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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02C |
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管理番号 | 1331776 |
審判番号 | 不服2015-14417 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-07-31 |
確定日 | 2017-08-23 |
事件の表示 | 特願2012-544885「コンタクトレンズを安定させる方法」拒絶査定不服審判事件〔2011年7月14日国際公開,WO2011/084679,平成25年5月2日国内公表,特表2013-515280〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続の経緯 特願2012-544885号(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年12月17日 アメリカ合衆国,以下「本件出願」という。)は,特許法184条の3第1項の規定により2010年12月17日にされたとみなされた特許出願であって,その手続の概要は,以下のとおりである。 平成26年 8月22日付け:拒絶理由通知書(同年9月2日発送) 平成26年12月12日提出:意見書 平成26年12月12日提出:手続補正書 平成27年 3月23日付け:拒絶査定(同年同月31日送達) 平成27年 7月31日提出:審判請求書 平成27年 7月31日提出:手続補正書 平成27年10月27日提出:前置報告書 平成28年 4月 7日提出:上申書 平成28年 7月26日付け:拒絶理由通知書 (同年8月2日発送,以下,この拒絶理由通知書により通知された拒絶の理由を,「当審の拒絶の理由」という。) 平成29年 2月 2日提出:意見書(以下「本件意見書」という。) 平成29年 2月 2日提出:手続補正書 (以下,この手続補正書による補正を「本件補正」という。) 2 本願発明 本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,本件補正より補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの,次のものである(以下「本願発明」という。)。 「 コンタクトレンズを製造する方法において, a)安定ゾーンパラメータの最初のセットを有する最初のレンズ設計を選択することと, b)安定化ゾーンの少なくとも1つのパラメータを前記選択されたレンズ設計における数値から変更して,変更されたレンズ設計を生成することと, c)レンズが回転しかつ偏心する程度を判定するために,少なくとも1回のまばたきの際の変更されたコンタクトレンズへの力の印加をシミュレートし,少なくとも下記のいずれかの性能を表す変数を導出することと, i)レンズの回転及びセントレーション性能, ii)静止位置周辺でのレンズの安定性,又は iii)レンズの回転及びセントレーション性能並びに静止位置周辺の安定性 d)前記変更されたレンズ設計に下記のいずれかのメリット関数を適用することと, 【数1】 【数2】 【数3】 ここで,Rot及びCentは変更されたレンズ設計の回転及びセントレーションにおけるレンズ性能を表す変数であり,R_(REF)及びC_(REF)は選択されたレンズ設計の回転及びセントレーションにおけるレンズ性能を表す変数であり,W_(R)及びW_(C)は0?1の値を取り得る重み係数であり,X_(Range),Y_(Range)及びθ_(Range)は,変更されたレンズ設計の水平方向,垂直方向,及び回転の安定性におけるレンズ性能を表す変数であり,X_(REF),Y_(REF),及びθ_(REF)は,選択されたレンズ設計の水平方向,垂直方向,及び回転の安定性におけるレンズ性能を表す変数であり,W_(X),W_(Y),及びW_(θ)は重み係数であり,Rot,Cent,及びStabは変更されたレンズ設計の回転,セントレーション,及び安定性におけるレンズ性能を表す変数であり,R_(REF),C_(REF),及びS_(REF)は選択されたレンズ設計の回転,セントレーション,及び安定性におけるレンズ性能を表す変数であり,W_(R),W_(C),W_(S)は0?1の値を取り得る重み係数であり, e)前記メリット関数の適用により,前記変更されたコンタクトレンズ設計が改善された安定性を有することが判明した場合は,前記変更されたコンタクトレンズ設計を選択することと, f)前記選択された設計のコンタクトレンズを製造することと,を含む,方法。」 3 当審の拒絶の理由 当審の拒絶の理由は,概略,本件出願の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができないから,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない,というものである。 第2 当審の判断 1 発明の詳細な説明の記載 本件出願の発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。 (1) 「【背景技術】 【0001】 特定の視覚欠損の矯正は,円筒型,二焦点,又は多焦点の特性など,非球状矯正特性をコンタクトレンズの1つ以上の面に応用することによって達成され得る。これらのレンズが有効であるためには,眼の上にある間にレンズが特定の配向でほぼ保たれなければならない。レンズの眼上での配向の維持は,典型的には,レンズの機械的特性を変えることによって行われる。レンズの背面に対する前面の偏心化,下方レンズ周縁部の厚さの増大,レンズ表面上における凹部又は隆起部の形成,及びレンズ縁部の切断などのプリズムの安定化は,安定化手法の例である。これに加えて,薄いゾーン,即ちレンズ周縁部の厚さが減少する領域を使用することによってレンズを安定化させる動的安定化が用いられてきた。典型的には,薄いゾーンは,レンズの眼上の配置の有利な地点から,レンズの垂直軸又は水平軸のいずれかに関して対称である2つの領域に位置する。 【0002】 レンズ設計の評価は,眼上のレンズの性能に関して判断した後,もしも必要かつ可能であれば,設計を最適化することを伴う。このプロセスは,通常,試験設計を患者で臨床的に評価することによって行われる。しかしながら,このプロセスは,患者間のばらつきを考慮する必要があるので,かなりの人数の試験を受ける患者を必要とするという理由から,時間及び費用がかかる。」 (2) 「【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 特定のコンタクトレンズの安定化を改善するための継続的必要性が存在する。 【課題を解決するための手段】 【0004】 本発明は,公称安定化設計と比較して,安定化が改善されて設計されたコンタクトレンズである。 【0005】 本発明の別の態様において,コンタクトレンズを安定させる方法は,安定ゾーンパラメータの公称セットを有するレンズ設計と,レンズ設計の眼上での性能を評価することと,この性能に基づいてメリット関数を計算することと,メリット関数を適用することによって安定ゾーンパラメータを最適化することと,を組み込む。このプロセスは,まばたきなどの眼の機械的構造の影響をシミュレートし,それに合わせて安定化スキームを調整する(例えば,ソフトウェアベースの)仮想モデルを介して繰り返し行われてもよい。 【0006】 本発明の更に別の態様において,コンタクトレンズは,眼上のレンズに作用するトルクの角運動量のバランスをとるスキームに従って安定化される。 【0007】 本発明の更に別の態様において,コンタクトレンズは,レンズの残部とは異なる厚さを有する1つ以上のゾーンの形成によって安定化され,その場合,これらのゾーンは,レンズが眼上にあるときにレンズに作用するトルクの角運動量のバランスがとれるように,レンズ上に位置決めされる。 【0008】 本発明の更に別の態様において,コンタクトレンズは,その長さのほとんどがレンズの水平軸の下にある安定ゾーンを有する。 【0009】 本発明の更に別の態様において,コンタクトレンズは,一つの方向に対して他の方向に,(ピークからの)異なる勾配変化率を有する安定ゾーンを有する。 【0010】 本発明の更に別の態様において,コンタクトレンズは,水平軸の下方に有するのとは異なる高さプロファイルを水平軸の上方に有する。」 (3) 「【発明を実施するための形態】 【0012】 本発明のコンタクトレンズは,レンズに作用する様々な力のバランスをとることに基づいて安定化を最適化する設計を有する。これは,眼,眼の構成要素,及び最終的には眼の上に置かれた安定化レンズに作用するトルクのバランスをとる設計プロセスの適用を含む。好ましくは,安定化要素を含む公称設計から改良プロセスを開始することによって,安定化が改善される。例えば,中心を通る水平軸及び垂直軸の両方に関して対称である2つの安定ゾーンを有するレンズ設計は,本発明の方法に従ってレンズの安定化を最適化する際の好都合な基準である。「安定ゾーン」とは,辺縁ゾーンの残りの領域の平均厚さよりも大きな厚さの値を有する,レンズの辺縁ゾーンを意味する。「辺縁ゾーン」とは,レンズの光学ゾーンを周囲方向に取り囲み,かつレンズの縁部まで延びるがこれを含まないレンズ表面の領域を意味する。有用な出発点である別の安定化設計は,参照により本明細書に組み込まれる米国特許公報第20050237482号に記載されているが,いかなる安定化設計を公称設計として用いることもでき,該設計はその後,本発明に従って最適化される。安定化設計改良プロセスは,後述の眼モデルで改良点を試験し,この試験の結果を評価し,望ましいレベルの安定化が達成されるまで改良プロセスを繰り返し続けることを組み込むこともできる。 【0013】 図1は,安定化レンズの前側,つまり対象側表面を示している。レンズ10は光学ゾーン11を有する。レンズ周縁部は光学ゾーン11を取り囲んでいる。2つの厚い領域12が周縁部に位置しており,これらが安定ゾーンである。」 (当審注:図1は以下の図である。) (4) 「【0014】 新しい設計を作製するためのプロセスで好ましく使用されるモデルには,機械的操作及びレンズ安定性に与える影響をシミュレートする様々な要素及び仮定が組み込まれている。好ましくは,このモデルは,周知のプログラミング技術に従って,標準的プログラミング技術及びコーディング技術を用いて,ソフトウェアに落とし込まれる。概括的には,このモデルは,所定の回数のまばたきの際の後述の力の印加をシミュレートすることによって,安定化レンズを設計するためのプロセスで使用される。レンズが回転しかつ偏心する程度を,それに応じて判定する。その後,回転及び/又はセントレーション(centration)をより望ましいレベルにするのを目的とする方法で,設計に変更が加えられる。次にこれを再度モデルにかけて,予め定められた回数のまばたきの後に,まばたきの際の移動を判定する。設計の変更は,より詳細に後述されるメリット関数の適用によって達成される。 【0015】 モデルは,眼が,角膜及び強膜を表す好ましくは少なくとも2つの球面部分からなり,x-y-z座標軸の原点が,角膜を表す球面の中心にあると仮定している。非球面といったより複雑な面を使用することも可能である。レンズの底面形状は球面部分からなるが,レンズの基本曲線半径は,レンズの中心から縁部に向かって変化し得る。背面を記述するために,1つを超える基本曲線を使用することができる。眼上に配置されたレンズは,眼と同一形状をとると仮定する。レンズの厚さ分布は,必ずしも回転対称である必要はなく,実際には,本発明のレンズの一部の好ましい実施形態によると,対称ではない。レンズ縁部の厚いゾーンを用いて,レンズの位置及び配向挙動を制御することができる。レンズと眼との間には,均一な液体の薄膜(涙液層)が存在し,その典型的な厚さは5μmである。この涙液層は,レンズ下涙液層と呼ばれる。レンズ縁部では,レンズと眼との間の液膜の厚さはずっと薄く,ムチン涙液層と呼ばれる。典型的な厚さが5.0μmである均一な液体の薄膜(これも涙液層)が,レンズと下眼瞼及び上眼瞼との間に存在し,これらは,レンズ上涙液層と呼ばれる。下眼瞼及び上眼瞼の両方の境界は,x-y平面に単位法線ベクトルを有する平面内にある。したがって,z軸に対して垂直な平面上のこれら境界の突出部は,直線である。この仮定は,眼瞼が動いている間も成立する。上眼瞼は,コンタクトレンズに均一な圧力を加える。この均一な圧力は,コンタクトレンズの上眼瞼で覆われた全領域,又はこの領域の上眼瞼の境界に近い一部に,均一な幅(眼瞼の縁部を表す曲線を通る平面に対して垂直な方向に測定した場合)で加えられる。下眼瞼は,コンタクトレンズに均一な圧力を加える。この圧力は,コンタクトレンズの下眼瞼で覆われた全領域に加えられる。眼瞼によってコンタクトレンズに加えられる圧力は,コンタクトレンズの不均一な厚さ分布(厚いゾーン)(特に縁部近く)を介してレンズに作用するトルクの原因となる。この圧力がコンタクトレンズに作用するトルクに与える影響は,メロンシード効果(melon seed effect)と呼ばれる。レンズが眼に対して動くと,レンズ下涙液層に粘性摩擦が存在する。粘性摩擦は,レンズが眼に対して動くときに,レンズ縁部と眼との間のムチン涙液層にも存在する。更に,レンズが動く及び/又は眼瞼が動くと,レンズ上涙液層に粘性摩擦が存在する。レンズの歪み及び応力は,レンズの変形によって生じる。こうした歪み及び応力は,レンズの弾性エネルギー容量となる。レンズが眼に対して動き,かつレンズの変形が変化するにつれて,弾性エネルギー容量は変化する。レンズは,弾性エネルギー容量が最小である位置に向かう傾向がある。 【0016】 眼(角膜及び強膜)の形状,レンズの底面形状,及び眼瞼の動きを表すパラメータが,図2に示されている。レンズの動きは,レンズに作用する角運動量のバランスから得られる。慣性効果は無視される。すると,レンズに作用する全てのモーメントの合計は0となる。したがって次の通りである。 【数1】 」 (当審注:図2(左から順に,図2A,図2B,図2C)は以下の図である。) (5) 「【0017】 最初の4つのモーメントは抵抗トルクであり,レンズの動きに線形従属である。残りのトルクは駆動トルクである。この角運動量のバランスにより,レンズの位置βに関する非線形一次微分方程式が得られる。 【数2】 【0018】 この等式は,四次Runge-Kutta積分スキームで解かれる。コンタクトレンズ上の点の位置は,回転ベクトルβ(t)に関する回転から得られる。点の古い位置を現在の位置に変換する回転行列R(t)は,次のロドリゲスの公式から得られる。 【数3】 式中, 【数4】 である。 【0019】 数値積分法では,時間離散化が用いられる。すると,レンズの動きは多数のその後の回転であると考えることができるので,次の時間ステップでは, 【数5】 回転行列は, 【数6】 となり,式中, 【数7】 は,時間ステップ 【数8】 中の回転である。 【0020】 回転行列は,レンズの回転 【数9】 及び偏心(decentration) 【数10】 に分解される。 【数11】 【0021】 レンズの回転は,レンズの中心線に関した回転である。偏心は,(x,y)平面内の線に関した回転である。したがって,レンズの位置は,中心線と,その後に続く偏心 【数12】 に関するレンズの回転 【数13】 であることがわかる。 【0022】 本発明の好ましい方法において,これらの関係に基づくメリット関数(MF)は,公称設計を調整し,それによって公称設計の安定化スキームを改善するように作り上げられる。こうしたメリット関数は,眼上でのレンズ性能要件に基づいて定義される。好ましい実施形態において,メリット関数は,これらに限定されないが,a)レンズの回転及びセントレーション性能(等式1),b)静止位置周辺でのレンズの安定性(等式2),又はc)静止位置周辺のレンズの回転及びセントレーション性能並びに安定性(等式3)であると定義される。 【数14】 【0023】 レンズの回転とは,まばたき中及びまばたきの間に生じる,z軸を中心とするレンズの角運動を意味する。回転は,眼上のレンズの初期位置,又は眼上でモデル化された場合のレンズの挙動に応じて,時計回りであっても反時計回りであってもよい。 【0024】 レンズのセントレーションとは,レンズの幾何学的中心と角膜頂点との間の距離を意味する。セントレーションは,角膜頂点の平面内のx-y座標系に記録される。 【0025】 レンズ安定性とは,水平方向(x軸)及び垂直方向(y軸)のレンズの最大移動の量,並びにまばたき期間の間のレンズの回転量を意味する。レンズ安定性は,レンズがその最終位置に到達した後に,レンズの誤配向及び偏心なしに記録されるのが好ましい。 【0026】 等式1をメリット関数の目的及び適用の例として用いると,Rot及びCentは,それぞれ,最適化されるレンズ設計の回転及びセントレーションにおけるレンズ性能を表す。R_(REF)及びC_(REF)は,初期レンズ設計の回転及びセントレーションにおけるレンズ性能を表す変数である。W_(R)及びW_(C)は,一方の係数の寄与を他方の係数に対して調整するのを可能にする2つの重み係数であり,0?1の値を取り得る。適用される場合,以下に例示されるように,これらの関数は,数値的に解かれるのが最良である。重み係数は,目的の構成要素に適切な考慮がなされるように適用される。それらは同等であってもよく,又は一方の構成要素が他方より関与していてもよい。そのため,例えば,セントレーションよりも回転を最適化することがより問題である場合,W_(C)よりも大きなW_(R)を選択することになる。この構成下で,安定化設計のメリット関数が,先行する設計に比べて減少させられた場合に,安定化設計は改善される。更に,そのような場合にメリット関数が最小化されると,安定化設計は最適化される。当然のことながら,安定化以外の理由で,あるレンズ設計が他のものよりも好ましい場合があるので,設計の安定化の面を必ずしも最適化せずに,本発明に従って安定化の改善が行われてもよい。 【数15】 【0027】 等式2において,X_(Range),Y_(Range)及びθ_(Range)は,最適化されるレンズ設計の水平方向,垂直方向,及び回転の安定性におけるレンズ性能を表し,X_(REF),Y_(REF),及びθ_(REF)は,初期レンズ設計の水平方向,垂直方向,及び回転の安定性におけるレンズ性能を表し,W_(X),W_(Y),及びW_(θ)は,互いに対する係数の寄与の調整を可 能にする重み係数を表す。 【数16】 【0028】 等式3において,Rot,Cent,及びStabは,最適化されるレンズ設計の回転,セントレーション,及び安定性におけるレンズ性能を表し,R_(REF),C_(REF),及びS_(REF)は,初期レンズ設計の回転,セントレーション,及び安定性におけるレンズ性能を表し,W_(R),W_(C),W_(S)は,互いに対する係数の寄与の調整を可能にする0?1の値を取り得る重み係数を表す。」 (6) 「【実施例】 【0043】 (実施例1) 乱視の患者の視力を矯正するための既知の設計を有するコンタクトレンズが,図6に示されている。このコンタクトレンズは,次の入力設計パラメータを有する従来のレンズ設計ソフトウェアを用いて設計された。 球面度数:-3.00D 円柱度数:-0.75D 円柱軸:180度 レンズ直径:14.50mm 前面光学ゾーンの直径8.50mm 後面光学ゾーンの直径11.35mm レンズの基本曲線:8.50mm 中心厚さ:0.08mm」 (当審注:段落【0043】には,「乱視の患者の視力を矯正するための既知の設計を有するコンタクトレンズが,図6に示されている。」と記載されているが,「図6」は誤記であり,既知の設計を有するコンタクトレンズに対応する図(安定ゾーンを加える前の図)は添付されていないと解される。) (7) 「【0044】 用いた眼モデルのパラメータは,表2A及び表2Bに挙げられている。 【0045】 安定ゾーンは,このレンズの厚さプロファイルに加えられた特別厚いゾーンである。最初の安定ゾーンは,厚さの半径変化及び角度変化を記述する正規化ガウス関数の組み合わせを用いて構成される。極座標中の安定ゾーンのSagを記述する数式は次の通りである。 【数17】 式中,Z_(0)は,安定ゾーンの最大の大きさであり,r_(0)及びθ_(0)は,ピークの半径方向及び角度位置であり,σ_(R)及びσ_(θ)は,半径及び角度方向の厚さの変化のプロファイルを制御するパラメータである。 【0046】 半径及び角度方向に沿った勾配の変化は,対数正規ガウス分布を用いて得られる。等式は次の通りになる。 【数18】 【0047】 安定ゾーンを制御する設計パラメータは, 安定ゾーンの大きさ(Z_(0))の変化, 経度0?180度に沿ったピーク位置(r_(0))の変化, 経度約0?180度に関して角度をなすピーク位置(θ_(0))の変化, ピーク位置の上下の勾配変化, 安定ゾーンの角測長さ(σ_(θ))の変化, ピーク位置を中心に回転された安定ゾーン, 経度0?180度に沿った安定ゾーンの幅(σ_(R))の変化,である。 【0048】 最初の安定ゾーンを構成した値は,次の通りであった。 Z_(0)=0.25mm r_(0)=5.75mm σ_(R)=0.50mm θ_(0)=左及び右の安定ゾーンに関して,それぞれ180度及び0度 σ_(θ)=25.0度 【0049】 次に,レンズの元の厚さプロファイルに安定ゾーンを加えた。最終的な最大レンズ厚さは0.38mmであった。プロファイルの図解が図4に示されている。安定ゾーンは,水平軸及び垂直軸の両方に関して対称であり,ピーク高さから均一に下降する勾配を有する。 【表2】 【表3】 【0050】 コンタクトレンズの回転及びセントレーション特性を,表2に提供される初期パラメータを有する上述の眼モデルを使用して決定した。レンズの回転は,モデル化されたまばたきの回数が0回から20回へと進むにつれて,約45度から10度未満へと着実に減少した。まばたき1?20回の間,セントレーションは,約0.06mmから0.08mmあまりと比較的安定した状態を維持した。従来技術のレンズに適用された等式1によって定義されたメリット関数の得られた値は,1.414であり,W_(R)=W_(C)=1.0であった。この実施例は,これらのパラメータのレンズによって得られる回転,セントレーション,及び安定性を示しており,該レンズにおける眼上の配向の維持は,前面の周縁部上の凹部又は隆起部を用いて達成される。」 (当審注:図4は以下の図である。) 2 判断 本願発明は,工程c),すなわち, 「c)レンズが回転しかつ偏心する程度を判定するために,少なくとも1回のまばたきの際の変更されたコンタクトレンズへの力の印加をシミュレートし,少なくとも下記のいずれかの性能を表す変数を導出することと, i)レンズの回転及びセントレーション性能, ii)静止位置周辺でのレンズの安定性,又は iii)レンズの回転及びセントレーション性能並びに静止位置周辺の安定性」 の構成を具備する。 しかしながら,本願発明の実施形態には,具体的であるとはいえない部分があるため,本件出願の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明(特に上記工程c))の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができない。 すなわち,当業者が,上記工程c)を含む本願発明を実施するためには,例えば,発明の詳細な説明の実施例1(段落【0043】?【0050】,前記1(6)及び(7)参照。)にしたがって,[1]表2A及び表2Bに挙げられている眼モデルの初期パラメータ(段落【0049】,前記1(7)参照。)を,[2]【数2】(段落【0017】,前記1(5)参照。)に挙げられたレンズの位置βに関する非線形一次微分方程式に適用し,[3]四次Runge-Kutta法により積分演算することにより,[4]上記i)?iii)のいずれかの性能を表す変数を得る必要がある(他の実施例についても同様である。)。 しかしながら,本件出願の発明の詳細な説明においては,【数1】(段落【0016】,前記1(4)参照。)に示される各モーメントに関する説明,及び【数2】(段落【0017】,前記1(5)参照。)に示されるA(β,t)に関する説明(当合議体注:段落【0017】では,βの上に線が引かれている)が欠落しており,これらが不明である。また,段落【0014】?【0018】(前記1(4)及び(5)参照。)に関する説明も,具体的であるとはいえない。すなわち,[A]段落【0015】及び【0016】の記載からは,コンタクトレンズの動きが,球で近似された角膜の中心を回転中心として回転し,かつ,角膜(球)表面に沿って移動する(偏心する)ものとしてモデル化されていることが,一応,理解でき,また,[B]段落【0016】?【0018】の記載からは,コンタクトレンズ位置の時間微分がコンタクトレンズに加わるトルクの関数で表されるという,前記[A]と整合する数式が,一応,理解できるとしても,それ以上の詳細(例:初期パラメータとモデルの関係,数式の具体的な形等)は,判らない。したがって,当業者が上記[1]の初期パラメータを,上記[2]の非線形一次微分方程式に適用するに際しては,当業者に期待し得る程度を超える検討や試行錯誤等をする必要がある。 加えて,本願発明の工程e)において,改善されたコンタクトレンズ設計を過度の試行錯誤なく得て選択するためには,適切な上記[A]のモデルを策定し,それに対応した適切な上記[2]ないし[B]の数式の形を決定することが必要不可欠であると思われるところ,本件出願の発明の詳細な説明には,上記[A]のモデル及び上記[2]ないし[B]の数式に関する具体的情報が欠落している。その結果,当業者は,本願発明の工程b)?e)を過度の試行錯誤なく実施することができるとはいえないばかりか,発明の詳細な説明に記載された各実施例の検証すら,過度の試行錯誤なく実施することができるとはいえない。 請求項2に係る発明ついては,工程b)?e)が繰り返して行われるものであるから,なおさらである。 以上のとおりであるから,本件出願の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。 3 請求人の主張について 請求人は,本件意見書において,以下のとおり主張する。 「下記i)?iii)のいずれかの性能を表す変数を得ることは当業者であれば十分可能であると思量致します。 i)レンズの回転及びセントレーション性能, ii)静止位置周辺でのレンズの安定性,又は iii)レンズの回転及びセントレーション性能並びに静止位置周辺の安定性 例えば,実施例1(段落0043?0050)にしたがって,表2A及び表2Bに挙げられている眼モデルの初期パラメータを,数2(段落0017)に挙げられたレンズの位置βに関する非線形一次微分方程式に適用し,四次Runge-Kutta法により積分演算することにより,上記i)?iii)のいずれかの性能を表す変数を得ることは,発明の詳細な説明の内容を参酌して十分可能であると思量致します。 また,本願発明の工程e)において,改善されたコンタクトレンズ設計を過度の試行錯誤なく得て選択するために,適切な上記[A]のモデルを策定し,それに対応した適切な上記[2]ないし[B]の数式の形を決定することは,当業者であれば十分可能であると思量致します。」 しかしながら,上記2で述べたとおりであるから,請求人の主張は採用できない。 第3 まとめ 本件出願の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができないから,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。 したがって,本件出願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-03-23 |
結審通知日 | 2017-03-28 |
審決日 | 2017-04-10 |
出願番号 | 特願2012-544885(P2012-544885) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(G02C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 後藤 亮治 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 西村 仁志 |
発明の名称 | コンタクトレンズを安定させる方法 |
代理人 | 大島 孝文 |
代理人 | 加藤 公延 |