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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F |
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管理番号 | 1332057 |
審判番号 | 不服2016-18695 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-12-12 |
確定日 | 2017-09-07 |
事件の表示 | 特願2014-255613「表示機器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月11日出願公開、特開2015-109092〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は,平成23年5月27日に出願した特願2011-119688号の一部を平成26年12月17日に新たな特許出願としたものであって,平成27年11月13日付け拒絶理由通知に対して平成28年1月18日に意見書及び手続補正書が提出され,平成28年3月22日付け拒絶理由通知(最後)に対して平成28年5月27日に意見書及び手続補正書が提出され,平成28年9月7日付けで平成28年5月27日に提出された手続補正書による手続補正が却下されるとともに同日付けで拒絶査定がなされ,これを不服として平成28年12月12日に審判請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。 第2 補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成28年12月12日に提出された手続補正書による手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本願発明と補正後の発明 本件補正は,平成28年1月18日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項6に記載された 「視認空間に表示物を視認させる表示部と, 前記視認空間において第1物体及び第2物体を検出する検出部と, 前記視認空間に対して仮想の重力を設定し, 前記第1物体と前記第2物体との間に前記表示物が位置することが検出された場合に,当該表示物を選択状態とし, 前記選択状態で,当該第1物体と当該第2物体との距離が離れたことに基づいて当該選択状態が解除されると,前記仮想の重力に応じて前記表示物を変化させる制御部と を備えることを特徴とする表示機器。」 という発明(以下,「本願発明」という。)を,補正後の特許請求の範囲の請求項5に記載された 「視認空間に表示物を視認させる表示部と, 前記視認空間において第1物体及び第2物体を検出する検出部と, 前記視認空間に対して仮想の重力を設定し, 前記第1物体と前記第2物体との間に前記表示物が位置することが検出された場合に,当該表示物を選択状態とし, 前記選択状態で,当該第1物体と当該第2物体との距離が離れたことに基づいて当該選択状態が解除されると,前記仮想の重力に従って,実際の重力が働く場合よりもゆっくりと前記表示物を移動させる制御部と を備えることを特徴とする表示機器。」 という発明(以下,「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。 2 新規事項の有無,シフト補正の有無,補正の目的要件について 本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲若しくは図面に記載した事項の範囲内において,補正前の特許請求の範囲の請求項6に記載された「制御部」について,「前記仮想の重力に応じて前記表示物を変化させる」とあったのを「前記仮想の重力に従って,実際の重力が働く場合よりもゆっくりと前記表示物を移動させる」と限定することにより特許請求の範囲を限定的に減縮するものであって,特許法第17条の2第3項(新規事項)及び特許法第17条の2第5項第2号(補正の目的)の規定に適合している。 また,特許法第17条の2第4項(シフト補正)に違反するものでもない。 3 独立特許要件について 本件補正は特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるから,上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。 (1)補正後の発明 上記「1 本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。 (2)引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された,木村朝子外3名,空間型作業での選択・移動操作に適した道具型デバイスの機能設計と評価,情報処理学会論文誌 論文誌ジャーナル[CD-ROM],日本,社団法人情報処理学会,2010年2月15日,第51巻,第2号,第314?323頁(以下,「引用例」という。)には,以下の事項が記載されている。 ア 「 そこで本研究では,だれもが直観的に利用でき,様々な空間型作業(ここでいう「空間型」は複合現実感(Mixed Reality;MR)技術を利用する立体視可能なシステムや,プロジェクタ投影タイプ,テーブルトップ型のシステムを含む)に幅広く用いられ,対話操作を円滑にする道具型の対話デバイスの開発を行っている.」(「1.はじめに」の項,第314頁右欄第15?18行) イ 「(1)選択・移動:実世界で手やピンセットを使って物体を把持・移動するのと同様の感覚で2次元/3次元空間中の仮想物体(CG)を選択・移動する.」(「2.道具型デバイス」「2.3 想定する操作内容」の項,第315頁右欄下から2行?最下行) ウ 「[内部機構] 図4にピンセット型デバイスの内部構造を示す.ピンセット型デバイスを使って空間に配置された仮想物体を選択・移動するためには,まず以下の2つの機能が必要である. (1)位置姿勢検出機構:仮想物体がピンセット型デバイスで挟める(選択できる)位置にあるかどうかを判定したり,ピンセット型デバイスで選択した仮想物体をデバイスに追従して表示したりする機能. (2)挟み幅検出機構:仮想物体を挟んだか判定するため,ピンセット型デバイスの挟み幅を検出する機能. 試作デバイスでは,(1)用にPolhemus社製の磁気センサ3SPACE FASTRAKを,(2)用に一般的な回転式ポテンショメータを内蔵する.実物のピンセットでは,挟むモノの大きさに応じて,必要な挟み幅が変わる.ピンセット型デバイスでも,仮想物体が大きい場合はデバイスを少し閉じるだけで選択でき,小さい場合は挟み幅がその仮想物体の大きさと同じになるまで選択されないよう,デバイスの挟み幅は64段階で取得する.」(「3.ピンセット型デバイス」「3.2 ピンセット型デバイスの設計と試作」の項,第317頁右欄第1?13行) エ 「3.3 ピンセット型デバイスを用いたインタラクション 3.2節で述べたピンセット型デバイスを用いることで,以下のようなインタラクションが可能である. (a)選択(掴む):ピンセット型デバイスで仮想物体を挟むことでその物体の選択を行う.デバイスの3次元位置は磁気センサより取得可能であるため,3次元空間内に配置/移動している仮想物体を直接選択することができる. ・・・(中略)・・・ (c)選択解除(放す):仮想物体を把持している力を緩め,デバイスの先端を開くことにより,仮想物体を放すことができる.この際,仮想物体をその場で放す,卓上などに落とす,投げるなどの操作が考えられる.」(「3.ピンセット型デバイス」の項,第318頁右欄第1?15行) オ 「4.体験システム 4.1 システム構成 ピンセット型デバイスの機能を検証するために,作業空間をMR空間としたテストベッド,すなわち試作したピンセット型デバイスでMR空間中の仮想物体を選択,移動・回転,選択解除することが可能なシステムを構築した(図6).ピンセット型デバイスの入出力制御は,デバイス制御用I/O BOXを介してデバイス制御用PC(Panasonic製 Let's note R5)からシリアル通信で行う.ピンセット型デバイスと仮想物体が選択可能な位置関係にあるか,仮想物体を選択したかどうかは3.2節で述べたデバイス内蔵の磁気センサとポテンショメータの情報をもとに判断する.ピンセット型デバイスが仮想物体を選択するとLEDが選択した物体に応じた色に点灯,効果音が再生,振動モータの稼働,物体の大きさに応じた開口角度での反力提示がデバイス制御用I/O BOXを通じて行われる.MR空間の提示は,キヤノン製のMRプラットフォーム・システムを用い,ユーザはビデオシースルー型HMD(Canon VH-2002)を装着することで,現実世界の光景とCGの実時間合成結果を確認することができる. 4.2 体験内容 ・・・(中略)・・・ 体験システムでは,体験者がピンセット型デバイスでCGのゴミを選択する(図7(a))と,スピーカから効果音(ごみの悲鳴)が提示され,選択されたごみは各々に設定されたアニメーション(缶がつぶれる,暴れるなど)を行う.ごみが暴れるアニメーションの際には,その動きに応じて振動を提示する.体験者は挟んだごみを対応するごみ箱の上で放すことで分別を行う(図7(b)).ごみは,放り投げることも可能である.」(「4.体験システム」の項,第318頁右欄第16行?第319頁左欄最下行) 上記摘記事項,図面の記載及びこの分野における技術常識を勘案すると,次の技術事項を読み取ることができる。 a 図6の「システム構成」は,「MR技術を利用する立体視可能なシステム」(摘記事項ア)の構成を示すものであり,該「システム」は「HMD」や「ピンセット型デバイス」を備えている。 b 「MR空間の提示」(摘記事項オ)のために,「ユーザはビデオシースルー型HMD(Canon VH-2002)を装着することで,現実世界の光景とCGの実時間合成結果を確認することができる」(摘記事項オ)から,上記「HMD」は「MR空間を提示し,現実世界の光景とCGの実時間合成結果を確認することができるビデオシースルー型HMD」である。 c 「ピンセット型デバイスを使って空間に配置された仮想物体を選択・移動するために」,「(1)位置姿勢検出機構:仮想物体がピンセット型デバイスで挟める(選択できる)位置にあるかどうかを判定したり,ピンセット型デバイスで選択した仮想物体をデバイスに追従して表示したりする機能」及び「(2)挟み幅検出機構:仮想物体を挟んだか判定するため,ピンセット型デバイスの挟み幅を検出する機能」が必要であり,「(1)用にPolhemus社製の磁気センサ3SPACE FASTRAK」を備え,「(2)用に一般的な回転式ポテンショメータを内蔵する」(摘記事項ウ)から,上記「ピンセット型デバイス」は「仮想物体がピンセット型デバイスで挟める(選択できる)位置にあるかどうかを判定する磁気センサ及び仮想物体を挟んだか判定するためにピンセット型デバイスの挟み幅を検出する回転式ポテンショメータ」を備えている。 d 「体験者がピンセット型デバイスでCGのゴミを選択すると,スピーカから効果音(ごみの悲鳴)が提示され,選択されたごみは各々に設定されたアニメーション(缶がつぶれる,暴れるなど)を行う」ものである(摘記事項オ参照)。 e 「仮想物体を把持している力を緩め,デバイスの先端を開くことにより,仮想物体を放すことができ」,「卓上などに落とす」ことができるものである(摘記事項エ参照)。 上記技術事項を総合すると,引用例には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「MR空間を提示し,現実世界の光景とCGの実時間合成結果を確認することができるビデオシースルー型HMDと,ピンセット型デバイスとを備え, 上記ピンセット型デバイスは,仮想物体がピンセット型デバイスで挟める(選択できる)位置にあるかどうかを判定する磁気センサ及び仮想物体を挟んだか判定するためにピンセット型デバイスの挟み幅を検出する回転式ポテンショメータを備え, 体験者がピンセット型デバイスでCGのゴミを選択すると,スピーカから効果音(ごみの悲鳴)が提示され,選択されたごみは各々に設定されたアニメーション(缶がつぶれる,暴れるなど)を行い, 仮想物体を把持している力を緩め,デバイスの先端を開くことにより,仮想物体を放すことができ,卓上などに落とすことができる, MR技術を利用する立体視可能なシステム。」 (3)対比 補正後の発明と引用発明とを対比する。 a 引用発明の「現実世界の光景」,「CG(のゴミ)」もしくは「仮想物体」は,それぞれ,「視認空間」,「表示物」といえ,また,引用発明の「HMD」が「Head Mount Display(頭部装着ディスプレイ)」の略であることは技術常識であるところ, 引用発明の「MR空間を提示し,現実世界の光景とCGの実時間合成結果を確認することができるビデオシースルー型HMD」は,補正後の発明の「視認空間に表示物を視認させる表示部」に相当する。 b 引用発明では,「磁気センサ」により「仮想物体がピンセット型デバイスで挟める(選択できる)位置にあるかどうかを判定」し,「回転式ポテンショメータ」により「仮想物体を挟んだか判定」することから,引用発明の「磁気センサ」と「回転式ポテンショメータ」が,仮想物体を挟むための「ピンセット型デバイス」の2つの「先端」を検出していることは明らかであるところ, 引用発明の当該2つの「先端」,「磁気センサ」と「回転式ポテンショメータ」は,それぞれ,補正後の発明の「第1物体と第2物体」,「前記視認空間において第1物体及び第2物体を検出する検出部」に相当する。 c 引用発明において,「体験者がピンセット型デバイスでCGのゴミを選択すると,スピーカから効果音(ごみの悲鳴)が提示され,選択されたごみは各々に設定されたアニメーション(缶がつぶれる,暴れるなど)を行」うことは,補正後の発明の「前記第1物体と前記第2物体との間に前記表示物が位置することが検出された場合に,当該表示物を選択状態と」することに相当する。 d 引用発明において,「仮想物体を把持している力を緩め,デバイスの先端を開くことにより,仮想物体を放すことができ,卓上などに落とすことができる」ことは,補正後の発明の「前記選択状態で,当該第1物体と当該第2物体との距離が離れたことに基づいて当該選択状態が解除されると」,「前記表示物を移動させる」ことに相当する。 e 上記c,dで述べたような引用発明の処理や動作が,システムの「制御部」により実行されることは明らかである。 f 引用発明の「MR技術を利用する立体視可能なシステム」は「表示機器」といえる。 以上をまとめると,両発明は以下の点で一致し,また,相違する。 (一致点) 「視認空間に表示物を視認させる表示部と, 前記視認空間において第1物体及び第2物体を検出する検出部と, 前記第1物体と前記第2物体との間に前記表示物が位置することが検出された場合に,当該表示物を選択状態とし, 前記選択状態で,当該第1物体と当該第2物体との距離が離れたことに基づいて当該選択状態が解除されると,前記表示物を移動させる制御部と を備えることを特徴とする表示機器。」 (相違点) 一致点の「制御部」が, 補正後の発明では,「前記視認空間に対して仮想の重力を設定」し,選択状態が解除されると,「前記仮想の重力に従って,実際の重力が働く場合よりもゆっくりと前記表示物を移動させる」のに対し, 引用発明では,「デバイスの先端を開くことにより,仮想物体を放すことができ,卓上などに落とすことができる」ものである点。 (4)判断 上記相違点につき検討する。 引用発明のシステムは,「実世界で手やピンセットを使って物体を把持・移動するのと同様の感覚で2次元/3次元空間中の仮想物体(CG)を選択・移動する」(摘記事項イ)ことを想定しているところ,引用発明において「デバイスの先端を開くことにより,仮想物体を放すことができ,卓上などに落とす」ことは,「ごみは,放り投げることも可能である」(摘記事項オ)ことも考慮すれば,「実世界」の「重力」を模しているものと解するのが自然である。 そうすると,引用発明において,「仮想物体」を「卓上などに落とす」ことを,本願発明のように「前記視認空間に対して仮想の重力を設定」することにより行うことは,当業者であれば容易になし得たものである。 さらにそのうえで,引用発明のシステムは,「仮想物体」に各種アニメーション(缶がつぶれる,暴れるなど)を施す等することによって「仮想物体」の動きを「実世界」とは異なる「仮想」の世界での動きとして立体視可能としているものであることも勘案すれば,上記「仮想の重力」を「実際の重力が働く場合よりもゆっくりと前記表示物を移動させる」ような「仮想の重力」とすることも当業者が適宜なし得たものである。 そして,補正後の発明が奏する効果も引用発明から容易に予測できる範囲内のものである。 (5)まとめ 以上のとおり,補正後の発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反するので,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2 補正却下の決定 1 本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。 2 引用発明 引用発明は,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3 独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。 3 対比・判断 本願発明は上記補正後の発明から当該本件補正に係る限定を省いたものである。 そうすると,本願発明の構成に当該本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3 独立特許要件について」の項で検討したとおり,引用発明に基づいて容易に発明できたものであるから,本願発明も同様の理由により,容易に発明できたものである。 4 むすび 以上のとおり,本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-07-10 |
結審通知日 | 2017-07-11 |
審決日 | 2017-07-24 |
出願番号 | 特願2014-255613(P2014-255613) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G06F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上嶋 裕樹、萩島 豪 |
特許庁審判長 |
和田 志郎 |
特許庁審判官 |
稲葉 和生 新川 圭二 |
発明の名称 | 表示機器 |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |