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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 発明同一  C02F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C02F
管理番号 1331238
異議申立番号 異議2017-700344  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-10 
確定日 2017-08-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6007575号発明「水処理方法及び水処理システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6007575号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6007575号の請求項1?10に係る特許についての出願(特願2012-106295号)は、平成24年5月7日に特許出願され、平成28年9月23日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人後藤衞(以下、「申立人」という。)より異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
特許第6007575号の請求項1?10の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明10」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1?12号証、及び、参考資料1?4を提出し、以下の理由により、特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1) 証拠
甲第1号証 :特願2012-77254号(特開2015-37766 号公報)
甲第2号証 :特開2010-247009号公報
甲第3号証 :特公昭51-26898号公報
甲第4号証 :有機化学、化学入門コース4、2007年5月25日(株 )岩波書店発行、第226?239頁
甲第5号証 :特開2006-263510号公報
甲第6号証 :大有機化学3、脂肪族化合物II、1957年6月30日 (株)朝倉書店発行、第1、6、7、56頁
甲第7号証 :工業化学雑誌、第47編、第3冊、第553号、1944 年3月5日工業化学会発行、第260?262頁
甲第8号証 :分析化学、第24巻、第12号、1975年12月日本分 析化学会発行、第767?771頁
甲第9号証 :特開2002-249457号公報
甲第10号証:膜利用技術ハンドブック、1978年6月30日(株)幸 書房発行、第42?45、306?311頁
甲第11号証:膜処理技術大系上巻〔基礎・製品編〕、1991年3月1 5日(株)フジ・テクノシステム発行、第827?833 頁
甲第12号証:改訂4版水道水質基準ガイドブック、2010年10月2 5日丸善(株)発行、第130?133頁
参考資料1 :甲第1号証実験例のグラフ
参考資料2 :特許第5527473号公報
参考資料3 :米国ナショナル薬品ライブラリの公開データベースである PubChemのヒドロキシメタンスルホン酸のプリント 、2005年3月25日創設、2017年3月28日修正 、第1?7頁
参考資料4 :図解入門よくわかる最新水処理技術の基本と仕組み、20 12年7月10日(株)秀和システム発行、第30?31 頁

(2)理由
ア 特許法第29条の2(概略)について
本件特許発明1?10は、特願2012-77254号(甲第1号証)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載された発明であり、特願2012-77254号は、本件特許に係る出願の前の特許出願であって、その特許出願後に特開2015-37766号公報(同じく、甲第1号証)によって出願公開され、しかも、本件特許に係る出願の発明者が特願2012-77254号に係る上記発明をした者と同一ではなく、また本件特許に係る出願の時において、その出願人が特願2012-77254号の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?10に係る特許は、取り消されるべきものである。(申立書の4.3)

イ 特許法第36条第6項第1号(概略)について
(ア) 「前記排水に含まれるホルムアルデヒドと亜硫酸水素イオンとを、pH5?7(但し、pH7を除く)で反応させてヒドロキシメタンスルホン酸イオンを生成する反応工程」、及び、「前記排水と前記亜硫酸水素塩とを混合し、前記排水に含まれるホルムアルデヒドと前記亜硫酸水素塩から生成した亜硫酸水素イオンとを、pH5?7(但し、pH7を除く)で反応させて、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンを生成する混合手段」は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないから、本件特許発明1?10は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?10に係る特許は、取り消されるべきものである。(申立書の4.4.1.1、4.4.2、4.4.3、4.4.4.1、4.4.5、4.4.6.1、4.4.7、4.4.8、4.4.9.1、4.4.10)

(イ) 「前記反応工程で得られたpH5?7(但し、pH7を除く)の反応工程後排水をそのまま逆浸透膜モジュールに供給して透過水と濃縮水とに分離すると共に、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去された透過水を他の逆浸透膜モジュールで膜分離処理することなく処理水として得る除去工程」、及び、「前記混合手段で得られたpH5?7(但し、pH7を除く)の反応工程後排水を、そのまま逆浸透膜モジュールに供給して透過水と濃縮水とに分離すると共に、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去された透過水を他の逆浸透膜モジュールで膜分離処理することなく処理水として得る除去手段」は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないから、本件特許発明1?10は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?10に係る特許は、取り消されるべきものである。(申立書の4.4.1.2、4.4.2、4.4.3、4.4.4.1、4.4.5、4.4.6.2、4.4.7、4.4.8、4.4.9.1、4.4.10)

(ウ) 「全有機炭素が5mgC/L以下の処理水を用水として再利用」は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないから、本件特許発明4?5、9?10は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項4?5、9?10に係る特許は、取り消されるべきものである。(申立書の4.4.4.2、4.4.5、4.4.9.2、4.4.10)

ウ 特許法第36条第6項第2項(概略)について
「前記除去工程で得られたホルムアルデヒド濃度が0.08mg/L以下の処理水を用水として再利用する利用工程」、及び、「前記除去手段で製造されたホルムアルデヒド濃度が0.08mg/L以下の透過水を用水として再利用する利用手段」は、透過水にホルムアルデヒドの反応によって得られたヒドロキシメタンスルホン酸イオンが含まれていてもよいかどうかは不明確であり、また、用水として再利用できるかどうか不明確であるから、本件特許発明1?10は、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?10に係る特許は、取り消されるべきものである。(申立書の4.4.1.3、4.4.2、4.4.3、4.4.4.1、4.4.5、4.4.6.3、4.4.7、4.4.8、4.4.9.1、4.4.10)

エ 特許法第36条第4項第1号(概略)について
発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たさないものであり、請求項1?10に係る特許は、取り消されるべきものである。(申立書の4.4.11)

4 判断
(1)特許法第29条の2について
特願2012-77254号の当初明細書等には、
「【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において処理対象とするホルムアルデヒド含有排水としては、食品工場の容器洗浄排水や、レトルト冷却排水などが例示される。
【0014】
本発明では、好ましくはホルムアルデヒド含有排水にまず亜硫酸塩を添加してヒドロキシメタンスルホネートを生成させる。この亜硫酸塩としてはNa_(2)SO_(3)又はNaHSO_(3)が好適である。
【0015】
亜硫酸塩の添加量はホルムアルデヒド含有排水中のホルムアルデヒド濃度との比([SO_(3)]/[HCHO]の重量比)が3以上、特に3?7となる程度が好ましい。
【0016】
この亜硫酸塩とホルムアルデヒドとの反応時のpHは3?8程度であればよい。また、反応時間は5分以上例えば10?15分程度であればよい。
【0017】
この亜硫酸塩を添加したホルムアルデヒド含有排水を、その後、逆浸透膜(RO膜)によって膜分離処理する。この場合、前述の通り、RO膜への給水のpHの上昇に伴いRO膜表面の電荷がマイナスとなり、負に帯電したヒドロキシメタンスルホネートが分離され易くなるので、pHを7以上特に7?11とりわけ8?11とすることが好ましい。
【0018】
このRO処理を施すことにより、ホルムアルデヒド除去率90%以上の処理結果を得ることができる。
【0019】
なお、RO処理の濃縮水は生物処理やO_(3)/H_(2)O_(2)やH_(2)O_(2)/UVによる促進酸化処理等によって処理すればよい。
【0020】
実験例1
ホルムアルデヒド濃度5mg/LでpH=7の合成ホルムアルデヒド含有排水を調製した。
【0021】
このホルムアルデヒド含有排水に対し[SO_(3)]/[HCHO](重量比)が0,2,3,5,8又は10となるように亜硫酸ナトリウムを添加した(「0」の場合は添加せず)。常温で5分撹拌した後、RO装置(日東電工製ES-20)に通水してRO処理した。透過水のホルムアルデヒド濃度を測定し、ホルムアルデヒド除去率を求めた。結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
実験例2,3
[SO_(3)]/[HCHO]=5とし、pHを4又は9としたこと以外は実験例1と同様としたところ、ホルムアルデヒド除去率は次の通りであった。
pH=4の場合:80%
pH=9の場合:93.5%
【0024】
実験例3
亜硫酸ナトリウム(Na_(2)SO_(3))の代わりに亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO_(3))を同重量比で添加し、pHを4,7又は9としたこと以外は実験例2と同様としたところ、ホルムアルデヒド除去率は次の通りであった。
pH=4の場合:75%
pH=7の場合:90.3%
pH=9の場合:91.1%
【0025】
上記結果より、[SO_(3)]/[HCHO]が3以上であるとホルムアルデヒド分解率が高くなること、またpHを7以上特に8以上とするとホルムアルデヒド分解率が高くなることが認められる。」
との記載がある。

してみると、特願2012-77254号の当初明細書等には、
「ホルムアルデヒド含有排水に、[SO_(3)]/[HCHO]の重量比が3以上、特に3?7となる程度に亜硫酸塩を添加し、
pHは3?8程度、反応時間は5分以上例えば10?15分程度で反応させてヒドロキシメタンスルホネートを生成し、
pHを7以上特に7?11とりわけ8?11として、ヒドロキシメタンスルホネートを逆浸透膜(RO膜)によって膜分離処理し、
ホルムアルデヒド除去率90%以上の処理結果を得る方法又はシステム。」の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
ここで、特願2012-77254号の当初明細書等の記載において、「pHを7以上特に7?11とりわけ8?11とすること」と、高い「ホルムアルデヒド除去率」とには、密接な関係が認められるところ、ホルムアルデヒド濃度が0.08mg/L以下の透過水を得られるような、高い「ホルムアルデヒド除去率」を達成する発明として開示されているのは、逆浸透膜分離処理時のpHを7以上とするものであり、pH7未満での逆浸透膜分離処理を意図するものは開示されているといえない。

そうであるから、本件特許発明1の「前記反応工程で得られたpH5?7(但し、pH7を除く)の反応工程後排水をそのまま逆浸透膜モジュールに供給して透過水と濃縮水とに分離すると共に、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去された透過水を他の逆浸透膜モジュールで膜分離処理することなく処理水として得る除去工程」を含む方法、及び
本件特許発明6の「前記混合手段で得られたpH5?7(但し、pH7を除く)の反応工程後排水を、そのまま逆浸透膜モジュールに供給して透過水と濃縮水とに分離すると共に、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去された透過水を他の逆浸透膜モジュールで膜分離処理することなく処理水として得る除去手段」を備えたシステムは、先願発明に包含されるものではない。

また、甲第2?12号証、参考文献1?4に記載された事項を検討しても、上記の本件特許発明1、6と、特願2012-77254号の当初明細書等に記載された発明との相違点は、実質的な相違点でないとはいえないから、本件特許発明1、6は、特願2012-77254号の当初明細書等に記載された発明と同一でない。
さらに、本件特許発明2?5、7?10は、本件特許発明1、6の発明特定事項を全て含むものであるから、同様に、特願2012-77254号の当初明細書等に記載された発明と同一でない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
ア 課題について
本件特許発明1?10の解決しようとする課題は、【0007】の記載からみて、「迅速かつ安定的に、ホルムアルデヒドを含む原水からホルムアルデヒドを除去することのできる水処理方法及び水処理システムを提供すること」であると認められる。
なお、【0063】に、「第1及び第2実施形態において、除去手段が正常に機能しているか否かを監視するために、TOC測定手段を適宜設けた構成としてもよい。…TOC測定手段に代えて、亜硫酸水素イオン測定手段又はヒドロキシメタンスルホン酸イオン測定手段を用いてもよい。…」と記載され、また、【0076】に、「…、反応生成物は、RO膜モジュールでの分離により、ホルムアルデヒド以外のTOCとして濃縮水中に濃縮されたことが分かる。」と記載されていることを踏まえると、本件特許明細書の記載における「TOC」は、ホルムアルデヒドを反応させて得られるヒドロキシメタンスルホン酸イオンが十分に除去されたかどうかを確認するための指標であり、そもそもホルムアルデヒド以外のTOCに注目するものではないというべきである。
そうであるから、「TOC」、すなわち、ホルムアルデヒド以外の「全有機炭素」そのものを減らすことが、解決しようとする課題とはいえない。

イ 申立人の主張についての検討
(ア)上記3(2)イ(ア)について
申立人は、「ここでは『pH5?7(但し、pH7を除く)で反応させ』と特定されているが、pH範囲についての実施例における言及がない。実施例におけるpHの記載は、本件特許明細書の0069における『排水(pH7)』、0079における『排水(pH7.2)』だけであり、反応工程におけるpHの記載はなく、pH5?7(但し、pH7を除く)で反応させる効果は明細書の発明の詳細な説明において証明されていない。」、「『ホルムアルデヒド濃度0.08mg/L以下』の効果は実施例の効果であって、発明の効果として証明されていない。」と主張している。
しかしながら、【0039】に、「反応時のpHは、3?9が好ましく、5?7がより好ましい。」と記載されており、「pH5?7(但し、pH7を除く)」である場合であっても、効果が裏付けられた実施例1?7と同程度の効果は奏されるとみるのが妥当である。

また、申立人は、「また「pH5?7(但し、pH7を除く)」とすることにより甲第1号証に示された範囲より優れた効果を奏することが証明されていない。」とも主張している。
しかしながら、「pH5?7(但し、pH7を除く)」とすることにより甲第1号証に示された範囲(pH7以上)より優れた効果を奏することが証明されてないことは、サポート要件に適合していない理由にはならない。

また、申立人は、「…逆反応が起きるのは「アルカリ」の存在下に限らず、「酸」の存在下においても起きることは広く知られているが、それと本件発明においてpH5?7(但し、pH7を除く)で反応させることが手段としてどのように区別されるのかが明確に記載されていない。」とも主張している。
しかしながら、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンは、【0039】からして、pH5?7(但し、pH7を除く)下において生成される。また、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンは、【0006】、【0018】からして、RO膜モジュールでホルムアルデヒドよりも高い除去率で除去されるから、平衡反応の常識に照らして、透過水中での【0019】【化1】に記載された反応式は、右に進むことになり、順反応が支配的となる。
そして、【0020】に、「よって、水処理システム1では、混合槽3において、ホルムアルデヒドをヒドロキシメタンスルホン酸イオンに転換するのに加え、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンの分解によりホルムアルデヒドが再生することを防ぐために、RO膜モジュール5及び多孔質吸着材床塔8によりヒドロキシメタンスルホン酸イオンを除去する。」と記載されるように、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンの逆反応による透過水中でホルムアルデヒドが再生することの防止は、RO膜モジュールでヒドロキシメタンスルホン酸イオンを除去することにより、為されているというべきであり、「酸」の存在下においても逆反応が起きるとしても、透過水中での逆反応は、「アルカリ」を含有する場合の逆反応と区別なく防がれるというべきである。

(イ) 上記3(2)イ(イ)について
申立人は、「ここでは『ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去された透過水を・・・処理水として得る』と記載されているが、『ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去され』は実施例において測定もされておらず、その効果は具体的に証明されていない。」、「しかるに実施例においてヒドロキシメタンスルホン酸イオンを測定していないことは、本発明が課題とする『ホルムアルデヒドを含む原水からホルムアルデヒドを除去すること』が発明の詳細な説明に具体的に記載されていないことになる。」と主張している。
しかしながら、【0076】に、「…、反応生成物は、RO膜モジュールでの分離により、ホルムアルデヒド以外のTOCとして濃縮水中に濃縮されたことが分かる。」と記載されており、ここで、「反応生成物」とは、亜硫酸水素ナトリウムとホルムアルデヒドとを反応させた、「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」であるから、実施例5?7において、当該亜硫酸水素ナトリウムとホルムアルデヒドとを反応させた、「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」は十分に除去されている(濃縮水中に濃縮されている)ということができる。
そして、当該実施例5?7は、透過水中のホルムアルデヒド濃度が検出限界未満になるものであり、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが十分に除去されることにより、ホルムアルデヒドが十分に除去されることを示す具体例ということができる。

(ウ) 上記3(2)イ(ウ)について
申立人は、「本件特許発明ではこれらの低分子量有機物のうちホルムアルデヒドに対しては付加塩に添加してRO膜に対する透過性を低くしているが、他の低分子量有機物の透過性を低くして除去する方法、手段は発明の詳細な説明に記載されていない。」と主張している。
しかしながら、本件特許発明4、5、9、10の課題も、上記アのとおりであり、他の低分子量有機物や全有機炭素の除去を課題とするものではない。
そして、実施例5?7に、透過水中の全有機炭素を5mgC/L以下とする具体例が記載されている。

(エ) 小括
してみると、申立人の上記主張は採用できない。

ウ 小括
上記イで検討した内容からして、特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(3)特許法第36条第6項第2項について
申立人は、「しかるに発明特定事項としては透過水のホルムアルデヒド濃度が特定されているが、ヒドロキシメタンスルホン酸イオン濃度は特定されておらず、発明の詳細な説明でも明確に説明されていないから、透過水にヒドロキシメタンスルホン酸イオンが含まれていてもよいかどうかは不明確である。もし透過水にヒドロキシメタンスルホン酸イオンが含まれていると、本件特許明細書0019の化1の式は可逆反応であるから、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンがホルムアルデヒドと亜硫酸水素塩に分解して、透過水中にホルムアルデヒドが生成する可能性がある。このような透過水を用水として再利用できるかどうかは不明確である。」と主張している。

しかしながら、透過水のヒドロキシメタンスルホン酸イオンの濃度は特定されていないものの、請求項1、6に記載された、「逆浸透膜モジュールに供給して…、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去された透過水を…得る除去工程(手段)」との特定事項から、透過水のヒドロキシメタンスルホン酸イオンは、上記(2)イ(イ)で検討した実施例5?7のように、除去されているということができる。
また、上記(2)イ(ア)で検討したとおり、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンは、ホルムアルデヒドよりも除去率が高いのであるから、逆反応による透過水中でホルムアルデヒドが再生することは、防がれているということができる。
そして、工業用水等として再利用するとき、高度の浄水を用いる必要がないことからして、有害物質のホルムアルデヒドが除去された透過水は、再利用できる水質のもの(水質基準を満たすもの)であると見るのが妥当である。

してみると、特許請求の範囲の記載は、明確である。

(4)特許法第36条第4項第1号について
申立人は、「…1B:反応工程については『pH5?7(但し、pH7を除く)』」の実施例はなく、効果が示されていない。また、1C:除去工程についても『ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去され』は実施例において測定もされておらず、その効果は具体的に証明されていない。1D:利用工程についてはヒドロキシメタンスルホン酸イオンが含まれている透過水をどのように利用するか不明確である。このように上記工程に関してはいずれも実施例で効果が証明されておらず、また具体的な説明もない」と主張している。
しかしながら、具体的説明がないからといって、反応時のpHを、「pH5?7(但し、pH7を除く)」に変更することに、特段の試行錯誤を要するとはいえない。また、逆浸透膜モジュールの使用によって、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンを除去することに、特段の試行錯誤を要するとはいえない。さらに、処理水を、工業用水等に利用することに、特段の試行錯誤を要するとはいえない。そして、これまでの検討で示したように、実施例1?7と同程度の効果は奏されるということができる。

また、申立人は、「RO膜に対する透過性が高い低分子量有機物が含まれる場合に、どのようにして『全有機炭素が5mgC/L以下の処理水』を得るかは不明である」とも主張している。
しかしながら、本件特許明細書に記載された実施例では、原水中のTOC濃度が、0.88mgC/L(実施例1?5)、2.1mgC/L(実施例6、7)である排水を処理対象とし、ホルムアルデヒドを0.08mg/L以下とした透過水中のTOC濃度も原水と比較して増加していないものであることからみて、そもそも、RO膜に対する透過性が高い低分子量有機物が多く含まれる原水を対象にするものではないというべきである。

また、申立人は、「本件特許明細書の0061および0062において、『RO膜モジュール5』を省略してもよいと記載されているが、請求項1の1Cおよび請求項6の6Cにおいて『逆浸透膜モジュールに供給して』と特定されていることとの関係が不明であり」とも主張している。
しかしながら、【0061】、【0062】に、「この構成では、混合槽3において生成したヒドロキシメタンスルホン酸イオンは、多孔質吸着材床塔8中の多孔質吸着材に吸着し除去される。」、「この構成では、混合槽3において生成したヒドロキシメタンスルホン酸イオンは、陰イオン交換樹脂床塔9中の陰イオン交換樹脂に吸着し除去される。」と記載され、【0061】、【0062】に記載された事項が、本件特許発明1?10の実施態様でないことが明らかである。

また、申立人は、「本件特許明細書の0069には、実施例における原水の調整について記載されており、原水のTOCに関し、『TOCは0.88mgC/Lであった。』と記載されている。しかるに0074には実施例5について記載されているが、0075の表2では原水のTOCは『2.20mgC/L』と記載されており、一致しないから不明確である。」とも主張している。
しかしながら、実施例5について、【0076】に、「表2において原水と濃縮水との間で結果を比較すると、モル比5.5で亜硫酸水素ナトリウムとホルムアルデヒドとを反応させたことにより、ホルムアルデヒドの量が大幅に減少し、また、反応生成物は、RO膜モジュールでの分離により、ホルムアルデヒド以外のTOCとして濃縮水中に濃縮されたことが分かる。」と記載されている。
すると、上記の下線部によれば、ホルムアルデヒドは、亜硫酸水素ナトリウムとの反応の前後が論じられ、TOCは、分離の前後が論じられているから、【表2】を、【0080】、【0081】に倣って、また【0069】、【0074】を踏まえて記載すれば、以下の【表2’】のとおりであり、さらに、【0076】は、以下の【0076’】の意図であることが明らかである。
【表2’】

【0076’】
「表2’において添加前原水と添加後原水との間で結果を比較すると、モル比5.5で亜硫酸水素ナトリウムとホルムアルデヒドとを反応させたことにより、ホルムアルデヒドの量が大幅に減少し、また、表2’において添加後原水と濃縮水との間で結果を比較すると、反応生成物は、RO膜モジュールでの分離により、ホルムアルデヒド以外のTOCとして濃縮水中に濃縮されたことが分かる。」
上記からして、【表2】及び【0076】の2.20mgC/LのTOCは、亜硫酸水素ナトリウムが添加された原水のTOCであって、【0069】の原水の範疇から外れるものであるというべきである。

してみると、申立人の上記主張は採用できない。
そして、発明の詳細な説明に記載された各実施例、及び、各工程の説明をみれば、発明の詳細な説明は、当業者が、本件特許発明1?10の実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-07-25 
出願番号 特願2012-106295(P2012-106295)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C02F)
P 1 651・ 536- Y (C02F)
P 1 651・ 161- Y (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 金 公彦  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 瀧口 博史
中澤 登
登録日 2016-09-23 
登録番号 特許第6007575号(P6007575)
権利者 三浦工業株式会社
発明の名称 水処理方法及び水処理システム  
代理人 加藤 竜太  
代理人 岩池 満  

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