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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1331542
審判番号 不服2016-13272  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-05 
確定日 2017-09-08 
事件の表示 特願2011-204519「反射防止フィルムの製造方法、反射防止フィルム、偏光板および画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月11日出願公開、特開2013- 64934、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年9月20日の出願であって、平成27年5月12日付けで拒絶理由が通知され、同年7月10日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年12月7日付けで拒絶理由が通知され、平成28年2月5日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年6月1日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、同年9月5日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成28年9月5日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載の事項によりそれぞれ特定されるものと認められるところ、請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」といい、本願発明1ないし6を総称して「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
光透過性支持体上に反射防止層を有する反射防止フィルムを製造する方法であって、
反射防止層形成用塗工液を前記光透過性支持体の少なくとも一方の面に塗工して塗膜を形成する塗布工程と、
前記塗膜を乾燥させる乾燥工程とを含み、
前記反射防止層形成用塗工液の固形分濃度を、0.1?3重量%の範囲内とし、
前記塗布工程において、前記塗膜の膜厚を、5.3?16μmの範囲内とし、
前記乾燥工程が、第一乾燥工程と第二乾燥工程とを含み、
前記第一乾燥工程は、前記塗膜の膜厚残存率が80%?35%の範囲内となるまで行われ、
前記第一乾燥工程において、前記塗膜の乾燥による膜厚減少速度を、0.2μm/sec以下とし、
前記第二乾燥工程において、前記塗膜の乾燥による膜厚減少速度を、0.3μm/sec以上とし、
前記第一乾燥工程における膜厚減少速度とは、塗工直後の反射防止層形成用塗工液の膜厚と第一乾燥工程後の膜厚との差を、第一乾燥工程の時間で割った数値であり、
前記第二乾燥工程における膜厚減少速度とは、第一乾燥工程後の膜厚と第二乾燥工程後の膜厚との差を、第二乾燥工程の時間で割った数値であることを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第二乾燥工程において、前記塗膜の乾燥による膜厚減少速度を、0.5μm/sec以上とすることを特徴とする、請求項1記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記反射防止層として、前記光透過性支持体の最表面の屈折率よりも低い屈折率の層を形成することを特徴とする、請求項1または2記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記反射防止層の反射率を、2.5%以下とすることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記反射防止層形成用塗工液の溶剤が、メチルイソブチルケトンと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートと、t-ブタノールとの混合溶剤であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項6】
さらに、前記乾燥後の前記塗膜に紫外線を照射して硬化する硬化工程を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の反射防止フィルムの製造方法。」

第3 原査定の理由の概要
(進歩性)この出願の平成28年2月5日になされた手続補正によって補正された請求項1ないし6に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2005-292291号公報
引用文献2.特開2004-160736号公報
引用文献3.特開2011-90126号公報
引用文献4.国際公開第2006/057297号

本願発明は「前記反射防止層形成用塗工液の固形分濃度を、0.1?3重量%の範囲内とし、前記乾燥工程が、第一乾燥工程と第二乾燥工程とを含み、前記第一乾燥工程は、前記塗膜の膜厚残存率が80%?35%の範囲内となるまで行われ、前記第一乾燥工程において、前記塗膜の乾燥による膜厚減少速度を、0.2μm/sec以下とし、前記第二乾燥工程において、前記塗膜の乾燥による膜厚減少速度を、0.3μm/sec以上とし」ているのに対し、引用文献1に記載された発明は、エタノール95.7重量部含む低屈折率用塗料を使用するものであって、0?2.0m/秒の風速と室温で15秒経過すれば、ドライヤーによる乾燥前に乾燥後の100nmに近い膜厚になると認められる点において(以下、「相違点」とする。)、引用文献と本願発明の構成は異なる。
上記相違点について検討する。
「反射防止膜」の技術分野において、低屈折率層形成用塗工液の固形分濃度として、「0.1?3重量%の範囲内」とすることは、例えば、引用文献2、3に記載されているように、周知技術である。
また、本願明細書を参照しても、固形分濃度が3.3重量%であるものと、0.1?3重量%の範囲内のものとの間に、臨界的意義は見出せない。
よって、引用文献1に記載された発明において、低屈折率層形成用塗工液の固形分濃度として、周知技術を勘案して、0.1?3重量%の範囲内のものを選択することは当業者が容易になし得たことである。
また、本願明細書の[0030]において、エタノールは使用可能な溶剤として例示されており、本願の実施例の混合溶剤で使用されるMIBK、PMA、TBAの蒸発速度はそれぞれ、1.6、0.44、0.89であり、例えば、実施例1の混合溶剤1の蒸発速度は約0.99と算出される一方で、エタノールの蒸発速度は1.54である。
よって、引用文献1の22.6℃、57%RHの雰囲気中におかれた低屈折率用塗料が、本願の常温に置かれた反射防止用形成用塗工液に比べて1.5倍程度の早さで蒸発するものとは認められるものの、出願人の主張するように、15秒の経過で乾ききるほど、蒸発速度が甚だ大きいものとは認められない。

第4 原査定の理由についての当審の判断
1 引用文献1の記載事項
原査定の理由に引用文献1として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-292291号公報には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度15?30℃、かつ絶対湿度7.0g/m^(3)以上の雰囲気下で、樹脂フィルムの少なくとも一方の表面上に、ハードコート層、及び少なくとも1層の反射防止層をこの順に積層するハードコートフィルムの製造方法であって、各層塗工直後に塗布面に風速1.0m/秒以下の風を当てて乾燥させることを特徴とする反射防止ハードコートフィルムの製造方法。
【請求項2】
塗工直後に塗布面に当たる風の温度が15?150℃であることを特徴とする請求項1記載の反射防止ハードコートフィルムの製造方法。
【請求項3】
塗工直後から20秒以内に乾燥させることを特徴とする請求項1ないし2記載の反射防止ハードコートフィルムの製造方法。
【請求項4】
塗布面とは反対側の面に、風を当てて乾燥させることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の反射防止ハードコートフィルムの製造方法。
【請求項5】
温度15?30℃、かつ絶対湿度7.0g/m^(3)以上の雰囲気下で、樹脂フィルムの少なくとも一方の表面上に、ハードコート層、及び少なくとも1層の反射防止層をこの順に積層して成るハードコートフィルムであって、各層塗工直後に塗布面に風速1.0m/秒以下の風を当てて乾燥させることを特徴とする反射防止ハードコートフィルム。」

(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ディスプレイ等に使用される反射防止ハードコートフィルムに関し、特にブラッシングの無い、良好な外観を有する反射防止ハードコートフィルムに関する。」

(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
塗布面の外観欠陥を改善するために、ハードコート層や反射防止層の塗料を塗布し乾燥する際の条件が検討されており、特に塗布面に当てる風の風速を低減することが提案されている(特許文献3、4、5)。しかしながら、これらの提案ではブラッシングの改善は不十分であった。
【0015】
上述の外観欠陥の中で、ブラッシングとは、乾燥後の塗布膜表面が白くなる現象である。その発生原因については以下のように考えられる。すなわち、特に塗料中に低沸点の有機溶剤を使用した場合に多く見られる現象であるが、その有機溶剤が揮発する際、気化熱を多量に奪い、塗布膜表面は急激に冷却された状態となる。そこへ水分を多く含んだ風が当たると、その中の水分が冷却され、塗布膜表面に結露し、表面を荒らした状態となるため白く見えるのである。従って、ブラッシングを防止するためには、低湿度環境下で塗布及び塗布面の乾燥を行えばよいが、湿度を管理するための設備が必要となり、コストの面で問題となる。
【0016】
本発明の目的は、液相法による反射防止ハードコートフィルムの製造において、特に塗料塗布時?乾燥時の湿度が高い環境下でも、ブラッシングが発生しないで、良好な外観を連続的にかつ均一に有する反射防止ハードコートフィルムの製造方法を提供することにある。」

(4)「【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明においては、ハードコート層及び反射防止層塗工直後に塗布面に風が当たる状況として、以下の二通りが考えられる。一つめは、塗工部と乾燥ゾーンの間が開放系であり、室内の風等が塗工面に当たる、という状況である。このような状況において、塗布面に当たる風を風速1.0m/秒以下に抑えるための手段としては、塗工直後から乾燥ゾーンまでの間に、風除けのカバーを取りつける、乾燥ゾーンを設ける等により密閉系とすることである。
【0024】
二つめは、塗工部から乾燥ゾーンの間で室内の風が当たることは無いものの、乾燥ゾーン内で塗布面に風が当たる、という状況である。このような状況において、塗布面に当たる風を風速1.0m/秒以下に抑えるための手段としては、乾燥時の風の強さ、及び風の吹き出す向き等を変更することである。
【0025】
これらの対策を講じることで、塗工してから塗布面がセットし塗布液が流動しなくなるまでの間、水分を多く含む風や、方向・強さが不均一の風が、有機溶剤が多く含まれ塗工液が流動し易い状態の塗布面に、強く当たらないようにすることが可能となると共に、塗布面から蒸発した有機溶剤が、塗布面を覆う乾燥環境が形成される。この環境下で乾燥を行うことで、乾燥時における上記のブラッシングや乾燥ムラと言った外観欠陥の発生を防止でき、均一な乾燥を行うことが出来る。
【0026】
本発明において、乾燥ゾーンでの乾燥時には、風による乾燥ムラを抑えるため、塗布面に風速1.0m/秒以下の風を当てて乾燥させることが必須である。このための方法としては、塗布面上部から塗布面へ直接吹き出す風の風速を抑える方法、風の流れの発生しない赤外線ヒーターによる乾燥等も考えられるが、塗布面とは反対側からの、すなわち、塗布面の裏面に風を当てる乾燥が最も好ましい。その際にも、強い風を当てすぎると、乾燥ゾーン内に風の流れが発生し、塗布面に風が当たるようになる。塗布面に風速1.0m/秒より速い風を当てて乾燥させると、酢酸エチルやメチルエチルケトンのように低沸点の有機溶剤を使用した場合、容易に塗布膜が乱され、局所的に乾燥が進み、乾燥ムラとなってしまうからである。
・・・略・・・
【0030】
塗布液を乾燥させるまでの時間は、塗工直後から20秒以内が好ましく、15秒以内であることがより好ましい。乾燥させるまでの時間が20秒より長いと、塗布膜が超薄膜なために溶剤の揮発が早く、乾燥ゾーンに入る前に塗布面が乾燥してセットする恐れがある。さらにその際に、部分部分で溶剤の揮発速度に差が生じることにより、表面張力に差が生じ、膜厚が厚い部分と薄い部分が形成され、乾燥ムラとなり外観欠陥を発生し好ましくない。
【0031】
また、乾燥時の温度は、40℃?150℃であることが好ましく、より好ましくは60℃?130℃である。乾燥時の温度が40℃未満であると、乾燥速度が遅くなり、生産性に影響すると同時に、ハジキが発生し、外観欠陥となる。また、温度が150℃を超えると、乾燥速度が速くなりすぎ、局所的に乾燥が進行し、乾燥ムラの原因となる。
・・・略・・・
【0047】
本発明の反射防止層の膜厚としては、1?1000nmの範囲が好ましい。本発明の乾燥条件及び製造条件でハードコート層及び反射防止層を形成することにより、各層外観欠陥やムラのない、均一な層を得ることができる。このとき、反射防止層の平均膜厚に対する膜厚偏差を±5%以内になるように設けることができ、より好ましくは±3%以内の均一な薄膜とすることができる。
【0048】
本発明にて製造されたハードコートフィルムは、液晶ディスプレイ、CRT、プラズマディスプレイ、屋外表示パネル、電光掲示板、電子ペーパー、フレキシブルな表示体などの各種ディスプレイまたはガラス等の、その表面を保護するために使用される。」

(5)「【実施例】
【0049】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例及び比較例において、基材としての透明樹脂フィルムはトリアセチルセルロースフィルム(商品名:FUJITAC-T80UZ:富士写真フイルム社製)を用い、各層は下記の材料を用いた。
【0050】
<塗料1>(ハードコート層用塗料)
紫外線硬化樹脂(商品名:ビームセット551B、荒川化学工業社製)70重量部に光開始剤(商品名:ダロキュア1173、チバガイギー社製)2重量部を混合し、イソプロピルアルコール125重量部に溶解した。この塗料に酸化亜鉛微粒子(商品名:セルナックス、平均粒径30nm、30%トルエン分散液、日産化学社製)100重量部を添加し、レベリング剤(商品名:BYK320、ビックケミー社製)2重量部を添加して、塗料1とした。
【0051】
<塗料2>(低屈折率層用塗料)
テトラエトキシシラン(関東化学社製)3.3重量部とエタノール95.7重量部を混合し十分に攪拌した。この塗料に1%シュウ酸水溶液1重量部を加えて均一に溶解するまで攪拌して、塗料2とした。
【0052】
[実施例1]
絶対湿度11.5g/m^(3)(22.6℃、57%RH)の雰囲気下にて、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(商品名:FUJITAC-T80UZ、富士写真フイルム社製)の一方の面に、塗料1を乾燥後5μmの厚さとなるようバーコーターにて塗工し、80℃のドライヤーで有機溶剤を乾燥させた後、300mJの紫外線照射(商品名:Hバルブ、Fusion Japan社製)により硬化して、ハードコート層を設けた。このハードコート層上に、塗料2を乾燥後100nmの厚さとなるようバーコーターにて塗工し、60℃のドライヤーで乾燥して反射防止層を設け、反射率0.4%の反射防止ハードコートフィルムを得た。なお、塗料1及び塗料2の塗工の際、塗工直後から乾燥ゾーンまでの間には、風除けのカバーを設置し、風を塗布面に当てないようにした。また、塗工してから乾燥させるまでの時間は15秒で、乾燥は塗布面の反対側から1.0m/秒の風を当てて行った。
【0053】
[実施例2]
塗料1及び塗料2の塗工の際、塗工直後に塗布面に風速0.5m/秒の風を当てた以外は、実施例1と同様にしてハードコート層及び低屈折率層を設け、反射防止ハードコートフィルムを作製した。
【0054】
[実施例3]
塗料1及び塗料2の塗工の際、塗工してから乾燥させるまで30秒かかった以外は、実施例1と同様にしてハードコート層及び低屈折率層を設け、反射防止ハードコートフィルムを作製した。
【0055】
[実施例4]
塗料1及び塗料2の塗工の際、乾燥を塗布面に1.0m/秒の風を当てて行うこと以外は、実施例1と同様にしてハードコート層及び低屈折率層を設け、反射防止ハードコートフィルムを作製した。
【0056】
[比較例1]
塗料1及び塗料2の塗工の際、塗工直後に塗布面に風速1.5m/秒の風を当てたこと以外は、実施例1と同様にしてハードコート層及び低屈折率層を設け、反射防止ハードコートフィルムを作製した。
【0057】
[比較例2]
塗料1及び塗料2の塗工の際、乾燥を塗布面に2.0m/秒の風を当てて行うこと以外は、実施例1と同様にしてハードコート層及び低屈折率層を設け、反射防止ハードコートフィルムを作製した。
【0058】
[比較例3]
塗料1及び塗料2の塗工の際、絶対湿度4.6g/m^(3)(22.6℃、23%RH)の雰囲気下にて行い、塗工直後に塗布面に風速1.5m/秒の風を当てたこと以外は、実施例1と同様にしてハードコート層及び低屈折率層を設け、反射防止ハードコートフィルムを作製した。
【0059】
実施例及び比較例で作成した反射防止ハードコートフィルムについて、以下に評価方法にて外観面状を評価した。
・外観面状:作製した反射防止ハードコートフィルムの裏面に、黒いアクリル版を貼り付け、ブラッシング、乾燥ムラを目視により4段階評価した。ここで、ブラッシングの欠陥とは、塗布膜表面が白く曇り、透明性が著しく劣った状態を言う。乾燥ムラの欠陥とは、塗布膜の部分部分で膜厚が異なるため、見た目の色調が、膜厚の厚い部分では青く、薄い部分では赤く見える、と言ったように色ムラが生じた状態を言う。
(評価基準)
◎:外観欠陥全く無し ○:外観欠陥若干有り △:外観欠陥有るが実用上問題無し ×:全面外観欠陥有り実用不可
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示されるように、本発明である実施例1では、ブラッシングや乾燥ムラの無い、良好な外観を有する反射防止ハードコートフィルムを得ることが出来た。塗工の際、塗工直後に、塗布面に風速0.5m/秒の風を当てた実施例2でも、外観欠陥は、実用上問題無いレベルであった。塗工してから乾燥させるまでの時間が30秒である実施例3では、塗布面に乾燥ムラが発生したものの、実用上問題無いレベルであった。乾燥ゾーンでの塗料の乾燥を、塗布面に1.0m/秒の風を当てて行った実施例4では、ブラッシングと乾燥ムラ若干発生したが、実用上問題無いレベルであった。
【0062】
これに対して、絶対湿度の高い風が、塗工直後に風速1.5m/秒で塗布面に当たる比較例1は、ブラッシングが塗布面全面に発生し、実用不可のレベルであった。乾燥ゾーンでの塗料の乾燥を、塗布面に2.0m/秒の風を当てて行った比較例2では、乾燥ムラが発生し、実用不可のレベルであった。絶対湿度が4.6g/m^(3)の雰囲気下にて塗工を行い、その際塗工直後に風速1.5m/秒で塗布面に風を当てた比較例3は、絶対湿度が低いため、ブラッシング等の問題は発生していない。」

(6)上記(1)ないし(5)から、引用文献1には、実施例1として、次の発明が記載されているものと認められる。
「厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(商品名:FUJITAC-T80UZ、富士写真フイルム社製)の一方の面に、ハードコート層を設け、
このハードコート層上に、下記塗料2を乾燥後100nmの厚さとなるようバーコーターにて塗工し、60℃のドライヤーで乾燥して反射防止層を設け、
下記塗料2の塗工の際、塗工直後から乾燥ゾーンまでの間には、風除けのカバーを設置し、風を塗布面に当てないようにし、
塗工してから乾燥させるまでの時間は15秒で、乾燥は塗布面の反対側から1.0m/秒の風を当てて行った、
反射防止ハードコートフィルムの製造方法。

<塗料2>(低屈折率層用塗料)
テトラエトキシシラン(関東化学社製)3.3重量部とエタノール95.7重量部を混合し十分に攪拌した。この塗料に1%シュウ酸水溶液1重量部を加えて均一に溶解するまで攪拌して、塗料2とした。」(以下「引用発明」という。)

2 本願発明1と引用発明との対比
(1)引用発明の「トリアセチルセルロース」、「反射防止層」及び「反射防止ハードコートフィルム」は、それぞれ本願発明1の「光透過性支持体」、「反射防止層」及び「反射防止フィルム」に相当する。

(2)引用発明において、「トリアセチルセルロースフィルム」(本願発明1の「光透過性支持体」に相当。以下、「」に続く()内の用語は対応する本願発明1の用語を表す。)の一方の面に、ハードコート層を設け、このハードコート層上に、低屈折率層用塗料である塗料2を乾燥後100nmの厚さとなるようバーコーターにて塗工し、60℃のドライヤーで乾燥して「反射防止層」(反射防止層)を設け、「反射防止ハードコートフィルム」(反射防止フィルム)を製造しており、「トリアセチルセルロースフィルム」(光透過性支持体)の上にハードコート層を介して「反射防止層」(反射防止層)を有することは明らかである。そうすると、引用発明は、本願発明1の「光透過性支持体上に反射防止層を有する反射防止フィルムを製造する方法」との要件を備える。

(3)また、上記(2)からみて、引用発明の「『低屈折率層用塗料』又は『塗料2』」が、本願発明1の「反射防止層形成用塗工液」に相当することも明らかであるから、引用発明の「塗料2」(反射防止層形成用塗工液)の塗工工程と、本願発明1の「反射防止層形成用塗工液を前記光透過性支持体の少なくとも一方の面に塗工して塗膜を形成する塗布工程」とは、「反射防止層形成用塗工液を前記光透過性支持体の少なくとも一方の面の上方に塗工して塗膜を形成する塗布工程」である点で一致する。

(4)引用発明において、「塗料2」(反射防止層形成用塗工液)を乾燥後100nmの厚さとなるようバーコーターにて塗工し、60℃のドライヤーで乾燥して反射防止層を設け、「塗料2」(反射防止層形成用塗工液)の塗工の際、塗工直後から乾燥ゾーンまでの間には、風除けのカバーを設置し、風を塗布面に当てないようにしているのであるから、「塗工直後から乾燥ゾーンまでの間」が第1乾燥工程といえ、「60℃のドライヤー」による「乾燥」が第2乾燥工程といえる。そうすると、引用発明は、本願発明1の「前記塗膜を乾燥させる乾燥工程」を含み、「前記乾燥工程が、第一乾燥工程と第二乾燥工程とを含む」ものである。

(5)上記(1)ないし(4)からみて、本願発明1と引用発明とは、
「光透過性支持体上に反射防止層を有する反射防止フィルムを製造する方法であって、
反射防止層形成用塗工液を前記光透過性支持体の少なくとも一方の面の上方に塗工して塗膜を形成する塗布工程と、
前記塗膜を乾燥させる乾燥工程とを含み、
前記乾燥工程が、第一乾燥工程と第二乾燥工程とを含む、
反射防止フィルムの製造方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願発明1では、「反射防止層形成用塗工液を光透過性支持体の少なくとも一方の面に塗工して塗膜を形成する」のに対し、
引用発明では、「低屈折率層用塗料」である「塗料2」(反射防止層形成用塗工液)をハードコート層上に塗工して塗膜を形成する点。

相違点2:
本願発明1では、「前記反射防止層形成用塗工液の固形分濃度を、0.1?3重量%の範囲内とし」ているのに対し、
引用発明では、「低屈折率層用塗料」である「塗料2」(反射防止層形成用塗工液)の固型分濃度は3.3%(=3.3重量部÷(3.3重量部+95.7重量部+1重量部))である点。

相違点3:
本願発明1では、「前記塗布工程において、前記塗膜の膜厚を、5.3?16μmの範囲内とし、」であるのに対し、
引用発明では、乾燥後100nmの厚さとなるよう塗工しているが、塗工時の膜厚が明らかでない点。

相違点4:
本願発明1では、「前記第一乾燥工程は、前記塗膜の膜厚残存率が80%?35%の範囲内となるまで行われ、前記第一乾燥工程において、前記塗膜の乾燥による膜厚減少速度を、0.2μm/sec以下とし、前記第二乾燥工程において、前記塗膜の乾燥による膜厚減少速度を、0.3μm/sec以上とし、前記第一乾燥工程における膜厚減少速度とは、塗工直後の反射防止層形成用塗工液の膜厚と第一乾燥工程後の膜厚との差を、第一乾燥工程の時間で割った数値であり、前記第二乾燥工程における膜厚減少速度とは、第一乾燥工程後の膜厚と第二乾燥工程後の膜厚との差を、第二乾燥工程の時間で割った数値である」のに対し、
引用発明では、「塗工直後から乾燥ゾーンまでの間」(第1乾燥工程)における膜厚残存率及び膜厚減少速度、「60℃のドライヤーによる乾燥」(第2乾燥工程)における膜厚減少速度が明らかでない点。

3 判断
事案に鑑みて、上記相違点4について検討する。
(1)0.1?3重量%の範囲内の固形分濃度を有する反射防止層形成用塗工液は周知(以下「周知技術」という。例.原査定で引用した特開2004-160736号公報(【0089】参照。)、原査定で引用した特開2011-90126号公報(【0089】参照。))である。

(2)引用発明は、固形分濃度が3.3%である「塗料2」(反射防止層形成用塗工液)をハードコート層上に塗工し、60℃のドライヤーで乾燥して反射防止層を設け、「塗料2」(反射防止層形成用塗工液)の塗工の際、塗工直後から乾燥ゾーンまでの間には、風除けのカバーを設置し、風を塗布面に当てないようにしているものである。前述のとおり、引用発明は、本願発明1の第1乾燥工程と第2乾燥工程とを備えているものであり、上記周知技術を踏まえれば、固形分濃度を本願発明1の範囲内とすることにより、膜厚残存率及び膜厚減少速度について、本願発明1と同様な結果が得られる可能性があるとまではいえるかもしれない。

(3)しかしながら、本願発明1は、反射防止フィルムの製造方法であり、第1乾燥工程における膜厚残存率及び膜厚減少速度、第2乾燥工程における膜厚減少速度をそれぞれ所定範囲となるように調整することにより、本願の明細書の【0039】に記載されているように、第1乾燥工程において、乾燥が緩やかに進み、塗膜が流動し、第2乾燥工程において、乾燥を促進させて、塗工液の流動性をすばやく失わせることにより、点欠点を小さくすることができるものである。

(4)これに対し、反射防止フィルムの製造にあたり、点欠点を小さくするために、第1乾燥工程における膜厚残存率及び膜厚減少速度、第2乾燥工程における膜厚減少速度をそれぞれ所定範囲となるように調整することは、引用例1に記載も示唆もなく、周知であったとも認められないから、引用発明において、上記相違点4に係る本願発明1の構成となすことは当業者が容易になし得たものではない。

(5)そして、本願発明1の奏する効果は、引用発明及び周知技術の奏する効果から当業者が予測することができたものではない。

(6)したがって、引用文献1には、上記相違点4に係る事項が開示されてなく、しかも、当該事項が想到容易であるともいえないから、上記相違点1ないし3について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものではない。

4 本願発明2ないし6について
本願発明1は、当業者が引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものでないのであるから、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本願発明2ないし6も同様に、当業者が引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-08-29 
出願番号 特願2011-204519(P2011-204519)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 宮澤 浩
鉄 豊郎
発明の名称 反射防止フィルムの製造方法、反射防止フィルム、偏光板および画像表示装置  
代理人 伊佐治 創  
代理人 中山 ゆみ  
代理人 辻丸 光一郎  

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