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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F |
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管理番号 | 1331814 |
審判番号 | 不服2016-8664 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-06-10 |
確定日 | 2017-09-11 |
事件の表示 | 特願2011-134258「電子式計算機およびプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月 7日出願公開、特開2013- 3840、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成23年6月16日の出願であって,平成26年6月12日付けで手続補正がされ,平成27年8月18日付けで拒絶理由通知がされ,同年10月23日付けで手続補正がされ,同年11月20付けで最後の拒絶理由通知がされ,平成28年1月25日付けで手続補正がされたものの,同年3月8日付けで補正の却下の決定とともに同日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年6月10日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,同年7月27日に前置報告がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成28年3月8日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願請求項1-4に係る発明は,以下の引用文献1-5に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開平2-85952号公報 2.特開2001-109721号公報 3.特開平11-282810号公報 4.特開2006-293498号公報 5.特開平6-11582号公報 第3 審判請求時の補正について 審判請求時の補正(以下「本件補正」という。)は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。 本件補正によって請求項1,4に「前記数値換算手段は,ユーザが換算方向を指定することに応じて換算処理を実行後にさらにユーザが換算方向を指定したか否かを判断する換算処理後指定判断手段と,前記換算処理後指定判断手段により換算処理を実行後にさらに指定されたと判断された場合には,前記換算処理を実行後の指定を無効にする指定無効手段と」という事項(以下「補正事項」という。)を追加する補正が,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるか,また,上記補正事項は,当初明細書の段落68及び70並びに図10に記載されているから,当該補正は新規事項を追加するものではないかについて検討すると,本件補正前の請求項1に記載された,「数値換算手段」につき,「ユーザが換算方向を指定することに応じて換算処理を実行後にさらにユーザが換算方向を指定したか否かを判断する換算処理後指定判断手段と,前記換算処理後指定判断手段により換算処理を実行後にさらに指定されたと判断された場合には,前記換算処理を実行後の指定を無効にする指定無効手段と」を備えることを限定的に減縮しているといえるから,上記補正事項を追加する補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)において,明細書段落68には,「ここで,前記副表示部13に対する換算レートの表示中であると判断された場合は(ステップD1(Yes)),既に換算処理した後であるか否か判断され(ステップD2),換算処理後ではないと判断された場合は(ステップD2(No)),前記主表示部12(主表示データメモリ24)に入力表示された数値に対して前記副表示部13(副表示データメモリ25)に表示された換算レートが乗算され,その乗算結果が主計算データメモリ28に記憶されると共に主表示データメモリ24に書き込まれ,主表示部12に表示される(ステップD3)。」ことが,同段落70には,「ここで,前記副表示部13に対する換算レートの表示中であると判断された場合は(ステップE1(Yes)),既に換算処理した後であるか否か判断され(ステップE2),換算処理後ではないと判断された場合は(ステップE2(No)),前記主表示部12(主表示データメモリ24)に入力表示された数値が前記副表示部13(副表示データメモリ25)に表示された換算レートで除算され,その除算結果が主計算データメモリ28に記憶されると共に主表示データメモリ24に書き込まれ,主表示部12に表示される(ステップE3)。」ことがそれぞれ記載され,また図10(A)のフローでは,ステップD2において,「換算後?」との判断がなされていることが示されているから,当該判断処理を行う手段は「換算処理後指定判断手段」に相当し,当該手段において「Yes」,すなわち「換算処理後指定判断手段により換算処理を実行後にさらに指定されたと判断された場合」には,「Nop」,すなわち何も処理をしないことが示されているといえることから,「前記換算処理を実行後の指定を無効にする指定無効手段」についても実質的に記載があったものと認められるから,上記補正事項は,当初明細書等に記載された事項であり,新規事項を追加するものではないといえる。 そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,本件補正後の請求項1-4に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。 第4 本願発明 本願請求項1-4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は,平成28年6月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 第1,第2の表示部と, ユーザによるキー操作を受け付け演算結果を表示する表示部を前記第1の表示部と第2の表示部との間で切り替える動作対象切替手段と, 複数の換算レートを記憶する換算レート記憶手段と, 前記動作対象切替手段により前記第1の表示部が動作対象に切り替えられ,数値が前記第1の表示部に表示されている状態で,前記換算レート記憶手段により記憶された複数の換算レートをユーザ操作に応じて順番に呼び出して前記第2の表示部に表示させる換算レート表示手段と, 前記第2の表示部に換算レートが表示されている場合に,ユーザが換算方向を指定することに応じて,前記第1の表示部に表示された数値を,前記第2の表示部に表示された換算レートに基づき,ユーザが指定した換算方向に換算処理を実行して,換算結果を前記第1の表示部に表示する数値換算手段と, を備え, 前記数値換算手段は,ユーザが換算方向を指定することに応じて換算処理を実行後にさらにユーザが換算方向を指定したか否かを判断する換算処理後指定判断手段と, 前記換算処理後指定判断手段により換算処理を実行後にさらに指定されたと判断された場合には,前記換算処理を実行後の指定を無効にする指定無効手段とを備えたことを特徴とする電子式計算機。」 なお,本願発明2-4の概要は以下のとおりである。 「【請求項2】 前記第1の表示部と第2の表示部との間でユーザ操作に応じて一方の表示部に表示された計算データを他方の表示部に置き換えて表示させるデータ置き換え手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の電子式計算機。 【請求項3】 前記第1の表示部に表示された数値に対して換算レートを乗算する指令を与える第1のキーと前記第1の表示部に表示された数値に対して換算レートで除算する指令を与える第2のキーとを備え,前記数値換算手段は,前記第1のキーあるいは第2のキーの操作に対応して乗算あるいは除算して換算を行うことを特徴とする請求項1または2に記載された電子式計算機。 【請求項4】 第1,第2の表示部を備えた電子機器のコンピュータを制御するためのプログラムであって,前記コンピュータを,ユーザによるキー操作を受け付け演算結果を表示する表示部を前記第1の表示部と第2の表示部との間で切り替える動作対象切替手段,複数の換算レートを記憶する換算レート記憶手段,前記動作対象切替手段により前記第1の表示部が動作対象に切り替えられ,数値が前記第1の表示部に表示されている状態で,前記換算レート記憶手段により記憶された複数の換算レートをユーザ操作に応じて順番に呼び出して前記第2の表示部に表示させる換算レート表示手段,ユーザが換算方向を指定することに応じて,前記第1の表示部に表示された数値を,前記第2の表示部に表示された換算レートに基づき,ユーザが指定した換算方向に換算処理を実行して,換算結果を前記第1の表示部に表示する数値換算手段,として機能させ,前記数値換算手段は,ユーザが換算方向を指定することに応じて換算処理を実行後にさらにユーザが換算方向を指定したか否かを判断する換算処理後指定判断手段と,前記換算処理後指定判断手段により換算処理を実行後にさらに指定されたと判断された場合には,前記換算処理を実行後の指定を無効にする指定無効手段と,を備えたことを特徴とするプログラム。」 本願発明2及び3は,本願発明1を減縮した発明である。 本願発明4は,本願発明1に対応するプログラムの発明であり,本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。 第5 引用文献,引用発明等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。 「〔産業上の利用分野〕 本発明は通貨換算機に関する。さらに詳しくは通貨レートを入力後,通貨金額を入力するとレート換算した金額を出力する通貨換算機に関する。」(1ページ左下欄12行乃至15行) 「〔発明が解決しようとする課題〕 外国旅行で買物をする際に,相手国通貨を自国通貨に通貨換算をして,買う品物が自国の価値で高いか,安いかを判断するが,従来の携帯用通貨換算機においては,換算前の数値が消去されるため,自国通貨の数値と相手国の数値を同じに並べて比較する事が容易にできない問題がある。また外国によっては物品税を定価とは別に支払うため,定価に物品税率を乗計算してから通貨換算しなければならないため,計算結果を暗記または,メモなどをして記憶しておかなければならない問題がある。」(1ページ右下欄8行乃至19行) 「以下にこの発明の一実施例を図面に基づいて説明する。第1図において,予めレートキー6により通貨換算レートを入力しておく。レートキー6を押すと,右側の液晶パネル1に数字1が表示され,テンキー3により通貨換算レートを入力すると,左側の液晶パネル2に通貨換算レートが表示される。通貨換算レートはイコールを押すことで完了する。通貨換算レートはスイッチOFF後も記憶され,通貨換算レートが変更されるまで保持される。つぎに相手国通貨をテンキー3により入力すると右側のパネル1に表示される。この時にエクスチェンジキー5を押すと左側パネル2に,右側パネルに置数された数値に通貨換算レートを乗計算した数値,すなわち自国通貨が表示される。さらに,テンキー3と四則演算キー4を使用した計算過程及び結果は右側パネル1に表示され,計算過程中であってもエクスチェンジキー5を押すことにより右側パネル1に表示された数値は通貨レートを乗計算され左側パネルに表示される。インバースキー7は自国通貨を相手国通貨に換算するキーで,インバースキー7を押すことにより右側パネル1に表示された数値に換算レートを除計算した数値を左側パネル2に表示する。」(2ページ右上欄2行乃至左下欄4行) 「〔発明の効果〕 この発明は以上説明したように,2つの表示装置により,相手国通貨と自国通貨を同時に表示することができるので,使用者は通貨の比較が容易に理解ができる。また,四則演算と通貨換算を並行して逐次できるので,物品税分を加えて買物をする場合に簡単に操作することができる。」(2ページ左下欄5行乃至11行) したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「通貨レートを入力後,通貨金額を入力するとレート換算した金額を出力する通貨換算機であって, 相手国通貨を自国通貨に通貨換算をして,買う品物が自国の価値で高いか,安いかを判断する場合,換算前の数値が消去されるため,自国通貨の数値と相手国の数値を同じに並べて比較する事が容易にできない問題,及び,定価に物品税率を乗計算してから通貨換算しなければならないため,計算結果を暗記または,メモなどをして記憶しておかなければならない問題を解決するため, レートキー6を押すと,右側の液晶パネル1に数字1が表示され,テンキー3により通貨換算レートを入力すると,左側の液晶パネル2に通貨換算レートが表示され, 前記通貨換算レートはスイッチOFF後も記憶され,通貨換算レートが変更されるまで保持され, 相手国通貨をテンキー3により入力すると右側のパネル1に表示され,この時にエクスチェンジキー5を押すと左側パネル2に,右側パネルに置数された数値に通貨換算レートを乗計算した数値,すなわち自国通貨が表示され, さらに,テンキー3と四則演算キー4を使用した計算過程及び結果は右側パネル1に表示され,計算過程中であってもエクスチェンジキー5を押すことにより右側パネル1に表示された数値は通貨レートを乗計算され左側パネルに表示され, インバースキー7は自国通貨を相手国通貨に換算するキーで,インバースキー7を押すことにより右側パネル1に表示された数値に換算レートを除計算した数値を左側パネル2に表示する 通貨換算機。」 2.引用文献2について また,原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2の段落65乃至段落67,及び図20の記載からみて,当該引用文献2には, 「元の通貨設定シンボル表示領域52aの表示状態が「円への換算」であることを示しており,外貨から円に換算するように切替える場合, 「1」「0」「0」「0」「+」「5」「0」「0」「=」の入力操作で,「1000+500=」の四則演算が行われ,演算結果の1500ドルが通貨換算計算キー15の入力操作で,下段に表示され,上段には180000が表示され, 上下の通貨計算シンボル表示領域51a,51bには,「円」と「外貨」とを示すシンボルがそれぞれ表示され, 通貨設定シンボル表示領域52aには,「円への換算」であることを示すシンボルが表示され, 「CA」キーに続くメモリ加算キー16の入力操作で,円から外貨に換算するモードになる場合は, 「1500+300=」の四則演算結果である1800円をドルに換算するときは,通貨換算計算キー15をさらに入力操作すると,上段の数値表示領域50aに「1800」,下段の数値表示領域50bに「15」が表示され, 通貨設定シンボル表示領域52aには,「外貨への換算」であることを示すシンボルが表示される 電子卓上計算機。」 という技術的事項が記載されていると認められる。 3.引用文献3について また,原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3の段落1,30及び34,並びに図6の記載からみて,当該引用文献3には, 「通貨換算用テーブルを作成する前記テーブル作成機能モードに入り, 利用者が記号キーK2を押下すると,液晶ディスプレイ4には,通貨記号,例えば,¥(円)・DM(マルク)・?(ポンド)等のいずれかが順番に表示され, 利用者が数字等を入力する数字キー6bを用いて,具体的な通貨の交換レートを入力し,それらデータが換算テーブルエリア41内の通貨換算用テーブルに記憶される,入力されたある国の所定の金額を,他の国の通貨の金額に換算して印字する通貨計算機能付き印字装置。」 という技術的事項が記載されていると認められる。 4.その他の文献について また,前置報告書において新たに追加された引用文献6(特開2000-132517号公報(平成12年5月12日公開。以下「公知例」という。)の段落1,71乃至74には, 「換算処理の機能だけがあるいは換算処理及び税計算処理の両方の機能が利用できる計算機能を備えた電子卓上計算機であって, “100”を置数し,[$->¥]キーを入力することで100ドルを円に換算した額“13,000”を表示し,その際に円に換算されたことを示すシンボル“¥”が点灯し, 同じ[$->¥]キーを連続で入力すると演算は何も実行されない 電子卓上計算機。」(以下「公知技術」という。) という技術的事項が記載されていると認められる。 第6 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。 引用発明における「通貨換算機」,「通貨換算レート」,「左側の液晶パネル2」,「右側の液晶パネル1」は,それぞれ本願発明1における「電子式計算機」,「換算レート」,「第1の表示部」,「第2の表示部」に相当する。 引用発明は「相手国通貨をテンキー3により入力すると右側のパネル1に表示され,この時にエクスチェンジキー5を押すと左側パネル2に,右側パネルに置数された数値に通貨換算レートを乗計算した数値,すなわち自国通貨が表示され」,また「テンキー3と四則演算キー4を使用した計算過程及び結果は右側パネル1に表示され,計算過程中であってもエクスチェンジキー5を押すことにより右側パネル1に表示された数値は通貨レートを乗計算され左側パネルに表示され」ると共に,「インバースキー7は自国通貨を相手国通貨に換算するキーで,インバースキー7を押すことにより右側パネル1に表示された数値に換算レートを除計算した数値を左側パネル2に表示する」ものであるから,当該「エクスチェンジキー5」や「インバースキー7」を押下することは,本願発明1の「ユーザが換算方向を指定すること」に相当するとともに当該操作によって自国通貨と相手国通貨との換算を行って,「左側パネル2」に,「乗計算され」たり「除計算」されたりした数値を表示することは,本願発明1において,「ユーザが換算方向を指定することに応じて,前記第1の表示部に表示された数値を,前記第2の表示部に表示された換算レートに基づき,ユーザが指定した換算方向に換算処理を実行して,換算結果を前記第1の表示部に表示する」に相当するといえる。 また,引用発明では「通貨換算レートはスイッチOFF後も記憶され,通貨換算レートが変更されるまで保持され」ることから,本願発明1とは「換算レートを記憶する換算レート記憶手段」を有することで共通するといえるから,本願発明1の「前記動作対象切替手段により前記第1の表示部が動作対象に切り替えられ,数値が前記第1の表示部に表示されている状態で,前記換算レート記憶手段により記憶された複数の換算レートをユーザ操作に応じて順番に呼び出して前記第2の表示部に表示させる換算レート表示手段」及び「前記第2の表示部に換算レートが表示されている場合に,ユーザが換算方向を指定することに応じて,前記第1の表示部に表示された数値を,前記第2の表示部に表示された換算レートに基づき,ユーザが指定した換算方向に換算処理を実行して,換算結果を前記第1の表示部に表示する数値換算手段」とは,下記の点で相違するものの,“数値が前記第1の表示部に表示されている状態で,前記換算レート記憶手段により記憶された換算レートを前記第2の表示部に表示させる換算レート表示手段と,前記第2の表示部に換算レートが表示されている場合に,ユーザが換算方向を指定することに応じて,前記第1の表示部に表示された数値を,前記第2の表示部に表示された換算レートに基づき,ユーザが指定した換算方向に換算処理を実行して,換算結果を前記第1の表示部に表示する数値換算手段”を有する点で一致する。 したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「第1,第2の表示部と, 換算レートを記憶する換算レート記憶手段と, 数値が前記第1の表示部に表示されている状態で,前記換算レート記憶手段により記憶された換算レートを前記第2の表示部に表示させる換算レート表示手段と, 前記第2の表示部に換算レートが表示されている場合に,ユーザが換算方向を指定することに応じて,前記第1の表示部に表示された数値を,前記第2の表示部に表示された換算レートに基づき,ユーザが指定した換算方向に換算処理を実行して,換算結果を前記第1の表示部に表示する数値換算手段と, を備えた電子式計算機。」 (相違点) (相違点1)本願発明1は「ユーザによるキー操作を受け付け演算結果を表示する表示部を前記第1の表示部と第2の表示部との間で切り替える動作対象切替手段」という構成を備えるのに対し,引用発明はそのような構成を備えていない点。 (相違点2)本願発明1の「換算レート記憶手段」は,「複数の換算レートを記憶する」ものであるのに対し,引用発明は単一の換算レートを記憶するものである点。 (相違点3)本願発明1では,「数値が前記第1の表示部に表示されている状態」となるのが,「前記動作対象切替手段により前記第1の表示部が動作対象に切り替えられ」たことによるものであるのに対し,引用発明はそのような切り替えが行われるものではない点。 (相違点4)本願発明1の「換算レート表示手段」は,「複数の換算レートをユーザ操作に応じて順番に呼び出して前記第2の表示部に表示させる」ものであるのに対し,引用発明は単一の換算レートを第2の表示部に表示させるものの,複数の換算レートを表示させることは言及されていない点。 (相違点5)本願発明1の「数値換算手段」は,「ユーザが換算方向を指定することに応じて換算処理を実行後にさらにユーザが換算方向を指定したか否かを判断する換算処理後指定判断手段と,前記換算処理後指定判断手段により換算処理を実行後にさらに指定されたと判断された場合には,前記換算処理を実行後の指定を無効にする指定無効手段と」を備えるのに対し,引用発明は,そのような構成を備えていない点。 (2)相違点についての判断 上記相違点について検討する。 まず相違点5については,上記「4.その他の文献」で示した公知例において,「“100”を置数し,[$->¥]キーを入力することで100ドルを円に換算した額“13,000”を表示」することは,本願発明1の「ユーザが換算方向を指定することに応じて換算処理を実行」したことに相当し,同じく公知例において「同じ[$->¥]キーを連続で入力すると演算は何も実行されない」ことはすなわち,本願発明1の「換算処理を実行後にさらにユーザが換算方向を指定したか否かを判断する」何らかの手段が存在し,かつ,「換算処理を実行後にさらに指定されたと判断された場合には,前記換算処理を実行後の指定を無効にする」何らかの手段が存在することを示しているといえるから,相違点5に係る構成は公知例において開示されているといえる。そして,引用発明と公知例はともに換算処理を行う電子計算機の分野で共通するといえるから,引用発明において公知例に開示された,相違点5に係る構成を採用することに特段の困難性はない。 次に相違点1について検討する。 引用文献2は,「通貨換算計算キー15」を操作することによって,外貨と円との換算を行う電子計算機であり,引用文献2の「上段の数値表示領域50a」,「下段の数値表示領域50b」は,それぞれ本願発明の「第1の表示部」,「第2の表示部」に対応するものといえる。引用文献2において,「「1000+500=」の四則演算が行われ,演算結果の1500ドルが通貨換算計算キー15の入力操作で,下段に表示され,上段には180000が表示され」た後,「「CA」キーに続くメモリ加算キー16の入力操作で,円から外貨に換算するモードになる場合」に,「「1500+300=」の四則演算結果である1800円をドルに換算するときは,通貨換算計算キー15をさらに入力操作すると,上段の数値表示領域50aに「1800」,下段の数値表示領域50bに「15」が表示され」ているから,結果的に,「メモリ加算キー16の入力操作」によって,「ユーザによるキー操作を受け付け演算結果を表示する表示部」を切り替える動作が行われているといえる。引用発明と引用文献2とは,ともに外貨(相手国通貨)と円(自国通貨)との換算を行う計算機という技術分野で共通しているといえるから,引用発明において引用文献2の技術の採用を検討したとしても,引用文献2における,「ユーザによるキー操作を受け付け演算結果を表示する表示部」を切り替える動作は,ユーザが演算結果を表示する位置を変更することを意図したものではなく,固定した位置に「通貨計算シンボル表示領域51a,51b」や「通貨設定シンボル表示領域52a」が存在し,モードの切り替えによって,「「円への換算」であることを示すシンボル」や「「外貨への換算」であることを示すシンボル」を「通貨設定シンボル表示領域52a」に表示すると共に,「通貨計算シンボル表示領域51a,51b」には,「「円」と「外貨」とを示すシンボルがそれぞれ表示」されていることからみて,円への換算である場合には,入力した「1000+500=」の演算結果が表示される位置が「上段の数値表示領域50a」となり,逆に,外貨への換算である場合には,「1500+300=」の演算結果が表示される位置が「下段の数値表示領域50b」となるにとどまるものと認められる。そうすると,引用文献2に記載の技術は,本願発明1の「ユーザによるキー操作を受け付け演算結果を表示する表示部を前記第1の表示部と第2の表示部との間で切り替える動作対象切替手段」を示すものであるということはできない。 したがって,相違点1に係る構成は,引用文献2の存在によっても当業者が容易になし得たということはできない。 相違点2と相違点4は,互いに関連するものであるので,まとめて検討する。 本願明細書段落5乃至7の記載によれば,本願発明1が解決しようとする課題は,従来,複数の通貨の通貨換算値を並列表示させることができる計算装置は存在していたものの,換算処理の過程において簡単な操作で換算レートを確認したり,換算する方向(例えば[$→¥(乗算)][¥→$(除算)])を指定したりすることができず,特に複数の換算レートを用いる場合,何れの換算レートを使用して換算処理しているのかがユーザに分かり難い問題があったという点にあり,このような課題に鑑み,数値換算処理に際して簡単な操作で換算レートを確認し且つ換算方向を指定することが可能になる副表示画面を備えた電子式計算機およびその制御プログラムを提供することを,本願発明1の目的としたものであることが読み取れる。 そして,このような本願発明1の解決しようとする課題及び目的に照らし,相違点2に係る「複数の換算レートを記憶する」ことは,複数の換算レートを用いることをそもそもの前提としたことによる構成と認められ,さらに,相違点4に係る「複数の換算レートをユーザ操作に応じて順番に呼び出して前記第2の表示部に表示させる」ことは,上記前提に鑑み,従来,「何れの換算レートを使用して換算処理しているのかがユーザに分かり難い」という問題があったことに対する解決手段を提供するものといえる。 翻って,引用発明によれば,その解決しようとする課題は,「相手国通貨を自国通貨に通貨換算をして,買う品物が自国の価値で高いか,安いかを判断する場合,換算前の数値が消去されるため,自国通貨の数値と相手国の数値を同じに並べて比較する事が容易にできない問題」,及び,「定価に物品税率を乗計算してから通貨換算しなければならないため,計算結果を暗記または,メモなどをして記憶しておかなければならない問題」であり,その前提として複数の換算レートを用いることを想定していないことは明らかである。してみれば,引用発明には,そもそも複数の換算レートを記憶しておく動機付けは存在しなかったものと認められる。 一方,引用文献3には,複数の「通貨の交換レート」を「通貨換算用テーブル」に記憶することができる「通貨計算機能付き印字装置」において,当該「通貨換算用テーブル」に複数の「通貨の交換レート」を記憶させる際に,「利用者が記号キーK2を押下」することによって「液晶ディスプレイ4」に,「¥(円)・DM(マルク)・?(ポンド)等のいずれかが順番に表示され」ることが記載されている。そして,引用発明と引用文献3に記載の技術とは,共に通貨換算を行う装置である点で技術分野は共通するものであるから,引用文献において引用文献3に記載の技術の採用を検討したとしても,そもそも引用文献3に記載の技術は,単に複数の換算レートを記憶できて,当該複数の換算レートを登録する際にユーザの操作に応じて順番に当該換算レートを表示するに過ぎないものであり,引用発明が複数の換算レートを記憶しておかなければならない合理的な理由は存在しないから,そのような,複数の換算レートを有することをそもそも想定していない引用発明において,複数の換算レートを記憶しているに過ぎない,引用文献3の技術を採用する動機付けは存在しなかったというべきである。 したがって,単に通貨換算を行う装置という側面で共通するからといって,引用文献3に記載の技術を引用発明において採用することが当業者にとって容易であったということはできない。 さらに,本願発明1は,「第1,第2の表示部」を有し,「複数の換算レートをユーザ操作に応じて順番に呼び出して前記第2の表示部に表示させる」ことによって,従来,「何れの換算レートを使用して換算処理しているのかがユーザに分かり難い」という問題に対して「簡単な操作で換算レートを確認」できるという格別の効果を奏するものであって,引用発明や引用文献3に記載の技術に比して,有利な効果を奏するものである。 なお,相違点1,2,4に係る構成は,原査定で引用された上記引用文献4及び5にも開示の無い構成である。 以上を総合すると,上記相違点3について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明,引用文献2乃至5に記載された技術的事項及び公知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2,3について 本願発明2及び本願発明3も,本願発明1の「ユーザによるキー操作を受け付け演算結果を表示する表示部を前記第1の表示部と第2の表示部との間で切り替える動作対象切替手段」との構成,「換算レート記憶手段」が,「複数の換算レートを記憶する」構成,及び,「換算レート表示手段」が,「複数の換算レートをユーザ操作に応じて順番に呼び出して前記第2の表示部に表示させる」構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2乃至5に記載された技術的事項及び公知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 3.本願発明4について 本願発明4は,本願発明1に対応するプログラムの発明であり,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2乃至5に記載された技術的事項及び公知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 第7 原査定について 審判請求時の補正により,本願発明1-4はさらに,「前記数値換算手段は,ユーザが換算方向を指定することに応じて換算処理を実行後にさらにユーザが換算方向を指定したか否かを判断する換算処理後指定判断手段と,前記換算処理後指定判断手段により換算処理を実行後にさらに指定されたと判断された場合には,前記換算処理を実行後の指定を無効にする指定無効手段とを備えた」という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1-5に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-08-02 |
出願番号 | 特願2011-134258(P2011-134258) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G06F)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 中村 康司、滝谷 亮一、井上 宏一 |
特許庁審判長 |
辻本 泰隆 |
特許庁審判官 |
須田 勝巳 山崎 慎一 |
発明の名称 | 電子式計算機およびプログラム |