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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1331592
審判番号 不服2015-17588  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-28 
確定日 2017-08-14 
事件の表示 特願2012-510287「脱色素剤としてのδ-トコフェリル-炭水化物の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月18日国際公開、WO2010/130776、平成24年11月1日国内公表、特表2012-526770〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は、平成22年5月12日(パリ条約による優先権主張 2009年5月14日 フランス(FR))を国際出願日とする特許出願であって、平成26年7月31日付けで拒絶理由が通知され、同年11月5日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正されたが、平成27年5月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に特許請求の範囲が補正され、同年11月5日付けで審判請求書の請求の理由の手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 本願発明
平成27年9月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の請求項1を削除して補正前の請求項2を新たな請求項1とするとともに、主成分の物質名である「δ-トコフェリル-炭水化物」を、式IIの物質名である「δ-トコフェリル-グルコピラノシド」にするものである。(すなわち、補正前の請求項2と補正後の請求項1は実質的に同じである。)
また、それに伴い、補正前の請求項3?12をそれぞれ請求項2?11に繰り上げて引用関係を整理するとともに、「δ-トコフェリル-炭水化物」を補正後の請求項1にあわせて「δ-トコフェリル-グルコピラノシド」とするものである。
よって、本件補正は、請求項の削除を目的とするものに該当し、特許法第17条の2第3?5項の規定に適合するものと認められる。
したがって、本願の請求項1?11に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
脱色素化粧料組成物であって、皮膚化粧料上許容されるビヒクル中に、前記組成物の総重量と比べて表された、0.05重量%?1重量%の式II:
【化1】

のδ-トコフェリル-グルコピラノシドを含む、脱色素化粧料組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成26年7月31日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、その理由1は次のとおりである。

「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・理由1
・請求項1-4
・引用文献1
備考
・・・
引用文献等一覧
1.特開2000-128762号公報」

第4 当審の判断
1 引用例及びその記載事項
本出願の優先日前である平成12年5月9日に頒布された刊行物である「特開2000-128762号公報」(原査定の引用文献1。以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。なお、以下の下線は当審で付したものである。

(a)「【請求項1】下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rはグルコ-スおよびマルト-スから選ばれる糖の残基を示す)で表されるトコフェロ-ル誘導体を有効成分とするメラニン生成抑制剤。」

(b)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これらの美白剤を配合した皮膚外用剤では、美白剤の効果が十分でなかったり、あるいは、製剤中で変質するなどして所期の薬効が得られない場合が多く、その改善が望まれていた。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、これらの問題を解決するものとして広く種々の物質について美白と深い関係のあるチロシナーゼ活性阻害効果及びメラニン生成抑制効果を調べた結果、特定の構造を有するトコフェロール誘導体が高いチロシナーゼ活性阻害作用及びメラニン生成抑制作用を有していることを見出し、本発明を完成した。」

(c)「【0007】
【発明の実施の形態】本発明のメラニン生成抑制剤の有効成分である前記一般式(1)の化合物(以下、「化合物(1)」という)は、トコフェロールの配糖体であり、トコフェロールとしては、d体、l体もしくはdl体のいずれでもよく、またα体、β体、γ体もしくはδ体のいずれでもよい。具体的にはdl-α-トコフェリルグルコシド、dl-α-トコフェリルマルトシド、dl-β-トコフェリルグルコシド、dl-β-トコフェリルマルトシド、dl-γ-トコフェリルグルコシド、dl-γ-トコフェリルマルトシド、dl-δ-トコフェリルグルコシド、dl-δ-トコフェリルマルトシド、d-α-トコフェリルグルコシド、d-α-トコフェリルマルトシド、d-β-トコフェリルグルコシド、d-β-トコフェリルマルトシド、d-γ-トコフェリルグルコシド、d-γ-トコフェリルマルトシド、d-δ-トコフェリルグルコシド、d-δ-トコフェリルマルトシド、l-α-トコフェリルグルコシド、l-α-トコフェリルマルトシド、l-β-トコフェリルグルコシド、l-β-トコフェリルマルトシド、l-γ-トコフェリルグルコシド、l-γ-トコフェリルマルトシド、l-δ-トコフェリルグルコシド、l-δ-トコフェリルマルトシド等が例示される。これらは一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。」

(d)「【0010】斯くして得られる化合物(1)は、強いメラニン生成抑制作用を有するため、メラニン生成抑制剤として有用なものである。このメラニン生成抑制剤は、常法に従い、通常の皮膚外用剤として知られる種々の形態の基剤に配合することにより、美白用皮膚外用剤とすることができる。」

(e)「【0022】本発明の美白用皮膚外用剤における化合物(1)の含有量は、好ましくは0.0005?5重量%(以下、単に「%」で示す)であり、より好ましくは0.005?3%である。この範囲内では、化合物(1)を安定に配合でき、かつ高いメラニン生成抑制効果を発揮することができるため特に好ましい。また、上記の薬効成分と組み合わせた場合にも極めて優れた美白効果を発揮できる。」

(f)「【0040】試験例2
培養細胞によるメラニン生成抑制試験:2枚の6穴シャーレに培地を適量採取し、マウス由来B16メラノーマ細胞を播種し、37℃、二酸化炭素濃度5%中にて静置する。翌日、製造例1および2並びに参考例1で得た各サンプルを、所定の最終濃度となるように調整した検体調製液とし、これをシャーレに添加混和する。培養5日目に培地を交換し、再度検体調製液を添加する。翌日、培地を除去し、1枚のシャーレについて、細胞をリン酸緩衝液にて洗浄した後回収し、B16メラノーマ培養細胞の白色化度を以下の基準にて目視にて評価した。また、すでにメラニン生成抑制作用のあることが知られている参考例1で得たクジン抽出物についても同様の試験をおこなった。
・・・
【0045】製造例1で得たdl-α-トコフェリルグルコシド、製造例2で得たdl-α-トコフェリルマルトシドは、高いメラニン生成抑制作用を有し、かつB16メラノーマ培養細胞に対し毒性が低いことが認められた。」

2 引用例に記載の発明
上記1(c)からみて、引用例には、「d体、l体もしくはdl体のいずれでもよく、またα体、β体、γ体もしくはδ体のいずれでもよいトコフェロールの配糖体であるメラニン生成抑制剤」が記載されているといえる。
そして、上記1(b)のとおり、美白と深い関係のあるメラニン生成抑制作用を有しているトコフェロール誘導体は、美白剤、すなわちメラニン生成抑制剤として皮膚外用剤に配合して用いられるものである。
よって、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「d体、l体もしくはdl体のいずれでもよく、またα体、β体、γ体もしくはδ体のいずれでもよいトコフェロールの配糖体であるメラニン生成抑制剤を配合した皮膚外用剤。」

なお、特許文献である引用例には、上記1(a)のとおり、その請求項1に、α-トコフェリルグルコシド又はα-トコフェリルマルトシドを有効成分とするメラニン生成抑制剤のみが記載されていることから、一見すると、引用例にはメラニン生成抑制剤として請求項1のものしか記載されていないともとれそうであるが、上記のとおり、当合議体はそのような解釈に与しない。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「d体、l体もしくはdl体のいずれでもよく、またα体、β体、γ体もしくはδ体のいずれでもよいトコフェロールの配糖体」は、本願発明の「式II(式略)のδ-トコフェリル-グルコピラノシド」と「トコフェロールの配糖体」である点で共通する。

(2)本願明細書【0022】に、「本発明では、δ-トコフェリル-炭水化物は、化粧料の脱色素剤として使用される。」と説明されているとおり、本願発明の「式II(式略)のδ-トコフェリル-グルコピラノシド」は、脱色素化粧料組成物に脱色素剤として配合されているものである。
また、本願明細書【0051】の実施例1では、脱色素特性の比較のため細胞内メラニン形成の阻害率の測定結果が示されている。
よって、引用発明の「メラニン生成抑制剤」は脱色素剤であるといえる。
したがって、メラニン生成抑制剤を配合した引用発明の「皮膚外用剤」は、本願発明の「脱色素化粧料組成物」に相当する。

(3)以上のことから、本願発明と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。

一致点:
「脱色素化粧料組成物であって、トコフェロールの配糖体を含む、脱色素化粧料組成物。」である点。

相違点:
「トコフェロールの配糖体」について、本願発明は、「皮膚化粧料上許容されるビヒクル中に、前記組成物(脱色素化粧料組成物)の総重量と比べて表された、0.05重量%?1重量%の式II(式略)のδ-トコフェリル-グルコピラノシドを含む」と特定されているのに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点。

4 判断
上記相違点について検討する。

(1)式II(式略)のδ-トコフェリル-グルコピラノシドを含む点について
ア 引用発明の「d体、l体もしくはdl体のいずれでもよく、またα体、β体、γ体もしくはδ体のいずれでもよいトコフェロールの配糖体」について、上記1(c)には、具体的な化合物が示されており、そのうちの「d-δ-トコフェリルグルコシド」は、本願発明の「式II(式略)のδ-トコフェリル-グルコピラノシド」に相当するところ、引用例に例示されているものの中から、「d-δ-トコフェリルグルコシド」を選択する程度のことは、想到容易である。

イ また、引用例には、上記1(c)に示されている化合物のうち、「dl-α-トコフェリルグルコシド」又は「dl-α-トコフェリルマルトシド」については、上記1(f)の試験例2でメラニン生成抑制作用を確認したことが記載されているのに対し、「d-δ-トコフェリルグルコシド」について実施した例は記載されていないものの、実施例で確認されている以外の残りのトコフェロールの配糖体についても、具体的にメラニン生成抑制作用を確認してメラニン生成抑制剤とすることは、当業者が格別困難を要することなくなし得たことである。しかも、「d-δ-トコフェリルグルコシド」を採用することによって、本願発明が格別な効果を奏するものともいえない。

(2)皮膚化粧料上許容されるビヒクル中に含まれる点について
皮膚外用剤に、皮膚化粧料上許容されるビヒクルが含まれることは当業者に自明な事項であり、引用例においても、トコフェロールの配糖体の1つであり、また、一般式(1)で特定されるトコフェロール誘導体を有効成分とするメラニン生成抑制剤(上記1(a)参照)についてではあるが、上記1(d)に、通常の皮膚外用剤として知られる種々の形態の基剤に配合して皮膚外用剤とすることができると記載されている。
よって、引用発明の皮膚外用剤において、トコフェロールの配糖体であるメラニン生成抑制剤を、皮膚化粧料上許容されるビヒクル中に含むとすることは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本願明細書の記載を参酌しても、本願発明において、皮膚化粧料上許容されるビヒクル中に含まれると特定することに何ら技術的意義を有するものではない。

(3)0.05重量%?1重量%含む点について
引用例には、上記1(e)に、一般式(1)で特定されるトコフェロール誘導体についてではあるが、安定に配合でき、高いメラニン生成抑制効果を発揮するためには、皮膚外用剤における含有量は、0.05?3重量%が好ましいことが示されている。すなわち、引用発明におけるトコフェロールの配糖体の含有量は、これと同程度とすることで、同様の効果が期待できると解される。
よって、0.05重量%?1重量%程度の配合量とすることは、当業者が容易になし得たことである。
また、本願発明において、配合量を特定したことについても、何ら技術的意義を有するものではない。

(4)まとめ
よって、本願発明は、引用例の記載に基づき当業者が容易になし得たものである。

(5)本願発明の効果についての補足
本願明細書の実施例には、「δ-トコフェリル-グルコピラノシド」、「δ-トコフェロール」及び「α-トコフェロール」の三種類の化合物について、細胞内メラニン形成の阻害率を比較した結果、この順で阻害活性が優れていたことが示されている(【0051】?【0053】参照)。
しかしながら、特開平6-72845号公報(拒絶査定で周知事項を示すために参照された文献)にあるとおり、δ-トコフェロールがα-トコフェロールに比べてメラニン生成抑制作用に優れたものであることは既に公知の事項である(【0047】?【0054】、特に表3参照)。
したがって、トコフェロールグルコシドがメラニン生成抑制作用を奏することが既に引用例に示されているという状況下においては、本願明細書にδ-トコフェロール自体との比較が示されているからといって、δ-トコフェリル-グルコピラノシド(δ-トコフェニルグルコシド)が、引用例の記載からは予測し得ない効果を奏するものということはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-17 
結審通知日 2017-03-21 
審決日 2017-04-03 
出願番号 特願2012-510287(P2012-510287)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 片山 真紀  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 関 美祝
小川 慶子
発明の名称 脱色素剤としてのδ-トコフェリル-炭水化物の使用  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 中村 行孝  
代理人 反町 洋  

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