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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1331923
審判番号 不服2015-21973  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-11 
確定日 2017-09-19 
事件の表示 特願2013-544736「システムコール要求の通信の最適化」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月21日国際公開、WO2012/082867、平成25年12月26日国内公表、特表2013-546105、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2011年12月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年12月14日(以下,「優先日」という。),米国,2011年11月30日,米国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成25年 6月14日 :国内書面の提出
平成25年 8月12日 :翻訳文の提出
平成26年12月15日 :出願審査請求書,手続補正書の提出
平成27年 1月20日付け :拒絶理由の通知
平成27年 5月26日 :意見書,手続補正書の提出
平成27年 8月 4日付け :拒絶査定
平成27年12月11日 :審判請求書の提出
平成29年 2月24日付け :拒絶理由の通知(当審)
平成29年 5月30日 :意見書,手続補正書の提出

第2 本願発明
本願請求項1-20に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明20」という。)は,平成29年5月30日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-20に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
ウェーブフロント内のワークアイテムごとにシステムコール要求を処理するために,対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントに情報を記憶するステップと,
前記SIMDエレメントをSIMDベクトルとしてまとめるステップと,
前記SIMDベクトルを,実行対象としてプロセッサに送信するステップと,
各ワークアイテムについての結果を受信するステップと,
を含む,方法。
【請求項2】
前記SIMDベクトルを,中央処理装置(CPU)が認識することが可能な高優先度キュー内にエンキューするステップをさらに含む,
請求項1の方法。
【請求項3】
各SIMDエレメントは,関数セレクタと,引数リストと,前記結果用のメモリ空間とを含む,
請求項1の方法。
【請求項4】
前記SIMDベクトルは,複数のウェーブフロントからのシステムコール要求を含む,
請求項1の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのプロセッサを有するコンピュータシステムで実行される方法であって,
ウェーブフロント内の各ワークアイテムからのシステムコール要求に対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントを含むSIMDベクトルを受信するステップと,
各SIMDエレメントの各システムコール要求を実行するステップと,
各システムコールの結果を,前記SIMDベクトルを用いて,前記ウェーブフロント内の各ワークアイテムに送信するステップと,
を含む,方法。
【請求項6】
前記受信するステップは,前記コンピュータシステム内のグラフィックス処理デバイスが認識することが可能な高優先度キュー内の前記SIMDベクトルを受信するステップを含む,
請求項5の方法。
【請求項7】
ウェーブフロント内のワークアイテムごとのシステムコール要求を処理するために,対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントに情報を記憶するように構成されたメモリと,
CPUとを含み,
前記SIMDエレメントは,SIMDベクトルとしてまとめられ,
前記CPUは,
前記SIMDエレメントに記憶された各システムコール要求を実行することと,
各システムコール要求の結果を,前記ウェーブフロント内の各ワークアイテムに送信することと,
を行うように構成されている,
システム。
【請求項8】
前記メモリは,前記SIMDベクトルをエンキューするように構成された高優先度キューであり,前記高優先度キューは,CPUによって認識可能である,
請求項7のシステム。
【請求項9】
各SIMDエレメントは,関数セレクタと,引数リストと,前記結果用のメモリ空間とを含む,
請求項7のシステム。
【請求項10】
前記SIMDベクトルは,複数のウェーブフロントからのシステムコール要求を含む,
請求項8のシステム。
【請求項11】
メモリと,
CPUとを含み,
前記CPUは,
情報を含む単一命令複数データ(SIMD)エレメントを含むSIMDベクトルを受信して,対応するシステムコール要求をウェーブフロント内の各ワークアイテムごとに処理することと,
前記SIMDベクトルに記憶された各システムコールを実行することと,
各システムコールの結果を,前記ウェーブフロント内の各ワークアイテムに送信することと,
を行うように構成されている,
システム。
【請求項12】
前記CPUは,
高優先度キューから前記SIMDベクトルを受信すること,を行うように構成されている,
請求項11のシステム。
【請求項13】
コンピュータ記憶デバイスに記憶された命令であって,前記命令がコンピューティングデバイスによって実行されると,
対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントに情報を記憶して,ウェーブフロント内のワークアイテムごとにシステムコール要求を処理することと,
前記SIMDエレメントをSIMDベクトルとしてまとめて,システムコール要求データ構造を生成することと,
前記SIMDベクトルを,実行対象として前記コンピューティングデバイス内のプロセッサに送信することと,
前記ウェーブフロント内の各ワークアイテムについての結果を受信することと,
を前記コンピューティングデバイスに実行させる,
命令。
【請求項14】
前記SIMDベクトルを,前記プロセッサが認識することが可能な高優先度キュー内にエンキューすることをさらに含む,
請求項13の命令。
【請求項15】
コンピュータ記憶デバイスに記憶された命令であって,前記命令がコンピューティングデバイスによって実行されると,
ウェーブフロント内の各ワークアイテムからのシステムコール要求に対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントを含むSIMDベクトルを受信することと,
前記SIMDベクトルからの各システムコール要求を実行することと,
各システムコールの結果を,前記ウェーブフロント内の各ワークアイテムに送信することと,
を前記コンピューティングデバイスに実行させる,
命令。
【請求項16】
前記受信することは,グラフィックス処理デバイスが認識することが可能な高優先度キュー内の前記SIMDベクトルを受信することを含む,
請求項15の命令。
【請求項17】
コンピュータ記憶デバイスであって,前記デバイスには命令が記憶されており,前記命令がコンピューティングデバイスによって実行されると,
対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントに情報を記憶して,ウェーブフロント内のワークアイテムごとにシステムコール要求を処理することと,
前記記憶されたシステムコールを,SIMDベクトルを用いて,実行対象として前記コンピューティングデバイス内のプロセッサに送信することであって,前記SIMDベクトルは,単一データ構造としてまとめられた前記SIMDエレメントを含むことと,
前記送信に応じて,前記ウェーブフロント内の各ワークアイテムについての結果を受信することと,
を前記コンピューティングデバイスに実行させる,
コンピュータ記憶デバイス。
【請求項18】
前記SIMDベクトルを,前記プロセッサが認識することが可能な高優先度キュー内にエンキューすることをさらに含む,
請求項17のコンピュータ記憶デバイス。
【請求項19】
コンピュータ記憶デバイスであって,前記デバイスには命令が記憶されており,前記命令がコンピューティングデバイスによって実行されると,
ウェーブフロント内の各ワークアイテムからのシステムコール要求に対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントを含むSIMDベクトルを受信することと,
前記SIMDベクトルからの各システムコール要求を実行することと,
各システムコールの結果を,前記ウェーブフロント内の各ワークアイテムに送信することと,
を前記コンピューティングデバイスに実行させる,
コンピュータ記憶デバイス。
【請求項20】
前記SIMDベクトルは,グラフィックス処理デバイスが認識することが可能な高優先度キューから受信される,
請求項19のコンピュータ記憶デバイス。」

第3 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2009-140491号公報)には,図面とともに次のA-Cの事項が記載されている。

A 「【0179】
[0190]プロセッサは,実行コアの中に一以上のDFMAユニットを含んでいてもよい。例えば,スーパースケーラ命令発行方式(すなわち,1サイクルあたり二つ以上の命令を発行する)又はSIMD命令発行方式が望ましい場合,複数のDFMAユニットを実施することができ,異なるDFMAユニットが,異なる機能の組合せをサポートすることができる。さらに,プロセッサは,複数の実行コアを含んでいてもよく,コアのそれぞれが自身の(一つ以上の)DFMAユニットを有することができる。
【0180】
[0191]いくつかの実施形態においては,実行コアがSIMD命令発行をサポートし,一つのDFMAパイプラインにおいて複数のデータセットを連続的に処理することができるように,一つのDFMAユニットを,入力の順序付け及び出力収集のための適切な論理回路と組み合わせて使用することができる。」

B 「【0181】
[0192]図11は,本発明の実施形態による,DFMA機能ユニット1102を含む実行コア1100のブロック図である。DFMAユニット1102は,上述したDFMAユニット320に類似するユニット,又は同じユニットとすることができる。コア1100はSIMD命令を発行する,すなわち,P組の異なるセットの単精度オペランドを有する同じ命令を,P個のセットの単精度SIMDユニット1104に並列に発行することができる。SIMDユニット1104のそれぞれは,同じオペコードと,異なるセットのオペランドとを受け取る。P個のSIMDユニット1104は,並列に動作してP個の結果を生成する。DFMAユニット1102には,P-way SIMD命令が,P個の一連のSISD(単一命令単一データ)命令として発行される。
【0182】
[0193]入力マネージャ1106(命令発行ユニットの一部とすることができる)は,SIMD命令のオペランドを集め,SIMD命令のP個のセットのオペランド全てが集まったとき,それらオペランド及び適用可能なオペコードを,P個のSIMDユニット1104又はDFMAユニット1102のいずれかに提供する。出力収集器1008は,SIMDユニット1104又はDFMAユニット1102からの結果を集め,それらの結果を,結果バス1110を介してレジスタファイル(図11には示していない)に提供する。いくつかの実施形態においては,結果バス1110は,入力マネージャ1106へのバイパス経路も提供し,従って,結果を次の命令において使用することができるように,結果をレジスタファイルに提供するのと並列に入力マネージャ1106に提供することができる。一つのDFMAユニット1102を使用して,見かけ上のSIMD動作を提供する目的で,入力マネージャ1106は,例えば,P個の連続するクロックサイクルのそれぞれにおいて,異なるセットのオペランドを有する同じオペコードを発行することによって,DFMAユニット1102への命令の発行をシリアル化することが有利である。」

C 「【図11】



2 したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「入力マネージャとP個のセットの単精度SIMDユニットとDFMAユニットと出力収集器とを含む実行コアにおける方法であって,
前記入力マネージャは,SIMD命令のオペランドを集め,SIMD命令のP個のセットのオペランド全てが集まったとき,それらオペランド及び適用可能なオペコードを,P個の前記SIMDユニット又はDFMAユニットのいずれかに提供し,
前記P個のSIMDユニットのそれぞれは,前記入力マネージャから,同じオペコードと,異なるセットのオペランドとを受け取り,並列に動作してP個の結果を生成し,
前記DFMAユニットは,前記入力マネージャから,P-way SIMD命令を,P個の一連のSISD(単一命令単一データ)命令として受け取り,前記SISD命令を実行し,
前記出力収集器は,前記SIMDユニット又は前記DFMAユニットからの結果を集め,それらの結果を,結果バスを介してレジスタファイルに提供する,
ことを含む方法。」

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明では,「SIMD命令」により「オペランド及び適用可能なオペコード」が「P個の前記SIMDユニット又はDFMAユニットのいずれかに提供」されるところ,「SIMD命令」を実行するための同じ「オペコード」によるP個のワークアイテムが,「P個の前記SIMDユニット又はDFMAユニット」に提供されるといえるから,引用発明における「SIMD命令」の「オペコード」による各ワークアイテムが,本願発明1の「ウェーブフロント内のワークアイテム」に相当するといえる。

イ 引用発明では,「SIMD命令」を実行する「オペコード」によるP個のワークアイテムに対応して,「入力マネージャは,SIMD命令のオペランドを集め」,「同じオペコードと異なるセットのオペランドをP個のSIMDユニットに提供」するところ,「同じオペコードと,異なるセットのオペランド」は“単一命令複数データ(SIMD)エレメント”とみることができるから,P個の“ワークアイテム”の処理に対応して,“単一命令複数データ(SIMD)エレメント”として情報を収集するといえる。
一方,本願発明1では,「ウェーブフロント内のワークアイテムごとにシステムコール要求を処理するために,対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントに情報を記憶する」ところ,「(SIMD)エレメントに情報を記憶する」ことは,「ワークアイテム」ごとの処理のための情報を収集することに他ならないから,“ウェーブフロント内のワークアイテムごとに処理するために,対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントとして情報を収集する”といえる。
そうすると,引用発明の「入力マネージャは,SIMD命令のオペランドを集め,SIMD命令のP個のセットのオペランド全てが集」まることと,
本願発明1の「ウェーブフロント内のワークアイテムごとにシステムコール要求を処理するために,対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントに情報を記憶するステップ」とは,後記する点で相違するものの,
“ウェーブフロント内のワークアイテムごとに処理するために,対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントとして情報を収集する”点で共通しているといえる。

ウ 引用発明では,「SIMD命令のP個のセットのオペランド全てが集まったとき,それらオペランド及び適用可能なオペコードを,P個の前記SIMDユニット又はDFMAユニットのいずれかに提供し」,「P個のSIMDユニットのそれぞれは,前記入力マネージャから,同じオペコードと,異なるセットのオペランドとを受け取り,並列に動作してP個の結果を生成」するところ,P個の「SIMDユニット」は「同じオペコードと,異なるセットのオペランド」,すなわち,“単一命令複数データ(SIMD)エレメント”を実行するといえ,加えて,「P個のSIMDユニット」は“プロセッサ”の態様の1つであるといえる。
そうすると,引用発明の「SIMD命令のP個のセットのオペランド全てが集まったとき,それらオペランド及び適用可能なオペコードを,P個の前記SIMDユニット又はDFMAユニットのいずれかに提供」することと,
本願発明1の「前記SIMDベクトルを,実行対象としてプロセッサに送信するステップ」とは,後記する点で相違するものの,
“前記SIMDエレメントを,実行対象としてプロセッサに送信するステップ”点で共通しているといえる。

エ 引用発明では,「出力収集器は,前記SIMDユニット又は前記DFMAユニットからの結果を集め,それらの結果を,結果バスを介してレジスタファイルに提供する」ところ,各「SIMDユニット」が実行した「SIMD命令」,すなわち,“ワークアイテム”についての結果を「出力収集器」が受信するとみることができる。
そうすると,引用発明の「出力収集器は,前記SIMDユニット又は前記DFMAユニットからの結果を集め,それらの結果を,結果バスを介してレジスタファイルに提供する」ことと,本願発明1の「各ワークアイテムについての結果を受信するステップ」とに実質的な違いはないといえる。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)

「 ウェーブフロント内のワークアイテムごとに処理するために,対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントとして情報を収集するステップと,
前記SIMDエレメントを,実行対象としてプロセッサに送信するステップと,
各ワークアイテムについての結果を受信するステップと,
を含む,方法。」

(相違点)
(相違点1)
SIMDエレメントの情報の収集に関し,本願発明1では,「ウェーブフロント内のワークアイテムごと」の「システムコール要求を処理するために」,「ワークアイテムごとに」「対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントに情報を記憶する」のに対して,
引用発明では,「SIMD命令」のP個の処理に対応して,「SIMD命令のオペランドを集め」るものの,システムコール要求の処理を目的とすることについて言及されていない点。

(相違点2)
本願発明1では,「SIMDエレメントをSIMDベクトルとしてまとめる」のに対して,
引用発明では,「SIMD命令のP個のセットのオペランド」を「SIMDベクトル」としてまとめることについて言及されていない点。

(相違点3)
SIMDエレメントのプロセッサへの送信に関し,本願発明1では,「SIMDエレメント」をまとめた「SIMDベクトルを,実行対象としてプロセッサに送信する」のに対して,
引用発明では,「それらオペランド及び適用可能なオペコードを,P個の前記SIMDユニット又はDFMAユニットのいずれかに提供」するものの,「SIMDベクトル」を送信することについて言及されていない点

(2)相違点についての判断
ア 相違点1について
引用発明では,「SIMD命令」を構成するP個の処理に対応して,「入力マネージャは,SIMD命令のオペランドを集め」るところ,SIMDエレメントとして「同じオペコードと,異なるセットのオペランド」を収集するのは,「同じオペコード」によるP個の処理を対応するP個のSIMDユニットに依頼するためであり,システムコール要求の処理を依頼することを目的とするものとは認められない。
また,コンピュータシステムにおいて,システムコール要求の処理をOSに依頼することが本願の優先日前に当該技術分野の周知技術であったとしても,引用発明において,システムコール要求の処理を依頼するために,SIMDエレメントにシステムコール要求に係る情報を収集することの動機付けを直ちに見い出すことはできない。SIMD方式を採用するプロセッサにおいて,ウェーブフロント内のワークアイテムごとにシステムコール要求を処理するために,SIMDエレメントに情報を記憶することが,当該技術分野の周知技術であったとも認められない。
そうすると,引用発明において,SIMD命令を構成するP個のワークアイテムごとにシステムコール要求を処理するために,SIMDエレメントに情報を記憶すること,すなわち,上記相違点1に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たものであるとすることはできない。

イ 相違点2,3について
上記相違点2と相違点3とは関連しているので,併せて検討すると,
引用発明では,「SIMD命令のP個のセットのオペランド全てが集まったとき,それらオペランド及び適用可能なオペコードを,P個の前記SIMDユニット又はDFMAユニットのいずれかに提供」し,「P個のSIMDユニットのそれぞれは,前記入力マネージャから,同じオペコードと,異なるセットのオペランドとを受け取」るところ,「同じオペコードと,異なるセットのオペランド」は異なる「SIMDユニット」に提供するものであり,「同じオペコードと,異なるセットのオペランド」のP個のセットをまとめてSIMDベクトルを構成し,SIMDベクトルを,実行対象としてプロセッサに送信する動機付けを見い出すことはできない。
また,上記アで検討のとおり,引用発明は,ワークアイテムごとにシステムコール要求の処理を依頼することを目的とするものとは認められないから,システムコール要求の処理を依頼するための「SIMDベクトル」を構成することを,設計的事項とすることはできない。
そうすると,引用発明において,同じオペコードと異なるセットのオペランド,すなわち,SIMDエレメントをP個のSIMDユニットに提供することに代えて,SIMDエレメントをSIMDベクトルとしてまとめて,前記SIMDベクトルを,実行対象としてプロセッサに送信すること,すなわち,上記相違点2,3に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たものであるとすることはできない。

したがって,上記ア,イでの検討から,本願発明1は,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2-4について
本願発明2-4も,本願発明1の「ウェーブフロント内のワークアイテムごとにシステムコール要求を処理するために,対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントに情報を記憶するステップ」,「前記SIMDエレメントをSIMDベクトルとしてまとめるステップ」,及び「前記SIMDベクトルを,実行対象としてプロセッサに送信するステップ」と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明5-6について
本願発明5-6は,本願発明1-2に対応し,「少なくとも1つのプロセッサを有するコンピュータシステムで実行される方法」として特定した発明であり,本願発明1の「ウェーブフロント内のワークアイテムごとにシステムコール要求を処理するために,対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントに情報を記憶するステップ」,及び「前記SIMDベクトルを,実行対象としてプロセッサに送信するステップ」に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明7-10について
本願発明7-10は,本願発明1-4に対応する「システム」の発明であり,本願発明1の「ウェーブフロント内のワークアイテムごとにシステムコール要求を処理するために,対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントに情報を記憶するステップ」,及び「前記SIMDエレメントをSIMDベクトルとしてまとめるステップ」に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

5 本願発明11-12について
本願発明11-12は,本願発明1-2に対応する「システム」の発明であり,本願発明1の「ウェーブフロント内のワークアイテムごとにシステムコール要求を処理するために,対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントに情報を記憶するステップ」,及び「前記SIMDベクトルを,実行対象としてプロセッサに送信するステップ」に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

6 本願発明13-14について
本願発明13-14は,本願発明1-2に対応する「命令」の発明であり,本願発明1の「ウェーブフロント内のワークアイテムごとにシステムコール要求を処理するために,対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントに情報を記憶するステップ」,及び「前記SIMDエレメントをSIMDベクトルとしてまとめるステップ」に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

7 本願発明15-16について
本願発明15-16は,本願発明1-2に対応する「命令」の発明であり,本願発明1の「ウェーブフロント内のワークアイテムごとにシステムコール要求を処理するために,対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントに情報を記憶するステップ」,及び「前記SIMDベクトルを,実行対象としてプロセッサに送信するステップ」に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

8 本願発明17-18について
本願発明17-18は,本願発明1-2に対応する「コンピュータ記憶デバイス」の発明であり,本願発明1の「ウェーブフロント内のワークアイテムごとにシステムコール要求を処理するために,対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントに情報を記憶するステップ」,「前記SIMDエレメントをSIMDベクトルとしてまとめるステップ」,及び「前記SIMDベクトルを,実行対象としてプロセッサに送信するステップ」に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

9 本願発明19-20について
本願発明19-20は,本願発明1-2に対応する「コンピュータ記憶デバイス」の発明であり,本願発明1の「ウェーブフロント内のワークアイテムごとにシステムコール要求を処理するために,対応する単一命令複数データ(SIMD)エレメントに情報を記憶するステップ」,及び「前記SIMDベクトルを,実行対象としてプロセッサに送信するステップ」に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は,請求項1-20について上記引用文献1に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら,上記のとおり,本願発明1-20は,上記引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
<特許法第36条第6項第2号について>
(1)当審では,請求項13,15の「コンピュータ記憶デバイスを含む製品」という記載の意味が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成29年5月30日付けの補正において,「コンピュータ記憶デバイスに記憶された命令」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

(2)当審では,請求項13-16の「製品」という記載の意味が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成29年5月30日付けの補正において,「命令」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明1-20は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-06 
出願番号 特願2013-544736(P2013-544736)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
P 1 8・ 537- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 幸雄  
特許庁審判長 高木 進
特許庁審判官 辻本 泰隆
石井 茂和
発明の名称 システムコール要求の通信の最適化  
代理人 村雨 圭介  
代理人 早川 裕司  
代理人 佐野 良太  

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