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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1331240
異議申立番号 異議2017-700532  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-29 
確定日 2017-08-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6038497号発明「ポリスチレン系樹脂組成物及び導光板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6038497号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6038497号(以下、「本件特許」という。)に係る出願(特願2012-136804号)は、出願人PSジャパン株式会社によりなされた、平成24年6月18日を出願日とする特許出願であり、平成28年11月11日に特許権の設定登録(請求項の数3)がなされた。その後、特許異議申立人西郷新(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明3」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?3にそれぞれ記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリスチレン樹脂、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤及び4-t-ブチルカテコールを含むポリスチレン樹脂組成物であって、
該リン系酸化防止剤の含有量が、該ポリスチレン樹脂100質量部に対して0.02質量部?0.2質量部であり、
該フェノール系酸化防止剤の含有量が、該ポリスチレン樹脂100質量部に対して0.02質量部?0.2質量部であり、そして
該4-t-ブチルカテコールの含有量が、該ポリスチレン樹脂組成物1g当たり1μg?6μgである、ポリスチレン樹脂組成物。
【請求項2】
紫外線吸収剤、光安定剤、該リン系酸化防止剤及び該フェノール系酸化防止剤以外の酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、染料又は顔料、蛍光増白剤、選択波長吸収剤、並びに離型剤から成る群から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む、請求項1に記載のポリスチレン樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリスチレン樹脂組成物を成形して得られる導光板であって、
光路長が300mmである光線透過率において、
波長500nm?600nmの範囲の平行光の平均透過率が83%以上であり、
波長500nm?600nmの範囲の平行光の平均透過率に対する波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率の比が0.92以上であり、かつ、
該波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率に対する、80℃及び500時間の曝露処理後における波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率の比率で定義される、平均透過率の保持率が95%以上である、導光板。」

第3 申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書において、証拠として以下の各甲号証を提出して、本件特許の請求項1?3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載の発明及び甲第2?11号証に記載の技術的事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当するから、請求項1?3に係る本件特許は、取り消されるべきものであると主張している。

<証拠方法>
甲第1号証:国際公開第2011/162306号
甲第2号証:国際公開第2010/071152号
甲第3号証:特開2009-215476号公報
甲第4号証:特開2004-250610号公報
甲第5号証:特開2010-211977号公報
甲第6号証:特開2004-250609号公報
甲第7号証:特開2012-149156号公報
甲第8号証:特開2009-185291号公報
甲第9号証:特開2008-189902号公報
甲第10号証:Material Life,5(4),pp.89-95(Oct.1993)
甲第11号証:米国特許第5,221,461号明細書

(以下、甲第1号証?甲第11号証を、それぞれ、「甲1」から「甲11」ともいう。)

第4 甲各号証の記載及び甲第1号証に記載された発明

1.甲第1号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である、スチレン系樹脂からなる導光板に関するものである甲第1号証には、以下の記載事項が記載されている。(なお、下線は合議体が付した。)
「【特許請求の範囲】
[請求項1] メタノール可溶分が1.5質量%以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)が15万?45万であるスチレン系樹脂からなることを特徴とする導光板。
・・・
[請求項4] 前記スチレン系樹脂が、4-t-ブチルカテコール濃度が10μg/g未満であるスチレン系単量体を重合して得られる樹脂である、請求項1?3のいずれかに記載の導光板。
・・・
[請求項8] 前記スチレン系樹脂が、全光線透過率が90%以上である、請求項1?7のいずれかに記載の導光板。
・・・
[請求項10] 前記スチレン系樹脂が、YI(黄色度)が0.3以下である、請求項1?9のいずれかに記載の導光板。」

「[0001] 本発明はスチレン系単量体を原料とするスチレン系樹脂からなる導光板に関する。」

「[0006] 従来、液晶ディスプレイ用光源として冷陰極管が使用される場合、紫外線による黄変が比較的小さく、光学特性が比較的良好なPMMAやMS樹脂が導光板材料として使用されている。
一方、昨今の省電力化の流れから、光源の冷陰極管からLEDへの変換が進行中で、導光板の黄変を引き起こす紫外線領域での発光スペクトルのほとんどない白色LED使用の際は、スチレン系単量体を原料としたスチレン系樹脂からなる導光板も安価で有用性が大きいものと期待されている。
しかしながら、今までの導光板では、耐熱性と成形時の黄変抑制の両立が必ずしも充分ではなかった。
[0007] 本発明は、耐熱性に優れ、成形時の黄変の少ない、スチレン系単量体を原料としたスチレン系樹脂からなる導光板を提供することを課題とする。
・・・
[0009] 本発明の導光板は、耐熱性が高いため使用時の熱変形を抑えることができ、成形時の黄変を防ぐことができる。・・・
[0010] 本発明の導光板は、スチレン系樹脂、またはスチレン系樹脂に対し、必要に応じて、光拡散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを添加した組成物を射出成形や押出成形などの成形方法で得ることができる。
スチレン系樹脂は、・・・好ましくはスチレンである。
[0011] スチレン系単量体の重合方法としては、・・・公知のスチレン重合方法が挙げられる。・・・溶液重合法の溶媒として、例えば・・・エチルベンゼン・・・等のアルキルベンゼン類・・・が使用できる。
・・・
[0013] 重合工程では、公知の完全混合槽型攪拌槽や塔型反応器等を用い、樹脂が目標とする分子量分布になるように、重合温度の調整等により反応制御をすることが好ましい。
重合工程を出た重合体を含む重合溶液は、脱揮工程に移送され、未反応の単量体及び重合溶媒が除去される。脱揮工程は加熱器付きの真空脱揮槽やベント付き脱揮押出機などで構成される。脱揮工程を出た溶融状態の重合体は造粒工程へ移送される。造粒工程では、・・・ペレット形状に加工される。
[0014] スチレン系樹脂中のメタノール可溶分は1.5質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.8質量%以下である。メタノール可溶分が1.5質量%を超えると、導光板の耐熱性が不十分となり熱変形することがある。
[0015] メタノール可溶分は、樹脂中のメタノールに可溶な成分の量であり、例えば、重合過程や脱揮工程で生成するスチレンオリゴマー(・・・)の他、ホワイトオイル、シリコーンオイル等の各種添加剤や残存単量体及び残存重合溶媒等の低分子量成分が含まれる。 」

「[0020] ・・・残存単量体及び残存重合溶媒は、メタノール可溶分の一部であるが分子量が低い成分であり耐熱性への影響が大きい。
また、残存単量体及び残存重合溶媒は揮発性が高いため、例えば押出成形にて導光板を押出する際、ダイス出口で揮発してダイスに凝縮し、目ヤニの原因となることがある。目ヤニが押出した導光板に付着すると外観不良となる。また、射出成形の場合でも、射出成形時にガスが発生し、成形不良の原因となることがある。
[0021] 残存単量体及び残存重合溶媒は、樹脂中に残存する単量体と残存する重合溶媒の量であり、例えば、スチレン、エチルベンゼン、トルエン等が挙げられる。残存単量体及び残存重合溶媒の量は、脱揮工程の構成や脱揮工程での温度や真空度などの条件で調整することができる。」

「[0026] スチレン系樹脂を製造する際、重合工程に供給するスチレン系単量体中の4-t-ブチルカテコール濃度が10μg/g未満であることが好ましく、さらに好ましくは3μg/g未満である。4-t-ブチルカテコール濃度が10μg/g以上になると、導光板の黄色味が強くなることがある。市場で入手できるスチレン系単量体には、重合禁止剤として10?30μg/gの4-t-ブチルカテコールが含まれる。スチレン系単量体中の4-t-ブチルカテコール濃度は、吸着剤として活性アルミナを使用することで低減することができる。」

「[0029] スチレン系樹脂の光学特性として全光線透過率、ヘーズ(曇価)を、東芝機械社製射出成形機(I・・・)のシリンダー温度230℃、金型温度40℃での射出成形試験片(厚さ2mm、寸法40mm×40mm)を用い、JIS K-7105に準拠し、測定を行った。
透明性の観点から、スチレン系樹脂の全光線透過率は90%以上が好ましく・・・。
[0030] また、本発明ではYI(黄色度)を色相の判断基準とし、測色色差計(NDJ4000、日本電色工業社製)を用い、前記のサンプルを反射法にて測定を行った。YIが0.7を超えると、成形品の黄色味が強く色相が劣るものとなり好ましくない。YIが0.7以下を合格として判定した。スチレン系樹脂のYIは、0.3以下であるのがより好ましい。」

「[0034] 参考例、4-t-ブチルカテコール(以下、TBCという。)濃度の調整
市販のスチレンには重合禁止剤として10?30μg/gのTBCが含まれる。TBC濃度が12μg/gの市販スチレン100重量部に活性アルミナ1質量部を添加、混合してTBCを吸着し、ろ紙で活性アルミナを除去して、TBC濃度が検出下限(1μg/g)未満のスチレンを得た。重合工程に供給されるスチレン中のTBC濃度は、スチレンにTBCを添加して調整した。
[0035] (スチレン系樹脂PS-1?PS-14の製造方法)
完全混合型撹拌槽である第1反応器と第2反応器及び静的混合器付プラグフロー型反応器である第3反応器を直列に接続して重合工程を構成した。各反応器の容量は、第1反応器を39リットル、第2反応器を39リットル、第3反応器を16リットルとした。表1に記載の原料組成にて、原料溶液を調製した。表1に記載の原料組成にて、原料溶液を調製した。
該原料溶液を第1反応器に対して表1に記載の流量にて連続的に供給した。重合開始剤は、第1反応器の入口で表1に記載の添加濃度(原料スチレンに対する質量基準の濃度)となるように原料溶液に添加混合した。表1に記載の重合開始剤はそれぞれ次の通りである。また、ホワイトオイルはエクソンモービル社製クリストールN352を使用し、第3反応器の出口に供給した。
重合開始剤-1 :2,2-ビス(4,4-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン(日本油脂社製パーテトラAを使用した。)
重合開始剤-2 :1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(日本油脂社製パーヘキサCを使用した。)
重合開始剤-3 :t-アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製ルペロックス570を使用した。)
連鎖移動剤-1 :α-メチルスチレンダイマー(日本油脂社製ノフマーMSDを使用した。)
・・・
なお、第3反応器では、流れの方向に沿って温度勾配をつけ、中間部分、出口部分で表1の温度となるよう調整した。
続いて、第3反応器より連続的に取り出した重合体を含む溶液を直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、表1に記載の樹脂温度となるよう予熱器の温度を調整した。また、表1に記載の圧力に調整することで、未反応のスチレン及びエチルベンゼンを分離した後、多孔ダイよりストランド状に押し出して、コールドカット方式にて、ストランドを冷却および切断しペレット化した。また、得られたペレットに外部潤滑剤として、エチレンビスステアリルアミドを100μg/gの濃度で添加しドライブレンドした。
[0036]
[表1]


・・・
[0039] (実施例1?12、比較例1?4)
表2に、各樹脂の特性を示す。
[0040]



[0041] 実施例では、耐熱性に優れ、成形時の黄変の少ない、スチレン系単量体を原料としたスチレン系樹脂からなる導光板が得られる。」

2.甲第1号証に記載された発明
上記1.の記載(特に、スチレン系樹脂及び該樹脂からの導光板の具体的製造例の具体例に関する[0034]?[0040]における、[0035]、[0036]の表1のPS-1の欄の記載及び[0040]の表2の実施例2及び3の欄の記載)によれば、甲1には、実施例2或いは3として、以下の発明が記載されていると認められる。

「スチレン単量体中の4-t-ブチルカテコール濃度が8μg/gであるスチレン単量体から、下記のPS-1の製造方法により製造されたスチレン系樹脂を含有する、以下の組成物特性2を有するスチレン系樹脂組成物。

組成物特性2:
・メルトフローレイト 6.1g/10分
・メタノール可溶分 0.7質量%
・数平均分子量(Mn) 9万
・重量平均分子量(Mw) 21万
・Z平均分子量(Mz) 38万
・Mw/Mn 2.4
・Mz/Mw 1.8
・残存スチレンが200μg/gで残存エチルベンゼンが70μg/gで総揮発分が270μg/g
・スチレンダイマーが200μg/gでとスチレントリマーが3490μg/gで、合計が3690μg/g

PS-1の製造方法:
完全混合型撹拌槽である第1反応器と第2反応器及び静的混合器付プラグフロー型反応器である第3反応器を直列に接続して重合工程を構成した。各反応器の容量は、第1反応器を39リットル、第2反応器を39リットル、第3反応器を16リットルとした。以下の表1の原料組成にて、原料溶液を調製した。
該原料溶液を第1反応器に対して表1に記載の流量にて連続的に供給した。重合開始剤は、第1反応器の入口で表1に記載の添加濃度(原料スチレンに対する質量基準の濃度)となるように原料溶液に添加混合した。重合開始剤3はt-アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製ルペロックス570を使用した。)であった。
なお、第3反応器では、流れの方向に沿って温度勾配をつけ、中間部分で145℃、出口部分で155℃の温度となるよう調整した。
続いて、第3反応器より連続的に取り出した重合体を含む溶液を直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、脱揮槽1では、樹脂温度160℃、圧力65kPa、脱揮槽2では、樹脂温度220℃、圧力0.4kPaとなるよう予熱器の温度及び圧力に調整することで、未反応のスチレン及びエチルベンゼンを分離した後、多孔ダイよりストランド状に押し出して、コールドカット方式にて、ストランドを冷却および切断しペレット化した。

表1:



(以下、「甲1発明A」という。)

「スチレン単量体中の4-t-ブチルカテコール濃度が20μg/gであるスチレン単量体から、下記のPS-1の製造方法により製造されたスチレン系樹脂を含有する、以下の組成物特性3を有するスチレン系樹脂組成物。

組成物特性3:
・メルトフローレイト 6.4g/10分
・メタノール可溶分 0.8質量%
・数平均分子量(Mn) 8万
・重量平均分子量(Mw) 20万
・Z平均分子量(Mz) 36万
・Mw/Mn 2.4
・Mz/Mw 1.8
・残存スチレンが190μg/gで残存エチルベンゼンが70μg/gで総揮発分が260μg/g
・スチレンダイマーが200μg/gでとスチレントリマーが3500μg/gで、合計が3700μg/g

PS-1の製造方法:
完全混合型撹拌槽である第1反応器と第2反応器及び静的混合器付プラグフロー型反応器である第3反応器を直列に接続して重合工程を構成した。各反応器の容量は、第1反応器を39リットル、第2反応器を39リットル、第3反応器を16リットルとした。以下の表1の原料組成にて、原料溶液を調製した。
該原料溶液を第1反応器に対して表1に記載の流量にて連続的に供給した。重合開始剤は、第1反応器の入口で表1に記載の添加濃度(原料スチレンに対する質量基準の濃度)となるように原料溶液に添加混合した。重合開始剤3はt-アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製ルペロックス570を使用した。)であった。
なお、第3反応器では、流れの方向に沿って温度勾配をつけ、中間部分で145℃、出口部分で155℃の温度となるよう調整した。
続いて、第3反応器より連続的に取り出した重合体を含む溶液を直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、脱揮槽1では、樹脂温度160℃、圧力65kPa、脱揮槽2では、樹脂温度220℃、圧力0.4kPaとなるよう予熱器の温度及び圧力に調整することで、未反応のスチレン及びエチルベンゼンを分離した後、多孔ダイよりストランド状に押し出して、コールドカット方式にて、ストランドを冷却および切断しペレット化した。

表1:



(以下、「甲1発明B」という。)

なお、甲1発明Bの「PS-1の製造方法」及び「表1」の記載内容は、甲1発明Aについてのものと同じである。また、以下、「4-t-ブチルカテコール」を「TBC」ともいう。

第5 当合議体の判断
当合議体は、以下に述べるように、申立人の主張する取消理由によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできないと判断する。

1.本件発明1について
(1)対比
本件発明1と、甲1発明A又は甲1発明Bとを対比する。
甲1発明Aの「スチレン単量体中の4-t-ブチルカテコール濃度が8μg/gであるスチレン単量体から、下記のPS-1の製造方法により製造されたスチレン系樹脂を含有する、以下の組成物特性2を有するスチレン系樹脂組成物」、及び、
甲1発明Bの「スチレン単量体中の4-t-ブチルカテコール濃度が20μg/gであるスチレン単量体から、下記のPS-1の製造方法により製造されたスチレン系樹脂を含有する、以下の組成物特性3を有するスチレン系樹脂組成物。」は、いずれも、本件発明1の「ポリスチレン樹脂を含むポリスチレン樹脂組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と、甲1発明A又は甲1発明Bとは、
「ポリスチレン樹脂を含むポリスチレン樹脂組成物。」の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
本件発明1では、ポリスチレン樹脂組成物について、「4-t-ブチルカテコール」を、「4-t-ブチルカテコールの含有量が、ポリスチレン樹脂組成物1g当たり1μg?6μg」である量で「含む」ことが特定されているのに対し、甲1発明A又は甲1発明Bでは、ポリスチレン樹脂組成物に含まれる「4-t-ブチルカテコール」の含有量は特定されていない点。
<相違点2>
本件発明1では、ポリスチレン樹脂組成物について、「リン系酸化防止剤」を、「該リン系酸化防止剤の含有量が、該ポリスチレン樹脂100質量部に対して0.02質量部?0.2質量部」である量で「含む」ことが特定されているのに対し、甲1発明A又は甲1発明Bでは、かかる特定がない点。
<相違点3>
本件発明1では、ポリスチレン樹脂組成物について、「フェノール系酸化防止剤」を、「ポリスチレン樹脂100質量部に対して0.02質量部?0.2質量部」である量で「含む」ことが特定されているのに対し、甲1発明A又は甲1発明Bでは、かかる特定がない点。

(2)本件発明(本件発明1)の技術的意義について
本件特許明細書の【0008】?【0009】には、従来から、「ポリスチレン系樹脂は、吸水性という観点では優れているが、光線透過率等の光学特性は、アクリル系樹脂と比較して、やや劣」ることが知られており、「特に短い波長(500nm以下)の透過率がアクリル樹脂より低いために、光路長が長くなると、ポリスチレン系樹脂を通過した光が、薄黄色く着色する傾向があ」り、「光源等の熱源により加熱され続ける環境に長期間暴露すると、薄黄色く着色する傾向もある」という問題があったことが記載され、本件発明はこの問題を解決するものであって、「吸水性が低く、成形品のソリ又は寸法変化の抑制に優れ、かつ光学特性(具体的には光線透過率、特に短い波長の光線の透過率)にも優れるポリスチレン系樹脂組成物、及び該ポリスチレン系樹脂組成物を成形して得られる導光板を提供すること」を課題とする発明であることが記載されている。
そして、【0010】には、本件発明が、「ポリスチレン系樹脂組成物から導光板を成形するときに、4-t-ブチルカテコールを、ポリスチレン系樹脂組成物1g当たり特定濃度で存在させ、そしてポリスチレン系樹脂100質量部に対して特定量のリン系酸化防止剤と特定量のフェノール系酸化防止剤とを添加することにより、前記課題を解決することを見出し・・・完成するに至った。」と記載されている。

また、ポリスチレン樹脂組成物に含まれる「TBC(4-t-ブチルカテコール)を、「ポリスチレン樹脂組成物1g当たり1μg?6μg」とする点の技術的意義に関しては、
「ポリスチレン系樹脂組成物中のTBCは、典型的には、ポリスチレン系単量体の貯蔵時に使用したTBCが(重合工程、脱気工程で消費・除去されずに)残留しているものである。しかしTBCは、ポリスチレン系樹脂の製造後に、ポリスチレン系樹脂組成物中に含有させてもよい。また、ポリスチレン系樹脂組成物1g当たりの4-t-ブチルカテコールの濃度(以下、「TBC濃度」ともいう。)は、1μg/g?6μg/gの範囲である。TBC濃度が、1μg/g以上であると、リン系酸化防止剤と併用することにより、ポリスチレン系樹脂とリン系酸化防止剤との併用による光線透過率の低下を抑制することができ、一方で、6μg/g以下であると、4-t-ブチルカテコール自体の着色による光線透過率の低下を防止できる。」(【0027】)
と記載され、
ポリスチレン樹脂組成物に、「リン系酸化防止剤」及び「フェノール系酸化防止剤」を、「ポリスチレン樹脂100質量部に対して0.02質量部?0.2質量部」含むものとする点の技術的意義に関しては、
「リン系酸化防止剤は、高温下で劣化の原因となるヒドロペルオキシドを還元することで安定化するため、比較的短い波長(例えば波長420?500nm)の光の透過率の向上に寄与し、特に薄黄色着色の低減に寄与する。」(【0021】)
「ポリスチレン系樹脂組成物中のリン系酸化防止剤の含有量は、ポリスチレン系樹脂100質量部当たり、0.02質量部?0.2質量部である。この含有量が0.02質量部以上であると、成形時等樹脂が溶融するような高温での劣化による光線透過率の低下を抑えることができ、一方で、0.2質量部以下であると、モールドデポジットが発生しなくなる点、又はコストの点で有利である。」(【0023】)
「フェノール系酸化防止剤は、自動酸化において発生するペルオキシラジカルを捕捉し、準安定なヒドロペルオキシドとすることで、連鎖的な劣化の進行を抑制する。さらにヒドロペルオキシドは、リン系酸化防止剤により還元されて安定化される。このことに起因して、高温曝露時の光線透過率の保持率の向上に寄与し、特に高温環境での使用時の薄黄色着色の低減に寄与する。」(【0022】)
「ポリスチレン系樹脂組成物中のフェノール系酸化防止剤の含有量は、ポリスチレン系樹脂100質量部当たり、0.02質量部?0.2質量部である。この含有量が0.02質量部以上であると、導光板として使用される環境温度(室温?約70℃)での劣化による光線透過率の低下を抑えることができ、一方で、0.2質量部以下であると、フェノール系酸化防止剤自身が原因となる光線透過率の低下を防ぐことができる点、又はコストの点で有利である。」(【0022】)
と、記載されている。

また、本件発明により奏される効果に関し、本件特許明細書には、「本発明は、吸水性が低く、成形品のソリ又は寸法変化の抑制と、光学特性(具体的には光線透過率、特に短い波長の光線透過率)とを両立しているポリスチレン系樹脂組成物を提供することができる。また、本発明は、該ポリスチレン系樹脂組成物を用いて、テレビ又はパーソナルコンピュータ用モニター等の液晶表示装置のバックライト、及び室内外空間の照明装置等に使用される表示装置、並びに看板等に好適な導光板を提供することもできる。」(【0012】)と記載され、本件発明の具体的な実施例として、実施例1?6に、TBCを、ポリスチレン樹脂組成物1g当たり1.5μg?5.5μg、リン系酸化防止剤をポリスチレン樹脂100質量部に対して0.05質量部?0.10質量部、フェノール系酸化防止剤をポリスチレン樹脂100質量部に対して0.05質量部?0.10質量部含む本件発明1のポリスチレン樹脂組成物からの試験片(導光板)が、光路長300mmにおいて、波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率(A)が81%以上(小数点以下一桁四捨五入による。以下同様。)、波長500nm?600nmの範囲の平行光の平均透過率(B)が85%以上と高い光線透過率を有し、80℃及び500時間の曝露処理後(加熱後)の波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率(C)が78%以上と、高温処理後の波長420nm?500nmの範囲の光線透過率にも優れ、かつ、波長500nm?600nmの範囲の平行光の平均透過率に対する波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率の比(A/B)が0.93以上と波長選択性に優れ、波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率に対する、80℃及び500時間の曝露処理後(加熱後)の波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率の比率で定義される、平均透過率の保持率が0.93以上と光線透過率の保持率の点でも優れることが示されている(表1)。
そして、本件特許明細書には、導光板の波長選択性(A/B)について、「0.92以上であることは、光学特性に優れる点で有利であり、特に薄黄色の着色が抑えられる点で有利である。」(【0039】)、平均透過率の保持率(C/A)について、「保持率が95%以上であることは、光源等の熱源により加熱され続ける環境で使用した場合にも着色(特に薄黄色の着色)が抑えられる点で有利である。」(【0040】)と記載されているから、本件発明1の樹脂から製造される導光板は、光源等の熱源により加熱され続ける環境で使用した場合にも着色(特に薄黄色の着色)が抑えられる点で有利であることが推認できる。
また、実施例1と、フェノール系酸化防止剤が含まれない比較例1や、リン系酸化防止剤が含まれない比較例2との比較によれば、TBCを本件発明1で特定される量含有するポリスチレン樹脂組成物において、リン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤を本願発明1で特定される量併用する場合には、一方のみが含まれる場合よりも、80℃及び500時間の曝露処理後の波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率(C)(%)が優れていることが理解できるし、実施例1と比較例4との比較によれば、TBC含有量が本件発明1の特定を満足し、リン系及びフェノール系酸化防止剤を併用する場合であっても、フェノール系酸化防止剤の量が本件発明1で特定される配合量(0.2質量部)を超える場合(0.3質量部)には、Cの値が劣るのみならず、波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率(A)(%)及び波長500nm?600nmの範囲の平行光の平均透過率(B)(%))も劣ることが理解できる(表1及び表2)。
さらに、実施例3と比較例3との比較によれば、TBCが本件発明1で特定される範囲を超える場合には、A?Cの値は何れも劣る。

以上の本件特許明細書の記載によれば、本件発明では、ポリスチレン樹脂組成物において、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤及びTBCを特定量含むものとすることで、光学特性(A?Cの値で表される初期及び加熱後の光線透過率、特に、波長420nm?500nmの範囲の短い波長での光線透過率)に優れ、光透過距離が長い導光板に使用するのに好適なポリスチレン樹脂組成物が提供できるという技術的意義(効果)を有することが理解できる。

(3)相違点についての判断
甲1の[0007]には、「本発明は、耐熱性に優れ、成形時の黄変の少ない、スチレン系単量体を原料としたスチレン系樹脂からなる導光板を提供することを課題とする。」と記載され、[0019]には、耐熱性の指標としてビカット軟化温度を測定することが記載され、[0029]?[0030]には、シリンダー温度230℃で成形した試験片(導光版)について全光線透過率とYI(黄色度)を測定した旨が記載され、表2に、導光板光学特性の結果が記載されている。そして、これらの記載からも明らかなとおり、甲1発明A又は甲1発明Bは、成形による加熱黄変の改善を目的とするものであって、本件発明(本件発明1)のように、ポリスチレン樹脂には、特に短い波長(500nm以下)の透過率が低く、光路長が長くなると、ポリスチレン系樹脂を通過した光が、薄黄色く着色する傾向や、光源等の熱源により加熱され続ける環境に長期間暴露すると、薄黄色く着色する傾向がある問題があるのを解決し、「光学特性(具体的には光線透過率、特に短い波長の光線の透過率)にも優れるポリスチレン系樹脂組成物やこれを成形して得られる導光板を提供する」ことを目的とするものではない。
また、甲1には、相違点1に関し、[0026]に、「スチレン系樹脂を製造する際、重合工程に供給するスチレン系単量体中の4-t-ブチルカテコール濃度が10μg/g未満であることが好ましく、さらに好ましくは3μg/g未満である。4-t-ブチルカテコール濃度が10μg/g以上になると、導光板の黄色味が強くなることがある。」と記載されているとおり、スチレン系単量体中のTBC(4-t-ブチルカテコール)は、より少ないほうが好ましいのであり、実際、色相YI値(導光板の黄色度の値)が最も優れるが第1実施例をはじめとする甲1のほとんどの実施例(表2参照。)において、スチレン樹脂の重合原料であるスチレン系単量体中のTBC濃度はND(検出下限1μg/g未満)であり、この場合、製造されたスチレン樹脂組成物中のTBC濃度は1μg/g未満となる。
そうすると、甲1の記載からは、当業者は、甲1発明A又は甲1発明Bにおいて、樹脂組成物中に含まれるTBCを、スチレン系単量体に含まれるより好ましい範囲である1μg/g未満とすることに動機付けられる可能性はあるとしても、あえて、「ポリスチレン樹脂組成物1g当たり1μg?(6μg)」含むものとすることを動機付けられない。
さらに、申立人が提示した甲2?11のいずれにも、スチレン単量体に対するTBCの含有量等が記載されているのみで、4-t-ブチルカテコールの含有量を「ポリスチレン樹脂組成物1g当たり1μg?(6μg)」とすることは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2?11に記載の技術的事項を参酌しても、甲1発明A又は甲1発明Bを、相違点1にかかる本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

さらに、相違点2及び3に関しても、甲1には、[0010]に、「本発明の導光板は、スチレン系樹脂、またはスチレン系樹脂に対し、必要に応じて、光拡散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを添加した組成物を射出成形や押出成形などの成形方法で得ることができる。」と記載されているのみで、リン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤を特定量併用して含むものとする点の記載はない。

次に、本件発明1の効果について検討する。
(2)で記載したとおり、本件特許明細書には、「TBC濃度が、1μg/g以上であると、リン系酸化防止剤と併用することにより、ポリスチレン系樹脂とリン系酸化防止剤との併用による光線透過率の低下を抑制することができ」ることが記載されており(【0027】)、この点の効果は、甲1からは予期できないものであるし、本件発明では、ポリスチレン樹脂組成物において、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤及び4-t-ブチルカテコールを特定量含むことで、短波長での光学特性(A?Cの値で表される初期及び加熱後の光線透過率、波長選択性、光線透過率の維持率)に優れ、光路長300mmという長い光路長で使用する場合であっても、薄黄色の着色を抑制でき、また、光源等の熱源により加熱され続ける環境で長時間使用した場合にも薄黄色の着色が抑えられる点という優れた効果が奏されるものであって、この効果は、甲1?11からは予測できない効果である。

よって、本件発明1は、甲1に記載された発明(甲1発明A又は甲1発明B)及び甲2?11に記載の技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の3(4)ウにおいて、
「甲第1号証には、樹脂組成物中の4-t-ブチルカテコール濃度は開示されていないが、原料中の4-t-ブチルカテコール濃度と、重合及び脱揮条件が本件特許の実施例に類似している点を考慮すると、甲第1号証の実施例2及び3においても、樹脂組成物中の4-t-ブチルカテコール濃度は本件特許発明1で規定する範囲内であるといえる。
なお、異議申立人が実施例2及び3の再現実験を行い、得られたスチレン系樹脂中の4-t-ブチルカテコールの濃度を測定したところ、実施例2では1.0ppm、実施例3では2.0ppmであった。」
「仮に、甲第1号証に「4-t-ブチルカテコールの含有量が、該ポリスチレン樹脂組成物1g当たり1μg?6μgである」点が開示されていないと認定されたとしても、甲第2号証?甲第6号証には、この点が開示されているので、本件特許発明1は、甲第1号証?甲第11号証から容易に想到可能である。」と主張し、
特許異議申立書の3(4)イにおいては、具体的に、甲2の実施例24、甲4の実施例1、13及び甲5の実施例2をあげて、原料中の4-t-ブチルカテコール濃度と、重合及び脱揮条件が本件特許の実施例に類似していることから、樹脂組成物中の4-t-ブチルカテコール濃度は本件特許発明1で規定する範囲内であるといえる旨を主張し、また、甲2の実施例24、甲4の実施例1及び13における樹脂組成物中の4-t-ブチルカテコール濃度が、それぞれ、1.1ppm、1.6ppm、5.7ppmであった旨の主張をしている。

そこで、検討すると、特定のTBC濃度の組成物の製造に関し、本件特許明細書の【0028】には、「本発明では、比較的低い樹脂温度と低い減圧度で、脱気工程を運転することで、所望の4-t-ブチルカテコールを樹脂中に残存させることができる。」と記載され、また、具体的な製造例として、実施例1?3及び5?6には、TBC濃度11μg/gのスチレン原料を用いて(【0049】)得られた重合体溶液を、2段ベント付き脱揮押出機に連続的に供給し、「押出機温度220℃」、「真空度15torr」で、「未反応単量体及び溶媒を回収した」ことが記載され、「脱気押出機の温度を比較的低温にし、かつ減圧条件をマイルドにしたことにより、得られたスチレン系樹脂組成物中のTBC濃度は、1.5μg/gであった。」と記載されている(【0050】)。また、実施例4には、TBC濃度25μg/gのスチレン原料を用いて(【0053】)「実施例1と同様の方法でスチレン系樹脂組成物を得た」ところ、TBC濃度は、5.5μg/gであった(表1)ことが記載されている。

一方、甲1の実施例2及び3の製造方法では、「スチレン中4-t-ブチルカテコール」が「8μg/g」及び「20μg/g」含まれるスチレンからの重合体を、第2脱揮槽における「樹脂温度220℃」、「圧力0.4kPa(合議体注;これは、3torrに相当する。)」に減圧した第二脱揮槽に導入して脱揮(脱気)したことが記載されている(表1のPS-1の欄)。
また、甲2の実施例24には、4-t-ブチルカテコールが7ppm(合議体注;これはスチレンに対し7μg/gに相当する。)含まれるスチレン-2([0066])から、実施例1と同様とされる実施例4と同様の方法([0075])で得たスチレン系樹脂8([0092])からのスチレン樹脂組成物成形体([0113]及び表3)を製造したことが記載され、実施例1の条件によれば、スチレン系樹脂8は、「温度240℃で圧力1.0kPa(合議体注;これは、7.5torrに相当する。)で制御した脱揮槽」で揮発分が除去されたことが記載されている([0070])し、甲4の実施例1及び13には、「TBCを12ppm(合議体注;これはスチレンに対し12μg/gに相当する。)含むスチレン」を用いて、「予熱器で230℃に加温した後1.3kPa(合議体注;これは、9.75torrに相当する。)に減圧した第二脱揮槽に導入し単量体を除去」する工程を経てスチレン・メタクリル酸メチルコポリマーを得たこと(【0031】及び【0043】及び表1)が、さらに、甲5の実施例2には、スチレン中にTBCを13μg/g含むスチレンを用いて、第2脱揮槽における「樹脂温度220℃」、「圧力1.0kPa(合議体注;これは、7.5torrに相当する。)に減圧した第二脱揮槽に導入し単量体を除去」する工程を経て、スチレン・メタクリル酸コポリマーであるPS-2を得たこと(表1及び表2)が、それぞれ、記載されている。
そして、甲1、2、4及び5のいずれの実施例の条件も、脱気の際の圧力が本件特許明細書に開示されている数値(15torr)よりも低く、より減圧度が高くなっており、本件発明の実施例と製造条件が同じであるとはいえないし、減圧度が高くなればTBCはより揮発しやすくなり、樹脂中に残存しにくくなるのであるから、甲1、2、4及び5の実施例の記載に基づいて、これらの刊行物に、「4-t-ブチルカテコールの含有量が、該ポリスチレン樹脂組成物1g当たり1μg?6μgである、ポリスチレン樹脂組成物」が開示されているとはいえない。
なお、甲3には、スチレンモノマー中のTBC濃度が10ppmを超えると、スチレン系樹脂組成物を成形加工した際に黄変するため好ましくないことが記載されるのみであるし、甲6には、市場で入手できるスチレン系単量体には10?30ppm程度の重合禁止剤(TBC)が含まれていること、及び、スチレン系単量体中の重合禁止剤が10ppm以上であると、低温成形における色相が悪いものとなることが記載されているのみであって(甲3の【0013】及び甲6の【0008】)、いずれも、「4-t-ブチルカテコールの含有量が、該ポリスチレン樹脂組成物1g当たり1μg?6μgである、ポリスチレン樹脂組成物」は開示されているとはいえないし、リン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤を併用或いは併用により奏される効果を記載する甲7?甲10、及び、TBCがフェノール系酸化防止剤として機能することを示唆する甲11にも、「4-t-ブチルカテコールの含有量が、該ポリスチレン樹脂組成物1g当たり1μg?6μgである、ポリスチレン樹脂組成物」は開示されていない。

さらに、申立人が、再現実験によれば甲1の実施例2、3、甲2の実施例24、甲4の実施例1及び3に記載のスチレン系樹脂組成物中の4-t-ブチルカテコール濃度は、本件発明1の特定を満足する旨を主張する点については、そもそも、申立人は、その主張を裏付ける実験成績証明書自体を提出しておらず、具体的な再現実験の内容(実施日、実施者、実験手順及びその結果)は全く不明であって、技術的な裏付けを欠いているので申立人の主張は採用できないし、甲4及び甲5は、スチレンコポリマーについてのものであって、スチレンのみを重合している本件発明のポリスチレン系樹脂とは異なる点でも、妥当性を欠いている。

よって、申立人の主張は採用できない。

(5)むすび
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明(甲1発明A又は甲1発明B)及び甲2?甲11に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

2.特許発明2及び3について
本件発明2は本件発明1を更に減縮したものであり、また、本件発明3は、本件発明1又は2の樹脂組成物を成形して得られる導光板に関するものである。
そして、本件発明1が甲1に記載された発明(甲1発明A又は甲1発明B)及び甲2?甲11に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものであるとはいえないことは1.で述べたとおりであり、本件発明2?3についても、同様に、甲1に記載された発明(甲1発明A又は甲1発明B)及び甲2?甲11に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1?3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
 
異議決定日 2017-08-02 
出願番号 特願2012-136804(P2012-136804)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保田 英樹  
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 渕野 留香
大島 祥吾
登録日 2016-11-11 
登録番号 特許第6038497号(P6038497)
権利者 PSジャパン株式会社
発明の名称 ポリスチレン系樹脂組成物及び導光板  
代理人 青木 篤  
代理人 中村 和広  
代理人 石田 敬  
代理人 齋藤 都子  
代理人 古賀 哲次  

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