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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1331860 |
審判番号 | 不服2016-9576 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-06-28 |
確定日 | 2017-08-24 |
事件の表示 | 特願2012-279371「基材とレンズ状粒子との複合材料及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月 3日出願公開,特開2014-123033〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特願2012-279371号(以下,「本件出願」という。)は,平成24年12月21日の特許出願であって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。 平成26年 8月29日付け:拒絶理由通知書(同年9月2日発送) 平成26年11月 4日差出:意見書,手続補正書 平成27年 4月22日付け:拒絶理由通知書(同年同月28日発送) 平成27年 5月18日差出:意見書,手続補正書 平成27年10月16日付け:拒絶理由通知書(同年同月22日発送) 平成27年12月18日差出:意見書,手続補正書 平成28年 4月25日付け:拒絶査定(同年5月10日発送) (以下「原査定」という。) 平成28年 6月28日差出:審判請求書,手続補正書 平成28年 8月22日差出:上申書 第2 本願発明について 1 本願発明 本件出願の特許請求の範囲の請求項1?請求項4に係る発明は,平成28年6月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項4に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明は,次のとおりである(以下「本願発明」という。)。 「金属基材と,該金属基材表面上の一部に形成されたレンズ状粒子とを備え,該レンズ状粒子が形成された金属基材表面部分を部位(A)とし,該レンズ状粒子が形成されていない金属基材表面部分を部位(B)とする複合材料であり,前記レンズ状粒子が,活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物から得られ,前記部位(A)の光沢度が,入射角20°?85°に亘って,前記部位(B)の光沢度の値より20ポイント以上低いことを特徴とする複合材料。」 なお,平成28年6月28日付け手続補正による補正は,特許請求の範囲の請求項3に記載された発明特定事項を変更するものであって,請求項1に記載された発明特定事項を変更するものではない。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である国際公開第2006/008782号(以下「引用例1」という。原査定の拒絶の理由では「引用文献1」と表示。)に記載された発明及び周知技術に基づいて,本件出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 第3 引用例 1 引用例1 (1)引用例1の記載 引用例1には,以下の事項が記載されている。なお,下線は,当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。 ア 「技術分野 [0001] この発明は,例えばエレベータのドアパネルやかご室壁パネル等に用いられる装飾部材に関するものである。」 イ 「背景技術 [0002] 従来のサンドブラスト加工技術では,所定の形状の加工面を得るため,ガラス,セラミック等の被加工基材に対してマスク材(フォトマスク)が付着される(例えば,特許文献1参照)。 しかし,このような技術では,フィルムや現像処理を行うための薬品類が毎回必要であり,また水洗いすることにより廃液が発生し,環境への悪影響を防止するための対策が必要であった。 [0003] また,マスクを用いずにサンドブラスト処理を施す方法も提案されているが(例えば 特許文献2参照),この方法では,広い面積を処理するには時間がかかり過ぎてしまう。また,砥粒の粒径は100μm?数mm程度であり,サンドブラスト加工により模様を形成する場合,十分な精度が得られない。」 ウ 「発明が解決しようとする課題 [0005] 上記のように,従来の加工方法では,環境への悪影響を防止するための対策が必要であり,この対策のためには手間がかかってしまう。 [0006] この発明は,上記のような課題を解決するためになされたものであり,環境への影響を十分に軽減しつつ意匠性の優れた装飾部材を得ることを目的とする。」 エ 「課題を解決するための手段 [0007] この発明による装飾部材は,意匠面を有する基材,及び意匠面に形成され,硬化に伴ってツヤ消し状態となるツヤ消し塗料を含む塗料層を備え,ツヤ消し塗料は,多数のドットとして塗布されており,ツヤ消し塗料の塗布密度を変化させることにより,塗料層に模様が形成されている。」 オ 「[0009] 以下,この発明の好適な実施の形態について図面を参照して説明する。 実施の形態1. 図1はこの発明の実施の形態1による装飾部材を示す正面図である。図において,基材1は,金属パネルからなっている。金属としては,例えばステンレス鋼,アルミニウム,アルミニウム合金,マグネシウム合金,チタン又はチタン合金等を用いることができる。 [0010] 基材1は,意匠面laを有している。基材1を構成する複数の面のうち,1つの面のみを意匠面laとしてもよいし,複数の面を意匠面laとしてもよい。意匠面laには,光沢度を上げるように研磨加工が施されている。 [0011] 意匠面laには,塗料を塗布することにより塗料2が形成されている。塗料層2は,硬化に伴ってツヤ消し状態となる透明なツヤ消し塗料による領域と,ツヤ消し塗料とは異なる通常の透明塗料による領域とが含まれている。 [0012] ツヤ消し塗料は,硬化しても表面が平滑にならず,粒毎に小丘を形成するように立体的な塗面を形成する。また,ツヤ消し塗料は,例えば紫外線の照射により硬化される。ツヤ消し塗料の具体例は,例えば特開平6-312495号公報や特許第3004897号公報に示されている。 [0013] ツヤ消し塗料及び透明塗料は,多数のドットとして塗布されている。塗料層2には,ツヤ消し塗料の塗布密度を変化させることにより,模様 (絵又は図柄)が形成されている。また,塗料層2には,ツヤ消し塗料による領域と透明塗料による領域との組み合わせによっても,模様(絵又は図柄)が形成されている。 [0014] 具体的には,図1の斜線で示した透過領域3は,透明塗料が塗布された領域であり,下地となる基材1の意匠面laが塗料層2を通して見えている。図1の均等領域4は,ツヤ消し塗料が均等なドット密度(塗布密度)で塗布された領域である。図1の変化領域5では,ツヤ消し塗料のドット密度を連続的に変化させることにより,模様にグラデーションが付けられている。図1の低密度領域6は,均等領域4よりも低く(疎で)かつ均等な密度でツヤ消し塗料が塗布された領域である。 [0015] 図2は図1の均等領域4におけるツヤ消し塗料の塗布状態の第1例を拡大して示す説明図,図3は図1の均等領域4におけるツヤ消し塗料の塗布状態の第2例を拡大して示す説明図である。図2では,各ドットの中心を通る複数の中心線が互いに直角に交差している。図3では,各ドットの中心を通る複数の中心線が直角以外の所定の角度で交差している。また,図2及び図3において,ドット径はd,ドットの中心間距離はLで示されている。 [0016] 図4はツヤ消し塗料の塗布方法の違いによる仕上がり具合の違いを比較した実験結果を示す説明図である。実験では,仕上がり具合を比較するため,光沢の変化及び再現性を主観評価した。評価結果として,◎は極めて良好,〇は良好,△はやや問題あり,×は実用に耐えないことを意味している。 [0017] また,実験では,ドット径とドットピッチとの組み合わせの条件を変えて,仕上がり具合を評価した。ドットピッチは,ドット径に対するドットの中心間距離の比率を示している。例えば,ドットピッチ200%は,図2及び図3におけるドットの中心間距離Lがドット径dの2倍であることを意味している。 [0018] 図4に示すように,ドット径が拡大すると,再現性は安定するが,光沢の変化は確認できなくなる。逆に,目視による光沢の変化は,ドット径の縮小に伴い明確になってくる。また,ドット径が拡大すると,ツヤ消し塗料が硬化する前に隣接するドット同士がつながってしまい,ドットピッチが確保できなくなることが確認された。 [0019] 従って,ツヤ消し塗料のドット径は,65μm以下とするのが好適である。また,ツヤ消し塗料は,互いに隣接するドットの中心間距離がドット径よりも大きくドット径の300%以下となるように塗布するのが好適である。 ・・・(中略)・・・ [0023] このような装飾部材によれば,ツヤ消し塗料が多数のドットとして塗布されており,ツヤ消し塗料の塗布密度を変化させることにより,塗料層2に模様が形成されているので,クロムやニッケルを含む廃液,サンドブラストによる大量の粉塵,マスクを製作するための排水や廃棄物,及び各種溶剤等の発生を防止することができ,環境への影響を十分に軽減しつつ意匠性の優れた装飾部材を得ることができる。 [0024] また,ツヤ消し塗料による領域4,5,6と透明塗料による領域3との組み合わせによっても,塗料層2に模様が形成されているので,より変化に富んだ意匠性の高い装飾部材を得ることができる。 [0025] さらに,塗料層2の下地となる意匠面laには,光沢度を上げるように研磨加工が施されているので,意匠面laの金属光沢を生かし,高級感のある仕上がりとすることができる。」 カ 「[0033] 次に,図9は図1のツヤ消し塗料を塗布するための印刷システムの第2例を示す構成図である。図において,ネットワーク24には,複数台のコンピュータ22とサーバ25とが接続されている。各コンピュータ22には,制御ケーブル23を介してプリンタ26が接続されている。 [0034] プリンタ26としては,インクジェットプリンタが用いられている。各プリンタ26には,プリンタ本体27と開閉可能なカバー28とを有している。また,プリンタ本体27の側面には,排気口27aが設けられている。 ・・・(中略)・・・ [0039] プリンタヘッド34としては,オンデマンドピエゾヘッドが用いられている。また,プリンタヘッド34は,基材1の意匠面laへ向けてツヤ消し塗料を噴射する塗料用ノズル部35と,ダクト30(図9)を通して導入された空気を意匠面laへ吹き付ける複数の空気用ノズル部36とを有している。空気用ノズル部36からは,層流のエアカーテンとして空気が噴出される。また,空気用ノズル部36は,塗料用ノズル部35の周囲を囲むように配置されている。 [0040] プリンタヘッド34の近傍には,意匠面laに塗布されたツヤ消し塗料に紫外線を照射し,ツヤ消し塗料を硬化させるための紫外線照射装置37が設けられている。紫外線照射装置37は,搬送テーブル32,ヘッドガイドレール33及びプリンタヘッド34を除く,カバー28等のプリンタ26の構造物に取り付けられている。」 キ 「請求の範囲 [1] 意匠面を有する基材,及び 上記意匠面に形成され,硬化に伴ってツヤ消し状態となるツヤ消し塗料を含む塗料層 を備え, 上記ツヤ消し塗料は,多数のドットとして塗布されており,上記ツヤ消し塗料の塗布密度を変化させることにより,上記塗料層に模様が形成されている装飾部材。 ・・・(中略)・・・ [6] 上記意匠面には,光沢度を上げるように研磨加工が施されている請求項1記載の装飾部材。」 ク「 」 (2)引用発明 引用例1には,請求項1を引用して記載された請求項6に係る発明として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。 「意匠面を有する基材,及び 上記意匠面に形成され,硬化に伴ってツヤ消し状態となるツヤ消し塗料を含む塗料層 を備え, 上記ツヤ消し塗料は,多数のドットとして塗布されており,上記ツヤ消し塗料の塗布密度を変化させることにより,上記塗料層に模様が形成され, 上記意匠面には,光沢度を上げるように研磨加工が施されている装飾部材。」 2 引用例2?5の記載事項 (1)引用例2の記載事項 本件出願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用された刊行物である特開2008-120031号公報(以下「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている。 ア 「【0012】 請求項1に記載の発明は,印刷基材上に少なくともコート層と意匠層とをこの順で具備する化粧シートにおいて,該コート層と該意匠層との光沢値が異なることを特徴とする化粧シートである。コート層と意匠層との光沢値差が大きいことにより,その陰影差により,意匠性をより浮き立たせことができるといった特徴を具備させることができる。 【0013】 請求項2に記載の発明は,前記意匠層の光沢値が,前記コート層の光沢値より60度反射光での光沢値差が50度以上高いことを特徴とする請求項1に記載の化粧シートである。意匠層の光沢値が,コート層の光沢値より50度以上高いことにより,明らかに意匠部の反射光が多く,その陰影の差から,意匠部がはっきりと浮き彫りになり,意匠性を上げることができる。 【0014】 請求項3に記載の発明は,前記意匠層の光沢値が,前記コート層の光沢値より60度反射光での光沢値が50度以上低いことを特徴とする請求項1に記載の化粧シートである。明らかに意匠部の光沢が低く,反射光が少ないことから,落ち着いた意匠性や本物志向の意匠性を施すことができる。 このとき,表面の光沢値差を50度以上にするためには,後述するフィラーの添加や同時にコート時の版胴表面の形状により付与することができる。」 イ「【実施例1】 【0065】 坪量30g/m^(2)の原紙に木目様の印刷を施し,その上にコート層として,グラビアコート方式で電子線硬化する多官能ウレタンディスパージョン塗料に3官能モノマーを混合した塗料を塗布乾燥させ,10g/m^(2)(dry)となるようにした。 その上に,意匠層として,インラインでノンソルベント(ここで,ノンソルベントとは希釈成分がないということである。)のクリアの電子線硬化型樹脂(多官能ポリウレタンオリゴマーと2官能アクリルモノマーの混合物)を,印刷の木目に同調させた版にて塗布し,その厚みは,約5μm(dry)とした。その際の,木目の同調版のコート層密着部は,マット調として,すなわち,コート層に対し,エンボスをかけ,未硬化状態のコート層をマット調とした。そして,その意匠版で塗布した直後に塗布面側から,50KGyの電子線を照射し,塗料を硬化させ,木目調の意匠性およびベタ層の意匠性を同時に両立させた化粧シートを得た。 【実施例2】 【0066】 坪量30g/m^(2)の原紙に木目様の印刷を施し,その上にコート層として,グラビアコート方式で電子線硬化する多官能ポリウレタンオリゴマーに3官能アクリルモノマーと希釈溶剤を混合した塗料を塗布乾燥させ,10g/m^(2)(dry)となるようにした。 その上に,意匠層として,インラインでノンソルベントのクリアの電子線硬化型樹脂(多官能ポリウレタンオリゴマーと2官能アクリルモノマーの混合物)樹脂を,印刷の木目に同調させた版にて塗布し,その厚みは,約5μm(dry)とした。その際の,木目の同調版のコート層密着部は,ハイグロス調として,木目版内もミクロにマット調とした。すなわち,コート層に対し,エンボスをかけ,未硬化状態のコート層をハイグロス調とした。そして,その意匠版で塗布しながら基材面から,50KGyの電子線を照射し,塗料を硬化させ,木目調の意匠性およびコート層の意匠性を同時に両立させた化粧シートを得た。 【実施例3】 【0067】 坪量30g/m^(2)の原紙に木目様の印刷を施し,その上にコート層として,グラビアコート方式で電子線硬化する多官能ポリウレタンオリゴマーに3官能アクリルモノマーと希釈溶剤を混合した電子線硬化タイプの塗料と高分子量ポリウレタンポリオールにポリイソシアネート(HMDI)混合した塗料を塗布乾燥させ,10g/m^(2)(dry)となるようにした。 その上に,意匠層として,インラインでノンソルベントのクリアの電子線硬化型樹脂(多官能ポリウレタンオリゴマーと2官能アクリルモノマーの混合物)を,印刷の木目に同調させた版にて塗布し,その厚みは,約5μm(dry)とした。その際の,木目の同調版のコート層密着部は,マット調として,すなわち,コート層に対し,エンボスをかけ,未硬化状態のベタ層をマット調とした。そして,その意匠版で塗布しながら基材側から,50KGyの電子線を照射し,その後,40℃条件で5日間反応養生を行い塗料を硬化させ,木目調の意匠性およびコート層の意匠性を同時に両立させた化粧シートを得た。 【実施例4】 【0068】 坪量30g/m^(2)の原紙に木目様の印刷を施し,その上にコート層として,グラビアコート方式で電子線硬化する多官能ポリウレタンオリゴマーに3官能アクリルモノマーと希釈溶剤を混合した電子線硬化タイプの塗料に平均粒子径が約4μmのシリカを約20部混合した塗料,約10g/m^(2)(dry)となるようにした。 その上に,意匠層として,インラインでノンソルベントのクリアの電子線硬化型樹脂(多官能ポリウレタンオリゴマーと2官能アクリルモノマーの混合物)を,印刷の木目に同調させた版にて塗布し,その厚みは,約5μm(dry)とした。その際,木目の同調版のコート層密着部は特別な加工はせずに塗布した。そして,その意匠版で塗布しながら基材側から,50KGyの電子線を照射し,塗料を硬化させ,木目調の意匠性をもった化粧シートを得た。 【0069】 <比較例1> 坪量30g/m^(2)の原紙に木目様の印刷を施し,その上にコート層として,グラビアコート方式で電子線硬化する多官能ポリウレタンオリゴマーに3官能アクリルモノマーと希釈溶剤を混合した電子線硬化タイプの塗料に平均粒子径が約12μmのシリカを約20部混合した塗料,約10g/m^(2)(dry)となるようにした。 その上に,意匠層として,インラインでノンソルベントのクリアの電子線硬化型樹脂(多官能ポリウレタンオリゴマーと2官能アクリルモノマーの混合物)を,印刷の木目に同調させた版にて塗布し,その厚みは,約5μm(dry)とした。その際,木目の同調版のコート層密着部にはマット加工処理や光沢加工処理は施さずに塗布した。そして,その意匠版で塗布しながら基材側から,50KGyの電子線を照射し,塗料を硬化させ,木目調の意匠性をもった化粧シートを得た。 【0070】 <評価項目と評価方法> (1)コート層と意匠層の光沢値(60℃反射光沢値を測定) (2)耐汚染性(マジック拭き取り性:水性マジックでコート層に描き,それをベンコットで拭き取る。) ◎:拭き取り容易,○:拭き取り可能,△:若干拭き取り残り有り,×:拭き取ることができない (3)塗膜の色味(黒印刷紙上に塗布し,塗膜白化度合いを目視評価) ○:透明,△:若干白濁有り,×:塗膜白化有り (4)コート層用塗料安定性(3ヶ月間,一斗缶常温保管時の液状態を目視観察) ○:塗料経時変化なし,△:一部沈降あり,×:沈降物ハードケーキング化有り 【0071】 【表1】 」 (2)引用例3の記載事項 本件出願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用文献3として引用された刊行物である特開2006-282921号公報(以下「引用例3」という。)には,以下の事項が記載されている。 ア「【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明は被印刷体の任意の部分に表面張力の低いシリコーン系またはフッ素系撥液剤を有する活性エネルギー線硬化型インキを印刷し,更に,全面に活性エネルギー線硬化型コーティングニスを塗工することで,同一紙面上に凸凹部と光沢部とを同時に単一印刷工程でも発現させる凹凸加工方法において,撥液剤を有する活性エネルギー線硬化型インキに炭素数2?10の多価アルコールを0.1?10%添加してなる事を特徴とする活性エネルギー線硬化型インキ(下刷りインキ)を,選択した特定絵柄上に部分的に印刷し,さらに活性エネルギー線硬化型コーティングニス(上刷りニス)を塗工し,硬化することで,インキ層とコーティング層が重なる部分がはじき現象により形状が均一で且つ微細な凸凹部が一工程で形成される。 【0009】 即ち,本発明は,シリコーン系またはフッ素系撥液剤並びに炭素数2?10の多価アルコールを含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型印刷インキに関する。 また,本発明は,インキ中,炭素数2?10の多価アルコールを0.1?10%含有することを特徴とする上記活性エネルギー線硬化型印刷インキに関する。 さらに,本発明は,被印刷体の任意の部分に上記活性エネルギー線硬化型インキを印刷し,更に,全面に活性エネルギー線硬化型コーティングニスを塗工し,凸凹部およびもしくは光沢部を発現させることを特徴とする印刷物の製造方法に関する。 さらに,本発明は,被印刷体上に,凹凸部と光沢部とを同時に単印刷工程で発現させることを特徴とする上記印刷物の製造方法に関する。 【発明の効果】 【0010】 本発明により凹凸感のあるマット加工印刷物の加工方法においてグロス部とマット部の光沢値に差を付けてメリハリに富む印刷物が得られ,更にマット部分ハジキ具合が均一で尚かつ微細な形状を有する意匠性に富んだ印刷物を得ることができる。」 イ「【0042】 [実施例] 実施例として本発明を具体的に説明する。以下の実施例により何等限定されるものではない。 【0043】 [実施例1?3][比較例1?3] 以下に示す処方により活性エネルギー線硬化型下刷りメジウムを作成した。 【0044】 【表1】 ここで,樹脂はダイソー製ダップトートDT170,モノマーは東亜合成製M-408,開始剤は Ciba Geigy製イルガキュア651を使用する。シリコーン添加剤は東芝シリコーン製TSF451-100,フッ素系揮発剤として,ダイキン工業株式会社製 TG-571を使用する。 【0045】 【表2】 【0046】 コモリコーポレーション製インラインコーターおよびUVランプ着き枚葉印刷機リスロン26を用いて,予め東洋インキ製造(株)製紫外線硬化型インキFDカルトンACE墨にて絵柄を印刷したOKトップコート紙に上記比較例1?3,実施例1?3の下刷りメジウムを任意の部分にオフセット印刷を施し,硬化させ,続いてインラインコーターにて上刷りニスとして東洋インキ製造(株)製オフセットインラインコーター用ニス下記の処方表-3からなるニスを全面に塗布して凹凸感を有するマット加工印刷物を得た。(実施例1?3,比較例1?3) 【0047】 さらに,上記比較例1?3,実施例1?3の下刷りメジウムを任意の部分にオフセット印刷を施し,硬化させないで,インラインコーターにて上刷りニスとして東洋インキ製造(株)製オフセットインラインコーター用ニス下記の処方表3からなるニスを全面に塗布して凹凸感を有するマット加工印刷物を得た。(実施例4?6,比較例4?6) それぞれ得られた印刷物のグロス部分とマット部分の光沢値と,マット部分の凸部分の大きさ(粒径)を顕微鏡にて測定し,マット部分の均一性について評価した結果を表4に示す。 【0048】 【表3】 ここで,オリゴマーは荒川化学製ビームセット550,モノマーは東亜合成製M-350,開始剤は Ciba Geigy製イルガキュア184を使用する。 【0049】 【表4】 」 (3)引用例4の記載事項 本件出願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用文献4として引用された刊行物である特開2004-25118号公報(以下「引用例4」という。)には,以下の事項が記載されている。 ア「【0010】 本発明の請求項1に係る透明無機塗膜の形成方法における一実施の形態を,図1を参照して以下に説明する。本実施の形態における透明無機塗膜の形成方法は,第1の透明無機塗膜としての低光沢無機塗膜3より高い光沢の有機塗膜2を,スレート板1表面に形成し,その後,その有機塗膜2の表面に,低光沢無機塗膜3を形成し,その後,そのスレート板1表面の塗膜全体の光沢のバラツキを観測し,その光沢にバラツキがある場合には,その光沢が均一化するよう低光沢無機塗膜3を形成し直して,その光沢を均一化させた後,低光沢無機塗膜3の表面に,第2の透明無機塗膜としての高光沢無機塗膜4を形成し,その後,スレート板1表面の塗膜全体の光沢のバラツキを観測する。」 イ「【0021】 また,高光沢無機塗料,低光沢無機塗料のそれぞれに添加するつや消し剤の重量比率としては,基材表面に塗布されて塗膜として形成したときに,それぞれの下層に位置する塗膜の光沢度との差が20以上になるように調製するのが好ましい。下層の塗膜に対する光沢度の差が20以上であれば,日射や天候,施工場所,有機塗膜2の色,スレート板1の形状など塗布環境によって光沢の見え方が変化したとしても,透明無機塗膜を形成した部分と,形成していない部分とを,その光沢の差により適確に識別することができる。光沢度の差が30以上であれば,より一層明瞭に識別でき,なお好ましい。なお,下層に位置する塗膜というのは,高光沢無機塗膜4であれば,その下層の塗膜は低光沢無機塗膜3,また,低光沢無機塗膜3であれば,その下層の塗膜は有機塗膜2を指すこととしている。 【0022】 また,塗膜の光沢度は,その観測しようとする塗膜表面に対して,20°,60°,85°のいずれの入射角(反射角)における値でもよいが,光沢の差を目視で観測する場合には,塗膜表面に対して60°の角をなすように見たときの光沢度を採用するのが好ましい。これは,光沢度の差は,入射角が大きいほうがより確認し易くなるためであり,その上限は特に設定されるものではないが,入射角70°程度が実用上の上限である。また,上記の20°,60°,85°以外のあらゆる入射角での光沢度を採用してもよい。」 (4)引用例5の記載事項 本件出願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用文献5として引用された刊行物である特開2012-166383号公報(以下「引用例5」という。)には,以下の事項が記載されている。 ア「【0011】 本発明の加飾シートの構成について図1及び図2を用いて詳細に説明する。 図1及び図2は本発明の加飾シート10の好ましい一態様の断面を示す模式図である。図1で示す例では,ベースフィルム11aと印刷フィルム11bとからなる基材11の印刷フィルム11b上に,表面保護層15が積層された加飾シートが示されている。また,図2に示す例では,ベースフィルム11aと印刷フィルム11bとからなる基材11の印刷フィルム11b上に,第一絵柄層12,プライマー層13,第二絵柄層14,及び表面保護層15が順次積層されており,第二絵柄層14の直上部及びその近傍に,低光沢領域を有する低艶模様層16を有している。ここで,表面保護層15は電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化して形成されるものである。」 イ「【0078】 本発明の加飾シートは,第二絵柄層14が形成された領域と,それを被覆する表面保護層15(以下,「第二絵柄層形成領域/表面保護層」という)と,第二絵柄層14が形成されていない領域とそれを被覆する表面保護層15(以下,「第二絵柄層非形成領域/表面保護層」という)との艶差,すなわち光沢度の差を有することで,凹凸感を得ることができ,優れた意匠性を得ている。 意匠表現の種類により,様々な光沢度の差を利用して意匠性が良好な加飾シートを製造するため,以下のように制限されるものではないが,第二絵柄層形成領域/表面保護層の光沢度(グロス値)が,20以下であると,より意匠性を増す点で好ましい。また第二絵柄層形成領域/表面保護層と,第二絵柄層非形成領域/表面保護層との光沢度の差が10以上であると,より意匠性が増すことができる点でさらに好ましい。」 第4 対比 1 本願発明と引用発明とを対比すると,以下のとおりとなる。 (1)金属基材及びレンズ状粒子 引用発明は,「基材」及び「塗料層」を備える。ここで,「基材」は「意匠面を有」し,「塗料層」は「意匠面に形成され」る。したがって,「塗料層」は基材表面上に形成されている。また,「塗料層」は「ツヤ消し塗料を含」み,該「ツヤ消し塗料は,多数のドットとして塗布されて」いる。すなわち,「塗料層」は「多数のドット」により構成されている。そして,本願発明の「レンズ状粒子」及び引用発明の「ドット」は,いずれも,微小な構造である点で共通する。また,本願発明の「金属基材」と引用発明の「基材」とは,「基材」である点で共通する。 したがって,本願発明と引用発明は,「基材と,基材表面上に形成された微小構造を備える」点で共通する。 (2)部位(A) 引用発明の「基材」が有する「意匠面」と,本願発明の「金属基材表面」とは,「基材表面」である点で共通する。そして,引用発明の「意匠面」上で「ドット」が形成されている領域と,本願発明の「部位(A)」とは,「微小構造が形成された基材表面部分」である点で共通する。 また,本願発明の「部位(A)の光沢度」は,「該レンズ状粒子が形成されていない金属基材表面部分」である「部位(B)の光沢度の値より」,「低い」。一方,引用発明の「ドット」は「硬化に伴ってツヤ消し状態となるツヤ消し塗料」からなる。引用発明は,「光沢度を上げるように研磨加工が施されている」「意匠面」に形成される「塗料層」の「塗料の塗布密度を変化させることにより」,「模様」を形成するものであるから,ツヤ消し塗料は意匠面より光沢度が低いことは明らかであり,引用発明の「ドット」が形成された領域は,「意匠面」である「基材」表面よりも光沢度が低い。そうしてみると,引用発明の「ドット」が形成された「意匠面」上の領域と,本願発明の「部位(A)」とは,「光沢度が」「基材表面」より「低い」点でも共通する。 したがって,本願発明と引用発明は,「微小構造が形成された基材表面部分を部位(A)とし,前記部位(A)の光沢度が,基材表面の光沢度より低い」点で共通する。 (3)複合材料 引用発明の「装飾部材」は,基材と塗料層を備えている。すなわち,複数の材料を複合してなるものである。したがって,引用発明の「装飾部材」は,本願発明の「複合材料」に相当する。 2 一致点及び相違点 (1)一致点 上記1を踏まえると,本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。 「基材と,該基材表面上に形成された微小構造とを備え,該微小構造が形成された基材表面部分を部位(A)とする複合材料であり,前記部位(A)の光沢度が,基材表面の光沢度より低いことを特徴とする複合材料。」 (2)相違点 本願発明と引用発明とは,以下の点で相違する。 (相違点1) 本願発明の「基材」が,「金属基材」であるのに対して,引用発明の「基材」は,材質が明らかでない点。 (相違点2) 「微小構造」に関し,本願発明は「レンズ状粒子」であるのに対して,引用発明は,「ドット」が「レンズ状粒子」であるかどうか,明らかでない点。 (相違点3) 本願発明の「レンズ状粒子」は,「活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物から得られ」るのに対して,引用発明は,「ツヤ消し塗料」が「活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物」であるか,明らかでない点。 (相違点4) 本願発明は,「レンズ状粒子」が金属基材表面上の「一部に形成され」,「前記レンズ状粒子が形成されていない金属基材表面部分」である「部位(B)」があり,「前記部位(A)の光沢度が,入射角20°?85°に亘って,前記部位(B)の光沢度の値より20ポイント以上低い」のに対して,引用発明は,「多数のドットとして塗布され」る「ツヤ消し塗料の塗布密度を変化させる」が,「基材」表面に「ドット」が形成されていない部位があるかどうか,明らかでなく,また,「ドット」が形成されている領域が意匠面よりどの程度光沢度が低いか明らかでない点。 第5 判断 1 相違点1について判断する。 引用例1の段落[0009](上記第3 1(1)オを参照)には,「基材1は,金属パネルからなっている。」と記載されている。したがって,引用発明を装飾部材として具体化するに際し,「基材」を「金属基材」として設計することは,引用例1の記載が示唆する範囲内の事項にすぎない。 2 相違点2及び相違点3をまとめて判断する。 (1)本願明細書には,「レンズ状粒子」の形状に関して,「本発明の複合材料を構成するレンズ状粒子は,平面部と曲面部とからなるレンズ形状を有する限り制限されるものではないが,具体例としては,図1及び2に示されるような,平面部(底面部分)1aと曲面部1bとからなるレンズ状粒子が挙げられる。」(【0015】),「上記平面部の形状は,特に限定されず,楕円形状でもよいし,円形状であってもよい。」(【0017】),「例えば,上記レンズ状粒子の平面部を円形状にすることで,レンズ状粒子の形状を半球状にすることができるが,本発明において,レンズ状粒子の形状は,これに限定されるものではない。図2に示す平面部と曲面部のなす角αは,1度から179度までの幅があり,この角度が小さい程,レンズ状粒子が扁平形状に近くなり,一方,大きくなる程,レンズ状粒子が球状に近くなる。」(【0018】)という記載がされている。 一方,引用例1の段落[0011]には,「塗料層2は,硬化に伴ってツヤ消し状態となる透明なツヤ消し塗料による領域・・・(中略)・・・が含まれている。」と記載され,更に段落[0012]には,「ツヤ消し塗料は,硬化しても表面が平滑にならず,粒毎に小丘を形成するように立体的な塗面を形成する。」と記載されている(上記第3 1(1)オを参照)。また,引用例1の図2及び図3(上記第3 1(1)クを参照)からは,ツヤ消し塗料が平面視で円形状であるように形成されている様子が見て取れる。そうしてみると,引用例1には,「透明なツヤ消し塗料」により「粒毎に小丘を形成するように立体的な塗面を形成」すること,すなわち,「レンズ状粒子」を形成することが記載されている。 (2)引用例1の段落[0034]には,ツヤ消し塗料を塗布するためのプリンタに関して,「プリンタ26としては,インクジェットプリンタが用いられている。」と記載され,段落[0040]には,「意匠面laに塗布されたツヤ消し塗料に紫外線を照射し,ツヤ消し塗料を硬化させる」と記載されている(上記第3 1(1)カを参照)。ここで,「紫外線」は「活性エネルギー線」の一種であるから,引用例1には,「ツヤ消し塗料」を「活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物」とすることが記載されている。 (3)以上(1)及び(2)を踏まえると,引用発明を装飾部材として具体化するに際して,「ドット」を「活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物」から得られる「レンズ状粒子」とすることは,引用例1の記載が示唆する範囲内の事項にすぎない。 3 相違点4について判断する。 (1)「部位(B)」について ア 引用発明の「意匠面には,光沢度を上げるように研磨加工が施されている」。当該構成が有する効果として,引用例1の[0025]には,「塗料層2の下地となる意匠面laには,光沢度を上げるように研磨加工が施されているので,意匠面laの金属光沢を生かし,高級感のある仕上がりとすることができる。」と記載されている(上記第3 1(1)オを参照)。したがって,引用発明が形成する「模様」のうち,明るい部分,すなわち,高い光沢度で表現させたい部分を,金属光沢を生かす領域として構成することは,引用例1の記載が示唆する範囲内の事項である。 イ 引用発明は,「上記ツヤ消し塗料の塗布密度を変化させることにより,上記塗料層に模様」を形成している。したがって,引用発明は,光沢度の差により模様を形成するものであるといえる。また,引用発明において,「ツヤ消し塗料は,多数のドットとして塗布されて」いる。そうしてみると,ツヤ消し塗料の「塗布密度」とは,「ドット」の密度のことであると解される。そして,ドット密度を0とすれば,最も光沢度が高くなることは,当業者にとって明らかである。 ウ 以上ア及びイから,引用発明において,「模様」のうち最も高い光沢度で表現する領域を,「ツヤ消し塗料」の「ドット」が形成されていない基材表面部分とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。 したがって,引用発明において,「ドット」が形成されていない基材表面部分を設け,相違点4に係る本願発明の「部位(B)」を具備させることは,引用例1の記載に基づいて,当業者が容易にできたことである。 (2)光沢度の違いについて ア 引用例2(上記第3 2(1)を参照),引用例3(上記第3 2(2)を参照),引用例5(上記第3 2(4)を参照)に記載されるように,光沢度が低い領域と,光沢度が高い領域との光沢度の差を大きくすることにより,意匠性を高めることは,周知技術である。その際に,光沢度の差を20ポイント以上に設定することも周知の範囲である(引用例2及び引用例3を参照)。 イ また,基材表面の光沢度は,当該表面への光の入射角に依存するが,引用例4(上記第3 2(3)を参照)に記載されるように,光沢度を計測する際の入射角として,20°,60°又は85°などの角度を選択することは,広くおこなわれていることである。 ウ 引用発明を具体化する際に,如何なる「模様」を形成するかは,当業者が適宜選択する事項であり,例えば塗料層が明確な輪郭を有する「模様」を形成することも,随意である。こうした「模様」を引用発明により形成する場合に,上記(1)ア,イで検討したように,「ツヤ消し塗料」の「ドット」を形成して光沢度を低下させた領域と,「ドット」を形成しない領域を設けることは,引用例1の記載が示唆する範囲内の事項である。そして,「模様」をはっきり見せようとするならば,輪郭を挟んだ両側の領域の光沢差を大きくすることは,当業者であれば当然になし得たことである。その際に,上記アに記した周知技術を適用して,両領域の光沢度の差を20ポイント以上とすることは,当業者には容易である。 また,引用発明は,光沢度の差によって模様を形成しようとするものであるが,この場合に,様々な方向から当該模様を認識できることが好ましいことは,当業者には明らかである。したがって,光沢度の差を測定する入射角として十分に広い範囲を選択すること,当該範囲として,例えば,測定のための入射角として広く採用されている角度をカバーするような範囲を選択することは,当業者であれば容易にできたことである。 エ 以上アないしウから,引用発明において,「ツヤ消し塗料」の「ドット」が形成された領域の光沢度を,基材表面の光沢度よりも「入射角20°?85°に亘って,20ポイント以上低い」光沢度とすることは,引用文献1の記載並びに周知技術に基づいて,当業者が容易にできたことである。 (3)以上(1)及び(2)から,引用発明において,「ツヤ消し塗料」の「ドット」を形成しない領域を形成して,「ドット」が形成された領域の光沢度を,「ドット」を形成しない領域の光沢度よりも,「入射角20°?85°に亘って,20ポイント以上低」くすること,すなわち相違点4に係る本願発明の構成とすることは,引用例1の記載並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。 4 発明の効果について 本願発明の効果について,本件出願の明細書の段落【0010】及び【0011】には,「高意匠なデザインを表示させることが可能」であること,「エッチング処理及びサンドブラスト処理のための大規模設備が不要である」こと,「エッチング液やマスキング剤の使用及び基材の研磨が不要であるため,環境負荷が低い」ことが記載されている。 しかし,これらの効果のうち,高意匠なデザインを表示できることと,環境負荷が低いことについては,引用例1の段落[0023]にも記載されている(上記第3 1(1)オを参照)から,引用発明も有する効果である。また,エッチング処理やサンドブラスト処理に必要な設備と,インクジェットプリンタの規模の違いは明らかであるから,大規模設備が不要になるという効果も,当業者が当然に予測できるものである。 5 請求人の主張について (1)審判請求書において請求人は,本願発明は,全く性質の異なる素材であるレンズ状粒子と金属基材表面による光沢度の違いを利用するのに対し,引用例1に記載の発明は,いずれも硬化性樹脂からなり,かつ,多数のドットとして塗布されるツヤ消し塗料と透明塗料によって意匠を形成しているから,引用例1に記載の発明に基づいて,本願発明を容易に相当できるということは決してないと主張する。 しかし,引用発明は,透明塗料を発明特定事項とするものではない(この点は,引用例1の請求項1と請求項2の関係からみて,明らかな事項である。)。そして,上記3で検討したように,引用発明において,金属光沢を生かす領域として,ツヤ消し塗料のドットを形成しない領域を設けることは,当業者であれば容易にできたことであるから,請求人の主張は採用できない。 (2)平成27年12月18日付け意見書中で請求人は,「レンズ」という用語の意味を踏まえると,本願発明の「レンズ状粒子」は透明体であるが,引用発明の「ツヤ消し塗料」は,硬化に伴って発砲するタイプのツヤ消し塗料である旨主張する。 しかし,「状」という言葉は「すがた。ありさま。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」を意味するから,「レンズ状粒子」とは,「レンズ」の形状を有する「粒子」であると解することが妥当である。また,本件出願の明細書には,上記第5 2(1)に引用したように,「レンズ状粒子」に関し,その形状についての説明がなされ,段落【0022】?【0042】において,その材料についての説明もなされているが,「レンズ状粒子」が透明体であることは,記載されていない。 また,上記主張において請求人が引用しているのは,引用例1の「実施の形態2」に関する記載である。しかしながら,引用例1の「実施の形態1」には,引用発明の「ツヤ消し塗料」に関し,「透明なツヤ消し塗料」と記載されている(段落[0011]。上記第3 1(1)オを参照。)。したがって,仮に,本願発明の「レンズ状粒子」が透明体であるとしても,引用発明において,当該構成を具備させることは,引用例1の記載が示唆する範囲内の事項である。 したがって,請求人の主張は失当である。 第6 まとめ 以上のとおりであるから,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-06-22 |
結審通知日 | 2017-06-27 |
審決日 | 2017-07-11 |
出願番号 | 特願2012-279371(P2012-279371) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 南 宏輔、薄井 義明、素川 慎司 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
中田 誠 佐藤 秀樹 |
発明の名称 | 基材とレンズ状粒子との複合材料及びその製造方法 |
代理人 | 関口 正夫 |
代理人 | 仲野 孝雅 |