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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D21H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D21H
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D21H
管理番号 1331233
異議申立番号 異議2016-700512  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-02 
確定日 2017-08-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第5827187号発明「コート白ボール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5827187号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5827187号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成24年7月24日に特許出願され、平成27年10月23日にその特許権の設定登録がされた。
その後、請求項1?5に係る特許について、特許異議申立人一條淳(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年9月27日付けで取消理由が通知され、平成28年11月28日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、平成28年12月14日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成29年1月17日に意見書の提出及び本件訂正請求に係る手続補正(以下、「訂正手続補正」という。)がなされ、平成29年3月28日付けで申立人に対し訂正請求があった旨の通知がなされ、平成29年4月26日に申立人から意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出された。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記表下層は雑誌古紙パルプ若しくは新聞古紙脱インキパルプ又はその両方を主体とした層であり、」とあるのを、
「前記表下層は雑誌古紙脱インキパルプを主体とした層、新聞古紙脱インキパルプを主体とした層又は雑誌古紙脱インキパルプ及び新聞古紙脱インキパルプを主体とした層であり、」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2?5も同様に訂正する。また、請求項1から引用関係の解消を求めた請求項6も同様に訂正する。)
イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記表層が炭酸カルシウムを含有していることを特徴とする請求項1?3のいずれか1つに記載のコート白ボール。」とあるのを、
「前記表層が炭酸カルシウムを含有していることを特徴とする請求項1又2に記載のコート白ボール。」に訂正する。
ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記表層が炭酸カルシウムを含有していることを特徴とする請求項1?3のいずれか1つに記載のコート白ボール。」とあるうち、請求項3を引用するものについて、その引用をしないものとし、
「少なくとも表層、表下層、中層及び裏層の4層を有する原紙と、前記表層に塗設された顔料塗工層とを有する白板紙において、
前記表層は上質系古紙パルプを主体とした層であり、
前記表下層は雑誌古紙脱インキパルプを主体とした層、新聞古紙脱インキパルプを主体とした層又は雑誌古紙脱インキパルプ及び新聞古紙脱インキパルプを主体とした層であり、
前記表層と前記顔料塗工層とからなる2層の不透明度が85%以上であり、かつ、前記顔料塗工層は、塗工量が15g/m^(2)?25g/m^(2)で、不透明度が60%以上であり、
前記顔料塗工層の表面に観察される、面積0.1mm^(2)以上のきょう雑物が、1m^(2)あたり1個未満であり、
前記裏層の表面に観察される、面積0.5mm^(2)以上のきょう雑物が、1m^(2)あたり1個未満であり、前記表層が炭酸カルシウムを含有していることを特徴とするコート白ボール。」を新たな請求項6とする訂正を行う。
エ.訂正事項4
明細書の段落【0012】に、
「前記表下層は雑誌古紙パルプ若しくは新聞古紙脱インキパルプ又はその両方を主体とした層であり、」とあるのを、
「前記表下層は雑誌古紙脱インキパルプを主体とした層、新聞古紙脱インキパルプを主体とした層又は雑誌古紙脱インキパルプ及び新聞古紙脱インキパルプを主体とした層であり、」に訂正する。
オ.訂正事項5
明細書の段落【0023】に、
「表下層は、雑誌古紙パルプ若しくは新聞古紙脱インキパルプ又はその両方を主体とした層から構成される。」とあるのを、
「表下層は、雑誌古紙脱インキパルプを主体とした層、新聞古紙脱インキパルプを主体とした層又は雑誌古紙脱インキパルプ及び新聞古紙脱インキパルプを主体とした層から構成される。」に訂正する。
カ.訂正事項6
明細書の段落【0041】に、
「表下層には新聞古紙パルプ及び雑誌古紙脱インキパルプを用い、」とあるのを、
「表下層には新聞古紙脱インキパルプ及び雑誌古紙脱インキパルプを用い、」に訂正する。

(2)訂正拒絶理由の概要
本件訂正請求に対して通知した訂正拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
なお、上記訂正拒絶理由において、「特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定」とあるのは明らかな誤記であって、正しくは、「特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定」であるところ、特許権者は、平成29年1月17日に提出された意見書で、実質的に「特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定」に対する主張をしているから、上記訂正拒絶理由は「特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定」として通知されたものとして、以下審理を進める。

訂正事項1、3ないし6は以下のとおり適法ではない。よって、一群の請求項である訂正前の請求項1ないし5に係る本件訂正は認められない。
ア.訂正事項1
(ア)「雑誌古紙脱インキパルプ」について
訂正事項1に関し、特許明細書段落0041には、「表下層には新聞古紙パルプ及び雑誌古紙脱インキパルプを用い、」との記載がある。すなわち、同箇所には、表下層において、新聞古紙パルプは脱インキされていないものを用い、雑誌古紙パルプは脱インキされたものを用いることが記載されている。
他方、訂正後の請求項1には、表下層において、「雑誌古紙脱インキパルプ」、「新聞古紙脱インキパルプ」を用いること、すなわち、新聞古紙パルプ、雑誌古紙パルプともに脱インキされたものを用いることが記載されている。
また、明細書の他の箇所において、表下層の新聞古紙パルプ、雑誌古紙パルプが、ともに脱インキされたものを用いるとの記載は見出せない。
したがって、当該訂正事項1の「脱インキ」に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正でない。
(イ)「雑誌古紙脱インキパルプ及び新聞古紙脱インキパルプを主体とした層」について
訂正後の「雑誌古紙脱インキパルプ及び新聞古紙脱インキパルプを主体とした層」とは、「雑誌古紙脱インキパルプ」と「新聞古紙脱インキパルプ」とを合わせたものを主体とした層であって、その2つのパルプの比率は問わないものと解されるところ、本件特許明細書には、前記2つのパルプの比率は問わない旨は記載されていない。ゆえに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正とはいえない。
イ.訂正事項3ないし6
訂正事項3は、訂正前の請求項3を引用する請求項4について、訂正事項1と同様の訂正を行うものである。また、訂正事項4ないし6は、明細書(段落0012、0023、0041)の記載を、訂正事項1による請求項1の記載の変更に合わせて変更するものである。
したがって、訂正事項3ないし6は、訂正事項1と同様の理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正とはいえない。

(3)訂正手続補正の適否
訂正手続補正のうち、上記訂正事項1に係る補正の内容は、「前記表下層は雑誌古紙脱インキパルプを主体とした層、新聞古紙脱インキパルプを主体とした層又は雑誌古紙脱インキパルプ及び新聞古紙脱インキパルプを主体とした層であり、」という記載を、「前記表下層は新聞古紙脱インキパルプを主体とした層であり、」という記載へ補正するものである。
すなわち、上記補正は、「前記表下層」が何であるかについて、補正前は「雑誌古紙脱インキパルプを主体とした層、新聞古紙脱インキパルプを主体とした層又は雑誌古紙脱インキパルプ及び新聞古紙脱インキパルプを主体とした層であり」としていたものを、「新聞古紙脱インキパルプを主体とした層であり」というものに変更するものである。
このことは、本件訂正請求により訂正を求める内容が変更され、審理の対象も変更されることを意味するから、訂正請求書の請求の趣旨を実質的に変更するものであり、訂正請求書の要旨を変更するものであると認める。
よって、訂正手続補正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第131条の2第1項の規定に違反するものであるから、これを認めない。

特許権者は、平成29年1月17日に提出した意見書で、上記補正は、選択的な発明特定事項の一部を削除する補正であるから、審判便覧の67-05.3の4.(3)イのただし書にある「(丸一)ある請求項の訂正事項を当該請求項の削除という訂正事項に変更する補正及びそれに整合させるための訂正明細書等についての訂正事項の補正、並びに(丸二)請求項の削除という訂正事項を追加する補正及びそれに整合させるための訂正明細書等についての訂正事項の補正は、訂正請求書の要旨を変更するものとは取り扱わない」(当審にて、丸数字は(丸一)等と表記した。)という運用に該当し、請求書の要旨変更にはならない旨を主張している。
しかし、上記補正は、補正前の訂正事項1が訂正の対象とする請求項1について、「請求項の訂正事項を当該請求項の削除という訂正事項に変更する補正」ではなく、「請求項の削除という訂正事項を追加する補正」でもないことが明らかであるから、上記特許権者の主張は、上記運用に関する独自の見解に基づくものであり、失当である。

(4)訂正の適否
上記(3)に示したとおり上記訂正手続補正は認められないから、本件訂正の内容は上記(1)に示したとおりであるところ、以下、その適否について判断する。
本件訂正前の請求項2?5は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は一群の請求項1?5に対し請求されたものである。
そして、訂正事項1、3ないし6は、上記通知した訂正拒絶理由のとおり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正とはいえない。
したがって、本件訂正請求による、一群の請求項である訂正前の請求項1ないし5に係る訂正は特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、訂正は認められない。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件特許の請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1?5」という。)は、本件特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定される、次のとおりのものである。

【請求項1】
少なくとも表層、表下層、中層及び裏層の4層を有する原紙と、前記表層に塗設された顔料塗工層とを有する白板紙において、
前記表層は上質系古紙パルプを主体とした層であり、
前記表下層は雑誌古紙パルプ若しくは新聞古紙脱インキパルプ又はその両方を主体とした層であり、
前記表層と前記顔料塗工層とからなる2層の不透明度が85%以上であり、かつ、
前記顔料塗工層は、塗工量が15g/m^(2)?25g/m^(2)で、不透明度が60%以上であることを特徴とするコート白ボール。
【請求項2】
前記顔料塗工層の表面に観察される、面積0.1mm^(2)以上のきょう雑物が、1m^(2)あたり1個未満であることを特徴とする請求項1に記載のコート白ボール。
【請求項3】
前記裏層の表面に観察される、面積0.5mm^(2)以上のきょう雑物が、1m^(2)あたり1個未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコート白ボール。
【請求項4】
前記表層が炭酸カルシウムを含有していることを特徴とする請求項1?3のいずれか1つに記載のコート白ボール。
【請求項5】
前記原紙を構成する各層がいずれも古紙パルプを含有することを特徴とする請求項1?4のいずれか1つに記載のコート白ボール。

(2)取消理由の概要
請求項1?5に係る特許に対して、通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



甲1-1:小安義文、“紙器用板紙入門講座(1)”、月刊カートンボックス、株式会社日報、1996年1月、Vol.15、No.167、p.147-152
甲1-2:小安義文、“紙器用板紙入門講座(3)”、月刊カートンボックス、株式会社日報、1996年5月、Vol.15、No.171、p.36-40
甲1-3:小安義文、“紙器用板紙入門講座(4)”、月刊カートンボックス、株式会社日報、1996年6月、Vol.15、No.172、p.65-70
甲1-4:小安義文、“紙器用板紙入門講座(6)”、月刊カートンボックス、株式会社日報、1996年8月、Vol.15、No.174、p.49-56
甲1-5:小安義文、“紙器用板紙入門講座(9)”、月刊カートンボックス、株式会社日報、1998年2月、Vol.17、No.192、p.49-56
甲1-6:小安義文、“紙器用板紙入門講座(14)”、月刊カートンボックス、株式会社日報、1998年7月、Vol.17、No.197、p.49-55
甲2:特開2009-41131号公報
甲3:田中宏一、“製紙用填料”、紙パ技協誌、紙パルプ技術協会、1997年7月1日、第51巻、第7号、p.68-79

<理由1)について>
請求項1?5に係る発明は、甲2記載発明及び周知技術又は甲1に記載される技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。

<理由2)について>
1.請求項1に係る発明の「前記表層は上質系古紙パルプを主体とした層であり、」及び「前記表下層は雑誌古紙パルプ若しくは新聞古紙脱インキパルプ又はその両方を主体とした層であり、」なる記載における「主体」なる語に関して、その材料が表層又は表下層を成す材料のどの程度の割合を占めた場合に「主体」といえるのか、特許請求の範囲の記載から明確でなく、本願明細書にもそれについての詳細な説明がないから、上記記載は不明確である。
2.請求項1に係る発明の「前記表下層は雑誌古紙パルプ若しくは新聞古紙脱インキパルプ又はその両方を主体とした層であり、」なる記載における「その両方を主体とした層」とはいかなる層であるのか、明確でない。
3.請求項1に係る発明の「前記表下層は雑誌古紙パルプ若しくは新聞古紙脱インキパルプ又はその両方を主体とした層であり、」なる発明特定事項は、発明の詳細な説明の実施例に明確に対応する記載が見出せず、発明の詳細な説明を参酌しても、請求項1の「表下層」において主体となる古紙パルプがいかなるものであるのか、明確に把握できない。

(3)判断
ア.理由1)について
(ア)甲2記載発明
甲2の【請求項1】、段落【0001】、【0002】、【0006】、【0011】、【0018】、【0020】?【0027】、【0039】?【0042】の記載(特に、実施例3に関する記載)を踏まえると、甲2には、以下の甲2記載発明が記載されている。
《甲2記載発明》
表層、表下層、中層及び裏層の4層を有する原紙と、前記表層に塗設された顔料塗工層とを有する塗工白板紙において、
前記表層は、LBKP70%、NBKP20%、脱墨古紙10%の割合で配合したパルプを使用した層であり、
前記表下層は脱墨古紙90%の割合で配合したパルプを使用した層であり、
前記顔料塗工層は、塗工量が14g/m^(2)で、不透明度が68%である、塗工白板紙。
(イ)対比
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)と、甲2記載発明とは、少なくとも、以下の点で相違する。
《相違点》
本件発明1では「表層と顔料塗工層とからなる2層の不透明度が85%以上であり、かつ、前記顔料塗工層は、塗工量が15g/m^(2)?25g/m^(2)で、不透明度が60%以上である」なる事項を発明特定事項としているのに対して、甲2記載発明では「顔料塗工層は、塗工量が14g/m^(2)で、不透明度が68%である」が、表層と顔料塗工層とからなる2層の不透明度が不明である点。
(ウ)判断
相違点について検討する。
本件特許明細書には、下記の<記載事項1>に示す記載がある。
これらの記載から、本件発明1は、「コート白ボールにおいて、最大の特長である価格面の有利性及び古紙パルプの高度利用、さらに良好な印刷・加工適性という特長を維持しつつ、よりグレードの高い白板紙の有する表面清潔感を達成すること」を課題とし、上記事項を発明特定事項とすること、すなわち、「表層と顔料塗工層とからなる2層の不透明度が85%以上」であることと、「前記顔料塗工層は、塗工量が15g/m^(2)?25g/m^(2)で、不透明度が60%以上である」とを同時に満たすことによって、上記課題を解決したものと理解できる。
一方、甲2には、顔料塗工層の塗工量及び不透明度に加えて、表層と顔料塗工層とからなる2層の不透明度にも着目し、「表層と顔料塗工層とからなる2層の不透明度」が特定の数値範囲であることと「顔料塗工層の塗工量及び不透明度」が特定の数値範囲であることとを同時に満たすことについて、記載や示唆はされていないし、甲1-1?1-6、甲3や、申立人意見書に添付された甲4?甲8にも記載や示唆はされていない。
また、このことが周知技術であったことを示す他の証拠を発見しない。
申立人は、上記事項について、1)甲2の実施例2?4は表層と顔料塗工層とからなる2層の不透明度が85%以上である蓋然性が高い旨(異議申立書18頁下から10行?4行)、2)白色感維持の目的で、上記2層の不透明度を高くすべきこと等が、甲1-5や甲1-2の記載からみて技術常識である旨(異議申立書18頁下から3行?19頁1行)、3)甲6の表4、表5の記載から明らかなように、紙や塗工紙の不透明度は重要な特性として認識され、表5には上質系塗工紙の場合、通常88%程度の不透明度が望まれていた旨(申立人意見書10頁5?12行)を主張している。
しかし、以下に示すように、上記主張はいずれも失当である。
1)については、蓋然性が高いとする具体的根拠が示されていない。
2)については、上記技術常識は、「表層と顔料塗工層とからなる2層の不透明度」が特定の数値範囲であることと「顔料塗工層の塗工量及び不透明度」が特定の数値範囲であることとを同時に満たすことが技術常識であることを示すものではないし、当該技術常識から容易に想到し得ることを具体的に説明しているわけでもない。
3)については、表4、表5の不透明度は、上質紙、上質コート紙の不透明度を示すものであり、上質紙、上質コート紙の表層と顔料塗工層とからなる2層の不透明度を示すものではないと解されるところ、仮に、表4、表5の不透明度が上記2層の不透明度を示すものであるとしても、このことのみから「表層と顔料塗工層とからなる2層の不透明度」が特定の数値範囲であることと「顔料塗工層の塗工量及び不透明度」が特定の数値範囲であることとを同時に満たすことが容易に想到し得るとはいえない。
したがって、甲2記載発明において、「表層と顔料塗工層とからなる2層の不透明度が85%以上であり、かつ、前記顔料塗工層は、塗工量が15g/m^(2)?25g/m^(2)で、不透明度が60%以上である」とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

以上を踏まえると、本件発明1は、甲2記載発明及び周知技術又は甲1に記載される技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものとはいえない。

そして、本件発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明2?5は、上記と同様の理由により、甲2記載発明及び周知技術又は甲1に記載される技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものとはいえない。

??? 記 <記載事項1> ???
「【背景技術】
【0002】
コート白ボールは古紙を多量に使用し、白色度の高い表層に白色顔料塗工層を施し、中層、裏層は古紙パルプを主体とした低白色度層で構成される塗工白板紙である。主として表面に印刷され、包装用として加工後、使用されることが多い。・・・コート白ボールは、古紙を大量に使用することに起因して、品質面において他の2種の塗工白板紙に比べて劣る点がいくつかある。その中で最大の違いはきょう雑物のレベルである。・・・きょう雑物が問題となるのは表面であるが、原紙中に存在する古紙由来の残インキ、ゴミが顔料塗工層で隠蔽できず観察される場合が多い。また、昇華型染料が古紙中に存在すると、製品製造時にはきょう雑としては視認されないものが、時間の経過ともに発色し顕在化する場合もある。・・・」
「【0005】
白色度の異なる複数の層から構成されるために、表面においてしばしば白色度のムラが観察され、視感品質を落とすことが問題になる。そのため、白板紙の白色度のムラ(以下白色ムラという)を改善する方法については各種提案されている。すなわち、表層と表下層の米坪範囲、及び表層白色度と表下層白色度の差を規定することによって、白板紙の白色ムラを少なくする方法(例えば、特許文献1を参照。)、又、表層に灰分として白色顔料を表層のパルプ量に対して10重量%以上抄き込む方法(例えば、特許文献2を参照。)等が提案されている。
【0006】
一方、コート白ボールの裏面に顔料塗工組成物を塗工することで、裏面印刷適性を改善する技術が開示されている。この技術によれば同時に裏面のパルプ繊維が表層塗工面に転移することを妨げる効果があることが示されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【0007】
塗工白板紙において、原紙のチリや黒点を隠蔽して目立たなくし、白色ムラを改善する方法として、顔料塗工層をカーテン塗工方式によって塗工し、該顔料塗工層の不透明度を50%以上とする技術が開示されている(例えば、特許文献4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-298998号公報
【特許文献2】特開平6-41896号公報
【特許文献3】特開2000-192395号公報
【特許文献4】特開2009-41131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1及び2に記載された方法は、白色ムラの改善には効果はあるにしても、表面のきょう雑物の減少、印刷適性や後加工適性への影響までは十分考慮されてはいない。また、特許文献3には、表面のきょう雑物の減少を改善する方法についての記載はない。さらに、特許文献4で開示されたカーテン塗工という塗工方式は、白板紙の分野ではいまだ一般的な技術ではなく、設備の変更を伴わない、より現実的な解決策についての提案はない。
【0010】
表面きょう雑物を減少するもっとも簡便な方法は、きょう雑物の大半が古紙に由来することから古紙の配合率を減らし、代わりにきょう雑物の少ないバージンパルプに置き換えることである。しかし、この方法は、単に、よりグレードの高い特殊白板紙や高級白板紙の原料配合に近づけるだけであり、コート白ボールの有する最大の特長でもある古紙の高度利用という特性を失い、さらに経済的優位性を損なうことになる。別な方法は、使用する古紙をパルプ化する際に、脱インキ及び除塵効率を上げ、よりきょう雑物の少ないパルプにして使用するという方法である。この方法は一見優れた方法のようにみえるが、脱インキや除塵に負荷をかけ過ぎると、原料の歩留まりを悪化させ、コストアップになり、ひいてはコート白ボールの特長である経済性を損ねる結果となる。
【0011】
そこで、本発明は、古紙パルプを使用するにもかかわらず、表面のきょう雑物を顕著に減少させ、かつ、白色ムラの少ないコート白ボールに関し、包装用として印刷、加工され、とりわけ食品や医薬品の包装用として好適なコート白ボールを提供することにある。すなわち本発明は、コート白ボールにおいて、最大の特長である価格面の有利性及び古紙パルプの高度利用、さらに良好な印刷・加工適性という特長を維持しつつ、よりグレードの高い白板紙の有する表面清潔感を達成することを目的とする。」
「【0020】
・・・表層の特性としては、不透明度が重要であり、後記するように表層と顔料塗工層とを一体化した層の不透明度が特に重要である。すなわち、表下層に存在するきょう雑物を隠蔽するために、また表下層の白色度の影響を受けて発生する白色ムラを防止するために重要である。・・・」
「【0031】
顔料塗工層は、塗工量と不透明度とが重要である。本発明において塗工量は、下塗り層及び上塗り層の合計として15g/m^(2)?25g/m^(2)とすることが必要であり、好ましくは17g/m^(2)?22g/m^(2)とする。塗工量が15g/m^(2)より低い場合には本発明で特定する顔料塗工層の不透明度に到達することが困難になるか、仮に目標の不透明度に到達できたとしても、酸化チタン等の高価な材料を多用することになり、著しいコストアップになることから好ましくない。一方、塗工量が25g/m^(2)より多くなると、不透明度向上には好ましいが、後加工工程において罫線部での割れが発生したり、箱に成形する場合の接着性に悪影響を及ぼす等の問題が起こりやすくなることから、避けるべきである。顔料塗工層の不透明度は60%以上であることが不可欠である。さらに好ましくは65%以上である。本発明においては表層に古紙パルプを多用することから、不透明度が60%未満では、古紙由来の残存きょう雑物を隠蔽する力が不足し、原紙に白色ムラが存在する場合には、白色ムラを緩和する力が不足する。・・・」
「【0032】
本発明においては、表層と顔料塗工層からなる2層の不透明度が85%以上であることが不可欠であり、さらに好ましくは87%以上である。不透明度が85%に満たない場合には、表下層中に存在するきょう雑物を隠蔽する力が不足し、また表下層以下の白色ムラを緩和する力が不足する。」

イ.理由2)について
(ア)理由2)の1.及び2.(「主体」、「その両方を主体とした層」)について
本件の特許請求の範囲や特許明細書には、本件発明1の「前記表層は上質系古紙パルプを主体とした層であり、」及び「前記表下層は雑誌古紙パルプ若しくは新聞古紙脱インキパルプ又はその両方を主体とした層であり、」における「主体」なる語に関して、その材料が表層又は表下層を成す材料のどの程度の割合を占めた場合に「主体」といえるのかについて、直接的な記載がない。
ここで、一般に「主体」とは「集合体の主要な構成部分。」(広辞苑第六版)という意味であるから、「集合体」が複数の材料からなる場合には、「主要な構成部分」とされる材料は、「主要な構成部分」とはされない材料に対して、「集合体」のうちに占める割合が多いものであるといえる。
このことを踏まえると、上記「前記表層は上質系古紙パルプを主体とした層であり、」とは、上記表層は、上質古紙パルプの占める割合が、前記表層を構成するその余の材料に比して大きい層であることを意味し、「前記表下層は雑誌古紙パルプ若しくは新聞古紙脱インキパルプ又はその両方を主体とした層であり、」とは、上記表下層は、雑誌古紙パルプの占める割合が、前記表下層を構成するその余の材料に比して大きい層であるか、新聞古紙脱インキパルプの占める割合が、前記表下層を構成するその余の材料に比して大きい層であるか、または、雑誌古紙パルプの占める割合と、新聞古紙脱インキパルプの占める割合との各々が、前記表下層を構成するその余の材料に比して大きい層であることを意味すると理解するのが自然である。
そして、このような理解は、本件特許明細書の段落【0020】の「表層は、上質系古紙パルプを主体として漂白化学パルプを含有する表層であり、・・・きょう雑物を減少させるにはバージンパルプである漂白化学パルプの含有率を高めることが効果的であるが、本発明では経済性と古紙配合率を高レベルに維持することを考慮して、漂白化学パルプの使用は50%未満を選択する。」との記載とも整合している。
したがって、上記「前記表層は上質系古紙パルプを主体とした層であり、」及び「前記表下層は雑誌古紙パルプ若しくは新聞古紙脱インキパルプ又はその両方を主体とした層であり、」なる記載は明確でないとすることはできない。

(イ)理由2)3.(「表下層」において主体となる古紙パルプ)について
本件発明1において、「前記表下層」において主体となる古紙パルプは、その記載のとおりに、雑誌古紙パルプか、新聞古紙脱インキパルプか、その両方であると明確に理解でき、本件特許明細書の段落【0012】には「上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採る。・・・前記表下層は雑誌古紙パルプ若しくは新聞古紙脱インキパルプ又はその両方を主体とした層であり、・・・」と記載され、段落【0023】には「表下層は、雑誌古紙パルプ若しくは新聞古紙脱インキパルプ又はその両方を主体とした層から構成される。」と記載されている。
そして、雑誌古紙パルプ、新聞古紙脱インキパルプがどのようなものであるは、当業者がよく知るところである。
よって、「前記表下層」において主体となる古紙パルプが不明確であるとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1の「前記表層は上質系古紙パルプを主体とした層であり、」及び「前記表下層は雑誌古紙パルプ若しくは新聞古紙脱インキパルプ又はその両方を主体とした層であり、」という記載は明確ではないとはいえず、本件発明1は、請求項1に記載のとおりに、意味内容を理解することができるから、本件特許の特許請求に範囲の記載により特許を受けようとする発明は明確に特定されていると認められる。

なお、本件発明1は上記のとおり明確であるところ、本件発明1と本件特許明細書の実施例の記載とが整合していないことは、このことのみをもって、本件発明1は不明確であるとまではいえず、特許法第36条第6項第2号明確性要件の判断を左右するものではない。

ウ.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、本件発明1?5は、甲1-1?甲1-6の記載事項から把握される甲1記載発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものと主張している(特許異議申立書13頁5行?17頁22行)。
しかしながら、上記「(3)ア.(ウ)」に示したとおり、甲1-1?1-6には、顔料塗工層の塗工量及び不透明度に加えて、表層と顔料塗工層とからなる2層の不透明度にも着目し、「表層と顔料塗工層とからなる2層の不透明度」が特定の数値範囲であることと「顔料塗工層の塗工量及び不透明度」が特定の数値範囲であることとを同時に満たすことについて、記載や示唆はされていないし、甲2、甲3や、申立人意見書に添付された甲4?甲8にも記載や示唆はされていない。
したがって、本件発明1及び本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2?5は、甲1記載発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項及び第36条第6項第2号の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号及び第4号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-07-26 
出願番号 特願2012-163225(P2012-163225)
審決分類 P 1 651・ 121- YB (D21H)
P 1 651・ 537- YB (D21H)
P 1 651・ 536- YB (D21H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平井 裕彰中村 勇介  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 渡邊 豊英
蓮井 雅之
登録日 2015-10-23 
登録番号 特許第5827187号(P5827187)
権利者 北越紀州製紙株式会社
発明の名称 コート白ボール  
代理人 今下 勝博  
代理人 岡田 賢治  

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