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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B60K
管理番号 1332207
審判番号 不服2016-9298  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-22 
確定日 2017-09-26 
事件の表示 特願2014-506910「自動車及びそれを制御する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月1日国際公開、WO2012/146786、平成26年6月26日国内公表、特表2014-514988、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年4月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年4月28日 (GB)英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国))を国際出願日とする出願であって、平成26年2月14日に手続補正され、平成27年5月29日付けで拒絶理由が通知され、同年9月2日に手続補正されたが、平成28年2月16日付け(発送日:同年2月23日)で拒絶査定され、これに対し、同年6月22日に拒絶査定不服審判の請求がされ、当審において平成29年3月27日付けで拒絶理由が通知され、同年6月21日に手続補正されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし11に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明11」という。)は、平成29年6月21日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項11に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願発明1及び本願発明11は、次のとおりである。(なお、下線は当審で付した。以下同様。)
「【請求項1】
原動機手段と、
一つ以上の車輪からなる少なくとも第1群および第2群と、
前記原動機手段を前記一つ以上の車輪からなる第1群および第2群に接続するためのドライブラインであって、前記一つ以上の車輪からなる第1群は前記ドライブラインが第1運転モードにある時に前記原動機手段により駆動し、また前記一つ以上の車輪からなる第2群は前記ドライブラインが第2運転モードにある時に前記原動機手段により追加的に駆動するように構成されているドライブラインとを備えた自動車であって、
前記ドライブラインは、補助ドライブシャフトと該補助ドライブシャフト及び前記一つ以上の車輪からなる第2群の間の駆動手段とを有する補助部を含み、該駆動手段はドライブラインが第1運転モード及び第2運転モードの間で切り替わる時に補助ドライブシャフトを前記一つ以上の車輪からなる第2群に対して結合及び切断するよう作動可能であり、
前記駆動手段は入力部と、補助ドライブシャフトにより駆動されるよう構成されたリングギヤと、出力部と、前記リングギヤ及び前記出力部の間に直列に結合される第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段を備え、
前記第1のリリース可能なトルク伝達手段は、入力部と出力部とを有し、前記第1のリリース可能なトルク伝達手段は、その入力部がその出力部から隔離される第1条件と、その入力部とその出力部が直結されてその入力部に加えられたトルクが直接その出力部に伝達される第2条件と、の間で作動可能であり、そして、前記第1のリリース可能なトルク伝達手段はこれ等両部の間に滑りを許容することにより前記入力部から前記出力部へ伝達されるトルク量を調整するように作動可能であり、
前記第2のリリース可能なトルク伝達手段も入力部と出力部を有し、第2のリリース可能なトルク伝達手段は、該入力部が該出力部から隔離される第1条件と、該入力部が該出力部に直結されて該入力部に加えられるトルクが該出力部へ直接伝達される第2条件の間で作動するように構成されており、
前記一つ以上の車輪からなる第2群は複数の車輪を有し、前記駆動手段の出力部は自動車の一対のサイドシャフトの各々にトルクを供給するように構成され、これ等のサイドシャフトはトルクを第2群の車輪のそれぞれ異なった車輪に供給するように構成されており、
第1のリリース可能なトルク伝達手段は第1及び第2の湿式クラッチ装置を含み、各湿式クラッチ装置はそれぞれ上記の一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能であり、
前記第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段は分離した別々のアクチュエータにより又は共通のアクチュエータにより各自の第1及び第2条件の間でそれぞれ作動可能である、
自動車。」
「【請求項11】
自動車の複数の車輪からなる第2群を、補助ドライブシャフトを有するドライブラインにより原動機手段に結合する方法において、
入力部と補助ドライブシャフトにより駆動されるよう構成されたリングギヤと出力部と第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段とを有する駆動手段により補助ドライブシャフトを前記複数の車輪からなる第2群に結合する工程と、ここで、第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段は前記リングギヤと駆動手段の出力部の間に直列に結合され、前記駆動手段の出力部は自動車の一対のサイドシャフトの各々にトルクを供給するように構成され、これ等のサイドシャフトはトルクを前記複数の車輪からなる第2群のそれぞれ異なった車輪に供給するように構成されており、第1のリリース可能なトルク伝達手段は、その入力部がその出力部から隔離される第1条件と、その入力部とその出力部が直結されてその入力部に加えられたトルクが直接その出力部に伝達される第2条件と、の間で作動可能であり、第1のリリース可能なトルク伝達手段は第1及び第2の湿式クラッチ装置を含み、各湿式クラッチ装置はそれぞれ上記の一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能である、
前記第1のリリース可能なトルク伝達手段の第1及び第2の湿式クラッチ装置のそれぞれの入力部と出力部の間に滑りを許容することにより前記複数の車輪からなる第2群のそれぞれの車輪へ伝達されるトルクの量を変調する一方、前記第2のリリース可能なトルク伝達手段をその入力部へ与えられるトルクがその出力部に直接伝達されるように構成し、そして、前記第2のリリース可能なトルク伝達手段の入力部と出力部を互いに隔離することにより、前記複数の車輪からなる第2群から前記第1のリリース可能なトルク伝達手段の第1及び第2の湿式クラッチ装置を切断する工程と、
を含み、
前記第1及び第2のリリース可能なトルク伝達手段は分離した別々のアクチュエータにより又は共通のアクチュエータにより各自の第1及び第2条件の間でそれぞれ作動可能である、
方法。」
また、本願発明2ないし本願発明10は、本願発明1を直接又は間接的に引用した発明である。

第3 刊行物及び引用発明
1 刊行物1
原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開平1-233123号公報(以下、「刊行物1」という。)には、第1図及び第2図とともに、以下の事項が記載されている。

(1)「(実施例)
以下、この発明を図面に基づいて説明する。第1図および第2図はこの発明に係る四輪駆動車の駆動力伝達・断続装置の一実施例を示す図である。四輪駆動車の駆動力伝達・断続装置はFFベースの四輪駆動車のプロペラシャフトと後輪駆動軸との間に設けられる差動歯車装置の代りに介設した例である。
まず、構成を説明する。
1は内燃機関からのトルクがプロペラシャフトを介して伝達されるドライブピニオンギアであり、このドライブピニオンギア1はリングギア2と噛合し、このリングギア2はケーシングとしての略円筒状のアウターケース3aに取り付けられている。アウターケース3aの内側には、このアウターケース3aと略同一な略円筒状であって、第3回転部材としてのインナーケース3bが嵌合する形で配設されており、このインナーケース3bはアウターケース3aを回動自在に支持している。インナーケース3b内には第1回転部材としての第1ハブ4および第2回転部材としての第2ハブ5が相対回転可能に収納され、この第1ハブ4および第2ハブ5は同一軸線上に配設されているとともに、それぞれ後輪駆動軸の左側輪駆動軸6aと右側輪駆動軸6bとにそれぞれスプライン連結されている。インナーケース3bと第1ハブ4および第2ハブ5とによって作動室7が画成され、この作動室7には粘性流体としてのシリコンオイルが封入されている。作動室7には第1抵抗板8と第2抵抗板9とが収納され、この第1抵抗板8と第2抵抗板9とは、それぞれインナーケース3bと第1ハブ4および第2ハブ5とに交互にスプライン結合されている。作動室7の略中央にはスペーサ10が配設され、このスペーサ10によって作動室10は第1作動室11と第2作動室12とに区画されている。ここで、これらインナーケース3b、第1,2ハブ4,5、作動室7第1,2抵抗板8,9およびシリコンオイルは全体として従来のビスカスカップリングの機能を果している。
アウターケース3aは第1図中左右端部に、軸受13を介してデフキャリア14に回転自在に支持される第1支持円筒部15a,15bを有している。また、第1支持円筒部15a,15bの内周側には、インナーケース3bの第2支持円筒部16a,16bが位置している。第2支持円筒部16aの右方端は、第1支持円筒部15aよりも第1図中右方向に延設されており、この延設された第2支持円筒部16aの外周側には略環状の駆動部材17が右側輪駆動軸6bの軸線方向(第1図中左右方向)に摺動可能にスプライン嵌合されている。第1支持円筒部15aと駆動部材17とは対向しており、これらの対向する側には一対の歯18,19(係合部)がそれぞれ形成され、噛合可能である。駆動部材17の外周側には嵌合溝17aが形成され、この嵌合溝17aにはフォーク20が嵌合し、このフォークを移動機構(図示せず)によって摺動させると、駆動部材17の歯19と第1支持円筒部15aの歯18とは噛合(係合)する。ここでアウターケース3a、インナーケース3b、駆動部材17および歯18,19は、全体として従来の四輪駆動車の駆動力断続装置の機能を有している。さらに、アウターケース3aとインナケース3bとの間には空隙21を有している
次に、作用を説明する。
FF方式の四輪駆動車において、トランスファーを操作して前輪駆動(二輪駆動)で走行するときには、移動機構によってフォーク20を移動させて、駆動部材17を第1図中右方へ摺動させる。このため、駆動部材17は第1支持円筒部15aから離隔された状態にあり、駆動部材17の歯19と第1支持円筒部15aの歯18とは噛合しておらず、係合状態は遮断されている。したがって、つれ回る左・右側後輪は左・右側輪駆動軸6a,6bを回転させ、さらに第1,2ハブ4,5、第1,2抵抗板8,9およびインナーケース3bを回転するのみである。すなわち、左・右側輪駆動軸6a,6b、第1,2ハブ4,5、第1,2抵抗板8,9およびインナーケース3bは空転するのみで、アウターケース3a、リングギア2およびドライブピニオンギア1を回転させることはない。その結果、アウターケース3a、リングギア2、ドライブピニオンギア1からトランスファーまでの駆動系をトルクの流れの逆方向から駆動してしまうことはなく、この駆動系の回転抵抗を減じ、またデフキャリア14内に流入された潤滑油の攪拌抵抗を生じさせず、さらに燃費の向上と摩耗の低減を図ることができる。加えて駆動系から発生する騒音を低減させることができる。
次に、トランスファーを操作して四輪駆動で走行するときには、移動機構によってフォーク20を移動させて、駆動部材17を第1図中左方へ摺動させる。駆動部材17とアウターケース3aとの回転が同期すると、第2図に示すように駆動部材17の歯18とアウターケース3aの歯18とは噛合して係合状態となる。このため、アウターケース3aは駆動部材17を介してインナーケース3bと連結される。このようにして、アウターケース3aがインナーケース3bと連結されると、内燃機関のトルクはトランスファー等の駆動系からドライブピニオンギア1へ伝達され、さらにリングギア2、アウターケース3a、駆動部材17、インナーケース3b、第1,2抵抗板8,9、第1,2ハブ4,5からそれぞれ左側輪駆動軸6aおよび右側輪駆動軸6bへ伝達され、四輪駆動で走行する(第2図において、太線によってトルクの流れを示す)。
次に、車両が路面摩擦係数の小さな路面を走行するときに前輪がスリップすると、前輪駆動軸の回転の方が後輪駆動軸6a,6bの回転より速くなり、インナーケース3bと連結している第1抵抗板8と、左側輪駆動軸6aおよび右側輪駆動軸6bと連結している第2抵抗板9とは相対回転し、シリコンオイルを剪断する。このため、シリコンオイルの剪断力がトルクとして後輪駆動軸6a,6bへ伝達され、後輪によって車両を押し出し、前輪をスリップしている状態から脱出させる。
また、左・右側後輪のうち一方の車輪、例えば右側後輪が路面からスリップすると、スリップしない左側後輪は大きな抵抗を受ける。このため、第1ハブ4とインナーケース3bとの間には回転数差が生じ、第1作動室11内の第1抵抗板8と、第2抵抗板9とは相対回転し、シリコンオイルを剪断する。次に、この第1抵抗板8と第2抵抗板9とによって剪断されるシリコンオイルの剪断力は上昇して大きくなり、さらにアウタケース3aとインナケース3bとの間に形成される空隙21によって、インシュレータ効果が得られ、放熱がおこりにくくなるため、迅速にハンプ現象が起こる。このため、内燃機関のトルクはインナーケース3bから左側輪駆動軸6aへ直接伝達され、左側輪によってスリップしている右側輪を脱出させ、車両は安定走行する。
さらに、車庫入れ等のようにハンドルを大きく切るときには、前輪駆動軸と後輪駆動軸との間には回転数差が生じるが、この回転数差はインナーケース3bと第1,2ハブ4,5とが相対回転することによって吸収させ、タイトコーナーブレーキング現象の発生を防止する。
このように、二輪駆動走行時には駆動部材17を摺動させてアウターケース3aとインナーケース3bとの連結を遮断すれば、アウターケース3a、リングギア2、ドライブピニオンギア1からトランスファーまでの駆動系を、トルクの流れの逆方向から駆動してしまうことはない。したがって、この駆動系の回転抵抗を減じ、またデフキャリア14内に流入された潤滑油の攪拌抵抗を生じさせず、さらに燃費の向上と摩耗の低減を図ることができる。加えて駆動系から発生する騒音を低減させることができる。
また、四輪駆動走行時には駆動部材17を摺動させてアウターケース3aとインナーケース3bとを連結すれば、前輪がスリップすると後輪によって車両を押し出し、前輪をスリップしている状態から脱出させる。一方、左右側後輪のうち一方の車輪がスリップすると、他方の車輪によってスリップしている一方の車輪を脱出させて、車両は安定走行する。さらに、車庫入れ時には、インナーケース3bと第1,2ハブ4,5が相対回転するのでタイトコーナーブレーキング現象の発生は防止される。
したがって、四輪駆動車にこの発明に係る四輪駆動車の駆動力伝達・断続装置を設けたことにより、従来のビスカスカップリングと四輪駆動車の駆動力断続装置との機能を併せて持たせることができる。すなわち、ぬかるみから迅速に脱出したり、また車庫入れ時等には前輪駆動軸と後輪駆動軸との間に生じる回転数差を吸収してタイトコーナーブレーキング現象の発生を防止することができるとともに、二輪駆動時には従動側動力伝達系の回転による走行抵抗及び振動・騒音等を可及的に低減することができる。」(第2ページ右下欄第7行ないし第4ページ右下欄第19行)

(2)上記記載事項から、「インナーケース3b、第1,2ハブ4,5、作動室7、第1,2抵抗板8,9およびシリコンオイル」からなる部材群は、「全体として従来のビスカスカップリングの機能を果している」ことが把握できるので、同装置は、従来のビスカスカップリングと同様に、インナーケース3bと第1,2ハブ4,5との間に滑りを許容することにより前記インナーケース3bから前記第1,2ハブ4,5へ伝達されるトルク量を調整するように作動可能であると認められる。

(3)上記記載事項から、「アウターケース3a、インナーケース3b、駆動部材17および歯18,19」からなる部材群は、「全体として従来の四輪駆動車の駆動力断続装置の機能を有している」ことが把握できるので、同装置は、従来の四輪駆動車の駆動力断続装置と同様に、該アウターケース3aが該インナーケース3bから隔離される第1条件と、該アウターケース3aが該インナーケース3bに直結されて該アウターケース3aに加えられるトルクが該インナーケース3bへ直接伝達される第2条件の間で作動するように構成されていると認められる。

上記記載事項、認定事項及び図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「内燃機関と、
2つの車輪からなる前輪および後輪と、
前記内燃機関を前記2つの車輪からなる前輪および後輪に接続するための駆動系であって、前記2つの車輪からなる前輪は前記駆動系が二輪駆動走行時にある時に前記内燃機関により駆動し、また前記2つの車輪からなる後輪は前記駆動系が四輪駆動走行にある時に前記内燃機関により追加的に連結して駆動するように構成されている駆動系とを備えた四輪駆動車であって、
前記駆動系は、プロペラシャフトと該プロペラシャフト及び前記2つの車輪からなる後輪の間の駆動力伝達・断続装置とを有する駆動系の一部を含み、該駆動力伝達・断続装置は駆動系が二輪駆動走行及び四輪駆動走行の間で切り替わる時にプロペラシャフトを前記2つの車輪からなる後輪に対して断接するよう作動可能であり、
前記駆動力伝達・断続装置はアウターケース3aと、プロペラシャフトにより駆動されるよう構成されたリングギア2と、左・右側駆動軸6a,6bと、前記リングギア2及び前記左・右側駆動軸6a,6bの間に直列に結合されるインナーケース3b、第1,2ハブ4,5、作動室7、第1,2抵抗板8,9およびシリコンオイルからなる部材群並びにアウターケース3a、インナーケース3b、駆動部材17および歯18,19からなる部材群を備え、
前記インナーケース3b、第1,2ハブ4,5、作動室7、第1,2抵抗板8,9およびシリコンオイルからなる部材群は、インナーケース3b及び第1,2ハブ4,5を有し、前記インナーケース3b、第1,2ハブ4,5、作動室7、第1,2抵抗板8,9およびシリコンオイルからなる部材群は、インナーケース3bと第1,2ハブ4,5との間に滑りを許容することにより前記インナーケース3bから前記第1,2ハブ4,5へ伝達されるトルク量を調整するように作動可能であり、
前記アウターケース3a、インナーケース3b、駆動部材17および歯18,19からなる部材群もアウターケース3aとインナーケース3bを有し、アウターケース3a、インナーケース3b、駆動部材17および歯18,19からなる部材群は、該アウターケース3aが該インナーケース3bから隔離される第1条件と、該アウターケース3aが該インナーケース3bに直結されて該アウターケース3aに加えられるトルクが該インナーケース3bへ直接伝達される第2条件の間で作動するように構成されており、
前記2つの車輪からなる後輪は複数の車輪を有し、前記駆動力伝達・断続装置の左・右側駆動軸6a,6bはトルクを後輪の車輪のそれぞれ異なった車輪に供給するように構成されており、
インナーケース3b、第1,2ハブ4,5、作動室7、第1,2抵抗板8,9およびシリコンオイルからなる部材群はそれぞれ上記の一対の左・右側駆動軸6a,6bのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能であり、
前記アウターケース3a、インナーケース3b、駆動部材17および歯18,19からなる部材群はフォーク20により前記第1及び第2条件の間でそれぞれ作動可能である、
四輪駆動車。」

2 刊行物2
原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開2004-9954号公報(以下、「刊行物2」という。)には、多板クラッチ機構33に関し、図面(特に【図5】参照。)とともに、以下の事項が記載されている。
「【0095】
(第3の実施の形態)
続いて、本発明を具体化した第3の実施の形態について、上記第2の実施の形態との相違点を中心として、図5を参照して詳細に説明する。
【0096】
本実施の形態にかかる動力伝達装置は、上記第2の実施の形態の動力伝達装置に対して、更にもう一つのドッグクラッチを追加した構成となっている。そしてそうした構成により、二輪駆動モード設定時に、リアディファレンシャル40のすべての要素の回転を停止させ、更なる燃料消費率の低減を図るようにしたものである。
【0097】
図5に示されるように本実施の形態では、右リアアクスル17Rに配設されたドッグクラッチ76Rに加え、左リアアクスル17Lにもドッグクラッチ76Lが設けられている。そして、それら2つのドッグクラッチ76R,76Lにより、右サイドギア43Rと右リアホイール16Rとの駆動連結、及び左サイドギア43Lと左リアホイール16Lとの駆動連結が、それぞれ断接されるようになっている。よって本実施の形態では、これらのドッグクラッチ76R,76Lが、左右後輪と後輪用差動機との駆動連結を共に断接する上記第2の動力切断機構に相当する構成となっている。
【0098】
こうした本実施の形態では、多板クラッチ機構33及びそのドッグクラッチ76L,76Rのすべてを接続させることで、四輪駆動モードが設定される。このときの動力伝達装置の動作は、上記実施の形態と同様である。
【0099】
また本実施の形態では、多板クラッチ機構33及びドッグクラッチ76L,76Rのすべてを切断させることで、二輪駆動モードが設定されている。
こうした二輪駆動モードの設定時には、2つのドッグクラッチ76L,76Rによって、左右のリアホイール16L,16Rとリアディファレンシャル40との駆動連結は、ともに切断されている。また、多板クラッチ機構33によって、プロペラシャフト31を介したフロントギア機構30とリアギア機構34との駆動連結も切断されている。そのため、本実施の形態では、二輪駆動モードの設定時には、リアギア機構34及びリアディファレンシャル40は、4つのホイール14L,14R,16L,16Rのいずれからも完全に遮断されるようになる。」

3 刊行物3
原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開2005-145334号公報(以下、「刊行物3」という。)には、ツインクラッチ13に関し、図面(特に【図1】参照。)とともに、以下の事項が記載されている。
(1)「【0058】
また、後輪側の駆動系は、後輪側駆動軸10、プロペラシャフト11(11a,11bはそのジョイント部)、後輪駆動軸12を備え、後輪駆動軸12に形成された傘歯伝動歯車12Aとツインクラッチ13に形成された傘歯伝動歯車13Aが噛み合ってツインクラッチ13に動力が伝達され、このツインクラッチ13の結合部13B,13Cに後輪15A,15Bを駆動する右輪駆動軸14A,左輪駆動軸14Bが結合されるようになっている。」

(2)「【0060】
次に、駆動力制御系について説明する。駆動力の制御を行う駆動力制御部30には、車両の走行状態を検出する各種センサから得られる検出信号が入力されると共に、必要に応じて、走行路面の摩擦係数を推定する路面μ推定装置31からの出力信号、或いはエンジン1の運転状態を制御するエンジンコントローラ32からの出力信号が入力され、これらの入力に基づく演算処理結果が駆動力制御部30から出力されることになる。そして、この出力信号に応じて、モータ・ジェネレータ制御部33、クラッチLH駆動部34、クラッチRH駆動部35から制御信号が出力され、この制御信号によってモータ・ジェネレータ20の付加トルク、ツインクラッチ13における結合部13A,13Bの結合状態が制御されることになる。」

(3)「【0075】
(旋回時の左右輪駆動力制御)
この実施形態によると、前述したようにモータ・ジェネレータ20が連結された後輪側では、差動機能を有する終減速装置を設けることなく、結合状態を制御可能なツインクラッチ13を介して左右輪への動力伝達がなされる。そして、モータ・ジェネレータ20によって付加される駆動力又は回生制動力に対してツインクラッチ13における左右の結合部13B,13Cの結合状態を異ならせることによって、左右輪の制駆動力トルク配分を調整している。」

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比すると、引用発明の「内燃機関」は本願発明1の「原動機手段」に相当し、以下同様に、「前輪」は「第1群」に、「後輪」は「第2群」に、「駆動系」は「ドライブライン」に、「二輪駆動走行」は「第1運転モード」に、「四輪駆動走行」は「第2運転モード」に、「追加的に連結して駆動」することは「追加的に駆動」することに、「四輪駆動車」は「自動車」に、「プロペラシャフト」は「補助ドライブシャフト」に、「駆動力伝達・断続装置」は「駆動手段」に、「駆動系の一部分」は「補助部」に、「断接」することは「結合及び切断」することに、「駆動力伝達・断続装置」の「アウターケース3a」は「駆動手段」の「入力部」に、「リングギア2」は「リングギヤ」に、「駆動力伝達・断続装置」の「左・右側駆動軸6a,6b」は「駆動手段」の「出力部」に、「アウターケース3a、インナーケース3b、駆動部材17および歯18,19からなる部材群」は「第2のリリース可能なトルク伝達手段」に、「アウターケース3a」は「第2のリリース可能なトルク伝達手段」の「入力部」に、「インナーケース3b」は「第2のリリース可能なトルク伝達手段」の「出力部」に、「フォーク20」は「アクチュエータ」に、それぞれ相当する。

また、引用発明の「インナーケース3b、第1,2ハブ4,5、作動室7、第1,2抵抗板8,9およびシリコンオイルからなる部材群」と本願発明1の「第1のリリース可能なトルク伝達手段」とは、「第1のトルク伝達手段」という限りで共通し、引用発明の「インナーケース3b」と本願発明1の「第1のリリース可能なトルク伝達手段」の「入力部」は、「第1のトルク伝達手段」の「入力部」という限りで共通し、引用発明の「第1,2ハブ4,5」と本願発明1の「第1のリリース可能なトルク伝達手段」の「出力部」は「第1のトルク伝達手段」の「出力部」という限りで共通する。

したがって、本願発明1と引用発明とは、以下の一致点並びに相違点1及び相違点2を有する。

[一致点]
「原動機手段と、
一つ以上の車輪からなる少なくとも第1群および第2群と、
前記原動機手段を前記一つ以上の車輪からなる第1群および第2群に接続するためのドライブラインであって、前記一つ以上の車輪からなる第1群は前記ドライブラインが第1運転モードにある時に前記原動機手段により駆動し、また前記一つ以上の車輪からなる第2群は前記ドライブラインが第2運転モードにある時に前記原動機手段により追加的に駆動するように構成されているドライブラインとを備えた自動車であって、
前記ドライブラインは、補助ドライブシャフトと該補助ドライブシャフト及び前記一つ以上の車輪からなる第2群の間の駆動手段とを有する補助部を含み、該駆動手段はドライブラインが第1運転モード及び第2運転モードの間で切り替わる時に補助ドライブシャフトを前記一つ以上の車輪からなる第2群に対して結合及び切断するよう作動可能であり、
前記駆動手段は入力部と、補助ドライブシャフトにより駆動されるよう構成されたリングギヤと、出力部と、前記リングギヤ及び前記出力部の間に直列に結合される第1のトルク伝達手段及び第2のリリース可能なトルク伝達手段を備え、
前記第1のトルク伝達手段は、入力部と出力部とを有し、前記第1のトルク伝達手段はこれ等両部の間に滑りを許容することにより前記入力部から前記出力部へ伝達されるトルク量を調整するように作動可能であり、
前記第2のリリース可能なトルク伝達手段も入力部と出力部を有し、第2のリリース可能なトルク伝達手段は、該入力部が該出力部から隔離される第1条件と、該入力部が該出力部に直結されて該入力部に加えられるトルクが該出力部へ直接伝達される第2条件の間で作動するように構成されており、
前記一つ以上の車輪からなる第2群は複数の車輪を有するように構成されており、
前記第2のリリース可能なトルク伝達手段は共通のアクチュエータにより第1及び第2条件の間でそれぞれ作動可能である、
自動車。」

[相違点1]
「第1のトルク伝達手段」について、本願発明1は「第1のリリース可能なトルク伝達手段」であり、「その入力部がその出力部から隔離される第1条件と、その入力部とその出力部が直結されてその入力部に加えられたトルクが直接その出力部に伝達される第2条件と、の間で作動可能であり、」「第1のリリース可能なトルク伝達手段は第1及び第2の湿式クラッチ装置を含み、各湿式クラッチ装置はそれぞれ上記の一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能であり、」「分離した別々のアクチュエータにより又は共通のアクチュエータにより」「第1及び第2条件の間でそれぞれ作動可能である」のに対し、引用発明は、このような構成ではない点。

[相違点2]
本願発明1は「駆動手段の出力部は自動車の一対のサイドシャフトの各々にトルクを供給するように構成され、これ等のサイドシャフトはトルクを第2群の車輪のそれぞれ異なった車輪に供給」し、「第1のトルク伝達手段は上記の一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能であ」るのに対し、引用発明は、このような構成ではない点。


(2)相違点についての判断
上記相違点1に係る本願発明1の構成について検討する。

刊行物2に記載された多板クラッチ機構33の、トルクの入力と出力はそれぞれ1つであり、刊行物2の右リアアクスル17R及び左リアアクスル17Lのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように差動可能なものではない。
そうすると、引用発明の「インナーケース3b、第1,2ハブ4,5、作動室7、第1,2抵抗板8,9およびシリコンオイルからなる部材群」と刊行物2に記載された多板クラッチ機構33とは、四輪駆動車用のトルク伝達用の装置であるという限りでは共通するものの、それぞれの装置に求められる機能が異なる。そうであれば、引用発明の「インナーケース3b、第1,2ハブ4,5、作動室7、第1,2抵抗板8,9およびシリコンオイルからなる部材群」を刊行物2に記載された多板クラッチ機構33に置き換えることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

また、刊行物3に記載されたツインクラッチ13は、傘歯伝動歯車13Aから右輪駆動軸14R及び左輪駆動軸14Lまでの経路のトルク伝達手段であるが、当該ツインクラッチ13は、前記経路の途中で、他のリリース可能なトルク伝達手段と直列に結合されるものではなく、前記経路のトルク伝達手段として単独で完結している。
そうすると、引用発明及び刊行物3に接した当業者は、引用発明の「インナーケース3b、第1,2ハブ4,5、作動室7、第1,2抵抗板8,9およびシリコンオイルからなる部材群」を、刊行物3に記載されたツインクラッチ13に置き換え、「アウターケース3a、インナーケース3b、駆動部材17および歯18,19からなる部材群」と併用することは、容易に想到し得たとはいえない。

したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が引用発明、刊行物2に記載された事項及び刊行物3に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2ないし本願発明10について
本願発明2ないし本願発明10は、本願発明1をさらに限定したものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者が引用発明、刊行物2に記載された事項及び刊行物3に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

3 本願発明11について
本願発明11は「第1のリリース可能なトルク伝達手段」を有し、「その入力部がその出力部から隔離される第1条件と、その入力部とその出力部が直結されてその入力部に加えられたトルクが直接その出力部に伝達される第2条件と、の間で作動可能であり、第1のリリース可能なトルク伝達手段は第1及び第2の湿式クラッチ装置を含み、各湿式クラッチ装置はそれぞれ上記の一対のサイドシャフトのそれぞれのシャフトにトルクを提供するように作動可能で」あり、「分離した別々のアクチュエータにより又は共通のアクチュエータにより」「第1及び第2条件の間でそれぞれ作動可能である、」との構成を有するものである。
そして、上記構成は、上記相違点1に係る本願発明1の構成と実質的に同一である。
そうすると、本願発明11は、本願発明1と同様に、当業者が引用発明、刊行物2に記載された事項及び刊行物3に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、平成27年9月2日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に係る発明は、その優先日前に日本国内において頒布された上記刊行物1ないし刊行物3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、平成29年6月21日の手続補正により補正された請求項1及び11は、それぞれ上記相違点1に係る本願発明1の構成及び上記相違点1に係る本願発明1の構成と実質的に同一の構成を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1ないし11は、引用発明、刊行物2に記載された事項及び刊行物3に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
当審では、請求項1及び14について、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないとの拒絶理由を通知したが、平成29年6月21日の手続補正により特許請求の範囲が補正された結果、これらの拒絶理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし11は、当業者が引用発明、刊行物2に記載された事項及び刊行物3に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-11 
出願番号 特願2014-506910(P2014-506910)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60K)
P 1 8・ 537- WY (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高吉 統久  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 内田 博之
小関 峰夫
発明の名称 自動車及びそれを制御する方法  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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