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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A63F 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A63F |
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管理番号 | 1331632 |
審判番号 | 不服2016-12071 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-08-09 |
確定日 | 2017-09-05 |
事件の表示 | 特願2016- 15800「プログラム、ゲームの制御方法、及び情報処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月 3日出願公開、特開2017-131523、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年1月29日の出願であって、同年6月13日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年8月9日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成29年5月17日付けで拒絶理由通知がされ、同年7月5日付けで手続補正がされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1乃至9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」乃至「本願発明9」という。)は、平成29年7月5日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 ゲームを実行する情報処理装置に、 3次元の仮想空間内に仮想カメラ及びフィールドオブジェクトを配置する第1配置ステップと、 前記仮想カメラから見た前記フィールドオブジェクト上の特定位置における前記フィールドオブジェクトの傾斜に基づいて、3次元の前記仮想空間内において前記フィールドオブジェクト上の前記特定位置に配置するための平面オブジェクトを変形する第1変形ステップと、 変形された前記平面オブジェクトを前記フィールドオブジェクト上の前記特定位置に配置する第2配置ステップと、 前記仮想カメラを視点とするゲーム画面を表示させるステップと、 を実行させ、 前記平面オブジェクトは、複数の辺を有し、 前記第1変形ステップにおいて、前記平面オブジェクトの少なくとも1辺と、前記平面オブジェクトが配置された前記仮想空間内の配置平面に対する前記仮想カメラの光軸の射影と、が略直交するとの条件を満たすように、前記平面オブジェクトを変形する、プログラム。」 なお、本願発明2乃至9の概要は以下のとおりである。 本願発明2は、本願発明1を減縮した発明である。 本願発明3は、本願発明2を減縮した発明である。 本願発明4は、本願発明1乃至本願発明3のいずれかを減縮した発明である。 本願発明5は、本願発明1乃至本願発明4のいずれかを減縮した発明である。 本願発明6は、本願発明5を減縮した発明である。 本願発明7は、本願発明1乃至本願発明6のいずれかを減縮した発明である。 本願発明8は、本願発明1に対応する制御方法の発明であり、本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。 本願発明9は、本願発明1に対応する情報処理装置の発明であり、本願発明1と実質的な構成の差異がない発明である。 第3 引用文献、引用発明等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前の平成25年8月29日に頒布された引用文献1(特開2013-168022号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 3次元の仮想空間内にフィールドオブジェクトを配置するフィールド配置部と、 前記フィールドオブジェクトに対して俯瞰的な視点となるように、前記仮想空間内における視点を設定する視点設定部と、 該視点設定部が設定した視点に基づく視界に含まれる前記フィールドオブジェクトの範囲が変わるように前記視点又は前記フィールドオブジェクトを移動するスクロール処理部と、 該スクロール処理部による移動に応じて、前記視界の手前側が平面的となり、且つ、奥側が前記視点から遠ざかる向きへ反るように、前記フィールドオブジェクトの形状を変形するフィールド形状変形部と、 前記視点に基づいて、表示部に表示する2次元画像を生成する画像処理部を備える画像処理システム。 【請求項2】 前記フィールドオブジェクトは、ループ形状であり、 前記スクロール処理部は、前記視点又は前記フィールドオブジェクトをループ方向へ移動し、 前記フィールド形状変形部は、前記視界の手前側が平面的となるようにループ形状の前記フィールドオブジェクトの一部を変形する、 請求項1に記載の画像処理システム。 … 【請求項5】 前記視点設定部は、前記仮想空間内に仮想カメラを配置して視点を設定する、 請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の画像処理システム。 【請求項6】 前記フィールドオブジェクトの平面的部分に、キャラクタオブジェクトを配置するキャラクタ配置部と、 前記キャラクタオブジェクトを前記平面的部分上にて制御するキャラクタ制御部を備える、 請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の画像処理システム。 … 【請求項10】 請求項1乃至請求項9のいずれか1つに記載の画像処理システムと、 ゲームに係る操作を受け付ける受付部と を備え、 該受付部が受け付けた操作に応じて、前記スクロール処理部による移動を行うゲームシステム。」 (2)「【技術分野】 【0001】 本発明は、表示部に3次元の仮想空間を表示するための画像処理を行う画像処理システム、ゲームシステム、画像処理方法、画像処理装置及びコンピュータプログラムに関する。」 (3)「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 非特許文献1に記された俯瞰的な視点のフィールドのゲーム画面は、多数のキャラクタを配置した場合であっても、ユーザは各キャラクタの位置及び動作等を把握しやすい。ただしこのゲーム画面はフィールドの奥方向の表示範囲が狭く、キャラクタの移動は主にゲーム画面の左右方向に行われ、手前及び奥方向へのキャラクタの移動は僅かであった。こ のためゲーム画面中にて表現できるキャラクタの動作などが限られていた。 【0005】 また近年では、裸眼方式又は眼鏡方式等による立体視の画像表示を行うことができるゲームシステムが普及している。非特許文献1のゲームシステムに立体視の画像表示機能を搭載した場合、上記のようにフィールドの奥方向の表示範囲が狭く、手前及び奥方向へのキャラクタの移動が僅かであるため、立体視の効果が十分に得られない。 【0006】 本発明の目的とするところは、フィールドの手前及び奥方向への表示範囲を広げ、キャラクタの移動動作などをフィールド上で広範囲に亘って行うことができる画像処理システム、ゲームシステム、画像処理方法、画像処理装置及びコンピュータプログラムを提供することにある。」 (4)「【0034】 以下、本発明に係る画像処理システム、ゲームシステム及び画像処理装置等を、ゲーム機を例に、その実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。 (実施の形態1) 図1は、本実施の形態に係るゲーム機の構成を示すブロック図である。本実施の形態に係るゲーム機1は、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)等の演算処理装置を用いて構成される処理部10を備えている。処理部10は、二次記憶部12に記憶されたゲームプログラム31を一次記憶部11に読み出して実行することにより、ゲームに係る各種の演算処理(例えば、表示部13に表示するゲーム画像を 生成する処理、操作部14に対するユーザの操作を判定する処理、及び、操作内容に応じて表示部13に表示する画像を更新する処理等)を行う。」 (5)「【0044】 図3は、実施の形態1に係るゲーム機1が扱う3次元仮想空間の一例を示す模式図である。図2に示した画像表示を行うために、ゲーム機1は、3次元仮想空間にフィールドオブジェクト140、背景オブジェクト143及び仮想カメラ145等を配置する。フィールドオブジェクト140は、図2のフィールド40に対応するものであり、例えばポリゴンなどのモデルで表現された略円筒形(又は、複数の矩形面のオブジェクトをループ状につなぎ合わせた多角形の筒形でもよい)の3次元オブジェクトである。フィールドオブジェクト140の外周面には、地面の模様などのテクスチャ画像が貼り付けられており、この外周面上にプレイヤキャラクタ44及び敵キャラクタ45等が配置される。」 (6)「【0049】 また、フィールドオブジェクト140は略円筒形であるが、図2に示した平面的部分41を実現するために、その一部分を平面的に変形し、平面的部分141を設けている。図4は、フィールドオブジェクト140の変形に関する説明図である。二次記憶部12にオブジェクトデータ32として記憶されるフィールドオブジェクト140は、平面的部分141を有さない(未変形の)略円筒形のオブジェクトである(ただし、平面的部分141を有する(変形済みの)フィールドオブジェクト140を記憶していてもよい)。 【0050】 オブジェクト配置部21が3次元仮想空間にフィールドオブジェクト140、背景オブジェクト143及び仮想カメラ145等を配置した場合、仮想カメラ145の視界が定まる(図4上段参照)。処理部10のフィールド形状変形部23は、仮想カメラ145の視界の手前側(図4において左側)が平面的となるように、フィールドオブジェクト140を変形して平面的部分141を設ける(図4下段参照)。例えばフィールド形状変形部23は、仮想カメラ145の視界の手前側の端部とフィールドオブジェクト140とが交差する位置(図4上段のa点参照)を算出し、この位置から手前側及び奥側へ所定範囲に亘る変形を行うことで平面的部分141を設けることができる。 【0051】 なおフィールドオブジェクト140を略円筒形としておくことで、変形により平面的部分141を設けた場合、仮想カメラ145の視界の奥側(図4において右側)は、フィールドオブジェクト140の形状が仮想カメラ145から遠ざかる向きへ反った形状となる。 【0052】 フィールドオブジェクト140の変形を行った後、処理部10のオブジェクト配置部21はプレイヤキャラクタ44及び敵キャラクタ45等のオブジェクトをフィールドオブジェクト140上に配置する。これらキャラクタのオブジェクトは、例えばポリゴンモデル及びテクスチャ画像等のデータで構成されるものであってもよく、また例えばキャラクタが描かれた画像を仮想カメラ145に対して略垂直に配したいわゆるビルボードであってもよく、その他の構成であってもよい。例えばビルボードによるキャラクタのオブジェクトを配置する場合、フィールドオブジェクト140を変形して平面的部分141を設けておくことによって、この平面的部分141に対するオブジェクトの配置が容易化され、画像処理を高速化することができる。」 (7)「【0071】 以上の構成の実施の形態1に係るゲーム機1は、3次元仮想空間内にフィールドオブジェクト140を配置し、フィールドオブジェクト140に対して俯瞰的な視点となるように仮想カメラ145を配置し、仮想カメラ145の視界の手前側が平面的となり且つ奥側が仮想カメラ145から遠ざかる向きへ反るように、フィールドオブジェクト140を変形する。これにより表示部13には、手前側に平面的部分41が設けられ、奥側に反った部分42が設けられたフィールド40が表示される。フィールド40の平面的部分41はプレイヤキャラクタ44及び敵キャラクタ45等のオブジェクトを配置する部分として利用でき、ゲーム機1はユーザにとって見易く操作が行い易いゲーム画面を表示部13に表示することができる。またプレイヤキャラクタ44及び敵キャラクタ45等をビルボードなどのオブジェクトとした場合、平面的部分41にはこれらのオブジェクトを容易に配置することができる。またフィールド40の反った部分42により、例えば地平線又は水平線等の先にフィールド40が更に続く視覚効果をユーザに与えることができ、手前側及び奥側に関するフィールド40の遠近を効果的に表現できる。」 したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「3次元の仮想空間内にフィールドオブジェクトを配置するフィールド配置部と、 前記フィールドオブジェクトに対して俯瞰的な視点となるように、前記仮想空間内における視点を設定する視点設定部と、 該視点設定部が設定した視点に基づく視界に含まれる前記フィールドオブジェクトの範囲が変わるように前記視点又は前記フィールドオブジェクトを移動するスクロール処理部と、 該スクロール処理部による移動に応じて、前記視界の手前側が平面的となり、且つ、奥側が前記視点から遠ざかる向きへ反るように、前記フィールドオブジェクトの形状を変形するフィールド形状変形部と、 前記視点に基づいて、表示部に表示する2次元画像を生成する画像処理部を備える画像処理システムであって、 前記フィールドオブジェクトは、ループ形状であり、 前記スクロール処理部は、前記視点又は前記フィールドオブジェクトをループ方向へ移動し、 前記フィールド形状変形部は、前記視界の手前側が平面的となるようにループ形状の前記フィールドオブジェクトの一部を変形し、 前記視点設定部は、前記仮想空間内に仮想カメラを配置して視点を設定し、 前記フィールドオブジェクトの平面的部分に、キャラクタが描かれた画像を仮想カメラに対して略垂直に配したいわゆるビルボードとしたキャラクタオブジェクトを配置するキャラクタ配置部と、 前記キャラクタオブジェクトを前記平面的部分上にて制御するキャラクタ制御部を備える、画像処理システムと、 ゲームに係る操作を受け付ける受付部と を備え、 該受付部が受け付けた操作に応じて、前記スクロール処理部による移動を行うゲームシステム。」 2.引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前の平成15年5月16日に頒布された引用文献2(特開2003-141560号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【請求項2】 3次元仮想空間上に3次元ポリゴンデータで描画される3次元キャラクタと2次元スプライトデータで描画される2次元キャラクタとの多数のオブジェクトキャラクタを混在させた画像を生成する画像生成方法であって、 仮想カメラの位置及び方向情報と前記オブジェクトキャラクタの位置情報とに基づいて、前記仮想カメラの視界内かつ所定距離内に位置する所定数内のオブジェクトキャラクタを前記3次元キャラクタで、前記仮想カメラの視界内かつ前記所定距離の外に位置するか又は前記所定数を越えるオブジェクトキャラクタを前記2次元キャラクタで描画すると決定し、 前記3次元仮想空間上の前記オブジェクトキャラクタの位置に、前記オブジェクトキャラクタの位置と前記仮想カメラの位置とを結ぶ方向と、前記オブジェクトキャラクタの正面方向とがなす相対角度に基づいて、前記3次元キャラクタで描画すると決定したオブジェクトキャラクタについて前記3次元キャラクタを描画し、前記2次元キャラクタで描画すると決定したオブジェクトキャラクタについて3次元ポリゴンデータのレンダリング画像に基づいて予め用意された全天周多数方向の2次元スプライトデータの中から前記相対角度の水平方向成分がなす角度に最も近い2つの2次元スプライトデータを選択して前記仮想カメラから前記相対角度で前記オブジェクトキャラクタをみたときの幅となるように合成し、該合成された2次元スプライトデータを前記相対角度の垂直成分方向がなす角度に応じてせん断変形して前記2次元キャラクタを描画する、ステップを含む画像生成方法。 … 【請求項6】 前記せん断変形は、前記オブジェクトキャラクタの正面方向ベクトルを、該オブジェクトキャラクタの位置と前記仮想カメラの位置とを結ぶベクトルを垂線とする仮想平面に投影したときの方向ベクトルと、前記仮想平面での水平方向とのなす角度の正接値を求め、該求めた正接値に基づいて前記合成された2次元スプライトデータを垂直方向にせん断変形することにより行われることを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載の画像生成方法。」 (2)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は画像生成方法、記録媒体、画像生成装置及びプログラムに係り、特に、3次元仮想空間上に3次元ポリゴンデータで描画される3次元キャラクタと2次元スプライトデータで描画される2次元キャラクタとの多数のオブジェクトキャラクタを混在させた画像を生成する画像生成方法、該方法を記録した記録媒体、該画像生成装置及び該プログラムに関する。」 (3)「【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した特開平11-203504号公報では、キャラクタの一部を2D画像処理を行うことで3D画像処理の演算量を大幅に軽減することができるものの、3Dキャラクタと2Dキャラクタとの混在による違和感を惹起する、という問題がある。この傾向はディスプレイ上に表示されるキャラクタ数、換言すれば、ゲームに登場するキャラクタ数が多くなるにつれて著しく強調される。すなわち、ゲームに登場する多数(例えば、100以上)のキャラクタの動的変化に対応するには、3D画像処理の演算量を軽減する必要があるが、3Dキャラクタと2Dキャラクタとが混在する3D仮想空間において両者の整合性を図らなければ強い違和感のある画像となる。 【0006】この違和感を解消するには、以下の3点を解決する必要がある。(1)ゲーム中に視点となる仮想カメラは近傍から遠方まで自由に移動可能である。従って、2Dキャラクタと3Dキャラクタとが切り替わる境界があり、単純な切り替えではディスプレイ上での両者の表示が不連続性となり強い違和感を招く。なお、仮想カメラはキャラクタを全天周どの位置からも観察できるため、単純な(例えば、単に8方向程度の)2Dスプライトでは視点の変化に対応できない。(2)ゲーム中に3Dキャラクタはキャラクタ自体の向きも動的に変化するので、2Dキャラクタの動きも3Dキャラクタと同様に動的に表現しなければ均衡がとれず、特に両者の切り換え時に極端な違和感を生ずる。更に、(3)3Dキャラクタにはキャラクタ自身の陰影変化が発生するので、2Dキャラクタにも同等の処理を行わないと違和感を生ずる。 【0007】本発明は上記事案に鑑み、多数の3Dキャラクタ、2Dキャラクタが違和感なく混在可能な画像生成方法、該方法を記録した記録媒体、画像生成装置及びプログラムを提供することを課題とする。」 (4)「【0048】肯定判断のときは、次のステップ168において、ステップ164で合成された2Dスプライトを垂直方向にせん断変形するためのせん断変形処理を行う。図12(A)に示すように、このせん断変形処理では、予め定められた3DモデルMの正面方向のベクトルVfrontを、仮想カメラの視点と3Dモデルとを結んだ方向のベクトルを垂線とする仮想平面Cに投影し、図12(B)に示すように、仮想平面Cに投影後の3DモデルM’の正面方向の方向ベクトルCVfrontと水平方向Hrとのなす角度θの正接をせん断変形係数Shとして演算する(せん断変形係数Sh=tanθ)。なお、せん断変形係数Shが大きすぎるとき(キャラクタによって異なり、例えば、騎馬の場合にはShが0.4を超えるとき)は予め定められた最大値(例えば、騎馬の場合にはSh=0.4)に、せん断変形係数Shが不定値をとるとき(θ=90°)には、せん断変形係数Sh=0とすることで、異常値の処理を行うことができる。また、キャラクタが騎馬に比べて奥行きのない(細長くない)兵士のときやキャラクタを正面から見たときは、2Dキャラクタは仮想カメラから遠方にあるので違和感が生じず、必ずしも本ステップでのせん断変形を行わなくてもよい。図13(A)(B)にせん断変形処理前後の騎馬の2Dスプライトを示す。」 したがって、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「3次元仮想空間上に3次元ポリゴンデータで描画される3次元キャラクタと2次元スプライトデータで描画される2次元キャラクタとの多数のオブジェクトキャラクタを混在させた画像を生成する画像生成方法であって、 仮想カメラの位置及び方向情報と前記オブジェクトキャラクタの位置情報とに基づいて、前記仮想カメラの視界内かつ所定距離内に位置する所定数内のオブジェクトキャラクタを前記3次元キャラクタで、前記仮想カメラの視界内かつ前記所定距離の外に位置するか又は前記所定数を越えるオブジェクトキャラクタを前記2次元キャラクタで描画すると決定し、 前記3次元仮想空間上の前記オブジェクトキャラクタの位置に、前記オブジェクトキャラクタの位置と前記仮想カメラの位置とを結ぶ方向と、前記オブジェクトキャラクタの正面方向とがなす相対角度に基づいて、前記3次元キャラクタで描画すると決定したオブジェクトキャラクタについて前記3次元キャラクタを描画し、前記2次元キャラクタで描画すると決定したオブジェクトキャラクタについて3次元ポリゴンデータのレンダリング画像に基づいて予め用意された全天周多数方向の2次元スプライトデータの中から前記相対角度の水平方向成分がなす角度に最も近い2つの2次元スプライトデータを選択して前記仮想カメラから前記相対角度で前記オブジェクトキャラクタをみたときの幅となるように合成し、該合成された2次元スプライトデータを前記相対角度の垂直成分方向がなす角度に応じてせん断変形して前記2次元キャラクタを描画する、ステップを含む画像生成方法であって、 前記せん断変形は、前記オブジェクトキャラクタの正面方向ベクトルを、該オブジェクトキャラクタの位置と前記仮想カメラの位置とを結ぶベクトルを垂線とする仮想平面に投影したときの方向ベクトルと、前記仮想平面での水平方向とのなす角度の正接値を求め、該求めた正接値に基づいて前記合成された2次元スプライトデータを垂直方向にせん断変形することにより行われる画像生成方法。」 第4 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると、 後者の「ゲーム」、「ゲームシステム」、「3次元の仮想空間内」、「仮想カメラ」、及び「フィールドオブジェクト」は、それぞれ、前者の「ゲーム」、「ゲームを実行する情報処理装置」、「3次元の仮想空間内」、「仮想カメラ」、及び「フィールドオブジェクト」に相当する。 後者の「フィールドオブジェクト」は、「ループ形状であ」るから、傾斜していることは明らかであって、後者の「フィールドオブジェクトのループ形状」は、前者の「フィールドオブジェクトの傾斜」に相当する。 後者の「表示部に表示される2次元画像」は、「視点に基づ」いて生成されるものであるから、後者の「表示部」は、「仮想カメラを視点とするゲーム画面」といえる。 後者の「ゲームシステム」は、「3次元の仮想空間内にフィールドオブジェクトを配置するフィールド配置部」を備え、後者の「ゲームシステム」における「視点設定部」は、「フィールドオブジェクトに対して俯瞰的な視点となるように、前記仮想空間内における視点を設定する」ものであるから、後者の「ゲームシステム」は、「3次元の仮想空間内に仮想カメラ及びフィールドオブジェクトを配置する第1配置ステップ」を有するといえる。 後者の「ゲームシステム」における「画像処理部」は、「視点に基づいて、表示部に表示する2次元画像を生成する」ものであるから、後者の「ゲームシステム」は、「仮想カメラを視点とするゲーム画面を表示させるステップ」を有するといえる。 後者の「ゲームシステム」は、上記のとおり、「3次元の仮想空間内に仮想カメラ及びフィールドオブジェクトを配置する第1配置ステップ」及び「仮想カメラを視点とするゲーム画面を表示させるステップ」を有するといえるから、これら「ステップ」を実行させる「プログラム」を有するといえる。 したがって、両者は、 「ゲームを実行する情報処理装置に、 3次元の仮想空間内に仮想カメラ及びフィールドオブジェクトを配置する第1配置ステップと、 前記仮想カメラを視点とするゲーム画面を表示させるステップと、 を実行させる、プログラム。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点] 本願発明1が、「前記仮想カメラから見た前記フィールドオブジェクト上の特定位置における前記フィールドオブジェクトの傾斜に基づいて、3次元の前記仮想空間内において前記フィールドオブジェクト上の前記特定位置に配置するための平面オブジェクトを変形する第1変形ステップと」、「変形された前記平面オブジェクトを前記フィールドオブジェクト上の前記特定位置に配置する第2配置ステップと」、を実行させ、「前記平面オブジェクトは、複数の辺を有し、前記第1変形ステップにおいて、前記平面オブジェクトの少なくとも1辺と、前記平面オブジェクトが配置された前記仮想空間内の配置平面に対する前記仮想カメラの光軸の射影と、が略直交するとの条件を満たすように、前記平面オブジェクトを変形する」ものであるのに対し、引用発明1は、そのようなものでない点。 (2)相違点についての判断 引用発明2の「2次元キャラクタ」は、本願発明1の「平面オブジェクト」に相当する。 しかし、引用発明2の「画像生成方法」は、「2次元キャラクタで描画すると決定したオブジェクトキャラクタについて3次元ポリゴンデータのレンダリング画像に基づいて予め用意された全天周多数方向の2次元スプライトデータの中から前記相対角度の水平方向成分がなす角度に最も近い2つの2次元スプライトデータを選択して前記仮想カメラから前記相対角度で前記オブジェクトキャラクタをみたときの幅となるように合成し、該合成された2次元スプライトデータを前記相対角度の垂直成分方向がなす角度に応じてせん断変形して前記2次元キャラクタを描画する」ものであって、 上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項である「前記平面オブジェクトは、複数の辺を有し、前記第1変形ステップにおいて、前記平面オブジェクトの少なくとも1辺と、前記平面オブジェクトが配置された前記仮想空間内の配置平面に対する前記仮想カメラの光軸の射影と、が略直交するとの条件を満たすように、前記平面オブジェクトを変形する」については、記載も示唆もされていない。 また、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項が設計的事項といえる理由もない。 そして、本願発明1は、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項により、「仮想カメラ21の位置及び向きに応じて平面オブジェクト380の形状を適切に変化させることができ、仮想カメラ21を視点とするゲーム画面(フィールド画面)及び当該ゲーム画面上に表示される平面オブジェクト380の視認性が向上する。」(本願明細書【0135】参照。)という効果を奏するものである。 したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2.本願発明2乃至本願発明7について 本願発明2乃至本願発明7のいずれも、本願発明1の発明特定事項に加えて、更なる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、上記「1 (2)」と同様の理由により、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 3.本願発明8及び本願発明9について 本願発明8及び本願発明8は、それぞれ、本願発明1の「プログラム」を、「制御方法」及び「情報処理装置」としたものであって、実質的に、本願発明1と同様の発明特定事項を備えるものであるから、上記「1 (2)」と同様の理由により、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定は、 「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・請求項1、8、9に対して、引用文献等1 ・請求項2-7に対して、引用文献等1、2 <引用文献等一覧> 1.特開2013-168022号公報 2.特開2003-141560号公報」 というものである。 しかしながら、請求項1に係る発明は、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項である「前記仮想カメラから見た前記フィールドオブジェクト上の特定位置における前記フィールドオブジェクトの傾斜に基づいて、3次元の前記仮想空間内において前記フィールドオブジェクト上の前記特定位置に配置するための平面オブジェクトを変形する第1変形ステップと」、「変形された前記平面オブジェクトを前記フィールドオブジェクト上の前記特定位置に配置する第2配置ステップと」、を実行させ、「前記平面オブジェクトは、複数の辺を有し、前記第1変形ステップにおいて、前記平面オブジェクトの少なくとも1辺と、前記平面オブジェクトが配置された前記仮想空間内の配置平面に対する前記仮想カメラの光軸の射影と、が略直交するとの条件を満たすように、前記平面オブジェクトを変形する」ものとなっており、上記「第4」のとおり、本願発明1乃至9は、上記刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について 当審では、 「この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 請求項1及び8の「第1変形ステップ」、請求項2の「所定の条件」及び請求項9の「平面オブジェクトを変形し」に関して、発明の詳細な説明には、「複数の平面オブジェクト380が配置される配置平面に対する平面オブジェクト380の第2辺の射影及び仮想カメラ21の光軸22の射影が略直交する」(【0114】)と記載されているが、これ以外の条件(態様)が発明の詳細な説明に記載または示唆されていないから、本願明細書は、平面オブジェクト変形するに際し、上記記載以外の条件(態様)に基づく変形を行うような発明を実施できる程度に記載されたものではない。」 「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 請求項1及び8の「第1変形ステップ」、請求項2の「所定の条件」及び請求項9の「平面オブジェクトを変形し」との記載だけでは、発明の詳細な説明に記載の「複数の平面オブジェクト380が配置される配置平面に対する平面オブジェクト380の第2辺の射影及び仮想カメラ21の光軸22の射影が略直交する」(【0114】)条件(態様)以外の条件(態様)を包含するものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものでない。」 「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 請求項1、8及び9の「平面オブジェクト」の定義が不明である。(「キャラクタ」、「アバタ」等の「ゲーム媒体」も2次元画面上では平面であるから、これらとの差異が明らかでない。)」 との拒絶の理由を通知しているが、平成29年7月5日付けの補正において、請求項1、請求項8、及び請求項9、請求項1を引用する請求項2乃至請求項7は、先の2点の指摘に対して、請求項2の「前記第1変形ステップにおいて、前記平行四辺形の少なくとも1辺が前記仮想カメラの光軸に対して所定条件を満たすように、前記平面オブジェクトを変形する」との事項を削除し、「前記第1変形ステップにおいて、前記平面オブジェクトの少なくとも1辺と、前記平面オブジェクトが配置された前記仮想空間内の配置平面に対する前記仮想カメラの光軸の射影と、が略直交するとの条件を満たすように、前記平面オブジェクトを変形する」との補正がなされ、後の1点の指摘に対して、「3次元の前記仮想空間内において」との補正がなされた結果、この拒絶の理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-08-18 |
出願番号 | 特願2016-15800(P2016-15800) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(A63F)
P 1 8・ 121- WY (A63F) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 宇佐田 健二 |
特許庁審判長 |
黒瀬 雅一 |
特許庁審判官 |
藤本 義仁 森次 顕 |
発明の名称 | プログラム、ゲームの制御方法、及び情報処理装置 |
代理人 | 岡野 大和 |
代理人 | 甲原 秀俊 |
代理人 | 杉村 憲司 |