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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1332081
審判番号 不服2016-11381  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-28 
確定日 2017-09-06 
事件の表示 特願2013-520249「修飾された単一ドメイン抗原結合分子及びその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月19日国際公開、WO2012/007880、平成25年 9月19日国内公表、特表2013-536175〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成23年7月6日(パリ条約による優先権主張 平成22年7月16日 米国)を国際出願日とする出願であって、 平成28年3月16日付けで拒絶査定がなされ、同年7月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日に手続補正書が提出されたものである。
本願の請求項1?30に係る発明は、平成28年7月28日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?30に記載の事項により特定される発明であり、そのうち、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載される以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
修飾された単一ドメイン抗原結合(SDAB)分子であって、
(i)1つ又は複数の標的に結合する、1つ又は複数の単一抗原結合ドメインと、
(ii)非ペプチドリンカーと、
(iii)1つ又は複数のポリマー分子と、
を含み、該非ペプチドリンカーが式(I):


(式中、
W^(1)及びW^(2)はそれぞれ独立して、結合又はNR^(1)から選択され、
Yは結合、0?2個のR^(a)で置換されたC1?4アルキレン、又はピロリジン-2,5-ジオンであり、
XはO又は結合であり、
ZはO、NR^(3)、S、又は結合であり、
R^(1)及びR^(3)はそれぞれ独立して、水素又はC1?6アルキルであり、
R^(2)は1つ若しくは複数のポリマー部分であり、
R^(a)はヒドロキシル、C1?4アルキル又はC1?4アルコキシから選択され、
mは0又は1であり、
nは0、1、2又は3であり、
pは0、1、2又は4である)の部分であり、1つ又は複数のポリマー分子がポリ(エチレングリコール)(PEG)モノマー又はその誘導体を含み、そしてPEGポリマー分子が分岐している、単一ドメイン抗原結合分子。」

第2 原査定の概要
原査定は、請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という理由を含むものである。

第3 当審の判断
1.引用文献1
拒絶査定において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2006/122786号(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるから、引用文献1のパテントファミリーである特表2008-539772号公報の記載を翻訳文とする。また、下線は当審による。

ア 「【請求項1】
四つのフレームワーク領域(それぞれFR1からFR4)および三つの相補性決定領域(それぞれCDR1からCDR3)からなるTNF‐アルファに対するナノボディであって:
d)CDR1が:
- アミノ酸配列DYWMY;または
- アミノ酸配列DYWMYと少なくとも80%、好ましくは少なく とも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらに好ましく は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列;または
- アミノ酸配列DYWMYと1つだけアミノ酸が異なるアミノ酸配 列;
を含み、
e)CDR2が:
- アミノ酸配列EINTNGLITKYPDSVKG;または
- アミノ酸配列EINTNGLITKYPDSVKGと少なくとも 80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくと も95%、さらに好ましく
は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列;または
- アミノ酸配列EINTNGLITKYPDSVKGと2つ、また は1つだけアミノ酸が異なるアミノ酸配列;
を含み、
f)CDR3が:
- アミノ酸配列SPSGFN;または
- アミノ酸配列SPSGFNと少なくとも80%、好ましくは少な くとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらに好まし くは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列;また は
- アミノ酸配列SPSGFNと1つだけアミノ酸が異なるアミノ酸 配列、
を含む、
ナノボディ。
・・・・
【請求項40】
請求項1?39のいずれかに記載のナノボディを含む、または主成分とするタンパク質またはポリペプチド。
・・・・
【請求項42】
請求項1?39のいずれかに記載の2つのナノボディを含む、請求項40?41のいずれかに記載のタンパク質またはポリペプチド。
・・・・
【請求項50】
前記ポリペプチドTNF55(配列番号:419)もしくはTNF56(配列番号:420)を含むか、または主成分とする、請求項42?49のいずれかに記載のタンパク質あるいはポリペプチド。
【請求項51】
ペグ化された、請求項40?49のいずれかに記載のタンパク質またはポリペプチド。」(特許請求の範囲)

イ 「実施例56: 二価長半減期ヒト化Nanobody(商標)の発現および精製
ピキア・パストリスにおける産生
実施例49を参照されたい。

二価ナノボディの精製
遠心分離および0.22μm のろ紙によるろ過で培地を無細胞状態にした。該滅菌培地を4℃で保存し、さらに処理した。低分子汚染物質を、10kDaの限外ろ過(UF)膜(HydroSart Sartocon Slice Cassette ,Sartorius)で以下のように限外ろ過することで削減した:4Lの培地を0.5?1Lに濃縮し、次いで5LのPBSで希釈し、0.5Lに再度濃縮した。この作業を2回行った。
UFの残留物をナイロン製47mmの0.45μm膜(Alltech #2024)でろ過した。
次のステップでは、プロテインAアフィニティー精製(MabSelectXtraTM、GE Healthcareを使用)で、濃縮培地から二価のNanobody(商標)を得た。カラム[35X100mm]をPBS中で平衡化し、試料添加後、PBSで広範囲に洗浄した。TNF56をグリシン[100mM、pH=2.5]で溶出した。
MabSelectXtraTMの溶出画分を、Tris [1,5M、pH8,8] で中和し、4℃で保存した。TNF56を濃縮し、Source 30Q(GE Healthcare)を使用し、AEX( A=10mMのピペラジン(pH10,8)およびB=1MのNaClを含む50mMのTris(pH 7,5))で精製した。この目的を達成するため、Nanobody(商標)画分を、伝導率が5mS/cmになるまで、Aバッファー(10mMのピペラジン(pH10,8))で希釈し、pHを10,8に調整した。カラム[25X100mm]をAバッファー中で平衡化し、試料をカラムに添加した。TNF56を5カラム容量(column volume:CV)の勾配で溶出した。回収した画分のpHを、1MのTris(pH=7.8)を用いて7.8に調製した。

ピキア・パストリスで発現した二価Nanobody(商標)のペグ化
C末端システインの還元
ジチオスレイトール(DTT、Aldrich Cat 15,046-0)を中和画分に添加し、Nanobody(商標)(通常およそ20%)のカルボキシ末端システイン間に形成した潜在的なジスルフィド架橋を還元した。DTTの終濃度は10mM、およびインキュベートは4℃一晩が最適であることが分かった。分析的サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で還元を評価した。したがって、25μlの還元Nanobody(商標)を75μlのD‐PBSに添加し、DulbeccoのPBS(D‐PBS、Gibco(商標)、REF 14190?094)中で平衡化したSup75 10/300 GLカラムで注入した。
非還元Nanobody(商標)およびDTTを、D‐PBS中で平衡化したHiload 26/60 Superdex75 prep gradeカラムで、調製SECによって除去した。
280nmで吸光度を測定し、還元Nanobody商標)の濃度を測定した。Uvikon 943 Double Beam UV/VIS分光光度計(使用法:SOP ABL-0038を参照)を使用した。245?330nmでの波長走査で吸収を測定した。Quartz Suprasil(登録商標)セルで調製した二つの精密なセルを使用した(Hellma、型番:104-QS;光路長:10mm)。初めに、280nmで、900μlのD‐PBSが入った2つのセルを設置して、ブランクの吸収を測定した。最初のセルに100 l の試料を添加し、試料を希釈した(1/10)。試料の吸収を280nmで測定した。
濃度を以下の式で算出した:
TNF55では:ε=1,85
TNF56では:ε=1,83

ペグ化
Nanobody(商標)をペグ化するために、新しく調製した1mMのPEG40溶液の5倍モル濃度のものを還元Nanobody(商標)溶液に添加した。
(NEKTAR(商標)のTransforming Therapeutics(2D3YOTO1)Mw=40,000g/molのMPEG2-MAL-40K;NEKTAR(商標)のTransforming Therapeutics(2D3YOVO1)Mw=60,000g/molのMPEG2-MAL-60K)
Nanobody(商標)‐PEG混合物を、室温(RT)で1時間軽く攪拌しながらインキュベートした後、4°C に移した。分析的SECによってペグ化を評価した。したがって、25μlのNanobody(商標)を75μlのD‐PBSに添加し、D‐PBS中で平衡化したSup75HR 10/300カラムで注入した。ペグ化Nanobody(商標)は、カラムの体積を排除した範囲(>75kDa)で溶出した。
ペグ化および非ペグ化Nanobody(商標)を陽イオン交換クロマトグラフィー(Source30Sを用いたCEX、GE Healthcare;Aバッファー=25mMのクエン酸、pH=4およびB=1MのNaClを含むPBS)によって分離した。伝導率が<5mS/cmになるように試料を希釈し、pHを4,0に調整した。カラム[25X100mm]を平衡化し、試料添加後、Aバッファーで広範囲に洗浄した。ペグ化Nanobody(商標)を3 CV勾配で溶出した。D‐PBSで平衡化したHiload 26/60 Superdex 75 prep gradeカラムでSECによって、回収したNanobody(商標)をD‐PBSへとバッファー交換した。
最後に陰イオン交換カラム(Source30Q)を経由した方法でNanobody(商標)からLPSを除去した。カラム(10x100mm)をNaOH[1M]中で一晩消毒し、その後、エンドトキシンを含まないD-PBS中で平衡化した。」(第257頁25行?第259頁29行)

ウ 「実施例57: 二価長半減期ヒト化Nanobody(商標)の特徴づけ
生化学的特徴づけ
TNF55は260個のアミノ酸から成る。タンパク質の分子量は、27,106Daである。pIは8.67である。280nmでの吸光係数は1.850である。
TNF56は264個のアミノ酸から成る。タンパク質の分子量は、27,365Daである。pIは8.67である。280nmでの吸光係数は1.830である。

質量分光光度法
TNF55の理論的質量は27,106Daである。TNF55‐ビオチンタンパク質は2つのS‐S 架橋を有し、ビオチンを変性すると質量は、ESI‐MSの測定で27,627Daになることが好ましい。TNF55‐ビオチンの質量を実験的に測定すると、27,627Daである。
TNF56の理論的質量は27,365Daである。TNF55‐ビオチンタンパク質は2つのS‐S 架橋を有し、ビオチンを変性すると質量は、ESI‐MSの測定で27,886Daになることが好ましい。TNF55‐ビオチンの質量を実験的に測定すると、27,886Daである。

N末端配列
TNF56‐PEG40のN末端配列決定により、最初の7個のアミノ酸に対するタンパク質配列はEVQLVESであることが分かった。これは理論的タンパク質配列と一致し、N末端処理が適切であることを示す。

分析的サイズ決定
PBS中でのTNF56‐PEG40分析的サイズ決定では、左右対称のピークが出現する。汚染物質は見られなかった。観察された保持時間は、Superdex HR 75では8.5mlで、Superdex HR 200では10.32mlである。代表的なプロファイルを図51および52に示す。」(第260頁16行?第261頁10行)

2.参考文献3
拒絶査定において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2004/060966号(以下、「参考文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるから、参考文献3のパテントファミリーである特表2006-522167号公報の記載を翻訳文とする。また、下線は当審による。

エ 「例えば、Nektar(Huntsville, AL)から得られるmPEG2-MAL-40K、以下の構造VII:

は、対応するマレアミド酸を形成するための或る特定の条件下で、極めて制限された度合いのマレイミド環の加水分解を受ける。」(第23頁末行?第24頁2行)

3.引用発明
上記ア?ウの記載より、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「TNF‐アルファに対するナノボディTNF56(配列番号:420)をNEKTAR(商標)のTransforming Therapeutics(2D3YOTO1)Mw=40,000g/molのMPEG2-MAL-40Kでペグ化した、TNF56‐PEG40ポリペプチド。」

4.対比・判断
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用発明を対比する。
本願発明における「単一ドメイン抗原結合(SDAB)分子」とは、本願明細書の段落【0006】の記載からみてナノボディを包含すると認められ、また、本願明細書の実施例1には、本願の図1に示されるアミノ酸配列を有し、「4つのグリシン及び1つのセリンの6つの反復からなる30個のアミノ酸のフレキシブルリンカーを介した2つの同一のTNFα抗原結合ドメイン」を有する「SDAB-01(二価ヒト化SDABポリペプチド)」分子を、本願発明の
「単一ドメイン抗原結合(SDAB)分子であって、
(i)1つ又は複数の標的に結合する、1つ又は複数の単一抗原結合ドメイン」として用い、この「SDAB-01」分子のC末端のC(システイン)のチオール基に、図2に示される化学構造を有する試薬のマレイミド基を反応させ、図3に示される2つの抗TNFドメインを有するSDAB-01と呼ばれる分子を製造したことが記載されていると認められる。
そして、引用発明の「TNF‐アルファに対するナノボディTNF56(配列番号:420)」は、本願の図1に示されるアミノ酸配列と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドであると認められる。
そうすると、引用発明の「TNF‐アルファに対するナノボディTNF56」は、本願発明の「単一ドメイン抗原結合(SDAB)分子であって、
(i)1つ又は複数の標的に結合する、1つ又は複数の単一抗原結合ドメイン」を含むものに相当すると認められる。
また、引用発明の「NEKTAR(商標)のTransforming Therapeutics(2D3YOTO1)Mw=40,000g/molのMPEG2-MAL-40K」は、NEKTAR社の「MPEG2-MAL-40K」という商品であると認められるところ、同じくNEKTAR社の出願に係る参考文献3には、NEKTAR社の「mPEG2-MAL-40K」の化学構造式が上記エのとおり示されており、「MPEG2-MAL-40K」と「mPEG2-MAL-40K」は同じものであると認められる。
そうすると、引用発明において「MPEG2-MAL-40K」を用いて「TNF‐アルファに対するナノボディTNF56」をペグ化した場合、「TNF‐アルファに対するナノボディTNF56」以外の部分の化学構造は、本願発明における、非ペプチドリンカーの式(I)において、W^(1)が結合であり、W^(2)がNHであり、Yがピロリジン-2,5-ジオンであり、Xが結合であり、ZがNHであり、R^(2)が分岐しているポリ(エチレングリコール)の誘導体からなるポリマー部分であり、mが0であり、nが2であり、pが2である場合に相当する化学構造になると認められる。なお、本願の図4Aの記載からみて、本願の実施例1においても、配列番号1のTNF56のCys264(C末端のシステイン)を修飾するために、この「MPEG2-MAL-40K」に相当する試薬「Nektar;Branched」が分岐mPEG-マレイミドのひとつとして使用されていると認められる。
そうすると、引用発明の「MPEG2-MAL-40K」で「TNF‐アルファに対するナノボディTNF56」をペグ化して得られる、「TNF56‐PEG40ポリペプチド」分子は、本願発明の
「修飾された単一ドメイン抗原結合(SDAB)分子であって、
(i)1つ又は複数の標的に結合する、1つ又は複数の単一抗原結合ドメインと、
(ii)非ペプチドリンカーと、
(iii)1つ又は複数のポリマー分子と、
を含み、該非ペプチドリンカーが式(I):

(式中、
W^(1)及びW^(2)はそれぞれ独立して、結合又はNR^(1)から選択され、
Yは結合、0?2個のR^(a)で置換されたC1?4アルキレン、又はピロリジン-2,5-ジオンであり、
XはO又は結合であり、
ZはO、NR3、S、又は結合であり、
R^(1)及びR3はそれぞれ独立して、水素又はC1?6アルキルであり、
R^(2)は1つ若しくは複数のポリマー部分であり、
R^(a)はヒドロキシル、C1?4アルキル又はC1?4アルコキシから選択され、
mは0又は1であり、
nは0、1、2又は3であり、
pは0、1、2又は4である)の部分であり、1つ又は複数のポリマー分子がポリ(エチレングリコール)(PEG)モノマー又はその誘導体を含み、そしてPEGポリマー分子が分岐している、単一ドメイン抗原結合分子。」に相当すると認められる。
そうすると、本願発明と引用発明との間に相違点はない。
したがって、本願発明は引用文献1に記載された発明と同一である。

5.審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において以下の主張をしている。
「引用文献1に記載されているMPEG2-MAL-40Kは、本願請求項に記載されるものとは異なる。添付資料1を参照されたい。添付資料1には、引用文献1に記載されるMPEG2-MAL-40Kが記載されている。「MAL」とは、マレイミド又は2,5-ピロールジオンを意味している。本願請求項1に係る物と比べると、引用文献1に記載されるMPEG2-MAL-40Kには、リンカー部にケトン部分がない。それに対し、本願請求項に係る発明では、リンカー部のケトン部分が必須である。」

そこで、以下検討する。
添付資料1は、NEKTAR社が販売するPEG化試薬に関するカタログであると認められ、分岐PEGマレイミドに分類される商品として、商品番号「2D3Y0T01」の「mPEG2-MAL MW 40Da」について、以下のとおり記載されている。

しかし、添付資料1はカタログであることから、各種のPEG化試薬の特徴点(マレイミド基の数やPEGに対する結合位置など)が分かりやすいようにした構造式が記載されていると考えられ、完全な化学構造式を記載するものとは認められない。
すなわち、添付資料1に記載される各種のPEG化試薬の構造式は、メトキシ化ポリエチレングリコールが「mPEG」と省略して記載されており、「mPEG」とマレイミド基との間には線が記載されているが、この線が単なる結合を意味し、線の交点が炭素原子を表しているとは認められず、添付資料1に示された構造式は、マレイミド基以外の化学構造については、分かりやすく簡略化したものと認められる。
一方、参考文献3は、NEKTAR社の特許出願に係る文献であり、そこに示された「mPEG2-MAL-40K」の化学構造式は、引用発明の「NEKTAR(商標)のTransforming Therapeutics(2D3YOTO1)Mw=40,000g/molのMPEG2-MAL-40K」の具体的な化学構造式であると認められる。
したがって、添付資料1を根拠とする審判請求人の主張は誤りである。

なお、同じくNEKTAR社の特許出願に係る公知の文献であり、タンパク質のシステイン残基に含まれるチオール基に反応して、PEGのような水溶性ポリマーを結合させる技術に関する特表2006-517600号公報(参考文献A)には、水溶性ポリマーセグメントと求電子基Eを有するポリマー反応分子「POL-E」と、求核基NUとマレイミド基のようなチオール選択基Sの両方を有する反応分子「NU-Y-S」とを反応させて「POLY-S」を製造すること(【0008】)、「求電子基E」はN-ヒドロキシスクシンイミジル基を有すること(【0013】)、「求電子基NU」として第一級アミノ基等、分岐状のポリマー反応分子「POL-E」として下記式IX-A(【0124】)が記載され、また、下記の【化10】には、「POL-E」と「NU-Y-S」の反応スキームと、反応物「POLY-S」(チオール選択的ポリマー産物)(【0147】)が記載されていると認められる。

そして、【化10】の「POLY-E」として、式IX-Aのものを用いた場合の反応物「POLY-S」の化学構造は、参考文献3の「mPEG2-MAL-40K」の化学構造になると認められる。

さらに、NEKTAR社の別の特許出願に係る公知の文献であり、やはりタンパク質のチオール基に反応して、PEGを結合させる技術に関して記載される特表2008-506704号公報(参考文献B)の第41頁の【表12】にも、参考文献3の「mPEG2-MAL-40K」の化学構造と同じ化学構造を有する「分岐mPEGマレイミド試薬」が記載されている。

したがって、参考文献3に記載された化学構造が正しいものであることは、これら参考文献A、Bの記載からも明らかである。

6.小活
よって、本願発明は引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-07 
結審通知日 2017-04-11 
審決日 2017-04-24 
出願番号 特願2013-520249(P2013-520249)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野村 英雄木原 啓一郎  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 瀬下 浩一
山本 匡子
発明の名称 修飾された単一ドメイン抗原結合分子及びその使用  
代理人 特許業務法人 津国  

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