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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C |
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管理番号 | 1331593 |
審判番号 | 不服2015-22747 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-12-25 |
確定日 | 2017-08-14 |
事件の表示 | 特願2012-557068「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの蒸気相製造のための触媒寿命の向上」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月15日国際公開、WO2011/112339、平成25年 6月13日国内公表、特表2013-522196〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、2011年2月18(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2010年3月10日 (US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年11月8日に手続補正書が提出され、平成26年12月18日付けで拒絶理由が通知され、平成27年3月20日に意見書および手続補正書が提出され、同年8月31日付けで拒絶査定がされ、同年12月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、当審にて、平成28年11月22日付けで拒絶理由が通知され、平成29年2月23日に意見書および手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 この出願の特許請求の範囲の記載は、平成29年2月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりであるところ、その請求項1に記載された特許を受けようとする発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。 「【請求項1】 触媒床内部の温度をモニターして、酸素共供給流をフッ素化反応中に加えて、酸素共供給流を用いない場合よりも少なくとも2倍長く触媒寿命を延ばす、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを生成する原材料の1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)とフッ化水素(HF)の蒸気相接触フッ素化反応において用いる触媒の寿命を延ばす方法であって、 触媒が、少なくとも部分フッ素化されている1種類以上の酸化クロム(III)を含み、 酸素とHCC-240faとのモル比は、0.07:1?0.005:1であり、 HFとHCC-240faとのモル比は、3:1?20:1であり、 触媒床の温度が328℃?332℃である、方法。」 なお、請求項1に記載された特許を受けようとする発明(本願発明)は、平成28年11月22日付け拒絶理由の対象となった、平成27年12月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明に対応するものである。 第3 審判合議体が通知した拒絶の理由 平成28年11月22日付けで審判合議体が通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という)の一つは概略以下のとおりである。 「拒絶理由 理由2:この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 ・・・ 記 理由2について ・・・ 3 対比・判断 ・・・ 発明の詳細な説明においては、具体的に裏付けをもって、触媒寿命を最小で2倍延ばす方法に関連して記載されているのは、フッ素化Cr_(2)O_(3)触媒を用い、HF:HCC-240fa=約7.2:1、O_(2):HCC-240fa=0.032:1の特定の場合だけであって、しかも反応器入口から14インチの場所の触媒床内部の温度の減少速度に関してのみである・・・そして、その場合でさえ、外部ヒータの温度が酸素共供給流を用いる場合と用いない場合で相違しているし、触媒寿命が触媒床内部の温度の減少速度に比例しているという請求人の推測が成り立つことを前提としている。 ・・・ よって、請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。」 第4 当審の判断 当審は、当審拒絶理由のとおり、請求項1の特許を受けようとする発明について、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 1 特許請求の範囲の記載 請求項1は、「触媒床内部の温度をモニターして、酸素共供給流をフッ素化反応中に加えて、酸素共供給流を用いない場合よりも少なくとも2倍長く触媒寿命を延ばす、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを生成する原材料の1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)とフッ化水素(HF)の蒸気相接触フッ素化反応において用いる触媒の寿命を延ばす方法」であることと、「触媒が、少なくとも部分フッ素化されている1種類以上の酸化クロム(III)を含み、 酸素とHCC-240faとのモル比は、0.07:1?0.005:1であり、 HFとHCC-240faとのモル比は、3:1?20:1であり、 触媒床の温度が328℃?332℃である」と特定され、原材料の1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)とフッ化水素(HF)の蒸気相接触フッ素化反応によって、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを生成する反応において用いる酸素共供給流をフッ素化反応中に加えて、酸素共供給流を用いない場合よりも少なくとも2倍長く触媒寿命を延ばす方法として、用いる触媒、酸素とHCC-240faとのモル比、HFとHCC-240faとのモル比、触媒床の温度を特定の範囲にした方法の発明が記載されている。 2 発明の詳細な説明の記載 一方、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 (ア)「【発明の詳細な説明】 【0005】 ・・・HCC-240faのフッ素化中に酸化クロム触媒が失活することが米国特許5,710,352に記載されている。米国特許5,811,603によれば、1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン及び1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを生成する1,1,3,3-テトラクロロプロペン(HCFO-1230za)のHFによる蒸気相フッ素化中の触媒の安定性は、酸素又は塩素を反応器中に共供給することによって向上させることができる。 【0006】 ・・・フォーム発泡剤としてクロロフルオロカーボン及びヒドロクロロフルオロカーボンを用いることは、それらの大気への放出がオゾン層に損傷を与える懸念のために禁止されている。より最近では、フォームの発泡はHFC-245faを用いることによって行われている。しかしながら、この材料の地球温暖化係数に関する懸念が提起されている。フォーム発泡用途においてHFC-245faに代わる1番の候補物質は、E-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(E))である。この材料はまた、冷媒、溶媒、又は脱脂剤としての潜在的な用途を有する。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0012】 ・・・本発明方法は、次世代の低い地球温暖化係数の材料に関する継続的な探求の一部である。かかる材料は、地球温暖化係数及びオゾン層破壊係数によって測定して低い環境影響を有していなければならない。」(下線は当審にて追加。以下同様) (イ)「【課題を解決するための手段】 【0013】 ・・・E-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(E))は、無水フッ化水素(HF)による1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)のフッ素化によって製造することができる。この反応は、好ましくは部分フッ素化Cr_(2)O_(3)から構成されるフッ素化触媒を用いて蒸気相中で行う。 【0014】 ・・・初期の反応の研究中において、触媒寿命が、同じ触媒を含む他のフッ素化反応と比べて非常に短いことが発見された。これらの初期の研究では、希釈酸素を用いて失活した触媒をうまく再生することができると示された。しかしながら、この触媒の再生方法は反応器を停止することが必要で、このために製造時間の損失をもたらす。本発明者らは驚くべきことに、反応器供給流に酸素共供給流を導入することによって触媒寿命が最小で2倍(2×)延びたことを発見した。 【0015】 ・・・本発明の一態様においては、フッ素化反応器中に、原材料であるHCC-240fa及びHFと共に酸素共供給流を導入すると、HCFO-1233zd(E)を生成するHFによるHCC-240faのフッ素化中の酸化クロム触媒の寿命が大きく増加する(即ち最小で2倍の触媒寿命の増加)。これは、酸素共供給流を含ませることにより触媒の失活をより遅延させることによって、触媒を非直結状態で再生する必要性による製造時間の損失が最小になるので有利である。酸素の源は、酸素ガス、乾燥空気、或いは窒素、アルゴン、又はヘリウムのような不活性ガスで希釈した酸素ガスであってよい。 【0016】 ・・・したがって、本発明の一態様は、酸素共供給流をフッ素化反応中に導入することによって触媒寿命を少なくとも2倍延ばす、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを生成する原材料の1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)とフッ化水素(HF)の蒸気相接触フッ素化反応において用いる触媒の寿命を延ばす方法である。 【0017】 ・・・HCFO-1233zdを形成するHCC-240faとHFとの反応は発熱反応である。本発明者らは、HCC-240faとHFとの反応中の触媒の失活速度と、触媒床の内部の温度変化の速度との間に相関関係があることを更に見出した。更に、活性触媒は外部反応器ヒーターと比べて大きな発熱を示す。触媒が失活すると、発熱は減少し、失活した触媒床の内部の温度は外部ヒーターのものに近付く。この発熱における変化をモニターすることによって、反応器の操作者が反応器供給流に酸素共供給流を加えて、触媒が長時間失活していることを回避することが可能である。」 (ウ)「【0025】 ・・・1つの好ましい方法においては、触媒は1種類以上の酸化クロム(III)を含む。より好ましくは、触媒は結晶質の酸化クロムを含む。最も好ましくは、触媒はアモルファスの酸化クロムを含む。特に好ましい態様においては、触媒は少なくとも部分フッ素化されている。」 (エ)「【0035】 ・・・HCC-240fa、HF、及び酸素を気化器に同時に供給し、次に蒸気相反応器中に供給する。場合によっては、酸素共供給流は、気化器の後であるが反応器の前の供給流に導入することができる。反応温度は約150℃?450℃であり、反応圧力は約0?125psigである。HFとHCC-240faとのモル比は、3:1以上、好ましくは3:1?20:1の間、より好ましくは4:1?12:1の間、最も好ましくは5:1?10:1の間である。酸素とHCC-240faとのモル比は、0.1:1以下、好ましくは0.07:1?0.005:1の間、より好ましくは0.01:1?0.05:1の間である。 【0036】 ・・・反応器中において好ましい触媒はフッ素化酸化クロムである。部分フッ素化中間体及び副生成物、過フッ素化副生成物、HF、1233zd(Z+E)、及びHClから構成される反応器流出流が反応器から排出され、当該技術において公知の手段によって、生成物であるHCFO-1233zd(E)を得て、中間体及び未反応の反応物質を回収及び再循環することができるようになる。」 (オ)「【実施例】 【0038】 実施例1: ・・・本実施例は、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び塩化水素を生成する酸素共供給流の存在下におけるフッ化水素による1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパンの連続蒸気相フッ素化反応を示す。実験のためのフッ素化触媒はフッ素化Cr_(2)O_(3)であった。 【0039】 HCC-240fa+3HF→1233zd+4HCl ・・・空気、N_(2)、HF、及び有機供給システム、供給流気化器、過熱器、内径2インチのモネル反応器、酸スクラバー、乾燥機、及び生成物回収システムから構成される連続蒸気相フッ素化反応システムを用いた。反応器に、約1.44Lの触媒に相当する2135gのフッ素化Cr_(2)O_(3)触媒を装填した(触媒床の全高は約28インチであった)。反応器の中央にマルチポイント熱電対を設置した。次に、反応器を一定温度の砂浴中に設置した後、窒素ガス(N_(2))パージを触媒上に流しながら、反応器を約275℃の反応温度に加熱した。反応器は約2psigの圧力に維持した。 【0040】 ・・・HF供給流をN_(2)との共供給流として15分間(気化器及び過熱器を通して)反応器に導入し、この時点でN_(2)流を停止した。HFの流速を1.0ポンド/時に調節し、次に反応器への1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)の供給(気化器及び過熱器を通す)を1.5ポンド/時で開始した。 【0041】 ・・・次に、空気共供給流を179.4cm^(3)/分の速度で導入し(空気流は気化器の前に加えた)、これによって0.032:1のO_(2):HCC-240faの比を与えた。HCC-240faの供給速度を約1.5ポンド/時において一定に維持し、約7.2:1のHF:240faのモル比を与えるために、HF供給を1.0ポンド/時において一定に維持した。反応が開始したら、触媒床の温度を約328℃?332℃に調節した。この実施例を通してHCC-240faの完全な転化が観察された。 【0042】 ・・・この実施例中においては、HCC-240faフッ素化反応の発熱性のために、内部触媒床の温度が外部反応器ヒーター(砂浴)のものよりも高かったことが認められた。また、過剰の触媒を用いたので、触媒床全体にわたって温度勾配が観察された。始めに反応の開始時においては、最も高い温度(ホットスポット)は反応器の入口において観察された。ホットスポットの位置は、連続反応が進行するにつれて触媒床を通ってゆっくりと移動し、これは反応器の入口において触媒が少なくとも部分的に失活していたことを示す。 【0043】 ・・・反応のホットスポットが反応器の中央(触媒床の全長は約28インチであった)に移動した後、触媒床の内部の2つの位置(反応器入口から11及び14インチ)を選択して触媒失活の速度をモニターした。図1に示すように、触媒床の内部のこれらの2つの位置における温度を20時間にわたってモニターした。11インチにおける温度は0.04978℃/時の速度で直線的に低下し、14インチにおける温度は0.05053℃/時の速度で直線的に低下したことが算出された。 【0044】 実施例2: ・・・本実施例は、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び塩化水素を生成するフッ化水素による1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパンの連続蒸気相フッ素化反応中の酸化クロム触媒の安定性に対する酸素共供給流の効果を示すことを意図する比較例である。 【0045】 HCC-240fa+3HF→1233zd+4HCl ・・・この実施例に関しては、実施例1に関する実験の終了時において空気共供給流を停止したことを除いて、実施例1と同じ反応システム及び反応条件を用いた。 【0046】 ・・・空気共供給流を停止した後、外部ヒーターの温度を調節して、反応器入口から14インチの触媒床温度を約330℃にした。次に、実施例1と同じように及び図2に示すように、反応器の入口から11及び14インチの位置における触媒床温度を20時間にわたってモニターした。11インチにおける温度は0.08021℃/時の速度で直線的に低下し、14インチにおける温度は0.11550℃/時の速度で直線的に低下したことが算出された。 【0047】 ・・・図1と図2と比較すると、空気共供給流の不存在下での触媒床の内部の11及び14インチにおいて測定された温度は、空気共供給流の存在下よりもそれぞれ1.6倍及び2.3倍速く低下したことが明らかである。これは、酸素をHCC-240fa及びHFと一緒にフッ素化反応器に共供給すると、0.032:1程度の低いO_(2):HCC-240faの比においても、酸化クロム触媒の失活速度が少なくとも2倍(2X)のファクターで大きく低下したことを示す。」 3 判断 (1)本願発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提 特許請求の範囲の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)本願発明の課題 本願明細書の摘記(イ)の「【0013】 ・・・E-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(E))は、無水フッ化水素(HF)による1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)のフッ素化によって製造することができる。この反応は、好ましくは部分フッ素化Cr_(2)O_(3)から構成されるフッ素化触媒を用いて蒸気相中で行う。 【0014】 ・・・触媒寿命が、同じ触媒を含む他のフッ素化反応と比べて非常に短いことが発見された。・・・反応器供給流に酸素共供給流を導入することによって触媒寿命が最小で2倍(2×)延びたことを発見した。 【0015】 ・・・本発明の一態様においては、フッ素化反応器中に、原材料であるHCC-240fa及びHFと共に酸素共供給流を導入すると、HCFO-1233zd(E)を生成するHFによるHCC-240faのフッ素化中の酸化クロム触媒の寿命が大きく増加する(即ち最小で2倍の触媒寿命の増加)・・・本発明の一態様は、酸素共供給流をフッ素化反応中に導入することによって触媒寿命を少なくとも2倍延ばす、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを生成する原材料の1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)とフッ化水素(HF)の蒸気相接触フッ素化反応において用いる触媒の寿命を延ばす方法である。・・・本発明者らは、HCC-240faとHFとの反応中の触媒の失活速度と、触媒床の内部の温度変化の速度との間に相関関係があることを更に見出した。・・・」との記載、及び明細書全体の記載を参酌して、本願発明の課題は、酸素共供給流をフッ素化反応中に加える、1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)とフッ化水素(HF)との蒸気相接触フッ素化反応によって、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを生成する反応に用いる、酸素共供給流を用いない場合よりも少なくとも2倍長く触媒の寿命を延ばす方法の提供にあると認める。 (3)対比判断 ア 前記1 に記載したとおり、特許請求の範囲の請求項1には、 原材料の1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)とフッ化水素(HF)の蒸気相接触フッ素化反応によって、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを生成する反応において用いる、触媒床内部の温度をモニターし、酸素共供給流をフッ素化反応中に加えて、酸素共供給流を用いない場合よりも少なくとも2倍長く触媒寿命を延ばす触媒の寿命を延ばす方法として、用いる触媒として、少なくとも部分フッ素化されている1種類以上の酸化クロム(III)を含むこと、酸素とHCC-240faとのモル比は、0.07:1?0.005:1であること、HFとHCC-240faとのモル比は、3:1?20:1であること、触媒床の温度が328℃?332℃であることを特定した方法の発明が記載されているといえる。 イ 一方、発明の詳細な説明には、1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)とフッ化水素(HF)の蒸気相接触フッ素化反応によって、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを生成する反応において用いる、触媒床内部の温度をモニターし、酸素共供給流をフッ素化反応中に加えて、酸素共供給流を用いない場合よりも少なくとも2倍長く触媒寿命を延ばす触媒の寿命を延ばす方法に関して、特許請求の範囲の繰り返し記載を除くと、前記2(ア)には、HCC-240faのフッ素化中に酸化クロム触媒が失活すること、が米国特許5,710,352に記載されている。米国特許5,811,603によれば、HCC-240faを生成する1,1,3,3-テトラクロロプロペン(HCFO-1230za)のHFによる蒸気相フッ素化中の触媒の安定性は、酸素又は塩素を反応器中に共供給することによって向上させることができること、フォーム発泡用途においてHFC-245faに代わる1番の候補物質は、E-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンであり、冷媒、溶媒、又は脱脂剤としての潜在的な用途を有することが記載されている。 また、前記2(イ)には、E-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(E))は、無水フッ化水素(HF)による1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)のフッ素化によって製造することができ、部分フッ素化Cr_(2)O_(3)から構成されるフッ素化触媒を用いて蒸気相中で行うこと、この触媒寿命が、同じ触媒を含む他のフッ素化反応と比べて非常に短いことが発見されたことが記載されている(【0013】【0014】)。 そして、本発明者らは、HCC-240faとHFとの反応中の触媒の失活速度と、触媒床の内部の温度変化の速度との間に相関関係があることを見出したこと、触媒が失活すると、発熱は減少し、失活した触媒床の内部の温度は外部ヒーターのものに近付き、この発熱における変化をモニターすることによって、反応器の操作者が反応器供給流に酸素共供給流を加えて、触媒が長時間失活していることを回避することが可能であることが記載されている(【0017】)。 また、前記2(ウ)には、使用する触媒に関して、酸化クロム(III)を含むこと、特に好ましい態様においては、触媒は少なくとも部分フッ素化されていることが記載されている(【0025】)。 また、前記2(エ)には、「反応温度は約150℃?450℃であり、反応圧力は約0?125psigである。HFとHCC-240faとのモル比は、3:1以上、好ましくは3:1?20:1の間、より好ましくは4:1?12:1の間、最も好ましくは5:1?10:1の間である。酸素とHCC-240faとのモル比は、0.1:1以下、好ましくは0.07:1?0.005:1の間、より好ましくは0.01:1?0.05:1の間である。」と、記載され、反応温度、反応圧力、HFとHCC-240faとのモル比、酸素とHCC-240faとのモル比が好ましい範囲として、上限下限の技術的意義の記載を伴わずに記載されている(【0035】)。 さらに、前記2(オ)には、実施例1として、酸素共供給流の存在下、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンとフッ化水素による1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパンの連続蒸気相フッ素化反応をフッ素化触媒として、フッ素化Cr_(2)O_(3)を用いて行ったことが記載され、触媒床の全高は約28インチで、反応器の中央にマルチポイント熱電対を設置したこと(【0039】)、空気共供給流を導入し0.032:1のO_(2):HCC-240faの比を与えたこと、約7.2:1のHF:240faのモル比を与えるためにHF供給を一定に維持したこと、触媒床の温度を約328℃?332℃に調節したことが記載され、HCC-240faの完全な転化が観察されたことが記載されている(【0041】)。 そして、触媒床の入り口から11インチおよび14インチの2つの位置の温度をモニターして、11インチにおける温度が0.04978℃/時の速度で直線的に低下したこと、14インチにおける温度は0.05053℃/時の速度で直線的に低下したことが算出されたことも記載されている(【0043】)。 そして、実施例2では、空気共供給流を停止したことを除いて、実施例1と同じ反応システム、反応条件を用いて、触媒床を330℃として実施し、11インチにおける温度が0.08021℃/時の速度で直線的に低下したこと、14インチにおける温度は0.11550℃/時の速度で直線的に低下したことが算出されたことが記載されている(【0045】【0046】)。 さらに、図1と図2と比較すると、空気共供給流の不存在下での触媒床の内部の11及び14インチにおいて測定された温度は、空気共供給流の存在下よりもそれぞれ1.6倍及び2.3倍速く低下したことが明らかであると分析し、酸素をHCC-240fa及びHFと一緒にフッ素化反応器に共供給すると、0.032:1程度の低いO_(2):HCC-240faの比においても、酸化クロム触媒の失活速度が少なくとも2倍のファクターで大きく低下したことを示しているとの評価の記載がなされている(【0047】)。 ウ しかしながら、請求項1に係る特許を受けようとする発明である、原材料の1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)とフッ化水素(HF)の蒸気相接触フッ素化反応によって、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを生成する反応において用いる酸素共供給流をフッ素化反応中に加えて、酸素共供給流を用いない場合よりも少なくとも2倍長く触媒寿命を延ばす方法に関しては、 HCC-240faとHFとの反応中の触媒の失活速度と、触媒床の内部の温度変化の速度との間に相関関係があることを見出したこと、触媒が失活すると、発熱は減少し、失活した触媒床の内部の温度は外部ヒーターのものに近付き、この発熱における変化をモニターすることによって、反応器の操作者が反応器供給流に酸素共供給流を加えて、触媒が長時間失活していることを回避することが可能であるとの知見の一般的記載があることと、反応条件に関して、「反応温度は約150℃?450℃であり、反応圧力は約0?125psigである。HFとHCC-240faとのモル比は、3:1以上、好ましくは3:1?20:1の間、より好ましくは4:1?12:1の間、最も好ましくは5:1?10:1の間である。酸素とHCC-240faとのモル比は、0.1:1以下、好ましくは0.07:1?0.005:1の間、より好ましくは0.01:1?0.05:1の間である。」との記載が上限下限の技術的意義を何ら明らかにしないまま記載されているだけである。 そして、具体的実験によって確認された事項としては、触媒床の中央である14インチの場所で、空気共供給流を導入し、O_(2):HCC-240faの比を0.032:1、HF:240faのモル比を約7.2:1とした場合に、空気共供給流を導入しない場合の0.11550℃/時の温度低下に対して、0.05053℃/時との結果が得られたことに留まる。 そこで、これらの記載から、本願発明の課題が解決できると認識できるかについて検討すると、HCC-240faとHFとの反応中の触媒の失活速度と、触媒床の内部の温度変化の速度との間に相関関係があることを見出したとの見解は、触媒が失活すると、発熱は減少し、失活した触媒床の内部の温度は外部ヒーターのものに近付き、この発熱における変化をモニターすることによって、触媒の失活を把握できるとの前提に基づいている。 しかしながら、本件明細書においては、まず、触媒床の内部の温度変化の速度と触媒の失活速度が相関していることを、触媒床の温度変化が生じた後の触媒機能の低下等を触媒床の各内部温度において部分フッ素化された酸化クロム触媒の表面や内部の状態や触媒としての反応性を観測、測定する等して、実際に寿命が延びたことを全く示していないのであるから、上記相関があることは、実証されていない。 さらに、触媒の失活速度が2倍以上遅くなったことと触媒寿命が2倍以上長くなることとも、厳密には同じことを示すわけでもない。 したがって、触媒の失活速度を2倍以上遅くすることを、少なくとも2倍長く触媒寿命を延ばすことであると解しても、空気共供給流を導入した場合としない場合で、特定の触媒床の箇所において(中央部)、内部の温度低下速度に一定の差が生じた結果のみから、酸素共供給流を用いない場合よりも少なくとも2倍長く触媒寿命を延ばす方法の発明が裏付けをもって記載されているとはいえない。 また、そのような記載や示唆がなくとも、当業者が、酸素共供給流を用いない場合よりも少なくとも2倍長く触媒の寿命を延ばす方法の提供でき、本願発明の課題が解決できると認識できる本願出願時点の技術常識もないので、請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 また、仮に、請求人の主張する前記前提、及び上述する少なくとも2倍長く触媒の寿命を延ばすことについての解釈が成り立つと解した場合であっても、明細書において、具体的に裏付けをもって、酸素共供給流を用いない場合よりも少なくとも2倍長く触媒寿命を延ばす触媒の寿命を延ばす方法に関連して記載されているのは、フッ素化Cr_(2)O_(3)触媒を用い、HF:HCC-240fa=約7.2:1、O_(2):HCC-240fa=0.032:1にした特定の場合だけであって、しかも反応器入口から14インチの場所に関してのみである。 そして、特定の化学反応に用いる触媒寿命は、反応原料や酸素のモル比、例えば、HCC-240faに対して酸素やフッ化水素をどの程度添加するかによって、影響を受けることは明らかであり、酸素の添加量によって部分フッ素化されている酸化クロム(III)の触媒が再生される状態が酸化状態の変化等で、当然異なることを考慮すると、反応中に酸素共供給流を導入する場合においても、酸素共供給流を用いない場合よりも少なくとも2倍長く触媒寿命を延ばすことができるかどうかは、実際に実験を行って結果を得ない限り確認できないといえる。 したがって、特許請求の範囲に含まれ、実際に確認した場合の以外の酸素が少ない場合や、フッ化水素が多い場合も含む、酸素とHCC-240faとのモル比が、0.07:1?0.005:1であり、HFとHCC-240faとのモル比は、3:1?20:1という範囲全体にわたって、前記課題が解決できると認識できるとはいえない。 したがって、請求項1に係る特許を受けようとする発明は、いずれにしても、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 4 請求人の主張の検討 (1)請求人のサポート要件に関する主張 請求人は、平成29年2月23日付け意見書において、サポート要件に関する主張として以下のとおり述べている。 「明細書には、本願発明の好ましい範囲として、 触媒が、少なくとも部分フッ素化されている1種類以上の酸化クロム(III)を含み、 酸素とHCC-240faとのモル比は、0.07:1?0.005:1であり、 HFとHCC-240faとのモル比は、3:1?20:1であり、 触媒床の温度が328℃?332℃である、 ことが開示されています。この好ましい範囲はこのたびの請求項1の補正により請求項に記載されました。この好ましい範囲を裏付ける具体例として・・・明細書に記載されています。よって補正後の本願発明は明細書の記載によって適切にサポートされていると思量します。」(意見書1頁下から7行?2頁3行) (2)検討 ア 審判請求人は、請求項に記載された範囲は、本願発明の好ましい範囲として、触媒が、少なくとも部分フッ素化されている1種類以上の酸化クロム(III)を含み、酸素とHCC-240faとのモル比は、0.07:1?0.005:1であり、HFとHCC-240faとのモル比は、3:1?20:1であり、触媒床の温度が328℃?332℃であることが開示され、明細書の記載によって適切にサポートされている旨主張するが、前述のとおり、実際に具体的に実験を行い裏付けをもって記載されているのは、触媒床の中央である14インチの場所で、空気共供給流を導入し、O_(2):HCC-240faの比を0.032:1、HF:240faのモル比を約7.2:1とした場合に、空気共供給流を導入しない場合の0.11550℃/時の温度低下に対して、0.05053℃/時との結果が得られたことに留まる。 触媒の寿命が、酸素共供給流を用いない場合よりも少なくとも2倍長く延びたかどうかは実際に確認されていないし、温度低下の程度が触媒寿命を反映していると仮定しても、特許請求の範囲全体にわたって、確認しているわけでもない。 したがって、特許請求の範囲に特定された、酸素共供給流を用いない場合よりも少なくとも2倍長く触媒寿命を延ばす、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを生成する原材料の1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)とフッ化水素(HF)の蒸気相接触フッ素化反応において用いる触媒の寿命を延ばす方法が発明の詳細な説明に記載されているものとはいえない。 イ 以上のとおり、上記審判請求人の主張は、本願の発明の詳細な説明の記載がサポート要件を満たしていることの主張としては採用することはできない。 5 まとめ 以上のとおり、請求項1記載の特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-03-21 |
結審通知日 | 2017-03-23 |
審決日 | 2017-04-04 |
出願番号 | 特願2012-557068(P2012-557068) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(C07C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 水島 英一郎 |
特許庁審判長 |
佐藤 健史 |
特許庁審判官 |
加藤 幹 瀬良 聡機 |
発明の名称 | 1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの蒸気相製造のための触媒寿命の向上 |
代理人 | 竹内 茂雄 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 松田 豊治 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 小野 新次郎 |