• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C10M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C10M
管理番号 1332020
審判番号 不服2016-15626  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-19 
確定日 2017-08-31 
事件の表示 特願2015-146751「潤滑油組成物及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月15日出願公開、特開2015-180761〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年10月7日に出願した特願2008-261066号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成27年7月24日に新たな特許出願として分割したものであって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成27年7月24日 上申書
平成28年3月23日付け 拒絶理由通知書
平成28年5月27日 意見書
平成28年7月15日付け 拒絶査定
平成28年10月19日 審判請求書・手続補正書
平成28年12月22日付け 前置報告書
平成29年1月18日 上申書
平成29年3月21日 上申書


第2 平成28年10月19日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年10月19日付け手続補正(以下、「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
(1)補正前の特許請求の範囲の請求項1
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載された、
「【請求項1】
尿素アダクト値が4質量%以下、40℃における動粘度が14?25mm^(2)/s、粘度指数が120以上である第1の潤滑油基油成分、及び、40℃における動粘度が14mm^(2)/s未満である第2の潤滑油基油成分を含有し、潤滑油基油全量基準で、前記第1の潤滑油基油成分の含有量が10?99質量%、前記第2の潤滑油基油成分の含有量が1?50質量%である潤滑油基油と、粘度指数向上剤と、を含有し、100℃における動粘度が4?12mm^(2)/sであり、粘度指数が200?350であることを特徴とする潤滑油組成物。」である(以下、「本件補正前の請求項1」という。)。

(2)補正後の特許請求の範囲の請求項1
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は、平成28年10月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
尿素アダクト値が4質量%以下、40℃における動粘度が14?25mm^(2)/s、粘度指数が120以上である第1の潤滑油基油成分、及び、尿素アダクト値が4質量%以下、40℃における動粘度が14mm^(2)/s未満である第2の潤滑油基油成分を含有し、潤滑油基油全量基準で、前記第1の潤滑油基油成分の含有量が10?99質量%、前記第2の潤滑油基油成分の含有量が1?50質量%である潤滑油基油と、粘度指数向上剤と、を含有し、尿素アダクト値が4質量%以下であり、100℃における動粘度が4?12mm^(2)/sであり、粘度指数が200?350であることを特徴とする潤滑油組成物。」(以下、「本件補正後の請求項1」という。なお、上記の下線部は、請求人が補正箇所として付与したものである。以下、同様である。)

(3)補正事項1及び補正事項2
ここで、本件補正は、以下の補正事項1及び補正事項2を含むものである。

補正事項1
本件補正前の請求項1の「40℃における動粘度が14mm^(2)/s未満である第2の潤滑油基油成分」を、本件補正後の請求項1の「尿素アダクト値が4質量%以下、40℃における動粘度が14mm^(2)/s未満である第2の潤滑油基油成分」とする補正。

補正事項2
本件補正前の請求項1の「100℃における動粘度が4?12mm^(2)/sであり、粘度指数が200?350である潤滑油組成物」を、本件補正後の請求項1の「尿素アダクト値が4質量%以下であり、100℃における動粘度が4?12mm^(2)/sであり、粘度指数が200?350である潤滑油組成物」とする補正。

2.本件補正の適否(新規事項の追加の有無について)
上記の補正事項1及び補正事項2が、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであるか検討する。

(1)当初明細書等の主な記載事項
ア.「【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、尿素アダクト値が4質量%以下、40℃における動粘度が14?25mm^(2)/s、粘度指数が120以上である第1の潤滑油基油成分、及び、40℃における動粘度が14mm^(2)/s未満である第2の潤滑油基油成分を含有し、潤滑油基油全量基準で、第1の潤滑油基油成分の含有量が10?99質量%、第2の潤滑油基油成分の含有量が1?50質量%である潤滑油基油と、粘度指数向上剤と、を含有し、100℃における動粘度が4?12mm^(2)/sであり、粘度指数が200?350であることを特徴とする潤滑油組成物を提供する。」
イ.「【0026】
第1の潤滑油基油成分の尿素アダクト値は、粘度-温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善し、かつ高い熱伝導性を得る観点から、上述の通り4質量%以下であることが必要であり、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下、特に好ましくは2.0質量%以下、最も好ましくは1.5質量%以下である。また、潤滑油基油成分の尿素アダクト値は、0質量%でも良いが、十分な低温粘度特性と、より粘度指数の高い潤滑油基油を得ることができ、また脱ろう条件を緩和して経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。」
ウ.「【0058】
第2の潤滑油基油成分の尿素アダクト値は、粘度-温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善する観点から、4質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3.5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2.5質量%以下である。また、第2の潤滑油基油成分の尿素アダクト値は、0質量%でも良いが、十分な低温粘度特性、高い粘度指数および高い引火点の潤滑油基油を得ることができ、また異性化条件を緩和することができ経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1.0質量%以上である。」
エ.「【0078】
なお、当該潤滑油基油の尿素アダクト値、%CP、%CA、%CN、%CP/%CNの値、硫黄分、窒素分については、上述の第1の潤滑油基油成分、第2の潤滑油基油成分におけるそれらの値あるいはその他の配合可能な潤滑油基油成分並びにそれらの含有割合に応じて決まるが、上述の第1の潤滑油基油成分、第2の潤滑油基油成分におけるそれぞれの好ましい範囲であることが望ましい。」
オ.「【実施例】
【0139】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0140】
[原料ワックス]
溶剤精製基油を精製する工程において減圧蒸留で分離した留分を、フルフラールで溶剤抽出した後で水素化処理し、次いで、メチルエチルケトン-トルエン混合溶剤で溶剤脱ろうした。溶剤脱ろうの際に除去され、スラックワックスとして得られたワックス分(以下、「WAX1」という)の性状を表1に示す。
【0141】
【表1】

【0142】
WAX1をさらに脱油して得られたワックス分(以下、「WAX2」という。)の性状を表2に示す。
【0143】
【表2】

【0144】
パラフィン含量が95質量%であり、20から80までの炭素数分布を有するFTワックス(以下、「WAX3」という。)を用いたWAX3の性状を表3に示す。
【0145】
【表3】

【0146】
[潤滑油基油の製造]
WAX1、WAX2およびWAX3を原料油とし、水素化処理触媒を用いて水素化処理を行った。このとき、原料油の分解率が5質量%以上かつ、被処理油の硫黄分が10質量ppm以下となるように反応温度および液空間速度を調整した。なお、「原料油の分解率が5質量%以上」とは、被処理油において、原料油の初留点よりも軽質となる留分の割合が原料油全量に対し5質量%以上であることを意味し、ガスクロ蒸留にて確認される。
【0147】
次に、上記の水素化処理により得られた被処理物について、貴金属含有量0.1?5重量%に調整されたゼオライト系水素化脱ロウ触媒を用い、315℃?325℃の温度範囲で水素化脱ロウを行った。
【0148】
更に、上記の水素化脱ロウにより得られた被処理物(ラフィネート)について、水素化生成触媒を用いて水素化精製を行った。その後蒸留により表4、5に示す組成及び性状を有する潤滑油基油1?4を得た。また、WVGOを原料とした水素化分解基油として、表5に示す組成及び性状を有する潤滑油基油5及び6を得た。表4、5中、「尿素アダクト物中のノルマルパラフィン由来成分の割合」は、尿素アダクト値の測定の際に得られた尿素アダクト物についてガスクロマトグラフィー分析を実施することによって得られたものである(以下、同様である)。
【0149】
次に、表4、5の潤滑油基油に、自動車用潤滑油に一般的に用いられているポリメタアクリレート系流動点降下剤(重量平均分子量:約6万)を添加した。流動点降下剤の添加量は、いずれも、組成物全量基準で0.3質量%、0.5質量%および1.0質量%の3条件とした。次に、得られた各潤滑油組成物について、-40℃におけるMRV粘度を測定し、得られた結果を表4、5に示す。
【0150】
【表4】

【0151】
【表5】


カ.「【0152】
[実施例1?4、比較例1?3]
実施例1?4及び比較例1?3においては、それぞれ上記の基油1?5、並びに以下に示す添加剤を用いて、表6、7に示す組成を有する潤滑油組成物を調製した。なお、潤滑油組成物の調製の際には、その150℃におけるHTHS粘度が2.55?2.65の範囲内となるようにした。得られた潤滑油組成物の性状を表6、7に示す。
(添加剤)
PK:添加剤パッケージ(金属系清浄剤(Caサリシレート Ca量2000ppm)、無灰分散剤(ホウ素化ポリブテニルコハク酸イミド)、酸化防止剤(フェノール系、アミン系)、摩耗防止剤(アルキルリン酸亜鉛 P量800ppm)、エステル系無灰摩擦調整剤、ウレア系無灰摩擦調整剤)、流動点降下剤、消泡剤等を含む)。
MoDTC:モリブデンジチオカーバメート。
VM-1:PSSI=45、MW=40万、Mw/Mn=5.5、Mw/PSSI=0.88×10^(4)の分散型ポリメタクリレート系添加剤(ジメチルアミノエチルメタクリレート及びアルキルメタアクリレート混合物(アルキル基:メチル基、炭素数12?15の直鎖アルキル基)を主構成単位として重合させて得られる共重合体)
VM-2:PSSI=40、MW=30万、Mw/PSSI=0.75×10^(4)の分散型ポリメタクリレート系添加剤(ジメチルアミノエチルメタクリレート及びアルキルメタアクリレート混合物(アルキル基:メチル基、炭素数12?15の直鎖状アルキル基)を主構成単位として重合させて得られる共重合体)
VM-3:PSSI=20、MW=40万、Mw/PSSI=2×10^(4)の非分散型ポリメタクリレート系添加剤(アルキルメタアクリレート混合物(アルキル基:メチル基、炭素数12?15の直鎖アルキル基、炭素数16?20の直鎖アルキル基)90モル%と、炭素数22の分岐アルキル基を有するアルキルメタアクリレート10モル%とを主構成単位として重合させて得られる共重合体)
【0153】
[潤滑油組成物の評価]
実施例1?4及び比較例1?3の各潤滑油組成物について、40℃又は100℃における動粘度、粘度指数、NOACK蒸発量(1h、250℃)、150℃又は100℃におけるHTHS粘度、並びに-35℃におけるCCS粘度、-40℃におけるMRV粘度を測定した。各物性値の測定は以下の評価方法により行った。得られた結果を表6、7に示す。
(1)動粘度:ASTM D-445
(2)HTHS粘度:ASTM D4683
(3)NOACK蒸発量:ASTM D 5800
(4)CCS粘度:ASTM D5293
(5)MRV粘度:ASTM D3829
【0154】
【表6】

【0155】
【表7】

【0156】
表6、7に示したように、実施例1?4及び比較例1?3の潤滑油組成物は150℃におけるHTHS粘度が同程度のものであるが、比較例1?3の潤滑油組成物に比べて、実施例1?4の潤滑油組成物は、40℃動粘度、100℃動粘度、100℃HTHS粘度およびCCS粘度が低く、低温粘度および粘度温度特性が良好であった。この結果から、本発明の潤滑油組成物が、省燃費性と低温粘度に優れ、ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも、150℃における高温高せん断粘度を維持しながら、省燃費性と-35℃以下における低温粘度とを両立させることができ、特に潤滑油の40℃および100℃における動粘度を低減し、粘度指数を向上し、-35℃におけるCCS粘度を著しく改善できる潤滑油組成物であることがわかる。」

(2)新規事項の追加の有無についての検討
(2-1)補正事項1について
当初明細書等の上記2.(1)ウ.には、「第2の潤滑油基油成分」について、「尿素アダクト値が4質量%以下」であることが記載されているから、補正事項1は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(2-2)補正事項2について
当初明細書等の上記2.(1)ア.の記載より、本件の「潤滑油組成物」は、「第1の潤滑油基油成分」及び「第2の潤滑油基油成分」を含有し、これらを含む潤滑油基油と粘度指数向上剤を含有しているものであると理解できる。
そして、上記2.(1)イ.?ウ.の記載より当該「第1の潤滑油基油成分」及び「第2の潤滑油基油成分」は、それぞれ「尿素アダクト値が4質量%以下」であること、上記2.(1)エ.の記載より「潤滑油基油」の「尿素アダクト値」は、「第1の潤滑油基油成分」及び「第2の潤滑油基油成分」におけるそれぞれの好ましい範囲であることが記載されている。
これらの記載から、当初明細書等には、「第1の潤滑油基油成分」及び「第2の潤滑油基油成分」における「尿素アダクト値が4質量%以下」であることが示されていると認められる。
しかしながら、潤滑油基油、粘度指数向上剤、及びその他の添加剤を含有する「潤滑油組成物」について、当該「潤滑油組成物」においても、「尿素アダクト値が4質量%以下」であることを示す記載及び示唆は、上記2.(1)ア.?エ.において何ら認められない。
また、実施例である上記2.(1)オ.?カ.の記載をみると、【表4】及び【表5】から明らかなとおり、上記「第1の潤滑油基油成分」に該当する「基油1」?「基油3」及び「第2の潤滑油基油成分」に該当する「基油4」の「尿素アダクト値」が「4質量%以下」の範囲に含まれることが、それぞれ記載されている。
一方、「潤滑油組成物」に該当する実施例を記載した【表6】には、100℃における動粘度や粘度指数について記載されているが、「尿素アダクト値」については、記載も示唆もない。
そうすると、上記記載からは、「第1の潤滑油基油成分」及び「第2の潤滑油基油成分」並びに、これらを含有する「潤滑油基油」が、全体として「尿素アダクト値が4質量%以下」ということまで記載されていると認められるが、粘度指数向上剤及びその他の添加剤を含有する潤滑油組成物の全体についてまでもが「尿素アダクト値が4質量%以下」であるということまで記載あるいは示唆されているとは認められない。
また、それが自明であるとの技術常識も見当たらない。
よって、補正事項2は、当初明細書等の範囲内にない新たな技術的事項を導入するものである。
また、請求人は、平成28年10月19日付け審判請求書において、当該補正の根拠は明細書の【0026】(上記2.(1)イ.)、【0058】(上記2.(1)ウ.)、【0078】(上記2.(1)エ.)の記載に基づく旨主張しているが、これらの段落を含め、当初明細書等に補正事項2が記載あるいは示唆されているといえないことは、上記のとおりである。

(2-3)小括
以上のとおり、補正事項2は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものということはできない。
したがって、補正事項2は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、本件補正前の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1の記載は、第2 1.(1)で示したとおりのものである。


第4 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものでなく、この出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。


第5 当審の判断
1.本願明細書の記載
(1)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明における、本願発明、特に「第1の潤滑油基油成分」と「第2の潤滑油基油成分」に関連する主な記載事項は,以下のとおりである(なお、下線は、当審による付与であり、以下、同様である。)。
ア 「【0002】
従来、潤滑油の分野では、高度精製鉱油等の潤滑油基油に粘度指数向上剤、流動点降下剤等の添加剤を配合することによって、潤滑油の粘度-温度特性や低温粘度特性の改善が図られている(例えば、特許文献1?3を参照)。また、高粘度指数基油の製造方法としては、天然や合成のノルマルパラフィンを含む原料油について水素化分解/水素化異性化による潤滑油基油の精製を行う方法が知られている(例えば、特許文献4?6を参照)。
【0003】
潤滑油基油及び潤滑油の低温粘度特性の評価指標としては、流動点、曇り点、凝固点などが一般的である。また、ノルマルパラフィンやイソパラフィンの含有量等の潤滑油基油に基づき低温粘度特性を評価する手法も知られている。
・・・・・・
【0005】
近時、潤滑油に求められる省燃費性は益々高くなっており、従来の潤滑油基油および粘度指数向上剤は粘度-温度特性及び低温粘度特性の点で必ずしも十分とは言えない。特に、SAE10クラスの潤滑油基油あるいはこれを主成分として含有する潤滑油組成物においては、高温高せん断粘度を維持しながら、省燃費性と、低温粘度(CCS粘度、MRV粘度等)を高いレベルで両立することは困難である。
【0006】
なお、低温粘度を向上するだけであれば、ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油などの低温粘度に優れる潤滑油基油を併用すれば可能となるが、上記合成油は高価であり、低粘度鉱油系基油は一般的に粘度指数が低くNOACK蒸発量が高い。そのため、それらの潤滑油基油を配合すると、潤滑油の製造コストが増加し、あるいは、高粘度指数化及び低蒸発性を達成することが困難となる。また、これら従来の潤滑油基油を用いた場合であっても、省燃費性の改善には限界がある。
【0007】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、省燃費性と低温粘度に優れ、ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも、高温高せん断粘度を維持しながら、省燃費性と-35℃以下における低温粘度とを両立することができ、特に潤滑油の150℃のHTHS粘度を一定に維持しつつ、100℃におけるHTHS粘度を低減し、-35℃以下におけるCCS粘度を著しく改善できる高粘度指数の潤滑油組成物を提供することを目的とする。」

イ 「【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、尿素アダクト値が4質量%以下、40℃における動粘度が14?25mm^(2)/s、粘度指数が120以上である第1の潤滑油基油成分、及び、40℃における動粘度が14mm^(2)/s未満である第2の潤滑油基油成分を含有し、潤滑油基油全量基準で、第1の潤滑油基油成分の含有量が10?99質量%、第2の潤滑油基油成分の含有量が1?50質量%である潤滑油基油と、粘度指数向上剤と、を含有し、100℃における動粘度が4?12mm^(2)/sであり、粘度指数が200?350であることを特徴とする潤滑油組成物を提供する。
・・・・・・
【0010】
上記尿素アダクト値の測定においては、尿素アダクト物として、イソパラフィンのうち低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分、あるいは熱伝導性を悪化させる成分、さらには潤滑油基油中にノルマルパラフィンが残存している場合の当該ノルマルパラフィン、を精度よく且つ確実に捕集することができるため、潤滑油基油の低温粘度特性および熱伝導性の評価指標として優れている。なお、本発明者らは、GC及びNMRを用いた分析により、尿素アダクト物の主成分が、ノルマルパラフィン及び主鎖の末端から分岐位置までの炭素数が6以上であるイソパラフィンの尿素アダクト物であることを確認している。
・・・・・・
【0017】
また、本発明の潤滑油組成物においては、150℃におけるHTHS粘度に対する100℃におけるHTHS粘度の比が下記式(A)で表される条件を満たすことが好ましい。
HTHS(100℃)/HTHS(150℃)≦2.04 (A)
[式中、HTHS(100℃)は100℃におけるHTHS粘度を示し、HTHS(150℃)は150℃におけるHTHS粘度を示す。]
・・・・・・
【0019】
本発明の潤滑油組成物は、省燃費性と低蒸発性および低温粘度特性に優れており、ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも、150℃におけるHTHS粘度を維持しながら、省燃費性とNOACK蒸発量および-35℃以下における低温粘度とを両立させることができ、特に潤滑油の40℃および100℃の動粘度と100℃におけるHTHS粘度を低減し、-35℃におけるCCS粘度、(-40℃におけるMRV粘度)を著しく改善することができる。」

ウ 「【0023】
(潤滑油基油)
本発明の潤滑油組成物は、尿素アダクト値が4質量%以下、40℃における動粘度が14?25mm^(2)/s、粘度指数が120以上である第1の潤滑油基油成分、及び、40℃における動粘度が14mm^(2)/s未満である第2の潤滑油基油成分を含有し、潤滑油基油全量基準で、第1の潤滑油基油成分の含有量が10?99質量%、第2の潤滑油基油成分の含有量が1%?50質量%である潤滑油基油を含有する。
【0024】
第1の潤滑油基油成分は、尿素アダクト値、40℃における動粘度及び粘度指数が上記条件を満たすものであれば、鉱油系基油、合成系基油、または両者の混合物のいずれであってもよい。
【0025】
第1の潤滑油基油成分としては、粘度-温度特性、低温粘度特性および熱伝導性の要求を高水準で両立させることが可能であることから、ノルマルパラフィンを含有する原料油を、尿素アダクト値が4質量%以下、40℃における動粘度が14?25mm^(2)/s、粘度指数が120以上となるように、水素化分解/水素化異性化することにより得られる鉱油系基油または合成系基油、あるいは両者の混合物が好ましい。
【0026】
第1の潤滑油基油成分の尿素アダクト値は、粘度-温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善し、かつ高い熱伝導性を得る観点から、上述の通り4質量%以下であることが必要であり、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下、特に好ましくは2.0質量%以下、最も好ましくは1.5質量%以下である。また、潤滑油基油成分の尿素アダクト値は、0質量%でも良いが、十分な低温粘度特性と、より粘度指数の高い潤滑油基油を得ることができ、また脱ろう条件を緩和して経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。
【0027】
また、第1の潤滑油基油成分の40℃動粘度は、14?25mm^(2)/sであることが必要であり、好ましくは14.5?20mm^(2)/s、より好ましくは15?19mm^(2)/s、さらに好ましくは15?18mm^(2)/s以下、特に好ましくは15?17mm^(2)/s、最も好ましくは15?16.5mm^(2)/sである。ここでいう40℃における動粘度とは、ASTM D-445に規定される40℃での動粘度を示す。第1の潤滑油基油成分の40℃動粘度が25mm^(2)/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、第1の潤滑油基油成分の40℃動粘度が14mm^(2)/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
【0028】
第1の潤滑油基油成分の粘度指数は、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるよう、また低粘度であっても蒸発しにくいためには、その値は120以上であることが必要であり、好ましくは125以上、より好ましくは130以上、更に好ましくは135以上、特に好ましくは140以上である。粘度指数の上限については特に制限はなく、ノルマルパラフィン、スラックワックスやGTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油のような125?180程度のものや、コンプレックスエステル系基油やHVI-PAO系基油のような150?250程度のものも使用することができる。ただし、ノルマルパラフィン、スラックワックスやGTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油については、低温粘度特性を向上するために、180以下であることが好ましく、170以下であることがより好ましく、160以下であることがさらに好ましく、155以下であることが特に好ましい。
・・・・・・
【0035】
上記の製造方法により得られる第1の潤滑油基油成分においては、尿素アダクト値、40℃粘度及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たせば、その他の性状は特に制限されないが、第1の潤滑油基油成分は以下の条件を更に満たすものであることが好ましい。
【0036】
第1の潤滑油基油成分の100℃動粘度は、5.0mm^(2)/s以下であることが好ましく、より好ましくは4.5mm^(2)/s以下、さらに好ましくは4.3mm^(2)/s以下、さらに好ましくは4.2mm^(2)/s以下、特に好ましくは4.0mm^(2)/s以下、最も好ましくは3.9mm^(2)/s以下である。一方、当該100℃動粘度は、2.0mm^(2)/s以上であることが好ましく、より好ましくは3.0mm^(2)/s以上、さらに好ましくは3.5mm^(2)/s以上、特に好ましくは3.7mm^(2)/s以上である。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D-445に規定される100℃での動粘度を示す。潤滑油基油成分の100℃動粘度が5.0mm^(2)/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、2.0mm^(2)/s以下の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
【0037】
また、第1の潤滑油基油成分の流動点は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-12.5℃以下、更に好ましくは-15℃以下、最も好ましくは-17.5℃以下、特に好ましくは-20℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、その潤滑油基油成分を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下するおそれがある。また、第1の潤滑油基油成分の流動点は、好ましくは-50℃以上、より好ましくは-40℃以上、更に好ましくは-30℃以上、特に好ましくは-25℃以上である。流動点が前記下限値を下回ると、その潤滑油基油成分を用いた潤滑油全体の粘度指数が低下し、省燃費性を悪化させるおそれがある。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K 2269-1987に準拠して測定された流動点を意味する。
・・・・・・
【0041】
また、第1の潤滑油基油成分の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは320?390℃、より好ましくは330?380℃、更に好ましくは340?370℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは370?430℃、より好ましくは380?420℃、更に好ましくは390?410℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは400?470℃、より好ましくは410?460℃、更に好ましくは420?450℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは430?500℃、より好ましくは440?490℃、更に好ましくは450?480℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは450?520℃、より好ましくは460?510℃、更に好ましくは470?500℃である。
【0042】
また、第1の潤滑油基油成分の蒸留性状に関し、T90-T10は、好ましくは30?90℃、より好ましくは40?80℃、更に好ましくは50?70℃である。また、FBP-IBPは、好ましくは90?150℃、より好ましくは100?140℃、更に好ましくは110?130℃である。また、T10-IBPは、好ましくは10?60℃、より好ましくは20?50℃、更に好ましくは30?40℃である。また、FBP-T90は、好ましくは5?60℃、より好ましくは10?45℃、更に好ましくは15?35℃である。
【0043】
第1の潤滑油基油において、IBP、T10、T50、T90、FBP、T90-T10、FBP-IBP、T10-IBP、FBP-T90を上記の好ましい範囲に設定することで、低温粘度の更なる改善と、蒸発損失の更なる低減とが可能となる。なお、T90-T10、FBP-IBP、T10-IBP及びFBP-T90のそれぞれについては、それらの蒸留範囲を狭くしすぎると、潤滑油基油の収率が悪化し、経済性の点で好ましく
ない。
【0044】
また、本発明の第1の潤滑油基油の%Cpは、好ましくは80以上、より好ましくは82?99、更に好ましくは85?98、特に好ましくは90?97である。潤滑油基油の%Cpが80未満の場合、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、潤滑油基油の%Cpが99を超えると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0045】
また、本発明の第1の潤滑油基油の%CNは、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは1?12、特に好ましくは3?10である。潤滑油基油の%CNが20を超えると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、%CNが1未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0046】
また、本発明の第1の潤滑油基油の%CAは、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.1?0.5である。潤滑油基油の%CAが0.7を超えると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、本発明の潤滑油基油の%CAは0であってもよいが、%CAを0.1以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0047】
更に、本発明の第1の潤滑油基油における%CPと%CNとの比率は、%CP/%CNが7以上であることが好ましく、7.5以上であることがより好ましく、8以上であることが更に好ましい。%CP/%CNが7未満であると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、%CP/%CNは、200以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましく、25以下であることが特に好ましい。%CP/%CNを200以下とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
・・・・・・
【0052】
第2の潤滑油基油成分は、40℃における動粘度が14mm^(2)/s未満であれば特に制限されないが、鉱油系基油としては、例えば40℃における動粘度が14mm^(2)/s未満の溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、溶剤脱ろう基油などが挙げられる。
【0053】
また、合成系基油としては、40℃における動粘度が14mm^(2)/s未満の、ポリα-オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα-オレフィンが好ましい。ポリα-オレフィンとしては、典型的には、炭素数2?32、好ましくは6?16のα-オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1-オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。
【0054】
本発明においては、第2の潤滑油基油成分として、以下の要件を満たす潤滑油基油を用いることが特に好ましい。
【0055】
第2の潤滑油基油成分の40℃における動粘度は、14mm^(2)/s以下であることが必要であり、好ましくは13mm^(2)/s以下、より好ましくは12mm^(2)/s以下、さらに好ましくは11mm^(2)/s以下、特に好ましくは10mm^(2)/s以下である。一方、当該40℃動粘度は、5mm^(2)/s以上であることが好ましく、より好ましくは7mm^(2)/s以上、さらに好ましくは8mm^(2)/s以上、特に好ましくは9mm^(2)/s以上である。40℃における動粘度が5mm^(2)/s未満の場合には、潤滑部位における油膜保持性および蒸発性に問題を生ずるおそれがあるため好ましくない。また40℃における動粘度が14mm^(2)/s以上の場合には第1の潤滑油基油との併用効果が得られない。
【0056】
また、第2の潤滑油基油成分の粘度指数は、粘度-温度特性の観点から、80以上であることが好ましく、より好ましくは100以上、さらに好ましくは110以上、さらに好ましくは120以上、特に好ましくは128以上、好ましくは150以下、より好ましくは140以下、さらに好ましくは135以下である。粘度指数が80未満の場合には、有効な省エネルギー性能を得られないおそれがあり好ましくない。また、粘度指数を150以下とすることで低温特性に優れた組成物を得ることができる。
【0057】
また、第2の潤滑油基油成分の100℃における動粘度は、好ましくは3.5mm^(2)/s以下、より好ましくは3.3mm^(2)/s以下、さらに好ましくは3.1mm^(2)/s以下、さらに好ましくは3.0mm^(2)/s以下、特に好ましくは2.9mm^(2)/s以下、最も好ましくは2.8mm^(2)/s以下である。一方、当該40℃動粘度は、好ましくは2mm^(2)/s以上、より好ましくは2.3mm^(2)/s以上、さらに好ましくは2.4mm^(2)/s以上、特に好ましくは2.5mm^(2)/s以上である。潤滑油基油の100℃における動粘度が2mm^(2)/s未満の場合、蒸発損失の点で好ましくない。また、100℃における動粘度が3.5mm^(2)/sを超える場合には、低温粘度特性の改善効果が小さい。
【0058】
第2の潤滑油基油成分の尿素アダクト値は、粘度-温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善する観点から、4質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3.5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2.5質量%以下である。また、第2の潤滑油基油成分の尿素アダクト値は、0質量%でも良いが、十分な低温粘度特性、高い粘度指数および高い引火点の潤滑油基油を得ることができ、また異性化条件を緩和することができ経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1.0質量%以上である。
【0059】
また、第2の潤滑油基油成分の%Cpは、好ましくは70以上、より好ましくは82?99.9、更に好ましくは85?98、特に好ましくは90?97である。第2の潤滑油基油成分の%Cpが70未満の場合、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、第2の潤滑油基油成分の%Cpが99を超えると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0060】
また、第2の潤滑油基油成分の%CNは、好ましくは30以下、より好ましくは1?15、更に好ましくは3?10である。第2の潤滑油基油成分の%CNが30を超えると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、%CNが1未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0061】
また、第2の潤滑油基油成分の%CAは、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.1?0.5である。第2の潤滑油基油成分の%CAが0.7を超えると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、第2の潤滑油基油成分の%CAは0であってもよいが、%CAを0.1以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0062】
更に、第2の潤滑油基油成分における%CPと%CNとの比率は、%CP/%CNが7以上であることが好ましく、7.5以上であることがより好ましく、8以上であることが更に好ましい。%CP/%CNが7未満であると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、%CP/%CNは、200以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましく、25以下であることが特に好ましい。%CP/%CNを200以下とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
・・・・・・
【0067】
また、第2の潤滑油基油成分の流動点は、好ましくは-25℃以下、より好ましくは-27.5℃以下、更に好ましくは-30℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、潤滑油組成物全体の低温流動性が低下する傾向にある。
【0068】
また、第2の潤滑油基油成分の蒸留性状は、ガスクロマトグラフィー蒸留で、以下の通りであることが好ましい。
【0069】
第2の潤滑油基油成分の初留点(IBP)は、好ましくは285?325℃、より好ましくは290?320℃、更に好ましくは295?315℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは320?380℃、より好ましくは330?370℃、更に好ましくは340?360℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは375?415℃、より好ましくは380?410℃、更に好ましくは385?405℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは370?440℃、より好ましくは380?430℃、更に好ましくは390?420℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは390?450℃、より好ましくは400?440℃、更に好ましくは410?430℃である。また、T90-T10は、好ましくは25?85℃、より好ましくは35?75℃、更に好ましくは45?65℃である。また、FBP-IBPは、好ましくは70?150℃、より好ましくは90?130℃、さらに好ましくは90?120℃である。また、T10-IBPは、好ましくは10?70℃、より好ましくは20?60℃、更に好ましくは30?50℃である。また、FBP-T90は、好ましくは5?50℃、より好ましくは10?45℃、更に好ましくは15?40℃である。
【0070】
第2の潤滑油基油成分において、IBP、T10、T50、T90、FBP、T90-T10、FBP-IBP、T10-IBP、FBP-T90を上記の好ましい範囲に設定することで、低温粘度の更なる改善と、蒸発損失の更なる低減とが可能となる。なお、T90-T10、FBP-IBP、T10-IBP及びFBP-T90のそれぞれについては、それらの蒸留範囲を狭くしすぎると、潤滑油基油の収率が悪化し、経済性の点で好ましくない。
【0071】
本発明において、第2の潤滑油基油成分の含有量は、滑油基油全量を基準として、1質量%?50質量%、好ましくは10?48質量%、より好ましくは12?45質量%、さらに好ましくは15?40質量%、最も好ましくは18?36質量%である。当該含有割合が1質量%未満の場合には、必要とする低温粘度、省燃費性能が得られないおそれがあることとなり、また、50質量%を超えると潤滑油の蒸発損失が大きく、粘度増加等の原因となるため好ましくないこととなる。
【0072】
本発明の潤滑油組成物において、潤滑油基油は第1の潤滑油基油成分と第2の潤滑油基油成分とのみからなるものであってもよいが、第1の潤滑油基油成分及び第2の潤滑油基油成分の各含有量が上記範囲内である限りにおいて、第1の潤滑油基油成分及び第2の潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分をさらに含有してもよい。」

(2)実施例の記載
実施例には、上記第2 2.(1)オ.?カ.で指摘した事項が記載されている。

2.本願の発明が解決しようとする課題と「第1の潤滑油基油成分」及び「第2の潤滑油基油成分」の関係について
(1)本願の発明が解決しようとする課題について
上記第5 1.(1)ア.?イ.より、本願の発明が解決しようとする課題等については、以下の点を理解することができる。
ア.従来、潤滑油の分野では、高度精製鉱油等の潤滑油基油に粘度指数向上剤、流動点降下剤等の添加剤を配合することによって、潤滑油の粘度-温度特性や低温粘度特性の改善が図られており、その潤滑油基油及び潤滑油の低温粘度特性の評価指標としては、流動点、曇り点、凝固点などが一般的で、ノルマルパラフィンやイソパラフィンの含有量等の潤滑油基油に基づき低温粘度特性を評価する手法も知られていた(【0002】?【0003】)。
近時、潤滑油に求められる省燃費性は益々高くなっており、従来の潤滑油基油および粘度指数向上剤は粘度-温度特性及び低温粘度特性の点で必ずしも十分とは言えず、高温高せん断粘度を維持しながら、省燃費性と、低温粘度(CCS粘度、MRV粘度等)を高いレベルで両立することは困難である。単に、低温粘度を向上するだけであれば、合成油や低粘度鉱油系基油などの低温粘度に優れる潤滑油基油を併用すれば可能となるが、上記合成油は高価であり、低粘度鉱油系基油は一般的に粘度指数が低くNOACK蒸発量が高いため、それらの潤滑油基油を配合すると、潤滑油の製造コストが増加し、あるいは、高粘度指数化及び低蒸発性を達成することが困難となる。また、これら従来の潤滑油基油を用いた場合であっても、省燃費性の改善には限界があった(【0005】?【0006】)。
イ.本願発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、省燃費性と低温粘度に優れ、高温高せん断粘度を維持しながら、省燃費性と-35℃以下における低温粘度とを両立することができ、特に潤滑油の150℃のHTHS粘度を一定に維持しつつ、100℃におけるHTHS粘度を低減し、-35℃以下におけるCCS粘度を著しく改善できる高粘度指数の潤滑油組成物を提供することを目的として(【0007】)、かかる課題を解決する手段として、本願発明の構成を採用したものである(【0008】?【0018】)。
ウ.本願発明によれば、省燃費性と低蒸発性および低温粘度特性に優れており、ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも、150℃におけるHTHS粘度を維持しながら、省燃費性とNOACK蒸発量および-35℃以下における低温粘度とを両立させることができ、特に潤滑油の40℃および100℃の動粘度と100℃におけるHTHS粘度を低減し、-35℃におけるCCS粘度、(-40℃におけるMRV粘度)を著しく改善することができるようになる、という効果を奏する(【0019】)。

(2)「150℃のHTHS粘度」、「100℃におけるHTHS粘度」及び「-35℃以下におけるCCS粘度」の影響因子について
前記第5 2.(1)のとおり、本願発明は、潤滑油の「150℃のHTHS粘度」を一定に維持しつつ、「100℃におけるHTHS粘度」を低減し、「-35℃以下におけるCCS粘度」を著しく改善できる高粘度指数の潤滑剤組成物の提供を課題とするところ、これらの特性等は、上記第5 1.(1)ウ.より、当該潤滑油組成物のうち、「第1の潤滑油基油成分」、及び「第2の潤滑油基油成分」の以下の物性と密接な関係があることを理解することができる。
「第1の潤滑油基油成分」
・尿素アダクト値(【0026】)
・40℃における動粘度(【0027】)
・粘度指数(【0028】)
・100℃における動粘度(【0036】)
・流動点(【0037】)
・蒸留状態(【0041】?【0043】)
・%C_(P)、%C_(N)、%C_(A)、%C_(P)/%C_(N)(【0044】?【0047】
「第2の潤滑油基油成分」
・40℃における動粘度(【0055】)
・粘度指数(【0056】)
・100℃における動粘度(【0057】)
・尿素アダクト値(【0058】)
・%C_(P)、%C_(N)、%C_(A)、%C_(P)/%C_(N)(【0059】?【0062】
・流動点(【0067】)
・蒸留状態(【0069】?【0070】)

(3)実施例について
本願明細書の【実施例】(上記第2 2.(1)オ.?カ.)には、WAX1?3を原料油とした、「第1の潤滑油基油成分」(基油1?3)及び「第2の潤滑油基油成分」(基油4)が、WVGOを原料とした比較例(基油5?6)とともに実施例として開示され、【表4】及び【表5】には、「第1の潤滑油基油成分」及び「第2の潤滑油基油成分」の物性(尿素アダクト値、粘度指数、飽和分・芳香族分等の基油組成をはじめ、動粘度、流動点といった種々の物性)が記載されると共に、【表6】には、「第1の潤滑油基油成分」、「第2の潤滑油基油成分」に、添加剤パッケージ(PK)、粘度指数向上剤(VM-1?VM-3)を含む潤滑油組成物が示されている。

3.検討、判断
前記第5 2.(2)のとおり、本願発明の課題に関連する潤滑油組成物の「150℃のHTHS粘度」、「100℃におけるHTHS粘度」及び「-35℃以下におけるCCS粘度」は、当該潤滑油組成物の「第1の潤滑油基油成分」の「尿素アダクト値」、「40℃における動粘度」、「粘度指数」のみならず、「100℃における動粘度」をはじめとする種々の物性、ならびに「第2の潤滑油基油成分」の「40℃における動粘度」のみならず、「粘度指数」、「尿素アダクト値」等に影響されるものであることから、「第1の潤滑油基油成分」の「尿素アダクト値」、「40℃における動粘度」、「粘度指数」、ならびに「第2の潤滑油基油成分」の「40℃における動粘度」のみに基づいて、本願発明の潤滑油組成物が「150℃のHTHS粘度」、「100℃におけるHTHS粘度」及び「-35℃以下におけるCCS粘度」の点で優れたものであるかを評価することはできないと解するのが合理的である。
そして、本願明細書の実施例(前記第5 2.(3))をみると、実施例に係る「第1の潤滑油基油成分」及び「第2の潤滑油基油成分」は、「150℃のHTHS粘度」を一定に維持しつつ、「100℃におけるHTHS粘度」を低減し、「-35℃以下におけるCCS粘度」を著しく改善するという本願発明の課題をおおよそ解決することができていると解することもできるが、そのような結果は、確かに「尿素アダクト値」に依拠するところがあるとしても、例えば、「第1の潤滑油基油成分」の100℃における動粘度を【0036】記載の好適な数値範囲内にし、「第2の潤滑油基油成分」についても粘度指数を【0056】記載の好適な範囲内にするなど、上記の「影響因子」が相当程度に最適化されているという前提があってのことと理解すべきである。
加えて、「第1の潤滑油基油成分」の「尿素アダクト値」、「40℃における動粘度」、「粘度指数」を最適化し、「第2の潤滑油基油成分」の「40℃における動粘度」もあわせて最適化しさえすれば、「第1の潤滑油基油成分」及び「第2の潤滑油基油成分」の他の物性について、必然的に最適化されることになり、結果としてこれらの最適化をことさら要しない、という技術常識も存しない。
そうすると、本願発明の課題に関連する上記「150℃のHTHS粘度」、「100℃におけるHTHS粘度」及び「-35℃以下におけるCCS粘度」は、単に「第1の潤滑油基油成分」の「尿素アダクト値」、「40℃における動粘度」、「粘度指数」、ならびに「第2の潤滑油基油成分」の「40℃における動粘度」のみをもって、特性を評価できるものではなく、「第1の潤滑油基油成分」の「尿素アダクト値」、「40℃における動粘度」、「粘度指数」以外の物性、ならびに「第2の潤滑油基油成分」の「40℃における動粘度」以外の物性も含めなければ、本願発明の課題である「150℃のHTHS粘度」、「100℃におけるHTHS粘度」及び「-35℃以下におけるCCS粘度」の点で優れたものであると判断することはできないというほかない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識を参酌して、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲は、当該潤滑油組成物において、「第1の潤滑油基油成分」の「尿素アダクト値」、「40℃における動粘度」、「粘度指数」に加え、上記第5 2.(2)で指摘した物性、ならびに「第2の潤滑油基油成分」の「40℃における動粘度」に加え、上記第5 2.(2)で指摘した物性の範囲であり、それ以外の本願発明に含まれる潤滑油組成物についてまで、本願発明の課題を解決できるものとして当業者が認識できるとはいえない。
よって、本願発明の特許請求の範囲は、本願明細書の発明の詳細な説明の課題を解決できると認識できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超える発明が記載されていることになるから、サポート要件を満たしていない。

4.審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、拒絶査定時の理由が第2の潤滑油基油成分や他の潤滑油基油成分の尿素アダクト値を規定せず、潤滑油基油成分全体における「ノルマルパラフィン及び特定のイソパラフィン」の含有量の数量的な規定をしていないことを根拠としており、平成28年3月23日付け拒絶理由通知における本願発明と課題の解決との関係(作用機序)が記載されていないことを根拠としたものとは、サポート要件の理由が異なっており、特許法第50条に違背する旨主張している。
しかしながら、本願発明と本願の解決しようとする課題との関係については、上記第5 3.のとおりであるから、審判請求人の主張は認められない。

5.小括
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定に適合するものではないから、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-29 
結審通知日 2017-07-04 
審決日 2017-07-19 
出願番号 特願2015-146751(P2015-146751)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C10M)
P 1 8・ 561- Z (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一馬籠 朋広  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 日比野 隆治
佐々木 秀次
発明の名称 潤滑油組成物及びその製造方法  
代理人 阿部 寛  
代理人 吉住 和之  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 平野 裕之  
代理人 清水 義憲  
代理人 黒木 義樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ