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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
管理番号 1332099
審判番号 不服2016-4931  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-05 
確定日 2017-09-04 
事件の表示 特願2014- 60194「サーボモータのパワーアンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月22日出願公開、特開2015-186340〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成26年3月24日の出願であって、平成27年8月4日付けの拒絶理由の通知に対し、平成27年10月2日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成27年12月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成28年4月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、その後、当審において平成29年2月3日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年4月6日に意見書(以下、単に「意見書」という。)が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

2.本願発明

本願の請求項に係る発明は、平成29年4月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
三相交流同期モータの一次側電機子の励磁コイルに駆動電流を供給する直流電源と、
三相各相毎に設けられ前記各励磁コイルに供給される前記駆動電流を検出する複数の電流検出器と、
三相各相毎に設けられ前記各励磁コイルにそれぞれ制御された駆動電流を供給する出力スイッチング回路と、を備え、
前記各出力スイッチング回路が、それぞれ、
前記励磁コイルを挟んで前記励磁コイルに直列に設けられる一対のスイッチング素子でなる正極性スイッチと前記正極性スイッチの一対のスイッチング素子をそれぞれバイパスする各バイパス電路上に前記励磁コイルを挟んで前記励磁コイルに直列に設けられる他の一対のスイッチング素子でなる逆極性スイッチとで形成される極性切換回路と、
移動指令に従う現在位置と現在速度に基づいて得られる前記各励磁コイルにそれぞれ供給される位相が120度ずつずれている前記駆動電流の電流値の総和が0である指令装置から分配出力される前記三相各相の目標電流量と前記電流検出器で検出される検出電流量とを三相各相毎に個別に比較し、前記励磁コイルに供給される駆動電流の極性に対応して前記極性切換回路の前記正極性スイッチと前記逆極性スイッチの何れか一方が導通するように制御信号を前記目標電流量と前記検出電流量との差に応じて三相各相毎に独立して生成するように、三相各相毎に前記検出電流量が前記目標電流量未満であるときに前記正極性スイッチと前記逆極性スイッチの何れか一方を導通する制御信号を生成し、前記検出電流量が前記目標電流量以上であるときに前記正極性スイッチと前記逆極性スイッチの他方を導通する制御信号を生成して、前記制御信号を前記各スイッチング素子に所定のスイッチング周波数に基づく一定周期のタイミングで繰返し供給するスイッチング素子駆動回路と、を含んでなるサーボモータのパワーアンプ。」

3.引用例の記載事項

(1)当審拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開昭54-113835号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに、以下の記載がある(下線は、当審で付加した。)。
(ア)「インバータ装置の出力電流波形を設定するための基準信号を発生する電流基準信号発生回路、上記インバータ装置の出力電流を検出する電流検出回路、上記電流基準信号発生回路の基準信号と電流検出回路の検出信号を比較する比較回路、一定の周期でクロツクパルスを発生するクロツクパルス発生回路、及び上記比較回路の出力と上記クロツクパルス発生回路のクロツクパルスを入力として動作し、比較回路の出力値に応じてインバータ装置を転流させインバータ装置の出力電圧を制御する転流信号発生回路を備えたインバータの制御装置。」(特許請求の範囲)
(イ)「本発明は正弦波出力電流を得るためのインバータの制御装置に関するものである。
インバータにより交流モータの駆動制御を行なう場合、電動機のトルクリツプルを防止するために電流は正弦波とする事が好ましい。」(第1ページ左下欄第18行?第2ページ左上欄第2行)
(ウ)「以下第1図及び第2図によつて本発明の詳細について説明する。
第1図は本発明の一実施例を示すもので、(1)は単相インバータで、インバータアーム(2P),(2N),(3P),(3N)のブリツジ結線で構成され、インバータアームは逆並列接続されたサイリスタ(4)とダイオード(5)を有している。なお簡単のため転流回路は図には示してない。インバータ(1)の直流側は直流電源(6)に、交流出力側は負荷(7)にそれぞれ接続されている。(8)はインバータ交流側電流を検出するための電流検出回路で、検出信号は、正弦波形の電流基準信号発生回路(9)からの信号と比較するための電流比較回路(10)に送られる。電流基準信号発生回路(9)は、外部から負荷に与えるべき周波数を決める周波数信号flと電流の大きさを決める電流信号Ilを受けて、所定の周波数並びに波高値を有する正弦波を発生する。(11)はクロツクパルス発生回路で、インバータ(1)に許容される範囲内の一定周波数で周期的に信号を発生する。(12)はクロツクパルス発生回路(11)からのクロツクパルスと、電流比較回路(10)からの信号によりインバータ(1)に転流信号を与えるための転流信号発生回路で、電流比較回路(10)からの信号に従つて、クロツクパルス発生回路(11)からのパルス信号に同期して、転流信号を発生する。」(第2ページ左上欄第15行?右上欄第19行)
(エ)「次に第2図に示す動作波形にもとづいて動作を説明する。第2図は第1図に示す実施例の動作波形で、第2図(a)は電流基準信号発生回路(9)からの電流基準信号Irefとインバータ(1)の出力電流波形Ioを示している。第2図(b)はインバータ(1)の出力電圧波形Eoを、また第2図(c)はクロツクパルス発生回路(11)からのクロツクパルス信号Pcをあらわしている。第2図(d)はインバータアーム(2)及び(3)の通電状態をあらわしており、例えばアーム2の所がPになつているときは、アーム(2P)が導通状態で、アーム(2N)は非導通の状態である事をあらわしている。今時刻t_(0)からt_(1)の間についてみるとアーム(2N)と(3P)が導通しておりEoは負になつている。このため出力電流Ioは減少を続けている。時刻t_(1)になるとクロツクパルス発生回路(11)がクロツクパルスPcを発生する。この時出力電流Ioは、基準信号Irefより小さくなつているため、クロツクパルス信号によつて転流信号発生回路(12)が動作して出力電圧Eoが正となる様に転流信号を発生する。すなわち時刻t_(1)のクロツクパルスPcによつてインバータ通電アームは(2N),(3P)から(2P),(3N)へ切換が行なわれ、出力電圧Eoを正にして出力電流Ioを増加させる。次に時刻t_(2)で次のクロツクパルスPcが発生さる。この時出力電流Ioは基準信号Irefを上まわつているため転流信号発生回路(12)が動作してインバータ通電アームを(2P)(3N)から(2P),(3N)(当審注:第2図の記載も併せて考慮すると、「(2N),(3P)」の誤記であると認める。)になる様に転流させして出力電圧Eoを負にして出力電流Ioを減少させる。同様にして時刻t_(3)のクロツクパルスPcで再び出力電圧Eoを正にして出力電流Ioを増加させる。次に時刻t_(4)でのクロツクパルスPcが発生したとき同様にしてインバータアーム(2N),(3P)が導通状態になり、出力電圧Eoは負となつて出力電流Ioは減少する。しかしながら時刻t_(5)で次のクロツクパルスPcが発生したとき、出力電流Ioは、まだ基準信号Irefより大きい状態にあるため、比較回路(10)からは出力電圧Eoを負の状態にする様に信号が出ているので転流信号発生回路(12)は引続きアーム(2N),(3P)が導通する様に動作するので時刻t_(5)では転流は行なわれない。次に時刻t_(6)になると次のクロツクパルスPcが発生する。この時出力電流Ioは基準信号Irefより小さくなつているため比較回路(10)は出力電圧Eoを正にする様な信号を発生しているのでクロツクパルスPcの発生によつて転流信号発生回路(12)が信号を発生して通電アームを(2N),(3P)から(2P),(3N)へ転流させる。以下同様にしてクロツクパルスPcが発生したときに、基準信号Irefと出力電流Ioの比較結果にもとづいて必要な時のみ転流が行なわれる。
この様にして本発明によると正弦波電流基準信号又は負荷が必要とする所定の電流基準波形に追従して制御する様に構成したものにおいて、一定周期のクロツクパルスに同期してインバータの転流を行なわしめるので、負荷の逆起電圧やインピーダンスの変動によつてインバータ周波数が異常増加して転流損失が増大したり、あるいは転流失敗を起す危険もなく安定に、出力電流波形制御を行なう事が可能になる。」(第2ページ右上欄第20行?第3ページ左上欄第17行)
(オ)なお本発明の実施例として単相インバータの場合について示したが、本発明は3相あるいは多相インバータにも適用出来る事は勿論である。」(第3ページ左上欄第18?20行)
そして、記載事項(ウ)及び(エ)からみて、以下の事項が理解できる。
(カ)電流基準信号発生回路(9)からの電流基準信号Irefは、所定の周波数並びに波高値を有する正弦波である。
記載事項(ア)及び(オ)からみて、引用例には、正弦波出力電流を得るためのインバータ及び該インバータの制御装置であって、交流モータの駆動制御に用いられる3相インバータ及び該3相インバータの制御装置が開示され、該3相インバータは三相交流出力を得るためのものであることが理解でき、該3相インバータにより駆動される交流モータは三相交流モータであるといえるから、引用例には、以下の事項が開示されていると理解できる。
(キ)三相交流出力を得るための3相インバータ及び該3相インバータの制御装置を三相交流モータの駆動制御に用いる。
また、記載事項(エ)及び第2図の記載からみて、以下の事項が理解できる。
(ク)転流信号発生回路(12)は、クロツクパルスPcに同期して、
インバータ(1)の出力電流Ioが電流基準信号Irefより小さいと、インバータ(1)の出力電圧Eoを正にして出力電流Ioを増加させるように、インバータアーム (2P),(3N)を導通状態、インバータアーム (2N),(3P)を非導通状態とする転流信号を発生し、
インバータ(1)の出力電流Ioが電流基準信号Irefを上まわっていると、インバータ(1)の出力電圧Eoを負にして出力電流Ioを減少させるように、インバータアーム (2P),(3N)を非導通状態、インバータアーム (2N),(3P)を導通状態とする転流信号を発生する。
(2)そうすると、これらの事項からみて、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「直流電源(6)と、
インバータ(1)の出力電流Ioを検出するための電流検出回路(8)と、
直流側は直流電源(6)に、交流出力側は負荷(7)に接続され、インバータアーム(2P)(2N)(3P)(3N)のブリツジ結線で構成され、インバータアームは逆並列接続されたサイリスタ(4)を有するインバータ(1)と、
電流検出回路(8)の検出信号が送られて、該検出信号を基準信号発生回路(9)からの電流基準信号Irefと比較するための電流比較回路(10)と、
インバータ(1)に許容される範囲内の一定周波数で周期的にクロツクパルスPcを発生するクロツクパルス発生回路(11)と、
クロツクパルス発生回路(11)からのクロツクパルスPcと、電流比較回路(10)からの信号によりインバータ(1)に転流信号を与えるための転流信号発生回路であって、電流比較回路(10)からの信号に従つて、クロツクパルス発生回路(11)からのパルス信号に同期して、転流信号を発生する転流信号発生回路(12)と、
を備え、
電流基準信号Irefは、所定の周波数並びに波高値を有する正弦波であり、
転流信号発生回路(12)は、クロツクパルスPcに同期して、インバータ(1)の出力電流Ioが電流基準信号Irefより小さいと、インバータ(1)の出力電圧Eoを正にして出力電流Ioを増加させるように、インバータアーム (2P),(3N)を導通状態、インバータアーム (2N),(3P)を非導通状態とする転流信号を発生し、インバータ(1)の出力電流Ioが電流基準信号Irefを上まわっていると、インバータ(1)の出力電圧Eoを負にして出力電流Ioを減少させるように、インバータアーム (2P),(3N)を非導通状態、インバータアーム (2N),(3P)を導通状態とする転流信号を発生する、
インバータ及び該インバータの制御装置を3相インバータに適用してなる、
三相交流モータの駆動制御に用いられる、三相交流出力を得るための3相インバータ及び該3相インバータの制御装置。」

4.対比・判断

(1)対比
本願発明と引用発明を比較する。
引用発明は、三相交流モータの駆動制御に用いられる、三相交流出力を得るための3相インバータ及び該3相インバータの制御装置に関するものであって、インバータ(1)の交流出力側が負荷(7)に接続されているから、引用発明において、「負荷(7)」が三相交流モータの励磁コイルであり、「インバータ(1)の出力電流Io」が該励磁コイルに供給される駆動電流であることは明らかであり、引用発明の「インバータ(1)の出力電流Ioを検出するための電流検出回路(8)」は、本願発明の「三相各相毎に設けられ前記各励磁コイルに供給される前記駆動電流を検出する複数の電流検出器」と、「励磁コイルに供給される駆動電流を検出する電流検出器」である点で一致する。さらに、引用発明の「直流電源(6)」は、インバータ(1)の直流側に接続されていることからみて、本願発明の「三相交流同期モータの一次側電機子の励磁コイルに駆動電流を供給する直流電源」と、「三相交流モータの励磁コイルに駆動電流を供給する直流電源」である点で一致する。
引用発明の「サイリスタ(4)」は、本願発明の「スイッチング素子」に相当するから、引用発明の「インバータアーム(2P)(2N)(3P)(3N)のブリツジ結線で構成され、インバータアームは逆並列接続されたサイリスタ(4)を有するインバータ(1)」は、本願発明の「前記励磁コイルを挟んで前記励磁コイルに直列に設けられる一対のスイッチング素子でなる正極性スイッチと前記正極性スイッチの一対のスイッチング素子をそれぞれバイパスする各バイパス電路上に前記励磁コイルを挟んで前記励磁コイルに直列に設けられる他の一対のスイッチング素子でなる逆極性スイッチとで形成される極性切換回路」に相当する。
引用発明の「電流検出回路(8)の検出信号」及び「基準信号発生回路(9)からの電流基準信号Iref」は、それぞれ、本願発明の「前記電流検出器で検出される検出電流量」及び「目標電流量」に相当する。そして、引用発明は、クロツクパルス発生回路(11)がインバータ(1)に許容される範囲内の一定周波数で周期的にクロツクパルスPcを発生し、電流比較回路(10)からの信号に従って、クロツクパルス発生回路(11)からのパルス信号に同期して、転流信号を発生するものであって、転流信号発生回路(12)は、インバータ(1)の出力電流Ioが電流基準信号Irefより小さいと、インバータアーム(2P),(3N)を導通状態、インバータアーム(2N),(3P)を非導通状態とする転流信号を発生し、インバータ(1)の出力電流Ioが電流基準信号Irefを上まわっていると、インバータアーム(2P),(3N)を非導通状態、インバータアーム(2N),(3P)を導通状態とする転流信号を発生する。そうすると、引用発明の「インバータ(1)に許容される範囲内の一定周波数」、「インバータアーム(2P),(3N)」が有するサイリスタ(4)、「インバータアーム(2N) ,(3P)」が有するサイリスタ(4)及び「転流信号」は、それぞれ、本願発明の「所定のスイッチング周波数」、「前記正極性スイッチと前記逆極性スイッチの何れか一方」、「前記正極性スイッチと前記逆極性スイッチの他方」及び「制御信号」に相当する。
してみれば、引用発明の「電流基準信号Irefは、所定の周波数並びに波高値を有する正弦波であり、転流信号発生回路(12)は、クロツクパルスPcに同期して、インバータ(1)の出力電流Ioが電流基準信号Irefより小さいと、インバータ(1)の出力電圧Eoを正にして出力電流Ioを増加させるように、インバータアーム (2P),(3N)を導通状態、インバータアーム (2N),(3P)を非導通状態とする転流信号を発生し、インバータ(1)の出力電流Ioが電流基準信号Irefを上まわっていると、インバータ(1)の出力電圧Eoを負にして出力電流Ioを減少させるように、インバータアーム (2P),(3N)を非導通状態、インバータアーム (2N),(3P)を導通状態とする転流信号を発生する」ことは、
本願発明の「移動指令に従う現在位置と現在速度に基づいて得られる前記各励磁コイルにそれぞれ供給される位相が120度ずつずれている前記駆動電流の電流値の総和が0である指令装置から分配出力される前記三相各相の目標電流量と前記電流検出器で検出される検出電流量とを三相各相毎に個別に比較し、前記励磁コイルに供給される駆動電流の極性に対応して前記極性切換回路の前記正極性スイッチと前記逆極性スイッチの何れか一方が導通するように制御信号を前記目標電流量と前記検出電流量との差に応じて三相各相毎に独立して生成するように、三相各相毎に前記検出電流量が前記目標電流量未満であるときに前記正極性スイッチと前記逆極性スイッチの何れか一方を導通する制御信号を生成し、前記検出電流量が前記目標電流量以上であるときに前記正極性スイッチと前記逆極性スイッチの他方を導通する制御信号を生成して、前記制御信号を前記各スイッチング素子に所定のスイッチング周波数に基づく一定周期のタイミングで繰返し供給する」ことと、
「目標電流量と電流検出器で検出される検出電流量とを比較し、励磁コイルに供給される駆動電流の極性に対応して極性切換回路の正極性スイッチと逆極性スイッチの何れか一方が導通するように制御信号を前記目標電流量と前記検出電流量との差に応じて生成するように、前記検出電流量が前記目標電流量未満であるときに前記正極性スイッチと前記逆極性スイッチの何れか一方を導通する制御信号を生成し、前記検出電流量が前記目標電流量より大であるときに前記正極性スイッチと前記逆極性スイッチの他方を導通する制御信号を生成して、前記制御信号を前記各スイッチング素子に所定のスイッチング周波数に基づく一定周期のタイミングで繰返し供給する」点で一致し、
引用発明の「電流検出回路(8)の検出信号が送られて、該検出信号を基準信号発生回路(9)からの電流基準信号Irefと比較するための電流比較回路(10)」、「インバータ(1)に許容される範囲内の一定周波数で周期的にクロツクパルスPcを発生するクロツクパルス発生回路(11)」及び「クロツクパルス発生回路(11)からのクロツクパルスPcと、電流比較回路(10)からの信号によりインバータ(1)に転流信号を与えるための転流信号発生回路であって、電流比較回路(10)からの信号に従つて、クロツクパルス発生回路(11)からのパルス信号に同期して、転流信号を発生する転流信号発生回路(12)」は、合わせて、本願発明の「スイッチング素子駆動回路」に相当する。
そうすると、引用発明のインバータ(1)、電流比較回路(10)、クロツクパルス発生回路(11)及び転流信号発生回路(12)は、合わせて、本願発明の出力スイッチング回路に相当する。
そして、引用発明の「三相交流モータの駆動制御に用いられる、三相交流出力を得るための3相インバータ及び該3相インバータの制御装置」は、本願発明の「サーボモータのパワーアンプ」と、「三相交流モータのパワーアンプ」である点で一致する。

以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
三相交流モータの励磁コイルに駆動電流を供給する直流電源と、
前記励磁コイルに供給される前記駆動電流を検出する電流検出器と、
前記励磁コイルに制御された駆動電流を供給する出力スイッチング回路と、を備え、
前記出力スイッチング回路が、
前記励磁コイルを挟んで前記励磁コイルに直列に設けられる一対のスイッチング素子でなる正極性スイッチと前記正極性スイッチの一対のスイッチング素子をそれぞれバイパスする各バイパス電路上に前記励磁コイルを挟んで前記励磁コイルに直列に設けられる他の一対のスイッチング素子でなる逆極性スイッチとで形成される極性切換回路と、
目標電流量と前記電流検出器で検出される検出電流量とを比較し、前記励磁コイルに供給される駆動電流の極性に対応して前記極性切換回路の前記正極性スイッチと前記逆極性スイッチの何れか一方が導通するように制御信号を前記目標電流量と前記検出電流量との差に応じて生成するように、前記検出電流量が前記目標電流量未満であるときに前記正極性スイッチと前記逆極性スイッチの何れか一方を導通する制御信号を生成し、前記検出電流量が前記目標電流量より大であるときに前記正極性スイッチと前記逆極性スイッチの他方を導通する制御信号を生成して、前記制御信号を前記各スイッチング素子に所定のスイッチング周波数に基づく一定周期のタイミングで繰返し供給するスイッチング素子駆動回路と、を含んでなる三相交流モータのパワーアンプ。

【相違点1】
本願発明は、前記三相交流モータが一次側電機子に励磁コイルが設けられている三相交流同期モータであるサーボモータであって、前記目標電流量が移動指令に従う現在位置と現在速度に基づいて得られる各励磁コイルにそれぞれ供給される位相が120度ずつずれている駆動電流の電流値の総和が0である指令装置から分配出力される三相各相の目標電流量であるのに対し、
引用発明は、三相交流モータとしか特定されておらず、また3相インバータ及び該3相インバータの制御装置は三相交流出力を得るためものではあるが、前記目標電流量が所定の周波数並びに波高値を有する正弦波としか特定されていない点。
【相違点2】
本願発明は、前記スイッチング素子駆動回路が、前記検出電流量が前記目標電流量と等しいときに、前記正極性スイッチと前記逆極性スイッチの他方を導通する制御信号を生成するのに対し、引用発明は、インバータ(1)の出力電流Ioが電流基準信号Irefと等しいと転流信号を発生しない点。
【相違点3】
本願発明は、前記電流検出器が三相各相毎に設けられた複数であり、前記出力スイッチング回路が三相各相毎に設けられ、それぞれ、前記極性切換回路と前記スイッチング素子駆動回路とを含み、前記目標電流量と前記検出電流量との比較及び前記制御信号の生成を三相各相毎に独立して行い、各励磁コイルそれぞれに制御された駆動電量を供給するのに対し、
引用発明は、前記電流検出器(電流検出回路(8))と、前記極性切換回路と前記スイッチング素子駆動回路とを含んでなる前記出力スイッチング回路(インバータ(1)、電流比較回路(10)、クロツクパルス発生回路(11)、転流信号発生回路(12))と、を備え、前記目標電流量と前記検出電流量との比較及び前記制御信号の生成を行い、励磁コイルに制御された駆動電量を供給するインバータ及び該インバータの制御装置を3相インバータに適用してなるものではあるが、どのように適用するかは特定されていない点。
(2)判断
前記相違点について検討する。
相違点1について検討すると、一次側電機子に励磁コイルが設けられている三相交流同期モータであるサーボモータは慣用されており、サーボモータの制御に位置フィードバック及び速度フィードバックを用いることもまた慣用手段である。そうすると、引用発明を一次側電機子に励磁コイルが設けられている三相交流同期モータであるサーボモータのパワーアンプとして用いることは、当業者が容易になし得る事項である。
そして、引用発明は、三相交流出力を得るためのものであって、三相交流は、通常、各相の位相が120度ずつずれており、各相の電流値の総和が0である。さらに、引用発明は、目標電流量(電流基準信号Iref)に追従するように出力電流Ioを制御するものであるから、引用発明を三相交流同期モータであるサーボモータのパワーアンプとして用いるにあたり、目標電流量(電流基準信号Iref)を、移動指令に従う現在位置と現在速度に基づいて得られる各励磁コイルにそれぞれ供給される位相が120度ずつずれている電流値の総和が0である三相各相の目標電流量とすることは、当業者が通常発揮し得る創作力の範囲内のものである。
したがって、引用発明において相違点1に係る本願発明を特定する事項のようにすることは、当業者が容易になし得る事項である。
相違点2について検討すると、引用発明のスイッチング素子駆動回路(電流比較回路(10)、クロツクパルス発生回路(11)、転流信号発生回路(12))は、検出電流量(電流検出回路(8)の検出信号)が目標電流量(電流基準信号Iref)と等しいときに転流信号を発生しないから、引用発明は、スイッチング素子駆動回路が、検出電流量が目標電流量と等しいときに、前回のタイミングで生成した制御信号と同じ制御信号を生成するものといえる。そうすると、本願発明と引用発明との間で、検出電流量が目標電流量と等しいときにスイッチング素子駆動回路が異なる動作をするのは、前回のタイミングで検出電流量が目標電流量未満であったときのみとなる。さらに、検出電流量が目標電流量と等しいときに正極性スイッチと逆極性スイッチの一方を導通する制御信号と正極性スイッチと逆極性スイッチの他方を導通する制御信号のいずれをスイッチング素子に供給したとしても、次回のタイミングにおいては検出電流量と目標電流量は異なることは明らかであるから、検出電流量が目標電流量と等しいときに正極性スイッチと逆極性スイッチの一方を導通する制御信号と正極性スイッチと逆極性スイッチの他方を導通する制御信号のいずれを生成するようにするかは、当業者が適宜選択し得る事項である。したがって、引用発明において相違点2に係る本願発明を特定する事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。
相違点3について検討すると、引用発明は、目標電流量(電流基準信号Iref)に追従するように出力電流Ioを制御するものであるところ、三相各相の励磁コイルに供給される出力電流Ioが互いに影響し合うとすると、三相のうちの一の相の出力電流Ioの制御系において他相の出力電流Ioが外乱として作用してしまい、引用発明では三相交流出力の各相の出力電流Ioをそれぞれの目標電流量に追従するように制御し得なくなることは明らかである。そうすると、引用発明の三相交流モータのパワーアンプは、引用発明により駆動制御される三相交流モータの各相の励磁コイルが他相の影響を受けずに互いに独立したものであることが前提となっているといえる。
そして、一次側電機子の励磁コイルが互いに独立した三相交流モータの該励磁コイルに駆動電流を供給する直流電源と、三相各相毎に設けられ前記各励磁コイルに供給される前記駆動電流を検出する複数の電流検出器と、三相各相毎に設けられ前記各励磁コイルにそれぞれ制御された駆動電流を供給する出力スイッチング回路と、を備え、前記各出力スイッチング回路が、それぞれ、前記励磁コイルを挟んで前記励磁コイルに直列に設けられる一対のスイッチング素子でなる正極性スイッチと前記正極性スイッチの一対のスイッチング素子をそれぞれバイパスする各バイパス電路上に前記励磁コイルを挟んで前記励磁コイルに直列に設けられる他の一対のスイッチング素子でなる逆極性スイッチとで形成される極性切換回路を含んでなる三相モータのパワーアンプは、例えば当審拒絶理由で引用された、本願出願前の刊行物である特開2006-149145号公報(特に段落0026?0056,図1?8参照)、特開2004-135437号公報(特に段落0009?0010,図1?2参照)及び特開2009-303298号公報(特に段落0020?0023,図1?2参照)に記載されているように、周知である。そして、引用発明と前記周知の技術的事項は、三相交流モータのパワーアンプとして同一の技術分野に属するものであって、出力スイッチング回路が含んでなる極性切換回路(インバータ(1))の型式も同一である。そうすると、引用発明を三相交流同期モータであるサーボモータのパワーアンプとして用いるにあたり、電流検出器(電流検出回路(8))及び出力スイッチング回路(インバータ(1)、電流比較回路(10)、クロツクパルス発生回路(11)及び転流信号発生回路(12))を三相各相毎に設け、目標電流量(基準電流信号Iref)と前記電流検出器で検出される検出電流量(電流検出回路(8)の検出信号)との比較及び制御信号(転流信号)の生成を三相各相毎に独立して行い、励磁コイルそれぞれに制御された駆動電量を供給するようにすることは、前記周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得る事項である。
したがって、引用発明において相違点3に係る本願発明を特定する事項のようにすることは、前記周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得る事項である。
そして、本願発明が奏する効果に、引用発明及び前記周知の技術的事項が奏する作用効果に基いて当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。
よって、本願発明は、引用発明及び前記周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、意見書において、「引用文献1の発明に引用文献2ないし引用文献4の発明を適用して単相インバータを三相インバータに変形しようとするならば、引用文献1の発明の電流基準信号発生回路が電流指令発生装置に、転流信号発生回路が電流制御装置にそれぞれ相当するので、電流基準信号と検出信号を比較した比較結果、すなわち電流基準信号の正弦波を検出信号で補正した信号に基づいて各相の電圧指令を求めて、所定のクロックパルスのタイミングでゲート信号を分配出力するようにすると理解するのが妥当です。換言すると、転流信号発生回路が、電流基準信号の正弦波と検出信号との偏差の大きさに比例するように各相の電圧指令を算出していると解されます。このことは、引用文献1図2において、出力電流の傾きが一定でないことからも明らかです。」と主張している(意見書【意見の内容】3.(6)参照)。
審判請求人の主張について検討すると、引用例の記載、特に前記「3.(1)」において摘記した記載事項(エ)を参照すると、引用発明は、インバータ(1)の出力電流Ioが電流基準信号Irefより小さいと、インバータアーム (2P),(3N)を導通状態、インバータアーム (2N),(3P)を非導通状態としてインバータ(1)の出力電圧Eoを正にし、インバータ(1)の出力電流Ioが電流基準信号Irefを上まわっていると、インバータアーム (2P),(3N)を非導通状態、インバータアーム (2N),(3P)を導通状態としてインバータ(1)の出力電圧Eoを負にするものであって、電流基準信号の正弦波と検出信号との偏差の大きさに比例するように各相の電圧指令を算出しているものではない。したがって、審判請求人の前記主張は、採用することができない。
なお、審判請求人は、前記主張の根拠として、引用例の第2図において出力電流の傾きが一定でないことを挙げているが、同図は実施例の動作を説明するための図であって、実際の測定結果を示す図ではない。
審判請求人は、意見書において、さらに「引用文献1の発明にPWMを含む引用文献2ないし引用文献4の発明を組み合わせても、転流信号発生回路において、三相各相の電流指令である電流基準信号を検出信号で補正した後の信号から電圧指令を求めるための算出時間が必要になるとともに、三相各相で同期を取るために三相各相のうち最も長い算出時間に合わせて、三相各相のゲート信号がクロックパルスで同期して出力されるように、クロックパルスの周波数を相応に小さくしなければならず、引用文献1の発明において、インバータ周波数が異常に増加して転流損失が増大したり、転流失敗を起こす危険がなくなるとともに(引用文献1第3頁左上欄第11行-同第17行)、いくらかの応答速度の向上も見込まれますが、スイッチング素子固有の最大スイッチング周波数に依存してサーボモータの応答性を向上させるという本願発明の効果を得ることはできません。」と主張している(意見書【意見の内容】3.(7)参照)。
しかしながら、当該主張は、意見書【意見の内容】3.(6)の主張を前提とするものであって、先に検討したとおり、意見書【意見の内容】3.(6)の主張は採用することはできないから、当該主張も採用することができない。

5.むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-10 
結審通知日 2017-07-11 
審決日 2017-07-24 
出願番号 特願2014-60194(P2014-60194)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 マキロイ 寛済  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 久保 竜一
遠藤 尊志
発明の名称 サーボモータのパワーアンプ  

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