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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C10M
管理番号 1332279
異議申立番号 異議2017-700480  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-16 
確定日 2017-09-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6043791号発明「内燃機関用潤滑油組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6043791号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6043791号の請求項1?3に係る特許(以下、項番に合わせて「本件特許1」などという。)についての出願は、平成25年7月2日(優先日 平成24年7月13日 日本国(JP))になされた国際特許出願であって、平成28年11月18日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人(江口憲晃)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許1?3に係る発明は、本件特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、項番に合わせて「本件特許発明1」などという。)。
「【請求項1】
(A)100℃における動粘度が3.0?5.0mm^(2)/sである基油に、(B)ホウ素化コハク酸イミドを組成物全量基準でホウ素元素量として0.007重量%以上含有し、コハク酸イミド系無灰分散剤としての含有量が5質量%以下であり、さらに(C)フェノール系酸化防止剤を0.5質量%以上、および(D)重量平均分子量とPSSIの比が1.2×10^(4)以上である粘度指数向上剤を0.1?5質量%含有してなる、150℃のHTHS粘度が2.0?2.8mPa・s、100℃のHTHS粘度が4.8mPa・s以下、粘度指数が180以上であることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
非ホウ素化コハク酸イミドに対するホウ素化コハク酸イミドの割合が、重量比で1.0?3.0であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項3】
(D)成分である粘度指数向上剤の含有量に対する(B)成分であるホウ素化コハク酸イミドと非ホウ素化コハク酸イミドの合計含有量の比が6以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、主たる証拠として特開2010-31082号公報(以下、「甲1」という。)並びに従たる証拠として再公表特許WO2007/114260号(以下、「甲2」という。)及び特表平10-510876号公報(以下、「甲3」という。)を提出し、本件特許発明1?3は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、本件特許1?3は、同規定に違反してなされたものであるから取り消すべきものである旨主張している。

第4 各証拠に記載された事項
1 甲1の記載事項
特許異議申立人が主たる証拠として提出した甲1には、次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
(A)100℃における動粘度が1?5mm^(2)/s未満である潤滑油基油を基油全量基準で50?99.9質量%、および100℃における動粘度が5?200mm^(2)/sである潤滑油基油を基油全量基準で0.1?50質量%、からなる潤滑油基油に、組成物全量基準で、(B)重量平均分子量が1万以上であり、重量平均分子量とPSSIの比が0.8×10^(4)以上である粘度指数向上剤を0.1?50質量%配合した、組成物の100℃における動粘度が3?15mm^(2)/s、かつ、150℃ HTHS粘度と100℃ HTHS粘度の比が0.50以上であることを特徴とする潤滑油組成物。」
・「【0082】
本発明の潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤(または極圧剤)、腐食防止剤、防錆剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤を挙げることができる。
・・・
【0084】
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40?400の直鎖もしくは分枝状のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノまたはビスコハク酸イミド、炭素数40?400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいは炭素数40?400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0085】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、フェノール系無灰酸化防止剤としては、例えば、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)が、アミン系無灰酸化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキルフェニル-α-ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミンが挙げられる。
・・・
【0089】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、それぞれその含有量は組成物全量基準で、好ましくは0.01?10質量%である。」
・「【実施例】
【0097】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1?4、比較例1?5
実施例1?4および比較例1?5においては、それぞれ以下に示す基油および添加剤を用いて表2に示す組成を有する潤滑油組成物を調製し、以下に示す評価を行った。また、基油1、2、3の性状を表1に示す。
(基油)
基油1:n-パラフィン含有油を水素化分解/水素化異性化した鉱油
基油2:水素化分解基油
基油3:水素化分解基油
(添加剤)
A-1(粘度指数向上剤):PSSI=20、Mw=40万、Mw/PSSI=2×10^(4)のポリメタクリレート(メチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートおよび、上述の式(2)中のR^(2)が炭素数12?20のアルキル基であるメタクリレートを合計して90モル%と、式(2)中のR^(2)が炭素数22の分岐鎖状アルキル基であるメタクリレートを10モル%とを重合させて得られる分散型ポリメタアクリレート系添加剤)
A-2(粘度指数向上剤):PSSI=40、Mw=30万、Mw/PSSI=0.75×10^(4)のポリメタクリレート(メチルメタクリレート、上述の式(3)中のR^(4)が炭素数12の直鎖状アルキル基であるメタクリレート、式(3)中のR^(4)が炭素数13の直鎖状アルキル基であるメタクリレート、式(3)中のR^(4)が炭素数14の直鎖状アルキル基であるメタクリレート、式(3)中のR^(4)が炭素数15の直鎖状アルキル基であるメタアクリレート、およびジメチルアミノエチルメタクリレートを主構成単位とする分散型ポリメタアクリレート系添加剤)
B-1(摩擦調整剤1):グリセリンモノオレエート
B-2(摩擦調整剤2):オレイルウレア
B-3(摩擦調整剤3):モリブデンジチオカーバメート
C-1(その他添加剤):金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、リン系摩耗防止剤、流動点降下剤、消泡剤等含有
【0098】
【表1】(省略)
【0099】
<潤滑油組成物の評価>
実施例1?4および比較例1?5の各潤滑油組成物について、40℃および100℃における動粘度、粘度指数、100℃および150℃におけるHTHS粘度、-35℃におけるCCS粘度ならびにパネルコーキング試験におけるデポジット量を測定した。各測定は以下の評価方法により行った。結果を表2に示す。
(1)動粘度:ASTM D-445
(2)粘度指数:JIS K 2283-1993
(3)HTHS粘度:ASTM D4683
(4)CCS粘度:ASTM D5293
(5)清浄性試験:パネルコーキング試験機を用い、油温100℃、パネル温度280℃、はねかけ時間3時間、ON/OFFサイクル=15s/45s、の条件にて試験した後の、パネルに付着したデポジット量(mg)を測定した。
【0100】
【表2】

【0101】
表2より、100℃動粘度1?5mm^(2)/s未満の低粘度基油及び100℃動粘度5?200mm^(2)/sの高粘度基油を配合し、所定の粘度指数向上剤を添加した実施例1?4の組成物は、粘度温度特性、低温粘度特性および高温清浄性ともに優れていた。これに対し、100℃動粘度5?200mm^(2)/sの高粘度基油を配合しない比較例1及び2の組成物は高温清浄性が劣った。また、100℃動粘度5?200mm^(2)/sの高粘度基油の配合割合が大きすぎる比較例3の組成物は粘度指数が低く、粘度温度特性や低温粘度特性に劣った。またMw/PSSI比が条件を満たさない粘度指数向上剤(A-2)を用いた比較例4及び5の組成物は粘度指数が低く粘度温度特性に劣ることがわかった。」
2 甲2、3の記載事項
特許異議申立人が従たる証拠として提出した甲2、3には、次の事項が記載されている(下線は当審において付したもの)。
(1) 甲2の記載
・「【0020】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物の好ましい態様としては、以下のものが挙げられる。<好ましい態様例>
・動粘度(100℃)0.5?7mm^(2)/sの基油 残り
・Mw50万以上のPIB 0.005?1質量%(樹脂分として)
・Mw10万?80万のポリメタアクリレート、スチレン-イソプレン共重合体及びエチレン-αオレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種以上 0.01?3質量%(樹脂分として)
・アルキル芳香族アミン及び/又はアルキルフェノール 0.1?3質量%
・過塩基性のスルフォネート、フェネート及びサリシネートの1種以上からなるアルカリ土類金属清浄剤 0.5?10質量%
・コハク酸イミド及び/又はそのホウ素化物 1?10質量%
・ZnDTP及び/又は有機モリブデン化合物 0.05?5質量%
・流動点降下剤 0?1質量%
・その他(防錆剤、腐食防止剤、抗乳化剤、消泡剤等) 0?5質量%」
・「【0023】
実施例1、2、比較例1?3
第1表に示した基油及び添加剤を第1表に示す割合で配合して、内燃機関用潤滑油組成物を調製し、その組成物の性状・組成及び性能を第1表に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
[注]
1)水素化精製基油(40℃動粘度=21mm^(2)/s、100℃動粘度=4.5mm^(2)/s、粘度指数=127、%C_(A)=0、硫黄分≦20質量ppm)
2)水素化精製基油(40℃動粘度=12mm^(2)/s、100℃動粘度=3.0mm^(2)/s、粘度指数=100、%C_(A)=0.4、硫黄分≦20質量ppm%)
3)Mw=76万、樹脂分=4.9質量%
4)ポリメタクリレート(Mw=42万、樹脂分=39質量%)
5)エチレン-プロピレン共重合体(Mw=28万、樹脂分=6.5質量%)
6)ジアルキルジチオリン酸亜鉛(亜鉛含有量=0.11質量%、リン含有量=0.10質量%、アルキル基=第2級ブチル基及び第2級ヘキシル基の混合物)
7)モリブデンジチオカーバメイト(モリブデン含有量4.5質量%)
8)下記の添加剤の混合物(但し配合量は、組成物基準での値を示す。)
〔その他の添加剤内容〕
・ポリアルキルメタクリレート(Mw6000)0.30質量%
・ジアルキルジフェニルアミン(窒素含有量4.62質量%)とフェノール系酸化防止剤との混合物0.80質量%
・塩基価300mgKOH/gのカルシウムスルホネート1.65質量%
・ポリブテニルコハク酸イミド(窒素含有量=0.7質量%)とホウ素変性ポリブテニルコハク酸イミド(ホウ素含有量=2質量%、窒素含有量=2.1質量%)の混合物5.0質量%
・防錆剤、腐食防止剤、抗乳化剤、消泡剤の混合物1.83質量%」
(2) 甲3の記載
・「ホウ素化分散剤は、米国特許第4,863,624号に記載されている。好ましいホウ素化分散剤は、無水コハク酸基で置換し、更にポリエチレンアミン、ポリオキシエチレンアミン、およびポリオールアミンと反応させることによって得られるポリイソブチレンから誘導されるホウ素誘導体(PIBSA/PAM)であり、その添加量は、油組成物を基準として、2?16 重量%であることが好ましい。これらの反応生成物はアミド、イミド、またはそれらの混合物である。ホウ素化分散剤は「過剰ホウ素化」されている。すなわち、これらのホウ素含有量は、分散剤を基準として 0.5?5.0重量%である。こうした過剰ホウ素化分散剤は、エクソンケミカルカンパニーから入手可能である。ホウ素化分散剤の他に、全ホウ素濃度に寄与しうる他のホウ素供給源としては、ホウ素化分散剤型 VI 向上剤およびホウ素化清浄剤が挙げられる。
エンジン油中のホウ素の量は、少なくとも 約800 ppmw、好ましくは900?2000 ppmwとする。ホウ素化分散剤を含有する典型的な市販のエンジン油では、ホウ素濃度は 30?400 ppmwの範囲にある。」(7頁下から5行?8頁10行)
・「

」(14頁表1)

第5 甲1発明
甲1には、その請求項1に記載された潤滑油組成物に、その性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤、例えば、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤(または極圧剤)、腐食防止剤、防錆剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤を含有させることができること(【0082】)が記載され、具体的には、無灰分散剤としては、例えば、炭素数40?400の直鎖もしくは分枝状のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノまたはビスコハク酸イミド、あるいはそのホウ素化合物などが(【0084】)、酸化防止剤としては、例えば、フェノール系無灰酸化防止剤などが(【0085】)例示されるとともに、これらの添加剤を上記潤滑油組成物に含有させる場合には、それぞれその含有量は組成物全量基準で、好ましくは0.01?10質量%であること(【0089】)が記載されている。
そうすると、甲1には、次の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。
「(A)100℃における動粘度が1?5mm^(2)/s未満である潤滑油基油を基油全量基準で50?99.9質量%、および100℃における動粘度が5?200mm^(2)/sである潤滑油基油を基油全量基準で0.1?50質量%、からなる潤滑油基油に、組成物全量基準で、(B)重量平均分子量が1万以上であり、重量平均分子量とPSSIの比が0.8×10^(4)以上である粘度指数向上剤を0.1?50質量%配合した、組成物の100℃における動粘度が3?15mm^(2)/s、かつ、150℃ HTHS粘度と100℃ HTHS粘度の比が0.50以上であることを特徴とする潤滑油組成物であって、
当該潤滑油組成物の性能をさらに向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤、例えば、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤(または極圧剤)、腐食防止剤、防錆剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤を含有させることができるものであり、そのうちの、無灰分散剤は、例えば、炭素数40?400の直鎖もしくは分枝状のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノまたはビスコハク酸イミド、あるいはそのホウ素化合物であり、酸化防止剤は、例えば、フェノール系無灰酸化防止剤であり、これらの添加剤を上記潤滑油組成物に含有させる場合には、それぞれその含有量は組成物全量基準で、好ましくは0.01?10質量%であるもの。」

第6 本件特許発明1について
1 本件特許発明1と甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違するものと認められる。
・相違点:無灰分散剤及び酸化防止剤につき、本件特許発明1は、それらを必須の添加剤とし、「(B)ホウ素化コハク酸イミドを組成物全量基準でホウ素元素量として0.007重量%以上含有し、コハク酸イミド系無灰分散剤としての含有量が5質量%以下であり、さらに(C)フェノール系酸化防止剤を0.5質量%以上」と特定しているのに対して、甲1発明は、それらを任意の添加剤の一例とし、その具体例として「モノまたはビスコハク酸イミド、あるいはそのホウ素化合物」及び「フェノール系無灰酸化防止剤」を挙げるものであって、当該任意の添加剤それぞれの含有量については、組成物全量基準で、好ましくは0.01?10質量%であるとしている点。
2 相違点の検討
(1) 本件特許発明1における上記相違点に係る事項の技術上の意義について
はじめに、本件特許発明1が具備する、「(B)ホウ素化コハク酸イミドを組成物全量基準でホウ素元素量として0.007重量%以上含有し、コハク酸イミド系無灰分散剤としての含有量が5質量%以下であり、さらに(C)フェノール系酸化防止剤を0.5質量%以上」という発明特定事項(上記相違点に係る事項)の技術上の意義について、本件特許明細書の記載に照らしながら、確認しておく。
本件特許明細書の【0004】には、発明が解決しようとする課題について、以下のように記載されている。
「従来のエンジン油には、その必要な性能を充足させるため、潤滑油基油に粘度指数向上剤、清浄分散剤や摩擦調整剤等が配合されている。ところが、従来の添加剤配合バランスでは、前述したヒートマネージメントを取り入れた内燃機関のエンジン油としては、十分な低粘度化ができない問題が発生している。すなわち、必要な添加剤を従来の量比のまま使用すると、添加剤による粘度上昇が大きいため、潤滑油組成物の粘度を下げるためには基油粘度を大幅に下げなければならなくなる。基油粘度の大幅な低下は、蒸発量の増加による、エンジン油消費の増大や、また特に高剪断速度領域での必要粘度が確保できなくなり、潤滑不良の危険性が増大する。
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、ヒートマネージメントを取り入れた内燃機関のエンジン油としての機能と、特に省燃費性と清浄性に優れた内燃機関用潤滑油組成物を提供することを目的とする。」
当該記載のとおり、本件特許発明1は、ヒートマネージメントを取り入れた内燃機関のエンジン油として、必要な添加剤を従来の量比のまま使用することに伴う問題に鑑みてなされたものであるところ、本件特許発明1の上記相違点に係る「(B)ホウ素化コハク酸イミドを組成物全量基準でホウ素元素量として0.007重量%以上含有し、コハク酸イミド系無灰分散剤としての含有量が5質量%以下であり、さらに(C)フェノール系酸化防止剤を0.5質量%以上」という発明特定事項は、まさに、必要な添加剤のうち、特に、「ホウ素化コハク酸イミドを含むコハク酸イミド系無灰分散剤」と「フェノール系酸化防止剤」に着目し、それらの量比を、「ホウ素化コハク酸イミドを組成物全量基準でホウ素元素量として0.007重量%以上」かつ「コハク酸イミド系無灰分散剤としての含有量が5質量%以下」、さらに「フェノール系酸化防止剤を0.5質量%以上」として、従来の量比をさらに最適化したことを示すものということができる(以下、当該本件特許発明1の発明特定事項による添加剤の特定及びその量比の特定を「特定添加剤の選択と量比の最適化」という。)。
そして、当該「特定添加剤の選択と量比の最適化」による技術上の意義(作用効果)については、本件特許明細書に記載された実施例(【0057】?【0060】、特に【0059】【表1】参照)の具体的データから読み取ることができる。すなわち、同【表1】に記載された実施例1、2のデータと、上記「特定添加剤の選択と量比の最適化」による規定から「コハク酸イミド系無灰分散剤」の量比及び「フェノール系酸化防止剤」の量比が外れている比較例1、2のデータを比較すると、実施例1、2は、比較例1、2よりも、100℃のHTHS粘度が低く、省燃費性に優れていることが理解できるし、同様に、同【表1】に記載された実施例2のデータと、上記「特定添加剤の選択と量比の最適化」による規定から「ホウ素化コハク酸イミド」の量比あるいは「フェノール系酸化防止剤」の量比が外れている比較例3?5のデータを比較すると、実施例2は、比較例3?5よりも、HTT試験の評点が高く、清浄性に優れていることを看取することができる。
そうすると、本件特許発明1は、上記「特定添加剤の選択と量比の最適化」によって、優れた省燃費性と清浄性という作用効果を発現し、もって、省燃費性と清浄性に優れた内燃機関用潤滑油組成物を提供するという上記課題を解決することができたものと理解するのが合理的である。
(2) 容易想到性の判断
上記(1)において検討した、本件特許発明1の上記相違点に係る事項の技術上の意義を踏まえて、甲1、さらには甲2、3の記載を精査する。
はじめに甲1を仔細にみると、甲1には、確かに、任意添加剤として「ホウ素化コハク酸イミドを含むコハク酸イミド系無灰分散剤」や「フェノール系酸化防止剤」が例示され、それらの量比についても記載されている。
しかしながら、当該記載は、一般に使用される任意添加剤とその量比を示したものというべきであって(本件特許明細書において課題としている、必要な添加剤を従来の量比のまま使用した態様の説明にほかならない。)、必要な添加剤のうち、特に、「ホウ素化コハク酸イミドを含むコハク酸イミド系無灰分散剤」と「フェノール系酸化防止剤」に着目し、それらの量比を、「ホウ素化コハク酸イミドを組成物全量基準でホウ素元素量として0.007重量%以上」かつ「コハク酸イミド系無灰分散剤としての含有量が5質量%以下」、さらに「フェノール系酸化防止剤を0.5質量%以上」として、従来の量比をさらに最適化すること(上記「特定添加剤の選択と量比の最適化」)までを示唆するものとは到底いえない。このことは、甲1の実施例(表2)からも明らかである。すなわち、同表2において、無灰分散剤や酸化防止剤などの添加剤に関しては、「C-1(その他添加剤)」として扱われ、その内訳等の詳細については何ら記載されていないことから、甲1には、任意添加剤(その他添加剤)の最適化についての技術思想は存しないと解すべきである(なお、甲1は、本件特許明細書において、背景技術を示す先行技術文献として記載されたものである。)。
次に、甲2、3をみると、そこには、上記「第4 2」において摘示した記載を認めることができる。
しかしながら、甲2に記載された「アルキル芳香族アミン及び/又はアルキルフェノール 0.1?3質量%」(アルキルフェノールの内訳は不明)、「コハク酸イミド及び/又はそのホウ素化物 1?10質量%」(ホウ素化物の内訳は不明)及び【表1】中の「その他の添加剤」(フェノール酸化防止剤及びホウ素変性ポリブテニルコハク酸イミドの内訳は不明)は、「フェノール系無灰分散剤」及び「「ホウ素化コハク酸イミドを含むコハク酸イミド系無灰分散剤」のおおよその添加量(本件特許明細書でいう従来の量比に相当)を示唆するものにすぎず、甲1発明において、本件特許発明1における上記「特定添加剤の選択と量比の最適化」を動機付けるほどのものではない。
また、甲3の上記記載は、ホウ素化分散剤を、2重量%以上(2?16重量%)含有させることや、エンジン油中のホウ素の量は、少なくとも約800 ppmwとすることを示唆するものであるが、表1の分散剤I、IIの添加量(8.62重量%であって、本件特許発明1が規定する5質量%以下から外れている。)などからみて、やはり甲1発明において、本件特許発明1における上記「特定添加剤の選択と量比の最適化」を動機付ける根拠となるとは言い難い。
以上のとおり、甲1?3には、一般に使用される任意添加剤とそのおおよその量比に関する説明(本件特許明細書において課題としている、必要な添加剤を従来の量比のまま使用した態様の説明)が記載されているにとどまり、甲1発明において、本件特許発明1の上記相違点に係る「特定添加剤の選択と量比の最適化」を行うことについては何ら記載も示唆もされていないというべきである。そして、上記(1)において確認したように、本件特許発明1は、当該「特定添加剤の選択と量比の最適化」によって、優れた省燃費性と清浄性という作用効果を発現し、もって、省燃費性と清浄性に優れた内燃機関用潤滑油組成物を提供するという課題を解決することができたものであるから、当業者に予測外の格段の作用効果を奏しているといえる。
したがって、本件特許発明1の上記相違点に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものということはできず、本件特許発明1は、甲1発明及び甲1?3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1を更に減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明2、3についても、甲1発明及び甲1?3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第8 むすび
以上のとおり、本件特許発明1?3は、甲1発明及び甲1?3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許1?3を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1?3を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-08-29 
出願番号 特願2014-524749(P2014-524749)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C10M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松原 宜史  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 日比野 隆治
佐々木 秀次
登録日 2016-11-18 
登録番号 特許第6043791号(P6043791)
権利者 JXTGエネルギー株式会社
発明の名称 内燃機関用潤滑油組成物  
代理人 森田 順之  
代理人 森田 寛幸  

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