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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1331788
審判番号 不服2016-5458  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-13 
確定日 2017-08-23 
事件の表示 特願2013- 76946「エピタキシャル堆積法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 5日出願公開、特開2013-175745〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年1月16日(優先権主張2006年2月3日、アメリカ合衆国)に国際出願した特願2008-553249号(以下「原出願」という。)の一部を平成25年4月2日に新たな外国語書面出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成25年 5月 2日 翻訳文及び手続補正書の提出
平成26年 8月14日 拒絶理由通知(起案日)
平成26年11月18日 意見書及び手続補正書の提出
平成27年 4月20日 拒絶理由通知(起案日)
平成27年 7月 2日 意見書及び手続補正書の提出
平成27年12月 7日 拒絶査定(起案日)
平成28年 4月13日 審判請求及び手続補正書の提出
平成28年 8月 2日 上申書の提出


第2 本願発明に対する判断
1 本願発明
平成28年4月13日に提出された手続補正書による手続補正は本願明細書の段落【0001】の記載のみを補正するものであり、平成27年7月2日に提出された手続補正書による手続補正は発明の名称のみを補正するものである。
したがって、本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成26年11月18日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載されている事項によって特定されるものであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「エピタキシャル堆積法であって、
酸化物層を有する基板を処理チャンバ内に導入するステップと、
プラズマキャビティ内に、アンモニア(NH_(3))と三フッ化窒素(NF_(3))とを含むガス混合物を導入するステップと、
該ガス混合物を励起して、該キャビティ内に、フッ化アンモニア(NH_(4)F)又はフッ化水素アンモニウム(NH_(4)F・HF)を含む反応性ガスのプラズマを生成させるステップと、
該処理チャンバ内に該反応性ガスを導入するステップと、
該基板を該反応性ガスと反応させて、揮発性膜を形成するステップであって、該基板と該反応性ガスとを反応させつつ、該基板を65℃以下に維持する、ステップと、
該基板を少なくとも75℃の第一温度まで加熱して該揮発性膜を蒸発させ、該酸化物層を除去することによりエピタキシー表面をさらすステップと、
該エピタキシー表面上にエピタキシャル層を形成するステップと
を含み、
さらに、該エピタキシャル層のO、F、ClおよびNのレベルを低減するステップを
含み、該エピタキシャル層のO、F、ClおよびNのレベルを低減するステップは、800℃以上の堆積温度で、該エピタキシー表面上にエピタキシャル層を形成することにより実施される、
方法。」

2 引用例の記載事項と引用発明
(1)引用例1
ア 引用例1の記載事項
原出願の優先権主張の日の前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった平成27年4月20日付けの拒絶理由通知において引用された刊行物である、特開平1-295412号公報(以下「引用例1」という。)には、「プラズマ気相成長装置」(発明の名称)に関して、第1図?第6図とともに、以下の事項が記載されている(下線は、参考のため、当審において付したものである。以下同じ。)。
(ア)「〔産業上の利用分野〕
半導体素子の微細化に必要とされる急峻なドーピングプロファイルのエピタキシャル基板を製造するのに適したプラズマ気相成長装置に関する。」(第1頁下左欄第19行?第1頁下右欄第3行)
(イ)「〔発明が解決しようとする課題〕
ところで従来のこの種の装置では原料ガスのうちプラズマ生成室内でプラズマ化したものの一部は発散磁界で試料室に引き出され、基板への成膜に寄与するものの、引き出されずにプラズマ生成室31,41,51内面にそのまま付着し、基板Sへの成膜に寄与しないこととなるためガス利用効率が低いという問題があった。
本発明者はこのようなプラズマ生成室内面への膜の付着による原料ガスの無駄を解消すべく実験研究を行った結果、次のような事実を知見した。
即ち、例えばシリコンのエピタキシャル膜を形成すべく原料ガスとしてモノシランを用い、前述した如き電子サイクロトロン共鳴励起によりシリコンのエピタキシャル成長を行ったところ、成膜速度は基板温度が低い場合よりも高い場合の方が大きくなること、またこのモノシランにアルゴン,水素等のエッチング性希釈ガスを加えて供給すると、加えない場合と比較してガス利用効率が格段に向上することが確認された。」(第2頁下左欄第5行?第2頁下右欄第4行)
(ウ)「〔実施例〕
以下本発明をその実施例を示す図面に基づき具体的に説明する。
第1図は本発明に係るプラズマ気相成長装置(以下本発明装置という)の模式図であり、図中1はプラズマ生成室、2は導波管、3は基板Sを配置する試料室、4は励磁コイルを示している。
プラズマ生成室1はステンレス鋼製であって、工業用周波数2.45Hzのマイクロ波に対してTE113モードの定在波を形成する円筒型空洞共振器として機能するよう構成されており、上部壁中央には石英ガラス板等で閉鎖されたマイクロ波導入窓1aを備え、また下部壁中央には前記マイクロ波導入窓1aと対向する位置にプラズマの引出窓1bを備え、前記マイクロ波導入窓1aには導波管2の一端部が接続され、またプラズマ引出窓1bにはこれに臨ませて試料室3が配設され、更に周囲には同心状に励磁コイル4が周設せしめられている。
導波管2はその他端部が図示しない高周波発振器に接続され、高周波発振器で発せられた工業用周波数2.45Hzのマイクロ波をマイクロ波導入窓1aを通じてプラズマ生成室1内に導入するようにしてある。
励磁コイル4は図示しない直流電源に接続されており、直流電流の通流によってプラズマ生成室1内にマイクロ波の導入により電子サイクロトロン共鳴条件を成立させる8.75×10^(-2)Tの磁束密度を与えると共に、試料室3側に向けて磁束密度が低くなる発散磁界を形成し、プラズマ生成室1内に生成されたプラズマをプラズマ引出窓1bを通じて試料室3内に導入せしめるようになっている。
試料室3の一側壁にはゲート弁5aを介在させて複合型のターボ分子ポンプ5が、また他側壁にはゲート弁6aを介在させてロードロック室6が夫々連設されている。ロードロック室6内には基板Sを試料室3内に挿入し、またここからロードロック室6内に取り出すための搬送アーム6bが配設されている。
複合ターボ分子ポンプ5の吸気側にはコンダクタンス3000L/秒の図示しないコンダクタンス弁が設けられ、排気速度は1500L/秒に設定されている。
一方試料室3の内部には前記プラズマ引出窓1bと対向させて試料台7が配設され、この試料台7上に石英製のサセプタ8を介在させて前記プラズマ引出窓1bと対向するよう基板Sが着脱可能に装着され、またサセプタ8の下方にはヒータ9を臨ませてある。
……(中略)……
而してこのような本発明装置にあっては基板Sを試料室3に導入するに先立って、予め試料室3を10^(-6)Pa程度にターボ分子ポンプ5を用いて真空排気しておき、ロードロック室6に図示しない配管から窒素ガスを徐々に注入して内部を大気圧とし、図示しないゲート弁を開き外部から搬送アーム6b上に支持台7,サセプタ8と共に基板Sを載置する。 ……(中略)……
搬送アーム6bを水平に移動させて基板S,サセプタ8,サセプタ支持台7を円筒ラック7c上部に載置し、搬送アーム6bをロードロック室6内に引き戻してゲート弁6aを閉じる。
試料室3内は引き続きターボ分子ポンプ5で排気し、再び10^(-6)Pa程度の真空度に排気する。
モータMを起動し、基板Sをプラズマ生成室1,ヒータ9に対し回転させつつヒータ16に通電し、基板を昇温速度1℃/秒で加熱昇温する。基板温度は観測窓3aを介して、光高温計10により測定される。基板Sはヒータ9に対し回転せしめられ円周方向の基板温度を均一化される。
この間ゲート弁5aを開き、ターボ分子ポンプ5は引き続き運転を継続する。」(第3頁上左欄第15行?第4頁上右欄第20行)
(エ)「〔前処理〕
基板Sの温度が所定値、例えば800℃に達した時点で昇温を停止し、基板Sをこの温度に保つ。この時の試料室6の圧力は1×10^(-4)Paである。
基板Sの温度については特に限定するものではないがエッチング速度を高くするうえでは800℃以上とするのが望ましい。
第2図はアルゴンプラズマを用いてシリコンエッチングを行うときのエッチング速度の温度依存性を示すグラフであり、このグラフから明らかな如く800℃以上で高いエッチング速度が得られることが解る。
第3図は水素プラズマを用いてシリコンエッチングを行うときのエッチング速度の温度依存性を示すグラフであり、このグラフから明らかな如く500℃以下、又は800℃以上で高いエッチング速度が得られることが解る。
プラズマ生成室1に希釈ガス供給系11からアルゴンガス(又は水素ガス,又はこれらの混合ガス)を、また試料室3内にはモノシランガスを夫々所定流量(25SCCM)流しつつ、ターボ分子ポンプ5の入側のコンダクタンス弁の開度を調節してプラズマ生成室1,試料室3の圧力を9×10^(-2)Pa乃至1.1×10^(-1)Paに設定する。
プラズマ生成室1内にマイクロ波導波管2を通じて700Wのマイクロ波を供給し、アルゴン(又は水素、又はアルゴン・水素混合)プラズマを発生させ、ここから励磁コイル4にて形成される試料室3側に向う発散磁界によってプラズマ引出窓1cを通して試料室3内に引き出し、基板S上に照射せしめて、基板S表面の自然酸化膜を除去するエッチング処理、即ち前処理を行う。」(第4頁下左欄第1行?第4頁下右欄第12行)
(オ)「〔成膜処理〕
前処理が終了するとプラズマ生成室1へのアルゴンガス流量を25SCCMから12.5SCCMに低減し、また同時に試料室3に原料ガス供給系12からモノシランガスを4.5SCCM供給し、供給する総ガス量は一定にして基板Sの表面にシリコン単結晶膜をエピタキシャル成長させる。なおこの過程で試料室3内に供給されたモノシランの一部はプラズマ生成室1内にも侵入し、アルゴンプラズマ中で分解され、プラズマ生成室1の内周壁に付着して膜が生じるが、直ちにアルゴンプラズマによるエッチング作用を受けて再びガス化されることとなって壁面への成膜が抑制される。また基板温度は前処理時と同一にしたが、何らこれに限るものではなく原料ガス組成・その他の条件に応じて設定すればよい。
第4図はモノシラン・水素混合プラズマに依る成膜速度の基板温度依存性を示すグラフであり、横軸に基板温度(℃)を、また縦軸に成膜速度(μm/分)をとって示してある。このグラフから明らかな如く基板温度800℃前後で高い成膜速度が得られていることが解る。
次に従来方法,本発明方法の比較試験結果について説明する。
なお従来装置は第5図に示す装置を用い、プラズマ生成室31、試料室33内を1×10^(-4)Paに減圧し、プラズマ生成室31内に窒素を15?20SCCMの割合で、また試料室33内にモノシラン10SCCMの割合で導入し、電子サイクロトロン共鳴励起によってプラズマを生成し、窒化珪素膜の成膜を行った。
本発明装置1は上述の如く前記第1?4図について説明した場合である(第4図中2°)。
また本発明装置2は第1図に示す装置であって、基板温度800℃にしてアルゴンガスによるプラズマを用いて基板の自然酸化膜を除去する前処理を施した後、プラズマ生成室1内に水素ガスを12.5SCCM、試料室3内にモノシランを4.5SCCMの割合で通流し、エピタキシャル成長を行った(第4図中2°)。」(第4頁下右欄第13行?第5頁上右欄第11行)

(カ)「第1図は本発明装置の模式図、第2図は本発明装置におけるエッチング性希釈ガスとしてアルゴンを用いたときのシリコンエッチング速度の温度依存性を示すグラフ、第3図は同じく水素ガスを用いたときのシリコンエッチング速度の温度依存性を示すグラフ、第4図は本発明装置におけるモノシラン・水素混合プラズマを用いたときの成膜速度の温度依存性を示すグラフ、第5,6図は夫々従来装置の模式的縦断面図である。」(第5頁下右欄第3?11行)

(キ)第2図には基板温度が高いほどシリコンエッチング速度が大きいこと、第4図には基板温度が高いほど膜付着速度が大きいこと、が記載されている。

イ 引用例1に記載された発明
引用例1には、「成膜処理」における「基板温度」は「前処理時と同一にした」(第5頁上左欄第5?6行)と記載されている。
しかし、引用例1には、上記の(キ)で示したように第4図に基板温度が高いほど膜付着速度が大きいことが記載され、さらに、前記第4図を指して、「このグラフから明らかな如く基板温度800℃前後で高い成膜速度が得られていることが解る。」(第5頁上左欄第12?14行)とも記載されている。
したがって、引用例1には、「エピタキシャル成長」時の「基板温度」を、「前処理時と同一にした」ことも記載されているが、前記の「前処理時」の「基板温度」とは独立して800℃以上にすることも記載されていると認められる。
したがって、以上の(ア)?(キ)から、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

「プラズマ気相成長によりエピタキシャル基板を製造する方法であって、
ロードロック室6内に配設された搬送アーム6bにより、基板Sを試料室3内に挿入し、
前処理として、
プラズマ生成室1に、アルゴンガスを流量25SCCMで流入させ、
前記プラズマ生成室1内にマイクロ波を供給してアルゴンプラズマを発生させ、
前記アルゴンプラズマを、励磁コイル4にて形成され試料室3側に向う発散磁界によって前記試料室3内に引き出し、前記基板S上に照射せしめて、800℃以上の基板温度で前記アルゴンプラズマを用いてシリコンエッチングを行うことで前記基板S表面の自然酸化膜を除去するエッチング処理を行い、
成膜処理として、
前記前処理が終了すると、前記プラズマ生成室1へのアルゴンガス流量を12.5SCCMに低減し、同時に前記試料室3にモノシランガスを4.5SCCM供給して、基板温度を800℃以上にして前記基板Sの表面にシリコン単結晶膜をエピタキシャル成長させる、
ことを特徴とする方法。」

(2)引用例2
ア 引用例2の記載事項
原出願の優先権主張の日の前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった平成27年4月20日付けの拒絶理由通知において引用された刊行物である、特開2005-244244号公報(以下「引用例2」という。)には、「ライン製造のフロントエンドのためのインサイチュドライクリーンチャンバ」(発明の名称)に関して、図1?図6とともに、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明の分野
[0001]本発明の実施形態は、一般的には、半導体処理装置に関する。更に詳細には、本発明の実施形態は、半導体製造のための化学気相堆積(CVD)システム及びそれを用いたインサイチュドライクリーニング法に関する。」
(イ)「関連技術の説明
[0002]基板表面が酸素に晒される時に、典型的には未変性酸化物が形成する。基板が大気状態で処理チャンバ間を移動する時に、又は真空チャンバ内の少量の残留酸素が基板表面と接触した時に、酸素に晒されることが生じる。基板表面がエッチングの間汚染される場合には、未変性酸化物も結果として生じてしまう。未変性酸化物は、典型的には、基板表面上に望ましくない膜を形成する。未変性酸化物膜は、5?20オングストロームのように通常はとても薄いが、後の製造プロセスにおいて困難を引き起こすのに十分厚いものである。
【0002】
[0003]そのような困難は、通常、基板上に形成される半導体デバイスの電気的性質に影響する。例えば、未変性酸化シリコン膜が露出したシリコン含有層上に形成される場合、特に金属酸化物シリコン電界効果トランジスタ(“MOSFET”)構造の処理中にパーティクル問題が生じる。…(中略)…未変性酸化シリコン膜は、また、基板上に連続して堆積される他のCVD又はスパッタ付着層の接着を妨げ得る。
【0003】
[0004]スパッタエッチングプロセスは、大特徴部又はアスペクト比が約4:1より小さい小特徴部において汚染物質を減少させるために試みられてきた。しかしながら、スパッタエッチングプロセスは、物理的衝撃によって繊細なシリコン層を損傷させ得る。応答して、例えば、フッ化水素(HF)酸と脱イオン水を用いたウェットエッチングプロセスも試みられてきた。しかしながら、このようなウェットエッチングプロセスは、アスペクト比が4:1を超える、特にアスペクト比10:1を超える今日のより小型デバイスには不利である。特に、ウェット溶液は、バイア、コンタクト、又は基板表面内に形成される他の特徴部へ浸透させることができない。結果として、未変性酸化物膜の除去は不完全である。同様に、そのサイズの特徴部に浸透させることが成功しても、ウェットエッチング溶液は一旦エッチングが完了した特徴部から取り除くことは更に困難である。
【0004】
[0005]未変性酸化物膜を除去する他の方法は、フッ素含有ガスを用いるもののようなドライエッチングプロセスである。しかしながら、フッ素含有ガスを用いる一つの欠点は、フッ素が典型的には基板表面上に残留することである。基板表面上に残留したフッ素原子又はフッ素基は有害となることがある。例えば、残留したフッ素原子が基板をエッチングし続けてボイドを生じることがある。
……(中略)……
【0007】
[0008]それ故、リモートプラズマ生成、加熱、冷却が可能な、よって単一チャンバ(即ち、インサイチュ)において単一ドライエッチングプロセスを行うことができる処理チャンバが求められている。」
(ウ)「【0020】
[0033]なお図1Aと図1Bを参照すると、ライナ133の下の部分133Bは、その中に配置された流路又は真空チャネル129Aを含んでいる。真空チャネル129Aは、上記真空システムと流体で連通している。真空チャネル129Aは、また、ライナ133の外径内に形成された溝又はポート129Bを経てポンプチャネル129と流体で連通している。一般的には、二つのガスポート129B(この図には1つだけ示されている)は、上の部分133Aと下の部分133B間のライナ133の外径内に形成されている。ガスポート129Bは、ポンプチャネル129と真空チャネル129A間の流路を与える。各ポート129Bのサイズと位置は、設計の問題であり、所望される膜の化学量論、形成されるデバイスの形、処理チャンバ100の容積容量、それと結合した真空システムの能力によって求められる。典型的には、ポート129Bは相互に対向して又はライナ133の外径の周りに180度離して配置される。
……(中略)……
【0031】
[0044]一つ以上の実施形態においては、電極240は電源(図示せず)と結合され、ガス分配アセンブリ220は接地するために接続される(即ち、ガス分配アセンブリ220は電極として働く)。従って、1種以上のプロセスガスのプラズマは、電極240(“第一電極”)とガス分配アセンブリ220(“第二電極”)間に容積261、262及び/又は263で生成され得る。例えば、プラズマは、電極240とブロッカーアセンブリ230間で衝突し含有することができる。或いは、プラズマは、ブロッカーアセンブリ230が存在しないときに電極240と分配プレート225との間で衝突し含有することができる。いずれの実施形態においても、プラズマはリッドアセンブリ200内にうまく閉じ込められ又は含有する。従って、活性プラズマがチャンバ本体112内に配置された基板と直接接触しないので、プラズマは“リモートプラズマ”である。結果として、プラズマは十分に基板表面から離れていることから、基板に対するプラズマ損傷が避けられる。」
(エ)「【0074】
[0087]説明を簡単に且つ容易にするために、処理チャンバ100内で行われるアンモニア(NH_(3))と三フッ化窒素(NF_(3))ガス混合物を用いて酸化シリコンを除去するための例示的ドライエッチングプロセスをここに記載する。処理チャンバ100は、アニールプロセスを含むすべて単一処理環境内で基板の加熱と冷却双方に加えてプラズマ処理から有益であるあらゆるドライエッチングプロセスに有利であると考えられる。
【0075】
[0088]図1を参照すると、ドライエッチングプロセスは、基板(図示せず)、例えば、半導体基板を処理チャンバ100へ入れることにより開始する。基板は、典型的には、スリットバルブ開口部160を通ってチャンバ本体112へ入り、支持部材310の上面上に配置される。基板は支持部材310の上面にチャックされ、エッジパージがチャネル334を通過する。好ましくは、コンジット313を経て真空ポンプと流体が連通しているホール312とグルーブ316を通って真空を引くことにより基板が支持部材310の上面にチャックされる。その後、処理位置に既にない場合には、支持部材310はチャンバ本体112内の処理位置に持ち上げられる。チャンバ本体112は、好ましくは50℃?80℃、更に好ましくは約65℃の温度で維持される。チャンバ本体112のこの温度は、熱伝達媒体を流体チャネル113に通過させることにより維持される。
【0076】
[0089]基板は、熱伝達媒体又は冷却剤を支持アセンブリ300内に形成された流体チャネル360に通過させることにより65℃より低い15℃?50℃に冷却される。一実施形態においては、基板は室温より低い温度に維持される。他の実施形態においては、基板は22℃?40℃の温度に維持される。典型的には、支持部材は、上記で指定された所望される基板温度に達するように約22℃より低い温度に維持される。支持部材310を冷却するために、冷却剤を流体チャネル360に通過させる。支持部材310の温度をより良く制御するために冷却剤の連続した流れが好ましい。冷却剤は、好ましくは50容量%のエチレングリコールと50容量%の水である。もちろん、水とエチレングリコールのあらゆる比率が所望される基板の温度が維持される限り使用し得ることは当然のことである。
【0077】
[0090]次に、アンモニア及び三フッ化窒素ガスをチャンバ100へ導入して洗浄ガス混合物を形成する。チャンバへ導入された各ガス量は、例えば、除去すべき酸化物層の厚さ、洗浄される基板の形、プラズマの容積容量、チャンバ本体112の容積容量、チャンバ本体112に結合された真空システムの能力を適合させるために調整することができる。一態様においては、アンモニアと三フッ化窒素のモル比が少なくとも1:1であるガス混合物を供給するようにガスが添加される。他の態様においては、ガス混合物のモル比は、少なくとも約3:1(アンモニア:三フッ化窒素)である。好ましくは、ガスは、モル比5:1(アンモニア:三フッ化窒素)?30:1でチャンバ100に導入される。更に好ましくは、ガス混合物のモル比は約5:1(アンモニア:三フッ化窒素)?約10:1のモル比である。ガス混合物のモル比は、また、約10:1(アンモニア:三フッ化窒素)?約20:1の間に包含することができる。
【0078】
[0091]パージガス又はキャリアガスも、ガス混合物に添加することができる。あらゆる適切なパージ/キャリアガス、例えば、アルゴン、ヘリウム、水素、窒素、又はその混合物を用いることができる。典型的には、全体のガス混合物は、約0.05体積%?約20体積%のアンモニアと三フッ化窒素である。残りはキャリアガスである。一実施形態においては、チャンバ本体112内の圧力を安定させるために反応性ガスの前にパージ又はキャリアガスが最初にチャンバ本体112へ導入される。
【0079】
[0092]チャンバ本体112内の作動圧力は可変であり得る。典型的には、圧力は約500mTorr?約30Torrで維持される。好ましくは、圧力は約1Torr?約10Torrに維持される。更に好ましくは、チャンバ本体112内の作動圧力は約3Torr?約6Torrに維持される。
【0080】
[0093]約5?約600ワットのRF電力を電極240に印加してガス分配アセンブリ330に含有した容積261、262,263内のガス混合物のプラズマを発火させる。好ましくは、RF電力は100ワット未満である。電力が印加される周波数が非常に低い、例えば、100kHz未満であることが更に好ましい。好ましくは、周波数は約50kHz?約90kHzの範囲である。
【0081】
[0094]プラズマエネルギーは、アンモニアと三フッ化窒素ガスを混合している反応化学種へ解離させてガス相において高反応性フッ化アンモニア(NH_(4)F)化合物及び/又はフッ化水素アンモニウム(NH_(4)F・HF)を形成する。その後、これらの分子が分配プレート225のホール225Aを経てガス分配アセンブリ220に流れ込み洗浄すべき基板表面と反応する。一実施形態においては、キャリアガスが最初にチャンバ100へ導入され、キャリアガスのプラズマが生成され、その後反応ガス、アンモニア、三フッ化窒素がプラズマに添加される。
【0082】
[0095]理論で縛られることを望まないが、NH_(4)F及び/又はNH_(4)F・HFのエッチングガスが酸化シリコン表面と反応してヘキサフルオロケイ酸アンモニウム(NH_(4))_(2)SiF_(6)、NH_(3)、H_(2)O生成物を形成すると考えられる。NH_(3)とH_(2)Oは、処理条件で蒸発し、真空ポンプ125でチャンバ100から除去される。特に、揮発性ガスは、ガスが真空ポンプ125へ真空ポート131を通ってチャンバ100を出る前にポンプチャネル129へライナ133に形成されたアパーチャ135に流れ込む。(NH_(4))_(2)SiF_(6)の薄膜は基板表面上に残留する。この反応機構は次のように纏めることができる。
【0083】
[0096]NF_(3)+NH_(3) → NH_(4)F+NH_(4)F・HF+N_(2)
[0097]6NH_(4)F+SiO_(2) → (NH_(4))_(2)SiF_(6)+H_(2)O
[0098](NH_(4))_(2)SiF_(6)+熱 → NH_(3)+HF+SiF_(4)
[0099]基板表面上に薄膜が形成された後、その上に基板が支持された支持部材310を加熱された分配プレート225の密接に近接してアニール位置に上げられる。分配プレート225から放射された熱は、(NH_(4))_(2)SiF_(6)の薄膜を揮発性SiF_(4)、NH_(3)、HF生成物へ十分に解離又は昇華させるのに十分でなければならない。その後、これらの揮発性生成物は、上記のように真空ポンプ125によってチャンバ100から除去される。典型的には、75℃以上の温度を用いて効果的に昇華させるとともに基板から薄膜を除去する。好ましくは、100℃以上の温度、例えば、約115℃?約200℃が用いられる。
【0084】
[00100](NH_(4))_(2)SiF_(6)の薄膜をその揮発性コンポーネントへ解離させる熱エネルギーは、分配プレート225によって対流又は放射される。上記のように、加熱素子270は直接分配プレート225に結合され、分配プレート225とコンポーネントを約75℃?250℃の温度に熱接触させて加熱するように活性化する。一態様においては、分配プレート225は、100℃?150℃、例えば、120℃の温度に加熱される。
【0085】
[00101]この上昇変化は、様々な方法で行うことができる。例えば、リフトメカニズム330は、分配プレート225の下面に向かって支持部材310を上昇させることができる。このリフトステップの間、基板は上記真空チャック又は静電チャックのような支持部材310に固定される。或いは、基板は、支持部材310から持ち上げられ、リフトリング320を経てリフトピン325を上昇させることによって加熱された分配プレート225に密接に接近して配置され得る。
【0086】
[00102]薄膜を持つ基板の上面と分配プレート225の間の距離は重要ではなく、通常実験の問題である。当業者は、下にある基板に損傷を与えることなく薄膜を能率よく効果的に揮発させるのに必要とした間隔を容易に求めることができる。しかしながら、約0.254mm(10ミル)?5.08(200ミル)の間隔が効果的であると考えられる。【0087】
[00103]基板から膜が除去されるとすぐに、チャンバがパージされ、排気される。その後、洗浄された基板は、搬送位置に基板を下げ、基板を脱チャックさせ、スリットバルブ開口部160を通って基板を搬送することによってチャンバ本体112から取り出される。」
(オ)「【0099】
[00115]図6は、マルチチャンバ処理システム600を示す概略平面図である。システム600は、システム600へ、また、システム600から基板の搬送する1つ以上のロードロックチャンバ602、604を含むことができる。典型的には、システム600は減圧下であるので、ロードロックチャンバ602、604はシステム600へ導入される基板を“ポンプダウン”させることができる。第一ロボット610は、ロードロックチャンバ602、604と1つ以上の基板処理チャンバ612、614、616、618(四つは示されている)の第一セット間の基板を搬送させることができる。各処理チャンバ612、614、616、618は、周期的層堆積(CLD)、原子層堆積(ALD)、化学気相堆積(CVD)、物理気相堆積(PVD)、エッチング、予備洗浄、脱ガス、配向、多野基板処理に加えて本明細書に記載されるドライエッチングプロセスを含む多くの基板処理動作を行うために供給することができる。
【0100】
[00116]第一ロボット610は、また、1つ以上の搬送チャンバ622、624へ/から基板を搬送させることができる。搬送チャンバ622、624は、基板をシステム600内に搬送させつつ超高真空条件を維持するために使用し得る。第二ロボット630は、搬送チャンバ622、624と1つ以上の処理チャンバ632、634、636、638の第二セット間に基板を搬送させることができる。処理チャンバ612、614、616、618と同様に、処理チャンバ632、634、636、638は、例えば、周期的層堆積(CLD)、原子層堆積(ALD)、化学気相堆積(CVD)、物理気相堆積(PVD)、エッチング、予備洗浄、脱ガス、配向、多野基板処理に加えて本明細書に記載されるドライエッチングプロセスを含む多くの基板処理動作を行うために供給することができる。基板処理チャンバ612、614、616、618、632、634、636、638のいずれも、システム600によって行われるべき具体的なプロセスに必要がない場合には、システム600から除去することができる。」

イ 引用例2に記載された発明
上記(イ)で摘記した「未変性酸化シリコン膜は、また、基板上に連続して堆積される他のCVD又はスパッタ付着層の接着を妨げ得る。」(段落【0002】)という記載から、上記(オ)で摘記した「周期的層堆積(CLD)、原子層堆積(ALD)、化学気相堆積(CVD)、物理気相堆積(PVD)、エッチング、予備洗浄、脱ガス、配向、多野基板処理に加えて本明細書に記載されるドライエッチングプロセスを含む多くの基板処理動作」(段落【0099】及び【0100】)のうち、少なくとも、「周期的層堆積(CLD)、原子層堆積(ALD)、化学気相堆積(CVD)、物理気相堆積(PVD)」の「堆積」処理動作は、上記(エ)で摘記した、「酸化シリコンを除去するための例示的ドライエッチングプロセス」(段落【0074】)の後で実行されることは、明らかである。
そうすると、以上の(ア)?(オ)から、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

「半導体基板上に連続して堆積されるCVD付着層等の接着を妨げ得る未変性酸化シリコン膜を除去するための方法であって、
前記未変性酸化シリコン膜が露出した前記半導体基板を、チャンバ本体112内に入れて、支持部材の上面上に配置し、
前記基板を、65℃より低い温度に維持し、
アンモニア及び三フッ化窒素ガスを、前記チャンバ本体112の容積容量に適合したガス量で、処理チャンバ100へ導入してガス混合物を形成し、
RF電力を電極240に印加して、前記電極240とガス分配アセンブリ220との間に形成される容積261、262、263内の前記ガス混合物のプラズマを発火させて、前記チャンバ本体112内に配置された基板とは直接接触しないリモートプラズマを形成し、
プラズマエネルギーにより、前記アンモニアと前記三フッ化窒素ガスを反応化学種へ解離させて、ガス相において高反応性フッ化アンモニア(NH_(4)F)化合物及び/又はフッ化水素アンモニウム(NH_(4)F・HF)を形成し、
これらの分子を、前記チャンバ本体112内に配置された基板の表面と反応するように、前記ガス分配アセンブリ220に流れ込ませ、
前記NH_(4)F及び/又はNH_(4)F・HFのエッチングガスが、前記未変性酸化シリコン膜表面と反応して(NH_(4))_(2)SiF_(6)を形成し、形成された前記(NH_(4))_(2)SiF_(6)は薄膜となって前記基板表面上に残留し、
基板温度を75℃以上の温度に昇温し、
揮発性の前記(NH_(4))_(2)SiF_(6)を昇華させて、前記基板から前記薄膜を除去する、ことを含み、下にある前記基板に損傷を与えることなく前記薄膜を能率よく効果的に揮発させる方法であって、
前記基板から前記未変性酸化シリコン膜を除去した後に、周期的層堆積(CLD)、原子層堆積(ALD)、化学気相堆積(CVD)、物理気相堆積(PVD)の堆積処理動作が実行される方法。」

3 対比
(1)本願発明と引用発明1との対比
本願発明と、引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「試料室3」は、「基板S表面の自然酸化膜を除去するエッチング処理」を実施する容器であり、「前記基板Sの表面にシリコン単結晶膜をエピタキシャル成長させる」容器であるから、本願発明の「処理チャンバ」に相当する。
また、引用発明1の前記「表面」に「自然酸化膜を」有する「基板S」は、本願発明の「酸化物層を有する基板」に相当する。
したがって、引用発明1の「ロードロック室6内に配設された搬送アーム6bにより、基板Sを試料室3内に挿入」することは、本願発明の「酸化物層を有する基板を処理チャンバ内に導入するステップ」に相当する。

イ 引用発明1の「プラズマ生成室1」は、本願発明の「プラズマキャビティ」に相当する。
引用発明1の「プラズマ生成室1に、アルゴンガスを流量25SCCMで流入させ」、「前記プラズマ生成室1内にマイクロ波を供給してアルゴンプラズマを発生させ」、「前記アルゴンプラズマを、励磁コイル4にて形成され試料室3側に向う発散磁界によって前記試料室3内に引き出し、前記基板S上に照射せしめて、800℃以上の基板温度で前記アルゴンプラズマを用いてシリコンエッチングを行うことで前記基板S表面の自然酸化膜を除去するエッチング処理を行」うという「前処理」は、前記「試料室3」とは異なる「プラズマ生成室1」で「発生」させた「アルゴンプラズマ」を用いて「前記基板S表面の自然酸化膜を除去する」ことで、「前記基板S表面」を露出させて、次の「前記基板Sの表面にシリコン単結晶膜をエピタキシャル成長させる」という「成膜処理」の準備をする「前処理」である。
一方、本願明細書の段落【0015】に「この乾式洗浄プロセスは、図2Bに示したように、基板70の表面上のエピタキシー表面74をさらし、これは、エピタキシャル層の続いての成長を維持するのに適する。」と、段落【0016】に「エピタキシャル堆積プロセスは、エピタキシー表面74上にエピタキシー層76を形成する」と記載されている。
そうすると、本願発明の「エピタキシー表面」とは、「酸化物層を有する基板」から「該酸化物層」を「除去」することで露出する、その上に「エピタキシャル層を形成する」前記「基板」の「表面」を意味するものと解される。
したがって、引用発明1の「プラズマ生成室1に、アルゴンガスを流量25SCCMで流入させ」、「前記プラズマ生成室1内にマイクロ波を供給してアルゴンプラズマを発生させ」て、「前記アルゴンプラズマを、励磁コイル4にて形成され試料室3側に向う発散磁界によって前記試料室3内に引き出し、前記基板S上に照射せしめて、800℃以上の基板温度で前記アルゴンプラズマを用いてシリコンエッチングを行うことで前記基板S表面の自然酸化膜を除去するエッチング処理を行」うという「前処理」と、本願発明の「酸化物層を有する基板を処理チャンバ内に導入するステップ」と「プラズマキャビティ内に、アンモニア(NH_(3))と三フッ化窒素(NF_(3))とを含むガス混合物を導入するステップ」と「該ガス混合物を励起して、該キャビティ内に、フッ化アンモニア(NH_(4)F)又はフッ化水素アンモニウム(NH_(4)F・HF)を含む反応性ガスのプラズマを生成させるステップ」と「該処理チャンバ内に該反応性ガスを導入するステップ」と「該基板を該反応性ガスと反応させて、揮発性膜を形成するステップであって、該基板と該反応性ガスとを反応させつつ、該基板を65℃以下に維持する、ステップ」と「該基板を少なくとも75℃の第一温度まで加熱して該揮発性膜を蒸発させ、該酸化物層を除去することによりエピタキシー表面をさらすステップ」とからなる一連の「ステップ」とは、「処理チャンバ」とは異なる「プラズマキャビティ」で「生成」させた「プラズマ」を用いて前記「基板」が有する前記「酸化膜層を除去する」ことにより、「エピタキシー表面」を露出させる「ステップ」である点で共通する。

ウ そして、引用発明1の「前記前処理が終了すると、前記プラズマ生成室1へのアルゴンガス流量を12.5SCCMに低減し、同時に前記試料室3にモノシランガスを4.5SCCM供給して、基板温度を800℃以上にして前記基板Sの表面にシリコン単結晶膜をエピタキシャル成長させる」という「成膜処理」は、本願発明の「該エピタキシー表面上にエピタキシャル層を形成するステップ」に相当する。

エ 引用発明1において、「基板Sの表面にシリコン単結晶膜をエピタキシャル成長させる」際の「基板温度」は「800℃以上」である。
これに対して、本願発明においては、「800℃以上の堆積温度で、該エピタキシー表面上にエピタキシャル層を形成」される。
ここで、本願明細書には、段落【0018】に「エピタキシャル堆積の間のエピタキシー表面74の温度は、例えば、1150℃?約450℃であるのがよい。」と記載され、段落【0062】にも「エピタキシャル堆積を、850℃、750℃、700℃、650℃の析出温度で行った。」と記載されている。したがって、本願発明の「堆積温度」とは、「エピタキシャル層」が析出する「基板」の温度を意味すると認められる。
そうすると、引用発明1の「基板温度を800℃以上にして前記基板Sの表面にシリコン単結晶膜をエピタキシャル成長させる」ことと、本願発明の「該エピタキシャル層のO、F、ClおよびNのレベルを低減するステップ」を「含み、該エピタキシャル層のO、F、ClおよびNのレベルを低減するステップは、800℃以上の堆積温度で、該エピタキシー表面上にエピタキシャル層を形成することにより実施される」こととは、「800℃以上の堆積温度で、該エピタキシー表面上にエピタキシャル層を形成する」点で共通する。

オ そして、引用発明の「プラズマ気相成長によりエピタキシャル基板を製造する方法」は、以下の相違点を除き、本願発明の「エピタキシャル堆積法」に相当する。

(2)一致点及び相違点
以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違する。
<<一致点>>
「エピタキシャル堆積法であって、
酸化物層を有する基板を処理チャンバ内に導入するステップと、
前記処理チャンバとは異なるプラズマキャビティで生成させたプラズマを用いて、前記基板が有する前記酸化膜層を除去することにより、エピタキシー表面を露出させるステップと、
該エピタキシー表面上にエピタキシャル層を形成するステップ、
とを含み、800℃以上の堆積温度で、該エピタキシー表面上にエピタキシャル層を形成する方法。」

<<相違点>>
<<相違点1>>
本願発明は、「酸化物層を有する基板を処理チャンバ内に導入するステップ」と、「プラズマキャビティ内に、アンモニア(NH_(3))と三フッ化窒素(NF_(3))とを含むガス混合物を導入するステップ」と、「該ガス混合物を励起して、該キャビティ内に、フッ化アンモニア(NH_(4)F)又はフッ化水素アンモニウム(NH_(4)F・HF)を含む反応性ガスのプラズマを生成させるステップ」と、「該処理チャンバ内に該反応性ガスを導入するステップ」と、「該基板を該反応性ガスと反応させて、揮発性膜を形成するステップであって、該基板と該反応性ガスとを反応させつつ、該基板を65℃以下に維持する、ステップ」と、「該基板を少なくとも75℃の第一温度まで加熱して該揮発性膜を蒸発させ、該酸化物層を除去することによりエピタキシー表面をさらすステップ」とからなる一連の「ステップ」により前記「エピタキシー表面」を露出させているのに対して、引用発明1は、「プラズマ生成室1に、アルゴンガスを流量25SCCMで流入させ」、「前記プラズマ生成室1内にマイクロ波を供給してアルゴンプラズマを発生させ」て、「前記アルゴンプラズマを、励磁コイル4にて形成され試料室3側に向う発散磁界によって前記試料室3内に引き出し、前記基板S上に照射せしめて、800℃以上の基板温度で前記アルゴンプラズマを用いてシリコンエッチングを行うことで前記基板S表面の自然酸化膜を除去するエッチング処理を行」うという「前処理」で、「前記基板S表面」を露出させている点。

<<相違点2>>
本願発明は、「該エピタキシャル層のO、F、ClおよびNのレベルを低減するステップは、800℃以上の堆積温度で、該エピタキシー表面上にエピタキシャル層を形成することにより実施される」という「該エピタキシャル層のO、F、ClおよびNのレベルを低減するステップ」を含むのに対して、引用発明1は、「基板温度を800℃以上にして前記基板Sの表面にシリコン単結晶膜をエピタキシャル成長させる」ものの「該エピタキシャル層のO、F、ClおよびNのレベルを低減するステップ」を含むことは特定されていない点。

4 当審の判断
(1)相違点1について
ア 本願発明と引用発明2とを対比すると、
(ア)引用発明2の「アンモニア及び三フッ化窒素ガスを、前記チャンバ本体112の容積容量に適合したガス量で、処理チャンバ100へ導入してガス混合物を形成」することは、本願発明の「プラズマキャビティ内に、アンモニア(NH_(3))と三フッ化窒素(NF_(3))とを含むガス混合物を導入するステップ」に相当する。
(イ)本願明細書の段落【0051】?【0055】の記載を参酌すれば、引用発明2の「RF電力を電極240に印加して、前記電極240とガス分配アセンブリ220との間に形成される容積261、262、263内の前記ガス混合物のプラズマを発火させて、前記チャンバ本体112内に配置された基板とは直接接触しないリモートプラズマを形成」して「プラズマエネルギーにより、前記アンモニアと前記三フッ化窒素ガスを反応化学種へ解離させて、ガス相において高反応性フッ化アンモニア(NH_(4)F)化合物及び/又はフッ化水素アンモニウム(NH_(4)F・HF)を形成」することは、本願発明の「該ガス混合物を励起して、該キャビティ内に、フッ化アンモニア(NH_(4)F)又はフッ化水素アンモニウム(NH_(4)F・HF)を含む反応性ガスのプラズマを生成させるステップ」に相当する。
(ウ)引用発明2の「これらの分子を、前記チャンバ本体112内に配置された基板の表面と反応するように、前記ガス分配アセンブリ220に流れ込ませ」ることは、本願発明の「該処理チャンバ内に該反応性ガスを導入するステップ」に相当する。
(エ)引用発明2の「前記基板を、65℃より低い温度に維持し」た状態で「前記NH_(4)F及び/又はNH_(4)F・HFのエッチングガスが、前記未変性酸化シリコン膜表面と反応して(NH_(4))_(2)SiF_(6)を形成し、形成された前記(NH_(4))_(2)SiF_(6)は薄膜となって前記基板表面上に残留」することは、本願発明の「該基板を該反応性ガスと反応させて、揮発性膜を形成するステップであって、該基板と該反応性ガスとを反応させつつ、該基板を65℃以下に維持する、ステップ」に相当する。
(オ)そして、引用発明2の「基板温度を75℃以上の温度に昇温し」てから「揮発性の前記(NH_(4))_(2)SiF_(6)を昇華させて、前記基板から前記薄膜を除去する」ことは、本願発明の「該基板を少なくとも75℃の第一温度まで加熱して該揮発性膜を蒸発させ、該酸化物層を除去することによりエピタキシー表面をさらすステップ」に相当する。
(カ)以上の(ア)?(オ)から、引用発明2の「半導体基板」上に「露出」した「未変性酸化シリコン膜」を除去する方法は、本願発明における「酸化物層を有する基板」から「該酸化物層を除去する」方法に相当する方法である。

イ さて、引用発明1は、「前記基板S表面の自然酸化膜を除去する」ために、「アルゴン」を構成する分子が電離して陽イオンと電子に分かれて運動する「アルゴンプラズマ」を用いるという、いわゆるプラズマエッチングを行っている。
そうすると、引用発明1においては、前記「アルゴンプラズマ」を前記エッチングを行う「試料室3」とは異なる「プラズマ生成室1」で「発生」させているものの、運動する陽イオンの衝突による衝撃で、「シリコン単結晶膜をエピタキシャル成長させる」エピタキシー表面である「基板Sの表面」は、少なからず損傷を受けるものと認められる。

ウ これに対し、引用例2には、第2の2(2)ア(イ)で摘記したように「スパッタエッチングプロセスは、大特徴部又はアスペクト比が約4:1より小さい小特徴部において汚染物質を減少させるために試みられてきた。しかしながら、スパッタエッチングプロセスは、物理的衝撃によって繊細なシリコン層を損傷させ得る。」(段落【0003】)と記載されるように、基板表面の未変性酸化シリコン膜を除去するためのエッチングプロセスにおける物理的衝撃によって前記基板表面が損傷を受けることを、解決すべき課題の一つとしていることが、記載されている。
一方、引用発明2の「半導体基板」上に「露出」した「未変性酸化シリコン膜」を除去する方法によれば、「下にある前記基板に損傷を与えることなく前記薄膜を能率よく効果的に揮発させる」ることで、前記「未変性酸化シリコン膜」を除去することができる。

エ そして、「エピタキシャル成長」を行う「基板S表面」に損傷を与えることなく「自然酸化膜」を効率よく除去することは、引用発明1が当然に有する課題であると認められる。
したがって、引用発明1において、「800℃以上の基板温度で前記アルゴンプラズマを用いてシリコンエッチングを行うことで前記基板S表面の自然酸化膜を除去するエッチング処理」を含む「前処理」を実行することに代えて、上記アの引用発明2の「半導体基板」上に「露出」した「未変性酸化シリコン膜」を除去する方法を採用して相違点1係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

(2)相違点2について
ア まず、本願発明の「エピタキシャル層のO、F、ClおよびNのレベルを低減する」という発明特定事項の意義について検討する。
(ア)この点について、本願明細書には以下の記載がある。
・「【0061】
[0069]HF-last湿式洗浄ステップを上記の乾式洗浄手順に置き換えることによって…(中略)…特にエピタキシャル堆積の直前の洗浄ステップが変わるときはいつでも、表面がエピタキシャル堆積に許容され得ないリスクがあることは理解される。酸素、フッ素、塩素又は窒素のようなより高レベルのある種の元素が、エピタキシープロセスに悪影響を及ぼすことがある。」
・「【0062】
[0070]実験として、上記プロセスに従って第一グループの基板上に従来のHF-lastプロセスと第二グループの基板上にプラズマ乾式洗浄プロセスを用いてシリコン基板を洗浄した。プラズマ乾式洗浄プロセスは、アンモニアガスと三フッ化窒素ガスを用い、第二グループの基板を洗浄するために用いた気相中の高度に反応性のフッ化アンモニウム(NH_(4)F)化合物及び/又はフッ化水素アンモニウム(NH_(4)F・HF)を形成するために結合した反応性化学種に変換するためにプラズマを点火した。その後、エピタキシャル堆積を、850℃、750℃、700℃、650℃の析出温度で行った。その後、選ばれた試料を、X線回折(XRD)と第二イオン質量分析(SIMS)を用いて分析して、エピタキシャル膜/基質接合部の特定元素のレベルを決定した。XRD分析は、成長速度と膜組成物に関して調べた全ての堆積温度についてプラズマを用いてHF-last洗浄した第一グループの基板と乾式洗浄した第二グループの基板との間に差異を示さなかった。SIMSプロファイルは、HF-last洗浄基板と乾式基板は≧800℃で行われたエピタキシャル堆積のためにプラズマを用いて乾燥洗浄した基板が匹敵した。しかしながら、より高レベルのO、F、Cl、Nが、乾式洗浄エッチングプロセスを用いた≦750℃堆積で行われたエピタキシャル堆積のための基板/エピタキシー境界面において見出された。乾式洗浄基板の堆積の前のHClによるインサイチュベークは、前述の境界面に残存している元素を減少させなかった。しかし、この限られた一組の実験は、プラズマを用いた乾式洗浄がエピタキシャル堆積の前に現在用いられているHF-lastプロセスのための許容され得る代用品であることを示した。」
(イ)以上の記載から、本願明細書には、以下の事項が記載されているといえる。
・従来の「HF-last湿式洗浄ステップ」を本願発明の「乾式洗浄手順」に置き換えると、エピタキシープロセスに悪影響を及ぼすことがある「酸素、フッ素、塩素又は窒素」のような「元素」が「より高レベル」で検出されるという「表面がエピタキシャル堆積に許容され得ないリスクがある」こと。
・しかし、「800℃」以上の「析出温度」で「エピタキシャル堆積」を行うと、本願発明の「プラズマ乾式洗浄プロセス」により「基板」から「酸化物層」を除去しても、「従来のHF-lastプロセス」により前記「酸化物層」を除去した場合と同程度の「レベル」の「O、F、Cl、N」しか「基板/エピタキシー境界面」において検出されないこと。
また、本願明細書の段落【0062】の上記記載によれば、本願発明の「エピタキシャル層のO、F、ClおよびNのレベル」とは、「基板/エピタキシー境界面」における「エピタキシャル層」の「O、F、ClおよびNのレベル」を意味すると認められる。

イ 本願発明における「該エピタキシャル層のO、F、ClおよびNのレベルを低減するステップ」は、「800℃以上の堆積温度で、該エピタキシー表面上にエピタキシャル層を形成することにより実施される」もので、この点について本願明細書の記載を参酌すれば、上記ア(イ)のとおり、「エピタキシャル層のO、F、ClおよびNのレベル」は、本願発明の「乾式洗浄手順」、すなわち、相違点1に係る構成によって生じると認められる。
他方、上記(1)で検討したとおり、相違点1に係る構成は、引用発明1において、引用発明2の「半導体基板」上に「露出」した「未変性酸化シリコン膜」を除去する方法を採用することにより、当業者が容易に想到し得たものと認められるところ、引用発明1に引用発明2を適用した場合、引用発明2により上記「未変性酸化シリコン膜」を除去した後、「基板温度を800℃以上にして前記基板Sの表面に単結晶膜をエピタキシャル成長させる」ことが行われることになる。
そうすると、引用発明1に引用発明2を適用して「半導体基板」上に「露出」した「未変性酸化シリコン膜」を除去するようにした際、それによって、酸素、フッ素、塩素及び窒素の元素がエピタキシャル層を堆積する直前まで基板表面に残留したとしても、その後に行われる、引用発明1における上記単結晶膜のエピタキシャル成長によって、本願発明と同様、「エピタキシャル層の酸素、フッ素、塩素及び窒素の元素のレベル」は低減されると認められる。
以上から、相違点2係る構成は、引用発明1において、引用発明2に基づいて、当業者が容易に想到し得たものと認める。

(3)判断のまとめ
以上検討したとおり、相違点1ないし2は、引用発明2を参酌すれば、引用発明1から当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものである。
そして、本願発明の効果も、引用発明1及び引用発明2から、当業者が予期し得たものである。


第3 結言
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明、及び、引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-21 
結審通知日 2017-03-28 
審決日 2017-04-10 
出願番号 特願2013-76946(P2013-76946)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 将之井上 和俊  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 加藤 浩一
鈴木 匡明
発明の名称 エピタキシャル堆積法及び装置  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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