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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1332003
審判番号 不服2014-4836  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-12 
確定日 2017-09-11 
事件の表示 特願2010-539329「曲げ可能な構造および曲げ可能な構造の作動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 2日国際公開、WO2009/082210、平成23年 3月10日国内公表、特表2011-507591〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2008年(平成20年)12月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年12月20日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成25年11月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年3月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされた。

その後、当審において、平成27年5月19日付けで拒絶理由の通知がなされ、これに対して、同年11月25日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明

本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成27年11月25日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものである。

「 曲げ可能な構造であって、前記構造が、
-曲げられるようになっている本体と、
-前記本体内に曲げ力を誘導するためのアクチュエータとを含み、
前記アクチュエータは、一方向性の形状記憶合金(SMA)材料で少なくとも部分的に作製され、かつ予め変形された第1のワイヤと、
一方向性の形状記憶合金(SMA)材料で少なくとも部分的に作製された第2のワイヤとを含み、
前記第1のワイヤおよび前記第2のワイヤが、ブリッジ構造を形成するために前記本体の一部に接触して配置され、
前記本体が、弾性ヒンジあるいは硬いヒンジを含む、前記本体の長手方向に伸長する相互接続された複数のヒンジを含み、前記ブリッジ構造が、前記相互接続された複数のヒンジによって繋がれた前記第1のワイヤおよび前記第2のワイヤによって形成され、
使用時に、前記第1のワイヤが短くされると力学的エネルギが前記第2のワイヤに転移し、それに応じて前記第2のワイヤが伸長し、
前記曲げ可能な構造は、1以上の前記第1のワイヤおよび前記第2のワイヤにおいて、マルテンサイト相からオーステナイト相への、またはオーステナイト相からR相への前記一方向性の形状記憶合金材料の転移を誘導する制御ユニットをさらに含み、前記制御ユニットは、所望の曲げ角度を得るための活性化エネルギの量を印加するために、前記制御ユニットによって制御された継続時間または振幅の電流パルスの印加によって、前記一方向性の形状記憶合金材料における転移を誘導するために準備される曲げ可能な構造。」


第3 当審の平成27年5月19日付け拒絶理由の概要

当審の平成27年5月19日付け拒絶理由における理由2の概略は、次のとおりである。

本願の請求項1、3、15及び16に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平5-285089号公報(以下「引用文献1」という。)に記載された発明に基いて、本願の請求項2、4、5及び7に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1及び特開平4-61840号公報(以下「引用文献2」という。)に記載された発明に基いて、本願の請求項6及び14に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1及び実願昭57-96750号(実開昭59-2344号)のマイクロフィルム(以下「引用文献3」という。)に記載された発明に基いて、本願の請求項8ないし13に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、それぞれ、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 引用文献記載の事項

1 引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。

(1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、内視鏡やカテ-テルに使用される可撓管の湾曲機構に関する。」

(2)「【0010】図1に示すように、カテ-テル2は湾曲部4を有し、この湾曲部4は、多数の関節体6,8を直列に配列して構成されている。各関節体6,8の中央には大径の中央孔9が形成され、周壁には細径の通孔10が円周上の両側に2個づつ形成されている。通孔10内にはSMAワイヤ12が挿通されている。
【0011】図2(a)に示すようにSMAワイヤ12は、最先端に位置する関節体6の前面上で、隣接する通孔10を渡って折り返えされている。また、SMAワイヤ12の後端部は、ワイヤ固定部16の細孔を通して、カシメ部18でカシメ固定され、このカシメ部18にはリ-ド線20が接続されている。」

(3)「【0013】図1及び図4に示すように、各関節体6,8の後部にはV字状のテ-パ部22が形成され、円周上の両側に位置する頂点23で後続の関節体6,8と回動自在に接触している。」

(4)「【0016】本実施例のSMAワイヤ12は、例えば2方向性のTi-Ni合金で形成されている。そして、加熱により低温相から高温相へTi-Ni合金が変態することによって、SMAワイヤが収縮し、逆に冷却により低温相へ変態することで、ワイヤ長が伸びる。この場合の変態温度は40℃?45℃が好適である。
【0017】また、各関節体6,8及びワイヤ固定部16は、電気絶縁性のセラミックス材料で形成されている。そのため、関節体6,8が比較的太径の場合は切削加工することができ、細径の場合は押し出し成形や射出成形により製造される。なお、関節体はセラミックスに限らず、硬質プラスチックや金属で形成してもよい。」

(5)「【0019】常温において、各SMAワイヤ12は低温相で伸張した状態にあり、湾曲部4は真っ直ぐな状態で柔軟性を有している。そこで、リ-ド線20を介して図示しない通電加熱装置(通電加熱手段)により、所望のSMAワイヤ12へ通電すると、SMAワイヤ12が加熱されて高温相に変態して収縮する。この収縮力により各関節体6,8は、テ-パ部22の頂点23を中心として回動し、湾曲部4が湾曲する。その後、通電を停止すれば、SMAワイヤ12は自然に冷却されて低温相に変態して伸長し、湾曲部4は元の状態に復帰する。
【0020】各SMAワイヤ12への通電には、直流または交流が使用されるが、PWM通電加熱を行い、デュ-ティ-比を変えることで通電量を制御し、湾曲部4の湾曲角度を任意の位置で保持することもできる。」

(6)「【0023】本実施例では図6に示すように、湾曲部4に線状部44とコイル部45とが交互に形成されたSMAアクチュエ-タ43が配設されている。そして、第1実施例と同様に形成された関節体40の通孔40aに線状部44が位置し、各関節体間にコイル部45が位置するように配設されている。また、関節体40の後部に形成されたテ-パ部46の頂点は、前部にもテ-パ部47が形成された後続の関節体41の凹部48に係合されている。
【0024】この第2実施例では、SMAアクチュエ-タ43に通電すると、コイル部45が収縮して関節体40,41を回動させ、湾曲部4が湾曲する。その他の動作は第1実施例と同様である。
【0025】本実施例でも、SMAアクチュエ-タ43が関節体40,41に形成された通孔40a,41aに挿通されているので、SMAアクチュエ-タ43の収縮力を有効に湾曲動作に利用できる。また、凹部48によりテ-パ部46,47のズレを防止することができる。
【0026】なお、SMAアクチュエ-タ43のコイル部45は、高温相で収縮状態を記憶させ、低温相では伸長状態となる2方向性のものに限らず、高温相で収縮する1方向性のものでもよい。」

(7)【図1】




(8)【図2】(a)




(9)【図4】




(10)【図6】




(11)引用文献1の段落【0010】及び【0011】(上記摘記事項(2))並びに図1及び図2(a)(上記摘記事項(7)及び(8))の記載から、各関節体6,8の周壁の一方側に形成された2個の通孔10に対して1本のSMAワイヤ12(以下「第一のSMAワイヤ12」という。)が挿通され、各関節体6,8の周壁の他方側に形成された2個の通孔10に対して、第一のSMAワイヤ12とは異なる1本のSMAワイヤ12(以下「第二のSMAワイヤ12」という。)が挿通されていることが理解できる。

2 引用文献1に記載された発明の認定

上記1(1)ないし(11)を含む引用文献1全体の記載を総合すると、引用文献1には、

「 カテ-テル2は湾曲部4を有し、この湾曲部4は、多数の関節体6,8を直列に配列して構成されるものであって、
各関節体6,8の中央には大径の中央孔9が形成され、周壁には細径の通孔10が円周上の両側に2個づつ形成され、
各関節体6,8の後部にはV字状のテ-パ部22が形成され、円周上の両側に位置する頂点23で後続の関節体6,8と回動自在に接触しており、
前記周壁の一方側に形成された通孔10内には第一のSMAワイヤ12が挿通され、他方側に形成された通孔10内には第二のSMAワイヤ12が挿通され、
前記第一及び第二のSMAワイヤ12は、それぞれ、最先端に位置する関節体6の前面上で、隣接する通孔10を渡って折り返えされ、後端部は、ワイヤ固定部16の細孔を通して、カシメ部18でカシメ固定されており、
前記第一及び第二のSMAワイヤ12は、2方向性のTi-Ni合金で形成されており、加熱により低温相から高温相へTi-Ni合金が変態することによって収縮し、逆に冷却により低温相へ変態することでワイヤ長が伸びるものであり、
常温において、各SMAワイヤ12は低温相で伸張した状態にあり、前記湾曲部4は真っ直ぐな状態で柔軟性を有しており、
前記カシメ部18にはリ-ド線20が接続されており、
前記リ-ド線20を介して通電加熱装置により、所望のSMAワイヤ12へ通電すると、当該SMAワイヤ12が加熱されて高温相に変態して収縮し、この収縮力により各関節体6,8は、前記テ-パ部22の頂点23を中心として回動し、前記湾曲部4が湾曲し、通電を停止すれば、当該SMAワイヤ12は自然に冷却されて低温相に変態して伸長し、前記湾曲部4は元の状態に復帰するものであり、PWM通電加熱を行い、デュ-ティ-比を変えることで通電量を制御し、湾曲部4の湾曲角度を任意の位置で保持することもできる、カテ-テルに使用される可撓管の湾曲機構。」

の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。


第5 本願発明と引用発明との対比

1 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「湾曲機構」は、本願発明の「曲げ可能な構造」に相当する。

(2)引用発明の「湾曲部4を有」する「カテ-テル2」は、本願発明の「曲げられるようになっている本体」に相当する。

(3)引用発明の「第一及び第二のSMAワイヤ12」は、それぞれ「加熱されて高温相に変態して収縮し、この収縮力により」「湾曲部4」を「湾曲」させるものであるから、「カテーテル2」の「湾曲部4」に曲げ力を誘導するためのアクチュエータであるといえる。
よって、引用発明の「加熱されて高温相に変態して収縮し、この収縮力により」「湾曲部4」を「湾曲」させる「第一及び第二のSMAワイヤ12」は、本願発明の「本体内に曲げ力を誘導するためのアクチュエータ」に相当する。

(4)本願発明の「予め変形された第1のワイヤ」は、「使用時に」「短くされる」ものであることから、「予め変形された」状態は、伸長された状態であると認められる。
よって、引用発明の「2方向性のTi-Ni合金で形成されており」、「常温において」「低温相で伸張した状態にあ」る「第一のSMAワイヤ12」と、本願発明の「一方向性の形状記憶合金(SMA)材料で少なくとも部分的に作製され、予め変形された第1のワイヤ」とは、「形状記憶合金(SMA)材料で少なくとも部分的に作製され、低温状態において伸長状態にある第1の形状記憶ワイヤ」である点において共通する。

(5)引用発明の「2方向性のTi-Ni合金で形成されており」、「常温において」「低温相で伸張した状態にあ」る「第二のSMAワイヤ12」と、本願発明の「一方向性の形状記憶合金(SMA)材料で少なくとも部分的に作製された第2のワイヤ」とは、「形状記憶合金(SMA)材料で少なくとも部分的に作製された第2の形状記憶ワイヤ」である点において共通する。

(6)
ア 引用発明の「ワイヤ固定部16」が「カテーテル2」を構成する部材であることは明らかであるから、引用発明の「ワイヤ固定部16」は、本願発明の「本体の一部」に相当する。
よって、引用発明において、「第一及び第二のSMAワイヤ12は、それぞれ、」「後端部」が「ワイヤ固定部16の細孔を通して、カシメ部18でカシメ固定されて」いることは、本願発明おいて、「第1のワイヤおよび第2のワイヤ」が、「本体の一部に接触して配置され」ていることに相当する。

イ 引用発明の「直列に配列」された「多数の関節体6,8」が、「カテ-テル2」の長手方向に伸長するように配置されていることは明らかである。
引用発明において、「各関節体6,8の後部にはV字状のテ-パ部22が形成され、円周上の両側に位置する頂点23で後続の関節体6,8と回動自在に接触して」いることから、隣接する2つの関節体6,8は、1つの回動可能部材を構成しているといえる。
よって、引用発明における隣接する2つの関節体6,8と、本願発明の「ヒンジ」とは、「回動可能部材」である点において共通する。
そして、1つの関節体6,8は、その先端側の関節体6,8と1つの回動可能部材を構成するとともに、その後端側の関節体6,8と別の1つの回動可能部材を構成するものであるから、引用発明において「多数の関節体6,8」が「直列に配列」されて、「各関節体6,8の後部にはV字状のテ-パ部22が形成され、円周上の両側に位置する頂点23で後続の関節体6,8と回動自在に接触して」いることは、多数の回動可能部材が相互接続されているものといえる。
してみると、引用発明において、「湾曲部4」が「多数の関節体6,8を直列に配列して構成され」、「各関節体6,8の後部にはV字状のテ-パ部22が形成され、円周上の両側に位置する頂点23で後続の関節体6,8と回動自在に接触して」いることと、本願発明において、「本体が、弾性ヒンジあるいは硬いヒンジを含む、前記本体の長手方向に伸長する相互接続された複数のヒンジを含」むこととは、「本体が、前記本体の長手方向に伸長する相互接続された複数の回動可能部材を含」むことである点において共通する。

ウ 引用発明において、「各関節体6,8の後部」が「後続の関節体6,8と回動自在に接触して」いることから、「第一及び第二のSMAワイヤ12」が、隣接する関節体6,8同士の接触を維持することができるように最先端に位置する関節体6とワイヤ固定部16との間に張られていることは明らかであり、第一又は第二のSMAワイヤ12の一方が加熱により収縮した場合、その収縮力が各関節体6,8を介して第一又は第二のSMAワイヤ12の他方に伝達されるものと認められる。
すなわち、引用発明の第一及び第二のSMAワイヤ12は、各関節体6,8及びワイヤ固定部16を介して力学的に接続されており、ブリッジ構造を形成しているといえる。

エ 上記アないしウを踏まえると、引用発明において、「湾曲部4は、多数の関節体6,8を直列に配列して構成され」、「各関節体6,8の後部にはV字状のテ-パ部22が形成され、円周上の両側に位置する頂点23で後続の関節体6,8と回動自在に接触しており」、「各関節体6,8」の「周壁の一方側に形成された通孔10内には第一のSMAワイヤ12が挿通され、他方側に形成された通孔10内には第二のSMAワイヤ12が挿通され、前記第一及び第二のSMAワイヤ12は、それぞれ、最先端に位置する関節体6の前面上で、隣接する通孔10を渡って折り返えされ、後端部は、ワイヤ固定部16の細孔を通して、カシメ部18でカシメ固定されて」いることと、本願発明において、「第1のワイヤおよび第2のワイヤが、ブリッジ構造を形成するために本体の一部に接触して配置され、前記本体が、弾性ヒンジあるいは硬いヒンジを含む、前記本体の長手方向に伸長する相互接続された複数のヒンジを含み、前記ブリッジ構造が、前記相互接続された複数のヒンジによって繋がれた前記第1のワイヤおよび前記第2のワイヤによって形成され」ていることとは、「第1の形状記憶ワイヤおよび第2の形状記憶ワイヤが、ブリッジ構造を形成するために本体の一部に接触して配置され、前記本体が、前記本体の長手方向に伸長する相互接続された複数の回動可能部材を含み、前記ブリッジ構造が、前記相互接続された複数の回動可能部材によって繋がれた前記第1の形状記憶ワイヤおよび前記第2の形状記憶ワイヤによって形成され」ている点において共通する。

(7)引用発明は、「所望のSMAワイヤ12へ通電すると、当該SMAワイヤ12が加熱されて高温相に変態して収縮し、この収縮力により各関節体6,8は、前記テ-パ部22の頂点23を中心として回動」するものであるところ、各関節体6,8がそのテ-パ部22の頂点23を中心として回動するためには、加熱されていない方のSMAワイヤ12が伸長する必要があり、当該SMAワイヤ12の伸長が加熱されたSMAワイヤ12の収縮力によってもたらされることは、物理的に明らかである。
よって、引用発明の「所望のSMAワイヤ12へ通電すると、当該SMAワイヤ12が加熱されて高温相に変態して収縮し、この収縮力により各関節体6,8は、テ-パ部22の頂点23を中心として回動」することと、本願発明の「使用時に、第1のワイヤが短くされると力学的エネルギが第2のワイヤに転移し、それに応じて前記第2のワイヤが伸長」することとは、「使用時に、第1の形状記憶ワイヤが短くされると力学的エネルギが第2の形状記憶ワイヤに転移し、それに応じて前記第2の形状記憶ワイヤが伸長」することである点において共通する。

(8)引用発明の「第一及び第二のSMAワイヤ12」は、「2方向性のTi-Ni合金で形成されて」いることから、低温相及び高温相がそれぞれマルテンサイト相及びオーステナイト相であることは明らかである。
よって、引用発明の「常温において」、「低温相で伸張した状態にあ」る「各SMAワイヤ12」のうち、「所望のSMAワイヤ12へ通電」し、「当該SMAワイヤ12」を「加熱」して「高温相に変態」させて「収縮」させる「通電加熱装置」と、本願発明の「1以上の第1のワイヤおよび第2のワイヤにおいて、マルテンサイト相からオーステナイト相への、またはオーステナイト相からR相への一方向性の形状記憶合金材料の転移を誘導する制御ユニット」とは、「1以上の第1の形状記憶ワイヤおよび第2の形状記憶ワイヤにおいて、マルテンサイト相からオーステナイト相への形状記憶合金材料の転移を誘導する制御ユニット」である点において共通する。

(9)引用発明は、「PWM通電加熱を行い、デュ-ティ-比を変えることで通電量を制御し、湾曲部4の湾曲角度を任意の位置で保持することもできる」ものであるから、引用発明の「通電加熱装置」は、湾曲部4の所望の湾曲角度を得るために必要な所望のSMAワイヤ12に対する加熱量を、制御された継続時間の電流パルスとして印加することにより、当該SMAワイヤ12における相転移を誘導することができるものといえる。
そして、ここでの「湾曲角度」及び「加熱量」は、それぞれ本願発明の「曲げ角度」及び「活性化エネルギの量」に相当する。
よって、引用発明において、「PWM通電加熱を行い、デュ-ティ-比を変えることで通電量を制御し、湾曲部4の湾曲角度を任意の位置で保持することもできる」ことと、本願発明の「制御ユニットは、所望の曲げ角度を得るための活性化エネルギの量を印加するために、前記制御ユニットによって制御された継続時間または振幅の電流パルスの印加によって、一方向性の形状記憶合金材料における転移を誘導するために準備される」こととは、「制御ユニットは、所望の曲げ角度を得るための活性化エネルギの量を印加するために、前記制御ユニットによって制御された継続時間の電流パルスの印加によって、形状記憶合金材料における転移を誘導するために準備される」ことである点において共通する。

2 一致点及び相違点

よって、本願発明と引用発明とは、

「 曲げ可能な構造であって、前記構造が、
-曲げられるようになっている本体と、
-前記本体内に曲げ力を誘導するためのアクチュエータとを含み、
前記アクチュエータは、形状記憶合金(SMA)材料で少なくとも部分的に作製され、低温状態において伸長状態にある第1の形状記憶ワイヤと、
形状記憶合金(SMA)材料で少なくとも部分的に作製された第2の形状記憶ワイヤとを含み、
前記第1の形状記憶ワイヤおよび前記第2の形状記憶ワイヤが、ブリッジ構造を形成するために前記本体の一部に接触して配置され、
前記本体が、前記本体の長手方向に伸長する相互接続された複数の回動可能部材を含み、前記ブリッジ構造が、前記相互接続された複数の回動可能部材によって繋がれた前記第1の形状記憶ワイヤおよび前記第2の形状記憶ワイヤによって形成され、
使用時に、前記第1の形状記憶ワイヤが短くされると力学的エネルギが前記第2の形状記憶ワイヤに転移し、それに応じて前記第2の形状記憶ワイヤが伸長し、
前記曲げ可能な構造は、1以上の前記第1の形状記憶ワイヤおよび前記第2の形状記憶ワイヤにおいて、マルテンサイト相からオーステナイト相への前記形状記憶合金材料の転移を誘導する制御ユニットをさらに含み、前記制御ユニットは、所望の曲げ角度を得るための活性化エネルギの量を印加するために、前記制御ユニットによって制御された継続時間の電流パルスの印加によって、前記形状記憶合金材料における転移を誘導するために準備される曲げ可能な構造。」

の発明である点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点1)
第1の形状記憶ワイヤ及び第2の形状記憶ワイヤに関して、本願発明は、形状記憶合金(SMA)材料が一方向性のものであり、第1のワイヤが低温状態において伸長状態にあることが、予め変形されることにより達成されているのに対し、引用発明は、2方向性のTi-Ni合金であり、第一のSMAワイヤ12が低温状態において伸長状態にあることが、低温相であることにより達成されている点。

(相違点2)
回動可能部材が、本願発明は、弾性ヒンジあるいは硬いヒンジを含む、ヒンジであるのに対し、引用発明は、関節体6,8の後部に形成されたV字状のテ-パ部22における円周上の両側に位置する頂点23を、後続の関節体6,8と回動自在に接触させた隣接する関節体6,8である点。


第6 当審の判断

上記各相違点について検討する。

1 相違点1について

引用文献1の段落【0023】ないし【0026】には、第2実施例に関して「・・・湾曲部4に線状部44とコイル部45とが交互に形成されたSMAアクチュエ-タ43が配設されている。そして、第1実施例と同様に形成された関節体40の通孔40aに線状部44が位置し、各関節体間にコイル部45が位置するように配設されている。・・・この第2実施例では、SMAアクチュエ-タ43に通電すると、コイル部45が収縮して関節体40,41を回動させ、湾曲部4が湾曲する。・・・SMAアクチュエ-タ43のコイル部45は、高温相で収縮状態を記憶させ、低温相では伸長状態となる2方向性のものに限らず、高温相で収縮する1方向性のものでもよい。」と記載されている。
引用文献1の上記記載から、二方向の湾曲動作を行うSMAアクチュエータに用いる形状記憶合金は、2方向性のものに限らず、高温相で収縮する1方向性のものも利用可能であることが示唆されており、本願の優先日前において、例えば引用文献3にも記載されているように、1方向性の形状記憶合金線材を複数用いて曲げ状態への移行動作及び曲げ状態からの復帰動作を行うアクチュエータが、従来周知のものであるという技術常識、及び、高温相で収縮する1方向性の形状記憶合金をアクチュエータとして用い、加熱による収縮で生じる収縮力をアクチュエータの駆動力とするためには、加熱前の状態が、加熱により収縮できる状態であること、すなわち、低温相において変形を加え、伸長した状態である必要があるという技術常識に鑑みれば、当業者にとって、引用発明において、第一及び第二のSMAワイヤ12として、2方向性のTi-Ni合金に代えて高温相で収縮する1方向性のSMAワイヤを採用することに格別の困難性は認められない。

さらに、引用文献3に「上記実施例では電力を可変抵抗により調節しているが、適宜時間通電するパルス電流を、それぞれの合金線に適切な回数づつ印加するようにしてもよい。」(明細書第5頁13?16行)と記載されているように、1方向性の形状記憶合金を用いたSMAアクチュエータにおいて、PWM通電加熱を採用し得ることは明らかである。

してみると、引用発明の第一及び第二のSMAワイヤ12として高温相で収縮する1方向性のSMAワイヤを採用することを阻害する要因は見あたらず、引用発明において、第一及び第二のSMAワイヤ12として、2方向性のTi-Ni合金に代えて高温相で収縮する1方向性のSMAワイヤを採用するとともに、第一のSMAワイヤ12を、予め低温相において変形を加え、伸長した状態としておくことで、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到しうることである。

2 相違点2について

引用文献1の段落【0023】ないし【0025】には、第2実施例に関して「・・・関節体40の後部に形成されたテ-パ部46の頂点は、前部にもテ-パ部47が形成された後続の関節体41の凹部48に係合されている。・・・凹部48によりテ-パ部46,47のズレを防止することができる。」と記載されている。
引用文献1の上記記載は、各関節体を回動自在とするための構造は、ズレを防止することができる構造であることが好ましいことを示唆するものであるといえる。
そして、2つの部材を回動自在に連結するとともに2つの部材のズレを防止することができる構造として、ヒンジ機構を広く採用されている慣用技術である。また、ヒンジ機構として、2つの板材を軸部材で連結したいわゆる蝶番(丁番)のほか、軸部材を用いずに2つの部材を変形可能な弾性部材で連結した弾性ヒンジも、例を挙げるまでもなく、本願の優先日前において周知である。
してみると、引用発明において、各関節体6,8相互のズレを防止すべく、各関節体6,8相互を回動自在となるように軸部材又は弾性部材で連結して各関節体6,8がヒンジ機構を構成するようになし、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到しうることである。

3 本願発明の奏する作用効果

本願発明の奏する効果に関して、発明の詳細な説明の段落【0013】には、
「本発明による曲げ可能な構造は、以下の利点を有する。第1に、一方向性のSMA材料の相転移に優れた可制御性があるため、ブリッジ構造を提供することによって、正確な曲げ作動が実現される。さらに、一方向性のSMA材料を使用することによって、曲げ可能な構造を曲げるのに必要な活性化エネルギは少量でよい。第2に、活性化エネルギは短い継続時間で印加されるだけでよい。たとえば0.1?10sの継続時間の電流パルスでよく、好ましくは、必要な曲げ角度を得るために5sの継続時間を採用することができる。このことは、活性化パルスが連続的に印加されなければならず、大きなエネルギが周囲に散逸することにつながる従来技術と比べて有利である。従来技術は、周囲の組織の加熱が許されない医療上の適用には認められないことがある。」
と記載されている。

上記段落【0013】に記載された効果について検討する。
一方向性の形状記憶合金(SMA)材料を用いたアクチュエータにおいて、元の形状に戻すための付勢手段を用いるタイプのものにおいては、付勢手段から受ける力に抗して一方向性の形状記憶合金(SMA)材料の加熱により変形させた状態を維持するために、一方向性の形状記憶合金(SMA)材料の加熱を継続する必要があるものであるが、元の形状に戻すために追加の形状記憶合金(SMA)材料を用いるタイプのものにおいては、一方向性の形状記憶合金(SMA)材料の加熱により変形させた後に当該一方向性の形状記憶合金(SMA)材料への加熱を終了させても加熱により変形させた状態を維持することが可能であることは、明らかである。
また、所望の曲げ角度を達成するために形状記憶合金(SMA)材料に印加する電流量は、所望の曲げ角度に対応する形状記憶合金(SMA)材料の収縮量をもたらす加熱量に相当する電流量であればよいことも、明らかである。
したがって、上記段落【0013】に記載された効果は、当業者の予測し得る範囲を超えるものとは認められない。

そして、発明の詳細な説明の他の段落に記載された効果も、当業者の予測し得る範囲を超えるものとは認められない。

よって、本願発明によってもたらされる効果は、引用文献1及び引用文献3の記載事項、並びに、本願優先日前において周知な事項及び慣用されている技術から当業者が予測し得る程度のものである。

4 まとめ

以上のとおりであり、本願発明は、引用発明、引用文献1及び引用文献3の記載事項、並びに、本願優先日前において周知な事項及び慣用されている技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第7 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-18 
結審通知日 2016-03-29 
審決日 2016-04-11 
出願番号 特願2010-539329(P2010-539329)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱本 禎広大塚 裕一  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
渡戸 正義
発明の名称 曲げ可能な構造および曲げ可能な構造の作動方法  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  
復代理人 村上 直哉  

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