩一郎(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、平成29年1月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間である同年3月30日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、その訂正の請求に対して異議申立人から同年5月19日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)?(4)のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の末尾部分に「複数組形成したことを特徴とする軟質金属用セルフタップねじ。」とあるのを、「複数組形成し、かつ、前記変径部の最小径が、その位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲にあることを特徴とする軟質金属用セルフタップねじ。」に訂正する。(下線は、特許権者が付与した。以下同様。)

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3及び請求項4を、訂正された請求項1を引用したものとする。

(4) 訂正事項4
願書に添付した明細書の【0008】の末尾部分に「複数組形成したことを特徴とするものである。」とあるのを、「複数組形成し、かつ、前記変径部の最小径が、その位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲にあることを特徴とするものである。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に関連する事項として、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「特許明細書等」という。)の特許請求の範囲の請求項2に「変径部の最小径が、その位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の軟質金属用セルフタップねじ。」と記載されているから、「前記変径部の最小径が、その位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲にある」との事項は、特許明細書等に記載されているものと認められる。
そして、訂正事項1は、特許明細書等に記載された事項の範囲内において、変径部について、その最小径を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、請求項3及び請求項4を、訂正された請求項1を引用したものとすることにより、結果として、訂正事項1と同じ事項を請求項3及び請求項4に限定するものであるから、訂正事項1と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4) 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るために、明細書の段落【0008】の記載を訂正するもので、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

そして、これらの訂正事項1?4は、一群の請求項に対して請求されたものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1、3、4に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明3」、「本件発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、3、4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
軸部の先端にテーパ状の縮径部を備え、この縮径部を軟質金属に形成された下穴に挿入してねじ込むことにより下穴にめねじを形成して行くセルフタップねじであって、
軸部と縮径部には同一ピッチのおねじが連続的に形成されており、
縮径部のおねじのねじ山部には、ねじ込み回転時に後側となる位置に段差部を持つ最大径部と、この段差部から隣接する最大径部に向かって徐々に径を増加させた変径部とを、複数組形成し、かつ、前記変径部の最小径が、その位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲にあることを特徴とする軟質金属用セルフタップねじ。
【請求項3】
前記複数組の組数が3?8であることを特徴とする請求項1に記載の軟質金属用セルフタップねじ。
【請求項4】
おねじのねじ山角を15°?45°としたことを特徴とする請求項1に記載の軟質金属用セルフタップねじ。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?4に係る特許に対して平成29年1月25日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件特許の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
刊行物1:特許第4520771号公報(異議申立人提出の甲第2号証)
刊行物2:特許第4219247号公報(同甲第1号証)
刊行物3:特開2004-162906号公報(同甲第3号証)

3 各刊行物の記載
(1) 刊行物1(特許第4520771号公報、異議申立人提出の甲第2号証)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は緩み防止用のタッピングねじに関し、例えば携帯電話機、デジタルカメラ、液晶テレビ、プラズマテレビ、パーソナルコンピュータ等の各種電子機器、複写機、プリンター等の事務用機器等に最適に使用でき、雄ねじのねじ込みトルクを極端に高くせずに、螺入操作が軽快にかつ容易に行え、しかも取付後の締付け力が大きく、緩みを確実に防止するものである。 ・・・(後略)」

イ 「【0010】
本発明は上記従来の欠点を解決し、タッピング性に優れ、雄ねじを雌ねじに螺入する時の締め付け、固定操作が簡便に、しかも円滑かつ迅速に行え、操作性が向上され、そして、雄ねじの螺入時、または螺退時に、切粉の発生が少なく、さらには、雄ねじの締付け、固定後の緩み防止機能が優れた緩み防止用のタッピングねじを提供することを目的とする。 ・・・(後略)」

ウ 「【0019】
本実施形態1の雄ねじ1は、ねじ頭部側2の外周の大部分に略等径の山頂径D1の雄ねじ山3が形成された第1区域ねじ山部Aと、ねじ先端部側4に前記第1区域ねじ山部Aに連続して形成される第2区域ねじ山部Bとにより成り、(イ)前記第2区域ねじ山部Bが、下面から見て任意複数に分周する位置に螺旋のリードの軌跡上に外径が谷底6に略位置する始端部7から山頂8に位置する終端部9まで増大して形成され、且つ、(ロ)前記第2区域ねじ山部Bの外容積が前記始端部7から前記終端部9まで増大されて前記第1区域ねじ山部Aよりも僅かに大径な山頂径D2のタッピングねじ部5を形成し、前記終端部9が、中心Oに向かう垂直面部10に形成されていることを特徴とする。
【0020】
B1は前記第2区域ねじ山部Bのねじ先端部側4に形成された導入雄ねじ部であり、この導入雄ねじ部B1は前記第1区域ねじ山部Aよりも小径D3,D′3な山頂8′に前記タッピングねじ部5に連続するように形成されている。
また、この導入雄ねじ部B1も、前記タッピングねじ部5と同様に、雄ねじ1を下面から見て3分周する位置に、螺旋のリードの軌跡上にねじ山部の外径が谷底6に略位置する始端部7′から山頂8′に位置する終端部9′まで増大して形成され、且つねじ山部の外容積が前記始端部7′から前記終端部9′まで増大されて数条、図では2条が形成され、前記終端部9′が中心Oに向かう垂直面部10′に形成されている。
【0021】
また、図5、図6に示すように、前記雄ねじ山3の角度θをねじ軸Nと垂直な線Pで分割した時、雄ねじ1の締付け方向前側の角度αを雌ねじ20のねじ軸Nと垂直な線P′で分割した後側の角度β′と略同一にすると共に、雄ねじ1の締付方向後側の角度βを前側の角度αより小さくすることにより、前記第1区域ねじ山部Aの雄ねじ山3が、雄ねじ1の山頂部8″の後端部を雌ねじ20に螺入してタッピングしながら食い込ますように構成し、雄ねじ1の緩みが防止される。
【0022】
また、前記タッピングねじ部5により形成される前記雌ねじ20の谷径D4と、雄ねじ1としての前記第1区域ねじ山部Aの雄ねじ山3の山頂径D1、および前記第2区域ねじ山部Bのタッピングねじ部5の山頂径D2とが同径に形成されているか、または、前記雌ねじ20の谷径D4と、雄ねじ1としての前記第1区域ねじ山部Aの雄ねじ山3の山頂径D1、および前記第2区域ねじ山部Bのタッピングねじ部5の山頂径D2とが公差を極めて小さくするように形成されている。
【0023】
本発明の実施形態1は以上の構成からなり、雄ねじ1が、ねじ頭部側2の外周の大部分に略等径の山頂径D1の雄ねじ山3を形成した第1区域ねじ山部Aと、ねじ先端部側4には前記第1区域ねじ山部Aよりも僅かに大径な山頂径D2の所望数条のタッピングねじ部5よりなる第2区域ねじ山部Bとにより形成されるので、雄ねじ1を例えば金属板や摩擦抵抗が小さいプラスチック板に設けた目立てをしていない下孔20A内に螺入して行くと、ねじ頭部側2の外周の大部分に略等径の山頂径D1に設けた第1区域ねじ山部Aの雄ねじ山3に対してねじ先端部側4に所望数条、図1、図2では2条を形成した第2区域ねじ山部Bの僅かに大径な山頂径D2のタッピングねじ部5によりタッピングされながら被取付部材には雌ねじ20が形成されて行く。
【0024】
この際、雄ねじ1の先端部側4に設けた前記第2区域ねじ山部Bが、下面から見て任意複数、例えば図4では省略された様式で表示されているが、雄ねじ1を下面から見て3分周する位置に、螺旋のリードの軌跡上に外径が谷底6に略位置する始端部7′から山頂8′に位置する終端部9′まで増大して形成され、且つ、前記第2区域ねじ山部Bの外容積が、前記始端部7′から前記終端部9′まで増大された導入雄ねじ部B1が数条、図1、図2では2条が雄ねじ1の先端部側4に前記タッピングねじ部5に連続して形成され、しかも、この導入雄ねじ部B1は、前記第1区域ねじ山部Aの雄ねじ山3よりも小径D3,D′3に形成されるので、前述のように例えば目立てをしていない下孔20A内に雄ねじ1を螺入して行く当初の前記タッピングねじ部5による雌ねじ20のタッピング操作をねじ軸Nが偏ることなく円滑かつ確実に行うことができる。
【0025】
次いで、雄ねじ1のねじ先端部側4に形成した大径な山頂径D2の所望数条のタッピングねじ部5よりも小径にねじ頭部側2の外周の大部分に形成した略等径の山頂径D1の雄ねじ山3が、タッピングねじ5によりタッピングされた雌ねじ20内を螺入されて行く。
【0026】
そして、大径な山頂径D2の所望数条のタッピングねじ部5によりタッピングして形成された雌ねじ20内に、山頂径D2をなす大径なタッピングねじ部5よりも後段のねじ頭部側2の外周の大部分に略等径の山頂径D1に形成した小径の雄ねじ山3が後続して螺入して行くので、雌ねじ20内の雄ねじ1の螺入操作は摩耗による抵抗が小さく、ねじ込みトルクが小さくなり、軽快に迅速かつ円滑に行うことができる。しかも、切粉の発生が少なくなり、雌ねじ20内の雄ねじ1の螺入操作は円滑かつ確実に行うことができる。
【0027】
また、前述のようにねじ先端部側4に形成された第2区域ねじ山部Bのタッピングねじ部5および導入雄ねじ部B1が、例えば図4に示すように下面から見て3分周する位置に螺旋のリードの軌跡上に谷底6に略位置する始端部7,7′から山頂8,8′に位置する終端部9,9′まで外径が増大するように形成され、且つ、第2区域ねじ山部Bのタッピングねじ部5および導入雄ねじ部B1の外容積が、前記始端部7,7′から前記終端部9,9′まで増大するように2条の少ない条数が形成され、しかも前記終端部9,9′が、中心Oに向かう垂直面部10,10′に形成されているので、下孔20A内に雄ねじ1を螺入する時に、第2区域ねじ山部Bの大径の山頂径D2のタッピングねじ部5によるタッピング操作時に発生される切粉は、中心Oに向かう先行する終端部9,9′と2番取りとなる後続の始端部7,7′との間に下面から見て放射状に形成される3個の凹所部Q,Q′に導入されながら雌ねじ20の下部へと速やかに排出される結果、切粉による抵抗が少なく螺入操作を円滑かつ確実に行うことができる。
・・・(中略)・・・
【0032】
また、本発明の実施形態1の雄ねじ1は、前述のように、ねじ先端部側4に所望数条のタッピングねじ部5よりなる第2区域雄ねじ山部Bにより雌ねじ20をタッピングすることにより形成し、該雌ねじ20内に、ねじ頭部側2の外周の大部分に前記タッピングねじ部5よりも僅かに小径をなして略等径の山頂径D1に形成した第1区域ねじ山部Aの雄ねじ山3がタッピングされながら螺入されて行くことにより、タッピングねじの略全長に亘る2段階のタッピング機能が発揮されるので、工具の加工精度を常時、高く保つことによって初めて雌ねじ20と、雄ねじ1との加工精度を厳しい公差にて製作できるのとは異なり、工具の使用頻度に伴う摩耗状況の高低に拘わらずにタッピングねじ部5により一端タッピングされた雌ねじ20内に常時、緩みが防止される状態で雄ねじ1を螺入することができる。しかも、雌ねじ20内に螺入した雄ねじ1を雌ねじ20から螺退し、再び雌ねじ20内に雄ねじ1を容易かつ確実に何度となく螺入して緩みを防止することができる。
【0033】
この結果、例えば携帯電話機、デジタルカメラ、液晶テレビ、プラズマテレビ、コンピュータ等の各種電子機器、複写機、プリンター等の事務用機器において、コンパクト化、薄形化、軽量化のために、アルミ板のように板厚が極度に薄い金属板や摩擦抵抗が小さいプラスチックにより形成されるシャーシ、ボディ等の被取付個所へ雄ねじ1をねじ込み、固定するのに、緩み防止機能が有効に発揮され、使用するのに適する。
【0034】
また、図9乃至図11は本発明の実施形態2を示し、この実施形態2では、雄ねじ1が、ねじ頭部側2の外周の大部分に略等径の山頂径D1の雄ねじ山3を形成した第1区域ねじ山部Aと、ねじ先端部側4に前記第1区域ねじ山部Aに連続して形成される第2区域ねじ山部Bとにより成り、(イ)前記第2区域ねじ山部A(当審注:「B」の誤記)が、下面から見て任意複数に分周する位置に螺旋のリードの軌跡上に外径が谷底6に略位置する始端部7から山頂8に位置する終端部9まで増大して形成され、且つ、(ロ)前記第2区域ねじ山部A(当審注:「B」の誤記)の外容積が前記始端部7から前記終端部9まで増大されて前記第1区域ねじ山部Aよりも僅かに大径の山頂径D2のタッピングねじ部5を形成し、前記終端部9が、中心Oに向かう垂直面部10に形成された点については前記実施形態1と同様の構成、作用であるが、この実施形態1(当審注:「2」の誤記)では、雄ねじ1をスタッド本体30の下孔31内に螺入することにより形成される雌ねじ4を有することを特徴とした取付スタッドである点が前記実施形態1と異なる構成である。
【0035】
そして、この実施形態2では、コンパクト化、薄形化、軽量化のために、板厚が極度に薄いアルミ板等の金属板や摩擦抵抗が小さいプラスチックにて形成されるシャーシ、ボディ等の被取付個所に雄ねじ1を螺入する場合に使用され、しかも、コンデンサ等の高電圧発熱源が内蔵されて設計上、放熱のための通路を確保しなければないというような特に、液晶テレビ、プラズマテレビのような電子機器や複写機、プリンター等の事務用機器に最適に使用される。」

エ 「【0042】
本発明の緩み防止用のタッピングねじは、雄ねじを雌ねじに螺入する時の締め付け、固定操作が簡便に、しかも円滑かつ迅速に行え、操作性が向上され、そして、雄ねじの螺入時、または螺退時に切粉の発生が少なく、さらには、雄ねじの締付け、固定後の緩み防止機能が優れた用途・機能に適する。 ・・・(後略)」

オ 刊行物1の図1、図2、及び図9?図11からみて、雄ねじ山3及びタッピングねじ部5の先端にテーパ状の導入雄ねじ部B1を備えており、導入雄ねじ部B1には山頂8′が徐々に低くなるねじ山部が形成されていることが看取される。

上記の各記載事項及び図面の記載を総合し、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、緩み防止用のタッピングねじに関して、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「雄ねじ山3及びタッピングねじ部5の先端にテーパ状の導入雄ねじ部B1を備え、この導入雄ねじ部B1をアルミ板等の金属板に形成された下孔20Aに挿入してねじ込むことにより下孔20Aに雌ねじを形成して行くタッピングねじであって、
導入雄ねじ部B1には山頂8′が徐々に低くなるねじ山部が形成されており、
導入雄ねじ部B1のねじ山部には、ねじ込み回転時に後側となる位置に垂直面部10′を持つ最大径部と、始端部7′から終端部9′に向かって徐々に径を増加させた部分とを、3組形成し、かつ、始端部7′が谷底6に略位置する、アルミ板等の金属板用のタッピングねじ。」

(2) 刊行物2(特許第4219247号公報、異議申立人提出の甲第1号証)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、小さいねじ込みトルクで、被取付部材の下穴に効率よく的確にねじ込んでいくことができるタッピンねじを提供することを目的とする。 ・・・(後略)」

イ 「【0011】
本発明に係るタッピンねじでは、軸部を構成する定径部及び縮径部の外周面に形成されたねじ山外形を、少なくとも前記縮径部のネジ山頂部に、ねじ山の周方向に対して複数の切り欠きを形成したので、ねじ外形が円形のものに比べ、被取付部材の下穴に食い付くねじ山の接触面積を小さくすることができ、それによって下穴へのタッピンねじのねじ込みトルクを小さくできる。また、縮径部から定径部の一部に渡る範囲においてのネジ山頂部に、ねじ山の周方向に対して複数の切り欠きを形成することにより、上記効果に加え、縮径部を下穴にねじ込んだ後、定径部の締め付けに先立って、定径部と同一径の雌ねじを下穴に予め切っておくことができるので、定径部の締め付けを容易に行うことができるという効果が得られる。さらに、ねじ山頂部に複数の切り欠きを形成し、当該切り欠きの周縁部に、タッピンねじの回転方向に対して略垂直に交わる立て壁と、この立て壁におけるねじ山の径方向外側端部から周方向に沿う刃部とを形成することによって、被取付部材の下穴に対するねじ山の食い付き性を向上でき、被取付部材の下穴に確実に雌ねじを形成することができる。」

ウ 「【0013】
以下、本発明を具体化したタッピンねじの実施形態について、図1?3を参照して説明する。ここで、本実施の形態のタッピンねじは、図示外の鋼板等の被取付部材に穿設された下穴にねじ込まれることによって、その下穴に雌ねじを形成しながら被取付部材に締め付けられるものである。まず、図1を参照して、タッピンねじ30の全体構造について説明する。図1に示すように、タッピンねじ30は、六角柱形状の頭部32と、当該頭部32の下側面32aから下方に延びた軸部33とから構成されており、頭部32、軸部33共に共通の軸心に沿って延びている。また、頭部32は、工具等によるトルクをタッピンねじ30に伝達するトルク伝達部となっている。
【0014】
軸部33は、頭部32から延出した円柱状の定径部33aと、当該定径部33aの先端から、頭部32の反対方向に向かって徐々に縮径しながら延びた円錐台状の縮径部33bとから構成されている。定径部33aは、その基端部から先端部まで一定の径を有する円柱形状で、縮径部33bは、定径部33aの先端部と同一径の基端部を備え、そこから自身先端部に向かって徐々に縮径した円錐台形状となっている。尚、縮径部33bは、定径部33aに対して、10°前後のテーパ角度をもって縮径している。
【0015】
また、図1及び図2に示すように、定径部33aの基端近傍から縮径部33bの先端までの範囲に渡って、その外周面には所定ピッチのねじ山40が連続して形成されている。尚、定径部33aの基端部には、ねじが切られていない首下部39が形成されており、ねじ山40は、首下部39を除く軸部33の外周面を螺旋状に周回している。ねじ山40は、縮径部33bの基端から先端までの範囲、及び定径部33aの先端から頭部32方向に向かって自身2ピッチ分までの範囲に渡って、その頂部41に切り欠き45が形成されている。図2に示すように、ねじ山40を底面側から見ると、その頂部41に複数の切り欠き45が軸部33の周方向に対して均等に位置するように形成されている。詳しくは、切り欠き45は、1つの(1ピッチ分の)ねじ山40においてその円周方向に沿って90°の間隔を空けて、均等に4つ配設されている。そして、タッピンねじ30を底面視したとき、図中奥行き方向に向かって、それぞれねじ山40の中心から放射状に延びる一直線上に複数の切り欠き45が並んだ状態となっている。
【0016】
次に、図3を参照して、頂部に切り欠き45が形成されたねじ山40の外形形状について詳細に説明する。ここで、図3は、ねじ山40の外形を模式的に示す底面図である。図3に示すように、切り欠き45が形成されたねじ山40をタッピンねじ30の底面側から見ると、ねじ山40は、真円を4つの均等な扇形領域に分け、各領域の周縁部をそれぞれ切り欠き45によって半三日月型に切り欠いた形状となっており、全体として略風車型形状となっている。詳細には、切り欠き45は、1つの扇形領域において、そのタッピンねじ30の回転方向とは反対方向(図中時計回り方向)側端部からタッピンねじ30の回転方向(図中反時計回り方向)側端部に向かい、円周方向に沿って徐々に先細りとなった半三日月型形状となっている。この半三日月形状の切り欠き45は、各扇形領域において、タッピンねじ30の回転方向とは反対方向側端部で所定幅を有しており、そこから前記回転方向に向かって徐々に狭窄し、回転方向側端部近傍にて最終的に1点に収束した形状となっている。
【0017】
上述のように、各扇形領域において、切り欠き45はそのタッピンねじ30の回転方向とは反対方向側端部で所定幅を有しているが、該部分の周縁部には、タッピンねじ30の回転方向と直交する立て壁60が形成されている。また、ねじ山40の中心部を中心Oとして、該中心Oと立て壁60の径方向外側端部(以下、「先端部」という。)とを結んだ線分を半径に持つ円C(図中2点鎖線で示す)を仮想的に描いたとき、その立て壁60先端部から円Cの周上の一部に沿って、ねじ山40の径方向の最も外側に位置し、タッピンねじ30の被取付部材に穿設された下穴周面(図示外)にねじを形成するための刃部65が形成されている。立て壁60は、タッピンねじ30の回転方向に対して直交していると共に、その表面が常に前記回転方向を向いた状態となっており、刃部65は、立て壁60先端部からタッピンねじ30の回転方向と反対方向に向かって、円Cの周上の一部に沿って20°の範囲に渡って形成されている。
【0018】
立て壁60の先端と20°の間隔を空けて、刃部65の立て壁60とは反対側の端部からは、円弧状の接続面66がタッピンねじ30の回転方向とは反対方向に向かって延びている。接続面66は、刃部65の立て壁60とは反対側の端部と、この立て壁60からタッピンねじ30の回転方向とは反対方向に90°進んだ位置に形成されている次の(隣の)立て壁60とを連結する滑らかな円弧面であり、次の立て壁60の径方向内側端部に連結されている。そして、縮径部33bの基端から先端までの範囲、及び定径部33aの先端から頭部32方向に向かってねじ山40の2ピッチ分までの範囲に渡り、螺旋状のねじ山40頂部41に沿ってこのように複数の切り欠き45が形成されている。ここで、本実施形態のタッピンねじ30は、ねじ成形用のダイスの一部にねじ山40に切り欠き45を形成するための入れ子を入れて転造加工にて製造することが可能である。これにより、立て壁60の先端部はだれることなく尖鋭な形状となり、先端部が尖鋭な形状となることで、タッピンねじ30の被取り付け部材への食い付き性を向上できる。尚、入れ子の数を調整することで切り欠きの数を簡単に増減させることができる。
【0019】
以上説明したように、本実施の形態のタッピンねじ30では、軸部33の先端から軸方向に沿った所定の範囲において、軸部33を螺旋状に周回するねじ山40に、軸部33の周方向に対して均等に位置する切り欠き45が形成されており、切り欠き45の周縁部に形成された刃部65が、ねじ山40の径方向最も外側に位置しているので、タッピンねじ30を被取付部材に穿設された下穴にねじ込んでいく際、刃部65によって下穴の周面に的確にねじを切っていくことができる。また、刃部65を20°という所定の範囲に渡って形成したことにより、ねじ山40の被取付部材の下穴への接触面積を小さくすることができ、それによって下穴へのタッピンねじ30のねじ込みトルクを小さくできる。さらに、切り欠き45周縁部の立て壁60は、タッピンねじ30の回転方向に対して直交していると共に、その表面が常に前記回転方向を向いた状態となっており、タッピンねじ30の回転に伴って、刃部65のみならず立て壁60の一部も前記下穴の周面に当たることができるので、ねじ山40の下穴への食い付き性を向上でき、より効率よく下穴周面に雌ねじを形成していくことができる。加えて、切り欠き45は、ねじ山40の周方向に対して均等に位置するように複数形成されているので、下穴周面に精度よく雌ねじを形成することができる。」

(3) 刊行物3(特開2004-162906号公報、異議申立人提出の甲第3号証)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0017】
図1に示すように、非対称に延長するねじ山を備えるセルフタッピンネジ1は、、ネジ頭部2とネジ軸3とを有する。ネジ軸3は、ネジ頭部2に遠い側の前部領域4と、ネジ頭部2に近い側の後部領域5を含み、両領域は符号6で識別される変向点において合体する。後部領域5において、ねじ山は実質的に円柱形の外径に沿い、前部領域4において、ねじ山の外径は減少し、ねじ山は実質的に円錐形に沿うコースとなる。」

イ 「【0024】
図2aは、ねじ山がネジ先端側に向く後部領域5に関するものである。ここで後部領域5のねじ山のフランク角αは45°である。さらに、1つのねじ山について、図2aはフランク角αの二等分線9を示す。ここで、その二等分線のねじ山の基底軸10の軸方向コースに対する傾斜角βは約82°である。
【0025】
図2bに示すように、図1に示すネジ軸3のねじ山の前部領域4は、原則的には図2aに示す後部領域5のねじ山断面に相当する。しかし、外径は軸方向に減少する円錐形である。図2bの二等分線9の角は、図2aと同じ角βである。この角はいずれもねじ山の基底軸10の軸方向コースにより規定される。前部領域4のねじ山基底軸は円錐形である。前部領域4のフランク角αは後部領域5のフランク角αに等しい。特に、薄いシートメタルに適用する場合、前部領域4において、リアフランクの傾斜をより平らにしてフランク角αをより大きくすることができる。これは図3a及び図3bのねじ山にも適用することができる。」

4 判断
(1) 取消理由通知に記載した取消理由について
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「タッピングねじ」は、本件発明1の「セルフタップねじ」に相当する。
以下同様に、「雄ねじ山3及びタッピングねじ部5」は、「軸部」に、
「導入雄ねじ部B1」は、山頂8′が徐々に低くなるねじ山部が形成されているから「縮径部」に、
「アルミ板等の金属板」は、「軟質金属」に、
「下孔20A」は、「下穴」に、
「雌ねじ」は、「めねじ」に、
「導入雄ねじ部B1のねじ山部」は、「縮径部のおねじのねじ山部」に、
「垂直面部10′」は、「段差部」に、
「始端部7′から終端部9′に向かって徐々に径を増加させた部分」は、「段差部から隣接する最大径部に向かって徐々に径を増加させた変径部」に、
「3組」は、「複数組」に、それぞれ相当する。

以上のことから、本件発明1と引用発明とは次の点で一致する。
「軸部の先端にテーパ状の縮径部を備え、この縮径部を軟質金属に形成された下穴に挿入してねじ込むことにより下穴にめねじを形成して行くセルフタップねじであって、
縮径部のおねじのねじ山部には、ねじ込み回転時に後側となる位置に段差部を持つ最大径部と、この段差部から隣接する最大径部に向かって徐々に径を増加させた変径部とを、複数組形成した軟質金属用セルフタップねじ。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1は、「軸部と縮径部には同一ピッチのおねじが連続的に形成されて」いるのに対して、
引用発明は、雄ねじ山3及びタッピングねじ部5と導入雄ねじ部B1とがかかる構成を備えているか不明である点。

[相違点2]
本件発明1は、「前記変径部の最小径が、その位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲にある」のに対して、
引用発明は、始端部7′が、谷底6に略位置する点。

(イ) 当審の判断
a 相違点1について
タップねじには、引用発明のように、縮径部には山頂8′が徐々に低くなる導入雄ねじ部B1が形成されているタップねじの他に、軸部と縮径部には同一ピッチのおねじが連続的に形成されているタップねじ(例えば、刊行物2(図1)及び刊行物3(図1)を参照。)があることは、周知の技術である(なお、JIS(JISB1122)でいうところの、1種タッピンねじ、2種タッピンねじ、及び3種タッピンねじについても参照。)。
そして、引用発明を周知のタップねじと組み合わせることは、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、引用発明を、周知のタップねじを参酌して、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

b 相違点2について
引用発明では、始端部7′から終端部9′に向かって徐々に径を増加させた部分の最小径は、始端部7′の所にあるから、始端部7′の径は、本件発明1の「変径部の最小径」に相当する。
そして、相違点2に係る引用発明の構成である「始端部7′が、谷底6に略位置する」ことは、本件発明1の用語を用いて表現するならば、前記変径部の最小径が、その位置におけるおねじのねじ山高さの略0%にあることといえる。
刊行物1には、始端部7′について、「谷底6に略位置する始端部7,7′」(「3(1)ウ」の段落【0027】を参照。)と記載されているにすぎないから、刊行物1は、始端部7′を、その位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲とすること、すなわち上記相違点2に係る本件発明1の構成を示唆していない。

刊行物2の図3を参酌すれば、切り欠き45の最小径は、本件発明1の「変径部の最小径」に相当する。
しかし、刊行物2では、図1?図3をみても、切り欠き45の最小径が、その位置におけるねじ山40の高さの、どの程度の割合となっているかは、明らかでないから、刊行物2は、上記相違点2に係る本件発明1の構成を示唆していない。

刊行物3には、本件発明1の「段差部」及び「段差部から隣接する最大径部に向かって徐々に径を増加させた変径部」に相当する構成は記載されていないから、刊行物3は、上記相違点2に係る本件発明1の構成を示唆していない。

また、本件特許明細書に「この最大径部6のねじ込み回転時に後側となる位置には、ほぼ垂直に落ち込む段差部7が形成されている。そして段差部7の底から隣接する最大径部6に向かって徐々に径を増加させ、変径部8を形成している。このため変径部8の外側には間隙9が形成され、この間隙9に、また間隙9を通じて切り粉を排出することができる。段差部7の最小径はその断面位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲とすることが好ましい。80%を超えるとタッピング機能が低下し、30%未満であると金型の摩耗が激しくなるからである。」(段落【0016】)と記載されているように、本件発明1は、タッピング機能及び金型の摩耗を考慮して、「前記変径部の最小径が、その位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲にある」としたものであるところ、刊行物1ないし刊行物3には、タッピング機能及び金型の摩耗についての記載はないから、変径部の最小径が、その位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲にあるようにすることは、当業者が適宜行う設計事項であるとはいえない。

以上のことから、引用発明において、刊行物1ないし刊行物3に記載された事項を参酌して相違点2に係る本件発明1の構成に至ることが容易であるとはいえない。

したがって、本件発明1は、引用発明及び刊行物1ないし刊行物3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(ウ) 異議申立人の意見について
異議申立人は、刊行物2について、図3を参照すると、切り欠き45の最小径が、その位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲に入っていることが看取される旨主張している(平成29年5月19日付けの異議申立人提出の意見書2ページ11行?15行)。
しかし、図1?図3を参照してみても、切り欠き45の最小径が、その位置におけるねじ山40の高さの、どの程度の割合となっているかは、明らかでないことは、前述したとおりである(前記「(イ)b」を参照。)。

また、仮に、刊行物2の図3において、切り欠き45の最小径が、その位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲の値であることが看取されたとしても、刊行物2には、切り欠き45の最小径について何ら説明がないので、当該値を定めた根拠が明らかではなく、更に、後述する「(2)」において示すように、刊行物2では、立て壁(60)が、ねじ込み回転軸に前側となる位置にあることにより、被取付部材の下穴に対するねじ山の食い付き性を向上でき、被取付部材の下穴に確実に雌ねじを形成することができるものであって、当該値は、立て壁(60)が、ねじ込み回転軸に前側となる位置にあるものにおける最小径の値にすぎず、引用発明及び本件発明1のように、「ねじ込み回転時に後側となる位置に段差部を持つ」ものではないから、当該値を引用発明の始端部7′に適用する動機付けがあるとはいえない。

したがって、異議申立人の上記主張は、理由がない。

イ 本件発明3及び本件発明4について
本件発明3及び本件発明4は、本件発明1を引用し、本件発明1を更に限定した発明であるから、本件発明1と同様に、引用発明及び刊行物1ないし刊行物3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2) 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立て理由について
異議申立人は、訂正前の請求項1に係る発明と、刊行物2(甲第1号証)に記載された発明とを対比し、相違点のうちの一つとして、訂正前の請求項1に係る発明では、最大径部(6)は、「ねじ込み回転時に後側となる位置に段差部を持つ」のに対して、刊行物2に記載された発明では、立て壁(60)が、ねじ込み回転軸に前側となる位置にある点(以下、「相違点A」という。)を挙げ、該相違点Aは、刊行物1(甲第2号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得た事項である旨を主張している(特許異議申立書の13ページ2行?15ページ15行)。
ところで、刊行物2には、「本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、小さいねじ込みトルクで、被取付部材の下穴に効率よく的確にねじ込んでいくことができるタッピンねじを提供することを目的とする。」(段落【0004】)、及び「さらに、ねじ山頂部に複数の切り欠きを形成し、当該切り欠きの周縁部に、タッピンねじの回転方向に対して略垂直に交わる立て壁と、この立て壁におけるねじ山の径方向外側端部から周方向に沿う刃部とを形成することによって、被取付部材の下穴に対するねじ山の食い付き性を向上でき、被取付部材の下穴に確実に雌ねじを形成することができる。」(段落【0011】)と記載されている。
そうすると、刊行物2に記載された発明は、「タッピンねじの回転方向に対して略垂直に交わる立て壁」により、すなわち、立て壁(60)が、ねじ込み回転軸に前側となる位置にあることにより、被取付部材の下穴に対するねじ山の食い付き性を向上でき、被取付部材の下穴に確実に雌ねじを形成することができるものである。
したがって、刊行物2に記載された発明において、ねじ込み回転時に後側となる位置に段差部を持つようにすることは、刊行物2に記載された発明がその目的に反するものとなるので、刊行物2に記載された発明に刊行物1に記載された発明を適用することはできない。
よって、異議申立人の上記主張は、理由がない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1、3、4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、3、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項2に対して、異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
軟質金属用セルフタップねじ
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金やマグネシウム合金などの軟質金属に対して用いられる軟質金属用セルフタップねじに関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルフタップねじは、相手部材に形成された下穴にねじ込むことにより下穴の内面にめねじを形成しながら締結する機能を備えたねじであり、予め下穴にタッピング加工を行なう必要がないため、広く使用されている。
【0003】
セルフタップねじには初期のねじ込みトルクができるだけ低いことが求められる。そのため特許文献1に示されるように、軸の断面形状を多角形状として下穴との接触面積を小さくしたセルフタップねじが実用化されている。
【0004】
ところがこのような非円形断面のセルフタップねじを製造するには、複雑で高価な金型が必要となり、通常のねじよりも製造コストが高くなるという問題があった。またこのような非円形断面のセルフタップねじは、締結完了状態においても軸部のおねじの全周が相手部材のめねじと均等に噛み合うのではなく、多角形の頂点においては深く噛み合うが、頂点間の部分では噛み込みが浅くなる。そのため、断面円形の通常のねじに比較して、熱の影響を受けた場合などに締結状態における軸力が低くなり易いという問題があった。
【0005】
また従来のセルフタップねじは、相手部材が鋼鉄であることを想定し、特許文献2に示すように、鋭い切刃を持たせてある。このためアルミニウム合金やマグネシウム合金などの軟質金属に対して用いた場合には削れ過ぎて大量の切り粉が発生する。特に相手部材がマグネシウム合金の場合、切り粉は環境により発火する可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-247817号公報
【特許文献2】特許第4219247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、初期のねじ込みトルクが低く、締結状態における軸力は高く、複雑で高価な金型は不要であって安価に製造することができ、しかも切り粉の発生量を抑制した軟質金属用セルフタップねじを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、軸部の先端にテーパ状の縮径部を備え、この縮径部を軟質金属に形成された下穴に挿入してねじ込むことにより下穴にめねじを形成して行くセルフタップねじであって、軸部と縮径部には同一ピッチのおねじが連続的に形成されており、縮径部のおねじのねじ山部には、ねじ込み回転時に後側となる位置に段差部を持つ最大径部と、この段差部から隣接する最大径部に向かって徐々に径を増加させた変径部とを、複数組形成し、かつ、前記変径部の最小径が、その位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲にあることを特徴とするものである。
【0009】
なお、変径部の最小径が、その位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲にあることが好ましい。また前記複数組の組数が、3?8であることが好ましい。
【0010】
なお、おねじのねじ山角は通常の60°とすればよいが、15°?45°とすることも可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の軟質金属用セルフタップねじは、軸部及び縮径部の断面形状は通常のねじと同様に円形であるから、複雑で高価な金型は不要で安価に製造することができ、またおねじが全周でめねじと深く嵌合するので、締結状態における軸力を高く保持することができる。また、縮径部のおねじのねじ山部には、ねじ込み回転時に後側となる位置に段差部を持つ最大径部と、この段差部から隣接する最大径部に向かって徐々に径を増加させた変径部とを複数組形成したので、ねじ込み回転時には軟質金属に形成された下穴の内面は徐々に径を増加させた変径部とこれに続く最大径部とによって塑性変形され、めねじが形成される。このとき最大径部と下穴の内面とは複数点で接触するだけであるから、初期のねじ込みトルクは低くなる。
【0012】
また本発明の軟質金属用セルフタップねじは、従来のようにねじ込み回転方向の前側に切れ刃を持たないため、アルミニウム合金やマグネシウム合金などの軟質金属に使用しても、切り粉の発生量を抑制することができる。切り粉は変径部の外周に形成される間隙に、また間隙を通じて排出される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態の軟質金属用セルフタップねじの全体図である。
【図2】縮径部の拡大正面図である。
【図3】縮径部の拡大斜視図である。
【図4】縮径部を軸線に対して垂直な平面で切断した底面図である。
【図5】従来の鋼材用のセルフタップねじの縮径部を、軸線に対して垂直な平面で切断した底面図である。
【図6】ねじ込み状態の説明図である。
【図7】ねじ込みトルクと破断トルクの測定値を示すグラフである。
【図8】最大軸力の測定値を示すグラフである。
【図9】ねじ山角度を小さくした場合の軸部を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1は実施形態の軟質金属用セルフタップねじの全体図であり、1は頭部、2は断面円形で一定径の軸部、3は軸部2の先端に形成されたテーパ状の縮径部である。軸部2と縮径部3には、従来と同様に同一ピッチのおねじが連続的に形成されている。軸部2のおねじは完全ねじであってそのねじ山部4の径は一定であるが、縮径部3のおねじのねじ山部5の径は、先端に向かって順次小径になっている。このように本発明の軟質金属用セルフタップねじは非円形断面のものではないので、複雑で高価な金型は不要で安価に製造することができる。
【0015】
図2は縮径部3の拡大正面図、図3はその斜視図である。これらの図面に示すように、縮径部3のおねじのねじ山部5には、タッピング機能を発揮させるための凹凸部が複数組形成されている。先ず6は最大径部であり、周方向に所定角度αにわたり延びている。図4に示すように、この最大径部6はその位置におけるねじ山部5の先端径(山径)と同一径である。なお図4は縮径部3を軸線に対して垂直な平面で切断した底面図であるため、紙面の奥側が頭部1であり、右ねじの場合のねじ込み方向は矢印で示すように反時計方向となる。
【0016】
この最大径部6のねじ込み回転時に後側となる位置には、ほぼ垂直に落ち込む段差部7が形成されている。そして段差部7の底から隣接する最大径部6に向かって徐々に径を増加させ、変径部8を形成している。このため変径部8の外側には間隙9が形成され、この間隙9に、また間隙9を通じて切り粉を排出することができる。段差部7の最小径はその断面位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲とすることが好ましい。80%を超えるとタッピング機能が低下し、30%未満であると金型の摩耗が激しくなるからである。
【0017】
このようにタッピング機能を発揮させるために縮径部3のおねじのねじ山部5に形成される凹凸部は、最大径部6と段差部7と変径部8とから構成されるもので、この実施形態では4組が等間隔で形成されている。しかしその組数は3?8の範囲で任意に選択することができる。2組の場合にはねじ込み時の安定性が不足し、9組を超えると円に近くなってタッピング機能が低下するからである。
【0018】
なお参考のため、特許文献2に示された従来の鋼材用のセルフタップねじを図5に示す。従来品ではねじ込み回転時に前側となる位置に切刃10が形成されており、鋼材に形成された下穴の内面をこれらの切刃10によって切削する。しかしアルミニウム合金やマグネシウム合金などの軟質金属に対しては、切刃10が過度に下穴の内面を削り取るため、後記する実施例に示すように多量の切り粉を発生させることとなるので好ましくない。
【0019】
このように構成された本発明の軟質金属用セルフタップねじは、図6に示すようにアルミニウム合金やマグネシウム合金などの軟質金属11に形成された下穴12にねじ込んで使用されるものであり、縮径部3に形成された凹凸部のうち、最大径部6が下穴12の内周面に食い込んで塑性変形させ、その部分に縮径部3の上方部分が次第に深く食い込んで最終的に軸部2のねじ山部4に対応する谷部を持つめねじが形成されることとなる。このセルフタップ時に、下穴12の内面は段差部7の底から徐々に径を増加させた変径部8によって押し広げられるので、切り粉の発生量が抑制される。しかも不可避的に発生した切り粉は段差部7の後側となる位置に形成された間隙9を通じて排出される。
【0020】
しかも、最大径部6が下穴12の内周面に食い込む位置は下穴の全周ではなくこの実施形態では4か所であるから、初期のねじ込みトルクは低くなる。また最終的な締結は軸部2の完全ねじによって行われるので、締結状態における軸力は通常のねじを用いた場合と同等となる。
【0021】
本発明の軟質金属用セルフタップねじの機能を確認するため、上記の実施形態で説明した構造の軟質金属用セルフタップねじと、特許文献1に示した断面形状がおむすび形状のセルフタップねじとを用い、ねじ込みトルク、破断トルク、最大軸力を比較した。ねじサイズは何れもJISに規定されるM6とし、アルミニウム合金に内径が5.2?5.8mmの下穴を形成してテストを行った。
【0022】
図7にねじ込みトルクと破断トルクの測定値を示した。白抜きの記号が特許文献1のセルフタップねじ、黒色の記号が本発明品である。図7に示すとおり、ねじ込みトルクと破断トルクに関しては、両者間に大きな差はなかった。
【0023】
同様に、最大軸力の測定を行った。その結果を図8のグラフに示した。白抜きの記号で示す特許文献1のセルフタップねじは、下穴径が大きくなるに連れて最大軸力の低下が認められた。その理由は前記したとおり、頂点のみの接触であるため、軸力が発生するとせっかく成形しためねじを破壊してしまい、トルクが増加するためである。
【0024】
次に、ねじ込み時と弛め時における切り粉の発生量を比較した。このテストは本発明品のほか、特許文献1に示した断面形状がおむすび形状のセルフタップねじと、特許文献2に示した前向きの切れ刃を持つセルフタップねじとを用いて行なった。アルミニウム合金板に3種類のサイズの下穴を貫通させ、ねじ込み時と弛め時に下穴の下方に落下した切り粉の量を目視し、10段階で評価した。
【0025】
その結果は表1に示す通りであり、特許文献2に示した前向きの切れ刃を持つセルフタップねじは多量の切り粉を発生したが、特許文献1に示した断面形状がおむすび形状のセルフタップねじの切り粉の発生量はそれよりも少なかった。また本発明品はさらに少なく、特に実用上問題となる締付け時の切り粉発生量はごく僅かであった。
【0026】
【表1】

【0027】
上記した第1の実施形態においては、軸部2と縮径部3に形成されたおねじのねじ山角度は従来通りの60°であるが、第2の実施形態においては、ねじ山角度βを図9に示すように15°?45°とした。このようにねじ山角度βを小さくすると、先端がシャープになるためねじ込みトルクが低下するとともに、発生する切り粉量を減少することができる。
【0028】
以上に説明したように、本発明の軟質金属用セルフタップねじは、ねじ込みトルクが低く、最大軸力は高く、熱影響などによる軸力低下が少なく、安価に製造することができ、しかも切り粉の発生量を抑制できるなどの顕著な作用効果を有するものである。
【符号の説明】
【0029】
1 頭部
2 軸部
3 縮径部
4 ねじ山部
5 ねじ山部
6 最大径部
7 段差部
8 変径部
9 間隙
10 切刃
11 軟質金属
12 下穴
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部の先端にテーパ状の縮径部を備え、この縮径部を軟質金属に形成された下穴に挿入してねじ込むことにより下穴にめねじを形成して行くセルフタップねじであって、
軸部と縮径部には同一ピッチのおねじが連続的に形成されており、
縮径部のおねじのねじ山部には、ねじ込み回転時に後側となる位置に段差部を持つ最大径部と、この段差部から隣接する最大径部に向かって徐々に径を増加させた変径部とを、複数組形成し、かつ、前記変径部の最小径が、その位置におけるおねじのねじ山高さの30?80%の範囲にあることを特徴とする軟質金属用セルフタップねじ。
【請求項2】削除
【請求項3】
前記複数組の組数が3?8であることを特徴とする請求項1に記載の軟質金属用セルフタップねじ。
【請求項4】
おねじのねじ山角を15°?45°としたことを特徴とする請求項1に記載の軟質金属用セルフタップねじ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-06-26 
出願番号 特願2014-152978(P2014-152978)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (F16B)
P 1 651・ 121- YAA (F16B)
P 1 651・ 853- YAA (F16B)
P 1 651・ 841- YAA (F16B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 塚原 一久  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 内田 博之
小関 峰夫
登録日 2016-04-08 
登録番号 特許第5909747号(P5909747)
権利者 株式会社青山製作所
発明の名称 軟質金属用セルフタップねじ  
代理人 特許業務法人なじま特許事務所  
代理人 特許業務法人なじま特許事務所  

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