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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 E04F 審判 全部申し立て 2項進歩性 E04F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 E04F 審判 全部申し立て 特174条1項 E04F |
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管理番号 | 1332267 |
異議申立番号 | 異議2016-701186 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-12-26 |
確定日 | 2017-09-08 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第5954601号発明「装飾性マグネット吸着化粧板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5954601号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5954601号の請求項1ないし2に係る特許についての出願は、平成27年1月22日に特許出願され、平成28年6月24日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人柚木翔太(以下「申立人A」という。)、及び古屋亮(以下「申立人B」という。)より請求項1ないし2に対して特許異議の申立てがされ、平成29年4月24日付けで取消理由(発送日同年4月28日)が通知され、その指定期間内である同年6月19日に意見書が提出されたものである。 第2 特許異議の申立てについて 1 請求項1ないし2に係る発明 請求項1ないし2に係る発明(以下、「本件発明1」等、あるいはまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された、以下のとおりのものである。 本件発明1 「【請求項1】 壁面基体に貼り付ける装飾性マグネット吸着化粧板であって、当該装飾性マグネット吸着化粧板は、表面から順に化粧薄板からなる表装材と、厚さ40?200μmの、平面平滑度±1?5μmで、幅600?1230mmの磁気吸着力を有したスチール箔と木製板材料とを、接着により積層したものであって、 当該表装材は、生地色から濃厚色で色の異なる種類が有り、又は自然素材の木質の質感をもつ模様を施した0.035?1.2mmの厚さで、600?1230mm幅の紙体、又は突板、又は樹脂フイルムであって、 表装材とスチール箔と木製板材料との積層体を貼り合わせる接着剤として、ウレタン系樹脂、又はエチレン酢酸ビニル共重合体エマルジョン形であり、各表面に5?200g/m^(2)を塗布していることを特徴とする装飾性マグネット吸着化粧板。」 本件発明2 「【請求項2】 表面の表装材は紙体、或は突板、或は樹脂フイルムであり、紙体の表装材では、木目、又は節をもった色彩の異なる種類の木目柄が印刷された印刷紙で、又は無地色、又は模様の入った印刷紙であり、突板の表装材としては、木目、又は節をもって色彩の異なる種類の木材の突板であり、樹脂フイルムの表装材としては、無地、又は模様の入った多色にプリントされた樹脂フイルムであることを特徴とする請求項1に記載の装飾性マグネット吸着化粧板。」 2 取消理由の概要 請求項1ないし2に係る特許に対して平成29年4月24日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)出願時における明細書及び図面を精査してみても、「平面平滑度±1?5μm」という記載はなく、「平面平滑度±1?5mμ」の記載があるのみであり、一方で「mμ」という厚さの単位も実在することから、単なる誤記であるとは到底言うことができない。よって、本件特許は、その手続においてした補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものである。 (2)本件特許における「平面平滑度」は、JISなどの規格ではなく、発明の詳細な説明等においても何ら説明されておらず、その定義、意義が不明ある。よって、本件特許は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第2号の規定に違反してされたものである。 3 判断 (1)特許法第17条の2第3項について(新規事項の追加違反) ア 補正の適否について 本件特許の願書に最初に添付した明細書において、平面平滑度について、「1?5mμ」と記載されていたところ、平成27年11月5日付け手続補正書において「1?5μm」と補正された(下線は決定で付与。以下同様)。ここで、「mμ」は実在する単位であり、nmと同義であるため、「μm」とは異なる意味を持つ単位である。 本件特許は主に建材として使用される化粧板に関するものであり、化粧板の積層材として用いられるスチール箔の表面の粗さの程度を表す単位として、上記単位「μm」が用いられている。 ここで、「mμ(nm)」は、通常、分子や細胞の大きさ、光の波長などを表す際に用いられ、特に「1?5mμ(nm)」は細胞膜厚程度のサイズであり、建材の表面の粗さを表す数値限定としては、現実的な数値とはいえない。一方で、「1?5μm」は、建材の表面の粗さとしても使用されうる数値範囲であること、及び「mμ」、「μm」の両単位は語順が反対となるものであることから、「1?5mμ」は「1?5μm」の誤記と解することが相当である。 イ 小括 したがって、本件特許における平成27年11月5日付けでした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。 よって、本件特許は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものではない。 (2)特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第2号について(記載要件違反) ア 記載不備について 「平面平滑度」は、一般的に用いられている技術用語ではないものの、その記載から、平面の平滑の度合い、つまり、表面粗さ等の程度を意味していると解され、「平面平滑度1?5μm」については、それら一般的な表面粗さについての数値限定であると解することができる。 一般的な表面粗さの算定方法には種々あり、それらのうちのいかなる方法で算定された値を意味しているのかまでは明らかでないが、当該数値限定は、特許権者が平成29年6月19日付け意見書で主張しているように(意見書2頁18行?20行)、既製品を慎重に取り扱えば実現できる程度のものであり、通常、実現される数値を示しているにすぎない。 よって、「平面平滑度」の表現自体は日本語として意味をなしており、さらに、それらの意図していることが概ね理解できること、及び当該数値限定が本件特許の中心的な構成ではなく、一般的に実現されうる数値範囲を規定していることから、詳細な意義、定義が不明であることをもって、当業者が本件特許を理解できない、あるいは、実施できないというほどのものではない。 イ 小括 したがって、本件特許請求の範囲及び明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしている。 よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第2号の規定に違反してされたものではない。 (3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について ア 特許法第29条第2項(進歩性の欠如違反) 申立人A、申立人Bは、本件特許は、その出願前に頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許は取り消すべきものである旨、それぞれ主張している。 刊行物1:特開平9-104087号公報(申立人Aの甲第1号証) 刊行物2:国際公開2009/069464号(申立人Aの甲第2号証、申立人Bの甲第1号証) 刊行物3:特開昭53-16072号公報(申立人Aの甲第3号証) 刊行物4:特開2013-78942号公報(申立人Aの甲第4号証) 刊行物5:特開2013-226791号公報(申立人Aの甲第5号証) 刊行物6:特開2001-328227号公報(申立人Aの甲第6号証) 刊行物7:特開2000-328010号公報(申立人Aの甲第7号証) 刊行物8:株式会社永住産業、商品一覧、楽ちんマグボード、[online]、2014年8月9日、[2016年11月15日検索](申立人Aの甲第8号証) 刊行物9:特公平3-56912号公報(申立人Aの甲第9号証) 刊行物10:特開2012-245627号公報(申立人Aの甲第10号証) 刊行物11:特開2004-76538号公報(申立人Aの甲第11号証) 刊行物12:特開平8-74400号公報(申立人Aの甲第12号証) 刊行物13:実願平5-21022号(実開平6-78983号)のCD-ROM(申立人Aの甲第13号証) 刊行物14:特開2009-202462号公報(申立人Bの甲第2号証) 刊行物15:特開2012-71517号公報(申立人Bの甲第3号証) 刊行物16:特開2009-61588号公報(申立人Bの甲第4号証) 刊行物17:特開2002-103491号公報(申立人Bの甲第5号証) 刊行物18:特開2003-213914号公報(申立人Bの甲第6号証) 刊行物19:特開2014-196411号公報(申立人Bの甲第7号証) 刊行物20:特開平11-245337号公報(申立人Bの甲第8号証) イ 刊行物の記載 (ア)刊行物1 刊行物1には、申立人Aが主張するとおり、以下の発明(以下「刊1発明」という。)が記載されている(申立人Aの申立書7頁7行?19行)。 刊1発明 「木質化粧板であって、 木質基材に遠い方から順に、紙及び合成樹脂シートを積層した表装材としての積層体と、 厚さが制限されない、鉄で構成された金属箔と、 合板や木質中密度繊維板(以下MDFという)等の木質ボードで構成された木質基材と、 を接着剤により積層したものであって、 積層体の表層部分として印刷紙を用いることができ、 積層体と金属箔とを張り合わせる接着剤としてポリエステルウレタン樹脂系接着剤を用いることができ、木質基材と金属箔とを張り合わせる接着剤としては、水性ウレタン樹脂系接着剤を用いることができ、合成樹脂シートと紙とを張り合わせる接着剤としては、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系接着剤を用いることができる、 木質化粧板」 (イ)刊行物2 刊行物2には、申立人Bが主張するとおり、以下の発明(以下「刊2発明」という。)が記載されている(申立人Bの申立書8頁14行?22行)。 刊2発明 「マグネット吸着キッチンパネル用材料であって、 キッチンパネル用材料は、表面から順に有機樹脂層と、厚さ0.1?0.5mmの金属板と、無機物を主成分とする不燃性材料からなる基板とを積層したものであり、 表装材は有機樹脂層であり、有機樹脂層は有機樹脂フィルムであり、 有機樹脂層と金属板の積層体を貼り合わせる接着剤として、酢酸ビニル樹脂系、ウレタン樹脂系などのエマルジョン型接着剤を用い、基板と金属板の接着にウレタン樹脂系、酢酸ビニルエマルジョン系接着剤を用いる、 マグネット吸着キッチンパネル用材料。」 ウ 判断 (ア) 本件発明1について a 刊1発明を主引例として (a)本件発明1と刊1発明の対比 本件発明1と刊1発明を対比すると、以下の一致点で一致し、相違点1?4で相違する。 <一致点> 「化粧板であって、当該化粧板は、表面から順に化粧薄板からなる表装材と、スチール箔と木製板材料とを、接着により積層したものであって、 当該表装材は、樹脂フイルムであって、 表装材とスチール箔と木製板材料との積層体を貼り合わせる接着剤として、ウレタン系樹脂、又はエチレン酢酸ビニル共重合体エマルジョン形であり、各表面に塗布している 化粧板。」 <相違点1> 本件発明1が「壁面基体に貼り付ける装飾性マグネット吸着化粧板」であるのに対し、刊1発明は木質化粧板である点 <相違点2> 「スチール箔」について、本件発明1が「厚さ40?200μmの、平面平滑度±1?5μmで、幅600?1230mmの磁気吸着力を有し」ているのに対し、刊1発明はそのような特定がなされていない点 <相違点3> 「表装材」について、本件発明1が「生地色から濃厚色で色の異なる種類が有り、又は自然素材の木質の質感をもつ模様を施した0.035?1.2mmの厚さで、600?1230mm幅」であるのに対し、刊1発明はそのような特定がなされていない点 <相違点4> 「接着剤」について、本件発明1が「各表面に5?200g/m^(2)を塗布している」のに対し、刊1発明はそのような特定がなされていない点 (b)相違点について 相違点2について、刊行物1には、「【0021】また金属箔の厚さも特に制限されないが、従来の木工切削用刃物に使用できるという点から10μ以下のものが好ましい。」、「【0034】・・・また25μ以上の厚さの金属を用いた場合は、透湿は完全に防げるが、従来の木工用刃物では切削が困難になったり、前記同様に他木材との接着時に酸性、アルカリ性の接着剤が使用できないことになり、著しい制限を受ける結果となり、実際の作業工程で混乱を来す。【0035】本発明者は、かかる課題を解決するために、10μ以下の金属箔で透湿をゼロにするためには、圧延時のピンホールを埋めるべく、合成樹脂層を複合することで解決できることを見いだした。」(下線は決定で付与。以下同様。)と記載されているように、10μm以下の金属箔を用いつつ透湿を抑えることを目的としており、そもそもマグネットを吸着することは念頭に置いていない。また、10μm以下の金属箔では、マグネット吸着を実現する磁気吸着力を有しているとまでは認められない。 そして、マグネット吸着作用を有する点について、刊2発明のマグネット吸着作用を有する「厚さ0.1?0.5mmの金属板」を採用する場合には、刊2発明の金属板の厚さが、刊1発明の想定している金属板の厚さ(10μm)を大きく越えていることから、刊2発明を刊1発明に適用することには阻害要因があるというべきである。 また、その他の証拠である刊行物3?13には、相違点2に係る構成は開示されていない。 よって、刊1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。 (c)まとめ したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1ないし刊行物13に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 b 刊2発明を主引例として (a)本件発明1と刊2発明の対比 本件発明1と刊2発明を対比すると、以下の一致点で一致し、相違点5?8で相違する。 <一致点> 「壁面基体に貼り付ける装飾性マグネット吸着化粧板であって、当該装飾性マグネット吸着化粧板は、表面から順に化粧薄板からなる表装材と、磁気吸着力を有したスチールと板材料とを、接着により積層したものであって、 当該表装材は、樹脂フイルムであって、 表装材とスチール箔と板材料との積層体を貼り合わせる接着剤として、ウレタン系樹脂、又はエチレン酢酸ビニル共重合体エマルジョン形であり、各表面に塗布している 装飾性マグネット吸着化粧板。」 <相違点5> 本件発明1が「厚さ40?200μmの、平面平滑度±1?5μmで、幅600?1230mm」の磁気吸着力を有したスチール箔を有しているのに対し、刊2発明は「厚さ0.1?0.5mmの金属板」を有している点 <相違点6> 本件発明1が「木製」板材料を用いているのに対し、刊2発明は「無機物を主成分とする不燃性材料からなる基板」を用いている点 <相違点7> 本件発明1の表装材が「生地色から濃厚色で色の異なる種類が有り、又は自然素材の木質の質感をもつ模様を施した0.035?1.2mmの厚さで、600?1230mm幅の紙体、又は突板」からなっても良いのに対し、刊2発明はそのような特定がなされていない点 <相違点8> 本件発明1が、接着剤を「各表面に5?200g/m^(2)を塗布している」のに対し、刊2発明はそのような特定がなされていない点 (b)相違点について 相違点6について、刊2発明は「[0008]本発明は、かかる従来例の問題点に鑑みて創作されたものであり、強度が高く、かつ運搬や切断加工が容易で、さらに耐火性に優れたキッチンパネル用材料、その製造方法及びキッチンパネルを提供することを目的とする」ものであり、そのために「不燃性材料からなる基板」を用いているわけであるから、当該「不燃性材料からなる基板」を本件発明1のように可燃性である木製板材料にすることには阻害要因があるというべきである。したがって、刊行物14に相違点6に係る木質板を用いる構成が開示されていたとしても、当該構成を刊2発明に適用することには阻害要因があり、当業者が容易に想到しうる程度のこととはいえない。 また、その他の証拠である刊行物15?20にも、上記に加えて、相違点6に係る構成は開示されていない。 よって、刊2発明において、相違点6に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。 (c)まとめ したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物2、刊行物14ないし刊行物20に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)本件発明2について 本件発明2は本件発明1を減縮したものであり、本件発明1と同様の理由(上記(ア)参照)で、本件発明2は、刊行物1ないし刊行物20に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第3 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-08-29 |
出願番号 | 特願2015-23635(P2015-23635) |
審決分類 |
P
1
651・
55-
Y
(E04F)
P 1 651・ 536- Y (E04F) P 1 651・ 121- Y (E04F) P 1 651・ 537- Y (E04F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 西村 隆 |
特許庁審判長 |
前川 慎喜 |
特許庁審判官 |
井上 博之 小野 忠悦 |
登録日 | 2016-06-24 |
登録番号 | 特許第5954601号(P5954601) |
権利者 | 有限会社イマヤマ |
発明の名称 | 装飾性マグネット吸着化粧板 |
代理人 | 内田 昌宏 |