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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1332225
異議申立番号 異議2016-700434  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-16 
確定日 2017-07-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5812979号発明「合わせガラス用中間膜及び合わせガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5812979号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。 特許第5812979号の請求項1?5、10、11に係る特許を維持する。 特許第5812979号の請求項6?9に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5812979号(以下、「本件特許」という。)は、平成23年7月15日(優先権主張 平成22年 7月16日(2件) 平成23年 6月29日)を国際出願日とする特願2011-532055号の一部を、平成24年12月19日に新たな特許出願とした特願2012-276657号の特許請求の範囲に記載された請求項1?11に係る発明について、平成27年10月 2日に設定登録がされたものであり、その後、その特許について、特許異議申立人 株式会社クラレ(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。そして、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年 5月16日付け 特許異議の申立て
同年 7月29日付け 取消理由通知
同年 9月30日付け 訂正の請求、意見書の提出
同年11月14日付け 特許異議申立人による意見書の提出
平成29年 1月19日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 3月24日付け 訂正の請求、意見書の提出

なお、平成29年 3月24日付けの訂正の請求に対して、特許異議申立人に意見を求めたが、特許異議申立人から意見書の提出はなかった。


第2 訂正請求について
1 訂正の内容
平成29年 3月24日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付の訂正特許請求の範囲のとおり訂正するもので、以下の訂正事項1?7からなるものである(下線部は訂正箇所)。

なお、平成28年 9月30日付けの訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
請求項1に
「前記第1の層が、熱可塑性樹脂と、下記式(1)で表される第1の可塑剤とを含み、
前記第1の層がジエステル化合物である第2の可塑剤をさらに含み、
前記第1の可塑剤の含有量が前記第2の可塑剤の含有量に対して相対的に少なくかつ前記第2の可塑剤の含有量が前記第1の可塑剤の含有量に対して相対的に多い、」
とあるのを、
「前記第1の層が、熱可塑性樹脂と、下記式(1)で表される第1の可塑剤とを含み、
前記第1の層がジエステル化合物である第2の可塑剤をさらに含み、
前記第1の可塑剤の含有量が前記第2の可塑剤の含有量に対して相対的に少なくかつ前記第2の可塑剤の含有量が前記第1の可塑剤の含有量に対して相対的に多く、
前記第1の層中の前記熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂であり、前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂はポリビニルアルコールのアセタール化物であり、前記ポリビニルアルコールの平均重合度が2700?5000であり、前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、22.5?25モル%である、」
に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項6を削除する。

(3)訂正事項3
請求項7を削除する。

(4)訂正事項4
請求項8を削除する。

(5)訂正事項5
請求項9を削除する。

(6)訂正事項6
請求項10に
「請求項9」
とあるのを、
「請求項1?5のいずれか1項」
に訂正する。

(7)訂正事項7
請求項11に
「請求項1?10のいずれか1項」
とあるのを、
「請求項1?5及び10のいずれか1項」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、第1の層中の熱可塑性樹脂を「前記第1の層中の前記熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂であり、前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂はポリビニルアルコールのアセタール化物であり、前記ポリビニルアルコールの平均重合度が2700?5000であり、前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、22.5?25モル%である」と具体的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
ここで、第1の層中の熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂であることは、訂正前の請求項6,及び本件明細書の【0039】などに記載されている。
また、上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアセタール化することにより得られ、前記ポリビニルアルコールの平均重合度が2700?5000であることが、訂正前の請求項8,及び本件明細書の【0144】?【0147】などに記載されており、当該ポリビニルアセタール樹脂が、ポリビニルアルコールのアセタール化物であることは明らかである。
さらに、上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、22.5?25モル%であることは、訂正前の請求項7にその上限が、及び本件明細書の実施例11(【0255】、【0256】、【0303】、【0316】(【表3】))に下限が、それぞれ記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2?5について
訂正事項2?5は、それぞれ訂正前の請求項6?9を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項6、7について
訂正事項6、7は、選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)一群の請求項について
上記訂正事項1?7に係る訂正前の請求項1?11は、請求項2?11が、直接又は間接的に請求項1を引用する関係にあるから、上記訂正事項1?7は、一群の請求項である請求項1?11について請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正を認める。


第3 特許異議申立てについて
1 本件発明の認定
本件訂正請求により訂正された本件特許の請求項1?5、10、11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」、「本件発明10」、「本件発明11」とする。)は,次の事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち本件発明1は、次のとおりのものである(下線部は、訂正箇所)。

【請求項1】
第1の層のみの1層の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、
前記第1の層が、熱可塑性樹脂と、下記式(1)で表される第1の可塑剤とを含み、
前記第1の層がジエステル化合物である第2の可塑剤をさらに含み、
前記第1の可塑剤の含有量が前記第2の可塑剤の含有量に対して相対的に少なくかつ前記第2の可塑剤の含有量が前記第1の可塑剤の含有量に対して相対的に多く、
前記第1の層中の前記熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂であり、前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂はポリビニルアルコールのアセタール化物であり、前記ポリビニルアルコールの平均重合度が2700?5000であり、前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、22.5?25モル%である、合わせガラス用中間膜。 【化1】

前記式(1)中、R1及びR2はそれぞれ、エーテル結合を少なくとも1つ有する有機基を表し、nは2?8の整数を表す。

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?11に係る特許に対して、平成28年 7月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由1.本件特許の請求項1?6、11に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

理由2.本件特許の請求項1?11に係る発明は、甲1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

理由3.本件特許の請求項1?8、11に係る発明は、「第1の層中のポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%以上である」ことが特定されておらず、また、本件特許の請求項9に係る発明は、「第1の層中のポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%未満であり、かつアセタール化度が68モル%以上である」ことが特定されているため、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないから、請求項1?9、11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。


甲1:特開2006-77251号公報
甲2:特開2001-316140号公報
甲3:国際公開2010/038801号

3 当審の判断
(1)理由1、2について
ア 甲1?3の記載事項
(ア)甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。

1a 「【請求項1】
部分アセタール化ポリビニルアルコールを基礎とする可塑剤含有のシートであって、
a)部分アセタール化ポリビニルアルコール60?85質量%、
b)低い極性を有する少なくとも1種の可塑剤14?39質量%、
c)式I及び/又は式II
R^(1)-O(-R^(2)-O)_(n)-CO-R^(5) I
R^(1)-O(-R^(2)-O)_(n)-CO-R^(3)-CO-(O-R^(4)-)_(m)O-R^(6) II
[式中、
R^(1)、R^(5)、R^(6)は互いに無関係に、H、1?12個のC原子を有する脂肪族又は芳香族の基であり、
R^(3)は、単結合、1?12個のC原子を有する二価の脂肪族又は芳香族の基であり、
R^(2)、R^(4)は互いに無関係に、1?12個のC原子を有する二価の脂肪族又は芳香族の基であり、
n、mは互いに無関係に、1?10の整数である]の少なくとも1種の補助可塑剤1?20質量%
を含有するシート。
・・・
【請求項4】
部分アセタール化ポリビニルアルコールとして、19.5質量%より大きいPVOH含量を有する部分ブチラール化ポリビニルアルコール(PVB)が使用されることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載のシート。
【請求項5】
低い極性の可塑剤として、6個より多い炭素原子を有するアルキル基を有するジアルキルアジピン酸エステル並びに7個より多くの炭素原子を有するカルボン酸基を有するオリゴグリコール酸エステルが使用されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載のシート。」

1b「【0001】
本発明は、複合安全ガラスにおける中間層として適した、部分アセタール化ポリビニルアルコール、特にポリビニルブチラール(PVB)を基礎とする可塑剤含有のシートに関する。」

1c「【0003】
一方、トリエチレングリコールもしくはテトラエチレングリコールの脂肪族ジエステルが、かかるPVBシート用の可塑剤として確立されている。特に頻繁に、可塑剤として3G7、3G8又は4G7が使用され・・・3G8はトリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサン酸エステル)、すなわち式C_(4)H_(9)CH(CH_(2)CH_(3))CO(OCH_(2)CH_(2))_(3)O_(2)CCH(CH_(2)CH_(3))C_(4)H_(9)の化合物を表す。」

1d 「【0006】
・・・ 湿分は接着シートとガラスとの間の付着を永続的に害しうるし、極端な場合には、そのシートはガラスから目に見えて剥離するので、PVBシートを有する複合安全ガラス(VSG)を製造する際に、できるだけ高い該シートの耐湿性を得ようと努められる。
【0007】
3G8で可塑化されたPVBシートの改善された耐湿性は、恐らく、この可塑剤の4G7又は3G7などの可塑剤と比較したより強力な非極性特性からもたらされる。・・・
【0008】
しかしながら、3G8を使用する際の欠点としては、この可塑剤が、まさにその低い極性に基づいてポリビニルブチラールと限られた程度でのみ適合性であることが強調される。
【0009】
特に、3G8では、19.5質量%より高いポリビニルアルコール含量を有するPVB型を簡単には可塑化できない。それというのも、その際に可塑剤の浸出が見込まれるからである。・・・」

1e「【0014】
従って、部分アセタール化ポリビニルアルコールと高い適合性を有する可塑剤系が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
驚くべきことに、極性の低い可塑剤が部分アセタール化ポリビニルアルコールから浸出することは、カルボン酸とアルコールとのエステルであって、少なくとも1つのエーテル結合を有するエステルの群からの補助可塑剤を添加することによって妨げることができると判明した。」

1f「【0022】
好適な追加可塑剤の群には、例えば、ジ-(2-ブトキシエチル)-アジピン酸エステル(DBEA)、・・・ジ-(2-ブトキシエチル)-フタル酸エステル及び/又はジ-(2-ブトキシエトキシエチル)-フタル酸エステルが該当する。」

1g「【0028】
有利には、部分アセタール化ポリビニルアルコールとしては、ASTM D1396に従ってポリビニルアルコール(PVOH)として計算されて19.5質量%より高いヒドロキシル基含量(本願では短縮してポリビニルアルコール含量又はPVOH含量と呼ぶ)を有する部分ブチラール化ポリビニルアルコール(ポリビニルブチラール)が使用される。それというのも、この樹脂の場合に、本発明による補助可塑剤の添加の利点が最大限に利用されるからである。根本的に、補助可塑剤の使用は、ポリビニルアルコール含量が19.5質量%未満であるPVB配合の場合にさえも適合性を改善する。一般に、本発明により使用される部分アセタール化ポリビニルアルコールのPVOH含量は13?25%である。」

1h「【実施例】
・・・
【0038】
・・・ 実施例5及び実施例6は、PVOH含量20.5質量%を有するPVB樹脂を使用する場合に、本発明による配合は、98%RLを有する環境での貯蔵においてさえも浸出に対して安定であり、そして可塑剤3G8成分も追加可塑剤成分も放出しないことを裏付けている。」

1i「【0039】
【表1】



1j「【0040】
全ての質量%の表記は全配合に対するものであるが、但し、PVOH含量は、PVB樹脂の量に対するものである
・・・
本発明による全ての組成は、ガラス-シート-ガラスの構成を有する積層体を14日間50℃及び100%の相対湿度の環境で貯蔵するヘーズ試験において、PVBシートが保護されず湿分に曝される縁部領域に混濁を示さない。」


(イ)甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

2a「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐湿性能、高温下での耐板ズレ性と耐発泡性、取扱性能に優れ、しかも優れた遮音性能を有し、更には遮熱性、電磁波透過性に優れた合わせガラス用中間膜及び合わせガラスに関する。」

2b「【0022】本発明1で用いられるポリビニルアセタール樹脂(A)及び(B)は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)を熱水に溶解し、得られた水溶液を所定温度に保持した後、これにアルデヒドと触媒とを加えアセタール化反応を進行させ、その後、反応液を所定温度で高温保持した後に中和、水洗、乾燥の諸行程を経て樹脂粉末を得る方法等により得られる。【0023】上記PVAとしては特に限定されないが、平均重合度500?5000のものが好ましい。・・・ より好ましくは、1000?5000である。」

2c「【0027】平均重合度が1000?3000のポリビニルアセタール樹脂(A)を用いることにより、得られる合わせガラス用中間膜の遮音性能は、広い温度範囲において、特に、低温域で良好になるが、膜物性は柔らかくなるので、合わせガラスにした際に板ずれ、発泡等が発生する。一方、平均重合度が3000?5000のポリビニルアセタール樹脂(B)を用いると、得られる合わせガラス用中間膜の膜物性は硬くなり、合わせガラスにした際の板ずれ、発泡の防止効果は現れるが、高温での粘性が高くなりすぎるので、樹脂の成形性が悪くなる。・・・」

2d「【0030】本発明1で用いられるポリビニルアセタール樹脂(C)は、アセタール化度が60?85mol%、アセチル基量が8?30mol%、かつ、アセタール化度とアセチル基量との合計が75mol%以上である。
・・・
【0033】上記アセチル基量が8mol%未満であると、樹脂と後述する可塑剤との相溶性が悪くなり、また、得られる樹脂のガラス転移温度が充分に低下せず、低温側における遮音性能が充分に向上しない。・・・ 好ましくは、10?24mol%である。
【0034】上記アセタール化度とアセチル基量との合計が75mol%未満であると、樹脂と後述する可塑剤との相溶性が不充分となる。・・・」

(ウ)甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。

3a「【0002】合わせガラスは、外部衝撃を受けて破損してもガラスの破片が飛散することが少ないため、安全性が高い。そのため、自動車等の車両、航空機、建築物等の窓ガラス等として広く使用されている。合わせガラスとして、少なくとも一対のガラス板間に、例えば、ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する合わせガラス用中間膜を介在させ、積層し、一体化させた合わせガラス等が挙げられる。」

3b「【0007】本発明は、0℃以下の環境下において固体音の遮音性に優れる合わせガラス用中間膜を提供することを目的とする。また、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラスを提供することを目的とする。」

3c「【0013】上記ポリビニルアセタール樹脂Aはポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより製造される。」

3d「【0016】上記ポリビニルアセタール樹脂Aのアセチル基量の好ましい下限は15mol%である。上記ポリビニルアセタール樹脂Aのアセチル基量が15mol%未満であると、可塑剤とポリビニルアセタール樹脂Aとの相溶性が低く、可塑剤がブリードアウトすることがある。・・・」

3e「【0017】上記ポリビニルアセタール樹脂Aの水酸基量の好ましい上限は21.5mol%である。上記ポリビニルアセタール樹脂Aの水酸基量が21.5mol%を超えると、可塑剤とポリビニルアセタール樹脂Aとの相溶性が低く、可塑剤がブリードアウトすることがある。・・・」

3f「【0018】上記ポリビニルアセタール樹脂Aの平均重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は5000である。・・・平均重合度のより好ましい下限は800、より好ましい上限は3500であり、更に好ましい上限は3000である。
また、得られる合わせガラスの板ズレを防止する効果を得るためには、上記ポリビニルアセタール樹脂Aの平均重合度が2600以上であることが好ましく、2700以上であることがより好ましい。・・・」

引用発明の認定
記載事項1a、1bなどによれば、甲1には、部分アセタール化ポリビニルアルコール、及び可塑剤を含む複合安全ガラス用シートについて記載されている。
記載事項1f、1h?1jによれば、甲1に記載された実施例5には、1層のシートであって、PVB樹脂(ポリビニルブチラール樹脂)を含み、極性の低い可塑剤として3G8を22質量%,補助可塑剤としてジ-(2-ブトキシエチル)-アジピン酸エステルを5質量%を含み、前記PVB樹脂のPVOH含量、すなわち、ヒドロキシル基含量が20.5質量%であるシートが記載されている。
ここで、記載事項1cによると、3G8は、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサン酸エステル)を表している。
また、記載事項1jによると、PVOH含量は、PVB樹脂の量に対するものである。

以上のことから、甲1には、
「1層のシートからなる複合安全ガラス用シートであって、
前記シートが、ポリビニルブチラール樹脂と、補助可塑剤としてジ-(2-ブトキシエチル)-アジピン酸エステルとを含み、
前記シートが、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサン酸エステル)である極性の低い可塑剤を含み、
前者の可塑剤を5質量%、後者の可塑剤を22質量%それぞれ含み、
前記ポリビニルブチラール樹脂は部分アセタール化ポリビニルアルコールであり、前記1層のシートの前記ポリビニルブチラール樹脂のヒドロキシル基含量が、20.5質量%である、複合安全ガラス用シート。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
ウ 発明の対比・判断
(ア)本件発明1について
(i)発明の対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「1層のシートからなる」とは、本件発明1の「第1の層のみの1層の構造を有する」ことに相当する。
甲1発明の「複合安全ガラス用シート」は、本件発明1の「合わせガラス用中間膜」に相当する。
甲1発明の「ポリビニルブチラール樹脂」は、ポリビニルアセタール樹脂であって、熱可塑性樹脂である。
甲1発明の補助可塑剤である「ジ-(2-ブトキシエチル)-アジピン酸エステル」は、本件発明1の式(1)で表されるから、本件発明1の「第1の可塑剤」に相当する。
甲1発明の極性の低い可塑剤である「トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサン酸エステル)」は、ジエステル化合物であるから、本件発明1の「第2の可塑剤」に相当する。
そうすると、甲1発明の「前者の可塑剤を5質量%、後者の可塑剤を22質量%それぞれ含」むことは、本件発明1の「前記第1の可塑剤の含有量が前記第2の可塑剤の含有量に対して相対的に少なくかつ前記第2の可塑剤の含有量が前記第1の可塑剤の含有量に対して相対的に多」く含むことに相当する。
そして、甲1発明の「部分アセタール化ポリビニルアルコール」は、本件発明1の「ポリビニルアルコールのアセタール化物」に相当し、甲1発明のヒドロキシル基含量は、本件発明1の「水酸基の含有率」に相当する。

以上のことから、本件発明1と甲1発明とは、
「第1の層のみの1層の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、
前記第1の層が、熱可塑性樹脂と、下記式(1)で表される第1の可塑剤とを含み、
前記第1の層がジエステル化合物である第2の可塑剤をさらに含み、
前記第1の可塑剤の含有量が前記第2の可塑剤の含有量に対して相対的に少なくかつ前記第2の可塑剤の含有量が前記第1の可塑剤の含有量に対して相対的に多く、
前記第1の層中の前記熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂であり、前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂はポリビニルアルコールのアセタール化物である、合わせガラス用中間膜。
【化1】

前記式(1)中、R1及びR2はそれぞれ、エーテル結合を少なくとも1つ有する有機基を表し、nは2?8の整数を表す。 」
の点で一致し、以下の点で相違する。

・ 相違点1
ポリビニルアセタール樹脂において、本件発明1が「ポリビニルアルコールの平均重合度が2700?5000である」のに対し、甲1発明は、ポリビニルアルコールの平均重合度は明らかでない点。

・ 相違点2
ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率について、本件発明1が「22.5?25モル%」であるのに対し、甲1発明は「20.5質量%」である点。

(ii)相違点の判断
相違点2について検討する。
ポリビニルブチラール樹脂は、主鎖のエチレン基に水酸基(ビニルアルコール単位:式量44)、アセチル基(酢酸ビニル単位:式量86)、及びアセタール基(ビニルブチラール単位:式量144/2)を有し、構成単位の合計が100%となる。
そこで、甲1発明のヒドロキシル基含量の単位である質量%を、モル%の単位に換算した時の最小値を算出するために、アセチル基量を0と仮定して計算すると、
100×20.5/44÷[20.5/44+(100-20.5)/(142/2)]
≒ 29.4モル%
となるから、甲1発明のポリビニルブチラール樹脂のヒドロキシル基含量は、29.4モル%以上であるといえる。
そうすると、相違点2は、本願発明と甲1発明の実質的な相違点である。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも実質的な相違点2があるから、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。


次に、引用発明において、上記相違点2に係る本件発明1の水酸基の含有率である「22.5?25モル%」に変更することを、当業者が容易になし得たかどうかについて検討する。
甲1において解決しようとする課題は、記載事項1d、1gなどによれば、19.5質量%(≒ 28.1モル%)より高いポリビニルアルコール含量を有するポリビニルブチラール樹脂において、3G8などの極性の低い可塑剤を用いた時の浸出の問題を解決しようとするものであって、この問題を解決するために、ポリビニルブチラール樹脂に、極性の低い可塑剤14?39質量%と補助可塑剤1?20質量%とを含有させるものである。
ここで、記載事項1gでは、ポリビニルアルコール含量が19.5質量%未満であるPVB配合の場合にさえも適合性を改善すると記載され、ヒドロキシル基の含量が13?25%、すなわち、19.7mol%以上の範囲において使用可能であることも記載されている。
一方、本件発明1は、合わせガラスの遮音性を高めるために、水酸基の含有率が、22.5?25モル%であるポリビニルアセタール樹脂に対して、第1の可塑剤の含有量が第2の可塑剤の含有量に対して相対的に少なくかつ前記第2の可塑剤の含有量が前記第1の可塑剤の含有量に対して相対的に多くなるように含むことを特定事項としたものであって、本件発明1の実施例である「実施例11」は、1種類の可塑剤のみ含む比較例3、及び第1及び第2の可塑剤を同量含む参考例12に対して、損失係数が大きくなることが記載されているから、当該特定事項によって、水酸基の含有率が22.5?25モル%であるポリビニルアセタール樹脂の遮音性が向上するという効果を奏するものである。
しかし、甲1発明は、特に水酸基の含有率が19.5質量%(≒ 28.1mol%)より高いポリビニルアセタール樹脂を対象とするものであるといえるから、水酸基の含有率が13質量%(≒ 19.7mol%)以上で適用可能であることが記載されているとしても、甲1発明において、上記相違点2に係る水酸基の含有率「22.5?25モル%」に変更することに積極的な動機づけはなく、その結果、遮音性が向上するという効果も予測できないというべきである。
そうすると、甲1の記載に基づいて、上記相違点2に係る水酸基の含有率である「22.5?25モル%」に変更することは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

そして、甲2、3について検討すると、甲2は、記載事項2a?2dなどによれば、本件発明1の水酸基の含有率の範囲を含むポリビニルアセタール樹脂を使用すること、及び遮音性能の向上に関する記載はあるが、甲2において、具体的には、1つの樹脂層において1種類の可塑剤を含むことが記載されているにすぎないから、甲1と組み合わせて相違点2に係る構成を導出することはできない。
また、甲3は、記載事項3a?3fなどによれば、遮音性に優れる合わせガラス中間膜を提供するものであるが、記載事項3eによれば、好ましい水酸基の上限は21.5mol%であり、1つの樹脂層において1種類の可塑剤を含むことが記載されているにすぎないから、同様に甲1と組み合わせて相違点2に係る構成を導出することはできない。

したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(イ)本件発明2?5、10、11
本件発明2?5、10、11は、本件発明1の特定事項の全てを含むものである。
そうすると、上記(ア)と同様の理由により、本件発明2?5、10、11は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)理由3について
上記「ウ(ア)(ii)相違点の判断」の欄に記載したように、本件発明1は、遮音性を高めることができる合わせガラス用中間膜を提供することを課題とするところ(本件明細書【0010】)、本件発明1の実施例と認められる「実施例11」は、本件発明1の特定事項である2種類の可塑剤の使用により遮音性が向上しているから、本件発明1は、発明の詳細な説明により本件発明の課題が解決されていると当業者が認識できるものである。
そして、アセチル化度が所定の範囲である場合に、はじめて上記遮音性の向上が生じるというわけではないから、実施例に記載されたポリビニルブチラール樹脂のアセチル化度が12.8モル%のみであることをもって、アセチル化度の特定のない本件発明1が、その課題を解決できないとまではいえない。
したがって、本件発明1、及び本件発明1を特定事項として含む本件発明2?5、11は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
また、本件訂正請求により請求項9は削除されたから、取消理由の対象となる請求項が存在しない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、請求項1?5、10、11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5、10、11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項6?9に係る発明は、本件訂正請求による訂正により削除されたため、本件特許の請求項6?9に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の層のみの1層の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、
前記第1の層が、熱可塑性樹脂と、下記式(1)で表される第1の可塑剤とを含み、
前記第1の層がジエステル化合物である第2の可塑剤をさらに含み、
前記第1の可塑剤の含有量が前記第2の可塑剤の含有量に対して相対的に少なくかつ前記第2の可塑剤の含有量が前記第1の可塑剤の含有量に対して相対的に多く、
前記第1の層中の前記熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂であり、前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂はポリビニルアルコールのアセタール化物であり、前記ポリビニルアルコールの平均重合度が2700?5000であり、前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、22.5?25モル%である、合わせガラス用中間膜。
【化1】

前記式(1)中、R1及びR2はそれぞれ、エーテル結合を少なくとも1つ有する有機基を表し、nは2?8の整数を表す。
【請求項2】
前記式(1)中、R1及びR2はそれぞれ、炭素原子と酸素原子との総数が12以下である基である、請求項1に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
前記式(1)中、R1及びR2はそれぞれ、下記式(11)又は下記式(12)で表されるエーテル結合構造単位を少なくとも1つ有する、請求項1又は2に記載の合わせガラス用中間膜。
【化2】

【化3】

【請求項4】
前記式(1)中、R1は、下記式(21)で表される基であり、かつR2は、下記式(26)で表される基である、請求項1?3のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【化4】

前記式(21)中、R21は、炭素数1?10のアルキル基を表し、R22は、炭素数1?10のアルキレン基を表し、m1は1?5の整数を表す。
【化5】

前記式(26)中、R26は、炭素数1?10のアルキル基を表し、R27は、炭素数1?10のアルキレン基を表し、m2は1?5の整数を表す。
【請求項5】
前記第1の層中の前記ジエステル化合物である第2の可塑剤が、下記式(51)で表される第2の可塑剤である、請求項1?4のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【化6】

前記式(51)中、R51及びR52はそれぞれ、炭素数5?10の有機基を表し、R53は、エチレン基、イソプロピレン基又はn-プロピレン基を表し、pは3?10の整数を表す。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%以上である、請求項1?5のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項11】
第1の合わせガラス構成部材と、
第2の合わせガラス構成部材と、
前記第1,第2の合わせガラス構成部材の間に挟み込まれた中間膜とを備え、
前記中間膜が、請求項1?5及び10のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜を含む、合わせガラス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-07-13 
出願番号 特願2012-276657(P2012-276657)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C03C)
P 1 651・ 121- YAA (C03C)
P 1 651・ 537- YAA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉川 潤  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 山本 雄一
後藤 政博
登録日 2015-10-02 
登録番号 特許第5812979号(P5812979)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 合わせガラス用中間膜及び合わせガラス  
代理人 森住 憲一  
代理人 田口 昌浩  
代理人 特許業務法人宮▲崎▼・目次特許事務所  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  
代理人 田口 昌浩  

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