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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N |
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管理番号 | 1332127 |
審判番号 | 不服2015-16434 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-09-07 |
確定日 | 2017-09-08 |
事件の表示 | 特願2013-112580「ウイルス様粒子の精製」拒絶査定不服審判事件〔平成25年9月9日出願公開、特開2013-176392〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯・本願発明 本願は,平成20年3月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年3月14日 米国)を国際出願日とする特願2009-553820号の一部を,特許法第44条第1項の規定により,平成25年5月29日に新たな特許出願として分割したものである。 以降の手続は次のとおりである。 平成26年10月17日付け 拒絶理由通知書 平成27年 2月12日 意見書・手続補正書 平成27年 2月13日 手続補足書 平成27年 4月30日付け 拒絶査定 平成27年 9月 7日 審判請求書・手続補正書 平成27年10月 8日 手続補正書(方式) 平成28年 8月22日付け 拒絶理由通知書 平成29年 2月23日 意見書・手続補正書 平成29年 2月24日 手続補足書 そして,本願の請求項1?18に係る発明は,平成29年2月23日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?18に記載されたとおりであって,請求項1に記載された発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりであると認める。 「【請求項1】 ノロウイルスのウイルス様粒子(VLP)の精製方法であって、 前記VLPを含む溶液を少なくとも2つのクロマトグラフィー材料(但し、ヒドロキシアパタイトを除く。)と接触させる工程を含み、少なくとも1つのクロマトグラフィー材料が疎水性相互作用材料であり、少なくとも1つのクロマトグラフィー材料はイオン交換材料である、方法。」 2 引用刊行物 (1)引用例1 平成28年8月22日付け拒絶理由通知書において,引用例1として引用された国際公開第2004/020971号(以下,「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。 (1-a)「宿主細胞のタンパク質と同様に,BSA及び培地由来の他のタンパク質等,アデノウイルスの製造のための方法において生じる不純物は,アデノウイルスの調合物を医療への応用において用いることができるように,アデノウイルスの調合物から取り除かれなくてはならない。本発明より前には,イオン交換クロマトグラフィーを用いる医療グレードのアデノウイルスの精製のため,1段階のクロマトグラフィー精製の方法が存在していた(米国特許第6194191号参照)。本発明は,既存の精製方法を補完する方法を提供し,また,クロマトグラフィー媒体がアデノウイルスの調合物からの不純物を結合し,及び,又は,取り除く,第2のクロマトグラフィー精製工程を設けることによって,高レベルの精製を提供する。この第2のクロマトグラフィー工程は,タンパク質の精製のために通常用いられるあらゆるクロマトグラフィー技術を用いることができる。」(第4頁第5行?第16行) (1-b)「本発明のひとつの実施態様は,アデノウイルスの調合物に対して第1のクロマトグラフィー媒体上でクロマトグラフィーを行う工程であって,その工程によって,アデノウイルスの調合物からのアデノウイルス粒子が第1のクロマトグラフィー媒体上に保持される工程;アデノウイルス粒子の溶出物を生成するために第1のクロマトグラフィー媒体からアデノウイルス粒子を溶出する工程;その溶出物からのアデノウイルス粒子に対して第2のクロマトグラフィー媒体上でクロマトグラフィーを行う工程であって,その工程において,第2のクロマトグラフィー材料が溶出物からの1以上の不純物を保持し,かつ,第2のクロマトグラフィー媒体が単なるサイズ排除媒体ではない工程;溶出物からアデノウイルス粒子を収集する工程からなる,アデノウイルスの調合物からアデノウイルス粒子を用意する方法を示す。・・・(途中省略)・・・ 本発明のこの実施態様に用いられる第1のクロマトグラフィー媒体は,好ましくは,陰イオン交換媒体,陽イオン交換媒体,固定化金属アフィニティー媒体,硫酸化アフィニティー媒体,イムノアフィニティー媒体,ヘパリンアフィニティー媒体,及び,疎水性相互作用媒体からなる群から選択される。・・・(途中省略)・・・ 本発明のこの実施態様に用いられる第2のクロマトグラフィー媒体は,陰イオン交換媒体,陽イオン交換媒体,固定化金属アフィニティー媒体,硫酸化アフィニティー媒体,イムノアフィニティー媒体,ヘパリンアフィニティー媒体,ヒドロキシアパタイト媒体,及び,疎水性相互作用媒体からなる群から選択される。」(第5頁第12行?第6頁第16行) (1-c)「H.ウイルス感染 本発明は,ひとつの例として,治療上の意義のあるベクターを生産するために,細胞のアデノウイルス感染を用いる。典型的に,そのウイルスは生理的条件の下で適切な宿主細胞に単に晒されることによって,ウイルスの取込が可能となる。アデノウイルスが例示されているものの,以下で論じるとおり,本方法は,他のウイルスベクターに対して有利に用いてもよい。」(第82頁第8行?第14行) (2)引用例2 平成28年8月22日付け拒絶理由通知書において,引用例2として引用された国際公開第2006/136566号(以下,「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。 (2-a)「本発明の要約 本発明のひとつの実施態様は,VLPを発現する組換えの細菌宿主由来のVLPを精製する方法であって,その方法は,好ましくはヒドロキシアパタイト材料または陰イオン交換材料である第1のクロマトグラフィー材料を用いる第1のクロマトグラフィー,好ましくはヒドロキシアパタイト材料である第2のクロマトグラフィー材料を用いる第2のクロマトグラフィー,及び,場合によっては最終精製工程であって,“仕上げ工程”とも呼ばれ,好ましくは少なくともひとつの第3のクロマトグラフィーがサイズ排除クロマトグラフィーである第3のクロマトグラフィーを含む。驚くべきことに,その第1及び第2のクロマトグラフィーが高い精製度のVLP調合物を提供し,特に,非常に効果的なエンドトキシンの除去を提供し,本方法の拡張性が維持された。」(第3頁第9行?第19行) (2-b)「更なる実施態様において,当該VLPは,(a)RNAバクテリオファージ,(b)バクテリオファージ,(c)B型肝炎ウイルス,好ましくはそのカプシドタンパク質(Ulrich等,Virus Res.50:141-182(1998年))またはその表面タンパク質(WO 92/11291),(d)麻疹ウイルス(Warnes等,Gene 160:173-178(1995年)),(e)シンドビスウイルス,(f)ロタウイルス(US 5071651及びUS 5374426),(g)口蹄疫ウイルス(Twomey等,Vaccine 13:1603 1610,(1995年)),(h)ノーウォークウイルス(Jiang,X.等,Science 250:1580 1583(1990年);Matsui,S.M.等J.Clin.Invest.87:1456 1461(1991年)),(i)アルファウイルス,(j)レトロウイルス,好ましくはそのGAGタンパク質(WO 96/30523),(k)レトロ・トランスポゾンTy,好ましくはタンパク質p1,(l)ヒトパピローマウイルス(WO 98/15631),(m)ポリオーマウイルス,(n)タバコモザイク病ウイルス,(o)フロックハウスウイルス,(p)ササゲモザイクウイルス(CPMV),(q)ササゲ退縁斑紋ウイルス(CCMV),及び,ソベモウイルス属のウイルスからなる群から選択されたウイルスの組換えタンパク質,変異体または断片を含むか,または,それらから本質的になるものである。」(第12頁第21行?第32行) (3)引用例3 周知技術の存在を明示するために本審決において新たに引用する特開2003-066021号公報(以下,「引用例3」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。 (3-a)「溶質の固定相の親和性は、移動層の性質、即ち、親水性、疎水性、pH、イオン強度、温度によって変化するので、特定の条件を設定することにより、混合物液中の特定の溶質を選択的に固定相に吸着させたり、選択的に固定相より移動相に移行させたりすることができる。以上がクロマトグラフィー装置による分離と分取の原理である。」(段落【0005】) (4)引用例4 周知技術の存在を明示するために本審決において新たに引用する「分子細胞生物学基礎実験法,1996年5月10日発行,第4刷,第200頁?第229頁」(以下,「引用例4」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。 (4-a)「蛋白質の精製手段としてHPLC(high-performanceあるいはhigh-pressure liquid chromatography,高速液体クロマトグラフィ)が使用されることはごくあたりまえのこととなってきた.これは,HPLCにより,微量(数百pmol)から大量(μmol)の蛋白質が,短時間に,再現性よく高度に単離精製できることによるが,充填ゲルや装置の開発の寄与するところが大きい . ・・・(途中省略)・・・ しかしながら,個々の蛋白質の溶出パターンは,溶離液の組成やpH,アプライ時の資料の状態,カラムの選択により大きく変わる.さらに,その試料の安定性や高価な充填ゲルの劣化等を考慮すると,HPLCによる精製条件を決定するということは容易なことではない.」(第200頁第1行?第16行) (4-b)「III.C.3 イオン交換HPLC ・・・(途中省略)・・・ b.溶出に影響する諸因子 1)温度 ・・・(途中省略)・・・ただし,低温になると溶媒の粘度からくるカラム圧の上昇が問題となった. 2)流速 ・・・(途中省略)・・・ 3)pH ・・・(途中省略)・・・ 4)溶離液 ・・・(途中省略)・・・ 5)カラム特性 ・・・(途中省略)・・・」(第207頁第1行?第209頁第18行) (4-c)「III.C.5 逆相HPLC 逆相HPLC(reverse phase HPLC)は,リガンドとして疎水基[アルキル基,フェニル基,プロピオニトリル(CN)基]を化学的に結合させたシリカや合成ポリマーを固定層とし,含水有機溶媒で試料を溶出させる方法である.試料と固定層(充填ゲル)との結合は,主として疎水的相互作用で行われており,試料の疎水度が強いほどゲルへの結合が強く遅れて溶出する.疎水性相互作用を利用したこの分離法は,各種HPLCの中で最も高い分離能をもっており,微量(数百pmol)から大量(μmol)までの分離が1,2時間という短時間ででき,現在,蛋白質化学の領域では必須の技術の1つとなっている. ・・・(途中省略)・・・ b.溶出に影響する諸因子 1)温度 ・・・(途中省略)・・・ カラム温度を上げると,溶媒の粘度を低下させ,カラム内の圧力を低下させる利点がある.特に,粘度の高いイソプロパノール等の溶媒系(95%イソプロパノール+5%アセトニトリル+0.1%TFA)を使用した場合には,室温ではカラム圧が高くなりすぎ使用できないが,カラム温度を40℃にすることにより,使用可能なカラム圧に低下させることができる.・・・(途中省略)・・・ 2)流速 ・・・(途中省略)・・・ 3)pH ・・・(途中省略)・・・ 4)溶媒 ・・・(途中省略)・・・ 5)アプライ時の試料の状態 ・・・(途中省略)・・・ 6)カラム特性 (i)ベースラインの変動とゴーストピークについて ・・・(途中省略)・・・ (ii)長さと太さ 逆相HPLCの場合はカラムの大きさが分離,回収率に影響する場合が多い.同じ径ならば長い方が分離がよく,隣接ピークが離れて溶出しやすい.この場合,回収率にはあまり影響はない.同じ長さで径が太くなると分離パターンは変化しないが,分析感度,回収率が極端に減少することがある.・・・(途中省略)・・・ (iii)樹脂の種類による影響 ・・・(途中省略)・・・ (iv)試料負荷量 ・・・(途中省略)・・・」(第213頁第20行?第220頁最終行) (5)引用例5 周知技術の存在を明示するために本審決において新たに引用する「第5版 実験化学講座1 -基礎編I 実験・情報の基礎-,2003年9月25日発行,第202?223頁」(以下,「引用例5」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。 (5-a)「2.11.3 吸着クロマトグラフィー ・・・(途中省略)・・・ a.吸着剤 現在よく使われている無機系吸着剤としては,シリカゲルとアルミナが代表的である.その他のものとしてはヒドロキシアパタイトやチタニアなどがある.・・・(途中省略)・・・ b.溶離液 ・・・(途中省略)・・・ 吸着クロマトグラフィーでは,カラムから出てくる溶質のピークの形は前端が鋭いが,後端は尾を引く(これをテーリングという)のが一般的である.このテーリングは分離効率や試料の回収率を低下させる.これに対する方策の一つがこう配溶離法(gradient elution)である.すなわち,ある溶媒に,それよりも溶出力の強い溶媒を一定の速度で添加混合してカラムに流し,溶離する方法である.溶出力を段階的に高める段階溶離法(stepwise elution)とともに多様される.・・・(途中省略)・・・ c.吸着剤と溶離液との組合せの選定 物質を分離したり,精製しようとする場合,それに類似した物質ではどのような吸着剤と溶離液との組合せを用いているか,文献で調べて参考にするとよい.ただし,吸着剤の活性度は一定ではなく,文献どおりに実験しても同じ結果が得られるとは限らない.したがって,文献記載の実験条件は,あくまでも目安と見なすのが無難である. ・・・(途中省略)・・・」(第208頁第1行?第210頁第7行) (5-b)「2.11.5 イオン交換クロマトグラフィー ・・・(途中省略)・・・ c.段階溶離法とこう配溶離法 イオン交換体に対する各イオン種の分配係数の値は非常に広範囲にわたり,それらの値は温度,pH,イオン強度,対イオンの種類と濃度などによって大きく変化する.したがって,同じ条件では分配係数が数桁も異なる成分を短時間で分離する場合は,上記の条件を適切に選択することが肝要となる.」(第211頁下から第2行?第215頁第1行) (6)引用例6 周知技術の存在を明示するために本審決において新たに引用する特開平3-243861号公報(以下,「引用例6」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。 (6-a)「一般に、移動相の粘性は温度が低い程高くなるので、カラム温度が低い程分析カラムにかかる圧力が高くなる。そのため、液体クロマトグラフの運転を開始し、カラム温度が設定温度に達する前に分析条件の一定流量で移動相を送液すると、送液圧力が分析中の圧力よりも高くなる。そのため、耐圧性の低い充填剤を用いた分析カラムでは、分析カラムが劣化するか、上記のカラム充填剤を保護する安全機構が備えられているときは、安全機構が働いて運転が停止してしまう。」(第1頁右下欄第14行?第2頁左上欄第3行) (7)引用例7 周知技術の存在を明示するために本審決において新たに引用する「実験医学別冊 タンパク質実験ハンドブック 分離・精製,質量分析,抗体作製,分子間相互作用解析などの基本原理と最新プロトコール総集編,2006年4月10日発行,第3刷,第32?46頁」 (以下,「引用例7」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。 (7-a)「第2章 タンパク質精製法 4.カラムクロマトグラフィーによる精製 III)疎水性クロマトグラフィー 朴 宣奏 この方法で何が解決できるか 疎水性クロマトグラフィーは,タンパク質の疎水性の違いに基づいて分離精製を行う方法であり,精製手法として単独で,またタンパク質の分子量や電荷の違いによるほかのクロマトグラフィーと組み合わせることで,高い精製効率が達成できる.一般的に担体への吸着が高塩濃度の条件下で行われるため,硫安沈殿やイオン交換クロマトグラフィーの後の精製方法に適する.また,精製はタンパク質の生体活性を維持した温和な条件で行えることが特徴である. はじめに 膜結合タンパク質,グロブリン,硫安飽和の低い範囲で沈殿するタンパク質など,低い塩濃度で強く吸着するタンパク質は,一般的に水溶性が低く,イオン系のカラムだけで分離することは容易ではない.また,精製中の試料が高い塩濃度の溶液中で添加されている場合,透析や希釈により塩濃度を下げることなく,試料をあらかじめ高塩で平衡化した疎水性カラムに吸着させた後,濃度勾配で塩濃度を下げることで効率よく分離させることができる.実際に塩析沈殿やイオン交換クロマトグラフィーの次のステップとしてもよく使われている. 原理 疎水性クロマトグラフィー(hydrophobic chromatography)は,充填剤の疎水性基とタンパク質の疎水性部位に生じる疎水結合が,タンパク質種により異なることを利用したものである.通常,硫安アンモニウムのような塩析(本章3参照)効果の大きい塩を1?2M程度添加したバッファーを初期溶離液とし,タンパク質を吸着させた後,塩濃度を下げてタンパク質を選択的に脱離させ分離する(図1).このような条件ではタンパク質は一般的に変化せずに分離されるため,逆相クロマトグラフィーに比較しての優位性が認められている. 疎水性相互作用は高い塩濃度以外に,高い温度によっても強められ,塩能動や温度を下げること,有機溶媒の存在,界面活性剤の存在,pHを増加させることで分離できる. 疎水性クロマトグラフィーの吸着体としては,短い脂肪族鎖(C4?C8)やベンジル(フェニル)基からなる物が最もよく用いられている. イオン交換体より挙動において変化しやすく,その相互作用の性質のため,分解能は一般的にイオン交換クロマトグラフィーよりよくない.」(第44頁全体) (8)引用例8 周知技術の存在を明示するために本審決において新たに引用する特表2002-516341号公報(以下,「引用例8」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。 (8-a)「1つのクロマトグラフィーの配置(configuration)において、2以上の分離媒体を使用することが好ましい。従って、組み合わせた分離効果を得るために、異なる分離媒体の層を充填することができる。同種の媒体を選択することができるだけでなく、非常に異なるもの、例えば、アニオン交換体と疎水性相互作用クロマトグラフィー用媒体、又は異なる強度を有する2つのアニオン交換体、又は吸着材料とゲル浸透クロマトグラフィー用材料を使用することもできる。しかし、材料の好ましくない混合が発生しないよう、かつ、使用される緩衝液が全ての使用される分離材料に適していることに注意するべきである。」(段落【0010】) (9)引用例9 周知技術の存在を明示するために本審決において新たに引用する特開2001-261574号公報 (以下,「引用例9」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。 (9-a)「【請求項3】血漿または血漿画分から得られるプロトロンビンを、トロンビンに活性化した後,および適切な場合はさらなる処理工程の後、疎水性相互作用クロマトグラフィーにより精製することからなるトロンビン製剤の製造方法 ・・・(途中省略)・・・ 【請求項6】上記疎水性相互作用クロマトグラフィーの前または後に、さらに陽イオン交換クロマトグラフィーをも行う請求項3?5のいずれかに記載の方法。」(【特許請求の範囲】) (9-b)「トロンビンを精製するために疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を単独でまたは陽イオン交換クロマトグラフィー(CEC)と組み合わせて用いるならば、これによって効果的かつ簡単な精製が達成される。さらに、これら二つのクロマトグラフィーの順序が望ましい。クロマトグラフィーを最初に疎水性支持体を用いて行うならば、トロンビン溶離物を直接に陽イオン交換体に結合させ、塩勾配を用いてそれから溶離することができる。これら二つの分離原理の組み合わせは、二つの精製工程にわたり約70%を越える良好な収率で高純度のトロンビン製剤をもたらす。これによって、活性化または未活性化の凝固因子のような副生成物、および凝固試験で殆どまたは全く活性を示さないトロンビン形態(例えばプロトロンビン、β-トロンビン、γ-トロンビン、または他のトロンビンまたはプロトロンビン断片)の良好な除去が同時に達成される。上記の二つのクロマトグラフィーの組み合わせは、イオン交換クロマトグラフィー方法を単独で用いた場合よりも高い純度をもたらす。」(段落【0012】) (10)引用例10 周知技術の存在を明示するために本審決において新たに引用する特表2005-524092号公報(以下,「引用例10」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。 (10-a)「【請求項2】 宿主細胞タンパク質を含む混合物から標的タンパク質を精製するための方法であって、該混合物を以下に供する工程: (a)第一の非アフィニティ精製工程、および (b)第二の非アフィニティ精製工程、続いて (c)高速接線流濾過(HPTFF)、ならびに (d)100ppm未満の該宿主細胞タンパク質を含む純度で該タンパク質を単離する工程、 を包含し、ここで、該方法はアフィニティ精製工程を含まない、方法。 【請求項3】 前記第一および第二の非アフィニティ精製工程が異なり、かつイオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性相互作用クロマトグラフィーからなる群より選択される、請求項2に記載の方法。」(【特許請求の範囲】) (10-b)「特定の実施形態において、第1および第2の非アフィニティクロマトグラフィー精製手順は異なっており、イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性相互作用クロマトグラフィーからなる群より選択される。例えば、イオン交換クロマトグラフィーの工程はカチオン交換クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、および/または混合モードのイオン交換クロマトグラフィーであり得る。好ましい実施形態において、第1の非アフィニティ精製手順はイオンクロマトグラフィーおよびアニオンクロマトグラフィーである。そして第2の非アフィニティ精製手順は、カチオンクロマトグラフィーおよびアニオンクロマトグラフィーである。さらに別の1つの好ましい実施形態において、本発明の方法は、他の精製手順は排除して、2つの非アフィニティクロマトグラフィーの精製工程、その後のHPTFFおよび単離工程から成る。」(段落【0014】) (10-c)「(実施例1) (2工程の非アフィニティ精製) 本実施例において、非アフィニティ精製マトリクスの異なる組み合わせを使用する、2工程の非アフィニティ精製または3工程の非アフィニティ精製のいずれかからなるプロセスを用い、抗CD11a rhuMAb HCCFの精製を実施した。 ・・・(途中省略)・・・ ・・・(途中省略)・・・ 抗CD11a rhuMAbを発現するCHO細胞を培養し、上記抗体を含む回収した細胞培養処方物を回収した。粗細胞培養混合物は、約220,000ppmのCHOP(220,000ngのCHOP/1mgの抗CD11a rhuMAbに等価)を含んだ。粗混合物のアリコートを表2における工程1についての各々の樹脂に適用した。次いで、工程1からの溶出物のアリコートを、表2の工程2における各々の代替の樹脂に適用し、そして抗体および不純物をさらに分離した。各工程についての緩衝液条件を表1にまとめる。第1の工程からの粗混合物および各溶出物プールを、粗混合物または溶出物プールが引き続く精製工程に適用される樹脂の緩衝液条件のpHおよびイオン強度に調節した。非アフィニティ精製の各々2工程後のCHOP濃度によって測定された、精製結果のまとめを表2に示す。 」(段落【0155】?【0162】) 3 引用発明の認定及び対比 引用例1の上記記載事項(1-a)及び(1-b)には,アデノウイルス粒子のみが記載されているものの,上記記載事項(1-c)には,他のウイルスベクターに対して本発明の方法を用いることが記載されており,引用例1の第82頁第16行?第94頁第20行には,他の様々な種類のウイルスが具体的に開示されていることから,引用例1には,アデノウイルス粒子のみならず,ウイルス粒子全般の精製方法について記載されていると認められる。 また,引用例1には,「アデノウイルス粒子の調合物」に対してクロマトグラフィーを行うことが記載されているところ,クロマトグラフィーを行う場合には溶液である必要があることから,「調合物」は「溶液」の状態であると認められる。 したがって,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。 「ウイルス粒子の精製方法であって, 前記ウイルス粒子を含む溶液を, 陰イオン交換媒体,陽イオン交換媒体,固定化金属アフィニティー媒体,硫酸化アフィニティー媒体,イムノアフィニティー媒体,ヘパリンアフィニティー媒体,及び,疎水性相互作用媒体からなる群から選択される第1のクロマトグラフィー媒体と接触させる工程, 陰イオン交換媒体,陽イオン交換媒体,固定化金属アフィニティー媒体,硫酸化アフィニティー媒体,イムノアフィニティー媒体,ヘパリンアフィニティー媒体,ヒドロキシアパタイト媒体,及び,疎水性相互作用媒体からなる群から選択される第2のクロマトグラフィー媒体と接触させる工程, の2つのクロマトグラフィー媒体を接触させる工程を含む,方法。」(以下,「引用発明」という。) 次に,本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「クロマトグラフィー媒体」は本願発明の「クロマトグラフィー材料」に相当することから,本願発明と引用発明とは, 「ウイルス様粒子(VLP)の精製方法であって、 前記VLPを含む溶液を少なくとも2つのクロマトグラフィー材料と接触させる工程を含む、方法。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 相違点1:2つのクロマトグラフィー材料について,本願発明では「少なくとも1つのクロマトグラフィー材料が疎水性相互作用材料であり、少なくとも1つのクロマトグラフィー材料はイオン交換材料である」と特定され,「(但し、ヒドロキシアパタイトを除く)」とされているのに対して,引用発明では,第1のクロマトグラフィー材料が,陰イオン交換媒体,陽イオン交換媒体,固定化金属アフィニティー媒体,硫酸化アフィニティー媒体,イムノアフィニティー媒体,ヘパリンアフィニティー媒体,及び,疎水性相互作用媒体からなる群から選択され,第2のクロマトグラフィー材料が,陰イオン交換媒体,陽イオン交換媒体,固定化金属アフィニティー媒体,硫酸化アフィニティー媒体,イムノアフィニティー媒体,ヘパリンアフィニティー媒体,ヒドロキシアパタイト媒体,及び,疎水性相互作用媒体からなる群から選択される点。 相違点2:精製するウイルス様粒子が,本願発明は「ノロウイルス」であるのに対して,引用発明では特定されていない点。 4 当審の判断 (1)相違点1について クロマトグラフィーにより物質を単離するにあたって,異なる機序に基づく媒体を組み合わせて使用することは技術常識であるから,引用発明においても,その各種のクロマトグラフィー媒体の分離特性を生かして精製度を向上させるため,第1,第2の工程において異なるクロマトグラフィー媒体が選択されると考えられる。そして,第1,第2の工程で使用されるクロマトグラフィー媒体の組合せとしては,「イオン交換媒体/ヒドロキシアパタイト媒体」,「イオン交換媒体/疎水性相互作用媒体」,「ヒドロキシアパタイト媒体/疎水性相互作用媒体」等の組合せが考えられる。 また,引用例7?10にも記載されているとおり,疎水性相互作用媒体は,生体物質の単離に常用されるイオン交換媒体と組み合わせて使うのに適したものとして知られているのだから,それらの組合せを選択することは,当業者が容易になし得たことである。 そして,「イオン交換媒体/疎水性相互作用媒体」を選択した場合,ヒドロキシアパタイトが使用されないことは明らかである。 したがって,相違点1は,当業者が容易になし得るものである。 (2)相違点2について 引用例2に記載されるように,「ノーウォークウイルス」のVLP(ウイルス様粒子)は精製する必要があり,しかも多段階のクロマトグラフィーにより精製されることが公知である。 したがって,引用発明において,ウイルス粒子を精製するウイルスの種類を「ノーウォークウイルス」に特定することは,当業者が容易になし得ることである。 そして,「ノーウォークウイルス」種はカリシウイルス科ノロウイルス属に属するものであるから,「ノーウォークウイルス」は,本願発明にいう「ノロウイルス」に相当すると認められる。 したがって,相違点2も,当業者が容易になし得るものである。 (3)本願発明の効果について 本願明細書の段落【0068】には,本願明細書に記載された発明では各種のクロマトグラフィー材料が使用できることが記載されているものの,以下のとおり,ノロウイルスの精製において,本願発明で特定される2つのクロマトグラフィー材料を選択することで,格別の効果があることが本願明細書に記載されているとは認められない。 まず,段落【0098】には,「本発明の一実施形態において、薬理学的利用のためにVLP粒子を精製するために、ヒドロキシアパタイト媒質を、疎水性相互作用クロマトグラフィー媒質と共に用い、さらに、陰イオン交換クロマトグラフィー媒質と共に用いる。本発明者らによって、この組合が、商用的に拡張性のあるレベルでノロウイルスの遺伝子型Iのノーウォークウイルスを精製するためにとりわけ適していることが見出された。」と、ノロウイルスの精製には、「ヒドロキシアパタイト/疎水性相互作用クロマトグラフィー/陰イオン交換クロマトグラフィー」の組合せが適していることは記載されているが,これは「ヒドロキシアパタイト」を含んでいるから本願発明について記載するものではない。 また,引用例3の上記記載事項(3-a),引用例4の上記記載事項(4-a)?(4-c),引用例5の上記記載事項(5-a)?(5-b),引用例6の上記記載事項(6-a),引用例7の上記記載事項(7-a)からも明らかなように,クロマトグラフィーにおいては,クロマトグラフィー材料,溶離液,緩衝液等の材料の選択のみならず,温度,pH,カラムの大きさや形状等,様々な条件を最適化しなければ,効率よく精製することができなかったり,圧力増加の問題を生じたりすることは,本願優先日において技術常識であったと認められるところ,段落【0138】のノロウイルスの精製に関する実施例2には,陽イオン交換カラムとメチルHICクロマトグラフィー(疎水性相互作用材料)を用いたことが記載されているが,ここに示されているのは,イオン交換材料が陽イオン交換材料であり,また,各種の精製条件について最適化された特定の条件を採用していると認められるから,実施例2に示される効果を,各種の精製条件が特定されていない本願発明全体の効果とすることはできない。 さらに,平成29年2月24日付け手続補足書において示された「参考資料1」に記載される実験は,個々のクロマトグラフィー媒体の比較であって,2つのクロマトグラフィー材料を組み合わせるものではなく,また,各種の精製条件について最適化された特定の条件を採用していると認められるから,同様に,ここに示されている結果を本願発明の効果として参酌することはできない。 以上のとおり,本願発明において,引用例1,2の記載から予測できない効果が奏されたとは認められない。 (4)まとめ 上記(1)?(3)の検討結果を踏まえると,本願発明は,引用例1及び2に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 5 審判請求人の主張 審判請求人は,平成29年2月23日付け意見書において,本願発明の引用例1及び2に対する進歩性について次の主張を行っている。 (1)「審判官殿がご指摘された引用文献1に記載の多段階クロマトグラフィーは、特にアデノウイルスVLPの精製に関するものです。引用文献1は、本願発明のノロウイルスのようなカルシウイルスを、全く開示も示唆もしません。引用文献1に開示された他のウイルスは、単にウイルスベクターの製造に適したウイルスとして開示されているものであり、精製方法とは全く関与しないウイルスです。」 (2)「本願発明の奏する効果に関し、平成27年2月12日付けの意見書及び手続補正書で示した追加の実験結果に具体的な説明が不足しており参酌できないとのご指摘を受けましたので、当該追加の実験結果に具体的な説明を付したものを、上述のとおり参考資料1として提出致します。実施例1と比較して実施例2が優れることは、本願明細書の記載(例えば段落0138等)から明らかであると思料致しますが、参考資料1の追加の実験結果は、このような本願明細書の記載を支持するものです。特に、参考資料1から、本願発明において、イオン交換クロマトグラフィー材料として、陽イオン交換材料及び陰イオン交換材料のいずれを用いて精製を実施した場合にも、ヒドロキシアパタイトを用いた場合と比較して優れたVLPの捕捉がなされ、高い収率及び純度の精製を実施することができることが明らかです。」 上記の審判請求人の主張(1)については,引用例1の上記記載事項(1-c)に「本方法は,他のウイルスベクターに対して有利に用いてもよい。」と記載されている。ここでは,例示されているアデノウイルスのベクターと同様に「他のウイルスベクター」を治療に用いることが想定されていることから,上記記載事項(1-c)における「本方法」は,上記記載事項(1-a)及び(1-b)に記載されているような,多段階クロマトグラフィーを用いた精製方法を意図したものと解することが妥当である。つまり,引用例1に記載される「他のウイルスベクター」は,治療用のベクターとして用いるために,引用発明の方法によって精製されることが示されている。 よって,審判請求人の「精製方法とは全く関与しないウイルスです」との主張には根拠がない。 上記の審判請求人の主張(2)については,上記「4(3)本願発明の効果について」で検討したとおりである。 したがって,審判請求人の主張(1)及び(2)については,いずれも採用することができない。 6 むすび 以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないので,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-04-07 |
結審通知日 | 2017-04-10 |
審決日 | 2017-04-27 |
出願番号 | 特願2013-112580(P2013-112580) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 巌、名和 大輔 |
特許庁審判長 |
中島 庸子 |
特許庁審判官 |
長井 啓子 山崎 利直 |
発明の名称 | ウイルス様粒子の精製 |
代理人 | 内藤 和彦 |
代理人 | 江口 昭彦 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 大貫 敏史 |