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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
管理番号 1331243
異議申立番号 異議2017-700417  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-25 
確定日 2017-08-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6016205号発明「排ガス処理装置及び排ガス処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6016205号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6016205号は、平成28年2月2日(優先権主張 2015年2月18日 日本(JP)、2015年11月18日 日本(JP))を国際出願日とする特願2016-519397号の願書に添付された特許請求の範囲に記載された請求項1?16に係る発明について、平成28年10月7日に設定登録がされたものであり、その後、その請求項1?16に係る特許に対し、平成29年4月25日付けで特許異議申立人 一條 淳(以下、「特許異議申立人1」という。)により特許異議の申立てがされ、同年4月26日付けで特許異議申立人 野中 恵(以下、「特許異議申立人2」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明の認定

上記特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?16に記載された次の事項により特定されるとおりのもの(以下、請求項ごとに「本件特許発明1」?「本件特許発明16」という。)と認められる。

「【請求項1】
炉から排出され水銀を含む排ガスを除塵処理する集塵装置と、炉から集塵装置へ排ガスを導く排ガス流路へ活性炭を吹き込む活性炭供給装置とを備える排ガス処理装置において、
炉の下流側でかつ集塵装置の上流側で排ガス中の水銀濃度を測定する上流側水銀濃度計と、集塵装置の下流側で排ガス中の水銀濃度を測定する下流側水銀濃度計と、活性炭供給装置の活性炭供給量を制御する制御装置を備え、
制御装置は、活性炭供給量を所定の最小値以上に維持するとともに、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値と下流側水銀濃度計による水銀濃度測定値とに基づき、上記集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御することを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項2】
制御装置は、上流側水銀濃度計又は下流側水銀濃度計による水銀濃度測定値が、それぞれの所定水銀濃度以上であるとき、活性炭供給量を所定の最大値に保つように制御することとする請求項1に記載の排ガス処理装置。
【請求項3】
制御装置は、下流側水銀濃度計による集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度測定値の、集塵装置の下流側における排ガス中の水銀濃度設定値に対する下流側水銀濃度比率が予め定める比率以上であるとき、又は、上流側水銀濃度計による集塵装置の上流側での排
ガス中の水銀濃度測定値の、集塵装置の下流側における排ガス中の水銀濃度設定値に対する上流側水銀濃度比率が予め定める比率以上であるとき、活性炭供給量を所定の最大値に保つように制御し、上記予め定める下流側水銀濃度比率が0.4?0.8の範囲内で定められ、上記予め定める上流側水銀濃度比率が20?200の範囲内で定められることとする請求項1に記載の排ガス処理装置。
【請求項4】
制御装置は、処理排ガス流量に対する活性炭吹込み重量として定められる活性炭供給量の所定の最小値を、10?200mg/Nm^(3)に設定して制御することとする請求項1ないし請求項3のうちの一つに記載の排ガス処理装置。
【請求項5】
制御装置は、処理排ガス流量に対する活性炭吹込み重量として定められる活性炭供給量の所定の最大値を、300?1000mg/Nm^(3)に設定して制御することとする請求項2又は請求項3に記載の排ガス処理装置。
【請求項6】
制御装置は、処理排ガス流量に対する活性炭吹込み重量として定められる活性炭供給量の所定の最小値を10?200mg/Nm^(3)に設定し、所定の最大値を300?1000mg/Nm^(3)に設定して制御することとする請求項2又は請求項3に記載の排ガス処理装置。
【請求項7】
制御装置は、排ガス中の水銀濃度測定値が零又は測定可能な限界最小値未満の値から、第一の所定水銀濃度に達するまでの範囲には、所定の最小値の活性炭供給量のもとに活性炭を供給し、水銀濃度測定値が上記第一の所定水銀濃度に達した後に、水銀濃度測定値の増加にしたがって、所定の最小値から直線的に活性炭供給量を増大させ、水銀濃度測定値が第二の所定水銀濃度に達したときに、活性炭供給量を所定の最大値の供給量とし、水銀濃度測定値が上記第二の所定水銀濃度に達した後には、水銀濃度測定値の増加に対してその所定の最大値で活性炭供給量を一定に保つこととする請求項1に記載の排ガス処理装置。
【請求項8】
制御装置は、排ガス中の水銀濃度測定値が零又は測定可能な限界最小値未満の値から、第一の所定水銀濃度に達するまでの範囲には、所定の最小値で第一の供給量とする活性炭供給量のもとに活性炭を供給し、水銀濃度測定値が上記第一の所定水銀濃度に達したときに、階段状に活性炭供給量を所定の第二の供給量にまで増大させ、水銀濃度測定値が第二の所定水銀濃度に達するまでの範囲には、活性炭供給量を第二の供給量で一定に保ち、さらに、水銀濃度測定値が第二の所定水銀濃度に達したときに、活性炭供給量を所定の第三の供給量にまで増大させるように、水銀濃度測定値の増加にしたがって、階段状に活性炭供給量を増大させることを繰り返し、活性炭供給量を所定の最大値にまで増大させた後は、水銀濃度測定値の増加に対してその所定の最大値で活性炭供給量を一定に保つこととする請求項1に記載の排ガス処理装置。
【請求項9】
炉から排出され水銀を含む排ガスを集塵装置で除塵処理し、炉から集塵装置へ排ガスを導く排ガス流路へ活性炭供給装置から活性炭供給装置から活性炭を吹き込むこととする排ガス処理方法において、
炉の下流側でかつ集塵装置の上流側で排ガス中の水銀濃度を上流側水銀濃度計で測定するとともに集塵装置の下流側で排ガス中の水銀濃度を下流側水銀濃度計で測定する測定工程と、制御装置で活性炭供給装置の活性炭供給量を制御する制御工程を備え、
制御工程で、活性炭供給量を所定の最小値以上に維持するとともに、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値と下流側水銀濃度計による水銀濃度測定値とに基づき、上記集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御することを特徴とする排ガス処理方法。
【請求項10】
制御工程は、上流側水銀濃度計又は下流側水銀濃度計による水銀濃度測定値が、それぞれの所定水銀濃度以上であるとき、活性炭供給量を所定の最大値に保つように制御することとする請求項9に記載の排ガス処理方法。
【請求項11】
制御工程は、下流側水銀濃度計による集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度測定値の、集塵装置の下流側における排ガス中の水銀濃度設定値に対する下流側水銀濃度比率が予め定める比率以上であるとき、又は、上流側水銀濃度計による集塵装置の上流側での排ガス中の水銀濃度測定値の、集塵装置の下流側における排ガス中の水銀濃度設定値に対する上流側水銀濃度比率が予め定める比率以上であるとき、活性炭供給量を所定の最大値に保つように制御し、上記予め定める下流側水銀濃度比率が0.4?0.8の範囲内で定められ、上記予め定める上流側水銀濃度比率が20?200の範囲内で定められることとする請求項9に記載の排ガス処理方法。
【請求項12】
制御工程は、処理排ガス流量に対する活性炭吹込み重量として定められる活性炭供給量の所定の最小値を、10?200mg/Nm^(3)に設定して制御することとする請求項9ないし請求項11のうちの一つに記載の排ガス処理方法。
【請求項13】
制御工程は、処理排ガス流量に対する活性炭吹込み重量として定められる活性炭供給量の所定の最大値を、300?1000mg/Nm^(3)に設定して制御することとする請求項10又は請求項11に記載の排ガス処理方法。
【請求項14】
制御工程は、処理排ガス流量に対する活性炭吹込み重量として定められる活性炭供給量の所定の最小値を10?200mg/Nm^(3)に設定し、所定の最大値を300?1000mg/Nm^(3)に設定して制御することとする請求項10又は請求項11に記載の排ガス処理方法。
【請求項15】
制御工程は、排ガス中の水銀濃度測定値が零又は測定可能な限界最小値未満の値から、第一の所定水銀濃度に達するまでの範囲には、所定の最小値の活性炭供給量のもとに活性炭を供給し、水銀濃度測定値が上記第一の所定水銀濃度に達した後に、水銀濃度測定値の増加にしたがって、所定の最小値から直線的に活性炭供給量を増大させ、水銀濃度測定値が第二の所定水銀濃度に達したときに、活性炭供給量を所定の最大値の供給量とし、水銀濃度測定値が上記第二の所定水銀濃度に達した後には、水銀濃度測定値の増加に対してその所定の最大値で活性炭供給量を一定に保つこととする請求項9に記載の排ガス処理方法。
【請求項16】
制御工程は、排ガス中の水銀濃度測定値が零又は測定可能な限界最小値未満の値から、第一の所定水銀濃度に達するまでの範囲には、所定の最小値で第一の供給量とする活性炭供給量のもとに活性炭を供給し、水銀濃度測定値が上記第一の所定水銀濃度に達したときに、階段状に活性炭供給量を所定の第二の供給量にまで増大させ、水銀濃度測定値が第二の所定水銀濃度に達するまでの範囲には、活性炭供給量を第二の供給量で一定に保ち、さらに、水銀濃度測定値が第二の所定水銀濃度に達したときに、活性炭供給量を所定の第三の供給量にまで増大させるように、水銀濃度測定値の増加にしたがって、階段状に活性炭供給量を増大させることを繰り返し、活性炭供給量を所定の最大値にまで増大させた後は、水銀濃度測定値の増加に対してその所定の最大値で活性炭供給量を一定に保つこととする請求項9に記載の排ガス処理方法。」

第3 特許異議申立人1の申立て理由について
特許異議申立人1は、証拠として下記甲第1号証?甲第4号証(以下、「甲1」?「甲4」という。)を提出し、本件特許発明1、2、9、10は、甲1に記載された発明であるので特許法第29条第1項第3号に該当する(以下、「申立理由1-1」という。)か、又は、本件特許発明1-16は、甲1に記載された発明及び甲2ないし4に記載された技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反する(以下、「申立理由1-2」という。)ものだから、その特許は取り消すべきものである旨主張している。

甲1:米国特許出願公開2011/0197760号明細書
甲2:特開平9-308817号公報
甲3:特開2009-202106号公報
甲4:特開2001-198434号公報

1.甲1発明の認定
甲1には、以下の事項が記載されている。なお、当審訳は、甲1に添付の部分翻訳書の訳文を参考とした。

(甲1-1)
「[0022]An advantage of this gas cleaning system is that it is effective for removing mercury, also in a situation of varying mercury concentrations, a situation in which the prior art gas cleaning systems would require a substantial increase in the sorbent supply. Thus, the present gas cleaning system provides for a low sorbent supply, and, consequently, also a low formation of waste products, without increasing the emission of mercury.」
(当審訳:[0022]このガス洗浄システムの利点は、このガス洗浄システムが、従来技術のガス洗浄システムであれば吸収剤供給量の大幅な増加が必要になるような状況である水銀濃度が変動する状況でも、水銀の除去に有効である点である。したがって、本ガス洗浄システムは、水銀の排出を増加させることなく、低吸収剤供給量を実現し、その結果として低廃棄物形成を実現する。)

(甲1-2)
「[0036]FIG. 1 is a schematic side view and illustrates a power plant 1 , as seen from the side thereof. The power plant 1 comprises a boiler 2 . During combustion of a fuel, such as coal or oil, a hot process gas, often referred to as a flue gas, is generated in the boiler 2 . The flue gas, which contains polluting substances, including dust particles and mercury, leaves the boiler 2 via a gas duct 4 . The gas duct 4 is operative for forwarding the flue gas to a primary dust collector 6 , which is optional, in the form of, e.g., an electrostatic precipitator, an example of which is described in U.S. Pat. No. 4,502,872, or a bag house, an example of which is described in U.S. Pat. No. 4,336,035. The primary dust collector 6 is operative for removing the major amount of dust particles from the flue gas.」
(当審訳:[0036]図1は、発電所1の側面図であり、発電所1を側方から見た様子を示している。発電所1は、ボイラ2を備える。石炭または石油などの燃料の燃焼中には、燃焼ガスと呼ばれることも多い高温のプロセスガスが、ボイラ2で生成される。粉塵および水銀などの汚染物質を含む燃焼ガスは、ガスダクト4を介してボイラ2から出る。ガスダクト4は、例えば米国特許第4502872号にその1例が記載される静電集塵器または米国特許4336035号にその1例が記載されるバッグハウスなどの形態をした任意選択の1次ダストコントローラ6に、燃焼ガスを送るように作用することができる。1次ダストコントローラ6は、燃焼ガスの粉塵の大部分を除去するように作用することができる。)

(甲1-3)
「[0037]A gas duct 8 is operative for forwarding the flue gas from the primary dust collector 6 to a secondary dust collector 10 . The secondary dust collector 10 is a fabric filter, by which is meant that the flue gas is forced to pass through a filtering surface formed from a fabric material. 」
(当審訳:[0037]ガスダクト8は、燃焼ガスを1次ダストコントローラ6から2次ダストコントローラ10に送るように作用することができる。2次ダストコントローラ10は、布フィルタであり、このことは、燃焼ガスが布材料で構成されたろ過表面を通過させられることを意味する。)

(甲1-4)
「[0039]A sorbent storage silo 30 is operative for containing a sorbent which is suitable for adsorbing mercury, in particular mercury in gaseous form. A suitable sorbent could be activated carbon or coke in powdered form. A sorbent supply duct 32 is operative for forwarding the sorbent from the silo 30 to the duct 8 , in which the sorbent is mixed with the flue gas.」
(当審訳:[0039]吸収剤格納サイロ30は、水銀、特に気体状の水銀を吸着するのに適した吸収剤を収容するように作用することができる。適当な吸収剤は、粉末状の活性炭またはコークスであることもある。吸収剤供給ダクト32は、吸収剤をサイロ30からダクト8に送るように作用することができ、このダクト8内で、吸収剤は燃焼ガスと混合される。)

(甲1-5)
「[0044]A first mercury analyser 52 is operative for measuring the concentration of mercury in the flue gas in the duct 8 , upstream of the bag house 10 . The first mercury analyser 52 thus measures the concentration of gaseous mercury, Hg, in the flue gas before the sorbent has had any effect. A second mercury analyser 54 is operative for measuring the concentration of gaseous mercury in the flue gas in the clean gas duct 26 , downstream of the bag house 10 . The second mercury analyser 54 thus measures the concentration of mercury in the cleaned flue gas. The mercury analysers 52 , 54 are operative for sending signals to the control unit 48 .・・・
Furthermore, the control unit 48 may also control the supply of sorbent from the sorbent silo 30 in a manner which will be described in more detail hereinafter.」
(当審訳:[0044]第1の水銀分析器52は、バッグハウス10の上流側のダクト8内の燃焼ガスの水銀濃度を測定するように作用することができる。したがって、第1の水銀分析器52は、吸収剤が何らかの効果を生じる前に燃焼ガス中の気体状の水銀Hgの濃度を測定する。第2の水銀分析器54は、バッグハウス10の下流側の清浄ガスダクト26内の燃焼ガス中の気体状の水銀の濃度を測定するように作用することができる。したがって、第2の水銀分析器54は、洗浄済み燃焼ガス中の水銀濃度を測定する。水銀分析器52、54は、制御装置48に信号を送信するように作用することができる。・・・
さらに、制御装置48は、本明細書の以下でさらに詳細に述べる方法で、吸着剤サイロ30からの吸収剤の供給を制御することもできる。)

(甲1-6)
「[0058]In a still further embodiment the control unit 48 could utilize information from both the first and the second mercury analysers 52 , 54 . For example, the control unit 48 could control the cleaning of the filter bags 12 based on the signal from the first mercury analyser 52 , and could control the dosage of sorbent from the silo 30 based on a third parameter, which would be based on the signal from the second mercury analyser 54 . 」
(当審訳:[0058]さらに別の実施形態では、制御装置48は、第1の水銀分析器52および第2の水銀分析器54の両方の情報を利用することができる。例えば、制御装置48は、第1の水銀分析器52からの信号に基づいてフィルタバッグ12の洗浄を制御し、第2の水銀分析器54からの信号に基づく第3のパラメータに基づいてサイロ30からの吸収剤の投入量を制御することができる。)

(甲1-7)
「[0063]・・・The control unit 48 could also be operative for optimizing the sorbent supply and the pressure drop DP at which the cleaning of the filter bags 12 is initiated in such a manner that overall operating costs are minimized, and mercury emission is kept below the emission limit as specified by authorities.」
(当審訳:[0063]・・・制御装置48は、吸収剤供給量とフィルタバッグ12の洗浄が開始される圧力降下DPとを、全体としての運転コストが最小限に抑えられ、水銀排出量が当局によって指定された排出限界未満に保たれるように最適化するように作用することもできる。)

よって、甲1-1から甲1-7の記載によれば、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「ボイラから排出され水銀を含む排ガスを除塵処理するバッグハウスと、ボイラからバッグハウスへ排ガスを導くガスダクトへ活性炭を吹き込む吸着材格納サイロと、を備える発電所において、ボイラの下流側でかつバッグハウスの上流側で排ガス中の水銀濃度を測定する第一水銀分析器と、バッグハウスの下流側で排ガス中の水銀濃度を測定する第二水銀分析器と、吸着剤格納サイロの活性炭供給量を制御する制御装置を備え、制御装置は、第一水銀分析器による水銀濃度測定値と第二水銀分析器による水銀濃度測定値とに基づき、上記バッグハウスの下流側での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御する発電所。」

2.対比・判断
(1)申立理由1-1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、本件特許発明1では、「制御装置」が、「活性炭供給量を所定の最小値以上に維持」しているのに対し、甲1発明では、制御装置が、活性炭供給量を所定の最小値以上に維持するものであるか明らかでない点で、少なくとも両者は相違する。
この点について、甲1発明は、甲1-6の記載から、制御装置が第1の水銀分析器からの信号に基づいてフィルタバッグを洗浄する制御を行っているものであるところ、フィルタバッグの洗浄時にガスダクトへ活性炭を供給しないことは自明である。
したがって、甲1発明は、制御装置が、活性炭供給量を所定の最小値に維持しているものではないから、本件特許発明1が甲1に記載された発明とはいえない。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2、及び本件特許発明1,2の装置を用いた処理方法に相当する本件特許発明9,10についても同様である。

(2)申立理由1-2について
(1)で検討した相違点について、仮に、フィルタバッグの洗浄時の制御を除外して検討しても、甲1発明は、甲1-1の記載から、低吸着剤供給量を実現することを課題とするものであり、甲1-7の記載から、制御装置は、吸着剤供給量とフィルタバッグの洗浄が開始される圧力降下とを全体としての運転コストが最小限に抑えられ、水銀排出量が当局によって指定された排出限界未満に保たれるべく最適化するように作用するものであるので、甲1発明は、水銀濃度測定値が小さければ小さいほど、活性炭供給量をできるだけ小さくするものであって、例えば、水銀濃度測定値が指定された排出限界未満であれば、活性炭は供給不要とすべきものと解される。
したがって、甲1発明において、活性炭供給量を所定の最小値以上に維持することには、阻害要因がある。
そして、甲1?4の記載に、該阻害要因を覆す記載は見いだせない。
さらに、本件特許発明1は、段落【0076】にも記載されているように、「活性炭供給量を所定の最小値以上に維持することによって、集塵装置のバグフィルタに活性炭を付着させ吸着層を予め十分に形成しておくことになり、高濃度の水銀を含む排ガスが排出された際に速やかに、既に形成されている活性炭吸着層とその際に吹き込まれる活性炭により水銀を吸着除去でき、水銀濃度を十分に低濃度にまで低下させることができる」という効果を奏するものであるところ、甲1?4には、当該効果について記載も示唆もない。
してみれば、本件特許発明1は、甲1?4の記載から当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2?8、及び本件特許発明1?8の装置を用いた処理方法に相当する本件特許発明9?16についても同様である。

第4 特許異議申立人2の申立て理由について
特許異議申立人2は、証拠として下記甲第1号証?甲第9号証(以下、特許異議申立人1の提出した証拠と区別するために、「甲5」?「甲13」という。)を提出し、本件特許発明1?16は、甲5に記載された発明及び甲5ないし9に記載の技術手段に基づいて、又は甲7に記載された発明及び甲5ないし9に記載の技術手段に基づいて、又は甲8に記載された発明及び甲5ないし9に記載の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反するものだから、その特許は取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証(甲5):特開2009-208078号公報
甲第2号証(甲6):特開2014-213308号公報
甲第3号証(甲7):特開2011-72877号公報
甲第4号証(甲8):清掃技法 第12号 第28-33ページ
甲第5号証(甲9):特開2013-136059号公報
甲第6号証(甲10):本件についての平成28年5月31日付け拒絶理由通知書
甲第7号証(甲11):特開2009-291734号公報
甲第8号証(甲12):廃棄物学会誌 第16巻第4号 第31-37ページ
甲第9号証(甲13):竹下光夫、鷲野翔一共著 「わかりやすい制御」 第18-19ページ

1.甲5発明の認定
甲5には、以下の事項が記載されている。

(甲5-1)
「【0033】
実施の形態(その3)
図6に、本実施の形態に係る処理方法の用いるシステムの一例を示す。排ガス処理システムとしては、排ガスに塩素化剤供給装置から塩素化剤を添加し、還元脱硝装置の固体触媒下に脱硝処理を行って、湿式脱硫装置内のアルカリ吸収液にて脱硫を行うものであり、上記実施の形態(その1)の処理システムと同じである。本実施の形態では、上記実施の形態(その2)と同様に、脱硝装置入口、A/H入口、熱交換器入口、集塵機入口等いずれかの箇所(脱硫装置前段)で脱硫前水銀濃度Bを検出する。一方、脱硫装置出口(冷却塔がある場合、冷却塔出口でもよい)、湿式集塵機出口、再加熱器出口等いずれかの箇所で出口水銀濃度Aを検出する。
【0034】
次いで演算器15において、ボイラ負荷や炭種により設定した基準入口水銀濃度と脱硫前水銀濃度との偏差信号、および、塩素化剤流量や排煙処理システムの除去率(各機器での除去率)から出口水銀濃度予測値を算出し、あらかじめ設定した基準出口水銀濃度(出口水銀濃度目標値)との偏差信号より、塩素化剤供給流量を調節器16を介して、塩素化剤供給装置にて制御する。」

よって、(甲5-1)の記載によれば、甲5には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認める。

「ボイラから排出され水銀を含む排ガスを除塵処理する集塵機と、排ガスに塩素化剤を供給する塩素化剤供給装置とを備える排ガス処理システムにおいて、脱硫装置前段で脱硫前水銀濃度を検出することと、脱硫装置出口で出口水銀濃度を検出し、脱硫前水銀濃度及び出口水銀濃度により塩素化剤供給量を制御する排ガス処理システム。」

2.甲7発明の認定
甲7には、以下の事項が記載されている。

(甲7-1)
「【0062】
排ガス脱塩装置62は、噴射手段22と、消石灰貯留タンク24と、噴射前濃度計測手段28と、噴射後濃度計測手段54と、制御手段64とを有し、排ガス中に含まれる塩化水素を除去する。なお、排ガス脱塩装置62の噴射手段22と、消石灰貯留タンク24と、噴射前濃度計測手段28とは、排ガス脱塩装置10の各部と同様の構成であり、噴射後濃度計測手段54は、図3に示す噴射後濃度計測手段54と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0063】
噴射前濃度計測手段28は、排ガスの排気経路(排気ガスの流れ方向)において、噴射手段22よりも上流側、具体的には、ボイラ5よりも下流側、かつ、焼却減温塔6よりも上流側の排気配管12に配置されている。また、噴射後濃度計測手段54は、排ガスの排気経路において、噴射手段22よりも下流側、具体的には、集塵器7よりも下流側かつ煙突8よりも上流側の排気配管12に配置されている。噴射前濃度計測手段28と噴射後濃度計測手段54は、それぞれ排気配管12を流れる排ガス中の塩化水素濃度を計測し、その計測結果を制御手段64に送る。
【0064】
制御手段64は、噴射前濃度計測手段28と噴射後濃度計測手段54の検出結果に基づいて、噴射手段22から噴射する消石灰の量及び噴射するタイミングを制御する。一例としては、制御手段64は、制御手段30で説明したように、噴射前濃度計測手段28の検出結果に基づいて、消石灰の噴射量を算出し、さらに、算出した消石灰の噴射量を、制御手段56で説明したように噴射後濃度計測手段54の検出結果に基づいて補正する。
【0065】
排ガス脱塩装置62は、以上のような構成であり、焼却炉3で生成され、噴射前濃度計測手段28を含む、各部を通過した排ガスは、噴射手段22で消石灰が噴射された後、排気配管12の集塵器7を通過する。その後、排ガスは、排気配管12の噴射後濃度計測手段54が配置された領域を流れる。その後、排ガスは煙突8から外部に排出される。なお、噴射前濃度計測手段28及び噴射後濃度計測手段54は、排ガスの塩化水素濃度を計測する。また、排ガス脱塩装置62の制御手段64は、噴射前濃度計測手段28及び噴射後濃度計測手段54での計測結果に基づいて噴射手段22による消石灰の噴射を制御する。」

よって、(甲7-1)の記載によれば、甲7には、次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認める。

「焼却炉から排出され塩化水素を含む排ガスを除塵処理する集塵器と、焼却炉から集塵器へ排ガスを導く排気配管へ消石灰を吹き込む噴射手段とを備える排ガス脱塩装置において、焼却炉のボイラよりも下流側、かつ、焼却減温塔よりも上流側で排ガス中の塩化水素濃度を計測する噴射前濃度計測手段と、集塵器よりも下流側かつ煙突よりも上流側で排ガス中の塩化水素濃度を計測する噴射後濃度計測手段と、噴射手段の消石灰の噴射量を制御する制御手段を備え、制御手段は、噴射前濃度計測手段による計測結果と噴射後濃度計測手段による計測結果とに基づき、消石灰の噴射量を制御することを特徴とする排ガス脱塩装置。」

3.甲8の記載事項
甲8には、以下の事項が記載されている。

(甲8-1)
「3.水銀対策の概要
3-1 しゅん工時の対応
当工場の排ガス処理の流れを図-2に示す。・・・具体的には、ろ過式集じん器出口の水銀濃度計(Hg計A)が0.5mg/m^(3)N以上を示した場合、活性炭供給装置を運転し、ろ過式集じん器入口に活性炭を吹き込み・・・、煙突入口水銀濃度計(Hg計B)が0.03mg/m^(3)N以上を示した場合、洗煙設備内に注入している液体キレートの量を増加させ・・・、水銀の除去を行っていた。」

よって、(甲8-1)の記載によれば、甲8には、次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認める。

「工場から排出され水銀を含む排ガスを除塵処理するろ過式集じん器と、工場からろ過式集じん器へ排ガスを導く流路へ活性炭を吹き込む活性炭供給装置とを備える排ガス処理装置において、ろ過式集じん器出口で排ガス中の水銀濃度を測定する水銀濃度計(Hg計A)と、煙突入口で排ガス中の水銀濃度を測定する水銀濃度計(Hg計B)とを備え、水銀濃度計(Hg計A)に基づき、ろ過式集じん器出口での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御することを特徴とする排ガス処理装置。」

4.対比・判断
(1)甲5発明について
本件特許発明1と甲5発明とを対比すると、本件特許発明1が、水銀除去装置が集塵装置であり、水銀除去剤が活性炭であるのに対し、甲5発明は、水銀除去装置が脱硫吸収塔であり、水銀除去剤が塩素化剤である点で、少なくとも相違する。
してみると、甲6の特許請求の範囲や、(甲8-1)に記載されているように、排ガス中の水銀を活性炭に吸着させて除去する技術が公知であったとしても、甲5発明において、水銀除去装置と水銀除去剤を共に変更する動機付けにはならない。

(2)甲7発明について
本件特許発明1と甲7発明とを対比すると、本件特許発明1が、対象となる有害物質が水銀であり、有害物質除去方法が、活性炭に吸着させることによるものであるのに対し、甲7発明は、対象となる有害物質が塩化水素であり、有害物質除去方法が、消石灰と反応させることによるものであって、活性炭に吸着させることによるものではない点で、少なくとも本件特許発明1と相違する。
してみると、甲6の特許請求の範囲や、(甲8-1)に記載されているように、排ガス中の水銀を活性炭に吸着させて除去する技術が公知であったとしても、甲7発明において、除去対象も除去手段も変更する動機付けにはならない。

(3)甲8発明について
本件特許発明1と甲8発明とを対比すると、本件特許発明1では、「水銀濃度計」が「集塵装置」の「上流側」と「下流側」に設置されているのに対し、甲8発明では、「水銀濃度計」がいずれも集じん器の下流側に設置されている点で相違し、本件特許発明1では、「制御装置」が、「活性炭供給量を所定の最小値以上に維持するとともに、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値と下流側水銀濃度計による水銀濃度測定値とに基づき、上記集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御」しているのに対し、甲8発明は、(甲8-1)に記載されているように、「ろ過式集じん器出口の水銀濃度計(Hg計A)が0.5mg/m^(3)N以上を示した場合、活性炭供給装置を運転し、ろ過式集じん器入口に活性炭を吹き込」んでいるものであり、水銀濃度計(Hg計A)が0.5mg/m^(3)N未満を示している場合、活性炭を供給していないことは明らかであるから、活性炭供給量を所定の最小値以上に維持しておらず、下流側の水銀濃度計(Hg計A)一方のみの水銀測定値に基づき、集じん器の出口での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御している点で、両者は相違する。
してみると、(甲5-1)に記載されているように、水銀濃度計を水銀除去手段の上流側と下流側に設置する技術が公知であり、甲9の段落【0027】に記載されているように、活性炭供給量を所定の最小値に維持する技術が公知であったとしても、甲8発明において、水銀濃度計の一方を集じん器の上流側に設置し、活性炭供給量を所定の最小値に維持するとともに、上流側と下流側の水銀濃度計による水銀濃度測定値とに基づき、活性炭供給量を制御する動機付けにはならない。

(4)作用効果について
本件特許発明1は、段落【0054】にも記載されているように、「焼却炉1からの排ガス中の水銀濃度に変動があった場合、この水銀濃度の変動を焼却炉1の下流側かつ活性炭供給装置3による活性炭吹込み位置よりも上流側の位置で水銀濃度計5が測定して検知するため、速やかに活性炭供給量を調整する対応ができるので、タイムラグがなく、煙突内の排ガス中の水銀濃度を確実に設定値以下に維持することができる。」という効果を奏するものであり、さらに段落【0076】にも記載されているように、「活性炭供給量を所定の最小値以上に維持することによって、集塵装置のバグフィルタに活性炭を付着させ吸着層を予め十分に形成しておくことになり、高濃度の水銀を含む排ガスが排出された際に速やかに、既に形成されている活性炭吸着層とその際に吹き込まれる活性炭により水銀を吸着除去でき、水銀濃度を十分に低濃度にまで低下させることができる」という効果も奏するものであるところ、甲5?9には、当該効果について記載も示唆もない。

(5)まとめ
本件特許発明1は、甲5発明及び甲5-9に記載された事項から、または甲7発明及び甲5-9に記載された事項から、または甲8発明及び甲5-9に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2?8、及び本件特許発明1?8の装置を用いた処理方法に相当する本件特許発明9?16についても同様である。

第5 異議申立人1,2が提出した証拠の組み合わせについて

本件特許発明1は、「活性炭供給量を所定の最小値以上に維持するとともに、上流側水銀濃度計による水銀濃度測定値と下流側水銀濃度計による水銀濃度測定値とに基づき、上記集塵装置の下流側での排ガス中の水銀濃度を設定値以下とするように、活性炭供給量を制御する」ことを特徴とするものの、このことは、甲1?13のいずれにも記載や示唆されていないから、異議申立人1及び2の提出した証拠を併せて検討しても、本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2?8、並びに本件特許発明1?8の装置を用いた処理方法に相当する本件特許発明9?16は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-08-01 
出願番号 特願2016-519397(P2016-519397)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B01D)
P 1 651・ 121- Y (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 瞳  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 中澤 登
山崎 直也
登録日 2016-10-07 
登録番号 特許第6016205号(P6016205)
権利者 JFEエンジニアリング株式会社
発明の名称 排ガス処理装置及び排ガス処理方法  

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