• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
管理番号 1331851
審判番号 不服2016-1841  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-05 
確定日 2017-08-24 
事件の表示 特願2015-112713「圧縮型冷凍機用潤滑油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 1日出願公開、特開2015-172204〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年7月1日に出願した特願2011-147787号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成27年6月2日に新たな特許出願として分割したものであって、以降の手続の経緯は、以下のとおりのものである。

平成27年7月1日 手続補正書・上申書
平成27年8月4日付け 拒絶理由通知書(特許法第50条の2の通知)
平成27年10月13日 意見書・手続補正書
平成27年11月2日付け 拒絶査定
平成28年2月5日 審判請求書・手続補正書
平成28年3月4日付け 前置報告書
平成28年6月10日 上申書
平成29年1月26日付け 拒絶理由通知書
平成29年3月23日 期間延長
平成29年4月18日 意見書・手続補正書


第2 本願発明の認定
本願の請求項1?11に係る発明は、平成29年4月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
水酸基価が3mgKOH/g以下であるポリオールエステル類を基油の主成分として含み、前記ポリオールエステル類が、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)、トリ-(ペンタエリスリトール)のいずれかであるポリオールと、炭素数3以上9以下の脂肪酸とのエステルである、ジフルオロメタン(R32)単独の冷媒用の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。」


第3 平成29年1月26日付け拒絶理由
平成29年1月26日付け拒絶理由は、本願の請求項1?10に係る発明は、その出願日前に頒布された刊行物である引用例1?5の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(理由1)、という理由を含むものである。

第4 当審の判断
1.引用例
(1)引用例1
本願原出願日前に頒布された特開2010-215756号公報(以下、「引用例1」という)には、以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審が付与したものである。以下、同様である。
(1-ア)「【請求項1】
炭素数5から10のアルコールと炭素数5から12の直鎖又は分岐構造を有する脂肪族カルボン酸とからエステルを得る際に反応系の水酸基価が5mgKOH/g以下となるまで反応させ、得られた粗生成物を、平均粒子径が8から20μmで細孔径が0.4nmから1.5nmの合成ゼオライトを用いて、60℃から120℃で処理することを特徴とする冷凍機用エステル潤滑油の製造方法。
・・・・・・
【請求項3】
前記エステルが、炭素数5から10のネオペンチル構造を有する多価アルコールと、炭素数5から10の分岐構造を有する脂肪族カルボン酸とからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷凍機用エステル潤滑油の製造方法。
【請求項4】
前記冷凍機用エステル潤滑油が、非塩素系フロン冷媒または自然冷媒を含有する冷凍機用作動流体組成物に使用されることを特徴とする請求項1?3いずれか1項に記載の冷凍機用エステル潤滑油の製造方法」(【特許請求の範囲】)
(1-イ)「【発明の効果】
本発明の製造方法により得られた冷凍機用エステル潤滑油は、高品質で高い耐熱性を有するので、熱安定性が特に要求される冷凍空調機器のコンプレッサーに好適に用いることができる。また、本発明の製造方法により得られた冷凍機用エステル潤滑油は、非塩素系フロン冷媒や自然冷媒との相溶性が高いので、これら冷媒を含有する冷凍機用作動流体組成物に好適に用いることができる。」(段落【0012】)
(1-ウ)「一方の反応原料である炭素数5から10のアルコールとしては、1価アルコール又は2価以上の多価アルコールが用いられる。使用できる1価のアルコールとしては、1-ペンタノール、1-デカノールのような直鎖状の構造を有するものや、2-エチル-1-ブタノール、2?エチル-1-ヘキサノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノールのような分岐状の構造を有するものが用いられる。エステルの耐加水分解性や低温流動性の観点から、分岐状の構造を有するアルコールが好ましい。・・・・・・
使用できる2価以上の多価アルコールとしては、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n?ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールノナン、ペンタエリスリトール、及びジペンタエリスリトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリンが挙げられる。更に、耐熱性の観点から、水酸基のβ位の炭素に水素原子を持たないネオペンチル構造を有する多価アルコール(ネオペンチルポリオール)が好ましく用いられる。具体的にはネオペンチルグリコール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n?ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、及びジペンタエリスリトールが挙げられる。」(段落【0014】、【0015】)
(1-エ)「もう一方の反応原料である炭素数5から12の直鎖又は分岐構造を有する脂肪族カルボン酸(以下、単にカルボン酸ともいう。)としては、炭素数5から12の直鎖、もしくは分岐鎖を有するモノカルボン酸が用いられる。このようなモノカルボン酸として、例えば、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸のような直鎖状の構造を有するモノカルボン酸や、2-メチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、ネオデカン酸のような分岐状の構造を有するモノカルボン酸が用いられる。耐熱性の観点から、炭素数5から10の分岐構造を有するモノカルボン酸を用いることが好ましい。また、場合によって、2つのカルボン酸を有する二塩基酸を使用することができる。使用できる二塩基酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、などが例示される。」(段落【0016】)
(1-オ)「エステルの製造に際しては、上記のアルコールと脂肪族カルボン酸を適切な反応器に仕込んで反応を行う。この際のアルコールと脂肪族カルボン酸の比率は、アルコールの水酸基に対し、カルボン酸基が1.0から1.5のmol当量になるように仕込むことができる。反応温度は、エステル化反応の進行に伴って生成する水を効率的に除去するために、150℃から250℃の範囲であり、好適には窒素気流下で実施される。更に、反応時の圧力については、水の留去を効率よく行うために、減圧下で実施することもできる。また、耐熱性の観点から、エステル化反応を十分に進める方が好ましく、反応系、すなわち反応粗生成物の水酸基価が5mgKOH/g以下になるまで反応を行うことが好ましい。なお、上記のアルコールと脂肪族カルボン酸は、それぞれ1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。」(段落【0017】)
(1-カ)「冷凍機用作動流体組成物は、本発明の製造方法により得られた冷凍機用エステル潤滑油と、非塩素系フロン冷媒または自然冷媒とを含有する。非塩素系フロン冷媒としては、具体的には、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R-134a)、ペンタフルオロエタン(R-125)、ジフルオロエタン(R-32)(注:R-32は、ジフルオロメタンであることは当業者に周知であり、「ジフルオロエタン」は、「ジフルオロメタン」の明らかな誤記と認める。)、トリフルオロメタン(R-23)、1,1,2,2-テトラロフルオロエタン(R-134)、1,1,1-トリフルオロエタン(R-143a)、1,1-ジフルオロエタン(R-152a)等、またはこれらの二種以上からなる混合冷媒が用いられる。
上記混合冷媒としては、具体的には、例えばR-407C(R-134a/R-125/R-32=52/25/23質量%)、R-410R(R-125/R-32=50/50質量%)、R-404A(R-125/R-143/R-134a=44/52/4質量%)、R-407E(R-134a/R-125/R-32=60/15/25質量%)、R-410B(R-32/R-125=45/55質量%)などが挙げられる。これらの中でも、特にR-134a及びR-32の少なくとも一種を含む冷媒が好ましく挙げられる。」(段落【0033】、【0034】)
(1-キ)「(実施例1?15および比較例1?12)
表1に示すアルコールとカルボン酸を用いて下記工程によりエステル粗生成物(表1に示すエステルA?H)を得た。得られたエステル粗生成物に対して、表3及び表4に示す処理(下記に示す合成ゼオライトによる処理、アルカリ水溶液による処理、吸着剤による処理)を行なって、冷凍機用エステル潤滑油を得た。得られた冷凍機用エステル潤滑油の色相は、全てガードナー色数で1以下であり、酸価は0.01mgKOH/g以下、水酸基価は0.5mgKOH/g以下であった。なお、表3,4中、実施の有無の欄における○は「実施有り」を、×は「実施無し」を表す。」(段落【0038】)

(2)引用例2
本願原出願日前に頒布された国際公開第97/011933号(以下、「引用例2」という)には、以下の事項が記載されている。
(2-ア)「1.炭素数5?15の2?9価のヒンダードアルコールと、炭素数3?20の飽和脂肪族1価カルボン酸又はその誘導体とから得られるエステル化合物であり、全カルボン酸又はその誘導体において占める分岐カルボン酸又はその誘導体の比率が50モル%以上であって、該エステル化合物の水酸基価が30mgKOH/g以下であって、・・・(中略)・・・した後に測定される酸価が10mgKOH/g以下であることを特徴とする、金属共存下において熱安定性を有するエステル化合物。
・・・・・・
11.請求項1?10いずれか記載のエステル化合物を20重量%以上含有することを特徴とする潤滑油組成物。
・・・・・・
15.請求項11?14いずれか記載の潤滑油組成物及びハイドロフルオロカーボンを含有する冷凍機作動流体用組成物。
16.ハイドロフルオロカーボンがジフルオロメタン(HFC32)を含有するものである請求項15記載の冷凍機作動流体用組成物。」(請求項1、11、15、16)
(2-イ)「上記ヒンダードアルコールの具体例としては、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-イソプロピル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
これらのなかで、工業的に入手が容易であり、且つ低価格であることから、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールが好ましい。」(第13頁2行?10行)
(2-ウ)「本発明に用いられる飽和脂肪族1価カルボン酸(カルボン酸誘導体の場合はそのカルボン酸部)の炭素数は、3?20、好ましくは4?18、更に好ましくは5?12である。金属に対する腐食性を抑制する観点、及び潤滑油として適正な粘度を持たせるという観点から、カルボン酸の炭素数は3以上、好ましくは4以上、更に好ましくは5以上であり、特に好ましくは7以上であり、必要以上の粘度を避ける観点から、炭素数は20以下、好ましくは18以下、更に好ましくは12以下である。特に得られるエステル化合物を冷凍機作動流体用組成物に用いる場合には、炭素数は好ましくは4?12、より好ましくは4?9、更に好ましくは5?9、特に好ましくは7?9である。ハイドロフルオロカーボンとの溶解性の観点から、12以下が好ましく、特に9以下が好ましい。」(第13頁13行?24行)
(2-エ)「また、本発明のエステル化合物の水酸基価は、耐摩耗性、吸湿性及び金属共存下での熱安定性、製造の容易さの観点から、好ましくは0.01?30mgKOH/gである。上記の水酸基価の下限値としては、0.1mgKOH/gがより好ましい。上記の水酸基価の上限値としては、20mgKOH/gがより好ましく、15mgKOH/gがさらに好ましく、10mgKOH/gがさらに好ましく、8mgKOH/gがさらに好ましく、5mgKOH/gが特に好ましい。」(第18頁19行?第19頁2行)
(2-オ)「ここで用いられるハイドロフルオロカーボンとは、通常、冷凍機作動流体用組成物を構成するために用いられるものであれば特に限定されないが、好ましくはジフルオロメタン(HFC32)、1,1-ジフルオロエタン(HFC152a)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC143a)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC134a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC134)、ペンタフルオロエタン(HFC125)等であり、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1-トリフルオロエタンが特に好ましい。
これらのハイドロフルオロカーボンは単独で用いても良く、または2種類以上のハイドロフルオロカーボンを混合使用しても良い。」(第31頁12行?22行)
(2-カ)「実施例1
1リットルの4つ口フラスコに攪拌機、温度計、窒素吹き込み管、及び冷却器付きの脱水管を取り付けた。ネオペンチルグリコール102g(1.00mol)、2-エチルペンタン酸77.9g(0.60mol)、2-メチルヘキサン酸181.8g(1.40mol)を前記フラスコに取った。窒素気流下常圧で250℃で2時間反応を行った後、20000Paで6時間減圧反応を行った。その後未反応の1価カルボン酸を減圧蒸留し、本発明のエステル化合物1を得た。また、表1?表5に示すアルコール及びカルボン酸を用い、同様の反応を行って、表1?表5に示すエステル化合物を得た。これらの40℃及び100℃における動粘度並びに粘度指数(JIS K-2283)を測定した。また、酸価及び水酸基価(JIS K-2501)を測定した。その結果を表1?表5に示す。

」(第33頁20行?第34頁8行、表1?表5)

(3)引用例3
本願原出願日前に頒布された特開2006-160781号公報(以下、「引用例3」という)には、以下の事項が記載されている。
(3-ア)「【請求項1】
混合アルコールと炭素数5?10の飽和モノカルボン酸とから得られる混合エステルを主成分とする冷凍機用潤滑油組成物であって、
該混合アルコールが、1?90モル%のネオペンチルグリコール、10?80モル%のペンタエリスリトール、および0.01?20モル%のジペンタエリスリトールからなり、かつ以下の関係式:
【数1】

を満たし、そして
該組成物の40℃における動粘度が6?28mm2/sである、組成物。
・・・・・・
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの項に記載の冷凍機用潤滑油組成物と、非塩素系フロン冷媒とからなる、冷凍機作動流体。 」(請求項1,4)
(3-イ)「上記炭素数5?10の飽和モノカルボン酸としては、例えば、ペンタン酸、2-メチルブタン酸、3-メチルブタン酸、ヘキサン酸、2-メチルペンタン酸、3-メチルペンタン酸、4-メチルペンタン酸、2-エチルブタン酸、3-エチルブタン酸、ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、3-メチルヘキサン酸、4-メチルヘキサン酸、5-メチルヘキサン酸、2,2-ジメチルペンタン酸、2-エチルペンタン酸、3-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、2-メチルヘプタン酸、3-メチルヘプタン酸、4-メチルヘプタン酸、5-メチルヘプタン酸、6-メチルヘプタン酸、2,2-ジメチルヘキサン酸、3,5-ジメチルヘキサン酸、ノナン酸、イソノナン酸、デカン酸、ネオデカン酸などが挙げられる。得られる混合エステルの潤滑性および加水分解に対する安定性が良好で、かつ金属に対する腐食性の観点から、好ましくはα-分岐鎖飽和モノカルボン酸、より好ましくは2-エチルヘキサン酸が用いられる。上記炭素数5?10の飽和モノカルボン酸は、単独で用いてもよく、耐加水分解性、潤滑性、非塩素系フロンとの相溶性、耐熱性、低温安定性、および粘性などを考慮して、2種以上を組み合わせて用いてもよい。」(段落【0027】)
(3-ウ)「本発明の冷凍機用潤滑油組成物の水酸基価は、特に制限されない。好ましくは5.0mgKOH/g以下、より好ましくは3.0mgKOH/g以下、さらに好ましくは2.0mgKOH/g、最も好ましくは1.0mgKOH/g以下である。水酸基価が5.0mgKOH/g以下である場合、上記組成物の体積固有抵抗を低下させにくく、十分な電気絶縁性を保持し得る。そのため、上記組成物が使用される機器において、有機材料として用いられているシール剤に悪影響を及ぼすおそれがない。さらに含有される添加剤に悪影響を及ぼすおそれもない。」(段落【0036】)
(3-エ)「非塩素系フロン冷媒としては、具体的には、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R-134a)、ペンタフルオロエタン(R-125)、ジフルオロエタン(R-32)(注:R-32は、ジフルオロメタンであることは当業者に周知であり、「ジフルオロエタン」は、「ジフルオロメタン」の明らかな誤記と認める。)、トリフルオロエタン(R-23)(注:R-23は、トリフルオロメタンであることは当業者に周知で有り、「トリフルオロエタン」は、「トリフルオロメタン」の明らかな誤記と認める。)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R-134)、1,1,1-トリフルオロエタン(R-143a)、1,1-ジフルオロエタン(R-152a)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2以上の混合冷媒としてもよい。」(段落【0038】)
(3-オ)「(合成例1:エステルの調製)
温度計、窒素導入管、撹拌機および冷却管を取り付けた1リットルの4つ口フラスコに、表1に示す混合アルコールと飽和モノカルボン酸とを、混合アルコールの水酸基と飽和モノカルボン酸のカルボキシル基とが当量比で1:1.1の割合となるように仕込み、窒素気流下、220℃で反応水を留去しつつ常圧で反応を行った。反応中、水酸基価をモニターし、2.0mgKOH/gを下回った時点で反応を停止した。その後、1?5kPaの減圧下でストリッピングを行い、未反応のカルボン酸を1時間かけて除去した。・・・・・(中略)・・・・・得られたエステルAについて、上記の方法により、40℃および100℃における動粘度を測定した。結果を表1に示す。
【表1】

」(段落【0043】、【表1】)
(3-カ)「(実施例1:潤滑油の性能評価)
合成例1で得られたエステルAを用いて潤滑油を調製した(潤滑油1とする)。潤滑油1について、上記の方法により、40℃および100℃における動粘度、粘度指数、色相、酸価、水酸基価、体積抵抗率、流動点、二相分離温度の測定、長期安定性試験、シールドチューブ試験、およびFalex試験を行った。結果を表2に示す。
【表2】

」(段落【0048】、【表2】)

(4)引用例4
本願原出願日前に頒布された特開平05-209171号公報(以下、「引用例4」という)には、以下の事項が記載されている。
(4-ア)「【請求項1】 ネオペンチルポリオールと炭素数7?9の飽和分岐鎖脂肪族モノカルボン酸とから得られるエステル、及びハイドロフルオロカーボンを含有する冷凍機作動流体用組成物。」(請求項1)
(4-イ)「本発明に用いられるエステルのアルコール部分はネオペンチルポリオールであり、例えばネオペンチルグリコール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールノナン、ペンタエリスリトール及びジぺンタエリスリトール等が挙げられ、好ましくはネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールである。これらのネオペンチルポリオールはβ位に水素を持つ多価アルコールに比べ、耐熱性の面で優れている。」(段落【0014】)
(4-ウ)「本発明に用いられるエステルのカルボン酸部分は炭素数7?9の飽和分岐鎖脂肪族モノカルボン酸であり、具体的には、2,2-ジメチルペンタン酸、2-エチルペンタン酸、3-エチルペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、3-メチルヘキサン酸、4-メチルヘキサン酸、5-メチルヘキサン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロペンチル酢酸、2-エチルヘキサン酸、3,5-ジメチルヘキサン酸、2,2-ジメチルヘキサン酸、2-メチルヘプタン酸、3-メチルヘプタン酸、4-メチルヘプタン酸、2-プロピルペンタン酸、3,4-ジメチルヘキサン酸、シクロヘキシル酢酸、3-シクロペンチルプロピオン酸、2,2-ジメチルヘプタン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、2-メチルオクタン酸、2-エチルヘプタン酸、3-メチルオクタン酸、2-エチル-2,3,3-トリメチル酪酸、2,2,4,4-テトラメチルペンタン酸、2,2-ジイソプロピルプロピオン酸等が挙げられ、好ましくは2-メチルヘキサン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5-ジメチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸である。」(段落【0015】)
(4-エ)「本発明に用いられるハイドロフルオロカーボンとは、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC134a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC134)、1,1-ジフルオロエタン(HFC152a)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC143a)、ペンタフルオロエタン(HFC125)、ジフルオロメタン(HFC32)等であり、特に1,1,1,2-テトラフルオロエタンが好ましい。」(段落【0043】)

2.引用発明
上記引用例1には、「炭素数5から10のアルコールと炭素数5から12の直鎖又は分岐構造を有する脂肪族カルボン酸とからエステルを得る際に反応系の水酸基価が5mgKOH/g以下となるまで反応させ、得られた粗生成物を、平均粒子径が8から20μmで細孔径が0.4nmから1.5nmの合成ゼオライトを用いて、60℃から120℃で処理」して冷凍機用エステル潤滑油を製造し、この冷凍機用エステル潤滑油を「非塩素系フロン冷媒または自然冷媒を含有する冷凍機用作動流体組成物に使用」することが記載されている(上記摘示事項(1-ア))。
そして、「炭素数5から10のアルコール」の好ましい具体例として、「ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n?ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、及びジペンタエリスリトール」が挙げられているから(摘示事項(1-ウ))、上記引用例1には、「ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n?ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、及びジペンタエリスリトールと炭素数5から12の直鎖又は分岐構造を有する脂肪族カルボン酸とから得られたエステルであって、エステル粗生成物の水酸基価は5.0mgKOH/g以下であり、非塩素系フロン冷媒または自然冷媒を含有する冷凍機用作動流体組成物に使用される冷凍機用エステル潤滑油」の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているものと認められる。

3.本願発明と引用発明との対比
引用発明の「ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n?ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、及びジペンタエリスリトールと炭素数5から12の直鎖又は分岐構造を有する脂肪族カルボン酸とから得られたエステル」は、本願発明の「ポリオールエステル類を基油の主成分として含み、前記ポリオールエステル類が、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)、トリ-(ペンタエリスリトール)のいずれかであるポリオールと、炭素数3以上9以下の脂肪酸とのエステル」に相当する。
本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、「ポリオールエステル類を基油の主成分として含み、前記ポリオールエステル類が、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)のいずれかであるポリオールと、炭素数5以上9以下の脂肪酸とのエステルである、冷媒用の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物」である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)
本願発明は、基油の主成分として含まれるポリオールエステル類が、「水酸基価が3mgKOH/g以下である」と特定されているのに対して、引用発明は、エステル粗生成物の水酸基価が5.0mgKOH/g以下との記載があるが、ゼオライトで処理した後のエステルの水酸基価については明記されていない点。

(相違点2)
冷媒について、本願発明は、「ジフルオロメタン(R32)単独」であるのに対し、引用発明は、「非塩素系フロン冷媒または自然冷媒」である点。

4.判断
以下、相違点1?2について、検討する。
(相違点1)について
引用例1には、エステル粗生成物の水酸基価は5.0mgKOH/g以下であり(摘示事項(1-ア))、耐熱性の観点から、エステル化反応を十分に進める方が好ましく、反応粗生成物の水酸基価が5.0mgKOH/g以下になるまで反応を行うこと(摘示事項(1-オ))、実施例においてエステル粗生成物をゼオライトにより処理した後のエステル潤滑油の水酸基価は0.5mgKOH/g以下となっていること(摘示事項(1-キ))、当該エステル粗生成物に用いる多価アルコール及び炭素数5?12の直鎖または分岐構造を有する脂肪族カルボン酸が耐熱性の観点から用いられていること(摘示事項(1-ウ)、(1-エ))が記載されている。
そうすると、引用例1には、エステル化反応を十分に進め、エステル粗生成物の水酸基価が5.0mgKOH/g以下であること、さらに、当該エステル粗生成物をゼオライト処理した後のエステル潤滑油の水酸基価が0.5mgKOH/g以下であることが示されている。
加えて、引用例2には、炭素数5?15の2?9価のヒンダードアルコールと、炭素数3?20の飽和脂肪族1価カルボン酸又はその誘導体とから得られるエステル化合物(本願発明のポリオールエステル類に相当)であって、該エステル化合物の水酸基価が30mgKOH/g以下であるエステル化合物を含有する潤滑油組成物が記載されており(摘示事項(2-ア))、エステル化合物の水酸基価について、耐摩耗性、吸湿性及び金属共存下での熱安定性、製造の容易さの観点から、0.01?30mgKOH/gが好ましく、5mgKOH/g以下が特に好ましいことが記載され(摘示事項(2-エ))、実施例に記載されているエステル化合物1?28の水酸基価は、ほとんどが3mgKOH/g以下に収まっている(摘示事項(2-カ))。
また、引用例3には、混合アルコールと炭素数5?10の飽和モノカルボン酸とから得られる混合エステル(本願発明のポリオールエステル類に相当)を主成分とする冷凍機用潤滑油組成物が記載されており(摘示事項(3-ア))、潤滑油組成物の水酸基価は、好ましくは5.0mgKOH/g以下、より好ましくは3.0mgKOH/g以下、さらに好ましくは2.0mgKOH/g、最も好ましくは1.0mgKOH/g以下であり、水酸基価が5.0mgKOH/g以下である場合、上記組成物の体積固有抵抗を低下させにくく、十分な電気絶縁性を保持し得ることが記載され(摘示事項(3-ウ))、実施例1?7に記載されているエステル化合物の水酸基価は、ほとんどが1.0mgKOH/g以下となっている(摘示事項(3-オ)、(3-カ))。
上記のとおり、引用例1及び引用例2?3には、本願発明と共通するポリオールエステル類が記載され、引用例1には、耐熱性を考慮して当該ポリオールエステル類が選択されていること及びその際、水酸基価を5mgKOH/g以下とし、ゼオライト処理した後の最終的な水酸基価が0.5mgKOH/g以下であったこと、引用例2、3には、金属共存下での熱安定性や、耐摩耗性、吸湿性及び電気絶縁性等を考慮して、エステル化合物の水酸基価を低く抑えること及び当該ポリオールエステル類の水酸基価が3.0mgKOH/g以下であることも記載されている。
そうすると、引用発明においても、引用例1?3の記載に基づいて、耐熱性や、金属共存下での熱安定性等を考慮して水酸基価の値を低く抑えることを意図し、その値の上限値を3mgKOH/g以下と特定する程度のことは、当業者が容易に行うことである。

(相違点2)について
引用例1には、非塩素系フロン冷媒として具体的に記載された7つの選択肢の一つとしてジフルオロメタン(R-32)が例示され、しかも、好ましい冷媒の一つであることも明示されている(摘示事項(1-カ))。
さらに、引用例2には、ポリオールエステル類を含有する潤滑油組成物とジフルオロメタン(R-32)とを含有する冷凍機作動流体用組成物(摘示事項(2-ア))が、引用例3には、ポリオールエステル類を主成分とする潤滑油組成物とジフルオロメタン(R-32)を含んでもよい非塩素系フロン冷媒とからなる冷凍機作動流体(摘示事項(3-ア)、(3-エ))が、引用例4には、エステル(本願発明のポリオールエステル類に相当)及びジフルオロメタン(HFC32)を含んでもよいハイドロフルオロカーボンを含有する冷凍機作動流体用組成物(摘示事項(4-ア)、(4-エ))が、それぞれ記載されており、特に引用例2、3には、冷媒としてジフルオロメタン(HFC32)を単独で用いることについても示唆されている(摘示事項(2-オ)、(3-エ))。
そうすると、引用例1?4には、本願発明と共通するポリオールエステル類が記載され、当該ポリオールエステル類をいずれも冷媒用潤滑油組成物として用い、その際、用いる冷媒としてジフルオロメタン(R-32)が例示されていることから、引用発明において、引用例1?4に記載された非塩素系フロン冷媒として挙げられている冷媒の中からジフルオロメタン(R-32)を選択し、これを単独で用いることは、当業者が通常行うことに過ぎず、この点に何ら技術的困難性を認めることができない。

これらの効果について、引用例1?4に記載されたポリオールエステル類は、耐熱性や金属共存下での熱安定性に優れることが示されており、さらに、水酸基価が1mgKOH/gの前後である当該ポリオールエステル類が安定性試験等で酸価も低い値を示していることから、本願発明の効果は、引用例1?4の記載から当業者が予測できる程度の効果であり、予想外の格別顕著な効果を奏しているとは認められない。

したがって、本願発明は、上記引用例1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成29年4月18日付け意見書において、引用例1?4には、多数の冷媒に対してポリオールエステル類の使用が想定されており、R32単独冷媒での使用は記載されていないこと(主張1)、本願発明の効果について、追加実験(追加表1及び追加表2)を示し本願発明のポリオールエステル類の水酸基価3mgKOH/g以下とする点に臨界的意義があること(主張2)をそれぞれ主張している。

(主張1)について
確かに、審判請求人が主張するように、引用例1?4には、R32を含む6、7種類の非塩素系冷媒の単独、あるいは2種以上の混合冷媒を、水酸基価が低いポリオールエステル類を含む冷凍機用潤滑油組成物と用いることが記載されている。
しかしながら、水酸基価が低いポリオールエステル類に使用できる冷媒として、単独使用も含めて、R32が記載されている以上、水酸基価が低いポリオールエステル類を含む冷凍機用潤滑油組成物に用いる冷媒をR32単独に限定する程度のことに何ら技術的困難性が認められないことは、上記4.(相違点2)についてで、すでに検討したとおりである。
加えて、ポリオールエステル類を含む冷凍機用潤滑油組成物とした場合、冷媒としてR32単独とR32以外の単独冷媒等を適用した際の熱安定性における差異も本願明細書等で示されていないから、使用冷媒をR32単独に限定したことによる有用性についても認めることができない。
したがって、主張1は、採用することができない。

(主張2)について
当該追加実験は、本願明細書段落【0105】に記載された条件(温度200℃、720時間保持)の2倍の保持時間(200℃で1440時間)に相当する条件として条件設定を行い評価している。
そして、追加表2の熱安定性試験の結果を見ると、ポリオールエステル類の水酸基価が1?3mgKOH/gの範囲では、水酸基価の値が1増えると酸価が0.02mgKOH/gずつ増加しているのに対し、水酸基価が4mgKOH/gの場合、水酸基価が3mgKOH/gの場合と比較して、酸価が0.10mgKOH/g増加したことが示されている。
しかしながら、本願明細書段落【0105】の条件下においては、ポリオールエステル類の水酸基価が1?11mgKOH/gの範囲(実施例16?17)で酸価がいずれも0.01mgKOH/g以下であると記載されている。
そうすると、結局のところ、水酸基価3mgKOH/g以下とする点に臨界的意義があるとの主張は、本願明細書に記載されていない新たな評価条件を示し、その効果を主張するものである。
したがって、主張2は、本願明細書に基づかない新たな効果の主張と認められるから、採用することができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-20 
結審通知日 2017-06-27 
審決日 2017-07-10 
出願番号 特願2015-112713(P2015-112713)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 宜史  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 日比野 隆治
佐々木 秀次
発明の名称 圧縮型冷凍機用潤滑油組成物  
代理人 大谷 保  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ