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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01R |
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管理番号 | 1331694 |
審判番号 | 不服2015-21862 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-12-09 |
確定日 | 2017-08-16 |
事件の表示 | 特願2013-556564「バッテリー寿命予測方法と装置およびそれを用いたバッテリー管理システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月 8日国際公開、WO2013/115585、平成26年 5月29日国内公表、特表2014-513274〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年1月31日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2012年2月2日 韓国)を国際出願日とする出願であって、平成26年10月30日付けの拒絶理由通知に対して平成27年2月3日付けで手続補正がなされたが、同年8月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月9日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ、平成28年3月18日付けで上申書が提出され、同年8月23日付けの拒絶理由通知に対して同年11月30日付けで手続補正がなされたものである。 第2 本願発明について 1 本願発明 本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成28年11月30日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】 要請信号によって時間別にバッテリーの劣化程度を予測するためのSOH(State of Health)推定値を推定するSOH推定部と、 時間別に推定された前記SOH推定値を昇順または降順に整列して格納して履歴テーブル(History table)を生成するデータ格納部と、 前記SOH推定値が整列された前記履歴テーブルから上位の複数のSOH推定値と下位の複数のSOH推定値とを除外して候補値を抽出して、前記候補値から前記バッテリーのターゲットSOHを決定する処理部と、 を含み、 前記SOH推定部は、ルックアップテーブルからバッテリーの内部抵抗と温度に対応するSOHをマッピングすることにより、前記SOH推定値を推定する バッテリー寿命予測装置。」 2 当審拒絶理由(平成28年8月23日付けの拒絶理由通知)の概要 「この出願の下記の請求項1-3,5-7に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1-4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、また、下記の請求項4,8,9に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1-5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 1.特開2009-121931号公報(以下、「引用文献1」という。) 2.特開平4-186179号公報 (以下、「引用文献2」という。) 3.特開2000-215923号公報 (以下、「引用文献3」という。) 4.“第六回 AVERAGE関数だけでは“平均値”の落とし穴にはまるかも!?”,本当は怖いExcel(エクセル)の話,[online],2011年(平成23年)9月2日,[平成28年8月4日検索],インターネット<URL: http://www.hello-pc.net/howto-excel/trimmean/> (以下、「引用文献4」という。) 5.特開2008-116208号公報 」 3 引用文献及びその記載事項 (1)引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。 a「【0001】 本発明は、エンジン始動の際に取得した車載バッテリの電圧値に基づき、バッテリの状態を管理するバッテリ状態管理方法、及びバッテリ状態管理装置に関する。 【0002】 従来、劣化度合(以下、SOH:State Of Health という)、及び充電率(以下、SOC:State Of Charge という)等のバッテリの状態の検出を、エンジン始動時等の放電時におけるバッテリの電圧降下特性に基づいて行う、特許文献1等の技術がある。SOHは、バッテリの満充電容量の基準満充電容量に対する割合で表され、SOCは、バッテリの充電残容量の満充電容量に対する割合で表される。前記電圧降下特性はバッテリ放電時の車両固有の負荷と密接に関係するため、この種の従来技術では、バッテリの状態評価のための各種のパラメータを車種ごとに個別に設定するようになっていた。 しかし、上述の従来技術では、バッテリの状態評価のための各種のパラメータを車種ごとに個別に設定するため、パラメータの設定のための人的及び装置的コストが増大するとともに、同一車種内の車両個体差によるばらつきには対応できないという問題があった。」 b「【0005】 本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、複数回のSOHの算出値を統計処理してSOHの補正値を求めることにより、SOHの算出値の誤差が低減され、良好にバッテリの状態を管理することができるバッテリ状態管理方法、及びバッテリ状態管理装置を提供することを目的とする。 【0006】 また、本発明は、複数回のSOHの算出値を相加平均して前記補正値を求めることにより、SOHの算出値の誤差が良好に低減されるバッテリ状態管理方法、及びバッテリ状態管理装置を提供することを目的とする。」 c「【0026】 以下に、本発明をその実施の形態を示す図面に基づき説明する。 実施の形態1. 図1は、本発明の実施の形態1に係るバッテリ状態管理装置2を備える電源制御装置1の概略構成を示すブロック図である。 電源制御装置1は、バッテリ(車載バッテリ)5と、バッテリ5の状態を管理するバッテリ状態管理装置2と、バッテリ5の出力電圧値(端子電圧値)を検出してバッテリ状態管理装置2に与える電圧センサ6とを備えている。バッテリ状態管理装置2は、マイクロコンピュータを用いてなり、記憶部31及びタイマ32を有する処理部3と、出力部4とを備えている。出力部4は、例えば液晶表示装置によって構成されており、バッテリ状態管理装置2の処理部3が推定したSOC、及びSOHを表示することで、ユーザに警告を行う。 【0027】 イグニッションスイッチ(以下、IG-SWという)7をオンにすることにより、バッテリ5と点火装置8とが導通され、エンジン9の始動動作が開始される。 エンジン9が回転している場合、オルタネータ(交流発電機)10によってエンジン9の回転力が電力エネルギーに変換され、発生した電力が負荷11に供給されるとともに、余剰の電力を用いてバッテリ5の充電が行われる。 【0028】 以下に、上述の構成のバッテリ状態管理装置2の処理部3の動作を、それを示す図2のフローチャートを参照しながら説明する。 まず、処理部3は、IG-SW7がオンされたか否かを判定する(S1)。処理部3は、IG-SW7がオンされていないと判定した場合、処理をステップS1へ戻す。 処理部3は、IG-SW7がオンされたと判定した場合、使用後開放電圧値V_(OR)、及び負荷L_(s) (バッテリ5の内部抵抗以外の負荷であって、負荷11、スタータ、その他の抵抗要素等を含む)がバッテリ5に接続された場合の下限電圧値である使用後下限電圧値V_(LR)を電圧センサ6を介して取得し、記憶部31に記憶させる(S2)。本実施の形態においては、使用後開放電圧値V_(OR)として、IG-SW7のオン直前に取得された電圧値を用いるが、これに限定されるものではない。 【0029】 次に、処理部3は、SOC、SOHを算出する(S3)。 処理部3の記憶部31には、以下の基準放電特性が記憶されている。 記憶部31には、工場における車両組立完成時、出荷時、車両がエンドユーザに引き渡されたとき、又はエンドユーザに引き渡し後の一定期間内等のバッテリ5が新品、かつ満充電の状態にある場合の開放電圧値である基準開放電圧値V_(OIF) 、基準内部抵抗値R_(BIF) 、及びバッテリ5に所定負荷を接続し、放電した場合の出力電圧値である基準下限電圧値V_(LIF) 、及びバッテリ5の充電残容量が略0である場合の開放電圧値である最低基準開放電圧値V_(OIE) の計測値が記憶されている。 【0030】 そして、記憶部31には、新品のバッテリの充電残容量が低下した場合の開放電圧値V_(OI)における内部抵抗値R_(BI)の前記基準内部抵抗値R_(BIF)に対する変化率(R_(BI)/R_(BIF ))の計測値が記憶され、次の式(5)に示す前記開放電圧値V_(OI)の関数F(V_(OI))として記憶されている。 F(V_(OI))=R_(BI)/R_(BIF )・・・(5) 前記関数F(V_(OI))と、前記基準開放電圧値V_(OIF) 及び前記基準下限電圧値V_(LIF) と、上述の式(3)とを用いて、前記開放電圧値V_(OI)に対する下限電圧値V_(LI)の関係を示すグラフG1 が記憶されている。 図3に、前記開放電圧値V_(OI)に対する下限電圧値V_(LI)の関係を表すグラフG1 を示す。 【0031】 上述の式(3)は、以下のようにして導出される。 エンジン始動時に新品のバッテリ5に接続されるエンジン始動時の負荷Ls の抵抗値をR_(S )とし、バッテリ5の内部抵抗値をR_(B )とし、バッテリ5の開放電圧値をV_(OI)とし、バッテリ5に負荷Ls を接続して放電を行わせた場合の出力電圧の最低値である下限電圧値をV_(LI)とすると、これらのパラメータR_(S) 、R_(BI)、V_(OI)、V_(LI)の間には、次の式(6)が成立する。 R_(S) /R_(BI)=V_(LI)/(V_(OI)-V_(LI)) ・・・(6) ここで、式(5)よりR_(BI)=F(V_(OI))・R_(BIF) であるので、次の式(7)が得られる。 R_(S) /(F(V_(OI))・R_(BIF) )=V_(LI)/(V_(OI)-V_(LI)) ・・・(7) また、パラメータR_(S) 、前記基準開放電圧値がV_(OIF)である場合の内部抵抗値R_(BIF) 、V_(OIF) 、V_(LIF) の間には、次の式(8)が成立する。 R_(S) /R_(BIF) =V_(LIF) /(V_(OIF) -V_(LIF )) ・・・(8) 式(8)の右辺を式(7)のパラメータR_(S) /R_(BIF) に代入したものをパラメータV_(LI)について解くことで、前記式(3)が得られる。 【0032】 処理部3は、記憶部31に記憶された前記使用後開放電圧値V_(OR)、使用後下限電圧値V_(LR)、及び前記グラフG1 を用いて、SOC、及びSOHを求める。なお、図3には、使用後のバッテリ5の放電特性を表すグラフG2 も示してある。 まず、SOHの算出処理について説明する。処理部3は、記憶部31に記憶されている前記グラフG1 上における下限電圧値が使用後下限電圧値V_(LR)と等しい値である場合の開放電圧値を対応開放電圧値V_(OS)として導出する。又は、前記式(3)における変数V_(LI)に使用後下限電圧値V_(LR)を代入した場合の変数V_(OI)の値を対応開放電圧値V_(OS)として導出する。 【0033】 次に、基準開放電圧値V_(OIF) と使用後開放電圧値V_(OR)との差である第1差分値D11の、基準開放電圧値V_(OIF) と対応開放電圧値V_(OS)との差である第2差分値D12に対する割合を求めることにより、その時点におけるバッテリ5のSOHが求められる。 【0034】 次に、SOCの算出処理について説明する。この算出処理は、SOHの算出処理において取得された使用後下限電圧値V_(LR)及び対応開放電圧値V_(OS)を用いて行われる。 その時点におけるバッテリ5の充電残容量が0である場合の開放電圧値である最低使用後開放電圧値V_(ORE) が、次のようにして導出される。すなわち、予め取得された基準開放電圧値V_(OIF) と最低使用後開放電圧値V_(ORE) との差である第3差分値D13の、基準開放電圧値V_(OIF) と最低基準開放電圧値V_(OIE) との差である第4差分値D14に対する比が、前記第2差分値D12に対する前記第1差分値D11の比と等しくなるようにして、最低使用後開放電圧値V_(ORE) が導出される。 【0035】 そして、使用後開放電圧値V_(OR)と最低使用後開放電圧値V_(ORE) との差である第5差分値D15の、基準開放電圧値V_(OIF) と最低使用後開放電圧値V_(ORE) との差である第6差分値D16に対する割合を求めることにより、その時点におけるバッテリ5のSOCが求められる。 【0036】 処理部3は、次の式(9)に従い、上述のようにして求めたSOHの補正値Yn を算出する(S4)。 Y_(n) =(Y_(a(n-9))+Y_(a(n-8))+Y_(a(n-7))+Y_(a(n-6))+Y_(a(n-5))+Y_(a(n-4))+Y_(a(n-3))+Y_(a(n-2))+Y_(a(n-1))+Y_(an))/10 ・・・(9) 但し、Y_(n) :第n回目のSOHの補正値 Y_(an):第n回目のSOHの算出値 処理部3は、今回の算出値を含む、過去10回の算出値を相加平均して、Y_(n) を求める。 そして、処理部3は、ステップS5により得られたSOHの補正値Y_(n) を記憶部31に記憶させる(S5)。 【0037】 上述の図7のグラフについて説明したように、SOCが0.7(70%)を超える場合、誤差が20%を超えるので、SOCの算出値が0.7を超える場合、該算出値を相加平均により補正した場合においても、誤差が大きくなると考えられる。よって、この相加平均によりSOHの算出値を補正する方法は、SOCの算出値が0.7(70%)以下である場合に適用するのが好ましく、SOCの算出値が0.6(60%)以下である場合に適用するのがより好ましく、0.5(50%)以下である場合に適用するのがさらに好ましい。 【0038】 本実施の形態においては、SOHの算出値のばらつきが容易に均され、SOHの算出値の誤差が低減され、バッテリの状態を良好に管理することができる。 なお、今回の算出値を含む、過去10回の算出値を相加平均する場合には限定されない。」 d「【0050】 以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。 [実施例1] 前記実施の形態1に係るバッテリ状態管理方法に従い、前記式(9)を用いて、今回のSOHの算出値を含む、過去10回の算出値の平均値(10点移動平均)をSOHの補正値Y_(n) とした。SOCは50%未満である。 【0051】 [実施例2] 前記実施の形態2に係るバッテリ状態管理方法に従い、前記式(10)を用いて、SOHの補正値Y_(n) を得た。 【0052】 [比較例1] 実施の形態1に係るバッテリ状態管理方法と同様にして、SOHの算出値を求めたが、SOHの算出値の補正はしなかった。 【0053】 図6は、測定回数と、実施例1、実施例2、及び比較例1により得られたSOHの値との関係を示したグラフである。横軸は測定回数であり、縦軸はSOHの値(実施例1及び2はSOHの補正値、比較例1はSOHの算出値)である。 図6のグラフにおける測定回数では、SOHの経時的変化は小さく、SOHの値のばらつきは、測定誤差と考えられる。 【0054】 図6より、実施例1及び2は、比較例1と比較して誤差が10%以内と小さくなっており、特に実施例2の場合、測定回数の値が大きくなるに従い、誤差が数%以内に収まっていることが分かる。 以上より、SOHの算出値を相加平均、指数平滑法等の統計処理により補正する本発明のバッテリ状態管理方法によれば、SOHの誤差が低減し、バッテリの状態を良好に管理することができることが確認された。 【0055】 なお、前記実施の形態1乃至4においては、SOHの算出値を相加平均、又は指数平滑法により補正した場合につき説明しているが、これに限定されるものではなく、得られた複数回のSOHの算出値の中央値、最頻値等を補正値として用いる等、他の統計処理によりSOHの算出値を補正することにしてもよい。 さらに、SOH、SOCの算出方法も前記実施の形態1乃至4において説明した方法に限定されない。 【0056】 また、前記実施の形態1乃至4においては、処理部3のステップS3の処理で、IG-SW7のオンに際して取得した使用後開放電圧値V_(OR)を用いてSOC、SOHを算出する場合につき説明しているがこれに限定されるものではない。使用後開放電圧値V_(OR)から、該使用後開放電圧値V_(OR)を取得した時点における分極分の電圧値を減じて、使用後開放電圧値V_(OR)を補正し、これを用いてSOC、SOHを算出することにしてもよい。」 ア 引用文献1には、「バッテリ状態管理装置2を備える電源制御装置1」(【0001】,【0026】)において、「電源制御装置1は、バッテリ(車載バッテリ)5と、バッテリ5の状態を管理するバッテリ状態管理装置2と、バッテリ5の出力電圧値(端子電圧値)を検出してバッテリ状態管理装置2に与える電圧センサ6とを備え」(【0026】)、「バッテリ状態管理装置2は、マイクロコンピュータを用いてなり、記憶部31(中略)を有する処理部3と、出力部4とを備え」(【0026】)、「処理部3は、IG-SW7がオンされたと判定した場合、使用後開放電圧値V_(OR)、及び(中略)使用後下限電圧値V_(LR)を電圧センサ6を介して取得し」(【0028】)、「処理部3は、記憶部31に記憶された前記使用後開放電圧値V_(OR)、使用後下限電圧値V_(LR)、及び前記グラフG1 を用いて、(中略)SOHを求め」(【0032】)、「処理部3は、今回の算出値を含む、過去10回の算出値を相加平均して、Y_(n) を求める」(【0036】)ことが記載されている。 イ 上記アの「IG-SW7」、「グラフG1」、「SOH」、「算出値」、「Y_(n)」について、引用文献1には、それぞれ、「イグニッションスイッチ」(【0027】)、「開放電圧値V_(OI)に対する下限電圧値V_(LI)の関係を示すグラフ」(【0030】)、「バッテリの劣化度合」(【0002】)、「SOHの算出値」(【0036】)、「SOHの補正値」(【0036】)であることが記載されている。また、過去10回のSOHの算出値を相加平均するのみならず、「複数回のSOHの算出値を相加平均して前記補正値を求める」(【0006】)ことも記載されている。 したがって、引用文献1に記載された事項と上記アおよびイとを総合すると、引用文献1には、次の発明が記載されている(以下、「引用発明」という。)。 「バッテリ状態管理装置を備える電源制御装置において、 電源制御装置は、バッテリと、バッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置と、バッテリの出力電圧値を検出してバッテリ状態管理装置に与える電圧センサとを備え、 バッテリ状態管理装置は、マイクロコンピュータを用いてなり、記憶部を有する処理部と、出力部とを備え、 処理部は、イグニッションスイッチがオンされたと判定した場合、使用後開放電圧値および使用後下限電圧値を電圧センサを介して取得し、記憶部に記憶された使用後開放電圧値、使用後下限電圧値、および開放電圧値に対する下限電圧値の関係を示すグラフを用いてバッテリの劣化度合であるSOHを求め、 処理部は、今回のSOHの算出値を含む、過去複数回のSOHの算出値を相加平均してSOHの補正値を求める、バッテリ状態管理装置を備える電源制御装置。」 (2)引用文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。 「(従来の技術) 従来、電気自動車、フォークリフト、ゴルフカート等のバッテリを駆動源とする機械装置においては現時点におけるバッテリの残存容量をバッテリの端子間電圧と負荷電流を計測して求める方法が知られている(例えば特開昭60-91276号公報)。また、バッテリの劣化の程度(劣化度)はバッテリの寿命であり、バッテリ液の比重を計測し、バッテリの端子間電圧又は充電電気量との関係から劣化度を判断し、前記バッテリの残存容量と共にバッテリの総合的な診断データとすることができる。」(第1頁右下欄第18行ないし第2頁左上欄第9行) (3)引用文献3には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。 「【0009】 【発明の実施の形態】以下、図1を参照しながら本発明の第一の実施の形態について説明する。図1において電池劣化判定装置1は、組電池2と組電池2の電圧を測定する電圧測定手段3と、パルス放電を発生させるパルス放電手段4と、組電池2への充電電流あるいは放電電流を測定する電流測定手段5と、組電池2の温度を測定する温度測定手段6と、電池電圧および電池温度を入力として内部抵抗の算出を行い劣化を判定する制御手段7と、劣化状態等の電池状態の情報を本体機器に通信する通信手段8と、制御手段7で求めた内部抵抗値を記憶する記憶手段9とからなる。」 「【0013】また、劣化の判定をその時点での温度検出手段より得られる電池温度および内部抵抗の変化量と電池劣化量との関係から行うことで、さらに正確な劣化判定ができる。 【0014】例えば、初期内部抵抗は25℃の換算値としてもっておく。初期内部抵抗測定時の電池温度が40℃であったとすると、図3の内部抵抗比率と温度との関係より25℃の内部抵抗値に換算して(1.4で割る)、初期内部抵抗として記憶する。尚、図3は25℃のときの内部抵抗値を基準としたとき、各温度での内部抵抗比率を表したものである。次に実使用上において定期的もしくは任意の時にパルス放電手段4にてパルス放電を行って、内部抵抗の測定を行うとき、その電池温度を測定して図3の内部抵抗比率と温度との関係より25℃の内部抵抗値に換算して、初期内部抵抗からの変化量を求め、図4の内部抵抗の初期からの変化量と電池劣化率(変化率)との関係から電池の劣化量を求める。図4で内部抵抗の初期からの変化量が30mΩなら劣化率は40%と求められる。」 (4)引用文献4には、図面とともに以下の事項が記載されている。 「「TRIMMEAN」関数を使うと、異常値を簡単に除外できる。 異常値を除外した平均を出すには、「TRIMMEAN」(トリムミーン)関数を使います。 「TRIMMEAN」関数を使うことで、データ全体から最大値と最小値を、指定した割合で除外して平均値を求めることができます。 そうすることで、異常値を除外した平均値を求めることができるのです。」 (第1頁下から第4行ないし最下行) 「■「TRIMMEAN」(トリムミーン)関数 「TRIMMEAN」関数とは、全体のデータから上限と下限の値を指定した割合で除外して平均を求める関数です。 データに含まれる異常値を平均値に含めたくない場合などに使用すると有効です。」 (第2頁中段) 「※除外する割合は小数値で指定します。(例 0.2と指定すると、上下10%ずつのデータが除外されます。)」 (第2頁下から第3行ないし第2行) 「TRIMMEAN(トリムミーン)関数の仕組み <<補足>>除外されるデータ数の計算方法 「指定した範囲のデータ数」×「除外する割合」の計算結果が偶数の場合には、上限と下限からそれぞれ同じデータ数を除外します。 計算結果が奇数の場合には、最も近い偶数に切り捨てたのち、上限と下限からそれぞれ同じデータ数を除外します。」 (第2頁最下行ないし第3頁上段) 4 対比 (1)引用発明の「バッテリ状態管理装置を備える電源制御装置」は、「劣化度合(以下、SOH:State Of Health という)(中略)等のバッテリの状態」(上記3(1)a【0002】)を求めるものであり、バッテリの劣化の程度(劣化度)は、バッテリの寿命ともいえること(必要に応じて、例えば、引用文献2の「また、バッテリの劣化の程度(劣化度)はバッテリの寿命であり、」との記載(上記3(2))参照。)から、本願発明と、「バッテリー寿命予測装置」である点で共通する。 (2)引用発明における「処理部」は、「イグニッションスイッチがオンされたと判定した場合、使用後開放電圧値および使用後下限電圧値を電圧センサを介して取得し、記憶部に記憶された使用後開放電圧値、使用後下限電圧値、および開放電圧値に対する下限電圧値の関係を示すグラフを用いてバッテリの劣化度合であるSOHを求め」、「今回のSOHの算出値を含む、過去複数回のSOHの算出値を相加平均してSOHの補正値を求める」ものであり、今回のSOHの算出値を含む、過去複数回のSOHの算出値は、時間別のSOHの算出値であるといえるから、本願発明の「要請信号によって時間別にバッテリーの劣化程度を予測するためのSOH(State of Health)推定値を推定するSOH推定部」と、「時間別にバッテリーの劣化程度を予測するためのSOH推定値を推定するSOH推定部」を有する点で共通する。 (3)引用発明における「処理部」は、「今回のSOHの算出値を含む、過去複数回のSOHの算出値を相加平均してSOHの補正値を求める」ものであり、「今回のSOHの算出値を含む、過去複数回のSOHの算出値」は「SOH推定値の候補値」であるといえるから、本願発明の「前記SOH推定値が整列された前記履歴テーブルから上位の複数のSOH推定値と下位の複数のSOH推定値とを除外して候補値を抽出して、前記候補値から前記バッテリーのターゲットSOHを決定する処理部」と、「SOH推定値の候補値からバッテリーのターゲットSOHを決定する処理部」を有する点で共通する。 すると、本願発明と引用発明とは、次の<一致点>及び<相違点>を有する。 <一致点> 「時間別にバッテリーの劣化程度を予測するためのSOH推定値を推定するSOH推定部と、 SOH推定値の候補値からバッテリーのターゲットSOHを決定する処理部と、 を含む、 バッテリー寿命予測装置。」 <相違点> 相違点A 時間別にバッテリーの劣化程度を予測するためのSOH推定値を推定するタイミングについて、本願発明は「要請信号によって」としているのに対し、引用発明は「イグニッションスイッチがオンされたと判定した場合、」としている点。 相違点B 本願発明は、「時間別に推定された前記SOH推定値を昇順または降順に整列して格納して履歴テーブル(History table)を生成するデータ格納部」を含み、かつ、「前記SOH推定値が整列された前記履歴テーブルから上位の複数のSOH推定値と下位の複数のSOH推定値とを除外して候補値を抽出して」前記候補値から前記バッテリーのターゲットSOHを決定するのに対し、引用発明には、このような特定がない点。 相違点C 本願発明は、「前記SOH推定部は、ルックアップテーブルからバッテリーの内部抵抗と温度に対応するSOHをマッピングすることにより、前記SOH推定値を推定する」のに対し、引用発明には、このような特定がない点。 5 判断 <相違点Aについて> スイッチのオン・オフの状態を信号によって伝達することは一般的であり、引用発明は、イグニッションスイッチがオンされたことを示す信号によって時間別にバッテリーの劣化程度を予測するためのSOH推定値を推定するようにしているといえ、したがって、イグニッションスイッチがオンされたことを示す信号は、バッテリーの劣化程度を予測するための「要請信号」と捉えることができる。 よって、本願発明の相違点Aに係る構成のようにすることは、格別なことではない。 <相違点Bについて> 例えば、引用文献4に記載されているように(上記3(4))、全体のデータから上限と下限の値を指定した割合で除外して平均(以下、トリム平均という。)を求める統計処理は周知であり、引用発明において、今回のSOHの算出値を含む、過去複数回のSOHの算出値のうち、上限と下限の値を指定した割合で除外して、相加平均してSOHの補正値を求めるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 その際、マイクロコンピューターにおいて演算対象のデータを記憶媒体等に格納することは一般的であるから、引用発明において、トリム平均をマイクロコンピューターで求めるにあたって必要となるデータを記憶部等に格納することは、当業者が適宜なし得ることであり、また、例えば、引用文献4の「TRIMMEAN(トリムミーン)関数の仕組み」の図にも示されているように、トリム平均を求める際にデータをその値の大きさに応じて並び替えることは広く行われていることで特段のことではない。 よって、本願発明の相違点Bに係る構成のようにすることは、格別なことではない。 <相違点Cについて> 内部抵抗と温度を測定して電池の劣化率を求めることは、引用文献3(上記3(3))のほか、特表2011-530696号公報(以下、「周知例1」という。)、特開2010-130798号公報(以下、「周知例2」という。)に記載されており(記載事項については、下記aないしb参照。)、また、内部抵抗と温度を測定して電池の劣化率を求めるにあたり、内部抵抗と温度のルックアップテーブルを用いることは、例えば、周知例1、周知例2に記載されている(同aないしbを参照)ように周知な事項である。 a 周知例1(特表2011-530696号公報) 「【0009】バッテリー容量特性の変化はバッテリーの内部抵抗変化に反映されるので、SOHはバッテリーの内部抵抗と温度とによって推定可能であると知られている。すなわち、充放電実験を通じてバッテリーの内部抵抗と温度ごとにバッテリーの容量を測定する。それから、バッテリーの初期容量を基準にして前記測定された容量を相手数値化することで、SOHマッピングのためのルックアップテーブルを得る。その後、実際バッテリー使用環境でバッテリーの内部抵抗と温度とを測定し、前記ルックアップテーブルから内部抵抗と温度とに対応するSOHをマッピングしてバッテリーのSOHを推定することができる。」 b 周知例2(特開2010-130798号公報)(当審注:後記「放電内部抵抗を演算する」は、「充電内部抵抗を演算する」の誤記である。) 「【0042】‥‥‥バッテリECU2は、放電している電池の電流と電圧から放電内部抵抗を演算し、充電している電池の電流と電圧から放電内部抵抗を演算する。このとき、温度によるフィルタリングをして、測定精度を高くする。‥‥‥内部抵抗をフィルタリングするバッテリECU2は、温度に対する内部抵抗の変化を、関数として、あるいはLUTに記憶している。この記憶値から、内部抵抗を設定温度の内部抵抗にフィルタリングして補正する。」 したがって、引用発明に前記周知な事項を用いて、本願発明の相違点Cに係る構成のようにすることは、格別なことではない。 そして、上記相違点AないしCを総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は、引用発明及び周知な事項から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。 したがって、本願発明は、引用発明及び周知な事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 6 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-03-09 |
結審通知日 | 2017-03-14 |
審決日 | 2017-03-31 |
出願番号 | 特願2013-556564(P2013-556564) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G01R)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 越川 康弘 |
特許庁審判長 |
清水 稔 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 酒井 伸芳 |
発明の名称 | バッテリー寿命予測方法と装置およびそれを用いたバッテリー管理システム |
代理人 | 龍華国際特許業務法人 |