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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B32B |
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管理番号 | 1331222 |
異議申立番号 | 異議2017-700033 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-01-13 |
確定日 | 2017-08-04 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5952705号発明「積層フィルムおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5952705号の請求項1ないし17に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5952705号の請求項1?17に係る特許についての出願は、平成24年10月12日に出願され、平成28年6月17日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人橋詰隆(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審より平成29年4月13日付けで特許権者に審尋し、その指定期間内である平成29年5月17日に回答書が提出されたものである。 2.本件発明 特許第5952705号の請求項1?17に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるとおりのものである。そのうち、請求項1及び請求項13に係る発明は、以下のとおりである。 「【請求項1】 ポリエステルフィルムと、前記ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に積層される被膜層とを含む積層フィルムであって、 前記被膜層は、酸変性ポリオレフィン樹脂と沸点が200℃以下である塩基性化合物を含有し、 前記ポリエステルフィルムは、前記被膜層に含有される酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物を含有し、 前記酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物の含有率は、前記ポリエステルフィルムの質量に対して50?1000ppmである積層フィルム。」 「【請求項13】 沸点が200℃以下である塩基性化合物と酸変性ポリオレフィン樹脂を含む塗布液を、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に塗布し、延伸して被膜層を形成する製膜工程を含み、 前記ポリエステルフィルムは、前記被膜層に含有される酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物を含有し、 前記酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物の含有率は、前記ポリエステルフィルムの質量に対して50?1000ppmであることを特徴とする積層フィルムの製造方法。」 3.申立理由の概要 申立人は、「本件の明細書は、いわゆる当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本件は特許法第36条第4項第1号に規定の要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。」旨申立て、具体的に、以下の理由を挙げている。 ア.実施例1について記載した段落【0089】?【0094】には、ポリエステルフィルムが酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物を含有するに至ったことに関する記載はない。また、実施例2?16についても同様である。そして、段落【0061】に、被膜層に含有されていた酸変性ポリオレフィン樹脂の一部が、リサイクルされる際にポリエステルフィルム中に少量混入したものとの説明はあるものの、これらの記載だけでは、当業者は、請求項1や請求項13に係る発明を、どのように実施するかを発見するために、当業者に通常期待される程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行うことが必要となってしまう。 イ.明細書の【表1】に記載の各実施例において、「ポリエステルに含まれる酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物の含有率」として「500ppm」の含有率、及び、「皮膜層厚み」として「0.5μm」の厚みは、それぞれ実現不可能である。 ウ.明細書には、「酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物の含有率」の測定方法について記載されていない。 4.当審の判断 (1)事案に鑑み、上記理由ウから検討する。 まず、「酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物」とは、「被膜層に含有されていた酸変性ポリオレフィン樹脂の一部が、リサイクルされる際にポリエステルフィルム中に少量混入したもの」であることが、本件の明細書の段落【0061】の記載から明らかである。そして、「酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物」は、別途添加し得るものであり(明細書の段落【0016】)、添加する際に、その添加量を計量することは、容易に行い得ることである。 また、樹脂混合物から、各種溶剤により樹脂混合物に含まれる樹脂を分離できることが技術常識であり、樹脂混合物から「酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物」が分離されれば、その含有率を測定することは、当業者にとって困難なことではなく、特許異議申立書には、樹脂混合物から「酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物」が分離できないことを示す証拠も示されていない。 すると、明細書に「酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物の含有率」の測定方法について記載されていないことをもって、当業者が実施をすることができないとはいえない。 (2)上記理由アについて、確かに、実施例1?16の記載である段落【0089】?【0103】には、ポリエステルフィルムが酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物を含有するに至ったことに関する、直接の記載はない。 しかし、本件の明細書の段落【0016】に、ポリエステルフィルムには、積層フィルムの一部が回収され、リサイクルされたフィルム原料が含まれている旨記載される一方、「酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物を含有するポリエステルフィルムは、必ずしもリサイクルされた原料で形成される必要はなく、ポリエステルフィルムに酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物を別途添加して形成されても良い」とも記載され、段落【0070】には、加熱溶融した樹脂混合物をポリエステル樹脂と酸変性ポリオレフィン樹脂に分離する分離工程を設け、「分離工程で分離された酸変性ポリオレフィン樹脂も次ロットのフィルム原料として再利用することができる。」旨記載されている。 これらのことからすれば、ポリエステルフィルムには、積層フィルムの一部が回収され、リサイクルされたフィルム原料が含まれるほか、分離された酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物を別途添加して形成することができるものであるから、ポリエステルフィルムに、リサイクルされたフィルム原料により酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物を含有させるとともに、別ロットで分離された酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物を添加して、酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物の含有率を調整できることも、当業者にとって明らかである。 すると、実施例1?16の記載はともかく、明細書中の段落【0016】や【0070】の記載を参酌すれば、請求項1及び請求項13に係る発明で特定される、「ポリエステルフィルムは、被膜層に含有される酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物を含有」し、「酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物の含有率は、ポリエステルフィルムの質量に対して50?1000ppm」との事項の限りにおいては、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行うことなく、実施をすることができるものといえる。 (3)また、上記理由イについても、実施例1?16に関する明細書の段落【0089】?【0094】の記載から導かれる事項と、【表1】の記載とに、必ずしも整合しない事項があるとしても、そのことは、請求項1及び請求項13に係る発明が実施できないことを、直ちに意味するものではなく、また、上記(1)で述べたように、明細書中の各記載を参酌すれば、請求項1及び請求項13に係る発明で特定される、「ポリエステルフィルムは、被膜層に含有される酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物を含有」し、「酸変性ポリオレフィン樹脂由来の化合物の含有率は、ポリエステルフィルムの質量に対して50?1000ppm」との事項の限りにおいては、当業者であれば実施をすることができるものである。 (4)よって、本件の明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の請求項1及び請求項13、並びに当該請求項を引用する請求項2?12、14?17に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとすることはできない。 5.むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?17に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-07-27 |
出願番号 | 特願2012-226793(P2012-226793) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(B32B)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 加賀 直人 |
特許庁審判長 |
千壽 哲郎 |
特許庁審判官 |
渡邊 豊英 井上 茂夫 |
登録日 | 2016-06-17 |
登録番号 | 特許第5952705号(P5952705) |
権利者 | 富士フイルム株式会社 |
発明の名称 | 積層フィルムおよびその製造方法 |
代理人 | 特許業務法人特許事務所サイクス |