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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1332259
異議申立番号 異議2017-700130  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-10 
確定日 2017-08-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5966031号発明「吸水性樹脂、及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5966031号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5966031号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯
特許第5966031号の請求項1ないし3に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成23年5月11日に出願した特願2011-106282号の一部を平成27年2月24日に新たな特許出願としたものであって、平成28年7月8日に設定登録され、同年8月10日に特許公報が発行され、その後、平成29年2月10日付けで特許異議申立人株式会社日本触媒(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年4月13日付けで請求項1ないし3に係る特許について取消理由が通知され、その指定期間内である同年6月7日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年6月14日付けで特許異議申立人に対して本件訂正請求があった旨の通知がされ、特許異議申立人から同年7月20日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「以下(イ)?(ニ)の特徴を有する吸水性樹脂。
(イ)中位粒子径が200?800μm、かつ粒子径分布の均一度が1.0?2.2
(ロ)無荷重下の吸水量が56?70g/g、かつ4.14kPa荷重下の吸水量が20mL/g以上
(ハ)初期吸水速度が0.10?0.25mL/s、吸水時間60?120秒間における1秒間あたりの液体の吸収量である中期吸水速度が0.20mL/s以上、吸水速度が30?40秒
(ニ)水可溶分が15質量%以下」とあるのを、
「以下(イ)?(ニ)の特徴を有する吸水性樹脂。
(イ)中位粒子径が200?800μm、かつ粒子径分布の均一度が1.0?2.2
(ロ)無荷重下の吸水量が56?70g/g、かつ4.14kPa荷重下の吸水量が20mL/g以上
(ハ)初期吸水速度が0.10?0.25mL/s、吸水時間60?120秒間における1秒間あたりの液体の吸収量である中期吸水速度が0.25?0.60mL/s、吸水速度が30?40秒
(ニ)水可溶分が15質量%以下」と訂正する。
なお、下線は訂正箇所を示すものである。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1
(1) 訂正前の「中期吸水速度」について、「0.25?0.60mL/s」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2) 訂正前の請求項1ないし3は、請求項1の記載を、請求項2ないし3が直接・間接に引用しているものであるから、訂正前の請求項1ないし3は、一群の請求項である。
したがって、訂正後の請求項1ないし3は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。

(3) 「中期吸水速度」が「0.25?0.60mL/s」であることは、願書に添付した明細書の段落【0074】に記載されているから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

(4) 特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
以下(イ)?(ニ)の特徴を有する吸水性樹脂。
(イ)中位粒子径が200?800μm、かつ粒子径分布の均一度が1.0?2.2
(ロ)無荷重下の吸水量が56?70g/g、かつ4.14kPa荷重下の吸水量が20mL/g以上
(ハ)初期吸水速度が0.10?0.25mL/s、吸水時間60?120秒間における1秒間あたりの液体の吸収量である中期吸水速度が0.25?0.60mL/s、吸水速度が30?40秒
(ニ)水可溶分が15質量%以下
【請求項2】
請求項1に記載の吸水性樹脂と親水性繊維を含有する吸収体。
【請求項3】
請求項2に記載の吸収体を液体透過性シートと液体不透過性シートで挟持してなる吸収性物品。」

第4 取消理由の概要
1 取消理由1
本件特許発明1ないし3は、下記の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるものである。
2 取消理由2
本件特許発明1ないし3は、下記の甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるものである。



甲第1号証 国際公開第2010/073658号
甲第2号証 特許異議申立人の従業員片田好希が平成29年2月2日付けで作成した「実験成績証明書」
甲第3号証 国際公開第2007/123188号
甲第4号証 特開2008-142714号公報
甲第5号証 特開2006-55833号公報
甲第6号証 特開2008-18328号公報
甲第7号証 特開2000-26510号公報
甲第8号証 特開2001-220415号公報
甲第9号証 国際公開第2006/123561号
(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲9」と略していう。)

第5 対比・判断
1 証拠方法に記載された事項
(1)甲1には、「吸収性樹脂粒子、この製造方法、これを含む吸収体及び吸収性物品」に関し、次の事項が記載されている。

ア [請求項1]
「水溶性ビニルモノマー(a1)及び/又は加水分解性ビニルモノマー(a2)、並びに架橋剤(b)を必須構成単位とする架橋重合体(A1)を含んでなる吸収性樹脂粒子であって、吸収性樹脂粒子1g当たりの生理食塩水に対する膨潤容積測定法において、膨潤容積が5mlに達するまでの時間(t1)と、膨潤容積が40mlに達するまで時間(t2)の比(t2/t1)が5?20である吸収性樹脂粒子。」

イ [請求項13]
「請求項1?12のいずれかに記載された吸収性樹脂粒子と繊維状物とを含有してなる吸収体。」

ウ [請求項14]
「請求項13に記載された吸収体を用いた吸収性物品。」

エ [0005]
「従来の吸収性樹脂粒子を用いた吸収性物品(紙おむつ等)は、液体を完全に吸収することができず、吸収できなかった液体が装着者の皮膚にふれ、カブレ等の問題を起こしやすかった。そして、このようなカブレ等の問題がない吸収性物品、これに使用し得る吸収性樹脂粒子が強く望まれていた。
本発明の目的は特定且つ適切な吸収速度パターンを有する吸収性樹脂粒子を提供すること、すなわち、吸収速度パターンが初期遅く、中期普通、後期速くの吸収性樹脂粒子が提供でき、この吸収性樹脂粒子を使用することで上記のようなカブレ等の問題を生じない吸収性物品を提供することである。」

オ [0010]
「本発明の吸収性樹脂粒子は。吸収速度パターンが初期遅く、中期普通、後期速くという特定且つ適切な吸収速度パターンを有する。
したがって、本発明の吸収性樹脂粒子を吸収性物品(紙おむつ及び生理用ナプキン等)に適用したとき、吸収率の偏りが少なく、優れた吸収性能(吸収量及び吸収速度)を発揮しカブレが生じにくい。」

カ [0113]「<実施例1>
水溶性ビニルモノマー(a1-1){アクリル酸、三菱化学株式会社製、純度100%}155部(2.15モル部)、架橋剤(b1){ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ダイソー株式会社製}0.6225部(0.0024モル部)及び脱イオン水340.27部を攪拌・混合しながら3℃に保った。この混合物中に窒素を流入して溶存酸素量を1ppm以下とした後、1%過酸化水素水溶液0.62部、2%アスコルビン酸水溶液1.1625部及び2%の2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド]水溶液2.325部を添加・混合して重合を開始させた。混合物の温度が90℃に達した後、90±2℃で約5時間重合することにより含水ゲル(1)を得た。
次にこの含水ゲル(1)502.27部をミンチ機(ROYAL社製12VR-400K)で細断しながら48.5%水酸化ナトリウム水溶液128.42部を添加して混合し、引き続き疎水性物質(C-1){ステアリン酸Mg、体積平均粒径8μm}1.9部を添加して混合し、細断ゲル(2)を得た。さらに細断ゲル(2)を通気型バンド乾燥機{150℃、風速2m/秒}で乾燥し、乾燥体を得た。乾燥体をジューサーミキサー(Oster社製OSTERIZER BLENDER)にて粉砕した後、目開き150及び710μmのふるいを用いて150?710μmの粒度に調整することにより、乾燥体粒子を得た。この乾燥体粒子100部を高速攪拌(細川ミクロン製高速攪拌タービュライザー:回転数2000rpm)しながらエチレングリコールジグリシジルエーテルの2%水/メタノール混合溶液(水/メタノールの重量比=70/30)の5部をスプレー噴霧しながら加えて混合し、150℃で30分間静置して表面架橋することにより、本発明の吸収性樹脂粒子(1)を得た。吸収性樹脂粒子(1)の重量平均粒子径は395μmであり、見掛け密度は0.58g/mlであった。また、吸収性樹脂粒子(1)の内部に疎水性物質(C)は0.980%存在し、吸収性樹脂粒子(1)の表面に疎水性物質(C)は0.020%存在した。」

(2)甲3には、「吸水性樹脂粒子の製造方法、およびそれにより得られる吸水性樹脂粒子」に関し、次の事項が記載されている。

キ [0068]?[0074] 「実施例3
還流冷却器、滴下ロート、窒素ガス導入管、攪拌機として、翼径50mmの4枚傾斜パドル翼を2段で有する攪拌翼を備えた内径100mmの丸底円筒型セパラブルフラスコを準備した。このフラスコにn-ヘプタン500mlをとり、HLB3のショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ(株)、リョートーシュガーエステルS-370)0.92g、無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体(三井化学(株)、ハイワックス1105A)0.92gを添加し、80℃まで昇温して分散安定剤を溶解したのち、50℃まで冷却した。
一方、500mlの三角フラスコに80.5質量%のアクリル酸水溶液92gをとり、外部より冷却しつつ、20.0質量%の水酸化ナトリウム水溶液154.1gを滴下して75モル%の中和を行ったのち、過硫酸カリウム0.11g、N,N’-メチレンビスアクリルアミド9.2mgを加えて溶解し、第1段目の単量体水溶液を調製した。
攪拌機の回転数を500rpmとして、前記単量体水溶液を前記セパブルフラスコに添加して、系内を窒素で置換しながら、35℃で30分間保持した後、70℃の水浴に浸漬して昇温し、重合を行なうことにより、第1段目の重合後スラリーを得た。(なお、この重合後スラリーを120℃の油浴を用いて水とn-ヘプタンを共沸し、水のみを系外へ抜き出した後、n-ヘプタンを蒸発させて乾燥することで得られた、球状の1次粒子の中位粒子径は62μmであった。)
一方、別の500mlの三角フラスコに80.5質量%のアクリル酸水溶液147.2gをとり、外部より冷却しつつ、24.7質量%の水酸化ナトリウム水溶液199.9gを滴下して75モル%の中和を行なったのち、過硫酸カリウム0.18g、N,N’-メチレンビスアクリルアミド14.7mgを加えて溶解して、第2段目の単量体水溶液を調製し、温度を25℃に保持した。
前記重合後スラリーの撹拌回転数を1000rpmに変更した後、25℃に冷却し、前記第2段目の単量体水溶液を系内に添加し、窒素で置換しながら30分間、保持した。
再度、フラスコを70℃の水浴に浸漬して、昇温し、重合を行なうことにより、第2段目の重合後スラリーを得た。
次いで、120℃の油浴を使用して昇温し、水とn-ヘプタンを共沸することにより、n-ヘプタンを還流しながら、284.5gの水を系外へ抜き出した後、エチレングリコールジグリシジルエーテルの2%水溶液9.57gを添加し、80℃で2時間保持した後、n-へプタンを蒸発させて乾燥することによって、球状粒子が凝集した形態の吸水性樹脂粒子252.3gを得た。2次粒子の中位粒子径は384μm、水分率は7.0%であった。」(以下、最終的に得られた吸水性樹脂粒子を構成する樹脂を「吸水性樹脂C」という。)

ク [0075]?[0080] 「実施例4
還流冷却器、滴下ロート、窒素ガス導入管、攪拌機として、翼径50mmの4枚傾斜パドル翼を2段で有する攪拌翼を備えた内径100mmの円筒型丸底セパラブルフラスコを準備した。このフラスコにn-ヘプタン500mlをとり、HLB13.1のヘキサグリセリルモノベヘニレート(日本油脂(株)、ノニオンGV-106)0.92g、無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体(三井化学(株)、ハイワックス1105A)0.92gを添加し、80℃まで昇温して分散安定剤を溶解したのち、50℃まで冷却した。
一方、500mlの三角フラスコ中に80.5質量%のアクリル酸水溶液92gをとり、外部より冷却しつつ、20.0質量%の水酸化ナトリウム水溶液154.1gを滴下して75モル%の中和を行なったのち、過硫酸カリウム0.11g、N,N’-メチレンビスアクリルアミド18.4mgを加えて溶解し、第1段目の単量体水溶液を調整した。
攪拌機の回転数を450rpmとして、前記単量体水溶液を前記セパラブルフラスコに添加して、系内を窒素で置換しながら、35℃で30分間保持した後、70℃の水浴に浸漬して昇温し、重合を行なうことにより、第1段目の重合後スラリーを得た。(なお、この重合後スラリーを120℃の油浴を用いて水とn-ヘプタンを共沸し、水のみを系外へ抜き出した後、n-ヘプタンを蒸発させて乾燥することで得られた、球状の1次粒子の中位粒子径は72μmであった。)
一方、別の500mlの三角フラスコに80.5質量%のアクリル酸水溶液128.8gをとり、外部より冷却しつつ、24.7質量%の水酸化ナトリウム水溶液174.9gを滴下して75モル%の中和を行なったのち、過硫酸カリウム0.16g、N,N’-メチレンビスアクリルアミド25.8mgを加えて溶解して、第2段目の単量体水溶液を調製し、温度を20℃に保持した。
前記重合後スラリーの撹拌回転数を1000rpmに変更した後、20℃に冷却し、前記第2段目の単量体水溶液を系内に添加し、窒素で置換しながら30分間、保持した。再度、フラスコを70℃の水浴に浸漬して、昇温し、重合を行なうことにより、第2段目の重合後スラリーを得た。
次いで、120℃の油浴を使用して昇温し、水とn-ヘプタンを共沸することにより、n-ヘプタンを還流しながら、269.7gの水を系外へ抜き出した後、エチレングリコールジグリシジルエーテルの2%水溶液6.62gを添加し、80℃で2時間保持した後、n-へプタンを蒸発させて乾燥することによって、球状粒子が凝集した形態の吸水性樹脂粒子234.3gを得た。2次粒子の中位粒子径は355μm、水分率は7.2%であった。」(以下、最終的に得られた吸水性樹脂粒子を構成する樹脂を「吸水性樹脂D」という。)

ケ [0081]?[0087] 「実施例5
還流冷却器、滴下ロート、窒素ガス導入管、攪拌機として、翼径50mmの4枚傾斜パドル翼を2段で有する攪拌翼を備えた内径100mmの円筒型丸底セパラブルフラスコを準備した。このフラスコにn-ヘプタン500mlをとり、HLB13.1のヘキサグリセリルモノベヘニレート(日本油脂(株)、ノニオンGV-106)0.92g、無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体(三井化学(株)、ハイワックス1105A)0.92gを添加し、80℃まで昇温して分散安定剤を溶解したのち、50℃まで冷却した。
一方、500mlの三角フラスコ中に80.5質量%のアクリル酸水溶液92gをとり、外部より冷却しつつ、20.0質量%の水酸化ナトリウム水溶液154.1gを滴下して75モル%の中和を行なったのち、過硫酸カリウム0.11g、N,N’-メチレンビスアクリルアミド18.4mgを加えて溶解し、第1段目の単量体水溶液を調整した。
攪拌機の回転数を500rpmとして、前記単量体水溶液を前記セパラブルフラスコに添加して、系内を窒素で置換しながら、35℃で30分間保持した後、70℃の水浴に浸漬して昇温し、重合を行なうことにより、第1段目の重合後スラリーを得た。(なお、この重合後スラリーを120℃の油浴を用いて、水とn-ヘプタンを共沸し、水のみを系外へ抜き出した後、n-ヘプタンを蒸発させて乾燥することで得られた、球状の1次粒子の中位粒子径は54μmであった。)
一方、別の500mlの三角フラスコに80.5質量%のアクリル酸水溶液156.4gをとり、外部より冷却しつつ、24.7質量%の水酸化ナトリウム水溶液212.4gを滴下して75モル%の中和を行なったのち、過硫酸カリウム0.19g、N,N’-メチレンビスアクリルアミド31.3mgを加えて溶解して、第2段目の単量体水溶液を調製し、温度を20℃に保持した。
前記重合後スラリーの撹拌回転数を1000rpmに変更した後、20℃に冷却し、前記第2段目の単量体水溶液を系内に添加し、窒素で置換しながら30分間、保持した。
再度、フラスコを70℃の水浴に浸漬して、昇温し、重合を行なうことにより、第2段目の重合後スラリーを得た。
次いで、120℃の油浴を使用して昇温し、水とn-ヘプタンを共沸することにより、n-ヘプタンを還流しながら、299.1gの水を系外へ抜き出した後、エチレングリコールジグリシジルエーテルの2%水溶液7.45gを添加し、80℃で2時間保持した後、n-へプタンを蒸発させて乾燥することによって、球状粒子が凝集した形態の吸水性樹脂粒子260.8gを得た。2次粒子の中位粒子径は322μm、水分率は6.8%であった。」(以下、最終的に得られた吸水性樹脂粒子を構成する樹脂を「吸水性樹脂E」という。)

コ [0088]?[0094] 「実施例6
還流冷却器、滴下ロート、窒素ガス導入管、攪拌機として、翼径50mmの4枚傾斜パドル翼を2段で有する攪拌翼を備えた内径100mmの円筒型丸底セパラブルフラスコを準備した。このフラスコにn-ヘプタン500mlをとり、HLB13.1のヘキサグリセリルモノベヘニレート(日本油脂(株)、ノニオンGV-106)0.92g、無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体(三井化学(株)、ハイワックス1105A)0.92gを添加し、80℃まで昇温して分散安定剤を溶解したのち、50℃まで冷却した。
一方、500mlの三角フラスコ中に80.5質量%のアクリル酸水溶液92gをとり、外部より冷却しつつ、20.0質量%の水酸化ナトリウム水溶液154.1gを滴下して75モル%の中和を行なったのち、過硫酸カリウム0.11g、N,N’-メチレンビスアクリルアミド18.4mgを加えて溶解し、第1段目の単量体水溶液を調整した。
攪拌機の回転数を600rpmとして、前記単量体水溶液を前記セパラブルフラスコに添加して、系内を窒素で置換しながら、35℃で30分間保持した後、70℃の水浴に浸漬して昇温し、重合を行なうことにより、第1段目の重合後スラリーを得た。(なお、この重合後スラリーを120℃の油浴を用いて、水とn-ヘプタンを共沸し、水のみを系外へ抜き出した後、n-ヘプタンを蒸発させて乾燥することで得られた、球状の1次粒子の中位粒子径は46μmであった。)
一方、別の500mlの三角フラスコに80.5質量%のアクリル酸水溶液119.6gをとり、外部より冷却しつつ、24.7質量%の水酸化ナトリウム水溶液162.4gを滴下して75モル%の中和を行なったのち、過硫酸カリウム0.14g、N,N’-メチレンビスアクリルアミド23.9mgを加えて溶解して、第2段目の単量体水溶液を調製し、温度を25℃に保持した。
前記重合後スラリーの撹拌回転数を1000rpmに変更した後、25℃に冷却し、前記第2段目の単量体水溶液を系内に添加し、窒素で置換しながら30分間、保持した。
再度、フラスコを70℃の水浴に浸漬して、昇温し、重合を行なうことにより、第2段目の重合後スラリーを得た。
次いで、120℃の油浴を使用して昇温し、水とn-ヘプタンを共沸することにより、n-ヘプタンを還流しながら、259.8gの水を系外へ抜き出した後、エチレングリコールジグリシジルエーテルの2%水溶液6.35gを添加し、80℃で2時間保持した後、n-へプタンを蒸発させて乾燥することによって、球状粒子が凝集した形態の吸水性樹脂粒子228.3gを得た。2次粒子の中位粒子径は252μm、水分率は8.2%であった。」(以下、最終的に得られた吸水性樹脂粒子を構成する樹脂を「吸水性樹脂F」という。)

2 証拠方法に記載された引用発明
(1)上記記載事項アないしカから、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明1」ないし「甲1発明3」という。)が記載されている。

甲1発明1
「水溶性ビニルモノマー(a1)及び/又は加水分解性ビニルモノマー(a2)、並びに架橋剤(b)を必須構成単位とする架橋重合体(A1)を含んでなる吸収性樹脂粒子であって、吸収性樹脂粒子1g当たりの生理食塩水に対する膨潤容積測定法において、膨潤容積が5mlに達するまでの時間(t1)と、膨潤容積が40mlに達するまで時間(t2)の比(t2/t1)が5?20である吸収性樹脂粒子。」

甲1発明2
「水溶性ビニルモノマー(a1)及び/又は加水分解性ビニルモノマー(a2)、並びに架橋剤(b)を必須構成単位とする架橋重合体(A1)を含んでなる吸収性樹脂粒子であって、吸収性樹脂粒子1g当たりの生理食塩水に対する膨潤容積測定法において、膨潤容積が5mlに達するまでの時間(t1)と、膨潤容積が40mlに達するまで時間(t2)の比(t2/t1)が5?20である吸収性樹脂粒子と繊維状物とを含有してなる吸収体。」

甲1発明3
「水溶性ビニルモノマー(a1)及び/又は加水分解性ビニルモノマー(a2)、並びに架橋剤(b)を必須構成単位とする架橋重合体(A1)を含んでなる吸収性樹脂粒子であって、吸収性樹脂粒子1g当たりの生理食塩水に対する膨潤容積測定法において、膨潤容積が5mlに達するまでの時間(t1)と、膨潤容積が40mlに達するまで時間(t2)の比(t2/t1)が5?20である吸収性樹脂粒子と繊維状物とを含有してなる吸収体を用いた吸収性物品。」

(2)上記記載事項キないしコから、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明1」ないし「甲3発明4」という。)が記載されている。

甲3発明1
「吸水性樹脂C」

甲3発明2
「吸水性樹脂D」

甲3発明3
「吸水性樹脂E」

甲3発明4
「吸水性樹脂F」

3 対比・判断
(1)取消理由1について、甲1発明1ないし3との対比・判断
ア 本件特許発明1について
甲2には、「6.実験結果」の「(表1)」として、以下の追試結果が得られている。


そこで、当該追試結果を踏まえて、本件特許発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1の「中位粒子径が410μm」、「粒子径分布の均一度が1.9」、「無荷重下の吸水量が61g/g」、「4.14kPa荷重下の吸水量が24mL/g」、「初期吸水速度が0.14mL/s」、「吸水速度が33秒」及び「水可溶分が7.6質量%」は、それぞれ、本件特許発明1の「中位粒子径が200?800μm」、「粒子径分布の均一度が1.0?2.2」、「無荷重下の吸水量が56?70g/g」、「4.14kPa荷重下の吸水量が20mL/g以上」、「初期吸水速度が0.10?0.25mL/s」、「吸水速度が30?40秒」及び「水可溶分が15質量%以下」と重複一致する。
また、本件特許発明1の「吸収性樹脂粒子」の材料面に着目すれば、「吸収性樹脂」であるから、甲1発明1の「吸収性樹脂」の限りで相当する。
しかしながら、甲1発明1の「吸水時間60?120秒間における1秒間あたりの液体の吸収量である中期吸水速度が0.22mL/s」は、本件特許発明1の「吸水時間60?120秒間における1秒間あたりの液体の吸収量である中期吸水速度が0.25?0.60mL/s」と相違する。
そうすると、本件特許発明1は、甲1発明1と同一であるとはいえない。

イ 本件特許発明2及び3について
上記本件特許発明1についての対比・判断を踏まえれば、本件特許発明2及び3は、甲1発明2及び甲1発明3と同一であるとはいえない。

(2)取消理由2について、甲3発明1ないし4との対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
特許権者たる住友精化株式会社の従業員鷹取潤一が2015年2月18日付けで作成した「実験成績証明書」(特許権者が当該特許に係る出願の審査段階で平成27年3月9日に提出した上申書)によれば、【表3】として、以下の結果が得られている。
【表3】


そこで、当該結果を踏まえて、本件特許発明1と甲3発明1とを対比すると、甲3発明1の「中位粒子径が388μm」、「粒子径分布の均一度が1.6」、「無荷重下の吸水量が61mL/g」、「4.14kPa荷重下の吸水量が25g/g」、「初期吸水速度が0.16mL/s」、「吸水時間60?120秒間における1秒間あたりの液体の吸収量である中期吸水速度が0.37mL/s」及び「吸水速度が38秒」は、それぞれ、本件特許発明1の「中位粒子径が200?800μm」、「粒子径分布の均一度が1.0?2.2」、「無荷重下の吸水量が56?70g/g」、「4.14kPa荷重下の吸水量が20mL/g以上」、「初期吸水速度が0.10?0.25mL/s」、「吸水時間60?120秒間における1秒間あたりの液体の吸収量である中期吸水速度が0.25?0.60mL/s」及び「吸水速度が30?40秒」と重複一致する。
また、甲3発明2ないし4についても、同様に重複一致する。

以上の点からみて、本件特許発明1と甲3発明1ないし4とは、各々次の点で相違し、その余の点で一致する。

[相違点1]

本件特許発明1では、「水可溶分が15質量%以下」であるのに対して、甲3発明1ないし4では、それぞれ、「水可溶分が19質量%」、「水可溶分が17質量%」、「水可溶分が20質量%」及び「水可溶分が17質量%」である点。

(イ)判断
上記相違点1について検討する。
甲3発明1ないし4は、特定の製造条件で製造されたある一点の特定の吸水性樹脂CないしFに係るものである。
そうすると、甲3発明1ないし4は、その有する物性のうち、ある物性を変えようとすると、当該製造条件のうちいずれかの条件を変更することになるが、その結果、ある物性のみならず、他の物性をも変化してしまう蓋然性が高いものと解するのが合理的である。
本件特許発明1の課題は、「適度な粒子径を有し、優れた吸水性能と衛生材料に好適な吸水速度を有する、水可溶分が少ない、衛生材料用途に適した吸水性樹脂を提供すること」であるところ(段落【0014】)、甲3には、かかる課題、とりわけ「水可溶分が少ない」との課題が記載ないし示唆されていない。
してみれば、たとえ、甲3発明1ないし4の技術分野において、水可溶分が少ない吸収性樹脂が周知であったとしても(甲4ないし9に記載された事項参照)、水可溶分を減少させる動機づけに欠けるというべきであって、甲3発明1ないし4において水可溶分を15質量%以下とすることが、当業者が適宜なし得ることとはいえない。
仮に、甲3発明1ないし4の水可溶分を15質量%以下とすることの動機づけがあるとしても、甲3発明1ないし4の水可溶分を15質量%以下に変えようとすると、当該製造条件のうちいずれかの条件を変更することになるが、いずれの条件をどのように変更したらよいのか、直ちには明らかでないし、上述のように、いずれかの条件を変更した結果、水可溶分以外の物性をも変化してしまう蓋然性が高いのであるから、甲3発明1ないし4において、中位粒子径、粒子径分布の均一度、無荷重下の吸水量、4.14kPa荷重下の吸水量、初期吸水速度、吸水時間60?120秒間における1秒間あたりの液体の吸収量である中期吸水速度及び吸水速度を固定しつつ、水可溶分だけを15質量%以下とすることが、当業者が容易に推考できることとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲3発明1ないし4及び甲4ないし9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

なお、甲9、10に記載された製造方法は、2段以上の逆相懸濁重合反応により、水溶性エチレン性不飽和単量体から吸水性樹脂を製造する方法において、少なくとも1段の逆相懸濁重合反応では、他段の逆相懸濁重合反応とは互いに異なるラジカル重合開始剤を使用するものではなく、甲3発明1ないし4に係る製造方法と同一であるとはいえないから、これが同一であることを前提とした上で、本件特許発明1ないし3は、甲3発明1ないし4及び甲9、10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとする特許異議申立人の主張は採用できない。

イ 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び本件特許発明3と甲3発明1ないし4とは、少なくとも、上記相違点1において相違するから、上記相違点1について説示した理由により、本件特許発明2及び3は、甲3発明1ないし4及び甲4ないし9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件訂正請求による訂正後の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件訂正請求による訂正後の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(イ)?(ニ)の特徴を有する吸水性樹脂。
(イ)中位粒子径が200?800μm、かつ粒子径分布の均一度が1.0?2.2
(ロ)無荷重下の吸水量が56?70g/g、かつ4.14kPa荷重下の吸水量が20mL/g以上
(ハ)初期吸水速度が0.10?0.25mL/s、吸水時間60?120秒間における1秒間あたりの液体の吸収量である中期吸水速度が0.25?0.60mL/s、吸水速度が30?40秒
(ニ)水可溶分が15質量%以下
【請求項2】
請求項1に記載の吸水性樹脂と親水性繊維を含有する吸収体。
【請求項3】
請求項2に記載の吸収体を液体透過性シートと液体不透過性シートで挟持してなる吸収性物品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-02 
出願番号 特願2015-34504(P2015-34504)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08F)
P 1 651・ 113- YAA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井津 健太郎  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 渕野 留香
小柳 健悟
登録日 2016-07-08 
登録番号 特許第5966031号(P5966031)
権利者 住友精化株式会社
発明の名称 吸水性樹脂、及びその製造方法  
代理人 田中 順也  
代理人 田中 順也  
代理人 水谷 馨也  
代理人 水谷 馨也  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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